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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B01D
審判 全部無効 特29条の2  B01D
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B01D
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B01D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01D
管理番号 1289424
審判番号 無効2010-800183  
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-10-10 
確定日 2014-07-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第2791553号「通気口用フイルター部材」の特許無効審判事件についてされた平成23年 7月 8日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成23年(行ケ)第10258号平成24年 9月27日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許第2791553号は、カースル株式会社を出願人として平成8年10月8日に出願され、平成10年6月19日に設定登録がなされたものである。
本件特許に対して、平成22年10月10日に、東洋アルミエコープロダクツ株式会社が無効審判を請求した。
以後の手続の経緯は次のとおりである。

1.本件無効審判の経緯
平成22年12月24日 被請求人:答弁書、訂正請求書
平成23年 5月13日 被請求人:口頭審理陳述要領書
平成23年 5月16日 請求人:口頭審理陳述要領書
平成23年 5月30日 口頭審理
平成23年 6月 7日 被請求人:上申書
平成23年 7月 8日 審決(訂正を認める。特許第2791553号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。)
平成23年 8月 8日 審決取消しの訴え(平成23年(行ケ)10258号)
平成24年 9月27日 判決言渡(平成23年(行ケ)10258号:特許庁が無効2010-800183号事件について,平成23年7月8日にした審決のうち「特許第2791553号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は,被請求人の負担とする。」との部分を取り消す。)
平成24年10月11日 上告及び上告受理の申立て(平成24年(行サ)10037号、平成24年(行ノ)10054号)
平成25年 2月21日 上告及び上告受理の申立ての棄却(平成25年(行ツ)8号、平成25年(行ヒ)5号)
平成25年 3月15日 請求人:上申書
平成25年 3月22日 訂正を認める審決の確定の通知書(下記2.の訂正審判の確定を通知)
平成25年 4月 9日 請求人:意見書

2.本件特許に係る訂正審判の経緯
平成23年10月31日 訂正審判請求(訂正2011-390120号)
平成24年 3月 6日 訂正審判の審決(本件審判の請求は、成り立たない。)
平成24年 4月 5日 訂正審判の審決取消しの訴え(平成24年(行ケ)10128号)
平成24年 9月27日 判決言渡(平成24年(行ケ)10128号:特許庁が訂正2011-390120号事件について平成24年3月6日にした審決を取り消す。)
平成24年12月 6日 訂正審判の審決(特許第2791553号に係る明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。)

第2.本件特許発明
本件特許第2791553号の請求項1に係る発明(以下、「本件訂正発明」ということがある。)は、訂正審判(訂正2011-390120号)が確定していることから、訂正審判によって訂正された本件特許明細書(以下、「本件訂正明細書」ということがある。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであって、次のとおりである。

「幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの角形の通気口に合わせて切断し、切断した不織布の周囲を前記通気口に仮固定してこの通気口を不織布で直接覆って使用する通気口用フイルター部材であって、
前記不織布として、一軸方向にのみ非伸縮性で、かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき、120?140%まで自由に伸びて縮み、難燃処理された合成樹脂繊維からなるものを使用し、
前記不織布を前記一軸方向とは直交する方向へ伸ばして、この不織布により前記通気口を覆うことを可能としたことを特徴とする通気口用フイルター部材。」

第3.請求人の主張の概要
請求人は、本件訂正発明の特許を無効とするとの審決を求め、証拠方法として、審判請求書に以下の甲第1?21号証を添付し、口頭審理陳述要領書に以下の甲第22、23号証を添付し、上申書に以下の甲第24?28号証を添付し、意見書に甲第29?31号証を添付して、審判請求書、口頭審理陳述要領書、上申書及び意見書において概ね以下のとおり主張している。

○甲第1号証 特開平3-229608号公報

○甲第2号証 実願昭62-170893号(実開平1-75733号)の
マイクロフィルム

○甲第3号証 特開平7-190434号公報

○甲第4号証 特開平8-196843号公報

○甲第5号証 実願平3-31109号(実開平4-118119号)の
マイクロフィルム

○甲第6号証 特開平9-75643号公報

○甲第7号証 特開平8-158229号公報

○甲第8号証 特開平7-207563号公報

○甲第9号証 特開平5-140849号公報

○甲第10号証 特開平5-331753号公報

○甲第11号証 特開平5-321150号公報

○甲第12号証 特開平6-114991号公報

○甲第13号証 特開平8-144163号公報

○甲第14号証 特開平7-157959号公報

○甲第15号証 特開平6-341045号公報

○甲第16号証 特開平8-218260号公報

○甲第17号証 特開平8-158226号公報

○甲第18号証 特開平8-60515号公報

○甲第19号証 特開平7-252762号公報

○甲第20号証 特開昭61-132666号公報

○甲第21号証 大阪地裁平成22年(ワ)第3792号特許権侵害差止
等請求事件において原告(被請求人)が大阪地方裁判所
へ提出した平成22年4月30日付け準備書面(1)

○甲第22号証 大阪地裁平成22年(ワ)第3792号特許権侵害差止
等請求事件において原告(被請求人)が大阪地方裁判所
へ提出した平成23年2月28日付け準備書面(7)

○甲第23号証 大阪地裁平成22年(ワ)第3792号特許権侵害差止
等請求事件において原告(被請求人)が大阪地方裁判所
へ甲第8号証として提出した「不織布の基礎知識(第4
版)」(2001年9月1日 日本不織布協会発行)

○甲第24号証 実願平3-60131号(実開平5-7318号)の
CD-ROM

○甲第25号証 特開平6-249479号公報

○甲第26号証 実願平4-57818号(実開平6-15716号)の
CD-ROM

○甲第27号証 特開昭54-21681号公報

○甲第28号証 実願昭63-156773号(実開平2-81612号)の
マイクロフィルム

○甲第29号証 「JIS 一般織物試験方法」 JIS L 1096^(-1990)
○甲第30号証 特開平6-200465号公報

○甲第31号証 特開平6-311号公報

1.無効理由1
本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものであるから、本件訂正発明に係る特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

2.無効理由2
本件訂正発明は、甲第1号証、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

3.無効理由3
本件訂正発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

4.無効理由4
本件訂正発明は、甲第6号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

5.無効理由5
本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、特許法第36条第4項の規定に違反する特許出願に対して特許がなされたものであり、本件訂正発明に係る特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

第4.被請求人の主張の概要
被請求人は、本件訂正発明を無効とすることはできないとの審決を求め、証拠方法として、口頭審理において乙第1号証を提出し、答弁書及び口頭審理陳述要領書において概ね以下のとおり主張している。

○乙第1号証 写真撮影報告書

1.無効理由1に対して
本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものでないから、本件訂正発明に係る特許は特許法第123条第1項第4号に該当せず、無効とすべきでない。

2.無効理由2に対して
本件訂正発明は、甲第1号証、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく、その特許は特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきでない。

3.無効理由3に対して
本件訂正発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく、その特許は特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきでない。

4.無効理由4に対して
本件訂正発明は、甲第6号証に記載された発明と同一でないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものではなく、その特許は特許法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすべきでない。

5.無効理由5に対して
本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載には不備がなく、特許法第36条第4項の規定に違反しないから、本件訂正発明に係る特許は特許法第123条第1項第4号に該当せず、無効とすべきでない。

第5.甲各号証の記載事項及び視認事項
1.甲第1号証(特開平3-229608号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には次の事項が記載され、視認される。
(1-1)「(1)所定広さのフィルターで排気口を覆い、周囲をマグネットホルダーによって押さえた排気口カバーの取り付け方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
(1-2)「〔産業上の利用分野〕
本発明は排気口(換気扇及びレンジフード等をいう)にフィルターを被せる方法に関する。」(1頁右欄3?5行)
(1-3)「〔作用〕
請求の範囲第1項、第2項記載の排気口カバーの取付け方法においては、所定広さのフィルターで排気口を覆い、周囲をマグネットホルダーによって押さえているので、張った状態で排気口をフィルターで覆うことができ、排気と共に吸引される油等はフィルターによって捕捉される。そして、フィルターの周囲はマグネットホルダーによって固定されているので、容易にフィルターの交換を行うことができる。」(2頁右上欄3?12行)
(1-4)「ここに、第1図は第1の実施例に係る排気口カバーの取付け方法を示す側面図、第2図は該取付け方法の工程を示す斜視図・・・・・・である。
第1図、第2図に示すように第1の実施例に係る排気口カバーの取付け方法においては、まず第2図に示すようにフィルターの一例である難燃性の不織布10を鋏11等で所定長さに切断し、排気口の一例であるレンジフード12の周囲に被せ、第1図に示すように周囲を適当数のマグネットホルダー13によって固定する。」(2頁左下欄9行?同頁右下欄4行)
(1-5)「〔発明の効果〕
請求の範囲第1項?第4項記載の排気口カバーの取付け方法は、簡単な方法によってフィルターを排気口の周囲に固定しているので、その取付け及び交換が極めて容易である。
そして、取替にあってはフィルターの交換のみで済むので、極めて経済的である。」(3頁右上欄第11?17行)
(1-6)第2図をみると、不織布10が巻かれていることが見て取れる。

2.甲第2号証(実願昭62-170893号(実開平1-75733号)のマイクロフィルム)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には次の事項が記載されている。
(2-1)「換気扇本体に、その前面を覆うフィルタを繰り出し自在に具備せしめて成るものであって、そのフィルタを、繊維の方向が一方向性で前記繰り出し方向と同方向の不織布により構成したことを特徴とするフィルタ付換気扇。」(実用新案登録請求の範囲第1項)
(2-2)「(考案が解決しようとする問題点)
上記従来のものに於いては、フィルタが多方向性の不織布から成る関係上、引出し時の引張り力に対して弱く、ために充分に引出せないまま途中で破れ、その結果、注意しながらの再引出しが強いられるなど、取扱いの面で劣るという問題点を有していた。又、上記多方向性の不織布から成るフィルタは、換気扇の運転時の風に対しても弱くて延びを生じ、たるんで、最悪の場合送風羽根に当たり、フィルタの破損、換気扇の故障につながるという問題点を有していた。
本考案は上述の事情に鑑みてなされたものであり、従ってその目的は、フィルタが引出し時の引張り力及び運転時の風の流れのいずれに対しても強く、取扱性の向上並びに使用状態のより一層の安定化を図り得る実用的に優れたフィルタ付換気扇を提供するにある。」(2頁2?18行)
(2-3)「(作用)
上記手段によれば、フィルタの繊維が、引出し時の引張り力による該フィルタの破れを阻止するように作用し、又、運転時の風の流れに対してはフィルタ全般の強さを増して、その延びを阻止するように作用する。」(3頁5?10行)
(2-4)「(実施例)
・・・・・・
而して、上記換気扇本体1の前面には、上部ロール支持体8及び下部ロール支持体9を例えば、化粧枠7に一体に形成して設けており、そのうちの上部ロール支持体8に、フィルタ10を巻回したロール11を、そのフィルタ10が下方に繰り出し自在となるように回転可能に装架している。・・・・・・又、下部ロール支持体9には巻取りロール12を同じく回転可能且つ着脱可能に装架していて、この巻取りロール12に、ロール11から下方に引出したフィルタ10を巻取らせるようにしている。
・・・・・・
・・・・・・フィルタ10は徐々に汚れ、やがて交換の必要な時期に至る。そこで、本実施例の場合、油受け14を取外して巻取りロール12を回転させることにより、・・・・・・フィルタ10の新規な部分がそのロール11を回転させながら引出され、従って換気扇本体1の前面はそのフィルタ10の新規な部分によって覆われるようになる。・・・・・・。
ここで、上述のようにフィルタ10が引出されるとき、該フィルタ10は繊維の方向がその引出し方向(繰り出し方向)と同方向の一方向性の不織布により構成していることから、その繊維が、該引出し時の引張り力によるフィルタ10の破れを阻止するように作用し、よって従来のフィルタが多方向性の不織布から成っていたもののような破れを生じることはなく、従って又破った後に更にその破れに注意しながらフィルタの再引出しを行なうというような面倒及び困難もなくて、取扱性を向上させることができる。
又、運転時の風の流れに対しては、上述のように繊維の方向が一方向性の不織布から成るフィルタは、その全般の強さを増して、延びのない若しくは極く少ないものとなり、よって従来のもののようなたるみを生ずることはなく、送風羽根5への当たりも避けることができるのであり、以てフィルタ10の破損、換気扇の故障といったことの発生を防止でき、使用状態の一層の安定化を達成することができる。」(3頁11行?7頁6行)

