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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C22C
審判 訂正 1項3号刊行物記載 訂正する C22C
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C22C
管理番号 1287734
審判番号 訂正2013-390166  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2013-10-28 
確定日 2014-03-25 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3383615号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3383615号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり一群の請求項ごとに訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第3383615号(以下、「本件特許」という。)は、平成11年8月5日にした出願(特願平11-221987号)の請求項1?5に係る発明について平成14年12月20日に特許権の設定登録がなされ、平成25年5月10日に請求項3?5からなる一群の請求項ごとに訂正することを求める旨の訂正審判の請求がなされ(訂正2013-390075号)(以下、「先の訂正審判」という。)、同年6月21日に訂正を認める旨の審決がされ、同年7月5日にその審決の確定登録がなされたものである。
そして、本件訂正審判は、本件特許に対して同年10月28日に請求されたものであり、同年12月9日に方式に関する手続補正がなされた後、平成26年1月21日付けの訂正拒絶理由が通知され、これに対し、同年2月24日付けで、審判請求書に添付された訂正明細書及び審判請求の理由を補正する手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされるとともに意見書が提出されたものである。

第2 本件補正について

1.本件補正の内容

本件補正は、平成26年1月21日付け訂正拒絶理由において、その目的が、特許請求の範囲の減縮、誤記又は誤訳の訂正、明瞭でない記載の釈明、及び、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項を引用しないものとすることのいずれを目的とするものにも該当しないと指摘した訂正事項1-1及び訂正事項3における前記訂正事項1-1の対応箇所を削除し、併せて前記削除した訂正事項に係る審判請求書の請求の理由の記載を削除するものである。

2.本件補正の適否の判断
本件補正の内容は、減縮的変更(「平成23年改正法における無効審判及び訂正審判の実務の考え方 平成24年3月 特許庁審判部」(53頁?56頁)を参照。)であり、訂正事項の同一性や範囲の変更のない補正であるから、審判請求書の要旨を変更するものではなく、特許法第131条の2第1項の規定に適合するから、本件補正を認める。

第3 請求の趣旨及び訂正事項
前記「第2」において述べたとおり、本件補正は認められるから、本件訂正審判の趣旨は、本件特許の願書に添付した明細書を、補正後の本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり、請求項3?5からなる一群の請求項ごとに訂正することを求めるものであって、その訂正事項は、以下のとおりのものと認める。(下線部は訂正箇所を示す。)
なお、ここで、「本件特許の願書に添付した明細書」とは、先の訂正審判にて訂正が認められた訂正明細書をいい、以下、これを「本件特許明細書」という。

1 訂正事項1-2
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項3に係る訂正事項

「5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で50個/mm^(2)未満であり」とあるのを、「5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で45個/mm^(2)以下であり」と訂正する。
(請求項3の記載を引用する請求項5においても同様である。)

2 訂正事項2
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項4に係る訂正事項

「5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で50個/mm^(2)未満であり」とあるのを、「5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で45個/mm^(2)以下であり」と訂正する。
(請求項4の記載を引用する請求項5においても同様である。)

3 訂正事項3
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】において、
「(3)・・・、且つ5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で50個/mm^(2)未満であり、」とあるのを、
「(3)・・・、且つ5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で45個/mm^(2)以下であり、」と訂正する。

4 訂正事項4
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】において、
「(4)・・・、且つ5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で50個/mm^(2)未満であり、」とあるのを、
「(4)・・・、且つ5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で45個/mm^(2)以下であり、」と訂正する。

第4 当審の判断

1 特許法施行規則に基づく一群の請求項について
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項5は、前記訂正事項1-2を有する請求項3及び前記訂正事項2を有する請求項4を引用するものであるから、請求項3?5は、特許法施行規則第46条の2第3号に規定する関係を有する一群の請求項である。
したがって、訂正事項1-2及び訂正事項2を有する本件訂正審判の請求は、特許法第126条第3項の規定に適合するものである。

2 訂正の目的について
(1)訂正事項1-2について
訂正事項1-2は、請求項3において、本件訂正前は、圧延方向に平行な断面における、5?10μmの大きさの介在物個数が「50個/mm^(2)未満」とあるのを、本件訂正後は、「45個/mm^(2)以下」と訂正するものであり、その下限値を引き下げるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、請求項3を引用し、請求項3と一群の請求項をなす請求項5においても同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項4において、本件訂正前は、圧延方向に平行な断面における、5?10μmの大きさの介在物個数が「50個/mm^(2)未満」とあるのを、本件訂正後は、「45個/mm^(2)以下」と訂正するものであり、その下限値を引き下げるものであるから、訂正事項1-2と同じく、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
したがって、請求項4を引用し、請求項4と一群の請求項をなす請求項5においても同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3)訂正事項3及び訂正事項4について
訂正事項3は、訂正事項1-2による訂正に伴い、また、訂正事項4は、訂正事項2による訂正に伴い、それぞれ特許請求の範囲と発明の詳細な説明との記載が整合するように明瞭化するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

