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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02K |
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管理番号 | 1291067 |
審判番号 | 不服2013-14801 |
総通号数 | 178 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-10-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-08-01 |
確定日 | 2014-08-18 |
事件の表示 | 特願2011- 14122「モータのステータおよびモータ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月21日出願公開、特開2011- 83192〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成16年12月20日に出願した特願2004-367684号の一部を平成23年1月26日に新たな特許出願としたものであって、平成24年9月27日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成24年10月1日)、これに対し、平成24年11月14日付で意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年5月13日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成25年5月15日)、これに対し、平成25年8月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出され、これに対し、当審により平成26年3月13日付で平成25年8月1日付手続補正を却下する(発送日:平成26年3月27日)とともに最後の拒絶の理由が通知され(発送日:平成26年3月14日)、これに対し、平成26年5月12日付で意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2.平成26年5月12日付の手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成26年5月12日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由I] (1)補正の内容 本件補正前の特許請求の範囲は、以下のとおりである。 「【請求項1】 ステータを備えるモータであって、 前記ステータは、 内周面を有するヨーク部と、 先端側で周状に連結され、反先端側が周方向等間隔で配置された複数のティースを有し、コイルが外周に巻装されたボビンが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部と、 を備え、 前記ティースの前記反先端側は、前記ヨーク部の内周面に嵌合されており、 前記ヨーク部の前記内周面のうち前記ティースの反先端側との嵌合部位には、当該ティースの反先端側を凸部として収納可能な、まわり止め凹部構造が設けられており、 前記まわり止め凹部構造は、 前記複数のティースと同一の前記周方向等間隔で、かつ、周方向中心線の位置が各ティースの周方向中心線と同一位置となるようにしつつ、前記複数のティースの数と同じ数だけ設けられており、 前記ヨーク部の前記内周面は、前記まわり止め凹部構造以外の部位が、前記ボビンの径方向外周側に臨むように配置されている ことを特徴とするモータ。 【請求項2】 内周面を有するヨーク部と、 先端側で周状に連結され、反先端側が周方向等間隔で配置された複数のティースを有し、コイルが外周に巻装されたボビンが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部と、 を備え、 前記ティースの前記反先端側は、前記ヨーク部の内周面に嵌合されており、 前記ヨーク部の前記内周面のうち前記ティースの反先端側との嵌合部位には、当該ティースの反先端側を凸部として収納可能な、まわり止め凹部構造が設けられており、 前記まわり止め凹部構造は、 前記複数のティースと同一の前記周方向等間隔で、かつ、周方向中心線の位置が各ティースの周方向中心線と同一位置となるようにしつつ、前記複数のティースの数と同じ数だけ設けられており、 前記ヨーク部の前記内周面は、前記まわり止め凹部構造以外の部位が、前記ボビンの径方向外周側に臨むように配置されている ことを特徴とする、モータのステータ。」 これに対し、本件補正により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。 「【請求項1】 ステータを備えるモータであって、 前記ステータは、 内周面を有するヨーク部と、 先端側で周状に連結され、反先端側が周方向等間隔で配置された複数のティースを有し、コイルが外周に巻装されたボビンが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部と、 を備え、 前記ティースの前記反先端側は、前記ヨーク部の内周面に嵌合されており、 前記ヨーク部の前記内周面のうち前記ティースの反先端側との嵌合部位に、ティース挿入時に前記ティースとそれぞれ接する第1面及び第2面を有し前記ティースの挿入をガイドして周方向の位置決めを行うとともに、ティース挿入後は前記ティースのまわり止めストッパとして機能する、位置決め・ストッパ部が設けられており、 前記ボビンに巻回された前記コイルは、径方向内側に向かって周方向寸法が漸減するテーパ状巻回部と、前記テーパ状巻回部の径方向外側に位置し周方向寸法が径方向に沿って略均一な直線状巻回部と、を備えており、 前記ヨーク部の前記内周面は、前記位置決め・ストッパ部以外の部位が、凹凸のない略平らな構造にて、前記ボビンに巻回された前記コイルの前記直線状巻回部の径方向外周側に臨むように配置されている ことを特徴とするモータ。 