3.甲第3号証(特開平7-190434号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には次の事項が記載されている。
(3-1)「【請求項1】換気扇本体の開口を塞ぐに十分な所定寸法となり得るように形成したフィルター膜の少なくとも相対両端二辺部分に止着具を固着してなる換気扇用フィルター。
【請求項2】上記フィルター膜を使用時に延伸可能なように長手方向乃至短手方向に蛇腹状に圧縮形成したことを特徴とする請求項1に記載の換気扇用フィルター。」(特許請求の範囲の請求項1、2)
(3-2)「上記フィルター膜は、使用時に延伸可能なように長手方向乃至短手方向に蛇腹状に圧縮形成したものとするのが好ましく、長時間の使用によって弛みが生じないように補強することができるばかりか、伸縮性が高くなるので寸法のずれを修正することができる。さらに、平面視した面積当たりの表面積が大となるから収集効率がより高くなる。」(段落【0009】)
(3-3)「【実施例】以下、本発明の一実施例を図面によって説明する。
・・・・・・
フィルター膜2は、綿などの天然繊維素材、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ビニロン等の合成繊維素材、アルミニウム等の金属素材、その他適宜材質の通気性を有する不織布シート、或いは細かい網状シート等を素材とし、図1に示すように、長手方向に比較的細かい連続した波形状乃至蛇腹状に形成してある。このように長手方向に波形状乃至蛇腹状に形成することにより、前後方向に弛みが生じないように強度を高めることができるばかりか、長手方向の伸縮を自在とすることができ、開口幅に合うように巾を調整することができる。また、例えば換気扇本体10の開口11単位面積当たりの換気扇用フィルター1の表面積が大となるから、塵埃、油分などの微粒子などの収集効率を一層高めることができる。
・・・・・・
ただし、フィルター膜の形状は、上記フィルター膜2のような形状に限定するものではなく、波形状乃至蛇腹状に形成しなくともよく、伸縮性を有しているのが好ましい。尚、上記波形状乃至蛇腹状は、長手方向全面に亘って形成してある例を示したが、適宜巾で中央部又は両端部付近に設けて、他は平坦面とし、或いは適宜巾で断続的に設けてもよい。長手方向と短手方向の両方向を組合せて設けることもできる。」(段落【0012】?【0016】)
(3-4)「本発明の換気扇用フィルター1は、上記のように構成してあるので、例えば図3及び図4に示すような、中央部に開口11を有し、この開口11周縁部をフィルター取付面部12とし、この開口11内で回転するように換気扇13が設置され、さらに開口11前面に開口11を塞ぐように網部が装着されているステンレス製の換気扇本体10に対して、長手方向両端部を持って網部を外側から被覆しつつ長手方向に拡開させて幅を調節し、止着部材31が例えば磁石であれば、各々フィルター取付面部12,12に磁着させればよく、換気扇用フィルター1を換気扇本体10に装着させることができる。」(段落【0022】)

4.甲第4号証(特開平8-196843号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には次の事項が記載され、視認される。
(4-1)「【請求項1】換気扇等の吸気側開口全体を覆い、着脱自在に装着される四角形状の換気扇用フィルタ-において、該フィルタ-はフィルタ-部材の少なくとも両端にホルダ-部が設けられているとともに、該フィルタ-部材は中央部が端部に比べ幅広く形成されていることを特徴とする換気扇用フィルタ-。」(特許請求の範囲の請求項1)
(4-2)「【産業上の利用分野】本発明は台所用換気扇やレンジフ-ドなどのフィルタ-の装着を必要とする換気扇本体や換気扇本体の前面全体を覆うフィルタ-カバ-の吸気側開口全体を覆い、着脱自在に取り付け可能とした換気扇用フィルタ-に関するものである。」(段落【0001】)
(4-3)「【従来の技術】従来例を図5乃至図7により説明する。
・・・・・・
しかしながら、フィルタ-カバ-20にフィルタ-21が装着された状態では図6に示すように両方向に引張られたような状態で装着されている。よって、図5に示すような形状のフィルタ-21では中央部分の幅が両端に比べて片側でA寸法だけ狭くなる。特にフィルタ-部材22として不織布を用いた場合は上記現象がより顕著である。」(段落【0002】?【0005】)
(4-4)「【実施例】本発明の一実施例を図1乃至図4により説明する。
・・・・・・
フィルタ-部材9は図1に示すように中央部分が両端に比べて片側でA寸法だけ幅広く形成されているために、装着において左右に引張った状態でも従来のように中央部分が狭くなり、開口2全体を防ぐことができないということはない。またフィルタ-部材として不織布を用いた場合は、図6に示すような現象が顕著であることから本発明のような形状はより効果的である。」(段落【0011】?【0014】)
(4-5)「本発明の一実施例である換気扇用フィルタ-の平面図である」図1、「本発明の従来例である換気扇用フィルタ-を左右に引張った状態の平面図である」図6をみると、それぞれ、上記(4-4)の記載事項を窺うことができる。

5.甲第5号証(実願平3-31109号(実開平4-118119号)のマイクロフィルム)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には次の事項が記載されている。
(5-1)「【実施例】
本考案の実施例を図面に従って説明すると、図1、図2は本考案のレンジフード用フィルター装置Aの一実施例を示し、ポリエステル繊維あるいはポリプロピレン繊維を適宜結合剤で3次元の網目構造に結合させた厚さが約0.3mmの不織布1を縦寸法および横寸法が42×27cmの短形体とし、その上端部を折り返すとともに折り返し部の両端を接着もしくは融着によって接合して深さが5cmの袋状端部2aを形成したシート状フィルター2と、上記不織布1と同じ材料で深さが約5cmで開口幅が27cmの浅い袋体3aよりなる係止部材3とから構成してあり、レンジフードの吸気口に配設された金網等からなるフィルター部材4に、前記シート状フィルターの袋状端部2aを被せるとともに、フィルター部材4の他端部にシート状フィルター2の他方の自由端部2bを巻き込み、この巻き込み状態のままで袋体よりなる係止部材3を装着してある。
・・・・・・
図3は、本考案の変形例に係るレンジフード用フィルター装置を示し、・・・・・・このものは、不織布で形成した環状体3bを使用したものである。
この変形例によれば、係止部材3が環状体3bで形成してあるので、シート状フィルター2の自由端部2bを内側に引っ張ると、シート状フィルターの弛みが防止されて、フィルター部材4に容易に密着させて取り付けることができる。
図4は、本考案の第2変形例に係るレンジフード用フィルター装置を示し、前記変形例が係止部材3として環状体3bを用いたのに対して、このものは、フィルター部材にマジックテープ(商品名)などの係止爪を植設させたテープ材3c、3c、が貼着してあり、このテープ材3cの係止爪にシート状のフィルター2の自由端部2bを巻き込み状態に係止してある。
この変形例によれば、テープ材3cの係止爪がシート状フィルターに食い込み状態で係止されるので、該シート状フィルター2が油煙の吸着で重くなっても、シート状フィルターに弛みや垂れ下がりが発生し難いものとなる。」(段落【0012】?【0018】)
(5-2)「 【考案の効果】
・・・・・・
また、不織布は繊維の結合によって適度の伸縮性を有しているので、既存の深型レンジフードのフィルター部材のサイズに完全に合致していなくても、若干小さいシート状フィルターを伸ばした状態で取り付けできるものであり、既存のフィルター部材のサイズが多少異なったものに対しても取り付けが容易である。」(段落【0021】?【0022】)

6.甲第6号証(特開平9-75643号公報)
甲第6号証に係る特許出願は、本件訂正特許に係る特許出願の出願日前である平成7年9月7日に出願され、その願書に最初に添付された明細書及び図面が甲第6号証である特開平9-75643号公報として、平成9年3月25日に公開されたものであって、同号証には次の事項が記載されている。
(6-1)「【請求項12】 換気扇にフィルタを装着するための換気扇へのフィルタ装着方法であって、
換気扇の前面部にフィルタ吸込み防止部材を取付ける工程と、
上記換気扇にフィルタ取付手段を取付ける工程と、
上記フィルタ吸込み防止部材とは分離して準備された可撓性を有するシート状フィルタを、上記フィルタ吸込み防止部材の前面に沿わせてから上記フィルタ取付手段に取付け保持させる工程と、
を有することを特徴とする、換気扇へのフィルタ装着方法。」(特許請求の範囲の請求項12)
(6-2)「本願発明の好ましい実施の形態では、上記フィルタ取付手段は、上記フィルタと着脱自在な面ファスナテープである構成とすることができる。」(段落【0022】)
(6-3)「さらに、本願発明の好ましい他の実施の形態では、上記フィルタは、その縦横の幅方向の少なくともいずれかの方向に伸縮性を有している構成とすることもできる。
」(段落【0034】)
(6-4)「【発明の実施の形態】以下、本願発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しつつ具体的に説明する。
・・・・・・
図1において、上記矩形シート状のフィルタ2は、たとえば難燃性のガラス繊維製であり、上記フィルタ吸込み防止部材1とは分離して準備されている。このフィルタ2は、折り曲げ、折り畳みなどが自在となるように可撓性を有している他、その縦横の幅方向(矢印b1,b2方向)に沿って伸縮性を有している。
・・・・・・
図4および図5は、換気扇へのフィルタ装着方法の作業手順を示す斜視図である。図6は、フィルタ装着が完了した状態の一例を示す斜視図である。・・・・・・。
・・・・・・
・・・・・・図5および図6に示すように、上記面ファスナテープ3にフィルタ2の左右両端縁部2a,2aを接着させる。これによって、図7に示すように、上記フィルタ2をフィルタ吸込み防止部材1の各前面に沿わせて、このフィルタ2によって換気扇4の前面部4aを覆うことができる。
上記フィルタ2の取付けに際しては、このフィルタ2のサイズが換気扇4のサイズと正確に一致しない場合がある。しかし、この場合には、上記フィルタ2を切断したり、あるいは適当に折り畳むなどして、フィルタ2を換気扇4のサイズに正確に一致させることが可能である。・・・・・・。
また、上記フィルタ2は、縦横の幅方向に伸縮性を有しているために、このフィルタ2を伸長し、緊張させた状態でフィルタ吸込み防止部材1に沿わせることができる。したがって、上記フィルタ2を皺などの少ない美麗な状態に仕上げることができる。また、フィルタ2が換気扇4の吸込み口40に巻き込まれ易くなるといったことも適切に防止し、または抑制できることとなる。
さらに、上記フィルタ2を左右方向に伸長させて取付ければ、図6に示すように、このフィルタ2の上下両端縁部2b,2bを換気扇4の前面部4aに略密着させることもできる。すなわち、フィルタ2に伸縮性が無い場合には、たとえば図8に示すように、このフィルタ2を湾曲状のフィルタ吸込み防止部材1に沿わせた場合に、このフィルタ2の上下両端縁部2b,2bと換気扇4の前面部4aとの相互間には、隙間Hが発生してまう。ところが、上記フィルタ2に伸縮性があれば、先の図6に示すように、上記隙間Hの無い状態に設定することが可能となる。したがって、上記隙間Hから汚れた空気が換気扇4内に直接進入することを防止して換気扇4の汚れ防止が適切に行え、より好ましいものとなる。」(段落【0036】?【0052】)
(6-5)「さらに、本願発明では、フィルタ2は、ガラス繊維製のものに限らず、たとえば不織布製などのものでもよく、その具体的な材質は問わない。・・・・・・。」(段落【0074】)
(6-6)「換気扇へのフィルタ装着方法の作業手順を示す斜視図」である図4をみると、換気扇4の吸込み口40は、円形であることが見て取れる。
(6-7)「換気扇へのフィルタ装着方法の作業手順を示す斜視図」である図5、「フィルタ装着が完了した状態の一例を示す斜視図」である図6をみると、一方の面ファスナーテープ3にフィルタ2の左端部が接着され、フィルタ2をフィルタ吸い込み防止部材1の前面に沿わせ、フィルタ2の右端部が他方の面ファスナーテープ3に接着することが見て取れる。

