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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 E02D 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 E02D |
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管理番号 | 1292501 |
審判番号 | 無効2013-800015 |
総通号数 | 179 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-11-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2013-01-31 |
確定日 | 2014-10-22 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第4653127号発明「オーガ併用鋼矢板圧入工法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 平成19年 2月 8日:出願(特願2007-29593号) 平成22年12月24日:設定登録(特許第4653127号) 平成25年 1月31日:本件審判請求 平成25年 4月22日:被請求人より答弁書提出 平成25年 6月25日:審理事項通知書 平成25年 7月25日:請求人より口頭審理陳述要領書提出 平成25年 7月25日:被請求人より口頭審理陳述要領書提出 平成25年 8月 8日:口頭審理 第2 本件発明 本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(なお、「1-A]?「1-I」,「2-A」?「2-J],「3-A」?「3-B」,「4-A」?「4-C」は当審で付与。) 「【請求項1】 (1-A)下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と、 (1-B)該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、 (1-C)該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、 (1-D)昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置 (1-E)を具備した杭圧入引抜機を使用して、 (1-F)オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して鋼矢板を地盤内に圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法において、 (1-G)杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく、オーガケーシングを挿通してチャックし、圧入する鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤を、オーガによって相互に一定の間隔を空けて先行掘削し、 (1-H)その後、圧入する鋼矢板とオーガケーシングを一体として、杭掴み装置に挿通してチャックし、オーガによる掘削が前記先行掘削した地盤と連続するとともに、前記先行掘削と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域となるようにオーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行うことを特徴とする (1-I)オーガ併用鋼矢板圧入工法。 【請求項2】 (2-A)下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と、 (2-B)該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、 (2-C)該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、 (2-D)昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置 (2-E)を具備した杭圧入引抜機を使用して、 (2-F)オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して、既設の鋼矢板と継手部を相互に噛合させて鋼矢板を地盤内に順次圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法において、 (2-G)杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく、オーガケーシングを挿通してチャックし、圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤を、圧入する鋼矢板の継手部と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍の地盤であって、 既設の鋼矢板の圧入時に掘削された掘削済みの地盤から一定の間隔を空けてオーガによって先行掘削し、 (2-H)その後、圧入する鋼矢板の継手部を既設の鋼矢板と噛合させてオーガケーシングと一体として杭掴み装置に挿通してチャックし、オーガによる掘削が、圧入する鋼矢板と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍の掘削済みの地盤と先行掘削した圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤と連続するとともに、前記先行掘削と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域となるようにオーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行い、 (2-I)以後順次この作業を繰り返すことを特徴とする (2-J)オーガ併用鋼矢板圧入工法。 【請求項3】 (3-A)鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削を、オーガケーシングの径より、拡径可能な径大のオーガを使用して行う (3-B)請求項1又は2記載のオーガ併用鋼矢板圧入工法。 【請求項4】 (4-A)鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削を、オーガケーシングの径より、拡径可能な径大のオーガを使用して行うとともに、 (4-B)オーガの中心位置を、鋼矢板の幅方向に直交する方向の中心線上に配置して掘削する (4-C)請求項1又は2記載のオーガ併用鋼矢板圧入工法。」 第3 当事者の主張 1.請求人の主張、及び提出した証拠の概要 請求人は、特許4653127号発明の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書及び平成25年7月25日付け口頭審理陳述要領書において、甲第1?4号証及び参考資料1?10を提示し、以下の無効理由を主張した。 [無効理由1] 本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明を単に組み合わせたものであり、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (具体的理由) (1)審判請求書 ア 本件特許発明と証拠に記載された発明の対比 (ア)本件発明1 構成要件1-A?1-F,1-Iは、甲第1号証に記載されている。 構成要件1-Gは、甲第2号証に記載されている。 構成要件1-Hは、甲第2号証の「間隔を空けて先行掘削を行った結果生じた鋼矢板の断面範囲の未掘削部分に対して、さらに先行掘削を行い、鋼矢板の断面範囲について先行掘削が完全に行われた上で、先行掘削が行われた範囲内で掘削と同時に鋼矢板の圧入を行うよう構成されたこと」に、甲第3号証の「鋼矢板の断面範囲を掘削しながら鋼矢板を同時に圧入する技術」を組み合わせることで、当業者が容易に想到することができたものと考えられる。 (審判請求書15頁11行?20頁4行) (イ)本件発明2 構成要件2-A?2-F,2-I,2-Jは、甲第1号証に記載されている。 構成要件2-Gは、甲第4号証に記載されている。 構成要件2-Hは、甲第4号証の「その後、圧入する鋼矢板の継手部を既設の鋼矢板と噛合させてオーガケーシングと一体として杭掴み装置に挿通してチャックし、オーガによる掘削が、圧入する鋼矢板と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍の掘削済みの地盤と先行掘削した圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤と連続するとともに、オーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行う」ことと、甲第3号証の「鋼矢板の断面範囲を掘削しながら鋼矢板を同時に圧入する技術」を組み合わせることで、当業者が容易に想到することができたものと考えられる。 (同20頁6行?23頁25行) (ウ)本件発明3 構成要件3-Aは、甲第1号証または甲第3号証に記載されている。または周知技術である。 構成要件3-Bは、甲第1号証ないし甲第4号証に基いて当業者が容易に想到し得る事項である。 (同23頁27行?24頁19行) (エ)本件発明4 構成要件4-Aは、甲第1号証または甲第3号証に記載されている。または周知技術である。 構成要件4-Bは、甲第1号証または甲第3号証に記載されている。 構成要件4-Cは、甲第1号証ないし甲第4号証に基いて当業者が容易に想到し得る事項である。 (同24頁21行?25頁11行) イ 本件特許発明の課題と証拠に記載された発明との対比 (ア)本件特許発明の課題について 本件明細書の段落[0010]を参照。 (イ)拡径可能なオーガは周知技術であることについて 甲第3号証の段落[0006]及び図10を参照。 (なお、前記の図10を[参考図2]とする。) (ウ)課題を解決するための手段について (a)請求項1(最初の鋼矢板圧入)について 参考図2において、鋼矢板の圧入される地盤の全域を掘削するためには、最初の矢板圧入において未掘削となる部分、すなわち両継手部を先行掘削によって予め掘削しておけばよい。 両継手部を先行掘削することは甲第2号証に間を空ける意義も含めて記載されていた。 (b)請求項2(2枚目以降の鋼矢板圧入)について 参考図2において、鋼矢板の圧入される地盤の全域を掘削するためには、2枚目以降の矢板圧入において未掘削となる部分、すなわち開放側継手部を先行掘削によって予め掘削しておけばよい。 開放側継手部を先行掘削することは甲第4号証に記載されていた。 上述のように、鋼矢板断面の全域を掘削するとした本件発明の課題は、甲第4号証記載の先行掘削と甲第3号証記載の同時掘削を組み合わせれば解決できることに当業者であれば容易に想到できる。 (以上、審判請求書25頁13行?27頁4行) (2)口頭審理陳述要領書 ア 本件発明の出願時の技術水準について (ア)周知技術1 構成要件1-A?1-Fは周知技術であった。 ただ、甲1号証には、昇降体の下方に配備された杭掴み装置が旋回可能であるとの記載はないが、旋回可能であることは技術常識からみて明白である。 念のため、参考資料1?3にも記載されている。 (陳述要領書1頁末行?2頁20行) (イ)周知技術2 拡径可能なオーガは周知技術であった。 本件発明の明細書に従来技術として引用された甲1号証及び甲3号証、参考資料4?6に記載されている。 (同2頁22行?3頁3行) イ 甲1ないし甲4号証の記載事項 (ア)甲1号証 (a)1-D及び2-Dについて 上記ア(ア)で述べたとおり周知技術であった。 (同5頁25行?6頁3行) (イ)甲2号証 (a)構成要件1-Gについて 甲2号証の10頁2?12行には、2ヶ所の先行削孔を連続させず、一定の間隔を空けて掘削することが記載されている。また、第8図Dより先行削孔H1,H2が鋼矢板P1の継手部Paを掘削するのは明白である。 (同6頁15?25行) (b)構成要件1-Hについて 甲2号証10頁12行?11頁3行には、第8図Dの様に先行削孔H3によって初めて先行削孔H1およびH2が連続し、鋼矢板の圧入地盤の全域の掘削が完了することが明示されている。 周知技術2の「拡径可能なオーガ」を適用すれば、2段階の行程を要する先行削孔H3を、本件発明の連結掘削Cのように1工程の同時掘削圧入で完了できることは技術常識だったから、甲2号証の先行削孔H3に周知技術2(拡径可能なオーガ、例えば3号証図10)を適用して施工の効率化を図ることは当業者であれば普通に行い得ることである。 (同6頁27行?7頁5行,7頁12?19行) (ウ)甲3号証 (a)拡径可能なオーガ 甲3号証の[0006]に「拡径可能なオーガ」が記載され、「拡径可能なオーガ」を鋼矢板の凹部ほぼ中央に配した状況平面が同図10に記載されており、「拡径可能なオーガ」が周知技術であった。 (同9頁2?10行) (エ)甲4号証 (a)構成要件2-Gについて 甲4号証の執筆者らは、硬質な地盤の対策として、予め圧入する鋼矢板の開放側継ぎ手位置およびその近傍をオーガのみで先行掘削した後オーガを鋼矢板に沿わせて掘削と同時に圧入することに想到したのである。 甲4号証に触れた当業者であれば、上述の手法は、容易に理解できた。 また甲4号証から、先行掘削と同時掘削は同一の掘削径であり、同時掘削時のオーガ中心は鋼矢板のほぼ中央であったことがわかる。掘削と圧入を同時に行うためには、既設の鋼矢板に干渉しない掘削径でなければならず、したがって既設の先行掘削と圧入する鋼矢板の先行掘削とは一定の間隔が空くことは自明である。 (同10頁24?11頁25行,12頁22行?13頁8行) (b)構成要件2-Hについて 甲4号証において、当該工事は先行掘削なしに鋼矢板の圧入はできなかったのであるから、鋼矢板背面も掘削可能であったことが推定され、拡径可能なオーガであった可能性は否定できず、同時掘削が先行掘削と併せて鋼矢板断面の全域となることは、甲4号証に実質的に記載されていた。 仮に、拡径可能なオーガではなく鋼矢板背面の掘削が行われていなかったとしても、周知技術2を用いれば鋼矢板背面を掘削できることは技術常識であったのだから、甲4号証に周知技術2を適用することは当業者であれば普通に行い得ることである。 (同13頁13行?14頁8行) ウ 甲1号証に記載の発明に、甲2ないし4号証に記載の発明を適用することの容易性について (ア)甲1号証に甲2号証を組み合わせる容易想到性について 甲1号証において周知技術2のオーガ中心を甲3号証10図のように鋼矢板中心に配置することに決め、その場合1枚目の鋼矢板圧入に際し鋼矢板断面の全域を掘削するためには、鋼矢板背面の掘削は解決済みだから未掘削となる部分、すなわち鋼矢板断面の両継ぎ手部およびその近傍を予め掘削しておくことに想到したのである。 また、甲2号証に触れた当業者では、オーガ単独で互いに一定の間隔が空くように2ケ所に分けて行った先行削孔H1、H2(=構成要素1-G)に跨るように連続する先行削孔H3に、周知技術2を適用すれば2段階の掘削が1回の掘削で済み施工の効率化が図られることは技術常識だったのだから、このような変更(=構成要素1-H)は普通に行なわれることである。 (同15頁末行?16頁7行,17頁9?20行) (イ)甲1号証に甲4号証を組み合わせる容易想到性について 甲1号証においてオーガ中心を甲3号証10図のように鋼矢板中心に配置することに決め、その場合2枚目以降の鋼矢板圧入に際し、鋼矢板断面の全域を掘削するためには、既設鋼矢板の継手部および鋼矢板背面の掘削は解決済みだから未掘削となる部分、すなわち鋼矢板断面の開放側継手部およびその近傍を予め掘削しておくことに想到したのであろうが、この未掘削部分を既設鋼矢板の先行掘削から一定の間隔を空けてオーガ単独で先行掘削することは当業者が多く集う土木学会年次学術講演会で公表され、頒布された甲4号証に記載されているように、公然と実施されていた。 また、甲4号証に触れた当業者であれば、甲4号証に記載の工事において、オーガ単独で既設鋼矢板の先行掘削に対して一定の間隔を空けて圧入する鋼矢板の先行掘削が行われたことは前述したように把握できた。そして、鋼矢板にオーガを添わせて2つの先行掘削(=構成要素2-G)と連続するように行う同時掘削が、鋼矢板の背面を掘削したか否か釈然としないが、この同時掘削に周知技術2を適用すれば鋼矢板の背面を掘削できることは技術常識であり、ひいては鋼矢板断面の全域を掘削できるのだから、そのような変更(=構成要素2-H)は普通に行なわれることである。 (同17頁22行?19頁9行) [無効理由2] 特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないため特許を受けることができない。 (具体的理由) (1)審判請求書 請求項1および2では、単に「オーガ」と記載されているが、前述の発明の詳細な説明の記載から明らかなように、本件発明に使用するオーガは、径大のオーガでなければ鋼矢板背面側(ウェブ側)は掘削できないのであるから、鋼矢板が圧入される地盤の全域を掘削することができない。また径大のオーガが縮径できなければオーガ掘削刃が圧入同時掘削の際に圧入した鋼矢板に接触してオーガを引き抜くことができないから、拡径可能なオーガでなければ請求項1ないし請求項2の発明は成立しないのである。したがって、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでない。 (審判請求書29頁3?12行) (2)陳述要領書 鋼矢板背面を掘削しながら鋼矢板を同時に圧入し、鋼矢板の圧入完了後はオーガだけを引き抜くことについて、オーガが備えていなければならない要件について検討する。 ・径大でなければ背面掘削できず、径小でなければ引き抜けず、よって必要条件である。 ・一方、径大にできるので背面掘削が可能となり、径小にできるのでオーガのみ引き抜け、よって十分条件である。 したがって、「拡径可能なオーガ」本件発明においては必要十分条件であり、特許請求の範囲に記載の「単なるオーガ」では足りず特定される必要がある。」 (陳述要領書19頁18行?20頁3行) [証拠方法] 甲第1号証:特開2002-167758号公報 甲第2号証:実願昭62-121324号(実開昭64-28430号) のマイクロフィルム 甲第3号証:特開2005-171733号公報 甲第4号証:平成11年度土木学会関西支部年次学術講演会講演概要、 VI-3-1頁?VI-3-2頁(平成11年5月22日社 団法人土木学会関西支部発行) 参考資料1:特開昭60-112925号公報 参考資料2:特開昭60-112926号公報 参考資料3:特開平10-195872号公報 参考資料4:特開2004-11102号公報 参考資料5:特開昭50-30314号公報 参考資料6:特開昭50-86111号公報 参考資料7の1:国土交通省土木工事標準積算基準書(共通編)平成 20年度(表紙、II-5-(3)-1?3頁、II-5-(7) -1頁、奥付を抜粋) (当審注:丸囲み数字は、括弧囲み数字で表示。) 参考資料7の2:工法比較表(株式会社フジ特殊のホームページ) 参考資料8:硬質地盤クリアエ法 加古川B2工区改築他工事(審判 請求人のホームページ) 参考資料9:地盤調査法、地盤工学会(表紙、p.193-207、 奥付を抜粋) 参考資料10:硬質地盤クリアエ法 鋼矢板圧人標準積算資料[平成 17年度版](全国圧入協会) 2.被請求人の主張、及び提出した証拠の概要 これに対して、被請求人は、平成25年3月5日付けの審判事件答弁書及び平成25年7月25日付け口頭審理陳述要領書において、乙第1?4号証を提示し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めた。 [無効理由1] (具体的理由) (1)答弁書 ア 各甲号証の開示事項について 本件各発明の分説は、請求人の採用する分説の内、「構成要素1-A?1-F」までを「構成要素ア」、「構成要素2-A?2-F」までを「構成要素イ」としてまとめ、その他の構成は請求人の分説を採用するとともに、同一の符合を付する。 (ア)甲1 請求人が甲1に開示されていると主張する本件各発明の構成要素は、「構成要素ア」「構成要素イ」及び「構成要素l-I(2-J)」である。 (答弁書11頁3?4行) (イ)甲2 甲2発明は、シートパイルの圧入工法が、本件発明の工法と異なる。 