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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H02M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02M
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H02M
管理番号 1290483
審判番号 不服2013-20056  
総通号数 177 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-09-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-16 
確定日 2014-08-07 
事件の表示 特願2011-123068「スイッチング電源回路、及びインバータ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月25日出願公開、特開2011-167068〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年5月22日に出願した特願2002-147057号の一部を平成20年2月25日に新たな特許出願とした特願2008-42328号の一部を平成23年6月1日に新たな特許出願としたものであって、平成24年11月30日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成24年12月4日)、これに対し、平成25年2月1日付で意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年7月10日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成25年7月17日)、これに対し、平成25年10月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものである。


2.平成25年10月16日付の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成25年10月16日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由I]
(1)補正の内容
本件補正前の特許請求の範囲は、以下のとおりである。
「【請求項1】
少なくとも2個直列に接続されたコンデンサを有する直流電圧部と、前記直流電圧部から直流電力の供給を受けてトランスの一次側をPWM制御回路によりスイッチング制御し、電圧仕様の異なる直流電圧を出力するスイッチング電源回路において、
前記直流電圧部からの直流電圧を分圧し、該分圧した点に配置された抵抗器と、
前記抵抗器を介して前記PWM制御回路に接続された電源供給部と、
を備え、
前記スイッチング電源回路の起動状態において、前記直流電圧部が有する該コンデンサに電流が流れることを特徴とするスイッチング電源回路。」

これに対し、本件補正により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。
「【請求項1】
少なくとも2個直列に接続されたコンデンサを有する直流電圧部と、前記直流電圧部から直流電力の供給を受けてトランスの一次側をPWM制御回路によりスイッチング制御し、電圧仕様の異なる直流電圧を出力するスイッチング電源回路において、
前記直流電圧部からの直流電圧を分圧し、該分圧した点に配置された抵抗器と、
前記抵抗器を介して前記PWM制御回路に接続された電源供給部と、
を備え、
前記スイッチング電源回路の起動状態において、前記直流電圧部が有する該コンデンサに電流が流れ、
前記スイッチング電源回路は、前記直列に接続された2個のコンデンサの中間接続点から電流を取り出し、電源側からの充電電流と、前記直列に接続された2個のコンデンサの両端からの負荷による消費電流と、前記直列に接続された2個のコンデンサ各々の漏れ電流と、前記直列に接続された2個のコンデンサの接続中間点から取り出す電流に基づく負荷による消費電流とに基づいて、前記直列に接続された2個のコンデンサ各々の両端電圧を平衡状態に保つよう制御することを特徴とするスイッチング電源回路。」


(2-1)新規事項について
(ア)本件補正後の請求項1には、「前記直列に接続された2個のコンデンサ各々の両端電圧を平衡状態に保つよう制御する」と記載されており、本件補正後の請求項1に記載されたスイッチング電源回路は、直列に接続された2個のコンデンサ各々の両端電圧を平衡状態に保つよう制御できることとなる。
そこで、当該補正が、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。

当初明細書等には、
A「【請求項1】
少なくとも2個直列に接続されたコンデンサを有する直流電源部と、該直流電圧部から直流電力の供給を受けてトランスの一次側をPWM制御回路によりスイッチング制御し、電圧仕様の異なる直流電圧を出力するスイッチング電源回路において、前記直流電圧部の直流電圧を分圧し、該分圧した点に抵抗器を介して前記PWM制御回路への電源供給部を接続したことを特徴とするスイッチング電源回路。
【請求項2】
前記直流電圧部の直流電圧を前記直列に接続されたコンデンサで分圧し、前記直流電圧を分圧したコンデンサの接続点に抵抗器を介して前記PWM制御回路を接続したことを特徴とする請求項1記載のスイッチング電源回路。
【請求項3】
前記コンデンサには電圧バランス用抵抗器が並列接続され、前記電圧バランス用抵抗器で前記直流電圧部の直流電圧が分圧された接続点に抵抗器を介して前記PWM制御回路を接続したことを特徴とする請求項1記載のスイッチング電源回路。
【請求項4】
前記電圧バランス用抵抗器は前記コンデンサ1つに対し少なくとも1つ以上の抵抗器を直列接続した直列体を並列接続し、該直列体の接続点に前記PWM制御回路を接続したことを特徴とする請求項3記載のスイッチング電源回路。
【請求項5】
前記PWM制御回路と前記PWM制御回路が並列接続される前記電圧バランス用抵抗器との合成抵抗値は、他の電圧バランス用抵抗器の抵抗値とほぼ同じ値であることを特徴とする請求項3または請求項4記載のスイッチング電源回路。
【請求項6】
交流を受電し直流に変換する整流器と、該整流器の直流出力を平滑するコンデンサを備えた直流中間部と、該直流中間部の直流電圧を任意の可変電圧可変周波数の交流に変換するインバータと、前記インバータを制御するインバータ制御回路と、前記直流中間部の直流電力の供給を受けてトランスの一次側をPWM制御回路によりスイッチング制御し電圧仕様の異なる直流電圧を前記インバータ制御回路に制御電源として供給するスイッチング電源回路を備えたインバータ装置において、前記コンデンサは複数直列接続され、該コンデンサの直列接続点に前記PWM制御回路の電源供給部を接続し、前記インバータ制御回路に該スイッチング電源回路の直流出力を直流電源として接続したインバータ装置。」

