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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1292560
審判番号 不服2012-3439  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-02-22 
確定日 2014-10-08 
事件の表示 特願2007-507845「アテローム血栓症およびプラーク破壊を予防するためのアネキシンV」拒絶査定不服審判事件〔平成17年10月27日国際公開、WO2005/099744、平成19年11月15日国内公表、特表2007-532617〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2005年4月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2004年4月15日 (US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成23年10月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年2月22日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされた。その後、前置審査において同年5月1日付けで拒絶理由が通知されたところ、同年8月7日付けで意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成24年2月22日付け手続補正書の特許請求の範囲に請求項1?5として記載されたとおりのものであるところ、その請求項1は以下のとおりである。(以下、「本願発明」ということがある。)
『 【請求項1】 ヒトにおけるプラーク破壊を予防するための医薬組成物の製造における、アネキシンVタンパク質の塩の形状の使用。 』

3.拒絶の理由
前置審査において平成24年5月1日付けで通知された上記拒絶理由通知書における拒絶の理由の概要は、本願の発明の詳細な説明は当業者がアネキシンVタンパク質の塩をヒトにおけるプラーク破壊の予防のために使用できる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないし、各請求項に係る発明の範囲にまで発明の詳細な説明の内容を拡張ないし一般化できるともいえないから、本願は、発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず(拒絶の理由1)、また、特許請求の範囲が同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(拒絶の理由2)、というものである。

4.当審の判断

4-1.特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)について

(1) 本願発明は、「ヒトにおけるプラーク破壊を予防するための医薬組成物」を製造するために「アネキシンVタンパク質の塩の形状」(以下単に「アネキシンV塩」ということがある。)を使用する方法の発明であるということができる。また、「方法」の発明における「発明の実施」とは「その方法を使用する行為」(特許法第2条第3項第2号)であるから、本願発明において「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」(同法第36条第4項第1号)とは、発明の詳細な説明が“「アネキシンV塩」を「ヒトにおけるプラーク破壊を予防する」という薬理作用を示す医薬組成物を製造するために使用できることを当業者が理解できるように記載されていること”であるといえる。そして、発明の詳細な説明がそのように記載されているといえるためには、当該医薬組成物を患者に投与する際に必要な投与量、投与方法、製剤化方法に加え、当該医薬組成物が上記「ヒトにおけるプラーク破壊を予防する」という薬理作用を示すことを当業者が認識できるに足る記載がなされている必要がある。

(2) そこで、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討する。

(2-1) 発明の詳細な説明には、アネキシンVの既知の性状や活性作用、ならびに、実施例の試験結果でみられたアネキシンVの性状等に関し、以下のア.?コ.の記載が認められる。(明細書中の下線は省略し、以下の下線は当審で付した。)

ア. 『 【技術分野】
【0001】 本発明はアテローム性動脈硬化症およびアテローム血栓症の分野に関係する。本発明は取分けアテローム血栓症およびプラーク破壊を予防または阻害するための新規メカニズムに関する。 』

イ. 『 【背景技術】
【0002】 アテローム性動脈硬化症とアテローム血栓症との間には相互関係がある。アテローム性動脈硬化症は炎症性疾患の多くの特徴を有する;例えば、病巣における、多量の炎症性細胞および前炎症性サイトカインの産生などである^(1、2)。
【0003】 心臓血管系疾患による死に至る危険の増大、取分け全身性紅斑性狼瘡(SLE)の患者における死亡リスクは重要な臨床上の課題である。SLE患者の心臓血管系疾患は異常脂肪血症などの伝統的なリスクファクター、および低密度リポタンパク質の酸化(oxLDL)、・・・および抗リン脂質抗体(aPL)などの非伝統的リスクファクターの両方と関連する^(3-7)。抗リン脂質は、SLE患者に共通して、再発性妊娠喪失および再発性血栓症を特徴とする抗リン脂質抗体症候群(ASP)の原因となり得る^(8、9)。抗リン脂質の異なる形状は、一般住民における心臓血管系疾患にも関係がある^(10、11)。
【0004】 アネキシンはカルシウムと負に荷電したリン脂質に結合する性質を有し、その両方の性質が血液凝固に必要である。最近、アネキシンVが抗リン脂質抗体症候群に関係するとされた;その理由は、ある種の抗リン脂質抗体が胎盤のアネキシンV抗血栓遮蔽を崩壊させ、胎盤ミクロ血栓症と再発性流産にかかりやすくするからである^(12-14)。
【0005】 アネキシンVが活性化した血小板と傷害を受けた細胞に結合することが、多分、血栓中での選択的タンパク質保持を説明している。このことは静脈性および動脈性血栓症の実験動物モデルにおいて示されており^(15)、標識アネキシンは、ノイズの少ない安全性の高いヒトの血管血栓を医療用に画像化するためのものとして提案されている^(16)。
・・・・・・
【0007】 「修飾アネキシンタンパク質および血栓症の予防方法」とするEP1379266には、出血を増大させることなく血栓症を予防するために使用するポリエチレングリコール-修飾アネキシンタンパク質が請求されている。・・・ 』

