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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08G
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1287903
審判番号 不服2013-6555  
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-10 
確定日 2014-05-14 
事件の表示 特願2007-324548「ポリマーのドーピング方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月10日出願公開、特開2008-156636〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成12年4月5日(パリ条約による優先権主張 1999年4月6日 (GB)グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国)の特許出願に係る特願2000-610019号の一部を平成19年12月17日に新たな特許出願としたものであって、平成20年1月10日に手続補正書が提出され、平成23年12月21日付けで拒絶理由が通知され、平成24年6月25日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月7日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、平成25年4月10日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年5月15日に手続補正書(方式)が提出されたが、同年6月24日付けで前置報告がなされ、同年7月4日付けで当審において審尋がなされ、同年10月9日に回答書が提出されたものである。

第2.補正却下の決定
[結論]
平成25年4月10日提出の手続補正書による手続補正を却下する。

[理由]
1.手続補正の内容
平成25年4月10日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件手続補正」という。)は、特許請求の範囲について、本件手続補正前に

「【請求項1】
レドックスドーパント基により部分的にドープされた共役ポリマーからなることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項2】
請求項1記載の導電性ポリマー組成物において、前記共役ポリマーは、0.001%?5%ドープされた共役ポリマーであることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項3】
請求項1記載の導電性ポリマー組成物において、前記共役ポリマーは、10^(17)/cm^(3)?10^(19)/cm^(3)にドーピングされることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項4】
請求項1記載の導電性ポリマー組成物において、前記レドックスドーパント基は、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)、DDQ(ジクロロジシアノキノン)、TTF(テトラチアフルバレン)、フェロセン、ビオロゲン、鉄(III)キレート、またはこれらの前駆体の中のいずれか1つを基材とするものであることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項5】
請求項4記載の導電性ポリマー組成物において、前記レドックスドーパント基は、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)を基材とするものであることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項6】
請求項1記載の導電性ポリマー組成物において、前記共役ポリマーがポリ(アルキルフルオレン)であることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項7】
請求項1記載の導電性ポリマー組成物において、前記共役ポリマーがコポリマーであることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項8】
請求項7記載の導電性ポリマー組成物において、前記コポリマーがアルキルフルオレンとトリアリーレンの繰り返し単位を有するものであることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項9】
請求項1記載の導電性ポリマー組成物において、前記レドックスドーパント基が混合物中で前記共役ポリマーと融和されたものであることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項10】
請求項9記載の導電性ポリマー組成物において、前記レドックスドーパント基が、前記混合物中で前記共役ポリマーと融和されたポリマーに対して化学的に結合していることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項11】
請求項10記載の導電性ポリマー組成物において、前記レドックスドーパント基を有する前記ポリマーが共役ポリマーであることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項12】
請求項1記載の導電性ポリマー組成物において、前記レドックスドーパント基が前記共役ポリマーに対して化学的に結合していることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項13】
請求項12記載の導電性ポリマー組成物において、前記レドックスドーパント基が前記共役ポリマーのペンダント基中に供与されることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項14】
請求項13記載の導電性ポリマー組成物において、前記レドックスドーパント基がスペーサ基を介して前記共役ポリマーに化学的に結合していることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項15】
請求項14記載の導電性ポリマー組成物において、前記スペーサ基がアルキル基またはアリール基であることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項16】
レドックスドーパント基により部分的にドープされた共役ポリマーからなる導電性ポリマー組成物を具備することを特徴とする電気デバイス。
【請求項17】
請求項16記載の電気デバイスにおいて、前記共役ポリマーは、0.001%?5%ドープされた共役ポリマーであることを特徴とする電気デバイス。
【請求項18】
請求項16記載の電気デバイスにおいて、前記共役ポリマーは、10^(17)/cm^(3)?10^(19)/cm^(3)にドーピングされることを特徴とする電気デバイス。
【請求項19】
請求項16記載の電気デバイスにおいて、前記レドックスドーパント基は、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)、DDQ(ジクロロジシアノキノン)、TTF(テトラチアフルバレン)、フェロセン、ビオロゲン、鉄(III)キレート、またはこれらの前駆体の中のいずれか1つを基材とするものであることを特徴とする電気デバイス。
【請求項20】
請求項19記載の電気デバイスにおいて、前記レドックスドーパント基は、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)を基材とするものであることを特徴とする電気デバイス。
【請求項21】
請求項16記載の電気デバイスにおいて、当該電気デバイスは光電気デバイスであることを特徴とする電気デバイス。」とあったものを、

「【請求項1】
TCNQ(テトラシアノキノジメタン)を基材とするレドックスドーパント基により0.001%?5%ドープされた共役ポリマーからなることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項2】
請求項1記載の導電性ポリマー組成物において、前記共役ポリマーは10^(17)/cm^(3)?10^(19)/cm^(3)にドーピングされることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項3】
請求項1記載の導電性ポリマー組成物において、前記共役ポリマーがポリ(アルキルフルオレン)であることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項4】
請求項1記載の導電性ポリマー組成物において、前記共役ポリマーがコポリマーであることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項5】
請求項4記載の導電性ポリマー組成物において、前記コポリマーがアルキルフルオレンとトリアリーレンの繰り返し単位を有するものであることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項6】
請求項1記載の導電性ポリマー組成物において、前記レドックスドーパント基が前記共役ポリマーに対して化学的に結合していることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項7】
請求項6記載の導電性ポリマー組成物において、前記レドックスドーパント基が前記共役ポリマーのペンダント基中に供与されることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項8】
請求項7記載の導電性ポリマー組成物において、前記レドックスドーパント基がスペーサ基を介して前記共役ポリマーに化学的に結合していることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項9】
請求項8記載の導電性ポリマー組成物において、前記スペーサ基がアルキル基またはアリール基であることを特徴とする導電性ポリマー組成物。
【請求項10】
TCNQ(テトラシアノキノジメタン)を基材とするレドックスドーパント基により0.001%?5%ドープされた共役ポリマーからなる導電性ポリマー組成物を具備することを特徴とする電気デバイス。
【請求項11】
請求項10記載の電気デバイスにおいて、前記共役ポリマーは、10^(17)/cm^(3)?10^(19)/cm^(3)にドーピングされることを特徴とする電気デバイス。
【請求項12】 レドックスドーパント基
請求項10記載の電気デバイスにおいて、当該電気デバイスは光電気デバイスであることを特徴とする電気デバイス。」とするものである。

