• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B25B
管理番号 1292635
審判番号 無効2013-800220  
総通号数 179 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-11-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-12-10 
確定日 2014-10-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第3722481号発明「ネジの抜き取り工具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由
第1 手続の経緯
本件特許第3722481号の請求項1ないし3に係る発明についての手続の経緯は、以下のとおりである。
平成14年12月10日 特願2002-358105号として出願
平成17年 9月22日 特許第3722481号の設定登録
平成25年12月10日 本件審判請求書提出(請求人)
平成26年 2月14日 手続補正書提出(請求人)
平成26年 5月 1日 審判事件答弁書提出(被請求人)
平成26年 5月28日 審理事項通知
平成26年 7月 9日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成26年 7月10日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成26年 7月15日 審理事項(2)通知
平成26年 7月24日 口頭審理
平成26年 7月30日 上申書提出(請求人)

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものであるところ、請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」等という。)を構成要件に分説して記載すると、以下のとおりである。

「【請求項1】
A. 崩れたネジ頭部の中心部に、抜き取り工具の雄ネジ部の下記ガイド用ネジ部と同一口径若しくは僅かに口径の大きいストレート状下穴を穿設し、
B. この穿設した下穴内にネジ抜き取り工具の雄ネジ部の先端部を押し当てて雄ネジ部の螺旋方向に回転し、前記下穴に前記抜き取り工具の雄ネジ部の先端部を喰い込ませたのち、
C. さらに回転を継続し前記下穴よりも外径の大きくなったテーパー状大径部分を食い込ませることにより摩擦回転力で崩れたネジを回転させて抜き取るネジの抜き取り工具であって、
D. 角柱状の工具本体の一端部を先端に向けて漸次外径が縮小するように先細のテーパー部に形成し、
E. その先細のテーパー部の先端部分に抜き取ろうとするネジとは螺旋方向が逆向きの雄ネジ部を刻設するとともに、
F. 同雄ネジ部の先端部を所定長にわたり外径が同一のガイド用ネジ部に形成し、
G. そのガイド用ネジ部の先端を平坦面にするか、または先端に向けやや突出する半球体部にするかしたこと
を特徴とするネジの抜き取り工具。
【請求項2】
H. 前記工具本体が六角柱形で、かつ抜け止め用環状溝を形成していること
を特徴とする請求項1記載のネジの抜き取り工具。
【請求項3】
I. 前記工具本体の他端部に、前記ガイド用ネジ部の外径とほぼ同一の口径をもつストレート状下穴を穿設可能なドリルビットを設けたこと
を特徴とする請求項1記載のネジの抜き取り工具。」

第3 当事者の主張

1. 請求人の主張する請求の趣旨及び理由

(1)請求の趣旨
請求人は、本件特許発明1ないし3についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その請求の理由は、本件特許発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、同項の規定により無効とすべきものであるという理由(以下、「無効理由」という。)である。
なお、以降、指摘箇所を行数で示す場合には、空白行は含めない。

(2)無効理由について
無効理由に対する請求人の主張を要約すると以下のとおりである。
(平成26年2月14日提出の手続補正書により補正された審判請求書(以下、単に「請求書」という。)2ページ「理由の要点」の欄及び3ページ10行ないし4ページ13行、請求人口頭審理陳述要領書1ページ20行ないし3ページ14行)

