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審決分類 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する H01M
管理番号 1290836
審判番号 訂正2014-390080  
総通号数 178 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-10-31 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2014-06-06 
確定日 2014-08-11 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5283429号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5283429号に係る明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求(以下、「本件請求」という。)に係る特許第5283429号(以下、「本件特許」という。)は、平成20年5月29日に出願がされて、平成25年6月7日に設定登録がされたものである。
そして、平成26年6月6日に本件請求がなされた後、同年7月25日に、審判請求書に添付された、訂正明細書を補正する手続補正が行われた。

第2 平成26年7月25日に行われた手続補正の適否
この補正は、平成26年6月6日付けの審判請求書に添付された、訂正明細書における、段落【0021】の、「正極活物質ペースト中のβ-PbO_(2)」との記載を、「正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)」に補正しようとするものであるところ、平成26年6月6日付けの審判請求書において、「訂正事項5」としてあげられていた訂正事項が、同請求書に添付された訂正明細書の段落【0021】において訂正されていなかった不備を補正しようとするものであるから、審判請求の要旨を変更するものとはいえない。
したがって、上記補正は、特許法第131条の2第1項の規定に適合する適法なものと認める。

第3 請求の趣旨
上記第2で述べたとおり、平成26年7月25日に行われた手続補正は適法なものと認めるので、本件訂正審判請求の趣旨は、上記特許の明細書及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付され、平成26年7月25日付けの手続補正により補正された、訂正明細書及び特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものである。

第4 訂正の内容
本件請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、明細書及び特許請求の範囲について、下記(1)ないし(6)のとおり訂正することを求めるものである(下線部が訂正箇所である。)。

(1)特許請求の範囲の請求項1の「正極活物質ペーストを充填した正極板」を、「正極活物質ペーストを充填した後に化成して得られた正極板」と訂正する(以下、「訂正事項(1)」という。)。

(2)特許請求の範囲の請求項1の「化成後における前記正極活物質ペースト中のβ-PbO_(2)」を、「前記正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)」と訂正する(以下、「訂正事項(2)」という。)。

(3)明細書の段落【0011】の「正極活物質ペーストを充填した正極板」を、「正極活物質ペーストを充填した後に化成して得られた正極板」と訂正する(以下、「訂正事項(3)」という。)。

(4)明細書の段落【0011】の「化成後における前記正極活物質ペースト中のβ-PbO_(2)」を、「前記正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)」と訂正する(以下、「訂正事項(4)」という。)。

(5)明細書の段落【0010】の第1?2行目、段落【0012】?【0021】、段落【0024】、及び、段落【0025】の「正極活物質ペースト中のβ-PbO_(2)」を、それぞれ、「正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)」と訂正する(以下、「訂正事項(5)」という。)。

(6)明細書の段落【0010】の第5行目の「正極活物質ペースト中のβ-PbO_(2)」を、「正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)」と訂正するものである(以下、「訂正事項(6)」という。)。


第5 当審の判断
1.訂正事項(1)について
訂正事項(1)は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「正極活物質ペーストを充填した正極板」を、「正極活物質ペーストを充填した後に化成して得られた正極板」と訂正するものである。

ここで、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1には、「鉛または鉛合金からなる正極格子に、鉛粉を硫酸で混練した正極活物質ペーストを充填した正極板が用いられた密閉式鉛蓄電池において、化成後における前記正極活物質ペースト中のβ-PbO_(2)の結晶子の大きさD(Å)が300≦D≦500であることを特徴とする密閉式鉛蓄電池。」と、化成後における正極活物質ペースト中のβ-PbO_(2)の結晶子の大きさが300Å以上500Å以下であることを特徴とする、密閉式鉛蓄電池に係る発明が記載されていたが、当該密閉式鉛蓄電池についての前提としての、「鉛または鉛合金からなる正極格子に、鉛粉を硫酸で混練した正極活物質ペーストを充填した正極板が用いられた密閉式鉛蓄電池」との記載では、「化成」を行うことが明記されていないため、前記特徴との関係で、不明瞭な記載となっていた。