ウ. 『 【0008】 本発明において、我々は、アネキシンVがアテローム性動脈硬化症のプラークを安定化し得ることを示した。アネキシンVまたはアネキシンVのN-末端フラグメントを本発明に従って(好ましくは、注射により)投与すると、それは最初の経路上の内皮プラークに結合する。・・・。アネキシンVまたはアネキシンVのN-末端フラグメントを添加剤と共に、または添加剤なしに含有してなる注射用組成物は、従って、瞬間的な結合を経て頚動脈プラークを安定化することにより、アテローム血栓症を予防する。 』

エ. 『 【0009】 免疫グロブリンGまたはIgGは、・・・
・・・・・・
【0010】 静脈内用免疫グロブリン製剤(例えば、IGIV(バクスター(Baxter)その他)は、市販品として入手可能なIgGの高度精製製剤であり、・・・例、ガンマガード(・・・登録商標)、・・・
・・・・・・
【0011】 かかるIvIg製剤は多くのドナーに由来するプール血漿からのもので、・・・
【0012】 ・・・IGIVなどの容易に入手し得る免疫グロブリンまたはこれら免疫グロブリンのサブフラクションがアテローム血栓症またはプラーク破壊の予防に使用し得るという情報はない。さらに、本発明にて提供されるアネキシンVと内皮との結合の低下の動機となりえるIgGが、抗体と本来のアネキシンVとの結合を阻害し得るという文献情報もない。 』

オ. 『 【発明の開示】
【0013】 本発明はアテローム血栓症およびプラーク破壊を予防し、アテローム性動脈硬化合併症を処置する新規な方法であって、アネキシンVがプラークに結合するのを阻害するIgを阻害することにより前記結合を回復する化合物を投与する方法を提供する。この処置は、一定用量のアネキシンVまたはN-末端フラグメントを、好ましくはIV注射により投与するか、またはアネキシンVが抗体に結合するのを阻害することによりアネキシンVがプラークに結合するのを促進するように作用する免疫グロブリンまたは免疫グロブリンのサブフラクションをIV投与することにより実施する。・・・・・・
【0015】 アテローム血栓症とプラーク破壊のリスクは、抗体がアネキシンV-プラーク結合を阻害する結果として、内皮に結合するアネキシンVが低下するときに、著しく上昇する。プラーク-アネキシン結合を低下させる他の抗体(例えば、アネキシンV-結合抗体)を阻害するアネキシンV(またはフラグメント)の投与、または・・・好ましくは・・・(・・・上記のプール免疫グロブリン製剤のサブフラクション)・・・によるアネキシンV結合の回復は、アテローム血栓症と特に心臓血管系疾患の主要原因であるプラーク破壊に対する新提案治療法を提供する。 』

カ. 『 【0016】 本発明の第1の局面では、アテローム血栓症および/またはプラーク破壊を予防するための医薬組成物の製造における、アネキシンVタンパク質またはアネキシンVのN-末端フラグメントの塩の形状としての使用が提供される。
・・・・・・
【0018】 該医薬組成物は有効量のアネキシンVタンパク質・・・を、担体および添加物と組合わせて含有していてもよい。・・・。その塩は医薬的に許容し得る酸付加塩でよく、その場合の対イオンは、例えば、塩素、酢酸塩などである。
【0019】 該医薬組成物中のアネキシンVの有効量は、アネキシンV-内皮結合の診断的状況分析により決定される。従って、用量は患者のアネキシンV-内皮結合の状態を評価することにより決定し得る。従って、アネキシンV-内皮結合は、アネキシンVと内皮との結合に対する患者血清の影響を、例えば、アネキシンVと培養した内皮細胞との結合に対する患者血漿の影響を評価する、実施例にて使用された技法と同様の技法(「内皮細胞結合の培養;アネキシンVの結合」および「結果」の部参照)を用いて評価することにより評価し得る。患者からの剖検プラーク材料の免疫組織化学的染色(実施例の「ヒトアテローム性動脈硬化症プラークの免疫組織化学的染色」の部に記載)を使用することができる。
【0020】 標識アネキシンを用いる画像化技法(文献16(WO95/34315)の考察参照)も使用し得る。当業者が理解するように、患者のアネキシンV結合が非常に低いと判明したなら、患者のアネキシンV結合が正常人で見出されるものに近いことが分かっている場合よりも、より高用量のアネキシンV(またはそのフラグメント)が必要とされ得る。 』

キ. 『 【0021】 本発明のさらなる局面では、アテローム血栓症および/またはプラーク破壊の危険状態にある被験対象を処置する方法であって、有効量のアネキシンV・・・の塩の形状で含有してなる医薬組成物を当該被験対象に投与することを特徴とする方法が提供される。
【0022】 該危険状態にある被験対象とは全身性紅斑性狼瘡(SLE)患者である。SLE患者はさらに上記に考察したリスクファクターを有している;例えば、異常脂肪血症、低密度リポタンパク質の酸化(oxLDL)上昇、・・・および抗リン脂質抗体(aPL)などである。SLE患者はさらに再発性血栓症または度々繰り返されるアテローム血栓症を示すか、または心臓血管系疾患の1回以上の徴候・・・を切り抜けて生き残っている。危険状態にある被験対象は、肺炎球菌感染症に罹患しているか、罹患していたか、またはそのリスクのある患者であり得る;または・・・重篤な狭心症、または・・・切迫性心臓血管系疾患の徴候ありとする症候または臨床評価に基づき同定される、攻撃され易いプラークを有する患者であり得る。アネキシンV-内皮結合の評価は、上記考察のように、リスクを評価する際に使用し得る。 』

