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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1287299
審判番号 不服2012-19683  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-05 
確定日 2014-05-08 
事件の表示 特願2006-550791「超音波診断装置、超音波撮像プログラム及び超音波撮像方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年7月13日国際公開,WO2006/073088〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成17年12月27日(優先権主張 同年1月4日,日本国)を国際出願日とする出願であって,平成23年4月25日付けで拒絶理由が通知され,同年7月7日付けで意見書及び手続補正書が提出され,平成24年7月6日付けで拒絶査定されたのに対し,同年10月5日に拒絶査定不服の審判請求がされものである。
そして,その請求項1?17に係る発明は,平成24年7月7日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるものと認められ,そのうち請求項1に係る発明は,以下のとおりのものである。
「【請求項1】
被検体との間で超音波を送受する超音波探触子と、該超音波探触子に送波用の駆動信号を供給する送信手段と、前記超音波探触子から出力される受信信号を処理する受信手段と、該受信手段の出力信号から計測される生体組織の変位に基づき弾性画像を構成する弾性像構成手段と、前記弾性画像を表示する表示手段とを備えた超音波診断装置において、
前記生体組織が変位する方向を検出する組織変位方向の検出手段と、検出された前記組織変位方向に合わせて前記超音波ビームを偏向させる指令を前記送信手段又は前記受信手段に出力するとともに、前記組織変位方向に合わせて変位探索方向を設定する変位探索方向設定手段を有し、前記弾性像構成手段は超音波ビーム方向と合致する前記変位探索方向の前記生体組織の変位を各点で計測して前記弾性画像を構成することを特徴とする超音波診断装置。」(以下「本願発明」という。)

第2 引用刊行物及びその記載事項
(1)本願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2001-299752号公報(以下「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。なお,以下の摘記事項において,下記の引用発明の認定に関連する箇所に下線を付与した。
(1-ア)「【0011】本発明の好適な態様は、前記関心構造が血管の壁構造であり、前記第1目的ビーム方位が、血管壁に直交する方向であることを特徴とする超音波診断装置である。血管の壁構造から反射したエコーは受信信号に特有なピークを生じ、特徴信号探索手段はこれを特徴信号として探索する。第1目的ビーム方位を血管壁に直交するように設定することで、超音波の送受波ごとに第1目的ビーム方位から得られる受信信号での特徴信号の時間の変化は、血管の径方向に関する血管壁の変位に応じたものとなる。よって、この構成は、例えば血管の拡張、収縮の観察といった目的に適している。
【0012】本発明の他の好適な態様に係る超音波診断装置は、血管壁に直交する第1目的ビーム方位に対応する前記受信信号を利用して血管壁の変位を計測する血管壁変位計測手段を有する。この構成によれば、第1目的ビーム方位から得られる受信信号での特徴信号の時間の変化に基づいて、血管の径方向に関する血管壁の変位量が精度良く計測される。」

(1-イ)「【0023】[実施の形態1]図1には、本発明に係る第1の実施の形態である超音波診断装置の全体構成がブロック図として示されている。本装置は、特に血管の性状や心臓の機能などを診断する機能を有している。」

(1-ウ)下記の【図1】には,プローブ10,送受信部12,送受信制御部14,変位演算部20を有する受信信号処理部16,表示器32につながる表示処理部30,特徴信号検出器42と振幅比較器44とビーム方位設定器46を有するビーム方位決定部40を備えた超音波診断装置が記載されている。
【図1】


(1-エ)「【0024】図1において、プローブ10は、超音波パルスの送波及びエコーの受波を行う超音波探触子である。このプローブ10はアレイ振動子を有しており、そのアレイ振動子の電子走査によって超音波ビームが電子的に走査される。その電子走査方式としては例えば電子リニア走査や電子セクタ走査などを挙げることができる。
【0025】送受信部12は、プローブ10に対して送信信号を供給する送信回路と、プローブ10からの受信信号に対して増幅や整相加算などの処理を行う受信回路とを含んで構成される。
【0026】送受信制御部14は、送信ビームの形成及び受信ビームの形成を行うための送受信制御を実行している。
【0027】受信信号処理部16は、断層画像形成部18、変位演算部20、速度演算部22、評価値演算部24を含んで構成される。
【0028】断層画像形成部18は、受信信号から断層画像すなわちBモード画像を形成する回路である。形成された断層画像のイメージ情報は表示処理部30に出力される。
【0029】変位演算部20は、血管壁の位置の変位を演算する回路である。この変位演算部20は、前壁の位置と後壁の位置とから血管径を演算する機能を有している。具体的には、変位演算部20は、後に示す変位計測ライン上に設定されたトラッキングゲートにおいて、血管壁の位置をトラッキングする機能を有している。」

