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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H02J
管理番号 1289223
審判番号 不服2013-19120  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-02 
確定日 2014-06-26 
事件の表示 特願2010-156636「電力コントロール装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月26日出願公開、特開2012- 19652〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成22年7月9日の出願であって、平成24年10月15日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成24年10月23日)、これに対し、平成24年12月21日付で意見書及び手続補正書が提出され、平成25年3月14日付で最後の拒絶の理由が通知され(発送日:平成25年3月19日)、これに対し、平成25年5月8日付で意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年6月25日付で平成25年5月8日付の手続補正が却下されると共に拒絶査定がなされ(発送日:平成25年7月2日)、これに対し、平成25年10月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものである。


2.平成25年10月2日付の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成25年10月2日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由I]
(1)補正の内容
本件補正前の特許請求の範囲は、以下のとおりである。
「【請求項1】
電力の貯蔵装置と、
電力の炭素排出強度の情報を取得する炭素排出強度情報取得装置と、
制御装置と、
供給される電力の料金に関する情報を取得する料金情報取得装置と、
再生可能エネルギーによる電力発生装置とを備え、
前記制御装置によって、前記貯蔵装置が前記炭素排出強度に関する情報の変化、並びに前記料金に関する情報の変化に応じて電力を貯蔵するか、電力を供給するかが制御され、供給電力の前記炭素排出強度によって前記貯蔵装置の充放電を制御する電力コントロール装置。
【請求項2】
前記制御装置が外部からリモートコントロールすることが可能とされた請求項1に記載の電力コントロール装置。
【請求項3】
消費電力の情報をネットワークを通じて外部のサーバへ送信し、前記炭素排出強度の情報をネットワークを通じて前記サーバから取得する請求項1に記載の電力コントロール装置。
【請求項4】
前記制御装置による制御が電力消費による総炭素排出強度を最小とするようなアルゴリズムである請求項1に記載の電力コントロール装置。
【請求項5】
前記アルゴリズムは、
前記炭素排出強度が低いときには、前記貯蔵装置に電力を貯蔵させ、
前記炭素排出強度が高いときには、前記貯蔵装置から電力を供給する請求項4に記載の電力コントロール装置。
【請求項6】
前記アルゴリズムは、
前記制御装置による制御が電力消費にかかるコストを最小とするようなアルゴリズムである請求項4または5に記載の電力コントロール装置。
【請求項7】
前記アルゴリズムは、
前記料金が低いときには、前記貯蔵装置に電力を貯蔵させ、
前記料金が高いときには、前記貯蔵装置から電力を供給させる請求項4、5または6に記載の電力コントロール装置。
【請求項8】
前記コストとして前記貯蔵装置の劣化を含む請求項6に記載の電力コントロール装置。
【請求項9】
前記炭素排出強度の情報を表示する表示装置を有する請求項1に記載の電力コントロール装置。
【請求項10】
外部から供給される電力量と、内部で生成される電力量との割合を識別可能に表示する表示装置を有する請求項1に記載の電力コントロール装置。
【請求項11】
総炭素排出強度の尺度が総エネルギー量と、前記総エネルギー量を生成するための炭素コストの比率で計算される請求項1に記載の電力コントロール装置。」

これに対し、本件補正により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。
「【請求項1】
電力の貯蔵装置と、
電力消費による炭素排出強度の情報を取得する炭素排出強度情報取得装置と、
前記貯蔵装置の電力の貯蔵、供給を制御する制御装置と、
外部から供給される第1の電力の料金に関する情報を取得する料金情報取得装置と、
再生可能エネルギーによる第2の電力を発生する電力発生装置と、
前記第1の電力および前記第2の電力をそれぞれ測定する電力測定装置と、
前記炭素排出強度の情報を表示すると共に、前記第1の電力の電力量と、前記第2の電力の電力量との割合を識別可能に表示する表示装置を備え、
前記制御装置によって、前記炭素排出強度が低いときには、前記貯蔵装置に電力を貯蔵させ、前記炭素排出強度が高いときには、前記貯蔵装置から電力を供給するように、前記電力貯蔵装置が制御されると共に、
前記料金が低いときには、前記貯蔵装置に電力を貯蔵させ、前記料金が高いときには、前記貯蔵装置から電力を供給させるように、前記電力貯蔵装置が制御される電力コントロール装置。
【請求項2】
前記制御装置が外部からリモートコントロールすることが可能とされた請求項1に記載の電力コントロール装置。」


