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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 A47G |
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管理番号 | 1288504 |
審判番号 | 無効2013-800046 |
総通号数 | 175 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-07-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2013-03-22 |
確定日 | 2014-06-26 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4942437号発明「高吸水高乾燥性パイルマット」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 平成18年9月20日 本件特許に係る出願 平成24年3月9日 特許権の設定登録(特許第4942437号 請求項数8) 平成25年3月22日 本件無効審判の請求(請求項1ないし8に係る発明に対して) 平成25年6月11日 審判事件答弁書の提出 平成25年8月5日 口頭審理陳述要領書(請求人) 平成25年8月28日 口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成25年9月13日 第1回口頭審理 第2.本件特許発明 特許第4942437号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明8」という。) 「【請求項1】 基布と多数のパイルを備えてなり、前記各パイルの基部が基布に結合された状態で、前記多数のパイルが基布上に配設されているパイルマットであって、 前記各パイルは、略円柱形状をなし、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントが、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなり、 前記パイルの略円柱形状外周面は、前記各フィラメントの先端部により形成され、 前記パイルの先端部は、パイルを構成する放射状に配された前記フィラメントの先端部により形成された略凸曲面状をなし、 前記パイルは、略円柱形状をなすパイルの各円形状横断面において内方に向かうほど前記非吸水性のフィラメントが高密度状態となり、前記先端部においても内方に向かうほど前記非吸水性のフィラメントが高密度状態となって、毛管現象により内方に向かう吸水力が作用するよう構成されていることを特徴とする高吸水高乾燥性パイルマット。 【請求項2】 上記パイルが、0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントを飾り糸とするモール糸によるループ部が、そのモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより略円柱形状を形成したものである請求項1記載の高吸水高乾燥性パイルマット。 【請求項3】 上記基布が吸水性繊維からなる請求項1又は2記載の高吸水高乾燥性パイルマット。 【請求項4】 上記フィラメントが、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリプロピレン系又はポリエチレン系のフィラメントである請求項1乃至3の何れかに記載の高吸水高乾燥性パイルマット。 【請求項5】 上記パイルの軸線方向長さが5乃至80mmである請求項1乃至4の何れかに記載の高吸水高乾燥性パイルマット。 【請求項6】 上記パイルの軸線方向長さが15乃至50mmである請求項1乃至4の何れかに記載の高吸水高乾燥性パイルマット。 【請求項7】 マット上で上記パイルにより吸水するためのものである請求項1乃至6の何れかに記載の高吸水高乾燥性パイルマット。 【請求項8】 足拭用のものである請求項1乃至6の何れかに記載の高吸水高乾燥性パイルマット。」 第3.請求人の主張 1.主張 本件特許発明1ないし8は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載の公然実施された又は公然知られたパイルマットの発明に、甲第4号証記載の発明を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。 2.証拠方法 ・請求人は、証拠方法として、以下のものを提出した。 (1)甲第1号証:板東祐輔の陳述書 (2)甲第2号証:商品カタログ「2005 SPRING&SUMMER SELKON CARPET&RUG COLLECTION」 (3)甲第3号証:商品カタログ「VERGER(ヴェルジェ)2004 FALL&WINTER」 (4)甲第4号証:登録実用新案第3108152号公報 (5)甲第5号証の1ないし5:保管品の写真 (6)甲第6号証:オンライン辞書「Weblio」による「filament」の和訳結果 第4.被請求人の主張 1.