2.本件手続補正の適否について
(1)
本件手続補正は、本件手続補正前の請求項1に係る発明を特定するための事項である「レドックスドーパント基」を「TCNQ(テトラシアノキノジメタン)を基材とするレドックスドーパント基」に補正し、「部分的にドープされた」を「0.001%?5%ドープされた」に補正する補正事項(以下、「補正事項1」という。)、請求項10に係る発明について、「レドックスドーパント基」を「TCNQ(テトラシアノキノジメタン)を基材とするレドックスドーパント基」に補正し、「部分的にドープされた」を「0.001%?5%ドープされた」に補正する補正事項(以下、「補正事項2」という。)、及び、本件手続補正前の請求項4、5、9、10を削除するとともに、請求項の番号を整理する補正事項(以下、「補正事項3」という。)を含むものである。

補正事項1及び2は、発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、本件手続補正前の当該請求項に記載された発明と本件手続補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一のものであるので,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、補正事項3は、同項第1号に掲げる請求項の削除、または、同項第4号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そこで、本件手続補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)独立特許要件

(2-1)補正発明
本件手続補正後の請求項1乃至12に係る発明(以下、それぞれ「補正発明1」乃至「補正発明12」という。また、補正発明1乃至補正発明12をまとめて「補正発明」ということがある。)は、本件手続補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至12に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
また、補正発明1、及び、補正発明1、6、7及び8を直接間接に引用している補正発明9は、それぞれ、以下のとおりのものである。

<補正発明1>
「TCNQ(テトラシアノキノジメタン)を基材とするレドックスドーパント基により0.001%?5%ドープされた共役ポリマーからなることを特徴とする導電性ポリマー組成物。」

<補正発明9>
「補正発明1において、
前記レドックスドーパント基が前記共役ポリマーのペンダント基中に供与されたものであり、
アルキル基またはアリール基を介して前記共役ポリマーに化学的に結合していることを特徴とする導電性ポリマー組成物。」

(2-2)特許法第36条第4項について
(a)
補正発明9は、要するに、「TCNQ(テトラシアノキノジメタン)を基材とするレドックスドーパント基が共役ポリマーのペンダント基中に含まれているとともにアルキル基またはアリール基を介して前記共役ポリマーに化学的に結合しており、レドックスドーパント基の量が0.001%?5%である共役ポリマーからなる導電性ポリマー」(以下、「補正発明9の導電性ポリマー」という。)を含む「組成物」であると認められる。
そうすると、補正発明9が属する技術分野の通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が補正発明9を実施可能であるといえるためには、少なくとも、補正発明9の導電性ポリマーを製造可能であることを要するところ、以下に述べるとおり、平成24年6月25日提出の手続補正書により補正された明細書には補正発明9の導電性ポリマーを当業者が製造可能な程度に十分な開示がされているとはいえない。
(b)
平成24年6月25日提出の手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は、当審による。

「【0001】
本発明は、共役ポリマーのドーピング方法に関する。本発明の方法によって調製可能なポリマーを提供する。
【背景技術】
【0002】
強プロトン酸(p-ドーピング)、強酸化剤(p-ドーピング)または還元剤(n-ドーピング)を用いて共役ポリマー(π-共役骨格および/またはπ-ペンダント基を有するポリマー)のドーピングを行うことは、既に文献に記載されている確立した技術である。しかしながら、ドーパントが化学的量論比または過度に存在する場合には、完全なドーピングが起こり易い。ドーピングを最大限に行おうとする化学的駆動力は極めて大きい。このため、ドーピングの程度を中規模に留めることは困難である。ポリマーの系にもよるが、ドーピングが最大限に行われた場合、ドーピングの程度は、共役繰り返し単位の約10?50%に及ぶ。例えば、ポリ(p-フェニレンビニレン)やポリアセチレンでは10?20%、ポリチオフェンでは20?30%、ポリアニリンでは40?50%である。ドーピングがこのように最大限の規模となると、使用されるポリマーとドーパントの性質や種類によっては、ポリマーの導電率が1?1000S/cm程度まで高くなる。すなわち、導電性を有するポリマーとなる。バルクキャリア濃度は、約10^(20)/cm^(3)?10^(21)/cm^(3)程度となる。
【0003】
しかしながら、用途によっては、このような高い規模のドーピングが不要であったり、好ましくなかったりする場合がある。例えば、10^(-6)S/cmの導電率を有する厚み1μmの膜(この厚みは、フォトニクス構造体における垂直方向の厚みとしては一般的なものである)では、膜の厚み方向において実用的なデバイス電流密度(10mA/cm^(2))を得るために必要な電位差は、せいぜい1Vである。したがって、10^(-6)S/cm?10^(-2)S/cm程度(半導体における典型的な導電率)の膜導電率を有する膜であれば、分布型ブラッグ反射器や導波管等の半導体フォトニクス構造体において充分に使用可能である。さらに、強酸や強酸化剤に膜を直接露呈すること等によって膜を最大限にドーピングすると、新たなサブギャップ遷移部分が形成され、その結果、膜の屈折率が変化したり、光の寄生的吸収が行われたりするようになる。すなわち、膜の光学的特性が大幅に変化してしまう。フォトニクス用途において、このような現象が発生することは望ましいことではなく、また、受け入れられることでもない。このようなことから、バルクキャリア濃度が10^(17)/cm^(3)?10^(20)/cm^(3)の範囲内になるように、すなわち、最大限にドーピングを行った場合より少なくとも約10分の1以上小さくなるように、ドーピングの程度を中規模に制御することが必要である。」

「【0011】
このような観点から、ドーピングの程度を低規模または中規模に制御した上でポリマーを調製することが可能で、しかも、簡単かつ廉価な方法を研究する必要がある。このようにドーピングの程度が制御されて得られたポリマーでは、高規模にドープされたポリマーが有する欠点が解消されるため、特に、後述するデバイスでの使用に適している。なお、ドーピングが高規模に行われたポリマーの欠点として、サブグループ吸収、ポリマーの光学的特性の変化、ポリマーのフォトニクス構造体の劣化等が上げられる。ドーピングの程度が低規模または中規模に制御されて調製されたポリマーを使用することによって、光電気デバイスでの使用において、有機半導体の光学的特性と電気的特性との間のバランスを良好なものとすることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、部分的にドープされた共役ポリマーを合成する方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、本発明の方法に従って調製可能なポリマーを提供すること、さらに、このようなポリマーを使用すること自体にある。」