【請求項2】 内周面を有するヨーク部と、 先端側で周状に連結され、反先端側が周方向等間隔で配置された複数のティースを有し、コイルが外周に巻装されたボビンが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部と、 を備え、 前記ティースの前記反先端側は、前記ヨーク部の内周面に嵌合されており、 前記ヨーク部の前記内周面のうち前記ティースの反先端側との嵌合部位に、ティース挿入時に前記ティースとそれぞれ接する第1面及び第2面を有し前記ティースの挿入をガイドして周方向の位置決めを行うとともに、ティース挿入後は前記ティースのまわり止めストッパとして機能する、位置決め・ストッパ部が設けられており、 前記ボビンに巻回された前記コイルは、径方向内側に向かって周方向寸法が漸減するテーパ状巻回部と、前記テーパ状巻回部の径方向外側に位置し周方向寸法が径方向に沿って略均一な直線状巻回部と、を備えており、 前記ヨーク部の前記内周面は、前記位置決め・ストッパ部以外の部位が、凹凸のない略平らな構造にて、前記ボビンに巻回された前記コイルの前記直線状巻回部の径方向外周側に臨むように配置されている ことを特徴とする、モータのステータ。」 (2-1)新規事項について 本件補正後の請求項1には、「前記ヨーク部の前記内周面のうち前記ティースの反先端側との嵌合部位に、ティース挿入時に前記ティースとそれぞれ接する第1面及び第2面を有し前記ティースの挿入をガイドして周方向の位置決めを行うとともに、ティース挿入後は前記ティースのまわり止めストッパとして機能する、位置決め・ストッパ部が設けられており」と記載されているから、本件補正後の請求項1に記載されたモータは、ティース挿入時に前記ティースとそれぞれ接する第1面及び第2面を有する位置決め・ストッパ部が設けられていることとなり、本願図1、2に記載されるように、嵌合部位に2つの突起を設けることによって、ティース挿入時に前記ティースとそれぞれ接する第1面及び第2面を構成することができると共に、嵌合部位に凹部を設けることによって、ティース挿入時に前記ティースとそれぞれ接する凹部両側面である第1面及び第2面を構成することができる。 そこで、当該補正が、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。 当初明細書等には、 A「前記ティースとの嵌合部以外の前記ヨーク部の内周面は、前記嵌合部の周方向両側において前記ボビン側に突出するように形成され、前記ボビンを支持する突起部と、前記突起部間において前記ヨーク部の内周面を切り欠くように形成されたコイル逃げ部」(【請求項1】) B 「前記突起部の反ティース側の根元部に、なだらかな傾斜部を形成した」(【請求項2】) C「前記ティースとの嵌合部以外の前記ヨーク部の内周面は、前記嵌合部の周方向両側において前記ボビン側に突出するように形成され、前記ボビンを支持する突起部と、前記突起部間において前記ヨーク部の内周面を切り欠くように形成されたコイル逃げ部」(【請求項5】) D「請求項1に記載の発明は、ステータを備えるモータであって、前記ステータは、内周面を有するヨーク部と、先端側で周状に連結された複数のティースを有し、コイルが外周に巻装されたボビンが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部と、を備え、前記ティースの反先端側は、前記ヨーク部の内周面に嵌合され、前記ティースとの嵌合部以外の前記ヨーク部の内周面は、前記嵌合部の周方向両側において前記ボビン側に突出するように形成され、前記ボビンを支持する突起部と、前記突起部間において前記ヨーク部の内周面を切り欠くように形成されたコイル逃げ部と、を有するようにしたものである。 請求項2に記載の発明は、前記突起部の反ティース側の根元部に、なだらかな傾斜部を形成したことを特徴とするものである。 請求項3に記載の発明は、前記傾斜部を、円弧状に形成したことを特徴とするものである。 請求項4に記載の発明は、前記傾斜部を、直線状に形成したことを特徴とするものである。 請求項5に記載の発明は、ステータであって、内周面を有するヨーク部と、先端側で周状に連結された複数のティースを有し、コイルが外周に巻装されたボビンが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部と、を備え、前記ティースの反先端側は、前記ヨーク部の内周面に嵌合され、前記ティースとの嵌合部以外の前記ヨーク部の内周面は、前記嵌合部の周方向両側において前記ボビン側に突出するように形成され、前記ボビンを支持する突起部と、前記突起部間において前記ヨーク部の内周面を切り欠くように形成されたコイル逃げ部と、を有するようにしたものである。」(【0005】) E「請求項1に記載の発明によると、ヨーク部の内周面に形成した突起部がティース部のティースの焼き嵌め時のガイドとなり、周方向(回転方向)の位置決めを気にすることなく目視で容易に挿入することができる。したがって、作業性が向上し、ティース部とヨーク部の嵌め合い部がずれることがなくなり、モータ特性が安定する。また、ティース部は、両側の突起部によって周方向にも固定することができるので、ティース部とヨーク部の嵌め合い部の焼き嵌めのシメシロを低減することができる。したがって、ティース部にかかる応力を緩和することができる。また、突起部の先端がストッパの役目をし、ボビンの径方向の位置決めが確実にでき、コイルがヨーク部に接触するのを防ぐことができる。 請求項2?4に記載の発明によると、突起部を通る角部の磁束の流れがスムーズになり、モータ特性が向上する。」(【0006】) F「本発明が、従来技術と異なるところは、ヨーク部1の内周面の、それぞれのティース2を嵌合する部分、つまり嵌合面6の両側に、突起7を形成した点である。 前記突起7は、前記ティース2の両側面と接するように形成されている。これにより、ティース部4は、前記突起7をガイドとして両突起8間に挿入するだけで、周方向の位置決めがなされてヨーク部1の嵌合面6に焼き嵌め嵌合することができる。また、嵌合後は、前記ティース部4の各ティース2の両側面に接している突起8がストッパの役目をして、ティース部4の回り止めがなされる。これにより、ティース部4とヨーク部1の嵌め合い部の焼き嵌めのシメシロを低減することができ、ティース部4にかかる応力を緩和することができる。 また、前記突起8の反ティース側の根元部に、なだらかな傾斜部9を形成している。磁束10は、ティース部とヨーク間を流れるが、前記突起8のある部分は、磁束10が流れを変える角部にあたっている。その角部にあたる部分になだらかな傾斜部9を形成することにより、磁束10はその角部をスムーズに流れるようになる。