ク. 『 【0024】 本発明のさらなる局面では、アネキシンVの内皮(または内皮細胞、例えば、培養中)に対する結合を促進する能力を有する免疫グロブリンの精製サブフラクション・・・が提供される。・・・。例えば、適切なサブフラクションは、アネキシンVと内皮細胞との結合に対して、SLE症例からの血漿(高抗リン脂質抗体(aPL)タイター血清)の阻害作用を低下させるものであり得る。・・・抗ホスホリルコリン(aPC)抗体、例えば、aPC IgGおよび/またはaPC IgM・・・。実施例に記すように、我々はaPC-BSAとaPC-KLHとアネキシンV結合のレベル間に統計的な相関関係を見出した。・・・ 』
ケ. 『 【実施例】
【0031】 検討グループ
検討したグループは、心臓血管系疾患を1回以上発症し、生き延びてきたSLEの女性26名からなり、血栓塞栓症の非出血性または脈管炎発作・・・;心筋梗塞・・・;狭心症・・・または間欠性跛行・・・(血管造影図により確認される末梢アテローム性動脈硬化症)と定義されたグループ;SLEであるが、心臓血管系疾患の臨床的徴候のない年齢の釣り合う女性26名;および健常集団に基づく年齢の釣り合う女性26名からなる。
・・・・・・
【0033】 頚動脈超音波
左右の頚動脈について、二重機能スキャナー・・・により試験し、アテローム性動脈硬化症の程度は内部媒質厚(IMT)により判定した。
【0034】 アネキシンV結合内皮細胞の培養物
凍結保存プールヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)・・・。HUVECはフローサイトメトリー分析用12穴プレート・・・に、2×10^(4)細胞/mlの密度で;MTT分析評価用96穴プレート(TPP)に、1×10^(4)細胞/ウエル/100μlの密度で;DNA断片化ELISA用24穴プレート(ヌンク)に、8×10^(3)細胞/mlの密度で;播種した。・・・。検討グループから採取したヘパリン保存血漿をSFM中10%の濃度で単層に加えた。
【0035】 細胞は細胞解離溶液・・・により非酵素的に収穫した。・・・再懸濁液を5mg/mlのアネキシンV-FITC(モレキュラー・プローブ)で染色し、氷上、15分間インキュベートした。取得直前に、1mg/mlのヨウ化プロピジウム(PI;・・・)を加えた。分析は・・・FACSスキャン・フロー・サイトメーター・・・で実施した。・・・
【0036】 ヒトアテローム性動脈硬化プラークの免疫組織化学的染色
以前に特性化したヒトプラークについて、免疫染色を実施した。プラークは一過性虚血発作後の頚動脈血管内膜切除術を受けた患者12名から集めた。標品はすべて進行性アテローム性動脈硬化病巣を含んでいた。・・・。凍結切片を・・・マウス・タイプIgG2aのモノクローナル抗アネキシンV抗体・・・と一夜インキュベートした。・・・。二次抗体-ビオチン化ウマ抗マウス免疫グロブリン・・・を加えた。ABCペルオキシダーゼ・エリート(商標)キットを使用した・・・。染色はジアミノベンジジン・・・で発色し、対比染色はヘマトキシリンで実施した。・・・
【0037】 aPCの調製
全IgMまたはIgGフラクションはハイトラップIgMまたはIgGカラム・・・を用いて、市販入手可能なプールヒト免疫グロブリン(ガンマガード(登録商標))から・・・分離した。ホスホリルコリン(PC)に対する抗体は・・・(KLH)・・・または・・・(BSA)・・・に接合したPCにカップル結合したNHS-セファロースカラム上、IgMまたはIgGフラクションを負荷した後に溶出し、・・・濃縮した。・・・
【0038】 内皮細胞に対するアネキシンVの結合
アネキシンVの結合を阻害する高い能力を有するヘパリン保存血漿を、SFM中、10%の濃度でHUVEC単層に加えた。24時間後に、細胞を細胞解離溶液・・・により収穫し、・・・再懸濁液を5mg/mlのアネキシンV-FITC(モレキュラー・プローブ)2μlで染色し、氷上、15分間インキュベートした。取得直前に、1mg/mlのヨウ化プロピジウム(PI;・・・)を加えた。分析は前記同様に実施した。 』