以上のとおりであるから、訂正事項1-2及び2、並びに、3及び4を有する本件訂正は、それぞれ、特許法第126条第1項ただし書第1号または第3号に掲げる事項を目的とするものである。

3 新規事項の追加、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否についての検 討

(1)本件特許明細書の記載事項

本件特許明細書には、以下の事項が記載されている。
(a)「【0009】
【発明の実施の形態】本発明において、「介在物」とは、鋳造時の凝固過程に生じる一般に粗大である晶出物並びに溶解時の溶湯内での反応により生じる酸化物、硫化物等、更には、鋳造時の凝固過程以降、すなわち凝固後の冷却過程、熱間圧延後、溶体化処理後の冷却過程及び時効処理時に固相のマトリックス中に析出反応で生じる析出物であり、本銅合金のSEM観察によりマトリックス中に観察される粗大な粒子を包括するものである。「介在物の大きさ」は、介在物をSEM観察下でその介在物を含む最小円の直径をいう。「介在物の個数」とは、材料の圧延方向に平行な断面においてエッチング後SEM観察により多数箇所で実際に数えた単位平方mm当たりの介在物個数である。」

(b)「【0010】次に本発明において銅合金の組成範囲ならびに介在物寸法を前記の如くに限定した理由をその作用とともに説明する。
・・・。(審決注;「・・・」は、記載の省略を示す。以下、同様。)
【0012】(3)介在物
この合金系ではマトリックス中に介在物の粒子が存在することがある。この合金に必要な強度を得るための析出物は微細であり、0.5μmを超える粗大な析出物、晶出物等の介在物は強度に寄与しないばかりか、特に大きさが10μmを超える粗大なものは曲げ加工性、エッチング性、めっき性を著しく低下させる。このような不具合を起こさないためには、この粗大な介在物の大きさの上限を10μmとする必要がある。また本発明者は、介在物の分布と曲げ加工性、エッチング性、めっき性との相関を調査し、5?10μmの粗大な介在物であっても、圧延方向に平行な断面において50個/mm^(2)未満であれば、これらの特性を損なうことがないことを見出した。」

(c)段落【0018】の【表1】には、発明合金1?10について、それぞれの合金が圧延方向に平行な断面において単位面積当たり有する5?10μmの介在物数(個/mm^(2))が、1個未満/mm^(2)(発明合金4)?45個/mm^(2)(発明合金7)であったことが記載されている。

(2)判断
前記(1)の(a)の記載によれば、本件特許発明でいう「介在物」とは、鋳造時の凝固過程に生じる一般に粗大である晶出物、溶解時の溶湯内での反応により生じる酸化物、硫化物等、及び、固相のマトリックス中に析出反応で生じる析出物を含む、SEM観察によりマトリックス中に観察される粗大な粒子を包括していうものであり、前記(1)の(b)の記載によれば、本件特許発明は、発明合金中の圧延方向に平行な断面における単位面積当たり有する5?10μmの介在物数(個/mm^(2))を50個/mm^(2)未満と規定することにより、所望の強度、曲げ加工性、エッチング性、めっき性を有する合金を得るという課題を解決したものということができる。
そして、表1において記載された発明合金1?10において、請求項3に係る発明の実施例に相当する発明合金は、3?4、6?10であり、請求項4に係る発明の実施例に相当する発明合金は、3?4、7?10であるところ、前記(1)の(c)によれば、それぞれの請求項に係る発明の実施例における介在物の最大値は発明合金7の45個/mm^(2)であるから、請求項3に係る発明、及び、請求項4に係る発明における前記介在物の個数を45個/mm^(2)以下と規定する訂正事項は、発明合金7の介在物個数を根拠とするものである。
したがって、訂正事項1-2及び2、並びに、3及び4を有する本件訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、新規事項を追加するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものでもない。
よって、本件訂正は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

4 独立特許要件についての検討
(1)前記「2 訂正の目的について」の「(1)訂正事項1-2について」及び「(2)訂正事項2について」にて述べたとおり、本件訂正の訂正事項1-2及び訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件訂正後における特許請求の範囲の請求項3?5に記載された発明(以下、それぞれ、「本件訂正発明3」、「本件訂正発明4」、「本件訂正発明5」といい、総称して「本件訂正発明3?5」という。)は、特許法第126条第7項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。
したがって、本件訂正発明3?5が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下検討する。

なお、本件訂正発明3?5は、平成26年2月24日付けで手続補正された本件審判請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項3?5に記載された事項により補正された以下のとおりのものである。

