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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A43B
審判 全部無効 特17条の2、3項新規事項追加の補正  A43B
審判 全部無効 発明同一  A43B
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A43B
管理番号 1287740
審判番号 無効2013-800018  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-02-01 
確定日 2014-03-03 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5093626号発明「安全靴用先芯」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 請求のとおり訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5093626号に係る経緯の概要は、以下のとおりである。

平成23年 4月25日 特許出願(特願2011-97119)

平成24年 3月12日 手続補正書

平成24年 7月 6日 手続補正書

平成24年 9月28日 本件設定登録

平成25年 2月 1日 本件無効審判請求(請求項1及び2に対して )

平成25年 4月16日 答弁書

平成25年 5月23日 口頭審理陳述要領書(請求人)

平成25年 6月10日 口頭審理陳述要領書(請求人)

平成25年 6月10日 口頭審理

平成25年 6月27日 審決の予告

平成25年 9月 2日 訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)
平成25年11月 8日 弁駁書

第2 請求人の主張
1.訂正前の本件特許についての主張
本件特許について、請求人が主張する無効理由の概要は以下の(1)ないし(4)のとおりであって、請求人は証拠方法として以下の甲第1号証ないし甲第3号証を提出している。

(1)無効理由1(特許法第29条の2)
本件特許の出願時における発明者又は出願人が同一の者でない甲第1号証に係る国際出願(PCT/JP2011/065479)は、本件特許出願前の平成22年(2010年)11月5日に出願された甲第2号証に係る出願(特願2010-248883号)を優先権の基礎とする国際特許出願である。そして、甲第1号証に係る国際出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には、特許法第41条第3項の規定により特許法第29条の2の規定については優先権主張の基礎とされた先の出願の時にされたものとみなされる甲第2号証に係る出願の願書に最初に添付されていた明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている、次の発明が記載されている。
「鋼鉄・硬質樹脂からなる先芯1において、先端壁2、左側壁3、右側壁4、上面壁5をなだらかな曲面で連続するように形成した椀状の殻体と、側壁の後端縁を後方に延長した延長側壁7を設け、延長側壁7は小指側面に至るように同一芯材(鋼)にて延長形成された先芯1。」及び「先芯1を靴先に内蔵した安全靴。」
そして、本件特許の請求項1及び2に係る発明と上記発明とを対比すると両者は完全若しくは実質的に一致する。
したがって、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

(2)無効理由2(特許法第36条第6項第1号および第2号)
(a)本件特許の請求項1に記載された「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等からなる安全靴」は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていない。また「前端先芯部と小指側には延長された先芯を設け一体形成すると共に、小指側先芯は小指側面に至るように同一芯材にて延長形成」された「安全靴」も本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていない。
したがって、本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許法第123条第1項第4号に基づき無効である。
(b)本件特許の請求項2に記載された「請求項1に記載の安全靴用先芯をつま先に装着したことを特徴とする安全靴用先芯及び安全靴。」は、安全靴用先芯を安全靴用先芯のつま先に装着したものであるが、このような発明は特許明細書に記載されていない。また、先芯の先端に先芯を設けるという構造は技術常識としてあり得ないものであり、特許請求の範囲の記載が不明確である。
したがって、本件特許の請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないから、特許法第123条第1項第4号に該当し無効である。

(3)無効理由3(特許法第36条第4項第1号)
本件特許の発明の詳細な説明の段落【0006】は「親指から小指側面部までの全てを保護する」と記載されているが、段落【0007】では親指と中指については爪先のみを覆うと記載されており両者の記載は一致しない。また、図3および図4を参酌しても、両図は一致しておらず「親指爪先」および「中指爪先」と「親指」および「中指」が同じ位置を示しているのか異なるものであるかが不明である。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載されたものではなく、本件特許は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許法第123条第1項第4号に該当し無効である。

(4)無効理由4(新規事項の追加特許法第17条の2第3項)
本件特許の請求項1に記載された「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等からなる安全靴」は本件特許の願書に最初に添付した、発明の詳細な説明、特許請求の範囲、又は図面には記載がない。
また、特許明細書の段落0007には「また、本発明に係る安全靴先芯2の形状は親指爪先側面より、中指爪先を覆い、薬指、小指上部、側面を覆う様変速カーブを描き、安全靴底3に至るものである。」と記載されている。しかしながら、当該段落0007の記載は、出願当初の明細書の「また、本発明に係る安全靴先芯2は親指側面より、中指を覆い、薬指、小指上部、側面を覆う様変速カーブを描き、安全靴底3に至るものである。」とは異なるものである。すなわち、「親指爪先側面」と「親指側面」が同一位置であるとは言えず、「中指爪先」が「中指」そのものと同一であるとは言えないものである。したがって、補正された特許明細書に記載の「変速カーブ」(「変速」の意味が不明である)の位置は、出願当初の明細書には記載がないものである。
なお、平面図である図3に示された先芯と足指の関係および側面図である図4に示された先芯と足指の関係は本来一致しているはずであるが不一致である。このため、図3および図4を参酌しても「変速カーブ」が本来「親指爪先側面」を起点として「中指爪先」を通過するものであるのか、「親指側面」を起点として「中指」を通過するものであるのかが不明なものである。
したがって、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第1号に該当し無効である。

2.証拠方法
請求人が証拠方法として提出した甲第1号証ないし甲第3号証は以下のとおりである。
・甲第1号証:国際公開第2012/060134号
・甲第2号証:特願2010-248883号の願書、明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の写し
・甲第3号証:特願2011-97119号の特許願及び当該特許願に添付された明細書、特許請求の範囲、要約書及び図面

3.本件訂正請求についての主張
請求人は、平成25年11月8日付け弁駁書において、本件訂正請求について以下のように主張している。
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等からなる安全靴において、前端部先芯と小指側には延長された先芯を設け一体形成すると共に、小指側先芯は小指側面に至るように同一芯材にて延長形成されたことを特徴とする安全靴用先芯及び安全靴」を「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等かなる安全靴用先芯において、前端部先芯と、小指側に張り出した先芯形状を特徴とし、上面は薬指、小指中足骨根本付近までを覆い、側面は上面より小指、側面覆う様アーチを描き、小指爪先から小指中足骨根本付近までを同一芯材にて、一体形成されたことを特徴とする安全靴用先芯」とする訂正は、「前端部先芯と、小指側に張り出した先芯形状を特徴とし、上面は薬指、小指中足骨根本付近までを覆い、側面は上面より小指、側面覆う様アーチを描き、小指爪先から小指中足骨根本付近までを同一芯材にて、一体形成されたことを特徴とする」が、本件特許明細書に記載がないから、特許請求の範囲の減縮には該当しないものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項但し書き第1号に該当しないものである。
(2)訂正事項3について
訂正事項3は、「そこで本発明は、落下物、側面、前面衝撃から親指から小指まで全てを保護するために従来の先芯形状に加え、薬指、小指を覆う形状を特徴とする安全靴先芯、及びそれを用いた安全靴の提供を目的とするものである。」を「そこで本発明は、落下物、側面、前面衝撃より、親指から小指まで全ての爪先及び小指においては小指爪先より小指中足骨根本付近根本までを保護するために従来の先芯形状に加え、小指側に張り出した、小指上面、側面を覆う、アーチ状の先芯を小指側に設け、同一芯材にて一体形成された事を特徴とする安全靴用先芯、及びそれを安全靴爪先に装着した安全靴の提供を目的とするものである。」とする訂正は、「小指側に張り出した、小指上面、側面を覆う、アーチ状の先芯を小指側に設け、同一芯材にて一体形成された事を特徴とする安全靴用先芯、及びそれを安全靴爪先に装着した安全靴」との記載は、なお明瞭な記載ではないから、明瞭でない記載の釈明には該当しないものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第134条の2第1項但し書き第3号に該当しないものである。
(3)以上の通り、本件訂正請求は不適法なものであるから、認められるべきものではない。