「【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、ドーパントによりドープされた共役ポリマーの製造方法であって、
(a)共役ポリマーあるいは共役ポリマーの前駆体と、第2のポリマーとを含有する溶液に対して、前記共役ポリマー、前記前駆体または前記第2のポリマーに結合可能なドーパント基を有するドーピング剤を添加する工程と、
(b)前記ドーパント基を前記共役ポリマー、前記前駆体または前記第2のポリマーに結合させることによって共役ポリマーにドーピングを施す工程と、
を有し、
前記工程(a)で、共役ポリマーを完全にドープするのに必要な量よりも少ない量でドーピング剤を添加することを特徴とするドープされた共役ポリマーの製造方法が提供される。
【0014】
さらに、本発明は、本発明の方法によって調製可能でドーピングの程度が低規模または中規模に制御された共役ポリマーを提供する。
【0015】
さらにまた、本発明は、本発明によるポリマーを含むフォトニクスデバイスを提供する。
【0016】
本発明の一実施の形態によれば、部分的にドーピングが行われたポリマーを製造する方法であって、
(a)ドーピング剤を、該ドーピング剤が結合可能な共役ポリマー、共役ポリマーの前駆体、または第2のポリマーに添加する工程と、
(b)前記ドーパント剤を前記共役ポリマー、前記前駆体、または前記第2のポリマーから解離させることによって前記ポリマーをドーピングすることが可能なドーパントを生成する工程と、
を有し、
共役ポリマー鎖を完全にドーピングするのに必要なモル数よりも少ないモル数でドーピング剤を添加することを特徴とするドープされた共役ポリマーの製造方法が提供される。また、本発明は、この方法によって製造された部分的にドーピングが行われたポリマー材料を提供する。さらに、本発明は、このような材料を含むフォトニクスデバイス等のデバイスや構造体を提供する。
【0017】
共役ポリマーまたは共役ポリマーの前駆体は、以下の(i)または(ii)に示されるものである。
【0018】
(i)ドーパント基またはドーパント基の前駆体の濃度が制御された(典型的には、完全なドーピングを行う場合に必要となる量の10?20%未満)条件下で生成した誘導体。
【0019】
(ii)ポリマーパートナー(第2のポリマー)と融和したもの。ここで、第2のポリマー自体は共役ポリマーであってもよく、共役ポリマーでなくともよい。また、第2のポリマーは、当量ドーパント濃度を供するドーパント基によって生成した誘導体である。」
「【0021】
本発明の第1の側面によれば、ポリマー電解質の前駆体を利用した方法であって、脱離させた後、ドーピングの程度を制御して部分的にドーピングを行った共役ポリマーを生成することが可能な方法が提供される。この方法は、ポリマー電解質の前駆体を溶解中に、ベンゼン、ナフタレン、さらに他の有機誘導体のスルホン酸塩、ホスホン酸塩、リン酸塩等の酸陰イオンによって、ポリマー電解質の前駆体の対陰イオンを部分的に置換する処理を含む。これらの陰イオンは、熱脱離処理の間、クロライドやブロミド、アセテート等の一般的な陰イオンに比して、揮発性が低くかつ共役ポリマーとの互換性が高い、強有機酸に変換される。このようにして、ポリマーのドーピングを好適に行うことが可能な極めて安定した強酸を得ることができる。
【0022】
本発明の第2の側面によれば、スルホン酸、ホスホン酸、またはこれらの前駆体等のドーパント基を少量用いて誘導した概ね混和性を有する別のポリマー(第2のポリマー)を適切な分量だけホスト共役ポリマーに融和することによって、ドーピングの程度を制御してホスト共役ポリマーの部分的なドーピングを行う方法が提供される。第2のポリマーは、適切な分量のドーパント基をホスト共役ポリマーマトリックスに概ね均一に分布させる手段を提供する。このため、第2のポリマーは、所望の共役ポリマー膜を成膜する際に使用される溶剤に対して可溶性を有する必要があり、このマトリックス中で相分離しないものであることが好ましい。これは、少量のドーパント基(通常は、50mol%未満)を用いてドープされた第2のポリマーの誘導体を合成することによって行われる。誘導反応が過剰に行われた場合には、極性を有するドーパント基が強力に相互作用するため、生成した物質が共役ポリマーを溶解する一般的な溶媒である炭化水素溶剤に溶解しなくなる傾向が現れる。
【0023】
本発明の第3の側面によれば、スルホン酸、ホスホン酸、またはこれらの前駆体等のドーパント基を適切な分量だけ用いて誘導体を合成することによってドーピングの程度を制御してホスト共役ポリマーの部分的なドーピングを溶液中で行う方法が提供される。この方法によって、実際には、コポリマーが生成される。反応の順序は変更可能である。最初にポリマーを合成した後、少量のドーパントを用いて誘導体にしてもよいし、最初にモノマーをドーパント基またはドーパント基の前駆体を用いて誘導体にした後、この誘導体を、主たる共役ポリマーの中に少量組み込むようにしてもよい。要するに、共役ポリマーマトリックス中にドーパント基を適切な分量で均一に分布させることができればよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、添付図面を参照し、本発明をより詳細に説明する。
【0025】
図1に、実施例1に係る反応式を示す。この反応式は、前駆体である陽イオンポリマー電解質を熱脱離させることによって共役ポリマーを合成する場合を表すものである。この種のポリマーの一例は、PPVである。図1において、Xは選択的に用いることができるアルキルスペーサ基またはアリールスペーサ基、OR’およびOR”は選択的に用いることができるアルコキシ基、D^(-)はPO_(3)H^(-)やSO_(3)^(-)、OPO_(3)H^(-)等、前駆体であるドーパント基をそれぞれ示す。また、y≦0.05、n≧10である。
【0026】
図2aに、実施例2の反応式に基づいて調製可能なポリマーの融和物を示す。実施例2は、一般的に、可溶性を有する共役ポリマーに適用することができる。このようなポリマーの例として、PPVのアルキル誘導体やアルコキシ誘導体、ポリ(フルオレン)またはこれらのコポリマーが挙げられる。“A”は、共役ポリマーホストを示し、“B”は、第2のポリマーを示す。この第2のポリマーは、共役していてもよいし、共役していなくてもよい。この共役ポリマーホストと第2のポリマーとが融和される。Dは、前駆体とならないPO_(3)H_(2)、SO_(3)HまたはCF_(2)COOH等のドーパント基を示している。nは、図1において定義した通りである。
【0027】
図2bに、実施例3の反応式に基づいて調製可能な2つのコポリマーを示す。実施例3は、一般的に、可溶性を有する共役ポリマーに適用することができる。このようなポリマーの例として、PPVのアルキル誘導体やアルコキシ誘導体、ポリ(フルオレン)またはこれらのコポリマーが挙げられる。OR’、OR”、X、D、nおよびyは、図1および図2aにおいて定義した通りである。
【0028】
図3に、ドーパント基の前駆体を活性化してDとする反応式を2つ示す。このドーパント部分Dは、(a)融和物中で第2のポリマーと結合するか、または、(b)コポリマー系の一部である。好ましくは、DはSO_(3)Hであり、D’は以下に示すものである。
【0029】
【化1】

【0030】
OR’、OR”、y、nおよびXは、図1において定義した通りである。
【0031】
図4に、前駆体であるドーパント部分D’を活性化する反応式を示す。このドーパント基D’は、コポリマー系の一部である。好ましくは、D’は以下に示すものである。
【0032】
【化2】

