• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A63F
管理番号 1287392
審判番号 無効2013-800131  
総通号数 174 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-06-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-07-25 
確定日 2014-05-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第5126441号発明「遊技機の回転リールユニット」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許の経緯概要は以下のとおりである。

平成 9年 4月18日 特願平9-116101号出願(原出願)
平成16年 1月 8日 特願2004-2553号出願(分割出願第1世代)
平成16年 4月14日 特願2004-118975号出願(分割出願第2世代。以下,「孫出願」という。)
平成21年 6月10日 特願2009-139127号出願(分割出願第3世代)
平成22年 3月17日 特願2010-60153号出願(分割出願第4世代)
平成23年11月17日 特願2011-251643号出願(分割出願第5世代)
平成24年 5月28日 特願2012-120672号出願(分割出願第6世代。本件特許出願)
平成24年11月 9日 設定登録(特許第5126441号)
平成25年 7月25日差出 無効審判請求(書面には7月24日の日付)
平成25年10月15日 答弁書(被請求人)
平成25年11月11日 上申書(被請求人)
平成26年 1月31日 口頭審理陳述要領書(請求人,被請求人)
平成26年 2月14日 口頭審理,書面審理通知(口頭審理において)
平成26年 2月18日 審理終結通知書

なお,平成26年2月14日の口頭審理について,調書に記載された「陳述要領」のうち請求人及び被請求人に関するものは以下の通りである。
「請求人
1 甲第1号証ないし甲第29号証は,写しを原本として書証申出する。
被請求人
1 甲第1号証ないし甲第29号証の成立を認める。」

第2 本件審判事件にかかる両当事者の主張
請求人と被請求人の主張は以下のとおりである。

1.請求人の主張
請求人は,平成25年7月25日差出の審判請求書において,
(1)「特許第5126441号の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め(請求の趣旨),下記【無効理由】により,本件特許の請求項1?3に係る発明(以下,「本件特許発明1?3」という。)は,特許を受けることができないものであるから,特許法第123条第1項第2号の規定により無効にされるべきである旨主張すると共に(1頁下から3?1行,4頁13?15行,43頁5行?47頁20行),
(2)甲第22?26号証の審決及び判決(原出願の審決及び判決),甲第28?29号証の審決及び判決(孫出願の審決及び判決)では,いずれも進歩性がないと判断されており,本件特許発明1と甲第28?29号証の訂正後の請求項1に記載された発明(以下「孫出願の訂正発明」という。)とは,「半透明部分が前記2種類の特定図柄のそれぞれの所定の図柄部分の周囲に形成される」におけるアンダーライン部分が異なっているのみであり,「所定の図柄部分の周囲」は「特定図柄の所定の図柄部分全体」の意味であり,「所定の図柄部分の周囲」との限定で甲第28?29号証の判断を否定できるとは思えない旨主張し(51頁9行?52頁12行),
証拠方法として甲第1?30号証を提出した。
(なお,審判請求書1頁下から3?1行,4頁13?15行には,請求人が無効とされるべきと主張している請求項が明記されていないが,43頁5行?47頁20行において,請求項1?3に係る発明が無効とされるべきである旨主張しているから,「本件特許発明1?3は,特許を受けることができないものである」旨主張していると認める。)

【無効理由】
本件特許発明1?3は,甲第1?7号証に記載された発明,甲第8?13号証に記載された周知・慣用技術,及び甲第14?20号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,特許法第29条第2項の規定に違反しているので,特許法第123条第1項第2号の規定により,無効とされるべきである。
(なお,審判請求書4頁13?15行には,どの証拠に基づいて特許法第29条第2項の規定に違反しているか明記されていないが,審判請求書の「7-4 進歩性についての検討」(24頁6行?47頁20行),「10 証拠の表示」(52頁18行?54頁7行)の記載を考慮して,上記のように「本件特許発明1?3は,甲第1?7号証に記載された発明(以下,甲第1号証に記載された発明を「甲1発明」という。),甲第8?13号証に記載された周知・慣用技術,及び甲第14?20号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり」と認める。)

そして,【無効理由】に関する請求人の主張は,概ね以下のとおりである。
ア 本件特許発明1と甲1発明との相違点は下記の点が上げられる。
(相違点1)
本件特許発明1では,3つのリール帯に描かれている図柄が,形状が異なる2種類の特定図柄と他の種々の図柄であるのに対して,甲1発明では,1種類の特定図柄と他の種々の図柄である点。
(相違点2)
本件特許発明1では,半透明に形成された部分と特定図柄との位置関係が,半透明となっている部分が特定図柄のそれぞれの所定の図柄部分の周囲であるのに対して,甲1発明では,このような位置関係にない点。
(相違点3)
本件特許発明1では,半透明に形成された部分と2種類の特定図柄との関係が,半透明部分が,前記2種類の特定図柄のうち一方の特定図柄では右方に,他方の特定図柄では左方に位置するのに対して,甲1発明では,このような関係でない点。(30頁3?16行)
イ (相違点1)については,
スロットマシンの技術分野において,「ビッグボーナス」のことを「ビッグチャンス」又は「ビッグ」と言うことは,甲第8,13号証に記載されているように本件特許出願時に技術常識(以下,「技術常識1」という。)であり,
スロットマシンの技術分野において,ビッグボーナスを構成する図柄組合せの図柄が,形状が異なる2種類の特定図柄が使用されることは,甲第8?12号証に記載されているように本件特許出願時の周知・慣用技術であるから,
上記技術常識1を考慮すると,スロットマシンの技術分野において,3つのリール帯に描かれている図柄を,「形状が異なる2種類の特定図柄と他の種々の図柄」にすることは周知(以下,「周知技術1」という。)である。
したがって,甲1発明の3つのリールテープに描かれている図柄を,上記周知技術1に基づいて,相違点1に係る本件特許発明1の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。(30頁下から4行?32頁下から3行)
ウ (相違点2)の「特定図柄のそれぞれの所定の図柄部分の周囲」については,
特許請求の範囲では,「半透明部分が前記2種類の特定図柄のそれぞれの所定の図柄部分の周囲に形成される」と記載されているが,この特許請求の範囲の記載からは,
a半透明部分が所定の図柄部分の外側の部分
b半透明部分が所定の図柄部分の外側と内側とにかかった部分
c半透明部分が所定の図柄の内側の部分
のいずれを指しているのかが不明となっており,
実施例の段落【0025】には,「特定図柄がウルフの場合には,円形状の目の部分(所定の図柄部分)が半透明部分であり」,「特定図柄がセブンの場合には,円形状のウルフの足跡部分(所定の図柄部分)が半透明部分である」と説明されているものの,「周囲」に関係する記載はなく,
図2を参照しても,所定の図柄部分(半透明部分)の「周囲」が半透明部分となっていると言うよりも,円形状の所定の図柄部分全体が半透明部分となっているように見えるから,
「半透明となっている部分が特定図柄のそれぞれの所定の図柄部分の周囲」との記載は,明瞭な記載であるとはいえないものの,段落【0025】及び図2の記載を参酌して,「所定の図柄部分全体」を指すものとする。(33頁4行?34頁9行)
エ (相違点2)の判断については,
甲第1号証は,特定のシンボルマークを狙いやすくするために,回転中に特定のシンボルマークに付した透光窓が光るのをみて,タイミングを取ることとしており,甲第2号証には,タイミング付与手段と図柄を重複させることが記載されているから(第5図(2)),
甲1発明に甲第2号証に記載された発明のタイミング付与手段と図柄が重複することを容認することを適用し,視認性を確保するために着色部である図柄それ自体の一部分を半透明とすることは,当業者が容易に想到し得た事項である。
甲第6?7号証には,タイミング付与手段としてバックライト(発光源)を用いて特定の図柄を明るく照らして強調することが記載されているから,甲第1号証のように着色部である図柄それ自体の一部分を半透明とすることは,当業者が容易に想到し得た事項である。
甲第3号証には,図柄の一部分を光透過性にする構成が記載されており,甲1発明に甲第3号証に記載された発明を適用し,図柄それ自体の一部分を半透明とすることは,当業者が容易に想到し得た事項である。
甲1発明を出発点として,白地に対して着色処理によりシンボルマークを形成するとの通常の処理を維持し,半透明部分の視認性を確保するために着色部である図柄それ自体の一部分を半透明部分とすること,すなわち相違点2に係る本件特許発明1の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。(35頁1行?38頁11行)
オ (相違点3)については,
甲第4号証の記載によれば,遊技者が目押し対象とする絵柄(本件特許発明1の「図柄」に相当)が複数種類あることは明らかであり,
甲第4号証によらずとも,甲第1号証の特定図柄が複数種類存在するスロツトマシンは上記相違点1でも検討しているように周知(「周知技術1」が相当)であり,その場合には当然複数の図柄が目押し対象となるから,
甲1発明を出発点として,半透明部分の配置対象となるシンボルマーク(図柄)を複数種類とすること,その中でも2種類とすることは当業者にとって想到容易である。
区別手法として,あるものを類似の他のものと区別又は識別するために,位置の相違を用いることは,甲第14?20号証に記載されているように周知(以下,「周知技術2」という。)であり,
甲1発明を出発点として,2種類の図柄を区別するために,2種類の図柄における半透明部分の位置を互いに異ならせることは図柄区別にあたっての設計事項であり,
高速回転中に異なる半透明部分を位置において区別しようとすれば,「リールドラムの回転方向に直交する方向」において異なる位置に配することは当然採用すべき事項にすぎず,異なる位置が離れているほど区別しやすいことは自明であるから,
「2種類の特定図柄のうち一方の特定図柄では右方に,他方の特定図柄では左方に位置する」とすることも設計事項である。
更に,甲第5号証では,「特定絵柄92として,「7」の1個の絵柄92を例示したが,「7」に限らず,又,2個以上の絵柄92を特定絵柄92としてもよい。」と記載されており,
図5にあるように,特定絵柄としての「チェリー」は左側によっており,特定絵柄としての「二重丸(団子形)」は右側によっているから,
甲第5号証には,「2個以上の特定図柄の通過を内部ランプの光によって目立たさせる」にあたって,「2個の特定絵柄の通過を,内部ランプの光が右方向で光るかあるいは左方向で光るかの差異によって区別して日立たさせる」技術が開示されているといえる。
したがって,甲1発明を出発点とする場合には,各図柄特有の位置となるべきものが,各図柄における半透明部分であることは当然であるから,この半透明部分を通じて見える光の方向を,2種類の図柄に対応して左右方向に振り分けることが甲第5号証に記載されている点からみても,相違点3に係る本件特許発明1の構成に至ることに困難性はない。
更には,甲第1号証には,透光窓71の形成位置について,複数のシンボルマークの位置に複数個の透光窓71を形成すること,透光窓71をシンボルマークの右隣に形成することと,透光窓71をシンボルマークの左隣に形成することも記載されており,
リールテープに複数の透光窓71をそれぞれ相異なるシンボルマークの位置に近接して形成するに際して,透光窓71を形成するシンボルマークの種類を2種類に限定するとともに,上記周知技術2に基づいて,一方の透光窓71の形成位置については甲第1号証の図6に記載されているようにシンボルマークの右隣に形成し,他方の透光窓71については甲第1号証の図7に記載されているようにシンボルマークの左隣に形成するようにすることは,当業者が容易に想到し得た事項である。
したがって,甲1発明と本件特許発明1の相違点3に係る構成を得ることは,当業者が容易に想到し得たことである。(38頁18行?43頁4行)
カ 本件特許発明1については,
甲第1?12号証は,いずれも同一技術分野の発明であり,甲第13?19号証は,「発明が解決しようとする課題に関連した技術分野」の周知技術であり,甲第1?12号証に対して更に組み合わせることについての困難性はないから,
本件特許発明1は,甲第1?12号証を組み合わせた発明に周知技術を単に寄せ集めただけであり,容易想到である。(43頁5?下から4行)
キ 本件特許発明2については,
甲第1号証には,本件特許発明2が記載されていないが,
所定の図柄部分が形状の異なる模様であることは,甲第8?12号証に記載されているように周知・慣用であるから,
本件特許発明2は,甲第1?12号証を組み合わせた発明に周知技術を単に寄せ集めただけであり,容易想到であるとした本件特許発明1に対して,さらに周知・慣用技術を付加したのみであり,容易想到である。(44頁2行?45頁15行)
ケ 本件特許発明3については,
本件特許発明3の「半透明部分の輪郭が同一形状」である点については,発明の詳細な説明においては一切記載がなく,図2の(a)と図2の(b)とが,同一に見える直径の円形であることを意味していると考えられると共に,輪郭が同一形伏であることに起因した,技術的効果が期待できず,輪郭の大きさが異なった場合に比べての優位性がないから,単なる設計事項である。
更に,半透明部分の大きさに関しては,甲第1号証の図4?7に示された透明窓が同じ大きさのように見えると共に,甲第3号証の第1?3図に示された小孔も,同じ大きさのように見えるから,
甲1発明に甲第3号証に記載された発明を適用し,図柄それ自体の一部分を同一の大きさの輪郭で半透明とすることは,当業者が容易に想到し得た事項である。(45頁20行?47頁20行)