コ. 『 【0039】 結果
アネキシンVの結合に対する免疫グロブリンIgG欠乏の影響
免疫グロブリンIgGサブクラスの欠乏は、アネキシンV結合の蛍光強度増大を2.7?2.6倍にまで至らしめた(完全血清平均FI:267.95± vs 709.91±;中間値FI:222.67± vs567.42±)。IgGフラクションを再構築して欠乏血清とすると、蛍光強度が低下し、一方、IgG溶出液で培養すると、アネキシンV結合の蛍光強度が完全血清の蛍光強度に匹敵するものとなった。
【0040】 アネキシンVの結合はSLE症例からの血漿を使用して、24時間後に対照と比較した場合、有意に低下していた(SLE症例 vs 集団対照:p=0.002;SLE症例 vs SLE対照:p=0.02)。アネキシンVの結合を阻害する高い能力をもつ血清から全IgGを枯渇させると、この結合が完全に回復する。SLE症例の中には、アネキシンV結合とアテローム性動脈硬化症の程度の間に、顕著な正の関連性が存在した(R=0.73;p<0.001)。免疫染色は試験した11/12のプラークにアネキシンVの存在することを明らかにした。
・・・・・・
【0042】 内皮細胞に結合するアネキシンVの測定
・・・・・・
・・・IVIGでプレインキュベートした血清の存在下において、HUVECに対するアネキシンV結合を決定した。IVIGとのプレインキュベーションはアネキシンの結合を回復させ得るが、このことはIVIGに存在する抗体が結合を中和し得ることを物語っている(図1)。
【0043】 aPC-BSAおよびaPC-KLHは共に、CVDの病歴をもつSLE患者において、ECに結合するアネキシンVと有意に関連していた(それぞれ、r=0.45;p=0.02およびr=0.03)。・・・
・・・・・・
【0044】 結合低下を誘発する高い能力を有する血清の肺炎球菌ワクチン(国立血清研究所、デンマーク)、PAF、ホスファチジルセリンまたはリソホスファチジルコリンによるプレインキュベーションは、抗原に対する血清の結合を低下させる作用を有していた;また、アネキシンVの結合も保存された(図:2、3、5)。対照的に、PCは有意な作用を有しなかった。このことは、肺炎球菌ワクチン、PAF、ホスファチジルセリン、リソホスファチジルコリンに結合する抗体が、内皮細胞に対するアネキシンVの結合低下に関与している可能性のあることを示唆している。
【0045】 結論として、アネキシンVはアテローム性動脈硬化病巣の多くの部位、取分け、プラーク破壊の傾向のある部位に存在する。アネキシンV結合が最適ではなく、代わりにアネキシン-プラーク結合に干渉する抗体の影響により結果として低下する場合、アテローム血栓症とプラーク破壊のリスクが大きく上昇する。従って、アネキシンV結合を回復させることは、アテローム血栓症および取分け心臓血管系疾患の主原因であるプラーク破壊に対する可能性のある斬新な治療法である。本発明は2つの方法を提供する。1つはアネキシンVまたは該タンパク質の塩の最適用量の使用に基づくものであり、該タンパク質は好ましくは静脈内注射により投与すべきである;・・・
【0046】 投与に際してのアネキシンV(・・・)の有効量は、現状のアネキシンV-プラーク結合に対しての診断状態分析から決定し得る。結合は上記の分析方法により決定した。活性成分を含有してなる医薬組成物での処置は、好ましくは危険状態にある被験対象に投与することである。危険状態にある被験対象は頻繁にアテローム血栓症を繰り返すSLE患者である。危険状態にある別の被験対象は、肺炎球菌感染症に罹患しているか、または罹患していたか、またはその危険状態にある患者である。 』

これらの記載によれば、本願発明のアネキシンV塩の「使用」とは、「ヒトにおけるプラーク破壊を予防するための医薬組成物」中に、ヒトにおけるプラーク破壊を予防するという薬理作用を示す有効成分としてアネキシンV塩を有効量含有せしめることを意図し、また、そのようにして製造される医薬組成物をヒトに投与することで、当該アネキシンV塩の薬理作用により、ヒトにおけるプラーク破壊を予防する薬理作用を奏せしめることが意図されているものと解される(オ【0013】、カ【0016】、キ【0021】)。
そして、これら実施例の項の試験及びその結果として、概要以下のような記載事項が把握できる。
(i)培養HUVECを、SLE症例からの血漿[検討グループ(ケ【0031】)から採取したヘパリン保存血漿(ケ【0034】)であって、「高抗リン脂質抗体(aPL)タイター血清」(ク)に相当するものと認められる]とプレインキュベートした後にアネキシンV(蛍光標識したアネキシンV-FITC(ケ【0035】))処理すると、アネキシンVのHUVECへの結合度は低下するが、同血漿から全IgGを枯渇させたものでプレインキュベートした後にアネキシンV処理を行うと、アネキシンVの結合は回復した。(コ【0040】)
(ii)「内部媒質厚(IMT)」によりアテローム性動脈硬化症の程度について判定を行った(ケ【0033】)ところ、「SLE症例の中には、アネキシンV結合とアテローム性動脈硬化症の程度の間に、顕著な正の関連性が存在した(R=0.73;p<0.001)」。(コ【0040】。下線は当審による。)
(iii)ヒトアテローム性動脈硬化プラークの免疫組織化学染色試験(ケ【0036】)の結果、「免疫染色は試験した11/12のプラークにアネキシンVの存在することを明らかにした」。(コ【0040】)
※当審注:なお、この試験で用いたとされるヒトプラークの採取源である「一過性虚血発作後の頚動脈血管内膜切除術を受けた患者12名」(ケ【0036】)と、(i)、(ii)のSLE患者との間の異同等の関係の有無は明らかではない。
(iv)aPC-BSAおよびaPC-KLHは共に、「CVDの病歴をもつSLE患者において、ECに結合するアネキシンVと有意に関連していた(それぞれ、r=0.45;p=0.02およびr=0.03)。」(ク、ケ【0037】、コ【0043】)
(v) また、(i)のSLE症例からの血漿(血清)を、IVIG、肺炎球菌ワクチン(国立血清研究所、デンマーク)、PAF、ホスファチジルセリン又はリソホスファチジルコリンとプレインキュベーションした後に(i)と同様の処理を行ったところ、アネキシンVの結合は保存された。[コ【0042】、【0044】]