7.甲第7号証(特開平8-158229号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第7号証には次の事項が記載されている。
(7-1)「【産業上の利用分野】本発明は、吸収性物品の表面材、ワイパー、フィルターに好適な不織布の製造方法に関する。」(段落【0001】)
(7-2)表1において、不織布の「伸度(%)」をみると、実施例1?4及び比較例1の値は、「タテ」が40.7?46.7、「ヨコ」が76.5?94.6にある(段落【0028】)。
(7-3)「表1中、不織布の物性は以下の方法により評価した。
【0030】[強力、裂断長、伸び] JIS L 1096に準じ、幅5cm、長さ15cmの試料片をつかみ間隔10cmで把持し、定速伸長型引張試験機を用いて引張速度30cm/分で伸長し、切断時の荷重値及び伸長率をそれぞれ強力(kg/5cm)、伸度(%)とした。」(段落【0029】?【0030】)

8.甲第8号証(特開平7-207563号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第8号証には次の事項が記載されている。
(8-1)「【産業上の利用分野】本発明は、割繊繊維を含有する割繊不織布と極細繊維よりなる極細繊維不織布とが積層されてなる積層不織布及びその製造方法に関し、・・・・・・且つ良好なフィルター性能を有し、医療・衛生材料、衣料用、生活関連資材用、産業資材用等の広範な用途に使用することのできる積層不織布及びその製造方法に関するものである。
・・・・・・
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明は、極細繊維不織布と積層されて貼合される不織布として、低融点成分と高融点成分とよりなる複合繊維が分割割繊された状態のものを使用して、低融点成分と高融点成分との密着状態を解消し、割繊された低融点成分よりなる割繊繊維と極細繊維とを強固に融着させると共に、割繊された高融点成分よりなる割繊繊維が繊維形態を維持するようにして、高剥離強力を持ち、通気性が良好でフィルター材として好適に使用しうる積層不織布を提供しようというものである。」(段落【0001】?【0004】)
(8-2)「次に、実施例に基づき、本発明をより具体的に説明する。この実施例中で用いられている各特性値等の測定方法は、以下の方法によって行ったものである。
[積層不織布の引張強力]:JIS L-1096に記載のストリップ法に準じ、幅5cm,長さ10cmの試験片から最大引張強力を測定し、100g/m^(2)の目付に換算した値である。なお、引張強力は縦方向と横方向とを測定した。ここで、縦方向の引張強力とは、機械方向の引張強力のことであり、横方向の引張強力とは、機械方向に直交する方向の引張強力のことである。
[積層不織布の引張伸度]:引張強力測定時の切断時の伸度である。伸度についても、縦方向と横方向とを測定した。・・・・・・。」(段落【0032】)
(8-3)表1において、不織布の「引張伸度(%)」をみると、実施例1?6及び比較例1?2の値は、「縦」が40?64、「横」が54?85にあり、引張伸度が縦方向と横方向に違いのある不織布が示されている(段落【0038】)。

9.甲第9号証(特開平5-140849号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第9号証には次の事項が記載されている。
(9-1)「【実施例】実施例中に記載した物性値の評価法は、次の通りである。
・・・・・・
(b)不織布の引張強力:JIS L-1096に記載のストリップ法に準じ、幅5cm,長さ10cmの試験片から最大引張強力を測定し、100g/m^(2)の目付の不織布に換算した値である。
(c)不織布の引張伸度:(b)と同法で測定した切断時の伸度である。
・・・・・・。」(段落【0032】)
(9-2)「実施例1
・・・・・・
縦引張伸度:50.3%
横引張伸度:58.8%
・・・・・・
実施例2
・・・・・・
縦引張伸度:48.7%
横引張伸度:54.9%
・・・・・・」(段落【0033】?【0044】)
(9-3)「以上説明した本発明に係る柔軟性不織布は、機械的性質及び柔軟性に優れているため、バッグ用素材,封筒等の袋物用素材,拭き布,エアーフィルターや一般工業用各種フィルター等として好適に使用しうるものである。」(段落【0059】)

10.甲第10号証(特開平5-331753号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第10号証には次の事項が記載されている。
(10-1)「【産業上の利用分野】本発明は耐炎繊維不織布および耐炎繊維複合材料に関する。詳しくは・・・・・・オイルミストフィルター、油分中の水分または水分中の油分を分離するための油水分離フィルター・・・・・・等の用途に適したファイヤーブロッキング性、断熱性に優れた耐炎繊維不織布および耐炎繊維複合材料に関する。」(段落【0001】)
(10-2)「【実施例】以下実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明の耐炎繊維不織布の物性評価は下記の方法で行った。
・・・・・・
強伸度:JIS-L-1096
・・・・・・。」(段落【0031】)
(10-3)表1において、不織布の「伸度(%)」をみると、実施例1?2及び比較例1?3の値は、「タテ」が31?64、「ヨコ」が45?75にある(段落【0045】)。

11.甲第11号証(特開平5-321150号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第11号証には次の事項が記載されている。
(11-1)「【実施例】以下実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明の樹脂加工不織布の物性評価は下記の方法で行った。
・・・・・・
強伸度:JIS-L-1096
・・・・・・。」(段落【0026】)
(11-2)表1において、不織布の「伸度(%)」をみると、実施例1?2及び比較例1?2の値は、「タテ」が3.0?9.2、「ヨコ」が5.2?8.9にある(段落【0036】)。

12.甲第12号証(特開平6-114991号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第12号証には次の事項が記載されている。
(12-1)表1において、不織布の「引張伸度(%)」をみると、実施例2?4及の値は、「縦」が71?121、「横」が93?115にある(段落【0023】)。

13.甲第13号証(特開平8-144163号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第13号証には次の事項が記載されている。
(13-1)「【発明が解決しようとする課題】本発明は、環境保護や粉体回収のための集塵装置に使用されるバグフィルター等のろ布に於ける前記従来の欠点・・・・・・を解決し、ろ過速度、ろ過効率、寸法安定性共に優れたろ布用素材の提供を目的とし、鋭意検討の結果経編地がこの問題解決に有用である事を見出し、先の特許を提案した。・・・・・・。」(段落【0005】)
(13-2)表2において、不織布の「引張伸度(%)」をみると、実施例1?3及び比較例1?3の値は、「タテ」が35?77、「ヨコ」が47?128にあり、引張伸度がタテとヨコで違いがある不織布が示されている(段落【0026】)。

14.甲第14号証(特開平7-157959号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第14号証には次の事項が記載されている。
(14-1)「【実施例】次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。なお、下記の実施例における各種特性の測定及び評価は、次の方法により実施した。
・・・・・・
・不織布のKGSM強力、引張伸度
東洋ボールドウイン社製、テンシロン UTM-4-1-100を用い、JIS L-1096に記載のストリップ法にしたがい、 試料幅 5cm、試料長20cmの試料片を10個準備し、掴み間隔10cm、引張速度10cm/分で測定した。 その場合の個々の最大の引張強力を平均化し、100g/m^(2) に換算した値をもってKGSM強力とした。また、その時の最大伸度を平均化して、不織布の引張伸度とした。
・・・・・・。」(段落【0043】)
(14-2)表1において、不織布の「引張伸度(%)」をみると、実施例1?4及び比較例1?2の値は、「MD」が30?45、「CD」が30?45にある(段落【0048】)。

15.甲第15号証(特開平6-341045号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第15号証には次の事項が記載されている。
(15-1)「【実施例】
・・・・・・
次に、本実施例の延伸不織布に対して、破断強度、破断伸度及びF10を測定した。その結果を表2に示す。破断強度と破断伸度は、JIS L 1096に準拠し、インストロン引張り試験機を使用して、MD方向及びこれと直交する方向(TD方向)について測定した。使用した試験片の幅は、5cmである。・・・・・・。」(段落【0016】?【0018】)
(15-2)表2において、不織布の「破断伸度(Kg/5cm)」をみると、実施例1?12及び比較例2、4、6の値は、「MD」が21?120、「TD」が67?152にある(段落【0048】)。

16.甲第16号証(特開平8-218260号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第16号証には次の事項が記載されている。
(16-1)「【産業上の利用分野】本発明は、薄手軽量でドレープ性および柔軟性があり、かつ縦横の強度バランスが改良された強化熱融着不織布、およびウエブ形成工程や熱融着工程が本来有している高速生産性を低下させることのない上記不織布の製造方法に関するものである。更に詳しくは、芯地等の衣料製品、フィルターや工業用ワイパー等の産業用資材、および手術衣、シーツ、タオル、マスク等のメディカルデスポーザブル製品、ジオテキスタイル等の工業用資材等に広く用いられる薄手軽量強化熱融着不織布およびその製造方法に関するものである。」(段落【0001】)
(16-2)表1には、実施例1?5及び比較例1?5が記載され、その実施例5には、「引張伸び〔縦/横〕(%)」が6/90、20/9のものが記載され、表2には、実施例6?8及び比較例6?8が記載され、その実施例6には、「引張伸び〔縦/横〕(%)」が7/93、22/9のものが記載され、縦方向と横方向の引張伸びが違うものが示されている(段落【0034】、【0038】)。
(16-3)「【発明の効果】本発明によって得られた薄手軽量強化熱融着不織布は、・・・・・・フィルターや工業用ワイパー等の産業用資材・・・・・・等に広く用いられる。」(段落【0039】)