(証拠方法)
甲第1号証:特開平7-100241号公報
甲第2号証:実願昭60-175597号(実開昭62-84485号)のマイクロフィルム
甲第3号証:特開平4-108468号公報
甲第4号証:必勝パチスロファン 平成7年10月号 平成7年10月1日 株式会社日本文芸社発行 6?7頁
甲第5号証:特開平6-98964号公報
甲第6号証:特開平6-327808号公報
甲第7号証:特開平6-269535号公報
甲第8号証:パチスロ必勝ガイド6月号増刊 平成7年(1995年)6月号 1995年6月5日 株式会社白夜書房発行 132?133頁
甲第9号証:パチスロ攻略マガジン1月号 1997年1月号 1997年1月1日 株式会社双葉社発行 3頁
(審判請求書53頁4?5行には「株式会社白夜書房」と記載されているが,甲第9号証1頁右に「FUTABASHA」と記載されているので,「株式会社双葉社」の誤記と認める。)
甲第10号証:パチスロ必勝ガイド2月号 1996年2月号 1996年2月1日 株式会社白夜書房発行 4?5頁
甲第11号証:パチスロ必勝ガイド5月号 1996年5月号 1996年5月1日 株式会社白夜書房発行 58?61頁
甲第12号証:パチスロ必勝ガイド9月号 1996年9月号 1996年9月1日 株式会社白夜書房発行 3?7頁,65頁
甲第13号証:必勝パチスロファン増刊4月号 平成6年4月30日 株式会社日本文芸社発行 75?79頁
甲第14号証:特開平7-141472号公報
甲第15号証:特開平5-81290号公報
甲第16号証:特開昭64-26925号公報
甲第17号証:特開平8-178198号公報
甲第18号証:特開平4-43358号公報
甲第19号証:特開昭62-68034号公報
甲第20号証:特公平7-56726号公報
甲第21号証:特許第3537630号公報(原出願の特許公報)
甲第22号証:無効2004-80262号審決(原出願の1回目の無効審決。平成18年3月7日付け)
甲第23号証:無効2004-80262号審決(原出願の2回目の無効審決。平成19年11月27日付け)
甲第24号証:平成20年(行ケ)第10004号判決(原出願の2回目の無効審決に対する判決。平成20年12月25日判決言渡)
甲第25号証:訂正2008-390024号審決(原出願の訂正審決。平成20年5月27日付け)
甲第26号証:平成20年(行ケ)第10254号判決(原出願の訂正審決に対する判決。平成20年12月25日判決言渡)
甲第27号証:特許4352151号公報(孫出願の特許公報)
甲第28号証:無効2011-800104号審決(孫出願の無効審決。平成24年3月27日付け)
甲第29号証:平成24年(行ケ)第10159号判決(孫出願の無効審決に対する判決。平成24年11月14日判決言渡)
甲第30号証:特許第4717938号公報(本件出願の特許公報)

また,平成26年1月31日付け口頭審理陳述要領書において,
請求項1には「半透明部分が前記2種類の特定図柄のそれぞれの所定の図柄部分の周囲に形成される」と記載されているが,明細書及び図面には「特定図柄のそれぞれの所定の図柄部分」の記載はなく,被請求人認定のように「所定の図柄部分」を「7(図2(a)のセブン32)にあるウルフの足跡」「ウルフ(図2(b)のウルフ33)にあるウルフの目」と考え,その周囲が半透明部分であると考えたとすると,明細書の記載(段落【0025】?【0026】)から,「7(図2(a)のセブン32)にあるウルフの足跡」「ウルフ(図2(b)のウルフ33)にあるウルフの目」も,半透明部分で有色でなく光透過性があることになり,ウルフの足跡,ウルフの目が模様として成立するか不明となるから,「所定の図柄部分」が「円形の半透明部分」と考えれば,明細書と齟齬をきたさない旨主張している(2頁17行?3頁21行)。

2.被請求人の主張
被請求人は,平成25年10月15日付けで答弁書において,参考図面(1)?(2)を添付し,
(1)「本件審判請求は成り立たない。審判費用は,請求人の負担とする。との審決を求め」(答弁の趣旨),本件特許発明1?3は,特許法第29条第2項の規定に違反しないから,請求人が主張する無効理由に根拠がないことは明らかである旨主張すると共に(2頁4?7行,23頁12?13行),
(2)「相違点2」の「所定の図柄部分の周囲」については,「半透明部分が特定図柄のそれぞれの所定の図柄部分の周囲に形成」の記載は,議論するまでもなく,文言どおり,明瞭かつ一義的に「半透明部分が所定の図柄部分の周りを囲むように形成」と解釈できることは明らかであり,半透明部分は所定の図柄部分,すなわち,特定図柄の一部を構成する目又は足跡の周囲に形成されることは,図2(a),(b)を見れば明らかであり(参考図面(1)の黄色部分),請求人が主張するような解釈が生まれる余地はない旨(16頁5?12行),
(3)「相違点2」の効果については,甲第2?3,6?7号証のいずれを見ても,「半透明部分が前記2種類の特定図柄のそれぞれの所定の図柄部分の周囲に形成される」構成は開示されておらず,本件特許発明1が奏する効果,すなわち元々の特定図柄が有する模様又は細部の図柄部分からなる所定の図柄部分を欠落させることなく,半透明部分が形成されても,当該特定図柄が元々有するデザイン性及び装飾性を維持することが可能となるという作用効果も,各甲号証に記載の発明からは到底予測できないものであるから,
これらの証拠から,相違点2に係る構成を容易想到とする請求人の主張は,相違点2に係る構成が欠如するとともに,顕著な効果を看過している点においても失当である旨(17頁2?11行),
(4)「相違点3」については,甲第4号証には,複数の特定図柄を同じ手法で2種類の特定図柄をそれぞれ区別して目押し可能とすることは何ら開示されておらず,甲第14?20号証は,いずれも目押しが適用される遊技機とは全く関係のない技術分野に属するものである上,透過光を用いて目押しをするという本件特許発明1の課題,目的からもかけ離れており,甲第5号証の図5のような斜視図を表す特許図面をもってそれぞれの絵柄の相対的な位置関係が図示の通りということはできず,
請求人の主張は,甲1発明を出発点とするものであるが,本件特許発明1に近づけるために,一部の構成しか開示がなく,かつ課題も異なる遊技機における種々の文献,及び技術分野の異なる種々の文献などを駆使し,事後分析的かつ非論理的な適用を繰り返し,やっと本件特許発明1にたどり着くという主張を行っており,その過程は誤りに満ちたものであるから,
相違点3は,甲第4?5号証に記載された発明と甲第14?20号証の周知技術に基づいて,当業者が容易に想到することができたものではない旨(17頁18行?19頁21行),
(5)「相違点2と3の一体不可分」については,本件特許発明1は,相違点2,3を同時に備えることにより,つまり,2種類の特定図柄の所定の図柄部分の周囲であって,かつ2種類の特定図柄の左右異なる位置を半透明に形成するという本件特許発明1の特徴的構成により,初心者であっても2種類の特定図柄の目押しが容易にできるとともに,当該特定図柄が元々有するデザイン性及び装飾性を維持することが可能となるという顕著かつ相乗的な作用効果を奏するものであるが,甲第1?20号証のいずれの証拠も上記本件特許発明1の特徴的構成を開示,示唆するものでなく,またその作用効果も甲第1?20号証に記載された発明から当業者が予測できるものではない旨(21頁11?20行),
(6)本件特許発明1?3は,甲第22?26,28?29号証(審決,判決)が対象とした発明の構成とは明確に相違するから,これらの審決,判決の拘束力が本件特許発明1?3に及ばないことは,誰の目から見ても明白である旨(22頁下から6?3行),
主張している。