主張 本件特許発明1ないし8は、甲第1号証ないし甲第4号証記載の発明により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項に違反してなされたものではないので、特許法第123条第1項第2号に該当せず、本件特許は無効とされるものではない。 2.証拠方法 ・被請求人は、証拠方法として、答弁書とともに以下のものを提出した。 (1)乙第1号証:社団法人繊維学会編、「第2版 繊維便覧 繊維学会 編」、丸善株式会社、平成6年3月25日、表紙、序文、xii 目次、第278、279ページ、奥付 (2)乙2号証:地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター編、「繊維技術シリーズ 素材・織物の基礎知識」、初版、株式会社工業調査会、2010年3月31日、表紙、25ないし27ページ、奥付 (3)無効2012-800132号審決 第5.各甲号証の記載事項 (1)甲第1号証 甲第1号証には、以下の事項が記載されている。 1a)「1.経歴等 私は、平成18年5月に、株式会社川島織物セルコン(以下、「当社」といいます。)に入社し、・・・。」 1b)「2.商品「デゼルト」について 当社のカタログである「2005 SPRING&SUMMER SELKON CARPET&RUG COLLECTION」(甲第2号証)は、平成17年2月に発行されたものです。私が当社に入社したのは、このカタログが発行された後ですが、入社当時におきましても、このカタログに掲載された商品を当社で取り扱っておりました。このカタログの11頁に掲載されている商品「デゼルト」はモールマットであり、・・・。「デゼルト」のモール形状は一般的なモール糸と同じで特別なものではありませんが、・・・カタログ発行当時に販売されていた「デゼルト」の現物は当社で保管しておりますので、この現物を確認しましたところ、「デゼルト」は以下のような構成になっております。」 1c)「<デゼルトの構成> 構成1:基布と多数のパイルを備えてなり、各パイルの基部が基布に結合された状態で、多数のパイルが基布上に配設されている。・・・ 構成2:各パイルは、略円柱形状をなし、フィラメントが、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなる。・・・ 構成3:パイルの略円柱形状外周面は、各フィラメントの先端部により形成される。・・ 構成4:パイルの先端部は、パイルを構成する放射状に配されたフィラメントの先端部により形成された略凸曲面状をなす。・・・ 構成5:パイルは、略円柱形状をなすパイルの各円形状横断面において内方に向かうほどフィラメントが高密度状態となり、先端部においても内方に向かうほどフィラメントが高密度状態となる。・・・」 また、当社に保管された商品「デゼルト」の要部写真として写真1ないし3が添付されている。 (2)甲第2号証 甲第2号証には、以下の事項が記載されている。 2a)表紙には、「2005 SPRING&SUMMER」という記載とともに、「SELKON CARPET&RUG COLLECTION」と記載されている。 2b)11ページの右上には、「生活空間にあるベーシックカラー、<Ivory・Beige・Gray>を使ったラグシリーズ。素材感にこだわり、シンプルなデザインに仕上げました。」と記載され、その下に、異なる色の3枚のマットをずらせて重ねた状態で撮影された写真が、色毎に「BR」、「GR」、「IV」の表示とともに掲載されている。 さらに、その下には、「デゼルト KE3001」、「コットン100%」、「コットンシェニール・クッションバック・ノンスリップ」、「BR・GR・IV」、「パイル長35mm」、「60×90(15)¥3,150(本体価格¥3,000)・・・」と記載されている。 2c)裏表紙の右下には、「株式会社 セルコン」、「H17.2」と記載されている。 (3)甲第3号証 甲第3号証には、以下の事項が記載されている。 3a)表紙の上部には、「住まいのスタイルBOOK」、「VERGER」、「ヴェルジェ」、「2004 FALL&WINTER」、右下には「カタログ有効期限:2005年1月31日受付分まで」と記載されている。 3b)3258ページの左下には、「綿モールインテリアマット」、「綿100%(芯糸 ポリエステル100%)」と記載されている。 3c)甲第3号証の3412ページの右下には、「発行/株式会社セシール」、「発行日/2004年7月1日」と記載されている。 (4)甲第4号証 請求人が提出した甲第4号証には、以下の事項が記載されている。 4a)「【考案の名称】極細繊維室内マット」、 4b)「【実用新案登録請求の範囲】 【請求項1】 基布にパイル糸を植糸した室内マットであって、該パイル糸の素材の繊維としてポリエステル及びナイロンで構成される極細繊維を使用した極細繊維マット。 【請求項2】 基布にパイル糸を植糸した室内マットであって、 基布上において、カット及び/又はループのパイル形状を一定間隔で形成するように、タフト機又は工業用ミシン機等によって、パイル糸が植糸され、 該パイル糸の素材の繊維として、ポリエステル及びナイロンで構成される極細繊維を使用した極細繊維マット。 