(1-オ)「【0033】表示処理部30は、表示器32に表示する表示画像を構成する回路である。表示処理部30は画像合成機能などを有している。」

(1-カ)「【0036】ビーム方位決定部40は電子走査により得られる各ビーム方位についての受信信号を入力される。特徴信号検出器42は、各ビーム方位についての受信信号を探索して、当該信号に含まれうる血管壁に起因する強いエコーを特徴信号として検出する。なお、特徴信号は一般的に血管の前壁と後壁とのそれぞれから得られる。振幅比較器44は、前壁、後壁のいずれか一方、又は両方の特徴信号の振幅を各ビーム方位ごとに求める。この振幅は超音波ビームと血管壁とのなす角度が垂直になるにつれて大きくなる。よって、振幅が極大となるビーム方位は、血管壁に直交していることが期待される。本装置の振幅比較器44は、上記各ビーム方位間で特徴信号の振幅を比較して、振幅が極大となるビーム方位を第1の目的ビーム方位として選択する。また振幅に極大点が生じない場合には、最大となる点でのビーム方位が血管壁となす角度が走査範囲内で最も直角に近いであろうとして、これを第1の目的ビーム方位として選択する。
【0037】このように選択された第1目的ビーム方位は、ビーム方位設定器46に入力され、ビーム方位設定器46が送受信制御部14に対し第1目的ビーム方位を指示する。」

(1-キ)「【0041】図2には、図1に示した表示器32に表示される画像の一例が示されている。当該画像の左側には断層画像60が表示される。その断層画像60は血管62の縦断面を含んでいる。すなわち、この断層画像60はプローブを血管に対して正しく位置決めした状態において取り込まれたものである。
【0042】断層画像60上において、上述のビーム方位自動設定機能により探索された第1目的ビーム方位が変位計測ライン64として設定される。変位計測ライン64上にはユーザ設定によりトラッキングゲートA,Bが設定される。ここで、トラッキングゲートAは前壁66の内膜66Aを含んで設定されるものであり、トラッキングゲートBは後壁68の内膜68Aを含んで設定される。このトラッキングゲートA,B内においてエコーデータが参照され、そのエコーデータのレベルを基準として内膜66A,68Aが自動的に特定され、また血管62の変動に伴って内膜66A及び68Aの位置が追従検出される。例えば、その追従は、受信信号の位相の変化に基づいて行われる。」

(1-ク)「【0044】表示画面の右側には、互いに時間軸を平行とした複数のグラフが表示される。具体的には、変位計測ライン上でのエコーを時系列に表示したMモード画像80、トラッキングゲートAにてトラッキングされた前壁66の変位波形82、トラッキングゲートBにてトラッキングされた後壁68の変位波形84、それらの変位波形82,84の間の距離として演算される血管径の変化波形86が表示される。さらにその下段には、サンプルゲートSでの血流速度波形88が表示され、その下段には図1には示さない心電計から入力される心電図90が補助情報として表示される。また、これらと合わせて、評価値演算部24から得られるWave Intensity等の評価値を表示することもできる。」