B「上記課題を解決するため、本発明は、特に受電電圧が高くなった場合に直流電圧部の平滑コンデンサを2個以上直列に接続する必要があることを利用し、コンデンサが少なくとも2個直列に接続された直流電源部と、該直流電圧部から直流電力の供給を受けてトランスの一次側をPWM制御回路によりスイッチング制御し、電圧仕様の異なる直流電圧を出力するスイッチング電源回路において、前記直流電圧部の直流電圧を分圧し、該分圧した点に抵抗器を介して前記PWM制御回路の電源を接続し、前記起動回路用抵抗器で発生する電力損失を低減し、小形、低コストを実現したものである。」(【0007】)

C「図1は、本発明によるスイッチング電源回路を具体化した一実施例である。図1において、DRは交流電源VACを整流して直流電圧を得る整流用ダイオードである。CB1、CB2はコンデンサであり、整流ダイオードDRによって生成された直流電圧を平滑する。RB1、RB2は電圧バランス用の抵抗器であり、コンデンサCB1、CB2に印加される電圧を均等化する。点Aは、コンデンサCB1とCB2、抵抗器RB1とRB2がそれぞれ直列に接続された接続点である。点Bは、コンデンサCB1、CB2によって平滑された直流電圧Viが現れる部分である。CTRLはスイッチング電源回路のトランスの一次側をPWM制御するためのPWM制御回路であり、具体的にはPWM制御信号を出力する電源制御ICで構成され例えば日立製作所製HA16107FPの様な集積回路が使用される。点CはPWM制御回路CTRLに必要な電力を供給する端子である。Mはスイッチング素子である。CS、DS、RSはサージ電圧吸収用のそれぞれスナバ・コンデンサ、スナバ・ダイオード、スナバ・抵抗器である。R1はスイッチング電源回路起動時と、起動した後にPWM制御回路CTRLへ電力を供給するための起動回路の抵抗器である。図1では抵抗器R1は1つであるが、必要に応じて直列にし、その直列にする数量を調整する。D1、D2、C1、C2はそれぞれ整流ダイオードと平滑用コンデンサである。図1において整流ダイオードDRの整流方式は単相交流をブリッジ整流しているが、整流方式は特に問わない。
本発明では、抵抗器R1を、点Aに接続する。従来技術では、起動回路の抵抗器R1を、コンデンサCB1、CB2で平滑された後の点Bに接続していたが、本発明では、点Aの電圧VAは、点Bの電圧Viより低いので、抵抗器R1に印加される電圧を下げることができ、抵抗器R1の発生損失を低減できる。また、抵抗器の直列接続数を減らすことができ、放熱のための空間を少なくすることができる。以上により、信頼性を向上させることができ、図2は、PWM制御回路CTRLにほぼ同一電流が必要なものとして、分圧点Aの電圧VAと抵抗器R1で発生する電力損失の関係を示したもので、分圧点Aの電圧にほぼ比例して抵抗器R1で発生する電力損失を低減することが出来る。即ち、抵抗器R1には分圧点Aの直流電圧VAからPWM制御回路CTRLに印加される電圧V CTRLを差し引いた電圧が印加されるが、一般的にPWM制御回路CTRLに印加される電圧は、ほとんどの場合十数V以下でほぼ一定値である。また、PWM制御回路CTRLに必要な動作電流はほぼ一定である。従って分圧点Aに抵抗器R1を接続しPWM制御回路CTRLに電力を供給した場合、分圧点Aの電圧にほぼ比例して電力損失が低減されるのである。
一例としてコンデンサCB1、CB2に印加される電圧を均等にし、分圧点Aの電圧VAを点Bの電圧Viの2分の1にした場合、抵抗器R1に印加される電圧は従来技術のほぼ2分の1となる。この場合、後述する式(数1)においてVA=Vi/2となる様にRB1、RB2、R1、の値を選べばよい。
この場合、図1の様にコンデンサCB1、CB2を直列に接続した分圧点Aから起動回路へ電流を取り出すと、コンデンサCB1とCB2に並列接続されたバランス抵抗の値に偏りが生じるので、コンデンサCB1とCB2の電圧が崩れる。したがって、電圧のバランスが取れるように合成インピーダンスを考慮する必要がある。
図3は、図1中のRB1、RB2、R1、CB1、CB2、PWM制御回路CTRLの入力インピーダンスRCTRLを等価的に記載した等価回路である。ここで、VAをコンデンサを直列接続した分圧点Aにおける電圧、Viを直流電圧部Bの電圧とする。RB1に流れる電流I1は、RB2に流れる電流I2とR1に流れる電流IRの合計したものとなる。RB1における電圧降下により分圧点Aの電圧VAが決定され、分圧点Aの電圧VAとRB2、R1、RCTRL の値によりI2とIRの値が決定される。以上の関係から、以下の式 (数1) が導かれる。
【数1】