甲2発明は、鋼矢板とオーガケーシングを杭掴み装置に挿通してチャックすることができない。 甲2発明は、予め先行掘削の完了した大径の孔H3の範囲内で、小径の孔h1を掘削しながらシートパイルP1を圧入している。そのため、シートパイルP1を圧入する地盤の先行掘削は既に先行削孔H3で行っている。 先行削孔H1,H2の目的は、シートパイルP1を 圧入する地盤を先行掘削するのではなく、専ら先行削孔H3を鉛直方向に掘削するためのガイド孔と思われる。 (同12頁21?末行,13頁末行?14頁9行) (ウ)甲3 甲3発明では、先行掘削(図1(c)の掘削範囲a)は、鋼材なしで掘削されたものではあるが、1本単独で掘削されたものであって、しかも圧入する鋼材の端部の圧入位置及び近傍の地盤を掘削することを目的とするものではない。 また先行掘削(図1(c)の掘削範囲b)は、既に建て込まれた鋼材の建込みの際の掘削であり、鋼材なしで掘削されたものではない。 (同15頁1?末行) (エ)甲4 甲4では、前記請求人の引用する「オーガスクリューで鋼矢板腹部を先行削孔」することと、「ケーシングオーガー単独で鋼矢板セクションを先行削孔」することの関係も明りょうではない。 図2は具体的な寸法などが正確に描かれるものではないので、「先行削孔位置」及び「圧入時削孔位置」を重複して削孔するかどうか不明。 (同16頁7?15行) イ 本件発明1について請求人の主張する無効理由1に対する反論 (ア)甲2発明と甲3発明の組合せ 甲2発明に甲3発明を適用することに阻害事由があり、また課題の共通性も動機付けも存在しない。 (同19頁2?12行) (イ)甲2発明と甲3発明を組合せた構成と甲1発明との組合せ 請求人の主張は甲2発明と甲3発明を組み合わせた構成を、更に甲1発明と組み合わせることが容易である、つまり「容易想到」(甲2+甲3)の上に、「容易想到」〈甲1+(甲2+甲3)〉を積み重ねる主張であって、失当である。 甲1発明は、先行削孔をデメリットとする技術思想であり、そのために圧入時の掘削のみで、鋼矢板の断面範囲のほぼ全域を掘削するという技術思想を提案している。よって、先行掘削を前提とする甲2発明或いは甲2発明に甲3発明を組み合わせた構成を甲1発明に適用することには阻害事由があり、何らの動機付けも存在しない。 (同19頁17?23行) ウ 本件発明2について請求人の主張する無効理由1に対する反論 (ア)甲4発明と甲3発明の組合せ 甲4発明と甲3発明には、課題における共通性がなく、両者を組み合わせる動機付けがない。 (同21頁8?9行) (イ)甲4発明と甲3発明を組合せた構成と甲1発明との組合せ 請求人の主張は甲4発明と甲3発明を組み合わせた構成を、更に甲1発明と組み合わせることが容易である旨を主張している。「容易想到」(甲4+甲3)の上に、「容易想到」〈甲1+(甲4+甲3)〉を積み重ねる主張であって、失当である。 甲1発明は、先行削孔をデメリットとする技術思想であり、そのために圧入時の掘削のみで、鋼矢板の断面範囲のほぼ全域を掘削するという技術思想を提案している。よって、先行掘削を前提とする甲4或いは甲4発明に甲3発明を組み合わせた構成を甲1発明に適用することの示唆も動機付けも何ら存在しない。 (同21頁13?19行) エ 本件各発明の課題と甲3,4を対比する請求人の主張について 甲3の図10は、「従来のU型鋼矢板の建込み方法を概略的に示した平面図」(甲3の図面の簡単な説明の欄参照)である。 この図10に基づいて前掲の参考図3の先行掘削の範囲を行う知見を何故当業者が得ることができるのか不明である。 同じく図10から、嵌合側、開放側云々の知見を得ることができない。そのため、この図10に基づいて前掲の参考図4の掘削済み(嵌合側)及び先行掘削(開放側)の範囲の掘削を行う知見を何故当業者が得ることができるのか不明である。 甲3の図10に甲2や甲4を適用することを可能とするための示唆も動機付けも何ら存在しない。 (同23頁5?8行,16?21行) (2)陳述要領書 (答弁書の主張と相違する部分のみ。) ア 「1-D」及び「2-D」に対応する甲1号証の記載事項について 甲1には、「昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置」は記載されていない。 (同4頁28行) [無効理由2] (具体的理由) 1.審判請求書 ア 請求人の主張する無効理由2に対する反論/本件各発明について 本件発明1,2は、「オーガ併用鋼矢板圧入工法」に関する方法の発明である。請求人の指摘するオーガによる掘削工程は、本件発明1では、「オーガによる掘削が前記先行掘削した地盤と連続するとともに、前記先行掘削と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域となる」(構成要素1-H)ことを、又本件発明2では、「オーガによる掘削が、圧入する鋼矢板と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍の掘削済みの地盤と先行掘削した圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤と連続するとともに、前記先行掘削と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域となる」(構成要素2-H)を特定していれば、十分である。 また、「拡径可能なオーガ」が公知であることは請求人も主張している。 よって、本件発明1,2にかかる特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を充足している。 (審判請求書24頁24?末行) 2.陳述要領書 ア [「拡径可能なオーガ」を特定する必要があるかどうか。]について 本件発明1、2におけるオーガによる掘削工程は、「オーガを使用して掘削すること及びその掘削範囲を特定しているもの」であり、掘削するための治具としてのオーガの構成を特定しているものではない。 「拡径可能なオ一ガ」は周知であって、その一例として、乙第2ないし4号証を提示する。 また、甲1にも「拡径可能なオーガ」が記載されている。 よって、本件発明1、2にかかる特許請求の範囲の記載は、「オーガ併用鋼矢板圧入工法」の特定として十分であり、特許法第36条第6項第1号の規定を充足している。 (陳述要領書5頁2?22行) [証拠方法] 乙第1号証:無効2011-800214審決書写し 乙第2号証:実願昭63-156070号(実開平2-78687号) のマイクロフィルム 乙第3号証:実願昭62-9461号(実開昭63-116543号) のマイクロフィルム 乙第4号証:特開平10-140959号公報 第4 無効理由についての当審の判断 [無効理由1] 1.甲第1?5号証の記載事項について (1)甲第1号証の記載事項 本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は当審において付与。以下同様。) ア 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、アースオーガ掘削及び杭圧入併行型の杭圧入機及び杭圧入方法に関するものである。 【0002】 【従来の技術】杭圧入引抜機(杭圧入機)として、既設の杭から反力を取った状態で、新たな杭を降下させることにより地盤に圧入するとともに、既設の杭から反力を取った状態で他の杭を引抜くものが知られている。また、このような杭圧入引抜機には、特開平10-195872公報に示すように、杭の圧入位置をケーシング付きオーガで掘削するとともに杭を圧入することで、硬質地盤に対しても杭を圧入できるものが開発されている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】ところで、例えば図7に示すように、複数の鋼矢板を地盤に連続して圧入して壁状の構造物を構築する場合に、鋼矢板1(杭)を該鋼矢板に沿って配置されたケーシング付きオーガ2で掘削しながら圧入する際に、オーガケーシング2aの径とオーガヘッド2bの径の大きさが略同じ場合には、鋼矢板1はオーガケーシング2aの外側の位置で圧入されるため、オーガケーシング2aの近傍に岩などの障害物3…が存在すると鋼矢板1の圧入が困難となる。さらに、オーガケーシング2aには、杭圧入機によりケーシング付きオーガ2を掴むための突条2d、2dを備えた形状を有するものがあり、該突条2d、2dが障害物に当たる場合においても鋼矢板1の圧入が困難となる。また、図8に示すように、オーガケーシング2aの径より大径のオーガヘッド2cによりオーガケーシング2aと鋼矢板1の断面範囲を掘削すると、前回圧入した鋼矢板1’とオーガヘッド2cが干渉するため掘削は不可能である。上記問題を解決するために、先ず、図9に示すように、図8と同様に大径のオーガヘッド2cを用い、前回圧入した鋼矢板1’とオーガヘッド2cとが干渉しないようにオーガケーシング2aの中心をずらした状態で鋼矢板1の断面範囲を先行掘削し、次に、図10に示すように、オーガケーシング2aとほぼ同じ径のオーガヘッド2bを用い、従来の方法と同様に地盤を掘削しながら鋼矢板1を圧入する方法が考えられる。 【0004】しかしながら、この方法を用いると同じ場所を二度掘削するため二段階の工程を踏まなければならず、また、二種類のオーガヘッドを必要とするためオーガヘッドの交換作業を行わなければならない。さらに、上記大径のオーガヘッドは、周辺の地盤を必要以上に崩壊させるので、鋼矢板の周辺摩擦抵抗力を低下させるという問題があった。 【0005】本発明の課題は上記のような二段階の工程を必要とせず、且つ、確実に掘削圧入できるような杭圧入機及び杭圧入方法を提供することが目的である。」 イ 「【0016】 【発明の実施の形態】以下、図を参照して本発明である杭圧入機及び杭圧入方法の実施の形態について詳細に説明する。 【0017】図1に示すように、杭圧入機10は従来の杭圧入機と同様に、既設の鋼矢板1’…を掴むクランプ11…を下部に備えたサドル12と、該サドル12に対して前後にスライド移動するスライドベース13、該スライドベース13上で旋回する旋回部14、該旋回部14の前方において油圧シリンダ(図示略)により昇降可能な昇降部15、先掘り用のケーシグ付きオーガ16、該ケーシング付きオーガ16の油圧モータ17及び該油圧モータ17に油圧を給油するホースが巻き取られるリール18とを備えたものである。