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審決分類 審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  H04B
審判 全部無効 2項進歩性  H04B
審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  H04B
審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H04B
管理番号 1287767
審判番号 無効2012-800198  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-11-30 
確定日 2014-04-30 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3479124号発明「CATV用光受信機のAGC方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 請求のとおり訂正を認める。 特許第3479124号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成 6年 8月12日:出願(特願平6-212059号)
平成15年10月 3日:特許権の設定登録(特許第3479124号)
平成21年 9月29日:訂正審判請求(訂正2009-390115号)
平成21年12月 9日:審決(訂正認容)
平成24年11月30日:本件無効審判請求
平成25年 2月18日:答弁書提出(被請求人)
平成25年 3月12日:上申書提出(請求人)
平成25年 3月13日:審理事項通知書
平成25年 4月25日:口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成25年 4月25日:口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成25年 5月16日:上申書提出(被請求人)
平成25年 5月16日:口頭審理
平成25年 6月 5日:上申書提出(請求人)
平成25年 6月 5日:上申書提出(被請求人)
平成25年 6月25日:審決の予告
平成25年 7月23日:上申書提出(請求人)
平成25年 8月27日:訂正請求


第2 訂正請求
平成25年8月27日付け訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求の趣旨、及び、訂正の内容は、本件訂正の訂正請求書の記載によれば、以下の1及び2のとおりのものである

1.訂正の請求の趣旨
特許第3479124号の明細書を本訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求める。

2.訂正の内容
[訂正事項1]
特許請求の範囲の請求項1に、
「パイロット信号を含まない光信号をCATV用光受信機に設けられた受光素子(1)で受光して光/電気変換し、変換された電気信号を受光素子(1)に設けられたモニタ端子(3)から取出し、モニタ端子(3)から取出されたモニタ信号を制御回路(12)に入力し、この制御回路(12)から前記光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生し、可変減衰器において、前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で、前記受光素子(1)で光信号から電気信号に変換されそしてRFアンプで増幅された後に前記可変減衰器を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたことを特徴とするCATV受信機のAGC方法。」
とあるのを、
「同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVシステムにおいて、パイロット信号を含まない光信号をCATV用光受信機に設けられた受光素子(1)で受光して光/電気変換し、変換された電気信号を受光素子(1)に設けられたモニタ端子(3)から取出し、モニタ端子(3)から取出されたモニタ信号を制御回路(12)に入力し、この制御回路(12)から前記光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生し、可変減衰器において、前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で、前記受光素子(1)で光信号から電気信号に変換されそしてRFアンプで増幅された後に前記可変減衰器を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたことを特徴とするCATV受信機のAGC方法。」
と訂正する(下線は、被請求人が付加した。)。

[訂正事項2]
明細書段落【0006】(本件特許公報2頁3欄29?38行)に、
「本発明のCATV用光受信機のAGC方法は図1に示すように、パイロット信号を含まない光信号をCATV用光受信機に設けられた受光素子1で受光して光/電気変換し、変換された電気信号を受光素子1に設けられたモニタ端子3から取出し、モニタ端子3から取出されたモニタ信号を制御回路12に入力し、この制御回路12から前記光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生し、このAGC電圧で、前記受光素子1で光信号から電気信号に変換された信号にAGCをかけるようにしたことを特徴とするものである。」
とあるのを、
「本発明のCATV用光受信機のAGC方法は、同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVシステムにおいて、図1に示すように、パイロット信号を含まない光信号をCATV用光受信機に設けられた受光素子1で受光して光/電気変換し、変換された電気信号を受光素子1に設けられたモニタ端子3から取出し、モニタ端子3から取出されたモニタ信号を制御回路12に入力し、この制御回路12から前記光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生し、このAGC電圧で、前記受光素子1で光信号から電気信号に変換された信号にAGCをかけるようにしたことを特徴とするものである。」
と訂正する(下線は、被請求人が付加した。)。

3.訂正の適否の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、「同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVシステムにおいて、」との構成要素を追加することにより、「CATV受信機のAGC方法」から、同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVシステムに用いられるCATV受信機のAGC方法を除外するものであるから、この訂正は、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に揚げる事項を目的とするものである。
また、この訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、この訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1の訂正に伴って必要となった、発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲の記載と整合させるためのものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、この訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであることは明らかであるから、訂正事項2についての訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。

(3)むすび
(1)、(2)に述べたとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第4?7項に規定する要件に適合するものであるので、当該訂正を認める。


第3 請求の趣旨
本件無効審判の請求の趣旨は、特許第3479124号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めるというものである。


第4 本件訂正発明
本件訂正の結果、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、「本件訂正発明」という)。

「【請求項1】
同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVシステムにおいて、パイロット信号を含まない光信号をCATV用光受信機に設けられた受光素子(1)で受光して光/電気変換し、変換された電気信号を受光素子(1)に設けられたモニタ端子(3)から取出し、モニタ端子(3)から取出されたモニタ信号を制御回路(12)に入力し、この制御回路(12)から前記光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生し、可変減衰器において、前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で、前記受光素子(1)で光信号から電気信号に変換されそしてRFアンプで増幅された後に前記可変減衰器を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたことを特徴とするCATV受信機のAGC方法。」


第5 当事者の主張
第5-1 請求人の主張
請求人は、特許第3479124号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)について、以下の無効理由を主張し、証拠方法として甲第1号証?甲第33号証を提出した。
なお、請求人は、無効理由1に基づく主張を撤回しているので、以下では、無効理由1は欠番である。

[無効理由2]
本件発明は、甲第1号証に記載の発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
また、本件発明は、甲第1号証に記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

[無効理由3]
本件発明は、甲第2号証に記載の発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
また、本件発明は、甲第2号証に記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

[無効理由4]
本件発明は、甲第3号証に記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

[無効理由5]
本件発明は、甲第4号証に記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

[証拠方法]
甲第1号証:特公平1-33058号公報
甲第2号証:実開昭57-74523号公報
甲第3号証:特開昭53-79453号公報
甲第4号証:特開昭57-168513号公報
甲第5号証:CATV研究資料センター事務局編「日本型CATV戦略」、
株式会社エム・アイ・エー、昭和60年8月10日発行、
第165頁
甲第6号証:関本忠弘著「CATVシステムの設計と工事」、東京電機大学
出版局、昭和48年1月15日発行、第29頁?第33頁、
第74頁?第83頁、第112頁?第117頁
甲第7号証:実開昭62-183423
甲第8号証:「NEC技報」第36巻8号、昭和58年8月25日発行、
第152頁?第155頁
甲第9号証:特開平3-77416
甲第10号証:吉田進著「CATV技術講座」、株式会社共同聴視出版社、
昭和52年10月31日発行、第100頁?第103頁
甲第11号証:訂正審判請求書(訂正2009-390115号)
甲第12号証:特開昭64-47188
甲第13号証:風間茂穂著「トランジスタ高周波回路の実際」、
株式会社産報、四版、昭和49年5月25日発行、第134頁
甲第14号証:久保大次郎著「高周波回路の設計」、CQ出版社、改訂第2
版、昭和50年11月25日発行、第64頁
甲第15号証:東京地方裁判所平成22年(ワ)第44638号の原告準備
書面(3)
甲第16号証:石尾秀樹監修「光増幅器とその応用」、株式会社オーム社、
平成4年5月30日発行、第203頁?第207頁
甲第17号証:岩本雅民編集「レーザー研究」第21巻第1号、社団法人
レーザー学会、平成5年1月29日発行、第164頁?
第165頁
甲第18号証:泉武博監修「ケーブルテレビ技術入門」、数式会社
コロナ社、平成6年4月20日発行、第140頁?第149頁
甲第19号証:特開平6-13982号公報
甲第20号証:特開昭58-143646号公報
甲第21号証:社団法人電子通信学会編「ニューメディア技術シリーズCA
TV」、株式会社オーム社、昭和61年8月25日発行、
第198頁?第203頁
甲第22号証:吉田進著「光通信技術とCATV」、株式会社共同聴視
出版社、昭和57年7月1日発行、第146頁?第149頁
甲第23号証:佐野匡男・伊澤偉行編著「ケーブルテレビジョンの野望」、
社団法人電気通信協会、平成7年10月5日発行、第13頁?
第25頁
甲第24号証:佐野匡男著「初心者のためのケーブルテレビ講座」、
株式会社ニューメディア、平成5年4月10日発行、第28頁
?第29頁
甲第25号証:株式会社ぎょうせい総合研究所編「気軽に読めるCATVの
すべて」、株式会社ぎょうせい、平成6年5月20日発行、
第6頁
甲第26号証:「光通信に関する基盤技術動向調査報告書」、基盤技術研究
促進センター、平成7年2月、第89頁
甲第27号証:野田健一編著「光ファイバ伝送」、社団法人電子通信学会、
昭和53年12月15日発行、第324頁?第327頁
甲第28号証:「週刊金融財政事情1983 10.24」、第28頁?
第29頁
甲第29号証:「Hi-OVIS総合報告書」、社団法人ニューメディア開
発協会、昭和62年6月発行、第56頁?第57頁、第644
頁?第645頁
甲第30号証:「HFCシステムの設計【設計・施行・保守】」、社団法人
日本CATV技術協会発行、平成11年1月、第26頁?
第27頁、第58頁?第59頁
甲第31号証:副島俊雄・貝淵俊二著「新版 光ファイバ通信」、株式会社
電気通信技術ニュース社、昭和56年12月12日発行、
第478頁?第483頁
甲第32号証:「NTT R&D Vol.42 No.7 1993」、
第869頁?第878頁
甲第33号証:「NTT R&D VOL.40 NO.2 1991」、
第247頁?第256頁

第5-2 被請求人の主張
被請求人は、答弁書を提出し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の主張する無効理由に対して、以下のように反論し、証拠方法として乙第1号証?乙第38号証を提出した。

[無効理由2について]
本件発明は、甲第1号証に記載された発明と同一ではないし、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に推考し得たものではないので、無効理由2には理由がない。

[無効理由3について]
本件発明は、甲第2号証に記載された発明と同一ではないし、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に推考し得たものではないので、無効理由3には理由がない。

[無効理由4について]
本件発明は、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に推考し得たものではないので、無効理由4には理由がない。

