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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N |
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管理番号 | 1287971 |
審判番号 | 不服2012-6124 |
総通号数 | 175 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-07-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-04-05 |
確定日 | 2014-05-20 |
事件の表示 | 特願2007-517200「ローソニアイントラセルラリスの診断方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年2月9日国際公開,WO2006/012949,平成20年2月7日国内公表,特表2008-503737〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明 本願は,平成17年6月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成16年6月24日,同年11月16日,欧州特許庁)を国際出願日とする国際特許出願であって,平成22年8月24日付けで拒絶理由が通知され,同年11月30日付けで意見書が提出されるととに同日付で手続補正がなされ,さらに,平成23年3月4日付けで拒絶理由が通知され,同年9月6日付けで意見書が提出されるととに同日付で手続補正がなされたが,同年12月1日付で拒絶査定がなされ,これに対し,平成24年4月5日に拒絶査定不服の審判請求がされたものである。 そして,その請求項1に係る発明は,平成23年9月6日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるもので,以下のとおりのものであると認められる。 「【請求項1】 哺乳類(ただし人間を除く)の臨床または臨床前(病状発現前)のローソニアイントラセルラリス(Lawsonia intracellularis)感染を診断する方法であって、下記工程を含む方法: a)前記哺乳類から採取した液体試料中の、ローソニアイントラセルラリスに対する抗体の特異的な結合を、ブロッキングELISA法により検出する工程であって、ローソニアイントラセルラリスに対し特異的に結合する、一または複数のモノクローナル抗体を使用する、上記工程、 b)工程a)で得られた結果をコントロールと比較する工程。」(以下「本願発明」という。) 第2 引用刊行物及びその記載事項 本願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特表平11-507225号公報(以下「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。なお,以下の摘記事項においては,下記の引用発明の認定に関連する箇所に下線を付与した。 (1-ア) 「【特許請求の範囲】 ・・・・・ 15.ローソニア・イントラセルラリス細菌に感染している培養細胞を得、約0%?約18%の酸素濃度で上記感染細胞をインキュベートし、上記感染細胞を懸濁状態に維持しながら、上記感染細胞を攪拌して上記ローソニア・イントラセルラリスを培養し、上記培養ローソニア・イントラセルラリス細菌の少なくとも一部を収穫し、動物から生物学的試料を得、上記試料を、収穫したローソニア・イントラセルラリス細菌又は該細菌由来の成分と、上記生物学的試料内に存在する抗体が上記ローソニア・イントラセルラリス又は上記成分と反応する条件下で接触させ、抗原-抗体反応が起こるかどうかを検出し、それによって上記試料中のローソニア・イントラセルラリスの抗体の存在を検出する、生物学的試料中のローソニア・イントラセルラリス細菌と特異的に反応する抗体の存在を検出する方法。」 (1-イ) 「発明の分野 本発明は、抗-ローソニア・イントラセルラリス(Lawsonia intracellularis)ワクチン、ローソニア・イントラセルラリス感染に対する予防及び診断方法に関する。本発明の産物及び方法は、一部は、ローソニア・イントラセルラリスの大量供給の培養に見い出された改良方法の結果として達成される。 関連技術の説明 ブタ増殖性腸疾患(PPE)の原因物質である、ローソニア・イントラセルラリスは、人間、ウサギ、フェレット、ハムスター、狐、馬及びダチョウ及びエミューと同じ位多様性のある他の動物を含む、実質的に全ての動物に影響を及ぼす。」(5頁4?13行) (1-ウ) 「また、PPEの効果的な診断は、原因となる細菌の培養に必要な時間によって妨げられる。