「【請求項3】2.32?4.8mass%のNi及び0.2?1.4mass%のSiを含有し、且つSiに対するNiの含有量(mass%)比が2.7?5.1になるように調整し、さらにMg、Zn、Sn、Fe、Ti、Zr、Cr、P、Mn、Ag又はBeのうち1種以上を総量で0.005?2.0mass%含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、そして介在物の大きさが10μm以下であり、且つ5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で45個/mm^(2)以下であり、導電率が40%IACS以上であり、引張強さが670N/mm^(2)以上であることを特徴とする強度及び導電性の優れた電子材料用銅合金。
【請求項4】2.32?4.8mass%のNi及び0.2?1.4mass%のSi、さらにMg、Zn、Sn、Fe、Ti、Zr、Cr、Al、P、Mn、Ag又はBeのうち1種以上を総量で0.005?2.0mass%含有し、且つSiに対するNiの含有量(mass%)比が2.7?5.1になるように調整し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、そして介在物の大きさが10μm以下であり、且つ5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で45個/mm^(2)以下であり、導電率が40%IACS以上であり、引張強さが646N/mm^(2)以上であることを特徴とする強度及び導電性の優れた電子材料用銅合金。
【請求項5】鋳塊を800℃以上900℃未満の温度で1時間以上加熱した後、熱間圧延終了温度を650℃以上で熱間圧延を行い、その後熱処理と圧延を行った素材に対し、材料温度が300?650℃の温度で1?10時間の時効処理を行うことを特徴とする請求項1?4のうちいずれかに記載した電子材料用銅合金の製造方法。」

(2)平成26年1月21日付け訂正拒絶理由通知において、本件補正前の訂正請求が独立特許要件を満たさないとした点についての検討

前記訂正拒絶理由通知において、本件補正前の訂正事項1-2、及び、訂正事項2がいずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとしても、訂正事項1-1は、訂正後の請求項3の記載を不明瞭なものとする訂正であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けるものでないことを指摘したところ、本件補正において、訂正事項1-1及び訂正事項3における前記訂正事項1-1の対応箇所は削除されたので、前記訂正拒絶理由は解消した。

(3)本件審判請求書(平成26年2月24日付けの手続補正書)の6頁12行?7頁19行及び意見書に添付した資料4(被告第4準備書面の14頁12行?16頁下から3行)、並びに、本件審判請求書(平成26年2月24日付けの手続補正書)の15頁9行?21行、意見書に添付した資料7(被告第4準備書面の9頁3行?13頁1行)及び資料5(カタログ「MITSUBISHI ELECTRIC -三菱電機 高強度・高導電銅合金- M702C・M702S」三菱電機メテックス(株)1988年3月作成;以下、「刊行物2」という。)の記載によれば、本件特許に係る特許権侵害差し止め等請求事件(平成24(ワ)第15614号)の準備手続において、被告より、本件特許発明の新規性に関し、以下のA.及びB.の主張がなされているので、以下検討する。

A.本件訂正発明3及び本件訂正発明4は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された特開平10-110228号公報(以下、「刊行物1」という。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

B.本件訂正発明3及び本件訂正発明4は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

(3-1)主張「A.」についての検討
(3-1-1)刊行物1の記載事項及び刊行物1に記載された発明
刊行物1には、表1?表4に記載の、本発明合金18、19、比較例合金31、32、33である、所定量のNi、Si、及び、副成分を含有し、所定の導電率、引張速度を有し、晶出物又は析出物の大きさが3μm未満の電子材料用の銅合金の発明が記載されている(以下、本発明合金18、19及び比較例合金31、32、33を総称して「刊行物1発明」という。)。

(3-1-2)本件訂正発明3及び本件訂正発明4と刊行物1発明との対比 本件訂正発明3及び本件訂正発明4と刊行物1発明とは、銅合金の成分組成、Siに対するNiの含有量比、導電率、及び、引張強度において一致し、本件訂正発明3及び本件訂正発明4が、「介在物の大きさが10μm以下であり、且つ5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で45個/mm^(2)以下である」のに対して、刊行物1発明は、晶出物又は析出物の大きさが3μm未満であるものの、「介在物の大きさが10μm以下であり、且つ5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で45個/mm^(2)以下である」かは不明である点(以下、「相違点1」という。)において少なくとも相違する。