17.甲第17号証(特開平8-158226号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第17号証には次の事項が記載されている。
(17-1)「【産業上の利用分野】本発明は、表面に多数の皺が形成されてなる嵩高性不織布であって、フィルター、マスク、ワイパーあるいはタオル等として有効に利用することができる嵩高性不織布に関するものである。」(段落【0001】)
(17-2)「[引張強力、裂断長、伸度] JIS L 1096に準じ、幅5cm、長さ15cmの試料片をつかみ間隔10cmで把持し、定速伸長型引張試験機を用いて引張速度30cm/分で伸長し、切断時の荷重値および伸長率をそれぞれ引張強力、伸度とした。・・・・・・。」(段落【0046】)
(17-3)表1?3において、熱処理前後の不織布の「伸度(%)」をみると、実施例1?2及び比較例1の値は、「タテ」が13.3?292.3、「ヨコ」が93.3?194.7にあり、表1の実施例1の熱処理温度130℃のものは、「タテ」が13.3、「ヨコ」が125.3という伸度がタテとヨコでは違いがあるものが示されている(段落【0036】、【0038】、【0040】)

18.甲第18号証(特開平8-60515号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第18号証には次の事項が記載されている。
(18-1)「【産業上の利用分野】本発明は、メルトブロー不織布およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、高強力、細繊度、低目付、良好な均一性等の特徴を有することから、産業資材用途、特に感熱性孔版印刷用原紙の支持体用途に適するメルトブロー不織布およびその製造方法に関する。」(段落【0001】)
(18-2)「メルトブロー不織布は、細繊化および低目付化が可能であり、均一性に優れ、吐出段階で単糸間が自己粘着する等の長所を持つが、低配向度に起因する低強力および高伸度のため、その適用範囲はフィルター、ワイパー、生理用品等の狭いものに限られている。また、ポリエチレンテレフタレートのような融点が200℃以上である半結晶性ポリマからなるメルトブロー不織布は低結晶化度であるため、延伸繊維からなるスパンボンド不織布に比べ熱安定性が大きく劣っている。本発明の目的は、メルトブローブロー不織布の用途を拡大するため、さらなる細繊度、良好な均一性等の特徴を有しながら熱安定性に優れ、測定方向によらず高強力なメルトブロー不織布およびその製造方法を提供することにある。」(段落【0007】)
(18-3)「本発明において、不織布の巻取方向(縦方向)の最大引張強力と巻取方向に垂直な方向(横方向)の最大引張強力の比とは、不織布の巻取方向(縦方向)の最大引張強力を不織布の巻取方向に垂直な方向(横方向)の最大引張強力で除した値をいう。この強力比が4より大きい場合、横方向の強力が不足し本発明の目的を満たさない。また、メルトブロー不織布を捕集する際、縦方向に繊維が多く配列するため、強力比を0.5より小さくするためには横方向の繊維の配向を縦方向のものよりかなり高くすることになり、不織布を構成する単糸の強力の異方性も著しくなる。このため、不織布の巻取方向の最大引張強力と不織布の巻取方向に垂直な方向の最大引張強力の比は0.5?4である必要がある。全方向により均一な強力を示すためには、強力比は0.8から2であることが好ましく、0.9?1.5であることがさらに好ましい。」(段落【0020】)
(18-4)「・・・・・・<最大引張強力、伸度>東洋ボールドウイン社製「テンシロン」を用いて測定した。」(段落【0058】)
(18-5)「比較例2は縦方向の強力は高いものになったが横方向の強力が低く、縦横の強力比が6.0と本発明の範囲を外れるものであった。繊維の複屈折率は0?0.152の範囲で大きくばらついていた。・・・・・・。」(段落【0071】)
(18-6)「実施例5の繊維径分布のCV値は43.7であった。実施例5は非常に細繊度の繊維でありながら従来に無い高い強力を示し、フィルター用途、ワイパー用途等のの産業資材用途に適したものである。」(段落【0078】)
(18-7)表1(段落【0085】)には、実施例1?8及び比較例1?9が示され、その中で、実施例5の伸度が、縦14%、横17%、比較例2の伸度が、縦20%、横153%で、強力比が6.0であり、表2(段落【0089】)には、実施例10?13及び比較例10?13が示され、その中で、比較例13の伸度が、縦7%、横91%で、強力比が4.2であることが、それぞれ記載されている。

19.甲第19号証(特開平7-252762号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第19号証には次の事項が記載されている。
(19-1)「本発明で最も有利に使用できる不織布は、水流交絡不織布である。この水流交絡不織布は、図14に示すように、MD方向にはほとんど伸縮性を示さないが、CD方向には大きい伸縮性を示し、約200%伸長したときに一旦応力が大幅に増大し、この応力でさらに伸長し、その後で破断点(約260%伸張)に達する。この2段目の応力上昇が、破断する前のブレーキとなって働くことになる。このような応力増大点は、150%伸長よりも高いことが望ましく、更に望ましくは200%以上で起こるように設計する。」(段落【0058】)

20.甲第20号証(特開昭61-132666号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第20号証には次の事項が記載されている。
(20-1)「本発明はバルキー不織布とその製造方法に関する。より詳しくは表面に多数のループを形成する表面不織布と前記ループを拘束してバルキー不織布の形態を保持する底部不織布から成る二層構造の不織布とその製造方法に関する。」(2頁右上欄1?5行)
(20-2)「本発明は従来公知のループ付き布帛の有する問題点を解消して立体感があって嵩高であり、ループ状態の繊維が抜けることなく且つ使用中における耐久力の優れたバルキー性不織布とその製造方法を提供することを目的とする。」(2頁左下欄17行目から同頁右下欄1行目)
(20-3)「◎破断強伸度
島津製作所製Auto Graph DSS-2000型万能引張試験機により、把握長10cm、引張速度20cm/分で測定した。試料は3cm×20cmをタテ、ヨコそれぞれ3点を取り、平均値で表す。」(5頁右下欄4?8行)
(20-4)表3(8頁左下欄)には、実施例-6及び比較例-4?5が示され、その中で、実施例-6の破断伸度が、タテが9.2%、ヨコが116%であることが記載されている。

21.甲第21号証(平成22年4月30日付け準備書面(1))
甲第21号証には次の事項が記載されている。
(21-1)「「非伸縮」とは、全く伸縮しないという意味ではなく、自由方向に繊維が並んだ不織布のように伸縮しないという意義であることが明白である。」(2頁7?8行)

22.甲第22号証(平成23年2月28日付け準備書面(7))
甲第22号証には次の事項が記載されている。
(22-1)「(2)そして、不織布の取り付け作業時に、不織布に掛けることができる荷重は、100?150g程度である。
よって、「仮固定して使用したとき」とは、「不織布に100?150g程度の荷重を加えた場合」と同義であることは、当業者に明らかである。」(2頁15?18行)
(22-2)「(4)また、訂正553特許発明にかかる物品については、「時間の経過と共に油等の汚れが不織布16に付着し、通気口12の下方に垂れ下がる」[甲13【0011】]との問題が生じうる。
そして、伸長された不織布が縮もうとする力を維持することは、前記の問題(不織布に油等の汚れが付着しても垂れ下がること)を防止することであることは、当業者が容易に理解しうる事項である。
すなわち、構成要件Fの「縮む」とは、120?140%伸長された時点で不織布が縮もうとする力を保っていることを意味するものである。」(3頁7?14行)

23.甲第23号証(不織布の基礎知識(第4版)(2001年9月1日 日本不織布協会発行))
刊行物である甲第23号証には次の事項が記載されている。
(23-1)「5.製造方法
5.1 全般
不織布の製造方式は、ウェブ形成と繊維間接着の2工程がある。それぞれを組み合わせて製造されている。」(28頁1?4行)

24.甲第24号証(実願平3-60131号(実開平5-7318号)のCD-ROM)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第24号証には次の事項が記載されている。
(24-1)「【産業上の利用分野】
この考案は、レンジフード等の換気扇の吸込側に使用する換気扇用布フィルターセットに関する。」(【0001】)
(24-2)「 【課題を解決する為の手段】
前記第1の目的を達成するこの考案の換気扇用布フィルターセットは、難燃性繊維の不織布でなる布フィルターと、裏面に接着剤層を設けた複数個の面状ファスナーとを組合せて包装してあることを特徴としている。そして、前記第2の目的を達成するために、前記布フィルターの表面に、切断の目印とする為の線を印刷したり、切断の目印とする為の熱圧着線を設けることを特徴としている。」(段落【0010】)

25.甲第25号証(特開平6-249479号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第25号証には次の事項が記載されている。
(25-1)「【請求項1】 換気扇あるいはレンジフードへの吸気口に一定の間隔を設けて、ガイドリングを支持部材を介して取付け、前記ガイドリングの上部から該換気扇あるいはレンジフードへの少なくとも表側全体を覆う難燃処理したフィルターシートを被せ、該フィルターシートの周囲を予め取付けられた面ファスナーあるいはマグネットホルダーを用いて仮止めすることを特徴とする換気扇あるいはレンジフードへのフィルター装着方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
(25-2)「【実施例】・・・・・・このような状態で、ガイドリング12及び面ファスナー16を取付けた後、フィルターシートの一例である不織布17を被せる。この場合、全体を張った状態で取付け、ガイドリング12の内側にある不織布が風によって内部に引き込まれないようにする。これによって、不織布17の取付けを完了するが、汚れた場合には、不織布17のみを引き剥がして、新しいものと交換する。」(段落【0006】?【0009】)

26.甲第26号証(実願平4-57818号(実開平6-15716号)のCD-ROM)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第26号証には次の事項が記載されている。
(26-1)「 【産業上の利用分野】
本考案は、調理用ガスレンジの上方に配設されて排煙を行うレンジフードに装着するレンジフード用フィルターに関する。」(【0001】)
(26-2)「 【実施例】
以下、図面について本考案の実施例を詳細に説明する。・・・・・・1枚のアルミニウムシートをプレス成型して長方形の枠体2を形成し、この枠体2に難燃性または不燃性の不織布によるフィルター部材3を装着してフィルター面を形成し、枠体2の対向する短辺枠部2bからそれぞれフラップ4,4を屈曲可能に延設し、このフラップ4に永久磁石5を固着したものである。」(段落【0012】)

27.甲第27号証(特開昭54-21681号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第27号証には次の事項が記載されている。
(27-1)「フィルター(12)は織布あるいは不織布を主体とし、織布の場合緯糸及び経糸の一方あるいは両方を、また不織布の場合基材となる織布の緯糸及び経糸の一方あるいは両方、又は相互に絡み合った繊維を弾性伸縮可能な材料で構成し、もって、フィルター(12)を少なくとも一軸方向において自然伸張状態から弾性的に強制伸張させて、その目を大きくできるように構成してある。」(2頁右上欄5?12行)

28.甲第28号証(実願昭63-156773号(実開平2-81612号)のマイクロフィルム)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第28号証には次の事項が記載されている。
(28-1)「 金属製の細線を編組して成形したメッシュフイルタを必要枚重ね合わせて巻回可能な弾性を有する本体を形成し、この本体の端部にレンジフードへの取付部を設けたことを特徴とするレンジフード用のフイルタ。」(実用新案登録請求の範囲)
(28-2)「このフイルタは前記実施例と同様に巻回可能な作用を生む他、幅方向へも弾性的に伸長可能になっており、伸長した際のその復元力、即ち戻り力をレンジフード本体(B)ヘの取付力として利用するものであり、前記第1実施例のフィルタの横幅寸法よりも若干幅狭に形成され、伸長した際そのフィルタと同一横幅寸法になるように断面波形状に形成されている。」(4頁下から4行?5頁4行)

