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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K |
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管理番号 | 1290134 |
審判番号 | 不服2010-25603 |
総通号数 | 177 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-09-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-11-15 |
確定日 | 2014-07-23 |
事件の表示 | 特願2005-505078「若白髪に関与する染色体6及び9の遺伝子」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月22日国際公開、WO2004/007742、平成17年10月27日国内公表、特表2005-532411〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成15年7月9日(パリ条約による優先権主張、2002年7月10日、2003年4月8日、フランス)を国際出願日とする出願であって、平成22年6月17日付けで拒絶査定された。その後、同年11月15日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同時に手続補正書が提出され、平成25年5月14日付けで平成22年11月15日付けの手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶理由が通知され、これに応答して、同年11月20日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 そして、本願の請求項1?11に係る発明は、平成25年11月20日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「白髪処理における美容又は治療目的のための薬剤を同定するための、ポリヌクレオチド断片の機能を調節することができる分子のスクリーニング方法であって、前記断片がヒト染色体9上の遺伝子の全て又は一部に配列が対応する少なくとも18の連続するヌクレオチド配列を含み、前記遺伝子がSNP418620が位置するDDX31遺伝子であり、 -試験される分子を前記ポリヌクレオチド断片の存在下に置く工程、 -前記断片の発現レベルを検出する工程、及び -次に前記試験分子の存在下で検出された発現レベルと前記試験分子の非存在下でのレベルを比較する工程を含んでなり、 前記試験分子の存在下での前記ポリペプチド断片の増大した発現レベルは前記試験分子が白髪における治療効果を有することを示すものである、方法。」 2.当審の拒絶理由 平成25年5月14日付けで通知された拒絶理由の理由1及び2は、本願は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり、以下の点を指摘している。 発明の詳細な説明の記載からは、請求項1?13に記載されたスクリーニング方法によって選別した分子が白髪を抑止しえるものであるか否かを当業者が把握することができないから、請求項1?13に記載されたスクリーニング方法によって当業者が白髪処理における美容又は治療目的のための薬剤を同定することはできないと認められるし、上記の事項が本願の出願時の技術常識から当業者に認識できる事項であることを示す文献等も見あたらない。 よって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1?13に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえないし、かつ、請求項1?13に係る発明は、発明の詳細な説明においてその課題(白髪処理における美容又は治療目的のための薬剤の同定)が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、請求項1?13に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 3.当審の判断 a.