【請求項3】 基布に800デニール以上の太さのパイル糸を植糸した室内マットであって、 該パイル糸の素材の繊維としてポリエステル及びナイロンで構成される1デニール未満の極細繊維を30%以上含み、 植糸した該パイル糸のパイル形状が、カット及び/又はループよりなる極細繊維マット。 【請求項4】 マットの裏面側に樹脂剤を塗布し、又はシート材を接着した請求項2又は3に記載の極細繊維マット。」 4c)「【0009】 本考案によれば、パイル糸の素材の繊維に極細繊維を含んでおり、毛細管現象により速やかにパイル糸表面の水分がパイル糸側面及び底面に向けて吸水されるため、もともと吸水性に乏しい合成繊維を使用しながら、従来の合成繊維マットに比較して非常に高い吸水性を発揮するマットを提供することが可能となる。従って、キッチンマットやバスマットなど、特に水廻りにおいて使用され吸水機能が要求されるマットにおいて有効に活用できる。 また、極細繊維を含んだパイル糸は肌触りが非常にソフトであり、近年の需要者の嗜好を満足させるマットを提供することが可能となる。さらに、肌触りに優れるために、常時の吸水性が必ずしも不要な水廻り以外の用途、例えば室内カーペット等に利用しても十分な効果が期待できるものである。 【考案を実施するための最良の形態】 【0010】 本考案においては、ポリエステル及びナイロンの合成繊維で構成される極細繊維をパイル糸の素材として使用する。構成比率は、ポリエステルが70?80%、ナイロンが20?30%であることが好ましい。この極細繊維1本あたりの太さは1デニール未満であり、一般的にはマイクロファイバーと称される繊維である。・・・」 4d)【0014】 本考案に係るマットの用途や製品サイズ、平面形状は種々設定可能であり、バスマット、キッチンマット、トイレマット、などの水廻り関連のマットをはじめとして、便座カバーやトイレットペーパーホルダー、または水廻り用途以外のカーペット製品等、室内で使用される種々のマットとして製造できる。 4e)「【0021】 また、1本あたりの太さが1デニール未満という極細繊維(2)を使用しているために、高い吸水機能を発揮することが可能となる。特に、パイル糸の頂部がカットされているカットパイル(4)や外周カットパイル(6)の部分は、吸水性が高い。・・・」 (5)甲第5号証の1ないし5 請求人の主張によれば、甲第5号証の1ないし5は、甲第1号証を作成した板東氏が所属する株式会社川島織物セルコンに保管されていた商品(以下「保管品」という)を撮影したものである。 5a)甲第5号証の1 甲第5号証の1の写真は、保管品のマットのパイルを備えた表面側であって、マットの写真の左上部には、「Cotton、スベリ止め・・・」などと表示されたラベルが看取できる。 5b)甲第5号証の2 甲第5号証の2の写真は、保管品のマットの裏面側であって、孔の多数開いた青色の裏地と、写真の右上にはラベルが看取できる。 5c)甲第5号証の3 甲第5号証の3の写真は、保管品に取り付けられた下げ札による表示であって、「Cotton テイスト」、「綿100%」、「スベリ止め」と記載されている。 5d)甲第5号証の4 甲第5号証の4の写真は、保管品に取り付けられた下げ札による表示であって、「デゼルト」、「KE3001-BR」と記載されている。 5e)甲第5号証の5 甲第5号証の5の写真は、保管品のパイルの高さを定規で測定したものであって、パイルの高さが35mmであることを示している。 (6)甲第6号証 甲第6号証は、オンライン辞書「Weblio」による「filament」の和訳結果であって、「フィラメント」が、細糸、糸状体、線条等を意味することを示している。 第6.当審の判断 1.商品「デゼルト」が本件特許に係る出願前に販売されていたものであったかについて 上記「第5.(2)2a)ないし2c)」によると、甲第2号証は、商品の写真と仕様及び価格が掲載されていることから商品カタログである。 そして、前記商品カタログの表紙における、「2005 SPRING&SUMMER」の記載により、甲第2号証が、2005年春、夏用の商品カタログであると認められること、「デゼルト」という商品名とともに、「KE3001」という品番のマットが掲載されていることから、前記商品カタログに商品「デゼルト」が掲載されていると認められること、及び、上記「第5.(1)1a)、1b)」の甲第1号証に記載された事項によると、板東氏が平成18年5月に株式会社川島織物セルコンに入社した時、このカタログに掲載された商品を取り扱っていたと認められること、を総合すると、商品「デゼルト」は、2005年春ごろには販売されていたものと認められる。 2.商品「デゼルト」の構成 甲第2号証の記載からは、商品「デゼルト」におけるパイルの構造を特定できるものではない。しかしながら、甲第1号証(「第5.(1)1b)」の記載参照)の板東氏による陳述書によれば、商品「デゼルト」はモールマットであり、モール形状は、一般的なモール糸と同じで特別なものではないこと、保管品である商品「デゼルト」の要部の写真が、甲第1号証の別紙に添付されている写真1ないし3のとおりであって、甲第5号証の1ないし5の写真に示される保管品の形態と、基布やパイルの色や形状等において整合し、甲第5号証の3、甲第5号証の4の保管品の下げ札の記載内容(「第5.(5)5c)、5d)」の記載参照)と、甲第2号証の商品「デゼルト」についての記載内容(「第5.