[無効理由5について]
本件発明は、甲第4号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に推考し得たものではないので、無効理由5には理由がない。

[証拠方法]
乙第1号証:三木哲也作成、「特許3479124号に関する鑑定意見書」
(平成25年2月12日)
乙第2号証:「新版 無線工学ハンドブック」、株式会社オーム社、昭和
39年5月25日第2版発行、19-19頁?19-22頁
乙第3号証:特公昭57-29115号公報
乙第4号証:特開平6-152521号公報
乙第5号証:「住友電気 1991年9月 第139号」
乙第6号証:特開昭62-109382号公報
乙第7号証:特開昭63-212230号公報
乙第8号証:「IEEE電気・電子用語辞典」、丸善株式会社、平成元年
9月30日発行、第221頁、第262頁、第729頁
乙第9号証:社団法人電子通信学会編「ニューメディア技術シリーズ
CATV」、株式会社オーム社、昭和61年8月25日発行、
第172頁?第174頁
乙第10号証:富士通編「情報技術用語辞典」、電波新聞社、平成2年1月
31日発行、第128頁?第129頁
乙第11号証:「電気・電子工学大百科事典 第25巻オーディオ・ビデオ
」、株式会社電気書院、昭和58年11月発行、第207頁、
第310頁?第311頁、第318頁?第319頁
乙第12号証:「電気・電子工学大百科事典 第25巻オーディオ・ビデオ
」、株式会社電気書院、昭和58年11月発行、第207頁、
第310頁?第311頁、第318頁?第319頁
乙第13号証:特公平6-14733号公報
乙第14号証:特公平6-14426号公報
乙第15号証:特開平3-119502号公報
乙第16号証:特開昭61-148993号公報
乙第17号証:特開平2-278298号公報
乙第18号証:社団法人日本CATV技術協会技術資料 JCTEA
TR-002「750MHzケーブルテレビシステム」、
社団法人日本CATV技術協会、平成10年3月31日発行、
第32頁?第34頁
乙第19号証:「HFCシステムの設計【設計・施行・保守】」、社団法人
日本CATV技術協会発行、平成11年1月、第26頁?
第27頁、第38頁?第39頁
乙第20号証:社団法人日本CATV技術協会編著「光ケーブルテレビシス
テム50の質問」、社団法人日本CATV技術協会、平成8年
6月第1刷、第50頁?第51頁
乙第21号証:吉田進著「ケーブルテレビ技術者のための光ファイバ伝送入
門」、株式会社テレケーブル新聞社、平成7年4月15日
発行、第180頁?第189頁
乙第22号証:社団法人日本CATV技術協会編著「わかりやすい光ケーブ
ルテレビ」、社団法人日本CATV技術協会、平成5年7月
発行、第64頁?第65頁
乙第23号証:西村憲一・白川英俊編著「改訂2版 やさしい光ファイバ通
信」、社団法人電気通信協会、平成4年1月10日発行、
第20頁?第29頁
乙第24号証:「SEIテクニカルレビュー 第166号 2005年
3月」、第61頁?第64頁
乙第25号証:「RFワールド No.9」、第73頁?第74頁
乙第26号証:大久保勝彦著「ISDN時代の光ファイバ技術」、
理工学社、平成元年6月10日発行、8-22?8-25
乙第27号証:社団法人テレビジョン学会編「先端技術の手ほどきシリーズ
光通信技術」、株式会社オーム社、平成3年7月25日発行、
第202頁?第207頁
乙第28号証:社団法人日本CATV技術協会編著「わかりやすい光ケーブ
ルテレビ」、社団法人日本CATV技術協会、平成5年7月
発行、第28頁、第48頁?第53頁、第58頁?第59頁、
第64頁?第65頁
乙第29号証:秋山進・石黒公・西山光生・原田守夫・椋本雅雄・渡辺佳照
著「CATVシステム総合技術・実務必読本」、株式会社
オーム社、平成6年10月20日発行、第10頁?第68頁、
第92頁?第93頁、第118頁?第121頁
乙第30号証:「FUJITSU 1995-1月号 VOL.46,
NO.1」、第24頁?第30頁
乙第31号証:社団法人日本CATV技術協会編著「光ケーブルテレビシス
テム50の質問」、社団法人日本CATV技術協会、平成8年
6月第1刷、第2頁、第16頁?第17頁
乙第32号証:ミハル通信株式会社「‘94?’95 GENERAL
CATALOGUE」、第30頁?第32頁
乙第33号証:「CEI IEC 60793-2-10 INTERNA
TIONAL STANDARD」、第6頁?第79頁
乙第34号証:「住友電気 第121号 昭和57年9月」、第57頁?
第65頁
乙第35号証:研究実用化報告第27巻第11号、第199頁?第212頁
乙第36号証:三木哲也作成、「特許3479124号に関する鑑定意見書
」(平成25年8月27日)
乙第37号証:内田直也著「開発物語 水素による光ファイバ損失増の発見
と防止策の確立-最悪のシナリオを際どく回避-」、電子情報
通信学会通信ソサエティマガジン、No.25、夏号、
平成25年6月発行、第73頁?第79頁
乙第38号証:泉武博監修「ケーブルテレビ技術入門-基礎から応用まで-
」、コロナ社、1994年4月20日、第112頁?
第131頁


第6 無効理由に対する判断
以下では、便宜上、無効理由5、無効理由3、無効理由2の順に判断を示す。


第7 無効理由5に対する判断
1.甲第4号証(特開昭57-168513号公報)の記載事項
甲第4号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。

(1)「本発明は、PINフオトダイオードを使用した光アナログ受信器の自動利得制御方式に関する。特にPINフオトダイオードの出力電流の平均値または積分値を検出することにより自動利得制御増幅器を制御する簡易型自動利得制御方式に関するものである。
光フアイバケーブルを使用した伝送系においては、周囲温度変化や経年変化等により受信増幅器の入力レベルが変化する。この結果、伝送品質が劣化することとなる。これを防止するため、従来からパイロット信号を送受して自動利得制御を行うパイロットAGC方式が知られている。これは、送信部で、信号帯域外にパイロット信号を重畳して伝送路に送出し、受信側で検出パイロット信号のレベルが初期設定値を保持するように受信増幅器の利得を自動調整するものである。このパイロットAGC方式における光受信器の従来例要部ブロツク構成図を第1図に示す。第1図で1は光入力信号、2はPINフオトダイオード、3はマニアル利得制御増幅器、4は自動利得制御増幅器、5はローパスフイルタ、6は出力端子、7はバンドパスフイルタ、8は整流器、9は基準電圧、10は演算増幅器をそれぞれ示す。しかし、このパイロットAGC方式では、送信器に発振器を必要とし、さらに受信器内にパイロット信号検出用のバンドパスフイルタを必要として、装置が複雑化、大型化し、高価となる欠点を有する。
また、この他の従来例方式として、光ファイバケーブルの温度特性および経年変化特性が優れている点に着目し第2図に示すように、AGC回路を持たずに済ませるいわゆるMGC方式も採用されている。
しかし、このMGC方式には受信器出力レベルが変動するとそれが出力に直接現れるためシステムの安定性を保証することができない欠点を有する。 本発明はこの点を改良するもので、装置が複雑とならず、しかも装置を小型化、安価とすることができる光アナログ通信器のAGC方式を提供することを目的とする。 」(第1頁左下欄下から5行?第2頁左上欄第15行)

(2)「本発明は、光入力信号を電気信号に変換するPINフオトダイオードと、この電気信号を入力として出力を送出する可変利得受信増幅器とを含む光受信器において、前記PINフオトダイオードの出力信号の平均値を検出する回路を備え、この回路の検出出力により前記受信増幅器の利得を制御するように構成されたことを特徴とする。
本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。第3図は、本発明一実施例の要部ブロック構成図である。第3図は光受信器を示している。
すなわち、光入力信号1はPINフオトダイオード2に照射されている。このPINフオトダイオード2のアノードはマニアル利得制御増幅器3に接続されている。このマニアル利得制御増幅器3の出力は自動利得制御増幅器4に導かれている。また、PINフオトダイオード2のカソードは積分器11に接続されている。この積分器11の出力は差動増幅器12の負相入力に導かれている。この差動増幅器12の正相入力には基準電圧9が接続されている。この差動増幅器12の出力は前記自動利得制御増幅器4の制御入力に導かれている。 」(第2頁左上欄最下行?同頁右上欄最終行)

(3)「このような回路構成の特徴ある動作を説明する。まず、本装置の初期設定動作を説明すると、第3図において、PINフオトダイオード2の出力電流はマニアル利得制御増幅器3および自動利得制御増幅器4により増幅され、初期設定出力が出力端子6に現われる。この初期設定時に増幅器4の利得は利得可変範囲のほぼ中央に設定する。ただし、この利得設定時には制御入力は非接続状態にしておく。
また、PINフオトダイオード2のカソード側からも同一の出力電流が取出されるが、これは積分器11により積分されるため、差動増幅器12への入力信号はアナログ信号電圧は表われず直流電圧のみとなる。しかしこの直流電圧が変動した場合には同じ割合だけ増幅器3に与えられる出力電流の交流電流が変動する。したがつて基準電圧9は差動増幅器12の出力電圧が初期設定時に増幅器4が初期設定利得となるように、すなわち出力端子6の出力電圧が初期値となるように設定する。このように各回路を調整することにより、光ケーブル損失がある値のときの光受信系が初期設定される。
この状態の後に温度変化または経年変化等により光入力信号1のレベルが低下すると出力端子6の交流出力振幅も低下する方向で変化する。しかし、実際には積分器11の出力である直流電圧が低下し、差動増幅器12の出力電圧が増幅器4の利得を増大する方向に変化するため、出力信号電圧の変化は極めて少なくなる。
また、光入力信号1のレベルが増大した際には前述と逆の動作が行われ出力信号電圧を一定にする。
以上説明したように本発明によれば、光受光器のPINフオトダイオードの出力電流を検出し、これにより受信増幅器の利得を自動制御することとした。
したがつて、送信側において従来行われていたパイロット信号を発生するための発振器が不要となり、受信側においてもパイロット信号検出用のフイルタが不要となる等、装置を簡単化、小型化、安価とすることができる効果を有する。 」(第2頁左下欄第11行?第3頁左上欄第10行)