(2)目的要件について
本件補正が、特許法第17条の2第5項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
特許法第17条の2第5項2号の「特許請求の範囲の減縮」は、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られ、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。

本件補正後の請求項1は、「貯蔵装置」、「炭素排出強度情報取得装置」、「制御装置」、「料金情報取得装置」、「電力発生装置」、「電力測定装置」、「炭素排出強度の情報を表示すると共に、第1の電力の電力量と、第2の電力の電力量との割合を識別可能に表示する表示装置」を備えている。

本件補正後の請求項1が本件補正前の請求項1に対応するものと仮定する。本件補正前の請求項1は「貯蔵装置」、「炭素排出強度情報取得装置」、「制御装置」、「料金情報取得装置」、「電力発生装置」は備えてはいるが「表示装置」を備えておらず、本件補正前の請求項1の「貯蔵装置」、「炭素排出強度情報取得装置」、「制御装置」、「料金情報取得装置」、「電力発生装置」のいずれの事項を限定しても「炭素排出強度の情報を表示すると共に、第1の電力の電力量と、第2の電力の電力量との割合を識別可能に表示する表示装置」となることはなく、しかも、本件補正後の請求項1に記載された発明は、炭素排出強度の情報を表示すると共に、第1の電力の電力量と、第2の電力の電力量との割合を識別可能に表示するという明らかに新たな課題も解決しているのであるから、特許法第17条の2第5項2号の「特許請求の範囲の減縮」に該当しない。

「表示装置」を備える点に注目すると、本件補正後の請求項1が本件補正前の請求項9に対応するものと仮定することはできる。しかし、本件補正前の請求項9は本件補正前の請求項1のみを引用し、本件補正前の請求項9を引用する請求項は存在しない。本件補正前の請求項9は「貯蔵装置」、「炭素排出強度情報取得装置」、「制御装置」、「料金情報取得装置」、「電力発生装置」、「電力測定装置」、「炭素排出強度の情報を表示する表示装置」は備えてはいるが「第1の電力の電力量と、第2の電力の電力量との割合を識別可能に表示する表示装置」を備えておらず、本件補正前の請求項9の「炭素排出強度の情報を表示する表示装置」を限定しても「第1の電力の電力量と、第2の電力の電力量との割合を識別可能に表示する表示装置」となることはなく、しかも、第1の電力の電力量と、第2の電力の電力量との割合を識別可能に表示するという新たな課題も解決しているから、特許法第17条の2第5項2号の「特許請求の範囲の減縮」に該当しない。更に、本件補正前の請求項9を引用する請求項は存在しなかったものが、本件補正後の請求項1を引用する本件補正後の請求項2が存在するので、所謂増項補正をしていることにもなるから、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない「特許請求の範囲の減縮」に該当しない。

「表示装置」を備える点に注目すると、本件補正後の請求項1が本件補正前の請求項10に対応するものと仮定することもできる。しかし、本件補正前の請求項10は本件補正前の請求項1のみを引用し、本件補正前の請求項10を引用する請求項は存在しない。本件補正前の請求項10は「貯蔵装置」、「炭素排出強度情報取得装置」、「制御装置」、「料金情報取得装置」、「電力発生装置」、「電力測定装置」、「第1の電力の電力量と、第2の電力の電力量との割合を識別可能に表示する表示装置」は備えてはいるが「炭素排出強度の情報を表示する表示装置」を備えておらず、本件補正前の請求項10の「第1の電力の電力量と、第2の電力の電力量との割合を識別可能に表示する表示装置」を限定しても「炭素排出強度の情報を表示する表示装置」となることはなく、しかも、炭素排出強度の情報を表示するという新たな課題も解決しているから、特許法第17条の2第5項2号の「特許請求の範囲の減縮」に該当しない。更に、本件補正前の請求項10を引用する請求項は存在しなかったものが、本件補正後の請求項1を引用する本件補正後の請求項2が存在するので、所謂増項補正をしていることにもなるから、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない「特許請求の範囲の減縮」に該当しない。

