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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B32B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
管理番号 1288900
審判番号 無効2013-800088  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-05-21 
確定日 2014-04-21 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4848020号発明「延伸積層フィルム及び袋」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 1 被請求人の請求のとおり訂正を認める。 2 請求人の主張のうち、特許第4848020号の請求項1、2及び8に係る発明についての請求は、成り立たない。 3 請求人のその余の請求(訂正前の請求項3ないし7及び9に係る発明についての請求)を却下する。 4 審判費用は、その9分の3を請求人の負担とし、9分の6を被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第4848020号(以下「本件特許」という。)に係る本件無効審判の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成20年 2月12日 本件特許出願(国際出願)
(優先権主張:平成19年2月14日、日本国)
平成23年10月21日 特許設定登録
平成25年 5月21日付け 審判請求書
同年 8月12日付け 審判事件答弁書、訂正請求書
同年 9月18日付け 手続補正書(被請求人、訂正請求書の補正)
同年10月10日付け 審理事項通知書
同年10月23日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年11月 5日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年11月25日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年12月 2日付け 上申書(請求人)
同年12月 3日付け 審理事項通知書
同年12月 9日提出 口頭審理陳述要領書(第2回)(請求人)
同年12月 9日提出 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年12月 9日 口頭審理
同年12月10日付け 上申書(第2回)(請求人)
同年12月19日付け 上申書(被請求人)

なお、本審決において、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含む。証拠は、例えば甲第1号証を甲1のように簡潔に表記することがある。丸で囲まれたRは「(R)」と表記する。


第2 当事者の請求及び主張
1 請求人の請求及び主張
(1)請求人は、特許第4848020号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めている。そして、被請求人が行った訂正請求は不適法であるから訂正を認めるべきではなく、訂正前の請求項に係る発明は、以下の無効理由があると主張する(審判請求書2頁1行?3頁16行、平成25年11月5日付け口頭審理陳述要領書2頁6?10行、3頁17行?8頁21行)。
[無効理由1]
本件特許の請求項1及び8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。

[無効理由2]
本件特許の請求項1?9に係る発明は、甲第1号証?甲第9号証に記載された発明に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。

[無効理由3]
本件特許の請求項3?9に係る発明については、発明の詳細な説明の記載に不備があるため、当業者が発明を実施することができないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効にすべきものである。

[無効理由4]
本件特許の請求項3?9に係る発明は、技術常識に反する事項を発明特定事項に備えるから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効にすべきものである。

[無効理由5]
本件特許の請求項1?9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効にすべきものである。

(2)請求人は、仮に、被請求人の訂正請求が適法であると仮定して、訂正後の特許請求の範囲、明細書及び図面を前提とした場合に、主張する無効理由は、以下のとおりで、これのみであるとしている(第1回口頭審理調書 陳述の要領 請求人2)。
[無効理由6]
訂正後の請求項1、2及び8に係る発明は、甲1ないし甲9に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効にすべきである。

[無効理由7]
訂正後の請求項1、2及び8び係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効にすべきである。

(3)請求人が提出した証拠は以下のとおりである。
甲1:国際公開第00/26024号
甲1の2:甲1の訳文
甲2:特開平6-220284号公報
甲3:SOLVAY社の「IXAN PV 891」に関する技術資料、1991年9月
甲3の2:甲3の抄訳文
甲4の1:Dow Plastics社「Saran MA119」に関する技術資料、1996年10月
甲4の1の2:甲4の1の抄訳文
甲4の2:Dow Plastics社「Saran MA123」に関する技術資料
甲4の2の2:甲4の2の抄訳文
甲4の3 Dow Plastics社「Saran MA134」に関する技術資料
甲4の3の2:甲4の3の抄訳文
甲5:特開平9-99526号公報
甲6:特開昭62-41261号公報
甲7:特開2002-172746号公報
甲8:田中好雄、"食肉(生肉)の保鮮に関する研究〔1〕-紫外線(UV)照射による減菌効果-"、包装技術,社団法人日本包装技術協会、1993年、Vol.31、No.2、第63-67頁
甲9:「高収縮性多層フィルム ML-BAG FRESH&QUALITY」、呉羽化学工業株式会社、1989年10月
甲10:「試験報告書」No.T-12008124-001、一般財団法人化学研究評価機構高分子試験・評価センター、平成25年3月8日
甲11:JIS K6796:1998
甲12:特許第3461369号公報
甲13:特開平7-76643号公報
甲14:特開平1-253443号公報
甲15:特公昭60-40988号公報
甲16:特公昭64-10339号公報
甲17:特開平3-218812号公報(1、9、10、22及び24頁)

甲1ないし甲11は審判請求書とともに、甲12ないし甲17は平成25年11月5日付け口頭審理陳述要領書とともに、それぞれ提出されたものである。
甲1ないし甲17の成立につき当事者間に争いは無い。

2 被請求人の請求及び主張
(1)被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めるとともに、本件特許の明細書及び特許請求の範囲の訂正を請求し、訂正後の特許請求の範囲に係る発明については、請求人が主張する無効理由はいずれも理由がないと主張する。

(2)被請求人が提出した証拠は以下のとおりである。
乙1:Dow Plastics社「Saran 313」に関する技術資料(1996年10月)
乙2:Dow Plastics社「Saran 469」に関する技術資料(1996年10月)
乙3:Dow Plastics社「Saran 867」に関する技術資料(1996年10月)
乙4:Dow Plastics社「Saran 516」に関する技術資料(1996年10月)
乙5:Dow Plastics社「Saran 525」に関する技術資料 (1996年10月)
乙6:SOLVAY社「IXAN^((R)) WV 320」に関する技術資料
乙7:Kirk-Othmer, ENCYCLOPEDIA OF CHEMICAL THCHNOLOGY, 2nd completely revised edition,VOLUME 21、1970年(275、286?290、302、303頁)
乙8:SOLVAY社「IXAN^((R)) PV 880」に関する技術資料
乙9:SOLVAY社「IXAN^((R)) PV 884」に関する技術資料
乙10:SOLVAY社「IXAN^((R)) PV 885」に関する技術資料
乙11:特表平4-501580号公報
乙12:特表2008-516067号公報
乙13:特開昭58-69252号公報
乙14:米国特許出願12/525,585号で提出した補正書の抜粋

乙1ないし乙12は平成25年8月12日付け審判事件答弁書とともに提出された参考資料1ないし12を読み替えたものであり(平成25年10月10日付け審理事項通知書2頁下から11?8行、被請求人の平成25年10月23日付け口頭審理陳述要領書2頁下から3?1行、請求人の平成25年11月5日付け口頭審理陳述要領書33頁11行)、乙13及び乙14は平成25年12月9日提出の口頭審理陳述要領書とともに提出されたものである。
乙1ないし乙14の成立につき当事者間に争いは無い。


第3 訂正請求について
1.訂正請求の内容
被請求人が請求する訂正は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおりに訂正するというものであり、訂正前後の特許請求の範囲の記載は以下のとおりである。
[訂正前]
「【請求項1】
表面層(A)、接着層(A)、バリア層、表面層(B)の少なくとも4層が順に積層された延伸積層フィルムであって、
(1)前記表面層(A)の融解温度が、前記表面層(B)の融解温度より65℃以上150℃以下だけ高く、
(2)前記バリア層が塩化ビニリデン共重合体からなり、バリア層の融解温度が130℃以上160℃未満である、
ことを特徴とする延伸積層フィルム。
【請求項2】
表面層(A)、接着層(A)、バリア層、表面層(B)の少なくとも4層が順に積層された延伸積層フィルムであって、
(1)前記表面層(A)の融解温度が、前記表面層(B)の融解温度より65℃以上150℃以下だけ高く、
(2)前記バリア層が塩化ビニリデン共重合体からなり、バリア層の融解温度が130℃以上160℃未満であり、
(3)流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が、共に20%以上50%以下である、
ことを特徴とする延伸積層フィルム。
【請求項3】
前記バリア層と前記表面層(B)との間に接着層(B)が積層されて少なくとも5層からなり、前記表面層(A)がプロピレン共重合体、アミド樹脂、エステル共重合体から選ばれる少なくとも1種を含みゲル分率が0%以上5%以下であり、前記接着層(A)がエチレン共重合体からなってゲル分率が25%以上70%以下であり、前記接着層(B)がエチレン共重合体からなり、さらに前記表面層(B)がエチレン共重合体を含むことを特徴とする請求項1記載の延伸積層フィルム。
【請求項4】
前記表面層(A)がアミド樹脂からなり、前記表面層(B)がエチレン共重合体からなることを特徴とする請求項3に記載の延伸積層フィルム。
【請求項5】
前記表面層(A)のフィルム全体に占める割合が0.5?20%であることを特徴とする請求項3に記載の延伸積層フィルム。
【請求項6】
前記バリア層の融解温度が135℃以上150℃未満である請求項3に記載の延伸積層フィルム。
【請求項7】
流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が、共に25%以上45%以下であり、かつ流れ方向と横方向の合計で65%以上あることを特徴とする請求項3に記載の延伸積層フィルム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の延伸積層フィルムからなる袋であって、前記表面層(A)が当該袋の外側に配されていることを特徴とする袋。
【請求項9】
表面層(A)が非晶性のナイロンが5?40重量%混合されたアミド樹脂、表面層(B)がエチレンコモノマーと、ブテンコモノマー、ヘキセンコモノマー、及びオクテンコモノマーから選ばれるいずれか一つのコモノマーとの共重合体であり、密度の範囲が0.88?0.92g/cm^(3)、JIS-K-7210の測定条件に準ずる測定条件(190℃、21.2N)で測定したメルトインデックスの値が0.5?7であるエチレン共重合体からなることを特徴とする請求項4に記載の延伸積層フィルム。」

[訂正後]
「【請求項1】
表面層(A)、接着層(A)、バリア層、表面層(B)の少なくとも4層が順に積層された延伸積層フィルムであって、
(1)前記表面層(A)の融解温度が、前記表面層(B)の融解温度より65℃以上150℃以下だけ高く、
(2)前記バリア層が塩化ビニリデン共重合体からなり、バリア層の融解温度が130℃以上160℃未満である、
ことを特徴とする、流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が共に50%以下の延伸積層フィルム。
【請求項2】
表面層(A)、接着層(A)、バリア層、表面層(B)の少なくとも4層が順に積層された延伸積層フィルムであって、
(1)前記表面層(A)の融解温度が、前記表面層(B)の融解温度より65℃以上150℃以下だけ高く、
(2)前記バリア層が塩化ビニリデン共重合体からなり、バリア層の融解温度が130℃以上160℃未満であり、
(3)流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が、共に20%以上50%以下である、
ことを特徴とする延伸積層フィルム。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】
請求項1又は2に記載の延伸積層フィルムからなる袋であって、前記表面層(A)が当該袋の外側に配されていることを特徴とする生肉包装用袋。
【請求項9】(削除)」

被請求人が請求する訂正は、以下の訂正事項1ないし7を内容としている。
(1)訂正事項1
請求項1に「延伸積層フィルム。」とあるのを「、流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が共に50%以下の延伸積層フィルム。」に訂正する。
なお、口頭審理において、平成25年9月18日付けで補正された訂正請求書2頁下から4行「流れ」は「、流れ」と補正された(第1回口頭審理調書 陳述の要領 被請求人2)。
(2)訂正事項2
請求項8に「請求項1から7のいずれかに」とあるのを「請求項1又は2に」に訂正する。
(3)訂正事項3
請求項8に「袋。」とあるのを「生肉包装用袋。」に訂正する。
(4)訂正事項4
請求項3?7及び9を削除する。
(5)訂正事項5
明細書の段落【0069】の【表6】中、「実施例24」とあるのを「参考例24」に訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の段落【0062】及び【0063】において、「実施例1?24」とあるのを「実施例1?23、25」に訂正する。
(7)訂正事項7
明細書の段落【0067】の【表4】中、実施例16の樹脂組成の欄において、「10%重量%」とあるのを「10重量%」に訂正する。

2.訂正請求についての当審の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1における延伸積層フィルムについて、流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率を限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正前の明細書の段落【0042】に以下の記載がある。
「【0042】
延伸積層フィルムは、フィルムの流れ方向(長尺方向)、横方向(幅方向)共に20%以上50%以下の熱収縮率(後述のように75℃で測定)を有することが好ましい。ここでフィルムの流れ方向とは、積層フィルムを押出成形した際の長尺方向を言う。包装体がタイトに美麗に包装される点で熱収縮率が20%以上であることが好ましい。透明性の点で熱収縮率は50%以下が好ましい。熱収縮性の低い塩化ビニリデン共重合体層が熱収縮に追随できずに白化してしまい、製品の外観が悪化する場合があるからである。流れ方向、横方向が等しい熱収縮率である必要はないが、方向による収縮差が20%以下であると袋トリム部が綺麗になり好ましい。外観の点で25%以上45%以下の熱収縮率があることが好ましい。さらには30%以上45%以下の熱収縮率があるとより好ましい。例えば内容物が肉類の場合に保存期間が長くなったりして好ましい。熱収縮率を調整するには、延伸温度、延伸倍率を適宜調整すればよい。」
上記記載から、延伸積層フィルムについて、「流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が共に50%以下」のものとすることは、訂正前の明細書に記載されていると認められる。したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正である。そして、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項4による請求項の削除に伴い、請求項8において引用する請求項の番号を整合させる訂正であるから、訂正事項4の訂正の目的(後記(4)参照)と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項8における「袋」について「生肉包装用袋」と袋の用途を限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。袋の用途を生肉包装用とすることは、訂正前の明細書の段落【0046】に記載されているから、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正である。そして、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、請求項を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正事項1によって請求項1が訂正される結果、特許請求の範囲に含まれなくなる実施例を参考例とする訂正であり、特許請求の範囲と明細書との整合をとるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。そして、訂正事項5は、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を変更し又は拡張するものではい。

(6)訂正事項6について
訂正事項6は、実施例の最大番号の「24」を「25」に変更する訂正(以下「訂正事項6-1」という。)と、実施例の番号「24」を削除する訂正(以下「訂正事項6-2」という。)とからなる。
願書に最初に添付した明細書の段落【0064】?【0069】の【表1】?【表6】には、実施例1ないし25の結果が記載されていることから、訂正前の明細書の段落【0062】及び【0063】における「実施例1?24」という記載は「実施例1?25」の誤記であることが明らかである。したがって、訂正事項6-1は、誤記の訂正を目的とするものである。
訂正事項6-2は、訂正事項5によって「実施例24」が「参考例24」に訂正されることとの整合をとるための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項6-1は、願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、訂正事項6-2は、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてする訂正である。また、訂正事項6-1及び訂正事項6-2は、いずれも実質上特許請求の範囲を変更し又は拡張するものではない。

