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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C10L
管理番号 1286195
審判番号 不服2012-26  
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-04 
確定日 2013-10-16 
事件の表示 特願2006-544094「固形燃料特性を向上させるための前加熱の乾燥プロセスの方法およびシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年6月30日国際公開、WO2005/059064、平成19年5月31日国内公表、特表2007-514044〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.出願の経緯
本願は平成16年12月10日(パリ条約による優先権主張 2003年12月12日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成18年8月10日に手続補正書が提出され、平成23年2月3日付けで拒絶理由が通知され、同年8月8日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月24日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、平成24年1月4日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年3月2日付けで前置審査の結果が報告され、同年8月28日付けで審尋され、平成25年3月4日に回答書が提出されたものである。

2.補正の却下の決定
[決定の結論]
平成24年1月4日付け手続補正書による補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
平成24年1月4日付け手続補正書による特許請求の範囲の補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項第4号に掲げる場合の補正であって、特許請求の範囲の請求項1について次のとおり補正することを含むものである。
本件補正前:
「未処理固形燃料を受取る工程と、
前記未処理固形燃料の所望の最終特性を受取る工程と、
前記所望の最終特性に基づいて、一連のマイクロ波発生装置のそれぞれについてマイクロ波放射の持続時間とパワーレベルを決定する工程と、そして
前記決定したパワーレベルにおいて、前記決定された持続期間の間、前記一連のマイクロ波発生装置からのマイクロ波放射によって前記未処理の固形燃料をマイクロ波に連続的に曝露する工程と、
を含み、
ここで前記一連のマイクロ波発生装置のそれぞれについて、前記マイクロ波放射の持続時間とパワーレベルを前記決定することが、前記処理中の未処理固形燃料の一つ以上の特性の測定に基づいて変更される、方法。」
本件補正後:
「未処理固形燃料を受取る工程と、
前記未処理固形燃料の所望の最終特性を受取る工程と、
前記所望の最終特性に基づいて、一連のマイクロ波発生装置のそれぞれについてマイクロ波放射の持続時間とパワーレベルを決定する工程と、そして
前記決定したパワーレベルにおいて、前記決定された持続期間の間、前記一連のマイクロ波発生装置からのマイクロ波放射によって前記未処理の固形燃料をマイクロ波に連続的に曝露する工程と、
を含み、
ここで前記未処理固形燃料が暴露中にチャンバ内に置かれ、
ここで前記一連のマイクロ波発生装置のそれぞれについて、前記マイクロ波放射の持続時間とパワーレベルを前記決定することが、前記処理中の未処理固形燃料の一つ以上の特性の測定に基づいて変更され、
ここで、曝露の間に前記未処理固形燃料の温度がチャンバ内の複数の位置において確認され、前記確認された温度に基づいて、前記温度が発火閾値温度以下にとどまるように、パワーレベル、持続時間、前記未処理固形燃料の前記チャンバ内での滞留時間の少なくとも一つに変化を生じさせる、
方法。」

ここで、上記請求項1に係る補正は、具体的には、次の2つの補正事項からなるものである。
(i)「ここで前記未処理固形燃料が暴露中にチャンバ内に置かれ、」を追加する補正
(ii)「、ここで、曝露の間に前記未処理固形燃料の温度がチャンバ内の複数の位置において確認され、前記確認された温度に基づいて、前記温度が発火閾値温度以下にとどまるように、パワーレベル、持続時間、前記未処理固形燃料の前記チャンバ内での滞留時間の少なくとも一つに変化を生じさせ」を追加する補正

(2)補正の目的
補正事項(i)は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「前記決定したパワーレベルにおいて、前記決定された持続期間の間、前記一連のマイクロ波発生装置からのマイクロ波放射によって前記未処理の固形燃料をマイクロ波に連続的に曝露する工程」において、「前記未処理固形燃料が暴露中にチャンバ内に置かれ」ることを特定するものであり、本件補正前の請求項3における発明特定事項を加入するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、補正事項(ii)は、本件補正前の請求項1に記載した発明特定事項である「前記一連のマイクロ波発生装置のそれぞれについて、前記マイクロ波放射の持続時間とパワーレベルを前記決定することが、前記処理中の未処理固形燃料の一つ以上の特性の測定に基づいて変更される」を、「曝露の間に前記未処理固形燃料の温度がチャンバ内の複数の位置において確認され、前記確認された温度に基づいて、前記温度が発火閾値温度以下にとどまるように、パワーレベル、持続時間、前記未処理固形燃料の前記チャンバ内での滞留時間の少なくとも一つに変化を生じさせる」に限定するものであって、本件補正前の請求項6における発明特定事項に基づくものであるから、やはり特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、補正事項(i)及び(ii)に係る限定により、請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は何ら変更されるものではない。
したがって、上記請求項1に係る補正は、意匠法等の一部を改正する法律(平成18年法律第55号)附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものである。