【0033】
また、Dは、以下に示すものである。
【0034】
【化3】

【0035】
OR’、OR”、y、nおよびXは、図1において定義した通りである。
【0036】
図5に、前駆体であるドーパント基D’を活性化する反応式を示す。このドーパント部分D’は、コポリマー系の一部である。好ましくは、D’はSO_(3)RまたはPO_(3)R_(2)であり、DはSO_(3)HまたはPO_(3)H_(2)である。Rは脱離基を示す。OR’、OR”、y、nおよびXは、図1において定義した通りである。PAGは光酸(photoacid)発生剤であり、好ましくは、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩、または他のオニウム塩である。
【0037】
図6に、レドックス基であるドーパント基を含む本発明に係るポリマーの一例を示す。好ましくは、D’は、フェロセニウム(ferrocenium)またはビオロゲンである。OR’、OR”、X、nおよびyは、図1において定義した通りである。」
「【0044】
本発明の方法に従って調製可能なポリマーを別の方法で定義すると、ポリマーは、10^(17)?10^(19)cm^(-3)の規模でドーピングされる。
【0045】
ドーピング剤は、鎖上の脱離基と置換することにより前駆体またはポリマー鎖に結合する。
【0046】
本発明の一実施形態においては、ドーピング剤はプロトン酸ドーピング剤である。適したドーパント基としては、ホスホン酸基、スルホン酸基、フルオロアルキルカルボン酸基またはインデンカルボン酸基が挙げられる。
【0047】
ドーパント基がドーパントの前駆体である場合、この前駆体が、ホスホン酸塩基またはスルホン酸塩基であることが好ましい。
【0048】
ドーパントが前駆体の形態で組み込まれる場合には、続いて、該前駆体を、ポリマーをドーピングする活性ドーパントとするための活性化処理が必要となることがある。この活性化処理は、熱処理、照射処理、化学処理または他の手段によって行うことができる。勿論、ドーパントが既に活性化された状態で組み込まれる場合には、この処理を行う必要はない。
【0049】
本発明の別の側面では、例えば、光や熱を加えることによって、ドーパントを解離させる工程が含まれる。この処理には、工程(b)においてドーパント基の結合が行われた後、このドーパント基を共役ポリマー、共役ポリマーの前駆体、または第2のポリマーから解離させる処理が含まれる。この追加工程により、ドーパントは、共役ポリマー、共役ポリマーの前駆体、または第2のポリマーからなるポリマーのマトリックス内に均一または実質的に均一に分散する。このようにして、実質的にドーパントが拡散することがなくなり、かつ不安定でなくなる。
【0050】
共役ポリマーの前駆体にドーパント基を結合させる場合、本発明に係る方法には、前駆体から共役ポリマーを合成する工程がさらに含まれる。
【0051】
ドーピング剤をポリマー鎖から離脱させる工程は、加熱処理によって行うことができる。ポリマー鎖からドーピング剤を離脱させる工程によって、ポリマーの共役化や、前駆体からのポリマーの合成が行われる。
【0052】
また、工程(b)において、ドーパント基を、スペーサ基Xを介して共役ポリマー、共役ポリマーの前駆体、または第2のポリマーに結合させるようにしてもよい。
【0053】
本発明に係る共役ポリマーとしては、どのような共役ポリマーであってもよいが、好適な例としては、前駆体であるポリマー電解質PPVまたは置換されたPPVが挙げられる。対イオンYであるドーパント基は、ホスホン酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、アンチモン酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩からなる。これらの対イオンは、共役ポリマーの前駆体に結合する際、ポリマー骨格に結合する側鎖を形成する。
【0054】
前駆体ではない酸ドーパントとしては、(a)ホスホン酸、(b)スルホン酸、(c)フルオロアルキルカルボン酸が含まれる。
【0055】
前駆体である酸ドーパントとしては、(a)o-ニトロベンジルスルホン酸塩側鎖(照射処理によりスルホン酸に変換される):図3参照、(b)ジアゾナフタキノンスルホン酸塩側鎖(照射処理によりインデンカルボン酸に変換される):図4参照、(c)ある種のオニウム塩等の光酸発生剤をホスホン酸塩、またはスルホン酸塩のエステル側鎖に組み込んだもの:図5参照、が含まれる。オニウム塩は、照射処理の後、強光酸を発生させ、スルホン酸塩またはホスホン酸塩のエステル脱離基を解離して対応する酸に変化させる。この点に関しては、例えば、A.Reiser "Photoactive polymers:the science and technology of resists," John Wiley & Sons, New York, 1989を参照されたい。
【0056】
本発明の共役ポリマーは、ポリ(アルキルチオフェン)やポリ(アルキルフルオレン)であってもよいし、これらをパートナーとするものであってもよい。共役ポリマーは、プロトン酸基であるドーパント基Yにより誘導される。好ましいプロトン酸基としては、ホスホン酸、スルホン酸、カルボキシル酸、または、これらの前駆体であってエステル、無水物、アジド、ヒドラジド、アミド、酸塩化物の形態であるものが挙げられる。照射処理、熱処理、または、当初から膜に含有された他の化学物質との反応、もしくは後から膜に組み込まれた他の化学物質との反応によって、前駆体の形態から活性化したプロトン酸の形態に変換される。さらに、酸基またはその前駆体は、アルキルスペーサまたはアリールスペーサによってポリマーの主鎖から離間したり、ポリマー鎖上に別個の官能単位として結合したりする。
【0057】
本発明に係る方法において用いられるドーパント基の他の好適な例には、TCNQ、DDQ、TTF、フェロセン、ビオロゲン、鉄(III)キレート、またはこれらの前駆体をベースとするレドックス基が挙げられる。前駆体は、照射処理、熱処理、または他の化学物質との反応によって活性化した形態に変換される。これらの基は、アルキルスペーサまたはアリルスペーサによってポリマーの主鎖から離間したり、ポリマー鎖上に別個の官能単位として結合したりする。レドックス基は、共役単位から電子を受け取ったり、共役単位に電子を放出したりすることによって、共役単位のp-ドーピングやn-ドーピングを行う。」
「【0063】
次に、本発明を図面を参照して例示的に説明する。
【実施例1】
【0064】
ポリ(p-キシレン-α-テトラヒドロチオフェン)前駆体の陰イオン交換を利用したポリ(p-フェニレンビニレン)の部分的ドーピング
この手法の一反応例を、図1に概略的に示す。この例は、本発明に係る第1実施形態を示すものである。
【0065】
[実施例1A]
部分的にドープされたPPVの調製
フェニルホスホン酸塩における塩化物の置換を行う方法:
