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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1287330
審判番号 不服2013-13607  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-16 
確定日 2014-05-08 
事件の表示 特願2008-256380「ハードコート膜及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月15日出願公開、特開2010- 84061〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は,平成20年10月1日の特許出願であって,平成25年1月29日付けで拒絶理由が通知され,同年3月28日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲が補正されたが,同年4月11日付けで拒絶査定がされたところ,これに対して,同年7月16日に拒絶査定不服の審判が請求されると同時に明細書が補正されたので,特許法162条所定の審査がされた結果,同年9月13日付けで同法164条3項の規定による報告がされ,同年10月7日付けで同法134条4項の規定による審尋がされ,同年12月5日に回答書が提出されたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項1?8に係る発明は,平成25年3月28日に補正された特許請求の範囲,同年7月16日に補正された明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?8に記載されている事項により特定されるとおりのものであると認める。そのうち,請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)及び請求項8に係る発明(以下「本願発明8」という。)は,それぞれ次のとおりである。
「【請求項1】 フルオレン骨格を有するポリ(メタ)アクリレートと,カーボンナノコイルで構成されたカーボンコイルとで構成された樹脂組成物で形成されたハードコート膜。」
「【請求項8】 フルオレン骨格を有するポリ(メタ)アクリレートと,カーボンナノコイルで構成されたカーボンコイルとで構成されたハードコート用樹脂組成物。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,要するに,本願発明は,本願の出願前に頒布された刊行物である下記引用文献1に記載された発明を主引用発明として,当該主引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。
引用文献1: 特開2007-314776号公報

第4 合議体の認定,判断
1 引用発明
(1) 査定の理由で引用された引用文献1には,次の記載がある。(下線は審決で付記。以下同じ。)
「【請求項1】 樹脂と,カーボンコイルで構成された導電性カーボンとで構成されている導電性組成物。
【請求項2】 樹脂が,フルオレン骨格を有する樹脂で構成されている請求項1記載の組成物。…
【請求項4】 カーボンコイルが,カーボンナノコイルで構成されている請求項1記載の組成物。
【請求項5】 カーボンナノコイルが,コイルの平均外直径3?1000nm,平均断面直径0.3?200nmピッチの平均長さ1?300nm,およびコイル平均長さ800nm?2cmを有する請求項4記載の組成物…
【請求項10】 請求項1記載の組成物で形成された導電膜。…」(【特許請求の範囲】)
「【技術分野】
本発明は,カーボンコイルで構成され,導電膜(透明導電膜)などを形成するのに有用な樹脂組成物(導電性組成物,導電性樹脂組成物)およびその導電膜(透明導電膜)に関する。」(【0001】)
「【発明が解決しようとする課題】
従って,本発明の目的は,導電性と透明性とを両立できる導電性組成物および導電膜を提供することにある。
本発明の他の目的は,導電性材料を導電性カーボンで構成しても,高い透明性を付与できる導電性組成物および導電膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
本発明者らは,前記課題を達成するため鋭意検討した結果,樹脂をマトリックスとする導電膜において,導電性成分としてカーボンコイル(特に,カーボンナノコイル)を用いると,マトリックスに対する導電性成分の分散性を高いレベルで向上できるためか,導電性と透明性とを両立できる導電膜が得られることを見出し,本発明を完成した。
すなわち,本発明の導電性組成物(単に組成物ということがある)は,樹脂と,カーボンコイルで構成された導電性カーボンとで構成されている。このような本発明の組成物において,樹脂は,フルオレン骨格を有する樹脂(例えば,フルオレン骨格を有するポリエステル系樹脂)で構成されていてもよい。このようなフルオレン骨格を有する樹脂は,カーボンナノコイルの分散性をより一層向上できる。」(【0006】?【0009】)