(3)独立特許要件
上記請求項1に係る補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の場合に該当するから、同条第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて検討する。

ア.本件補正後の発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであって、再掲すると、次のとおりである。
「未処理固形燃料を受取る工程と、
前記未処理固形燃料の所望の最終特性を受取る工程と、
前記所望の最終特性に基づいて、一連のマイクロ波発生装置のそれぞれについてマイクロ波放射の持続時間とパワーレベルを決定する工程と、そして
前記決定したパワーレベルにおいて、前記決定された持続期間の間、前記一連のマイクロ波発生装置からのマイクロ波放射によって前記未処理の固形燃料をマイクロ波に連続的に曝露する工程と、
を含み、
ここで前記未処理固形燃料が暴露中にチャンバ内に置かれ、
ここで前記一連のマイクロ波発生装置のそれぞれについて、前記マイクロ波放射の持続時間とパワーレベルを前記決定することが、前記処理中の未処理固形燃料の一つ以上の特性の測定に基づいて変更され、
ここで、曝露の間に前記未処理固形燃料の温度がチャンバ内の複数の位置において確認され、前記確認された温度に基づいて、前記温度が発火閾値温度以下にとどまるように、パワーレベル、持続時間、前記未処理固形燃料の前記チャンバ内での滞留時間の少なくとも一つに変化を生じさせる、
方法。」

イ.刊行物及びその記載事項
刊行物1:特開昭54-127901号公報(原査定における引用文献1)
刊行物2:特開平6-290867号公報(前置報告書又は審尋における引用文献3)

≪刊行物1の記載事項≫
1a.「1. 石炭にマイクロ波を照射することを特徴とする、石炭の熱処理方法、たとえば乾燥されかつ(あるいは)予熱された石炭をコークス炉あるいはガス化炉へ装入するため特に紛砕された石炭を乾燥しかつ(あるいは)予熱する方法。
2. 20ないし3000MHzの範囲にある周波数のマイクロ波で照射を行なうことを特徴とする、特許請求の範囲第1項に記載の方法。
3. 処理空間を通して石炭を連続的に導き、この処理空間内で石炭にマイクロ波を照射することを特徴とする、特許請求の範囲第1項あるいは第2項に記載の方法。
」(特許請求の範囲第1項?第3項)

1b.「第1図によれば、粉砕された石炭3は、ホツパ状に下方へ狭くなる貯蔵槽1から、歯車ゲートとして形成された排出装置7を介して、振動樋として形成された移送装置8へ、できるだけ堆積幅全体にわたつて均一な層厚で供給される。移送装置8の下端には供給分配器9があり、石炭3が処理区域2へ入る直前に層厚を均一化する。処理区域2の入口10の直前で、処理区域2を上辺が通つているコンベアベルト4へ石炭3が供給される。入口10は、たとえば約100mmの石炭層を乗せたコンベアベルト上辺がちようど入るのを可能にしているが、さらにたとえば石炭層上を滑る上げ蓋11および図示しない帯域消去フイルタにより、必要な場合にはマイクロ波の漏れ出ないように閉じられている。同じ手段が処理区域2の反対側にある出口12に施されている。なお処理区域2はハウジング13により包囲され、このハウジング13内で互いに向き合う板状電極14の間を、石炭層を乗せたコンベアベルト4がたとえば8ないし12m/minの範囲にある調整可能な速度で通ることができる。コンベアベルト4の速度はなかんずく処理区域2の有効長、処理すべき石炭の湿気含有量、粒度、マイクロ波の強さ、マイクロ波の周波数、電極14間の間隙および石炭層の厚さに関係する。電極14の間で、石炭の熱処理すなわち乾燥および予熱に必要なマイクロ波電磁界が、公知のようにたとえば9000Vの電圧および2450MHzの周波数で発生される。ハウジング13には換気通路15が接続されている。この通路15から送風機17により加熱器16を経て予熱された乾燥空気が処理区域2へ導入されて、石炭層の上を流れ、その表面から湿気を吸収するようにしている。空気流を分配するために、上部電極14には通過口18が設けられている。処理区域2の片側で、湿気を含んだ空気が処理区域2から導出され、湿気凝縮器19を通つた後廃気として放出される。凝縮物は20の所で捕集される。加熱器16は、マイクロ波を発生する電気装置の損失熱を利用して運転することができる。乾燥されかつ場合によつては予熱された石炭は出口12から高温石炭槽21へ放出され、そこから通常のようにゲート22、秤量槽23へ供給され、そこから図示しないコークス炉あるいはガス化炉へ供給される。」(3頁右上欄11行?4頁左上欄9行)