メタノールにポリ(p-キシレン-α-テトラヒドロチオフェニウムクロライド)(PPV-Cl前駆体)が3w/v%の割合(繰り返し単位1.3mmol)で溶解された溶液10mlを、メタノールにフェニルホスホン酸が20w/v%の割合(13mmol)で溶解された溶液10mlと混合した。分子量が12000でカットする透析膜にこの混合物を通すことにより、純メタノールに対して透析した。これにより、透析膜に残留したポリ(p-キシレン-α-テトラヒドロチオフェニウムフェニルホスホン酸塩)前駆体(PPV-PA前駆体)が得られた。残留物を所望の濃度に濃縮した後、溶液からの成形(solution casting)を行うために所望の割合で元のポリ(p-キシレン-α-テトラヒドロチオフェニウムクロライド)と融和した。この方法によって、最終生成物のドーピングの程度を制御することが可能となる。
【0066】
物質の分析
(1)PPV-PA前駆体のメタノール溶液を少量蒸発させ、白色固体を得た。窒素下での熱重量分析では、この物質は、150℃?約300℃にかけて重量損失を示した。この結果は、元のポリ(p-キシレン-α-テトラヒドロチオフェニウムクロライド)が約200℃で重量損失が終了したのに対し、より広範囲の温度に亘るものであった。このことは、フェニルホスホン酸塩が塩化物に比して良好な脱離基を有しているという事実にも関わらず、室温では、PPV骨格からの消失が緩やかに進行することを示唆するものである。したがって、熱重量分析において熱安定性が大きい理由は、フェニルホスホン酸の蒸気圧が著しく低い(すなわち、蒸気損失がより少ない)ことによるものである。このことは、あらゆる温度においてフェニルホスホン酸が多量に残留することからも支持される。
【0067】
(2)PPV-PA前駆体のメタノール溶液をガラス基板上にスピンキャストし、真空下で2時間180℃で焼成して、共役PPVに変換した。X線光電子分光分析では、PAが残留していることが確認された。PAの7mol%(PPV繰り返し単位との相対量)という残留量は、元の物質中のClの残留量が0.5mol%未満であるのに比較して著しい量である。
【0068】
(3)10mol%PA+90mol%Clが融和されることにより調製されたPPV前駆体の薄膜の光熱偏向分光分析では、波長750nmで強度60cm-1のサブギャップ吸収が観察された。これは、ドーピングの程度(すなわち、イオン化ドーパントを取り込んだPPVの繰り返し単位の割合)が0.1mol%?0.01mol%であることに対応する。
【0069】
[実施例1B]
部分的にドープされたPPVを有するダイオード構造体
本発明による部分的ドーピングに関連し、導電率が向上したことを実証するため、表1に示される活性層(i)、(ii)と、インジウム-スズ酸化物/ポリ(3,4-ジオキシ-チオフェン)複合アノードと、カルシウムカソードとによりダイオード構造体を作製した。」
「【0071】
非ドープPPVポリマー(屈折率を変化させるためにシリカ粒子とともに分散させたもの)を使用した構造体(i)では、シリカ粒子により抵抗が上昇したことに起因して物質の薄膜に駆動電流を通すために高電圧が必要であった。これに対し、部分的にドープされたPPVを使用した構造体(ii)では、抵抗が明確にかつ著しく低減した。換言すれば、組み合わせたポリマーの薄膜が著しく厚い場合であっても、同等の駆動電圧で同等の電流密度とすることができる。ドーピングしない場合、必要電圧は薄膜の厚みの2乗に比例して増加すると予測される。したがって、構造体(ii)において電流密度を1μA/cm^(2)とするには、50Vを超える電圧が必要となる。
【0072】
なお、PPVのサブギャップスペクトル部分には有害な吸収がなかった。このことから、この材料が伝達可能なフォトニクス構造体に使用可能であることは明らかである。
【実施例2】
【0073】
ドーパント酸基を低量有する第2のポリマーとの融和による有機溶剤に可溶なポリ(p-フェニレンビニレン)とポリ(フルオレン)誘導体の部分的ドーピング
この手法の一反応例を、図2aに概略的に示す。
【0074】
[実施例2A]
部分的にドープされたPPVとポリフルオレンの調製
「第2のポリマー」としてのポリ(スチレンスルホン酸-コ-スチレン)コポリマー(PSSH-co-PS)を、ホストとしての[アルコキシフェニル-PPV]-co-[ジアルコキシ-PPV](P1)あるいはポリ(ジアルキルフルオレン-co-トリアリールアミン)(P2)に融和した。
【0075】
この例は、本発明に係る第2実施形態を示すものである。
【0076】
PSSH-co-PSの調製
0.5gのポリスチレン(繰り返し単位4.8mmol)を、表面がテフロン(登録商標)であるシリコーンゴム隔壁でシールされたホウケイ酸塩反応フラスコ内の無水クロロホルム5ml中に加熱しながら溶解した。その後、塩化カルシウムと氷水の浴で混合物を-8℃に冷却した。0.01mlのクロロスルホン酸(0.15mmol)を2mlのクロロホルムに溶解し、これをPSポリマー溶液に注入した。白色で曇った混合物が即座に生成した。混合物を室温まで加温して30分後に3mlの水を加え、それから混合物を随意還流した。反応を終了させるために40mlのトルエンを加えて、白色の析出物を洗浄した後に遠心分離によって2回分離した。析出物をテトラヒドロフランに溶解してトルエンから再析出させることにより、該析出物を精製した。この物質は、クロロホルムやメタノール、トルエンには溶解しなかったが、テトラヒドロフランには溶解した。そして、この場合、良質な膜を形成することができた。
【0077】
シリコン基板上に形成されたPSSH-co-PS薄膜についてのフーリエ変換赤外スペクトルにおける偏差から、1000?1200cm^(-1)に非対称または対称S-Oスルホン酸塩のバンドがあることと、840?860cm^(-1)に2-位の水素の縦ゆれ振動が出現することが認められた。このことは、PSSH-co-PSにおけるPSSHの1?2mol%をスルホン化することができたことを支持するものである。PSSHの割合が50mol%に増加した場合、結果的に、相互作用する物質が一般的な溶媒に溶解しないものとなる。PSSHの割合がさらに増加して100mol%近傍になった場合、物質は水にもメタノールにも溶解するようになる。したがって、PSSHの割合が10mol%未満と低いPSSH-co-PSは、共役ポリマーの割合によって様々な溶媒に溶解するようになり、このため、この材料におけるドーピングの程度を制御することができる。
【0078】
[実施例2B]
部分的にドープされたPPVまたはポリフルオレンを有するダイオード構造体
PSSHを2mol%含むPSSH-co-PSがホスト共役ポリマーの導電率を向上させることを実証するため、以下の活性層と、インジウム-スズ酸化物アノードと、アルミニウムカソードとによりダイオード構造体を作製した。選定したダイオードにおける駆動電圧と電流密度を表2に示す。
【0079】
【表2】


