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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  C07D
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07D
管理番号 1293299
審判番号 無効2013-800037  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-03-06 
確定日 2014-10-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第4790194号発明「結晶性の〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩(アトルバスタチン)」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4790194号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第4790194号は、1996年7月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1995年7月17日(US)米国)を国際出願日とする特願平9-506710号の一部が、平成14年1月17日に分割出願(特願2002-8746)されたものであり、平成23年7月29日に設定登録を受けた(請求項の数9。以下、その特許を「本件特許」といい、その明細書を「本件特許明細書」という。)。
そして、本件特許を無効とすることについて、サンド株式会社(以下「請求人」という。)から本件審判の請求がされた。
本件審判の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成25年 3月 6日付け 審判請求書・甲第1?甲第18号証・
参考資料1提出
同 年 4月15日付け 上申書(請求人)提出
同 年 4月30日付け 上申書(被請求人)提出
同 年 6月24日付け 審判事件答弁書・
乙第1?乙第34号証提出
同 年 8月 6日付け 通知書
同 年 9月 5日付け 上申書2(請求人)・
甲第19?甲第36号証提出
同 年 9月 5日付け 上申書2(被請求人)
乙第35?乙第38号証提出
同 年 9月 9日付け 手続補正書(請求人)・
甲第24号証訳文・甲第26号証訳文提出
同 年10月 3日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)・
甲第37号証提出
同 年10月 3日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)・
乙第39?乙第41号証提出
同 年10月17日 口頭審理
同 年10月18日付け 上申書3(請求人)・
甲第38?甲第47号証提出
同 年10月21日付け 上申書3(被請求人)・
乙第42?乙第49号証提出
平成26年 1月15日付け 審決の予告
同 年 5月27日付け 審理終結通知
上記において、2回目以降の上申書を「上申書2」などとした。上申書(請求人)、上申書(被請求人)、上申書2(請求人)、上申書2(被請求人)及び口頭審理陳述要領書(請求人)と共に、平成24年(ワ)第19120号特許権侵害差止請求事件における準備書面が、提出されているが、合議体が参考情報として提出を要請したものであり、上には表示していない。証拠方法等の一覧は、後記第3及び第4の項で示す。以下、書証は、その証拠番号により、甲第1号証を「甲1」、乙第1号証を「乙1」などという。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?3に係る発明は、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された以下のとおりのものである(以下、請求項1?3に係る発明をそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」などといい、まとめて「本件発明」ということがある。)。
「【請求項1】少なくとも1種の医薬的に許容し得る賦形剤、希釈剤または担体と混合された結晶性形態Iのアトルバスタチン水和物を含有する医薬組成物であって、該結晶性形態Iのアトルバスタチン水和物が、CuKα放射線を使用して測定した2θ値:9.150、9.470、10.266、10.560、11.853、12.195、17.075、19.485、21.626、21.960、22.748、23.335、23.734、24.438、28.915および29.234を含有するX線粉末回折を有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】結晶性形態Iのアトルバスタチン水和物が、CuKα放射線を使用して2分の粉砕後に測定した、2θ、d-面間隔、および>20%の相対強度の相対強度によって表した次のX線粉末回折パターンを有することを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【表1】
2θ d 相対強度(>20%)2分粉砕
9.150 9.6565 42.60
9.470 9.3311 41.94
10.266 8.6098 55.67
10.560 8.3705 29.33
11.853 7.4601 41.74
12.195 7.2518 24.62
17.075 5.1887 60.12
19.485 4.5520 73.59
21.626 4.1059 100.00
21.960 4.0442 49.44
22.748 3.9059 45.85
23.335 3.8088 44.72
23.734 3.7457 63.04
24.438 3.6394 21.10
28.915 3.0853 23.42
29.234 3.0524 23.36
【請求項3】少なくとも1種の医薬的に許容し得る賦形剤、希釈剤または担体と混合された結晶性形態Iのアトルバスタチン水和物を含有する医薬組成物であって、該結晶性形態Iのアトルバスタチン水和物が、ppmで表示された化学シフト:21.3、25.2、26.4、40.2、41.9、47.4、64.9、68.1、70.5、73.1、113.8、118.2、120.9、123.5、127.6、129.5、131.1、134.9、137.0、159.3、166.7(ブロード)、178.4および182.8を有する固体状態の^(13)C核磁気共鳴で同定されることを特徴とする医薬組成物。」
ここで、「アトルバスタチン」とは、発明の名称にあるとおり、「〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩」のことであり、化学構造式を以下に示す。


第3 請求人の主張する無効理由の概要及び請求人が提出した証拠方法等

1 請求人の主張する無効理由の概要
請求人は、請求の趣旨の欄を「特許第4790194号の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項3に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」とし、概略、後に以下の無効理由1?5と整理される、無効理由1-1、同1-2、同1-3、同2及び同3を主張した。
【無効理由1】
本件発明1?3は、本件優先日前に頒布された甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件発明1?3についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
【無効理由2】
本件発明1?3は、本件優先日前に頒布された甲2に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件発明1?3についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
【無効理由3】
本件発明1?3は、本件優先日前に頒布された甲3に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件発明1?3についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
【無効理由4】
発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、本件発明1?3についての特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
【無効理由5】
本件発明1は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明1についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

2 請求人が提出した証拠方法等
以下の証拠方法が提出されている。
[審判請求書に添付]
甲1:特開平3-58967号公報
甲2:国際公開94/20492号
甲3:国際公開94/16693号
甲4:化学用語辞典編集委員会編,「第三版 化学用語辞典」,3版1刷,技報堂出版,1992年5月16日,p.305
甲5:Pharmaceutical Research,12(7),1995,p.945-954
甲6:Thermochimica Acta,248,1995,p.61-79
甲7:A. C. Cartwright and B. R. Matthews編,“International Pharmaceutical Product Registration”,1994,p.129-130,141-143
甲8:Chemistry & Industry,21,1989,p.527-529
甲9:後藤俊夫訳,「フィーザー/ウィリアムソン 有機化学実験 原書6版」,丸善,平成元年3月30日,p.36-41
甲10:特開平6-192228号公報
甲11:特開平7-53581号公報
甲12:Pharmaceutical Research,12(6),1995,p.799-806
甲13:Tetrahedron Letters,33(17),1992,p.2283-2284
甲14:Chem. Mater.,6(8),1994,p.1148-1158
甲15:特許庁審判部,「特許性検討会報告書2008」,平成21年3月,目次,「はじめに」の頁,p.1-6,118-128
甲16:欧州特許庁審決T0777/08(2011年5月24日)
甲17:欧州特許庁審決T1066/03(2006年7月11日)
甲18:「第十六改正 日本薬局方解説書」,廣川書店,2011年,B-370-B-380
参考資料1:平成24年12月5日言渡の平成23年(行ケ)第10445号判決
[上申書2に添付]
甲19:特開平5-148237号公報
甲20:特開昭56-8689号公報
甲21:特表平6-506210号公報
甲22:特開2009-102439号公報
甲23:特表2003-512354号公報(乙8)の補正の掲載公報
甲24;Journal of Pharmaceutical Sciences, 64(8), 1975, p.1269-1288
甲25:特表2008-517992号公報
甲26:国際公開03/099785号
甲27:特表2004-533999号公報
甲28:平成24年5月7日言渡の平成23年(行ケ)第10091号判決
甲29:無効2009-800236号において被請求人であるワーナー-ランバート・コンパニーが平成22年8月20日付けで提出した審判事件回答書
甲30:無効2009-800236号において被請求人であるワーナー-ランバート・コンパニーが平成22年9月2日付けで提出した上申書
甲31:特表2003-517039号公報
甲32:特開昭59-148789号公報
甲33:宮嶋孝一郎編集,「製剤の物理化学的性質」,初版,廣川書店,平成元年10月25日,p.166-167
甲34:特公昭52-45716号公報
甲35:特開昭61-263985号公報
甲36:特開平4-235188号公報
[口頭審理陳述要領書に添付]
甲37:中井泉,泉富士夫編集,「粉末X線解析の実際 第2版」,初版第1刷,朝倉書店,2009年7月10日,p.8-10
[上申書3に添付]
甲38:特表2006-527261号公報
甲39:特表2009-508932号公報
甲40:特表2005-503997号公報
甲41:特表2003-514798号公報
甲42:特表2004-513956号公報
甲43:特表2007-505944号公報
甲44:特開2007-231018号公報
甲45:特表2007-515430号公報
甲46:特表2008-530146号公報
甲47:特開2009-235083号公報

第4 被請求人の主張の概要及び被請求人が提出した証拠方法等

1 被請求人の主張の概要
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」とし、請求人が主張する無効理由のいずれにも理由がない旨の反論をしている。

2 被請求人が提出した証拠方法等
以下の証拠方法が提出されている。
[審判事件答弁書に添付]
乙1:2003年12月3日付けのSSCI社のRex Shipplettの実験報告書
乙2:2006年6月8日付けのファイザー社のPhillip J. Johnsonの実験報告書
乙3:2005年7月14日付けのファイザー社のDavid B. Damonの実験報告書
乙4:1998年12月2日付けのワーナーランバート社のCharles Edward Colsonの宣誓書
乙5:2011年4月8日付けのファイザー株式会社の市川林の陳述書
乙6:「新薬承認情報集 平成12年 No.20 アトルバスタチンカルシウム水和物[リピトール錠5mg、錠10mg](平成12年3月承認)」,(財)日本薬剤師研修センター,目次,報1の頁,p.253,258
乙7:1999年12月17日付けのワーナーランバート社のBruce D. Rothの宣誓供述書
乙8:特表2003-512354号公報
乙9:国際公開03/093233号
乙10:2011年6月10日付けの被請求人会社の弁護士のFrancis J. Tinneyの宣誓供述書
乙11:2011年6月21日付けのファイザー株式会社の市川林の陳述書
乙12:平成22年8月19日言渡の平成21年(行ケ)第10180号判決
乙13:平成20年4月21日言渡の平成19年(行ケ)第10120号判決
乙14の1:J.Med. Chem.,33,1990,p.919-926
乙14の2:J. Org. Chem.,57,1992,p.6257-6265
乙14の3:Bioconjugate Chem.,1,1990,p.419-424
乙14の4:米国特許第5378729号明細書
乙15:岡野定輔編著,「新・薬剤学総論」,改訂第3版,南江堂,1987年4月10日,p.110-111
乙16:2011年8月19日付けのSSCI社の実験報告書2V2
乙17:2009年2月23日付けのaptuit consulting社のLeonard J. Chyallの実験報告書
乙18:2012年1月25日付けのSandoz社のRobert E. Ziegertの実験報告書GPCC 01/12
乙19の1:ノバルティスファーマ株式会社のローコール錠の添付文書,2010年3月改訂(第9版)
乙19の2:MSD株式会社のリポバス錠の添付文書,2011年10月改訂(第25版)
乙19の3:第一三共株式会社のメバロチン錠及びメバロチン細粒の添付文書,2010年3月改訂(第14版)
乙19の4:メルク社のメバコール錠の添付文書
乙20:特許第3296563号公報
乙21:特許第3965155号公報
乙22:特表2008-506764号公報
乙23:Organic Process Research & Development,1,1997,p.320-324
乙24:2012年5月12日付けのSaul H. Lapidusの実験報告書
乙25:2007年10月15日付けのaptuit consulting社のLeonard J. Chyallの実験報告書
乙26:2013年6月19日付けのファイザー株式会社の市川林の陳述書
乙27:平成25年6月19日付けの東京農工大学の松岡正邦の鑑定意見書
乙28:平山令明編著,「有機結晶作製ハンドブック」,丸善,平成12年4月20日,まえがき,目次,p.109-129
乙29:平山令明編著,「有機化合物結晶作製ハンドブック?原理とノウハウ?」,丸善,平成20年7月25日,まえがき,目次,p.57-84
乙30:松岡正邦監修,「結晶多形の最新技術と応用展開?多形現象の基礎からデータベース情報まで?」,シーエムシー出版,2005年8月31日,はじめに,目次,p.105-135
乙31:薬剤学,68(5),2008,p.344-349
乙32:ファルマシア,47(11),2011,p.1014-1018
乙33:Organic Process Research & Development,3,1999,p.409-415
乙34:Organic Process Research & Development,16,2012,p.577-585
[上申書2に添付]
乙35:1995年2月28日付けの被請求人会社のCharles W. Palmer, Jr.の実験報告書
乙36:「アトルバスタチンカルシウム水和物のX線結晶構造解析」と題し、試験実施担当者(責任者)を市川林とし、試験実施期間を1996年7月?1997年9月とする文書
乙37:「第十六改正 日本薬局方」,p.320-321
乙38:2012年1月25日付けのサンドGmbH社のRobert E. Ziegert及びArthur Pichlerの試験報告書
[口頭審理陳述要領書に添付]
乙39:2012年4月11日付けのファイザーGRD社のDavid B. Damonの実験報告書
乙40:2012年8月27日付けのファイザーGRD社のDavid B. Damonの実験報告書
乙41:1998年11月25日付けのパデュー大学のStephen R. Byrnの宣誓書
[上申書3に添付]
乙42:特開平6-211848号公報
乙43:特開平3-31288号公報
乙44:特開平1-238589号公報
乙45:特開平5-222056号公報
乙46:特開平4-235188号公報
乙47:特開平2-1489号公報
乙48:特開昭62-155238号公報
乙49:特開昭62-36381号公報