(4)甲第4号証に記載されたものは、「送信側において従来行われていたパイロット信号を発生するための発振器が不要となり、受信側においてもパイロット信号検出用のフイルタが不要となる」(第3頁左上欄第6行?同頁同欄第9行)ものであるから、光入力信号1は、パイロット信号を含まないものであることが理解できる。

(5)以上を総合すると、甲第4号証には、次の発明(以下、「甲第4号証発明」という。)が記載されている。
「パイロット信号を含まない光入力信号を電気信号に変換するPINフォトダイオード2と、この電気信号を入力として出力を送出する可変利得受信増幅器とを含む光受信器において、前記PINフォトダイオード2の出力信号の平均値を検出する回路を備え、この回路の検出出力により前記受信増幅器の利得を制御するAGC方法であって、
光入力信号はPINフォトダイオード2に照射され、このPINフォトダイオード2のアノードはマニアル利得制御増幅器3に接続され、このマニアル利得制御増幅器3の出力は自動利得制御増幅器4に導かれており、
PINフォトダイオード2のカソードは積分器11に接続され、この積分器11の出力は差動増幅器12の負相入力に導かれており、この差動増幅器12の正相入力には基準電圧9が接続されており、この差動増幅器12の出力は前記自動利得制御増幅器4の制御入力に導かれているものであるAGC方法。」

2.対比
本件訂正発明は、本件明細書の段落【0004】の【発明が解決しようとする課題】に記されているように、従来型のCATV用光受信機では受信信号のAGCにパイロット信号を用いるため、(1)パイロット信号を送信しないCATVシステムではAGCをかけることができない、(2)AGC回路の構成が複雑であり、光受信機の小型化、コストの低減、メンテナンスの簡易化を阻害している、(3)AGC回路を構成するSAWフィルタは高価であり、コスト低減に難を有していたことに対処するためのものである。
一方、甲第4号証発明は、上記「1.」の「(1)」において摘記したように、
「光フアイバケーブルを使用した伝送系においては、周囲温度変化や経年変化等により受信増幅器の入力レベルが変化する。この結果、伝送品質が劣化することとなる。これを防止するため、従来からパイロット信号を送受して自動利得制御を行うパイロットAGC方式が知られている。・・・(中略)・・・しかし、このパイロットAGC方式では、送信器に発振器を必要とし、さらに受信器内にパイロット信号検出用のバンドパスフイルタを必要として、装置が複雑化、大型化し、高価となる欠点を有する。」ことに対して、
「この点を改良するもので、装置が複雑とならず、しかも装置を小型化、安価とすることができる」ことを目的とするものであって、本件訂正発明と軌を一にするものである。

甲第4号証発明の「PINフォトダイオード2」は、光入力信号を電気信号に変換する受光素子であり、また、甲第4号証発明の光入力信号はパイロット信号を含まないものであるから、本件訂正発明と甲第4号証発明とは、「パイロット信号を含まない光信号を光受信機に設けられた受光素子で受光して光/電気変換」する点で共通する。

甲第4号証発明は、「PINフォトダイオード2の出力信号の平均値を検出する回路を備え、この回路の検出出力により前記受信増幅器の利得を制御するAGC方法」であって、「PINフォトダイオード2」の「カソード」に接続された「積分器11」によって、「PINフォトダイオード2の出力信号の平均値」が検出され、差動増幅器12を介して自動利得制御増幅器4の制御入力に入力されて自動利得制御増幅器4の利得を制御することによってAGCをかけるものである。
甲第4号証には、何が「AGC電圧」であるかの直接的な記載はないが、甲第4号証発明は「自動利得制御増幅器4の制御入力」に入力される「差動増幅器12の出力」によって、前記自動利得制御増幅器4の利得を制御するのであるから、甲第4号証発明の「差動増幅器12の出力」は、AGC電圧であるということができる。

本件訂正発明における「受光素子に設けられたモニタ端子」は、「受光素子で受光して光/電気変換し、変換された電気信号」をそこから取り出すものであって、かつ、取り出された「モニタ信号を制御回路に入力し、この制御回路から前記光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生」させるためのものである。
一方、甲第4号証に「モニタ端子」との直接の記載はないが、「PINフォトダイオード2」の「カソード」は、積分器11に接続され、該積分器11の出力が差動増幅器12の負相入力に導かれ、該差動増幅器12の出力が自動利得制御増幅器4の利得を制御するものであって、「差動増幅器12の出力」がAGC電圧であることに鑑みれば、甲第4号証発明の「PINフォトダイオード2」の「カソード」は、本件訂正発明の「モニタ端子」に相当し、甲第4号証発明の積分器11と差動増幅器12と基準電圧9とからなる回路が本件訂正発明の「制御回路」に相当する。
仮に、甲第4号証発明の「PINフォトダイオード2」の「カソード」が本件訂正発明の「モニタ端子」に相当するものでなかったとしても、「PINフォトダイオード2」の「カソード」から得られた信号が積分された平均値が得られる積分器11の出力端が、本件訂正発明の「モニタ端子」に相当し、甲第4号証発明の差動増幅器12と基準電圧9とからなる回路が本件訂正発明の「制御回路」に相当する。
結局のところ、本件訂正発明の「モニタ端子」は、光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生させるために受光素子に設けられた端子といった程度のものであるから、甲第4号証発明の何に対応するかが仮に違ったとしても、実質的な差異にはならない。
また、本件訂正発明は、可変減衰器がAGC電圧に応じて減衰量を変えるものととらえられるが、可変減衰器とRFアンプとが組み合わされることから、可変減衰器とRFアンプとの合計した利得が変わるものととらえることができ、該可変減衰器とRFアンプとからなる部分は、「可変利得部」とも呼び得る。一方、甲第4号証発明の「自動利得制御増幅器4」も「可変利得部」と呼び得るものである。
したがって、本件訂正発明と甲第4号証発明とは、AGC電圧によって可変利得部が利得を可変する点で共通する。
それゆえ、本件訂正発明と甲第4号証発明とは、「変換された電気信号を受光素子に設けられたモニタ端子から取出し、モニタ端子から取出されたモニタ信号を制御回路に入力し、この制御回路から前記光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生し、前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で、前記受光素子で光信号から電気信号に変換され、可変利得部を通る該電気信号にAGCをかける発生した制御電圧を可変利得部の利得制御入力端子に加えるようにした」点で共通する。

したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。

[一致点]
「パイロット信号を含まない光信号を光受信機に設けられた受光素子で受光して光/電気変換し、変換された電気信号を受光素子に設けられたモニタ端子から取出し、モニタ端子から取出されたモニタ信号を制御回路に入力し、この制御回路から前記光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生し、可変利得部において、前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で、前記受光素子で光信号から電気信号に変換され前記可変利得部を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたことを特徴とするAGC方法。」

[相違点1]
本件訂正発明は、可変利得部が、RFアンプと可変減衰器とで構成され、RFアンプで増幅された後に可変減衰器を通る電気信号にAGCをかけるものであるに対して、
甲第4号証発明は、可変利得部を備え、該可変利得部を通る電気信号にAGCをかけるものであるが、該可変利得部がどのような構成からなるものであるのか明確ではない点。

[相違点2]
本件訂正発明は、同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVシステムにおいて用いられるCATV受信機のAGC方法であるのに対して、
甲第4号証発明は、光受信機のAGC方法であるものの、光受信機が同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVにおいて用いられるものであるのか否かが明確ではない点。

3.判断
[相違点1]について
RFアンプの後に可変減衰器を設けて可変利得部を構成することは、周知である。また、そのような周知の可変利得部も、増幅器自体の利得を変えるようにしたものと区別なく「可変利得制御増幅器」、「自動利得制御機能付増幅器」等のように「増幅」の語を含む呼び名で呼ばれるのが普通である。
この点については、甲第2号証にも、第1図の「可変利得制御増幅器AMP」の具体的構成例として、第4図の「可変抵抗ダイオードD1」などからなる可変減衰回路の前後に「利得固定増幅器A1、A2」を接続したものが記載されている。また、可変利得増幅器を増幅器と可変減衰器との組み合わせで構成することに関して、当審が職権により調査した次の証拠を示す(審理事項通知書に示したとおり)。
周知例1:特開昭54-77554号公報
(第1図に示される自動利得制御付き増幅器は、前段増幅器2、可変減衰回路3、後段増幅器4などからなることが示されている。)
周知例2:特開昭53-112019号公報
(第4図のAGC増幅器は、第5図に示される前段RF増幅部13、可変減衰回路網14、後段RF増幅部15などからなることが示されている。)
周知例3:実開昭55-87019号公報
(第6図には、増幅部4eの増幅ユニット27が、前段増幅器31、ダイオードD1eなどからなる可変減衰回路、増幅回路8eから構成されていることが示されている。)

したがって、当業者が甲第4号証の自動利得制御増幅器を見たときに、利得自体が変わる増幅器であると認識することはもちろん、それが増幅器と可変減衰器との組合せで構成されたものも含むと認識するととらえるのは自然である。
したがって、相違点1は格別なものではなく、甲第4号証発明の可変利得増幅器を、RFアンプの後に可変減衰器を設けて構成することは、当業者が適宜なし得た程度のことである。

[相違点2]について
まず、相違点2でいう「光受信機が同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATV」の技術的意味について検討する。
本件明細書及び図面には、「光受信機が同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATV」について定義がなされているものではなく、また、「光受信機が同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATV」として伝送される信号の形式についても記載がないことから、本件訂正発明の「光受信機が同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATV」が意味するところを一意に決め難いところもあるが、次のとおり、本件訂正発明の「CATV」からは、光受信機が同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステム、及び、1チャンネルのアナログ信号をベースバンド伝送する光システムが除外されていると解することが適当である。
すなわち、昭和53年に運用が開始された「Hi-OVIS」(乙第1号証付属資料2、甲第29号証)は、FTTH方式の光CATVの先駆けであり、1チャンネルのTV信号をベースバンド伝送する光CATVであるが、審判被請求人が平成25年6月5日付けで提出した上申書の第3頁の表1によれば、本件出願時である平成6年当時には、既に、多チャンネルのTV信号を高周波数帯域で伝送する「HFC」や「FTTH」に移行しており、あえて技術の流れに逆行して1チャンネルのアナログ信号をベースバンド伝送するものまで、本件訂正発明の「光受信機が同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATV」の対象としていると解すべき事情はない。