1c.「

」(第1図)

≪刊行物2の記載事項≫
2a.「処理物をアプリケータ内に連続的に供給し搬送させながらマイクロ波によって加熱処理するマイクロ波加熱装置において、
アプリケータ内を仕切り板によって処理物の搬送方向に複数のゾーンに区切り、各ゾーンごとに該ゾーンにマイクロ波を供給するマイクロ波発生装置を設け、各ゾーンごとに該ゾーンにおける処理物の加熱状態を検知するセンサを設け、中央演算処理装置(CPU)によって各ゾーンでの加熱条件を前のゾーンでの加熱履歴と該ゾーンでの加熱状態から算出し各ゾーンごとに設けたマイクロ波発生装置の出力を該ゾーンでの加熱条件に合わせて制御する構成としたことを特徴とするマイクロ波加熱装置。」(特許請求の範囲の請求項1)

2b.「【実施例】図1は本発明の一実施例の構成を示す。オーブン4内を仕切り板6によって処理物1の搬送方向に複数のゾーンに区切り、各ゾーンごとに該ゾーンにマイクロ波を供給するマイクロ波発生装置51、52、53、54を設け、各ゾーンごとに該ゾーンにおける処理物1の加熱状態を検知するセンサ7を設け、中央演算処理装置(CPU)8によって各ゾーンでの加熱条件を前のゾーンでの加熱履歴と該ゾーンでの加熱状態から算出し、各ゾーンに投入されるマイクロ波出力を該ゾーンでの加熱条件に合わせて制御する構成とした。
処理物1はベルト2によってオーブン4内を連続して搬送され、オーブン4内の各ゾーンで各ゾーンごとに設けられたマイクロ波発生装置から投入されるマイクロ波により順次加熱処理されていく。マイクロ波の加熱エネルギーはマイクロ波出力と時間の積である。処理物1の先頭部がオーブン4内に入った直後から最初のゾーンのマイクロ波出力を一定の水準に上げると、先頭部が受ける単位重量あたりのエネルギー量は後続部が受けるエネルギー量より多くなり、先頭部がオーバーヒートすることが明白である。それを防ぐために、処理物が最初のゾーンに入った際、処理物の進行につれて該ゾーンに供給するマイクロ波出力を徐々に大きくして、該ゾーンに存在する処理物の量に応じたマイクロ波を投入する。処理物の後端部が出口に近づいた時は、後端部のオーバーヒートを防ぐために、最後のゾーンに供給するマイクロ波出力を徐々に下げ、該ゾーンに存在する処理物の量に応じたマイクロ波を投入する。」(段落0008?0009)

2c.「従来のフィードバック制御は、各ゾーンごとに該ゾーンでの処理物の品温を検知し、この検知信号によって該ゾーンのマイクロ波出力を加減し品温のコントロールを行なう。本発明の制御は、従来のフィードバック制御のように、処理物の品温を検出し、該ゾーンのマイクロ波出力を該ゾーンの品温のみでコントロールするのではなく、前のゾーンでのマイクロ波出力の電力量、すなわち、何Kwのマイクロ波出力を何秒間受けたかの積分電力量を求め、その数値を反比例定数として現在の状態(しきい値に対し品温が高いか低いか)を判断し、マイクロ波出力を制御する。例えば、第1のゾーンでの加熱状態と第2のゾーンでの加熱状態を検知することにより把握できる加熱履歴を第2のゾーンで得られた加熱状態での判断に使用する。加えられたマイクロ波エネルギー量により処理物のエネルギーレベルが判り、誘電体損失係数が急上昇するポイントか、そのポイントがどの位置なのかを知ることができ、ゾーンの検知位置から次のゾーンの検知位置までの搬送の間にオーバーヒートしたりすることのないようにマイクロ波出力を制御できる。ベルト速度が90mm/分、第1のゾーンと第2のゾーンの検出位置距離が1200mmの場合(区間通過時間は13.3分となる)単位重量あたりのマイクロ波電力量は時間が長いため大きく、従来の制御方法ではオーバーヒート、発火が発生するが、本発明の制御方法によると品質を確保できる。この場合は、処理物1が第1のゾーンの検知位置から第2のゾーンの検知位置に到るまで13分間盲目的に加熱されるに等しく、従って、加熱履歴を考慮してマイクロ波出力条件を決定しなければ、品質の確保が難しい。」(段落0012)