(7)訂正事項7について
訂正前の明細書の段落【0064】?【0069】の【表1】?【表6】において、実施例1?15及び17?25において、樹脂の含有量はすべて「重量%」という単位で表記されていることから、実施例16の樹脂組成の欄の「10%重量%」という記載は「10重量%」の誤記であることが明らかである。したがって、訂正事項7は、誤記の訂正を目的とするものである。そして、訂正事項7は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

3.訂正請求に対する請求人の主張について
(1)請求人の主張
請求人は、被請求人が請求する訂正に対して、以下の主張をしている。
ア 訂正の目的及び特許請求の範囲の拡張について
本件訂正により、請求項1に係る延伸積層フィルムは、熱収縮性延伸積層フィルムから、「流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が共に50%以下0%超過の熱収縮性延伸積層フィルム」と「流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が共に0%である非熱収縮性延伸積層フィルム」とを含むものとなった。
「熱収縮性延伸積層フィルム」を、特定の熱収縮率の「熱収縮性延伸積層フィルム」及び「非熱収縮性延伸積層フィルム」に訂正する本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。また、本件訂正が、誤記又は誤訳の訂正、明瞭でない記載の釈明、及び、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることのいずれの事項をも目的とするものでないことは明らかである。
よって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書きの規定に適合するものではない。
また、当該訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張するものであるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものではない。

イ 特許請求の範囲の実質的変更について
本件訂正による請求項1の訂正は、「…(1)…、(2)…、ことを特徴とする延伸積層フィルム。」を、「…(1)…、(2)…、ことを特徴とする、流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が共に50%以下の延伸積層フィルム。」と変更するものである。
すなわち、本件訂正は、特徴部分を何ら変更しないまま、該特徴部分を備える対象物品を変更する訂正であり、いわば土俵を変更する訂正である。
例示的にいうと、「2つのプロペラを備えることを特徴とする飛行機。」の発明を、「2つのプロペラを備えることを特徴とする模型飛行機。」に変更するような訂正である。
例えば、熱収縮率の限定に関する事項を、請求項1の(1)及び(2)に続く(3)として追加することにより特徴部分を付加して、特許請求の範囲を減縮する訂正が可能であったにもかかわらず、このように土俵を変更する本件訂正は、特許制度が本来予定している特許の訂正制度の目的を逸脱するものだから、実質上特許請求の範囲を変更するものに該当する。
したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものではない。

新規事項の追加について
本件訂正により、請求項1に導入された「流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が共に50%以下の延伸積層フィルム」という事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載がない事項である。
本件訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものではない。

エ 請求項8に関する訂正について
請求項1を引用する請求項8に関する本件訂正は、上記と同様の理由により、適法なものではない。

(2)請求人の主張についての当審の判断
請求人の上記(1)アないしエの主張は、以下のとおりいずれも失当であり、採用できない。
ア 訂正の目的及び特許請求の範囲の拡張について
訂正前の請求項1において、延伸積層フィルムの熱収縮率については、その下限値を含め具体的に限定されていない。
訂正事項1は、訂正前の請求項1における延伸積層フィルムについて、流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率について、下限値を具体的に限定しないまま、熱収縮率の上限値のみを限定する訂正である。ここで、延伸積層フィルムの熱収縮率の下限値については、訂正事項1によって何ら変更されない。
したがって、訂正事項1によって、請求項1に「流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が共に0%である非熱収縮性延伸積層フィルム」が新たに含まれることになるとはいえない。
よって、請求人の上記(1)アの主張は失当である。

イ 特許請求の範囲の実質変更について
訂正前の請求項1に係る発明も訂正後の請求項1に係る発明も、ともに「延伸積層フィルム」に係る発明である。請求人は、「特徴部分を何ら変更しないまま、該特徴部分を備える対象物品を変更する訂正」であると主張するが、訂正事項1によって、流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が限定されても、「延伸積層フィルム」であることに変わりはないのであり、請求項1に係る発明の対象物品が変更されるとはいえない。
よって、請求人の上記(1)イの主張は失当である。

新規事項の追加について
上記2.(1)のとおり、延伸積層フィルムについて、「流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が共に50%以下」のものとすることは、訂正前の明細書の段落【0042】に記載されていると認められる。したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正である。
よって、請求人の上記(1)ウの主張は失当である。

エ 請求項8に関する訂正について
上記したとおり、請求項1についての訂正は適法である。請求項1についての訂正が違法であることを前提にした請求人の上記(1)エの主張は、前提においてすでに失当である。
また、請求項8について、「袋」を「生肉包装用袋」とする訂正は、袋の用途を限定する訂正であるところ、用途が限定されても「袋」であることに変わりはないのであり、当該訂正によって請求項8に係る発明の対象物品が変更されるとはいえない。
したがって、請求項8に関する訂正も、違法なものとはいえない。

4.小括
したがって、訂正事項1ないし7は、特許法第134条の2第1項の規定並びに同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、請求のとおり訂正を認める。


第4 本件発明
本件特許の訂正後の請求項1、2及び8に係る発明(以下「本件訂正発明1」、「本件訂正発明2」及び「本件訂正発明8」という。また、これらをまとめて「本件訂正発明」ということがある。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1、2及び8に記載された、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
表面層(A)、接着層(A)、バリア層、表面層(B)の少なくとも4層が順に積層された延伸積層フィルムであって、
(1)前記表面層(A)の融解温度が、前記表面層(B)の融解温度より65℃以上150℃以下だけ高く、
(2)前記バリア層が塩化ビニリデン共重合体からなり、バリア層の融解温度が130℃以上160℃未満である、
ことを特徴とする、流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が共に50%以下の延伸積層フィルム。
【請求項2】
表面層(A)、接着層(A)、バリア層、表面層(B)の少なくとも4層が順に積層された延伸積層フィルムであって、
(1)前記表面層(A)の融解温度が、前記表面層(B)の融解温度より65℃以上150℃以下だけ高く、
(2)前記バリア層が塩化ビニリデン共重合体からなり、バリア層の融解温度が130℃以上160℃未満であり、
(3)流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が、共に20%以上50%以下である、
ことを特徴とする延伸積層フィルム。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の延伸積層フィルムからなる袋であって、前記表面層(A)が当該袋の外側に配されていることを特徴とする生肉包装用袋。」


第5 当審の判断
上記のとおり、訂正は適法である。そして、請求人は、被請求人の訂正請求が適法である場合には、主張する無効理由は無効理由6及び無効理由7のみであるとしている(上記「第2 当事者の請求及び主張」1(2))。そこで、無効理由6及び無効理由7について判断する。

1.無効理由6について
(1)甲1の記載
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲1には、以下の記載がある(訳文は、甲1の2による)。

1ア「CLAIMS
1. A multi-layer heat-shrinkable film comprising at least
a first outer heat-sealing layer (a) comprising one or more polyolefins;
a second outer abuse layer (b) comprising a polyamide with melting point > 175 ℃; and
an intermediate gas barrier layer (c) comprising PVDC.
2. The multi-layer heat-shrinkable film of claim 1 wherein the polyamide of the outer abuse layer (b) has a melting point of from about 175 ℃ to about 250℃; preferably of from about 180 ℃ to about 240 ℃; more preferably of from about 185 ℃ to about 230 ℃; and still more preferably of from about 188 ℃ to about 225 ℃.
3. The multi-layer heat-shrinkable film of claim 2 wherein the polyamide of the outer abuse layer (b), with a melting temperature of from about 188 ℃ to about 225 ℃, is selected from the group consisting of copolyamides 6/12, copolyamides 6/66, polyamide 6 copolymers (modified polyamide 6) comprising less than 5 %, preferably less than 4 %, and even more preferably less than 3 % by weight of an aromatic co-monomer, copolyamides of polyamide 6 and a partially aromatic polyamide, and terpolyamides based on polyamide 6, polyamide 11, and polyamide 66.
・・・(中略)・・・
6. The multi-layer heat-shrinkable film of claim 1 wherein the heat-sealing layer (a) comprises a single polyolefin or a blend of two or more polyolefins with melting temperature < 140℃, preferably < 130℃, and more preferably comprised between 80℃ and about 128 ℃.
7. The multi-layer heat-shrinkable film of claim 6 wherein the heat-sealing layer (a) comprises heterogeneous or homogeneous ethylene-(C_(4) -C_(8) )-α-olefin copolymers having a density < 0.915 g/cm^(3) , blends thereof with minor amount of polyethylene homopolymers, ethylene-vinyl acetate copolymers, ethylene-acrylic or methacrylic acid copolymers including ionomers, blends of heterogeneous or homogeneous ethylene-(C_(4) -C_(8) )-α-olefin copolymers having a density from about 0.915 g/cm^(3) to about 0.930 g/cm^(3) with ethylene- vinyl-acetate copolymers or ethylene-alkyl (meth)acrylate copolymers, ethylene- propylene-butene ter-polymers, ethylene-alkyl acrylate-maleic anhydride ter-polymers.
8. The multi-layer heat-shrinkable film of claim 7 wherein the heat-sealing layer (a) comprises a heterogeneous or homogeneous ethylene-(C_(4) -C_(8) )-α-olefin copolymer having a density < 0.915 g/cm^(3) , and preferably a heterogeneous or homogeneous ethylene-(C_(4) -C_(8) )- α-olefin copolymer having a density comprised between about 0.895 g/cm^(3) and about 0.912 g/cm^(3) .
9. The multi-layer heat-shrinkable film of claim 1 in the form of a seamless tubing wherein the outer heat-sealing layer (a) is the innermost layer of the tube.
10. A container obtained from a multi-layer heat-shrinkable film comprising at least
a first outer heat-sealing layer (a) comprising one or more polyolefins;
a second outer abuse layer (b) comprising a polyamide with melting point > 175 ℃; and
an intermediate gas barrier layer (c) comprising PVDC,
by a welding involving the outer heat-sealing layer (a), whereby said outer layer (a) is the inside layer of the container and the outer abuse layer (b) is the outside layer of the container. 」(31頁2行?32頁22行)
「【請求項1】
少なくとも、
1以上のポリオレフィンを含む第1の外側のヒートシール層(a)と、
175℃以上の融点をもつポリアミドを含む第2の外側の酷使層(b)と、
PVDCを含む中間ガスバリア層(c)とを備える多層熱収縮性フィルム。
【請求項2】
前記外側の酷使層(b)の前記ポリアミドの融点が、約175℃?約250℃、好ましくは約180℃?約240℃、より好ましくは約185℃?約230℃、さらにより好ましくは約188℃?約225℃である請求項1に記載の多層熱収縮性フィルム。
【請求項3】
溶融温度が約188℃?約225℃の、前記外側の酷使層(b)の前記ポリアミドが、コポリアミド6/12、コポリアミド6/66、5重量%未満、好ましくは4重量%未満、さらにより好ましくは3重量%未満の芳香族コモノマーを含むポリアミド6共重合体(改質ポリアミド6)、ポリアミド6と部分芳香族ポリアミドからなるコポリアミド、並びに、ポリアミド6、ポリアミド11、及びポリアミド66に基づくターポリアミド(terpolyamides)からなる群から選択される請求項2に記載の多層熱収縮性フィルム。
・・・(中略)・・・
【請求項6】
前記ヒートシール層(a)が、溶融温度が140℃未満、好ましくは130℃未満、より好ましくは80℃?約128℃の間をなす単一のポリオレフィンまたは2以上のポリオレフィンのブレンドを含む請求項1に記載の多層熱収縮性フィルム。
【請求項7】
前記ヒートシール層(a)が、0.915g/cm^(3)以下の密度を有する不均一または均一なエチレン-(C_(4)-C_(8))-α-オレフィン共重合体、少量のポリエチレンホモポリマーとのそのブレンド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマーを含むエチレン-アクリル酸もしくはメタクリル酸共重合体、約0.915g/cm^(3)?約0.930g/cm^(3)の密度を有する不均一または均一なエチレン-(C_(4)-C_(8))-α-オレフィン共重合体とエチレン-酢酸ビニル共重合体またはエチレン-アルキル(メタ)アクリレート共重合体のブレンド、エチレン-プロピレン-ブテン-ターポリマー、エチレン-アルキルアクリレート-無水マレイン酸ターポリマーを含む請求項6に記載の多層熱収縮性フィルム。
【請求項8】
前記ヒートシール層(a)が、0.915g/cm^(3)以下の密度を有する不均一または均一なエチレン-(C_(4)-C_(8))-α-オレフィン共重合体、好ましくは約0.895g/cm^(3)?約0.912g/cm^(3)の間をなす密度を有する不均一または均一なエチレン-(C_(4)-C_(8))-α-オレフィン共重合体を含む請求項7に記載の多層熱収縮性フィルム。
【請求項9】
前記外側のヒートシール層(a)が、該チューブの最内層である、継ぎ目のないチューブの形態である請求項1に記載の多層熱収縮性フィルム。
【請求項10】
少なくとも、
1以上のポリオレフィンを含む第1の外側のヒートシール層(a)と、
175℃以上の融点をもつポリアミドを含む第2の外側の酷使層(b)と、
PVDCを含む中間ガスバリア層(c)と
を備える多層熱収縮性フィルムから、前記外側のヒートシール層(a)を含む溶接により得られる容器であって、それにより、前記外側の層(a)が前記容器の内層であり、前記外側の酷使層(b)が前記容器の外層である容器。」(甲1の2、19頁6行?20頁25行)

1イ「The present invention refers to a multi-layer, heat-shrinkable, thermoplastic film endowed with a desirable balance of properties, including good shrink properties, good optical properties, very good mechanical properties and a peculiar sealability performance.
The invention also relates to containers, such as tubing, bags and pouches, made with the film.」(1頁2?6行)
「本発明は、良好な収縮性、良好な光学特性、非常に良好な機械的性質及び特有のシール性能を含む、望ましい特性のバランスに恵まれた多層熱収縮性熱可塑性フィルムに関する。
本発明はまた、前記フィルムで作製した容器、例えばチューブ、バッグ及びパウチなどにも関する。」(甲1の2、2頁第2?5行)

1ウ「We have discovered films which can provide for a combination of desirable characteristics: high impact strength, high abuse resistance, high free shrink at 90 ℃, high gloss and package presentation, good sealability and seal strength, and stack/overlap sealing capability and can be manufactured via a stable and controlled process. 」(2頁16?19行)
「本発明者らは、望ましい特徴、つまり、高い衝撃強さ、高い耐酷使性、90℃での高い自由収縮率、高い光沢及びパッケージ表示、良好なシール性及びシール強度、並びに重ね積みシール性能(stack/overlap sealing capability)、の組合せを提供することができ、安定かつ制御された工程によって製造することのできるフィルムを見出した。」(甲1の2、2頁44?47行)