(添付資料)
参考図面(1):本件特許発明1における半透明部分(黄色部分)
参考図面(2):請求人主張による半透明部分(黄色部分)

平成25年11月11日付け上申書において,平成24年9月25日作成の特許メモを添付し,
特許メモには,「参考文献には,半透明部分が特定図柄のそれぞれの所定の図柄部分の周囲に形成される点が,記載も示唆もされていない。」と記載されており,特許メモの参考文献とは,本件特許公報(甲第30号証)の末尾に記載されている参考文献であり,各参考文献と本件無効事件の甲第1?4,14?20号証とが対応しているから,審査経緯を参酌しても,請求人の「無効の蓋然性について」の主張は明らかに失当である旨主張している(2頁11行?3頁下から6行)

(添付資料)
参考資料1:特許メモ(平成24年9月25日特許庁作成)

平成26年1月31日付け口頭審理陳述要領書において,「所定の図柄部分の周囲」とは,「特定図柄の所定の図柄部分全体」を意味するものではないことは答弁書15?16頁において反論したとおりである旨主張している(2頁20?21行)

第3 本件特許発明
本件特許発明1?3は,本件特許の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
上下方向に回転可能な円筒状をしたリールドラムと,このリールドラムの外周に設けられる,形状が異なる2種類の特定図柄と他の種々の図柄が描かれた3つのリール帯と,これら図柄を背後から照らす光源とを備えて構成される遊技機の回転リールユニットにおいて,
半透明部分が前記2種類の特定図柄のそれぞれの所定の図柄部分の周囲に形成されるとともに,前記2種類の特定図柄のうち一方の特定図柄では右方に,他方の特定図柄では左方に位置することを特徴とする遊技機の回転リールユニット。
【請求項2】
前記それぞれの所定の図柄部分は形状の異なる模様であることを特徴とする請求項1に記載の遊技機の回転リールユニット。
【請求項3】
前記半透明部分の輪郭が同一形状であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の遊技機の回転リールユニット。」

第4 甲各号証の記載事項
請求人の提出した甲各号証には,以下の記載事項と発明が認められる。なお,下線は当審で付した。
1.甲第1号証(特開平7-100241号公報)
甲第1号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
1-1「【請求項1】 複数の回転リールを横方向に並列し,各回転ドラムの外周の表面に複数のシンボルマークを所定間隔で表示し,各回転ドラムを回転させてシンボルマークを移動表示するスロットマシンにおいて,
上記複数の回転リールのうち,少なくとも1個の回転リールには,その複数のシンボルマークのうち少なくとも1個のシンボルマークの位置に形成され,当該回転リールの内外に光を通過可能な少なくとも1個の透光窓と,この透光窓を照明するとともに,当該回転リールの内部に配置された発光源とを備えたことを特徴とするスロットマシン。」
1-2「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,スロットマシンに関し,特に初心者でも特定のシンボルマークを狙い易くしたものである。
【0002】
【従来の技術】従来,この種のスロットマシンとしては,複数の回転リールを横方向に並列し,各回転ドラムの外周の表面に複数のシンボルマークを所定間隔で表示し,各回転ドラムを回転させてシンボルマークを移動表示していた。そして,遊技者は,各回転ドラムの回転タイミングに合わせて,各回転リールの回転を停止させるためのストップスイッチを操作し,各回転リールが停止した際に回転リールの外周の表面に表示されたシンボルマークの組み合わせが,予め定めた特定の組み合わせとなった場合に,賞としてのメダルを払い出す等していた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし,上記した従来のスロットマシンでは,各回転リールは高速で回転しているため,特定のシンボルマークの組み合わせとなるようにストップスイッチを操作して回転リールを停止させることは,熟練した一部の遊技者を除き困難であったため,初心者には不利であるという問題点があった。
【0004】そこで,請求項1記載の発明は,上記した従来の技術の有する問題点に鑑み提案されたものであり,その目的とするところは,初心者でも特定のシンボルマークを狙い易くし,遊技者の技量に関係なく公平に利益を分配できるようにしたスロットマシンを提供することにある。これに加え,請求項2記載の発明は,ゲーム性も加味し,一層変化に富んだスロットマシンを提供しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は,上記した目的を達成するためのものであり,以下にその内容を図面に示した実施例を用いて説明する。請求項1記載の発明は,複数の回転リール(40?42)のうち,少なくとも1個の回転リール(40?42)に,その複数のシンボルマークのうち少なくとも1個のシンボルマークの位置に形成され,当該回転リール(40?42)の内外に光を通過可能な少なくとも1個の透光窓(71)と,この透光窓(71)を照明するとともに,当該回転リール(40?42)の内部に配置された発光源(例えばランプ80)とを備えたことを特徴とする。」
1-3「【0007】
【作用】したがって,請求項1記載の発明によれば,回転リール(40?42)の回転中に,発光源(例えばランプ80)により照明された透光窓(71)が光るのを見ながら,タイミングをはかって,ストップスイッチ(23?25)を操作することができる。このため,従来のように,回転リール(40?42)のシンボルマークを見ながら,ストップスイッチ(23?25)を操作する場合に比較し,タイミングが取り易い。」
1-4「【0010】図2中,10はスロットマシンを示し,このスロットマシン10は,前扉の表面にフロントパネル20を設けている。上記フロントパネル20のほぼ中央部には,図2に示すように,3個の表示窓30?32を横並びに形成している。各表示窓30?32の内部には,各回転リール40?42の表面をそれぞれ臨ませている。そして,各表示窓30?32には,回転リール40?42を回転させることにより,上下方向に3個のシンボルマークを所定間隔で高速で移動表示させることができる。
【0011】上記スロットマシン10の表面には,図2に示すように,向かって右側の表示窓42の右斜め下方に,メダルを投入するメダル投入口21を設けている。また,向かって左側の表示窓30の左斜め下方には,各表示窓30?32に表示されたシンボルマークの移動表示を開始させるためのレバー状のスタートスイッチ22と,各表示窓30?32の下方に位置するとともに,各表示窓に移動表示されているシンボルマークの移動表示を個別に停止させるためのボタン状の3個のストップスイッチ23?25とを設けている。さらに,上記したスタートスイッチ22の向かって左側には,クレジットメダルを投入するためのボタン状のクレジットメダル投入スイッチ26と,クレジットメダルを排出させるためのボタン状の精算スイッチ27とが,スロットマシン10の表面に配置されている。
【0012】また,上記スロットマシン10の表面下方には,図2に示すように,排出されたメダルが溜まり込むメダル排出皿28が設けられている。上記3個の回転リール40?42は,図3に示すように,スロットマシン10の内部に収容されたリールユニット50に組み込まれている。上記リールユニット50は,図3に示すように,中空な筐体51と,この筐体51の内部を縦割りに3つに仕切る3枚の支持板52と,これらの支持板52に個々に固定され,各回転リール40?42をそれぞれ回転する3個のリールモータ53とを備える。
【0013】前記各回転リール40?42は,図3に示すように,上記各リールモータ53により回転される回転ドラム60と,この回転ドラム60の外周に貼着される帯状のリールテープ70とから構成されている。上記リールテープ70の表面は,図3,4に示すように,複数のシンボルマークが所定間隔で表示されている。そして,リールテープ70には,その複数のシンボルマークのうち少なくとも1個のシンボルマークの位置に,表裏面に光を通過可能な少なくとも1個の透光窓71が形成されている。
【0014】上記透光窓71は,図1,4に示すように,本実施例では,例えば賞態様を形成する特定のシンボルマークである「7」の文字に近接して形成され,リールテープ70の表裏面に貫通した円形の小さな貫通孔から構成されている。なお,本実施例では,3個の回転リール40?42の各リールテープ70にそれぞれ,1個の透光窓71を形成したが,これに限らず,3個の回転リール40?42のうち,1個や2個の回転リールのリールテープにのみ,透光窓71を形成してもよい。また,透光窓71の数も,1個に限らず,複数のシンボルマークの位置に複数個の透光窓71を形成してもよい。さらに,1個の透光窓71を「7」の文字のシンボルマークの位置に形成したが,透光窓71を形成するシンボルマークは「7」以外のシンボルマークであってもよい。
【0015】これに加え,透光窓71を貫通孔より構成したが,貫通孔に限らず,透光性を有していれば足り,例えば透光窓71の位置だけ透明乃至は半透明として,他の箇所を黒等に着色してマスクしてもよい。一方,前記回転ドラム60の内部には,図1に示すように,リールテープ70の透光窓71を照明する発光源としてのランプ80を配置している。前記ランプ80は,フロントパネル20の各表示窓30?32に面して取り付けられ,図示しないが,例えばリールユニット50の各支持板52にそれぞれ固定される。なお,発光源としては,ランプ80に限らず,LED等を使用してもよい。」
1-5「【0017】第1に,ランプ80は,ゲーム毎にランダムに点灯する。すなわち,ランプ80の点灯タイミングは,マイクロコンピュータ等からなる電気的制御手段(図示せず)により制御される。例えば,スタートスイッチ22を操作した場合に抽出される乱数により,ランダムにランプ80が点灯する。なお,このときには,3個の回転リール40?42の全てのランプ80が同時に点灯するが,勿論,3個の回転リール40?42の各ランプ80の点灯数や点灯箇所もランダムにしてもよい。
【0018】第2に,いわゆるビッグボーナスのリーチ状態で,残る回転中の1個の回転リール40?42のランプ80のみが,点灯する。すなわち,ビッグボーナスは,例えば「7」のシンボルマークが有効ライン上に3個揃うことにより達成される。このため,2個の回転リール40?42を停止させた時点で,両回転リール40?42の「7」のシンボルマークが有効ライン上に2個揃うことによりリーチ状態となる。この時点で,残る回転中の1個の回転リール40?42のランプ80のみが点灯する。
【0019】第3に,ビッグボーナス中,3個の回転リール40?42の全てのランプ80が点灯する。このビッグボーナス中は,JACの文字の付いたシンボルマークが中央のライン上に3個揃うことにより,15枚のメダルが払い出される。上記した点灯タイミングで,ランプ80が点灯すると,このランプ80の光が透光窓71を通じて見える。このため,ランプ80の光る位置を目印しに,タイミングをはかって,ストップスイッチ23?25を操作することで,従来のように,回転リール40?42のシンボルマークを見ながら,ストップスイッチ23?25を操作する場合に比較し,タイミングが取り易い。
【0020】なお,ランプ80の点灯タイミングは,上記した3個の点灯タイミングのうち,1個や2個だけ採用してもよいし,他の点灯タイミングを採用してもよい。例えば,リプレーの次にゲームのときに,ランプ80を点灯してもよい。また,逆に,ランプ80を常時,点灯させたり,あるいは回転リール40?42の停止中は,ランプ80を消灯させておき,回転リール40?42が回転を開始する際に,ランプ80を点灯させてもよい。
【0021】一方,図5?7は,本発明の他の実施例を示すものである。まず,図5は,本発明の第2実施例を示すものであり,同図はリールテープの平面図を示す。本実施例では,透光窓71を,リールテープ70の上下に隣接したシンボルマークとシンボルマークとの間に形成している。本実施例のように,透光窓71は,目印であるので,シンボルマークに関連して形成されていればよく,必ずしも特定のシンボルマークに接近して形成されている必要性はない。
【0022】また,図6は,本発明の第3実施例を示すものであり,同図はリールテープの平面図を示す。 本実施例では,透光窓71を,リールテープ70のシンボルマークの右隣に形成している。さらに,図7は,本発明の他の実施例を示すものであり,同図はリールテープの平面図を示す。
【0023】本実施例では,透光窓71を,リールテープ70のシンボルマークの左隣に形成している。」
1-6「【図3】リールユニットの分解斜視図である。」
1-7 図3には,回転ドラム60が円筒状である点が図示されている。
1-8 上記1-4,1-6の記載事項,及び,図3の図示内容によると,図3には,リールユニット50は,回転ドラム60とリールテープ70とからなる3個の回転リール40?42を備えた点が図示されている。
1-9 図3?7には,リールテープ70の表面には,「7」のシンボルマークを含む形状が異なる複数種類のシンボルマークが描かれている点が図示されている。
1-10 上記1-4?1-5の記載事項,及び,図5の図示内容によると,図5には,透光窓71を,リールテープ70のシンボルマークの上隣に形成している点が図示されている。