これに対して、 訂正事項(1)によれば、前記特徴を備えた、密閉式鉛蓄電池について、「鉛または鉛合金からなる正極格子に、鉛粉を硫酸で混練した正極活物質ペーストを充填した後に化成して得られた正極板が用いられた密閉式鉛蓄電池において、」と正され、前記特徴との関係が明瞭となる。

そして、前記特徴を備えた、密閉式鉛蓄電池に係る発明の実施形態である、本件訂正前の実施例1?5には、正極板は、鉛または鉛合金からなる正極格子に、鉛粉を硫酸で混練した正極活物質ペーストを充填した後に化成して得られた極板であることが記載されていた(本件訂正前の明細書の段落【0015】?【0020】)。

したがって、訂正事項(1)は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。


2.訂正事項(2)について
訂正事項(2)は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「化成後における前記正極活物質ペースト中のβ-PbO_(2)」を、「前記正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)」と訂正するものである。

ここで、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1には、「鉛または鉛合金からなる正極格子に、鉛粉を硫酸で混練した正極活物質ペーストを充填した正極板が用いられた密閉式鉛蓄電池において、化成後における前記正極活物質ペースト中のβ-PbO_(2)の結晶子の大きさD(Å)が300≦D≦500であることを特徴とする密閉式鉛蓄電池。」と記載され、結晶子の大きさが300Å以上500Å以下である、β-PbO_(2)について、「化成後における前記正極活物質ペースト中のβ-PbO_(2)」と記載されていたが、「前記正極活物質ペースト」は、「鉛粉を硫酸で混練した正極活物質ペースト」であるところ、当該「鉛粉を硫酸で混練した正極活物質ペースト」の中にβ-PbO_(2)があることは特定されていないため、「化成後における前記正極活物質ペースト中のβ-PbO_(2)」との記載では、「鉛粉を硫酸で混練した正極活物質ペースト」との関係で、不明瞭な記載となっていた。

これに対して、 訂正事項(2)によれば、β-PbO_(2)について、「前記正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)」と正され、当該β-PbO_(2)と、「前記正極活物質ペースト」である、「鉛粉を硫酸で混練した正極活物質ペースト」との関係が、明瞭となる。

そして、密閉式鉛蓄電池に係る発明の実施形態である、本件訂正前の実施例1?5には、結晶子の大きさが300Å以上500Å以下である、β-PbO_(2)は、鉛粉を硫酸で混練した正極活物質ペーストを、鉛または鉛合金からなる正極格子に充填した後に、化成して得られることが記載されていた(本件訂正前の明細書の段落【0015】?【0020】)。

したがって、訂正事項(2)も、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。


3.訂正事項(3)、(4)について
訂正事項(3)は、本件訂正前の明細書の段落【0011】の「正極活物質ペーストを充填した正極板」を、「正極活物質ペーストを充填した後に化成して得られた正極板」と訂正するものであり、また、訂正事項(4)は、本件訂正前の明細書の段落【0011】の「化成後における前記正極活物質ペースト中のβ-PbO_(2)」を、「前記正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)」と訂正するものであるところ、これらの訂正事項は、上記訂正事項(1)及び訂正事項(2)により訂正された特許請求の範囲の請求項1の記載に明細書の発明の詳細な説明の記載を整合させるためのものである。

したがって、訂正事項(3)、(4)は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、また、上記訂正事項(1)及び訂正事項(2)と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。


4.訂正事項(5)について
訂正事項(5)は、明細書の段落【0010】の第1?2行目、段落【0012】?【0021】、段落【0024】、及び、段落【0025】の「正極活物質ペースト中のβ-PbO_(2)」を、それぞれ、「正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)」と訂正するものであるところ、この訂正事項も、上記訂正事項(4)と同様、上記訂正事項(2)により訂正された特許請求の範囲の請求項1の記載に明細書の発明の詳細な説明の記載を整合させるためのものである。