(2-2) しかしながら、上の(i)?(v)の結果はいずれも、アネキシンV塩を実際に外因的に具体的な用量で投与することにより、そうしない場合に比して、SLE患者又はその他のアテローム性動脈硬化患者、或いはその他のヒトにおいてプラーク破壊が有意に予防されたことを、直接確認したものではない。

(2-3) そして、(i)の試験結果は、あくまでSLE患者由来の血漿(高抗リン脂質抗体(aPL)タイター血清)とHUVECとのプレインキュベートによりその後のHUVECへのアネキシンV(アネキシンV-FITC)結合量が低下したことを示すに過ぎず、例えば本願発明の被験対象とされるSLE患者(キ【0022】、コ【0046】)に対して外部からアネキシンVを投与することで、抗リン脂質抗体(aPL)(該SLE患者の血漿中に多量存在しており、プラーク部位に既に結合して存在し得る)と実際に競合し、該aPLにかわって優先的にプラーク部位へ結合する、という作用を示すことまでが、現実のデータとして開示されているわけではない。仮に、アネキシンVが実際にプラーク部位においてaPLと競合し得、aPLに優先してプラーク部位へ結合し得る性質を有しているとしても、如何なる用量のアネキシンVを如何なる条件下に外部から投与すればそのようにaPLと有効に競合しaPLに優先してプラーク部位に結合し得るのか、について、発明の詳細な説明で具体的な開示がなされているわけではない。
また、そもそも、SLE患者の血漿中に含まれる抗リン脂質抗体(aPL)のプラークへの結合量が増大するとプラーク破壊の危険性が高まる、ということについて自体、当業者が客観的にみてそうであると認識するに足る根拠となる薬理試験データ、或いは、そのようなデータと同視し得る明確かつ合理的な説明が発明の詳細な説明でなされているわけではなく、そのことが本願出願時当業者にとり技術常識として知られていた事実も確認できないことを踏まえると、仮に、アネキシンVが実際にプラーク部位においてaPLと競合しaPLに優先してプラーク部位へ結合する性質を有しており、該性質を発揮させるためのアネキシンVの適切な投与量、投与方法が設定され得たとの前提が成り立つとしても、そのような外因的に投与されたアネキシンVが上記aPLとの競合作用及び優先的なプラーク部位への結合作用を通じてaPLによるプラーク破壊の危険性を低くすることができる、と客観的に認識するに足る明確かつ十分な根拠が提示されているとまではいえない。

(2-4) さらに、上記(ii)の結果、ならびに、通常アテローム性動脈硬化の進行とプラークの成長或いは破壊とが正の相関関係にあると考えられること(この点については、例えば、 福島雅典編、 メルクマニュアル第17版日本語版、 日経BP社、 (1999.12.10)、 p. 918-920、 「血栓性疾患」の項(本願に係る平成22年12月28日付け拒絶理由通知書で引用された文献6) 中の、919頁右欄下から7?2行「アテローム性動脈硬化 ・・・アテローム性動脈硬化性プラークは破裂し・・・」を参照のこと。)や、請求人が平成24年8月7日付け意見書でいう「背景として、・・・SLE患者は、当技術分野においてプラーク破壊による高いアテローム血栓症リスクを特徴とする。」(「B.1 本願中のデータ」)ことを踏まえればなおのこと、SLE患者におけるアテローム性動脈硬化/プラーク部位へのアネキシンVの結合量の増大は、(上の(ii)で該アネキシン結合量の増大と正の相関関係にあることが示されている)アテローム性動脈硬化の程度の増大、ひいては、アテローム性動脈硬化のプラーク破裂(破壊)の危険性の増大をもたらす可能性があるものとも推測されるところ、この推測結果は、他の(i)等の結果を踏まえたアネキシンVの薬理作用についての本願明細書(請求人)の推測事項、即ち、アネキシンVの有効量添加によるアネキシンVのプラーク部位への結合量の増大はプラーク破壊を予防し得るとの見解(オ【0013】?【0015】、キ【0021】?【0022】、コ【0045】)、と一見相容れない(むしろ相反する)ものとも解される。
そして、そうであるにもかかわらず、かかる不整合な点について本願明細書中の他の箇所で何ら合理的な説明がなされているわけでもないことから、この点からみても、請求人の上記推測又は見解が妥当なものであるとすることはできない。