「[樹脂]
樹脂としては,膜形成可能であれば特に限定されず,熱可塑性樹脂,硬化性樹脂(熱硬化性樹脂,光硬化性樹脂)などのいずれであってもよく,これらを単独で又は2種以上組合せた樹脂であってもよい。」(【0014】)
「(フルオレン骨格を有する樹脂)
フルオレン骨格を有する樹脂は,フルオレン骨格を有する樹脂状物質(オリゴマーや樹脂),特に,9,9-ビスフェニルフルオレン骨格などの9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する樹脂が挙げられる。」(【0017】)
「ビスフェノールフルオレン類を重合成分とする樹脂(ビスフェノールフルオレン類の樹脂)としては,熱可塑性樹脂(ポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリウレタン系樹脂など),熱硬化性樹脂[不飽和ポリエステル系樹脂;ポリウレタン系樹脂(ウレタン系樹脂);エポキシ系樹脂;ビニルエステル系樹脂;前記ビスフェノールフルオレン類とカルボキシル基を有する重合性単量体とのエステル化反応により得られる(メタ)アクリル系樹脂;フェノール系樹脂など]などが挙げられる。これらの樹脂において,前記ビスフェノールフルオレン類は,単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。」(【0042】)
「(5)フルオレン骨格を有するビニルエステル系樹脂
フルオレン骨格を有するビニルエステル系樹脂(以下,単にビニルエステル系樹脂ということがある)は,慣用の方法,例えば,前記ビスフェノールフルオレン単位を有するエポキシ樹脂と,少なくともカルボキシル基を有する重合性単量体(不飽和モノカルボン酸)との反応により得ることができる。カルボキシル基を有する重合性単量体は,必要により前記ポリエステル系樹脂の項で例示のジカルボン酸(脂肪族ジカルボン酸,脂環族ジカルボン酸や,芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸,テレフタル酸など))と組み合わせて用いてもよい。
カルボキシル基を有する重合性単量体としては,不飽和モノカルボン酸が使用できる。不飽和モノカルボン酸としては,通常,(メタ)アクリル酸が使用でき,桂皮酸,クロトン酸,ソルビン酸,マレイン酸モノアルキルエステル(モノメチルマレートなど)などを用いてもよい。これらの単量体は,単独で又は二種以上組合せて使用してもよい。…
ビニルエステル系樹脂は,ビスフェノールフルオレン類とグリシジル(メタ)アクリレートとの反応によっても得ることができる。…」(【0069】?【0072】)
「(6)フルオレン骨格を有するアクリル系樹脂
前記アクリル系樹脂としては,前記ビスフェノールフルオレン類とカルボキシル基を有する重合性単量体との反応により得ることができる。カルボキシル基を有する重合性単量体としては,通常,不飽和モノカルボン酸,特に(メタ)アクリル酸が使用でき,桂皮酸,クロトン酸,ソルビン酸,マレイン酸モノアルキルエステル(モノメチルマレートなど)などを用いてもよい。さらに,不飽和カルボン酸は,酸クロライド,C_(1-2)アルキルエステルなどの反応性誘導体であってもよい。これらの単量体は,単独で又は二種以上組合せて使用してもよい。…
オリゴマーの形態のアクリル系樹脂は,必要により共重合性単量体と重合してアクリル系共重合体を形成してもよい。共重合性単量体としては,例えば,(メタ)アクリル酸,マレイン酸,無水マレイン酸などのカルボキシル基含有単量体;(メタ)アクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸C_(1-6)アルキルエステル;(メタ)アクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;スチレンなどの芳香族ビニル単量体;酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類;エチレン,プロピレンなどのα-オレフィン類などが例示できる。これらの共重合性単量体は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。」(【0074】?【0076】)
「【産業上の利用可能性】
本発明の導電性組成物は,導電膜(特に透明導電膜)を形成するのに特に有用である。このような透明導電膜は,例えば,表示機器(液晶,エレクトロルミネッセンスなど)の基板,透明電極(例えば,ノートパソコンや携帯電話の表示素子用電極,太陽電池用電極,プラズマディスプレイ電極など),電子機器の電磁波シールドなどとして利用できる他,帯電防止性(例えば,テレビなどの陰極管の帯電防止性,ガラス,透明プラスチック材の帯電防止性,写真フィルム,光又は磁気記録媒体などの記録材料の帯電防止性,半導体素子,電子部品などの包装材の帯電防止性など)を付与するためのフィルムなどとしてとして広範な用途に用いることができる。」(【0151】)