したがって、訂正事項(5)も、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。


5.訂正事項(6)について
訂正事項(6)は、明細書の段落【0010】の第5行目の「正極活物質ペースト中のβ-PbO_(2)」を、「正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)」と訂正するものであるところ、この訂正事項は、本件訂正前の明細書の段落【0010】の第5?9行目の従来技術についての、「なお、正極活物質ペースト中のβ-PbO_(2)の結晶格子を小さくする(β-PbO_(2)の結晶子279Å以下)ことで、軟化による劣化を抑制でき寿命性能が改善できることは特開2004-193097号公報(9ページ,48行目、10ページ,3行目及び表5参照)で公知であるが、これはサイクルユースで用いられる場合であり、本願のスタンバイユースについて検討し言及したものではない。」との記載における、「正極活物質ペースト中のβ-PbO_(2)」を訂正するものである。

この訂正事項は、従来技術についての、「正極活物質ペースト中のβ-PbO_(2)」を、訂正事項(5)により訂正された明細書の発明の詳細な説明の記載と整合させるためのものである。

したがって、訂正事項(6)も、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

また、従来技術についての、「正極活物質ペースト中のβ-PbO_(2)」が、「正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)」であることは、例えば先行技術文献である特開2004-193097号公報の9?10ページにも記載されている技術事項であり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。


6.まとめ
よって、訂正事項(1)ないし(6)は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同法同条第5項及び第6項の規定に適合するので、適法な訂正と認める。


よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
密閉式鉛蓄電池
【技術分野】
【0001】
本発明は密閉式鉛蓄電池、特に正極板を備える密閉式鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、近年、保守対策の観点から従来のベント形鉛蓄電池に代わって補水の不要な密閉式鉛蓄電池が主流となっており、これら密閉式鉛蓄電池は、電力貯蔵、電動車などの深い充放電を繰り返すサイクルユース、又は、通信機器、無停電電源システム(以下UPS)などのバックアップ用途向けのスタンバイユース(商用電源が停電した際の非常用に用いる為に、常時は使用されず待機している用いられ方)に大別される。
【0003】
無停電電源システムなどのスタンバイユースに使用される密閉式鉛蓄電池等の鉛蓄電池電池は、待機時は鉛蓄電池の自己放電を補うため常時定電圧でフロート充電されて満充電状態に維持され、停電等の異常時にその電力を放電し得る様に備えている。
【0004】
フロート充電時には実質的に自己放電分以上の電流が流れるため、正極からの酸素ガス発生が増加し、負極における再結合反応も増えるので電池温度が上昇し、さらにフロート電流が増大するという悪循環に陥り、鉛蓄電池寿命に悪影響を与える。
【0005】
特に即用極板と呼ばれる、専用の化成槽内で化成した極板を用いる場合は、未化成極板を鉛蓄電池の電槽内に収納して化成をする電槽化成した極板と比較すると、負極活物質の表面積が大きくなるため、フロート充電時の実効電流密度は小さくなって充電分極を小さくするのでフロート電流が数倍も大きくなる現象が見られる。このため、即用極板を用いた鉛蓄電池の寿命は一般的には電槽化成した鉛蓄電池より短くなる傾向がある。
【0006】
フロート充電による鉛蓄電池寿命の低下は、一般的に正極集電格子の腐食による導電性低下、腐食膨張による活物質と集電格子の密着性低下、電槽からの透湿による電解液減少のための内部抵抗の増大などが主な原因である。
【0007】
そこで、フロート電流を低減し、寿命特性を改善するために、負極細孔容積の制御(特許文献1)、官能基を限定したリグニンの負極活物質への添加(特許文献2)などが実施されている。これらは充電中の負極過電圧を大きくすることで、正極過電圧が減少して正極からの酸素発生が抑制され、負極への酸素吸収を少なくしてフロート電流を抑えることを目的としている。
【0008】
【特許文献1】特開平09-199115号公報
【特許文献2】特開2002-117856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、UPS等のスタンバイユースの密閉式鉛蓄電池には、25℃環境で10年以上の長寿命の要求が多く、更なる改良が望まれている。上記特許文献以外にも寿命特性の改善のために腐食減量を考慮した正極集電格子の鉛量の増量なども実施されているが、これはエネルギー密度の観点から好ましくない。
そこで、UPS等に要求される10年以上の長寿命を正極集電格子の鉛量を低く維持しながら達成するためには、更なるフロート電流の低減が必要となっている。
【0010】
このような背景の下、スタンバイユースで用いられている密閉式鉛蓄電池において、正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)の結晶子の大きさD(Å)を300≦D≦500とすることで、フロート充電電流を低減させ、鉛蓄電池の長寿命を達成することが可能であることを突き止めた。
なお、正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)の結晶格子を小さくする(β-PbO_(2)の結晶子279Å以下)ことで、軟化による劣化を抑制でき寿命性能が改善できることは特開2004-193097号公報(9ページ,48行目、10ページ,3行目及び表5参照)で公知であるが、これはサイクルユースで用いられる場合であり、本願のスタンバイユースについて検討し言及したものではない。
前述するように、スタンバイユースの主な劣化原因はフロート充電時の充電電流の増加による正極集電体の腐食や電解液の減少である。従って、本願はサイクルユースで使用される結晶子のサイズよりも、スタンバイユースで用いられる結晶子のサイズを大きくすることで、フロート充電時の過電圧を大きくし、充電電流を減少させ、密閉形鉛蓄電池の寿命特性を改善するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、鉛または鉛合金からなる正極格子に、鉛粉を硫酸で混練した正極活物質ペーストを充填した後に化成して得られた正極板が用いられた密閉式鉛蓄電池において、前記正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)の結晶子の大きさD(Å)が300≦D≦500であることを特徴とするものである。
【0012】
なお、本発明において正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)の結晶子の大きさD(Å)を300≦D≦500とすることで、フロート充電電流を低減した密閉式鉛蓄電池を作製することが可能であり、前記正極活物質ペーストを用いることで、長寿命な密閉式鉛蓄電池を提供することが可能である。