(3-1-3)相違点1についての判断
ア)本件訂正発明3及び本件訂正発明4における「介在物」とは、前記「3 新規事項の追加、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否についての検討」において述べたとおり、「鋳造時の凝固過程に生じる一般に粗大である晶出物、溶解時の溶湯内での反応により生じる酸化物、硫化物等、及び、固相のマトリックス中に析出反応で生じる析出物を含む、SEM観察によりマトリックス中に観察される粗大な粒子を包括していうもの」、すなわち、晶出物、析出物に加え、酸化物、硫化物をも含むものである。
これに対し、刊行物1発明では、刊行物1に「晶出物又は析出物の大きさを規定することで、打抜加工性等の諸特性を大幅に向上し得ることを見いだし」(【0004】)、「晶出物又は析出物の大きさは3μm未満に規定するその理由は、3μm以上では、貴金属めっきの密着性やめっき層の耐加熱膨れ性が低下する為である。」(【0014】)、「鋳造時の冷却速度を5℃/sec以上とする理由は、この冷却速度未満では生成する晶出物が3μmを超える為である。次の熱間加工を800?950℃の温度で行う理由は、800℃未満ではNi-Si化合物が3μmを超える為である。・・・前記熱間加工後10℃/sec以上で急冷するのは、 Ni-Siの化合物を3μm未満に抑える為である。次いで冷間加工と熱処理を施して、銅合金中に固溶したNiとSiを微細に析出させる。」(【0016】)と記載され、諸特性の向上の観点から、析出物となるNi-Siの化合物や晶出物の大きさの抑制を図るとの認識はあるものの、その他の介在物である酸化物や硫化物については、刊行物1には何ら記載がないし、また、記載されているに等しいともいえないから、刊行物1発明において、酸化物や硫化物についても析出物や晶出物と同じく大きさが規定されているとはいえない。
そうすると、本件訂正発明3及び本件訂正発明4と刊行物1発明は、その大きさを規定する介在物の種類が同一であるとはいえない。

イ)そして、本件訂正発明3及び本件訂正発明4は、圧延後の圧延方向と平行な断面において、圧延により引き延ばされた介在物の最大径を10μmと規定し、また、5?10μmの大きさを有する介在物の単位面積当たりの個数を45個/mm^(2)以下とするのに対し、刊行物1発明は、刊行物1の表4によれば、晶出物又は析出物の大きさの最大値は、1.3?2.1μmであることが読み取れるものの、「晶出物又は析出物の大きさは走査型電子顕微鏡(5000倍)により測定した。」(【0020】)との記載によれば、その測定は表層部に留まるものであって、特に、圧延後の圧延方向と平行な断面における晶出物又は析出物の大きさや単位面積当たりの個数については、何ら測定データが示されていないのであるから、刊行物1発明において、圧延後の圧延方向と平行な断面において圧延により引き延ばされた晶出物又は析出物が最大径で10μmであって、特性に影響を与える5?10μmの大きさを有する介在物の単位面積当たりの個数が45個/mm^(2)以下であるとまではいえない。
そうすると、刊行物1発明において、圧延方向と平行な断面において介在物が、10μm以下であって、5?10μmの大きさを有する介在物の単位面積当たりの個数が45個/mm^(2)以下であるとはいえない。
したがって、本件訂正発明3及び本件訂正発明4は、刊行物1発明であるとはいえない。

ウ)なお、前記資料4の15頁?16頁には、刊行物1において、合金例18、19、31、32、33における晶出物又は析出物の大きさが1.3?2.1μmであることや刊行物1の「本発明において、晶出物又は析出物の大きさは3μm未満に規定する。その理由は、3μm以上では、貴金属めっきの密着性やめっき層の耐加熱膨れ性が低下する為である。」(【0014】)との記載を根拠として、「(介在物が)5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で0個/mm^(2)であることが判る。」と記載されているが、その根拠については何ら説明がない。

(3-2)主張「B.」についての検討
刊行物2は、その最終頁に「1998年3月作成」と記載されているから、本件特許出願日である1999年8月5日以前に作成されたものであることが一応窺えるので、刊行物2が本件特許出願前において公知であるとして検討する。

(3-2-1)刊行物2の記載事項及び刊行物2に記載された発明
刊行物2の1頁には、製品記号「M702S」で示される以下の銅合金が記載されているといえる。
「Ni:2.2?3.2質量%、Si:0.4?0.8質量%、Sn:0.1?0.5質量%、Zn:0.5?2.0質量%,Ag+B:0.1質量%以下、残部Cuであり、導電率:40%IACS、引張強さ:750?850N/mm^(2)である銅合金。」(以下、「刊行物2発明」という。)

(3-2-2)本件訂正発明3及び本件訂正発明4と刊行物2発明との対比 本件訂正発明3及び本件訂正発明4と刊行物2発明とは、いずれも、Ni、Si、Sn、Znを含み残部がCuであり、導電率が40%IACS以上、引張強度が、670N/mm^(2)以上、または、646N/mm^(2)以上である銅合金である点において一致し、刊行物2発明において、Ni/Si含有量比が特定されていない点(以下、「相違点2」という。)、副成分の含有量の上限値が規定されていない点(以下「相違点3」という。)、及び、介在物の大きさが10μm以下であり、且つ5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で45個/mm^(2)以下であるか不明である点(以下、「相違点4」という。)において少なくとも相違する。

(3-2-3)相違点2?4についての判断
ア)相違点2及び相違点3について
刊行物2発明の組成範囲を適宜選択すれば、数値上、Ni/Si比は2.7?5.1となり得るものの、刊行物2には、刊行物2発明の合金組成範囲の具体的な組成値の記載はないから、Ni/Si比が実際にどのような値となるかは開示されておらず、また、刊行物2発明において、Ni及びSiの含有量のすべての組み合わせにおけるNi/Si比が常に2.7?5.1の範囲にあるともいえない。
かかる点は、副成分の総量についても同様であり、刊行物2には、副成分の総和がどのようになるかは開示されておらず、また、副成分の個々の含有量の総和が、常に0.005?2.0mass%となるともいえない。