第5 当審の判断
当審は、本件発明1ないし3に係る特許は、上記無効理由1?4によって無効とすべきものと判断する。
また、上記無効理由5によっては、本件発明1に係る特許を無効とすべきものではないと考える。
その理由は、以下のとおりである。

1 無効理由1について
無効理由1の概要は、本件発明1?3は、本件優先日前に頒布された甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件発明1?3についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである、というものである。

(1)甲1、甲10、甲11、甲34?甲36、甲5、甲6、甲8の記載
甲1、甲10、甲11、甲34?甲36、甲6、甲8は、いずれも本件優先日前に頒布された刊行物である。甲5は、本件優先日(平成7年7月17日)と同月に発行された刊行物であるが、医薬品に関する総説的な文献であり、本件優先日当時の技術常識を把握する証拠として、採用することができるものというべきである。

ア 甲1(特開平3-58967公報、発明の名称「〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸、そのラクトン体およびその塩」)には、以下の記載がある。
(1a)「1)〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸または(2R-トランス)-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミドおよびその薬学的に許容しうる塩。
2)〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸である請求項1記載の化合物。
・・・・・・・・・・・・・・・
6)請求項2記載の化合物のヘミカルシウム塩。
・・・・・・・・・・・・・・・
11)血中コレステロールを低下させるのに有効な量の請求項1記載の化合物および薬学的に許容しうる担体を含有する高コレステロール血症治療用の医薬組成物。」(1?2頁、特許請求の範囲の請求項1、2、6、11)
(1b)「コレステロール生合成の抑制剤として有用である米国特許第4,681,893号明細書記載の化合物の中にはトランス-(±)-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミドがある。・・・
本発明によれば、予想外なことに、トランス-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミドの開環した酸のR型の対掌体、すなわち〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸がコレステロール生合成の驚くべき抑制をもたらすということが見出された。」(2頁左上欄17行?左下欄2行)
(1c)「本発明はまた、低コレステロール血症剤として有用な医薬組成物、すなわち血中コレステロールを低下させるのに有効な量の〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β、δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フエニルアミノ)カルボニル)-1H-ピロール-1-へプタン酸、その薬学的に許容しうる塩または(2R-トランス)-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-(2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-IH-ピロール-3-カルボキサミド並びに薬学的に許容しうる担体からなる医薬組成物にも関する。」(3頁右上欄2?15行)
(1d)「本発明の薬学的に許容しうる塩は、遊離酸またはラクトン好ましくはラクトンを適当な塩基とともに水性もしくは水性アルコール溶媒またはその他の適当な溶媒中に溶解しついで溶液を蒸発させて塩を単離することにより、または塩を直接分離させるかまたは塩を溶液の濃縮によって得ることができる有機溶媒中において遊離酸またはラクトン好ましくはラクトンおよび塩基を反応させることにより一般的に誘導される塩である。
実際には、塩形態の使用は酸またはラクトン形態の使用に等しい。本発明の範囲内にある薬学的に許容しうる適当な塩は、塩基例えば・・・から誘導される塩である。好ましくは、リチウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムおよび第一鉄もしくは第二鉄の各塩は、そのナトリウム塩またはカリウム塩から該塩の溶液に適当な試薬を加えることによって製造される。すなわち、式Iの化合物のナトリウム塩またはカリウム塩の溶液に塩化カルシウムを加えるとそれのカルシウム塩が得られる。
・・・・・・・・・・・・・・・
本発明の最も好ましい態様は〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸、ヘミカルシウム塩である。」(3頁左下欄11行?4頁左上欄2行)
(1e)「一般に、本発明の化合物IおよびIIは(1)参考までに本明細書中に組込まれる米国特許第4,681,893号明細書に記載の方法で製造されるラセミ体を分割することによりまたは(2)知られているかまたは知られた手法に類似の手法を使用して容易に製造される出発物質から始めて所望のキラル形態を合成することにより製造できる。
詳しく言えば、ラセミ体の分割は下記のスキーム1(ここでPhはフェニルである)に示すようにして達成され得る。

スキーム1の“トランスラセミ混合物”は下記:

の混合物を意味する。
スキーム1の工程1および工程2の条件は一般的に後記実施例6および7に見出されるとおりである。
キラル合成は下記のスキーム2(ここでPhはフェニルである)に示すとおりである。

一般に、スキーム2での条件は後記実施例1?5に示すとおりである。」(4頁左上欄3行?6頁左上欄2行)
(1f)「従って、本発明は式IもしくはIIの化合物またはその薬学的に許容しうる塩から調製される医薬組成物である。これらの組成物は、再び参考までにここに組込まれる米国特許第4,681,893号明細書に記載のようにして調製される。
同様に、本発明は低脂血症剤または低コレステロール血症剤としての使用法である。本発明の製薬法で使用される本発明化合物は、1日当り10?500mgの用量で患者に投与される。約70kgの普通の成人では1日当り0.14-7.1mg/kgの用量である。好ましくはこの用量は1日当り0.5-1.0mg/kgであるのがよい。
この用量は単位剤形で投与されるのが好ましい。経口または非経口用の単位剤形は個々の適用および活性成分の効力によって10?500mg、好ましくは20?100mgで変更または調整され得る。該組成物は所望によりその他の活性治療剤をも含有することができる。個々の状態における最適用量の決定は、当業者ならば容易である。」(6頁左上欄末行?左下欄2行)
(1g)「実施例 1
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・CHCl_(3):MeOH(10:1)から再結晶して白色結晶48.7gの収量を有する生成物1Fを得る。
・・・・・・・・・・・・・・・
生成物1Fは下記のデータを示す。
元素分析値:・・・
融点229?230℃
・・・・・・・・・・・・・・・
実施例 2
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・Et_(2)O/ヘプタンから再結晶して下記の生成物を得る。
・・・・・・・・・・・・・・・
これらの結晶は下記のデータを示す。
融点125?126℃・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
実施例 3
・・・生成物を酸/塩基抽出により抽出する。有機相を真空中で乾燥しそして濃縮して73gを得る。NMRおよびTLCは・・・
実施例 4
・・・シリカゲル上クロマトグラフィーによって13.2gが得られる。
・・・・・・・・・・・・・・・
実施例 5
2R-トランス-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミドの製造
・・・再結晶しそして4Cの母液からは2.0gが得られる。・・・
実施例 6
ジアステレオマーのα-メチルベンジルアミド類の製造
・・・有機抽出物を・・・濃縮してジアステレオマーのα-メチルベンジルアミド類28.2gを白色固形物として得る。融点174.0?177°。これらのα-メチルベンジルアミドは・・・分離される。各フラクションUVモニターによって集めた。ジアステレオマー1は41分で溶離する。・・・分析用HPLCにより各々を試験したところジアステレオマー1は99.84%純粋でありそしてジアステレオマー2は96.53%純粋であることが示される。各異性体は別個に以下の実施例でとりあげる。
実施例 7
2R-トランス-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミドの製造
・・・0.1gを白色の泡状物として得る。HPLCは該物質が94.6%化学的に純粋であることを示す。・・・
実施例 8
2S-トランス-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミド(実施例5で製造された化合物のS,S光学対掌体)の製造
・・・0.46gを白色の泡状物として得た。HPLCは該物質が97.83%化学的に純粋であることを示した。・・・
実施例 9
式IIのラクトンの加水分解
THF中に溶解したラクトンの室温溶液に、水中に溶解した水酸化ナトリウムの溶液を加える。混合物を2時間撹拌する。HPLC99.65%(生成物),0.34%(出発ラクトン)。混合物を水3L(審決注:小文字の筆記体のエルであるが、大文字の活字体で表す。以下も同じ。)で希釈し、酢酸エチル1Lずつで2回抽出し、次に5N塩酸37mLを加えてpH4の酸性にする。水性層を酢酸エチル1.5Lずつで2回抽出する。合一した酢酸エチル抽出物を水1Lずつで2回次にブラインで洗浄し、乾燥しついで濾過(審決注:濾は略字で記載されているが正字で表す。以下も同じ。)して必要とされる遊離酸の酢酸エチル溶液を得る。この溶液はN-メチルグルカミン塩のフラクション中で直接用いられる。ブライン-水からの酢酸エチル抽出物を濃縮して灰色がかった白色固形物15.5gが得られる。
実施例 10
ナトリウム塩および(または)ラクトンからのカルシウム塩
ラクトン1モル(540.6g)をMeOH5L中に溶解しついで溶解後にH_(2)O 1Lを加える。撹拌下に1当量のNaOHを加え、HPLCにより追跡するとラクトン並びにジオール酸のメチルエステル2%以下が残留している(過剰のNaOHは使用不可。Ca(OH)_(2) が生成し、CaCl_(2) の添加を必要とするため)。NaOHは苛性ソーダ(51.3mL、0.98eq.)またはペレット(39.1g、0.98eq.)として仕込むことができる。この手法は下記のように示される。

加水分解の完了と同時にH_(2)O 10Lを加えついでEtOAc/ヘキサンの1:1混合物で少なくとも2回洗浄する。各洗浄液はそれぞれEtOAc/ヘキサン10Lを含有すべきである。ナトリウム塩が純粋である場合にはMeOH15Lを加える。それが不純でありそして(または)着色物を含有する場合にはG-60木炭100gを加え、2時間撹拌しついでスーパーセル上で濾過する。MeOH15Lで洗浄する。反応混合物について重量/容量%をHPLCにより算定して溶液中における塩の正確な量を測定する。
1当量または僅かに過剰のCaCl_(2)・2H_(2)O(73.5g)をH_(2)O 20L中に溶解する。反応混合物およびCaCl_(2) 溶液の両方を60℃に加熱する。激しい振とう下にCaCl_(2) 溶液を徐々に加える。添加終了後、徐々に15℃に冷却しついで濾過する。フィルターケークをH_(2)O 5Lで洗浄する。真空オーブン中50℃で乾燥する。EtOAc 4L中に溶解し(50℃)、スーパーセル上で濾過し、EtOAc 1Lで洗浄しついで50℃rxn溶液にヘキサン3Lを仕込むことによって再結晶を行うことができる。この手法は下記のように示される。

」(6頁左下欄9行?12頁左上欄化学反応式)

イ 甲10(特開平6-192228号公報、発明の名称「結晶性(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフオニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フエニル]-アセトアミド」)には、以下の記載がある。
(10a)「【請求項1】結晶状態の下記式

で表わされる(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミド。
【請求項2】非結晶性(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドを、場合により水の存在下に、不活性有機溶媒中に懸濁させ、それが定量的に結晶性変態に転換されるまで高められた温度で処理し、得られる結晶性変態の結晶を慣用の方法で分離し、そして存在するかも知れない溶媒残渣を除去するために+20°?+70℃の温度で一定重量になる迄乾燥することを特徴とする請求項1記載の結晶性活性化合物の製造方法。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1及び2)
(10b)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドの結晶形、その製造方法及び薬品におけるその利用に関する。
【0002】【従来の技術】ロイコトリエン(leukotriene)合成の阻害剤である下記式(I)
【0003】

【0004】の(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミド、その製造方法及び薬品におけるその利用は既にEP344,519に記載されている。
【0005】そこに記載された製造方法によると、式(I)の化合物は非結晶性粉末状態で得られる。溶媒和物を含まない結晶性変態(solvate-free crystalline modification)は今まで知られていない。
【0006】しかし、非結晶状態の式(I)の化合物は、特に固形薬品の製造において重大な欠点を有することが明らかとなった。このように非晶質状態の式(I)の化合物を含有する薬品は、例えば非常に不十分な貯蔵安定性しか示さない。調合剤を30℃を超える温度で比較的長期間貯蔵する場合におこりがちなこの物理的不安定性は、吸収効率及びこれら調合剤の安全性を損なう。」
(10c)「【0007】【発明が解決すべき課題】それ故薬品製造のために、上記欠点をもたない式(I)の化合物の安定な形態を入手可能とすることが非常に重要である。
【0008】【課題を解決するための手段】公知の非結晶形と比較して、増大した物理的安定性と低減した圧力感受性に特徴を有し、それ故種々の薬品の製造のために非結晶形より相当適している、新規な結晶形の化合物(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドが今回見出された。」