そして、油圧モータ17の下部には油圧シリンダ(図示略)が備えられ、これにより、後述するケーシング付きオーガ16に備えられるオーガケーシング16aに対して、アースオーガ16cを昇降させることができるようになっている。 【0018】そして、上記昇降部15は、図2に示すように円筒状に形成され、その内部にケーシング付きオーガ16に備えられたオーガケーシング16aと、該オーガケーシング16aに沿った状態の鋼矢板1とが上下に挿通されて配置されている。鋼矢板1は、例えばU型の鋼矢板1を用い、両側の側縁部に、隣接する鋼矢板1’と係合するようなセクション部1aが備えられている。そして、オーガケーシング16aの鋼矢板1に沿った側面の反対側の側面の左右に、二本の突条16bが設けられ、昇降部15には、上記突条16b、16bを掴むケーシングチャック部15aが設けられている。該ケーシングチャック部15aにおいては、オーガケーシング16aに設けられた上記突条16b、16bの鋼矢板1側の側面に当接する当接部15b、15bと、上記突条16b、16bの鋼矢板1の反対側の側面を当接部15b、15b側に押圧する油圧シリンダ(図示略)とにより、オーガケーシング16aの突条16b、16bを掴んでオーガケーシング16aの位置を固定するようになっている。 【0019】そして、上述のように、上記ケーシングチャック部15aに掴まれたけオーガケーシング16aの上記突条16b、16bの反対側に鋼矢板1が配置されている。そして、鋼矢板1は、オーガケーシング16aと反対側に設けられた油圧シリンダ(図示略)によって、オーガケーシング16a側に押されるとこにより、オーガケーシング16aと油圧シリンダに挟まれて挟持される。従って、昇降部15において、ケーシング付きオーガ16と鋼矢板1とが互いに当接された状態で捕まれて支持されている。 【0020】また、昇降部15内においては、オーガケーシング16aが鋼矢板1の凹部内に入った状態になるように、且つ、鋼矢板1の側縁のうち、既設の鋼矢板1’と接合するセクション部1aから離れ、その反対側のセクション部1aに近接するように配置されている。このとき、オーガケーシング16aは、鋼矢板1とオーガケーシング16aとの配置構成が、オーガケーシング16aの中心を、鋼矢板1の中心部に対して複数連続して圧入される鋼矢板1の圧入施工の進行方向に上述のように偏心させた配置をとることができるように、鋼矢板1の凹部の幅に対して凹部内に配置されたオーガケーシング16aの径が従来よりもかなり小さくされている。即ち、オーガケーシング16aの径が鋼矢板1の凹部の幅に比較して充分に小さくされており、鋼矢板1の凹部内で、オーガケーシング16aが複数の鋼矢板1の圧入施工の進行方向に大きく移動できるようになっている。このような構成となっている場合に、掘削及び圧入に際して、鋼矢板1とケーシング付きオーガ16とに互いの配置関係を動かすような力が働くと、鋼矢板1に対してケーシング付きオーガ16が相対的に移動してしまう可能性が高くなるが、上述したように昇降部15のチャック装置において油圧シリンダにより鋼矢板1とオーガケーシング16aを同時に互いに当接するように掴んでいるため、鋼矢板1に対してケーシング付きオーガ16が相対的に移動してしまうの防止できる。なお、昇降部15の鋼矢板1が上下に貫通する部分は、鋼矢板1の幅よりも広い空間を有しており、昇降部15内で、鋼矢板1を連続して圧入される鋼矢板1の圧入施工の進行方向(鋼矢板1の幅方向)に動かすことが可能となっており、これにより、昇降部15に掴まれたケーシング付きオーガ16に対して、鋼矢板1の位置をその幅方向にずらすことが可能となっている。 【0021】そして、ケーシング付きオーガ16は、上述のような円筒状のオーガケーシング16aを備え、オーガケーシング16a内には、図3に示すように先端にビット16eを備えるオーガヘッド16fを有するとともに、図1に示すように外周に沿って上下に螺旋状に設けられたスクリューを有するアースオーガ16cが上記油圧モータ17により回転可能に設けられている。 【0022】そして、上記オーガヘッド16fは、図3(a)、(b)に示されるように、拡縮可能であり、Aで示す範囲から突出した突出部16dが折り畳まれるようになっている。このとき、Aはオーガケーシング16aとほぼ同じ径であり、後述するように、掘削時は図3(a)に示すようにオーガヘッド16fを拡径状態としてオーガケーシング16aより広い範囲を掘削できる。また、掘削時以外は図3(b)に示すようにオーガヘッド16fを縮径状態とし、オーガヘッド16fをオーガケーシング16aとほぼ同じ径とすることができる。また、ケーシング付きオーガ16においては、オーガケーシング16aよりアースオーガ16cが長くされるとともに、上述のように昇降部15に掴まれて支持されたオーガケーシング16aに対して、オーガケーシング16aの上端部に設けた上述の図示しない油圧シリンダにより、アースオーガ16cを上下動できるようになっている。これにより、昇降部15を下降させることにより、ケーシング付きオーガ16と鋼矢板1とを同時に地盤中で下降させて、掘削と同時に鋼矢板1の圧入を行なうだけではなく、先にアースオーガ16cだけを下降させて先堀させた後に鋼矢板1を圧入することを繰り返すことができる。また、アースオーガ16cで先堀させた際に、アースオーガ16cを引き上げながら鋼矢板1を圧入させて、既設の鋼矢板1’…だけではなく、アースオーガ16cから反力を取ることもできる。 【0023】次に、上述したような杭圧入機10により、鋼矢板1を地盤に圧入して矢板壁を形成する方法を説明する。 【0024】杭圧入機10は、既設の鋼矢板1をクランプ11により掴むことにで、これら既設の鋼矢板1から反力を取っている。そして、上述のように、昇降部15がアースオーガ16c(当審注:「オーガケーシング16a」の誤記と認める。)を掴んだ状態で、アースオーガ16cを作動させるとともに昇降部15を下降させることにより、オーガケーシング16a下をスクリューの回転駆動により、オーガヘッド16fのビット16eで地盤を掘削しながら鋼矢板1を圧入していく。このとき、図4に示すように、オーガケーシング16aの径は鋼矢板1の凹部よりも小さいが、オーガケーシング16a及び、鋼矢板1を固定する昇降部15は地表近くに位置するので、アースオーガ16c回転時にうける反力によるオーガケーシング16aのずれを軽減して、掘削製度を高めることができるので、掘削範囲を確実に掘削することができる。 【0025】そして、上述したように、掘削時の拡径オーガヘッド16fはオーガケーシング16a径に対して大径であるとともに、鋼矢板1に対してオーガケーシング16aの径が小さく、オーガケーシング16aの中心が、鋼矢板1の中心部に対してBの幅分偏心されるように配置されているため、鋼矢板1の凹部内にオーガケーシング16aが配置された状態で、既に圧入されている鋼矢板1’の新たに鋼矢板1が圧入される側のセクション部1’aと接触せず、且つ、該セクション部1’aと係合するセクション部1aの反対側のセクション部1aの圧入位置を超えるような範囲を掘削範囲とすることができる。これにより、オーガケーシング16aを鋼矢板1に対してシフトさせることにより、拡径オーガヘッド16fを用いて、既に圧入されている鋼矢板1’に接触することなく圧入すべき鋼矢板1の断面範囲を掘削することができ、鋼矢板1圧入位置に岩などの障害物3…の存在時でも、地盤掘削と鋼矢板1の圧入作業を一度に行うことができるので、先行掘削が不要なことにより工期を短縮することができる。また、大きな範囲で先行掘削した場合に比較して、圧入時の掘削範囲を必要最小限に抑えることができ、周辺地盤の崩壊をできるだけ少なくできるので、鋼矢板1の周面摩擦抵抗力を十分に得ることができる。さらに、一種類のオーガヘッド16fで鋼矢板1の圧入が可能であるため、コストを削減することができる。なお、上記掘削範囲は、必ずしも鋼矢板1の開放側のセクション部1aの圧入位置を超えるような範囲としなくてもよく、鋼矢板1の開放側のウェブ部1bの大半が含まれるような範囲を掘削範囲としていればよい。 【0026】また、地盤を先掘りし鋼矢板1の圧入を行う場合は、ケーシング付きオーガ16のオーガケーシング16aと鋼矢板1を上述のように固定した状態で、アースオーガ16cのみを作動させることにより、アースオーガ16cを下降させて地盤を掘削してから、次いで鋼矢板1を地盤に圧入することができる。 【0027】以上のような動作を繰り返し行うことにより、最終的にあらかじめ決められた深さまで鋼矢板1を圧入する。また、ケーシング付きオーガ16引き抜き時、図3(b)に示すように、オーガヘッド16fを縮拡してオーガケーシング16a径とほぼ大きさとすることで容易に引き抜くことができる。なお、杭圧入機10は従来の杭圧入機と同様に鋼矢板1上を自走可能となっており、順次杭圧入機10を前進させて鋼矢板1を連続して圧入することができる。」 ウ 「【0030】 【発明の効果】本発明によれば、掘削の中心位置をシフトさせることで、圧入する杭の断面範囲に渡り掘削し、圧入位置に存在する障害物を除いて杭の圧入を容易に行うことがでる。」 エ 【図1】をみると、「サドル12」上に「スライドベース13」が配備されている。 オ 上記アないしエからみて、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。 