イ)相違点4について
刊行物1の3頁に掲載された刊行物2発明の時効処理上りの組織写真の拡大された組織写真が資料6として提出されており、資料7では、資料6の組織写真の介在物は、すべてその大きさが10μm以下であり、かつ5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で0個/mm^(2)未満であるとの主張がされている。
しかしながら、前記拡大された組織写真が、圧延方向に平行な断面で撮られたものであるかが明らかではないし、また、前記拡大された組織写真において介在物として矢印にて示されたものの成分組成が不明であり、本件特許発明でいう介在物、すなわち、晶出物及び析出物に加え、酸化物や硫化物などのすべてが撮影されたものであるかも明らかではない。
さらに、刊行物2発明は、刊行物2の1頁に記載された最終製品の銅合金をいうものと認められるところ、前記拡大された組織写真は、刊行物2では、「時効処理上り」と記載されており、最終製品である刊行物2発明の組織をいうものであるのかについても明らかではない。

ウ)したがって、上記ア)及びイ)より、仮に、刊行物2が本件特許出願前に頒布された刊行物であるとしても、刊行物2発明は、本件訂正発明3及び本件訂正発明4と同一であるとはいえず、これら訂正発明は、特許法第29条第1項第3号に該当する発明であるとはいえない。
そして、かかる点は、本件訂正発明3または本件訂正発明4を引用する本件訂正発明5についても同様である。

(4)また、本件訂正発明3?5が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないとするその他の理由も見当たらない。