甲第1号証には、本件特許の請求項1ないし3に記載されている内容がほとんどすべて記載されていて、その効果についてもほとんど同様のものであるから、本件特許発明1ないし3は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明1の内容については甲第1号証の「意匠に係る物品の説明」や正面図、平面図、背面図及び使用状態を示す参考図1ないし3にすべて記載又は表示されている。但し、ガイド用ネジ部の先端を半球体部に形成した点については甲第1号証には表示されていないが、これが本件特許発明1と甲第1号証との無効審判上の相違点となるものとは思われない。
甲第1号証の「図面」の「使用状態を示す参考図3」に図示しているように嵌入係止部は取り外し対象である「ネジ」を取り外すための部分であり、具体的には雄ネジ形状のものを表示するものである。「係止」という言葉は「特許用語として」相手に「ひっかかる」意味を一般に表現するものと解釈され、凹凸形状を意味するものである。
甲第1号証に係る意匠のものは「ガイド用ネジ部」はないが、尖端はネジの加工孔の内径よりも小径であり、このテーパ部をネジの加工孔に挿入することは極めて容易であり、そのテーパ部がネジの加工孔に被請求人のものより早く、当接し取り外し機能としては優位性を有するものである。よって、本件特許発明1の「ガイド用ネジ部」は軸線上からズレないようにするためのものであるがテーパ形状の方が案内としては挿入しやすいので優れていると判断する。なお、尖端側でストレートでその後部にネジが形成されている物は公知の技術であるから、本件特許発明1は新規性進歩性もあるものとは認められない。
ネジの取り外し工具の機能として工具先端の半球体部は機能が極めて小さい。また、「エキストラクター」等において尖端に丸味を形成するものは常識的に一般に存在しており、特別な進歩性を有するものではない。

2. 請求人の証拠方法
証拠方法として、請求書において以下の甲第1号証が提出され、口頭審理陳述要領書において以下の甲第2ないし6号証が提出されている。なお、口頭審理陳述要領書には、当初甲第1ないし5号証が提出されたが、口頭審理において、証拠番号を1ずつ繰下げ甲第2ないし6号証とした。

甲第1号証:意匠登録第1136464号公報
甲第2号証:株式会社ミツトモ製作所のインターネットカタログ(平成26年7月上旬頃検索)の写し、
甲第3号証:ライト精機株式会社総合カタログ31ページの写し、作成時期不詳
甲第4号証:本件特許と甲第1号証に係る意匠出願の経緯をまとめた表の写し、株式会社兼古製作所作成、本件審判請求日(平成25年12月10日)と請求人口頭審理陳述要領書提出日(平成26年7月9日)の間において作成
甲第5号証:ネジの取り外し工具の図面の写し、株式会社兼古製作所作成、平成25年5月20日以降に作成
甲第6号証:JISハンドブック ねじ(財団法人 日本規格協会、1986年4月12日、第1版第1刷発行)71ページの写し

3. 被請求人の主張する答弁の趣旨
被請求人の主張する答弁の趣旨は、本件特許無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めるものであり、無効理由に対しては、本件特許発明1ないし3は、甲第1号証記載の発明にもとづいて当業者が容易に発明をすることができたものではない、というものである。

無効理由に対する被請求人の主張を要約すると以下のとおりである。
(審判事件答弁書2ページ25行ないし4ページ14行、被請求人口頭審理陳述要領書1ページ19行ないし4ページ9行)
甲第1号証記載の「嵌入係止部」と記載されたものには、ネジ切りもなく、凹凸もない、表面の曲線状の模様が付されているのみで、先端部がどのように孔に係止されるのか不明である。また尖端面についても、断面図がないため、平坦面である凹部が形成されているか等、その形状は不明である。甲第1号証記載発明は、先端部に雄ネジ部を有さず、構成要件F.の所定長にわたり外形が同一のガイド用ネジ部も有さないことは明らかである。
本件特許発明1は、この構成要件F.を備えることにより、プラスネジ側の下孔と抜き取り工具側のガイド用ネジ部はほぼ同一径であり、両者共にストレート形状(円形孔・円柱体)であるから、前記下穴にガイド用ネジ部が挿入された状態で下穴に沿って抜き取り工具を用いれば、自然に下穴とネジ部の中心軸線が一致し、したがって、本件特許発明1のネジの抜き取り工具を用いれば、プラスネジに穿設されたストレート状の下穴に、まず所定長にわたり外径が同一のストレート状のガイド用ネジ部が挿入されることで、従来の尖端がテーパー状の抜き取り工具による問題点であった下穴内側面への食い込みが防止される、との顕著な効果を奏する。
さらに、本件特許発明1は、構成要件AないしFに加えて、構成要件G中の「そのガイド用ネジ部の先端を先端に向けやや突出する半球体部」とすることによって、さらに、ガイド用ネジ部が下穴の内側面に食い込むのを防止し、かつ、ストレート上の下穴への挿入がよりスムーズに行えるという効果を奏する。
以上のとおり、甲第1号証記載発明には、ガイド用ネジ部は存在せず、雄ネジ部も存在しないのであるから、引き抜こうとするネジの頭部の中心部に、ガイド用ネジ部と同一口径若しくは僅かに口径の大きいストレート状下穴を穿設することも明確に示されていない。