本件補正前の請求項1の削除を目的とするものであると仮定する。本件補正後の請求項1は「表示装置」を備えており、本件補正前の請求項1のみを引用する本件補正前の請求項9、10が「表示装置」を備えるから、本件補正前の請求項1を削除して、「表示装置」を備える本件補正前の請求項9が本件補正後の請求項1となるか、本件補正前の請求項1を削除して、「表示装置」を備える本件補正前の請求項10が本件補正後の請求項1となるかのいずれかとなる。本件補正前の請求項9、10はいずれも本件補正前の請求項1のみを引用しているから、本件補正後の請求項1の「表示装置」は、「炭素排出強度の情報を表示する表示装置」であるか「第1の電力の電力量と、第2の電力の電力量との割合を識別可能に表示する表示装置」でなければならないが、本件補正前9と本件補正前の請求項10の表示機能を併せ持つ「炭素排出強度の情報を表示すると共に、第1の電力の電力量と、第2の電力の電力量との割合を識別可能に表示する表示装置」を備えるから、そもそも請求項の削除には該当しない。

したがって、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正とは認められない。
また、本件補正が、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的としたものでないことも明らかである。


(3)むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


[理由II]
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないが、仮に、本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の前記請求項1に記載した発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。


(1)本件補正後の請求項1に関する特許法第36条第6項の要件について
「電力消費による炭素排出強度の情報を取得する炭素排出強度情報取得装置」とあるが、電力消費による炭素排出強度とはどの様な意味であるのか不明である。即ち、炭素排出強度は電力消費が伴うものであることまでは理解できるが、具体的にどの様な定義付けの概念であるのか発明の詳細な説明を参照しても不明[例えば、電力消費時の当該電力における炭素排出量の割合が高いか低いか(同じ消費電力でも火力発電由来の電力は炭素排出強度が高く水力発電由来の電力は炭素排出強度が低い)を表すものとも解釈でき、又、電力消費時の当該電力による炭素排出量が多いか少ないか(消費電力が少なければ火力発電由来の電力でも炭素排出強度が低く、消費電力が多ければ水力発電由来の電力でも炭素排出強度が高い)を表すものとも解釈でき、それ以外とも解釈できるから、構成を特定できず不明。また、炭素排出強度は電力消費が伴わなければならないが、単に貯蔵するだけであれば電力消費は伴わないから、電力貯蔵時には炭素排出強度の情報は発生しないが、その様にして貯蔵装置に貯蔵された電力は炭素排出強度の情報が特定ができないから、貯蔵された電力の電力消費による炭素排出強度は特定できず不明。]である。

更に、「前記炭素排出強度の情報を表示する・・・表示装置」とあるが、前記炭素排出強度とは電力消費による炭素排出強度のことであるから、上述の理由で表示装置がどの様な情報を表示するのか特定できず不明である。

更に、「前記制御装置によって、前記炭素排出強度が低いときには、前記貯蔵装置に電力を貯蔵させ、前記炭素排出強度が高いときには、前記貯蔵装置から電力を供給するように、前記電力貯蔵装置が制御される」とあり、「前記炭素排出強度が低いときには、前記貯蔵装置に電力を貯蔵」するが、前記炭素排出強度とは電力消費による炭素排出強度のことであるから、貯蔵装置に電力を貯蔵するには電力消費が必要となり、本来電力消費をしなくても良いところを電力貯蔵のためにわざわざ電力消費が必要となるから、二酸化炭素の削減が解決しようとする課題であるにもかかわらず、不要な二酸化炭素を排出し、解決しようとする課題を解決することができない。

更に、制御装置は、電力の貯蔵・供給を制御するが、電力消費による炭素排出強度が低くて電力料金が高いとき、電力を貯蔵するのか供給するのか不明であり、電力消費による炭素排出強度が高くて電力料金が低いとき、電力を貯蔵するのか供給するのか不明である。

したがって、本件補正後の請求項1の記載は、発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしておらず、又、明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができない。


(2)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条の規定により却下されるべきものである。


3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、上記した平成24年12月21日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。