以上,上記1-1?1-10の記載及び図面の記載を総合すると,甲第1号証には,スロットマシン10のリールユニット50として以下の甲1発明が開示されていると認めることができる。
「各リールモータ53により回転される円筒状の回転ドラム60と,この回転ドラム60の外周に貼着される帯状で表面には有効ライン上に3個揃うことによりビッグボーナスとなる特定のシンボルマークである「7」を含む形状が異なる複数種類のシンボルマークが描かれた3個のリールテープ70と,回転ドラム60の内部にフロントパネル20の各表示窓30?32に面して取り付けられ,回転中の回転リール40?42が点灯し,リールテープ70の半透明な透光窓71を照明する発光源としてのランプ80とを備えたスロットマシン10のリールユニット50において,
半透明な透光窓71が,特定のシンボルマークである「7」の文字に関連して近接した右隣,左隣,または上隣に形成され,各リールテープ70の他の箇所は黒等に着色してマスクされているスロットマシン10のリールユニット50。」

2.甲第2号証(実願昭60-175597号(実開昭62-84485号)のマイクロフィルム)
甲第2号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
2-1「ところが各ドラムは,絵柄の判別が殆ど困難な速度で高速回転をしているため,遊戯者はただ漠然としたタイミングで各停止ボタンを押操作せざるを得ず,遊戯者において停止ライン上に所望の絵柄を停止させるなど到底困難である。従って従来のスロットマシンでは,ゲームの勝負決定に遊戯者の技能が介入する余地が全くなく,ゲームの勝負は単なる偶然で決まることになっており,これがためにゲームの興趣に欠けるという問題があった。」(3頁1?10行)
2-2「この考案は,上記問題を解消するためのものであって,遊戯者において回転ドラムの停止タイミングをとることが可能な新規なスロットマシンを提供することを目的とする。」(3頁12?15行)
2-3「上記各ドラム1a,1b,1cは,周面に複数の絵柄が配列されたものであるが,この考案では,入賞に関わる特定の絵柄(特にボーナスゲームに関わる特定の絵柄)の位置に対応して,前記停止ボタン5の操作タイミングを与えるためのタイミング付与手段を形成している。」(6頁8?13行)
2-4「第5図(1)は,前記絵柄13の位置に対応してドラム1aの周面両端に縦線状のマーク15,15を1周につき1ケ所付することによって,また第5図(2)は,前記絵柄13以外の位置に対応してドラム1aの周面中央部に縦線状のマーク16を一連に付すことによって,それぞれタイミング付与手段を形成したものである。さらに第5図(3)は,前記絵柄13の背景部のみに適当な色彩(図中,斜線17で示す)を1周につき1ケ所施すことによって,また第5図(4)は,前記絵柄13以外の絵柄の背景部に適当な色彩(図中,斜線18で示す)を施して前記絵柄13の背景部のみを白抜きにすることにより,それぞれタイミング付与手段を形成したものである。
なおこの考案のタイミング付与手段は,上記の各実施例に限らず,たとえば特定絵柄を他の絵柄より大きくするなど,ドラム回転時において,ボタン操作のタイミングを与えることができるものであれば,適宜の態様を採択できる。」(7頁11行?8頁9行)

3.甲第3号証(特開平4-108468号)
甲第3号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
3-1「リールタイプのスロットマシンにおけるリールに,絵柄を透した光透過部を形成すると共に,リールの内部に表示窓に対応しかつ前記光透過部に対向した発光面を有する光源を配設したことを特徴とするスロットマシンにおける照明装置。」(1頁左下欄5?9行)
3-2「第1図,第2図に於いて,1はリール本体,2は該リールの外周面に貼着した絵柄テープで,該テープ2の表面には,複数種類の文字,図形3a,3b,3c……が適宜等ピッチでランダムに描かれている。」(2頁右上欄11?15行)
3-3「上記リール1の外周面,及び,これに貼着された絵柄テープ2がいずれも不透明であるとき,本発明では各絵柄3a……の略中心に位置する部分に,光透過部として小径の透孔5を形成する。この透孔5はリール1の外周面の透孔5aと,これに対応したテープ2上の透孔5bとにより形成されている。
テープ2が透明材料であって,この透明テープに地色を印刷しつつ絵柄を印刷するものにあっては,上記光透過部は,小孔状をなす無印刷の透明部(図示せず)として形成する。」(2頁右上欄最終行?左下欄9行)
3-4「6a?6cは上記の光透過部として形成した各小孔5aのうち,スロットマシンにおける正面リールの取付パネルTP(第2図),又は,正面化粧パネルPに設けた表示窓W(第3図)から外部に臨んだ3個の小孔5に近接対応させてリール1の内側に配設した高輝度のLEDによる3個の照明用光源,」(2頁左下欄18行?右下欄4行)

4.甲第4号証(必勝パチスロファン 平成7年10月号 6?7頁)
甲第4号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
4-1「コンドルの目押しは羽根を見ながら押せ/クランキーコンドルは目押しをする機会が多い。ボーナス絵柄をそろえる時はもちろんのこと,ビッグ中の小役ゲームにも目押しは必要だ。/その中にあって,一番目押しする回数が多いのはコンドルである。レギュラーの時には,必ずこの絵柄の目押しをするからである。/コンドルの目押しのポイントは羽根の部分を見ながら狙うとよい。コンドルは黒い絵柄だし,右側にはみ出た羽根の形は他のものにはない。目立つはずだ。/ちなみに,赤7は切れ目押し。青7は直視だと見やすい。」(7頁左下欄。なお,「/」は原文における改行箇所を示す。以下,甲第4号証だけでなく,甲第8?13号証についても同様。)