第3 被請求人の主張
平成25年4月16日付け答弁書による被請求人の答弁の趣旨は、「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とすると審決を求める。」というものであり、その理由は、無効理由1?無効理由4は、いずれもその理由がないというものである。
さらに、被請求人は、無効の理由を解消するため訂正請求を求めている。

第4 平成25年9月2日の訂正請求について
請求人は、上記「第2」3.のように、本件訂正請求について、「本件訂正請求は不適法なものであり、当該訂正された本件特許発明の内容および被請求人の主張を考慮しても無効理由が解消したとは認められないものであるから、本件特許の特許時の請求項1及び請求項2に記載された発明についての特許はいずれも無効とされるべきである。」旨、主張している。
よって、まず、本件訂正請求について検討する。

1.本件訂正請求の内容
本件訂正請求は、本件特許の特許請求の範囲、明細書及び図面を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲、訂正明細書及び図面のとおり一群の請求項ごとに訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は次のとおりである。

(1)訂正事項1
願書に添付した特許請求の範囲の請求項1に「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等からなる安全靴において、前端部先芯と小指側には延長された先芯を設け一体形成すると共に、小指側先芯は小指側面に至るように同一芯材にて延長形成されたことを特徴とする安全靴用先芯及び安全靴」とあるのを、「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等かなる安全靴用先芯において、前端部先芯と、小指側に張り出した先芯形状を特徴とし、上面は薬指、小指中足骨根本付近までを覆い、側面は上面より小指、側面覆う様アーチを描き、小指爪先から小指中足骨根本付近までを同一芯材にて、一体形成されたことを特徴とする安全靴用先芯」に訂正する。

(2)訂正事項2
願書に添付した特許請求の範囲の請求項2に「安全靴用先芯をつま先に装着したことを特徴とする安全靴用先芯及び安全靴」とあるのを、「安全靴用先芯を安全靴つま先に装着したことを特徴とする安全靴」に訂正する。

(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0005】に「そこで本発明は、落下物、側面、前面衝撃から親指から小指まで全てを保護するために従来の先芯形状に加え、薬指、小指を覆う形状を特徴とする安全靴先芯、及びそれを用いた安全靴の提供を目的とするものである。」とあるのを、「そこで本発明は、落下物、側面、前面衝撃より、親指から小指まで全ての爪先及び小指においては小指爪先より小指中足骨根本付近根本までを保護するために従来の先芯形状に加え、小指側に張り出した、小指上面、側面を覆う、アーチ状の先芯を小指側に設け、同一芯材にて一体形成された事を特徴とする安全靴用先芯、及びそれを安全靴爪先に装着した安全靴の提供を目的とするものである。」に訂正する。

(4)訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0006】を削除する。

(5)訂正事項5
願書に添付した明細書の段落【0007】に「薬指、小指上部、側面を覆う様変速カーブを描き、安全靴底3に至るものである。」とあるのを「薬指、小指上部、側面に至っては小指中足骨根本付近根本まで覆う様変速カーブを描き、安全靴底3に至るものである。」に訂正する。

(6)訂正事項6
願書に添付した図4を削除し、図7を訂正請求書に添付したとおり訂正する。

2.本件訂正請求についての判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1を、訂正前の「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等からなる安全靴」を「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等かなる安全靴用先芯」へと訂正する点及び訂正前の「安全靴用先芯及び安全靴」を「安全靴用先芯」へと訂正する点(以下、「訂正事項1-1」という。)と、訂正前の「小指には延長された先芯を設け一体形成すると共に、小指側先芯は小指側面に至るように同一芯材にて延長形成された」を「小指側に張り出した先芯形状を特徴とし、上面は薬指、小指中足骨根本付近まで覆い、側面は上面より小指、側面覆う様アーチを描き、小指爪先から小指中足骨根本付近までを同一芯材にて、一体形成された」へと訂正する点(以下、「訂正事項1-2」という。)とに分けて検討する。

a.訂正事項1-1について
請求項1全体の記載からみて「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等からなる安全靴」は、「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等かなる安全靴用先芯」の誤記であると認められる。また、願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)には「本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1、図2は、従来安全靴先芯と足指の位置関係を示す図である。従来安全靴先芯形状は親指から中指までの保護形状は有しているが、薬指、小指の上面、側面までを先芯材が保護する形状に至っていない。そこで本発明の安全靴用先芯2は、鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボンからなる、特殊な形状を特徴とすることにより、親指から中指、弱部である薬指までの爪先及び、小指全体を保護することを可能とした。」(段落【0011】)と記載されているから、本件特許明細書にも「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等からなる安全靴用先芯」が記載されている。一方「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等からなる安全靴」については記載がない。
したがって、「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等からなる安全靴」は「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等かなる安全靴用先芯」の誤記であると認められる。
同様に、請求項1末尾の「安全靴用先芯及び安全靴」も「安全靴用先芯」の誤記であると認められる。
よって、訂正事項1-1は、誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。

また、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)には、「そこで本発明は、落下物、側面、前面衝撃から親指から小指まで全てを保護するために従来の先芯形状に加え、薬指、小指を覆う形状を特徴とする安全靴先芯、及びそれを用いた安全靴の提供を目的とするものである。」(段落【0005】)、「本発明の実施形態を説明する。本発明に係る安全靴用先芯は、鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボンからなるものである。無駄に足指全ての根本全体を覆うことなく、親指から中指のつま先、弱部である薬指、小指全体を覆う形状により、安全靴の軽量化、作業者にかかる指の圧迫感、ふたんをやわらげることができる。」(段落【0011】)と記載されているから、訂正事項1-1は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

b.訂正事項1-2について
訂正事項1-2は、小指側に延長された先芯について「小指側に張り出した先芯形状を特徴とし、上面薬指、小指中足骨根本付近まで覆い、側面は上面より小指、側面覆う様アーチを描き、小指爪先から小指中足骨根本付近までを同一芯材にて、一体形成された」と形状について技術的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

また、願書に添付した図3には、小指側に延長された先芯2が、上面は薬指、小指中足骨根本付近までを覆う点が図示されている。願書に添付した図5及び図6には、小指側に延長された先芯2が、側面は上面より小指、側面覆う様アーチ部5を形成しアーチを描いている点が図示されている。さらに、本件特許明細書には、「そこで本発明は、落下物、側面、前面衝撃から親指から小指まで全てを保護するために従来の先芯形状に加え、薬指、小指を覆う形状を特徴とする安全靴先芯、及びそれを用いた安全靴の提供を目的とするものである。」(段落【0005】)、「図5及び図6は以上説明内容により制作された先芯2を示している。
従来先芯1に比べ、薬指、小指を覆うよう様に、延長形成された、先芯一体構造の形状となっている。
先芯本体2は、安全靴の甲被(不図示)内面に当接するアーチ部5と、このアーチ部5の下辺から内向きに延在し、安全靴の中底(不図示)の下側に吊り込まれる下辺折曲部4とが一体に形成されてなる。・・・」(段落【0012】)、「図3は以上のように構成された安全靴用先芯2を安全靴爪先部に内装した上面視図である。親指より中指爪先部を保護し、薬指、小指の全体を保護する様形成された、先芯一体構造の形状特徴を示した。また、小指中足骨根本付近まで張り出した、本発明先芯形状においては、作業員が安全靴装着時、指の曲げ伸ばしに支障のない長さになっている。」(段落【0013】)及び「図4は安全靴用先芯2を安全靴爪先部に内装した小指側上面視図である。小指中足骨根本付近までを保護している形状の特徴を示した。」(段落【0014】)と記載されている。
訂正事項1-2の「小指側に張り出した先芯形状を特徴とし」は、図3の図示内容及び本件特許明細書の段落【0005】の記載から、記載されているに等しい事項といえる。また、訂正事項1-2の「上面薬指、小指中足骨根本付近まで覆い」は、図3の図示内容及び本件特許明細書の段落【0013】の記載から、記載されているに等しい事項といえる。訂正事項1-2の「側面は上面より小指、側面覆う様アーチを描き、小指爪先から小指中足骨根本付近までを同一芯材にて、一体形成された」は、図5、6の図示内容、及び本件特許明細書の段落【0012】?【0014】の記載から、記載されているに等しい事項といえる。
これらの本件特許明細書における段落【0005】、段落【0012】、段落【0013】及び段落【0014】の記載と、図3?6の図示事項を併せてみれば、訂正事項1-2の「小指側に張り出した先芯形状を特徴とし、上面薬指、小指中足骨根本付近まで覆い、側面は上面より小指、側面覆う様アーチを描き、小指爪先から小指中足骨根本付近までを同一芯材にて、一体形成された」は、記載されているに等しいといえるので、訂正事項1-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