上記引用例1の記載事項を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「プローブ10,送受信部12,送受信制御部14,変位演算部20を有する受信信号処理部16,表示器32につながる表示処理部30,特徴信号検出器42と振幅比較器44とビーム方位設定器46を有するビーム方位決定部40を備えた超音波診断装置であって,
プローブ10は,超音波パルスの送波及びエコーの受波を行う超音波探触子であり,送受信部12は,プローブ10に対して送信信号を供給する送信回路と,プローブ10からの受信信号に対して増幅や整相加算などの処理を行う受信回路とを含んで構成され,送受信制御部14は,送信ビームの形成及び受信ビームの形成を行うための送受信制御を実行し,変位演算部20は,血管壁の位置の変位を演算する回路であり,表示器32に表示される画像の左側には断層画像60が表示され,右側にはMモード画像80,トラッキングゲートAにてトラッキングされた前壁66の変位波形82,トラッキングゲートBにてトラッキングされた後壁68の変位波形84等が表示される超音波診断装置において,
特徴信号検出器42は,各ビーム方位についての受信信号を探索して,当該信号に含まれうる血管壁に起因する強いエコーを特徴信号として検出し,振幅比較器44は,上記各ビーム方位間で特徴信号の振幅を比較して,振幅が極大となるビーム方位を第1の目的ビーム方位として選択し,ビーム方位設定器46は,該選択された第1目的ビーム方位が入力され,送受信制御部14に対し第1目的ビーム方位を指示するもので,
上記トラッキングゲートA,トラッキングゲートBは,第1目的ビーム方位が変位計測ライン64として設定され,変位計測ライン64上にユーザ設定により設定されたものである,超音波診断装置。」(以下「引用発明」という。)


(2)本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開平7-55775号公報(以下「周知例2」という。)には,次の事項が記載されている。なお,下線は当審において付与した。
(2-ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、超音波、X線、磁気などのエネルギーを用いて内部歪みを計測することにより、やわらかく非圧縮性に近い、例えば弾性ゴムや生体等の弾性体の弾性のレベルを表わす値(以下、「弾性値」あるいは「弾性定数」と称する場合がある)、例えば典型的には剪断弾性定数やヤング率等を計測する弾性計測方法、およびその方法を実施した、例えば非破壊検査装置や、体の弾性定数を計測し、それをもって組織性状とし、組織性状診断を行う画像診断装置等に組み込まれる弾性計測装置に関するものである。」

(2-イ)「【0058】
【実施例】以下、本発明の実施例について説明する。図1は、本発明の弾性計測方法の第1実施例を示したフローチャート、図2は、図1に示すフローチャート中の各関数の一例を示した図である。ここでは、図1に示す本実施例を実行するに先立って、例えば図2(A)に示すような、被検体内に延びる所定の直線(x方向とする)上の各点の変位u_(x)(x)が求められる。この変位u_(x)(x)の求め方は、ここでは特に問わないが、例えば超音波を被検体内に送信し反射してきた超音波を受信して被検体内の画像を得る、いわゆる超音波診断装置を用いて、あるいは被検体にX線を照射して被検体内部の断層像を得るX線CTを用いて、あるいは核磁気共鳴を利用して被検体内の断層像を得るMRIを用いて、変位u_(x)(x)を計測することができる。
【0059】図1に示すステップ(1_1)では、変位u_(x)(x)をx方向に微分することによりその方向の歪みε_(xx)(x)を求める。その歪みε_(xx)(x)は、例えば図2(B)に示すようなものとなる。次にステップ(1_2)において、求めた歪みε_(xx)(x)の絶対値|ε_(xx)(x)|がしきい値Δと比較される。|ε_(xx)(x)|>Δの場合はステップ(1_3)に進み、前述した(23)式に従って、参照点、Aの剪断弾性定数G(A)に対する観測点xの剪断弾性定数G(x)の比が求められる(図2(C)参照)。」

(2-ウ)「【0123】上述のようにして求められた被検体内の2次元平面内の各点(x,y)の各剪断弾性定数の比の対数ln{G(x,y)/G(A,B)}は、ディジタルスキャンコンバータ16を経由してCRTディスプレイ装置17に入力され、その表示画面上に被検体内の2次元平面内の硬さの分布が表示される。尚、この場合に、例えば図17と同様に検波回路15を備え、被検体の断層像に重畳させて、その被検体内の硬さの分布を、例えばカラー表示してもよい。」

(2-エ)「【0127】
【発明の効果】以上詳細に説明したように、本発明によれば、被検体内の各点の応力分布を計測することなく、被検体内の各点の歪みを計測するだけでそれらの各点の弾性レベルを知ることができ、工業的な検査、生体の診断等に大いに寄与することができる。」


第3 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「超音波パルスの送波及びエコーの受波を行う超音波探触子」である「プローブ10」は,本願発明の「被検体との間で超音波を送受する超音波探触子」に相当する。