以上を前提に、甲第4号証発明の光受信機を「光受信機が同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATV」において用いられるものとすることの容易想到性について、以下に検討する。

本件出願当時、光受信機が同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVである、多チャンネルのCATV信号を光ファイバでユーザ宅まで伝送するFTTHによる光CATVが、甲第16号証、甲第31号証?甲第33号証に示されるように研究されていた。甲第16号証、甲第31号証?甲第33号証の記載事項は次のとおりである。

甲第16号証
第205頁第4行?第206頁第6行には、「現在急速に研究開発が進んでいる光増幅技術は光分岐を可能とする。この光増幅技術を光ファイババックボーンシステムにより培われたアナログ光映像伝送技術と組み合わせることにより、さらに優れた光映像分配システムができる。図10-3に示すように、同軸ケーブルを全く使用せず、ユーザ宅まで光ファイバにより映像を伝送し映像分配サービスするシステムである。たとえば、100チャネル以上の映像分配サービスや、高品位TV(HDTV)映像分配サービスなどの提供も可能となる。」(下線は当審が付した。)と記載されていて、ユーザ宅まで光ファイバにより100チャネル以上の映像分配をするシステム、すなわちFTTHが研究されていたことが理解できる。
そして、FTTHシステムは、同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムとは異なるCATVシステムであるから、光受信機が同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVであるといえる。

甲第31号証
第483頁の「(2)CATV加入者への適用」の項及び図7.12には、加入者系も含めたCATVシステムの4種類の構成法(「(a)個別配線型(切替接続)」、「(b)個別配線型(VHF多重型)」、(c)「分配配線型(光分配型」、(d)「分配配線型(同軸分配型)」)が示されており、内、(a)?(c)について、ユーザ宅まで光ファイバが引かれるFTTHとなっている。
(a)、(b)については、図7.12から、多チャンネルのCATV信号であることが読み取れる。
そして、FTTHシステムは、受信機が同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVであるといえる。

甲第32号証
第869頁左欄には、多チャネルの映像信号を周波数分割多重して光伝送するサブキャリア多重伝送方式(SCM方式)が、CATV網における幹線系の光化の経済的手段として4年ほど前からすでに実用に供されていることが記載されている。
また、第870頁左欄第16行?第29行には、同軸ケーブルを使わずに、分配系をも光化したFTTHの形態をとれば伝送帯域が飛躍的に拡大でき、光増幅技術とSCM伝送技術とを結びつけた映像分配システムについて、1992年(平成4年)3月からは50チャネルFM映像信号の分配が可能な試作装置の評価実験が進められてきたことが記載されている。
第871頁の図1には、FTTHによる多チャネル光映像分配システムの構成が記載されている。
そして、FTTHシステムは、光受信機が同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVであるといえる。

甲第33号証
第248頁の右欄及び図1には、光信号が各ユーザ宅に分配される、FDM多重光映像分配システムの基本構成が記載されている。ここで、図1に示されるFDM多重光映像分配システムは、光信号が各ユーザ宅まで伝送されるのでFTTHである。
そして、FTTHシステムは、光受信機が同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVであるといえる。

このように、本件出願時において、光受信機が同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVであるFTTH方式のCATVは周知であった。

甲第4号証発明は、AGCをかけることによって、光入力信号のレベルが、温度変化または経年変化等によって変化しても、出力信号レベルの変化を極めて少なくする、または出力信号レベルを一定にするものである。
甲第4号証には、甲第4号証発明を適用する特定の用途についての記載はなく、パイロットAGCを行っていた光伝送系一般に対して、パイロット信号を不要とすべく適用可能であることは明らかである。
そのように、甲第4号証発明には汎用性があるがゆえに、適用対象の用途は、甲第4号証出願時の技術状況にかかわらず、本件出願時の技術状況で判断されるべきである。
光受信機が同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVである、多チャンネルのCATV信号を光ファイバでユーザ宅まで伝送するFTTHによる周知の光CATVにおいても、甲第4号証発明と同様の、温度変化または経年変化等による出力信号レベルが予想されるものであるから、甲第4号証発明を、光受信機が同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVシステムにおいて用いられるCATV受信機に適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

4.審判被請求人の主張について
審判被請求人は、概略、次の(1)?(2)の事項を主張して、本件訂正発明は甲第4号証発明から容易に発明できたものではないと主張する。

(1)技術分野及び課題の相違
甲第4号証は、その出願時の技術状況に照らせば、単一チャネルのアナログベースバンド信号の狭帯域光伝送方式におけるAGC方法であることが明らかであるのに対して、本件訂正発明は、多チャネル信号を周波数多重して伝送する高周波のアナログ伝送システムのAGCであって、技術分野が相違する。
また、甲第4号証が挙げている、(i)光ファイバの温度特性や経年劣化に起因するレベルのバラツキの変動範囲は非常に小さいが、(ii)電柱移設などの光伝送路の経路変更や、経路上のコネクタ挿抜などに起因する変動範囲は±数dBにもある。甲第4号証発明が対象としているのは、(i)のみであって、課題が相違する。

(2)FTTH方式への適用についての示唆がない
本件訂正発明の受信機はCATVシステムの利用者宅の受信機であって、光信号を受光するのだからFTTHである。HFCの「ノード」も光信号を受光する装置だが、本件訂正発明は、パイロット信号を用いるHFCを除外し、研究段階だったFTTHシステムを対象とし、フィードフォワード方式によるAGCが産業上利用可能であることを見出したものである。
甲第4号証を光CATVシステムの光受信機に適用しようとすれば、HFCシステムにおける光受信機に適用することになるが、HFCシステムへの適用は伝送品質を満たせないという阻害事由がある。
光CATV以前は、光ファイバの温度変動や経年変化によるレベル変動のみに対応すればよかったので、せいぜい±0.5dBの範囲を考えていればよかったが、光CATVの光受信機においては、少なくとも±2dBの範囲に対応できることが必要である。
しかし、フィードフォワード方式では、±2dBと広い光入力レベル範囲の変動範囲を0.4dB程度という狭い範囲に抑えて、精度よく一定にすることはできない。
甲第4号証発明は、光信号レベル範囲が非常に狭い範囲であるか、あるいは光信号レベル範囲が広い場合に生じる課題に関する認識を欠いたもの。
変動範囲が±数dBといった広い光入力レベル範囲においては、パイロット信号を使わないAGCでは精度の著しい劣化が生じるため、光CATVに適用することに阻害要因があった。

しかし、(1)については、
審判被請求人は、甲第4号証の出願当時の技術状況を根拠に適用の容易性を論じるが、上記したように、本件出願時の技術状況で論じるべきものである。
また、用途の限定がない汎用の発明を特定の用途で具現化する際に、当該汎用の発明の各構成要素を当該特定の用途の要求仕様を満たすものとすることは、当業者が当然に考慮する事項である。
このため、用途の限定がない汎用の発明である甲第4号証発明を、本件出願時には周知なシステムである多チャネル信号を周波数多重して伝送する高周波のアナログ伝送システム、すなわち、光受信機が同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVであるFTTH方式のCATVに適用するとともに、該FTTH方式のCATVにおける変動範囲に対応できるようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

(2)については、
甲第4号証にはFTTH方式への適用についての示唆が記載されていないものの、上記「3.」において記したように、甲第4号証発明は、AGCをかけることによって、光入力信号のレベルが、温度変化または経年変化等によって変化しても、出力信号レベルの変化を極めて少なくする、または出力信号レベルを一定にするものであるとともに、パイロットAGCを行っていた光伝送系一般に対して、パイロット信号を不要とすべく適用可能であることは明らかであって、甲第4号証発明には汎用性があるがゆえに、適用対象の用途は、甲第4号証出願時の技術状況にかかわらず、本件出願時の技術状況で判断されるべきである。
このため、光受信機が同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVである、多チャンネルのCATV信号を光ファイバでユーザ宅まで伝送するFTTHによる上記周知の光CATVにおいても、甲第4号証発明と同様の、温度変化または経年変化等による出力信号レベルが予想されるものであるから、甲第4号証発明を、光受信機が同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVシステムにおいて用いられるCATV受信機に適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
さらに、HFCシステムへ適用する際の阻害事由に関する主張については、本件訂正により意味を為さなくなっているが、当該主張は、「甲第4号証を光CATVシステムの光受信機に適用しようとすれば、HFCシステムにおける光受信機に適用することになる」ということを前提としている点でも失当である。上述したところから明らかなように、「甲第4号証を光CATVシステムの光受信機に適用しようとすれば、HFCシステムにおける光受信機に適用することになる」ということはいえない。
また、変動範囲が±数dBといった広い光入力レベル範囲に渡ることを理由にした阻害要因の主張についても、上記(1)についてで述べた理由に照らし採用できない。

5.無効理由5についての判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明は、甲第4号証発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件訂正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、特許法第123条第1項第2号に該当し、請求項1に係る本件特許は、無効とすべきである。


第8 無効理由3に対する判断
1.甲第2号証(実開昭57-74523号のマイクロフィルム)の記載事項
甲第2号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(1)「本考案は光入力レベルが変動しても電気出力レベルを一定に保つようないわゆるAGC機能付光電気変換回路に関するものである。」(第1頁第15行?第17行)