2d.「

1.処理物 6.仕切板
2.ベルト 7.センサ
3.モータ 8.CPU
4.オーブン
51,52,53,54.マイクロ波加熱装置
」(【図1】)

ウ.刊行物に記載された発明
刊行物1には、「石炭にマイクロ波を照射する石炭の熱処理方法」(摘示1aの第1項)が記載されており、「処理空間を通して石炭を連続的に導き、この処理空間内で石炭にマイクロ波を照射する」(摘示1aの第3項)ことも記載されている。
そうすると、刊行物1には、「処理空間を通して石炭を連続的に導き、この処理空間内で石炭にマイクロ波を照射する石炭の熱処理方法」の発明(以下、刊行物1発明」という。)が記載されている。

エ.対比・判断
(ア)対比
補正発明と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明における「石炭」が補正発明における「未処理固形燃料」に相当し、石炭を「処理空間」に導くことは、補正発明の「未処理固形燃料を受取る工程」に相当する。また、マイクロ波を照射することから「マイクロ波発生装置」が存在することは明らかである。
さらに、「処理空間」は石炭にマイクロ波を照射する空間であり、刊行物1に「処理区域2はハウジング13により包囲され」(摘示1b)と記載されていることからみて、「ハウジングで包囲された処理区域」を意味しているものと解されることから、石炭がマイクロ波の照射中にハウジング内、すなわち補正発明でいう「チャンバ内に置かれ」ていることは明らかである。(摘示1cの第1図も参照)
そして、刊行物1には「ハウジング13内で互いに向き合う板状電極14の間を、石炭層を乗せたコンベアベルト4がたとえば8ないし12m/minの範囲にある調整可能な速度で通ることができる。コンベアベルト4の速度はなかんずく処理区域2の有効長、処理すべき石炭の湿気含有量、粒度、マイクロ波の強さ、マイクロ波の周波数、電極間の間隙および石炭層の厚さに関係する。電極14の間で、石炭の熱処理すなわち乾燥及び予熱に必要なマイクロ波電磁界が、公知のように例えば9000Vの電圧および2450MHzの周波数で発生される。」(摘示1b)と記載されていることから、所望の最終特性(熱処理による乾燥の程度)に応じて、マイクロ波放射に関する諸条件(マイクロ波放射の持続時間とパワーレベル、さらには石炭のチャンバ内での滞留時間)を決定していることも明らかである。

そうすると、補正発明と刊行物1発明とは、
「未処理固形燃料を受取る工程と、
前記未処理固形燃料の所望の最終特性を受取る工程と、
前記所望の最終特性に基づいて、マイクロ波発生装置についてマイクロ波放射の持続時間とパワーレベルを決定する工程と、そして
前記決定したパワーレベルにおいて、前記決定された持続時間の間、前記マイクロ波発生装置からのマイクロ波放射によって前記未処理の固形燃料をマイクロ波に連続的に暴露する工程と、
を含み、
ここで前記未処理固形燃料が暴露中にチャンバ内に置かれる、
方法。」
の点で一致し、刊行物1発明には補正発明では特定されている次の事項が規定されていない点でのみ相違する。

相違点1:
「一連のマイクロ波発生装置」を有するものであり、そのそれぞれについて、「マイクロ波放射の持続時間とパワーレベルを決定」し、それらが「前記処理中の未処理固形燃料の一つ以上の特性の測定に基づいて変更され」るものであること