ウ 甲11(特開平7-53581号公報、発明の名称「結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の製造法」)には、以下の記載がある。
(11a)「【請求項1】L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩を水溶媒下で結晶化させることを特徴とする結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の製造法。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1)
(11b)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、医薬品、化粧品、食品および動物飼料などに有用なL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の結晶(以下、結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩と称する。)の製造法に関する。
【0002】【従来技術および課題】現在市販されているL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩は非晶質であるため、保存時吸湿しやすく粉末の団塊化を生じやすい。また、L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩自身の化学的安定性が充分でなく、他の薬物との配合時に影響を与えることが多い。さらに、ケーキングを生じたり、流動性が不十分なため製剤化に際して支障をきたすことが多く、実用面で支障になる品質のバラツキが生じやすい。従って、安定な結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩として提供されることが望まれている。 L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の結晶化の例としては、L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の水溶液にメタノールを加え、得られた沈澱物を水-メタノールから再結晶する方法[ケミカル・アンド・ファーマシューティカル・ブレティン(Chem. Pharm. Bull.)、17、381(1969)およびケミカル・アンド・ファーマシューティカル・ブレティン(Chem. Pharm. Bull.)、30、1024(1982)]、L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩を含有する水溶液にアルコール類またはアセトンなどを添加して該結晶を得る方法(特開昭59-51293号)が知られているが、これらの方法は結晶の純度、安定性、結晶化の簡便性などの点で十分とは言えない。」
(11c)「【0028】試験例1
実施例1で得られた結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩について密閉容器中、60℃下での残存率を測定し、非晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩[ホスピタンC(商品名)、昭和電工(株)製]と比較することによりその安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
60℃下の安定性(残存率%)
2週 1カ月 2カ月 3カ月 6カ月
本発明での結晶 99.9 99.1 98.4 97.6 95.3
非晶質 99.0 96.5 93.9 90.5 78.5
【0030】表1から明らかなように、本発明による結晶は優れた安定性を有する。」

エ 甲34(特公昭52-45716号公報、発明の名称「アンピシリンナトリウム塩の製造法」)には、以下の記載がある。
(34a)「1 親水性溶媒と水からなる含水溶媒中で、アンピシリンまたはその塩類、シリル誘導体に、水酸化ナトリウムまたはナトリウム塩を作用させてアンピシリンナトリウム塩を生成させ、含水溶媒系から晶出させることを特徴とするアンピシリンナトリウム塩I型結晶の製造法。」(4頁、特許請求の範囲)
(34b)「本発明は、アンピシリンナトリウム塩の製造法に関するものである。
半合成ペニシリンの1つであるアンピシリンは、グラム陽性およびグラム陰性菌によつて引き起される種々の感染症に対して有効であるため、広く繁用されている。現在アンピシリンは、一般に遊離型とナトリウム塩が用いられている。このうち遊離型のものには、結晶形の無水物(特公昭41-8349)およびトリハイドレート(米国特許3157640)があり、これらはその無晶形のものに比し,安定であることが知られているが、ナトリウム塩の結晶性と安定性については十分研究されていない。」(1頁1欄27行?2欄2行)
(34c)「本発明方法によればアンピシリンナトリウム塩は、安定な結晶形(I型と称する)として得ることができる。このI型結晶は、たとえばアンピシリンナトリウム塩の水溶液を凍結乾燥して得られる無晶形のものと比較すると、たとえば40℃、関係湿度52.4℃条件で保存した場合の残存率および吸湿平衡は、第4図および第5図に示すごとく、I型結晶が顕著にすぐれている・・・。」(2頁3欄31?40行)
(34d)「

」(7頁、第4図)
(34e)「

」(7頁、第5図)

オ 甲35(特開昭61-363985号公報、発明の名称「セフアロスポリン誘導体」)には、以下の記載がある。
(35a)「1.(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド]-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートまたは(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(5-アミノ-1-チア-2,4-ジアゾール-3-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレ-トであるセフアロスポリン誘導体の結晶性無水物、0.5水和物、1水相物または3水和物。
2.(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートまたは(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(5-アミノ-1-チア-2,4-ジアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド〕-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートであるセフアロスポリン誘導体の無定形物を、水性有機溶媒に溶解し、得られる溶液を有機溶媒に加え、もしくは冷却し、次いで必要に応じて乾燥することを特徴とするセフアロスポリン誘導体の結晶性無水物、0.5水和物、1水和物または3水和物の製造法。」(1頁、特許請求の範囲の請求項1及び2)
(35b)「〈背景技術〉
7-位に2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド基を有するセフアロスポリン誘導体が、強力な抗菌活性を有する抗生物質として知られている。
例えば、下記式

で表される(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド]-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートは、ベタイン構造を有し、各種のグラム陽性菌、グラム陰性菌に対して強力な抗菌活性を有するセフアロスポリン誘導体(特開昭59-239292号公報)である。
これらのセフアロスポリン誘導体は、分子中に有するβ-ラクタム環の加水分解が起り易く、通常化学的に不安定である。」(2頁左上欄14行?右上欄下から4行)
(35c)「したがつて、かかるセファロスポリン誘導体を医薬として用いる場合、安定な形態で使用することが非常に重要である。
〈発明の開示〉
本発明の目的は、(6R,7R)-7-〔(Z)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-2-メトキシイミノアセトアミド)-3-(1-キヌクリジニウムメチル)-3-セフエム-4-カルボキシレートまたはその誘導体の安定化された結晶性化合物を提供することにある。」(2頁右上欄下から3行?左下欄8行)
(35d)「(2) 3水和物,1水和物,0.5水和物,無水物を褐色バイアルに熔封後85℃で保存し、高速液体クロマドグラフィーで分析した。結果を下表に示す。(残存率,%)

試料 \ 経時 10日後 24日後
無定形物 0 0
3水和物 97.0 86.8
1水和物 96.1 85.5
0.5水和物 98.3 86.3
無水物 97.5 86.0
」(8頁右上欄下から4行?左下欄)

カ 甲36(特開平4-235188号公報、発明の名称「ペネム化合物の結晶、その製造方法および抗菌剤」)には、以下の記載がある。
(36a)「【請求項1】粉末X線回折により、面間隔12.8、8.8、5.6、4.44、4.36、4.2Åに主ピークを示す回折パターンを有する(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルの結晶。
【請求項2】(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルの良溶媒溶液に、該良溶媒と混和性の貧溶媒を添加、撹拌し、30℃以下に冷却して、粉末X線回折により、面間隔12.8、8.8、5.6、4.44、4.36、4.2Åに主ピークを示す回折パターンを有する(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルの結晶を得ることを特徴とする該結晶の製造方法。」(2頁、特許請求の範囲の請求項1及び2)
(36b)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は医薬用の抗菌化合物として有用なペネム化合物の結晶およびその製造方法に関する。
【0002】【従来の技術および課題】特開昭62-263183号には、ある種の2-ピリジル-ペネム化合物が開示されており、そのうち、特に、式:


で表される(+)-(5R,6S)-6-[(R)-1-ヒドロキシエチル]-3-(3-ピリジル)-7-オキソ-4-チア-1-アザビシクロ[3.2.0]ヘプト-2-エン-2-カルボン酸ピバロイルオキシメチルエステルは、特に、経口投与によりグラム陰性菌のみならずグラム陽性菌にも優れた抗菌活性を有する有用なペネム化合物であり、その実用化が検討されている。しかし、該ペネム化合物は、優れた抗菌活性を示す一方、これまで無晶形でしか得られておらず、この無晶形の固体は安定性が不十分で、通常の条件下で長時間保存すると変色し、製剤化に際し、有効成分の含量低下を来す問題がある。また、無晶形の固体を実質的に純粋なものとするには、煩雑な精製工程を要する問題がある。そこで、本発明者らは、これらの問題点を解決するために、優れた抗菌活性を示す該ペネム化合物を保存安定性の良い形状として得るべく鋭意検討の結果、該ペネム化合物が安定な結晶として得られること、結晶化により容易に精製できること、さらに、結晶の残留溶媒の面から、医薬として有利な水-エタノール系より結晶が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」
(36c)「【0014】実験例
本発明の方法で製造したエステルの結晶形粉末および参考例により製造した無晶形粉末のそれぞれを60℃の温度で密栓容器中暗所に保存し、残存率を調べた。
粉末の種類 保存条件 残存率
無晶形粉末 60℃ 14日間 37.7%
実施例1の結晶形粉末 60℃ 19日間 98.7%
実施例2の結晶形粉末 60℃ 14日間 98.9%


キ 甲5(Pharmaceutical Research,12(7),1995,p.945-954)には、以下の記載がある。訳文で示す。
(5a)「医薬品固体:法規制考慮への戦略的アプローチ」(945頁、標題)
(5b)「医薬品固体の対象における興味は、“適切な”分析手法を用いて原薬の多形、水和、又は無定形を検出すべきであるとする、食品医薬品局(FDA)の原薬ガイドラインに部分的に由来する。これらのガイドラインは、原薬の結晶形態を制御することの重要性を示す。ガイドラインはまた、原薬の結晶形態を制御すること、及びバイオアベイラビリティが影響されるならば、その制御方法の妥当性を実証することは、申請者の責任であるとしている。
したがって、新薬申請(NDA)は、特にバイオアベイラビリティが問題となる場合には、固体状態に関する情報が含まれていなければならないことが明らかである一方で、申請者は、情報収集への科学的アプローチやどのような情報が必要とされるのかについて、確信が持てないであろう。この総説は、一連のガイドラインや規則ではなく、フローチャートの形でコンセプトやアイディアを示すことにより、こうした不確かさの大部分を取り除くための戦略的なアプローチを提供することを目的とする。個別の化合物はそれぞれ、アプローチの柔軟性を必要とする特有の特性を有するため、このことは特に重要である。ここで提案されるこの研究は、臨床試験用新医薬品(IND)申請プロセスの一部分である。
固体の医薬物質は、広範囲であり且つ概して予測のできない、様々な固体状態特性を示す。それでもなお、多くの事例において、適切な分析的手法を用いて基本的な物理化学的性質を申請することは、固体状態での挙動に関する科学的及び規制上の決定のための戦略を提供する。医薬品開発の初期段階において、固体状態での挙動に関する基本的な疑問に取り組むことにより、申請者とFDAの両者は、医薬物質の固体状態特性の何らかの変動が与え得る効果を評価しやすくなる。この分野に関してはその結果としてもたらされる両者の初期段階での関わりは、臨床試験中に用いられる物質の均質性を保障しやすくするだけではなく、医薬品開発の臨床段階に入る前に固体状態での問題点を完全に解決することにもつながる。これらの科学的研究がもたらす更なる利益は、医薬物質の固体形態を充分に記述する、固体状態についての有意義な規格の確立である。これらの規格はしたがって、サプライヤー又は化学工程における一部変更承認を促進する。」(945頁左欄1行?右欄15行)
(5c)「既に述べたように、原薬の多形及び水和物の存在について調べることが得策である。というのは、これらは医薬品製造プロセスの何れかの段階で、又は原薬若しくは製剤の貯蔵に際して遭遇し得るからである。」(946頁左欄下から5?末行)
(5d)「A.多形の形成?多形は発見されているか?
多形決定ツリーの最初のステップは、多形は可能かという質問への回答を試みるために、その物質を多数の異なる溶媒から結晶化させることである。溶媒は、最終結晶化工程で用いられるもの、及び製剤化や加工工程で用いられるものを含み、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、アセトにトリル、酢酸エチル、ヘキサン、及び適切であればこれらの混合物を使用できる。」(946頁右欄19?28行)
(5e)「フローチャート/多形決定ツリー」と題する図1(946頁)は、左上の「多形は発見されているか?」で始まり、左下には以下の記載がある。
「多形のための試験
-X線粉末回折
-示差走査熱量分析
-顕微鏡
-赤外吸収スペクトル
-固体NMR」
「溶媒和物又は水和物のためのフローチャート」と題する図6(949頁)、「脱溶媒した溶媒和物のためのフローチャート」と題する図9(951頁)、「非晶質固体のためのフローチャート」と題する図11(952頁)にも試験の手段が挙げられている。
(5f)「大変少ない例外を除き、市販されている結晶性医薬物質に含まれている構造的な溶媒は、水である。」(949頁左欄19?20行)
(5g)「フローチャートの次の質問は、“アモルファス形態は、異なる物理的特性を有するか?”である。この質問に対する回答は、ほとんどの場合において確実に“イエス”であろう。一般に、結晶形態とは異なる点が3つ考えられる。1)アモルファス形態のほうが、溶解性が高いであろうこと。2)アモルファス形態のほうが、より広範に水を吸収すること。3)アモルファス形態のほうがしばしば、化学的に安定性が低いこと。アモルファス形態への別の重要な疑問は、“結晶化するか、それはどのように、いつ”ということである。予期しない結晶化は、溶解性と溶解速度に影響し、製剤化での別な障害につながるため、この疑問は非常に重要である。アモルファス形態を意図的に結晶化させる試みは、アモルファス形態の結晶化に関連するパラメータ情報をもたらす。特有な質問として、(1)“アモルファス形態は、熱及び/又は湿気にさらすことで結晶化するか?”、(2)“いかなるその他の要因(たとえば、機械的圧力及び種晶添加がアモルファス形態の結晶化をもたらすか?”、が挙げられる。」(952頁右欄10?27行)