(数1)を用い、分圧点Aの電圧VAが所望の電圧となる様、抵抗器RB1、RB2、R1を選定すればよい。ただし、RCTRLはCTRLの仕様で別に決まる。また、VC<VA<Viの関係が保たれることが必要である。以上の様に、抵抗器R1と、コンデンサCB1、CB2に並列に接続された抵抗器RB1とRB2の抵抗値を適切に選定することにより、コンデンサCB1、CB2にかかる電圧を任意の値に安定化させることができるため、コンデンサCB1、CB2の各々に印加される電圧を任意の電圧にバランスさせることができ、且つ、従来技術と比較し、コンデンサCB1とCB2の接続点である分圧点Aから制御回路CTRLに電力を小電力で供給することができる。
図4は本発明の別の実施例であり、コンデンサが3本直列接続されている例である。図4において、CB1、CB2、CB3はそれぞれコンデンサであり、RB1、RB2、RB3はそれぞれコンデンサに並列接続された抵抗器である。図3ではCB2とCB3の直列接続点にR1を接続している。例として、以下の式(数2)を満たす様にRB1、RB2、RB3、R1の抵抗値を設定すれば、CB1、CB2、CB3に印加される電圧を均等にすることができる。
【数2】

この場合、RB1をRB2に等しく選定すれば、図4における分圧点Aでの電圧VAは、図4における点Bでの電圧Viの3分の1となる。図4に示す例ではコンデンサは3本であったが、直列接続するコンデンサの数量は特に問わなく、4本以上でも同様に実現することができる。
図1および図4においては回路構成はいわゆるフライバックコンバータとなっているが、そのほか例えばフォワードコンバータやハーフブリッジ、フルブリッジ式など、スイッチング電源回路方式は特に問わない。
図5に本発明の別の実施例を示す。コンデンサCB1、CB2が直列に接続され、その各々に2本ずつ抵抗器RB1、RB2、RB3、RB4が接続されている。図5に示す如く、抵抗器RB3とRB4の直列接続部に抵抗器R1が接続されている。図5に示す様にすることにより、R1に印加される電圧をより低くすることができる。図5ではコンデンサCB1、CB2の各々に並列接続される抵抗器は2本ずつであるが、抵抗器の数量は特に問わなく(例として3本以上)、またコンデンサCB1、CB2に接続される抵抗器の数量は必ずしも同一である必要はない。
また、本発明による電源供給方法を用いたスイッチング電源を、電気機器に組み込んだ一例として、汎用インバータ装置に使用する実施例を図6に示す。図6においてダイオードD1?D6は三相交流の整流用ダイオードで、交流電源VACから交流を受電し直流電圧に変換する整流器を構成する。Q1?Q6はインバータ用スイッチング素子で、IGBTあるいはバイポーラトランジスタなどのパワートランジスタが使用される。ダイオードFWD1?FWD6はインバータ用還流ダイオードであり、直流中間電圧(P-N間直流電圧)を任意の可変電圧可変周波数の三相交流電圧に変換するインバータを構成する。サイリスタThyと抵抗器RDでコンデンサC1、C2への突入電流防止回路を構成する。図6においてコンデンサCB1、CB2は汎用インバータ装置における直流中間電圧部の平滑コンデンサである。図6の場合、コンデンサCB1、CB2を2本直列に接続して使用しており、コンデンサCB1、CB2には並列に電圧バランス用の抵抗器RB1、RGB2が接続されている。図6のPSは、図1に示すPSと同じであり、スイッチング電源回路を構成するPWM制御回路CTRL、スイッチング素子M、トランスT等により構成される。このPSは、この汎用インバータ装置のインバータ制御回路CTLに制御電圧を供給する制御電源として使用される。図6において、コンデンサCB1、CB2の直列接続点Aには図1と同様に抵抗器R1が接続され、また図6における直流電圧の正側の点Pにはトランスの一次巻き線L1に接続され(点PはPSにとって図1の点Bに相当する)、図6における直流電圧の負側の点NはPWM制御回路CTRLやスイッチング素子Mの共通電位部に接続される。