5.甲第5号証(特開平6-98964号公報)
甲第5号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
5-1「【0006】また,後者のスロットマシンでは,絵柄を照明するに必要な照度を確保するためや,絵柄を選択的に照明するために,複数の発光源が使用されているので,その構造が複雑であったという問題点があった。そこで,請求項1記載の発明は,上記した従来の技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,特にリールドラムの回転中に,特定の絵柄を鮮明に照明できるようにしたスロットマシンを提供しようとするものである。」
5-2「【0013】図2中,10は,スロットマシンを示すものである。まず,図2を用いて,上記スロットマシン10のフロントパネルの概略について説明する。前記スロットマシン10の高さのほぼ中央には,図2に示すように,方形の窓部11が形成され,この窓部11内には,複数個,本実施例では3個の回転リール12?14がそれぞれ配置されている。」
5-3「【0019】上記リールユニット30は,図4に示すように,枠形のベース50と,このベース50に固定された駆動源としての複数個のステッピングモータ60と,各ステッピングモータ60により個々に回転される3個の回転リール12?14と,各回転リール12?14のそれぞれ内側に位置するとともに,前記ベース50に対して固定され,3個の回転リール12?14をその内側から個々に照明する発光源としての3本の蛍光管70・・・とを備えている。」
5-4「【0022】また,上記軸受部81は,図5に示すように,リング部83の幅方向のほぼ中央に位置するとともに,連結部82は,リング部83に向かって開いた円錐台形に形成されている。このため,軸受部81とリング部83の内周面とで囲まれた内方には,軸受部81を中心とした略ドーナツ型の空間が形成される。上記空間の内部には,図1に示すように,リールドラム80の回転に支障がないように,先に説明した蛍光管70が配置され,蛍光管70は図示しないがリールユニット30のベース50に固定されている。より具体的には,蛍光管70は,前記空間内にあって,軸受部81に対してはスロットマシン10の窓部11寄りに配置され,且つスロットマシン10の窓部11とほぼ平行に,その上端部を少し後傾させた状態で固定されている。
【0023】前記リールテープ90は,図7に示すように,透明なベーステープ91から構成され,ベーステープ91に絵柄92が印刷されている。すなわち,リールテープ90の裏面には,図7に示すように,まず,絵柄92の輪郭や内部の模様等を示す黒枠93が印刷される。つぎに,絵柄92の黒枠93の内側には,例えば赤色や黄色,緑色等の透光性の有る着色面94が印刷される。
【0024】その後,リールテープ90の裏面の全面に,例えば白色等の透光性の有る塗装面95が印刷される。より具体的には,塗装面95は,リールテープ90の黒枠93及び着色面94,並びに残ったベーステープ91の地の面の全てに印刷される。最後に,リールテープ90の裏面には,その複数の絵柄92のうち,少なくとも特定の1つの絵柄92,例えば「7」の絵柄92の箇所を除いて,遮光性を有する,例えば黒色の遮光面96が印刷されている。より具体的には,遮光面96は,「7」の絵柄92の黒枠93及び着色面94の箇所を除き,残る絵柄92の黒枠93及び着色面94,並びに残ったベーステープ91の地の面の全てに印刷される。したがって,「7」の絵柄92の黒枠93及び着色面94の箇所には,その上から印刷した白色の塗装面95がそのまま残る。
【0025】前記照明ユニット40は,図1,3に示すように,発光源としての1本の蛍光管41を備え,この蛍光管41は,リールユニット30の3個の回転リール12?14の外側に配置されている。より具体的には,スロットマシン10のフロントパネルの窓部11の裏側に位置し,3個の回転リール12?14の斜め上方に,ほぼ水平に配置されている。」
5-5「【0029】また,スロットマシン10の電源の投入時には同時に,照明ユニット40の蛍光管41が点灯する。このため,蛍光管41の光により,3個の回転リール12?14のそれぞれの絵柄92が明るく照らし出される。さらに,蛍光管41の光は,下方に位置する反射板100により反射され,反射光により回転リール12?14の陰になる下側が明るく照し出される。
【0030】このため,スロットマシン10の窓部11から見える,3個の回転リール12?14のそれぞれの絵柄92が上下方向に均等に照らし出される。その後,スロットマシン10の前面のスタートスイッチ26(図2)が操作されると,ステッピングモータ60の駆動力により,3個の回転リール12?14の回転が開始される。
【0031】この回転中も,3本の蛍光管70が点灯状態を維持し,スロットマシン10の窓部11から見ると,「7」の絵柄92が際だって明るく見える。このため,役を構成する「7」の絵柄92が狙う動作が行い易くなる。その後,スロットマシン10の前面のストップスイッチ25が操作されると,対応する回転リール12?14が停止される。」
5-6「【0033】また,リールテープ90の裏面の遮光面96は,黒色に限らず,遮光面96の有る箇所と無い箇所で,明度の差ができるような色で有れ有ればよい。さらに,特定絵柄92として,「7」の1個の絵柄92を例示したが,「7」に限らず,又,2個以上の絵柄92を特定絵柄92としてもよい。図8は,本発明の第2実施例を示すものであり,同図は,リールドラム80の拡散部84を示す一部平面図である。」

6.甲第6号証(特開平6-327808号公報)
甲第6号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
6-1「【0006】前述したように,遊戯者が待ちこがれるのは,支払い数量の高いシンボル(”7”など)の出現であり,特に,リールが停止する直前になると,遊戯者の注意は特定シンボルに集中しがちである。従って,この特定シンボルを強調させることにより,遊戯者の期待感は増大し,ゲームの娯楽性は高められる。
【0007】そこで本発明は,特定のシンボルに強力なインパクトを与えることによりゲームに対する遊戯者の期待感を増大させ,ゲームの娯楽性を向上させることを目的とする。」
6-2「【0020】また,このリール5,6,7の前方には表示窓8,9,10からなるウインドウ領域Wが配置され,リール5,6,7を挟み,ウインドウ領域Wの裏側には,前述した特殊シンボルLに光を照射する発光源40が配置されている。特殊シンボルLがウインドウWに出現した時,遊戯者は特殊シンボルLを通じてリール5,6,7の内側に配置された発光源40の光を見ることができる。そのため,特殊シンボルだけが発光しているように見える。したがって,特殊シンボルLは表示窓から遊戯者によって強く認識され,印象付けられる。」

7.甲第7号証(特開平6-269535号公報)
甲第7号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
7-1「【0006】前述したように,遊戯者が待ちこがれるのは,支払い数量の高いシンボル(”7”など)の出現であり,特に,リ-ルが停止する直前になると,遊戯者の注意は特定シンボルに集中しがちである。従って,この特定シンボルを強調させることにより,遊戯者の期待感は増大し,ゲ-ムの娯楽性は高められる。
【0007】そこで本発明は,特定のシンボルに強力なインパクトを与えることによりゲ-ムに対する遊戯者の期待感を増大させ,ゲ-ムの娯楽性を向上させることを目的とする。」
7-2「【0026】この実施例で用いる発光源35,36,37は,リ-ル5,6,7を挟んでウインドウWの反対側に配置されている点で上記実施例とは異なる。そのため,リ-ル5,6,7において,発光シンボルLが配置されているリ-ルの裏側は,発光源35,36,37からの光が透過するような構造になっている。リ-ル5,6,7の発光シンボルLが配置される裏側には開口Hが形成されており,発光源35,36,37からの光が通過する光路が確保されている(図6参照)。したがって,発光シンボルLがウインドウWに出現すると,その発光シンボルLには発光源35,36,37からの光が照射され,発光シンボルLは発光する。この場合,発光シンボルLに直接光が照射されるので,発光強度は上述した実施例と比べて強くなる。この場合,他のシンボルとのコントラストを強調するために,当該シンボル以外のシンボルの背面に光を透過しないマスク処理を施してもよい。」

8.甲第8号証(パチスロ必勝ガイド6月号増刊 平成7年(1995年)6月号 132?133頁)
甲第8号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
8-1「Aニューパルサー各役払い出し表/赤7 赤7 赤7/カエル カエル カエル/ビッグボーナス/+15枚」(132頁右上欄。ビッグボーナスを構成する図柄組合せの図柄「赤7」と「カエル」とが,形状が異なる点が記載されている。)

9.甲第9号証(パチスロ攻略マガジン1月号 1997年1月号 3頁)
甲第9号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
9-1「役の構成/白7 白7 白7/タコ タコ タコ/15+BIG CHANCE」(3頁左下欄。ビッグボーナスを構成する図柄組合せの図柄「白7」と「タコ」とが,形状が異なる点が記載されている。)
9-2「役の構成/ネズミ ネズミ ネズミ/赤7 赤7 赤7/15+BIG CHANCE」(3頁右下欄。ビッグボーナスを構成する図柄組合せの図柄「ネズミ」と「赤7」とが,形状が異なる点が記載されている。)

10.甲第10号証(パチスロ必勝ガイド2月号 1996年2月号 4?5頁)
甲第10号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
10-1「A各役の払い出し表/赤7 赤7 赤7/ネズミ ネズミ ネズミ/BIG/BONUS+15枚」(4頁右欄。ビッグボーナスを構成する図柄組合せの図柄「赤7」と「ネズミ」とが,形状が異なる点が記載されている。)

11.甲第11号証(パチスロ必勝ガイド5月号 1996年5月号 58?61頁)
甲第11号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
11-1「JOKER各役払い出し表/赤7 赤7 赤7/ジョーカー ジョーカー ジョーカー/ビッグボーナス/+15枚」(59頁左上欄。ビッグボーナスを構成する図柄組合せの図柄「赤7」と「ジョーカー」とが,形状が異なる点が記載されている。)

12.甲第12号証(パチスロ必勝ガイド9月号 1996年9月号 3?7頁,65頁)
甲第12号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
12-1「ワイワイパルサー2/各役払い出し表/赤7 赤7 赤7/カエル カエル カエル/BIG/BONUS/+15」(3頁右下欄。ビッグボーナスを構成する図柄組合せの図柄「赤7」と「カエル」とが,形状が異なる点が記載されている。)
12-2「CC/ANGEL 各役払い出し表/赤7 赤7 赤7/エンジェル エンジェル エンジェル/BIG/BONUS/+15」(4頁右上欄。ビッグボーナスを構成する図柄組合せの図柄「赤7」と「エンジェル」とが,形状が異なる点が記載されている。)

13.甲第13号証(必勝パチスロファン増刊4月号 75?79頁)
甲第13号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
13-1「ビッグチャンス/パチスロを打つ上で,もっともコインを獲得できる役がビッグチャンスだ。はっきりいって,ビッグが出なくちゃパチスロには勝てない。」(78頁上段15?19行。)
13-2「山佐もニューパルサーは7がそろってももちろんビッグだが,カエルの絵柄がそろってもビッグ。」(78頁上から3段落目左欄)

14.甲第14号証(特開平7-141472号公報)
甲第14号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
14-1「【0033】次に図7を用いて,文字列に連続する文字情報があるか否かの情報を文字列認識以外に使う場合について説明する。同図中,2012,2052aは図6の2011,2051aと同じものである。また,700は文字列「岐阜県」に連続する文字列情報があるかという情報に基ずいてカーソル,マ-クの形状を変化させた一例である。このようにすれば,前もって使用者が分かるので使い勝手は向上する。また,形を変化させる方法だけでなく,色,表示位置により区別してもよく,連続する文字列情報があることが使用者に分かればよい。更に,そのカーソル,マ-クをアイコンにし,そのアイコンをペンで指示することによって,連続する文字列候補を表示するようにして,使用者に選択入力を行わせることも可能であり,この例では700をアイコンにし,それを使用者が指示することによって,「岐阜県」の下位の地名「岐阜県」,「大垣市」,「羽島市」が領域701に表示され,更にその内の「大垣市」が指示された状態を示している。このように連続する文字列の数が少ない場合にはこの方法が有効である。この例では,「岐阜県」に連続する地名から選択入力させているが,「岐阜県岐」に連続する地名から入力させてもよい。」