ク 甲6(Thermochimica Acta,248,1995,p.61-79)には、以下の記載がある。訳文で示す。
(6a)「医薬水和物」(61頁、標題)
(6b)「医薬品固体は、結晶化、凍結乾燥、湿式造粒、水性フィルムコーティング、又は噴霧乾燥のような処理工程の間に水と接触するであろう。」(61頁下から2行?62頁1行)
(6c)「いくつかの結晶性固体に関しては、周囲の媒体中の溶媒が、化学量論的割合で化合物の結晶格子に取り込まれるであろう。これらの分子付加物は溶媒和物といわれる。水が結晶化溶媒である場合、水和物が形成される。」(62頁7?10行)
(6d)「これまでの節での議論は、製造開発の間に、物理的及び/又は化学的な安定性、バイオアベイラビリティ、並びに加工に影響する相転移の問題を回避できるように、医薬水和物を特徴付けることの重要性を強調している。その結果、剤形の開発の間において、検討中の固体が水和物を形成するか否かを調べ、もしそうであれば、薬物の異なる疑似多形が熱力学的に安定である温度及び水分活性の条件を決定することが必須である。
図9は、適切な分析規格及び制御を設定するために、製品開発の過程の間に問われることが必要な質問のセットを提供するデシジョンツリー又はフローチャート[1]を示す。図9は、また、提示された質問に答えるのに用いられる固体状態分析技術も列挙している。物質が溶媒和物として存在しそうか否かを検証するために、それは種々の極性を持つ溶媒から結晶化される。溶媒の極性を変化させる代わりに、水と適当な有機溶媒との混合物を用いて、溶媒媒体の水分活性を変化させることができる。結晶化された固体は、その組成及び化学量論を明らかにするため、図9に列挙された方法によって分析される。」(73頁8?下から4行)

ケ 甲8(Chemistry & Industry,21,1989,p.527-529)には、以下の記載がある。訳文で示す。
(8a)「プロセスの開発における多形」(527頁、標題)
(8b)「結晶性製品は、一般に、単離し、精製し、乾燥するのに、そしてバッチプロセスにおいては取扱い、製剤化するのに、最も容易である。」(527頁左欄1?3行)
(8c)「多形は、同一分子の単位セル内での結合方法が異なる結晶格子をもつ。その相違は、セル内の分子の詰め込み方の違いや立体配置の変化を反映しており、大きなものであり得る。水素結合は、医薬産業にとって興味のあるほとんどの分子に関係するであろう。」(527頁左欄15?20行)
(8d)「可能性のあるいかなる多形が得られるかは、結晶化が生じる温度、溶媒の性質(親水性か、疎水性か)、そして結晶化が始まる過飽和の程度、といった様々なファクターに依存するようである。種結晶の使用は、目的とする多形を得るために有用である。」(527頁右欄9?14行)
(8e)「少数の化合物しか開発に至らないうえ、市販されるものはさらに少ない。各開発候補品に進展のための最良の機会を与えるには、多形が現れるのを成行き任せにしてその結果混乱を来すよりも、多形について調査するほうが良いと思われる。多形を得ようとする試みにおいて用いられる手法には、急速に溶液を冷却するか、溶質の溶けにくい第二の溶媒を加えるか、過剰の固体を溶媒と共に激しく攪拌するか、過剰の固体を高沸点溶媒と共に加熱するか、昇華させるか、及び溶液のpHを急激に変化させて酸性又は塩基性の物質を沈殿させるかという方法により、異なる温度下で様々な溶媒(極性及び非極性、親水性及び疎水性)から結晶化させることが含まれる。」(528頁左欄2?14行)

(2)甲1に記載された発明
甲1には、その特許請求の範囲の請求項1に、
「〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸または(2R-トランス)-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミドおよびその薬学的に許容しうる塩」
の発明が記載されている(摘示(1a))。前半の「・・・ヘプタン酸」と記載される化合物は、以下の式I

で表され、後半の「・・・カルボキサミド」と記載される化合物は、以下の式II

で表され、後者は、前者のラクトン体に相当している。そして、前者の化合物のヘミカルシウム塩の発明が、請求項6に記載されている(前者の遊離酸の形の化合物を「アトルバスタチン」ということがあり、一方、そのヘミカルシウム塩も「アトルバスタチンカルシウム」という以外に「アトルバスタチン」ということがあり、上記第2で指摘したとおり、本件発明においてもヘミカルシウム塩を「アトルバスタチン」としているので、以下、前者の遊離酸の形の化合物を「アトルバスタチン遊離酸」といい、後者の化合物を単に「ラクトン」といい、ヘミカルシウム塩を「アトルバスタチン」という。)。
そして、甲1には、アトルバスタチン遊離酸又はラクトンの製造に関して、文献の提示と共に、光学分割のスキーム1及び合成のスキーム2が示され(摘示(1e))、実施例には、実施例1?5にラクトンの合成が、実施例6?8にラクトンの光学分割が、実施例9にラクトンの加水分解によるアトルバスタチン遊離酸の製造が、実施例10にラクトンをアトルバスタチンのナトリウム塩(以下「アトルバスタチンナトリウム」という。)とし次いでカルシウム塩とするアトルバスタチンの製造が、それぞれ、具体的に記載されている(摘示(1g))。その実施例10を参照すると、60℃のアトルバスタチンナトリウムの溶液に60℃の塩化カルシウム水溶液を徐々に加え、冷却し、濾過し、洗浄し、乾燥し、酢酸エチルに溶解し(50℃)、濾過し、洗浄し、50℃rxn溶液にヘキサンを仕込むことによって再結晶を行うことができるとされているから、生成物のアトルバスタチンは、再結晶の操作を経た、結晶形態のアトルバスタチンであるといえる。
さらに、甲1には、請求項11に、「血中コレステロールを低下させるのに有効な量の請求項1記載の化合物および薬学的に許容しうる担体を含有する高コレステロール血症治療用の医薬組成物」の発明が記載されている。そして、甲1には、薬学的に許容し得る担体と共に医薬組成物とすることに関して、文献の提示と共に説明され、用量についても説明されている(摘示(1f))。
してみると、甲1には、その請求項1の前半に記載された化合物の薬学的に許容し得る塩の一つであるヘミカルシウム塩の結晶形態のもの及び薬学的に許容し得る担体を含有する高コレステロール血症治療用の医薬組成物についての、以下の、
「結晶形態の〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩及び薬学的に許容し得る担体を含有する高コレステロール血症治療用の医薬組成物」
の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているということができる。

(3)甲1発明との対比・判断

ア 本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩」は、本件発明1の「アトルバスタチン」に相当し、両者は、本件発明1の「結晶性形態I」が結晶形態の一つであることから、結晶形態の「アトルバスタチン」である点で共通する。
甲1発明の「薬学的に許容し得る担体」は、本件発明1の「少なくとも1種の医薬的に許容し得る賦形剤、希釈剤または担体」に相当する。
甲1発明の「高コレステロール血症治療用の医薬組成物」は、本件発明1の「医薬組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、
「少なくとも1種の医薬的に許容し得る賦形剤、希釈剤または担体と混合された結晶形態のアトルバスタチンを含有する医薬組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:
本件発明1は、結晶形態のアトルバスタチンが、結晶性形態Iの水和物結晶であり、X線粉末回折の2θの数値で特定されたものであるのに対し、甲1発明においては結晶形態のアトルバスタチンがそのように特定されたものではない点

(イ)相違点の検討

a 結晶を得ることの動機付けについて

(a)甲10(特開平6-192228号公報)は、結晶性(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドに係る文献であるところ、同文献には、非結晶状態のアセトアミドは、固形薬品の製造において重大な欠点を有しており、結晶性のアセトアミドは、非結晶状態のアセトアミドと比較して、物理的安定性に優れている旨が記載されている(摘示(10a)?(10c))。

(b)甲11(特開平7-53581号公報)は、結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の製造法に係る文献であるところ、同文献には、非晶質のL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩は、保存時において吸湿しやすく、実用面で支障が生じやすいため、安定な結晶質のL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩が望ましい旨が記載されている(摘示(11a)?(11c))。

(c)医薬に関するその他の文献においても、以下のように、結晶性の形態が安定性に優れている旨が記載されている。
甲34(特公昭52-45716号公報)は、アンピシリンナトリウムの製造法に係る文献であるところ、同文献には、アンピシリンナトリウムのI型結晶は、無晶型のものと比較すると、例えば40℃、関係湿度52.4℃条件で保存した場合の残存率及び吸湿平衡が顕著に優れている旨が記載されており(摘示(34a)(34c)?(34e))、アンピシリン遊離型も、結晶形の無水物及びトリハイドレートが無晶形のものに比し安定である旨が記載されている(摘示(34b))。
甲35(特開昭61-263985号公報)は、セフアロスポリン誘導体に係る文献であるところ、同文献には、セフアロスポリン誘導体は、加水分解が起こり易く化学的に不安定であり、無定形物は85℃10日後に残存率0であるところ、結晶性無水物、0.5水和物、1水和物及び3水和物は残存率96.1%以上と安定である旨が記載されている(摘示(35a)?(35d))。
甲36(特開平4-235188号公報)は、ペネム化合物の結晶、その製造方法及び抗菌剤に係る文献であるところ、同文献には、ペネム化合物の無晶形の固体は安定性が不十分で製剤化に際し有効成分の含量低下を来す問題があり、該化合物の結晶形粉末は保存安定性が良い旨が記載されている(摘示(36a)?(36c))。

(d)以上によると、本件優先日当時、一般に、医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから、医薬化合物を結晶化することについては強い動機付けがあり、結晶化条件を検討したり、結晶多形を調べることは、当業者がごく普通に行うことであるものと認められる。
そして、上記(2)のとおり、甲1には、アトルバスタチンを結晶化したことが記載されているから、甲1に開示されたアトルバスタチンの結晶について、当業者が結晶化条件を検討したり、得られた結晶について分析することには、十分な動機付けを認めることができる。

b 水を含む系による再結晶化の示唆について

(a)甲5(Pharmaceutical Research,12(7),1995,p.945-954)は、医薬品固体を得るための手法に係る総説的な文献であるところ(審決注:上記(1)冒頭に記載したように、本件優先日(平成7年7月17日)と同月に発行された刊行物であるが、医薬品に関する総説的な文献であり、本件優先日当時の技術常識を把握する証拠として、採用することができるものというべきである。)、同文献には、医薬品製造の各段階又は原薬や製剤の貯蔵の際、原薬の多形及び水和物が用いられる可能性があるから、これらの形態の存在について、原薬を調べるのが得策であること、結晶化溶媒は、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、ヘキサン、及びこれらの混合物を使用できること、ごく少数の例外はあるが、市販された結晶性薬物製品に含有される構造的溶媒は水であることが記載されている(摘示(5c)?(5f))。

(b)甲6(Thermochimica Acta,248,1995,p.61-79)は、医薬化合物の水和物に関する総説的な文献であるところ、同文献には、製造開発の間に、物理的、化学的な安定性、バイオアベイラビリティ及び加工に影響する相転移の問題を回避できるように、医薬水和物を特徴付けることの重要性が強調されており、その結果、剤形の開発の間において、検討中の固体が水和物を形成するか否かを調べ、もしそうであれば、薬物の異なる疑似多形が熱力学的に安定である温度及び水分活性の条件を決定することが必須であること、種々の極性を持つ溶媒から結晶化することにより、物質が溶媒和物として存在するか否かを検証することができること、溶媒の極性を変化させる代わりに、水と適当な有機溶媒との混合物を用いて、溶媒媒体の水分活性を変化させることができることが記載されている(摘示(6d))。

(c)以上によると、本件優先日前から、医薬化合物の結晶として水和物結晶を特徴付けることの重要性が認識されており、対象とする医薬化合物について、水和物を形成するかどうかを検証すべく、水を含む系から水和物として結晶させることを試みることは、当業者にとって通常なし得ることであったというべきである。
したがって、甲1に開示されたアトルバスタチンの結晶について、水を含む溶媒を用いた水和物として結晶を得ることを試みることは、当業者がごく普通に行うことであるというべきである。

c X線粉末回折の2θの数値で特定されたものである点について

(a)結晶性形態Iを得るための方法について、本件明細書には、段落【0037】?【0042】の一般的な記載及び段落【0060】の実施例1の記載がある。このうち、段落【0041】の記載は、次のとおりである。
「出発物質が無定形のアトルバスタチンまたは無定形および結晶性形態Iのアトルバスタチンの組み合わせである場合は、所望の結晶性形態Iのアトルバスタチンは、必要な形態への変換が完了するまで、約40v/v%まで、例えば約0?20v/v%、特に好ましくは約5?15v/v%の補助溶剤、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトンなどを含有する水中に固体を懸濁し次いで濾過することによって得ることができる。しばしば、結晶性形態Iのアトルバスタチンへの完全な変換を確保するために、結晶性形態Iのアトルバスタチンの“種子”を懸濁液に添加することが望ましいということが見出されている。このようにする代わりに、主として無定形のアトルバスタチンからなる水湿潤ケーキを、有意な量の結晶性形態Iのアトルバスタチンが存在するまで、高い温度、例えば約75℃まで、特に好ましくは約65?70℃の温度で加熱し、それによって無定形/懸濁液形態Iの混合物を上述したようにスラリー化することができる。」