(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2008-54439号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

a「蓄電装置に蓄積された電力を車両外部へ出力し、かつ、車両外部から前記蓄電装置を充電可能なように構成された車両と、
前記車両と住宅内の電力線との間で電力を授受可能なように構成された接続装置と、
前記住宅における電力を管理する電力管理装置とを備え、
前記電力管理装置は、
前記住宅に供給される電力および前記住宅において消費される電力のデータとともに、前記供給電力および前記消費電力の増減に影響を与える外的要因に関するデータを蓄積するデータ蓄積部と、
前記データ蓄積部に蓄積されたデータに基づいて、前記接続装置により前記住宅に電気的に接続される車両の充放電を制御する第1のコントローラとを含む、電力システム。」(【請求項1】)

b「前記計画部は、前記住宅において消費される電力を生成するのに排出された二酸化炭素量に基づいて前記車両の充放電を計画する、請求項3に記載の電力システム。」(【請求項5】)

c「前記計画部は、前記住宅における電力コストに基づいて前記車両の充放電を計画する、請求項3に記載の電力システム。」(【請求項6】)

d「この発明は、電力システムに関し、特に、蓄電および発電可能な車両を住宅用電源の1つとして用いる電力システムの電力マネジメントに関する。」(【0001】)

e「図1は、この発明の実施の形態1による電力システムの概略図である。図1を参照して、この電力システム1は、住宅10と、車両20と、接続ケーブル25と、接続コネクタ27と、パワーグリッド30と、送電線35とを備える。」(【0016】)

f「パワーグリッド30は、系統電力を生成する多数の発電設備から成る商用電力系統である。パワーグリッド30には、火力発電所や原子力発電所、風力発電設備、水力発電設備、太陽光発電設備など、様々な発電設備が接続される。」(【0020】)

g「図2は、図1に示した住宅10内の電力系統を示したブロック図である。図2を参照して、住宅10は、燃料電池42と、太陽電池アレイ46と、コンバータ44,48と、住宅負荷50と、電力管理ステーション52と、接続コネクタ54と、電力センサ72,74とを含む。電力管理ステーション52は、インバータ62,64,66と、無停電電源装置(以下「UPS」とも称する。)67と、電力線68と、電子制御装置(以下「ECU」とも称する。)70と、電力センサ76,78,80,82とを含む。」(【0021】)

h「電力センサ72,74,76は、それぞれ燃料電池42、太陽電池アレイ46およびUPS67からの供給電力を検出し、その検出値をECU70へ出力する。電力センサ78は、住宅10とパワーグリッド30との間で授受される電力を検出し、その検出値をECU70へ出力する。電力センサ80は、住宅10と車両20との間で授受される電力を検出し、その検出値をECU70へ出力する。電力センサ82は、住宅負荷50による消費電力を検出し、その検出値をECU70へ出力する。
ECU70は、住宅10における電力マネジメントを実行する。そして、ECU70は、インバータ62,64,66をそれぞれ駆動するための制御信号CTL1?CTL3を生成し、その生成した制御信号CTL1?CTL3をそれぞれインバータ62,64,66へ出力する。また、ECU70は、電力線68に接続される。そして、ECU70は、住宅10の一電源として用いられる車両20に対して充放電を指示するための制御信号を生成し、その生成した制御信号を電力線68および接続ケーブル25を介して車両20へ出力する。以下、このECU70の構成および機能について説明する。」(【0025】-【0026】)

i「次いで、ECU70は、予測した電力需要に基づいて車両20の充放電スケジュールを策定する(ステップS140)。そして、車両20の充放電スケジュールが策定されると、ECU70は、その充放電スケジュールに従って、電力線68および接続ケーブル25を介して車両20へ充放電指令を出力する(ステップS150)。」(【0042】)

j「図11は、実施の形態2による電力システムの概略図である。図11を参照して、この電力システム1Aは、図1に示した電力システム1の構成においてサーバ37をさらに備える。サーバ37は、パワーグリッド30を構成する電力網に接続され、パワーグリッド30の電力情報を作成して電力網へ出力する。
この電力情報には、パワーグリッド30において電力を発電するのに排出された二酸化炭素(CO2)量(たとえば1kwhの商用電力を発電するのに排出されたCO2量)および電力コストに関する情報が含まれる。なお、一般に、火力発電は、その他の発電方法に比べてCO2排出量が多く、パワーグリッド30における火力発電の発電比率が高いとCO2排出量も多くなる。
そして、サーバ37から出力されるパワーグリッド30の電力情報は、送電線35を介して住宅10内の電力管理ステーション52において受信される。」(【0068】-【0070】)