(2)「第1図の平均光電流検出回路AVPは光入力レベルに比例してフォトダイオードまたはアバランシェフォトダイオードDを流れる光電流の平均値を検出する回路である。平均光電流検出回路の具体的回路構成例を第2図に示す。第2図において、光電流は抵抗R2を流れ容量Cで平滑化されることにより、抵抗R2の両端には平均光電流に比例した電圧Vが発生することになる。第1図の増幅・変換回路COVは平均光電流検出回路の出力を所定のレベルまで増幅したあと、これを可変利得制御増幅器AMPの制御形式に応じて、電流又は電圧に変換する。増幅・変換回路の具体的構成の例を第3図(a)、(b)に示す。第3図の(a)は電圧源出力形式であり、可変利得制御増幅器AMPが、電圧制御形式である場合に用いる。第3図の(b)は電流源出力形式であり、可変利得制御増幅器が電流制御形式である場合に用いる。尚第3図においてIC1は演算増幅器、TR1はトランジスタである。
第1図の可変利得制御増幅器AMPは、制御電圧又は制御電流に比例して利得が変化するものである。可変利得制御増幅器の具体的構成例を第4図に示す。図は電流制御形式の例である。図で制御入力CTに加わる電流値によって可変抵抗ダイオードD1の抵抗値が変化し、その結果利得が変化する。尚A1、A2は利得固定増幅器、C1、C2はカップリングコンデンサ、R3、R4は負荷抵抗である。第1図の回路で光入力レベルが変化するとこの変化に比例して、フォトダイオード又はアバランシェフォトダイオードDを流れる平均光電流が変化する。この変化は増幅・変化されて、可変利得制御増幅器AMPの利得を変化させる。制御系の利得および変化極性を適当にえらべば電気出力のレベルを光入力レベルにかかわらず一定に保つようにすることができる。」(第2頁第7行?第4頁第1行)

(3)第4図には、可変利得制御増幅器の具体例として、可変抵抗ダイオードD1などの前後に、利得固定増幅器A1、A2が接続されたものが記載されている。
そして、可変抵抗ダイオードD1のアノードを利得固定増幅器A1からの信号入力端とし、カソードを利得固定増幅器A2への信号出力端としており、制御入力CTに加わる電流が、抵抗R3、可変抵抗ダイオードD1、抵抗R4を介して接地端に流されるように構成されている。

(4)以上を総合すると、甲2号証には、次の発明(以下、「甲第2号証発明」という。)が記載されている。
「光入力レベルに比例してフォトダイオードまたはアバランシェフォトダイオードDを流れる光電流の平均値を検出する平均光電流検出回路AVPと、
平均光電流検出回路の出力を所定のレベルまで増幅したあと、これを可変利得制御増幅器AMPの制御形式に応じて、電流又は電圧に変換する増幅・変換回路COVと、
制御電圧又は制御電流に比例して利得が変化する可変利得制御増幅器AMPとを有し、
前記可変利得制御増幅器AMPは、可変抵抗ダイオードD1などの前後に利得固定増幅器A1、A2が接続されて構成されており、制御入力CTに加わる電流が、抵抗R3、可変抵抗ダイオードD1、抵抗R4を介して接地端に流されるように構成されていて、制御入力CTに加わる電流値によって可変抵抗ダイオードD1の抵抗値が変化し、その結果利得が変化するものであって、
光入力レベルが変化するとこの変化に比例して、フォトダイオード又はアバランシェフォトダイオードDを流れる平均光電流が変化し、この変化は増幅・変化されて、可変利得制御増幅器AMPの利得を変化させ、制御系の利得および変化極性を適当にえらべば電気出力のレベルを光入力レベルにかかわらず一定に保つようにすることができるAGC機能付光電気変換回路。」

2.対比
甲第2号証発明の「フォトダイオードD」は、光入力レベルに比例した光電流を出力するものであるから、「光信号」を「受光素子で受光して光/電気変換」するものである。
甲第2号証発明の「AGC機能付光電気変換回路」は、パイロット信号を処理する構成を備えていないから、「フォトダイオードD」が受光する「光信号」には、パイロット信号が含まれていないものと解される。
それゆえ、本件訂正発明と甲第2号証発明とは、「パイロット信号を含まない光信号を受光素子で受光して光/電気変換」する点で共通する。

甲第2号証には、何が「AGC電圧」であるかの直接的な記載はないが、甲第2号証発明は、「フォトダイオードD」を流れる「光電流の平均値を検出する平均光電流検出回路AVP」を備え、「増幅・変換回路COV」が「可変利得制御増幅器AMPの制御形式に応じて」変換した「制御電圧又は制御電流」によって「可変利得制御増幅器AMPの利得」を制御するものであるから、前記「制御電圧」はAGC電圧であるということができる。

本件訂正発明における「受光素子に設けられたモニタ端子」は、「受光素子で受光して光/電気変換し、変換された電気信号」をそこから取り出すものであって、かつ、取り出された「モニタ信号を制御回路に入力し、この制御回路から前記光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生」させるためのものである。
一方、甲第2号証に「モニタ端子」との直接の記載はないが、「フオトダイオードD」は、「平均光電流検出回路AVP」に接続され、該「平均光電流検出回路AVP」の出力が「増幅・変換回路COV」を介して「可変利得制御増幅器AMP」の利得を制御するものであって、「制御電圧」がAGC電圧であることに鑑みれば、甲第2号証発明の「フオトダイオードD」のカソードは、本件訂正発明の「モニタ端子」に相当し、甲第2号証発明の「平均光電流検出回路AVP」と「増幅・変換回路COV」とが本件訂正発明の「制御回路」に相当する。
仮に、甲第2号証発明の「フオトダイオードD」のカソードが本件訂正発明の「モニタ端子」に相当するものでなかったとしても、「フオトダイオードD」のカソードから得られた信号の平均値が得られる「平均光電流検出回路AVP」の出力端が、本件訂正発明の「モニタ端子」に相当し、甲第2号証発明の「増幅・変換回路COV」が本件訂正発明の「制御回路」に相当する。
結局のところ、本件訂正発明の「モニタ端子」は、光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生させるために受光素子に設けられた端子といった程度のものであるから、甲第2号証発明の何に対応するかが仮に違ったとしても、実質的な差異にはならない。
また、本件訂正発明と甲第2号証発明とは、AGC電圧によって可変減衰器の減衰量を可変する点で一致する。
それゆえ、本件訂正発明と甲第2号証発明とは、「変換された電気信号を受光素子に設けられたモニタ端子から取出し、モニタ端子から取出されたモニタ信号を制御回路に入力し、この制御回路から前記光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生し、可変減衰器において、前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で、前記受光素子で光信号から電気信号に変換され、可変利得増幅器を通る該電気信号にAGCをかける発生した制御電圧を可変利得増幅器の利得制御入力端子に加えるようにした」点で一致する。

甲第2号証発明は、「AGC機能付光電気変換回路」であるが、その動作の観点からみれば、AGC方法ともとらえることができる。

したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。

[一致点]
「パイロット信号を含まない光信号を受光素子で受光して光/電気変換し、変換された電気信号を受光素子に設けられたモニタ端子から取出し、モニタ端子から取出されたモニタ信号を制御回路に入力し、この制御回路から前記光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生し、可変減衰器において、前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で、前記受光素子で光信号から電気信号に変換されそしてRFアンプで増幅された後に前記可変減衰器を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたことを特徴とするAGC方法。」

[相違点]
本件訂正発明は、同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVシステムにおいて用いられるCATV受信機であるに対して、
甲第2号証発明は、用途が特定されず、単にAGC機能付光電気変換回路である点。

3.判断
上記「第7」の「3.」において記したように、本件出願時、CATV信号を光ファイバでユーザ宅まで伝送するFTTHによる光CATVが周知であり、この周知のFTTHによる光CATVシステムは、同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVシステムであるといえる。
一般に、増幅器を固定利得で用いることもあれば、AGCをかけて出力信号レベルが一定になるように可変利得で用いることもあることは技術常識であり、先行技術に示される光CATVにおいても、甲第2号証発明と同様の、出力信号レベル変動が予想されるものであるから、甲第2号証発明を同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVに適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

4.無効理由3についての判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明は、甲第2号証発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件訂正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、特許法第123条第1項第2号に該当し、請求項1に係る本件特許は、無効とすべきである。


第9 無効理由2に対する判断
1.甲第1号証(特公平1-33058号公報)の記載事項
甲第1号証には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(1)「本発明は光フアイバによる信号伝送システムに係り、特に広帯域で、しかも高品質の信号を得るのに好適な光フアイバによる信号伝送システムに関するものである。」(第2欄第6頁?第10頁)

(2)「従来、広帯域信号、例えばVHF放送TV多重信号を光信号に変換して光フアイバを通して伝送する場合、信号伝送システムは第1図に示す構成としてある。・・・(中略)・・・
しかし、上記した光フアイバによる信号伝送システムには次に示す大きな欠陥がある。すなわち、レーザダイオード3より光フアイバ6に入射する光信号は結合部4、光コネクタ5での反射現象のため逆進し、レーザダイオード3に再入射し、このため、発光機能が乱され、発光波長や発光出力が変化してしまう。この結果、発光出力に強度変調がかかることになる。
いま、端子1への入力電気信号を、
{1+mf(t)}cosω0t
ここに、
m:ビデオ信号変調度
f(t):ビデオ信号
ω0:キヤリア角周波数
とすると、光信号振幅は、
1+k{1+mf(t)}cosω0t
ここに、
k:光変調度
で表わされるが、レーザダイオード3の動作が、上記した理由で不安定になると、{1+n(t)}が上式に掛け合された形となり、光信号振幅は、
{1+n(t)}[1+k{1+mf(t)}cosω0t]
ここに、
n(t):ノイズ信号
で表わされるようになり、これを光検波すると、電気出力は光信号振幅そのものとなるので、
{1+n(t)}[1+k{1+mf(t)}cosω0t]
=1+n(t)+k{1+mf(t)}cosω0t
+kn(t){1+mf(t)}cosω0t
……(1)
となる。(1)式の右辺の第1項「1」はDC成分、第2項n(t)はノイズ成分、第3項k{1+mf(t)}cosω0tは信号成分、第4項kn(t){1+mf(t)}cosω0tはノイズ信号の干渉成分である。
ここで、n(t)の性質としては、その周波数スペクトルが第2図に示すようになり、角周波数ωが小さい低域ではパワーP(このPは大略次式で与えられ、P=b/ω2+a0(a、bは定数)である。)が強く、ωが大きい高域になるほどパワーPが弱い。そして、実験結果によると、ほとんどのエネルギーが数MHz以内の周波数範囲に収つている。
ここで問題としているのは、数十MHz以上のいわゆるVHF帯におけるTV信号の多重伝送システムであり、(1)式の右辺の第1項、第2項は高域フイルタ(VHF帯の信号は通過させ、直流付近数MHzの信号は通過できるような伝送特性を有するもの)で除去可能であるが、第4項はn(t)が低周波成分ほど強いので、ビデオ検波した後もkn(t){1+mf(t)}の形で残つてしまい、もともと低域成分の強い{1+mf(t)}とn(t)との積をとると、結局低域部妨害信号が残つてしまうことになる。
本発明は上記に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、妨害雑音成分を軽減し、高品質の信号を得ることができる光フアイバによる信号伝送システムを提供することにある。
本発明の第1の特徴は、光フアイバからの光信号を電流信号に変換するフオトダイオードの出力を分波器に通して低域成分と高域成分とに分離し、この高域成分は可変利得増幅器の入力とし、上記低域成分は正レベル直流電圧「2」を印加してある差動増幅器に与え、この差動増幅器の出力「2-{1+n(t)}」すなわち「1-n(t)」で上記可変利得増幅器の利得を制御して上記可変利得増幅器より妨害雑音成分を軽減した信号を得る手段を具備する構成とした点にある。」(第2欄第11行?第3欄第23行)