1エ「As used herein the term PVDC refers to a vinylidene chloride copolymer wherein a major amount of the copolymer comprises vinylidene chloride and a minor amount of the copolymer comprises one or more unsaturated monomers copolymerisable therewith, typically vinyl chloride, and alkyl acrylates or methacrylates (e.g. methyl acrylate or methacrylate) or to a blend thereof in different proportions. Generally said PVDC contains plasticisers and/or stabilizers as known in the art.」(8頁12?17行)
「本明細書において、用語PVDCは、共重合体の過半量を塩化ビニリデンが構成し、共重合体の少量を、それと共重合可能な1以上の不飽和モノマー、一般に塩化ビニル、及びアルキルアクリレートもしくはメタクリレート(例えばメチルアクリレートもしくはメタクリレート)が構成する塩化ビニリデン共重合体、または様々な割合のそのブレンドをさす。一般に、前記PVDCは、当技術分野で公知の可塑剤及び/または安定剤を含む。」(甲1の2、6頁11?15行)

1オ「As used herein, the term polyamide is intended to refer to both polyamides and co-polyamides. This term specifically includes those aliphatic polyamides or copolyamides commonly referred to as e.g. polyamide 6 (homopolymer based on ε- caprolactam), polyamide 69 (homopolycondensate based on hexamethylene diamine and azelaic acid), polyamide 610 (homopolycondensate based on hexamethylene diamine and sebacic acid), polyamide 612 (homopolycondensate based on hexamethylene diamine and dodecandioic acid), polyamide 11 (homopolymer based on 11-aminoundecanoic acid), polyamide 12 (homopolymer based on ω-aminododecanoic acid or on laurolactam), polyamide 6/12 (polyamide copolymer based on ε-caprolactam and laurolactam), polyamide 6/66 (polyamide copolymer based on ε-caprolactam and hexamethylenediamine and adipic acid), polyamide 66/610 (polyamide copolymers based on hexamethylenediamine, adipic acid and sebacic acid), modifications thereof and blends thereof. Said term also includes crystalline or partially crystalline, aromatic or partially aromatic, polyamides.」(8頁18行?9頁2行)
「本明細書において、用語ポリアミドは、ポリアミドとコポリアミドの両方をさすものである。この用語には、例えば、ポリアミド6(ε-カプロラクタムに基づくホモポリマー)、ポリアミド69(ヘキサメチレンジアミン及びアゼライン酸に基づくホモ重縮合物(homopolycondensate))、ポリアミド610(ヘキサメチレンジアミン及びセバシン酸に基づくホモ重縮合物)、ポリアミド612(ヘキサメチレンジアミン及びドデカン二酸に基づくホモ重縮合物)、ポリアミド11(11-アミノウンデカン酸に基づくホモポリマー)、ポリアミド12(ω-アミノドデカン酸またはラウロラクタムに基づくホモポリマー)、ポリアミド6/12(ε-カプロラクタム及びラウロラクタムに基づくポリアミド共重合体)、ポリアミド6/66(ε-カプロラクタム及びヘキサメチレンジアミン及びアジピン酸に基づくポリアミド共重合体)、ポリアミド66/610(ヘキサメチレンジアミン、アジピン酸及びセバシン酸に基づくポリアミド共重合体)と一般に称される脂肪族ポリアミドまたはコポリアミド、その修飾形態及びそのブレンドを具体的に含む。また、前記用語には、結晶または部分結晶、芳香族または部分芳香族ポリアミドが含まれる。」(甲1の2、6頁16?28行)

1カ「In the film according to the present invention the heat-sealing layer (a) may comprise a single polymer or a blend of two or more polymers as known in the art. Preferably the melting point of the polyolefin resin(s) of the heat-sealing layer (a) will be < 140 ℃, and preferably < 130℃. In a more preferred embodiment it will be comprised between about 80℃ and about 128 ℃.
Such a layer may for example comprise heterogeneous or homogeneous ethylene- (C_(4) -C_(8) )- α-olefin copolymers having a density < 0.915 g/cm^(3) ; blends thereof with minor amount of polyethylene homopolymers; ethylene-vinyl acetate copolymers; ethylene-acrylic or methacrylic acid copolymers including ionomers; blends of heterogeneous or homogeneous ethylene-(C_(4) -C_(8) )-α-olefin copolymers having a density from about 0.915 g/cm^(3) to about 0.930 g/cm^(3) with ethylene-vinyl acetate copolymers or ethylene-alkyl (meth)acrylate copolymers; ethylene-propylene-butene ter-polymers; ethylene-alkyl acrylate-maleic anhydride ter-polymers; and the like polymers.
In a preferred embodiment of the present invention the heat-sealing layer (a) will comprise a heterogeneous or homogeneous ethylene-(C_(4) -C_(8) )-α-olefin copolymer having a density < 0.915 g/cm^(3) , and even more preferably a heterogeneous or homogeneous ethylene-(C_(4) -C_(8) )-α- olefin copolymer having a density comprised between about 0.895 g/cm^(3) and about 0.912 g/cm^(3) . The Melt Index of said heterogeneous or homogeneous ethylene-(C_(4) -C_(8) )-α-olefin copolymer may range from about 0.1 to about 15 g/10' (measured by ASTM D-1238, Condition E). However, preferred values are in the range 0.5-10 g/10' and still more preferred values are in the range 1.0-7.0 g/10'. 」(9頁12行?10頁4行)
「本発明に従うフィルムにおいて、ヒートシール層(a)は、当技術分野で公知の単一のポリマーまたは2以上のポリマーのブレンドを含むことができる。好ましくは、ヒートシール層(a)のポリオレフィン樹脂の融点は、140℃未満、好ましくは130℃未満となる。より好ましい実施形態では、それは約80℃?約128℃の間をなすことになる。
そのような層は、例えば、0.915g/cm^(3)以下の密度を有する不均一または均一なエチレン-(C_(4)-C_(8))-α-オレフィン共重合体、その少量のポリエチレンホモポリマーとのブレンド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマーを含むエチレン-アクリル酸もしくはメタクリル酸共重合体、約0.915g/cm^(3)?約0.930g/cm^(3)の密度を有する不均一または均一なエチレン-(C_(4)-C_(8))-α-オレフィン共重合体とエチレン-酢酸ビニル共重合体またはエチレン-アルキル(メタ)アクリレート共重合体のブレンド、エチレン-プロピレン-ブテン-ターポリマー、エチレン-アルキルアクリレート-無水マレイン酸ターポリマー、及び同類のポリマーを含む。
本発明の好ましい実施形態では、ヒートシール層(a)は、0.915g/cm^(3)以下の密度を有する不均一または均一なエチレン-(C_(4)-C_(8))-α-オレフィン共重合体、さらにより好ましくは約0.895g/cm^(3)?約0.912g/cm^(3)の間をなす密度を有する不均一または均一なエチレン-(C_(4)-C_(8))-α-オレフィン共重合体を含む。前記不均一または均一なエチレン-(C_(4)-C_(8))-α-オレフィン共重合体のメルトインデックスは、約0.1?約15g/10分の間であり得る(ASTM D-1238、条件Eにより測定)。しかし、好ましい値は、0.5?10g/10分の範囲内、さらにより好ましい値は、1.0?7.0g/10分の範囲内である。」(甲1の2、6頁39行?7頁10行)

1キ「The polyamide of the outer layer (b) will have a melting point > 175 ℃, typically of from about 175 ℃ to about 250℃; preferably of from about 180 ℃ to about 240 ℃; more preferably of from about 185 ℃ to about 230 ℃; and still more preferably of from about 188 ℃ to about 225 ℃.
A most preferred group of polyamides, with a melting temperature of from about 188 ℃ to about 225 ℃, suitable for use in the outer abuse layer (b), includes certain copolyamides 6/12, such as PA6/12 CR-8 and CR-9 marketed by EMS, ・・・(中略)・・・and certain terpolyamides such as those based on polyamide 6, polyamide 11, and polyamide 66, sold by Bayer under the trade name Durethan^(TM) VP KU 2-2153 or KU 2-2153F.
Preferably the outer abuse layer (b) will comprise polyamide 6, a modified polyamide 6, a co-polyamide of polyamide 6 and a partially aromatic polyamide, or a ter-polyamide based on polyamide 6, polyamide 11, and polyamide 66. 」(10頁12?28行)
「外側の層(b)のポリアミドは、175℃以上の融点、典型的には約175℃?約250℃、好ましくは約180℃?約240℃、より好ましくは約185℃?約230℃、さらになおより好ましくは約188℃?約225℃の融点を有する。
溶融温度が約188℃?約225℃の、外側の酷使層(b)での使用に適した、最も好ましいポリアミドの群には、ある種のコポリアミド6/12、例えば、EMS社により販売されるPA6/12 CR-8及びCR-9など、・・・(中略)・・・並びにある種のターポリアミド、例えばバイエル社によりデュレタン(登録商標)VP KU 2-2153またはKU 2-2153Fの商標名で販売されるポリアミド6、ポリアミド11、及びポリアミド66に基づくターポリアミド(terpolyamides)などが含まれる。
好ましくは、外側の酷使層(b)は、ポリアミド6、変性ポリアミド6、ポリアミド6及び部分芳香族ポリアミドのコ-ポリアミド、またはポリアミド6、ポリアミド11、及びポリアミド66に基づくターポリアミド(ter-polyamide)を含む。」(甲1の2、7頁17?35行)

1ク「The film according to the present invention requires the presence of an intermediate gas barrier layer (c) wherein said gas (e.g. oxygen, nitrogen, carbon dioxide, etc.) barrier layer comprises PVDC.
In an even more preferred embodiment the PVDC comprises vinylidene chloride-methyl acrylate copolymer, or vinylidene chloride-methyl methacrylate copolymer, or a blend of vinylidene chloride-vinyl chloride copolymer and a minor proportion of vinylidene chloride- methyl acrylate copolymer.」(11頁18?24行)
「本発明に従うフィルムは、前記ガス(例えば、酸素、窒素、二酸化炭素など)バリア層がPVDCを含む、中間ガスバリア層(c)の存在を必要とする。
さらにより好ましい実施形態では、PVDCは、塩化ビニリデン-アクリル酸メチル共重合体、または塩化ビニリデン-メタクリル酸メチル共重合体、または塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体と半量未満の塩化ビニリデンアクリル酸メチル共重合体のブレンドを包含する。」(甲1の2、8頁3?8行)

1ケ「To improve the adhesion between the gas barrier layer (c) and the outer layers (a) and (b), or between the different layers, in case additional inner layers are present, tie layers can be employed. Tie layers typically comprise a modified polyolefin or preferably a blend of a modified polyolefin with a polyolefin, such as for instance a blend of an acid or anhydride modified EVA with EVA or LLDPE.」(12頁27行?13頁3行)
「ガスバリア層(c)と外側の層(a)及び(b)の間、または異なる層の間(さらなる内層が存在する場合)の接着を改善するため、タイ層を用いることができる。タイ層は、一般に変性ポリオレフィンまたは好ましくは変性ポリオレフィンとポリオレフィンのブレンド、例えば例として酸または無水物変性EVAとEVAまたはLLDPEのブレンドなどを含む。」(甲1の2、8頁36?40行)

1コ「In one embodiment of the present invention the film has at least four layers wherein a tie layer (d) is adhered to one of the surfaces of the gas barrier intermediate layer (c), and to either one of the outer abuse layer (c) and the outer heat-sealing layer (a). In particular, in the case of a four layer film, a tie layer (d) is generally required for bonding layer (c) to the outer abuse layer (b), while a direct adhesion between said PVDC comprising gas barrier layer (c) and the heat-sealing layer (a) may be achieved by suitably selecting the resin or the resin blend of the heat-sealing layer (a). As an example, direct adhesion between the PVDC comprising gas barrier layer (c) and the heat-sealing layer (a) can be obtained using, for the heat-sealing layer (a), ethylene-vinyl acetate copolymers, ethylene-alkyl acrylate copolymers, ethylene-alkyl methacrylate copolymers, ethylene-α-olefin copolymers, and the like polymers and blends thereof.
In another embodiment the film has at least five layers wherein a tie layer (d) is between the sealing layer (a) and one of the surfaces of the intermediate gas barrier layer (c), and another tie layer (d'), that may be equal to or different from (d) is between the other surface of the intermediate gas-barrier layer (c) and the outer abuse layer (b). 」(13頁5?19行)
「本発明の一実施形態では、フィルムは少なくとも4枚の層を有し、この際タイ層(d)はガスバリア中間層(c)の1つの表面、並びに外側の酷使層(c)及び外側のヒートシール層(a)のうちのいずれか1つに付着している。特に、4層フィルムの場合には、層(c)を外側の酷使層(b)に接着するために、タイ層(d)が通常必要とされるが、前記PVDCを含むガスバリア層(c)とヒートシール層(a)との間の直接接着を、樹脂またはヒートシール層(a)の樹脂ブレンドを適切に選択することにより実現することができる。一例として、PVDCを含むガスバリア層(c)とヒートシール層(a)との間の直接接着は、ヒートシール層(a)に対して、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アルキルアクリレート共重合体、エチレン-アルキルメタクリレート共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、及びその同類のポリマー及びブレンドを用いて得ることができる。
もう一つの実施形態では、フィルムは少なくとも5枚の層を有し、この際タイ層(d)はシール層(a)と中間ガスバリア層(c)の1つの表面の間に存在し、(d)と同じであっても異なっていてもよいもう1つのタイ層(d')は、中間ガスバリア層(c)のもう一方の表面と外側の酷使層(b)の間に存在する。」(甲1の2、8頁42行?9頁8行)

1サ「The films according to the present invention can be manufactured by the so-called trapped-bubble process, which is a widely known process typically used for the manufacture of the heat-shrinkable films for food contact packaging.
According to said process, the multi-layer film is co-extruded through a round die to obtain a tube of molten polymer which is quenched immediately after extrusion without being expanded, then heated to a temperature which is above the T_(g) of all the resins employed and below the melting temperature of at least one of said resins, typically by passing it through a hot water bath, but alternatively using a hot air tunnel or an I.R. oven, and expanded, still at this temperature by internal air pressure to get the transversal orientation and by a differential speed of the pinch rolls which hold the thus obtained "trapped bubble" to provide the longitudinal orientation. The film is then rapidly cooled to somehow freeze the molecules of the film in their oriented state and wound. 」(13頁20行?14頁3行)
「本発明に従うフィルムは、食品と接触するこん包材のための熱収縮性フィルムの製造に一般に使用される広く公知の方法である、いわゆる捕捉気泡法(trapped-bubble process)によって製造することができる。
前記方法に従って、多層フィルムは、円形のダイを通じて共押出されて溶融ポリマーのチューブを得、それを押出直後に拡張されることなく急冷され、その後、一般にそれを熱水浴に通すことにより、あるいは熱風トンネルまたは赤外線オーブンを用いて、用いる全ての樹脂のTgよりも高く、前記樹脂の少なくとも1つの溶融温度よりも低い温度に加熱され、なおこの温度で横配向を得るために内部空気圧によって、かつ、縦配向をもたらすためにこのようにして得られる「捕捉気泡」を保持する異なる速度のピンチロールによって拡張(expand)される。次に、フィルムは急速に冷却されて、フィルムの分子をそれらの配向状態で何らかの方法で凍らせ、巻き取られる。」(甲1の2、9頁9?19行)