(2)引用発明の「プローブ10に対して送信信号を供給する送信回路」及び「プローブ10からの受信信号に対して増幅や整相加算などの処理を行う受信回路」は,本願発明の「該超音波探触子に送波用の駆動信号を供給する送信手段」及び「前記超音波探触子から出力される受信信号を処理する受信手段」に相当する。

(3)引用発明の「変位演算部20」は「受信信号処理部16」にあるから,引用発明の変位演算部20で演算される「血管壁の位置の変位」は,本願発明の「該受信手段の出力信号から計測される生体組織の変位」に相当する。そして,引用発明の「表示器32に表示される画像」の「右側」に表示される「トラッキングゲートAにてトラッキングされた前壁66の変位波形82、トラッキングゲートBにてトラッキングされた後壁68の変位波形84」は,「血管壁の位置の変位」に基づくものであるから,引用発明の「変位演算部20は、血管壁の位置の変位を演算する回路であり,表示器32に表示される画像の」「右側にはMモード画像80、トラッキングゲートAにてトラッキングされた前壁66の変位波形82、トラッキングゲートBにてトラッキングされた後壁68の変位波形84,等が表示される」ことと,本願発明の「該受信手段の出力信号から計測される生体組織の変位に基づき弾性画像を構成する弾性像構成手段と、前記弾性画像を表示する表示手段」を備えることとは,「該受信手段の出力信号から計測される生体組織の変位に基づき画像を構成する構成手段と,前記画像を表示する表示手段」を備える点で共通するといえる。

(4)本願発明の「前記生体組織が変位する方向を検出する組織変位方向の検出手段」について,本願明細書の実施例1を参照するに,「被検体101内の脈管(血管)204」(【0037】),「脈管204の拍動に由来する組織変位方向205a?205jは、脈管204の径方向である。」(【0039】),「画像表示器112の画面中で脈管204の壁面は、その輝度が高く表示される。制御演算部113は、この輝度特性を利用し、脈管204の壁面に形成される高輝度ラインと関心領域203との交点を交差点207、208として設定する。交差点207、208が指定されると、図4に示すように、組織変位方向の検出手段113Cは、交差点207、208間を結ぶ線分に直交する方向を組織変位方向と判定する。」(【0040】【0041】)と記載されているように,血管壁に直交する方向を組織変位方向として検出する手段のことである。
一方,引用発明の「特徴信号検出器42は、各ビーム方位についての受信信号を探索して、当該信号に含まれうる血管壁に起因する強いエコーを特徴信号として検出し,振幅比較器44は、上記各ビーム方位間で特徴信号の振幅を比較して、振幅が極大となるビーム方位を第1の目的ビーム方位として選択し」は,摘記(1-カ)に「振幅が極大となるビーム方位は、血管壁に直交している」と記載されているように,血管壁に直交する方向を第1の目的ビーム方位として検出するものである。
してみれば,引用発明の「特徴信号検出器42は、各ビーム方位についての受信信号を探索して、当該信号に含まれうる血管壁に起因する強いエコーを特徴信号として検出し,振幅比較器44は、上記各ビーム方位間で特徴信号の振幅を比較して、振幅が極大となるビーム方位を第1の目的ビーム方位として選択」するものは,本願発明の「前記生体組織が変位する方向を検出する組織変位方向の検出手段」に相当する。

(5)引用発明の「送受信制御部14は、送信ビームの形成及び受信ビームの形成を行うための送受信制御を実行し」における「送信ビーム」又は「受信ビーム」の方向は,本願発明の「変位探索方向」であり,それらは,引用発明の「ビーム方位設定器46は,該選択された第1目的ビーム方位が入力され、送受信制御部14に対し第1目的ビーム方位を指示する」ことから,ビーム方位設定器46から指示された第1目的ビーム方位に設定されるものである。そして,「第1目的ビーム方位」は上記(4)で検討したように「検出された前記組織変位方向」であるから,引用発明における「送信ビーム」又は「受信ビーム」の方向は組織変位方向に合わせられるもので,上記引用発明の「指示」は本願発明の「組織変位方向に合わせて前記超音波ビームを偏向させる指令」に相当するものである。
してみれば,引用発明の「該選択された第1目的ビーム方位が入力され、送受信制御部14に対し第1目的ビーム方位を指示する」「ビーム方位設定器46」及び「送信ビームの形成及び受信ビームの形成を行うための送受信制御を実行」する「送受信制御部14」は,本願発明の「検出された前記組織変位方向に合わせて前記超音波ビームを偏向させる指令を前記送信手段又は前記受信手段に出力するとともに、前記組織変位方向に合わせて変位探索方向を設定する変位探索方向設定手段」に相当するといえる。