以上の実施例では、コンデンサCB1、CB2、・・・に均等に電圧が印加されるように、これらコンデンサに並列接続される抵抗値(インピーダンス値)を考慮したが、これはコンデンサCB1、CB2、・・・の定格電圧として通常同じものを使用するので、コンデンサCB1、CB2、・・・の能力を有効に利用する上で効果的である。また、高圧受電の場合にコンデンサに印加される電圧が耐圧を越えるようになるとき、あるいは高圧受電のときコンデンサに印加される電圧に余裕を取るためには、コンデンサは2個以上直列に接続する必要があり、本発明はこれを利用して起動用抵抗の電力損失を低減する。従って起動用に特別なコンデンサなどを用意することなく、簡単な構成で、しかも低コストで本発明を実施できる。」(【0011】-【0020】)

と記載されているにすぎず、直列に接続された2個のコンデンサ各々の両端電圧が発生することは記載されてはいるが、直列に接続された2個のコンデンサ各々の両端電圧を平衡状態に保つよう制御することは、図面を参照しても記載も示唆もない。

したがって、直列に接続された2個のコンデンサ各々の両端電圧を平衡状態に保つよう制御することは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。


(イ)本件補正後の請求項1には、「前記直列に接続された2個のコンデンサ各々の漏れ電流と、・・・(略)・・・とに基づいて、前記直列に接続された2個のコンデンサ各々の両端電圧を平衡状態に保つよう制御する」と記載されており、本件補正後の請求項1に記載されたスイッチング電源回路は、直列に接続された2個のコンデンサ各々の両端電圧を平衡状態に保つよう制御するために、前記直列に接続された2個のコンデンサ各々の「漏れ電流」を用いることとなる。
そこで、当該補正が、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。

当初明細書等には、上記A-Cが記載されているにすぎず、2個のコンデンサに関し漏れ電流との記載は無く、物理現象としてコンデンサに漏れ電流が発生するかもしれないが、コンデンサの漏れ電流を直列に接続された2個のコンデンサ各々の両端電圧を平衡状態に保つよう制御するために用いることは、図面も参照しても記載も示唆もない。

したがって、直列に接続された2個のコンデンサ各々の漏れ電流と、・・・(略)・・・とに基づいて、前記直列に接続された2個のコンデンサ各々の両端電圧を平衡状態に保つよう制御することは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。


(2-2)目的要件について
本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前の特許法」という。)第17条の2第4項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。
改正前の特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」は、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られ、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。