29.甲第29号証(「JIS 一般織物試験方法」 JIS L 1096^(-1990))
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第29号証には次の事項が記載されている。
(29-1)「6.12引張強さ及び伸び率
6.12.1 標準時 標準時の試験は、A法及びB法による。
(1)A法(ストリップ法)ラベルドストリップ法とカットストリップ法の2種類がある。・・・・・・。
次に、・・・・・・切断時の強さ(N){kgf}及び伸び率(%)を測定・・・・・・。
・・・・・・
(2)B法(グラブ法)・・・・・・。
次に、・・・・・・切断時の強さ(N{kgf})及び伸び率(%)を求め・・・・・・。」(8頁下から9行?10頁3行)
(29-2)「6.14 伸縮織物の伸縮性
6.14.1 伸長率
(1)A法(定速伸長法)・・・・・・。この曲線から14.71N{1.5kgf}(^(21))荷重時の伸長率(%)を求め、・・・・・・。
注・・・・・・。
(^(21))必要に応じて、14.71N{1.5kgf}以外の荷重を用いてもよい。その場合は付記する。」(11頁11?24行)

30.甲第30号証(特開平6-200465号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第30号証には次の事項が記載されている。
(30-1)「・・・・・・。本発明の溶融紡糸可能な熱可塑性組成物は、おむつ、成人用おむつ、生理用ナプキン、タンポン、ふきん等の使い捨て吸収性物品、及び、外科用手術着、靴カバー、作業着等の使い捨て物品の製造に有用な不織布を製造するのに特に適している。」(段落【0011】)
(30-2)「【表7】
単繊維の靱性測定
弾性率 応力 歪み
試料 (GPa) (MPa) (E%)
ウェブ1繊維 2.2 183.7 174.8
ウェブ3繊維 5.2 293.7 527.4
PI 136 60 202
前出の実施と同様に、表7のデータで示した改良を視覚化するため、図8?10に示すように、靱性データをプロットし、棒グラフとした。図11に、曲線Aがウェブ1繊維を表し、曲線Bがウェブ3繊維を表す、典型的な応力-歪み曲線を示した。・・・・・。」(段落【0042】?【0043】)
(30-3)「ウェブ1繊維(曲線A)とウェブ3繊維(曲線B)の典型的な応力-歪み曲線を示す」図11をみると、試料A、Bの測定結果のいずれもが、応力が大きくなるにしたがって歪み(%伸び)の値が大きくなることが見て取れる。

31.甲第31号証(特開平6-311号公報)
本件特許に係る特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲第31号証には次の事項が記載されている。
(31-1)「【請求項1】 高分子多孔体からなるろ過層、通液性シートからなる緩衝層及び繊維シートからなる補強層の積層体であって、該層の隣接面はその全面にわたって部分的に接着され、かつ該緩衝層を構成する通液性シートは補強層を構成する繊維シートよりも弾性変形を生じやすいことを特徴とするろ過材料。」(特許請求の範囲の請求項1)
(31-2)「(2)緩衝層
通液性を有し、かつ補強層より弾性変形を生じやすいシートからなる。この通液性シートは、一般的には、厚さ1mmのシートに対して、1cm^(2)当り1000gの荷重を上面から加えた時に、その弾性変形率が5?50%以上、好ましくは20?40%程度の範囲にあればよい。・・・・・・」(段落【0008】)

第6.当審の判断
1.無効理由1及び5について
ア 本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものかどうか、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載が同法同条第4項の規定に違反するものかどうかについて検討する。
イ 請求人は、本件訂正発明の発明特定事項である「不織布として、一軸方向にのみ非伸縮性で、かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき、120?140%まで自由に伸びて縮み」に関し、甲第7?11、14?15、及び17号証に記載のある本件訂正発明に係る特許出願前のJIS規格である甲第29号証として提出した「JIS 一般織物試験方法」 JIS L 1096^(-1990)には、伸び率と伸長率の測定方法が定められており、前者の測定方法は甲第30号証の図11に示すような切断時の伸び率を測定するものであってA法及びB法の2種があり、また、後者の測定方法は、切断しない状態で、例えば、14.71Nの荷重時の伸長率を求めるものであって、甲第31号証のように付記さえすれば、荷重は14.71Nに限らないものとされており、しかも、このJIS規格以外にも甲第18、20号証に記載されるような測定方法があるから、測定条件によって、不織布の伸び縮みの値は変わるといえるにもかかわらず、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、「一軸方向の非伸縮性」、「120?140%まで自由に伸びて縮」むとは、どのようなものか理解できるような「測定の条件」や「測定のための指針」の記載がなされていないから、当業者が本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件訂正発明を再現しようとしても、不織布を具体的に特定することができず、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるから、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項の規定を満たしていないし、どのような不織布であるか不明であるから本件訂正発明は明確でなく、訂正された特許請求の範囲の記載は同法条第6項第2号の規定を満たしていないと主張していると認める。
ウ そこで、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載をみてみると、次の(ア)?(オ)の記載がなされている。
(ア)「請求項1記載の通気口用フイルター部材においては、一軸方向にのみ非伸縮性の不織布を使用しているので、角形の通気口の一方の幅aにのみ長さを合わせて不織布を切断し、通気口の他方の幅bについては、概略長さで不織布を切断してフィルター部材を用意する。次に、フィルター部材となる不織布の所定の幅aで切断した側の端部を、通気口の幅aの部分に合わせて固定し、該不織布の反対側の端部を、幅aの通気口の反対側の端部に固定する。この場合、概略長さで切断した不織布が幅bより短い場合には、不織布を少し引っ張って伸ばすことにより通気口全体を覆い、概略長さで切断した不織布が幅bより長い場合には、一旦不織布の端部を固定した後、そのはみ出し部分を切断する(なお、余剰部分を折り曲げてもよい)。」(段落【0005】)
(イ)「図2に示すように、本発明の一実施の形態に係る通気口用フイルター部材は、難燃性処理が行われた合成樹脂繊維からなる不織布素材10が使用されている。この不織布素材10は、通常幅広(例えば、1m×2m)となっている。この不織布素材10は、図2において矢印Aで示す幅方向には伸縮性がなく、矢印Bで示す長さ方向には約120?140%程度まで自由に伸びて縮む性質を有している。」(段落【0007】)
(ウ)「この不織布素材10から、図1、図2に示すように縦横の内側の幅がa×bであるレンジフード11の通気口12に装着する不織布13を切り出す場合には、縦方向については幅aの長さと同一か又は極めて近い長さcで切断する。そして、横方向については、好ましくは通気口12の幅bより少し短い長さdで切断する。これによって、通気口12を覆う不織布13が切り出されるが、縦方向においては通気口12の幅aと略等しいので、通気口12の幅aの一方側の端部14に一致させた状態で簡単に取っ手付き磁石15によって固定できる。この状態で、不織布13を通気口12に向けて張り付けるが、不織布13の幅dが通気口12の幅bより短い場合には、不織布13を横方向に引いて通気口12の幅bにその端部を合わせた状態で取っ手付き磁石15で固定する。」(段落【0009】)
(エ)「ここで、図3(A)、(B)に示すように、比較実験のために、A、B何れの方向にも自由に伸びる不織布16を使用し、その周囲を取っ手付き磁石15で固定した状態でフィルター部材として使用したところ、時間の経過と共に油等の汚れが不織布16に付着し、通気口12の下方に垂れ下がることが確認された(図3(A)参照)。また、レンジフード11のファンの風力が強い場合には、ファンによって内側に吹き寄せられる(図3(B)参照)。従って、自由に伸びる不織布16の場合には、中央部分が上下に弛み易いという欠点が判明した。」(段落【0011】)
(オ)「なお、前記実施例においては、レンジフード11の通気口12にフィルター部材を取付けた例について説明したが、換気扇や、クーラ等の通気口であっても本発明は適用される。また、不織布の周囲の固定は取っ手付き磁石15によって固定したが、鉤状フックを有する面状ファスナー、クリップ等の簡易固定具で不織布の周囲を通気口に固定する場合であっても本発明は適用される。」(段落【0013】)
エ これらの記載をみると、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、「不織布の縦方向(一軸方向)については角形の通気口の一方の幅aに合わせ同一か又は極めて近い長さで切断すると共に、120?140%まで自由に伸びて縮む不織布の横方向(一軸方向とは直交する方向)については通気口の幅bより少し短いdで切断し、次に、不織布の縦方向の端部を通気口の幅aの一方側端部に一致させた状態で取っ手付き磁石、鉤状フックを有する面状ファスナー、クリップ等の簡易固定具によって固定し、不織布を横方向に少し引っ張って伸ばすことにより、通気口全体を覆う」ことが示されているといえる。
オ ここで、不織布を横方向に引っ張って伸ばす力は、不織布を端部で固定している取っ手付き磁石、鉤状フックを有する面状ファスナー、クリップ等の簡易固定具が抗せられる程度のものであって、この引っ張って伸ばす力を与えられて不織布は伸びて通気口全体を覆っているから、引っ張って伸ばす力によって不織布は切断されていないことも明らかである。
カ そうすると、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載によれば上記イでいう「測定の条件」とは、上記簡易固定具が抗せられ、不織布が切断しない程度の大きさの引っ張り力を与えた時のものといえ、「一軸方向の非伸縮性」とは、この引っ張り力が与えられたときに、一軸方向で仮に縮みが生じたとしても通気口全体を覆うことに支障が生じない「伸ばすことによる縮みができる限り抑制されたもの」のことであり、「120?140%まで自由に伸びて縮」むとは、この引っ張り力によって不織布が伸び縮みする量ということができる。
キ よって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、どのような「測定の条件」のもとで「一軸方向の非伸縮性」、「120?140%まで自由に伸びて縮」むというのかについて、明らかにされおり、また、それ故に特許請求の範囲の記載は明確であるから、請求人の主張する「測定の条件」や「測定のための指針」の記載がなされていないとの理由による特許法第36条第4項及び同法同条第6項第2号に関する記載不備の無効理由1及び5によって無効とすることはできない。