(6)引用発明の「上記トラッキングゲートA、トラッキングゲートBは,第1目的ビーム方位が変位計測ライン64として設定され,変位計測ライン64上にユーザ設定により設定されたもの」において,「トラッキングゲートA」及び「トラッキングゲートB」は 生体組織の変位計測する「各点」に相当し,それら「トラッキングゲートA」及び「トラッキングゲートB」は,第1目的ビーム方位が変位計測ライン64として設定される変位計測ライン64上に設定されるものである。
してみれば,引用発明の「トラッキングゲートAにてトラッキングされた前壁66の変位波形82、トラッキングゲートBにてトラッキングされた後壁68の変位波形84等が表示される」「上記トラッキングゲートA、トラッキングゲートBは,第1目的ビーム方位が変位計測ライン64として設定され,変位計測ライン64上にユーザ設定により設定されたもの」であることと,本願発明の「前記弾性像構成手段は超音波ビーム方向と合致する前記変位探索方向の前記生体組織の変位を各点で計測して前記弾性画像を構成すること」とは,「前記構成手段は超音波ビーム方向と合致する前記変位探索方向の前記生体組織の変位を各点で計測して前記画像を構成すること」の点で共通するといえる。

してみれば,本願発明と引用発明とは,
(一致点)
「被検体との間で超音波を送受する超音波探触子と,該超音波探触子に送波用の駆動信号を供給する送信手段と、前記超音波探触子から出力される受信信号を処理する受信手段と,該受信手段の出力信号から計測される生体組織の変位に基づき画像を構成する構成手段と,前記画像を表示する表示手段とを超音波診断装置において,
前記生体組織が変位する方向を検出する組織変位方向の検出手段と,検出された前記組織変位方向に合わせて前記超音波ビームを偏向させる指令を前記送信手段又は前記受信手段に出力するとともに,前記組織変位方向に合わせて変位探索方向を設定する変位探索方向設定手段を有し,前記構成手段は超音波ビーム方向と合致する前記変位探索方向の前記生体組織の変位を各点で計測して前記画像を構成する超音波診断装置。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点)
本願発明における画像は「弾性画像」であるが,引用発明における画像には「弾性画像」が含まれておらず,したがって,本願発明の構成手段が「弾性画像構成手段」であり「弾性画像を構成する」ものであるが,引用発明の構成手段は「弾性画像を構成する」機能が付与されていない点。