本件補正後の請求項1は、スイッチング電源回路が、「前記直列に接続された2個のコンデンサ各々の両端電圧を平衡状態に保つよう制御」しているが、本件補正前の請求項1は、直列に接続された2個のコンデンサを有してはいても、コンデンサの両端電圧に対する制御機能を有しておらず、且つ、本件補正前の請求項1の「少なくとも2個直列に接続されたコンデンサを有する直流電圧部」を限定しても、「前記直列に接続された2個のコンデンサ各々の両端電圧を平衡状態に保つよう制御する」ことはなく、しかも、2個のコンデンサ各々の両端電圧を平衡状態に保つという新たな課題も解決しているから、改正前の特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」に該当しない。

したがって、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正とは認められない。
また、本件補正が、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的としたものでないことも明らかである。


(3)むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、また、改正前の特許法第17条の2第4項第2号の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


[理由II]
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、また、改正前の特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないが、仮に本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の前記請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討しておく。

(1)特許法第36条第6項の要件について
(ア)本件補正後の請求項1には、「前記直列に接続された2個のコンデンサの両端からの負荷による消費電流と、・・・(略)・・・前記直列に接続された2個のコンデンサの接続中間点から取り出す電流に基づく負荷による消費電流」とあり、当該記載に基づけば、直列に接続された2個のコンデンサの両端から負荷に電流が供給されると共に、直列に接続された2個のコンデンサの接続中間点からも負荷に電流が供給されることとなる。
スイッチング電源回路の負荷は、出力側に接続される(本願【図1】であればV_(0)に接続される)ことが一般的である。しかし、本件補正後の請求項1では、直列に接続された2個のコンデンサの両端からも、直列に接続された2個のコンデンサの接続中間点からも負荷に電流が供給されており、しかも、「負荷」という同じ単語が用いられているから、両者は同じもの(同じ負荷)となるが、直列に接続された2個のコンデンサの両端からも、直列に接続された2個のコンデンサの接続中間点からも同じ負荷に電流が供給されることは、発明の詳細な説明には記載が無く、又、どの様な回路であればスイッチング電源回路の負荷に、直列に接続された2個のコンデンサの両端からも、直列に接続された2個のコンデンサの接続中間点からも電流を供給できるのか、構成が明確でない。

(イ)本件補正後の請求項1には、「前記直列に接続された2個のコンデンサ各々の漏れ電流と、・・・(略)・・・とに基づいて、前記直列に接続された2個のコンデンサ各々の両端電圧を平衡状態に保つよう制御する」とあり、当該記載に基づけば、直列に接続された2個のコンデンサ各々の両端電圧を平衡状態に保つよう制御するために、直列に接続された2個のコンデンサ各々の漏れ電流も一変数として用いることとなる。
本件補正までの手続補正で、明細書についての補正は行われてはいないから、上述のように、直列に接続された2個のコンデンサ各々の漏れ電流に関する記載は発明の詳細な説明には無く、接続された2個のコンデンサ各々には漏れ電流が存在するかもしれないが、コンデンサの漏れ電流を直列に接続された2個のコンデンサ各々の両端電圧を平衡状態に保つよう制御するためどの様に用いるのか、発明の詳細な説明には記載が無く、又、その制御のための構成が明確でない。

(ウ)本件補正後の請求項1には、「前記直列に接続された2個のコンデンサの中間接続点から電流を取り出し、電源側からの充電電流と、前記直列に接続された2個のコンデンサの両端からの負荷による消費電流と、前記直列に接続された2個のコンデンサ各々の漏れ電流と、前記直列に接続された2個のコンデンサの接続中間点から取り出す電流に基づく負荷による消費電流とに基づいて、前記直列に接続された2個のコンデンサ各々の両端電圧を平衡状態に保つよう制御する」とあり、当該記載に基づけば、充電電流、2個のコンデンサの両端からの負荷による消費電流、漏れ電流、接続中間点から取り出す電流に基づく負荷による消費電流の4つの電流に基づいて2個のコンデンサ各々の両端電圧を平衡状態に保つよう制御することとなる。
制御するためには、何某かの物理量を操作する必要があるが、上記4つの電流の何れについても操作することは、発明の詳細な説明には記載が無く、又、上記4つの電流に基づいて2個のコンデンサ各々の両端電圧を平衡状態に保つためにどの様に制御する(例えば4つの電流に重み付けをしなければ制御はできない)のか、発明の詳細な説明には記載が無く、また、上記4つの電流に基づいて2個のコンデンサ各々の両端電圧を平衡状態に保つためにどの様に制御する(2個のコンデンサ各々の両端電圧に対する制御は何ら行われていない)のか、そのための構成が明確でない。