よって、本件訂正は、特許法第126条第7項の規定に適合する。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合する。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電子材料用銅合金及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.0?4.8mass%のNi及び0.2?1.4mass%のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、そして介在物の大きさが10μm以下であり、且つ5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で50個/mm^(2)未満であることを特徴とする強度及び導電性の優れた電子材料用銅合金。
【請求項2】
1.0?4.8mass%のNi及び0.2?1.4mass%のSiを含有し、且つSiに対するNiの含有量(mass%)比が2?8になるように調整し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、そして介在物の大きさが10μm以下であり、且つ5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で50個/mm^(2)未満であることを特徴とする強度及び導電性の優れた電子材料用銅合金。
【請求項3】
2.32?4.8mass%のNi及び0.2?1.4mass%のSiを含有し、且つSiに対するNiの含有量(mass%)比が2.7?5.1になるように調整し、さらにMg、Zn、Sn、Fe、Ti、Zr、Cr、P、Mn、Ag又はBeのうち1種以上を総量で0.005?2.0mass%含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、そして介在物の大きさが10μm以下であり、且つ5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で45個/mm^(2)以下であり、導電率が40%IACS以上であり、引張強さが670N/mm^(2)以上であることを特徴とする強度及び導電性の優れた電子材料用銅合金。
【請求項4】
2.32?4.8mass%のNi及び0.2?1.4mass%のSi、さらにMg、Zn、Sn、Fe、Ti、Zr、Cr、Al、P、Mn、Ag又はBeのうち1種以上を総量で0.005?2.0mass%含有し、且つSiに対するNiの含有量(mass%)比が2.7?5.1になるように調整し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、そして介在物の大きさが10μm以下であり、且つ5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で45個/mm^(2)以下であり、導電率が40%IACS以上であり、引張強さが646N/mm^(2)以上であることを特徴とする強度及び導電性の優れた電子材料用銅合金。
【請求項5】
鋳塊を800℃以上900℃未満の温度で1時間以上加熱した後、熱間圧延終了温度を650℃以上で熱間圧延を行い、その後熱処理と圧延を行った素材に対し、材料温度が300?650℃の温度で1?10時間の時効処理を行うことを特徴とする請求項1?4のうちいずれかに記載した電子材料用銅合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、強度、導電性に優れさらには良好な曲げ加工性、エッチング性及びめっき性を有する電子材料用銅合金及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
リードフレーム、端子、コネクター等に使用される電子材料用銅合金には、製品の基本特性として高い強度及び高い電気伝導性又は熱伝導性を両立させることが要求される。さらに近年の電子部品の小型化、高集積化が一層要求されることから、これに対応してリードフレーム、端子、コネクターにおいては、リード数等の増加、狭ピッチ化が進んでいる。さらには部品形状の複雑化及び組立て・実装における信頼性向上の要求から、使用される材料には機械的強度と電気伝導性が優れている他に、曲げ加工や繰り返し曲げに強いこと、エッチング性及びめっき性が良好であることが要求される。
【0003】
高強度及び高導電性の観点から、近年電子材料用銅合金としては従来のりん青銅、黄銅等に代表される固溶強化型銅合金に代わり、時効硬化型の銅合金の使用量が増加している。時効硬化型銅合金は溶体化処理された過飽和固溶体を時効処理することにより、微細な析出物が均一に分散して、合金の強度が高くなると同時に、銅中の固溶元素量が減少し電気伝導性が向上する。従って強度、ばね性などの機械的性質に優れ、しかも電気伝導性、熱伝導性が良好な材料として使用される。ここで析出元素としては活性元素が多い。更に合金の特性を改良する目的で活性金属を更に添加する場合もある。
【0004】
時効硬化型銅合金のうち、Cu-Ni-Si系銅合金は高強度と高導電率とを併せ持つ代表的な銅合金であり、電子機器用材料として実用化されている。この銅合金は、銅マトリックス中に微細なNi-Si系金属間化合物粒子が析出することにより強度と導電率が上昇する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
Cu-Ni-Si系合金は、銅マトリックス中に微細なNi-Si系金属間化合物粒子が析出することにより強度と導電率が上昇するが、反面強度の向上に寄与しない粗大な晶出物がマトリックス中に残存し易く、またSiが活性で、酸化物等が発生し易いため、マトリックス中にこれら晶出物、酸化物等の比較的大きな粒子が介在した組織となり易い。これらの粗大な粒子が存在すると、エッチング時のスマットの発生量が増える。そしてエッチング後のリードの端面に突起として残存すると、リードが狭ピッチの場合、めっき加工する際突起部に異常電着し、短絡等電気的障害が発生することがある。また、めっきを行なった際のめっき剥がれ、めっき脹れ、染み、突起(つぶ)の発生という問題を引き起こす可能性もある。また更には、曲げ加工を行なった際にクラック発生の起点となり製品の加工性を低下させる要因となる。
【0006】
本発明は上述した問題解決のためになされたもので、十分な強度及び電気伝導度を有しつつ、さらに曲げ加工性、エッチング性及びめっき性に優れた電子材料用銅合金を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記問題を解決するために本発明者らは、析出型銅合金に関する研究を重ねたところ、Cu-Ni-Si系合金の成分調整を行った上で、必要に応じMg、Zn、Sn、Fe、Ti、Zr、Cr、Al、P、Mn、Ag、Beを含有させると共に、製造条件を制御・選定してマトリックス中の析出物、晶出物、酸化物等の介在物の分布の制御を行うことにより、電子材料用銅合金として好適な素材を提供できることを見出した。
【0008】
本発明は、上記知見を基にして完成されたもので、(1)1.0?4.8mass%のNi及び0.2?1.4mass%のSiを含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、そして介在物の大きさが10μm以下であり、且つ5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で50個/mm^(2)未満であることを特徴とする強度及び導電性の優れた電子材料用銅合金。及び(2)1.0?4.8mass%のNi及び0.2?1.4mass%のSiを含有し、且つSiに対するNiの含有量(mass%)比が2?8になるように調整し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、そして介在物の大きさが10μm以下であり、且つ5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で50個/mm^(2)未満であることを特徴とする強度及び導電性の優れた電子材料用銅合金。