(2)2b)」の記載参照)が「デゼルト」、「KE3001」の記載があること等において整合すること、 さらに、請求人が商品「デゼルト」に関して提出した甲第1号証、甲第2号証、甲第5号証の1ないし5の内容を検討しても、商品「デゼルト」が甲第1号証に記載された構成1ないし5を有することを否定するに足りる根拠は見いだせないことから、商品「デゼルト」の構成は、甲第1号証に記載のとおりの構成1ないし5であると認められる。 a)商品「デゼルト」の素材について 上記「第5.(2)2b)」を参照すると、甲第2号証に、商品「デゼルト」が「コットン100%」であることが記載されているから、商品デゼルトの基布、パイル、パイルを構成するモール糸の芯糸及びフィラメントは綿で構成される(以下フィラメントは「綿フィラメント」という)ものと認められる。 b)上記「第5.(1)甲第1号証」の記載「(甲第2号証)は、平成17年2月に発行されたものです。このカタログの11頁に掲載されている商品「デゼルト」はモールマットであり」によると、商品「デゼルト」は「モールマット」である。 以上、甲第1号証における構成1ないし5(「第5.(1)1b)」の記載参照)、及びa)、b)の検討によると、商品「デゼルト」の構成から以下の発明(以下「引用発明」という)を把握することができる。 「基布と多数のパイルを備えてなり、各パイルの基部が基布に結合された状態で、多数のパイルが基布上に配設されている綿100%からなるモールマットであって、 各パイルは、略円柱形状をなし、綿フィラメントが、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなり、 パイルの略円柱形状外周面は、各綿フィラメントの先端部より形成され、 パイルの先端部は、パイルを構成する放射状に配された綿フィラメントの先端部により形成された略凸曲面状をなし、 パイルは、略円柱形状をなすパイルの各円形状横断面において内方に向かうほど綿フィラメントが高密度状態となり、先端部においても内方に向かうほど綿フィラメントが高密度状態になるモールマット。」 3.甲第4号証記載の発明 上記「第5.(4)甲第4号証 4a)ないし4e)」の記載及び図1?図5の記載を総合すると、甲第4号証には以下の発明(以下「甲第4号証記載の発明」という)が記載されている。 「バスマット、キッチンマット、トイレマット、などの水廻り関連のマットをはじめとして、便座カバーやトイレットペーパーホルダー、または水廻り用途以外のカーペット製品等、室内で使用される、基布にパイル糸を植糸した室内マットであって、パイル糸の素材の繊維としてポリエステル及びナイロンで構成される1デニール未満の極細繊維を含み、 植糸した該パイル糸のパイル形状が、カット及び/又はループよりなる吸水性の極細繊維マット。」 4.本件特許発明1と引用発明との対比判断 引用発明の「モールマット」は、基布と多数のパイルを備えてなるものであって、パイルマットであるともいえるから、本件特許発明1の「パイルマット」に相当する。そして、引用発明の「綿フィラメント」と、本件特許発明1の「非吸水性のフィラメント」とは、「フィラメント」である点において共通する。 そうすると、両者は、次の点で一致する。 「基布と多数のパイルを備えてなり、各パイルの基部が基布に結合された状態で、多数のパイルが基布上に配設されているパイルマットであって、 各パイルは、略円柱形状をなし、フィラメントが、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されてなり、 パイルの略円柱形状外周面は、各フィラメントの先端部より形成され、 パイルの先端部は、パイルを構成する放射状に配されたフィラメントの先端部により形成された略凸曲面状をなし、 パイルは、略円柱形状をなすパイルの各円形状横断面において内方に向かうほどフィラメントが高密度状態となり、先端部においても内方に向かうほどフィラメントが高密度状態になるパイルマット。」 そして、両者は、次の点で相違する。 [相違点1] フィラメントが、本件特許発明1においては、「0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメント」であるのに対し、引用発明においては、「綿フィラメント」である点。 [相違点2] 略円柱形状をなすパイルが、本件特許発明1においては、「毛管現象により内方に向かう吸水力が作用するよう構成されている」のに対して、引用発明においては、そのような構成を備えるか不明である点。 以下、上記相違点1,2について検討する。 [相違点1について] まず最初に、引用発明において、綿フィラメントに代えて、甲第4号証記載の発明における「ポリエステル及びナイロンで構成される1デニール未満の極細繊維を含」んだパイル糸の素材の繊維を採用することができるか検討する。 甲第4号証記載の発明における極細繊維は、ポリエステル及びナイロンで構成されるから、非吸水性のものである。そして、パイル糸はそのパイル形状が、カット及び/又はループよりなり、「パイル糸の素材の繊維に極細繊維を含んでおり、毛細管現象により速やかにパイル糸表面の水分がパイル糸側面及び底面に向けて吸水される」ものであって、「特に水廻りにおいて使用され吸水機能が要求される」(「第5.