(b)上記(a)の段落【0041】に開示された方法は、水性溶媒中での懸濁物ないし湿潤ケーキを養生するというものであって、当業者が通常採用しないような手法を用いているものではなく(摘示(8e)参照。水和物結晶を念頭に置いた場合に、水性溶媒を使用することは当業者に自明である。)、特殊な条件設定が必要であるというものでもないから、本件発明に係る結晶性形態Iは、当業者が通常なし得る範囲の試行錯誤で得られた結果物である水和物結晶に過ぎないものというべきである。
なお、上記の段落【0041】には「出発物質が無定形のアトルバスタチン・・・である場合は」と記載されているが、本件明細書は段落【0003】に「米国特許第5,273,995号」を引用し、段落【0007】に「上記米国特許の方法は・・・無定形のアトルバスタチンを開示している」と記載しており、上記米国特許は、甲1とパテントファミリーの関係にあって明細書に開示される内容が同じ文献であるので、上記の段落【0041】の「出発物質が無定形のアトルバスタチン・・・である場合は」の記載は、「出発物質が甲1に開示されたアトルバスタチンである場合は」と読替えることができることは、明らかである。
そして、結晶性が期待される医薬化合物の分析のために、X線粉末回折を行うことは、通常のことであるから(例えば、上記(1)の甲5の摘示(5e)参照。また、後記5で無効理由5に関連して引用する甲18(「第十六改正 日本薬局方解説書」,廣川書店,2011年,B-370-B-380)参照)、相違点1に係る、X線粉末回折の2θの数値で特定されたものである点は、当業者が、得られた結晶について、その分析において通常用いるX線粉末回折を行った場合に得られる結果を、提示しただけのことに過ぎない。

d 以上によれば、本件発明1は、アトルバスタチンの特定の結晶性形態(結晶性形態I)に係る発明であるところ、甲1により開示されたアトルバスタチンの結晶について、水和物結晶を得ることを意図し、水性溶媒中での懸濁物ないし湿潤ケーキを養生するという当業者が通常採用する手法を採用して、諸条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより、相違点1に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)効果について

a 本件発明の効果は、本件明細書の段落【0008】に「形態Iのアトルバスタチンは、従来の無定形の生成物よりも小さい粒子およびより一様な大きさの分布からなり、そしてより有利な濾過および乾燥特性を示す。さらに、形態Iのアトルバスタチンは、無定形の生成物よりも純粋でありそしてより安定である」及び段落【0042】に「結晶性形態Iのアトルバスタチンは、無定形のアトルバスタチンよりも著しく容易に単離し、そして冷却後結晶化媒質から濾過し、洗浄しそして乾燥することができる。例えば、結晶性形態Iのアトルバスタチンの50mlのスラリーの濾過は、10秒以内に完了した。無定形のアトルバスタチンの同様な量の試料は、濾過するのに1時間以上を必要とした」と記載される効果であると認められる。
しかし、この効果は、以下に示すように、格別の効果であるとはいえない。

b 濾過性及び乾燥性について
甲8(Chemistry & Industry,21,1989,p.527-529)は、化学物質の結晶、特に結晶多形の研究の重要性を指摘する文献であるところ、同文献には、一般に、単離、生成、乾燥及びバッチプロセスにおいて、結晶性製品は、取扱いや製剤が最も容易であることが記載されている(摘示(8b))。
したがって、一般に、結晶は、無定形と比較して、優れた濾過性及び乾燥性を有することは、本件優先日前から当業者に周知であったということができる。
上記aのとおり、本件明細書には、結晶性形態Iのスラリー50mlの濾過は10秒以内に完了したが、無定形のアトルバスタチンの場合、1時間以上が必要であった旨が記載されているところ、結晶スラリーの濾過性は、含まれる結晶の形態のみならず、大きさ(粒度)やその分布にも依存することは明らかであって、本件明細書の上記記載から、結晶性形態Iの濾過性及び乾燥性が、結晶として通常予測し得る範囲を超えるほど顕著なものであるとまで認めることはできない。

c 安定性について
上記(イ)aのとおり、結晶が無定形よりも安定性を有することは、当業者の技術常識であるということができる。
本件明細書には、結晶性形態Iは、無定形の生成物よりも純粋で安定性を有する旨が記載されているが、当該記載の裏付けとして提出された各種データ(乙4(1998年12月2日付けのワーナーランバート社のCharles Edward Colsonの宣誓書)、乙5(2011年4月8日付けのファイザー株式会社の市川林の陳述書))を考慮したとしても、乙4に記載されるのは、「80℃で4週間貯蔵すると、無定形アトルバスタチンのバルク医薬原体は、分解して、不純物総量が、試験開始時の3.33%から10.37%に増加しました。同じ80℃の貯蔵条件下で、結晶性形態Iのアトルバスタチンは、不純物総量の有意な増加を示しませんでした(試験開始時の不純物総量は0.46%であり、4週間後は0.53%でした。)。40℃及び相対湿度75%で4週間貯蔵すると・・・さらに、80℃及び40℃(相対湿度75%)で8週間貯蔵した後でも、結晶性形態Iのアトルバスタチンは、不純物総量の有意な増加を示しませんでした・・・」、「他の研究では・・・結晶性形態Iのアトルバスタチンは、25℃で少なくとも2年間は、酸素の存在下であっても、不純物総量の有意な増加なしに貯蔵することができます」という陳述であり、乙5に記載されるのは、米国におけるリピトール錠の販売承認の申請資料の一部を示しての「無定形と結晶形Iでは、分解生成物の量が大きく相違するだけでなく、生成する分解生成物のプロファイルも異なることがわかります」という陳述であるから、なお結晶性形態Iの安定性が、通常の結晶から予測し得る範囲を超える顕著なものであるとまで認めることはできない。

d 以上によれば、本件発明の結晶性形態の作用効果について、格別顕著なものとまでいうことはできない。

(エ)まとめ
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 本件発明2について

(ア)対比
本件発明2は、本件発明1において、「結晶性形態Iのアトルバスタチン水和物が、CuKα放射線を使用して2分の粉砕後に測定した、2θ、d-面間隔、および>20%の相対強度の相対強度によって表した次のX線粉末回折パターンを有する・・・【表1】(審決注:略)」ことを特定したものである。
そうすると、本件発明2と甲1発明は、
「少なくとも1種の医薬的に許容し得る賦形剤、希釈剤または担体と混合された結晶形態のアトルバスタチンを含有する医薬組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点2:
本件発明2は、結晶形態のアトルバスタチンが、結晶性形態Iの水和物結晶であり、X線粉末回折の2θ、d-面間隔及び>20%の相対強度の各数値で特定されたものであるのに対し、甲1発明においては結晶形態のアトルバスタチンがそのように特定されたものではない点

(イ)相違点の検討
結晶を得ることの動機付けについて、及び、水を含む系による再結晶化の示唆については、上記ア(イ)a及びbで検討したとおりである。X線粉末回折の2θ、d-面間隔及び>20%の相対強度の各数値で特定されたものである点については、当業者が通常用いるX線回折では、2θからd-面間隔を計算して一緒に表示することや、相対強度を表示することも通常のことであるから、上記ア(イ)cで検討したのと同様である。
以上によれば、本件発明2は、アトルバスタチンの特定の結晶性形態(結晶性形態I)に係る発明であるところ、甲1により開示されたアトルバスタチンの結晶について、水和物結晶を得ることを意図し、水性溶媒中での懸濁物ないし湿潤ケーキを養生するという当業者が通常採用する手法を採用して、諸条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより、相違点2に係る本件発明2の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)効果について
上記ア(ウ)で検討したとおりである。

(エ)まとめ
したがって、本件発明2は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 本件発明3について

(ア)対比
本件発明3と甲1発明とを、上記ア(ア)と同様に対比すると、両者は、
「少なくとも1種の医薬的に許容し得る賦形剤、希釈剤または担体と混合された結晶形態のアトルバスタチンを含有する医薬組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点3:
本件発明3は、結晶形態のアトルバスタチンが、結晶性形態Iの水和物結晶であり、固体状態の^(13)C核磁気共鳴の化学シフトの数値で特定されたものであるのに対し、甲1発明においては結晶形態のアトルバスタチンがそのように特定されたものではない点

(イ)相違点の検討
結晶を得ることの動機付けについて、及び、水を含む系による再結晶化の示唆については、上記ア(イ)a及びbで検討したとおりである。固体状態の^(13)C核磁気共鳴の化学シフトの数値で特定されたものである点については、固体状態の^(13)C核磁気共鳴による分析も、X線粉末回折による分析と同様に、当業者が医薬化合物の分析において通常行うものであるから(例えば、上記(1)の甲5の摘示(5e)の「固体NMR」として^(13)C核磁気共鳴も用いられることは明らかである。摘示していないが、乙14の1(J.Med. Chem.,33,1990,p.919-926)、乙14の2(J. Org. Chem.,57,1992,p.6257-6265)など、医薬化合物の製造に係る文献に^(13)C核磁気共鳴のデータが記載されるのは普通のことである。)、上記ア(イ)cで検討したのと同様である。
以上によれば、本件発明3は、アトルバスタチンの特定の結晶性形態(結晶性形態I)に係る発明であるところ、甲1により開示されたアトルバスタチンの結晶について、水和物結晶を得ることを意図し、水性溶媒中での懸濁物ないし湿潤ケーキを養生するという当業者が通常採用する手法を採用して、諸条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより、相違点3に係る本件発明3の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)効果について
上記ア(ウ)で検討したとおりである。

(エ)まとめ
したがって、本件発明3は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)被請求人の主張について

ア 被請求人は、概略以下の主張をしている(証拠の表示は前記第3の2、第4の2を参照)。

(i)甲1の実施例10に結晶形態を開示していない。
a 被請求人の追試では無定形であるし(乙17)、請求人が原出願特許の無効審判の審決取消訴訟の審理過程で提出した実験報告のデータは無定形である(乙18)。
b 甲1の発明者は、実施例10の記載は、単に固体の沈殿物を得たという以上の意味はないと述べている(乙7)。
c 専門家の鑑定意見書(乙27)は、「再結晶」の用語は、固体物を溶媒に溶かして再度固体状物を析出させることを意味するとしている。
d 固体の生成物を得る場合に、無定形でも「再結晶」としている事例が多数存在する(乙8、乙14の1?乙14の4)。
e 後発医薬品メーカーの特許文献には、甲1には無定形が記載されているとしている(乙8、乙9)。
f 請求人は、乙18のX線回折パターンは、甲22にアトルバスタチンのV型として記載されるX線パターンに類似するので、無定形とは区別された結晶形として把握されると主張するが、X線解析の専門家の宣誓書(乙41)は、従来技術のアトルバスタチンが無定形を意味するとしており、そのX線回折パターンと、甲22がV型とよんでいる形態のX線回折パターンはよく一致しており、甲22のV型は無定形である。

(ii)結晶Iは通常の試行錯誤で得られた水和物結晶でなく、結晶Iに到達することは困難である。
a 結晶を取得する方法が一般的に知られているとしても、個々の化合物において望ましい性質を有する結晶を取得する方法が知られていないとき、当該結晶を取得する方法を見出すためには、多大の試行錯誤を繰り返すしかなく、そうしたとしても成功する保証はない(乙27?乙34)から、個々の結晶の発明に関する進歩性の有無は、個別の事情に基づいて検討されなければならない。
b 請求人が引用した甲5?甲9は、アトルバスタチンに言及しない一般的な内容のものに過ぎず、当業者が具体的な成功の蓋然性を伴って試みるべき内容が提供されていないから、発明の容易想到性につながらない。
c 甲1には水和物結晶の示唆がなく、他のスタチン系化合物も、いずれも無水物である(乙19の1?乙19の4)から、水和物結晶を探索する動機付けに乏しかったし、現在の知見ではあるがアトルバスタチンは結晶多形の数が非常に多い(乙20?乙22)から、異なる結晶形になり結晶Iが得られない可能性が高い。