請求人は、弁駁書で、『「前端部先芯と、小指側に張り出した先芯形状を特徴とし、上面は薬指、小指中足骨根本付近までを覆い、側面は上面より小指、側面覆う様アーチを描き、小指爪先から小指中足骨根本付近までを同一芯材にて、一体形成されたことを特徴とする」については、本件特許明細書に記載がないから、特許請求の範囲の減縮には該当しないものである。』旨主張する。しかし、「前端部先芯と、小指側に張り出した先芯形状を特徴とし、上面は薬指、小指中足骨根本付近までを覆い、側面は上面より小指、側面覆う様アーチを描き、小指爪先から小指中足骨根本付近までを同一芯材にて、一体形成されたことを特徴とする」点は、本件特許明細書に直接的な記載は無いが、上記したとおり、本件特許明細書等における段落【0005】、段落【0012】、段落【0013】及び段落【0014】の記載、図3?6の図示事項を併せてみれば記載されているに等しいといえるので、訂正事項1-2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであるから、請求人の主張は採用できない。

c.上記訂正事項1-1、訂正事項2-2の検討結果から、訂正事項1は、誤記の訂正又は特許請求の範囲の減縮を目的とし、当初明細書等又は本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2を、訂正前の「つま先」を「安全靴つま先」へと訂正する点(以下、「訂正事項2-1」という。)と、訂正前の「安全靴用先芯及び安全靴」を「安全靴」へと訂正する点(以下、「訂正事項2-2」という。)とに分けて検討する。

a.訂正事項2-1について
訂正前の「つま先」を「安全靴つま先」へと訂正する点については、「つま先」が「安全靴つま先」である点を明瞭にするもので、この点の訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
この訂正事項2-1は、本件特許明細書における「本発明は建築工事、運送業、安全靴を必要とする作業現場で、作業員が足の親指から小指まで全てを安全に保護するための安全靴用先芯及びそれを用いた安全靴に関するものである。」(段落【0001】)及び「図3は以上のように構成された安全靴用先芯2を安全靴爪先部に内装した上面視図である。親指より中指爪先部を保護し、薬指、小指の全体を保護する様形成された、先芯一体構造の形状特徴を示した。また、小指中足骨根本付近まで張り出した、本発明先芯形状においては、作業員が安全靴装着時、指の曲げ伸ばしに支障のない長さになっている。」(段落【0013】)の記載に基づくものであるから、訂正事項2-1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

b.訂正事項2-2について
訂正前の「安全靴用先芯及び安全靴」を「安全靴」へと訂正する点については、安全靴用先芯を装着したものは安全靴であることは明らかであり、安全靴用先芯を装着したものが安全靴用先芯であるというのは明らかな誤記であるので、この点の訂正は、誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。
この訂正事項2-2は、当初明細書における「本発明は建築工事、運送業、安全靴を必要とする作業現場で、作業員が足の親指から小指まで全てを安全に保護するための安全靴用先芯及びそれを用いた安全靴に関するものである。」(段落【0001】)及び「図3は以上の様に構成された安全靴用先芯2を安全靴爪先部に内装した上面視図である。親指より中指爪先部を保護し、薬指、小指の全体を保護している形状の特徴を示した。
また小指中足骨根本付近までの本発明先芯形状の張り出しにおいては、作業員が安全靴装着時、本発明先芯の張り出しの影響無く、指先の曲げ伸ばしに支障のない長さになっている。」(段落【0013】)の記載に基づくものであるから、訂正事項2-2は、当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

c.上記訂正事項2-1、訂正事項2-2の検討結果から、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明又は誤記の訂正を目的とし、当初明細書等又は本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、上記訂正事項1、2に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、本件特許明細書の段落【0005】に記載された「前面衝撃から親指から小指まで全てを保護するために従来の先芯形状に加え、薬指、小指を覆う形状を特徴とする安全靴先芯、及びそれを用いた安全靴の提供を目的とするものである。」を「前面衝撃より、親指から小指まで全ての爪先及び小指においては小指爪先より小指中足骨根本付近根本までを保護するために従来の先芯形状に加え、小指側に張り出した、小指上面、側面を覆う、アーチ状の先芯を小指側に設け、同一芯材にて一体形成された事を特徴とする安全靴先芯、及びそれを安全靴爪先に装着した安全靴の提供を目的とするものである。」に訂正するものであるから、「薬指、小指を覆う形状」を具体的により明瞭にするためのもので、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
訂正事項3は、上記訂正事項1に記載された理由と同様の理由により、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
請求人は、弁駁書で、『「小指側に張り出した、小指上面、側面を覆う、アーチ状の先芯を小指側に設け、同一芯材にて一体形成された事を特徴とする安全靴用先芯、及びそれを安全靴爪先に装着した安全靴」との記載は、なお明瞭な記載ではないから、明瞭でない記載の釈明には該当しないものである。』旨主張する。しかし、「小指側に張り出した、小指上面、側面を覆う、アーチ状の先芯を小指側に設け、同一芯材にて一体形成された」ものは、従来の先芯形状に加えて設けられた小指上面、側面を覆う、同一芯材にて一体形成されたアーチ状の先芯であり、「小指側に張り出した、小指上面、側面を覆う、アーチ状の先芯を小指側に設け、同一芯材にて一体形成された事を特徴とする安全靴用先芯、及びそれを安全靴爪先に装着した安全靴」は、そのような先芯である安全靴用先芯、及びそれを安全靴爪先に装着した安全靴であることは明らかであるから、請求人の主張は採用できない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の【0006】については、段落【0005】、【0007】に記載された内容と重複し、明瞭でないため削除するもので、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
訂正事項4は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、本件特許明細書の段落【0007】に「薬指、小指上部、側面を覆う様変速カーブを描き、安全靴底3に至るものである。」とあるのを「薬指、小指上部、側面に至っては小指中足骨根本付近根本まで覆う様変速カーブを描き、安全靴底3に至るものである。」と「先芯形状の範囲」を具体的により明瞭にするために、訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
訂正事項5は、本件特許明細書等における段落【0007】、段落【0012】及び段落【0014】の記載、図3?6の図示事項に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(6)訂正事項6について
本件特許明細書等の図4について、【図面の簡単な説明】には、「【図4】本発明の安全靴先芯の形状及び足小指側位置関係を表す側面視図である。」と記載されており、図4に、安全靴先芯の本体形状2が小指を覆っていることが見てとれるが、図4が、図3と同じ足(右足)を表したものとすると、図4は反対側の側面から視た図が正しいことになる。よって、訂正事項6は、訂正前の図4を図3との視図方向の不一致による修正を行うため、図7に訂正するもので、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
訂正事項6は、本件特許明細書等における【図面の簡単な説明】の記載、図3及び図4の図示事項に基づくものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(7)一群の請求項等について
上記訂正事項1?2に係る訂正後の請求項1?2は、当該訂正事項1を含む請求項1の記載を、請求項2が引用しているものであるから、当該請求項1?2は、特許法施行規則第46条の2第2号に規定する関係を有する一群の請求項である。
そして、訂正事項3?6に係る訂正は、請求項1、2に対応した訂正であり、一群の請求項は、請求の対象となっている。

4.まとめ
したがって、上記訂正事項1?6は、特許法134条の2第1項ただし書第1号ないし第3号に規定する事項を目的とし、同条第3項及び同条第9項で準用する特許法126条第4?7項の規定に適合するので、適法な訂正と認める。

第5 本件訂正発明
上記「第4」において、本件訂正請求による訂正は適法な訂正と認められるので、本件特許の請求項1、2に係る発明は、以下のとおりのものである(以下、本件特許の請求項1、2に係る発明をまとめて「本件訂正発明」という。)。