2.無効理由2及び3について
(1)甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証の(1-1)には、「所定広さのフィルターで排気口を覆い、周囲をマグネットホルダーによって押さえた排気口カバーの取り付け方法」が記載されており、この記載を「排気口カバー」に着目して整理すると、「所定広さのフィルターで排気口を覆い、周囲をマグネットホルダーによって押さえて取り付けた排気口カバー」ということができる。
イ 上記アの「排気口カバー」における「排気口」とは、同(1-2)の「排気口(換気扇及びレンジフード等をいう)」との記載をみると、「レンジフードの排気口」ということができる。
ウ 甲第1号証の(1-4)の「フィルターの一例である難燃性の不織布10を鋏11等で所定長さに切断し、排気口の一例であるレンジフード12の周囲に被せ・・・・・・周囲を適当数のマグネットホルダー13によって固定する。」との記載をみると、「フィルター」とは「難燃性の不織布」ということができ、この「難燃性の不織布」を「鋏11等で所定長さに切断し、排気口の一例であるレンジフード12の周囲に被せ・・・・・・周囲を適当数のマグネットホルダー13によって固定」しているから、上記アの「所定広さのフィルターで排気口を覆」うことは、「難燃性の不織布を鋏等で所定長さに切断し排気口を覆」うことといえる。
エ そうすると、甲第1号証には、
「難燃性の不織布を鋏等で所定長さに切断しレンジフードの排気口を覆い、周囲をマグネットホルダーによって押さえて取り付けた排気口カバー。」の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されていると認める。
(2)本件訂正発明と甲第1号証発明との対比・判断
ア 本件訂正発明と甲第1号証発明とを対比する。
イ 甲第1号証発明の「排気口」、「排気口カバー」は、それぞれ、本件訂正発明の「通気口」、「通気口用フィルター部材」に相当する。
ウ-1 本件訂正発明の「幅広の不織布」とは、本件訂正特許明細書の段落【0007】に「・・・・・・本発明の一実施の形態に係る通気口用フイルター部材は、難燃性処理が行われた合成樹脂繊維からなる不織布素材10が使用されている。この不織布素材10は、通常幅広(例えば、1m×2m)となっている。・・・・・・。」と記載されているから、幅(横)方向に長い不織布といえる。
ウ-2 一方、甲第1号証発明の不織布は、「難燃性の不織布10を鋏11等で所定長さに切断」するものであり、甲第1号証の(1-6)の不織布が巻かれているという視認事項をあわせみると、切断する前の不織布は幅方向に長いもの、すなわち、「幅広」であるとみることが自然である。
ウ-3 また、甲第1号証発明では所定長さに切断した難燃性の不織布でレンジフードの排気口を覆うに当たって、不織布と排気口との間に何らかのものを介在させていないから、「排気口は不織布で直接覆っている」といえる。
そうすると、甲第1号証発明の「難燃性の不織布を鋏等で所定長さに切断しレンジフードの排気口を覆」うことは、本件訂正発明でいう「幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの通気口に合わせて切断し、切断した不織布で・・・・・・直接覆って使用する・・・・・・この不織布により前記通気口を覆うことを可能としたこと」といえる。
エ 本件訂正特許明細書の段落【0013】に「なお、不織布の周囲の固定は取っ手付き磁石15によって固定したが、鉤状フックを有する面状ファスナー、クリップ等の簡易固定具で不織布の周囲を通気口に固定する場合であっても本発明は適用される。」と記載されていることからみて、本件訂正発明は、発明特定事項として記載はないもののフィルタ部材の簡易固定具を有しており、甲第6号証発明の「マグネットホルダー」がこの簡易固定具に相当する。
オ 本件訂正発明の「仮固定」について、被請求人が口頭審理陳述要領書で主張するように、「「仮固定」という用語は不織布の片側の端部を固定し、不織布の反対側の端部を固定していない状態を示すもの」(2頁22?23行)と解すると、甲第1号証発明の「難燃性の不織布」は、本件訂正発明の「不織布として、一軸方向にのみ非伸縮性で、かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき、120?140%まで自由に伸びて縮み、難燃処理された合成樹脂繊維からなるもの」と「不織布が難燃性」である点で共通している。
カ 以上を踏まえると、両者は、
「幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの通気口に合わせて切断し、通気口を不織布で直接覆って使用する通気口用フィルター部材であって、
前記不織布として、難燃性のものを使用し、
この不織布により前記通気口を覆うことを可能とした通気口用フィルター部材。」である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点1:本件訂正発明ではレンジフードの通気口が角形であるのに対し、甲第1号証発明は排気口(通気口)を有するものの、その形状は不明である点。
相違点2:本件訂正発明では、「不織布の周囲を前記通気口に仮固定してこの通気口を不織布で直接覆って使用する」に当たり、「不織布として、一軸方向にのみ非伸縮性で、かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき、120?140%まで自由に伸びて縮み、難燃処理された合成樹脂繊維からなるものを使用し、不織布を一軸方向とは直交する方向へ伸ばして」「通気口を覆う」のに対して、甲第1号証発明では、「不織布として、難燃性のものを使用し」て排気口(通気口)を覆うものの、かかる事項を有していない点。
キ そこで、まず相違点1について検討する。
ク 排気口(通気口)の形状は、周囲から油煙等を吸い込むことができる形状であればよいから、甲第1号証発明の排気口(通気口)の形状を角形とすることは当業者であれば適宜なし得ることである。
なお、甲第1号証の第2図をみると、排気口(通気口)が角形であることを窺うことができるから、この相違点1は実質的なものでない可能性もある。
ケ 次に、相違点2について検討する。
コ 相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を整理すると、「不織布として、一軸方向にのみ非伸縮性で」あること、不織布は「一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき、自由に伸びて縮む」こと、そして、「不織布を一軸方向とは直交する方向へ伸ばして通気口を覆う」ことの3の事項を含んでいる。
このうち「不織布として、一軸方向にのみ非伸縮性で」あることは、上記「無効理由1及び5について」の検討を踏まえると、不織布として「伸ばすことによる縮みができる限り抑制された」ことということができる。
そこで、甲第2?5、7?20、24?31号証(甲第29?31号証は無効理由2及び3のために提出されたものではないが、念のため検討対象に含める。)から上記各事項が導出できるかについて、換気扇とレンジフードの違いや自由に伸びて縮む量が120?140%までであるかの検討を差し置いて以下に検討する。
サ 甲第2号証について
サ-1 甲第2号証の(2-1)の記載には、「換気扇本体の前面を覆う繰り出し自在のフィルタとして繊維の方向が一方向性で繰り出し方向と同方向の不織布により構成した」ことが開示され、この「繊維の方向が一方向性で繰り出し方向と同方向の不織布により構成した」理由として、同(2-2)によれば、「従来・・・・・・多方向性の不織布から成る関係上、引出し時の引張り力に対して弱く、ために充分に引出せないまま途中で破れ、また、換気扇の運転時の風に対しても弱くて延びを生じ、たるんで、最悪の場合送風羽根に当たり、フィルタの破損、換気扇の故障につながる」等の問題点があり、この問題点を解決しようとするためであって、同(2-3)には、「引出し時の引張り力によるフィルタの破れが阻止され、運転時の風の流れに対してはその伸びを阻止する」旨が記載されている。
サ-2 そうすると、甲第2号証には、「フィルタとして繊維の方向が一方向性で繰り出し方向と同方向の不織布により構成したことにより、引出し時の引張り力に対して破れが阻止され」ること、及び「運転時の風の流れに対して延びのない若しくは極く少ないためたるみが生じない」ことが開示されている。
そこで検討すると、「引出し時の引張り力に対して破れが阻止され」ることは、繊維の方向を揃えたことで不織布の強度が向上したことによっても達成できるから、このことをもって、引出し時の引張り方向に不織布が延びて縮むことが直ちに導出できないし、「運転時の風の流れに対して延びのない若しくは極く少ないためたるみが生じない」ことからは、不織布が特定の方向に対して延びる・延びないということは断言できず、むしろ、すべての方向に延びないと見ることもでき、甲第2号証に記載の不織布が「一軸方向のみに非伸縮性を有する」ものであるとは直ちにいえない。
サ-3 なお、請求人は、甲第2号証に記載の「繊維の方向が一方向性で繰り出し方向と同方向の不織布」は「一軸方向のみに非伸縮性」で「一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき、自由に伸びて縮む」不織布である旨を主張しているので、検討する。
甲第2号証の(2-4)の「上記換気扇本体1の前面には、上部ロール支持体8及び下部ロール支持体9を・・・・・・設けており、そのうちの上部ロール支持体8に、フィルタ10を巻回したロール11を、そのフィルタ10が下方に繰り出し自在となるように回転可能に装架している。・・・・・・。又、下部ロール支持体9には巻き取りロール12を同じく回転可能且つ着脱可能に装架していて、この巻取りロール12に、ロール11から下方に引出したフィルタ10を巻取らせるようにしている。
・・・・・・
・・・・・・フィルタ10は徐々に汚れ、やがて交換の必要な時期に至る。そこで、本実施例の場合、油受け14を取外して巻取りロール12を回転させることにより、該フィルタ10の新規な部分がそのロール11を回転させながら引出され、従って換気扇本体1の前面はそのフィルタ10の新規な部分によって覆われるようになる。」との記載をみると、不織布を伸ばすために不織布を引張っている、すなわち、不織布を引張って「伸ばした状態にする」ことはなされておらず、さらに、不織布が「伸びて縮む」ことも示されておらず、上記の仮定をおいても、「不織布を一軸方向とは直交する方向へ伸ばして通気口を覆う」という技術思想は甲第2号証には開示されていない。
サ-4 よって、甲第2号証から、上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
シ 甲第3号証について
シ-1 甲第3号は、その記載(3-1)の請求項2に係る記載を独立形式に改めてみると、「換気扇本体の開口を塞ぐに十分な所定寸法となり得るように形成したフィルター膜の少なくとも相対両端二辺部分に止着具を固着し、上記フィルター膜を使用時に延伸可能なように長手方向乃至短手方向に蛇腹状に圧縮形成したことを特徴とする換気扇用フィルター。」となり、このフィルター膜として、同(3-3)には、「不織布シート」である旨が記載されおり、また、同(3-4)には、長手方向両端部を持って網部を外側から被覆しつつ長手方向に拡開させて幅を調節し、換気扇本体に装着させることが記載されているから、「一軸方向にのみ延伸可能な不織布シートを用いた換気扇用フィルターを延伸する方向に伸ばして使用すること」が記載されているとみることができる。しかし、延伸は不織布シート自体を伸ばしているのではなく、蛇腹を拡開させて生じるものであるから、甲第3号証は、換気扇フィルターとして用いられている不織布シート自体が一軸方向のみに伸縮性を有していることを直ちに開示していない。
シ-2 そして、同(3-2)に「上記フィルター膜は、使用時に延伸可能なように長手方向乃至短手方向に蛇腹状に圧縮形成したものとするのが好ましく、長時間の使用によって弛みが生じないように補強することができる」との記載をみると、フィルター膜は蛇腹状に圧縮形成したことにより、弛みが生じないように補強しているから、フィルター膜に弛みが生じないように不織布自体が「自由に伸びて縮む」必要がないといえる。
シ-3 よって、甲第3号証は、少なくとも、不織布が「一軸方向のみに伸縮性を有していること」や、「自由に伸びて縮む」という技術思想を開示しておらず、甲第3号証から、上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
ス 甲第4号証について
ス-1 甲第4号証には、その記載(4-3)に「両方向に引張られたような状態で装着されている・・・・・・図5に示すような形状のフィルター21では中央部分の幅が両端に比べて片側でA寸法だけ狭くなる。」と従来技術の問題点が記載され、また、実施例に関する、同(4-4)に「フィルター部材9は図1に示すように中央部分が両端に比べて片側でA寸法だけ幅広く形成されているために、装着において左右に引張った状態でも従来のように中央部分が狭くなり、開口2全体を防ぐことができないということはない。」と記載されている。これらの記載からすると、甲第4号証では、前記従来技術の問題点を解決するための「換気扇用フィルター部材」は、左右に引っ張った状態でも従来のように中央部分が狭くなり、開口全体を防ぐことができないことが生じないように、予め中央部分が両端に比べて片側でA寸法だけ幅広く形成しておくものであるから、使用する不織布は直交する2つの軸方向においてともに伸縮性を有した不織布を用いるということが前提であるといえる。
ス-2 そうすると、甲第4号証は、少なくとも「伸ばしたときに一軸方向に縮みができる限り抑制された不織布」という技術思想を開示しておらず、甲第4号証から、上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
セ 甲第5号証について
セ-1 甲第5号証には、不織布に関し、その記載(5-2)に「若干小さいシート状フィルターを伸ばした状態で取り付けできる」との記載があるから、当該フィルターは少なくとも一軸方向への伸縮性を有しているといえるものの、この軸と直交する方向についての伸縮性についての記載はない。
セ-2 ところで、甲第5号証には、その記載(5-1)に、「シート状フィルター2が油煙の吸着で重くなっても、シート状フィルターに弛みや垂れ下がりが発生し難いものとなる」ことが記載されている。しかし、この記載に係る弛みや垂れ下がりは、テープ材3cの係止爪がシート状フィルターに食い込み状態で係止されることに関連して生じるものであって、シート状フィルターが油煙の吸着で重くなったために、その自由端部がずれて発生する弛みや垂れ下がりを防止していると解される。よって、弛みや垂れ下がりが防止されるとの効果は、シート状フィルターの伸縮性の有無あるいは、伸縮の方向性により得られるものではない。
セ-3 よって、甲第5号証には、レンジフード用フィルターとして用いられている不織布に関して、「伸ばすことによる縮みができる限り抑制された」ものを使用することは開示しておらず、甲第5号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
ソ 甲第7号証について