【0080】
ポリマーP1の1.05μm厚みの薄膜(すなわち、構造体(i)?(iii))を使用したデバイスでは、駆動電圧が実質的に低下した。例えば、ドーピングの程度が10w/w%であるPSSH-co-PSに関して言えば、電流密度が100μA/cm^(2)である場合の駆動電圧が47Vから9Vとなった。また、ホストポリマーのサブギャップスペクトル部分には、透過率の著しい損失は認められなかった(1%未満であった)。これは、PSSHドーパント対ポリマー繰り返し単位の割合がおよそ0.5mol%であることと、実際のドーピングの程度(すなわち、イオン化PSSH対繰り返し単位の割合)がポリマーのイオン化ポテンシャルに依存して一層低いことによるものである。
【0081】
ポリマーP2の1.65μm厚みの薄膜(すなわち、構造体(iv)?(v))を使用したデバイスでも同様に、駆動電圧が低下することが観察された。ドーピングの程度が1w/w%であるPSSH-co-PSに関して言えば、電流密度が100μA/cm^(2)である場合の駆動電圧が47Vから25Vとなった。この場合、ドーピングの程度が10w/w%であるPSSH-co-PSは、成膜した薄膜の良好でない性質により、明らかな相分離を起こした。
【0082】
これらの例は、ドーピングの程度を制御するために部分的に誘導されたポリマードーパントを融和することの有用性と、これによりフォトニクス構造体において共役ポリマーの導電率が向上することを実証するものである。
【実施例3】
【0083】
酸基を低量使用して部分的に誘導することによる部分的にドープされた有機溶媒に可溶なポリ(フルオレン)誘導体の調製
この手法の一反応例を、図2bに概略的に示す。
【0084】
[実施例3A]
部分的にドープされたポリフルオレンの調製
この実施例は、部分的にスルホン化されたポリ(フルオレン-コ-トリフェニルアミン)(SP2:Sはスルホン化を表す)の合成と使用は、本発明に係る第3実施形態を一般化して示すものである。
【0085】
SP2-co-P2の調製:
0.1gのP2(繰り返し単位0.25mmol)を、表面がテフロン(登録商標)であるシリコーンゴム隔壁でシールされたホウケイ酸塩反応フラスコ内の無水クロロホルム5ml中に加熱しながら溶解した。その後、塩化カルシウムと氷水の浴で混合物を-8℃に冷却した。その一方で、クロロスルホン酸をクロロホルムに溶解した。この際、クロロホルム1mlに対するクロロスルホン酸の量を0.0025ml(0.037mmol)とした。この溶液1mlを、P2ポリマー溶液に注入した。オレンジ色の溶液が即座に得られた。混合物を室温まで加温して30分後、40mlのアセトンを加えることにより白色の析出物を得た。析出物を遠心分離によって収集した後、該析出物をクロロホルムに溶解してメタノールから再析出させることにより精製した。このSP2-コ-P2は、クロロホルムやトルエン、テトラヒドロフランには溶解したが、メタノールとアセトンには溶解しなかった。
【0086】
シリコン基板上に形成されたSP2-co-P2薄膜についてのフーリエ変換赤外スペクトルにおける偏差から、(i)1355cm^(-1)、1175cm^(-1)に非対称または対称S-Oスルホン酸塩のバンドがそれぞれあること、(ii)905cm-1にS-Oバンドがあること、(iii)860?880cm^(-1)に1-位の水素の縦ゆれ振動が出現することが認められた。このことは、スルホン酸基によるSP2-co-P2のスルホン化が5?10mol%であることを支持するものである。
【0087】
この誘導体が元の物質に比して導電率が良好であることを実証するため、以下の活性層と、インジウム-スズ酸化物アノードと、アルミニウムカソードとによりダイオード構造体を作製した。選定したダイオードにおける駆動電圧と電流密度を表3に示す。
【0088】
【表3】


【0089】
例えば、スルホン酸基によるドーピングの程度が0.05mol%?0.1mol%である部分的にドープされたポリマーからなる1.1μm厚みの薄膜を使用したデバイスでは、電流密度が100μA/cm^(2)である場合の駆動電圧が31Vから21Vと著しく低減した。また、このポリマーP2のサブギャップスペクトル部分には、透過率の著しい損失は認められなかった。
【0090】
これらの例は、共役ポリマーのドーパント誘導体の程度を制御することの有用性と、これによりフォトニクス構造体において共役ポリマー薄膜の導電率が向上することを実証するものである。
【実施例4】
【0091】
薄膜を形成する前に、クロロホルムまたはテトラヒドロフランに適当量のo-ニトロベンジルブロミドとスルホン酸塩ポリマーとを反応させ、前駆体ドーパントとしてo-ニトロベンジルスルホン酸エステルを得たことを除いては、実施例2または3を繰り返した。その後、実施例2と同様にポリマーをホストポリマーに融和して、(実施例3と同様に)適切な清浄溶媒を使用し、薄膜を形成した。スルホン酸エステル基の前駆体を紫外線(UV)に露呈することによって解離させ、薄膜中に活性なスルホン酸基を生成させた。
【実施例5】
【0092】
薄膜を形成する前に、過剰量のジメチルサルフェート等のメチル化試薬とスルホン酸塩ポリマーとを反応させ、前駆体ドーパントとしてメチルスルホン酸エステルを得たことを除いては、実施例2または3を繰り返した。その後、低量のジフェニルヨードニウムクロライドや他のジアリールヨードニウムクロライド、トリアリールスルホニウム、または他のオニウム塩等の光酸(photoacid)発生試薬をポリマーに融和し、さらには、(実施例2と同様に)ホストポリマーに融和して、(実施例3と同様に)適切な清浄溶媒を使用し、薄膜を形成した。このポリマーを光に露呈するかまたは加熱することによって強酸を発生する光酸発生試薬に解離させ、さらにスルホン酸エステルを活性なスルホン酸に解離させた。」
「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】