(2-5) 加えて、上記(iii)の試験結果については、(iii)で用いられたプラークの採取元の患者(ケ【0036】)と(i)、(ii)の血漿の採取元であるSLE患者(ケ【0031】)との間の異同等の関係が明らかではないから、(i)、(ii)の試験結果と(iii)の結果を直ちに結びつけて考えることが必ずしも妥当とはいえない。
また、仮に、結びつけて考えられるとしても、アネキシンV(しかも内因性の)がプラークに存在することのみからでは、なぜアネキシンVがプラークに存在しているのか、例えば、アネキシンVがプラークに対し何らかの好ましい薬理作用を及ぼしているのか否か(好ましい薬理作用を及ぼすためにプラークに存在しているのか否か)、或いは、例えば単にプラーク部位において多く提示されているリン脂質に結合しているだけであるのか、すら不明である。
ましてや、上の(2-2)?(2-4)で検討したとおり、上の(i)、(ii)の試験結果からアネキシンVがプラーク破壊予防作用をもたらし得ることが十分論理的に説明され得ず、また、(i)?(iii)の各試験結果間の因果関係も十分明らかにされていない以上、当該(iii)の試験結果に上記(i)、(ii)の結果を併せても、外因的に投与されるアネキシンV又はその塩によりプラーク破壊を予防する薬理作用をもたらし得る蓋然性が高い、との推測を当業者が行い得るとは考えられない。(iv),(v)の試験結果を併せて考慮しても同様である。

(2-6) してみると、結局、上記(i)?(v)の試験結果に関する記載を含む発明の詳細な説明では、実施例の各試験結果の事象間の因果関係や、外因的に投与されるアネキシンVとそれら各試験結果の事象との因果関係が十分論理的に説明されているとはいえず、アネキシンV又はその塩、血管内皮細胞又はプラークに対するアネキシンVの結合を低下させるSLE患者血漿中のaPL成分、ならびに、SLE患者或いはその他の患者におけるアテローム性動脈硬化症又はプラーク、との間に何らかの関連性が存在する可能性があることが推測されるにとどまるものである。
したがって、体外からアネキシンV又はその塩を投与したときのプラークに対する薬理作用の有無やその作用機序についてまでは、発明の詳細な説明からは推測することができず、少なくとも、アネキシンV又はその塩の投与によりプラーク破壊を予防するという薬理作用がもたらされる蓋然性が高い、と判断するに足る十分な合理的な根拠を発明の詳細な説明中に見出すことはできない。そして、そのような合理的根拠に乏しい発明の詳細な説明を以ては、アネキシンV又はその塩がプラーク破壊を予防するという薬理作用を示すことを当業者が客観的に認識するに足る開示がなされている、ということはできない。発明の詳細な説明の背景技術に関する記載(イ?エ)や、本願出願当時の技術常識を踏まえても同様である。

(2-7) しかも、既に検討したとおり、発明の詳細な説明には、アネキシンVの投与方法、製剤化方法について静脈内注射剤とすることが好ましい旨記載されている(ウ、オ【0013】、コ【0045】)だけで、投与量に関しては、具体的な用量を採用し外部から「プラーク破壊を予防するため」にアネキシンV又はその塩を現実に投与した例の記載はなく、適切な有効投与量の範囲に関する例示的記載すらみられず、単にアネキシンVの有効量は現状のアネキシンV-内皮結合或いはアネキシンV-プラーク結合の診断状態分析から決定し得る旨の記載がある(カ【0019】、コ【0046】)のみであって、かかる開示内容のみからでは、プラーク破壊を予防し得るアネキシンVの「一定用量」(エ【0013】)とは一体どの程度の用量であるのか、また、いかなるプラークの状態を呈する患者(例えば、「頻繁にアテローム血栓症を繰り返すSLE患者」(【0046】)に対し、どの程度の外部からの投与量が「プラーク破壊」を「予防」するに適切な有効量として設定され得るのか、が当業者にとり直ちに認識できるとはいえないし、また、上の(2-1)?(2-6)で検討したとおり、アネキシンV又はその塩がプラーク破壊を予防するという薬理作用を示すこと自体当業者が客観的に認識できるとはいえないことを併せて考慮すればなおのこと、発明の詳細な説明の記載に基づいて「プラーク破壊を予防する」ための適切なアネキシンV塩の外部からの適切な投与量を設定することが当業者にとり十分客観的に認識され得る、ということはできない。本願出願時の技術常識を併せて参酌したとしても同様である。