15.甲第15号証(特開平5-81290号公報)
甲第15号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
15-1「【0017】また,タイマ36が予め決めてある一定時刻の10時に達すると,端末制御部3は,内蔵プログラムにより,その時点における最新株価情報をメモリ31より読み出し,現在値と,記憶している該当銘柄の当日の始値とを比較する。比較の結果,現在値が当日の始値より増加の場合は,歩み表示部5の左端の表示ユニット51のA領域を赤に点灯する。逆に,減少の場合は,B領域を緑に点灯し,また,増減のない場合は,A,B領域とも点灯しない。」
15-2「【0021】このような表示処理を一定時刻に達するごとに実施することにより,歩み表示部5には,図4の(b)に例示する表示がなされる。この歩み表示部5の図形の変化,すなわちAおよびB領域における点灯されている領域の変化を左から右に見ていくことにより,一定時間前の株価に対する増減,すなわち株価の直近比が分かり,また,C領域の色の変化を左から右に見ていくことにより,前日比がプラスからマイナスに,あるいはマイナスからプラスに変化した時点が明らかになる。」
15-3「【0023】なお,表示ユニット51を並置する数は,適宜変更することができるし,また,3色を表示する発光体も,先に説明したものに限定されない。また,A領域およびB領域については,点灯位置により区別がつくため,必ずしも,点灯色を変える必要はない。」

16.甲第16号証(特開昭64-26925号公報)
甲第16号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
16-1「障害表示手段7と画面表示手段8は,ディスプレイ端末装置上での表示領域として予め設定した位置により区別しておく。」(2頁左下欄6?9行)

17.甲第17号証(特開平8-178198号公報)
甲第17号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
17-1「【0006】
・・・異常監視を行う場所で,複数の異常が起きる可能性がある場合,もしくはカメラ等のセンサの監視視野内に複数の異常発生箇所が生じる可能性がある場合には,例えばカメラの視野内の位置により識別したり,異常を識別するための複数のセンサを設ける等の対策が必要である。」

18.甲第18号証(特開平4-43358号公報)
甲第18号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
18-1「従来のチップ位置識別パターンは第3図(a)に示すようにウェハー1の製品パターン2を形成した各チップ3毎に異なる形状パターン(例えば数字)4をレチクルを用いず電子ビーム等で形成し,その形状により識別する方法とか,第3図(b)に示すようにレチクルを利用し,各チップ毎の異なる位置に同形のパターン5を形成し,その形成位置により識別する方法等が用いられている。」(2頁左上欄9?17行)

19.甲第19号証(特開昭62-68034号公報)
甲第19号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
19-1「また,モータのコイルの抵抗値のちがいをリード線の取り出しロの位置により識別することができ,さらにフランジを多種類作ることもなくフランジのコスト低減にも効果がある。」(2頁左下欄1?4行)

20.甲第20号証(特公平7-56726号公報)
甲第20号証には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
20-1「第5図は前記提案によるディスクの一実施例である。第5図において,第3図と同一の番号が付与されている箇所は第3図と同様の機能を果たす部分である。第3図に示すディスクと異なる点は判別マーク14にある。この判別マークは回転同期マークを兼ねており,図中に示す3個のマークうち,最初のマークは回転同期マークの役目を果たす。また,ディスクの種類はこのマークの個数或いは位置により識別できるようになっている。第6図は判別マークの検出及び識別装置の一構成例を示すものである。第4図にくらべ,判別マークの識別を行うデコーダ回路15が付加されている。前述の動作説明と同様に,光検出器11aで反射率の違いを電気信号に変換し,波形整形回路13により2値化する。値化された判別信号はデコーダ回路15で,判別信号を識別し,どのような種類のディスクであるかを判定する。このような方法で同期マーク検出装置でディスクの種類の検出も可能である。」(2頁4欄4?19行)

第5 本件審判請求についての判断(29条2項)
本件特許発明1と甲1発明とを比較する。

1.対比
甲1発明の「回転ドラム60」は本件特許発明1の「リールドラム」に相当する。以下同様に,
「シンボルマーク」は「図柄」に,
「リールテープ70」は「リール帯」に,
「スロットマシン10」は「遊技機」に,
「リールユニット50」は「回転リールユニット」に,それぞれ相当する。

さらに,甲第1号証の記載からみて,以下のことがいえる。

a.甲1発明は,各リールモータ53により回転される円筒状の回転ドラム60を備えていると共に,甲第1号証の段落【0010】には「回転リール40?42を回転させることにより,上下方向に3個のシンボルマークを所定間隔で高速で移動表示させることができる。」と記載されており,この記載から回転ドラム60とリールテープ70からなる回転リール40?42を回転させることにより,回転ドラム60が上下方向に回転することは明らかであるから,
甲1発明は,本件特許発明1の「上下方向に回転可能な円筒状をしたリールドラム」に相当する手段を備えているといえる。

b.甲1発明は,回転ドラム60の外周に貼着される帯状で表面には有効ライン上に3個揃うことによりビッグボーナスとなる特定のシンボルマークである「7」を含む形状が異なる複数種類のシンボルマークが描かれた3個のリールテープ70を備えているから,
甲1発明と本件特許発明1とは,「形状が異なる」「特定図柄と他の種々の図柄が描かれた3つのリール帯」を備えた点で共通しているといえる。

c.甲1発明は,回転ドラム60の内部にフロントパネル20の各表示窓30?32に面して取り付けられ,回転中の回転リール40?42が点灯し,リールテープ70の半透明な透光窓71を照明する発光源としてのランプ80を備えており,
フロントパネル20の各表示窓30?32に面して取り付けられたランプ80は,回転リール40?42が回転中に点灯するから,ランプ80が背後から照らしているのは,リールテープ70の半透明な透光窓71だけでなく,特定のシンボルマークである「7」を含む形状が異なる複数種類のシンボルマーク全てであることは明らかであるから,
甲1発明は,本件特許発明1の「これら図柄(特定図柄と他の種々の図柄)を背後から照らす光源」に相当する手段を備えているといえる。

d.甲1発明は,半透明な透光窓71が,特定のシンボルマークである「7」の文字に関連して近接した右隣,左隣,または上隣に形成され,各リールテープ70の他の箇所は黒等に着色してマスクされているスロットマシン10のリールユニット50であるから,
甲1発明と本件特許発明1とは,「半透明部分が」「特定図柄」に関連した「部分」「に形成される」「遊技機の回転リールユニット」である点で共通しているといえる。

以上のことから,両者は,
<一致点>
「上下方向に回転可能な円筒状をしたリールドラムと,このリールドラムの外周に設けられる,特定図柄と他の種々の図柄が描かれた3つのリール帯と,これら図柄を背後から照らす光源とを備えて構成される遊技機の回転リールユニットにおいて,
半透明部分が特定図柄に関連した部分に形成される遊技機の回転リールユニット。」
である点で一致し,以下の点で相違している。

<相違点1>
3つのリール帯に描かれている図柄が,
本件特許発明1では,「形状が異なる2種類の特定図柄と他の種々の図柄」であるのに対して,
甲1発明では,1種類の3個揃うことによりビッグボーナスとなる特定のシンボルマークを含む形状が異なる複数種類のシンボルマークである点。

<相違点2>
半透明部分が形成される特定図柄に関連した部分が,
本件特許発明1では,「特定図柄」の「所定の図柄部分の周囲」であるのに対して,
甲1発明では,このような位置関係の部分ではない点。

<相違点3>
特定図柄に対する半透明部分が形成された部分の位置が,
本件特許発明1では,「前記2種類の特定図柄のうち一方の特定図柄では右方に,他方の特定図柄では左方に位置する」のに対して,
甲1発明では,このような位置ではない点。

2.判断
<相違点1>について
スロットマシンの技術分野において,「ビッグボーナス」のことを「ビッグチャンス」又は「ビッグ」ということもあることは,
「ニューパルサー」という機種について説明している甲第8号証に「Aニューパルサー各役払い出し表/赤7 赤7 赤7/カエル カエル カエル ビッグボーナス/+15枚」(132頁右上欄。なお,「/」は原文における改行箇所を示す。以下,甲第8号証だけでなく,甲第4,9?13号証についても同様。)と,
甲第8号証と同様に「ニューパルサ-」という機種についても説明している甲第13号証に「山佐もニューパルサーは7がそろってももちろんビッグだが,カエルの絵柄がそろってもビッグ。」(78頁上から3段落目左欄),「ビッグチャンス/パチスロを打つ上で,もっともコインを獲得できる役がビッグチャンスだ。はっきりいって,ビッグが出なくちゃパチスロには勝てない。」(78頁上段15?19行。)と,それぞれ記載されているように技術常識(以下,「技術常識」という。)である。
スロットマシンの技術分野において,3個揃うことによりビッグボーナス(「ビッグチャンス」,「ビッグ」ともいう。)となる図柄を,形状が異なる2種類の図柄とすることは,
甲第8号証に「ニューパルサー」というスロットマシンの機種について,「Aニューパルサー各役払い出し表/赤7 赤7 赤7/カエル カエル カエル/ビッグボーナス/+15枚」(132頁右上欄。3個揃うことによりビッグボーナスとなる図柄「赤7」と「カエル」とが,形状が異なる点が記載されている。)と,
甲第9号証に「タコスロ」というスロットマシンの機種について,「役の構成/白7 白7 白7/タコ タコ タコ/15+BIG CHANCE」(3頁左下欄。3個揃うことによりビッグボーナスとなる図柄「白7」と「タコ」とが,形状が異なる点が記載されている。)と,「ゲッターマウス」というスロットマシンの機種について,「役の構成/ネズミ ネズミ ネズミ/赤7 赤7 赤7/15+BIG CHANCE」(3頁右下欄。3個揃うことによりビッグボーナスとなる図柄「ネズミ」と「赤7」とが,形状が異なる点が記載されている。)と,
甲第10号証に「ピンクパンサー」というスロットマシンの機種について,「A各役の払い出し表/赤7 赤7 赤7/ネズミ ネズミ ネズミ/BIG/BONUS+15枚」(4頁右欄。3個揃うことによりビッグボーナスとなる図柄「赤7」と「ネズミ」とが,形状が異なる点が記載されている。)と,
甲第11号証に「ジョーカー」というスロットマシンの機種について,「JOKER各役払い出し表/赤7 赤7 赤7/ジョーカー ジョーカー ジョーカー/ビッグボーナス/+15枚」(59頁左上欄。3個揃うことによりビッグボーナスとなる図柄「赤7」と「ジョーカー」とが,形状が異なる点が記載されている。)と,
甲第12号証に「ワイワイパルサー2」というスロットマシンの機種について,「ワイワイパルサー2/各役払い出し表/赤7 赤7 赤7/カエル カエル カエル/BIG/BONUS/+15」(3頁右下欄。3個揃うことによりビッグボーナスとなる図柄「赤7」と「カエル」とが,形状が異なる点が記載されている。)と,「CCエンジェル」というスロットマシンの機種について「CC/ANGEL 各役払い出し表/赤7 赤7 赤7/エンジェル エンジェル エンジェル/BIG/BONUS/+15」(4頁右上欄。3個揃うことによりビッグボーナスとなる図柄「赤7」と「エンジェル」とが,形状が異なる点が記載されている。)と,それぞれ記載されているように周知であるから,
上記技術常識を考慮すると,スロットマシンの技術分野において,3つのリール帯に描かれている3個揃うことによりビッグボーナスとなる図柄を,「形状が異なる2種類の3個揃うことによりビッグボーナスとなる図柄」とすることは周知(以下,「周知技術1」という。)であるといえる。
したがって,甲1発明の3つのリールテープ70の1種類の3個揃うことによりビッグボーナスとなる特定のシンボルマークに上記周知技術1を適用して,相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは当業者にとって想到容易である。