1.本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件訂正発明1」という。)
「【請求項1】
鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等かなる安全靴用先芯において、前端部先芯と、小指側に張り出した先芯形状を特徴とし、上面は薬指、小指中足骨根本付近までを覆い、側面は上面より小指、側面覆う様アーチを描き、小指爪先から小指中足骨根本付近までを同一芯材にて、一体形成されたことを特徴とする安全靴用先芯。」

2.本件特許の請求項2に係る発明(以下、「本件訂正発明2」という。)
「【請求項2】
請求項1に記載の安全靴用先芯を安全靴つま先に装着したことを特徴とする安全靴。」

第6 無効理由2?4についての当審の判断
事案に鑑みて、最初に、無効理由2?4について判断する。
1.無効理由2(特許法第36条第6項第1号および第2号)
請求人は『本件特許の請求項1に記載された「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等からなる安全靴」は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていない。また「前端先芯部と小指側には延長された先芯を設け一体形成すると共に、小指側先芯は小指側面に至るように同一芯材にて延長形成」された「安全靴」も本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていない。
したがって、本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許法第123条第1項第4号に基づき無効である。』 及び『本件特許の請求項2に記載された「請求項1に記載の安全靴用先芯をつま先に装着したことを特徴とする安全靴用先芯及び安全靴。」は、安全靴用先芯を安全靴用先芯のつま先に装着したものであるが、このような発明は特許明細書に記載されていない。また、先芯の先端に先芯を設けるという構造は技術常識としてあり得ないものであり、特許請求の範囲の記載が不明確である。
したがって、本件特許の請求項2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないから、特許法第123条第1項第4号に該当し無効である。 』と主張している。
これらの点に関し、訂正請求の訂正事項1及び訂正事項2により、請求項1及び請求項2が訂正されており、指摘された請求項及び詳細な説明の記載不備は、解消されている。すなわち、請求項1に記載された「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等からなる安全靴」、「前端先芯部と小指側には延長された先芯を設け一体形成すると共に、小指側先芯は小指側面に至るように同一芯材にて延長形成」された「安全靴」、及び請求項2に記載された「請求項1に記載の安全靴用先芯をつま先に装着したことを特徴とする安全靴用先芯」は、訂正後の請求項1及び請求項2から削除されておいる。同様に、無効理由2に関して「審決の予告」で指摘した請求項及び詳細な説明の記載不備は、訂正により解消している。
よって、本件訂正発明の特許は、無効理由2によっては、無効とすることはできない。

2.無効理由3(特許法第36条第4項第1号)
請求人は『本件特許の発明の詳細な説明の段落【0006】は「親指から小指側面部までの全てを保護する」と記載されているが、段落【0007】では親指と中指については爪先のみを覆うと記載されており両者の記載は一致しない。また、図3および図4を参酌しても、両図は一致しておらず「親指爪先」および「中指爪先」と「親指」および「中指」が同じ位置を示しているのか異なるものであるかが不明である。
したがって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載されたものではなく、本件特許は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許法第123条第1項第4号に該当し無効である。 』 と主張している。
まず、『本件特許の発明の詳細な説明の段落【0006】は「親指から小指側面部までの全てを保護する」と記載されているが、段落【0007】では親指と中指については爪先のみを覆うと記載されており両者の記載は一致しない。』に関して、訂正事項4で、段落【0006】は削除され、また、訂正事項5により、段落【0007】に「また、本発明に係る安全靴先芯2の形状は親指爪先側面より、中指爪先を覆い、薬指、小指上部、側面を覆う様変速カーブを描き、安全靴底3に至るものである。」とあるのを「また、本発明に係る安全靴先芯2の形状は親指爪先側面より、中指爪先を覆い、薬指、小指上部、側面に至っては小指中足骨根本付近根本まで覆う様変速カーブを描き、安全靴底3に至るものである。」と訂正されているから、「親指と中指については爪先のみを覆う」及び「薬指、小指上部、側面に至っては小指中足骨根本付近根本まで覆う」点は、明確であるといえる。
また、『図3および図4を参酌しても、両図は一致しておらず「親指爪先」および「中指爪先」と「親指」および「中指」が同じ位置を示しているのか異なるものであるかが不明である。』に関して、訂正事項6で、図3に一致させるため、図4は削除されて図7に訂正されているので、図3と図4は一致しない点の記載不備は解消されている。そして、訂正事項4で、段落【0006】は削除され、また、訂正事項5により、段落【0007】は上記のように訂正されているから、安全靴先芯2の形状は親指爪先側面より、中指爪先を覆う点が明確になったので、「親指爪先」および「中指爪先」と「親指」および「中指」が同じ位置を示しているのか異なるものであるかが不明である点の記載不備は解消されている。
よって、訂正事項4?6により、無効理由3に関して指摘された明細書の詳細な発明及び図面の記載不備は、解消されているから本件訂正発明の特許は、無効理由3によっては、無効とすることはできない。

3.無効理由4(新規事項の追加特許法第17条の2第3項)
請求人は『本件特許の請求項1に記載された「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等からなる安全靴」は本件特許の願書に最初に添付した、発明の詳細な説明、特許請求の範囲、又は図面には記載がない。』及び『したがって、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第1号に該当し無効である。 』 と主張している。
しかしながら、請求項1に記載された「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等からなる安全靴」は、訂正後の請求項1及び請求項2から削除されて、「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等かなる安全靴用先芯」に訂正されており、無効理由4に関して「審決の予告」で指摘した「本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものである」点は、訂正事項1及び訂正事項2により解消している。
また、訂正された明細書の段落【0007】の「また、本発明に係る安全靴先芯2の形状は親指爪先側面より、中指爪先を覆い、薬指、小指上部、側面に至っては小指中足骨根本付近根本まで覆う様変速カーブを描き、安全靴底3に至るものである。」は、当初明細書等の段落【0007】の「また、本発明に係る安全靴先芯2は親指側面より、中指を覆い、薬指、小指上部、側面を覆う様変速カーブを描き、安全靴底3に至るものである。」の記載、段落【0013】の「図3は以上の様に構成された安全靴用先芯2を安全靴爪先部に内装した上面視図である。親指より中指爪先部を保護し、薬指、小指の全体を保護している形状の特徴を示した。
また小指中足骨根本付近までの本発明先芯形状の張り出しにおいては、作業員が安全靴装着時、本発明先芯の張り出しの影響無く、指先の曲げ伸ばしに支障のない長さになっている。」の記載及び当初明細書等の図3の「安全靴先芯2の形状は親指爪先側面より、中指爪先を覆い、薬指、小指上部、側面に至っては小指中足骨根本付近根本まで覆う様変速カーブを描いている点」の図示内容に基づいたものである。当初明細書等の段落【0007】の「親指側面」、「中指」は、当初明細書等の図3の図示内容から、それぞれ「親指爪先側面」、「中指爪先側面」を指すことは明らかであるから、訂正された明細書の段落【0007】は、当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである。