(3) 以上の検討のとおりであるから、発明の詳細な説明には、アネキシンVもしくはその塩がヒトに投与されることで現実に「プラーク破壊を予防する」という薬理作用を示し得ることを当業者が客観的に認識するに足る記載がなされているとはいえず、「プラーク破壊を予防する」ためのアネキシンV又はその塩の適切な投与量、投与条件について、当業者が客観的に認識するに足る記載がなされているともいえない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を理解しかつ実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

4-2.特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)について

特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、本願明細書のサポート要件の存在は、本願出願人即ち審判請求人が証明責任を負うと解するのが相当である。
ここで、本願発明は、上述のとおりの医薬組成物の製造におけるアネキシンV塩の使用の発明であるから、その課題は、ヒトにおけるプラーク破壊を予防するという薬理作用をもたらす医薬組成物を提供することにほかならない。
しかしながら、4-1.で説示したように、本願明細書の発明の詳細な説明には、アネキシンV塩を有効成分として使用して製造される上記医薬組成物が上記薬理作用をもたらすことを当業者が認識できるに足る記載がなされているとはいえないし、アネキシンV塩が上記薬理作用を示すことが本願発明の出願時の技術常識に属する事項であったというような、上記薬理作用を示すことを明らかにした試験結果の記載がなされていなくても上記医薬組成物が上記薬理作用を示すことを当業者が認識できるといえる格別の事情も見いだせない。

そうすると、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲や、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本願発明の課題を解決できると認識できる範囲は存在しないものとするほかはないが、それにもかかわらず、特許請求の範囲には本願発明が記載されているから、特許請求の範囲の発明は発明の詳細な説明に記載したものではなく、明細書のサポート要件に適合するものとはいえない。

4-3.請求人の主張について
なお、請求人は、上述の拒絶の理由に対し、平成24年8月7日付け意見書において、概要以下のような主張をしている。
(a)例えば、本願明細書の段落0040を参照すると、心臓血管疾患の病歴を有するSLE患者においてアネキシンV結合が健常人よりも有意に低かったこと、ならびにアテローム性動脈硬化症の程度が健常人よりも高いことが観測されたことが読みとれ、これらのデータは、アネキシンV結合のレベル低下がアテローム性動脈硬化プラークの発生増加に直接関係し、及び、アテローム性動脈硬化プラーク発生及び破壊のリスクがアネキシンV結合のレベルを増加させることにより有意に低下し得るという非常に強い指標を提供するものである。そして、出願当時の本出願は、外因性アネキシンV投与が、プラーク破壊を予防することを直接示す実験を含まないかもしれないが、それにもかかわらず本出願において提供されるデータは、アネキシンV結合レベルの増加が、アテローム性動脈硬化プラーク発生及び破壊のリスクを減少させるという非常に強い指標を表すものである。また、アネキシンVがヒトにおいてプラーク破壊を予防するために使用できるという結論と矛盾するデータは本願中にない。(「B.1 本願中のデータ」)
(b)また、リソホスファチジルコリン(LPC)又は酸化低密度リポタンパク質(oxLDL)の添加による培養HUVEC及び/又は培養マクロファージのメタロプロテイナーゼ-9(MMP-9)発現促進系に対する、上記LPC又はoxLDL添加前のアネキシンVとのプレインキュベーションの影響を検討したところ、アネキシンVとのプレインキュベーションによりその後のLPC又はoxLDL添加によるMMP-9発現の促進が阻害されたことを示すデータが得られた(「実験証明書(実験報告書)」)。かかるデータは、アネキシンVがヒトにおいてプラーク破壊を予防できるという当初明細書記載の教示内容に従うことによって確かに本願発明を実行できることを確認したものであって、本願発明を実行する方法のいかなる新規な詳細も提供せず、よって拒絶の理由に対処するために実験証明書の内容を考慮することは許可されるべきである。。(「B.2 実験証明書(実験報告書)」)

しかしながら、以下に述べるとおり、このような請求人の主張はいずれも採用できない。

・主張(a)について
4-1.?4-2.で検討したとおり、発明の詳細な説明はアネキシンV塩がヒトにおけるプラーク破壊を予防するという薬理作用を示し得ることを当業者が認識するに足る明確かつ十分な開示がなされているとはいえず、また、本願発明が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づきその課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものであるともいえない。
そして、そうであれば、本願明細書において提供されたデータは。請求人がいうような「アネキシンV結合レベルの増加が、アテローム性動脈硬化プラーク発生及び破壊のリスクを減少させるという非常に強い指標を表すもの」ではなく、ましてや「アネキシンVがヒトにおいてプラーク破壊を予防するために使用できるという結論」を導くものともいえないことは明らかである。