傾斜部9は磁束10の流れに沿った円弧状が望ましいが、直線状でもよい。 また、ティース部4のティース2には、直接、あるいはボビンを介してコイル3を巻装するが、巻線を巻装したボビンを前記ティース2に装着する場合は、前記突起8の先端に、前記ボビンを当接させるようにすれば、突起8の先端部がストッパの役目をし、ボビンの径方向の位置決めが確実にでき、コイル3がヨーク部1に接触するのを防ぐことができる。 なお、本発明においては、突起8はティース2の片側のみに設けるようにしてもよい。この場合は、ガイド・位置決め機能と、ボビンのストッパ機能を発揮することができる」(【0009】) と記載されているにすぎず、嵌合面の両側に突起を形成して、突起がティースの両側面と接することによってティースを位置決め・固定することは記載されてはいるが、ヨークの内周面にティースの嵌合部位としての凹部を設け、凹部両側面でティースを位置決め・固定することは、図面を参照しても記載も示唆もない。 したがって、ヨークの内周面にティースの嵌合部位としての凹部を設けることを含む、ティース挿入時に前記ティースとそれぞれ接する第1面及び第2面を有する位置決め・ストッパ部を設けることは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。 なお、本件補正後の請求項2も同様である。 (2-2)目的要件について 本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前の特許法」という。)第17条の2第4項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。 改正前の特許法第17条の2第4項2号の「特許請求の範囲の減縮」は、第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られ、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。 本件補正前の請求項1はモータに係るものであり、本件補正前の請求項2はモータのステータに係るものであり、本件補正後の請求項1はモータに係るものであり、本件補正後の請求項2はモータのステータに係るものであるから、本件補正前の請求項1は本件補正後の請求項1に、本件補正前の請求項2は本件補正後の請求項2に、一応対応するとして検討する。 (ア)ヨーク部の内周面のうちティースの反先端側との嵌合部位には、本件補正前の請求項1は「当該ティースの反先端側を凸部として収納可能な、まわり止め凹部構造」が設けられており、凹部構造だけであったものが、本件補正後の請求項1は「ティース挿入時に前記ティースとそれぞれ接する第1面及び第2面を有し前記ティースの挿入をガイドして周方向の位置決めを行うとともに、ティース挿入後は前記ティースのまわり止めストッパとして機能する、位置決め・ストッパ部」が設けられており、上述のように、嵌合部位に2つの突起を設けることができると共に、嵌合部位に凹部を設けることができることとなる。本件補正前の請求項1の「当該ティースの反先端側を凸部として収納可能な、まわり止め凹部構造」を限定しても、「ティース挿入時に前記ティースとそれぞれ接する第1面及び第2面を有し前記ティースの挿入をガイドして周方向の位置決めを行うとともに、ティース挿入後は前記ティースのまわり止めストッパとして機能する、位置決め・ストッパ部」とはならないから、改正前の特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」に該当しない。なお、本件補正後の請求項2も同様である。 (イ)本件補正前の請求項1は「前記まわり止め凹部構造は、前記複数のティースと同一の前記周方向等間隔で、かつ、周方向中心線の位置が各ティースの周方向中心線と同一位置となるようにしつつ、前記複数のティースの数と同じ数だけ設けられて」いたものが、本件補正後の請求項1は、まわり止め凹部構造が複数のティースと同一の周方向等間隔で前記複数のティースの数と同じ数だけ設けらているという限定が無くなっている。 本件補正前の請求項1のまわり止め凹部構造は、複数のティースの数と同じ数だけ設けられており、上述のように、まわり止め凹部構造を限定しても本件補正後の請求項1の位置決め・ストッパ部とはならないが、仮に、まわり止め凹部構造が位置決め・ストッパ部に対応するとしても、本件補正後の請求項1はティースの数と位置決め・ストッパ部の数が同じ数との限定が無いから、本件補正後の請求項1はティースの数と位置決め・ストッパ部の数が任意(例えば、本件補正後の請求項1では、ティースの数が2個の場合も、4個の場合も、1種類のヨーク部で対応できるように、ヨーク部の内周面の嵌合部位に4個の位置決め・ストッパ部を設けるものが想定できる)となり、改正前の特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」に該当しない。なお、本件補正後の請求項2も同様である。 (ウ)本件補正前の請求項1は、ボビンに巻回されるコイル全体の形状について特定が無かったものが、本件補正後の請求項1は「前記ボビンに巻回された前記コイルは、径方向内側に向かって周方向寸法が漸減するテーパ状巻回部と、前記テーパ状巻回部の径方向外側に位置し周方向寸法が径方向に沿って略均一な直線状巻回部」を有しており、当該構成を採用することによりコイル占積率の増大という新たな課題(平成26年5月12日付意見書(3)参照)を解決している。 本件補正前の請求項1は、ボビンに巻回されるコイル全体の形状について特定が無く、コイル占積率に関する課題を解決していなかったものが、本件補正後の請求項1は径方向内側に向かって周方向寸法が漸減するテーパ状巻回部と、前記テーパ状巻回部の径方向外側に位置し周方向寸法が径方向に沿って略均一な直線状巻回部を有することによって、コイル占積率の増大という新たな課題を解決しているから、改正前の特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」に該当しない。なお、本件補正後の請求項2も同様である。 したがって、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正とは認められない。 また、本件補正が、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的としたものでないことも明らかである。 (3)むすび したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、また、改正前の特許法第17条の2第4項第2号の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 [理由II] 上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、また、改正前の特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないが、仮に本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (1)特許法第36条第6項の要件について 本件補正後の請求項1には、「前記ヨーク部の前記内周面のうち前記ティースの反先端側との嵌合部位に、ティース挿入時に前記ティースとそれぞれ接する第1面及び第2面を有し前記ティースの挿入をガイドして周方向の位置決めを行うとともに、ティース挿入後は前記ティースのまわり止めストッパとして機能する、位置決め・ストッパ部が設けられており」と記載されているから、本願補正発明は、ティース挿入時に前記ティースとそれぞれ接する第1面及び第2面を有する位置決め・ストッパ部が設けられていることとなり、嵌合部位に2つの突起を設けることによって、ティース挿入時に前記ティースとそれぞれ接する第1面及び第2面を構成することができると共に、嵌合部位に凹部を設けることによって、ティース挿入時に前記ティースとそれぞれ接する凹部両側面である第1面及び第2面を構成することができる。 しかし、「2.[理由I](2-1)」に記載したように、発明の詳細な説明には、嵌合部位に2つの突起を設けることによって、ティース挿入時に前記ティースとそれぞれ接する第1面及び第2面を構成することができるものしか開示されておらず、嵌合部位に凹部を設けることによって、ティース挿入時に前記ティースとそれぞれ接する凹部両側面である第1面及び第2面を構成することは開示されておらず、出願時の技術常識に照らしても、本願補正発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 したがって、本件補正後の請求項1の記載は、発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 (2)特許法第29条第2項の要件について (2-1)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された実願平1-95780号(実開平3-34646号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。 1-a「磁気枠が角形に形成された角形磁気枠回転電機において、 前記磁気枠の内周に、前記磁気枠内周に取付られる界磁鉄心の弧状の取付面と同一曲率の界磁鉄心取付面を設け、この界磁鉄心取付面の外周に前記界磁鉄心の取付部が嵌合する位置決め部を設けたことを特徴とする角形磁気枠回転電機。」(実用新案登録請求の範囲) 1-b「ところが、この構成は、主極界磁鉄心12の磁気枠14への取付に際して、主極界磁鉄心12が所定の位置からもし左右に多少ずれても規制できないので、隣接磁極間隔がばらついて、電気的・磁気的特性を損なうおそれがある。」(第3頁6-10行) 1-c「更に、位置決め部8Aとの嵌合で取付位置がずれないので、振動・衝撃に対して強固な回転電機となる。」(第5頁17-19行) 1-d「第2図は、本考案の角形磁気枠回転電機の他の実施例を示し、角形磁気枠10の珪素鋼板の抜板には、主極界磁鉄心12の外周に沿って内側に突出した突起9Aが設けられ、補極鉄心15の外周にも同様に突起9Bが設けられている。」(第5頁20行-第6頁4行) 上記記載及び図面を参照すると、角形磁気枠回転電機のステータが示されている。 上記記載及び図面を参照すると、複数のティースを有し、コイルが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部が示されている。 上記記載及び図面を参照すると、ティースの反先端側は、角形磁気枠の内周面に嵌合している。 上記記載及び図面を参照すると、角形磁気枠の内周面のうちティースの反先端側との嵌合部位に、ティースの嵌合時にティースとそれぞれ接する第1面及び第2面を有する位置決め部を有している。 上記記載及び図面を参照すると、角形磁気枠の内周面は、位置決め部以外の部位が、凹凸のない略平らな構造にて、前記コイルの巻回部の径方向外周側に臨むように配置されている。 上記記載事項からみて、引用例1には、 「ステータを備える角形磁気枠回転電機であって、 前記ステータは、 内周面を有する角形磁気枠と、 複数のティースを有し、コイルが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部と、 を備え、 前記ティースの反先端側は、前記角形磁気枠の内周面に嵌合されており、 前記角形磁気枠の前記内周面のうち前記ティースの反先端側との嵌合部位に、ティースの嵌合時に前記ティースとそれぞれ接する第1面及び第2面を有する位置決め部が設けられており、 前記角形磁気枠の前記内周面は、位置決め部以外の部位が、凹凸のない略平らな構造にて、コイルの巻回部の径方向外周側に臨むように配置されている 角形磁気枠回転電機。」 との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 (2-2)対比 そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「角形磁気枠」、「ティースの嵌合時」は、それぞれ本願補正発明の「ヨーク部」、「ティース挿入時」に相当する。 引用発明の位置決め部は、取付に際してずれを規制し、取付後も位置がずれないから、ティースの挿入をガイドして周方向の位置決めを行うとともに、ティース挿入後は前記ティースのまわり止めストッパとして機能しているので、引用発明の「位置決め部」は、本願補正発明の「ティースの挿入をガイドして周方向の位置決めを行うとともに、ティース挿入後は前記ティースのまわり止めストッパとして機能する、位置決め・ストッパ部」に相当する。 引用発明の「角形磁気枠回転電機」と、本願補正発明の「モータ」は、「回転電機」の概念で一致する。 