「既設の鋼矢板1’を掴んで反力を取るクランプ11を下部に備えたサドル12と、該サドル12上に配備され、該サドル12に対して前後にスライド移動するスライドベース13と、該スライドベース13上で旋回する旋回部14と、該旋回部14の前方において油圧シリンダにより昇降可能な昇降部15と、先掘り用のケーシング付きオーガ16と、を備えた杭圧入機10により、鋼矢板1を地盤に圧入して矢板壁を形成する方法において、 上記鋼矢板1は、U型であって、両側の側縁部に、隣接する鋼矢板1’と係合するようなセクション部1aが備えられ、 上記昇降部15には、オーガケーシング16aの鋼矢板1に沿った側面の反対側の側面の左右に設けられた二本の突条16bを掴んで位置を固定するケーシングチャック部15aが設けられ、 上記ケーシングチャック部15aに掴まれたオーガケーシング16aの上記突条16b、16bの反対側に配置された鋼矢板1がオーガケーシング16a側に押されることにより、昇降部15において、その内部にオーガケーシング16aと、該オーガケーシング16aに沿った状態の鋼矢板1とが上下に挿通されて配置され、同時に互いに当接された状態で捕まれて支持されており、 昇降部15のチャック装置において、鋼矢板1とオーガケーシング16aを同時に互いに当接するように掴んで、アースオーガ16cを作動させるとともに昇降部15を下降させることにより、オーガケーシング16a下をスクリューの回転駆動により、オーガヘッド16fのビット16eで地盤を掘削しながら鋼矢板1を圧入していくものであって、 ケーシング付きオーガ16は、円筒状のオーガケーシング16aを備え、オーガケーシング内には、先端にビット16eを備えるオーガヘッド16fを有するとともに、外周に沿って上下に螺旋状に設けられたスクリューを有するアースオーガ16cが油圧モータ17により回転可能に設けられ、 上記オーガヘッド16fは、拡縮可能であり、オーガケーシング16aとほぼ同じ径で示す範囲から突出した突出部16dが折り畳まれるようになっているので、 掘削時の拡径オーガヘッド16fはオーガケーシング16a径に対して大径であるとともに、鋼矢板1に対してオーガケーシング16aの径が小さく、オーガケーシング16aの中心が、鋼矢板1の中心部に対して偏心されるように配置されているため、鋼矢板1の凹部内にオーガケーシング16aが配置された状態で、既に圧入されている鋼矢板1’の新たに鋼矢板1が圧入される側のセクション部1’aと接触せず、且つ、該セクション部1’aと係合するセクション部1aの反対側のセクション部1aの圧入位置を超えるような範囲を掘削範囲とすることができ、 以上のような動作を繰り返し行い、順次杭圧入機10を前進させて鋼矢板1を連続して圧入することができる、 鋼矢板1を地盤に圧入して矢板壁を形成する方法」 (2)甲第2号証の記載事項 本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ア 「次に上記第2実施例および第3実施例に示す先行削孔掘進用治具を実施した圧入機によりシートパイルを圧入する動作について第8図A?Iおよび第9図A?Iを中心に説明する。 まず、第3図に示すようにオーガスクリュー13の軸の下端に筒状ケーシング12より掘削径の大きいオーガヘッド14aを連結し、第1図に示す電動機9の駆動により減速機10を介してオーガスクリュー13およびオーガヘッド14aを回転させ、アースオーガ装置6の自重およびワイヤの巻取りによる引き込みにより筒状ケーシング12と共に掘進し、第8図Aおよび第9図Aに示すように大径の孔H1を先行して掘削する。掘削後、オーガスクリュー13及びオーガヘッド14aを逆回転させながらワイヤの巻取りにより筒状ケーシング12と共に引き抜く。次に第8図Bおよび第9Bに示すようにこの大径の先行削孔H1と少し離れた位置にオーガヘッド14aが対峙するように圧入機1を移動させ、上記と同様に大径の孔H2を先行して掘削し、オーガスクリュー13、筒状ケーシング2等を引き抜く。次に第8図Cおよび第9図Cに示すように上記先行削孔H1、H2と一部が重複し、これらに跨る位置にオーガヘッド14aが対峙するように圧入機1を移動させ、上記と同様に大径の孔H3を先行して掘削し、オーガスクリュー13、筒状ケーシング12等を引き抜く。このとき、先行削孔H1、H2側は掘削抵抗が少ないが、両側の抵抗がほぼ均等に少なくなるので、オーガヘッド14aはいずれの方向にも倒れることなく、したがって、鉛直方向に先行削孔H3を掘進することができる。次に第8図D及び第9図に示すように大きいオーガヘッド14aを小さいオーガヘッド14bに交換し(第2図参照)、このオーガヘッド14bが上記大径の先行削孔H3対峙するように圧入機1を移動させる。次にシートパイルP1をクレーンにより吊下げ、その下端部の係合部材Pbを筒状ケーシング12の下端部の係合部材16にその下方より係合し(第6図B参照)、シートパイルP1の上端を保持装置11に固定状態に保持させる(第1図参照)。次に上記と同様に電動機9の駆動によりオーガスクリュー13およびオーガヘッド14bを回転させ、アースオーガ装置6の自重およびワイヤの巻取りによる引き込みにより筒状ケーシング12と共に掘進し、小径の削孔h1を掘削しながらこの小径の削孔h1を掘削しながらこの小径の削孔h1に沿ってシートパイルP1を圧入する。このときシートパイルP1はそのほぼ全体が大径の先行削孔H3(H1、H2の一部を含む)内に位置し、地盤が撹拌されているので、容易に圧入することができる。圧入後、保持装置11よりシートパイルP1を開放し、オーガスクリュー13およびオーガヘッド14bを逆回転させながらワイヤの巻取りにより筒状ケーシング12と共に引き抜くことにより筒状ケーシング12の係合部16はそのままシートパイルP1の係合部Pbより離脱し、シートパールP1を圧入状態で残すことができる。次に第8図Eおよび第9図Eに示すように小さいオーガヘッド14bを大きいオーガヘッド14aに交換(第3図参照)すると共に、ブレード21にグリップ19a、19bを備えたアタッチメント20をピン22とナット23により取り付け(第6図A、B参照)、オーガヘッド14aが先行削孔H3と一部重複する削孔位置に対峙するように圧入機1を移動させ、通常ケーシング12に取り付けた一方のグリップ19bを圧入済みのシートパイルP1のグリップPaに連結する。」(明細書9頁11行?12頁20行) イ 第8図,第9図 ウ 上記アないしイからみて、甲第2号証には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。 「圧入機によりシートパイルを圧入する方法において、 まず、オーガスクリュー13の軸の下端に筒状ケーシング12より掘削径の大きいオーガヘッド14aを連結し、オーガスクリュー13およびオーガヘッド14aを回転させ、筒状ケーシング12と共に掘進し、大径の孔H1を先行して掘削し、掘削後、オーガスクリュー13及びオーガヘッド14aを逆回転させながらワイヤの巻取りにより筒状ケーシング12と共に引き抜き、 次に、この大径の先行削孔H1と少し離れた位置にオーガヘッド14aが対峙するように圧入機1を移動させ、上記と同様に大径の孔H2を先行して掘削し、オーガスクリュー13、筒状ケーシング2等を引き抜き、 次に、上記先行削孔H1、H2とが一部重複し、これらに跨る位置にオーガヘッド14aが対峙するように圧入機1を移動させ、上記と同様に大径の孔H3を先行して掘削し、オーガスクリュー13、筒状ケーシング12等をひき抜き、このとき、先行削孔H1、H2側は掘削抵抗が少ないが、両側の抵抗がほぼ均等に少なくなるので、オーガヘッド14aはいずれの方向にも倒れることなく、鉛直方向に先行削孔H3を掘進することができ、 次に大きいオーガヘッド14aを小さいオーガヘッド14bに交換し、このオーガヘッド14bが上記大径の先行削孔H3に対峙するように圧入機1を移動させ、次にシートパイルP1の上端を保持装置11に固定状態に保持させ、上記と同様にオーガスクリュー13およびオーガヘッド14bを回転させ、筒状ケーシング12と共に掘進し、小径の削孔h1に沿ってシートパイルP1を圧入し、このときシートパイルP1はそのほぼ全体が大径の先行削孔H3(H1、H2の一部を含む)内に位置し、地盤が撹拌されているので、容易に圧入することができるもので、圧入後、保持装置11よりシートパイルを開放し、オーガスクリュー13およびオーガヘッド14bを逆回転させながらワイヤの巻取りにより筒状ケーシング12と共に引き抜くことにより筒状ケーシング12の係合部16はそのままシートパイルP1の係合部Pbより離脱し、シートパールP1を圧入状態で残すことができる、圧入機によりシートパイルを圧入する方法」 (3)甲第3号証の記載事項 本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ア 「【0006】 上述した特許文献1?3に記載された方法は、鋼矢板を所定の深さまで建て込んだ後、オーガを引き抜く際に、オーガが鋼矢板に干渉することのないよう、オーガヘッドに掘削刃としての掘削翼が拡縮(拡開、閉刃)する機構を設け、掘削翼を利用して鋼矢板を建て込む部分を掘削しながら、これと並行して鋼矢板を圧入する方法であるが、その際、鋼矢板の圧入を円滑に行なうためには、図10に示すように掘削翼による掘削範囲が鋼矢板1a断面をほぼ包含するようにする必要がある(図中、d_(0)が攪拌翼の縮径時の外径、d_(1)が拡径時の外径である)。 【0007】 この工法を用いて、例えば図11のような土留鋼材1(鋼矢板2に溶接等によりH形鋼5を一体化した組合せ鋼矢板)を建て込もうとすれば、オーガを図12または図13に示すように配置する必要がある。」 イ 「【0048】 図1(a) ?(c) は、図10に示したものと同様の非対称U型鋼矢板2とH形鋼5を一体化した土留め鋼材1を、本願発明の建込み方法により、地盤中に壁状に建て込む場合を概略的に示したものであり、以下の手順で施工を行う。 (1) 最初に土留鋼材なしで掘削範囲aの掘削のみを行う(図1(a) 参照)。 (2) 次の掘削範囲bの掘削を行いながら、同時にオーガにセットした土留鋼材1を、掘削範囲aおよび掘削範囲bに跨がるように圧入する(図1(b) 参照)。 この圧入は、例えば土留鋼材1の上端部を、図3に示すようなオーガ11に設けた鋼材把握装置17でつかんだ状態で、オーガ11の上部に設けた油圧シリンダー18によって下向きの圧下力を加えることによって行う(図3では、土留鋼材1の図示は省略している)。 【0049】 (3) 次の掘削範囲cの掘削を行いながら、オーガ11にセットした土留鋼材1を、掘削範囲bおよび掘削範囲cに跨がるように圧入する(図1(d) 参照)。 (4) 以下、同様の作業を繰り返すことにより、地盤中に土留壁を構築する。」 ウ 【図10】 (4)甲第4号証の記載事項 本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ア 「硬質地盤対応圧入機はケーシングチューブ内のオーガスクリューで鋼矢板腹部を先行削孔し、先端抵抗を減じ、ケーシング引抜抵抗力と既打設鋼矢板の反力で鋼矢板を圧入する工法である。 当工事では施工地盤が非常に固い事もあり、ケーシングオーガー単独で鋼矢板セクション部を先行削孔し、次に鋼矢板を圧入機にセットして削孔・圧入を行う。圧入時はケーシングオーガーをストローク長 500mm削孔し、次にケーシング引抜力も反力として鋼矢板を 500mm圧入する。こうする事により鋼矢板圧入の抵抗力は鋼矢板だけのものとなり、しかも先端抵抗及び周辺摩擦も軽減されると考えられるので圧入力は非常に軽減されると考える。」