なお、この点に関し、本願の優先日後かつ国際出願日前に頒布され、著者群の中に本願発明者であるCedefholm、 A.及びFrostegard、 J. が名を連ねている以下の刊行物:
ARTERIOSCLER. THROMB. VASC. BIOL.、 (2005) 25 P.198-203
には、本願明細書の実施例の試験及びその結果(上の4-1.(2-1)の(i)?(iii))と類似する内容の試験及びその結果(結果についてはFig.1?4参照)について記載され、それら試験結果を踏まえた考察がなされた上で、例えば要約部分の最後で
‘Conclusions - Decreased annexin V binding to endothelium caused by antibodies may represent a novel mechanism of atherothrombosis. We hypothesize that even though annexin V may promote plaque growth at some disease stages、 it may also stabilize plaque.’
(当審による和訳及び下線:『 結論 - 抗体を原因とする減少した内皮細胞へのアネキシンV結合は、アテローム血栓症の新規な機序を表しているのかもしれない。我々は、アネキシンVがいくつかの疾患段階でプラークの成長を促進しているかもしれないとしても、プラークを安定化してもいるかもしれない、ということを仮説として採り上げる。』)
と結論づけられていることからみて、本願発明者でさえ、アネキシンVが「プラークを安定化」する薬理作用(本願明細書の【0008】(ウ)の「プラークを安定化し得る」作用に相当し、本願発明における「プラーク破壊を予防」する作用を意図しているものと解される。)を有するとの推測は、少なくとも本願出願時の前後において「仮説」の域を出るものではなく、しかも、アネキシンVが「プラークの成長を促進」する作用(本願発明の「プラーク破壊を予防する」作用とは一見相容れない薬理作用と解される。)をも有する可能性を排除できない、と考えていたことがうかがえる。
そして、疾患段階によってはこのような「プラーク破壊を予防する」作用とは相容れない薬理作用を発揮する可能性があるとするアネキシンVを、プラーク破壊が生じる前の如何なる条件下に如何なる投与量で投与すれば、「プラークの成長を促進」することなく「プラークを安定化」することを通じて「プラーク破壊」の「予防」に寄与せしめることができるのか、について、発明の詳細な説明中で何ら明確かつ十分に説明されているといえないことは、既に4-1.?4-2.で検討したとおりである。

・主張(b)について
請求人が提出した意見書の「実験証明書(実験報告書)」は、あくまで特定系におけるMMP-9産生亢進の程度を指標としたものであって、アネキシンVの投与により「プラーク破壊を予防」し得たことを直接確認したものではない。
また、LPCやoxLDLと共にプレインキュベートされたHUVEC及び/又はマクロファージ系に試験化合物を投与しそのMMP-9産生亢進の程度を指標としてアネキシンVのプラーク破壊予防作用をみることは、本願明細書に記載された事項ではないし、そもそも本願明細書中には、アネキシンVとの関連性を含めMMP-9に関する記載は何ら見出すことができない。[なお、本願明細書の実施例の項中には、LPCとのプレインキュベーションにより、アネキシンVのHUVECへの結合がSLE症例からの血漿(高抗リン脂質抗体(aPL)タイター血清)に対し保存された旨記載されている箇所がみられる(例えばコ【0044】)が、少なくとも、ここで用いられているLPCは、上述の意見書の「実験証明書(実験報告書)」におけるような試験系でのMMP-9発現促進のために適用されているわけではない。]
してみると、このような、MMP-9発現上方調節の阻害作用との因果関係が明らかでない実施例の試験結果を含む発明の詳細な説明の記載からでは、例えMMP-9発現がプラーク破壊の良好なマーカーであること自体は本願出願時当業者にとり広く知られていたとしても、アネキシンV又はその塩がMMP-9発現促進を阻害し以てプラーク破壊を予防する薬理作用をもたらし得る、と当業者が客観的に認識することはできない。また、上述のような「実験証明書(実験報告書)」で採用された試験系が、SLE患者等におけるプラーク破壊の予防作用を検討するためのモデル系として本願出願時当業者にとり技術常識として知られていたことも確認できない。
よって、このような「実験証明書(実験報告書)」を根拠として上述の実施可能要件違反及びサポート要件違反の拒絶理由が解消されるとすることはできない。
そして、そのような明細書の記載外の事項を補足することによって、特許法第36条第4項第1号又は同条第6項第1号に規定する要件に適合させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反し許されないというべきであるから、そもそも上記意見書の「実験証明書(実験報告書)」におけるMMP-9発現促進阻害に係る薬理試験の結果は、この点で参酌することができないものである。もし仮に、明細書に単に、ある医薬用途(本願発明では「プラーク破壊を予防」すること)において有効であった旨記載されていさえすれば、後から提出された薬理実験データ等を参酌でき、医薬用途の有効性が補完できるとするならば、医薬用途の有効性が不明確な段階で出願を行い、後から実験により有効性を確認することも可能になるため、いわば、完成されていない医薬用途発明の出願を助長する結果となりかねず、また、実験により有効性を確認してから(したがって、そのために出願時期が遅れることになる)出願を行った者との公平性の観点からみても、後から提出された薬理試験結果を参酌することは妥当ではない。

4-4.むすび
以上のとおりであるから、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-08 
結審通知日 2014-05-13 
審決日 2014-05-27 
出願番号 特願2007-507845(P2007-507845)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (A61K)
P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小松 邦光  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 岩下 直人
大久保 元浩
発明の名称 アテローム血栓症およびプラーク破壊を予防するためのアネキシンV  
代理人 五十嵐 清  
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