特許法第36条第4項第1号 (1)本願発明 本願発明は、その記載からみて、「白髪処理における美容又は治療目的のための薬剤を同定するための、ポリヌクレオチド断片の機能を調節することができる分子のスクリーニング方法」の発明であり、上記「ポリヌクレオチド断片」は、「ヒト染色体9上の遺伝子の全て又は一部に配列が対応する少なくとも18の連続するヌクレオチド配列」を含み、上記遺伝子は、「SNP418620が位置するDDX31遺伝子」であり、加えて、上記スクリーニング方法は、「前記試験分子の存在下での前記ポリペプチド断片の増大した発現レベルは前記試験分子が白髪における治療効果を有することを示すものである、方法。」である。 ところで、特許請求の範囲の請求項1には、上記のように「前記試験分子の存在下での前記ポリペプチド断片の増大した発現レベルは前記試験分子が白髪における治療効果を有することを示すものである、方法。」と記載されている。 しかし、請求項1の当該記載より前に「ポリペプチド断片」なる記載はないし、請求項1中に、ポリペプチド断片の発現レベルを検出する等の工程の記載はない。一方、請求項1には、「-試験される分子を前記ポリヌクレオチド断片の存在下に置く工程、-前記断片の発現レベルを検出する工程、及び-次に前記試験分子の存在下で検出された発現レベルと前記試験分子の非存在下でのレベルを比較する工程を含んでなり、」との記載があり、請求項1に記載された本願発明のスクリーニング方法が、ポリヌクレオチド断片の発現レベルを検出し比較する工程を含むものであることは明らかである。そうすると、上記「前記ポリペプチド断片の増大した発現レベル」なる記載は、本来、「前記ポリヌクレオチド断片の増大した発現レベル」を意味するものであると解するのが相当であるといえる。 よって、本願発明のスクリーニング方法は、「前記試験分子の存在下での前記ポリヌクレオチド断片の増大した発現レベルは前記試験分子が白髪における治療効果を有することを示すものである、方法。」であるとして、以下検討を続ける。 上記のことから、本願発明は、白髪処理における美容又は治療目的のための薬剤を同定するための、ヒト染色体9上のSNP418620が位置するDDX31遺伝子の全て又は一部に配列が対応する少なくとも18の連続するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド断片(以下、単に「DDX31遺伝子対応ポリヌクレオチド断片」ともいう。)の機能を調節することができる分子であり、かつ、当該断片の増大した発現レベルをもたらす分子のスクリーニング方法の発明であるといえる。 (2)特許法第36条第4項第1号に規定する要件について 本願明細書の発明の詳細な説明が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすためには、発明の詳細な説明の記載が、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえなければならない。 本願発明は、(1)にて説示したとおりの「白髪処理における美容又は治療目的のための薬剤を同定するための、DDX31遺伝子対応ポリヌクレオチド断片の機能を調節することができる分子であり、かつ、当該断片の増大した発現レベルをもたらす分子のスクリーニング方法」の発明であるから、特許法第2条第3項第2号にいう方法の発明であって、その実施とは、その方法を使用する行為をいう。 そして、本願発明の方法を使用するとは、白髪処理における美容又は治療目的のための薬剤を同定するために本願発明のスクリーニング方法を使用することに他ならないが、そのような使用は、本願発明のスクリーニング方法によって白髪処理における美容又は治療目的のための薬剤が同定できることを当業者が認識できることによって、はじめて可能になるものであり、そして、そのためには、本願発明のスクリーニング手段で選別される、「DDX31遺伝子対応ポリヌクレオチド断片の機能を調節することができる分子であり、かつ、当該断片の増大した発現レベルをもたらす分子」が、「白髪処理における美容又は治療目的」に使用できることを当業者が理解できるように、両者の関連が示されなければならない。 よって、発明の詳細な説明の記載が、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるためには、本件出願時の技術常識から、上記分子が上記目的に使用できるものであることを当業者が認識し得る場合を除き、発明の詳細な説明に、少なくとも、「DDX31遺伝子対応ポリヌクレオチド断片の機能を調節することができる分子であり、かつ、当該断片の増大した発現レベルをもたらす分子」が、「白髪処理における美容又は治療目的」に使用できるものであることを当業者が認識し得るに足る記載がなされている必要がある。 (3)DDX31遺伝子に関する記載 そこでまず、発明の詳細な説明のDDX31遺伝子に関する記載を検討すると、発明の詳細な説明には、以下の(ア)?(オ)の記載がある。 (ア)「第二の側面では、本発明は、本発明者等が若白髪に関与しているとして同定したヒト染色体9上の遺伝子FREQ (フレクエニン(frequenin) ホモログ), NT_030046.18, NT_030046.17, GTF3C5 (一般的な転写因子 IIIC, ポリペプチド5), CEL (カルボキシルエステルリパーゼ胆汁塩-刺激), CELL (カルボキシエステルリパーゼ様胆汁塩-刺激), FS (フォルスマンシンテターゼ), ABO 血液群 (トタンスフェラーゼ A, アルファ), BARHL1, DDX31, GTF3C4 及びQ96MA6、及び上記遺伝子から取り出された産物、例えば転写又は発現産物の使用に関する。これらの遺伝子はマイクロサテライトマーカーD9S290及びテロメア領域(長腕テロメア)によって染色体9上に画成された本発明の第二の染色体ゾーンに属する。特にこのゾーンは「本発明の第二の染色体ゾーン」と称す。 本発明の第2の染色体ゾーンにある上述した遺伝子のうち好ましい遺伝子は、遺伝子BARHL1, DDX31, GTF3C4 及び Q96MA6である。特に好ましい遺伝子は、DDX31及びGTF3C4である。」(段落0022?段落0023) (イ)「本発明の場合に考えられる化粧品又は治療薬における第一の用途は、・・・ヒト染色体9上にある遺伝子の一つ、又は・・・ヒト染色体6上にある遺伝子の一つに、少なくとも部分的に対応する配列のポリヌクレオチド断片を使用することである。・・・ 前記本発明の第一の用途において、染色体9上にある好ましい遺伝子は、BARHL1, DDX31, GTF3C4 及び Q96MA6、特に遺伝子DDX31 及び GTF3C4である。」(段落0040?段落0041) (ウ)「治療及び化粧品の分野の本発明によって考えられる第二の用途では、本発明において特定された遺伝子の一つ少なくとも部分的に対応するDNA断片の機能を調節する薬剤が使用される。・・・ 本発明の第二の使用において、染色体9上の好ましい遺伝子は、BARHL1, DDX31, GTF3C4及び Q96MA6、特にDDX31 及びGTF3C4遺伝子ある。 ・・・ また、本発明の薬剤は、ヒト染色体9上にある、好ましくはDDX31 又はGTF3C4等の、本発明の12の遺伝子の一つの調節領域に結合するエンハンサー又はインヒビターである。」(段落0048?段落0053) (エ)「5- 検討及び結論 形質が一遺伝子的であるか又は多因子的(Lander及びKruglyak, 1995)であると考えられるかどうかに応じて有意か又は有意性の境界にあった二つのスコアが染色体6p21-p12 (NPL MP Z-all=3.59) 及び9q31-q32 (NPL MP Z-all=3.37)に対して観察された。 ・・・ D- 検討と一般的な結論 様々な解析期間の後、数種の染色体領域が同定され又は示唆された。 領域6p21-p12(図4Aを参照)には、PC形質に対する遺伝子連鎖のための最良のコンセンサスが記録された。パラメトリック及びノンパラメトリック解析との間の不一致により、白髪の病態生理学における遺伝子又は遺伝子群の役割の重要性に関し、ある程度の不確定性が生じた。 第二の遺伝子座は、ほとんどが有意である(Z-all=3.37)であるNPLスコアを伴う、染色体9q31-q32上にある。 ・・・ a- 染色体6p21-p21 ・・・ b- 染色体9q34 本発明者はD9S290マーカー上にZ-allスコア2.5を有する位置から出発するこの領域の近接限界置き;末端限界を染色体9上の長腕のテロメアに(D9S158マーカーに向かって)置いた。この領域は10cM長さを超えて伸長する(図4B)。」(段落0164?段落0167) (オ)「9- 結論 この結果から引き出すことのできる主な結論は以下の通りである: まず、プール解析と個々の遺伝子型解析で見出された観察との間にはかなりの類似性がある。 多くの「クラスター」が確認された。 染色体9では、若白髪形質に強く関連した連鎖不均衡における間隔が明らかになった(SNP 418620 からSNP 2526008, 位置126'544'533 nt から位置126'745'296 nt, 201 kbの大きさが付与)。このクラスターには、遺伝子DDX31, GTF3C4及びQ96MA6が含まれる。 陽性ハプロタイプ又は陽性SNPのクラスターに関連した間隔において同定された遺伝子又は予測遺伝子は以下の通りである: ・・・ ハプロタイプ86-92 BARHL1 DDX31 GTF3C4 Q96MA6 (アデニル酸シクラーゼ) 新規のSNP、一塩基多型を有する、ハプロタイプ86-92に対応する領域の新規の解析 染色体9上におけるこの領域を、より高密度(この領域120kb上において、2?3kb当たり1SNP)に領域を覆うことのできる新規のSNPのコレクションを用いる新規の解析にかけた。 