よって、本件訂正発明の特許は、無効理由4によっては、無効とすることはできない。

第7 無効理由1(特許法第29条の2)についての当審の判断
請求人の主張する無効理由1(特許法第29条の2)について、判断する。
1.甲第1号証の発明
本件特許出願前の平成22年(2010年)11月5日に出願された甲第2号証に係る出願(特願2010-248883号)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面、及び、当該出願を優先権の基礎として出願した国際出願に係るPCT/JP2011/065479号の国際公開公報である甲第1号証には、以下の事項が記載されている。(甲第1号証の記載とともに、対応する甲第2号証の記載を並記した。)
a.「本発明は、先芯および先芯内蔵靴に関するものである。」(段落【0001】)
a’.「本発明は、先芯および先芯内蔵靴に関するものである。」(甲第2号証段落【0001】)

b.「従来より、つま先部分に硬質の先芯を内蔵した安全靴が知られている。・・・先芯の素材は鋼、樹脂製様々であるが、その形状は特許文献1、2、3等に図示されているように、主として親指の付け根付近から先の部分を覆う椀状(アーチ状あるいはドーム状と表現する場合もある)の殼体を有するものであり、底面に外周端を内側に折り曲げたスカートを有するとともに、後方に足入れ部となる開口を有したものである。」(段落【0002】)
b’.「従来より、つま先部分に硬質の先芯を内蔵した安全靴が知られている。先芯の素材は鋼製、樹脂製様々であるが、その形状は特許文献1、2、3等に図示されているように、主として親指の付け根付近から先の部分を覆う椀状(アーチ状あるいはドーム状と表現する場合もある)の殻体を有するものであり、底面に外周端を内側に折り曲げたスカートを有するとともに、後方に足入れ部となる開口を有したものである。」(甲第2号証段落【0002】)

c.「上記安全靴は、建設現場等において重量物の落下等から足先を保護することを主な目的として先芯を内蔵しているものである。しかし、安全靴は建設現場だけではなく、運送会社の配送センターのように、台車によって大量の荷物を人間が押して搬送するような作業現場でも用いられている。そして、台車を扱う作業現場で起こりやすいのは、台車の車輪による足先の踏みつけである。台車には、耐荷重300kgを超える直径20cm以上の車輪を有する大きなものもよく用いられている。この台車の車輪が、作業者の足の横方向から乗り上げるように衝突すると、図4に示すように特に先芯に覆われていない小指側の側面に台車の車輪がぶつかることがあり怪我をしてしまう場合があった。」(段落【0005】)
c’.「上記安全靴は、建設現場等において重量物の落下等から足先を保護することを主な目的として先芯を内蔵しているものである。しかし、安全靴は建設現場だけではなく、運送会社の配送センターのように、台車によって大量の荷物を人間が押して搬送するような作業現場でも用いられている。そして、台車を扱う作業現場で起こりやすいのは、台車の車輪による足先の踏みつけである。台車には、耐荷重300kgを超える直径20cm以上の車輪を有する大きなものもよく用いられている。この台車の車輪が、作業者の足の横方向から乗り上げるように衝突すると、特に先芯に覆われていない小指側の側面に台車の車輪がぶつかることがあり怪我をしてしまう場合があった。」(甲第2号証段落【0004】)

d.「上記の場合、先芯を小指までを覆う大きな形状にすると小指の怪我を防止することができる。しかし、従来型の先芯の形状のまま小指を含めた足先全てを覆うようにすると、足の入り口である先芯の後部開口縁が足の屈曲運動時に足甲部に接触して、歩行動作を阻害してしまう。・・・本願発明は上記問題に鑑み発明されたものであって、従来と同様の足先保護機能に加え、移動中の台車の車輪が衝突するような側方からの荷重や衝撃から足指を保護するとともに、歩行等の足の運動や足先の屈曲動作を妨げることのない先芯および当該先芯を内蔵した靴に関する種々の構造を提供することを課題とするものである。」(段落【0006】)
d’.「上記の場合、先芯を小指までを覆う大きな形状にすると小指の怪我を防止することができる。しかし、従来型の先芯の形状のまま小指を含めた足先全てを覆うようにすると、足の入り口である先芯の後部開口縁が足の屈曲運動時に足甲部に接触して、歩行動作を阻害してしまう。
本願発明は上記問題に鑑み発明されたものであって、台車の車輪のように側方から衝突する物体から足指を保護するとともに、歩行等の足の運動を妨げない先芯および当該先芯を内蔵した靴の構造を提供することを課題とするものである。」(甲第2号証段落【0005】)

e.「上記課題を解決するために本願発明は以下の構成を有する。すなわち本願発明は、靴先に内蔵した状態で足先を覆う先芯であって、先端壁、左右の側壁、上面壁をなだらかな曲面で連続するように形成した椀状の殻体を有するとともに、少なくとも一方の側壁に、当該側壁の後端縁を後方に延長した延長側壁を設けたことを特徴とするものである。」(段落【0007】)
e’.「上記課題を解決するために本願発明は以下の構成を有する。
靴先に内蔵した状態で足先を覆う先芯であって、
先端壁、左右の側壁、上面壁をなだらかな曲面で連続するように形成した椀状の殻体を有するとともに、
少なくとも一方の側壁に、当該側壁の後端縁を後方に延長した延長側壁を設けたことを特徴とする先芯。」(甲第2号証段落【0006】)

f.「また、上記課題を解決するために本願発明は以下の構成を有する。すなわち本願発明は、足先を覆う先芯を靴先に内蔵した靴であって、前記先芯が、先端壁、左右の側壁、上面壁をなだらかな曲面で連続するように形成した椀状の競体を有するとともに、少なくとも一方の側壁に、当該側壁の後端縁を後方に延長した延長側壁を設けた先芯であることを特徴とするものである。」(段落【0008】)
f’.「また、上記課題を解決するために、本願発明は以下の構成を有する。
足先を覆う先芯を靴先に内蔵した靴であって、
前記先芯が、先端壁、左右の側壁、上面壁をなだらかな曲面で連続するように形成した椀状の殻体を有するとともに、
少なくとも一方の側壁に、当該側壁の後端縁を後方に延長した延長側壁を設けた先芯であることを特徴とする先芯内蔵靴。」(甲第2号証段落【0007】)

g.「本発明に係る延長側壁を設けた先芯および当該先芯を内蔵した靴は、従来の先芯入り作業靴では保護が十分ではない足先の外側(小指)方向からの衝撃を受けた場合にも、足先を十分に保護することができるという効果を有している。・・・」(段落【0017】)
g’.「本発明に係る延長側壁を設けた先芯および当該先芯を内蔵した靴は、通常の先芯入り作業靴では保護が十分ではない足先の外側(小指)方向からの衝撃を受けた場合にも、足先を十分に保護することができるという効果を有している。」(甲第2号証段落【0008】)

h.「以下、本発明を実施するための形態について説明する。図1(a)は本発明に係る先芯の一実施の形態を表した斜視図であり、一例として鋼鉄で形成された鋼製先芯として形成された先芯1を表したものである。
図示した先芯1は右足用として形成されたものであり、左足用の先芯は当該図示した先芯と左右対称の形状に形成されるものとなっている。先芯1は、先端壁2、左側壁3、右側壁4、上面壁5をなだらかな曲面で連続するように形成した椀状(ドーム状)の殻体として形成されたものである。当該殻体の肉厚は概ね1?2mmであり、当該殼体の内部には、足先を収容する収容空間が設けられている。」(段落【0019】)
h’.「以下、本発明を実施するための形態について説明する。図1(a)において、1は本発明に係る先芯の一実施の形態を表した斜視図であり、一例として鋼鉄で形成された鋼製先芯として形成されたものである。また、図示した先芯1は右足用として形成されたものであり、左足用の先芯は当該図示した先芯と左右対称の形状に形成されるものとなっている。
先芯1は、先端壁2、左側壁3、右側壁4、上面壁5をなだらかな曲面で連続するように形成した椀状の殻体として形成されたものである。当該殻体の肉厚は概ね1?2mmであり、当該殻体の内部には、足先を収容する収容空間が設けられている。」(甲第2号証段落【0010】)

i.「先端壁2、左側(内側)壁3および右側(外側)壁4の下端には、内側に向かって折り曲げた所定幅の折り曲げ部6が設けられている。当該折り曲げ部6は、一般的にスカートと称されている部位であり、強度の向上と、靴底に対する先芯1の沈み込みを軽減するために設けられているものである。
本発明に係る先芯1は、上記構造に加え少なくとも一方の側壁に、当該側壁の後端 縁17を前記上面壁5の中央位置における後端縁9よりも後方に延長した延長側壁7を設けたことを特徴とする。最適な具体例としては、外側に面した小指側の側壁である右側壁4に延長側壁7を設けている。」(段落【0021】)
i’.「先端壁2、左側壁3および右側壁4の下端には、内側に向かって折り曲げた所定幅の折り曲げ部6が設けられている。当該折り曲げ部6は、一般的にスカートと称されている部位であり、強度の向上と、靴底に対する先芯1の沈み込みを軽減するために設けられているものである。
本発明に係る先芯1は、上記構造に加え少なくとも一方の側壁に、当該側壁の後端縁を後方に延長した延長側壁を設けたことを特徴とする。最適な具体例としては、外側に面した小指側の側壁である右側壁4に延長側壁7を設けている。」(甲第2号証段落【0011】)