(c)判断

補正発明9の導電性ポリマーについて本願明細書の「図6に、レドックス基であるドーパント基を含む本発明に係るポリマーの一例を示す。好ましくは、D’は、フェロセニウム(ferrocenium)またはビオロゲンである。OR’、OR”、X、nおよびyは、図1において定義した通りである。」(段落【0037】)、「本発明に係る方法において用いられるドーパント基の他の好適な例には、TCNQ、DDQ、TTF、フェロセン、ビオロゲン、鉄(III)キレート、またはこれらの前駆体をベースとするレドックス基が挙げられる。」(段落【0057】)、「Xは選択的に用いることができるアルキルスペーサ基またはアリールスペーサ基」(段落【0025】)、及び、【図6】の記載を参照すると、【図6】に記載のポリマーが補正発明9の導電性ポリマーに相当し、【図6】のD’の部分が補正発明9の「TCNQ(テトラシアノキノジメタン)を基材とするレドックスドーパント基」に対応し、D’-X-以外の部分が「共役ポリマー」に対応すると認められる。
そうすると、D’の部分にTCNQが含まれていることになるが、TCNQは、化合物であってXと結合可能な部位を有さないので、TCNQ自体がD’であるということはありえず、したがって、D’は、TCNQから何らかの原子または原子団を除くことによって得られる基、あるいは、TCNQに含まれているなんらかの原子を別の原子団に置き換えることによって得られる基、であると解することが妥当であるが、本願明細書には、それが具体的にはどのような基であるのかに関して何も記載がないし、参照できる技術常識も示されていないし、自明でもない。

D’について本願明細書には、「D’は、フェロセニウム(ferrocenium)またはビオロゲンである」や「ドーパント基の他の好適な例には、TCNQ、DDQ、TTF、フェロセン、ビオロゲン、鉄(III)キレート」との記載があるが、D’にフェロセニウムやビオロゲンが含まれている場合についてもD’の具体的な化学構造式などが記載されていないため、これらの記載をみても、TCNQを基材とするレドックスドーパント基を具体的にはどのような化学構造式を有する基にすればよいのか何も理解することができない。
また、ドーピング剤がホスホン酸基、スルホン酸基などのプロトン酸ドーピング剤(段落【0046】等)である場合については本願明細書に多くの記載があるものの、これらの基は、そもそも化合物ではなく基である点で「TCNQ(テトラシアノキノジメタン)を基材とするレドックスドーパント基」とは異なるので、これらの記載をみても、TCNQを基材とするレドックスドーパント基を具体的にはどのような化学構造式を有する基にすればよいのかに関し何も理解することができない。
結局、本願明細書全体を精査しても「TCNQ(テトラシアノキノジメタン)を基材とするレドックスドーパント基」を具体的にはどのような化学構造式を有する基にすればよいのかが理解できない。

(d)審判請求人の釈明
審判請求人は、審判請求書(第5頁12-19行)において、
「ここで、要点(ii)中の(c)においては、TCNQが共役ポリマーにどのように結合しているか明らかではなく、また、TCNQを共役ポリマーに結合させる方法が、出願時においてよく知られたことであるとはいえない、との指摘も受けている。要点(ii)中の(g)も略同旨である。
しかしながら、本願明細書には、TCNQがドープされた共役ポリマーが如何にして得られるかが詳述されている。すなわち、本願明細書の記載を参照した当業者であれば、TCNQが共役ポリマーにどのように結合しているかや、TCNQを共役ポリマーに結合させる方法等が明らかではない、ということにはならないと確信する。」と主張し、
平成25年10月9日提出の回答書(第2頁28行-第3頁14行)において
「また、レドックスドーパント基がドープされた共役ポリマーを如何にして得るかにつきましては、その製造方法の具体例が、当初明細書の段落[0063]?[0092]において実施例1?5として挙げられています。加えて、ドープの程度を如何にして制御するかについては、当初明細書の段落[0042]に明記があります。
従いまして、当業者であれば、実施例1?実施例5に準拠した操作を行うとともに、その際、当初明細書の段落[0042]に記載されるようにドーピング剤の添加量を規制することにより、「TCNQを基材とするレドックスドーパント基により0.001%?5%ドープされた共役ポリマー」が得られる、と認識し得るに至ります。
すなわち、本願明細書には、出願の当初から、「TCNQを基材とするレドックスドーパント基により0.001%?5%ドープされた共役ポリマー」の構成や、該共役ポリマーを得るための具体的手法が詳述されています。結局、本願明細書の記載を参照した当業者であれば、TCNQが共役ポリマーにどのように結合しているかや、TCNQを共役ポリマーに結合させる方法等を容易に把握することが可能です。」と主張している。

しかしながら、プロトン酸基のドーパント基は、レドックスドーパント基と同一に扱えるといえるものではないから、プロトン酸基であるスルホン酸基またはホスホン酸基に関する記載は、レドックスドーパント基であるTCNQ基の場合について何の参考にもならないことは上述したとおりであるし、本願明細書にはTCNQを共役ポリマーに結合させる方法等が具体的に記載されていないことも上述したとおりであるから、請求人の主張は採用できない。

(e)まとめ
以上のとおりであるから、本願明細書には、補正発明9の導電性ポリマーを当業者が製造可能な程度に明確かつ十分に記載がされているとはいえないから、本願明細書の記載は、当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。


(2-3)特許法第36条第6項第1号について
(a)本願明細書の記載事項
本願明細書には、上記(2-2)(b)に適示したとおりの記載がある。

(b)補正発明が解決しようとする課題
本願明細書の特に段落【0001】乃至【0003】及び【0011】の記載を参照すると、補正発明が解決しようとする課題は、「ポリマーのドーピングの程度を低規模または中規模に制御したポリマーを使用することによって、光電気デバイスでの使用において、有機半導体の光学的特性と電気的特性との間のバランスを良好なものとすること」であり、補正発明1は、「TCNQ(テトラシアノキノジメタン)を基材とするレドックスドーパント基により0.001%?5%ドープされた共役ポリマーからなることを特徴とする導電性ポリマー組成物。」を課題を解決するための手段とするものであると認められる。
なお、補正発明1の「0.001%?5%」とは、出願当初の特許請求の範囲の請求項1、本願明細書の段落【0014】、【0016】、【0018】の記載も参照すると、完全なドーピングを行う場合に必要となる量に対するレドックスドーパント基の量の割合を表すものであると認められる。

(c)判断
本願明細書には、補正発明1が課題を解決することができる発明であることに関し、一般的な説明(理論的な裏付けなど)が何も記載されていない。
また、本願明細書には補正発明1の実施例が1つも記載されていないので、補正発明1の導電性ポリマー組成物がどのような光学的特性と電気的特性を有するのかについて具体的に確認することができないし、実施例で確認するまでもなく光電気デバイスでの使用において、有機半導体の光学的特性と電気的特性との間のバランスが良好であるといえるような技術常識も示されていない。
なお、本願明細書の記載の大部分は、ドーピング剤がホスホン酸基、スルホン酸基などのプロトン酸ドーピング剤(段落【0046】等)である場合、すなわち、ホスホン酸基、スルホン酸基などの基が有するプロトンによってドーピングを行う場合に関するものであって、レドックス反応でドーピングを行う補正発明1とはドーピングの原理が異なるので、仮にこれらの場合において課題を解決することができるとしても、補正発明1においても課題を解決することができるとはいえない。