(2) 上記(1)の摘記,特に【特許請求の範囲】,【0042】,【0069】,【0072】及び【0074】から,引用文献1には次の2つの発明が記載されていると認めることができる。
「ビスフェノールフルオレン類とカルボキシル基を有する重合性単量体とのエステル化反応により得られるフルオレン骨格を有する(メタ)アクリル系樹脂又はビスフェノールフルオレン単位を有するエポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との反応若しくはビスフェノールフルオレン類とグリシジル(メタ)アクリレートとの反応により得られるフルオレン骨格を有するビニルエステル系樹脂と,カーボンナノコイルで構成された導電性カーボンとで構成されている導電性組成物」(以下「引用発明1a」という。)
「ビスフェノールフルオレン類とカルボキシル基を有する重合性単量体とのエステル化反応により得られるフルオレン骨格を有する(メタ)アクリル系樹脂又はビスフェノールフルオレン単位を有するエポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との反応若しくはビスフェノールフルオレン類とグリシジル(メタ)アクリレートとの反応により得られるフルオレン骨格を有するビニルエステル系樹脂と,カーボンナノコイルで構成された導電性カーボンとで構成されている導電性組成物で形成された導電膜」(以下「引用発明1b」という。)

2 対比
(1) 本願発明8について
本願発明8と引用発明1aとを対比すると,引用発明1aの「フルオレン骨格を有する(メタ)アクリル系樹脂」あるいは「フルオレン骨格を有するビニルエステル系樹脂」は本願発明8の「フルオレン骨格を有するポリ(メタ)アクリレート」に相当し,また,「導電性組成物」は「樹脂組成物」に対応するといえるから,両発明の一致点,相違点(相違点1)はそれぞれ次のとおりと認められる。
・ 一致点
フルオレン骨格を有するポリ(メタ)アクリレートと,カーボンナノコイルで構成されたカーボンコイルとで構成された樹脂組成物,である点
・ 相違点1
樹脂組成物(導電性組成物)の用途について,本願発明8は「ハードコート用」と特定するのに対し,引用発明1aはそのような特定事項を有しない点

(2) 本願発明1について
また,本願発明1と引用発明1bとを対比すると,両発明の一致点,相違点(相違点2)はそれぞれ次のとおりと認められる。
・ 一致点
フルオレン骨格を有するポリ(メタ)アクリレートと,カーボンナノコイルで構成されたカーボンコイルとで構成された樹脂組成物で形成された膜,である点
・ 相違点2
樹脂組成物(導電性組成物)で形成された膜について,本願発明1は「ハードコート膜」と特定するのに対し,引用発明1aは「導電膜」と特定する点

3 相違点についての判断
(1) 相違点1について
引用発明1aの組成物を構成する樹脂は,上記1(2)で認定のとおり,「ビスフェノールフルオレン類とカルボキシル基を有する重合性単量体とのエステル化反応により得られるフルオレン骨格を有する(メタ)アクリル系樹脂」であるか,又は「ビスフェノールフルオレン単位を有するエポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との反応若しくはビスフェノールフルオレン類とグリシジル(メタ)アクリレートとの反応により得られるフルオレン骨格を有するビニルエステル系樹脂」である。
また,引用発明1aの組成物は,引用文献1の【0151】にも記載されているように,例えば液晶,エレクトロルミネッセンスなどの表示機器の透明基板に適用することで,その表面に導電性や帯電防止性を付与するためのものである。
ところで,上記「フルオレン骨格を有する(メタ)アクリル系樹脂」や「フルオレン骨格を有するビニルエステル系樹脂」を主成分とする組成物で形成された膜がハードコート性を有すること,すなわち,当該組成物の用途にハードコート用途があることは,本願の出願時において当業者に周知の技術事項である。(要すれば,平成25年1月29日付け拒絶理由通知書で引用文献2として引用された特開2004-83855号公報(【請求項7】,【0001】,【0090】など)のほか,本願の出願前に頒布された刊行物である特開平5-164903号公報(【請求項1】など),特開2002-293762号公報(【特許請求の範囲】,【0030】など)及び特開2007-91870号公報(【特許請求の範囲】,【0001】など)を参照のこと。)
さすれば,液晶,エレクトロルミネッセンスなどの表示機器の透明基板への適用を予定するものとされる引用発明1aの組成物について,その用途としてハードコートを想到することは,当業者であれば容易であるといわざるを得ない。

(2) 相違点2について
ア 上記(1)での検討と同様の理由により,相違点2に係る構成は想到容易であるといえる。
すなわち,引用発明1bの導電膜は,引用文献1の【0151】の記載から,例えば液晶,エレクトロルミネッセンスなどの表示機器の透明基板に形成されることで,当該基板の表面に導電性や帯電防止性を付与するものである。
そして,「フルオレン骨格を有する(メタ)アクリル系樹脂」や「フルオレン骨格を有するビニルエステル系樹脂」を主成分とする組成物で形成された膜がハードコート性を有することは周知の技術事項であるから,引用発明1bの導電膜について,導電性や帯電防止性を有する導電膜であるとともに,ハードコート膜であるとすることは,当業者であれば想到容易である。
イ なお,本願の明細書(【0064】)によれば,本願発明1のハードコート膜は,鉛筆硬度が「H」以上であるとされており,これは換言すると,鉛筆硬度が「H」以上の膜であれば本願の明細書でいうハードコート膜に相当するといえるところ,上記(1)で挙げた刊行物の記載からみて,引用発明1bの「フルオレン骨格を有する(メタ)アクリル系樹脂」や「フルオレン骨格を有するビニルエステル系樹脂」を主成分とする組成物で形成された導電膜は,その鉛筆硬度がH以上のものになると解される。そうすると,引用発明1bの導電膜は,本願の明細書でいうところのハードコート膜に相当することになるから,上記相違点2は実質的に相違しないともいえる。本願については,いわゆる新規性欠如の拒絶理由は通知されていないが,この点,参考までに付記する。

4 小活
以上のとおり,本願発明1及び8は,引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。

第5 むすび
したがって,本願発明1及び8は,引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
原査定の拒絶の理由は,妥当である。
そうすると,本願の他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-03-04 
結審通知日 2014-03-11 
審決日 2014-03-25 
出願番号 特願2008-256380(P2008-256380)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 牟田 博一  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 蔵野 雅昭
塩見 篤史
発明の名称 ハードコート膜及びその製造方法  
代理人 阪中 浩  
代理人 阪中 浩  
代理人 鍬田 充生  
代理人 鍬田 充生  

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