j.「図4に示した従来型の通常の先芯は、拇指球と親指先端の略中間位置に足先を入れる前記後端縁9によって形成される開口が設けられている。当該開口は靴の長手方向に対してほぼ直角を成すとともに靴底面に対して直角若しくはやや前傾した平面上に設けられている。そして、当該従来型の先芯を設けた靴では、図4に示すように先芯100によって覆うことができるのは親指を中心とした部位であり、親指よりも後退した位置にある小指Lは先芯からはみ出てしまっていた。そのため、当該従来の先芯100であっても、台車の車輪のように幅の細いものが横方向から追突するような場合には、先芯に覆われていない小指L部分に車輪が当たることがあり、足先を十分に保護できない場合があった。」(段落【0022】)
j’.「従来型の通常の先芯は、拇指球と親指先端の略中間位置に足先を入れる開口(即ち先芯の後端縁)が設けられており、当該開口は靴の長手方向および靴底面に対してほぼ直角を成す平面上に設けられている。そして、当該従来型の先芯を設けた靴では、図4に示すように先芯100によって覆うことができるのは親指を中心とした先端部のみであり、親指の先端から後退した位置にある小指Lは先芯からはみ出てしまっていた。
しかし、小指L部分に対する局部的な落下物がある場合を除き、通常の落下物は概ね先芯100で受け止めることができるので、実質的に小指Lも保護することができていた。しかし、当該従来の先芯100であっても、台車の車輪のように幅の細いものが横方向から追突するするような場合には、先芯に覆われていない小指L部分に車輪が当たることがあり、足先を十分に保護できない場合があった。」(甲第2号証段落【0012】)

k.「図2(a)は、靴を履いた状態の足先と先芯1の関係を表した説明図である。足先の形は個人差があるものの、小指Lは概ね親指Tに対して後退した位置にある。本発明に係る先芯1には、前述したように側方に延長側壁7を設けている。延長側壁7は、長さおよび高さともに小指Lを側方から十分に覆うことができる大きさの略方形状の突出片である。図2(a)に示した延長側壁7は、小指Lの上部がほぼ開放され、小指Lの下部にはスカートである折り曲げ部6が無いものとして形成されている。
先芯1の前記延長側壁7を除いた後端縁9で形成される足入れ部開口は、従来の先芯と同様に栂指球と親指先端の略中間位置であって、かつ、靴の長手方向に対してほぼ直角を成すとともに靴底面に対して直角若しくはやや前傾した平面上に設けられている。」(段落【0023】)
k’.「図2(a)は、靴を履いた状態の足先と先芯1の関係を表した説明図である。足先の形は個人差があるものの、小指Lは概ね親指Tに対して後退した位置にある。本発明に係る先芯1には、前述したように側方に延長側壁7を設けている。延長側壁7は、長さおよび高さともに小指Lを側方から十分に覆うことができる大きさの略方形状の突出片である。図2(a)に示した延長側壁7は、小指Tの上部がほぼ開放され、小指Tの下部にはスカートである折り曲げ部6が無いものとして形成されている。
先芯1の足入れ部開口を形成する後端縁9の延長側壁7を設けていない部位は、従来の先芯と同様に拇指球と親指先端の略中間位置であって、靴の長手方向および靴底面に対してほぼ直角若しくは僅かに傾斜した平面上に設けられている。」(甲第2号証段落【0013】)

l.「なお、図1(b)、図2(b)に示すように、延長側壁7の上端と上面壁5に亘る小指Lの上部に、当該小指Lの上部を覆う湾曲した略三角形状の上部小壁(延長上壁)8を設けても良い。さらに、小指Lの下部にスカートを延長した折り曲げ部6を設けてもよい。この上部小壁8および延長した折り曲げ部6は、足指の屈曲に伴う履き心地、歩行や作業時に求められる靴底および甲皮の柔軟性を考慮して、その形状や大きさが決定されるものである。
また、図1における延長側壁7を、先芯1とは異なる別部材として形成しても良い。例えば、図5のように側壁16を用意し、これを先芯1の右側壁4の一部(外面4a、または後端4b、または内面4c)に固着するといった構成が挙げられる。この固着の方法としては、接着剤による固着、溶接による固着、右側壁4と側壁16にそれぞれ係合部と被係合部を設けることによる固着(例えば凹部と凸部との嵌合によるもの)、さらには右側壁4と側壁16とに貫通孔を設けてネジ止めするといった固着方法などが挙げられる。」(段落【0024】)
l’.「なお、図1(b)、図2(b)に示すように、延長側壁7の上端と上面壁5に亘る小指Tの上部に、当該小指Tの上部を覆う湾曲した略三角形状の上部小壁8を設けても良い。さらに、小指Tの下部にスカートを延長した折り曲げ部6を設けてもよい。
この上部小壁8およびを延長した折り曲げ部6は、足指の屈曲に伴う履き心地、歩行や作業時に求められる靴底および甲皮の柔軟性を考慮して、その形状や大きさが決定されるものである。
また、図1における延長側壁7を、先芯1とは別部材として形成しても良い。例えば、図5のように側壁16を用意し、これを先芯1の右側壁4の一部(外面4a、または後端4b、または内面4c)に固着するといった構成が挙げられる。この固着の方法としては、接着材による固着、溶接による固着、右側壁4と側壁16とにそれぞれ係合部と被係合部による固着(例えば凹部と凸部との嵌合によるもの)、さらには右側壁4と側壁16とに貫通孔を設けてネジ止めするといった固着などが挙げられる。」(甲第2号証段落【0014】)

m.「図3は、延長側壁7を設けた側部付近の靴先の断面図と、直径20cmの耐荷重300kgの車輪Sとの関係を表した説明図である。同図に示した靴は、甲被10、先芯1、先裏布11、中敷き(インソール)12、中底13、ミッドソール15、アウトソール14等によって構成されている。
通常、台車の車輪Sは、荷台下の四隅に設けられている。このため、台車が足にぶつかる場合に車輪Sと衝突するのは概ね靴先である。足首に近い部位は荷台の縁が車輪よりも先に接触する場合が多く車輪とは接触しにくいが、足先は荷台の下に入り込む場合があるからである。また、足先の中でも特に車輪Sとの接触が多いのは、足の外側である。すなわち、足先の小指側が最も車輪Sと接触する可能性が高いのである。」(段落【0025】)
m’.「図3は、延長側壁7を設けた側部付近の靴先の断面図と、直径20cmの耐荷重300kgの車輪Sとの関係を表した説明図である。同図に示した靴は、甲被10、先芯1、先裏布11、中敷き(インソール)12、中底13、ミッドソール15、アウトソール14等によって構成されている。
通常、台車の車輪Sは、荷台の下(四隅)に設けられているので、台車が足にぶつかる場合であっても車輪Sと衝突するのは靴先が多い。足首に近い部位は車輪よりも荷台の縁が先に接触する場合が多く車輪と接触しにくいが、足先は荷台の下に入り込む場合があるからである。また、足先でも特に車輪Sとの接触が多いのは、足の外側である。すなわち、足先の小指側が最も車輪Sと接触する可能性が高いのである。」(甲第2号証段落【0015】)