(4)4c)」の記載参照)ものである。 それに対して、引用発明のモールマットは、素材が綿100%のモールマットであって、「素材感にこだわり・・・」(「第5.(2)2b)」の記載参照)、「Cotton テイスト」、「綿100%」(「第5.(5)5c)」の記載参照)の記載からして、綿の素材感を提供するために綿100%で形成したものと認められるから、ポリエステル、ナイロンなどとはなり得ず、引用発明の綿フィラメントに代えて、甲第4号証のマットのパイル糸の素材の繊維である非吸水性のポリエステル及びナイロンで構成される1デニール未満の極細繊維を、モールのフィラメントとして採用する動機付けを見出すことはできず、両者を組み合わせて相違点1に係る本件特許発明1とすることが当業者にとって容易であるとはいえない。 したがって、[相違点2]については検討をするまでもなく、本件特許発明1は、引用発明、甲第4号証の記載事項から当業者が容易に発明することができたとはいえない。 しかしながら、仮に、引用発明に甲第4号証の記載の発明を組み合わせて相違点1に係る本件特許発明1とすることが当業者にとって容易であるとして、[相違点2]についても検討を進める。 [相違点2について] 甲第4号証記載の発明における吸水性の極細繊維マットは、「パイル糸の素材の繊維としてポリエステル及びナイロンで構成される1デニール未満の極細繊維を含」み、「植糸した該パイル糸のパイル形状が、カット及び/又はループよりなる」ことによって、「毛管現象により速やかにパイル糸表面の水分がパイル糸側面及び底面に向けて吸水される」吸水性能を発揮するものであって、特に、パイル糸の頂部がカットされているカットパイルを採用することによって高い吸水性を得ることができるものである。(「第5.(4)、4b)、4c)、4d)」の記載参照) よって、引用発明において毛管現象による吸水機能を具備するために、引用発明のパイルに代えて、甲第4号証記載の発明におけるパイル糸を適用したとすると、植糸した該パイル糸は、カット及び/又はループの形態となると認められるから、引用発明に甲第4号証記載の発明を組み合わせたとしても、本件特許発明1のような「フィラメントがパイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状に密接され」ることにより「毛管現象により内方に向かう吸水力が作用」するものとはならず、上記相違点2に係る本件特許発明1となるとはいえない。 しかも、本件特許発明1を特定するために必要な事項である「0.05乃至0.8デニールの非吸水性のフィラメントが、パイルの軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設」されてなることにより、「毛管現象により内方に向かう吸水力が作用する」という格別顕著な効果を奏するものである。 よって、本件特許発明1は、引用発明、甲第4号証記載の発明から当業者が容易に発明することができたとはいえない。 5.小括 以上のとおり、本件特許発明1は、引用発明、甲第4号証記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないので、特許法第29条第2項の規定に該当しない。 6.本件特許発明2ないし8について 本件特許発明2ないし8は、いずれも本件特許発明1あるいは本件特許発明1を引用する本件特許発明2ないし6を引用するところ、本件特許発明1は、上記のとおり、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、本件特許発明2ないし8は、引用発明、甲第4号証記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたということはできないので、特許法第29条第2項の規定に該当しない。 第7.むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法においては、本件特許発明1ないし8を無効とすることはできない。 審判に関する費用は、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定により、請求人の負担とする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-10-03 |
結審通知日 | 2013-10-07 |
審決日 | 2013-10-18 |
出願番号 | 特願2006-254890(P2006-254890) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Y
(A47G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大瀬 円 |
特許庁審判長 |
横林 秀治郎 |
特許庁審判官 |
松下 聡 高木 彰 |
登録日 | 2012-03-09 |
登録番号 | 特許第4942437号(P4942437) |
発明の名称 | 高吸水高乾燥性パイルマット |
代理人 | 特許業務法人アローレインターナショナル |
代理人 | 高良 尚志 |
代理人 | 特許業務法人アローレインターナショナル |