及び(3)2.32?4.8mass%のNi及び0.2?1.4mass%のSiを含有し、且つSiに対するNiの含有量(mass%)比が2.7?5.1になるように調整し、さらにMg、Zn、Sn、Fe、Ti、Zr、Cr、P、Mn、Ag又はBeのうち1種以上を総量で0.005?2.0mass%含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、そして介在物の大きさが10μm以下であり、且つ5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で45個/mm^(2)以下であり、導電率が40%IACS以上であり、引張強さが670N/mm^(2)以上であることを特徴とする強度及び導電性の優れた電子材料用銅合金。及び(4)2.32?4.8mass%のNi及び0.2?1.4mass%のSi、さらにMg、Zn、Sn、Fe、Ti、Zr、Cr、Al、P、Mn、Ag又はBeのうち1種以上を総量で0.005?2.0mass%含有し、且つSiに対するNiの含有量(mass%)比が2.7?5.1になるように調整し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、そして介在物の大きさが10μm以下であり、且つ5?10μmの大きさの介在物個数が圧延方向に平行な断面で45個/mm^(2)以下であり、導電率が40%IACS以上であり、引張強さが646N/mm^(2)以上であることを特徴とする強度及び導電性の優れた電子材料用銅合金。及び(5)鋳塊を800℃以上900℃未満の温度で1時間以上加熱した後、熱間圧延終了温度を650℃以上で熱間圧延を行い、その後熱処理と圧延を行った素材に対し、材料温度が300?650℃の温度で1?10時間の時効処理を行うことを特徴とする(1)から(4)のうちいずれかに記載した電子材料用銅合金の製造方法。であり、リードフレーム、端子、コネクター用として十分な強度と電気伝導性を兼備せしめ、さらには曲げ加工性、エッチング性、めっき性も良好な銅合金及びその製造方法に関する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明において、「介在物」とは、鋳造時の凝固過程に生じる一般に粗大である晶出物並びに溶解時の溶湯内での反応により生じる酸化物、硫化物等、更には、鋳造時の凝固過程以降、すなわち凝固後の冷却過程、熱間圧延後、溶体化処理後の冷却過程及び時効処理時に固相のマトリックス中に析出反応で生じる析出物であり、本銅合金のSEM観察によりマトリックス中に観察される粗大な粒子を包括するものである。「介在物の大きさ」は、介在物をSEM観察下でその介在物を含む最小円の直径をいう。「介在物の個数」とは、材料の圧延方向に平行な断面においてエッチング後SEM観察により多数箇所で実際に数えた単位平方mm当たりの介在物個数である。
【0010】
次に本発明において銅合金の組成範囲ならびに介在物寸法を前記の如くに限定した理由をその作用とともに説明する。
(1)Ni及びSi
Ni及びSiは、時効処理を行うことによりNiとSiが相互に微細にNi_(2)Siを主とした金属間化合物の析出粒子を形成し、合金の強度を著しく増加させる一方、電気伝導度も高く維持する。ただしNi含有量が1mass%未満又はSi含有量が0.2mass%未満の場合は、他方の成分を添加しても所望とする強度が得られず、またNi含有量が4.8mass%を超え又はSi含有量が1.4mass%を超える場合は、十分な強度が得られるものの所望とする電気伝導性が低くなってしまい、さらには強度の向上に寄与しない粗大なNi-Si系粒子(晶出物及び析出物)が母相に生成し、曲げ加工性、エッチング性及びめっき性の低下を招く。従って、Niの含有量を1.0?4.8mass%、Siの含有量を0.2?1.4mass%と定めた。また、時効処理後の電気伝導性をより高めるためには、合金中のNiとSiの含有量比を、金属間化合物であるNi_(2)SiのNiとSiの含有量比に近づけることが望ましい。良好な電気伝導性を得るためのSiに対するNiの含有量(mass%)比(Ni含有量/Si含有量)は2?8であり、4が最も好ましい。
【0011】
(2)Mg、Zn、Sn、Fe、Ti、Zr、Cr、Al、P、Mn、Ag又はBe
Mg、Zn、Sn、Fe、Ti、Zr、Cr、Al、P、Mn、Ag又はBeには、Cu-Ni-Si系銅合金の強度及び耐熱性を改善する作用がある。また、これらの中でZnには、半田接合部の耐熱性を改善する効果もあり、Feには組織を微細化する効果もある。さらに、Mg、Ti、Zr、Al及びMnは熱間圧延性を改善する効果も有する。この理由は、これらの元素が硫黄との親和性が強いため硫黄と化合物を形成し、熱間圧延割れの原因となるインゴット粒界への硫黄の偏析を軽減するためである。Mg、Zn、Sn、Fe、Ti、Zr、Cr、Al、P、Mn、Ag又はBeの含有量が総量で0.005mass%未満であると上記の効果は得られず、一方総含有量が2.0mass%を超えると電気伝導性が著しく低下する。そこで、これらの含有量を総量で0.005?2.0mass%と定める。
【0012】
(3)介在物
この合金系ではマトリックス中に介在物の粒子が存在することがある。この合金に必要な強度を得るための析出物は微細であり、0.5μmを超える粗大な析出物、晶出物等の介在物は強度に寄与しないばかりか、特に大きさが10μmを超える粗大なものは曲げ加工性、エッチング性、めっき性を著しく低下させる。このような不具合を起こさないためには、この粗大な介在物の大きさの上限を10μmとする必要がある。また本発明者は、介在物の分布と曲げ加工性、エッチング性、めっき性との相関を調査し、5?10μmの粗大な介在物であっても、圧延方向に平行な断面において50個/mm^(2)未満であれば、これらの特性を損なうことがないことを見出した。
【0013】
次に、この合金を得るための製造方法について説明する。
通常鋳塊の製造は、半連続鋳造法で行なわれる。半連続鋳造における鋳造時の凝固過程においてNi-Si系の粗大な晶出物及び析出物が生成することがある。これら粗大な介在物は800℃以上の温度で1時間以上加熱後に熱間圧延を行ない、終了温度を650℃以上とすることにより、マトリックス中に固溶される。しかし加熱温度が900℃以上になると大量のスケールの発生、熱間圧延時の割れの発生といった問題が生じるため、加熱温度は800℃以上900℃未満とするのが良い。
【0014】
時効処理で高強度の材料を得るため、時効処理の前に溶体化処理を行うことも可能であり、溶体化処理温度が高い方がNi、Siのマトリックス中への固溶量が増加し、時効処理時にマトリックス中からNi-Si系の金属間化合物が微細に析出し、より強度を向上させる。この効果を得るために溶体化処理温度は、750℃以上、好ましくは800℃以上900℃未満とするのが望ましい。なお、本発明の銅合金は900℃であれば、Ni、Siがマトリックス中に十分固溶されるが、900℃以上の温度では、溶体化処理時に材料表面の酸化が激しく、酸化層を除去するための、酸洗工程の負荷が大きくなるため900℃未満の処理温度が推奨される。
【0015】
また、時効処理後の強度を向上させるため、時効処理前に冷間圧延を行うが、その加工度は高い程より高い強度が得られる。その加工度は本発明の銅合金に要求される強度、加工性に応じて適宜選択される。
【0016】
時効処理は所望の強度及び電気伝導性を得るために行うが、時効処理温度は300?650℃にする必要がある。300℃未満では時効処理に時間がかかり経済的でなく、650℃を越えるとNi-Si粒子は粗大化し、更に700℃を超えるとNi及びSiが固溶してしまい、強度及び電気伝導性が向上しないためである。300?650℃の範囲で時効処理する際、時効処理時間は、1?10時間であれば十分な強度、電気伝導性が得られる。なお、本発明の銅合金において、更に強度を向上させるため、時効処理後に冷間圧延し、その後熱処理(歪取り焼鈍)を行うことも可能である。
【0017】
【実施例】
高周波溶解炉にて表1に示す各種成分組成の銅合金を溶製し、厚さ20mmのインゴットに鋳造した。次に、このインゴットを表1に記載した温度で厚さ8mmまで各温度条件で熱間圧延を行い、表面のスケール除去のため面削を施した後、冷間圧延により厚さ2mmの板とした。その後、750℃以上900℃未満の温度で10分間の溶体化処理を行った後、0.5mmまで冷間圧延した。そして400?600℃の各組成で最高の温度が得られる温度で各5時間の時効処理を行い、その後、さらに高強度が得られるよう、冷間圧延で厚さ0.15mmの板とし、最後に500?550℃で30秒?10分の歪取り焼鈍を適宜施した。
【0018】
【表1】