個体の遺伝子型決定を、4つのうち2つの高度に陽性遺伝子DDX31及びGTF3C4が存在することが示された、これらのSNPを用いて実施した。」(段落0195?段落0198) 上記(ア)?(オ)から、発明の詳細な説明には、DDX31遺伝子が、若白髪形質に強く関連していると同定された染色体9上のD9S290マーカー及び長腕テロメア間に含まれる染色体の領域または同SNP418620からSNP2526008の領域に含まれる12個の遺伝子の1つであり、かつ、その12個の遺伝子のなかでも高度に陽性遺伝子である2つの遺伝子のうちの1つであることが記載され、また、DDX31遺伝子に少なくとも部分的に対応する配列のポリヌクレオチド断片や当該ポリヌクレオチド断片の機能を調節する分子、例えば、DDX31遺伝子の調節領域に結合するエンハンサー又はインヒビターが、化粧品又は治療薬の製造に使用できるものとして説明されている。 しかし、DDX31遺伝子が若白髪形質に強く関連している遺伝子の1つとして同定されたとしても、DDX31遺伝子単独の作用と若白髪との関係が立証されたわけではなく、まして、DDX31遺伝子の発現の増大と白髪化の抑制の関連が示されたとはいえない。なぜなら、DDX31遺伝子以外の遺伝子も若白髪に関連し得るということは、白髪化においてDDX31遺伝子以外の遺伝子が重要である可能性もあれば、DDX31遺伝子も含む複数の遺伝子が協同する必要がある可能性もある。また、DDX31遺伝子が白髪化とその抑制のどちらに作用しているかも不明であるし、DDX31遺伝子が実は関与していないという可能性も否定できない。 そうすると、発明の詳細な説明のDDX31遺伝子に関する記載からは、当業者は、DDX31遺伝子と白髪化との関連も、DDX31遺伝子の発現の増大と白髪化抑制との関連も把握できないから、その結果、「DDX31遺伝子対応ポリヌクレオチド断片の機能を調節することができる分子であり、かつ、当該断片の増大した発現レベルをもたらす分子」が「白髪処理における美容又は治療目的」に使用できるものであることも認識し得ない。 (4)実施例の記載 発明の詳細な説明には、「本発明の遺伝子の一つからのDNA断片」を配合した組成物についても記載されているので、続いて、当該記載のうち、DDX31遺伝子と関連するDNA断片を含む組成物に関する以下の(カ)の記載について検討する。 (カ)「実施例4 組成物の実施例 ・・・ - トリートメントシャンプー D9S290マーカー及び長腕テロメア間に含まれる染色体ゾーンに 1.5 g 属する本発明の遺伝子の一つからのDNA断片 ポリグリセリル-3-ヒドロキシルアリールエーテル 26 g ハーキュレスからクリューセル(Klucell)Gとして市販のヒドロキシ 2 g プロピルセルロース 保存料 適量 95°エタノール 50 g 水 100 gにする量 このシャンプーは各洗浄時に使用し、約一分間毛髪上に残した。2ヶ月のオーダーの長い期間使用した結果、グレイの髪に次第に再色素形成が見られた。 このシャンプーは毛髪の白髪化を予防的に遅らせるために使用できる。」(段落0202?段落0203) 上記(カ)から、当業者は、上記トリートメントシャンプーに配合された「D9S290マーカー及び長腕テロメア間に含まれる染色体ゾーンに属する本発明の遺伝子の一つからのDNA断片」を「白髪処理における美容又は治療目的」に使用できることを、一応は認識し得るといえる。 しかし、そもそも、DNA断片を配合しただけの組成物を洗髪に使用するのみで、当該DNA断片が細胞内へ導入されて、対応する内因性遺伝子の機能や発現レベルに影響を及ぼすとは考えにくいから、上記トリートメントシャンプーの白髪化遅延の作用が、上記DNA断片によって特定の内因性遺伝子の機能や発現レベルが変更されたことによりもたらされたものであるとは解し難い。 また、仮に、上記DNA断片が、対応する内因性遺伝子の機能の調節や発現レベルを変更し得ると仮定しても、D9S290マーカー及び長腕テロメア間に含まれる染色体ゾーンには、DDX31遺伝子以外にも11個の遺伝子が属し、その11個の遺伝子に含まれるGTF3C4遺伝子は、DDX31遺伝子と同様に高度に陽性遺伝子なのであるから(上記(ア),(オ))、上記DNA断片が、必ずDDX31遺伝子からのDNA断片であるとはいえないし、また、上記DNA断片が、DDX31遺伝子の機能や発現レベルを変更するものであるともいえない。 そうすると、上記(カ)からは、当業者は、DDX31遺伝子に対応するDNA断片と白髪化との関連を把握できないから、その結果、「DDX31遺伝子対応ポリヌクレオチド断片の機能を調節することができる分子であり、かつ、当該断片の増大した発現レベルをもたらす分子」が「白髪処理における美容又は治療目的」に使用できるものであることも認識し得ない。 (5)その他の記載及び本件出願時の技術常識 そして、上記(ア)?(カ)以外の発明の詳細な説明の記載全体を参酌しても、上記分子が上記目的に使用できるものであることを、当業者が認識し得る記載は見当たらない。 よって、発明の詳細な説明に「DDX31遺伝子対応ポリヌクレオチド断片の機能を調節することができる分子であり、かつ、当該断片の増大した発現レベルをもたらす分子」について、それらが「白髪処理における美容又は治療目的」に使用できるものであることを当業者が認識し得るに足る記載がなされているとはいえないから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 また、上記分子を上記目的に使用できるものであることが、本件出願時の技術常識であることを示す文献等は見当たらないから、上記分子が上記目的に使用できるものであることを、本件出願時の技術常識から、当業者が認識し得るともいえない。 (6)小括 よって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものとはいえない。 b.特許法第36条第6項第1号 本願発明は、a.(1)にて説示したとおりの「白髪処理における美容又は治療目的」のための薬剤を同定するための、「DDX31遺伝子対応ポリヌクレオチド断片の機能を調節することができる分子であり、かつ、当該断片の増大した発現レベルをもたらす分子」のスクリーニング方法の発明である。 一方、a.にて説示したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記分子が上記目的に使用できるものであることを当業者が認識し得るに足る記載がなされているとはいえないし、かつ、上記分子が上記目的に使用できるものであることを、本件出願時の技術常識から、当業者が認識し得るともいえない。 そうすると、当業者は、本件出願時の技術常識に照らしても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、上記分子のスクリーニング方法によって上記目的のための薬剤を同定できると理解することができず、すなわち、上記目的のための薬剤を同定するための上記分子のスクリーニング方法(本願発明)を提供できると理解できない。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明が、実質的に開示されていないといえるが、それにもかかわらず、本願明細書の特許請求の範囲には本願発明が記載されている。 よって、本願明細書の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものとはいえない。 c.請求人の主張について (1)請求人は、平成25年11月20日付け意見書にて、DDX31遺伝子が白髪表現型の原因となる重要な遺伝子として同定されたこと、白髪表現型と共に遺伝する他の染色体領域や遺伝性の若白髪の他の異なる遺伝的、外的要因は発見されていないことを主張し、また、「本審判請求人は、DDX31遺伝子が白髪における中心的な役割を有するということを、はっきりと示しています。よって、DDX31遺伝子に対応するポリペプチドの機能調節は白髪表現型に必然的に効果を与えるものであることを、当業者は理解すると思料します。DDX31遺伝子で発見された特異的な遺伝的変異そのものは、DDX31ポリペプチドの機能を調節するための分子をスクリーニングする目的の本願に係る方法とは特に関係がありません。」と主張し、本願明細書には当業者が白髪処理における美容又は治療目的のための薬剤を同定するための十分な記載があると主張する。 しかし、a.にて説示したとおり、発明の詳細な説明の記載からは、当業者は、DDX31遺伝子やこれに対応するDNA断片と白髪化との関連も、DDX31遺伝子の発現の増大と白髪化抑制との関連も把握できないから、DDX31遺伝子やDDX31ポリペプチドの機能調節が毛髪の白髪化やその抑制に必然的に効果を与えるとの認識を持ち得ない。 また、本願発明は、DDX31遺伝子対応ポリヌクレオチド断片の発現レベルを検出し比較する工程は含むものの、ポリペプチドの機能を調節するための分子を選別し得る工程を含むものではないし、かつ、DDX31ポリペプチドの機能を調節する分子は、DDX31遺伝子対応ポリヌクレオチド断片の機能を調節しかつ当該断片の増大した発現レベルをもたらす分子と一致するものともいえないから、本願発明の目的が、DDX31ポリペプチドの機能を調節するための分子をスクリーニングすることであるとはいえない。 よって、請求人の上記主張は採用できない。 (2)また請求人は、上記意見書にて、「更に、実施例4の記載を基に、本願特許請求の範囲に記載の発明は、DDX31遺伝子の転写又は翻訳レベルを増大する分子の同定に関するものとなっています。」と主張する。 しかし、以下に述べるとおり、実施例4を含む本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、DDX31遺伝子の転写又は翻訳レベルを増大する分子が、白髪処理における美容又は治療目的に使用できるものであることを認識し得ない。 すなわち、実施例4(上記(カ))のトリートメントシャンプーに配合されたDNA断片が、どのような態様で配合されたか等は、発明の詳細な説明の記載全体を参酌しても明らかでないから、当該DNA断片が特定の遺伝子の転写又は翻訳レベルにどう作用した結果、白髪化を遅延させ得たかは、不明である。 そこで、発明の詳細な説明の遺伝子の転写又は翻訳レベルに対するポリヌクレオチド断片の作用に関連する一般的な記載を参酌すると、発明の詳細な説明には、以下の(キ)?(ク)の記載がある。 (キ)「色素形成の原因となっている遺伝子が、突然変異した場合のように欠陥を持つ場合、本発明の上記第一の用途は、欠陥のある内因性(endogenic)遺伝子の新しい野生型コピーを表すポリヌクレオチド断片を導入することによってその遺伝子の機能を回復させることができる。 遺伝子活性化が色素脱失の原因である場合、本発明の上記第一の用途は、遺伝子の翻訳を阻止するアンチセンスRNAを導入することによって遺伝子の機能を破壊しうる。」(段落0047) (ク)「本発明の薬剤の例は、本発明の遺伝子の一つの定まった小領域に結合して三重螺旋体を形成可能な一本鎖DNA分子である。上記条件下で、本発明の薬剤はそれらがハイブリダイズする小領域の機能を破壊する。」(段落0052) ここで仮に、実施例4のトリートメントシャンプーに配合されたDNA断片が、細胞内へ導入されて、対応する内因性遺伝子の機能や発現レベルに影響を及ぼすことにより白髪化の遅延がもたらされたとするならば、上記(キ)?(ク)から、当業者は、上記DNA断片の内因性遺伝子に対する作用として、(i)遺伝子の新しい野生型コピーを表すDNA断片の導入によって、欠陥のある内因性遺伝子の機能を回復させた可能性と、(ii)DNA断片が対応する遺伝子の定まった小領域にハイブリダイズして、内因性遺伝子の機能を破壊した可能性、の双方を認識し得る。 そして、上記(i)の場合、DNA断片は、対応する内因性遺伝子の機能を回復させて白髪化を遅延させたこととなるから、当該DNA断片に対応する遺伝子の発現レベルの増大は白髪化を遅延させることを意味するし、上記(ii)の場合、DNA断片は、対応する内因性遺伝子の機能を破壊して白髪化を遅延させたこととなるから、当該DNA断片に対応する遺伝子の発現レベルの増大は白髪化に寄与することを意味するが、先に述べたとおり、実施例4のトリートメントシャンプーに配合されたDNA断片が、どのような態様で配合されたか等は明らかでなく、当該DNA断片が、上記(i)と(ii)のいずれの作用で白髪化を遅延させたのかもやはり不明である。 そうすると、当業者は、実施例4のトリートメントシャンプーに配合されたDNA断片に対応する遺伝子の発現レベルの増大が、白髪化を遅延させ得るのか否かを認識できないこととなるから、例え、当該DNA断片がDDX31遺伝子からのDNA断片であったとしても、実施例4からでは、当業者は、DDX31遺伝子の増大した発現レベルが白髪化を遅延させ得ることを、認識し得ない。 以上のことから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、DDX31遺伝子の転写又は翻訳レベルを増大する分子が、白髪処理における美容又は治療目的に使用できるものであることを認識し得ないので、請求人の上記主張の妥当性は不明である。 4.むすび 以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-02-05 |
結審通知日 | 2014-02-18 |
審決日 | 2014-03-05 |
出願番号 | 特願2005-505078(P2005-505078) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(A61K)
P 1 8・ 536- WZ (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小堀 麻子 |
特許庁審判長 |
内田 淳子 |
特許庁審判官 |
天野 貴子 穴吹 智子 |
発明の名称 | 若白髪に関与する染色体6及び9の遺伝子 |
代理人 | 小林 義教 |
代理人 | 園田 吉隆 |