(3)「第3図は本発明の光フアイバによる信号伝送システムの一実施例を示す構成図であり、第1図と同一部分は同じ符号で示し、ここでは説明を省略する。第3図においては、フオトダイオード9の出力信号を分波器12に導く。その出力は直流付近の低周波成分が端子14に、VHF帯成分が端子13に出る。分波器12の出力端子13からの出力は可変利得増幅器17に導き、一方、分波器12の出力端子14からの出力は、基準端子15に正のレベルの直流電圧「2」が印加してある差動増幅器16に導き、差動増幅器16の出力「1-n(t)」を可変利得増幅器17の利得制御入力端子18に与えるようにしてある。
第4図は第3図の動作を説明するための波形図で、端子1に第4図aの伝送すべき信号21を印加すると、フオトダイオード9の出力電流は、(1)式で示されるので、第4図bの22で示されるように、本来の信号k{1+mf(t)}cosω0t、直流付近の妨害信号{1+n(t)}、本来の信号の近傍に生じるkn(t){1+mf(t)}cosω0tなる妨害信号の和になつている。そこで、まず、帯域の差異を利用して妨害信号n(t)を取り出すため、フオトダイオード9の出力信号を分波器12に導いて、分波器12からk{1+n(t)}{1+mf(t)}で示される出力を得て、この出力を端子13から可変利得増幅器17に導き、一方、{1+n(t)}で示される出力を得て、この出力を端子14から差動増幅器16に与える。差動増幅器16には正のレベルの直流電圧「2」が印加してあるから、差動増幅器16の出力として第4図cに23で示した1-n(t)に比例した電圧が得られる。この出力電圧は可変利得増幅器17の利得制御入力端子18に与えてあるから、可変利得増幅器17の増幅利得が変わり、端子11には第4図dに24で示したk{1-n2(t)}{1+mf(t)}cosω0tなる信号が出力される。
ところで、一般に|n(t)|<<1であるので、可変利得増幅器17の出力はk{1+mf(t)}cosω0tで示される。
すなわち、伝送系で生じた妨害の度合を受信信号の直流付近の成分を調べることによつて検知し、これを用いて伝送信号の乱れを補正するようにしてある。したがつて、本発明の実施例によれば、妨害雑音信号を軽減した高品質の信号を得ることができる。」(第4欄第33行?第6欄第7行)

なお、上記記載中、「そこで、まず、帯域の差異を利用して妨害信号n(t)を取り出すため、フオトダイオード9の出力信号を分波器12に導いて、分波器12からk{1+n(t)}{1+mf(t)}で示される出力を得て、」とあるところの、「k{1+n(t)}{1+mf(t)}」は、「k{1+n(t)}{1+mf(t)}cosω0t」の誤記と解される。
その理由は、分波器12に入力される信号は、(1)式に示されるように「k{1+n(t)}{1+mf(t)}cosω0t」であって、かつ端子11から得られる信号が「k{1-n2(t)}{1+mf(t)}cosω0t」であるから、分波器12から出力される信号も「cosω0t」の成分を持つと考えられるからである。

(4)「第5図は本発明の他の実施例を示す構成図で、第1図、第3図と同一部分は同じ符号で示してある。本発明のポイントは、伝送系において生じた妨害信号n(t)をパイロツト信号の歪を観測することにより抽出し、これを用いて補正を行うことにある。第3図においては、妨害信号を抽出するのに分波器12を用いている。その理由は、直流近辺に妨害波成分が現れるので、分波器によつて妨害信号が分離できるからである。これに対して第5図においては、下記のようにしてある。すなわち駆動回路2の前段に加算器27を設け、{1+mf(t)}cosω0tで示される入力電気信号25にこれと周波数帯域が異なるmpcosωptで示されるパイロツト正弦波信号26を加え合わせ、加算器27の出力端子1を経て駆動回路2に入力し、レーザダイオード3、結合部4、光コネクタ5、光フアイバ6、光コネクタ7、結合部8、フオトダイオード9よりなる光伝送系を通して、フオトダイオード9の出力として、
{1+n(t)}[1+k{1+mf(t)}cosω0t+mpcosωpt}]
なる信号を得るようにしてある。・・・(中略)・・・なお、実際のVHF多重伝送システムでは、第6図に示すように、90-222MHz帯を用いて12チヤンネルの伝送を行うので、パイロツト信号としては250MHz位が好ましい。」(第6欄第8行?同欄第40行)

(5)甲第1号証のものは、「広帯域信号、例えばVHF放送TV多重信号を光信号に変換して光フアイバを通して伝送する」ことを対象とし、「実際のVHF多重伝送システムでは、第6図に示すように、90-222MHz帯を用いて12チヤンネルの伝送を行う」といったことを踏まえれば、光信号を受光し、電気信号に変換して出力するCATV受信機ととらえることができる。

(6)甲第1号証の第5図に示される他の実施例は、光信号にパイロット信号を含むものであって、「駆動回路2の前段に加算器27を設け、{1+mf(t)}cosω0tで示される入力電気信号25にこれと周波数帯域が異なるmpcosωptで示されるパイロツト正弦波信号26を加え合わせ、加算器27の出力端子1を経て駆動回路2に入力し、」レーザダイオード3を駆動するものである。
これに対して、第3図に示される実施例は、駆動回路2の前段にパイロット正弦波信号を加えていないから、第3図に示される実施例は、光信号にパイロット信号を含まないものである。

(7)以上を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されている。
「パイロット信号を含まない光信号をCATV用光受信機に設けられたフォトダイオード9で受光するものであって、
光信号振幅「1+k{1+mf(t)}cosω0t」にノイズ信号n(t)を含む「1+n(t)」が掛け合わされて、「{1+n(t)}[1+k{1+mf(t)}cosω0t]」となった信号から、ノイズ信号による干渉成分である「kn(t){1+mf(t)}cosω0t」を取り除き、「k{1+mf(t)}cosω0t」なる信号を得ようとするものであって、
フォトダイオード9で受光し、得られた出力電流を分波器12に導き、直流付近の妨害信号である「1+n(t)」を端子14から得、VHF帯成分を端子13から得るものであって、端子13からの出力は可変利得増幅器17に導き、端子14からの出力は、基準端子15に正のレベルの直流電圧「2」が印加してある差動増幅器16に導き、差動増幅器16の出力「1-n(t)」を可変利得増幅器17の利得制御入力端子18に与え、可変利得増幅器17の出力が得られる端子11には、「k{1-n2(t)}{1+mf(t)}cosω0t」なる信号が出力されるCATV受信機の信号伝送方法。」

2.対比
甲第1号証発明は、「パイロット信号を含まない光信号をCATV用光受信機に設けられたフォトダイオード9で受光するものであって、」該フォトダイオードから「出力電流」を得るものであるから、パイロット信号を含まない光信号をCATV用光受信機に設けられたフォトダイオードで受光して光/電気変換し、変換された電気信号を受光素子から取り出すことを行っているということができる。また、フォトダイオードは受光素子のうちの1つである。
したがって、本件訂正発明と甲第1号証発明とは、「パイロット信号を含まない光信号をCATV用光受信機に設けられた受光素子で受光して光/電気変換し、変換された電気信号を受光素子から取出」している点で共通する。

甲第1号証発明は、フォトダイオード9から得られた出力電流を分波器12に導き、該分波器12の端子14から、直流付近の妨害信号である「1+n(t)」を得て、基準端子15に正のレベルの直流電圧「2」が印加してある差動増幅器16に導き、該差動増幅器16の出力「1-n(t)」を可変利得増幅器17の利得制御入力端子18に与えて、可変利得増幅器17の利得を制御するものである。
ここで、甲第1号証発明において、分波器12の端子14から取り出される信号は、本件訂正発明の「モニタ信号」に相当する。
したがって、本件訂正発明と甲第1号証発明とは、「受光素子で光信号から電気信号に変換され増幅された信号が可変利得増幅器に入力される一方、前記受光素子から取出されたモニタ信号を制御回路に入力し、この制御回路から発生した制御電圧を可変利得増幅器の利得制御入力端子に加えるようにしたCATV受信機の制御方法」点で共通する。

したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。

[一致点]
「パイロット信号を含まない光信号をCATV用光受信機に設けられた受光素子で受光して光/電気変換し、変換された電気信号を受光素子から取出し、取出されたモニタ信号を制御回路に入力し、この制御回路から発生した制御電圧を可変利得増幅器の利得制御入力端子に加えるようにしたことを特徴とするCATV受信機の制御方法。」

[相違点1]
本件訂正発明は、受光素子が、モニタ信号を取り出すモニタ端子を有するに対して、
甲第1号証発明は、モニタ信号が受光素子から取り出されるが、前記受光素子に設けられたモニタ端子から取り出されているものではない点。

[相違点2]
本件訂正発明は、可変利得増幅器が、RFアンプの後に可変減衰器を設けたものであるのに対して、
甲第1号証発明は、可変利得増幅器がどのように構成されているか明確ではない点。

[相違点3]
本件訂正発明は、同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVシステムにおいて、光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生し、光信号から電気信号に変換された電気信号に対してAGCをかけるAGC方法であるのに対して、
甲第1号証発明は、光信号から、直流付近の妨害信号である「1+n(t)」を得て、基準端子15に正のレベルの直流電圧「2」が印加された差動増幅器16に入力し、前記差動増幅器16の出力「1-n(t)」を可変利得増幅器17の利得制御端子に与えて、前記光信号に「1-n(t)」を乗算する信号伝送方法である点。