(VI-3-1 末行?VI-3-2 6行) イ 図-2 ウ 上記ア及びイからみて、甲第4号証には、以下の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。 「硬質地盤対応圧入機はケーシングチューブ内のオーガスクリューで鋼矢板腹部を先行削孔し、先端抵抗を減じ、ケーシング引抜抵抗力と既打設鋼矢板の反力で鋼矢板を圧入する方法であって、 施工地盤が非常に固い場合には、ケーシングオーガ単独で鋼矢板セクション部を先行削孔し、次に鋼矢板を圧入機にセットして削孔・圧入を行う、方法。」 2.当審の判断 (1)本件発明1 ア 対比 甲1発明と本件発明1を対比する。 (ア)甲1発明の「既設の鋼矢板1’を掴んで反力を取るクランプ11」,「既設の鋼矢板1’」,「鋼矢板1」,「サドル12」,「スライドベース13」,「油圧シリンダ」,「昇降部15」,「チャック装置」及び「鋼矢板1を地盤に圧入して矢板壁を形成する方法」は、それぞれ本件発明1の「反力掴み装置」,「既設の鋼矢板」,「鋼矢板」,「台座」,「スライドベース」,「杭圧入引抜シリンダ」,「昇降体」,「杭掴み装置」及び「鋼矢板圧入工法」に相当している。 (イ)甲1発明の「既設の鋼矢板1’を掴んで反力を取るクランプ11を下部に備えたサドル12」は、本件発明1の「下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座」に相当する。 甲1発明の「該サドル12上に配備され、該サドル12に対して前後にスライド移動するスライドベース13」は、本件発明1の「該台座上にスライド自在に配備されたスライドベース」に相当する。 甲1発明の「該スライドベース13上で旋回する旋回部14」は、本件発明1の「スライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレーム」に相当する。 甲1発明の「該旋回部14の前方において油圧シリンダにより昇降可能な昇降部15」は、本件発明1の「該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体」に相当する。 甲1発明において、「杭圧入機」は「杭圧入引抜機」と同等であるので(記載事項ア参照)、甲1発明の「昇降部のチャック装置」「を備えた杭圧入機」と、本件発明1の「昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置を具備した杭圧入引抜機」とは、「昇降体に配備された杭掴み装置を具備した杭圧入引抜機」で一致している。 (ウ)甲1発明は、「アースオーガ16cを作動させるとともに」、「油圧シリンダにより昇降可能」な「昇降部15を下降させることにより、オーガケーシング16a下をスクリューの回転駆動により、オーガヘッド16fのビット16eで地盤を掘削しながら鋼矢板1を圧入していく」、「杭圧入機1により、鋼矢板1を地盤に圧入して矢板壁を形成する方法」であるので、甲1発明の当該方法は、本件発明1の「杭圧入引抜機を使用して、オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して鋼矢板を地盤内に圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法」に相当する。 (エ)上記(ア)ないし(ウ)からみて、本件発明1と甲1発明とは、 「下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と、該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置を具備した杭圧入引抜機を使用して、オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して鋼矢板を地盤内に圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法」で一致し、下記の2点で相違している。 相違点1:杭掴み装置が、本件発明1の杭掴み装置では、昇降体の下方に配備された旋回自在なものであるのに対し、甲1発明では、昇降体の下方に配備されたかどうか不明で、旋回自在かどうかも不明である点。 相違点2:本件発明1は、杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく、オーガケーシングを挿通してチャックし、圧入する鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤を、オーガによって相互に一定の間隔を空けて先行掘削し、その後、圧入する鋼矢板とオーガケーシングを一体として、杭掴み装置に挿通してチャックし、オーガによる掘削が前記先行掘削した地盤と連続するとともに、前記先行掘削と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域となるようにオーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行うのに対し、甲1発明はその様な工程を有していない点。 イ 判断 (ア)相違点1 杭掴み装置を、昇降体の下方配備された旋回自在なものとすることは、請求人が提出する参考文献1(特に、4頁右上欄17?19行,第1図及び第2図の「昇降体5」及び「チャック6」参照。),参考文献2(特に、4頁18?20行,第1図及び第2図の「昇降体5」及び「チャック6」参照。)及び参考文献3(特に、段落【0021】,【図1】及び【図2】の「チャック本体21」,及び「チャック25」参照。)に記載されているように周知な技術である。 したがって、甲1発明において、上記周知技術に基いて、杭掴み装置を昇降体の下方に配備して、旋回自在とすることは、周知技術の付加に過ぎない。 (イ)相違点2 (a)甲1発明は、「大径のオーガヘッド2cを用い、前回圧入した鋼矢板1’とオーガヘッド2cとが干渉しないようにオーガケーシング2aの中心をずらした状態で鋼矢板1の断面範囲を先行掘削し、次に、オーガケーシング2aとほぼ同じ径のオーガヘッド2bを用い、従来の方法と同様に地盤を掘削しながら鋼矢板1を圧入する方法が考えられが、この方法を用いると同じ場所を二度掘削するため二段階の工程を踏まなければならず、また、二種類のオーガヘッドを必要とするためオーガヘッドの交換作業を行わなければならないことや、大径のオーガヘッドは、周辺の地盤を必要以上に崩壊させるので、鋼矢板の周辺摩擦抵抗力を低下させるという問題があった」(記載事項ア)との課題を解決するために、 「掘削時の拡径オーガヘッド16fはオーガケーシング16a径に対して大径であるとともに、鋼矢板1に対してオーガケーシング16aの径が小さく、オーガケーシング16aの中心が、鋼矢板1の中心部に対して偏心されるように配置されているため、鋼矢板1の凹部内にオーガケーシング16aが配置された状態で、既に圧入されている鋼矢板1’の新たに鋼矢板1が圧入される側のセクション部1’aと接触せず、且つ、該セクション部1’aと係合するセクション部1aの反対側のセクション部1aの圧入位置を超えるような範囲を掘削範囲とすることができ」る構造を有し、 「既に圧入されている鋼矢板1’に接触することなく圧入すべき鋼矢板1の断面範囲を掘削することができ、鋼矢板1圧入位置に岩などの障害物3…の存在時でも、地盤掘削と鋼矢板1の圧入作業を一度に行うことができるので、先行掘削が不要なことにより工期を短縮することができる。」ことや、「一種類のオーガヘッド16fで鋼矢板1の圧入が可能であるため、コストを削減することができる。」(以上、記載事項ウ)という作用効果を奏するものである。 (b)上記(a)のような事情を踏まえると、甲第1号証に接した当業者であれば、オーガケーシングの中心を、鋼矢板の中心部に対して偏心させた配置をとることにより、先行掘削を不要にして、地盤掘削と鋼矢板の圧入を一度に行うことができるようにした甲1発明において、先行掘削を行う甲2発明を適用する動機付けは存在しない。 しかも請求人が無効理由1として主張する、甲1発明の地盤掘削と鋼矢板の圧入を一度に行うものから、甲2発明の先行掘削を行うものに替えて、さらにその逆の甲第3号証に記載された鋼矢板の断面範囲を掘削しながら鋼矢板を同時圧入する事項を組み合わせたり(上記第3 1. [無効理由1] (具体的理由) (1) ア (ア)の主張)、甲1発明の鋼矢板の中心部に対して偏心したオーガケーシングの中心を、周知技術2の拡径可能なオーガであって甲第3号証に記載された様に鋼矢板の中心部に戻した上で、さらに先行掘削を行う甲2発明を適用したりすること(上記第3 1. [無効理由1] (具体的理由) (2) ウ (ア)の主張)は、当業者であっても、その様に都合良くオーガケーシングの位置を入れ替えたり、掘削の行程を増減できるものではなく、わざわざ当業者がなし得たこととは到底考えられない。 (c)したがって、上記(b)のとおり甲2発明を甲1発明に適用する動機付けが存在しない上に、オーガケーシングの位置を入れ替えたり、掘削の行程を増やしてまで、甲1発明において、甲2発明、甲第3号証に記載の事項または周知技術2に基いて、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。 ウ 小括 上記ア及びイのとおり、本件発明1は、甲第1ないし3号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件発明2 ア 対比 甲1発明と本件発明2を対比する。 (ア)甲1発明の「既設の鋼矢板1’を掴んで反力を取るクランプ11」,「既設の鋼矢板1’」,「鋼矢板1」,「サドル12」,「スライドベース13」,「油圧シリンダ」,「昇降部15」,「チャック装置」,「セクション部1a」及び「鋼矢板1を地盤に圧入して矢板壁を形成する方法」は、それぞれ本件発明2の「反力掴み装置」,「既設の鋼矢板」,「鋼矢板」,「台座」,「ガイドフレーム」,「杭圧入引抜シリンダ」,「昇降体」,「杭掴み装置」,「継手部」及び「鋼矢板圧入工法」に相当している。 (イ)甲1発明の「既設の鋼矢板1’を掴んで反力を取るクランプ11を下部に備えたサドル12」は、本件発明2の「下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座」に相当する。 