相違点2:
「曝露の間に前記未処理固形燃料の温度がチャンバ内の複数の位置において確認され、前記確認された温度に基づいて、前記温度が発火閾値温度以下にとどまるように、パワーレベル、持続時間、前記未処理固形燃料の前記チャンバ内での滞留時間の少なくとも一つに変化を生じさせる」こと

(イ)相違点についての判断
≪相違点1について≫
刊行物2には、「処理物をアプリケータ内に連続的に搬送させながらマイクロ波によって加熱処理するマイクロ波加熱装置」(摘示2a)について記載されており、このマイクロ波加熱装置は、「アプリケータ/オーブン4内を仕切り板6によって処理物1の搬送方向に複数のゾーンに区切り、各ゾーンごとに該ゾーンにマイクロ波を供給するマイクロ波発生装置51、52、53、54を設け」(摘示2a及び2b)るものであるから、補正発明でいうところの「一連のマイクロ波発生装置」を有するものといえる。(摘示2dの【図1】も参照)
なお、刊行物2には、段落0003及び図6(いずれも摘示していない)に従来のコンベア式マイクロ波加熱装置の一例が記載されているが、マイクロ波発生装置が複数(図6によれば3つ)設けられており、「一連のマイクロ波発生装置」の構成とすることは、周知技術ともいえる。
したがって、マイクロ波発生装置を「一連のマイクロ波発生装置」とすること、すなわち複数台設けることは、何ら格別なことではなく、当業者が適宜採用できることにすぎない。

また、刊行物2には、「各ゾーンごとに該ゾーンにおける処理物1の加熱状態を検知するセンサ7を設け、中央演算処理装置(CPU)8によって各ゾーンでの加熱条件を前のゾーンでの加熱履歴と該ゾーンでの加熱状態から算出し各ゾーンごとに設けたマイクロ波発生装置の出力を該ゾーンでの加熱条件に合わせて制御する」(摘示2a及び2b)と記載されているように、マイクロ波照射中の加熱状態(品温)を検知し、それに基づいて、各ゾーンに投入されるマイクロ波出力を制御するものであるところ、被処理物の加熱状態は「未処理固形燃料の特性」の一つに該当するので、刊行物2には「一連のマイクロ波発生装置のそれぞれについて、マイクロ波放射の持続時間とパワーレベルを決定することが、処理中の未処理固形燃料の一つ以上の特性の測定に基づいて変更され」ることも記載されている。
なお、刊行物2は「マイクロ波照射中の加熱状態(品温)の検知」だけでなく「加熱履歴」をも加味しつつ各マイクロ波出力を制御するものである。補正発明において、このような制御が除外されているものとは解されないことに加え、刊行物2には「従来のフィードバック制御は、各ゾーンごとに該ゾーンでの処理物の品温を検知し、この検知信号によって該ゾーンのマイクロ波出力を加減し品温のコントロールを行なう。」(摘示2c)と記載されているように、「マイクロ波照射中の加熱状態(品温)の検知」によりマイクロ波出力を制御すること自体は周知技術と解される。
さらに、刊行物2に記載されているのは、マイクロ波加熱装置一般に関する技術であるから、被処理物としての石炭に対して適用できないとする阻害要因がない限り、刊行物1発明に対しても適用できるものである。

そうすると、相違点1についての技術的事項は刊行物2に記載されているとおり周知技術と認められるので、当該技術的事項を刊行物1に適用することは当業者が容易になし得たことである。