4. 被請求人の証拠方法
証拠方法として、答弁書において以下の乙第1ないし2号証が提出され、口頭審理陳述要領書において以下の乙第3ないし4号証が提出されている。

乙第1号証:本件特許第3722481号公報
乙第2号証:平成26年4月24日付けの本件特許第3722481号の登録原簿の写し
乙第3号証:甲第1号証に係る意匠公報の正面図、平面図、背面図を拡大したものの写し
乙第4号証:ネジ切り部分を有する登録意匠の意匠公報(意匠登録第1501009号、第540198号、第1297491号、第1259859号、第1247971号、第1199840号、第921877号、第608344号)

第4 当審の判断

1. 各書証の記載事項、甲第1号証記載の発明

(1) 甲第1号証の記載事項

ア. 【図面】
甲第1号証には、以下の【図面】が記載されている。

【正面図】



【平面図】



【背面図】



【右側面図】



【左側面図】



【使用状態を示す参考図1】



【使用状態を示す参考図2】



【使用状態を示す参考図3】



イ.
甲第1号証の「孔穿設部」の形状が、【正面図】、【平面図】及び【背面図】では長細い矩形である点、看取でき、【右側面図】では六角形の中心部の丸である点、看取できる。

ウ.
【正面図】、【平面図】及び【背面図】から、「嵌入係止部」は、「テーパー状」であることが看取できる。さらに、【使用状態を示す参考図3】から、「嵌入係止部」の「テーパー状」部分の外径が、「嵌入係止部」先端から図の上方へ向けて「孔」の口径よりも大きくなるように形成されたことが看取できる。

エ.
【正面図】、【平面図】及び【背面図】にそれぞれ記載された「嵌入係止部」に描かれた多数の曲線が各図においてほぼ平行にかつ途中に切れ目がなく描かれている点、看取できる。

オ.
【正面図】、【平面図】及び【背面図】から「嵌入係止部」の先端が平面となっている点、看取できる。

カ.
「【意匠に係る物品の説明】本物品は、六角棒状の基体の一端にネジの溝底に孔を穿設する孔穿設部を設け、他端に前記孔穿設部で穿設した孔に嵌入され、該孔の内面と係止する嵌入係止部を設けた電動回動具に付設するネジ除去具であって、使用状態を示す参考図1,2に示すように孔穿設部によりネジの溝底に孔を形成し、続いて、使用状態を示す参考図3に示すようにネジの溝底に形成した孔に嵌入係止部を嵌入させ、この状態で電動回動具を回動させると、嵌入係止部が孔の内面に食い込み係止してネジは回動し螺出されることになる。従って、本物品を使用することで溝が破壊されたネジ(所謂なめたネジ)を簡易に螺出することができる。」

キ.
上記看取事項イ.から、「孔穿設部」は円柱形をしているから、「孔穿設部」により形成される「孔」は円形であることは上記甲第1号証の記載から当業者にとって自明である。したがって、甲第1号証記載の「孔」はストレート状ということができる。

ク.
上記摘記事項カ.の「嵌入係止部が孔の内面に食い込み」との記載に加えて、上記看取事項ウ.から、当該「テーパー状大径部分」が「孔」内面に食い込むものであることは当業者にとって自明である。