1シ「Example 1
A seven-layer film has been prepared by extrusion coating through a round die.
A substrate formed of the following layers (a)/(e)/(f)/(g), wherein the heat-sealing layer (a) is the innermost layer of the tube, has been co-extruded, quickly quenched with a water cascade, irradiated at a dosage level of 64 kGy and coated with the sequence of three layers, (c)/(d)/(b), wherein the outer abuse layer (b) is the outermost layer of the overall tube. The extrusion coated tape has then been quenched, re-heated by passing it through a water bath at about 95 ℃-98 ℃, and oriented at this temperature (with orientation ratios of about 3.6 : 1 in the longitudinal direction and about 3.2 : 1 in the transverse direction) by the trapped-bubble process.」(17頁16?25行)
「【実施例1】
7層フィルムを、円形のダイを通じて押出被覆により調製した。
ヒートシール層(a)がチューブの最内層である、次の層(a)/(e)/(f)/(g)から形成される基材を共押出し、水カスケードで素早く急冷し、64kGyの線量レベルで照射し、外側の酷使層(b)がチューブ全体の最も外側の層である、一連の3つの層、(c)/(d)/(b)で被覆した。次に、押出被覆したテープを急冷し、それを約95℃?98℃の水浴に通過させることにより再加熱し、この温度で捕捉気泡法により(縦方向に約3.6:1及び横方向に約3.2:1の配向比で)配向した。」(甲1の2、11頁12?19行)

1ス「The sequence of layers (from the innermost heat-sealing layer (a) to the outermost abuse layer (b)) in the overall structure is as follows:
(a)/(e)/(f)/(g)//(c)/(d)/(b)
wherein the resins used for the different layers and, between parentheses, the thickness of each layer are reported below:
(a) homogeneous ethylene-octene-1 copolymer - d = 0.905 g/cm^(3) - m.p. = 99℃ (DSC - 2^(nd) heating) - MI = 6 g/10' (measured by ASTM D1238 - Condition E (190 ℃, 2.16 kg)) - Affinity PL 1280 by Dow (9 μm)
(e) a blend of 70 % by weight of ethylene-vinyl acetate copolymer [14 % VA, MI = 0.25 g/10' (measured by ASTM D1238 - Condition E (190 ℃, 2.16 kg)) - Escorene Ultra F100014 by Exxon] and 30 % by weight of heterogeneous ethylene-octene-1 copolymer [d = 0.920 g/cm^(3) - m.p. = 124 ℃ (DSC - 2^(nd) heating) - MI = 1 g/10' (measured by ASTM D1238 - Condition E (190 ℃, 2.16 kg)) - Dowlex 2045 E by Dow] (6 μm)
(f) a blend of 20 % by weight of ethylene-vinyl acetate copolymer [14 % VA, MI = 0.25 g/10' (measured by ASTM D1238 - Condition E (190 ℃, 2.16 kg)) - Escorene Ultra F100014 by Exxon] and 80 % by weight of heterogeneous ethylene-octene-1 copolymer [d = 0.920 g/cm^(3) - m.p. = 124 ℃ (DSC - 2^(nd) heating) - MI - 1 g/10' (measured by ASTM D1238 - Condition E (190 ℃, 2.16 kg)) - Dowlex 2045 E by Dow] (7 μm)
(g) a blend of 70 % by weight of ethylene-vinyl acetate copolymer [14 % VA, MI = 0.25 g/10' (measured by ASTM D1238 - Condition E (190 ℃, 2.16 kg)) - Escorene Ultra F100014 by Exxon] and 30 % by weight of heterogeneous ethylene-octene-1 copolymer [d = 0.920 g/cm^(3) - m.p. = 124 ℃ (DSC - 2^(nd) heating) - MI = 1 g/10' (measured by ASTM D1238 - Condition E (190 ℃, 2.16 kg)) - Dowlex 2045 E by Dow] (8 μm)
(c) a blend of 30 % by weight of vinylidene chloride-methyl acrylate copolymer, 68 % by weight of vinylidene chloride-vinyl chloride and 2 % by weight of epoxidised soybean oil (6 μm)
(d) anhydride grafted and rubber modified LLDPE - Tymor 1203 by Morton (4 μm)
(b) a blend of 30 % by weight of EVOH [(44 mole % ethylene) - EVAL EP-105A by Marubeni] and 70 % by weight of a terpolyamide based on polyamide 6, polyamide 11, and polyamide 66 [sold by Bayer under the trade name Durethan^((R)) VP KU 2-2153 (m.p. 191 ℃)] (6 μm). 」(17頁26行?18頁28行)
「全体的な構造中の層の順序(最も内側のヒートシール層(a)から最も外側の酷使層(b)まで)は次のとおりである。
(a)/(e)/(f)/(g)//(c)/(d)/(b)
ここで、異なる層に使用される樹脂及び、丸括弧内に示される各々の層の厚さを下に報告する。
(a)均一エチレン-オクテン-1共重合体-密度=0.905g/cm^(3)-融点=99℃(DSC-二次加熱)-MI=6g/10分(ASTM D1238-条件E(190℃、2.16kg)により測定)-ダウ社製アフィニティ(Affinity)PL 1280(9μm)
(e)70重量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体[14%VA、MI=0.25g/10分(ASTM D1238-条件E(190℃、2.16kg)により測定)-エクソン社製エスコレン・ウルトラ(Escorene Ultra)F100014]及び30重量%の不均一エチレン-オクテン-1共重合体[密度=0.920g/cm^(3)-融点=124℃(DSC-二次加熱)-MI=1g/10分(ASTM D1238-条件E(190℃、2.16kg)により測定)-ダウ社製ダウレックス(Dowlex)2045E]のブレンド(6μm)
(f)20重量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体[14%VA、MI=0.25g/10分(ASTM D1238-条件E(190℃、2.16kg)により測定)-エクソン社製エスコレン・ウルトラ F100014]及び80重量%の不均一エチレン-オクテン-1共重合体[密度=0.920g/cm^(3)-融点=124℃(DSC-二次加熱)-MI=1g/10分(ASTM D1238-条件E(190℃、2.16kg)により測定)-ダウ社製ダウレックス 2045 E]のブレンド(7μm)
(g)70重量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体[14%VA、MI=0.25g/10分(ASTM D1238-条件E(190℃、2.16kg)により測定)-エクソン社製エスコレン・ウルトラ F100014]及び30重量%の不均一エチレン-オクテン-1共重合体[密度=0.920g/cm^(3)-融点=124℃(DSC-二次加熱)-MI=1g/10分(ASTM D1238-条件E(190℃、2.16kg)により測定)-ダウ社製ダウレックス 2045 E]のブレンド(8μm)
(c)30重量%の塩化ビニリデン-アクリル酸メチル共重合体、68重量%の塩化ビニリデン-塩化ビニル及び2重量%のエポキシ化ダイズ油のブレンド(6μm)
(d)無水物グラフト及びゴム変性LLDPE-モートン(Morton)社製Tymor 1203(4μm)
(b)30重量%のEVOH[(44モル%エチレン)-丸紅製EVAL EP-105A]及び70重量%の、ポリアミド6、ポリアミド11、及びポリアミド66に基づくターポリアミド(terpolyamide)[バイエル社によりデュレタン(登録商標)VP KU 2-2153の商品名で販売(融点191℃)]のブレンド(6μm)。」(甲1の2、11頁20行?12頁7行)

1セ「Example 11
A seven-layer film is prepared essentially as described in Example 1 but replacing the blend used for the outer abuse layer (b) with
(b^(iv)) a ternary copolyamide based on polyamide 6, polyamide 11, and polyamide 66 with m.p. = 191 ℃ (DSC- 2^(nd) heating) - [Durethan^(TM) VP KU 2-2153 by Bayer]. 」(21頁12?16行)
「【実施例11】
本質的に実施例1に記載されるとおりであるが、外側の酷使層(b)に使用するブレンドを
(b^(iv))ポリアミド6、ポリアミド11、及びポリアミド66に基づく三元コポリアミド(ternary copolyamide)、融点=191℃(DSC-二次加熱)-[バイエル製デュレタン(登録商標)VP KU 2-2153]に置き換えて、7層フィルムを調製する。」(甲1の2、13頁27?33行)

1ソ「Example 12
A seven-layer film is prepared essentially as described in Example 1 but replacing the blend used for the outer abuse layer (b) with
(b^(v) ) a co-polyamide 6/12 with m.p. = 190 ℃ ((DSC- 2^(nd) heating) [CR-8 by EMS].」(21頁17?20行)
「【実施例12】
本質的に実施例1に記載されるとおりであるが、外側の酷使層(b)に使用するブレンドを
(b^(v))コ-ポリアミド6/12、融点=190℃(DSC-二次加熱)-[EMS製CR-8]に置き換えて、7層フィルムを調製する。」(甲1の2、13頁34?39行)

1タ「 Example 16
・・・(中略)・・・
(c) a blend of 30 % by weight of vinylidene chloride-methyl acrylate copolymer, 68 % by weight of vinylidene chloride-vinyl chloride and 2 % by weight of epoxidised soybean oil (6 μm) 」(22頁10行?23頁9行)
「【実施例16】
・・・(中略)・・・
(c)30重量%の塩化ビニリデン-アクリル酸メチル共重合体、68重量%の塩化ビニリデン-塩化ビニル及び2重量%のエポキシ化ダイズ油のブレンド(6μm)」(甲1の2、14頁11?37行)

1チ「% Free shrink : the percent free shrink, i.e. the irreversible and rapid reduction, as a percent, of the original dimensions of a sample subjected to a given temperature under conditions where nil restraint to inhibit shrinkage is present, has been measured according to ASTM D2732, by immersing for 4 seconds specimens of the structures to be tested (10 cm x 10 cm) into a bath of hot water at 90 ℃. This attribute has been measured in the longitudinal direction (LD) as well as in the transversal direction (TD) and is reported as the sum thereof, i.e. the total free shrink. 」(26頁3?9行)
「自由収縮率%:自由収縮率、すなわち、収縮を阻害する拘束が存在しない条件下で所与温度にさらされたサンプルの元の寸法の不可逆的かつ急速な減少を、百分率として、ASTM D2732に従って、試験する構造の試験片(10cm×10cm)を90℃の熱水浴の中に4秒間浸漬することにより測定した。この属性は、縦方向(LD)並びに横方向(TD)において測定したものであり、その合計、すなわち全自由収縮として報告される。」(甲1の2、16頁28?33行)

以上の記載によれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「少なくとも、
融点が約188℃?約225℃であるポリアミドを含む第2の外側の酷使層(b)、
中間ガスバリア層(c)を第2の外側の酷使層(b)に結合するタイ層(d)、塩化ビニリデン共重合体を含む中間ガスバリア層(c)及び
溶融温度が80℃?約128℃であるポリオレフィンを含む第1の外側のヒートシール層(a)が
順に積層された熱収縮性の拡張された多層フィルム。」

(2)本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1と甲1発明との対比
甲1発明における「第2の外側の酷使層(b)」、「タイ層(d)」及び「第1の外側のヒートシール層(a)」は、それぞれ本件訂正発明1における「表面層(A)」、「接着層(A)」及び「表面層(B)」に相当する。
甲1発明における「中間ガスバリア層(c)」と本件訂正発明1における「バリア層」は、「バリア層」との概念で共通する。
甲1発明における「拡張」という事項は、本件訂正発明1における「延伸」という事項に相当し、甲1発明における「拡張された多層フィルム」と本件訂正発明1における「延伸積層フィルム」は、「延伸積層フィルム」との概念で共通する。
したがって、甲1発明の多層フィルムと、本件訂正発明1における延伸積層フィルムは、「表面層(A)、接着層(A)、バリア層、表面層(B)の少なくとも4層が順に積層された延伸積層フィルム」である点で共通する。
また、本件訂正明細書(以下、単に「本件明細書」という。【0028】)によれば、本件訂正発明1における「バリア層」についての「塩化ビニリデン共重合体からなり」という事項は、熱安定剤や可塑剤等が添加される態様を含んでいると認められる。一方、甲1においても、「本明細書において、用語PVDCは、・・・(中略)・・・塩化ビニリデン共重合体、または様々な割合のそのブレンドをさす。一般に、前記PVDCは、当技術分野で公知の可塑剤及び/または安定剤を含む。」(上記(1)エ)とされている。そして、甲1において、バリア層に可塑剤や安定剤以外の成分を添加することが必須とされている訳ではない。したがって、甲1発明における「中間ガスバリア層(c)」についての「塩化ビニリデン共重合体を含む」という事項は、本件訂正発明1における「バリア層」についての「塩化ビニリデン共重合体からなり」という事項に相当するといえる。
甲1発明における「融点」及び「溶融温度」は、本件訂正発明における「融解温度」に相当する。

よって、本件訂正発明1と甲1発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。

[一致点]
「表面層(A)、接着層(A)、バリア層、表面層(B)の少なくとも4層が順に積層された延伸積層フィルムであって、
前記バリア層が塩化ビニリデン共重合体からなる延伸積層フィルム。」

[相違点1A]
本件訂正発明1において、「前記表面層(A)の融解温度が、前記表面層(B)の融解温度より65℃以上150℃以下だけ高く」という事項が限定されているのに対し、甲1発明においては、酷使層(b)が「融点が約188℃?約225℃であるポリアミドを含」み、ヒートシール層(a)が「溶融温度が80℃?約128℃であるポリオレフィンを含む」ものの、前記のような限定はされていない点。

[相違点1B]
本件訂正発明1において、「バリア層の融解温度が130℃以上160℃未満である」という限定がされているのに対し、甲1発明においては、そのような限定はされていない点。

[相違点1C]
本件訂正発明1おいて、延伸積層フィルムについて「流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が共に50%以下」という限定がされているのに対し、甲1発明においてはそのような限定はされていない点。