しかし、結晶子の大きさD(Å)が300未満である場合、フロート充電電流の低減効果が殆ど見られず、また、結晶子の大きさD(Å)が500超過である場合、膨張による活物質と集電格子の密着性低下等により正極活物質が脱落し易くなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)の結晶子の大きさD(Å)を300≦D≦500とすることで、フロート充電電流を低減し、長寿命な密閉式鉛蓄電池を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の密閉式鉛蓄電池は、鉛または鉛合金からなる正極格子体に、鉛粉を主成分として含む正極活物質ペーストを充填し、その後、熟成、乾燥を行い正極未化成板とした。次に、鉛または鉛合金からなる負極格子体に、鉛粉を主成分として含む負極活物質ペーストを充填し、その後、熟成、乾燥を行い負極未化成板とした。そして、公知の方法により正極未化成板および負極未化成板を所定時間充電し(即用化成)、次いで、水洗、乾燥を行い夫々の正極板、負極板を得た。その後、即用化成した正、負極板をセパレータを介して交互に積層した後、同極性同士の極板の耳部を溶接によって接続することにより極板群とし、これを電槽に収納し、この電槽に注液や排気用の開口部を有する蓋を溶着あるいは接着剤で接着し、この開口部から電解液を電解液量が極板群に含浸する程度として、電槽内に注入し、充電して製造されるものである。
この際、正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)の結晶子の大きさD(Å)を300≦D≦500とすることで、フロート充電電流を低減させた制御弁式鉛蓄電池の製造方法を提供することが可能であり、前記正極活物質ペーストを用いることで、長寿命な密閉式鉛蓄電池を提供することが可能である。
【実施例1】
【0015】
(未化成の正極板の製造)
まず、公知の方法により鉛粉を主成分として含む正極活物質ペーストを作製した。そして、該正極活物質ペーストを鉛-カルシウム合金から成る鋳造基板に充填し、その後、40℃、湿度95%の環境下で24時間熟成、乾燥を行い正極未化成板とした。
(未化成の負極板の製造)
次に、未化成の正極板と同様に、鉛粉を主成分として含む負極活物質ペーストを作製した。そして、該負極活物質ペーストを鉛-カルシウム合金から成る鋳造基板に充填し、その後、40℃、湿度95%の環境下で24時間熟成、乾燥を行い負極未化成板とした。
(電池組立、電解液の調製と化成)
そして、夫々作製した正極未化成板および負極未化成板(同時化成)を、希硫酸(比重1.08)の入った化成槽中に浸漬させ所定時間充電を行った(即用化成)。
この際、正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)の結晶子の大きさD(Å)がD=300(Å)となる様に、化成槽中の希硫酸温度を略40℃一定となるように、化成槽中に備え付けたヒータによって化成槽中の温度の制御を行った。
即用化成終了後、水洗、乾燥を行い夫々の正極板、負極板を得た。これらの正極板と負極板にガラス繊維を主体とするセパレータとを交互に積層し組み合わせ、COS方式(キャストオンストラップ方式)で極板同士を溶接して極板群とした。これをPP製(ポリプロピレン製)の電槽に入れ、ヒートシールによって蓋をした。そして、電解液として比重1.285(20℃)の希硫酸を所定量添加し、12V、定格容量2Ahの密閉式鉛蓄電池を作製した(本発明1)。
【0016】
なお、予備試験の結果より、正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)の結晶子の大きさD(Å)は、即用化成中の希硫酸温度を変化させることで可能であり、図1に示すように、結晶子の大きさと希硫酸温度は近似曲線により略直線関係にあることが確認された。
そこで、図1を参照して希硫酸温度から結晶子の大きさD(Å)を求めるには、先ず、希硫酸温度を40℃とすると、希硫酸温度40℃の値から垂直に直線を延ばし(上矢印)、近似曲線との交点(a)を求める。次いで、交点(a)から結晶子の大きさD(Å)を示す縦軸に水平に直線を延ばして(左矢印)交わった点(b)が所望の結晶子の大きさD(Å)となる。このようにして、希硫酸温度から結晶子の大きさD(Å)を求めることが可能である。
図1は結晶子の大きさD(Å)(縦軸)と希硫酸温度(横軸)の関係を示したものであり、図中の丸印は結晶子の大きさD(Å)を示し、破線は近似曲線を示している。
【実施例2】
【0017】
正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)の結晶子の大きさD(Å)がD=330(Å)となる様に、化成槽中の希硫酸温度を略45℃一定となるように、化成槽中に備え付けたヒータによって制御した以外は、実施例1と同様に12V、定格容量2Ahの密閉式鉛蓄電池を作製した(本発明2)。
【実施例3】
【0018】
正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)の結晶子の大きさD(Å)がD=400(Å)となる様に、化成槽中の希硫酸温度を略55℃一定となるように、化成槽中に備え付けたヒータによって制御した以外は、実施例1と同様に12V、定格容量2Ahの密閉式鉛蓄電池を作製した(本発明3)。
【実施例4】
【0019】
正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)の結晶子の大きさD(Å)がD=435(Å)となる様に、化成槽中の希硫酸温度を略60℃一定となるように、化成槽中に備え付けたヒータによって制御した以外は、実施例1と同様に12V、定格容量2Ahの密閉式鉛蓄電池を作製した(本発明4)。