ケ.
上記摘記事項カ.の「使用状態を示す参考図3に示すようにネジの溝底に形成した孔に嵌入係止部を嵌入させ、この状態で電動回動具を回動させると、嵌入係止部が孔の内面に食い込み係止してネジは回動し螺出されることになる。」との記載から、「嵌入係止部」の表面には、「電動回動具」による回転によって、「孔」の内面に食い込むことができる凸部が形成されていること、そして「電動回動具」の回動によって「嵌入係止部」は「孔」の内面に食い込み係止し、「溝が破壊されたネジ」が回動し螺出されるのであるから、「嵌入係止部」の先端部に「ネジ部」が刻設されていて、加えて当該「ネジ部」の「螺旋方向」が「抜き取ろうとするネジ」とは逆向きであることは当業者にとって自明である。また、「孔に嵌入係止部を嵌入」させるには、「孔」の深さ方向に「嵌入係止部の先端部」を移動させるために、嵌入させようとする「孔」に「嵌入係止部の先端部」を押圧力を加えつつ当てることは当業者にとって技術常識であるから、甲第1号証に記載されたものが、「穿設した孔にネジ除去具の嵌入係止部を押し当て」ることは、当業者にとって自明である。「電動回動具」による回転力が、「ネジ除去具」の「嵌入係止部」に形成された上記ネジと当該ネジが食い込んだ「孔」内面の間の摩擦力によって「溝が破壊されたネジ」に伝えられることは技術常識であるから、甲第1号証記載の「ネジ除去具」は、「摩擦回転力」で「溝が破壊されたネジ」を回転させるものであるということができる。

(2) 甲1発明
上記(1)のア.、看取事項イ.ないしオ.、摘記事項カ.、そして認定事項キ.ないしケ.を、本件特許発明1の記載に沿って整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「溝が破壊されたネジの頭部の中心部に、ストレート状孔を穿設し、
この穿設した孔にネジ除去具の嵌入係止部の先端部を押し当てて嵌入係止部の螺旋方向に回転し、前記孔に前記ネジ除去具の嵌入係止部を喰い込ませたのち、
さらに回転を継続し前記孔よりも外径の大きくなったテーパー状大径部分を食い込ませることにより摩擦回転力で溝が破壊されたネジを回転させて抜き取るネジ除去具であって、
六角棒状の工具本体の一端部を先端に向けて漸次外径が縮小するように先細のテーパー部に形成し、
その先細のテーパー部の先端部分に抜き取ろうとするネジとは螺旋方向が逆向きのネジ部を刻設するとともに、
そのネジ部の先端を平坦面にしたネジ除去具」

2. 本件特許発明1について

(1) 本件特許発明1と甲1発明との対比
本件特許発明1と上記1.(2)に示す甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ネジ頭部」の「溝が破壊された」ことは、本件特許発明1の「ネジ頭部」が「崩れた」ことの一態様であるから、「溝が破壊されたネジの頭部」は、「崩れたネジ頭部」ということができる。
甲1発明の「孔」及び「ネジ部」は、本件特許発明1の「下穴」及び「雄ネジ部」に相当することは明らかである。
六角柱は、角柱の一種であるから、甲1発明の「六角棒状の工具本体」は、本件特許発明1の「角柱状の工具本体」ということができる。
甲1発明の「ネジ除去具」は、本件特許発明1の「ネジの抜き取り工具」に相当することも明らかである。
甲1発明の「ネジ部の先端を平坦面とした」は、「その雄ネジ部の先端を平坦面にする」という点で、本件特許発明1の「そのガイド用ネジ部の先端を平坦にするか、または先端に向けやや突出する半球体部にするかしたこと」と共通する。
以上から、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、かつ相違する。

ア. 一致点
「崩れたネジ頭部の中心部に、ストレート状下穴を穿設し、
この穿設した下穴内にネジ抜き取り工具の雄ネジ部の先端部を押し当てて雄ネジ部の螺旋方向に回転し、前記下穴に前記抜き取り工具の雄ネジ部を喰い込ませたのち、
さらに回転を継続し前記下穴よりも外径の大きくなったテーパー状大径部分を食い込ませることにより摩擦回転力で崩れたネジを回転させて抜き取るネジの抜き取り工具であって、
角柱状の工具本体の一端部を先端に向けて漸次外径が縮小するように先細のテーパー部に形成し、
その先細のテーパー部の先端部分に抜き取ろうとするネジとは螺旋方向が逆向きの雄ネジ部を刻設するとともに、
そのネジ部の先端を平坦面にするネジの抜き取り工具。」