3.判断
[相違点1]について
本件訂正発明の「モニタ端子」は、そこから取り出されたモニタ信号によって、前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で可変利得増幅器の利得を制御するものである。すなわち、「モニタ端子」は、「光信号のレベルに応じた」信号を出力するためのものと解される。
一方、甲第1号証発明は、「モニタ端子」を備えるものではないとはいえ、甲第1号証発明において、分波器12の端子14から取り出される「1+n(t)」の信号のうち、「n(t)」はノイズ成分を表しており、「1」は光信号のレベルを表しているから、分波器12の端子14から取り出される「1」である信号は、光信号のレベルに応じた信号であるということができる。
そして、例えば、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証の受光素子が、光信号のレベルを出力するモニタ端子といえるものを備えていることからみて、モニタ端子を備えた受光素子は周知であるということができる。
それゆえ、甲第1号証発明の受光素子(フォトダイオード)としてモニタ端子を備えたものを用いる程度のことは、当業者が適宜なし得た程度のことである。

[相違点2]について
RFアンプの後に可変減衰器を設けて可変利得増幅器を構成することは、周知である。
この点については、甲第2号証、周知例1?3を例示した第6 3.における「[相違点1]について」を参照。
したがって、当業者が甲第1号証の可変利得増幅器17を見たときに、利得自体が変わる増幅器であると認識することはもちろん、それが増幅器と可変減衰器との組合せで構成されたものも含むと認識するととらえるのは自然である。
したがって、相違点2は格別なものではなく、甲第1号証発明の可変利得増幅器を、RFアンプの後に可変減衰器を設けて構成することは、当業者が適宜なし得た程度のことである。

[相違点3]について
審判請求人は、平成25年4月25日付け口頭審理陳述要領書第2頁において、「甲第1号証に記載された回路は、光信号のレベルと対応したモニタ信号(低周波成分)を用いて光信号のレベル変動の補償を行うものであるから、光信号のレベル変動を検出して補償するものである。甲第1号証では、補償すべき変動として比較的小さい変動に着目し、これを『妨害雑音成分』と呼んでいるだけであって、この回路が光信号のレベル変動を検出して補償するものであることに何ら変わりはない。」と主張する。
甲第1号証発明が、「光信号のレベル変動を検出して補償するもの」であるか否かはさておき、光信号のレベル変動を検出して可変利得増幅器を制御することによって、該可変利得増幅器の出力からレベル変動成分を除去しようとするものであることには間違いがない。
この点だけをとらえれば、甲第1号証発明は、一見、本件訂正発明でいうAGCと同様の作用を有するようにも見えるが、そうであるとしても、そもそもAGCとは技術思想が異なる甲第1号証発明を、AGCをかけるものとすることはできない。この点については、以下のとおりである。

甲第1号証発明は、入力される光信号のレベルが予め「1」と決まっており、この「1」のレベルに重畳する「n(t)」の雑音を除去して、「n(t)」の雑音を含まない「1」の信号を出力するものであって、出力する「1」のレベルを所望の値に設定し、入力される光信号のレベルによらずに該所望の値を出力するという技術思想は甲第1号証発明にない。
一方、AGCは、乙11号証の第318頁に、
「AGC回路(automatic gain control)
AGC回路は、その出力信号レベルを、ある一定の値に自動的に調節する回路である。」
と記載されているように、出力信号レベルを「ある一定の値」に調節するものであって、入力信号のレベルによらず、出力信号レベルを「ある一定の値」に調節するものである。
この点に関して、AGCを行うものである甲4号証の第2頁右下欄第6行?第9行に「したがって基準電圧9は差動増幅器12の出力電圧が初期設定時に増幅器4が初期設定利得となるように、すなわち出力端子6の出力電圧が初期値となるように設定する。」と記載されているように、差動増幅器に入力される「基準電圧」の値を設定することによって、出力端子の「出力電圧」を所望の値とするものであって、「基準電圧」の値を変えれば、これに伴い、「出力電圧」を変えることができるものである。
すなわち、光信号に対するAGCを行う場合、入力される光信号のレベルが予め決まっているものではなく、任意のレベルの信号が来ても、「ある一定の値」の出力レベルが得られるように制御がなされるものであって、「ある一定の値」ということから明らかなように、設定される出力レベルは、不変なものではなく、所要の範囲で任意に設定可能なものである。

また、甲第1号証発明は、ノイズ成分n(t)による干渉成分が妨害信号として残ってしまうのを軽減するものであって、|n(t)|<<1であれば、1-n2(t)≒1となることを利用して、|n(t)|<<1である条件下で、ノイズ成分n(t)による干渉成分を軽減するものである。
すなわち、甲第1号証発明は、|n(t)|<<1ではない一般的な条件下では、所望の動作をなし得ないものである。

以上を整理すると、甲第1号証発明は、設定を変えることによって出力レベルを任意に設定することを意図するものではなく、これに対して、AGCは、設定を変えることによって出力レベルを任意に設定し得るものである。
いいかえれば、AGCには出力レベルの目標値があるのに対して、ノイズ信号軽減回路は、出力レベルによらずにノイズを軽減することが目的であって、両者には、置換可能性を議論することができない本質的な差異がある。

例えば、甲第1号証発明において、分波器12の端子14から得られる信号が、「1+n(t)」ではなく「1.2+n(t)」と、信号レベルが1.2倍になった場合、ノイズ成分を除去しようとする甲第1号証発明は、「n(t)」を除去して「1.2」のレベルの信号を出力しようとするものである。
これに対して、AGCをかければ、「1.2+n(t)」の信号に対して、(1.2+n(t))×1/1.2=1+n(t)/1.2の信号が出力されることになる。

さらに、仮に、甲第1号証発明のノイズ信号軽減回路をAGCに転用しようとしても、その動機がない。
また、甲第1号証発明のノイズ信号軽減回路に加えて、AGC回路を設けようとしても、雑音除去回路に付随して、必ずAGC回路が設けられるというものでもないから、甲第1号証発明から出発して本件訂正発明に至るには、まずAGC回路を設けることを想起し、その上で、パイロット信号を用いないフィードフォワード方式のAGCとすることをさらに想起しないといけないから、甲第1号証発明に甲第2号証?甲第4号証に記載されたようなAGC回路を適用することが直ちに容易であるとすることはできない。

別の観点から論究する。
上記した「AGC」の定義である「AGC回路は、その出力信号レベルを、ある一定の値に自動的に調節する回路である。」における、「出力信号レベル」は出力信号レベルの平均値、すなわち直流成分を、ある一定の値に自動的に調整することを意味する。
すなわち、AGCが対象とするレベル変動をノイズ成分n(t)に置き換えれば、そのノイズ成分n(t)の周波数範囲は、「ほとんどのエネルギーが数MHz以内の周波数範囲」に収まるといった高周波成分ではなく、(低周波成分が混じっているとしても)きわめて直流に近い成分であって、AGCは、定常的な、あるいは、ゆっくりとした変動に対して出力信号レベルを一定にしようとするものである。
そうすると、AGCが対象とするような入力レベル変動に対して、甲第1号証の(1)式(第8 1.(2)に摘記)中、ノイズ信号による干渉成分を表す「kn(t){1+mf(t)}cosω0t」は、n(t)がほぼ定数となり、信号成分である「{1+mf(t)}cosω0t」を復調して得られるビデオ信号f(t)のスペクトルがノイズ成分によってゆらぐことがなくなって、そもそも甲第1号証発明が意図する妨害雑音成分を軽減する必要性もなくなってしまうものである。
このように、本件訂正発明と甲第1号証発明との間には、置換可能性を議論することができない本質的な差異がある。

4.審判請求人の主張について
4-1 審判請求人は、概略、次の(1)?(6)の事項を主張している。
(1)甲第1号証の回路について
甲1の図3の回路は、光信号のレベルと対応したモニタ信号(直流成分付近の低周波成分)を取り出し、これを用いて光信号のレベルの補償を行う回路であり、本件訂正発明で用いられる回路と同一である。
(2)「技術思想と適用場面を異にするもの」という点について
一般に、AGC機能は、(ア)変化を検出する、(イ)その変化を補償する、という2つの機能から成り立っている。
甲第1号証は、光信号のレベル変動を検出して補償するものである。甲第1号証では、補償すべき変動として比較的小さい変動に着目して、これを「妨害雑音成分」と呼んでいるだけである。
甲第1号証では、「妨害雑音成分の軽減」という表現をしているが、妨害成分による伝送の変化を検出し、伝送信号の乱れを補正しているので、「妨害雑音成分の軽減」はAGCに相当する。
本件訂正発明でいうAGCは、甲第1号証に示されるものを含んでいる。

(3)被請求人主張に対する反論
被請求人は、甲第1号証の「1+n(t)」の「1」の部分のみを問題にして、本件訂正発明との相違を主張しているが、甲第1号証は、n(t)のみを制御対象としているのではなく、「1+n(t)」という変動後のレベルに基づいて制御を行っているもの。
被請求人主張は、「A」というレベルが「A’」に変動したものを補償して「A」に戻すことはAGCと呼ぶが、このレベル変動を「A」から「A+ΔA」(=A’)への変動と記載して説明した場合にはAGCとは呼ばないという主張である。
被請求人が念頭においているノイズキャンセル技術は、鑑定書(乙1)に記載されているように、雑音に対して逆極性の波を作り出して打ち消し合う技術だが、甲1は、逆極性の波を作り出していないのでノイズキャンセル技術ではない。

(4)甲第1号証が適用される条件について
甲第1号証発明は、|n(t)|<<1の場合に限定されるものではなく、|n(t)|<<1以外の場合も含むものである。
光ファイバは損失が桁違いに小さいので、甲第1号証の制御によっても十分に光信号のレベル変動を補償できる。仮に周囲温度の変化等で5%のレベル変動が生じると見積もっても、n(t)=0.05であり、n2(t)=0.025(0.25%)の変動に抑えることができ、十分にAGCを行える。