≪相違点2について≫
相違点2に関する技術的事項は、暴露の間(すなわち、マイクロ波照射中)の未処理固形燃料の温度をチャンバ内の複数の位置において確認し、当該温度が発火閾値温度以下にとどまるように、マイクロ波放射のパワーレベル、持続時間、未処理固形燃料のチャンバ内での滞留時間の制御を行うものである。
刊行物2には、「アプリケータ/オーブン内を複数のゾーンに区切り、各ゾーンごとに該ゾーンにおける処理物の加熱状態を検知するセンサを設け」(摘示2a及び2b)ることが記載され、マイクロ波照射を行うチャンバ内の複数の位置で被処理物の温度を検知することが記載されている(摘示2dの【図1】におけるセンサ7)。このような構成は「従来のフィードバック制御は、各ゾーンごとに該ゾーンでの処理物の品温を検知し」(摘示2c)と記載されていることからみて、周知技術といえる。
そして、刊行物2においては、上記したとおり、「マイクロ波照射中の加熱状態(品温)の検知」によりマイクロ波出力を制御するものであるから、「曝露の間に前記未処理固形燃料の温度がチャンバ内の複数の位置において確認され、前記確認された温度に基づいて、パワーレベル、持続時間、前記未処理固形燃料の前記チャンバ内での滞留時間の少なくとも一つに変化を生じさせる」ことが記載されているといえ、このことも周知技術の域を出ないものと解される。
そして、刊行物2において、マイクロ波出力を制御する目的は、「例えば、第1のゾーンでの加熱状態と第2のゾーンでの加熱状態を検知することにより把握できる加熱履歴を第2のゾーンで得られた加熱状態での判断に使用する。加えられたマイクロ波エネルギー量により処理物のエネルギーレベルが判り、誘電体損失係数が急上昇するポイントか、そのポイントがどの位置なのかを知ることができ、ゾーンの検知位置から次のゾーンの検知位置までの搬送の間にオーバーヒートしたりすることのないようにマイクロ波出力を制御できる。ベルト速度が90mm/分、第1のゾーンと第2のゾーンの検出位置距離が1200mmの場合(区間通過時間は13.3分となる)単位重量あたりのマイクロ波電力量は時間が長いため大きく、従来の制御方法ではオーバーヒート、発火が発生するが、本発明の制御方法によると品質を確保できる。」(摘示2c)と記載されているように、被処理物のオーバーヒート、すなわち発火を防いで、品質を確保することにある。
したがって、マイクロ波加熱処理において、被処理物の温度が「発火閾値温度以下にとどまるようにする」ことは当然のことであり、格別なことではない。
さらに、刊行物2に記載されているのは、マイクロ波加熱装置一般に関する技術であるから、被処理物としての石炭に対して適用できないとする阻害要因がない限り、刊行物1発明に対しても適用できるものである。

そうすると、相違点2についての技術的事項は刊行物2に記載されているとおり周知技術と認められるので、当該技術的事項を刊行物1に適用することは当業者が容易になし得たことである。

オ.小括
したがって、補正発明は、刊行物1発明及び刊行物2に記載されているような周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件補正後の請求項1に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しているので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願請求項に係る発明
上記したとおり、平成24年1月4日付け手続補正書による補正は却下されたので、本願請求項1?10に係る発明は、平成23年8月8日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は次のとおりである。
「未処理固形燃料を受取る工程と、
前記未処理固形燃料の所望の最終特性を受取る工程と、
前記所望の最終特性に基づいて、一連のマイクロ波発生装置のそれぞれについてマイクロ波放射の持続時間とパワーレベルを決定する工程と、そして
前記決定したパワーレベルにおいて、前記決定された持続期間の間、前記一連のマイクロ波発生装置からのマイクロ波放射によって前記未処理の固形燃料をマイクロ波に連続的に曝露する工程と、
を含み、
ここで前記一連のマイクロ波発生装置のそれぞれについて、前記マイクロ波放射の持続時間とパワーレベルを前記決定することが、前記処理中の未処理固形燃料の一つ以上の特性の測定に基づいて変更される、方法。」

4.原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由は、「平成23年2月3日付け拒絶理由通知書に記載
した理由1」とされているが、この理由1とは、概略、本願に係る発明は引用文献1?3及び5?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開昭54-127901号公報
引用文献2、3及び5?7は省略

5.拒絶理由についての検討
(1)引用文献及びその記載事項
引用文献1は前記2(3)イに記載した刊行物1と同じものであり、したがって、引用文献1には前記2(3)イの≪刊行物1の記載事項≫において摘示したとおりの事項が記載されている。

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、前記2(3)ウに記載した「刊行物1発明」、すなわち、「処理空間を通して石炭を連続的に導き、この処理空間内で石炭にマイクロ波を照射する石炭の熱処理方法」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3)対比・判断
本件発明と引用発明とを対比する。
前記2(3)エ(ア)に示した補正発明と刊行物1発明との間の対応関係が本件発明と引用発明との間でも成り立つことにかんがみれば、本件発明と引用発明とは、
「未処理固形燃料を受取る工程と、
前記未処理固形燃料の所望の最終特性を受取る工程と、
前記所望の最終特性に基づいて、マイクロ波発生装置についてマイクロ波放射の持続時間とパワーレベルを決定する工程と、そして
前記決定したパワーレベルにおいて、前記決定された持続時間の間、前記マイクロ波発生装置からのマイクロ波放射によって前記未処理の固形燃料をマイクロ波に連続的に暴露する工程と、
を含む、
方法。」
との点で一致し、引用発明では本件発明では特定されている次の事項が規定されていない点でのみ相違する。