n.「車輪Sと靴先の関係は図3に示した通りであり、延長側壁7が小指Lと車輪Sとの直接的な接触を阻害することがわかる。
重量のある荷物を搭載した手押し台車の場合、車輪Sが延長側壁7を乗り越えて小指Lの上部まで乗り上げることは少ない。通常、台車の操作は人間が行うので、台車に重量物が搭載されている場合にはスピードが遅く、台車を上昇させつつ車輪が靴先に乗り上げるほどの勢いがないからである。車輪が靴先にぶつかると、靴先がくさびのように車輪と床面の間に挟まれ、車輪止めのように台車を停止させる状態になる。また、搭載した荷物の重量が軽く台車のスピードが速い場合には、車輪が靴先に乗り上げるケースも想定されるが、この場合には上方から小指Lに作用する荷重は比較的小さいので怪我をするケースは少ない。また側方からの衝撃は先芯1(延長側壁7)によって遮断される。以上の通り、上記いずれの場合であっても足先に生じる怪我を防止あるいは軽減することができるようになっている。」(段落【0026】)
n’.「車輪Sと靴先の関係は図3に示した通りであり、延長側壁7が小指Lと車輪Sとの直接的な接触を阻害するようになっていることがわかる。
なお、車輪Sが延長側壁7を乗り越えて小指Lの上部まで乗り上げることは少ない。通常、台車の操作は人間が行うので、台車に重量物が搭載されている場合にはスピードは遅く、台車を上昇させつつ車輪が靴先に乗り上げるほどの勢いがないからである。
また、搭載した荷物の重量が軽く台車のスピードが速い場合には、車輪が靴先に乗り上げるケースも有りうるが、この場合には上方から小指Lに作用する荷重は比較的小さいので怪我をするケースは少なく、また側方からの衝撃は先芯1(延長側壁7)によって遮断される。以上の通り、上記いずれの場合であっても足先に生じる怪我を防止あるいは軽減することができるようになっている。」(甲第2号証段落【0016】)

o.「以上説明した本発明に係る延長側壁を設けた先芯および当該先芯を内蔵した靴は、通常の先芯入り作業靴では保護が十分ではない足先の外側(特に小指側)方向からの衝撃を受けた場合であっても、足先を十分に保護できるものである。
一方、足先の保護に重点を置くのであれば、全ての指と足甲部までを覆う大きな先芯を用いればよい。しかし、これではつま先の屈曲ができず、作業や歩行に支障が生じることになる。このような、作業や歩行に支障が生じることがなく、かつ、足指の全てを含む足先全体を実質的に保護することができる延長側壁および当該延長側壁と同様の作用効果を奏する手段を設けた先芯(先芯を内蔵した靴)が本願発明の要旨である。したがって、本願発明に係る手段と実質的に等しい作用・効果を奏する手段である場合には、その形状が上記実施の形態において説明した形状と相違するものであっても、実質的に本発明の技術的範囲に属するものである。
なお、用途に応じて、内側(親指側)を保護するように、延長側壁7と同様の側壁を内側(親指側)に設けたものも、本発明の技術的範囲に属するものである。また、先芯を構成する素材は鋼材に限らず、ポリカーボネイトその他の合成樹脂を用途に応じて使用してもよいものである。」(段落【0029】)
o’.「以上説明した本発明に係る延長側壁を設けた先芯および当該先芯を内蔵した靴は、通常の先芯入り作業靴では保護が十分ではない足先の外側(小指)方向からの衝撃を受けた場合にも、足先を十分に保護することができるようになっているものである。
足先の保護に重点を置くので有れば、足指の付け根を含む全ての部分を覆うことができる大きな先芯によって靴先全体を覆えばよい。しかし、これではつま先の屈曲ができず、作業や歩行に支障が生じることになる。このような、作業や歩行に支障が生じることがなく、かつ、足指の全てを含む足先全体を実質的に保護することができる延長側壁および当該延長側壁と同様の作用効果を奏する手段を有することが本願発明の要旨である。したがって、本願発明に係る手段と実質的に等しい作用・効果を奏する手段である場合には、その形状が上記実施の形態において説明した形状と相違するものであっても、実質的に本発明の技術的範囲に属するものである。
なお、用途に応じて、内側(親指側)を保護するように、延長側壁7と同様の側壁を内側(親指側)に設けたものも、本発明の技術的範囲に属するものである。また、先芯を構成する素材は鋼材に限らず、ポリカーボネイトその他の合成樹脂を用途に応じて使用してもよいものである。」(甲第2号証段落【0017】)

p.甲第2号証の図1(a),(b)及び図2(a),(b)の図示内容は、甲第1号証の図1(a),(b)及び図2(a),(b)の図示内容と相違しない。
q.上記b(b’)の「・・・先芯の素材は鋼、樹脂製様々であるが、・・・」の記載及び上記o(o’)の「・・・また、先芯を構成する素材は鋼材に限らず、ポリカーボネイトその他の合成樹脂を用途に応じて使用してもよいものである。」の記載より、先心1は鋼鉄・合成樹脂で形成されているといえる。
r.上記h(h’)の「・・・図1(a)は本発明に係る先芯の一実施の形態を表した斜視図であり、一例として鋼鉄で形成された鋼製先芯として形成された先芯1を表したものである
図示した先芯1は右足用として形成されたものであり、左足用の先芯は当該図示した先芯と左右対称の形状に形成されるものとなっている。先芯1は、先端壁2、左側壁3、右側壁4、上面壁5をなだらかな曲面で連続するように形成した椀状(ドーム状)の殻体として形成されたものである。・・・」の記載、上記i(i’)の「・・・本発明に係る先芯1は、上記構造に加え少なくとも一方の側壁に、当該側壁の後端縁17を前記上面壁5の中央位置における後端縁9よりも後方に延長した延長側壁7を設けたことを特徴とする。最適な具体例としては、外側に面した小指側の側壁である右側壁4に延長側壁7を設けている。」の記載、上記k(k’)、上記l(l’)の「なお、図1(b)、図2(b)に示すように、延長側壁7の上端と上面壁5に亘る小指Lの上部に、当該小指Lの上部を覆う湾曲した略三角形状の上部小壁(延長上壁)8を設けても良い。・・・」の記載、図1及び図2(甲第1号証、甲第2号証共通)の図示内容より、前端先端壁2、左側壁3、右側壁4、上面壁5をなだらかな曲面で連続するように形成した椀状の殻体と小指側には延長された延長側壁7を設け一体形成すると共に、延長側壁7に上部に設けられた延長上壁8は薬指、小指Lの上部を覆い、延長側壁7は延長上壁8より小指側面に至るようにアーチを描き、小指爪先から小指つけ根付近まで同一芯材にて延長形成されているといえる。

これら甲第1号証及び甲第2号証の記載からして、甲第1号証に係る出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明であって、甲第2号証に係る出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に共通して記載されている発明として、以下の発明を認めることができる。
「鋼鉄・合成樹脂で形成された先芯1において、前端先端壁2、左側壁3、右側壁4、上面壁5をなだらかな曲面で連続するように形成した椀状の殻体と小指側には延長された延長側壁7を設け、一体形成すると共に、延長側壁7に上部に設けられた延長上壁8は薬指、小指Lの上部を覆い、延長側壁7は延長上壁8より小指側面に至るようにアーチを描き、小指爪先から小指つけ根付近まで同一芯材にて延長形成された先芯1。 」(以下「甲第1号証発明1」という。)
及び
「鋼鉄・合成樹脂で形成された先芯1において、前端先端壁2、左側壁3、右側壁4、上面壁5をなだらかな曲面で連続するように形成した椀状の殻体と小指側には延長された延長側壁7を設け一体形成すると共に、延長側壁7に上部に設けられた延長上壁8は薬指、小指Lの上部を覆い、延長側壁7は延長上壁8より小指側面に至るようにアーチを描き、小指爪先から小指つけ根付近まで同一芯材にて延長形成された先芯1を靴先に内蔵した安全靴。」(以下「甲第1号証発明2」という。) である。

2.対比・判断
上記本件訂正発明1と甲第1号証発明1とを対比すると、後者の「鋼鉄・合成樹脂で形成された先芯1」、「前端先端壁2、左側壁3、右側壁4、上面壁5をなだらかな曲面で連続するように形成した椀状の殻体」、「小指側には延長された延長側壁7」及び「先芯1」が、前者の「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等かなる安全靴用先芯」、「前端先芯」、「小指側に張り出した先芯形状」及び「安全靴用先芯」に相当する。
甲第1号証発明1の「延長側壁7に上部に設けられた延長上壁8は薬指、小指Lの上部を覆い」と本件訂正発明1の「上面は薬指、小指中足骨根本付近までを覆い」とは、「上面は薬指、小指の上部を覆い」の点で共通する。
甲第1号証発明1の「延長側壁7は延長上壁8より小指側面に至るようにアーチを描き、小指爪先から小指つけ根付近まで同一芯材にて延長形成され」と本件訂正発明1の「側面は上面より小指、側面覆う様アーチを描き、小指爪先から小指中足骨根本付近までを同一芯材にて、一体形成され」とは、「側面は上面より小指、側面覆う様アーチを描き、同一芯材にて、一体形成され」の点で共通する。