(5)甲第1号証をAGCに適用することの容易性について
仮に甲第1号証発明が、妨害雑音成分の軽減をするものであって、AGCとは異なるとしても、甲第1号証発明に接した当業者が甲第1号証発明をAGCに適用することは、当業者にとって容易である。
すなわち、甲第1号証発明は、光ファイバの伝送系で生じた伝送信号の乱れを補償するとともに、光ファイバの伝送系で生じるレベル変動を一定レベルに補償することができる。そうすると、これに接した当業者は、甲第1号証発明によって光ファイバのレベル変動に対してAGCをかけて一定のレベルにすることを知得し、甲第1号証発明をAGCの目的で用いること、すなわち、本件訂正発明を想到することは容易である。
甲第1号証では、差動増幅器の正レベルに「2」を与える実施の形態が記載されており、被請求人は、甲第1号証発明ではレベル変動を補償できないと主張しているが、光ファイバでは損失が桁違いに小さいので、被請求人が主張するような大きなレベル変動は起きない。
光レベルに応じたAGC電圧を発生する制御回路の構成が本件出願前の技術水準から実現できることを前提とすると、甲第1号証発明を、補償すべきレベル変動の範囲やAGC特性などに応じて、差動増幅器に加える正レベル等を必要に応じて適宜設定してAGCを構成することは容易であるといわざるを得ない。

(6)甲第1号証と、甲第2号証?甲第4号証のいずれかの組合せに基づく進歩性欠如について
光信号の受信機において、光信号のレベル変動を一定にするためにAGCを行う必要があり、従来はパイロット信号を用いてAGCを行っていたことは周知の技術事項である。したがって、仮に、甲第1号証に、AGC回路が記載されていないとしても、それは記載が省略されているだけであって、甲第1号証の受信機が少なくともパイロット信号を用いたAGC回路を有することは、当業者が甲第1号証に記載されているに等しい事項と認識する内容である。
可変利得増幅器で雑音を除去する回路においては、パイロット信号を用いても用いなくても、妨害雑音成分を除去することが可能であるという甲第1号証の記載から、当業者はAGCについても同じことがあてはまることに気付き、甲第1号証の図3に記載された受信機と同じ原理を有する甲第2号証?甲第4号証に記載されたAGC回路を適用することで、パイロット信号を用いないAGC方法に容易に想到する。

4-2 審判請求人の主張に対する当審の判断は次のとおりである。
上記(1)?(4)の主張は、要するに、本件訂正発明は、一定の条件下では、甲第1号証発明の妨害雑音成分の軽減方法と同じであるという主張である。
しかし、本質は異なるが、一見同じに見えることがあることをもって、同じものとはいえないのであって、審判請求人の上記(1)?(4)の主張は採用できない。

上記(5)の主張についても、本質が異なるものに対して、適宜設定して本件訂正発明とすることが容易であるとすることはできない。

上記(6)において、甲第1号証にはAGC回路が省略されているだけであって、当業者にはAGC回路が記載されているに等しい事項であると審判請求人は主張するが、甲第1号証発明は、AGC回路とは独立して機能するものであるし、雑音除去回路に付随して、必ずAGC回路が設けられるというものでもないから、甲第1号証発明から出発して本件訂正発明に至るには、まずAGC回路を設けることを想起し、その上で、パイロット信号を用いないフィードフォワード方式のAGCとすることをさらに想起しないといけないから、甲第1号証発明に甲第2号証?甲第4号証に記載されたAGC回路を適用することが直ちに容易であるとすることはできない。
それゆえ、上記(6)の主張についても採用することはできない。

5.無効理由2についての判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明が、甲第1号証発明と同一であるとすることはできないばかりでなく、甲第1号証発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
したがって、本件訂正発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件訂正発明に係る特許を無効とすることはできない。


第10 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由2には理由がないが、無効理由3及び5には理由があるので、無効理由4について検討するまでもなく、本件訂正発明に係る特許は、無効すべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
CATV用光受信機のAGC方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVシステムにおいて、CATV用光受信機に設けられた受光素子(1)で受光して光/電気変換し、変換された電気信号を受光素子(1)に設けられたモニタ端子(3)から取出し、モニタ端子(3)から取出されたモニタ信号を制御回路(12)に入力し、この制御回路(12)から前記光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生し、可変減衰器において、前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で、前記受光素子(1)で光信号から電気信号に変換されそしてRFアンプで増幅された後に前記可変減衰器を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたことを特徴とするCATV用光受信機のAGC方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はCATVシステムの光通信の分野で使用されるCATV用光受信機に関するものであり、光受信機で受光される光信号にレベル変動があっても同受信機から出力される電気信号のレベルが一定に保たれるようにするためのAGC方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】光伝送システムでは光受信機の受光レベルが変化すると、光受信機から出力される電気信号のレベルも変化してしまう。しかし受光レベルが変化しても電気信号の出力レベルは一定にするのが望ましい。そこで従来は、光受信機を図2に示すような構成にして出力レベルを調整していた。
【0003】図2は光通信の分野で使用される従来型の光受信機の概略図である。この光受信機は、光ファイバにより伝送されてくる光信号を受光素子(フォトダイオード)Aで電気信号に変換し、この電気信号をRFアンプB-可変減衰器C-分岐器D-RFアンプEの系路で増幅している。この光受信機では前記分岐器Dで信号を分岐し、この分岐信号をSAWフィルタ(バンドパスフィルタの一種)Fに通してパイロット信号を取り出し、このパイロット信号を検波器Gで検波してAGC電圧を発生し、このAGC電圧に基づいて制御回路Hが可変減衰器Cの減衰量を自動的に可変させて電気信号のレベルを調整(AGC)している。なお、前記可変減衰器C、分岐器D、SAWフィルタF、検波回路G、制御回路Hで構成される回路は一般にAGC回路と呼ばれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来型のCATV用光受信機では受信信号のAGCにパイロット信号を用いるため、次のような問題があった。
(1)パイロット信号を送信しないCATVシステム、例えば難視共聴システムでは図2の光受信機ではAGCをかけることができない。
(2)AGC回路の構成が複雑であり、光受信機の小型化、コストの低減、メンテナンスの簡易化を阻害していた。
(3)特にAGC回路を構成する部品のうち、SAWフィルタFは高価であり、コスト低減に難を有していた。
【0005】本発明の目的は、パイロット信号がないCATVシステムでも信号レベルを自動調整でき、光受信機の小型化、低コスト化、メンテナンスの簡易化に寄与できるCATV用光受信機のAGC方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明のCATV用光受信機のAGC方法は、同軸伝送路中にパイロットAGC搭載同軸アンプを用いたHFCシステムを除くCATVシステムにおいて、図1に示すように、パイロット信号を含まない光信号をCATV用光受信機に設けられた受光素子1で受光して光/電気変換し、変換された電気信号を受光素子1に設けられたモニタ端子3から取出し、モニタ端子3から取出されたモニタ信号を制御回路12に入力し、この制御回路12から前記光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生し、このAGC電圧で、前記受光素子1で光信号から電気信号に変換された信号にAGCをかけるようにしたことを特徴とするものである。
【0007】
【作用】本発明のCATV用光受信機のAGC方法では、受光素子1に受光される光信号のレベルを、同受光素子1に設けられたモニタ端子3でモニタし、このモニタ端子3からのモニタ信号で、受光素子1により光信号から電気信号に変換された信号にAGCをかけるようにしたため、パイロット信号がなくともAGCをかけることができる。
【0008】
【実施例】図1は本発明のCATV用光受信機のAGC方法の一実施例を示したものである。このAGC方法では、光ファイバにより伝送される光信号を受光素子(例えばフォトダイオード)1で電気信号に変換し、同電気信号を2つのRFアンプ10、11で増幅できるようにしてある。またこのRFアンプ10、11間には可変減衰器2を配置してあり、この可変減衰器2で電気信号のレベルを任意に加減できるようにしてある。
【0009】前記受光素子1は、受光した光信号のレベルをモニタすることができるモニタ端子3を備えたものであり、このモニタ端子3からは前記光信号のレベルと対応した電気信号(モニタ信号)が出力されるようにしてある。このモニタ信号は、例えば光信号のレベルが低いと小さい電流としてモニタ端子3から出力され、光信号のレベルが大きいと大きい電流としてモニタ端子3から出力されるものである。
【0010】前記可変減衰器2は電圧制御型のものであり、印加する電圧を可変することによりその減衰量を連続して可変させることができる。そこで前記受光素子1のモニタ端子3から出力されるモニタ信号を制御回路12に入力し、この制御回路12で前記光信号のレベルに応じた電圧(AGC電圧)を発生し、このAGC電圧を可変減衰器2に印加するようにしてある。制御回路12のAGC電圧が可変減衰器2に印加されると、このAGC電圧に応じて可変減衰器2の減衰量が加減されるが、同AGC電圧の変化量或は可変減衰器2の減衰特性は、光信号の変動を解消して、アンプ11から出力される電気信号のレベルを一定にするように調整してある。
【0011】
【発明の効果】本発明のCATV用光受信機のAGC方法では下記の効果がある。
(1)パイロット信号が不要であり、このためパイロット信号がないCATVシステムでもAGC機能を持たせた光受信機を使用できるようになる。
(2)SAWフィルタ、検波回路等が不要なため、AGC回路の構成が簡潔なものとなり、光受信機の小型化、低コスト化、メンテナンスの簡易化が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のCATV用光受信機のAGC方法の一実施例を示した回路図。
【図2】従来のCATV用光受信機のAGC方法の一例を示した回路図。
【符号の説明】
1 受光素子
3 モニタ端子
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2013-09-10 
結審通知日 2013-09-13 
審決日 2013-10-01 
出願番号 特願平6-212059
審決分類 P 1 113・ 853- ZAA (H04B)
P 1 113・ 851- ZAA (H04B)
P 1 113・ 121- ZAA (H04B)
P 1 113・ 832- ZAA (H04B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 工藤 一光  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 小曳 満昭
佐藤 聡史
登録日 2003-10-03 
登録番号 特許第3479124号(P3479124)
発明の名称 CATV用光受信機のAGC方法  
代理人 小川 尚史  
代理人 上山 浩  
代理人 上山 浩  
代理人 小林 英了  
代理人 上山 浩  
代理人 鈴木 守  
代理人 大野 聖二  
代理人 小川 尚史  

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