2 当審の判断
上記相違点について判断するにあたり,まず,弾性画像について検討する。
周知例2にも記載されているとおり,超音波診断装置において,被検体の生体組織の変位を求め,それより弾性画像を構成し,診断に役立てることは本願の優先日前に周知慣用技術である。また,周知例2以外にも,以下の周知例がある。
本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-215968号公報(以下「周知例3」という。)には,「特に超音波による計測を行えば、測定対象物の運動情報が得られるため、変位量から、測定対象物の弾性率を求めることができる。つまり、生体内の血管の弾性率を求めることができ、動脈の硬化の度合いを直接知ることが可能となる。また、患者に超音波プローブをあてるだけで測定できるため、患者への負担も少ない。このため、超音波診断装置を用いれば、動脈硬化の正確な診断も可能であるし、予防のための検診を被験者に対して負担を与える場合がなく行うことが期待される。」(【0009】),「血管壁23の任意の断面における弾性率を二次元マッピング表示することができる。二次元マッピング表示では、弾性率の大きさにしたがって、輝度を分布させたり色に濃淡をつけたりすることができる。たとえば弾性率の大きい箇所および小さい箇所をそれぞれ青色および赤色で表示し、弾性率がその中間の値である箇所は青色と赤色の中間色で表示することができる。色相の組み合わせは、ユーザが自由に選択できるようにしてもよい。」(【0052】)と記載され,
本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-229078号公報(以下「周知例4」という。)には,「超音波計測部5から出力されたデジタル信号形式の検波信号Vm(t)を解析処理して血管3の大振幅変位、微小振動、血管壁厚の時間変化、弾性率等を求め、処理結果を断層像等で画像出力する。」(【0031】),「本発明により解析された結果の血管の各部位の組織の硬さ(弾性率)が、そのレベルに応じたカラーで容易に識別可能にされている。」(【0038】),「本発明では、送信超音波パルスに対する受信超音波パルスのパルス位相偏移を検出して、対象物の変位量を求める。」(【0039】),「ここで、Δεmax は、ひずみ量の最大値である。この弾性率Eは、血管壁が硬くなれば大きくなるため、壁の弾性的特性を評価するための指標となる。また、本計測によって得られる血管長軸方向の空間分解能は超音波ビームの焦域におけるビーム幅、つまり2?3mm程度であるので、数mm?十数mmといわれる動脈硬化の初期病変を診断するに十分な空間分解能を有していると言える。したがって、本計測によって得られる弾性率Eは、動脈硬化早期診断の指標として期待できる。」(【0160】【0161】)と記載され,
本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開2004/110280号(以下「周知例5」という。)には,「組織特性は弾性率であることが好ましい。これにより、被検体組織の構造を表す断層画像と位置関係が整った、被検体組織の硬さ柔らかさを表す弾性率画像が得られる。」(4頁21?23行),「本実施の形態では、組織の物理的特性を表す組織特性として弾性率を用いることから、組織特性画像処理部である弾性率画像処理部105は、受信信号から血圧変化による被検体組織の歪み量を計測し、血圧測定部108で測定した血圧差と歪み量から組織の局所弾性率を計算し、それを画像化する。」(7頁7?11行)と記載され,
本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開2004/103185号(以下「周知例6」という。)には,「心電装置などの装置と被検体との間の特別な接続を必要とせず、探触子を被検体に当てるだけの簡単な操作で、弾性率画像を求めることができる。なお、図1では、組織追跡波形TAを用いて初期化を行なったが、初期化用に別途測定点を設けてもよい。この場合、測定点は血管壁上であることが望ましいが、血管周辺組織など心拍に同期して動いているすべての組織が使用可能である。」(10頁5?11行),「弾性率画像処理部105は、直交検波部114と、組織追跡部115と、組織特性量計算手段としての弾性率計算部116と、弾性率画像作成部117とから構成され、弾性率の2次元分布を画像化する。直交検波部114は受信信号を直交検波する。組織追跡部115は、本実施の形態の被検体組織の動きを精度良く追跡するための中心的な構成の一つであり、受信信号の主に位相を解析して組織の動きを追跡する。弾性率計算部116は、追跡した複数の組織の動きから組織の歪み量を計算し、血圧測定部108で測定された血圧値と歪み量に基づいて、組織の局所弾性率を計算する。弾性率画像作成部117は弾性率の2次元分布を画像化する。」(11頁5?14行),「本発明は、最終出力を弾性率に限るものではなく、組織追跡波形を求め、歪み量や弾性率、粘性率を測定し癌や腫瘍組織を検出する超音波診断装置や、血管の内中膜厚(IMT)や血管の内径変化、スティフネスパラメータ、脈波速度などから動脈硬化を検出する超音波診断装置などにも応用することが可能である。」(24頁19?23行)と記載されている。
これら周知例3?6の記載を参照するに,超音波診断装置において,血管壁の変位(歪み)から弾性率を求め,それを画像化して(弾性画像を得て),血管の診断に役立てることは本願の優先日前に周知慣用技術である。

一方,引用例1の摘記(1-イ)には「本装置は、特に血管の性状や心臓の機能などを診断する機能を有している。」と記載され,さらに摘記(1-ア)から,引用発明の超音波診断装置は,特に,血管の診断のために使用されるものである。上記周知慣用技術を鑑みれば,特に血管の診断に用いられる超音波診断装置において,血管の弾性画像を得て診断に役立てようとすることは当業者が容易に想到することであり,引用発明においては,血管壁の変位を既に求めているのであるから,さらにその変位から弾性画像を得ることは,同様に上記周知慣用技術を鑑みれば,当業者が容易なし得ることである。すなわち,引用発明における画像に「弾性画像」を含めるべく,引用発明の構成手段に「弾性画像を構成する」機能を付与することは,血管の診断に役立てるという観点から十分に動機付けがあり,当業者が容易になしえたことと言わざるを得ない。