よって、上記本件訂正発明1と甲第1号証発明1とは、
「鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等かなる安全靴用先芯において、前端部先芯と、小指側に張り出した先芯形状を特徴とし、上面は薬指、小指の上部を覆い、側面は上面より小指、側面覆う様アーチを描き、同一芯材にて、一体形成されたことを特徴とする安全靴用先芯。」点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1
先芯の上面は薬指、小指の上部を覆う構成について、本件訂正発明1においては上面は薬指、小指中足骨根本付近までを覆うのに対して、甲第1号証発明1において延長上壁8は小指Lの上部を覆う点で相違する。

相違点2
本件訂正発明1において、側面は小指爪先から小指中足骨根本付近まで形成されているのに対して、甲第1号証発明1において、延長側壁7は小指爪先から小指つけ根付近まで形成されているが、小指中足骨根本付近まで形成されているのかどうか不明である点で相違する。

相違点1を検討するに、甲第1号証(甲第2号証)には、例えば、段落【0024】(段落【0014】)の「なお、図1(b)、図2(b)に示すように、延長側壁7の上端と上面壁5に亘る小指Lの上部に、当該小指Lの上部を覆う湾曲した略三角形状の上部小壁(延長上壁)8を設けても良い。・・・」の記載、図1(b)及び図2(b)の図示内容を参照するに、延長上壁8が薬指、小指の上部を覆う点が記載されているとしても、延長上壁8が小指中足骨根本付近までを覆う点の記載はなく、しかも上記相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項が本件出願前に周知であったともいえない。
また、相違点1が課題解決のための設計上の微差であるともいえない。

よって、相違点2を検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲第1号証発明1と同一若しくは実質的に同一であるといえない。

また、本件訂正発明2は、上記本件訂正発明1を引用するものであり、甲第1号証発明2は、上記甲第1号証発明1を実質的に引用するものであり、同様の相違点があることにより、本件訂正発明2は、甲第1号証発明2と同一であるとはいえない。
したがって、本件訂正発明1及び本件訂正発明2は、甲第1号証に記載された発明ではなく、特許法第29条の2の規定に該当せず、本件訂正発明に係る特許を、無効理由4によって、無効とすることはできない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由及び証拠方法によっては、本件訂正発明に係る特許を無効とすることはできない。
また、他に本件訂正発明に係る特許を無効とすべき理由を発見しない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
安全靴用先芯
【技術分野】
【0001】
本発明は建築工事、運送業、安全靴を必要とする作業現場で、作業員が足の親指から小指まで全てを安全に保護するための安全靴用先芯及びそれを用いた安全靴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、安全靴における先芯は、着用者のつま先を重量物落下から保護する為に覆う鋼板・硬質樹脂等の先芯を埋設した安全靴が一般的に用いられている。
【0003】しかし、先芯形状が親指から人差し指までの落下物及び前面衝撃からの保護はすぐれているが、薬指、小指の上部、側面部の保護には弱いと言う問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-089723
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、落下物、側面、前面衝撃より、親指から小指まで全ての爪先及び小指においては小指爪先より小指中足骨根本付近根本までを保護するために従来の先芯形状に加え、小指側に張り出した、小指上面、側面を覆う、アーチ状の先芯を小指側に設け、同一芯材にて一体形成された事を特徴とする安全靴用先芯、及びそれを安全靴爪先に装着した安全靴の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】削除
【0007】また、本発明に係る安全靴先芯2の形状は親指爪先側面より、中指爪先を覆い、薬指、小指上部、側面に至っては小指中足骨根本付近根本まで覆う様変速カーブを描き、安全靴底3に至るものである。
【0008】前記形状理由として、足指全体を覆うことなく指先、弱部を覆う形状にする事により、安全靴の軽量化、作業員の安全靴使用時の指先の圧迫感、使用感の軽減を図るためである。
【発明の効果】
【0009】以上説明したように、本発明の安全靴先芯は親指から小指までを保護する形状は、従来先芯形状と本発明の小指側に延長された部分とを一体構造とすることにより、延長された部分の強度の増大が可能となり、且つ、形状の特性から、屈曲性を保ち、円滑な歩行及び作業を可能とし、また、安全靴の軽量化、作業者にかかるふたんをやわらげることができる安全靴先芯及びこれを用いた安全靴を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】従来安全靴先芯の形状及び足指位置関係を表す上面視図である。
【図2】従来安全靴先芯の形状及び足指位置関係を表す側面視図である。
【図3】本発明の安全靴先芯の形状及び足指位置関係を表す上面視図である。
【図4】本発明の安全靴先芯の形状及び足小指側位置関係を表す側面視図である。
【図5】本発明の安全靴先芯の上斜面視図である。
【図6】図5の安全靴先芯の底斜面視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1、図2は、従来安全靴先芯と足指の位置関係を示す図である。従来安全靴先芯形状は親指から中指までの保護形状は有しているが、薬指、小指の上面、側面までを先芯材が保護する形状に至っていない。そこで本発明の安全靴用先芯2は、鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボンからなる、特殊な形状を特徴とすることにより、親指から中指、弱部である薬指までの爪先及び、小指全体を保護することを可能とした。
【実施例1】
【0012】
図5及び図6は以上説明内容により制作された先芯2を示している。
従来先芯1に比べ、薬指、小指を覆うよう様に、延長形成された、先芯一体構造の形状となっている。
先芯本体2は、安全靴の甲被(不図示)内面に当接するアーチ部5と、このアーチ部5の下辺から内向きに延在し、安全靴の中底(不図示)の下側に吊り込まれる下辺折曲部4とが一体に形成されてなる。
先芯本体2の板厚は1.2mmである。
【0013】
図3は以上のように構成された安全靴用先芯2を安全靴爪先部に内装した上面視図である。親指より中指爪先部を保護し、薬指、小指の全体を保護する様形成された、先芯一体構造の形状特徴を示した。また、小指中足骨根本付近まで張り出した、本発明先芯形状においては、作業員が安全靴装着時、指の曲げ伸ばしに支障のない長さになっている。
【0014】
図4は安全靴用先芯2を安全靴爪先部に内装した小指側上面視図である。小指中足骨根本付近までを保護している形状の特徴を示した。
【符号の説明】
【0015】
1 従来の安全靴先芯の本体形状
2 本発明の安全靴先芯の本体形状
3 安全靴底
4 下辺折り曲げ部
5 アーチ部
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板・硬質樹脂・アルミ・軽量鋼材・特殊カーボン等かなる安全靴用先芯において、前端部先芯と、小指側に張り出した先芯形状を特徴とし、上面は薬指、小指中足骨根本付近までを覆い、側面は上面より小指、側面覆う様アーチを描き、小指爪先から小指中足骨根本付近までを同一芯材にて、一体形成されたことを特徴とする安全靴用先芯。
【請求項2】
請求項1に記載の安全靴用先芯を安全靴つま先に装着したことを特徴とする安全靴。
【図面】







 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2013-12-25 
結審通知日 2014-01-07 
審決日 2014-01-28 
出願番号 特願2011-97119(P2011-97119)
審決分類 P 1 113・ 161- YAA (A43B)
P 1 113・ 536- YAA (A43B)
P 1 113・ 537- YAA (A43B)
P 1 113・ 561- YAA (A43B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 裕之  
特許庁審判長 本郷 徹
特許庁審判官 蓮井 雅之
高木 彰
登録日 2012-09-28 
登録番号 特許第5093626号(P5093626)
発明の名称 安全靴用先芯  
代理人 高田 修治  

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