引用発明の「コイルが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部」と、本願補正発明の「コイルが外周に巻装されたボビンが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部」は、「コイルが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部」の概念で一致する。 引用発明の「前記コイルの巻回部の径方向外周側に臨むように配置」と、本願補正発明の「前記ボビンに巻回された前記コイルの前記直線状巻回部の径方向外周側に臨むように配置」は、「前記コイルの径方向外周側に臨むように配置」の概念で一致する。 したがって、両者は、 「ステータを備える回転電機であって、 前記ステータは、 内周面を有するヨーク部と、 複数のティースを有し、コイルが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部と、 を備え、 前記ティースの反先端側は、前記ヨーク部の内周面に嵌合されており、 前記ヨーク部の前記内周面のうち前記ティースの反先端側との嵌合部位に、ティース挿入時に前記ティースとそれぞれ接する第1面及び第2面を有し前記ティースの挿入をガイドして周方向の位置決めを行うとともに、ティース挿入後は前記ティースのまわり止めストッパとして機能する、位置決め・ストッパ部が設けられており、 前記ヨーク部の前記内周面は、前記位置決め・ストッパ部以外の部位が、凹凸のない略平らな構造にて、前記コイルの径方向外周側に臨むように配置されている 回転電機。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 〔相違点1〕 回転電機に関し、本願補正発明は、モータであるのに対し、引用発明は、角形磁気枠回転電機であるがそれ以上の特定がない点。 〔相違点2〕 複数のティースに関し、本願補正発明は、先端側で周状に連結され、反先端側が周方向等間隔で配置されているのに対し、引用発明は、その様な限定がない点。 〔相違点3〕 ティースそれぞれの外周に装着されたコイルに関し、本願補正発明は、コイルが外周に巻装されたボビンを有しているのに対し、引用発明は、コイルは有しているが、それ以上の限定はない点。 〔相違点4〕 本願補正発明は、ボビンに巻回されたコイルは、径方向内側に向かって周方向寸法が漸減するテーパ状巻回部と、前記テーパ状巻回部の径方向外側に位置し周方向寸法が径方向に沿って略均一な直線状巻回部を有するのに対し、引用発明は、コイルは有しているが、それ以上の限定はない点。 〔相違点5〕 ヨーク部の内周面は、位置決め・ストッパ部以外の部位が、凹凸のない略平らな構造にて、前記コイルの径方向外周側に臨むように配置することに関し、本願補正発明は、ボビンに巻回されたコイルの直線状巻回部の径方向外周側に臨むように配置されるのに対し、引用発明は、コイルの径方向外周側に臨むように配置されている点。 (2-3)判断 相違点1について 回転電機とは、電動機と発電機の総称であるから、引用発明において、角形磁気枠回転電機を電動機、即ちモータとすることは当業者が適宜なし得ることと認められる。 相違点2-5について 先端側で周状に連結され、反先端側が周方向等間隔で配置された複数のティースを有し、コイルが外周に巻装されたボビンが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部は、電動機の分野において周知の事項(必要があれば、原査定の拒絶の理由で挙げた特開2003-299279号公報【図4】、【図5】参照)であるから、引用発明において、上記周知の事項のように、先端側で周状に連結され、反先端側が周方向等間隔で配置された複数のティースそれぞれの外周に、コイルが外周に巻装されたボビンを装着することは当業者が容易に考えられることと認められる。 その際、占積率増大のために、径方向内側に向かって周方向寸法が漸減するテーパ状巻回部と、前記テーパ状巻回部の径方向外側に位置し周方向寸法が径方向に沿って略均一な直線状巻回部を有するボビンに巻回されたコイルは、周知の事項(必要があれば、特開平6-38421号公報【0006】、【図2】参照、特開平7-163082号公報【0002】、【図3】参照)であるから、ボビンに巻回されたコイルに、径方向内側に向かって周方向寸法が漸減するテーパ状巻回部と、前記テーパ状巻回部の径方向外側に位置し周方向寸法が径方向に沿って略均一な直線状巻回部を設けることは、当業者が適宜なし得ることと認められる。 上述のように、相違点4に示されるようなボビンに巻回されたコイルを採用すれば、当然に、ヨーク部の内周面は、位置決め・ストッパ部以外の部位が、凹凸のない略平らな構造にて、ボビンに巻回されたコイルの直線状巻回部の径方向外周側に臨むように配置されるものと認められる。 そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本願補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (3)むすび 以上のとおり、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条の規定により却下されるべきものである。 3.本願発明について 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1、2に係る発明は、「2.[理由I](1)」に記載した平成24年11月14日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりのものである。 (1)当審の拒絶の理由 当審で平成26年3月13日付で通知した最後の拒絶の理由I、IIの概要は以下のとおりである。 『I 平成24年11月14日付でした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 記 (1)請求項1には、「前記ティースの前記反先端側は、前記ヨーク部の内周面に嵌合されており、前記ヨーク部の前記内周面のうち前記ティースの反先端側との嵌合部位には、当該ティースの反先端側を凸部として収納可能な、まわり止め凹部構造が設けられており、前記まわり止め凹部構造は、前記複数のティースと同一の前記周方向等間隔で、かつ、周方向中心線の位置が各ティースの周方向中心線と同一位置となるようにしつつ、前記複数のティースの数と同じ数だけ設けられており」と記載されており、凹とは「くぼみ」のことであるから、請求項1に記載されたモータは、ヨークの内周面にティースの嵌合部位としてのくぼみがあるまわり止め凹部構造が設けられていることとなる。 