本発明の結果として、PPEに感受性のブタ及び他の動物から得られた生物学的試料中のローソニア・イントラセルラリスの存在についての迅速且つ正確な検定を促進する診断手段の開発が、今、可能となる。 本発明の方法により増殖したローソニア・イントラセルラリス細菌、又はそのような細菌由来の成分は、該細菌に感染していると思われる動物の血清及び他の体液中のローソニア・イントラセルラリスに対する抗体を検出するために、免疫経口抗体試験(IFA)等のELISA又は他の免疫検定において抗原として用いることができる。目下、好ましい免疫検定は以下の実施例に記載するようにIFAである。また、本発明に従って増殖した細菌はウエスタンブロット検定において用いることができる。 本発明の態様による好ましいELISAプロトコールは以下の通りである。 1. コーティングバッファー中に希釈した抗原を0.1ml/ウエルになるように加える。4℃で18時間インキュベートする。 2. PBSで3回洗浄する。 3. プレートの各ウエルに0.25mlのブロッキングバッファーを加える。37℃で1?2時間インキュベートする。 4. 洗浄バッファーで3回洗浄する。 5. 血清をブロッキングバッファーで希釈し、プレートの最初のウエルに0.1mlを加える。プレート上で1:2の連続希釈をする。37℃で1時間インキュベートする。 6. 洗浄バッファーで3?5回洗浄する。 7. コンジュゲートをブロッキングバッファーで希釈し、プレートのウエルに0.1ml加え、37℃で1時間インキュベートする。 8. 洗浄バッファーで3?5回洗浄する。 9. 基質を加える。 12.分光光度計で光の吸光度を測定する。 13.抗原を加えないウエルをブランクとして用いる。 14.陽性及び陰性コントロールブタ血清も、各試験に用いる。」(17頁15行?18頁15行) (1-エ) 「実施例1 ブタ増殖性腸疾患を有するアメリカブタの腸からのローソニア・イントラセルラリスの分離 材料及び方法: 接種材料試料の選択: 試料N24912は、5ヶ月齢のフィッシャーブタ300頭のうちの15頭がペニシリン治療にもかかわらず、持続的な血便を有することが観察された、アイオワ州の農場における家畜の群れから得られた。」(19頁3?10行) 上記引用例1の記載事項を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。 「ローソニア・イントラセルラリス感染に対する診断方法において, 生物学的試料中のローソニア・イントラセルラリス細菌と特異的に反応する抗体の存在を検出する方法であって, 以下のELISAプロトコールによって行われる方法。 1. コーティングバッファー中に希釈した抗原を0.1ml/ウエルになるように加える。4℃で18時間インキュベートする。 2. PBSで3回洗浄する。 3. プレートの各ウエルに0.25mlのブロッキングバッファーを加える。 37℃で1?2時間インキュベートする。 4. 洗浄バッファーで3回洗浄する。 5. 血清をブロッキングバッファーで希釈し、プレートの最初のウエルに0.1mlを加える。プレート上で1:2の連続希釈をする。37℃で1時間インキュベートする。 6. 洗浄バッファーで3?5回洗浄する。 7. コンジュゲートをブロッキングバッファーで希釈し、プレートのウエルに0.1ml加え、37℃で1時間インキュベートする。 8. 洗浄バッファーで3?5回洗浄する。 9. 基質を加える。 12.分光光度計で光の吸光度を測定する。 13.抗原を加えないウエルをブランクとして用いる。 14.陽性及び陰性コントロールブタ血清も、各試験に用いる。」(以下「引用発明」という。) 第3 対比・判断 1 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「ローソニア・イントラセルラリス感染に対する診断方法」とは,摘記(1-イ)及び(1-ウ)の記載から,具体的には,ローソニア・イントラセルラリス細菌が原因物質となる動物におけるブタ増殖性腸疾患(PPE)の診断方法のことであるから,本願発明の「哺乳類(ただし人間を除く)の臨床または臨床前(病状発現前)のローソニアイントラセルラリス(Lawsonia intracellularis)感染を診断する方法」に相当する。 イ 引用発明の「生物学的試料中」とは,摘記(1-ウ)に「動物の血清及び他の体液中」と記載されているとおり,本願発明の「前記哺乳類から採取した液体試料中」に相当する。 ウ 引用発明の「ローソニア・イントラセルラリス細菌と特異的に反応する抗体の存在を検出する」ことは,本願発明の「ローソニアイントラセルラリスに対する抗体の特異的な結合を」「検出する」に相当する。 