ソ-1 甲第7号証の(7-1)には、「フィルタに好適」である不織布が記載されているものの、この記載から、この不織布をレンジフードの通気口用に用いるという動機付けを直ちに得るとはいえない。
ソ-2 仮に、この不織布をレンジフードの通気口用に用いることが動機づけられたとしても、同(7-2)には、この不織布がタテ及びヨコ方向に伸びることが記載されており、甲第7号証に記載された不織布は、「一軸方向にのみ非伸縮性」であるとはいえないし、さらに「不織布を一軸方向とは直交する方向へ伸ばして通気口を覆う」ことを導出するものも甲第7号証には見当たらない。
ソ-3 そうすると、甲第7号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
タ 甲第8号証について
タ-1 甲第8号証の(8-1)には、「フィルター材」に用いられる不織布が記載されているが、この記載から、この不織布をレンジフードの通気口用に用いるという動機付けを直ちに得るとはいえない。
タ-2 仮に、この不織布をレンジフードの通気口用に用いることが動機づけられたとしても、同(8-3)には、この不織布が縦方向及び横方向に伸びることが記載されており、甲第8号証に記載された不織布は、「一軸方向にのみ非伸縮性」であるとはいえないし、さらに「不織布を一軸方向とは直交する方向へ伸ばして通気口を覆う」ことを導出するものも甲第8号証には見当たらない。
タ-3 そうすると、甲第8号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
チ 甲第9号証について
チ-1 甲第9号証の(9-3)には、「一般工業用各種フィルター」に用いられる不織布が記載されているが、この記載から、この不織布をレンジフードの通気口用に用いるという動機付けを直ちに得るとはいえない。
チ-2 仮に、この不織布をレンジフードの通気口用に用いることが動機づけられたとしても、同(9-2)には、この不織布は縦方向及び横方向に伸びることが示されており、甲第9号証に記載された不織布は、「一軸方向にのみ非伸縮性」であるとはいえないし、さらに「不織布を一軸方向とは直交する方向へ伸ばして通気口を覆う」ことを導出するものも甲第9号証には見当たらない。
チ-3 そうすると、甲第9号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
ツ 甲第10号証について
ツ-1 甲第10号証の(10-1)には、「オイルミストフィルター、油分中の水分または水分中の油分を分離するための油水分離フィルター等の用途に適した」耐炎繊維不織布が記載されているが、この記載から、この不織布をレンジフードの通気口用に用いるという動機付けを直ちに得るとはいえない。
ツ-2 仮に、この不織布をレンジフードの通気口用に用いることが動機づけられたとしても、同(10-3)には、この不織布がタテ及びヨコ方向に伸びることが記載されており、甲第10号証に記載された不織布は、「一軸方向にのみ非伸縮性」であるとはいえないし、さらに「不織布を一軸方向とは直交する方向へ伸ばして通気口を覆う」ことを導出するものも甲第10号証には見当たらない。
ツ-3 そうすると、甲第10号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
テ 甲第11号証について
テ-1 甲第11号証の(11-2)には、タテ及びヨコ方向に伸びる不織布が記載されているから、この不織布は「一軸方向にのみ非伸縮性」であるとはいえないし、この不織布をレンジフードの通気口用に用いるという動機付けを与える記載も見当たらない。
テ-2 そうすると、甲第11号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
ト 甲第12号証について
ト-1 甲第12号証の(12-1)には、縦及び横方向に伸びる不織布が記載されているから、この不織布は「一軸方向にのみ非伸縮性」であるとはいえないし、この不織布をレンジフードの通気口用に用いるという動機付けを与える記載も見当たらない。
テ-2 そうすると、甲第12号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
ナ 甲第13号証について
ナ-1 甲第13号証の(13-1)には、「集塵装置に使用されるバグフィルター等のろ布」に用いる不織布が記載されているが、この記載から、この不織布をレンジフードの通気口用に用いるという動機付けを直ちに得るとはいえない。
ナ-2 仮に、この不織布をレンジフードの通気口用に用いることが動機づけられたとしても、同(13-2)には、この不織布がタテ及びヨコ方向に伸びることが記載されており、甲第13号証に記載された不織布は、引張伸度がタテとヨコで違いがあるものの「一軸方向にのみ非伸縮性」であるとはいえないし、さらに「不織布を一軸方向とは直交する方向へ伸ばして通気口を覆う」ことを導出するものも甲第13号証には見当たらない。
ナ-3 そうすると、甲第13号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
ニ 甲第14号証について
ニ-1 甲第14号証の(14-2)には、MD及びCDに伸びる不織布が記載されているから、この不織布は「一軸方向にのみ非伸縮性」であるとはいえないし、この不織布をレンジフードの通気口用に用いるという動機付けを与える記載も見当たらない。
ニ-2 そうすると、甲第14号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
ヌ 甲第15号証について
ヌ-1 甲第15号証の(15-2)には、MD及びTDに伸びる不織布が記載されているから、この不織布は「一軸方向にのみ非伸縮性」であるとはいえないし、この不織布をレンジフードの通気口用に用いるという動機付けを与える記載すら見当たらない。
ヌ-2 そうすると、甲第15号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
ネ 甲第16号証について
ネ-1 甲第16号証の(16-1)及び(16-3)には、「フィルター等の産業用資材」に用いる不織布が記載されているが、この記載から、この不織布をレンジフードの通気口用に用いるという動機付けを直ちに得るとはいえない。
ネ-2 仮に、この動機付けが得られたとしても、複数個記載された実施例及び比較例の中から実施例5や6のような縦/横の引っ張り伸びの大きく異なる不織布に着目して、この不織布をレンジフードを覆うフィルターに用いることを教示するものは見当たらない。
ネ-3 そうすると、甲第16号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
ノ 甲第17号証について
ノ-1 甲第17号証の(17-1)には、「フィルター」として利用できる不織布が、同(17-3)には、この不織布の伸度がタテとヨコでは違いがあることが、それぞれ、記載されているが、これらの記載から、この伸度がタテとヨコでは違いがある不織布をレンジフードの通気口用に用いるという動機付けを直ちに得るとはいえないし、さらに「不織布を一軸方向とは直交する方向へ伸ばして通気口を覆う」ことを導出するものも甲第17号証には見当たらない。
ノ-2 そうすると、甲第17号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
ハ 甲第18号証について
ハ-1 甲第18号証は、その(18-1)によれば、「特に感熱性孔版印刷用原紙の支持体用途に適するメルトブロー不織布およびその製造方法に関する」発明であって、レンジフードの通気口用のフィルター部材として使用することは開示されていない。
ハ-2 すなわち、甲第18号証の記載(18-6)には、実施例5の不織布について、「フィルター用途、ワイパー用途等の産業資材用途に適したものである」と記載がされているが、同(18-7)によれば、実施例5の不織布は、伸度が縦14%、横17%であって、「伸ばすことによる縮みができる限り抑制された」ものとはいえない。
ハ-3 また、同比較例2は、伸度が縦20%、横153%、比較例13は、伸度が、縦7%、横91%で、一軸方向への伸縮性が大きい不織布ではある((18-5)の記載も参照。)。しかし、比較例2、13の強力比は、それぞれ、6.0、4.2とされており、同(18-3)には、強力比について、「0.5?4である必要がある」とされていることからすれば、甲第18号証には比較例2、13の不織布について何らかの用途に用いることは示されていない。
ハ-4 なお、同(18-2)には、「メルトブロー不織布は・・・・・・低配向度に起因する低強力および高伸度のため、その適用範囲はフィルター・・・・・・等の狭いものに限られている。・・・・・・本発明の目的は、メルトブローブロー不織布の用途を拡大するため、さらなる細繊度、良好な均一性等の特徴を有しながら熱安定性に優れ、測定方向によらず高強力なメルトブロー不織布およびその製造方法を提供することにある。」と記載されており、メルトブロー不織布はフィルターに使用されていたことを示す一般的な記載があるが、この記載から、複数個記載された実施例及び比較例の中から比較例2、13に着目して、比較例2、13の不織布をレンジフードの通気口用に用いることを教示するものは何ら見当たらないし、これら不織布を伸ばして使うことを直ちに導き出すことはできない。
ハ-5 そうすると、甲第18号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない
ヒ 甲第19号証について
ヒ-1 甲第19号証には、その(19-1)に「MD方向にはほとんど伸縮性を示さないが、CD方向には大きい伸縮性を示」す不織布が記載されている。しかし、この不織布をレンジフードの通気口用に用いるという動機付けを与える記載は見当たらない。
ヒ-2 そうすると、甲第19号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
フ 甲第20号証について
フ-1 甲第20号証には、その(20-1)によれば「バルキー不織布」に関し、同(20-2)によると、「従来公知のループ付き布帛の有する問題点を解消して立体感があって嵩高であり、ループ状態の繊維が抜けることなく且つ使用中における耐久力の優れたバルキー性不織布とその製造方法を提供することを目的とする」ものであって、その実施例として(20-3)によれば、「伸度が、タテが9.2%、ヨコが116%である」ものが記載されているが、この不織布をレンジフードを覆うフィルターに用いることを教示するものは何ら見当たらない。
フ-2 そうすると、甲第20号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
ヘ 甲第24号証について
ヘ-1 甲第24号証には、その(24-1)及び(24-2)に、レンジフードのフィルタ部材として難燃性の不織布を用いることが記載されているが、この不織布が、「一軸方向にのみ非伸縮性」であること、「一軸方向とは直交する方向へ不織布が自由に伸びて縮む」こと、そして、この「不織布を一軸方向とは直交する方向へ伸ばして通気口を覆う」ことのいずれをも導出する記載は見当たらない。
ヘ-2 そうすると、甲第24号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
ホ 甲第25号証について
ホ-1 甲第25号証には、その(25-1)及び(25-2)によれば、レンジフードのフィルタ部材として難燃性の不織布を用いることが記載されているが、この不織布が、「一軸方向にのみ非伸縮性」であること、「一軸方向とは直交する方向へ不織布が自由に伸びて縮む」こと、そして、この「不織布を一軸方向とは直交する方向へ伸ばして通気口を覆う」ことのいずれをも導出する記載は見当たらない。
ホ-2 そうすると、甲第25号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
マ 甲第26号証について
マ-1 甲第26号証には、その(26-1)及び(26-2)に、レンジフードのフィルタ部材として「難燃性または不燃性の不織布」を用いることが記載されているが、この不織布が、「一軸方向にのみ非伸縮性」であること、「一軸方向とは直交する方向へ不織布が自由に伸びて縮む」こと、そして、この「不織布を一軸方向とは直交する方向へ伸ばして通気口を覆う」ことのいずれをも導出する記載は見当たらない。
マ-2 そうすると、甲第26号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
ミ 甲第27号証について
ミ-1 甲第27号証には、その(27-1)に「一軸方向において自然伸張状態から弾性的に強制伸張させて、その目を大きくできるように構成してある」フィルタが記載されているが、このフィルタをレンジフードの通気口用に用いるという動機付けを得る記載は見当たらないし、仮に、レンジフードの通気口用に用いるという動機付けを得たとしても、「不織布を伸ばして通気口を覆う」ことを導出するものは甲第27号証には見当たらない。
そうすると、甲第27号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
ム 甲第28号証について
ム-1 甲第28号証には、その(28-2)に「伸長した際のその復元力、即ち戻り力をレンジフード本体ヘの取付力として利用する」フィルタが記載されているが、このフィルタは同(28-1)の記載から明らかなように「金属製の細線を編組して成形したメッシュフイルタ」であって不織布のフィルタではなく、不織布のフィルタをレンジフードの通気口用フィルタとして用いる動機付けとなる記載は見当たらない。
ム-2 そうすると、甲第28号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
メ 甲第29号証について
甲第29号証は、その(29-1)及び(29-2)に記載されているように、試験法に関する記載があるのみだから、上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
モ 甲第30号証について
モ-1 甲第30号証には、その(30-1)をみると「おむつ、成人用おむつ、生理用ナプキン、タンポン、ふきん等の使い捨て吸収性物品、及び、外科用手術着、靴カバー、作業着等の使い捨て物品の製造に有用な不織布」が記載されているといえるが、この不織布をレンジフードの通気口用に用いることは何ら教示されていない。
モ-2 そうすると、甲第30号証の記載に基づいて上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
ヤ 甲第31号証について
甲第31号証には、その(31-1)をみると「ろ過材料」が記載されているが、この「ろ過材料」をレンジフードの通気口用に用いるという動機付けを得る記載は見当たらないから、上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
ヰ よって、甲第2?5、7?20、24?31号証のそれぞれから、上記相違点2に係る本件訂正発明の発明特定事項を導出することはできない。
そして、仮に、これら甲号証を組み合わせたとしても、この発明特定事項を導き出すことはできない。
ユ してみれば、本件訂正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。