そこで、当該補正が、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。 当初明細書等には、 A「前記ティースとの嵌合部以外の前記ヨーク部の内周面は、前記嵌合部の周方向両側において前記ボビン側に突出するように形成され、前記ボビンを支持する突起部と、前記突起部間において前記ヨーク部の内周面を切り欠くように形成されたコイル逃げ部」(【請求項1】) B 「前記突起部の反ティース側の根元部に、なだらかな傾斜部を形成した」(【請求項2】) C「前記ティースとの嵌合部以外の前記ヨーク部の内周面は、前記嵌合部の周方向両側において前記ボビン側に突出するように形成され、前記ボビンを支持する突起部と、前記突起部間において前記ヨーク部の内周面を切り欠くように形成されたコイル逃げ部」(【請求項5】) D「請求項1に記載の発明は、ステータを備えるモータであって、前記ステータは、内周面を有するヨーク部と、先端側で周状に連結された複数のティースを有し、コイルが外周に巻装されたボビンが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部と、を備え、前記ティースの反先端側は、前記ヨーク部の内周面に嵌合され、前記ティースとの嵌合部以外の前記ヨーク部の内周面は、前記嵌合部の周方向両側において前記ボビン側に突出するように形成され、前記ボビンを支持する突起部と、前記突起部間において前記ヨーク部の内周面を切り欠くように形成されたコイル逃げ部と、を有するようにしたものである。 請求項2に記載の発明は、前記突起部の反ティース側の根元部に、なだらかな傾斜部を形成したことを特徴とするものである。 請求項3に記載の発明は、前記傾斜部を、円弧状に形成したことを特徴とするものである。 請求項4に記載の発明は、前記傾斜部を、直線状に形成したことを特徴とするものである。 請求項5に記載の発明は、ステータであって、内周面を有するヨーク部と、先端側で周状に連結された複数のティースを有し、コイルが外周に巻装されたボビンが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部と、を備え、前記ティースの反先端側は、前記ヨーク部の内周面に嵌合され、前記ティースとの嵌合部以外の前記ヨーク部の内周面は、前記嵌合部の周方向両側において前記ボビン側に突出するように形成され、前記ボビンを支持する突起部と、前記突起部間において前記ヨーク部の内周面を切り欠くように形成されたコイル逃げ部と、を有するようにしたものである。」(【0005】) E「請求項1に記載の発明によると、ヨーク部の内周面に形成した突起部がティース部のティースの焼き嵌め時のガイドとなり、周方向(回転方向)の位置決めを気にすることなく目視で容易に挿入することができる。したがって、作業性が向上し、ティース部とヨーク部の嵌め合い部がずれることがなくなり、モータ特性が安定する。また、ティース部は、両側の突起部によって周方向にも固定することができるので、ティース部とヨーク部の嵌め合い部の焼き嵌めのシメシロを低減することができる。したがって、ティース部にかかる応力を緩和することができる。また、突起部の先端がストッパの役目をし、ボビンの径方向の位置決めが確実にでき、コイルがヨーク部に接触するのを防ぐことができる。 請求項2?4に記載の発明によると、突起部を通る角部の磁束の流れがスムーズになり、モータ特性が向上する。」(【0006】) F「本発明が、従来技術と異なるところは、ヨーク部1の内周面の、それぞれのティース2を嵌合する部分、つまり嵌合面6の両側に、突起7を形成した点である。 前記突起7は、前記ティース2の両側面と接するように形成されている。これにより、ティース部4は、前記突起7をガイドとして両突起8間に挿入するだけで、周方向の位置決めがなされてヨーク部1の嵌合面6に焼き嵌め嵌合することができる。また、嵌合後は、前記ティース部4の各ティース2の両側面に接している突起8がストッパの役目をして、ティース部4の回り止めがなされる。これにより、ティース部4とヨーク部1の嵌め合い部の焼き嵌めのシメシロを低減することができ、ティース部4にかかる応力を緩和することができる。 また、前記突起8の反ティース側の根元部に、なだらかな傾斜部9を形成している。磁束10は、ティース部とヨーク間を流れるが、前記突起8のある部分は、磁束10が流れを変える角部にあたっている。その角部にあたる部分になだらかな傾斜部9を形成することにより、磁束10はその角部をスムーズに流れるようになる。傾斜部9は磁束10の流れに沿った円弧状が望ましいが、直線状でもよい。 また、ティース部4のティース2には、直接、あるいはボビンを介してコイル3を巻装するが、巻線を巻装したボビンを前記ティース2に装着する場合は、前記突起8の先端に、前記ボビンを当接させるようにすれば、突起8の先端部がストッパの役目をし、ボビンの径方向の位置決めが確実にでき、コイル3がヨーク部1に接触するのを防ぐことができる。 なお、本発明においては、突起8はティース2の片側のみに設けるようにしてもよい。この場合は、ガイド・位置決め機能と、ボビンのストッパ機能を発揮することができる」(【0009】) と記載されているにすぎず、嵌合面の両側に突起を形成して、突起がティースの両側面と接することによってティースを固定することは記載されてはいるが、ヨークの内周面にティースの嵌合部位としてのまわり止め凹部構造を設けることは、図面を参照しても記載も示唆もない。 したがって、ヨークの内周面にティースの嵌合部位としてのまわり止め凹部構造を設けることは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。 なお、請求項5も同様である。 II この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 (1)ヨークの内周面にティースの嵌合部位としてのまわり止め凹部構造を設けることは、発明の詳細な説明に実質的に開示されていないから、出願時の技術常識に照らしても、本件補正後の請求項1、5に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないので、本件補正後の請求項1、5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。』 