イ 判断
[相違点1Bについて]
事案に鑑み、まず相違点1Bについて検討する。
甲1には、中間ガスバリア層(c)及び当該層に含まれる塩化ビニリデン共重合体について、次の記載がある。
「本明細書において、用語PVDCは、共重合体の過半量を塩化ビニリデンが構成し、共重合体の少量を、それと共重合可能な1以上の不飽和モノマー、一般に塩化ビニル、及びアルキルアクリレートもしくはメタクリレート(例えばメチルアクリレートもしくはメタクリレート)が構成する塩化ビニリデン共重合体、または様々な割合のそのブレンドをさす。」(上記(1)1エ)、
「本発明に従うフィルムは、前記ガス(例えば、酸素、窒素、二酸化炭素など)バリア層がPVDCを含む、中間ガスバリア層(c)の存在を必要とする。さらにより好ましい実施形態では、PVDCは、塩化ビニリデン-アクリル酸メチル共重合体、または塩化ビニリデン-メタクリル酸メチル共重合体、または塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体と半量未満の塩化ビニリデンアクリル酸メチル共重合体のブレンドを包含する。」(上記(1)1ク)
「(c)30重量%の塩化ビニリデン-アクリル酸メチル共重合体、68重量%の塩化ビニリデン-塩化ビニル及び2重量%のエポキシ化ダイズ油のブレンド(6μm)」(上記(1)1ス及び1タ)
甲1において、中間ガスバリア層(c)及び当該層に含まれる塩化ビニリデン共重合体についての具体的な記載は、上記記載のほかには認められない。
甲1の上記記載によれば、中間ガスバリア(c)は、PVDC、すなわち、共重合体の過半量を塩化ビニリデンが構成し、共重合体の少量を、それと共重合可能な1以上の不飽和モノマー、一般に塩化ビニル、及びアルキルアクリレートもしくはメタクリレート(例えばメチルアクリレートもしくはメタクリレート)が構成する塩化ビニリデン共重合体又は様々な割合のそのブレンドを含むこと、PVDCは、塩化ビニリデン-アクリル酸メチル共重合体、または塩化ビニリデン-メタクリル酸メチル共重合体、または塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体と半量未満の塩化ビニリデンアクリル酸メチル共重合体のブレンドを包含することが好ましいこと、及び中間ガスバリア(c)の組成の具体例として、30重量%の塩化ビニリデン-アクリル酸メチル共重合体、68重量%の塩化ビニリデン-塩化ビニル及び2重量%のエポキシ化ダイズ油のブレンドがあることが理解される。
しかしながら、甲1には、中間ガスバリア層(c)及び当該層に含まれる塩化ビニリデン共重合体の融解温度については記載されていない。
そこで、塩化ビニリデン共重合体の融解温度について検討する。
甲2には、以下の記載がある。
「本発明で使われている塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体は15?30%、好ましくは20?24%、より好ましくは約22%の塩化ビニルおよび85?70%、好ましくは80?76%、より好ましくは約78%の塩化ビニリデンを含むのが好ましい。塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体は好ましくは分子量が70,000?160,000、より好ましくは90,000?140,000である。該共重合体は一般的には融点が136?142℃、より好ましくは138?140℃であり、相対粘度が1.40?1.70、より好ましくは1.50?1.60である。該塩化ビニリデン-塩化ビニルは乳化または懸濁重合のどちらでも製造し得るが、乳化重合した物質が好ましく用いられる。
本明細書中で言及している相対粘度はASTMのD2857法に従って、テトラヒドロフラン中の樹脂の溶液を使用して測定した。
該塩化ビニリデン-メチルアクリレート共重合体は重量で6.5?9.5%、好ましくは7.5?8.5%、より好ましくは約8%のメチルアクリレートおよび重量で93.5?90.5%、好ましくは91.5?92.5%、より好ましくは約92%の塩化ビニリデンを含むのが好ましい。該塩化ビニリデン-メチルアクリレート共重合体は好ましくは懸濁重合して製造した共重合体であって、分子量が80,000?140,000、好ましくは100,000?120,000であるのが好ましい。該塩化ビニリデン-メチルアクリレート共重合体は融点が約155℃であって、相対粘度が約1.48であるのが好ましい。」(段落【0017】?【0019】)
甲3及び甲4の1には、塩化ビニリデン-メチルアクリレート共重合体であって、融解温度が152?157℃であるもの、及び溶融温度が158℃であるものが記載されている。
さらに、乙1ないし乙5、乙7及び乙11によれば、塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体及び塩化ビニリデン-アクリル酸メチル共重合体には、融解温度が次のものが存在すると認められる。
塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体:163℃(乙1)、165℃(乙2)、169℃(乙3)、164℃(乙4、乙5)、約185?約195℃(乙7、288頁Fig.3.の「VDC-VC」)
塩化ビニリデン-アクリル酸メチル共重合体:約155?約195℃(乙7、288頁Fig.3.の「VDC-MA」)、165℃(乙11)
上記の甲2ないし甲4の1、乙1ないし乙5、乙7及び乙11によれば、塩化ビニリデン共重合体は、融解温度が少なくとも136?約195℃の範囲にわたる種々のものが本願優先日前に知られていたと認められる。
甲1において、PVDCの好ましいものとして、塩化ビニリデン-アクリル酸メチル共重合体、または塩化ビニリデン-メタクリル酸メチル共重合体、または塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体と半量未満の塩化ビニリデンアクリル酸メチル共重合体のブレンドが記載されているところ、上記の甲2ないし甲4の1、乙1ないし乙5、乙7及び乙11によれば、塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体は融解温度が少なくとも136?約195℃の範囲にわたる種々のものが知られており、塩化ビニリデン-アクリル酸メチル共重合体は、融解温度が152?約195℃の範囲にわたる種々のものが知られていたと認められる。
これらのことから、塩化ビニリデン共重合体には、融解温度が130℃以上160℃未満の範囲内にあるもののほか、融解温度が前記範囲外であるものが種々存在すると認められる。
上記したとおり、甲1には、中間ガスバリア層(c)や塩化ビニリデン共重合体の融解温度については記載されておらず、甲1発明における中間ガスバリア層(c)の融解温度に着目し、その融解温度が130℃以上160℃未満となるように中間バリア層(c)の主成分である塩化ビニリデン共重合体を選択することについて、動機付けとなる記載は甲1には見出せない。甲2ないし甲17によっても、上記の動機付けとなる記載は見出せない。

本件明細書によれば、本件訂正発明1の延伸積層フィルムは、「表面層(A)、接着層(A)、バリア層、表面層(B)の少なくとも4層が順に積層された延伸積層フィルム」において、「前記表面層(A)の融解温度が、前記表面層(B)の融解温度より65℃以上150℃以下だけ高く」(相違点1A)、「前記バリア層が塩化ビニリデン共重合体からなり、バリア層の融解温度が130℃以上160℃未満」(相違点1B)であり、及び「流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が共に50%以下の延伸積層フィルム」(相違点1C)であるという構成要件を一体的に具備することにより、「重ねシール性と透明性に優れ、熱収縮性、バリア性、シートヒール性も兼ね備えた延伸積層フィルムを提供する」という課題(段落【0007】)を解決したものであり、「重ねシール性に優れ、効率的で確実な包装作業が行なえる。しかも、熱収縮包装に際しては皺が少なく美麗に包装でき、さらに熱収縮後の白化なく透明性の良い包装が可能である。」という作用効果を奏するものと認められる(段落【0009】、【0022】?【0027】、【0042】、【0047】?【0072】)。
本件訂正発明1による上記の作用効果は、当業者が予期し得るものであるとはいえない。

以上のことから、上記相違点1Bは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

請求人は、上記相違点1Bについて次の主張をする。
[主張1]
甲1と甲2は、発明者・出願人が実質的に同一であるから、甲1の中間ガスバリア層(c)における塩化ビニリデン共重合体は、甲2記載の塩化ビニリデン共重合体である蓋然性が高いということができ、少なくとも甲2記載の塩化ビニリデン共重合体を選択しようと試みることは当業者が容易になし得る程度のことである。(平成25年11月5日付け口頭審理陳述要領書10頁下から12行?13頁18行、13頁下から5行?17頁10行)

[主張2]
「積層された熱収縮性の拡張された多層フィルム」、すなわち「熱収縮性の延伸積層フィルム」若しくは「包装用延伸積層フィルム」において、バリア性、加工性(成形性)及び分解性のバランスを考慮して、「塩化ビニリデン共重合体を含む中間ガスバリア層(c)」の融解温度を選定することは、当業者が当然に実施することである。130℃以上160℃未満の温度範囲内に融解温度を有する塩化ビニリデン共重合体は、甲2等に記載され、熱収縮性の延伸積層フィルム(包装用延伸積層フィルム)の技術分野において広く知られたものである。甲1発明において、130℃以上160℃未満の温度範囲内に融解温度を有する塩化ビニリデン共重合体を選定することについての阻害要因は存在しない。したがって、甲1発明において、130℃以上160℃未満の温度範囲内に融解温度を有する塩化ビニリデン共重合体を含む中間ガスバリア層(c)を選定することは、包装用延伸積層フィルムの技術分野の当業者が、容易に想到することができることである。甲1発明が、塩化ビニリデン共重合体からなるバリア層の融解温度が130℃以上160℃未満であることを発明特定事項に備えることによって、格別の効果を奏することは、本件明細書に実施例に該当する具体例の開示もないことから、具体的に確認できない。(平成25年12月2日付け上申書9頁下から9行?10頁下から3行)

[主張3]
本件訂正発明の効果は、当業者に周知の課題・目的に関する発明の効果の確認であり、異質な効果や顕著な効果が示されているものではない。
特に、収縮後の白化の技術的課題は、甲9の表紙に、手前側に透明な収縮後の包装物(収縮後の曇り度として0?数%程度であることが当業者に理解できる。)、及び、左奥にやや白くみえる収縮後の包装物(収縮後の曇り度として10%未満であることが当業者に理解できる。)が示されているように、塩化ビニリデン共重合体をバリア層に備える熱収縮性フィルムの分野において、周知の技術的課題である(平成25年12月10日付け上申書(第2回)2頁4?14行)。

しかしながら、以下に述べるとおり、請求人の上記主張はいずれも採用できない。
[主張1について]
甲1と甲2の発明者・出願人が同一であることは、甲1発明における塩化ビニリデン共重合体として、甲2に記載されたものを採用することの動機付けとなるものではない。
甲1には「本発明は、良好な収縮性、良好な光学特性、非常に良好な機械的性質及び特有のシール性能を含む、望ましい特性のバランスに恵まれた多層熱収縮性熱可塑性フィルムに関する。本発明はまた、前記フィルムで作製した容器、例えばチューブ、バッグ及びパウチなどにも関する。」(上記(1)1イ)及び「本発明者らは、望ましい特徴、つまり、高い衝撃強さ、高い耐酷使性、90℃での高い自由収縮率、高い光沢及びパッケージ表示、良好なシール性及びシール強度、並びに重ね積みシール性能(stack/overlap sealing capability)、の組合せを提供することができ、安定かつ制御された工程によって製造することのできるフィルムを見出した。」(上記(1)1ウ)と記載され、一方、甲2には「本発明は共重合体を別々に押出したときに得られる押出し速度に較べて押出し速度が増した塩化ビニリデン共重合体混合物の製造方法を提供する。」(段落【0012】)と記載され、それぞれ発明の課題は同一であるとは認められない。そして、甲1及び甲2において、ガスバリア性材料としての塩化ビニリデン共重合体は、それぞれの課題に応じて適切なものが選択されると考えるのが自然である。ガスバリア性の塩化ビニリデン共重合体は、甲2に記載されたもの以外にも種々のものが知られているのであり(甲3、甲4の1、乙1ないし乙5、乙7及び乙11)、しかも、甲1と甲2のそれぞれの発行日の間には6年近くの期間があるところ、ガスバリア性の材料としての塩化ビニリデン共重合体は、前記期間中にも種々のものが研究開発されていたことが推認されるのであり(例えば、甲4の1、乙1ないし乙5は、前記期間中である1996年に発行された技術資料である。)、甲1発明における中間ガスバリア層(c)の塩化ビニリデン共重合体としては、甲2に記載されたもの以外のものがあり得ると考えるのが自然である。
したがって、甲1の中間ガスバリア層(c)における塩化ビニリデン共重合体は甲2記載の塩化ビニリデン共重合体である蓋然性が高いとはいえないし、甲1の中間ガスバリア層(c)における塩化ビニリデン共重合体として甲2記載の塩化ビニリデン共重合体を選択しようと試みることが当業者が容易になし得ることともいえない。
よって、請求人の上記主張1は失当であり採用できない。

[主張2について]
甲1発明は、少なくとも「融点が約188℃?約225℃であるポリアミドを含む第2の外側の酷使層(b)」、「中間ガスバリア層(c)を第2の外側の酷使層(b)に結合するタイ層(d)」、「中間ガスバリア層(c)」及び「溶融温度が80℃?約128℃であるポリオレフィンを含む第1の外側のヒートシール層(a)」の4層が順に積層された特定の構造を有する積層フィルムであるところ、このような特定の積層構造を有する積層フィルムにおいて、中間ガスバリア層の塩化ビニリデン共重合体について、その融解温度がどの程度の温度が好適であるか、示唆する記載はいずれの証拠にも見出せない。
請求人は、甲14を例示して、「バリア性、加工性(成形性)及び分解性のバランスを考慮して、「塩化ビニリデン共重合体を含む中間ガスバリア層(c)」の融解温度を選定することは、当業者が当然に実施することである。」と主張する。しかしながら、バリア性、加工性(成形性)及び分解性のバランスを考慮して、塩化ビニリデン共重合体を含むガスバリア層の融解温度を設定することが一般的な課題であるとしても、甲1発明は「高い衝撃強さ、高い耐酷使性、90℃での高い自由収縮率、高い光沢及びパッケージ表示、良好なシール性及びシール強度、並びに重ね積みシール性能(stack/overlap sealing capability)、の組合せを提供することができ、安定かつ制御された工程によって製造することのできるフィルム」(上記(1)1ウ)を提供することを課題としているところ、そのような甲1発明の課題と、前記した一般的な課題とを同時に解決することについて、当業者が容易になし得ることとはいえない。
延伸積層フィルムの技術分野において、130℃以上160℃未満の温度範囲内に融解温度を有する塩化ビニリデン共重合体が知られていたとしても、そのような塩化ビニリデン共重合体を使用した場合に、前記した両課題を同時に解決することができることを、当業者が予期し得るものと認めるに足る根拠は見出せない。
したがって、甲1発明において、130℃以上160℃未満の温度範囲内に融解温度を有する塩化ビニリデン共重合体を含む中間ガスバリア層(c)を選定することは、当業者が容易に想到することができることであるとはいえない。
本件訂正発明1の効果は、本件明細書に記載された実施例の記載などによって裏づけられていると認められる。
よって、請求人の上記主張2は失当であり採用できない。

[主張3について]
甲9の表紙の写真において、被包装物(生肉)をフィルムで包装した包装物が複数認められる。当該写真において、各包装物について撮影手段(カメラ)との距離や撮影角度等の条件が互いに異なっていると認められ、これら条件が異なれば写真における見え方も互いに異なることが十分あり得るから、当該写真によって各包装物におけるフィルムの曇り度等の物性を評価することは技術的に妥当ではない。
そして、仮に、当該写真において、包装体におけるフィルムの曇り度が0?数%程度又は10%未満であることが認められるとしても、そのことから、本件訂正発明の課題である「重ねシール性と透明性に優れ、熱収縮性、バリア性、シートヒール性も兼ね備えた延伸積層フィルムを提供する」という点が、当該写真を根拠に周知の技術的課題であるということはできない。
よって、請求人の上記主張3は根拠がなく採用できない。

ウ 小括
以上のとおり、本件訂正発明1における上記相違点1Bに係る構成は、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、本件訂正発明1は、甲1ないし甲9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