3.無効理由4について
(1)甲第6号証に記載された発明
ア 甲第6号証の(6-1)の記載を「シート状フィルタ」に着目して書き改めると、「フィルタ吸込み防止部材とは分離して準備された可撓性を有するシート状フィルタであって、換気扇の前面部に取付けた上記フィルタ吸込み防止部材の前面に沿わせてから、上記換気扇に取付けたフィルタ取付手段に取付け保持させた、シート状フィルタ」ということができる。
イ この「シート状フィルタ」は、同(6-4)の「フィルタ2のサイズが換気扇4のサイズと正確に一致しない場合がある。しかし、この場合には、上記フィルタ2を切断したり」との記載によれば、「切断して換気扇のサイズに正確に一致させる」ものである。
ウ 同(6-2)の記載から、「フィルタ取付手段」は「フィルタと着脱自在な面ファスナテープ」といえ、上記アの「換気扇の前面部に取付けた上記フィルタ吸込み防止部材の前面に沿わせてから、上記換気扇に取付けたフィルタ取付手段に取付け保持させ」るとは、同(6-4)及び(6-7)からみて、「一方の面ファスナーテープにフィルタの左端部を着脱自在に接着し、換気扇の前面部に取付けた上記フィルタ吸込み防止部材の前面に沿わせ、他方の面ファスナーテープにフィルタの右端部を着脱自在に接着させる」ということができる。
エ また、同(6-4)の「上記フィルタ2は、縦横の幅方向に伸縮性を有しているために、このフィルタ2を伸長し、緊張させた状態でフィルタ吸込み防止部材1に沿わせることができる。したがって、上記フィルタ2を皺などの少ない美麗な状態に仕上げることができる。」との記載をみると、フィルタは「縦横の幅方向に伸縮性を有し」、「伸長し、緊張させた状態でフィルタ吸込み防止部材の前面に沿わせ」て「皺などの少ない美麗な状態に仕上げることができる」といえるが、同(6-3)には、「上記フィルタは、その縦横の幅方向の少なくともいずれかの方向に伸縮性を有している構成とすることもできる。」とも記載されており、「縦横の幅方向にいずれか一方のみに伸縮性を有している」場合、すなわち、「横幅方向にのみ伸縮性を有しその直角方向である縦幅方向に伸縮性を有しない」場合であってもよいといえる。
オ 同(6-4)フィルターは「難燃性のガラス繊維製」であるが、同(6-5)には「フィルタ2は、ガラス繊維製のものに限らず、たとえば不織布製などのものでもよく」と記載されているから、「不織布製」ということができる。
カ 以上を踏まえると、甲第6号証には、
「フィルタ吸込み防止部材とは分離して準備され、かつ切断して換気扇のサイズに正確に一致させた、横幅方向にのみ伸縮性を有しその直角方向である縦幅方向に伸縮性を有しない可撓性を有する不織布製シート状フィルタであって、一方の面ファスナーテープにフィルタの左端部を着脱自在に接着し、換気扇の前面部に取付けた上記フィルタ吸込み防止部材の前面に伸長し緊張させた状態で沿わせてから、他方の面ファスナーテープにフィルタの右端部を着脱自在に接着させ、皺などの少ない美麗な状態に仕上げることができる不織布製シート状フィルタ」の発明(以下、「甲第6号証発明」という。)が記載されていると認められる。
(2)本件訂正発明と甲第6号証発明との対比・判断
ア 本件訂正発明と甲第6号証発明とを対比する。
イ 甲第6号証発明の「切断して換気扇のサイズに正確に一致させた・・・・・・シート不織布製状フィルタ」は、本件補正発明の「幅広の不織布を・・・・・・切断した不織布」と「切断した不織布」である点で共通している。
ウ 本件訂正明細書の発明の詳細な説明の「不織布の周囲の固定は取っ手付き磁石15によって固定したが、鉤状フックを有する面状ファスナー、クリップ等の簡易固定具で不織布の周囲を通気口に固定する場合であっても本発明は適用される。」(段落【0013】)との記載をみると、本件訂正発明は、発明特定事項として記載はないもののフィルタ部材の簡易固定具を有しており、甲第6号証発明の「面ファスナーテープ」がこの簡易固定具に相当する。
そして、被請求人が口頭審理陳述要領書で主張するように、「「仮固定」という用語は不織布の片側の端部を固定し、不織布の反対側の端部を固定していない状態を示すもの」(2頁22?23行)と解すると、甲第6号証発明において、「一方の面ファスナーテープにフィルタの左端部を着脱自在に接着し、換気扇の前面部に取付けた上記フィルタ吸込み防止部材の前面に伸長し緊張させた状態で沿わせて」いる状態は、本件訂正発明の「仮固定」に相当する。
エ 甲第6号証発明のフィルタにおいて、縦幅方向に伸縮性を有しないことが、横幅方向に引っ張り力が与えられたときに、縮みができる限り抑制されたことと仮定すると、「横幅方向にのみ伸縮性を有しその直角方向である縦幅方向に伸縮性を有しない可撓性を有する」ことは、本件訂正発明の「一軸方向にのみ非伸縮性で、かつ該一軸方向とは直交する方向では自由に伸びて縮」むということができる。
オ 甲第6号証発明の「不織布製シート状フィルタ」は、甲第6号証の(6-5)によれば、「難燃性ガラス繊維製」のものと置き換えができるものであるから、明言されていないが、難燃性のもの(難燃処理されたもの)であって、合成樹脂繊維からなるものを含むことは明らかであり、本件訂正発明のフィルタ部材と「不織布として・・・・・・難燃処理された合成樹脂繊維からなるもの」である点で共通している。
カ 甲第6号証発明の「不織布製シート状フィルタ」は、換気扇の吸込み口、すなわち、通気口を覆っていることは明らかであるから、「通気口用フィルター部材」ということができる。
キ そうすると、両者は、
「不織布を切断し、切断した不織布の周囲を仮固定して使用する通気口用フイルター部材であって、
前記不織布として、一軸方向にのみ非伸縮性で、かつ該一軸方向とは直交する方向へ伸ばした状態で仮固定して使用したとき、自由に伸びて縮み、難燃処理された合成樹脂繊維からなるものを使用し、
前記不織布を前記一軸方向とは直交する方向へ伸ばして、この不織布により前記通気口を覆うことを可能とした通気口用フイルター部材。」である点で一致し、次の点で相違している。
相違点3:不織布の切断に際し、本件訂正発明は、「幅広の不織布を取り付けようとするレンジフードの角形の通気口に合わせて切断」するものであるのに対し、甲第6号証発明は、「換気扇のサイズに正確に一致させ」ている点
相違点4:通気口用フイルター部材に関し、本件訂正発明は、「通気口を不織布で直接覆って使用する」ものであるのに対し、甲第6号証発明は、「換気扇の前面部に取付けた上記フィルタ吸込み防止部材の前面に伸長し緊張させた状態で沿わせて」いる点
相違点5:自由に伸びて縮む量について、本件訂正発明は、120?140%であるのに対し、甲第6号証発明は、量について特定がない点
ケ これら相違点について検討する。
コ 相違点3について
甲第6号証発明において切断する前の不織布は、換気扇のサイズよりも大きければよく、その形状は幅広でなくてもよいから、甲第6号証発明の切断する前の不織布の形状が幅広であるとは直ちにいえない。
また、甲第6号証発明の「換気扇のサイズに正確に一致させ」て切断することは、換気扇とレンジフードとの違いを差し置いても、吸込み口、すなわち、通気口に合わせて切断することではなく、通気口よりも大きな形状で切断することであるから、本件訂正発明の「レンジフードの角形の通気口に合わせて切断」することとは同じであるとはいえない。
サ 相違点4について
甲第6号証の(6-4)の「また、上記フィルタ2は、縦横の幅方向に伸縮性を有しているために、このフィルタ2を伸長し、緊張させた状態でフィルタ吸込み防止部材1に沿わせることができる。・・・・・・。また、フィルタ2が換気扇4の吸込み口40に巻き込まれ易くなるといったことも適切に防止し、または抑制できることとなる。」との記載をみると、甲第6号証発明において「フィルタ吸込み防止部材」は不可欠なものでこれをなくすという思想はなく、甲第6号証発明は、吸い込み口、すなわち、通気口を不織布で直接覆うことはない。
シ 相違点5について
甲第6号証発明の「伸縮性を有している」不織布は、「皺などの少ない美麗な状態に仕上げることができる」ものであるものの、伸縮量、すなわち、自由に伸びて縮む量が120?140%であるとは直ちにいえない。
セ よって、上記相違点3?5は何れも実質的なものであり、本件訂正発明は、甲第6号証に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書、図面に記載された発明と同一であるとはいえないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。

第6.むすび
以上のとおり、訂正審判によって訂正された本件請求項1に係る発明についての特許は、請求人の主張する理由によっては、無効とすることができない。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-10 
結審通知日 2013-05-15 
審決日 2013-06-05 
出願番号 特願平8-287613
審決分類 P 1 113・ 16- Y (B01D)
P 1 113・ 536- Y (B01D)
P 1 113・ 121- Y (B01D)
P 1 113・ 537- Y (B01D)
P 1 113・ 113- Y (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大黒 浩之  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 小川 進
真々田 忠博
吉水 純子
大橋 賢一
登録日 1998-06-19 
登録番号 特許第2791553号(P2791553)
発明の名称 通気口用フイルター部材  
代理人 山崎 裕史  
代理人 安倍 逸郎  
代理人 藤井 淳  

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