なお、上記拒絶理由中の請求項5は、請求項2の誤記である。 4.平成26年3月13日付拒絶の理由についての判断 (1)理由Iについて 本件補正前の平成24年11月14日付でした補正により請求項1に、「前記ティースの前記反先端側は、前記ヨーク部の内周面に嵌合されており、前記ヨーク部の前記内周面のうち前記ティースの反先端側との嵌合部位には、当該ティースの反先端側を凸部として収納可能な、まわり止め凹部構造が設けられており、前記まわり止め凹部構造は、前記複数のティースと同一の前記周方向等間隔で、かつ、周方向中心線の位置が各ティースの周方向中心線と同一位置となるようにしつつ、前記複数のティースの数と同じ数だけ設けられており」と記載されており、凹とは「くぼみ」のことであるから、本件補正前の請求項1に記載されたモータは、ヨークの内周面にティースの嵌合部位としてのくぼみがあるまわり止め凹部構造が設けられていることとなる。 そこで、当該補正が、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものか否か検討する。 当初明細書等には、A-Fの記載があるにすぎず、嵌合面の両側に突起を形成して、突起がティースの両側面と接することによってティースを固定することは記載されてはいるが、ヨークの内周面にティースの嵌合部位としてのまわり止め凹部構造を設けることは、図面を参照しても記載も示唆もない。なお、本件補正前の請求項2も同様である。 したがって、ヨークの内周面にティースの嵌合部位としてのまわり止め凹部構造を設けることは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではない。 したがって、本件補正前の平成24年11月14日付でした補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 (2)理由IIについて 当初明細書等には、嵌合面の両側に突起を形成して、突起がティースの両側面と接することによってティースを固定することは記載されてはいるが、ヨークの内周面にティースの嵌合部位としてのまわり止め凹部構造を設けることは、発明の詳細な説明に開示されておらず、出願時の技術常識に照らしても、本件補正前の請求項1、2に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないので、本件補正前の請求項1、2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 したがって、本件補正前の請求項1-2に記載された事項により特定される発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているので、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしていない。 5.むすび したがって、本件補正前の平成24年11月14日付でした補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、また、本件補正前の請求項1-2の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 6.原査定の理由に対する当審の判断 上記のとおり、本願は、平成26年3月13日付の拒絶の理由を解消していないが、仮に、当該拒絶の理由を解消しているとして、次に、本願の発明の進歩性について検討する。 (1)本願発明 本願の請求項1に係る発明は、「2.[理由I](1)」に記載した平成24年11月14日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、以下、これを「本願発明」という。 (2)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例1には、図面と共に、以下の事項が記載されている。 1-a「磁気枠が角形に形成された角形磁気枠回転電機において、 前記磁気枠の内周に、前記磁気枠内周に取付られる界磁鉄心の弧状の取付面と同一曲率の界磁鉄心取付面を設け、この界磁鉄心取付面の外周に前記界磁鉄心の取付部が嵌合する位置決め部を設けたことを特徴とする角形磁気枠回転電機。」(実用新案登録請求の範囲) 1-b「ところが、この構成は、主極界磁鉄心12の磁気枠14への取付に際して、主極界磁鉄心12が所定の位置からもし左右に多少ずれても規制できないので、隣接磁極間隔がばらついて、電気的・磁気的特性を損なうおそれがある。」(第3頁6-10行) 1-c「この磁気枠7の四辺の各中央には、内周に主極界磁鉄心12の取付面12aと同じ曲率でその幅が主極界磁鉄心12の幅よりも約0.1mm広い弧状の取付面7aが両側に突出した位置決め部8aの間に凹字状に形成されている。 一方、四つの面取り状の隅部の中央部にも、同じく内周に丸形補極磁心15の取付面と同じ曲率で直径が丸形補極磁心15の径よりも約0.1mm大きい取付面7bが、両側の位置決め部8bの間に凹字状に形成されている。」(第4頁11-20行) 1-d「更に、位置決め部8Aとの嵌合で取付位置がずれないので、振動・衝撃に対して強固な回転電機となる。」(第5頁17-19行) 1-e「第2図は、本考案の角形磁気枠回転電機の他の実施例を示し、角形磁気枠10の珪素鋼板の抜板には、主極界磁鉄心12の外周に沿って内側に突出した突起9Aが設けられ、補極鉄心15の外周にも同様に突起9Bが設けられている。」(第5頁20行-第6頁4行) 上記記載及び図面を参照すると、角形磁気枠回転電機のステータが示されている。 上記記載及び図面を参照すると、複数のティースを有し、コイルが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部が示されている。 上記記載及び図面を参照すると、ティースの反先端側は、角形磁気枠の内周面に嵌合している。 上記記載及び図面を参照すると、角形磁気枠の内周面のうちティースの反先端側との嵌合部位に、当該ティースの反先端側を凸部として収納可能な、位置決め部を有している。 上記記載及び図面を参照すると、位置決め部は、周方向中心線の位置が各ティースの周方向中心線と同一位置となるようにしつつ、複数のティースの数と同じ数だけ設けられている。 