なお、請求人は、「本件明細書の段落0052ないし段落0054は、本件における「ゲル分率」の定義である。本件明細書の記載には、治癒できない不備がある。本件明細書に記載された実施例は、不合理であるから、本件発明の実施例として参酌されるべきでない。」(平成25年12月9日第1回口頭審理調書 陳述の要領 請求人6)と主張する。
本件明細書に記載されているとおり、ゲル分率は、「各層の電子線架橋の度合いを示す」(段落【0032】)、「《ゲル分率の評価》層の架橋度の尺度として用いる」(段落【0051】)」とされ、実施例においては、延伸積層フィルムの各層を剥がして或いは削った試料を用い、この試料約100mgを150メッシュのステンレス製金網を折りたたんだ袋に入れ、沸騰p-キシレン中で12時間抽出し、不溶解物の割合を求めることで得られると記載されている(段落【0052】?【0054】)。本件明細書において、種々の樹脂がゲル分率の測定対象とされ、それら樹脂には沸騰p-キシレンには溶解しないことが技術常識から明らかな「ナイロン-6,66共重合体」(実施例1等)が含まれているところ、本件明細書にはゲル分率を測定する際の溶媒について「沸騰p-キシレン」しか記載されていないから、本件明細書は、ゲル分率の記載について直ちには理解できない不備があるといえる。
ここで、架橋の度合いであるゲル分率の測定をするためには、対象とする樹脂それぞれについて、架橋していない状態の樹脂は溶解するが架橋した状態の樹脂は溶解しない溶媒を選択する必要があることは技術常識から明らかである。そして、当該技術常識を踏まえれば、本件明細書に前記不備があったとしても、当業者は、ゲル分率の意義さらには本件明細書の実施例の記載を理解でき、さらには本件訂正発明の技術的意義を理解できるといえる。よって、前記不備にかかわらず、本件明細書に記載された実施例は、本件発明の実施例として参酌することができる。
よって、本件明細書に記載された実施例は不合理であるから本件発明の実施例として参酌されるべきでない、との請求人の主張は当たらない。

また、請求人は、「本件明細書の実施例23の記載には、何の誤りであるのか不明な不備がある。したがって、実施例23は本件発明の実施例として参酌されるべきでない。」(平成25年12月9日第1回口頭審理調書 陳述の要領 請求人7)とも主張する。
本件明細書の表6中の実施例23には「塩化ビニリデン/塩化ビニル共重合体(83/17)」の融解温度が「145℃」と記載されている。一方、実施例1?5、9、10、12?22及び25には「塩化ビニリデン/塩化ビニル共重合体(72.5/27.5)」の融解温度が「145℃」と記載され、比較例5及び8には「塩化ビニリデン/塩化ビニル共重合体(83/17)」の融解温度が「145℃」と記載されている。上記の実施例23の塩化ビニリデン/塩化ビニル共重合体のモノマー比率と融解温度の記載は、その他の実施例の記載及び比較例5及び8との記載と整合しないことから、実施例23の記載には、塩化ビニリデン/塩化ビニル共重合体のモノマー比率又は融解温度のいずれかの記載に誤りがあると推測される。
ここで、実施例1?5、9、10、12?22及び25における塩化ビニリデン/塩化ビニル共重合体のモノマー比率はすべて「72.5/27.5」であり、その融解温度が「145℃」と記載されていることから、実施例23においても、塩化ビニリデン/塩化ビニル共重合体のモノマー比率は正しくは「72.5/27.5」であると理解するのが自然である。したがって、前記誤りにかかわらず、本件明細書に記載された実施例23は、本件発明の実施例として参酌することができる。
よって、実施例23は本件発明の実施例として参酌されるべきでない、との請求人の主張は当たらない。
なお、仮に、実施例23を参酌しないとしても、その他の実施例及び比較例によって本件訂正発明の効果を具体的に確認することができるから、本件訂正発明1は、甲1ないし甲9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないとの判断は変わらない。

(3)本件訂正発明2及び8について
本件訂正発明2及び8は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の限定を付加したものに相当するから、少なくとも、前記(2)アに示した[相違点1A]ないし[相違点1C]で甲1発明と相違する。
そして、前記(2)イ及びウに示したとおり、本件訂正発明1は、甲1ないし甲9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件訂正発明2及び8は、甲1ないし甲9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


2.無効理由7について
(1)請求人の主張の要点
本件訂正発明は、「(1)前記表面層(A)の融解温度が、前記表面層(B)の融解温度より65℃以上150℃以下だけ高く、」を発明特定事項に備え、これ以外に表面層(A)の融解温度に関する特定はない。表面層(A)と表面層(B)との組み合わせ自体、極めて多様であって直ちには想定困難であるとともに、これらのすべての組み合わせについて、熱収縮性の延伸積層フィルムとして同等の効果が奏されるということは、当業者が想定できるものではない。
したがって、表面層(A)の融解温度が無限定であり、それ故表面層(B)の融解温度が無限定であり、唯一融解温度差事項により表面層(A)と表面層(B)とが特定される各訂正発明は、発明の詳細な説明に実質的に記載されたものではない。

(2)当審の判断
本件明細書には、表面層(A)及び表面層(B)について、次の記載がある。
「【0007】
本発明は、重ねシール性と透明性に優れ、熱収縮性、バリア性、ヒートシール性も兼ね備えた延伸積層フィルム及びそれからなる袋を提供することを課題とする。」、
「【0022】
ここで、表面層(A)と表面層(B)の融解温度の差(65℃以上150℃以下)の意味について詳述する。JIS-K7121に準じて示差走査式熱量計(DSC)で測定する融解温度(Tm)の値はピークの値であるから、Tmに至るまでの温度でも樹脂の一部の結晶が溶解し始めているものである。中にはベタツキを生じてくるものもある。仮にベタツキが生じた場合、融解温度に到達する前でも重なっているフィルム表面層どうしで溶着が生じ、シール圧力によっては密着してしまう。しかし、外側と内側の層の融解温度差が65℃以上あると、そのような場合であっても、密着がほとんど発生しない。また、その差が100℃以上あると、密着が発生しないし、ヒートシールの温度範囲(通常は上記融解温度差の範囲内にヒートシール温度が入るように設定する)が広がることもあり好ましい。この場合、包装機の温度や速度等の運転許容幅が広がることになる。
【0023】
一方、融解温度の差が150℃を超える場合は、一般に表面層(B)でシール層として使用される樹脂の融解温度は低くても80℃程度だから、表面層(A)としては、融解温度が230℃を超えるものを使用することになる場合がある。ところが、融解温度が230℃を超える場合、熱収縮後に白化が見られる場合がある。収縮後の白化を防止して良好な透明性を確保し、さらに共押出した時の塩化ビニリデン共重合体の黄変を抑制する観点も加味すると、融解温度の差は150℃以下であり、かつ70℃以上が好ましく、150℃以下であり、かつ135℃以上であることがより好ましい。」

本件明細書の段落【0007】の記載によれば、本件訂正発明の課題は、重ねシール性と透明性に優れ、熱収縮性、バリア性、ヒートシール性を兼ね備えることであると認められる。そして、本件明細書の段落【0007】、【0022】及び【0023】の記載から、本件訂正発明における「前記表面層(A)の融解温度が、前記表面層(B)の融解温度より65℃以上150℃以下だけ高く」という事項によって、重ねシール性が向上し、熱収縮後の白化が抑制されるという技術的意義を理解できる。
さらに、本件明細書には、実施例1ないし23、25として、表面層(A)と、表面層(B)に使用する樹脂として表面層(A)の融解温度より65℃以上150℃以下低い樹脂と、バリア層に使用する樹脂として130℃以上160℃未満の融解温度を有する塩化ビニリデン共重合体とを組み合わせた実施例1?23及び25が示され、比較例1ないし12として、表面層(A)と表面層(B)の融解温度差又はバリア層に使用する塩化ビニリデン共重合体の融解温度のいずれか一方又は両方が、本件訂正発明の範囲外である比較例が記載されており、これら実施例及び比較例によって、上記の技術的意義が裏づけられているといえる。
したがって、当業者は、本件明細書の記載及び技術常識に基づいて、一定の効果を奏する発明を把握することができるのであり、表面層(A)と表面層(B)との組み合わせが多様であるからといって、特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明の記載を超えているということはできない。
以上のことから、本件訂正発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、本件の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反しない。

なお、請求人が提出した「平成25年11月5日付け口頭審理陳述要領書」28頁下から10行ないし32頁下から8行「〔2〕発明の詳細な説明に記載された「実施例」について」及び「〔3〕数値範囲の特定に特徴がある発明における実施例の必要性について」並びに「平成25年12月2日付け上申書」3頁下から5行ないし6頁9行「III 明細書の記載不備(特許法第36条第6項第1号)について」による、審判請求理由の実質的補正は、審判請求書の要旨を変更するものであって、特許法第131条の2第1項ただし書き各号、及び第2項の規定のいずれにも該当しないので決定をもって、これを許可しないこととした(平成25年12月9日第1回口頭審理調書 陳述の要領 審判長1)。


第6 訂正前の請求項3ないし7及び9についての審判請求について
上記第3のとおり、被請求人の請求のとおり訂正が認められ、請求項3ないし7及び9は削除された。
したがって、請求人の請求のうち、訂正前の請求項3ないし7及び9に係る発明についての請求は、その対象が存在しないものとなった。
よって、請求人の請求のうち、訂正前の請求項3ないし7及び9に係る発明についての請求は、不適法な審判の請求であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第135条の規定により却下する。