そして,本願明細書では,本願発明の効果として,
「したがって、変位探索方向306a?306fに沿って生体組織の変位を計測すると、生体組織が実際に変位した方向に沿って変位を計測することになるから、変位の計測値の精度が向上する。このような計測値に基づいて弾性画像を構成することにより、弾性画像に生じるアーチファクトが低減される。その結果、生体組織を圧迫する方向や生体組織を圧迫する面の形状などに左右されずに、生体組織の歪みや硬さなどの性状を忠実に現わした高品質の弾性画像を取得できる。」(【0045】)と記載されているが,
引用例1の摘記(1-ア)には「この構成によれば、第1目的ビーム方位から得られる受信信号での特徴信号の時間の変化に基づいて、血管の径方向に関する血管壁の変位量が精度良く計測される。」と記載されており,さらに,上記周知例6には「組織の移動方向が超音波の進行方向と必ずしも平行とはいえないため、正確な追跡波形が得られないと考えられるので、適当ではない。」(21頁16?18行),「組織の移動方向が超音波の進行方向と必ずしも平行とはいえないため、正確な追跡波形が得られないと考えられるので、適当ではない。測定点Mは血管壁上であるが、脈動の方向が左右方向であるのに対し、超音波の進行方向は上下方向であるので、正確な追跡が行なえない。したがって、測定点Mは適当ではない。計測点Nも同様に適当ではない。」(22頁1?6行)と,また,本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-283518号公報に「最も古典的な従来の変位計測においては、超音波ビーム方向のみの変位が生じているものとして超音波エコー信号(検波処理する前のエコー信号をいう。以下、特にことわらない限り同様とする。)のビーム方向の1次元処理を行うことにより変位成分を求めていることから、超音波ビーム方向と直交する方向の変位が存在する実際の計測においては、ビーム方向の変位の計測精度は低い。」(【0013】),「特に、超音波ビーム方向と直交する方向の変位成分の計測は、超音波信号の周波数帯域が狭いこと、及び送搬周波数を有さないことから、超音波ビーム方向の変位成分の計測に比べて、空間分解能および計測精度が低くなる。つまり、3次元の変位ベクトル及び歪テンソル成分の計測精度は、超音波ビームの走査方向の変位成分の計測精度に大きく依存して低いという問題がある。」(【0016】)と記載されているとおり,引用例1の記載及び上記周知慣用技術を考慮すれば,当業者が予期しうる範囲の効果であり,格別顕著なことではない。

したがって,本願発明は,引用発明及び周知慣用技術に基いて,当業者が容易に発明することができたものである。

なお,上記当審の判断において,新たな周知例を記載しているが,平成23年4月25日付け拒絶理由通知書で「組織変位から組織弾性を算出し、弾性画像を作成することは、超音波診断装置における慣用技術である(引用文献等2などを参照のこと)。」,平成24年7月6日付け拒絶査定で「”生体組織の変位を各点で計測して前記弾性画像を構成すること”は、上記拒絶理由通知書に記載した通り、周知技術にすぎない(引用文献等2などを参照のこと)。」と既に指摘しており,この周知慣用技術の範囲内で補うもので,通常,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるかどうか判断する際には,周知慣用技術を考慮して判断しなければならないことから,上記周知例の追加は,特許法第159条第2項の規定に違反するような手続違反はないものである。


第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そうすると,その余の請求項に係る発明に対して特許法第29条第2項の規定について,さらに,原査定のその他の拒絶の理由について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2014-02-25 
結審通知日 2014-03-04 
審決日 2014-03-25 
出願番号 特願2006-550791(P2006-550791)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五閑 統一郎  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 森林 克郎
三崎 仁
発明の名称 超音波診断装置、超音波撮像プログラム及び超音波撮像方法  
代理人 吉岡 宏嗣  

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