上記記載及び図面を参照すると、角形磁気枠の内周面は、位置決め部以外の部位が、コイルの巻回部の径方向外周側に臨むように配置されている。 上記記載事項からみて、引用例1には、 「ステータを備える角形磁気枠回転電機であって、 前記ステータは、 内周面を有する角形磁気枠と、 複数のティースを有し、コイルが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部と、 を備え、 前記ティースの反先端側は、前記角形磁気枠の内周面に嵌合されており、 前記角形磁気枠の内周面のうち前記ティースの反先端側との嵌合部位に、当該ティースの反先端側を凸部として収納可能な、位置決め部が設けられており、 前記位置決め部は、 周方向中心線の位置が各ティースの周方向中心線と同一位置となるようにしつつ、前記複数のティースの数と同じ数だけ設けられており、 前記角形磁気枠の前記内周面は、前記位置決め部以外の部位が、前記コイルの巻回部の径方向外周側に臨むように配置されている 角形磁気枠回転電機。」 との発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている。 (3)対比 そこで、本願発明と引用例1発明とを比較すると、引用例1発明の「角形磁気枠」、「位置決め部」は、それぞれ本願発明の「ヨーク部」、「まわり止め凹部構造」に相当する。 引用例1発明の「角形磁気枠回転電機」と、本願発明の「モータ」は、「回転電機」の概念で一致する。 引用例1発明の「コイルが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部」と、本願発明の「コイルが外周に巻装されたボビンが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部」は、「コイルが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部」の概念で一致する。 したがって、両者は、 「ステータを備える回転電機であって、 前記ステータは、 内周面を有するヨーク部と、 複数のティースを有し、コイルが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部と、 を備え、 前記ティースの反先端側は、前記ヨーク部の内周面に嵌合されており、 前記ヨーク部の前記内周面のうち前記ティースの反先端側との嵌合部位に、当該ティースの反先端側を凸部として収納可能な、まわり止め凹部構造が設けられており、 前記まわり止め凹部構造は、 周方向中心線の位置が各ティースの周方向中心線と同一位置となるようにしつつ、前記複数のティースの数と同じ数だけ設けられている 回転電機。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 〔相違点1〕 回転電機に関し、本願発明は、モータであるのに対し、引用例1発明は、角形磁気枠回転電機であるがそれ以上の特定がない点。 〔相違点2〕 複数のティースに関し、本願発明は、先端側で周状に連結され、反先端側が周方向等間隔で配置されているのに対し、引用例1発明は、その様な限定がない点。 〔相違点3〕 ティースそれぞれの外周に装着されたコイルに関し、本願発明は、コイルが外周に巻装されたボビンを有しているのに対し、引用例1発明は、コイルは有しているが、それ以上の限定はない点。 〔相違点4〕 まわり止め凹部構造に関し、本願発明は、複数のティースと同一の周方向等間隔で設けられるのに対し、引用例1発明は、その様な限定がない点。 〔相違点5〕 本願発明は、ヨーク部の内周面は、まわり止め凹部構造以外の部位が、ボビンの径方向外周側に臨むように配置されているのに対し、引用例1発明は、ヨーク部の内周面は、まわり止め凹部構造以外の部位が、コイルの巻回部の径方向外周側に臨むように配置されている点。 (4)判断 相違点1について 回転電機とは、電動機と発電機の総称であるから、引用例1発明において、角形磁気枠回転電機を電動機、即ちモータとすることは当業者が適宜なし得ることと認められる。 相違点2-5について 先端側で周状に連結され、反先端側が周方向等間隔で配置された複数のティースを有し、コイルが外周に巻装されたボビンが前記ティースそれぞれの外周に装着されたティース部、及び、複数のティースと同一の周方向等間隔で設けられるまわり止め凹部構造は、電動機の分野において周知の事項(必要があれば、原査定の拒絶の理由で挙げた特開2003-299279号公報【図4】、【図5】参照)であるから、引用例1発明において、上記周知の事項のように、先端側で周状に連結され、反先端側が周方向等間隔で配置された複数のティースそれぞれの外周に、コイルが外周に巻装されたボビンを装着して、複数のティースと同一の周方向等間隔で設けられるまわり止め凹部構造に挿入することは当業者が容易に考えられることと認められる。 上述のように、相違点4に示されるようなボビンに巻回されたコイルを採用すれば、当然に、ヨーク部の内周面は、まわり止め凹部構造以外の部位が、ボビンの径方向外周側に臨むように配置されるものと認められる。 そして、本願発明の作用効果も、引用例1発明から当業者が予測できる範囲のものである。 したがって、本願発明は、引用例1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)むすび したがって、本願発明は、引用例1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-06-06 |
結審通知日 | 2014-06-09 |
審決日 | 2014-07-08 |
出願番号 | 特願2011-14122(P2011-14122) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(H02K)
P 1 8・ 572- WZ (H02K) P 1 8・ 121- WZ (H02K) P 1 8・ 561- WZ (H02K) P 1 8・ 575- WZ (H02K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 河村 勝也 |
特許庁審判長 |
堀川 一郎 |
特許庁審判官 |
槙原 進 平城 俊雅 |
発明の名称 | モータのステータおよびモータ |
代理人 | 益田 博文 |
代理人 | 益田 弘之 |