【0019】
このようにして得られた各合金につき諸特性の評価を行った。強度については引張試験機において引張強さを測定した。電気伝導性は導電率(%IACS)により評価した。
繰り返し曲げ性は「曲げ半径/板厚=1」で曲げ軸が圧延方向に平行方向の片側90度繰り返し曲げ試験を行ない、往復を1回と数える方法で破断するまでの回数を数えて評価した。なお繰り返し曲げ性の評価基準は、曲げ回数3回以上を○とし、3回未満を×とした。エッチング性は、試料の圧延方向に直角な断面を塩化第二鉄水溶液により10μmエッチング後、3次元座標測定装置によりエッチング面を観察し、素地に対し5μm以上の介在物の突起が観察された場合を×とし、観察されなかった場合を○とした。めっき性は、試料表面に厚さ5μmの銀めっきを施した後、銀めっき表面を観察し大きさが10μm以上の銀のつぶが観察された場合を×、観察されなかった場合を○とした。介在物個数は、材料の圧延方向に平行な断面をエッチング後SEMで観察し、多数箇所において実際に数えた単位平方mm当たりの大きさ5?10μmの介在物個数である。
【0020】
表1からわかるように、本発明は優れた、強度、導電率、繰り返し曲げ性、エッチング性及び銀めっき性を有している。一方、比較合金のNo.1?No.5は、本発明と一部の組成が異なるもの、熱間圧延前の加熱温度が800℃未満のもの、熱間圧延終了温度が650℃未満のものであるが、本発明合金と比較すると、比較合金No.1はNiが低いために強度及び導電率が劣る。比較合金No.2はNi、Siとも低いために強度が劣る。比較合金No.3、4はSiが高いために導電率が劣る。比較合金No.5は本発明の許容範囲を超えて副成分を含有するため導電率が劣る。
【0021】
さらに比較例No.1、3、4、6、7、8は介在物個数が多いために繰り返し曲げ性、エッチング性、銀めっき性とも劣る。特に比較例No.6、7、8は、それぞれ実施例No.1、9と同一組成であるが熱間圧延前の加熱温度、熱間圧延終了温度が低いために、鋳造時に生成した粗大な晶出物、析出物が熱間圧延前の加熱、熱間圧延にて固溶しなかった結果として介在物個数が増加した例である。なお銀めっきにより発生した銀つぶの生成原因調査のため、銀めっき剥離後銀つぶ直下の表面を観察した結果、粗大なNi-Si系介在物が確認された。
【0022】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、優れた強度と電気伝導性を有し、さらには繰り返し曲げ性、エッチング性及びめっき性にも優れた銅合金が得られ、リードフレーム、端子、コネクター等電子材料用銅合金として好適である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2014-03-14 
出願番号 特願平11-221987
審決分類 P 1 41・ 851- Y (C22C)
P 1 41・ 856- Y (C22C)
P 1 41・ 113- Y (C22C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長者 義久鈴木 毅河野 一夫  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 木村 孔一
大橋 賢一
登録日 2002-12-20 
登録番号 特許第3383615号(P3383615)
発明の名称 電子材料用銅合金及びその製造方法  
代理人 アクシス国際特許業務法人  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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