第7 結び
以上のとおりであるから、請求人が主張する無効理由及び提出した証拠方法によっては、本件訂正発明1、2及び8についての特許を無効とすることはできない。
請求人のその余の請求(訂正前の請求項3ないし7及び9に係る発明についての請求)を却下する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条及び第62条の規定により、その9分の3を請求人が負担し、9分の6を被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
延伸積層フィルム及び袋
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉類、加工肉、水産加工品、機械部品等の効率的な包装処理が可能な、熱収縮性とバリア性を有する延伸積層フィルム及びそれを用いた袋に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に肉類、加工肉類、水産加工品、機械部品等の包装には延伸積層フィルムが用いられる。延伸積層フィルムは様々な性質を有する各層により、用途に応じた機能が付与される。熱収縮包装に用いられる延伸積層フィルムに必要とされる性質には、以下が挙げられる。
(1)熱収縮性:熱によりフィルムが収縮する性質である。延伸し易い層により付与される。熱収縮性を有するフィルムで真空包装された製品に温水シャワー、熱風、温水層等により熱をかけると、フィルムが内容物に密着して製品の外観が良好となる。
(2)バリア性:酸素等を遮断する性質である。酸素等を通さない層により付与される。例えば塩化ビニリデン共重合体や、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物、アミド樹脂等の層を有する積層フィルムは酸素バリア性を示す。内容物の長期保存が可能となる。
(3)透明性:フィルムの透明度を示す性質である。フィルム各層の熱収縮率の差により影響を受ける。製品の外観の点で重要な性質である。
(4)ヒートシール性:熱によりフィルム同士が接着する性質である。融解温度の低い層により付与される。フィルムでできた袋の口を熱を掛けて閉じることが可能となる。
(5)重ねシール性:フィルムでできた袋の口をヒートシールする際に、複数の袋の熱をかける部分を重ね、まとめてヒートシールしても、袋同士が溶着しないという性質である。単位時間あたりの包装袋数を増加させることができる。
【0003】
特許文献1、特許文献2には、フィルムの表面層にエチレン-α-オレフィン共重合体を用い、電子線架橋したフィルムが記載されている。このフィルムは熱収縮性、透明性に優れているが、重ねシール性に劣る。
【0004】
また、特許文献3及び4には、一方の表面層の融解温度がもう一方の表面層の融解温度より少なくとも20℃高い熱収縮性積層フィルムが記載されている。このフィルムは耐バーンスルー性(burn-through resistance)が良好であり、インパルスシール性に優れると記載されている。しかし、大きく熱収縮した場合に白化が顕著となり、透明性が著しく悪化するという問題がある。
【0005】
特許文献5、6には、一方の表面層が脂肪族アミド、もう一方の表面層が超低密度ポリエチレンからなり、バリア層を含む積層フィルムが記載されている。しかし、熱収縮させた場合にやはり白化してしまう、もしくは熱収縮性が不十分でフィルムが内容物に密着しない。
【0006】
このように、上記の(1)?(5)のいずれも満たすフィルムを得ることは難しいのが実情であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【特許文献1】特表昭64-500180号公報(対応:US4863768、US4985188)
【特許文献2】特開平9-39179号公報
【特許文献3】特表2002-531288号公報(対応:US6627274)
【特許文献4】特表2003-523290号公報(対応:US6787220)
【特許文献5】特開平10-35720号公報
【特許文献6】WO2000-26024号公報(英文)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、重ねシール性と透明性に優れ、熱収縮性、バリア性、ヒートシール性も兼ね備えた延伸積層フィルム及びそれからなる袋を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は下記の通りである。
1. 表面層(A)、接着層(A)、バリア層、表面層(B)の少なくとも4層が順に積層された延伸積層フィルムであって、
(1)前記表面層(A)の融解温度が、前記表面層(B)の融解温度より65℃以上150℃以下だけ高く、
(2)前記バリア層が塩化ビニリデン共重合体からなり、バリア層の融解温度が130℃以上160℃未満である、
ことを特徴とする延伸積層フィルム。
2. 表面層(A)、接着層(A)、バリア層、表面層(B)の少なくとも4層が順に積層された延伸積層フィルムであって、
(1)前記表面層(A)の融解温度が、前記表面層(B)の融解温度より65℃以上150℃以下だけ高く、
(2)前記バリア層が塩化ビニリデン共重合体からなり、バリア層の融解温度が130℃以上160℃未満であり、
(3)流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が、共に20%以上50%以下である、
ことを特徴とする延伸積層フィルム。
3. 前記バリア層と前記表面層(B)との間に接着層(B)が積層されて少なくとも5層からなり、前記表面層(A)がプロピレン共重合体、アミド樹脂、エステル共重合体から選ばれる少なくとも1種を含みゲル分率が0%以上5%以下であり、前記接着層(A)がエチレン共重合体からなってゲル分率が25%以上70%以下であり、前記接着層(B)がエチレン共重合体からなり、さらに前記表面層(B)がエチレン共重合体を含むことを特徴とする1.記載の延伸積層フィルム。
4. 前記表面層(A)がアミド樹脂からなり、前記表面層(B)がエチレン共重合体からなることを特徴とする3.に記載の延伸積層フィルム。
5. 前記表面層(A)のフィルム全体に占める割合が0.5?20%であることを特徴とする3.に記載の延伸積層フィルム。
6. 前記バリア層の融解温度が135℃以上150℃未満である3.に記載の延伸積層フィルム。
7. 流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が、共に25%以上45%以下であり、かつ流れ方向と横方向の合計で65%以上あることを特徴とする3.に記載の延伸積層フィルム。
8. 1.から7.のいずれかに記載の延伸積層フィルムからなる袋であって、前記表面層(A)が当該袋の外側に配されていることを特徴とする袋。
9. 表面層(A)が非晶性のナイロンが5?40重量%混合されたアミド樹脂、表面層(B)がエチレンコモノマーと、ブテンコモノマー、ヘキセンコモノマー、及びオクテンコモノマーから選ばれるいずれか一つのコモノマーとの共重合体であり、密度の範囲が0.88?0.92g/cm^(3)、JIS-K-7210の測定条件に準ずる測定条件(190℃、21.2N)で測定したメルトインデックスの値が0.5?7であるエチレン共重合体からなることを特徴とする4.に記載の延伸積層フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフィルムまたはそれを用いた袋は、重ねシール性に優れ、効率的で確実な包装作業が行える。しかも熱収縮包装に際しては皺が少なく美麗に包装でき、さらに熱収縮後の白化もなく透明性の良い包装が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】延伸積層フィルムの好ましい断面構成を示した模式図である。図の上側にある層が袋の外側に、図の下側にある面が袋の内側に面する。
【符号の説明】
【0011】
1 延伸積層フィルム
10 表面層(A)
11 接着層(A)
12 バリア層
13 接着層(B)
14 表面層(B)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について以下詳細に説明する。本発明の延伸積層フィルムは、表面層(A)、接着層(A)、バリア層、表面層(B)の少なくとも4層をこの順に有し、表面層(A)の融解温度が、表面層(B)の融解温度より65℃以上150℃以下だけ高く、バリア層は塩化ビニリデン共重合体からなり、バリア層の融解温度が130℃以上160℃未満であるものである。
【0013】
表面層(A)は、袋に加工した場合に外側となり、積層フィルムの強度を保持するための層である。この層に使用する樹脂は融解温度が比較的高い樹脂、例えば、プロピレン共重合体、アミド樹脂、エステル共重合体等が使用できる。エステル共重合体の例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。その中でもアミド樹脂が耐熱性、透明性、延伸性に優れているので好適に使用できる。アミド樹脂としては、ナイロン-6、ナイロン-12等の脂肪族アミド樹脂、ナイロン-6,66、ナイロン-6,12等の脂肪族アミド共重合体、ナイロン-6,66,12等の脂肪族3元共重合体、その中でもナイロン-6,66は高い熱収縮性が得られる点で好ましい。
【0014】
表面層(A)の融解温度は好ましくは140℃から230℃である。アミド樹脂の場合、樹脂の融解温度(Tm)は、高い熱収縮性で好ましい熱収縮応力が得られる点で140?230℃が好ましい。その中でも155?220℃のものがより好ましい。
【0015】
表面層(A)に使用する樹脂としてアミド樹脂を用いた場合には、非晶性のナイロンを5?40重量%混合するとさらに良好な延伸性、適度な熱収縮応力が得られ好ましい。必要に応じてグリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤等の界面活性剤、酸化防止剤、帯電防止剤、石油樹脂、ミネラルオイル、脂肪酸アミド系滑剤、酸化珪素、炭酸カルシウム、タルク等のアンチブロッキング剤を透明性を損なわない程度に添加することができる。又、袋として取り扱う際に剥離性が良くなるように、表面に澱粉粉末等の微粉をまぶしても良い。
【0016】
表面層(A)のフィルム全層に対する厚み比率は、高い熱収縮性と低い熱収縮応力の点で0.5?20%が好ましく、1?15%がより好ましく、更には1?5%がより好ましい。
【0017】
次に、表面層(B)は、袋に加工した場合に最も内側となり、袋を密封するためのヒートシール層となる層である。この層に使用する樹脂は、表面層(A)に使用する樹脂より融解温度が65℃以上150℃以下の範囲で低い樹脂であることが好ましい。例えば、ポリエチレン、エチレン共重合体であるエチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等、或いはそれらの混合物等から選んで使用できる。その中でもエチレン-α-オレフィン共重合体が、延伸性、ヒートシール性に優れているので好ましい。
【0018】
表面層(B)の融解温度は好ましくは80℃から130℃である。エチレン-α-オレフィン共重合体としては、シングルサイト系触媒、又はマルチサイト系触媒と呼ばれる触媒を用いて重合するものが良い。その中でもシングルサイト系触媒により重合されたものが良好なヒートシール性の点で好ましい。さらに、エチレンコモノマーと、ブテンコモノマー、ヘキセンコモノマー、及びオクテンコモノマーから選ばれるいずれか一つのコモノマーとの共重合体がより好ましい。また、透明性及びヒートシール性の点で、エチレン-α-オレフィン共重合体の密度の範囲は0.88?0.92g/cm^(3)とすることが好ましく、0.89?0.918g/cm^(3)とすることがより好ましい。また、エチレン-α-オレフィン共重合体のJIS-K-7210の測定条件に準ずる測定条件(190℃、21.2N)で測定したメルトインデックスの値は、熱収縮率と好適な熱収縮応力の点で0.5?7が好ましく、1?4がより好ましい。
【0019】
表面層(B)で使用する樹脂としてエチレン-α-オレフィン共重合体を使用する場合には、40重量%以下の範囲で、他の樹脂としてエチレン-酢酸ビニル共重合体、高圧法低密度ポリエチレン、石油樹脂、水添テルペン樹脂等を混合させることができる。これらを混合する場合、防曇剤等の界面活性剤との混練性、透明性、柔軟性等の物性を付与することができる。良好なヒートシール性の点で、エチレン-α-オレフィン共重合体の量は60重量%以上が好ましい。他の樹脂の混合量の範囲は5重量%以上20重量%以下とするのが好ましい。
【0020】
さらに、表面層(B)にはグリセリン脂肪酸エステル等の界面活性剤、酸化防止剤、帯電防止剤、石油樹脂、ミネラルオイル、脂肪酸アミド滑剤、酸化珪素、炭酸カルシウム、タルク等のアンチブロッキング剤が、シール性、透明性を損なわない程度に添加されていても構わない。
【0021】
表面層(B)のフィルム全層に対する厚み比率は、ヒートシール性、及び高い熱収縮性の点で、5?60%が好ましく、10?25%がより好ましい。フィルムが4層の場合は10?60%が好ましい。
【0022】
ここで、表面層(A)と表面層(B)の融解温度の差(65℃以上150℃以下)の意味について詳述する。JIS-K7121に準じて示差走査式熱量計(DSC)で測定する融解温度(Tm)の値はピークの値であるから、Tmに至るまでの温度でも樹脂の一部の結晶が溶解し始めているものである。中にはベタツキを生じてくるものもある。仮にベタツキが生じた場合、融解温度に到達する前でも重なっているフィルム表面層どうしで溶着が生じ、シール圧力によっては密着してしまう。しかし、外側と内側の層の融解温度差が65℃以上あると、そのような場合であっても、密着がほとんど発生しない。また、その差が100℃以上あると、密着が発生しないし、ヒートシールの温度範囲(通常は上記融解温度差の範囲内にヒートシール温度が入るように設定する)が広がることもあり好ましい。この場合、包装機の温度や速度等の運転許容幅が広がることになる。
【0023】
一方、融解温度の差が150℃を超える場合は、一般に表面層(B)でシール層として使用される樹脂の融解温度は低くても80℃程度だから、表面層(A)としては、融解温度が230℃を超えるものを使用することになる場合がある。ところが、融解温度が230℃を超える場合、熱収縮後に白化が見られる場合がある。収縮後の白化を防止して良好な透明性を確保し、さらに共押出した時の塩化ビニリデン共重合体の黄変を抑制する観点も加味すると、融解温度の差は150℃以下であり、かつ70℃以上が好ましく、150℃以下であり、かつ135℃以上であることがより好ましい。
【0024】
次に、延伸積層フィルムのバリア層は、ガスバリア性、特に酸素バリア性を有することで、内容物の酸化劣化を防止する機能を果たす。バリア層には、酸素バリア性能の観点から塩化ビニリデン共重合体を用いる。塩化ビニリデン共重合体とは、塩化ビニリデンとその他モノマーとの重合体である。塩化ビニリデン共重合体としては、塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体か、又は塩化ビニリデン-メチルアクリレート共重合体とするのが好ましい。
【0025】
酸素バリア性には、樹脂に混合する熱安定剤や可塑剤の添加量、バリア層の厚み等も影響するが、樹脂自体の酸素透過率も影響する。塩化ビニリデン共重合体の場合は高い酸素バリア性の点で、一般に塩化ビニリデンコモノマーの共重合体比率が高く、融解温度の高い塩化ビニリデン共重合体が選択される。
【0026】
一方、延伸積層フィルムのバリア層の融解温度は130℃以上160℃未満である。本発明の延伸積層フィルムでは、塩化ビニリデン共重合体の融解温度(Tm)が、130℃以上160℃未満のものを使用すると好ましい。これにより、表面層の熱収縮率の違いに起因する熱収縮後の白化が生じにくく、曇り度が低くなるし、樹脂のベタツキも発生しにくく、安定的に生産できるため好ましい。135℃以上150℃未満あるとより好ましく、さらには140℃以上150℃未満であるとより好ましい。
【0027】
バリア層の融解温度を調整する因子としては、塩化ビニリデン共重合体のコモノマーの共重合比率があげられる。塩化ビニリデン含量を下げることで融解温度が低下する。塩化ビニリデン共重合体として塩化ビニリデン-塩化ビニル共重合体を用いる場合は、塩化ビニル含量を15?40重量%とすることが好ましい。より好ましくは19.5重量%より多く34.5重量%以下、更に好ましくは24.5重量%より多く32重量%以下、最も好ましくは24.5重量%より多く29.5重量%以下である。又、塩化ビニリデン共重合体として塩化ビニリデン-メチルアクリレート共重合体を用いる場合は、メチルアクリレート含量が6?12重量%であることが好ましく、8?11重量%であることがより好ましい。
【0028】
なお、溶融加工を容易にし安定的に製造するために、熱安定剤や可塑剤を本発明の効果に影響しない範囲で添加しても良い。1?10重量%の範囲で添加すると好ましい。熱安定剤や可塑剤は塩化ビニリデン共重合体の融解温度にはほとんど影響しない。熱安定剤兼可塑剤としてエポキシ化アマニ油、エポキシ化大豆油等の添加剤を用いても良い。これらの好ましい添加量は2?5重量%である。さらに塩化ビニリデン共重合体には、脂肪酸アミド系滑剤等の滑剤、酸化珪素、炭酸カルシウム、タルク等の紛体を添加しても良い。その中でも、延伸前の塩化ビニリデン共重合体の結晶核として結晶化速度を速め、熱収縮性が向上するので、タルクを0.005?0.3重量%添加することが好ましい。バリア層の全層に対する厚み比率は、良好な酸素透過率の観点から、5?30%が好ましく、6?20%がより好ましい。
【0029】
次に、接着層(A)は、表面層(A)とバリア層とを接着する層であり、このような層を設けることで接着力が向上する。また意外にも熱収縮後の白化が抑制される。接着層(A)に用いることができる樹脂としては、エチレン共重合体を使うことができる。好ましくはエチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、ポリエチレンアイオノマー、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-無水マレイン酸共重合体等が使用できる。その中でも、表面層(A)、バリア層との層間接着強度、延伸性、熱収縮性、電子線照射処理をした時の架橋特性が良い事から、エチレン-酢酸ビニル共重合体が好ましい。さらに酢酸ビニル含量が10?27重量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体とすることがより好ましい。接着層(A)の上下に、層を接着させることを目的として、更に接着層(A’)が存在していても良い。接着層(A)のフィルム全体に対する厚み比率は、安定な延伸性が得られる観点から、5?40%であることが好ましく、10?30%がより好ましい。
【0030】
次に、延伸積層フィルムでは、バリア層と表面層(B)の間に接着層(B)を設けることができる。接着層(B)も接着層(A)と同様に熱収縮後の白化を抑制する。接着層(B)に用いることができる樹脂は、接着層(A)に用いる樹脂と同じでも異なっていても良い。同じ樹脂を用いれば製造が簡単となり、好ましい。例えば、エチレン共重合体を使うことができる。好ましくはエチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、ポリエチレンアイオノマー、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-無水マレイン酸共重合体等が使用できる。接着層(B)の上下に、層を接着させることを目的として、更に接着層(B’)が存在していても良い。接着層(B)のフィルム全体に対する厚み比率は、延伸性や強度の観点から5?50%であることが好ましい。接着層(B)を設けた好ましい層構成の断面の模式図を図1に示す。
【0031】
延伸積層フィルムは、延伸の前に電離性放射線を照射することが好ましい。これにより、特に接着層(A)が架橋され、フィルムの延伸性が高まる。塩化ビニリデン共重合体は強く照射されると黄変が酷くなるため、その層まで届かないように調節することが好ましい。電離性放射線の効果深度は加速電圧で調節することが一般的である。電離性放射線照射としては、α線、β線、γ線、中性子線、電子線などの電離性放射線を照射する。
【0032】
ゲル分率は、各層の電子線架橋の度合いを示す。接着層(A)のゲル分率は、延伸性の点で25?70重量%とするのが好ましい。さらに延伸温度と倍率の調整、製膜安定性の点でゲル分率が30?55重量%であることが好ましい。なお、表面層(A)のゲル分率は0?5%であることが好ましい。袋の強度の点から0%以上、照射強度の点から5%以下が好ましい。
【0033】
延伸積層フィルムの各層の融解温度はJIS-K7121に準じて示差走査式熱量計(DSC)で測定する。本発明では「各層」の融解温度と各層を構成する「樹脂」の融解温度の差がほとんど見られないため、便宜上融解温度として「樹脂」自体の融解温度を代用した。フィルム各層を剥ぎ取り、削り出したサンプルを測定し、融解温度を測定することもできる。
【0034】
延伸積層フィルムの製造方法としては、シングルバブルインフレーション法、ダブルバブルインフレーション法、トリプルバブルインフレーション法、テンター法が挙げられる。得られるフィルムの諸物性のバランスからダブルバブルインフレーション法、トリプルバブルインフレーション法が好ましい。ここではダブルバブルインフレ-ション法についてその概略を説明する。
【0035】
まずペレット状の樹脂を、樹脂の融解温度以上で溶融し、層数に対応した台数の押出機を用いて各層を同時に押出す。ポリマーパイプ、ダイスを介してチューブ状に連続押出成形して積層フィルムとする。これを水冷により冷却固化する。次に、表面層(A)の方から電離性放射線を照射し、特定のゲル分率に架橋する。照射の度合いとしては、延伸性の点で、加速電圧は150?300kVで、照射量は20?150kGyが好ましい。照射による色調変化の点で加速電圧150?250kV、照射量40?100kGyがより好ましい。
【0036】
次にチューブ状のフィルムを延伸工程へと導く。フィルムの延伸倍率は、熱収縮性、収縮後の良好な透明性、生産安定性の面から流れ方向(MD)、幅方向(TD)共に2?6倍の延伸を行うのが好ましい。さらに2.5?4倍がより好ましい。延伸前に60℃?98℃で予熱し延伸するとより好ましい。
【0037】
バブルインフレーション法による延伸が、透明性の点で好ましい。
【0038】
延伸温度とは、インフレーションバブルの延伸し始めのネック部と呼ばれる部分のフィルム表面を温度計で実測した温度である。延伸積層フィルムの延伸温度は、製袋加工をした後の寸法安定性、熱収縮性、収縮後の良好な透明性を得るには50?90℃とするのが好ましい。さらに60?80℃で行うのがより好ましい。
【0039】
連続製袋機での使用時、スリット時、袋詰め時の使い勝手を悪くするフィルムのカールを抑制するため、ヒートセットと呼ばれている熱処理を40?80℃の温度で数秒間行うことが好ましい。
【0040】
延伸積層フィルムの厚みは、バリア性、袋の強度、生産性の点で20?150μmが好ましく、25?80μmがより好ましい。上記のようなインフレーション法は、同時二軸延伸で面積延伸倍率を変化することによって種々の厚さの積層フィルムを製膜することが可能である。また必要に応じ、コロナ処理やプラズマ処理などの表面処理、印刷処理が行われてもよい。
【0041】
さらに、澱粉粉末のようなダストをフィルム内面に噴霧し、フィルム内面どうしのブロッキングを防止して、袋を開け易く内容物を投入し易いようにしても良い。
【0042】
延伸積層フィルムは、フィルムの流れ方向(長尺方向)、横方向(幅方向)共に20%以上50%以下の熱収縮率(後述のように75℃で測定)を有することが好ましい。ここでフィルムの流れ方向とは、積層フィルムを押出成形した際の長尺方向を言う。包装体がタイトに美麗に包装される点で熱収縮率が20%以上であることが好ましい。透明性の点で熱収縮率は50%以下が好ましい。熱収縮性の低い塩化ビニリデン共重合体層が熱収縮に追随できずに白化してしまい、製品の外観が悪化する場合があるからである。流れ方向、横方向が等しい熱収縮率である必要はないが、方向による収縮差が20%以下であると袋トリム部が綺麗になり好ましい。外観の点で25%以上45%以下の熱収縮率があることが好ましい。さらには30%以上45%以下の熱収縮率があるとより好ましい。例えば内容物が肉類の場合に保存期間が長くなったりして好ましい。熱収縮率を調整するには、延伸温度、延伸倍率を適宜調整すればよい。
【0043】
包装体がタイトに美麗に包装される点で流れ方向と横方向の熱収縮率の合計は65%以上であることが好ましい。
【0044】
延伸積層フィルムは袋として使用できる。延伸積層フィルムは、一般に底シールバッグと呼ばれるような、2辺シール式の袋として使用できる。該袋は主に筒状、チューブ状のフィルムの一辺を巾方向にシールとカットを行い、内容物を入れて、口をシールして製造する。また、一般にサイドシールバッグと呼ばれる袋としても使用できる。該袋はフィルムを溶断シール等を行って製造する。
【0045】
延伸積層フィルムを製袋加工した袋の熱をかける部分を重ね、ヒートシールしても、袋が互いに溶着することはない。ブロック肉のような比較的嵩高い内容物の包装も効率良く行える。
【0046】
延伸積層フィルムで真空包装された包装体は、70?90℃の熱水槽に数秒間漬け込むと、延伸積層フィルムが熱収縮してタイトで美麗な包装体に仕上がる。例えば、生肉包装では、タイトに緊張包装することによって、包装肉の見栄えが良くなり商品価値が上がる。また肉汁や血の溜まりを抑制し、結果として内容物の腐敗を抑制する効果も得られる。美麗に仕上げると共に内容物の視認性を保って商品価値を上げるためには、熱収縮後のフィルムも良好な透明性を示すことが必要である。具体的には曇り度が50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0047】
以下に実施例と比較例を用いて、本発明をより詳細に説明する。なお、各種物性の評価方法は下記の通りである。ここで、延伸積層フィルムの押出機からの流れ方向(長尺方向)をMD方向、それと直行する横方向(幅方向)をTD方向と呼ぶ。
《融解温度(Tm)》
測定装置:パーキンエルマー社製Diamond DSC(商品名、入力補償DSC:入力補償示差走査式熱量計)
測定方法:JIS-K7121に準ずる。
【0048】
測定温度:下記温度プログラムで測定した。
(i)0℃?200℃まで10℃/分で昇温し1分保持
(ii)200℃?0℃まで10℃/分で冷却し1分保持
(iii)0℃?200℃まで10℃/分で昇温
※融点の高い樹脂に関しては、250℃まで昇温した
上記(iii)(2回目加熱)の融解温度をTmとした。なお、複数のピークを有するものについては最大のピークをTmとした。また、融解温度をもたない非晶性の樹脂に関しては、流動開始温度をTmとした。
《75℃における熱収縮率の評価》
測定温度:75℃
測定方法:ASTM D-2732に準ずる。
【0049】
(i)MD、TDに100mmの線や点の印をつけ、75℃の温水槽に4秒間浸漬して自由熱収縮させる。
【0050】
(ii)収縮後、印の間隔を測定し、次式よりフィルムの熱収縮率を求めた。
【0051】
75℃における熱収縮率(%)=((100(mm)-収縮後寸法(mm))/100(mm))×100
《熱収縮後の曇り度》
測定装置:日本電色工業社製NDH2000曇り度測定器(HAZEメーター、商品名)
測定方法:ASTM D-1003に準ずる。測定試料を75℃の温水槽に4秒間浸漬して自由熱収縮させた。その曇り度を測定した。値が小さいほど透明性が高い。
《ゲル分率の評価》
層の架橋度の尺度として用いる。
【0052】
測定試料:各層を剥がして或いは削って試料とした。
【0053】
測定方法:試料約100mgを150メッシュのステンレス製金網を折りたたんだ袋に入れ、沸騰p-キシレン中で12時間抽出し、不溶解物の割合を次式より求めた。
【0054】
ゲル分率(重量%)=(抽出後の試料重量/抽出前の試料重量)×100
《酸素バリア性の評価》
測定装置:MOCON社製の酸素透過分析装置(OX-TRAN(登録商標)200H)
測定条件:65%RH、温度23℃
測定開始3時間経過後の酸素透過率の値を測定し、酸素バリア性の評価を行った。酸素透過率(cc/m^(2)/day)が小さいほど酸素バリア性が大きい。
《袋の重ねシール性評価》
測定装置:古川製作所社製の大型肉用真空包装機FVM-WM
シール温度:140?150℃
シール時間:2秒
冷却時間:2秒
2枚の袋のヒートシールを行う部分を重ね、同時にヒートシールして、袋の重なった部分が溶着又は密着しているかどうかを確認した。試験は10回繰り返して行い、溶着又は密着した回数を表示した。ただし、ここでいう溶着とは、袋の外層同士もシールされてしまい、剥すことができない状態を言う。密着とは、袋の外同士がくっついているが、シール部分の一部を剥すことができる状態を言うものとする。
[実施例1?25、比較例1?12]
実施例1?25に関しては表1?6に、比較例1?12に関しては表7?9にそれぞれ示す樹脂を用い、層数に対応して必要とされる台数の押出機を使用して、ダブルバブルインフレーション法により延伸積層フィルムを製造した。
【0055】
実施例3,9,23、25、比較例1,3,5,8,9に用いたエチレン-α-オレフィン共重合体はエチレン-ブテン共重合体(密度:0.900g/cm^(3)、融点:115℃、メルトインデックス:0.7g/10min.)である。実施例1,2,5?8、10、11、13、14、16、17、20?22、24、比較例2,6,10?12に用いたエチレン-α-オレフィン共重合体はエチレン-ヘキセン共重合体(密度:0.904g/cm^(3)、融点:87℃、メルトインデックス:2.5g/10min.)である。実施例15、比較例3はエチレン-ヘキセン共重合体(密度:0.900g/cm^(3)、融点:95℃、メルトインデックス:4g/10min.)38重量%とエチレン-ヘキセン共重合体(密度:0.904g/cm^(3)、融点:87℃、メルトインデックス:2.5g/10min.)60重量%の混合物を用いた。比較例4,7に用いたエチレン-α-オレフィン共重合体はエチレン-ヘキセン共重合体(密度:0.900g/cm^(3)、融点:95℃、メルトインデックス:4g/10min.)である。実施例4,比較例4に用いたエチレン-α-オレフィン共重合体はエチレン-オクテン共重合体(密度:0.912g/cm^(3)、融点:123℃、メルトインデックス:1g/10min.)である。比較例6はエチレン-ヘキセン共重合体(密度:0.930g/cm^(3)、融点:121℃、メルトインデックス:2g/10min.)38重量%とエチレン-ヘキセン共重合体(密度:0.900g/cm^(3)、融点:95℃、メルトインデックス:4g/10min.)60重量%の混合物を用いた。
【0056】
なお、表1?9の樹脂組成のうち、実施例13以外は上から表面層(A)、接着層(A)、バリア層、接着層(B)、表面層(B)の各層の樹脂組成を示しており、実施例13は上から表面層(A)、接着層(A’)、接着層(A)、バリア層、接着層(B)、接着層(B’)、表面層(B)の各層の樹脂組成を示している。なお、塩化ビニリデン共重合体の添加剤として、予めエポキシ化アマニ油を1.0重量%、セバチン酸ジブチル(DBS)を3.0重量%、タルクを0.01重量%となるように混合した。
【0057】
押出機は、4から6の温度調節ブロックを設け、供給ホッパー、ヘッド、アダプターの方向に順に温度を設定した。表面層(A)を押出す押出し機は220℃、230℃、240℃、250℃、と設定した。同様に接着層、表面層(B)を押出す押出し機は150℃、160℃、170℃、180℃、190℃、190℃、バリア層を押出す押出し機は150℃、160℃、170℃、170℃とした。ダイスの温度設定は230℃とした。
【0058】
積層チューブを押出機から溶融押出しした。水冷リングを用いて水で均一に冷却しながら未延伸のチューブ(以降パリソンという)を得た。押出にあたっては、表1?9に示す層の厚み比率となるように各押出量を調整した。具体的には、フィルムの幅方向の直線に沿って等間隔の8ヶ所からサンプリングし、その断面を顕微鏡観察して各層の厚みを測定し、8箇所の平均値を算出した。
【0059】
得られた未延伸チューブに、210kVの加速電圧で所定のゲル分率になるように電子線照射量を調整して照射し架橋を行った。続いて照射した未延伸チューブを80℃で予熱し延伸部で、5段に分けた赤外加熱ヒーターにて加熱(ネック付近の温度で60?100℃の範囲に加熱調節)してバブルブローアップした。バブルブローアップされたチューブを、空冷リングで冷却しながらデフレーターで折りたたんだ。
【0060】
折りたたんだフィルムを70℃の加熱ロール2本を通過させてヒートセットし、冷却ロールを通過させて冷却した。シワ取りロールでフィルムをフラットにしながら巻き取った。延伸積層フィルムの厚みはこの時測定し、所定の厚みとなるようにパリソン厚みで調整した。ただし延伸倍率で延伸安定性を調整したものもあった。なお、フィルムの延伸倍率については、MDの延伸倍率は、延伸部を間に挟むピンチロールと巻取機ロールとの速度比で表現し、TDの延伸倍率はフィルム巾をパリソン折巾で割り算した値で表現した。
【0061】
この延伸積層フィルムを、製袋機で底シールして袋(袋巾300mm、袋長400mm)を得た。それぞれの袋に対して、《75℃における熱収縮率の評価》《熱収縮後の曇り度の評価》《酸素バリア性の評価》《袋の重ねシール性の評価》をそれぞれ行った。
【0062】
実施例1?23、25、比較例1?12の結果から、表面層(A)の融解温度が表面層(B)の融解温度より65℃以上150℃以下だけ高くなっていれば、重ねシール性が好適であることがわかる。また75℃の温度でフィルムの流れ方向、横方向共に20%以上50%以下の熱収縮率があると、包装体がタイトに美麗に緊張包装されることがわかる。
【0063】
実施例1?23、25、比較例2、5、8、9の結果から、バリア層の融解温度が160℃未満であると、75℃における熱収縮率や、熱収縮後の曇り度が良好であることがわかる。さらには、150℃以下がより好ましいことがわかる。一方、融解温度が160℃を超えると、白化が生じて曇り度が高くなってしまうことがわかる。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
【表5】