イ. 相違点
本件特許発明1の「雄ネジ部」の先端部を、「所定長にわたり外径が同一のガイド用ネジ部」に形成し、かつ、「崩れたネジの頭部の中心」に穿設する「ストレート状下穴」の口径を、当該「ガイド用ネジ部」と「同一口径若しくは僅かに口径の大きい」としたものであるのに対し、甲1発明の「嵌入係止部」の先端部に、外径が同一のガイド用ネジ部を形成することや、「孔」の口径を、上記外径と「同一口径若しくは僅かに口径の大きい」ものとすることについては明らかではない点。

(2) 判断

ア. 相違点について。
甲第1号証には、「嵌入係止部」の先端部に、外径が同一の部分を形成すること、そして「孔」の口径を、上記外径と「同一口径若しくは僅かに口径の大きい」ものとすることが記載されていないし、示唆もされていない。上記摘記事項カ.には、「使用状態を示す参考図3に示すようにネジの溝底に形成した孔に嵌入係止部を嵌入させ、この状態で電動回動具を回動させると、嵌入係止部が孔の内面に食い込み係止してネジは回動し螺出することができる。」と記載されているから、甲1発明は「電動回動具」を回動させる前に、「嵌入係止部」を嵌入させるものである。ここで、「孔」の口径が「嵌入係止部」の「先端部」の外径と同一もしくは僅かに大きくなると、「先端部」を「孔」へ嵌入しづらくなることは、当業者にとって技術常識であるから、甲1発明において、「嵌入係止部」の先端部に、「外径が同一の部分」を形成し、かつ、当該「孔」の口径を、当該外径と「同一口径若しくは僅かに口径の大きい」ものとすることの動機付けがあるとはいえない。また、甲第6号証記載のドリル付きタップは、先端のドリルでタップの下穴加工を行うものであるから、当該ドリルを嵌入させるために、ドリルと「同一口径若しくは僅かに口径の大きい」下穴を穿設することはない。したがって、「尖端側でストレートでその後部にネジが形成されている物」が、仮に上記第3.1.(2)に記載した請求人の主張の通り「公知の技術」であったとしても、甲1発明において、ガイド用ネジ部を設けることや下穴の口径をガイド用ネジ部と同一若しくは僅かに口径の大きいものとすることは、当業者が容易になし得たものであるとすることはできない。
また、上記相違点に係る構成を備えることで、本件特許発明1は、「・・・抜き取ろうとするプラスネジなどの頭部に前記雄ネジ部先端のガイド用ネジ部とほぼ同径のストレート状下穴をあらかじめ穿設しておき、その下穴に沿ってガイド用ネジ部を挿入する。プラスネジ側の下穴と抜き取り工具側のガイド用ネジ部はほぼ同一径であり、両者ともに ストレート形状(円形孔・円柱体)であるから、前記下穴にガイド用ネジ部が挿入された状態で下穴に沿って抜き取り工具を押し込めば、自然に下穴とネジ部の中心軸線が一致する。・・・」(本件特許明細書(乙第1号証)、段落【0012】)との格別な作用・効果を奏するものであるといえる。
そうすると、甲1発明において、上記相違点1に係る構成としたことは、当業者が容易になし得たものであるということはできない。

イ. 本件特許発明1についての小結
上記ア.で検討したとおり、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではないから、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとする請求人の主張は失当と言わざるを得ない。

3. 本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、本件特許発明1で特定される事項のすべてを包含した上で、さらに技術的に限定されたものである。上記2.(2)で検討したとおり、本件特許発明1は、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2及び3も、同様に甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないことは明らかである。
よって、本件特許発明2及び3は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとする請求人の主張は失当と言わざるを得ない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1ないし3の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-01 
結審通知日 2014-08-05 
審決日 2014-08-25 
出願番号 特願2002-358105(P2002-358105)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (B25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今関 雅子  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 刈間 宏信
石川 好文
登録日 2005-09-22 
登録番号 特許第3722481号(P3722481)
発明の名称 ネジの抜き取り工具  
代理人 鳥巣 実  
代理人 中嶋 愼一  
代理人 鳥巣 慶太  
代理人 伊藤 博  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