したがって、本件補正後の請求項1の記載は、発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしておらず、又、明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができない。


(2)むすび
以上のとおり、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条の規定により却下されるべきものである。


3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、「2.[理由I](1)」に記載した平成25年2月1日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。


(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開平2-70268号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。

a「(1)トランスの一次巻線に接続されているスイッチングトランジスタをオン/オフ制御するスイッチング制御回路と、起動時にこのスイッチング制御回路に入力電源から生成した電圧を供給する起動回路を備えたスイッチングレギュレータにおいて、
入力電源を複数のコンデンサで分圧するコンデンサ分圧回路を前記起動回路に設けたことを特徴とするスイッチングレギュレータ。」(特許請求の範囲)

b「(c)発明が解決しようとする課題
以上のように入力電源の抵抗分圧出力によって起動を開始するスイッチングレギュレータにおいては、起動後も抵抗分圧回路に漏れ電流が流れるため、この分圧回路で電力損失が生じる。回路全体の損失を低減して電力変換効率の高いスイッチングレギュレータを構成するためには、このような起動回路の抵抗分圧回路における電力損失も無視することができない。
この発明の目的は、起動後の起動回路における電力損失を低減して装置全体の効率を高めたスイッチングレギュレータを提供することにある。」(第2頁左上欄7-18行)

c「第1図においてコンデンサC1およびC2の直列回路によって分圧回路が構成されている。入力電源が投入されたときC1、C2に充電電流が流れ、合成静電容量と入力電源電圧により定まる電荷が両コンデンサに充電される。これにより両コンデンサの静電容量に応じた分圧比で入力電源電圧が分圧される。ここで入力電源電圧をVi、分圧出力電圧をVo、コンデンサC1およびC2の静電容量をC1およびC2とすれば、
Vo=C1/(C1+C2)Vi
で表される。
このように入力電源が投入されたときコンデンサ分圧回路の分圧出力によりスイッチング制御回路1が起動し、スイッチング素子Q1の断続を開始する。これによりトランスの三次巻線N3に発生される電圧が整流平滑されてダイオードD2を介してスイッチング制御回路1の電源として供給される。したがってコンデンサC1およびC2に所定電荷が充電されてスイッチングレギュレータが起動した後はC1、C2からなるコンデンサ分圧回路に充放電電流が流れず、電力損失も生じない。」(第2頁左下欄2行-右下欄3行)

d「整流平滑された直流入力電源はトランスの一次巻線N1の一端に接続されていて、その他端にスイッチングトランジスタQ1が接続されている。また、入力電源ラインと接地間にはコンデンサC1およびC2からなるコンデンサ分圧回路が設けられている。」(第2頁右下欄9-14行)

e「なお、スイッチングレギュレータの出力電圧は、R7,R8の分圧出力が一定となるようにコントロールIC2がPWM制御を行うため入力電源電圧の変動に関わらず、常に一定となる。」(第3頁右上欄20行-左下欄4行)

上記記載及び図面を参照すれば、スイッチングレギュレータは直流入力電源の供給を受けており、直流入力電源電圧を分圧した点にダイオードD1が配置され、直流入力電源電圧は前記ダイオードD1を介してスイッチング制御回路に接続されて電源供給部を形成している。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「直流入力電源が接続されたコンデンサC1およびC2の直列回路と、前記直流入力電源の供給を受けてトランスの一次巻線をPWM制御を行うスイッチング制御回路によりスイッチングトランジスタをオン/オフ制御し、前記直流入力電源電圧の変動に関わらず常に一定の出力電圧を出力するスイッチングレギュレータにおいて、
前記直流入力電源電圧からの直流電圧を分圧し、該分圧した点に配置されるダイオードと、
該ダイオードを介してPWM制御を行うスイッチング制御回路に接続された電源供給部と、
を備え、
前記スイッチングレギュレータの起動時に、前記コンデンサC1およびC2の直列回路に充電電流が流れるスイッチングレギュレータ。」
との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。