(iii)結晶Iは顕著な作用効果を有する。
a 濾過性、乾燥性は、本件明細書の段落【0042】に、結晶Iの濾過時間10秒に対し無定形は1時間と記載される他、実験報告(乙3)でも、濾過性は2分対85分、乾燥性は8時間対17時間と、結晶Iは無定形より格段に優れており、予測しがたい顕著な作用効果である。原因の一つに結晶Iの特徴的な形状、大きさ及び均一性が挙げられる(乙26)。
b 安定性は、無定形は不安定であるのに、結晶Iは実質的に分解しないという最高レベルの作用効果であり(乙4、乙5)、同一化合物の公知の態様に対する改善として意味があり、他の化合物における結晶の効果と比較することは意味がない。
c 結晶粒径が小さく一様なことは、本件明細書の段落【0008】に示され、データ(乙5、乙1、乙16)にも示される。本件明細書には、バイオアベイラビリティに関する明示の記載はないが、当業者は、結晶Iは溶解速度が大きく、バイオアベイラビリティに優れた性質を予測できる。実際、新薬承認情報(乙6)に記載されるように、結晶Iを使用したクリスタリン製剤は、アモルファス製剤に比し、C_(max) で42.5%高いバイオアベイラビリティを示す。
d 結晶Iは、無定形の実用化への困難性を解消した価値ある発明で、安定性、バイオアベイラビリティ、製造性で、十分な改善をもたらすものだから、仮に容易想到でも進歩性が認められるべきである。

イ 検討
以下に示すように、被請求人の主張は何れも採用できない。

(ア)(i)の主張について
甲1の実施例10の「再結晶を行うことができる」の記載からは、「再結晶」の通常の語義である、再び結晶させて結晶の純度を上げたり結晶形を揃える操作をするものであることを、疑うべき事情は見出せない。また、他の実施例、例えば実施例1でも「再結晶」の用語が用いられ、その生成物1Fの融点が狭い温度範囲(229?230℃)であると記載されている(摘示(1g))ことから、生成物1Fは「結晶」ということができる。
したがって、甲1発明において結晶が生じていることを認定するにあたり、追試が必要になるものではない。
なお、被請求人の追試である乙17(2009年2月23日付けのaptuit consulting社のLeonard J. Chyallの実験報告書)及び請求人の作成した乙18(2012年1月25日付けのSandoz社のRobert E. Ziegertの実験報告書GPCC 01/12)を検討しても、乙17の「図2.米国特許第5,273,995号の実施例10に従って調製されたアトルバスタチンカルシウムの粉末X線回折パターン」と題する図と、乙18の「図2.バッチ#KE07/95(赤色)および特許EP1235799のアトルバスタチンカルシウム結晶形V(黒色)の重ね合わせ回折図」と題する図の赤色の線は、どちらも、回折ピークが多くて山のようになっている位置が3箇所あるが、その位置や全体の形状が異なるから、両者は、多く存在する面間隔の寸法が異なるものといえ、そうすると、どちらも、無定形というより、アトルバスタチンカルシウム水和物の、異なる形態を表すものであると考えられる。乙17、乙18の何れかの追試を採用できるとした場合でも、少なくとも、無定形であるとはいえない。
したがって、被請求人のaの主張は、採用できない。
また、被請求人が主張するb、c、d、eの事実があったとしても、甲1発明において結晶が生じていることの認定の妨げにならない。
また、被請求人のfの主張は、甲22のV型は、乙41宣誓書によれば無定形であるから、請求人が、甲1の実施例10の追試に相当する乙18のX線回折パターンが甲22のV型のX線回折パターンと類似し結晶形だと主張しても、それは認められない、というものであると解される。乙41(1998年11月25日付けのパデュー大学のStephen R. Byrnの宣誓書)の「証拠1」と題する図は、「ロットXH711289」すなわち「米国で、無定形のアトルバスタチンヘミカルシウムを用いた製造承認書に記載されていたロット番号」のX線回折パターンとされるものである。これが、甲22(特開2009-102439号公報)にアトルバスタチンのV型として記載される図1のX線回折パターン(甲22の請求項1及び2)及び乙18のX線回折パターンと類似するとしても、乙17、乙18の何れかから無定形であると認定できないことは、上に述べたとおりであるから、甲1に記載された発明において無定形であるとはいえず、被請求人のfの主張は採用できない。
したがって、被請求人の(i)の主張は採用できない。

(イ)(ii)の主張について
上記(3)ア(イ)で述べたとおり、結晶を取得しようとする動機付けに基づき、通常の方法によって結晶化条件を検討し、結晶多形を調査することにより、具体的な結晶多形に想到し得るものであるから、被請求人のa?cの主張は採用できない。
したがって、被請求人の(ii)の主張は採用できない。

(ウ)(iii)の主張について
濾過性及び乾燥性並びに安定性については、上記(3)ア(ウ)で述べたとおりであり、乙3(2005年7月14日付けのファイザー社のDavid B. Damonの実験報告書)、乙4(1998年12月2日付けのワーナーランバート社のCharles Edward Colsonの宣誓書)、乙5(2011年4月8日付けのファイザー株式会社の市川林の陳述書)を考慮しても、格別顕著なものであるとまで認めることはできないから、被請求人のa及びbの主張は採用できない。
粒径とバイオアベイラビリティについては、必要に応じて結晶の粒度を揃えることは当業者がごく普通に行うことであるし、本件明細書において、アトルバスタチンを結晶性形態Iとして結晶させれば、通常予測し得る範囲を超えるほど粒度の揃った結晶が得られることが具体的に開示されているわけでもないし、バイオアベイラビリティについても開示されてはいないから、被請求人のcの主張は採用できない。
また、安定性、バイオアベイラビリティ、製造性の改善といっても、安定性と製造性(濾過性及び乾燥性)が予測し得る範囲を超える顕著なものであるとまでいえないし、バイオアベイラビリティについても本件明細書に開示されているわけでもないから、被請求人のdの主張も採用できない。
したがって、被請求人の(iii)の主張は採用できない。

(5)無効理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし3は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1ないし3についての特許は、同法第123条第1項第2号に該当するから、無効理由1によって無効とすべきものである。

2 無効理由2について
無効理由2の概要は、本件発明1?3は、本件優先日前に頒布された甲2に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件発明1?3についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである、というものである。

(1)甲2、甲10、甲11、甲34?甲36、甲5、甲6、甲8の記載
甲2、甲10、甲11、甲34?甲36、甲6、甲8は、いずれも本件優先日前に頒布された刊行物である。甲5は、本件優先日(平成7年7月17日)と同月に発行された刊行物であるが、医薬品に関する総説的な文献であり、本件優先日当時の技術常識を把握する証拠として、採用することができるものというべきである。

ア 甲2(国際公開94/20492号、発明の名称「コレステロール合成のトランス-6〔2-(置換-ピロール-1-イル)アルキル〕ピラン-2-オン阻害剤の新規な製法」)には、以下の記載がある。訳文で示す。請求人が提出した訳文を採用しているが、「および」などは公用文における漢字表記に改め、明らかな誤訳と一般的でない翻訳は正してある。
(2a)「したがって、本発明の第1の特徴は式I

の化合物及び式Iの化合物の開かれたラクトン環に対応するジヒドロキシ酸並びにそれらの医薬的に許容し得る塩を製造するための新規方法に関する。」(5頁3行?6頁末行)
(2b)「本発明の第2の特徴は式I-1

の化合物及び式I-1の化合物の開かれたラクトン環に対応するジヒドロキシ酸並びにそれらの医薬的に許容し得る塩を製造するための新規方法に関する。」(11頁4?22行)
(2c)「前述のように、式Iの化合物は酵素、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-補酵素Aリダクターゼ(HMG CoAリダクターゼ)の阻害剤として有用であり、それ故に脂質低下剤及びコレステロール低下剤として有用である。」(20頁16?20行)
(2d)「第1の特徴における本発明の方法は、式IのHMG CoAリダクターゼ阻害剤を製造するための新規で、改善された、経済的かつ商業的に実施可能な方法である。この第1の特徴における本発明の方法はスキームIに概説されるとおりである。

」(20頁28行?22頁末行)
(2e)「場合により、式Ib(式中、MaはナトリウムでありそしてR^(1)、R^(2)、R^(3) 及びR^(4) は前述の定義を有する)の化合物は酢酸カルシウム水溶液での処理によりそのヘミ-カルシウム塩に変換され得る。
式Ibの化合物は酸例えば希塩酸水溶液で処理し、次いで不活性溶媒例えば第3級ブチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ヘキサン、トルエン等中に抽出して式Ia(式中、R^(1)、R^(2)、R^(3) 及びR^(4) は前述の定義を有する)の化合物を得る。好ましくは、この反応は2N塩酸水溶液を用いて実施し、次いで第3級ブチルメチルエーテル中に抽出する。
式Iaの化合物は不活性溶媒例えばトルエン等中で、同時に水を除去するか又は除去せずに溶解及び/又は加熱して式I(式中、R^(1)、R^(2)、R^(3) 及びR^(4) は前述の定義を有する)の化合物を得る。好ましくは、この反応はトルエン中でほぼ還流下において水を共沸蒸留しながら式Iaの化合物を溶解及び/又は加熱することにより実施する。」(28頁22行?29頁8行)
(2f)「第2の特徴における本発明の方法は、式IcのHMG CoAリダクターゼ阻害剤を製造するための新規で、改善された、経済的かつ商業的に実施可能な方法である。この第2の特徴における本発明の方法はスキームIIに概説されるとおりである。

」(29頁9行?31頁末行)
(2g)「式XI、式VII、式IV、式IVaの各化合物は知られているか又は本技術分野で知られた方法によって製造され得る。」(32頁29?31行)
(2h)「式Ia及び式Ia-1の化合物の開環されたジヒドロキシ酸はそれぞれ式I又は式I-1のラクトン化合物から、例えばメタノール中の水酸化ナトリウム、テトラヒドロフラン-水中の水酸化ナトリウム等による式I又は式I-1のラクトン化合物の慣用の加水分解で製造され得る。
開環したジヒドロキシ酸形態において、本発明化合物は有機又は無機塩基から得られる医薬的に許容し得る金属及びアミンの陽イオンと反応して塩を形成する。“医薬的に許容し得る金属塩”の用語はナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、鉄及び亜鉛のイオンで形成される塩を意味する。“医薬的に許容し得るアミン塩”の用語はアンモニアとの塩及びカルボン酸と塩を形成するのに十分強い窒素含有有機塩基との塩を意味する。本発明化合物の医薬的に許容し得る無毒性塩基付加塩の形成に有用な塩基は、当業者ならば容易に理解し得る種類からなる。
本発明化合物のジヒドロキシ遊離酸形態は所望により、その塩を酸例えば塩酸の希水溶液と接触させることにより塩形態から再生することができる。
本発明化合物の閉環したラクトン形態は、本発明化合物のジヒドロキシ遊離酸形態を不活性溶媒例えばトルエン、ベンゼン、酢酸エチル等中で約0℃から溶媒の約沸点において、必須ではないが通常は生成する水を同時に除去しながら及び必須ではないが通常は強酸触媒例えば濃塩酸等を用いて溶解することにより再生することができる。
前記の塩基性付加塩は本発明化合物の遊離酸形態とは溶解性及び融点のような物理特性において異なることがあるが、その他の点では本発明の目的において遊離酸形態と等価であるとみなされる。」(32頁32行?33頁末行)
(2i)「本発明化合物は溶媒和物又は非溶媒和物の形態で存在することができ、そのような形態は本発明の目的において非溶媒和物の形態と等価である。」(34頁1?4行)
(2j)「本発明化合物からの医薬組成物の調製において、医薬的に許容し得る担体は固形又は液体のいずれかであってよい。固形製剤としては粉剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、カシェ剤および分散性顆粒がある。固形担体はさらに希釈剤、香味剤、結合剤、保存剤、錠剤崩壊剤又はカプセル化物質としても作用する1種以上の物質であってよい。」(34頁18?26行)
(2k)「実施例1
〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸、ヘミカルシウム塩
工程1:(R)-6-シアノ-5-ヒドロキシ-3-オキソ-N,N-ジフェニルヘキサンアミドの製造
・・・油状物として精製する。・・・
工程2:〔R-(R^(*),R^(*))〕-6-シアノ-3,5-ジヒドロキシ-N,N-ジフェニルヘキサンアミドの製造
・・・油状物として精製する。・・・
工程3:(4R-シス)-6-(シアノメチル)-2,2-ジメチル-N,N-ジフェニル-1,3-ジオキサン-4-アセトアミドの製造
・・・灰色がかった白色の結晶性固形物として得る(融点98?100、未補正)。・・・
工程4:(4R-シス)-6-(2-アミノメチル)-2,2-ジメチル-N,N-ジフェニル-1,3-ジオキサン-4-アセトアミドの製造
・・・油状物として得る。・・・
工程5:(4R-シス)-1-〔2-〔6-〔2-(ジフェニルアミノ)-2-オキソエチル〕-2,2-ジメチル-1,3-ジオキサン-4-イル〕エチル〕-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1H-ピロール-3-カルボキサミドの製造
・・・泡状物を得る。・・・
工程6:〔R-(R^(*),R^(*))〕-5-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-2-(1-メチルエチル)-N,N,4-トリフェニル-3-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタンアミドの製造
・・・白色結晶固形物・・・を濾過により単離する(融点228.5?232.9℃、未補正)。・・・
工程7:〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸、ナトリウム塩の製造
窒素でパージした500ml三つ口フラスコに〔R-(R^(*),R^(*))〕-5-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-2-(1-メチルエチル)-N,N,4-トリフェニル-3-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタンアミド(4.0g)、メタノール(30ml)及び2.0N水酸化ナトリウム(60ml)を充填する。混合物を4時間70℃に加熱し次いで室温に冷却する。白色固形物を濾過し、廃棄する。濾液を第3ブチルメチルエーテルで洗浄し、水性層を2N塩酸水溶液の添加により酸性化してpH2にし、次に第3ブチルメチルエーテルで抽出する。有機層を分離し、水(200ml)、メタノール(200ml)と混合し、2.0N水酸化ナトリウム水溶液の添加によりpH12にする。水性層を第3ブチルメチルエーテル(50ml)及び水(100ml)で洗浄する。この水性層は〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸のナトリウム塩を含有する。
工程8:〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸,ヘミカルシウム塩の製造
別の200mlビーカー中で、酢酸カルシウム(1.2g、7mmol)を水(20ml)中に溶解する。この酢酸カルシウム溶液を〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フエニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸、ナトリウム塩溶液に加え、室温で2時間撹拌する。得られた溶液を約3時間10℃に冷却する。白色固形物を濾過により集め、冷水で洗浄し、高性能液体クロマトグラフィーの保持時間比較により〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸,ヘミカルシウム塩として確認される。・・・」(37頁1行?42頁末行)