エ 「ELISA」とは「Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay」(当審訳:酵素結合免疫吸着分析)の略語であり,本願明細書でも「ELISA試験(酵素結合した免疫吸着剤アッセイ)」(【0031】)と記載されているから,引用発明の「ELISAプロトコールによって行われる方法」と,本願発明の「ブロッキングELISA法」とは,「ELISA法」ということで共通するものである。 オ 引用発明の「13.抗原を加えないウエルをブランクとして用いる。」とは,「抗原を加えない」ものをコントロールとしたウエルを基準として試験結果と比較することであるから,本願発明の「得られた結果をコントロールと比較する」に相当している。 してみれば,本願発明と引用発明とは, (一致点) 「哺乳類(ただし人間を除く)の臨床または臨床前(病状発現前)のローソニアイントラセルラリス(Lawsonia intracellularis)感染を診断する方法であって、下記工程を含む方法: a)前記哺乳類から採取した液体試料中の、ローソニアイントラセルラリスに対する抗体の特異的な結合を、ELISA法により検出する工程、 b)工程a)で得られた結果をコントロールと比較する工程。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 (相違点) ELISA法が,本願発明では,ローソニアイントラセルラリスに対する抗体の特異的な結合を,「ローソニアイントラセルラリスに対し特異的に結合する、一または複数のモノクローナル抗体を使用する」「ブロッキング」ELISA法により検出しているのに対し,引用発明ではELISA法により検出しているものの, 「1. コーティングバッファー中に希釈した抗原を0.1ml/ウエルになるように加える。4℃で18時間インキュベートする。 2. PBSで3回洗浄する。 3. プレートの各ウエルに0.25mlのブロッキングバッファーを加える。 37℃で1?2時間インキュベートする。 4. 洗浄バッファーで3回洗浄する。 5. 血清をブロッキングバッファーで希釈し、プレートの最初のウエルに0.1mlを加える。プレート上で1:2の連続希釈をする。37℃で1時間インキュベートする。 6. 洗浄バッファーで3?5回洗浄する。 7. コンジュゲートをブロッキングバッファーで希釈し、プレートのウエルに0.1ml加え、37℃で1時間インキュベートする。 8. 洗浄バッファーで3?5回洗浄する。 9. 基質を加える。 12.分光光度計で光の吸光度を測定する。」(以下,当該1.?12.の工程を「引用発明のELISA工程」という。)が,「ローソニアイントラセルラリスに対し特異的に結合する、一または複数のモノクローナル抗体を使用する」「ブロッキング」ELISA法なのかどうか不明である点。 2 当審の判断 上記相違点について判断するに当たり,まず,「ブロッキングELISA法」の周知性について検討する。 本願の優先日前に頒布された刊行物である,H. Zakrzewski, D. H. Cybinski and P. J. Walker,「A blocking ELISA for the detection of specific antibodies to bovine ephemeral fever virus」(当審訳:牛流行熱ウイルスに対する特異抗体を検出をするためのブロッキングELISA),Journal of Immunological Methods, 151(1992), p.289-297(以下「周知例2」という。)には,次の事項が記載されている。 (2-ア) 「A blocking ELISA (B/ELISA) for detecting antibodies to bovine ephemeral fever virus (BEFV) in cattle is described. In this test, the binding capacity of a monoclonal antibody specifie for an epitope on antigenic site G1 of the BEF virus glycoprotein is blocked in the presence of positive serum. 」(289頁1?3行) (当審訳:畜牛の牛流行熱ウイルス(BEFV)の抗体を検出するブロッキングELISAについて記載する。この試験では,BEFウイルスの糖タンパク質の抗原性部位G1の抗原決定基に対して特異性を有するモノクローナル抗体の結合が,陽性の血清によってブロックされる。」 (2-イ) 「ELISA Immulon MICROELISA plates (Dynatech, West Germany, 655061)were coated with approximately 1.0 p.g/ml antigen in 100 mM sodium carbonate buffer pH 9.6 (Voller et al., 1979) and were incubated overnight at 4℃. After decanting the antigen, unbound sites were blocked with 1% gelatin (Bio Rad) in PBS pH 7.2 containing 0.05% Tween 20 (PBS/T/G) at room temperature (RT) for 2 h. The plates were then washed 3 times in PBS/T. Bovine sera diluted 1/8 were added, followed by a calibrated dilution of biotinylated monoelonal antibody (b-MAb) DB5 to give an absorbance between 0.4 and 0.6 and then biotinylated streptavidin horseradish peroxidase complex (Amersham, UK) diluted 1/1000. Incubations were at RT for 2 h, 1 h and 1 h duration respectively and were followed by 3 washes of the wells in PBS/T. Colour was developed by adding 5-aminosalicylic acid (Ellens and Gielkens, 1980) containing 0.02% hydrogen peroxide and the absorbance was measured at 492 nm after 30 min at RT. Throughout the test, the diluent was PBS/T/G and the volume was 200μl/well, except in the blocking step in which 250μl/well was used. The results were expressed as percentage inhibition and calculated as follows: Percentage inhibition = 100- [OD(test serum reaction)×100] OD(no serum reaction) 」(291頁左欄6?34行) (当審訳:ELISA Immulon MICROELISA プレート(Dynatech,西独,655061)を,pH9.6の100mMの炭酸ナトリウム緩衝液(Voller他,1979)で希釈された約1.0p.g/mlの抗原で被覆して、4℃で一晩インキュベートした。抗原が注がれた後,結合されない部位は,室温で2時間,0.05% Tween 20 (PBS/T/G)を含むpH7.2のPBS緩衝液中で,1%ゼラチン(Bio Rad)でブロックされた。プレートは,PBS/T緩衝液で3回洗浄された。1/8に希釈された牛の血清が添加され,さらに,0.4?0.6の吸光度となるようにビオチン化されたモノクローナル抗体(b-MAb) DB5と,1/1000に希釈されたストレプトアジピンのHRP複合体(Amersham, UK)が添加された。室温でそれぞれ,2時間,1時間,1時間インキュベートされ,PBS/T緩衝液でウエルは3回洗浄された。0.02%の過酸化水素を含む5-アミノサリチル酸(Ellens and Gielkens, 1980)の添加によって発色し,室温で30分した後,492nmで吸光度を測定した。試験は,PBS/T/Gで希釈され,ウエルの体積は250μl/wellで行ったが,ブロックする際のウエルは250μl/wellが使われた。試験結果は,抑制率として表され,次のように計算された: 抑制率 = 100- [OD(試験血清反応)×100] OD(血清がない時の反応) ) (2-ウ) 「However, it can be concluded that the greater simplicity and sensitivity of the B/ELISA when compared with the VN test would make it the preferred test for the diagnosis and monitoring of clinical BEF.」(296頁右欄26?30行) (当審訳:しかしながら,ブロッキングELISAは,VN試験と比較して,非常に簡単で感度がいいことから,臨床でBEFを診断,監視する際には,より好ましい試験であるということが結論づけられる。」 