k「図12は、実施の形態2における電力管理ステーションのECUにより実行されるデータ取得・分類処理のフローチャートである。このフローチャートの処理も、一定時間毎または所定の条件が成立するごとにメインルーチンから呼び出されて実行される。
図12を参照して、このフローチャートに示される処理は、図6に示した処理においてステップS22をさらに含む。すなわち、ステップS20において外的要因データが取得されると、ECU70は、サーバ37から送電線35を介して送信されるパワーグリッド30の電力情報をさらに取得し、その取得した電力情報を記憶部114に蓄積する(ステップS22)。
図13は、実施の形態2における電力管理ステーションのECUにより実行されるスケジューリング処理のフローチャートである。図13を参照して、このフローチャートに示される処理は、図7に示した処理においてステップS132,S134をさらに含む。すなわち、ステップS130において住宅負荷50による当日の電力需要が予測されると、ECU70は、パワーグリッド30の電力情報を記憶部114から読出す(ステップS132)。
そして、ECU70は、予め設定された評価関数に基づいて、住宅全体としての充放電スケジュールを策定する(ステップS134)。具体的には、ECU70は、適当に重み付けされたCO2排出量および電力コストを評価項目とする評価関数を用いて、取得したパワーグリッド30の電力情報に基づいて住宅全体としてパワーグリッド30から買電するか、それともパワーグリッド30へ売電するかを決定する。
そして、住宅全体としての充放電スケジュールが策定されると、その策定されたスケジュールに基づいて、ステップS140において車両20の充放電スケジュールが策定される。
以上のように、この実施の形態2においては、パワーグリッド30の電力情報(CO2排出量および電力コスト)を考慮して住宅全体の充放電スケジュールが決定され、そのスケジュールに基づいて車両20の充放電スケジュールが策定される。したがって、この実施の形態2によれば、CO2排出量の削減に貢献することができ、かつ、電力コストの低減も図り得る。」(【0072】-【0076】)

上記記載事項からみて、引用例1には、
「蓄電装置を搭載した車両と、
パワーグリッドにおいて電力を発電するのに排出された二酸化炭素量および電力コストに関する情報を取得する電子制御装置と、
太陽電池アレイとを備え、
前記電子制御装置によって、前記車両が前記排出された二酸化炭素量に関する情報、並びに前記電力コストに関する情報を考慮した充放電スケジュールに従って充放電指令が出力され、パワーグリッドの前記排出された二酸化炭素量によって前記車両に充放電指令を出力する電力システム。」
との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。


(2)対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「蓄電装置を搭載した車両」又は「車両」、「排出された二酸化炭素量」、「電力コスト」、「電子制御装置」、「太陽電池アレイ」、「充放電スケジュールに従って充放電指令が出力され」、「電力システム」は、それぞれ本願発明の「電力の貯蔵装置」又は「貯蔵装置」、「炭素排出強度」、「電力の料金」、「制御装置」、「再生可能エネルギーによる電力発生装置」、「電力を貯蔵するか、電力を供給するかが制御され」、「電力コントロール装置」に相当する。

引用発明の電子制御装置は、「前記排出された二酸化炭素量に関する情報、並びに前記電力コストに関する情報」によって、充放電スケジュールを決定し、「CO2排出量の削減に貢献することができ、かつ、電力コストの低減も図り得る」(上記k参照)という作用効果を奏しているから、充放電スケジュール実行中に排出された二酸化炭素量及び電力コストが変われば、排出された二酸化炭素量及び電力コストが上記作用効果を奏するように充放電スケジュールを変更するので、引用発明の「前記車両が前記排出された二酸化炭素量に関する情報、並びに前記電力コストに関する情報を考慮した充放電スケジュールに従って充放電指令が出力され」は、本願発明の「前記貯蔵装置が前記炭素排出強度に関する情報の変化、並びに前記料金に関する情報の変化に応じて電力を貯蔵するか、電力を供給するかが制御され」に相当する。
引用発明のパワーグリッドは商用電力系統のことであり、パワーグリッドから電力システムに電力が供給されるので、引用発明の「パワーグリッドの前記排出された二酸化炭素量によって前記車両に充放電指令を出力する」は、本願発明の「供給電力の前記炭素排出強度によって前記貯蔵装置の充放電を制御する」に相当する。