【0069】
【表6】

【0070】
【表7】

【0071】
【表8】

【0072】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のフィルムまたは袋は肉類、加工肉、水産加工品、機械部品等の効率的な包装処理が可能となる、熱収縮性でバリア性の延伸積層フィルム及びそれを用いた袋に関する。比較的厚みがあって嵩張るものの包装に際し、フィルムにシワが入ることを防ぎ、確実な密封包装を可能とする。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面層(A)、接着層(A)、バリア層、表面層(B)の少なくとも4層が順に積層された延伸積層フィルムであって、
(1)前記表面層(A)の融解温度が、前記表面層(B)の融解温度より65℃以上150℃以下だけ高く、
(2)前記バリア層が塩化ビニリデン共重合体からなり、バリア層の融解温度が130℃以上160℃未満である、
ことを特徴とする、流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が共に50%以下の延伸積層フィルム。
【請求項2】
表面層(A)、接着層(A)、バリア層、表面層(B)の少なくとも4層が順に積層された延伸積層フィルムであって、
(1)前記表面層(A)の融解温度が、前記表面層(B)の融解温度より65℃以上150℃以下だけ高く、
(2)前記バリア層が塩化ビニリデン共重合体からなり、バリア層の融解温度が130℃以上160℃未満であり、
(3)流れ方向と横方向の75℃における熱収縮率が、共に20%以上50%以下である、
ことを特徴とする延伸積層フィルム。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】
請求項1又は2に記載の延伸積層フィルムからなる袋であって、前記表面層(A)が当該袋の外側に配されていることを特徴とする生肉包装用袋。
【請求項9】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2014-02-25 
結審通知日 2014-02-28 
審決日 2014-03-11 
出願番号 特願2008-558081(P2008-558081)
審決分類 P 1 113・ 537- YAA (B32B)
P 1 113・ 121- YAA (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 常見 優  
特許庁審判長 河原 英雄
特許庁審判官 紀本 孝
栗林 敏彦
登録日 2011-10-21 
登録番号 特許第4848020号(P4848020)
発明の名称 延伸積層フィルム及び袋  
代理人 野村 康秀  
代理人 竹内 工  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 内藤 和彦  
代理人 竹内 工  
代理人 内藤 和彦  
代理人 野田 直人  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 岡野 聡二郎  
代理人 岡野 聡二郎  

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