甲1発明の「該サドル12上に配備され、該サドル12に対して前後にスライド移動するスライドベース13」は、本件発明2の「該台座上にスライド自在に配備されたスライドベース」に相当する。 甲1発明の「該スライドベース13上で旋回する旋回部14」は、本件発明1の「スライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレーム」に相当する。 甲1発明の「該旋回部14の前方において油圧シリンダにより昇降可能な昇降部15」は、本件発明2の「該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体」に相当する。 甲1発明において、「杭圧入機」は「杭圧入引抜機」と同等であるので(記載事項ア参照)、甲1発明の「昇降部のチャック装置」「を備えた杭圧入機」と、本件発明2の「昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置を具備した杭圧入引抜機」とは、「昇降体に配備された杭掴み装置を具備した杭圧入引抜機」で一致している。 (ウ)甲1発明において、「鋼矢板1は、U型であって、両側の側縁部に、隣接する鋼矢板1’と係合するようなセクション部1aが備えられ、」ていることからすると、鋼矢板1を地盤内に順次圧入する際に、既設の鋼矢板1’とセクション部1aを相互に噛合させていることは、当業者にとって自明である。 (エ)甲1発明は、「アースオーガ16cを作動させるとともに」、「油圧シリンダにより昇降可能」な「昇降部15を下降させることにより、オーガケーシング16a下をスクリューの回転駆動により、オーガヘッド16fのビット16eで地盤を掘削しながら鋼矢板1を圧入していく」、「以上のような動作を繰り返し行い、順次杭圧入機10を前進させて鋼矢板1を連続して圧入することができる、」「杭圧入機1により、鋼矢板1を地盤に圧入して矢板壁を形成する方法」であるので、上記(ウ)の点も考慮すると、甲1発明の当該方法は、本件発明2の「杭圧入引抜機を使用して、オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して、既設の鋼矢板と継手部を相互に噛合させて鋼矢板を地盤内に順次圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法」に相当する。 (オ)上記(ア)ないし(エ)からみて、本件発明2と甲1発明とは、 「下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と、該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと、該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と、昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置を具備した杭圧入引抜機を使用して、オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して、既設の鋼矢板と継手部を相互に噛合させて鋼矢板を地盤内に順次圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法」で一致し、下記の2点で相違している。 相違点3:杭掴み装置が、本件発明2の杭掴み装置では、昇降体の下方に配備された旋回自在なものであるのに対し、甲1発明では、昇降体の下方に配備されたかどうか不明で、旋回自在かどうかも不明である点。 相違点4:本件発明2は、杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく、オーガケーシングを挿通してチャックし、圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤を、圧入する鋼矢板の継手部と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍の地盤であって、既設の鋼矢板の圧入時に掘削された掘削済みの地盤から一定の間隔を空けてオーガによって先行掘削し、その後、圧入する鋼矢板の継手部を既設の鋼矢板と噛合させてオーガケーシングと一体として杭掴み装置に挿通してチャックし、オーガによる掘削が、圧入する鋼矢板と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍の掘削済みの地盤と先行掘削した圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤と連続するとともに、前記先行掘削と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域となるようにオーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行い、以後順次この作業を繰り返しているのに対し、甲1発明はその様な工程を有していない点。 イ 判断 (ア)相違点3 杭掴み装置を、昇降体の下方配備された旋回自在なものとすることは、請求人が提出する参考文献1(特に、4頁右上欄17?19行,第1図及び第2図の「昇降体5」及び「チャック6」参照。),参考文献2(特に、4頁18?20行,第1図及び第2図の「昇降体5」及び「チャック6」参照。)及び参考文献3(特に、段落【0021】,【図1】及び【図2】の「チャック本体21」,及び「チャック25」参照。)に記載されているように周知な技術である。 したがって、甲1発明において、上記周知技術に基いて、杭掴み装置を昇降体の下方に配備して、旋回自在とすることは、周知技術の付加に過ぎない。 (イ)相違点4 (a)甲1発明は、 「大径のオーガヘッド2cを用い、前回圧入した鋼矢板1’とオーガヘッド2cとが干渉しないようにオーガケーシング2aの中心をずらした状態で鋼矢板1の断面範囲を先行掘削し、次に、オーガケーシング2aとほぼ同じ径のオーガヘッド2bを用い、従来の方法と同様に地盤を掘削しながら鋼矢板1を圧入する方法が考えられが、この方法を用いると同じ場所を二度掘削するため二段階の工程を踏まなければならず、また、二種類のオーガヘッドを必要とするためオーガヘッドの交換作業を行わなければならないことや、大径のオーガヘッドは、周辺の地盤を必要以上に崩壊させるので、鋼矢板の周辺摩擦抵抗力を低下させるという問題があった」(記載事項ア)というの課題を解決するために、 「掘削時の拡径オーガヘッド16fはオーガケーシング16a径に対して大径であるとともに、鋼矢板1に対してオーガケーシング16aの径が小さく、オーガケーシング16aの中心が、鋼矢板1の中心部に対して偏心されるように配置されているため、鋼矢板1の凹部内にオーガケーシング16aが配置された状態で、既に圧入されている鋼矢板1’の新たに鋼矢板1が圧入される側のセクション部1’aと接触せず、且つ、該セクション部1’aと係合するセクション部1aの反対側のセクション部1aの圧入位置を超えるような範囲を掘削範囲とすることができ」る構造を有し、 「既に圧入されている鋼矢板1’に接触することなく圧入すべき鋼矢板1の断面範囲を掘削することができ、鋼矢板1圧入位置に岩などの障害物3…の存在時でも、地盤掘削と鋼矢板1の圧入作業を一度に行うことができるので、先行掘削が不要なことにより工期を短縮することができる。」ことや、「一種類のオーガヘッド16fで鋼矢板1の圧入が可能であるため、コストを削減することができる。」(以上、記載事項ウ)という作用効果を奏するものである。 (b)上記(a)のような事情を踏まえると、甲第1号証に接した当業者であれば、オーガケーシングの中心を、鋼矢板の中心部に対して偏心させた配置をとることにより、先行掘削を不要にして、地盤掘削と鋼矢板の圧入を一度に行うことができるようにした甲1発明において、先行掘削を行う甲第4号証に記載の事項を適用する動機付けは存在しない。 しかも請求人が無効理由1として主張する、甲1発明の地盤掘削と鋼矢板の圧入を一度に行うものから、甲4発明の先行掘削を行うものに替えて、さらにその逆の甲第3号証に記載された鋼矢板の断面範囲を掘削しながら鋼矢板を同時圧入する事項を組み合わせたり(上記第3 1. [無効理由1] (具体的理由) (1) ア (ア)の主張)、甲1発明の鋼矢板の中心部に対して偏心したオーガケーシングの中心を、周知技術2の拡径可能なオーガであって甲第3号証に記載された様に鋼矢板の中心部に戻した上で、さらに先行掘削を行う甲4発明を適用したりすること(上記第3 1. [無効理由1] (具体的理由) (2) ウ (ア)の主張)は、当業者であっても、そんなに都合良くオーガケーシングの位置を入れ替えたり、掘削の行程を増減できるものではなく、わざわざ当業者がなし得たこととは到底考えられない。 (c)したがって、上記(b)のとおり甲4発明を甲1発明に適用する動機付けが存在しない上に、オーガケーシングの位置を入れ替えたり、掘削の行程を増やしてまで、甲1発明において、甲4発明、甲第3号証に記載の事項または周知技術2に基いて、相違点4に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。 ウ 小括 上記ア及びイのとおり、本件発明2は、甲第1,3ないし4号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明3及び4 本件発明1及び2が、上記(1)及び(2)に記載したとおり、甲1発明、甲2発明、甲4発明、甲第3号証に記載の事項及び周知技術2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1又は2を引用する本件発明3及び4、つまり本件発明1又は2の構成をすべて備え、これに更なる限定を附した本件発明3及び4についても、甲1発明、甲2発明、甲4発明、甲第3号証に記載の事項及び周知技術2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 [無効理由2] 1.本件特許明細書の記載事項 本件特許明細書には以下の記載がある。 (1)「【0001】 本発明は、オーガによる掘削を併用して鋼矢板の圧入される地盤の全域を掘削することにより、硬質地盤であっても、静荷重型杭圧入引抜機を使用して、鋼矢板をスムーズに圧入するためのオーガ併用鋼矢板圧入工法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 近年、各種土木基礎工事における鋼矢板の圧入・引抜工事においては、振動、騒音の発生が少ない静荷重型杭圧入引抜機が採用されている。 【0003】 この静荷重型杭圧入引抜機は、既設の鋼矢板上に定置された台座の下方に複数の反力掴み装置(クランプ)を設けて、この反力掴み装置により既設杭をクランプすることによって反力を得て、杭掴み装置によりチャックした鋼矢板を地盤に圧入している。そのため、硬質地盤等において、杭掴み装置による圧入力が、既設杭から得られる反力を上回ったときには、鋼矢板を圧入できない場合がある。このような場合、鋼矢板の圧入と同時にオーガによる圧入地盤の掘削を併用することによって鋼矢板の圧入を可能としている。 【0004】 オーガによる掘削を併用する杭圧入引抜作業として、特許文献1によれば、鋼矢板の圧入部周辺を掘削することで、土圧の軽減を図る手段が示されている。また、特許文献2によれば、圧入すべき鋼矢板の中心に対してケーシング付きオーガの中心を鋼矢板の圧入施工の進行方向に沿って、先に圧入された鋼矢板の反対方向へずらし、オーガの径をオーガケーシングの径より大きく拡径可能なものとする手段が示されている。更に、特許文献3によれば、鋼矢板の位置決め精度を確保するためのオーガ装置用ガイド部材を使用して、ケーシング付きオーガで圧入する地盤を先行して掘削する手段が示されている。 【特許文献1】特公昭63-30451 【特許文献2】特開2002-167758 【特許文献3】特開2002-129558 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 特許文献1にかかる杭圧入引抜機は、図12に示すように、既設杭31の継手部31aに、凹部にオーガーケーシング33を抱持した鋼矢板32の一方の継手部32aを噛合させた状態で、杭圧入引抜機による圧入とオーガケーシングに挿通したオーガ(図示略)による掘削を同時に行う。そのため、オーガによる最大掘削範囲径34は、圧入する鋼矢板32の継手部32aと噛合する既設杭31の継手部31aと干渉することがない範囲に限られてしまうため、図12の鋼矢板32にハッチングを施した範囲の地盤が未掘削となり、鋼矢板32の圧入される地盤の全域をオーガによって掘削することができず、硬質地盤において、圧入施工ができないことがある。 【0006】 特許文献2にかかる杭圧入引抜機も、図13に示すように、既設杭31の継手部31aに、凹部にオーガーケーシング36を抱持した鋼矢板35の一方の継手部35aを噛合させた状態で、杭圧入引抜機による圧入とオーガケーシングに挿通したオーガ(図示略)による掘削を同時に行う。特許文献2によれば、圧入する鋼矢板35の中心とオーガケーシング36を進行方向の前後にずらすことにより、特許文献1に示す手段に比べて、オーガの掘削範囲を拡大することができる。 【0007】 しかしながら、オーガによる最大掘削範囲径37は、圧入する鋼矢板35の継手部35aと噛合する既設杭31の継手部31aと干渉することがない範囲に限られてしまうことには変わりないため、図13の鋼矢板35にハッチングを施した範囲の地盤が未掘削となり、鋼矢板35の圧入される地盤の全域をオーガによって掘削することができず、硬質地盤において、圧入施工ができないことがある。そのため、オーガケーシング36を鋼矢板35の圧入施工の進行方向に沿って、既設杭31の反対方向へずらして掘削するという煩瑣な作業が必要となり、作業効率が悪い。 【0008】 特許文献3によれば、先行して掘削する範囲と既設の鋼矢板の掘削範囲とが干渉するため、先行掘削時のオーガの掘削位置精度を保つために、オーガ装置用ガイド部材が必要となり、その脱着操作のための時間を要し、煩瑣な作業となって作業効率が悪い。 【0009】 更に、いずれの手段においても鋼矢板の有効幅の寸法により、オーガの掘削直径を決定するため、広幅鋼矢板やハット形鋼矢板のように有効幅寸法が大きくなれば、それに伴ってオーガの掘削直径を拡大する必要があるため、オーガ掘削トルクの増大による装置の大型化や、作業能率の低下、或いは地盤を必要以上に掘削することにより、環境負荷が大きくなる等の問題があった。 【0010】 そこで本発明はこのような従来の鋼矢板の圧入工法が有している課題を解決するため、オーガによる掘削を併用して鋼矢板の圧入される地盤の全域を掘削することにより、硬質地盤であっても、静荷重型杭圧入引抜機を使用して、鋼矢板をスムーズに圧入することのできるオーガ併用鋼矢板圧入工法を提供することを目的とする。」 (2)「【発明の効果】 【0014】 本発明にかかるオーガ併用鋼矢板圧入工法によれば、静荷重型杭圧入引抜機を使用して、圧入する鋼矢板の両端部及び近傍の地盤の先行掘削と、鋼矢板を圧入しつつ先行掘削した地盤と連続するように地盤掘削することにより、鋼矢板の圧入される地盤の全域をオーガによって掘削することができる。また、静荷重型杭圧入引抜機を使用して、鋼矢板を連続して圧入する際にも、既設の鋼矢板との継手部及び近傍の地盤は、既設の鋼矢板の圧入時にオーガによって先行掘削しているため、圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤の先行掘削と、鋼矢板の圧入時の掘削によって、圧入する鋼矢板の地盤の全域をオーガによって掘削することができる。そのため、硬質地盤であっても、静荷重型杭圧入引抜機を使用して、鋼矢板をスムーズに圧入することができる。 【0015】 また、鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削を、オーガケーシングの径より、拡径可能な径大のオーガを使用して行うため、先行掘削時のオーガとの寸法の違いによる取り替え作業等を必要としない。そのため、オーガの中心位置を、鋼矢板の幅方向に直交する方向の中心線上に配置して掘削することができ、オーガの位置を変更する等の煩瑣な操作が必要ない。」 2.本件発明1及び2と課題との関係 (1)上記1.(1)に記載されている様に、従来は、鋼矢板の圧入される地盤の全域をオーガによって掘削することができなかったり、また鋼矢板の有効幅寸法が大きくなれば、オーガの掘削直径が拡大して、オーガ掘削トルクの増大による装置の大型化や、作業能率の低下、或いは地盤を必要以上に掘削することにより、環境負荷が大きくなる等の課題があったものである。 (2)そして、当該課題を解決するために、本件特許1及び2は、本件特許公報の請求項1及び2に記載されたオーガ併用鋼矢板圧入方法、特に「杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく、オーガケーシングを挿通してチャックし、圧入する鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤を、オーガによって相互に一定の間隔を空けて先行掘削し、その後、圧入する鋼矢板とオーガケーシングを一体として、杭掴み装置に挿通してチャックし、オーガによる掘削が前記先行掘削した地盤と連続するとともに、前記先行掘削と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域となるようにオーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行うこと」という工程により解決できたものと認められる。 3.「拡径可能なオーガ」が必要かどうか (1)請求人が主張するように、本件特許明細書の記載によれば、鋼矢板背面側を掘削した後にオーガを引き抜くために、「拡径可能なオーガ」が使用されているともいえる。 しかしながら上記2.(2)のとおり、本件発明1及び2は、あくまでもオーガ単独による先行掘削と鋼矢板との同時掘削における掘削範囲が重要なのであって、当該掘削に係るオーガの特定までは必要ないものと認められる。 (2)そして、上記掘削範囲を達成するための装置として、本件特許公報に「拡径可能なオーガ」が記載され、また被請求人が提出した乙第2?4号証や、請求人が提出した参考資料4?6に記載されているとおり、「拡径可能なオーガ」は本件出願前より周知なものであったことからすると、本件特許1及び2を実施するに際して、「拡径可能なオーガ」の記載の有無は、出願時の技術常識に照らして、選択可能な範囲内のものといえる。 (3)さらに本件特許明細書によると、上記1.(2)に記載されている様に、「拡径可能なオーガ」によって奏する効果も、先行掘削時のオーガとの寸法の違いによる取り替え作業等を必要としないこと、及びオーガの中心位置を、鋼矢板の幅方向に直交する方向の中心線上に配置して掘削することができ、オーガの位置を変更する等の煩瑣な操作が必要ないことであって、「拡径可能なオーガ」が上記2.(1)で示した課題を解決するために必要な特定事項とまではいえない。 (4)上記(1)?(3)で検討したとおり、請求人が主張する「拡径可能なオーガ」は、課題を解決するために必要な特定事項とは認められず、当該「拡径可能なオーガ」が請求項1及び2に記載されていないことをもって、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではない、とすることはできない。 第5 むすび 以上のとおり、請求人の主張する理由及び証拠方法によって、本件発明1ないし4に係る特許を、無効とすることはできない。 審判に間する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-09-17 |
結審通知日 | 2013-09-19 |
審決日 | 2013-10-01 |
出願番号 | 特願2007-29593(P2007-29593) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
Y
(E02D)
P 1 113・ 537- Y (E02D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石村 恵美子 |
特許庁審判長 |
高橋 三成 |
特許庁審判官 |
杉浦 淳 住田 秀弘 |
登録日 | 2010-12-24 |
登録番号 | 特許第4653127号(P4653127) |
発明の名称 | オーガ併用鋼矢板圧入工法 |
代理人 | 田中 二郎 |
代理人 | 田中 幹人 |