相違点A:
「一連のマイクロ波発生装置」を有するものであり、そのそれぞれについて、「マイクロ波放射の持続時間とパワーレベルを決定」し、それらが「前記処理中の未処理固形燃料の一つ以上の特性の測定に基づいて変更され」るものであること

≪相違点Aについて≫
相違点Aは、前記2(3)エ(ア)に記載した「相違点1」と同じであるから、前記2(3)エ(イ)の≪相違点1について≫で述べた事項がそのまま妥当する。
なお、刊行物2は原査定で引用されていないが、周知技術を説明するものとして引用する。(刊行物2には、前記2(3)イの≪刊行物2の記載事項≫において摘示したとおりの事項が記載されている。)

そうすると、本件発明は引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.回答書において提示された補正案について
請求人は回答書において、補正案を提示しているので、その特許性について検討する。
補正案の内容は、上記補正発明における「前記温度が発火閾値温度以下にとどまるように」を「前記確認された固形燃料の温度が約100℃を超えないように」に変更することを含んでいる。その根拠は本願明細書段落0073に「水分低減に対してだけいえば、石炭表面温度を100℃以下に保つべきである。これは、携帯型(赤外線)温度センサで簡単に、又は処理チャンバ内部に配置された温度プローブによって遠隔でも監視される。」と記載されていることにある。
しかし、補正案の請求項1に係る発明では、「前記未処理固形燃料の所望の最終特性を受取る工程」と特定されているように、「所望の最終特性」が「水分低減」に限られるものではない。
そして、本願明細書には、「処理中の石炭の表面及び内部の温度を、室温からほぼ250℃の範囲とすることができる。」(段落0113)と上限値を記載した上で、「処理される個別の石炭セットごとに、温度の閾値が事前設定され、これらは、処理目標(例、水分削減だけ又は他の削減との組み合わせ)の如何による。」(段落0114)と記載していることから、温度閾値を特定することは処理目標、すなわち「未処理固形燃料の所望の最終特性」を特定しない限り意味のないことである。
一方、本願明細書には「温度閾値の別の様式は、物質の変化、特にここで対象とする硫黄と関連するものである。硫黄気相の主形態は119℃で溶融し、160℃までの温度では黄色、透明の液体であり、この温度で硫黄は分子変換され、硫黄原子は暗色で粘性のある液体を生成する。いい換えれば、119°以下及び160°以上の温度では、自由硫黄又は石炭成分と結合した硫黄は非常に異なる物理的及び化学的特性を示し、何らかの予測可能な方法で硫黄を削減できるようにするためには、このことを考慮に入れなければならない。本発明者らは、処理テストにおいてこれら異なる各々の形態の硫黄を観察してきた。さらなる別の例として、サンプルした多くの石炭の一つのロット、処理開始から数秒後、水分さえ放出されていない前にもうもうたる黄色の煙を放出した。試験した他の石炭にこのようには反応はなかった。同様な処理前試験条件を、通常、この処理方法では硫黄に先行して放出される灰分に適用する。最高温度限度を便宜的に約200℃に設定することができる、というのは、これより高い温度は、石炭に他の望ましくない変化をもたすことがあり、又は、石炭の特性の変化が速過ぎて制御が困難になりかねないからである。」(段落0115)と記載されているとおり、固形燃料の温度が約100℃を超えないようにした場合、「所望の最終特性」としての硫黄や灰分の低減がはかれないことになる。
したがって、当該補正案は採用の限りでない。

7.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そうすると、他の請求項に通いて検討するまでもなく、本願は上記理由により拒絶をすべきものである。
したがって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-17 
結審通知日 2013-05-21 
審決日 2013-06-04 
出願番号 特願2006-544094(P2006-544094)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C10L)
P 1 8・ 121- Z (C10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 星野 紹英
菅野 芳男
発明の名称 固形燃料特性を向上させるための前加熱の乾燥プロセスの方法およびシステム  
代理人 溝部 孝彦  
代理人 古谷 聡  
代理人 西山 清春  

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