<相違点2>について
上記「第2」「1.」の「ウ」及び上記「第2」「1.」の「平成26年1月31日付け口頭審理陳述要領書」の主張の記載に示すように,
請求人は本件特許発明1の「半透明となっている部分が特定図柄のそれぞれの所定の図柄部分の周囲」との記載は明瞭でなく,明細書及び図面には「特定図柄のそれぞれの所定の図柄部分」の記載はなく,段落【0025】及び図2の記載を参酌して,「半透明となっている部分」が,「所定の図柄部分の周囲」でなく「所定の図柄部分全体」と考えれば明細書と齟齬をきたさないから,「所定の図柄部分の周囲」は「所定の図柄部分全体」を指すものとする旨主張するので,まずこの点を検討する。

本件特許発明1の「半透明部分が前記2種類の特定図柄のそれぞれの所定の図柄部分の周囲に形成される」という記載は,半透明部分が2種類の特定図柄のぞれぞれの中(内側)の所定図柄部分の周りに形成されることを意味することは明らかである。そして,特許明細書の段落【0025】,及び図2(a)(b)の記載から,「セブン32」のシンボルの中(内側)には「ウルフの足跡部分」の模様があり,「ウルフ33」のシンボルの中(内側)には「目の部分」の模様があるといえる。したがって,本件特許発明1の上記記載は,所定の図柄部分である「ウルフの足跡部分」と「目の部分」の周囲が半透明であることを意味することは明らかである。
また,本件特許発明1の「半透明部分」は「所定の図柄部分の周囲」であり,図2(a)には「ウルフの足跡部分」の,図2(b)には「目の部分」の模様が記載されているから,元々の特定図柄が有する模様又は細部の図柄部分からなる所定の図柄部分を欠落させることなく,半透明部分が形成されても,当該特定図柄が元々有するデザイン性及び装飾性を維持することが可能となるという作用効果を奏することも明らかである。
よって,本件特許発明1の「半透明部分が前記2種類の特定図柄のそれぞれの所定の図柄部分の周囲に形成される」という記載は明確であり,特許明細書又は図面の記載に対応するものであるから,請求人の主張を採用することはできない。

甲1発明では,黒等に着色してマスクした3つのリールテープ70に半透明な透光窓71を配している。甲第1号証の段落【0013】及び図4に記載されたリールテープの変形例としての段落【0015】に記載されている「透光窓71の位置だけ」「半透明として,他の箇所を黒等に着色してマスクし」たものは,透光窓71以外のリールテープ70の部分が光を通過させないように,黒等に着色してマスクしたものであるといえる。
したがって,黒等のマスクは,シンボルマークの一部として設けられるのではなく,光を通過させないようにする手段として設けられているといえる。このとき,光を通過させないようにするためであれば,その色については特定する必要がないところ,甲第1号証の段落【0015】において「黒等」としているのは,「黒」が他の色と比較して遮光性が高いためであると考えられる。そして,遮光性が高いマスクの一部分にだけ透光窓が設けられていれば,遮光性の低いマスクの一部分に透光窓が設けられている場合に比較して,この透光窓からの光の視認性が高くなることは,当業者にとって自明な事項である。
甲第2号証には,「第5図(2)は,・・・ドラム1aの周面中央部に縦線状のマーク16を一連に付することによって,・・・タイミング付与手段(審決注;本件特許発明1及び甲1発明の「半透明部分」もタイミング付与手段の1つであると認める。)を形成した」(7頁13?17行)との記載があり,第5図(2)からは縦線状のマーク16が,3つの絵柄(本件特許発明1の「図柄」に相当)部分と重複していることが読み取れる。
甲第3号証には,「絵柄を透した光透過部を形成すると共に,リールの内部に表示窓に対応しかつ前記光透過部に対向した発光面を有する光源を配設した」(【請求項1】)との記載がある。ここでいう光透過部は,特定の図柄を狙い易くするため,すなわちタイミング付与手段として設けられたものではないが,絵柄(本件特許発明1の「図柄」に相当)の一部分を光透過部とする点では本件特許発明1と一致する構成が記載されているといえ,甲第3号証の記載からみても,図柄の一部分を半透明に形成することの阻害要因がないことは明らかである。
他方,図柄(甲1発明のシンボルマーク)は,通常白地に対して着色されて形成されるものであるから,図柄には着色部分があると考えられる。そして,甲第2号証の上記記載・図示からは,タイミング付与手段と図柄が重複することを容認することが読み取ることができ,さらに甲第3号証には図柄の一部分を光透過性にする構成が記載されており,図柄の着色部分自体の一部を半透明とすれば,半透明部分の視認性が向上することは明らかである。
そうである以上,甲1発明を出発点として,白地に対して着色処理によりシンボルマークを形成するとの通常の処理を維持し,半透明部分の視認性を確保するために着色部である図柄それ自体の一部分を半透明部分とすることは,当業者にとって想到容易である。

また,甲第2号証には,タイミング付与手段と図柄を重複させることが記載されているところ(7頁13行?17行,第5図(2)),そもそも甲第2号証に記載された発明は,上下方向に回転可能な円筒状をしたドラムの外周に特定の絵柄と他の種々の絵柄が設けられる遊技機の回転リールユニットであり,この点で甲1発明と共通するのであるから,甲1発明に甲第2号証に記載された発明のタイミング付与手段と図柄が重複することを容認することを適用し,視認性を確保するために着色部である図柄それ自体の一部分を半透明とすることは,当業者が容易に想到し得た事項である。

それに,甲第3号証には,図柄の一部分を光透過性にする構成が記載されているところ,そもそも,甲第3号証に記載された発明は,上下方向に回転可能な円筒状をしたリール本体と,このリール本体の外周に設けられる複数種類の文字,図形が描かれた3つの絵柄テープと,これら絵柄を背後から照らす光源とを備えて構成されるスロットマシンの回転リールユニットであり,この点で,甲1発明と共通するのであるから,甲1発明に甲第3号証に記載された発明を適用し,図柄それ自体の一部分を半透明とすることは,当業者が容易に想到し得た事項である。

しかしながら,請求人が提出した甲第2?7号証に記載された発明,甲第8?13号証に記載された周知・慣用技術,及び甲第14?20号証に記載された周知技術には,本件特許発明1の「半透明部分が」「特定図柄の」「所定の図柄部分の周囲に形成される」に相当する技術的事項は開示されておらず,相違点2は技術常識を勘案しても当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

請求人は審判請求書において,甲第22?26号証の審決及び判決(原出願の審決及び判決),甲第28?29号証の審決及び判決(孫出願の審決及び判決)では,いずれも進歩性がないと判断されており,本件特許発明1と甲第28?29号証に記載された孫出願の訂正発明とは,「半透明部分が前記2種類の特定図柄のそれぞれの所定の図柄部分の周囲であって」におけるアンダーライン部分が異なっているのみであり,「所定の図柄部分の周囲」は「特定図柄の所定の図柄部分全体」の意味であり,「所定の図柄部分の周囲」との限定で甲第28?29号証の判断を否定できるとは思えない旨主張している(51頁9行?52頁12行)。
しかしながら,既に検討しているように,「所定の図柄部分の周囲」は「特定図柄の所定の図柄部分全体」の意味ではなく,本件特許発明1は,甲第22?26号証に記載された発明,甲28?29号証に記載された孫出願の訂正発明とは「半透明部分が」「特定図柄の」「所定の図柄部分の周囲に形成される」点で構成が明確に相違しているから,請求人の主張を採用することはできない。
それに,甲第29号証の判決の「第5 当裁判所の判断」「1 取消事由1(相違点2の判断の誤り)について」「(3)」において,原告の「特定図柄の所定の図柄部分に」とは所定図柄の近傍(実施形態では周囲)を実質的に意味する」旨の主張に対して,甲第29号証の判決では「しかし,本件発明における「特定図柄の所定の図柄部分に」が所定図柄の近傍を実質的に意味するとはいえず,また,「当該所定の図柄部分を欠落させることなく,特定図柄全体の模様,デザイン性を元の形態に近い状態で保持」できる部分に限定できるとも解することもできないから,原告の上記主張を採用することはできない。」と言及している。
これは,甲第29号証の判決に記載された孫出願の訂正発明は「半透明部分が」「特定図柄の」「所定の図柄部分の周囲に形成される」という構成を有していないという理由で,甲第29号証の判決では「半透明部分が」「特定図柄の」「所定の図柄部分の周囲に形成される」という構成の進歩性について判断していないことを意味しているといえる。
したがって,上記相違点2についての判断は,甲第29号証の判決の内容と矛盾するものではなく,請求人の主張を採用することはできない。