したがって、両者は、
「電力の貯蔵装置と、
制御装置と、
再生可能エネルギーによる電力発生装置とを備え、
前記制御装置によって、前記貯蔵装置が前記炭素排出強度に関する情報の変化、並びに前記料金に関する情報の変化に応じて電力を貯蔵するか、電力を供給するかが制御され、供給電力の前記炭素排出強度によって前記貯蔵装置の充放電を制御する電力コントロール装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
本願発明は、電力の炭素排出強度の情報を取得する炭素排出強度情報取得装置と、供給される電力の料金に関する情報を取得する料金情報取得装置を備えるのに対し、引用発明は、パワーグリッドにおいて電力を発電するのに排出された二酸化炭素量および電力コストに関する情報を取得する電子制御装置を備える点。


(3)判断
引用発明の電子制御装置は、パワーグリッドにおいて電力を発電するのに排出された二酸化炭素量および電力コストに関する情報を取得しており、パワーグリッドから電力システムに電力が供給されるのであるから、パワーグリッドから供給される電力の炭素排出強度の情報及び電力の料金に関する情報を得ていることとなり、結局、電力の炭素排出強度の情報及び供給される電力の料金に関する情報を取得していることとなる。したがって、電力の炭素排出強度の情報及び供給される電力の料金に関する情報を取得に関し、本願発明は、炭素排出強度情報取得装置と料金情報取得装置を備えるのに対し、引用発明は、当該2つの装置の機能を制御装置(「電子制御装置」が相当)が備える点が、相違点と言い替えることができる。
しかし、一般に、複数の機能を行うために装置を別々にして複数備えるか、複数の機能をまとめて1つの装置にするかは、必要に応じて適宜選択し得る手段であって常套手段であるから、引用発明においても、制御装置の機能を分けて、炭素排出強度情報取得装置と料金情報取得装置を別途備えることは当業者が容易に考えられることと認められる。

なお、請求人は、平成24年12月21日付意見書において、
「今般の手続補正書により補正された本願発明は、「供給電力の前記炭素排出強度によって前記貯蔵装置の充放電を制御する」ことを特徴とするものです。
本願において、利用するエネルギーの炭素排出強度は、外部(電力会社)から供給されるエネルギー以外に、各家庭に設置された発電装置(ソーラパネル)によって生成されるエネルギーに基づき、正味の炭素排出強度として求められるものです。
これに対して、引用文献1の電力情報には、パワーグリッドにおいて電力を発電するのに排出された二酸化炭素(CO2)量(たとえば1kWhの商用電力を発電するのに排出されたCO2量)および電力コストに関する情報が使われているに過ぎません。
したがって、引用文献1には、上述した本願の特徴についての何れについての記載乃至示唆がないものと思料いたします。
蓄電装置に対して蓄積されるエネルギーは、炭素排出強度が低いものほど好ましく、本願は、家庭から排出されるCO2排出量を削減することができるという効果を奏するものです。」
と主張するが、請求項1には「電力の炭素排出強度の情報を取得する炭素排出強度情報取得装置」とあり、当該記載は電力の種類を特定しておらず、又、「供給電力の前記炭素排出強度によって前記貯蔵装置の充放電を制御する」と、炭素排出強度は供給電力に基づくものであることが明示されており、しかも本願明細書【0050】では「この計算において、太陽電池から得られる電力に対する「炭素コスト」は、ゼロであるか」と、再生可能エネルギーによる電力発生装置の炭素排出強度を考慮しなくてもよいことが明示されているから、請求人の上記主張は採用できない。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-04-14 
結審通知日 2014-04-15 
審決日 2014-05-12 
出願番号 特願2010-156636(P2010-156636)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02J)
P 1 8・ 575- Z (H02J)
P 1 8・ 572- Z (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮本 秀一  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 槙原 進
新海 岳
発明の名称 電力コントロール装置  
代理人 杉浦 拓真  
代理人 杉浦 正知  

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