以上のとおりであるから、補正発明1は、明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明により当業者が前記課題を解決できると認識できる範囲のものではないから、特許請求の範囲の記載は、明細書のサポート要件に適合するものとはいえない。

(2-4)むすび
以上のとおりであるから、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない出願であり、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない出願であるから、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件手続補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
上記のとおり、平成25年4月10日提出の手続補正書による手続補正は却下されたので、本願の請求項1?21に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」乃至「本願発明21」という。)は、平成24年6月25日提出の手続補正書による手続補正書により補正された、特許請求の範囲の請求項1?21に記載されたとおりのものであり、そのうち本願発明1は、以下のとおりのものである。

<本願発明1>
「レドックスドーパント基により部分的にドープされた共役ポリマーからなることを特徴とする導電性ポリマー組成物。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、平成23年12月21日付け拒絶理由通知書に記載した以下の理由1を含むものである。

「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

(理由1、2)
・請求項 1-3
・引用文献等 1

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開昭52-079255号公報 」

3.当審の判断
(1)刊行物および刊行物の記載
本願の優先日前に頒布されたことが明らかな刊行物である特開昭52-079255号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の記載がされている。
(ア)
「70乃至95重量%で7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン錯塩をビニルピリジン及びその誘導体のいずれか一方の重合体に含有せしめた電導性重合体組成物を固体電解質に含むことを特徴とする固体電解コンデンサー。」(特許請求の範囲)
(イ)
「本発明による4-ビニルピリジン、2-ビニルピリジン等のビニルピリジンおよびその誘導体の重合体とTCNQ錯塩とから成る電導性重合体組成物は密着性、安定性において固体電解コンデンサーの電解質として充分使用に耐える特性を有している。」(2頁右下欄6?10行)
(ウ)
「また、ビニルピリジンおよびその誘導体の重合体はTCNQ錯塩と適度な相互作用を有しTCNQ錯塩を有効に分散させ、N,N-ジメチルホルムアミド溶液からフイルムを形成するとTCNQ錯塩の結晶の析出が押さえられる。ビニルピリジン重合体のピリジン核が有する窒素原子は孤立電子対を持っており、電子の密度が高い。これに対し、TCNQ分子のπ軌道は電子の密度が低く、相互に引き合う。いわゆるn-π型の電荷移動相互作用を有する。これが、ビニルピリジン重合体とTCNQ錯塩とを結びつける適度な相互作用となる。この相互作用はビニルピリジンおよびその誘導体の重合体を用いることによって始めて発現するものであり、窒素含有重合体の中でも特に著しい効果を発現する。」(2頁右下欄16行?3頁左上欄10行)
「実施例1
Ta粉末の焼結体をリン酸水溶液中、100Vで陽極酸化する、N-メチルアクリジニウムTCNQ錯塩とポリ4ビニルピリジンを所定の組成比で含有するN,N-ジメチルホルムアミド溶液を調製し、電解質溶液とする。」(3頁右上欄15?20行)
そして、第1表には、Nメチルアクリジニウム:ポリ4ビニルピリジンについて40:60比のものが記載されている。

(2)刊行物1に記載された発明
上記記載からみて、刊行物1には「70乃至95重量%で7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン錯塩をビニルピリジン及びその誘導体のいずれか一方の重合体に含有せしめた電導性重合体組成物」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)対比判断
本願発明1と引用発明とを対比する。
本願明細書の「本発明に係る共役ポリマーは、ホモポリマーであってもよいし、コポリマーであってもよい。また、共役ポリマーの融和材料または複合材料であってもよい。本発明では、共役ポリマーを、部分的あるいは完全なπ共役骨格および/またはπ共役ペンダント基を有するものと定義する。」(段落【0039】)との記載を勘案すると、引用発明のビニルピリジンの重合体は、側鎖にπ共役ペンダント基を有するポリマーであるから、本願発明1の共役ポリマーに相当する。
本願発明1の「レドックスドーパント基」は、「前記レドックスドーパント基が前記共役ポリマーに対して化学的に結合している」(本願発明12)との限定を有さないこと、「混合物中で前記共役ポリマーと融和されたもの」(本願発明9)である場合を含むこと、「融和」の意味は、「融和(blend)」(本願の出願当初の請求項18)であること、及び、「ドーパント部分の他の好適な例には、TCNQ、DDQ、TTF、フェロセン、ビオロゲン、鉄(III)キレート、またはこれらの前駆体をベースとするレドックス基が挙げられる。前駆体は、照射処理、熱処理、または他の化学物質との反応によって活性化した形態に変換される。」(段落【0057】)との記載を勘案すると、(共役ポリマーに混合されている)TCNQやその前駆体化合物を含むものであり、引用発明の「7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン錯塩」は、TCNQの化合物であって、電導性重合体組成物を得るために4-ビニルピリジン、2-ビニルピリジン等のビニルピリジンおよびその誘導体の重合体に混合されている化合物であることを勘案すると、引用発明の「7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン錯塩」は、本願発明1の「レドックスドーパント基」に相当する。

そうすると、本願発明1と引用発明は、「レドックスドーパント基によりドープされた共役ポリマーから成る導電性ポリマー組成物」の点で一致し、レドックスドーパント基によるドープについて、本願発明が「部分的に」と規定しているのに対し、引用発明においては、そのような規定を有していない点で一応相違している。

相違点について、検討する。
本願発明の「部分的」とは、どの程度を示すのかに関し、定義はされていないが、本願明細書には「ポリマーの系にもよるが、ドーピングが最大限に行われた場合、ドーピングの程度は、共役繰り返し単位の約10?50%に及ぶ。」(段落【0002】)との記載があることから、ドーピング剤を最大限に添加してもドーピングの程度は、共役繰り返し単位の約10?50%に止まるのであって100%にはならない(部分的である)と解することが妥当であるから、引用発明においてもドーピングの程度は、部分的であるといえるので、この点は、実質的な相違点ではない。

(4)むすび
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明である。

4.まとめ
よって、本願発明は、刊行物1(引用文献1)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項3号の規定に該当し、特許を受けることができない。

第4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-03 
結審通知日 2013-12-10 
審決日 2013-12-24 
出願番号 特願2007-324548(P2007-324548)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08G)
P 1 8・ 537- Z (C08G)
P 1 8・ 536- Z (C08G)
P 1 8・ 575- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阪野 誠司  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 小野寺 務
加賀 直人
発明の名称 ポリマーのドーピング方法  
代理人 坂井 志郎  
代理人 大内 秀治  
代理人 宮寺 利幸  
代理人 山野 明  
代理人 仲宗根 康晴  
代理人 千葉 剛宏  

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