本願の優先日前に頒布された刊行物である,Ahmad Afshar, Frederick C. Thomas, Peter F. Wrightl, Janet L. Shapiro, John Anderson and Robert W. Fulton,「Blocking dot-ELISA, using a monoclonal antibody for detection of antibodies to bluetongue virus in bovine and ovine sera」(当審訳:牛又は羊の血清における青舌病ウイルスの抗体を検出するためのモノクローナル抗体を使ったブロッキングdot-ELISA」,Journal of Virological Methods, 18 (1987) p.271-280(以下「周知例3」という。)には,次の事項が記載されている。 (3-ア) 「A modified solid phase blocking enzyme immunosorbent assay (ELISA), using a monoclonal antibody (McAb) against the group specific bluetongue virus (BTV) antigen is described for detection of anti-BTV antibodies in cattle and sheep sera.」(271頁2?4行) (当審訳:群特異的青舌病ウイルス(BTV)抗原に対するモノクローナル抗体(McAb) を使用した,改良された固相のブロッキングELISAは,畜牛又は羊血清における抗BTV抗体の検出に対するものとして説明される。) (3-イ) 「Unlike other ELISAs (Manning and Chen, 1980; Hubschle et al.,1981; Poli et al., 1982; Anderson, 1984), this visually read technique is cost effective, antigen and reagent conservative, does not require sophisticated equipment and requires less training of technical support.」(277頁20?23行) 「当審訳:他のELISAs(Manning and Chen, 1980; Hubschle et al.,1981; Poli et al., 1982; Anderson, 1984)と違って,この技術は,費用面で効果的,抗原及び試薬が保存性があり,高度な実験器具を必要とせず,技術的サポートについて訓練を必要とするものではないことが,一見して分かる。」 (3-ウ)「Although the test results might be recorded and indeed quantitated by use of a reflectance densitometer (Towbin and Gordon, 1984; Furuya et al., 1984) or chromatoscanner (Hibi and Saito, 1985), we feel that the utility of the test lies in its simplicity and rapidity in obtaining a positive/negative type answer.」(277頁23?27行) (当審訳:試験結果は,記録され得,そして,実際に反射濃度計 (Towbin and Gordon, 1984; Furuya et al., 1984)またはクロマトスキャナー(Hibi and Saito, 1985)を使用することにより定量化できるけれども,この試験の利便性は,試料が陽性であるか陰性あるかの試験結果を得る際に,簡単で迅速であるという点にあると考える。) 本願の優先日前に頒布された刊行物である,名服部昌志, 大瀬戸光明, 山下育孝, 森正俊, 井上博雄, 菊地正健,「愛媛県内の家畜におけるC群ロタウイルスの血清疫学」,愛媛県立衛生研究所年報,平成7年11月発行,No.56(1994),p.7-10 (以下「周知例4」という。)には,次の事項が記載されている。 (4-ア) 「(1) 被検血清 ア 各種家畜の血清 1988年,1994年に愛媛県内各地で採取されたブタ(繁殖豚),ウシ(乳牛,肉牛)およびニワトリ(採卵鶏)の血清340検体(表1,2)」 (4-イ) 「(2) ブロッキングELISA ア 抗原:CaCo-2細胞を用いてヒト糞便より分離培養,増殖させ精製して得たC群ヒトロタウイルス(E93株) イ ビオチン化抗C群ヒトロタウイルスモノクローナル抗体:E93株をマウスに免疫して作製したモノクローナル抗体を常法によりビオチン化した。 