イ 甲10、甲11、甲34?甲36、甲5、甲6、甲8の記載事項は、上記1(1)イ?ケに示したとおりである。

(2)甲2に記載された発明
甲2には、その式Iの化合物、式Iの化合物の開かれたラクトン環に対応するジヒドロキシ酸及びそれらの医薬的に許容し得る塩に関する発明が記載され(摘示(2a))、さらに、より特定された式I-1の化合物、式I-1の化合物の開かれたラクトン環に対応するジヒドロキシ酸及びそれらの医薬的に許容し得る塩に関する発明が記載されている(摘示(2b))。式I-1の化合物を


と表すと、式I-1の化合物の開かれたラクトン環に対応するジヒドロキシ酸は、

と表され、化合物名は〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸である。また、医薬的に許容し得る塩に関し、カルシウム塩に言及されている(摘示(2h))(式I-1の化合物の開かれたラクトン環に対応するジヒドロキシ酸を「アトルバスタチン」ということがあり、一方、そのヘミカルシウム塩も「アトルバスタチンカルシウム」という以外に「アトルバスタチン」ということがあり、上記第2で指摘したとおり、本件発明においてもヘミカルシウム塩を「アトルバスタチン」としているので、以下、式I-1の化合物の開かれたラクトン環に対応するジヒドロキシ酸を「アトルバスタチン遊離酸」といい、式I-1の化合物を単に「ラクトン」といい、ヘミカルシウム塩を「アトルバスタチン」という。)。
そして、甲2には、アトルバスタチン遊離酸又はラクトンの製造に関して、合成のスキームI及びIIが示され(摘示(2d)(2f)(2g))、ナトリウム塩からヘミカルシウム塩すなわちアトルバスタチンに変換し得ることが記載され(摘示(2e))、実施例1には、工程1?7にアトルバスタチンのナトリウム塩(以下「アトルバスタチンナトリウム」という。)の製造が、工程8にそれをカルシウム塩とするアトルバスタチンの製造が、それぞれ、具体的に記載されている(摘示(2k))。その工程8を参照すると、アトルバスタチンナトリウムの溶液に酢酸カルシウム水溶液を加え、室温で2時間撹拌し、3時間10℃に冷却し、濾過し、洗浄するとされている。
さらに、甲2には、式Iの化合物が脂質低下剤及びコレステロール低下剤として有用であることが記載され(摘示(2c))、式Iの化合物の開かれたラクトン環に対応するジヒドロキシ酸及びそれらの医薬的に許容し得る塩も、「医薬的に許容し得る塩」との記載から明らかなように、また、アトルバスタチンに関する技術常識から明らかなように、脂質低下剤及びコレステロール低下剤として有用なものである。そして、甲2には、医薬的に許容し得る担体と共に医薬組成物とすることに関して説明されている(摘示(2j))。
してみると、甲2には、式I-1の化合物の開かれたラクトン環に対応するジヒドロキシ酸の医薬的に許容し得る塩の一つであるヘミカルシウム塩及び医薬的に許容し得る担体を含有する脂質低下剤又はコレステロール低下剤としての医薬組成物についての、以下の、
「〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩及び医薬的に許容し得る担体を含有する医薬組成物」
の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているということができる。

(3)甲2発明との対比・判断

ア 本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の「〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩」は、本件発明1の「アトルバスタチン」に相当し、
甲2発明の「医薬的に許容し得る担体」は、本件発明1の「少なくとも1種の医薬的に許容し得る賦形剤、希釈剤または担体」に相当する。
甲2発明の「医薬組成物」は、本件発明1の「医薬組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明は、
「少なくとも1種の医薬的に許容し得る賦形剤、希釈剤または担体と混合されたアトルバスタチンを含有する医薬組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1’:
本件発明1は、アトルバスタチンが、結晶性形態Iの水和物結晶であり、X線粉末回折の2θの数値で特定されたものであるのに対し、甲2発明においてはアトルバスタチンがそのように特定されたものではない点

(イ)相違点の検討
甲2発明のアトルバスタチンは、結晶性形態といえるものではないが、上記1(3)ア(イ)で検討した、結晶を得ることの動機付けについて、水を含む系による再結晶化の示唆について、及び、X線粉末回折の2θの数値で特定されたものである点については、非結晶性の医薬化合物についても同様にあてはまるから、同様にして、以下のように判断できる。
上記1(3)ア(イ)で引用した甲10、甲11、甲34?甲36の記載によれば、本件優先日当時、一般に、医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから、医薬化合物を結晶化することについては強い動機付けがあり、結晶化条件を検討したり、結晶多形を調べることは、当業者がごく普通に行うことであるものと認められるから、甲2に開示されたアトルバスタチンについて、それが結晶化したものでなく、或いは、非結晶性であったとしても、全く結晶化できないとは限らないから、当業者が結晶化条件を検討したり、得られた結晶について分析することには、十分な動機付けを認めることができる。
そして、上記1(3)ア(イ)で引用した甲5や甲6の記載によれば、本件優先日前から、医薬化合物の結晶として水和物結晶を特徴付けることの重要性が認識されており、対象とする医薬化合物について、水和物を形成するかどうかを検証すべく、水を含む系から水和物として結晶させることを試みることは、当業者にとって通常なし得ることであったというべきであるから、甲2に開示されたアトルバスタチンについて、水を含む溶媒を用いた水和物として結晶を得ることを試みることは当業者がごく普通に行うことであるというべきである。
また、結晶性形態Iを得るための方法について、本件明細書の段落【0041】に開示された方法は、水性溶媒中での懸濁物ないし湿潤ケーキを養生するというものであって、当業者が通常採用しないような手法を用いているものではなく(摘示(8e)参照。水和物結晶を念頭に置いた場合に、水性溶媒を使用することは当業者に自明である。)、特殊な条件設定が必要であるというものでもないから、本件発明に係る結晶性形態Iは、当業者が通常なし得る範囲の試行錯誤で得られた結果物である水和物結晶に過ぎないものというべきである。
なお、上記の段落【0041】には「出発物質が無定形のアトルバスタチン・・・である場合は」と記載されているが、本件明細書は段落【0004】に「米国特許第5,432,952号」を引用し段落【0007】に「上記米国特許の方法は・・・無定形のアトルバスタチンを開示している」と記載しており、上記米国特許は、甲2とパテントファミリーの関係にあって明細書に開示される内容が同じ文献であるので、上記の段落【0041】の「出発物質が無定形のアトルバスタチン・・・である場合は」の記載は、「出発物質が甲2に開示されたアトルバスタチンである場合は」と読替えることができることは、明らかである。
本件明細書の段落【0040】に開示された方法についても、約5v/v%以上のメタノールを含有する水中のアトルバスタチンナトリウムの溶液を約70℃までの高い温度、例えば約45?60℃で、酢酸カルシウムの水溶液で処理するというものであって、甲2の実施例1の工程8と比べると、甲2では酢酸カルシウム水溶液を加えて室温で撹拌しているのに上記方法は加熱することが異なるだけで、当業者が通常採用しないような手法を用いているものではなく(摘示(8d)(8e)参照)、特殊な条件設定が必要であるというものでもないから、本件発明に係る結晶性形態Iは、当業者が通常なし得る範囲の試行錯誤で得られた結果物である水和物結晶に過ぎないものというべきである。
そして、結晶性が期待される医薬化合物の分析のために、X線粉末回折を行うことは、通常のことであるから(例えば、上記(1)の甲5の摘示(5e)参照。また、後記5で無効理由5に関連して引用する甲18(「第十六改正 日本薬局方解説書」,廣川書店,2011年,B-370-B-380)参照)、相違点1’に係る、X線粉末回折の2θの数値で特定されたものである点は、当業者が、得られた結晶について、その分析において通常用いるX線粉末回折を行った場合に得られる結果を、提示しただけのことに過ぎない。
以上によれば、本件発明1は、アトルバスタチンの特定の結晶性形態(結晶性形態I)に係る発明であるところ、甲2により開示されたアトルバスタチンについて、結晶を得ることを意図し、中でも水和物結晶を得ることを意図し、水性溶媒中での懸濁物ないし湿潤ケーキを養生するという当業者が通常採用する手法を採用して、諸条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより、或いは、実施例1の工程8のような工程で酢酸カルシウム水溶液を加えて撹拌する際の温度その他の諸条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより、相違点1’に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)効果について
上記1(3)ア(ウ)で検討したのと同様であり、本件発明1の効果は、格別の効果であるとはいえない。

(エ)まとめ
したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 本件発明2について

(ア)対比
本件発明2は、本件発明1において、「結晶性形態Iのアトルバスタチン水和物が、CuKα放射線を使用して2分の粉砕後に測定した、2θ、d-面間隔、および>20%の相対強度の相対強度によって表した次のX線粉末回折パターンを有する・・・【表1】(審決注:略)」ことを特定したものである。
そうすると、本件発明2と甲2発明は、
「少なくとも1種の医薬的に許容し得る賦形剤、希釈剤または担体と混合されたアトルバスタチンを含有する医薬組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点2’:
本件発明2は、アトルバスタチンが、結晶性形態Iの水和物結晶であり、X線粉末回折の2θ、d-面間隔及び>20%の相対強度の各数値で特定されたものであるのに対し、甲2発明においてはアトルバスタチンがそのように特定されたものではない点

(イ)相違点の検討
結晶を得ることの動機付けについて、及び、水を含む系による再結晶化の示唆については、上記ア(イ)で検討したとおりである。X線粉末回折の2θ、d-面間隔及び>20%の相対強度の各数値で特定されたものである点については、当業者が通常用いるX線回折では、2θからd-面間隔を計算して一緒に表示することや、相対強度を表示することも通常のことであるから、上記ア(イ)で検討したのと同様である。
以上によれば、本件発明2は、アトルバスタチンの特定の結晶性形態(結晶性形態I)に係る発明であるところ、甲2により開示されたアトルバスタチンについて、結晶を得ることを意図し、中でも水和物結晶を得ることを意図し、水性溶媒中での懸濁物ないし湿潤ケーキを養生するという当業者が通常採用する手法を採用して、諸条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより、或いは、実施例1の工程8のような工程で酢酸カルシウム水溶液を加えて撹拌する際の温度その他の諸条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより、相違点2’に係る本件発明2の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)効果について
上記ア(ウ)で検討したとおりである。

(エ)まとめ
したがって、本件発明2は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 本件発明3について

(ア)対比
本件発明3と甲2発明とを、上記ア(ア)と同様に対比すると、両者は、
「少なくとも1種の医薬的に許容し得る賦形剤、希釈剤または担体と混合されたアトルバスタチンを含有する医薬組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点3’:
本件発明3は、アトルバスタチンが、結晶性形態Iの水和物結晶であり、固体状態の^(13)C核磁気共鳴の化学シフトの数値で特定されたものであるのに対し、甲2発明においてはアトルバスタチンがそのように特定されたものではない点