【実施例5】
【0020】
正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)の結晶子の大きさD(Å)がD=500(Å)となる様に、化成槽中の希硫酸温度を70℃一定となるように、化成槽中に備え付けたヒータによって制御した以外は、実施例1と同様に12V、定格容量2Ahの密閉式鉛蓄電池を作製した(本発明5)。
【0021】
(比較例1)
正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)の結晶子の大きさD(Å)がD=280(Å)となる様に、化成槽中の希硫酸温度を35℃一定となるように、化成槽中に備え付けたヒータによって制御した以外は、実施例1と同様に12V、定格容量2Ahの密閉式鉛蓄電池を作製した(比較例1)。
(比較例2)
正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)の結晶子の大きさD(Å)がD=550(Å)となる様に、化成槽中の希硫酸温度を80℃一定となるように、化成槽中に備え付けたヒータによって制御した以外は、実施例1と同様に12V、定格容量2Ahの密閉式鉛蓄電池を作製した(比較例2)。
【0022】
夫々作製した密閉式鉛蓄電池(本発明1?5、比較例1?2)を用いて、フロート充電電流の低減効果の確認、及び、密閉形鉛蓄電池の寿命確認をするためフロート寿命試験を行った。
フロート寿命試験は、夫々の密閉式鉛蓄電池を雰囲気温度60℃一定となるように恒温槽に投入し、13.65Vの定電圧充電を行った。そして、10日毎に電流計を用いて充電電流の測定を行った。
また、同一の密閉形鉛蓄電池を用いて、30日毎に0.16CAにおける容量確認試験を行った。
なお、夫々定格容量の70%を切った時点で寿命と判断した。
図2にフロート充電電流(縦軸)と経過日数(横軸)の関係を示す。図3に0.16CA容量(縦軸)と経過日数(横軸)の関係を示す。図3は、夫々の密閉形鉛蓄電池の初期容量を100%とした時の容量の推移を比率で表したものである。
【0023】
図2に示すように、10日迄の充電電流において、本発明1?5(結晶子の大きさD(Å)をD=300?500Å)及び比較例1(D=280)、比較例2(D=550)の差は殆ど見られないが、10日過ぎた頃からその差が顕著となり、本発明1?5は、比較例1及び、比較例2に比しフロート充電電流が低減されていることが分かる。
これは、β-PbO_(2)の結晶子の大きさD(Å)をD=300?500Åとすることで、前記β-PbO_(2)の比表面積を小さくすることができ、比表面積の減少により、活物質の反応表面積が減少して、充電過電圧が大きくなるため、フロート充電電流が減少したと考えられる。
【0024】
図3に示すように、本発明1?5(正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)の結晶子の大きさD(Å)をD=300?500(Å))は比較例1(D=280(Å))、比較例2(D=550(Å))に比し、長寿命であることが分かる。
比較例1では、実施例1?5に比し結晶子が小さく、フロート電流の低減効果が少ないため、格子腐食が進行し、比較例2では、結晶子が大きく、活物質と集電格子の密着性低下により正極活物質が脱落し、早期容量低下となったものと思われる。
【0025】
以上の結果より、正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)の結晶子の大きさD(Å)を300≦D≦500とすることで、フロート充電電流を低減し、長寿命な密閉式鉛蓄電池を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】結晶子の大きさD(Å)(縦軸)と希硫酸温度(横軸)の関係を示す図である。
【図2】フロート充電電流(縦軸)と経過日数(横軸)の関係を示す図である。
【図3】0.16CA容量(縦軸)と経過日数(横軸)の関係を示す図である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛または鉛合金からなる正極格子に、鉛粉を硫酸で混練した正極活物質ペーストを充填した後に化成して得られた正極板が用いられた密閉式鉛蓄電池において、前記正極活物質ペーストの化成後のβ-PbO_(2)の結晶子の大きさD(Å)が300≦D≦500であることを特徴とする密閉式鉛蓄電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2014-08-01 
出願番号 特願2008-141098(P2008-141098)
審決分類 P 1 41・ 853- Y (H01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 市川 篤  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 河本 充雄
小川 進
登録日 2013-06-07 
登録番号 特許第5283429号(P5283429)
発明の名称 密閉式鉛蓄電池  
代理人 西澤 利夫  
代理人 西澤 利夫  

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