<相違点3>について
甲第4号証には,「コンドルの目押しは羽根を見ながら押せ/クランキーコンドルは目押しをする機会が多い。ボーナス絵柄をそろえる時はもちろんのこと,ビッグ中の小役ゲームにも目押しは必要だ。/その中にあって,一番目押しする回数が多いのはコンドルである。レギュラーの時には,必ずこの絵柄の目押しをするからである。/コンドルの目押しのポイントは羽根の部分を見ながら狙うとよい。コンドルは黒い絵柄だし,右側にはみ出た羽根の形は他のものにはない。目立つはずだ。/ちなみに,赤7は切れ目押し。青7は直視だと見やすい。」(7頁左下欄)との記載があり,同記載がスロットマシン遊技についての記載であることは明らかである。
上記甲第4号証の記載において,「右側」とは,リールドラムの回転方向に直交する方向において,コンドルの図柄の右方をいうことは明らかであるとともに,上記記載から「右側にはみ出た羽根の形」とは,「遊技者が特定図柄(コンドル)を識別することができる形」であると認められるから,甲第4号証には,「遊技者が特定図柄(コンドル)を識別することができる形は,リールドラムの回転方向に直交する方向において,特定図柄(コンドル)の右側に位置する」ことが記載されているといえる。
ここで,遊技者が特定図柄を識別することができる形が特定図柄の右側に位置しているのは,甲第4号証の記載からみて何らかの技術的理由があるわけではなく,単に右側にはみ出ている特定図柄であるコンドルの羽根の部分が他の図柄にはないからにすぎない。したがって,甲第4号証に記載された発明において,特定図柄のうち他の図柄にはない部分がこの特定図柄の左側に位置している場合には,「遊技者が特定図柄を識別することができる形は,リールドラムの回転方向に直交する方向において,特定図柄の左側に位置する」こともあり得ることは,当業者にとって明らかな事項である。
また,上記甲第4号証の記載によれば,遊技者が目押し対象とする絵柄(本件特許発明1の「図柄」に相当)が複数種類あることも明らかである。
甲第4号証によらずとも,3個揃うことによりビッグボーナスとなる図柄が複数種類存在するスロットマシンは上記相違点1でも検討しているように周知(「周知技術1」が相当)であり,その場合には当然複数種類の3個揃うことによりビッグボーナスとなる図柄が目押し対象となる。
そうであれば,甲1発明を出発点として,半透明部分の配置対象となるシンボルマーク(図柄)を複数種類とすること,その中でも2種類とすることは当業者にとって想到容易である。
もっとも,そのようにした場合でも,2種類の図柄を区別せず,同一性状の半透明部分を配し,どの図柄が目押し対象となるかを遊技者の視認力又は偶然に任せることも一案であるが,遊技者の便宜を図り,2種類の図柄の半透明部分を区別可能とすることも一案であり,どちらを採用するかは設計事項である。
そして,後者を採用する場合,さまざまな区別手法が想定できる。
区別手法として,あるものを類似の他のものと区別又は識別するために,位置の相違を用いることは,例えば,
甲第14号証に「連続する文字列情報があるかという情報に基ずいてカーソル,マ-クの形状を変化させた一例である。このようにすれば,前もって使用者が分かるので使い勝手は向上する。また,形を変化させる方法だけでなく,色,表示位置により区別してもよく」(段落【0033】。連続する文字列情報がある文字列か,ない文字列かを,カーソル,マークの表示位置で区別する点が記載されている。)と,
甲第15号証に「比較の結果,現在値が当日の始値より増加の場合は,歩み表示部5の左端の表示ユニット51のA領域を赤に点灯する。逆に,減少の場合は,B領域を緑に点灯し,また,増減のない場合は,A,B領域とも点灯しない。」(段落【0017】),「このような表示処理を一定時刻に達するごとに実施することにより,歩み表示部5には,図4の(b)に例示する表示がなされる。この歩み表示部5の図形の変化,すなわちAおよびB領域における点灯されている領域の変化を左から右に見ていくことにより,一定時間前の株価に対する増減,すなわち株価の直近比が分かり,また,C領域の色の変化を左から右に見ていくことにより,前日比がプラスからマイナスに,あるいはマイナスからプラスに変化した時点が明らかになる。」(段落【0021】),「A領域およびB領域については,点灯位置により区別がつく」(段落【0023】。一定時刻に達する毎の株価が当日の始値に対して増加したか,減少したかを,点灯位置が図4のA領域かB領域かにより区別する点が記載されている。)と,
甲第16号証に「障害表示手段7と画面表示手段8は,ディスプレイ端末装置上での表示領域として予め設定した位置により区別しておく」(2頁左下欄6?9行。障害表示手段7か,画面表示手段8かを,第1図のようにディスプレイ端末装置上での表示位置により区別する点が記載されている。)と,
甲第17号証に「カメラ等のセンサの監視視野内に複数の異常発生箇所が生じる可能性がある場合には,例えばカメラの視野内の位置により識別したり」(段落【0006】。カメラの監視視野内のいすれかの位置で異常が発生している場合に,カメラの視野内の各位置の状態により,異常が発生している位置を区別する点が記載されている。)と,
甲第18号証に「第3図(b)に示すようにレチクルを利用し,各チップ毎の異なる位置に同形のパターン5を形成し,その形成位置により識別する方法等が用いられている。」(2頁左上欄13?17行。図3の同形のパターン5の位置により,区別する点が記載されている。)と,
甲第19号証に「モータのコイルの抵抗値のちがいをリード線の取り出し口の位置により識別することができ」(2頁左下欄1?3行。モータのコイルの抵抗値のちがいを,リード線取り出し口19の位置により区別する点が記載されている。)と,
及び甲第20号証に「第3図に示すディスクと異なる点は判別マーク14にある。・・・ディスクの種類はこのマークの個数或いは位置により識別できるようになっている。」(2頁4欄6?11行。ディスクの種類を,マークの位置により区別する点が記載されている。)とそれぞれ記載されているように周知(以下,「周知技術2」という。)である。
上記周知技術2にしても,特定の技術分野に限定されたものではないことから,様々な技術分野において,言い換えれば技術分野を問わずに,あるものを類似の他のものと区別又は識別するために位置の相違を用いているということができ,これを甲1発明に適用することに阻害事由があるとはいえない。
そうであれば,甲1発明に甲第4号証に記載された発明及び上記周知技術2を適用し,甲1発明を出発点として,2種類の図柄を区別するために,2種類の図柄における半透明部分の位置を互いに異ならせることは図柄区別に当たっての設計事項というべきである。さらに,高速回転中に異なる半透明部分を位置において区別しようとすれば,「リールドラムの回転方向に直交する方向」(右方,左方)において異なる位置に配することは当然採用すべき事項にすぎず(リールドラムの回転方向の位置を異ならせても,高速回転であるがゆえに区別困難となる。),「リールドラムの回転方向に直交する方向」(右方,左方)の異なる位置が離れているほど区別しやすいことは自明であるから,半透明な透光窓71を,2種類の特定図柄のうち一方の特定図柄では右方に,他方の特定図柄では左方に位置するようにすることは,設計事項であり,
甲1発明に甲第4号証に記載された発明及び上記周知技術2を適用して,相違点3に係る本件特許発明1の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

また,甲第1号証の段落【0014】,【0022】,【0023】には,透光窓71の形成位置について,複数のシンボルマークの位置に複数個の透光窓71を形成することが記載されているところ,これは,1つのリールテープについて複数の透光窓71をそれぞれ相異なるシンボルマークの位置に近接してそれぞれ形成することを意味することと認められる。また,この「複数」の中に「2つ」が含まれることは明らかである。さらに,透光窓71をシンボルマークの右隣に成することと,透光窓71をシンボルマークの左隣に形成することも記載されている。
そして,複数のシンボルマークが特定図柄となる場合において,遊技者が認識したい特定図柄は,その時の状況によって変わるものであるところ(甲第4号証に記載されているように,コンドルを狙う場合もあれば,赤の7,青の7を狙う場合もある。),リールテープに複数の透光窓71をそれぞれ相異なるシンボルマークの位置に近接して形成するに際して,透光窓71を形成するシンボルマークの種類を2種類に限定するとともに,本件出願前において,「あるものを類似の他のものと区別又は識別するために,位置の相違を用いること」が技術分野を問わず上記周知技術2として周知であることから,一方の透光窓71の形成位置については甲第1号証の図6に記載されているようにシンボルマークの右隣に形成し,他方の透光窓71については甲第1号証の図7に記載されているようにシンボルマークの左隣に形成するようにすることは,当業者が容易に想到し得た事項であり,
甲1発明に甲第4号証に記載された発明及び上記周知技術2を適用して,相違点3に係る本件特許発明1の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

3.まとめ
本件特許発明1は,上記<相違点2>について容易になし得たものということはできず,請求人の提出した甲第1?7号証に記載された発明,甲第8?13号証に記載された周知・慣用技術,及び甲第14?20号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

また,本件特許発明2?3は,本件特許発明1に限定を付したものであるから,限定を付した事項を検討するまでもなく,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

したがって,本件特許発明1?3は特許法第29条第2項の規定に反してされた特許であるとはいえず,特許法第123条第1項第2号の規定に該当せず,その特許は無効とされるべきものではない。

第6 むすび
以上のとおり,請求人の主張及び証拠方法によって,本件特許発明1?3の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により,全額を請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-02-18 
結審通知日 2014-02-20 
審決日 2014-03-28 
出願番号 特願2012-120672(P2012-120672)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 櫃本 研太郎  
特許庁審判長 長崎 洋一
特許庁審判官 瀬津 太朗
伊藤 陽
登録日 2012-11-09 
登録番号 特許第5126441号(P5126441)
発明の名称 遊技機の回転リールユニット  
代理人 鹿股 俊雄  
代理人 黒田 博道  
代理人 塩澤 克利  
代理人 瀧本 十良三  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