(2)対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「コンデンサC1およびC2の直列回路」、「トランスの一次巻線」、「PWM制御を行うスイッチング制御回路」、「スイッチングトランジスタをオン/オフ制御」、「スイッチングレギュレータ」、「起動時に」は、それぞれ本願発明の「少なくとも2個直列に接続されたコンデンサ」、「トランスの一次側」、「PWM制御回路」、「スイッチング制御」、「スイッチング電源回路」、「起動状態において」に相当する。

引用発明の直流入力電源は、コンデンサC1およびC2の直列回路に接続されているから、引用発明の「直流入力電源が接続されたコンデンサC1およびC2の直列回路」は、本願発明の「少なくとも2個直列に接続されたコンデンサを有する直流電圧部」に相当する。
引用発明のスイッチングレギュレータは、直流入力電源の供給を受けて駆動しているから、引用発明の「前記直流入力電源の供給を受けて」は、本願発明の「前記直流電圧部から直流電力の供給を受けて」に相当する。
スイッチング電源回路は、入力電圧を変換して入力電圧とは異なった値で安定した値の出力電圧を発生するものであるから、引用発明の「前記直流入力電源電圧の変動に関わらず常に一定の出力電圧を出力する」は、本願発明の(直流電圧部と)「電圧仕様の異なる直流電圧を出力する」に相当する。
引用発明の「前記直流入力電源電圧からの直流電圧を分圧し」は、本願発明の「前記直流電圧部からの直流電圧を分圧し」に相当する。
引用発明は、起動時にコンデンサC1およびC2に電流が流れ、起動した後はコンデンサ分圧回路に充放電電流が流れない(c参照)のであるから、引用発明の「前記コンデンサC1およびC2の直列回路に充電電流が流れる」は、本願発明の「前記直流電圧部が有する該コンデンサに電流が流れる」に相当する。

引用発明の「該分圧した点に配置されるダイオード」と、本願発明の「該分圧した点に配置された抵抗器」は、「該分圧した点に配置された所定の素子」の概念で一致する。

したがって、両者は、
「少なくとも2個直列に接続されたコンデンサを有する直流電圧部と、前記直流電圧部から直流電力の供給を受けてトランスの一次側をPWM制御回路によりスイッチング制御し、電圧仕様の異なる直流電圧を出力するスイッチング電源回路において、
前記直流電圧部からの直流電圧を分圧し、該分圧した点に配置された所定の素子と、
前記抵抗器を介して前記PWM制御回路に接続された電源供給部と、
を備え、
前記スイッチング電源回路の起動状態において、前記直流電圧部が有する該コンデンサに電流が流れるスイッチング電源回路」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点〕
所定の素子に関し、本願発明は、抵抗器であるのに対し、引用発明は、ダイオードである点。


(3)判断
引用発明において、直流電圧の分圧点から所定の素子を介してPWM制御回路に電源を供給するのは、電源の分圧点の変動が発生した場合、当該変動が直接的にPWM制御回路に影響を及ぼすことを避けるためである。また、電源電圧の分圧点から抵抗を介することによって過電流の影響を避けて制御回路に電源供給を行うことは、原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-207734号公報(図1参照)、特開平9-19145号公報(図1参照)等にもみられるように周知の事項である。
そうであれば、引用発明において、分圧した点に配置された所定の素子を上記周知の事項のように抵抗器とすることは当業者が容易に考えられることと認められる。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-27 
結審通知日 2014-06-03 
審決日 2014-06-23 
出願番号 特願2011-123068(P2011-123068)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H02M)
P 1 8・ 121- Z (H02M)
P 1 8・ 575- Z (H02M)
P 1 8・ 561- Z (H02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今井 貞雄  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 矢島 伸一
堀川 一郎
発明の名称 スイッチング電源回路、及びインバータ装置  
代理人 井上 学  
代理人 井上 学  

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