ウ 試薬:1炭酸緩衝液:0.05M,pH9.6 2ブロッキング液:5%ウシ胎児血清,2.5%skim milk加PBS 3洗浄液:0.05%Tween20加PBS(PBS/T) 4被検血清等の希釈液:2.5%skim milk加PBS/T 5ペルオキシターゼ標識ストレプトアビジン(TAGO製) 6基質溶液o-フェニレンジアミン,H_(2)O_(2)加クエン酸緩衝液 エ 術 式 ブロッキングELISA法を用いることにより各種動物血清に対する二次抗体を必要とせず,同様の操作による抗体検出を可能とした.(図1) ビオチン化抗体の反応を吸光度50%阻止する被検血清の希釈倍数を,ELISA抗体価とし,10倍未満のものを陰性とした。」(なお,上記「ウ」の1?6の数字は,原文では○囲み数字として記載されている。)(8頁左欄4?23行) (4-ウ) 「C群ヒトロタウイルス培養(CaCo-2細胞) ↓ ウイルス精製 ↓ ウイルス抗原の固相化(37℃,120分) ↓洗浄 ブロッキング(5%FCS-PBS-Tween) ↓洗浄 希釈被検血清(10倍,40倍,160倍,640倍)50μl(室温30分) ↓ ビオチン化抗C-HRVモノクローナル抗体(1:10000)50μl(室温30分) ↓洗浄 ペルオキシターゼ標識ストレプトアビジン ↓洗浄 基質溶液 ↓ 反応停止,吸光度測定 図1 C群ロタウイルス抗体検出(ELAISA)」(8頁右欄図1) 周知例2の摘記(2-ア)の「ブロッキングELISA」における「BEFウイルスの糖タンパク質の抗原性部位G1の抗原決定基に対して特異性を有するモノクローナル抗体」は,BEFウイルスであるウイルス抗原に対し特異的に結合するモノクローナル抗体である。周知例3の摘記(3-ア)の「群特異的青舌病ウイルス(BTV)抗原に対するモノクローナル抗体(McAb) を使用した,改良された固相のブロッキングELISA」について,「改良された固相のブロッキングELISA」は「ブロッキングELISA」の範疇のものであり,「群特異的青舌病ウイルス(BTV)抗原に対するモノクローナル抗体(McAb) 」は,群特異的青舌病ウイルス(BTV)抗原に対し特異的に結合するモノクローナル抗体であることは明らかである。そして,周知例4の摘記(4-イ)の「ブロッキングELISA」における「ビオチン化抗C群ヒトロタウイルスモノクローナル抗体」は,C群ヒトロタウイルス抗原に対し特異的に結合するモノクローナル抗体であることは明らかである。 また,周知例2の「畜牛」,周知例3の「畜牛又は羊」,周知例4の「ブタ(繁殖豚),ウシ(乳牛,肉牛)およびニワトリ(採卵鶏)」は,いずれも家畜であり,周知例2の「牛流行熱ウイルス」,周知例3の「青舌病ウイルス」,周知例4の「C群ロタウイルス」は,いずれも「家畜」において感染し,発症するウイルス抗原である。 してみれば,周知例2?4の記載から,家畜において感染するウイルス抗原に対する血清中の抗体を検出するために,そのウイルス抗原に対し特異的に結合する、一または複数のモノクローナル抗体を使用したブロッキングELISA法を用いることは,本願の優先日前に周知の方法といえる。そして,当該方法は,摘記(2-イ)に「非常に簡単で感度がいいことから,臨床でBEFを診断,監視する際には,より好ましい試験である」,摘記(3-イ)に「費用面で効果的,抗原及び試薬が保存性があり,高度な実験器具を必要とせず,技術的サポートについて訓練を必要とするものではない」,摘記(3-ウ)に「この試験の利便性は,試料が陽性であるか陰性あるかの試験結果を得る際に,簡単で迅速である」,摘記(4-イ)に「各種動物血清に対する二次抗体を必要とせず」と記載されているように,家畜において感染し,発症するウイルス抗原を検出する方法として,他の方法に比べて,簡単で,感度がよく,迅速で,経済的な方法であることも周知のことといえる。 一方,引用発明は,摘記(1-エ)に記載されているように,家畜に適用されるものであり,摘記(1-ウ)に「迅速且つ正確な検定を促進する診断手段の開発」と記載されていることから,簡単で,感度がよく,迅速で,経済的な方法であることが求められるものであることは明らかである。してみれば,引用発明において,「引用発明のELISA工程」に替えて,上記周知の「ウイルス抗原に対し特異的に結合する、一または複数のモノクローナル抗体を使用したブロッキングELISA法」を用いることは十分に動機付けのあることであり,その際,引用発明においてウイルス抗原はローソニアイントラセルラリスであるから,上記相違点である「ローソニアイントラセルラリスに対し特異的に結合する、一または複数のモノクローナル抗体を使用する」「ブロッキング」ELISA法を用いることは,当業者が容易になし得たことである。 なお,本願明細書で「ブロッキングELISA法」が記載されているのは【0045】であり,以下のように記載されている。 「1.1.2 ブロッキングELISA法 精製し、かつHRP結合したmABについて、ELISA法によりローソニア陽性豚血清によりブロックされる能力を試験した。 -ELISAプレートを、希釈率1/200、100μl/ウェルでローソニア抗体により被覆した。 -豚血清を1/10、100μl/ウェルに希釈した。 -HRP結合mAbを希釈し、添加した(100μl/ウェル) 結果を、下記式に従う抑制率(PI)で表した。 PI=1-(OD試料/ODmAb)x100.」 ここで,「ELISAプレートを、希釈率1/200、100μl/ウェルでローソニア抗体により被覆した。」について,下線部に対応する部分は,国際出願時の外国語の原文では「antigen」と記載されていることから,「抗原」の誤記であると判断することが相当といえる。また,【0047】には,PI=1-(OD試料/ODmAb)x100で計算されるPIの値が記載されているが,例えば,#26(実験的)については,57,78,74,42,72の値が記載されており,当該式がこれらの値となることは数学的にあり得ないことから,PI=100-(OD試料/ODmAb)x100のように「1」が「100」の誤記であると判断することが相当といえる。 本願明細書の上記記載から本願発明の「ブロッキングELISA法」を判断しても,上記周知例2の(2-イ)には,上記抑制率を計算して,血清中の抗体を検出していることことから,本願発明について当業者が容易になし得たとの判断には変わりはない。 また,拒絶査定の備考欄では,主に「引例2」(国際公開第2004/033631号)について言及されているが,同欄には「また、引例1ないし5に記載されているように、ローソニア・イントラセルラリスに対するモノクローナル抗体を産出するハイブリドーマを得ること自体は周知の事項である。そうすると、本願発明は、引例1ないし5に記載された発明から当業者が容易になし得たものであるといえ、その効果も予測の域をでない。」(ここで,「引例1」が上記「引用例1」である。)と記載され,そして,拒絶査定の理由が記載されている平成23年3月4日付けで拒絶理由通知書において「引例1には、ローソニア・イントラセルラリスの診断方法として、生物試料中の抗体の存在を検出する構成が記載されており(請求項15,第17ページ)、さらに、抗ローソニア・イントラセルラリスモノクローナル抗体も記載されている(第29ページ)。」と指摘し,請求人も,審判請求の理由で「出願人は以上のとおり、引用例1?5には本願発明の構成が開示も示唆もされていないと考えますが、念のために、引用例1?5において、補正後の本願発明に最も近いと思われる技術と考えられる引用例1に記載の発明と本願発明との相違について説明いたします。」と記載されているとおり,請求人においては,引用例1については既に十分に検討していることである。さらに,審判請求の理由で「ブロッキングELISA法は、当業者によく理解されており、また使用されている用語です。・・・・・。なお、請求人は、『ブロッキングELISA法』という用語自体は多数の特許文献内でも使用されており、当該技術分野において熟した用語であり、その意味するところが上述したような法法を意味することは明らかであると確信しております。」と記載しているように,ブロッキングELISA法の周知性についても十分に検討している。 してみれば,引用例1の記載から引用発明を認定し,これにブロッキングELISA法の周知技術を考慮して,本願発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるかどうか判断することに,特許法第159条第2項の規定に違反するような手続違反はないものである(例えば,平成24年(行ケ)第10098号,等参照。)。 3 まとめ したがって,本願発明は,引用発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明することができたものである。 第4 むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そうすると,他の請求項について言及するまでもなく,本願は,拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり,審決する。 |
審理終結日 | 2013-11-28 |
結審通知日 | 2013-12-02 |
審決日 | 2013-12-26 |
出願番号 | 特願2007-517200(P2007-517200) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G01N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山村 祥子 |
特許庁審判長 |
岡田 孝博 |
特許庁審判官 |
郡山 順 三崎 仁 |
発明の名称 | ローソニアイントラセルラリスの診断方法 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 浅井 賢治 |