(イ)相違点の検討
結晶を得ることの動機付けについて、及び、水を含む系による再結晶化の示唆については、上記ア(イ)で検討したとおりである。固体状態の^(13)C核磁気共鳴の化学シフトの数値で特定されたものである点については、固体状態の^(13)C核磁気共鳴による分析も、X線粉末回折による分析と同様に、当業者が医薬化合物の分析において通常行うものであるから(例えば、上記(1)の甲5の摘示(5e)の「固体NMR」として^(13)C核磁気共鳴も用いられることは明らかである。摘示していないが、乙14の1(J.Med. Chem.,33,1990,p.919-926)、乙14の2(J. Org. Chem.,57,1992,p.6257-6265)など、医薬化合物の製造に係る文献に^(13)C核磁気共鳴のデータが記載されるのは普通のことである。)、上記ア(イ)で検討したのと同様である。
以上によれば、本件発明3は、アトルバスタチンの特定の結晶性形態(結晶性形態I)に係る発明であるところ、甲2により開示されたアトルバスタチンについて、結晶を得ることを意図し、中でも水和物結晶を得ることを意図し、水性溶媒中での懸濁物ないし湿潤ケーキを養生するという当業者が通常採用する手法を採用して、諸条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより、或いは、実施例1の工程8のような工程で酢酸カルシウム水溶液を加えて撹拌する際の温度その他の諸条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより、相違点3’に係る本件発明3の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)効果について
上記ア(ウ)で検討したとおりである。

(エ)まとめ
したがって、本件発明3は、甲2に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)被請求人の主張について

ア 被請求人は、概略以下の主張をしている。
甲2の工程8は、アトルバスタチンヘミカルシウム塩を作成する実施例1中の一部であり、アトルバスタチンの結晶に関する何らの開示も含んでいない。そして、室温においてカルシウム塩を取得することができ、甲2の目的を達成できる以上、あえて工程8を加熱する工程に変更する動機付けも必要性も存在しないから、結晶化に際し溶媒を加熱するのは当業者であれば通常行うことであるとはいえない。

イ 検討
上記(3)ア(イ)、イ(イ)、ウ(イ)で検討したとおり、本件優先日当時、一般に、医薬化合物については、結晶化することについて強い動機付けがあり、甲2において、アトルバスタチンの結晶が得られていなければ、結晶化に有効な条件変更を試みることは、当然のことであるから、被請求人の主張は採用できない。

(5)無効理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし3は、甲2に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1ないし3についての特許は、同法第123条第1項第2号に該当するから、無効理由2によって無効とすべきものである。

3 無効理由3について
無効理由3の概要は、本件発明1?3は、本件優先日前に頒布された甲3に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件発明1?3についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである、というものである。

(1)甲3、甲10、甲11、甲34?甲36、甲5、甲6、甲8の記載
甲3、甲10、甲11、甲34?甲36、甲6、甲8は、いずれも本件優先日前に頒布された刊行物である。甲5は、本件優先日(平成7年7月17日)と同月に発行された刊行物であるが、医薬品に関する総説的な文献であり、本件優先日当時の技術常識を把握する証拠として、採用することができるものというべきである。

ア 甲3(国際公開94/16693号、発明の名称「安定な経口用のCI-981製剤およびその製法」)には、以下の記載がある。訳文で示す。請求人が提出した訳文を採用しているが、「および」などは公用文における漢字表記に改め、明らかな誤訳と一般的でない翻訳は正してある。
(3a)「1.混合物中に、活性成分として構造式

・・・の化合物及び少なくとも1種の医薬的に許容し得る安定化金属塩添加剤を含有する改善された安定性によって特徴づけられる高コレステロール血症又は高脂質血症の経口治療用の医薬組成物。
2.活性成分が、〔R‐(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル)-1H-ピロール-1-ヘプタン酸の医薬的に許容し得る金属塩である請求項1記載の安定な医薬組成物。
・・・・・・・・・・・・・・・
8.活性成分が式(IA):

のCI-981ヘミカルシウムでありそして医薬的に許容し得る安定化添加剤が炭酸カルシウムである請求項2記載の安定な医薬組成物。
9.さらに、結合剤、希釈剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤及び抗酸化剤の形態の他の成分を含有する請求項1記載の安定な医薬組成物。」(25?27頁、請求の範囲の請求項1、2、8、9)
(3b)「立体-特異的異性体のうち、HMG-CoAレダクターゼ阻害活性を有する一つの特定の化合物、CI-981ヘミ-カルシウムが、現在、中程度?重度の家族性又は非家族性の高コレステロール血症(IIa型)の治療に対して開発中である。この最も好ましい化合物は、(2R-トランス)-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミドの開環形態、すなわちエナンチオマー〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル)-1H-ピロール-1-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩である。その化学構造は、式IA:

によって示すことができる。
特異的異性体(CI-981)は、同時係属中の米国特許出願07/660,976に記載されている。」(3頁9?35行)
(3c)「本発明の最も好ましい化合物CI-981(構造式IA)は、エナンチオマー〔R-(R^(*)R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-(フェニルアミノ)-カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩である。このキラル形態は、既知の出発物質から又は以下に示すような上述した及び本明細書中に参照として引用した同時係属中の特許出願のスキーム2によって既知の方法と同様な方法により製造された物質から合成することができる。

さらに、好ましいキラル形態は、米国特許第4,681,893号、特に例1及び2に記載されている方法により製造されたラセミ混合物から製造することができる。該米国特許の説明は、参照として本明細書に引用する。
ラセミ体の言及及び好ましい異性体の分離は、同時係属米国特許出願07,660,976の例1?5に例示されているような該米国特許出願に開示されているキラル合成の方法によって遂行することができる。この米国特許出願の説明は、参照として本明細書に引用する。」(8頁30行?11頁11行)
(3d)「本発明は、好ましくは式(I)又はより好ましくは式(IA)による抗高コレステロール血症化合物又は抗高脂質血症化合物を含有する医薬組成物を提供する。本発明の好ましい有効な立体異性化合物は、1日当り約10?500mg又は1日につき体重1kg当り約0.1?8.0mgの成人投与レベルで患者に投与される。より好ましい1日当りの投与量は、約0.5?1.0mg/kgの範囲にある。経口的又は非経口的投与のために本発明により与えられる単位投与治療実施化は、効力又は適用によって、10?500mg、好ましくは20?100mgに変化又は調節することができる。」(11頁12?25行)
(3e)「式Iによるヒドロキシ酸化合物は、酸性環境においてラクトン形態に変化し易いので、医薬製剤においてその構造完全性を安定化することが必要である。さらに、化合物は、UV及び蛍光光線の衝撃下において急速に分解することが測定されている。」(11頁26?32行)
(3f)「本発明の安定な経口用製剤の製造に対して、医薬的に許容し得る不活性担体は、固体であっても液体であってもよい。本発明の最も好ましい実施化は、粉末、錠剤、分散性顆粒、カプセル及びカシエ剤を包含する経口用の固形製剤である。固体の担体は、希釈剤、風味剤、結合剤又は錠剤崩壊剤として作用することもできる1種又は2種以上の物質であることができる。封入物質も、また、本発明の範囲内にある。
粉末製剤においては、担体は、微細な活性成分との均質な混合物を形成する微細な固体である。錠剤においては、活性成分を、圧縮を容易にする結合性を有する担体物質と混合し、望ましい形状及び大きさにする。本発明による経口用粉末または錠剤は、一般に、活性成分約1?50重量%を含有するように企図される。」(11頁33行?12頁17行)
(3g)「式(I)又は好ましくは式(IA)による構造を有する異性体化合物である本発明の活性なヒドロキシ酸金属塩成分は、以下の例Aに示されるように、ナトリウム塩又はラクトンから製造することができる。
例A
ナトリウム塩及び/又はラクトンからのカルシウム塩
ラクトン1モル(540.6g)を、MeOH5Lに溶解し、溶解後H_(2)O1Lを加える。撹拌しながら、NaOH1当量を加えそして反応を、HPLCによって、2%又はそれ以下のラクトン及びジオール酸のメチルエステルが残るまで追跡する(Ca(OH)_(2) がCaCl_(2) の添加によって形成するので、過剰のNaOHを使用することはできない)。普通、NaOHは、苛性アルカリ(51.3ml,0.98当量)として又はペレット(39.1g,0.98当量)として添加する。
上記操作は、以下の通り示される。

略号“Ph”は、フェニル基の用語に対するものである。加水分解の完了後、H_(2)O10Lを加え、それから生成物を、EtOAc/ヘキサンの1:1混合物で少なくとも2回洗浄する。それぞれの洗浄液は、それぞれEtOAc/ヘキサン10Lを含有しなければならない。もしナトリウム塩が純粋である場合は、MeOH15Lを加える。もしそれが不純でありそして/又は着色している場合は、G-60木炭100gを加え、混合物を2時間撹拌し、スーパーセル上で濾過しそしてMeOH15Lで洗浄する。検査分析(重量/容量%)を、HPLCにより反応混合物に対して遂行して、溶液中の正確な塩の量を測定する。
その後、約1/2当量又は僅かに過剰のCaCl_(2)2H_(2)O(73.5g)を、H_(2)O20Lに溶解する。反応混合物およびCaCl_(2) 溶液の両方を、60℃に加熱する。CaCl_(2) 溶液を、よく撹拌しながら徐々に加える。添加完了後に、徐々に15℃に冷却しそして濾過する。フィルターケーキを、H_(2)O5Lで洗浄しそして真空かま中で50℃で乾燥する。
生成物をEtOAc(50℃)4Lに溶解し、スーパーセル上で濾過し、EtOAc1Lで洗浄し、それから50℃の反応溶液にヘキサン3Lを加えることによって、生成物を再結晶することができる。
上記操作は、以下の通り示される。

」(13頁6行?15頁17行)
(3h)「本発明は、カルシウムの塩基性の無機の医薬的に許容し得る塩、例えば炭酸カルシウム及び水酸化カルシウム又はマグネシウムの塩基性の無機の医薬的に許容し得る塩、例えば炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、珪酸マグネシウム、アルミン酸マグネシウム及び水酸化マグネシウムアルミニウム、又はリチウムの塩基性の無機の医薬的に許容し得る塩、例えば水酸化リチウム及び同様なリチウム化合物又は他の同様に適当したアルカリ土類金属を使用して、活性成分、例えばCI-981ヘミカルシウムを安定化した好ましい組成物を提供する。カルシウム、リチウム又はマグネシウムのこれらの塩基性の無機塩は、約0.1:1?約50:1の塩化合物:活性成分の間の範囲内の重量比で利用することができる。」(15頁18?33行)

イ 甲10、甲11、甲34?甲36、甲5、甲6、甲8の記載事項は、上記1(1)イ?ケに示したとおりである。

(2)甲3に記載された発明
甲3には、その特許請求の範囲の請求項1に、
「混合物中に、活性成分として構造式・・・(I)(審決注:省略する)の化合物及び少なくとも1種の医薬的に許容し得る安定化金属塩添加剤を含有する改善された安定性によって特徴づけられる高コレステロール血症又は高脂質血症の経口治療用の医薬組成物」
の発明が、請求項2に、
「活性成分が、〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル)-1H-ピロール-1-ヘプタン酸の医薬的に許容し得る金属塩である請求項1記載の安定な医薬組成物」
の発明が、請求項8に
「活性成分が式(IA):

のCI-981ヘミカルシウムでありそして医薬的に許容し得る安定化添加剤が炭酸カルシウムである請求項2記載の安定な医薬組成物」
の発明が、そして、請求項9に、
「さらに、結合剤、希釈剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤及び抗酸化剤の形態の他の成分を含有する請求項1記載の安定な医薬組成物」
の発明が、それぞれ記載されている(摘示(3a))(請求項2に記載された化合物名と、請求項8に記載された略称「CI-981」が対応し、そのヘミカルシウム塩の化学構造式が請求項8に記載された「IA」である(摘示(3b))。このジヒドロキシ酸「CI-981」を「アトルバスタチン」ということがあり、一方、そのヘミカルシウム塩も「アトルバスタチンカルシウム」という以外に「アトルバスタチン」ということがあり、上記第2で指摘したとおり、本件発明においてもヘミカルシウム塩を「アトルバスタチン」としているので、以下、ジヒドロキシ酸(CI-981)を「アトルバスタチン遊離酸」といい、ヘミカルシウム塩(式IA)を「アトルバスタチン」という。)。
そして、甲3には、アトルバスタチン遊離酸に対応するラクトン(以下、単に「ラクトン」という。)の製造に関して、文献の提示と共に、合成のスキームが示され(摘示(3c))、光学分割についての文献が提示され(同左)、例Aとして、ラクトンをアトルバスタチンのナトリウム塩(以下「アトルバスタチンナトリウム」という。)とし次いでカルシウム塩とするアトルバスタチンの製造が、具体的に記載されている(摘示(3g))。その例Aを参照すると、60℃のアトルバスタチンナトリウムの溶液に60℃の塩化カルシウム水溶液を徐々に加え、冷却し、濾過し、洗浄し、乾燥し、酢酸エチルに溶解し(50℃)、濾過し、洗浄し、50℃の反応溶液にヘキサンを仕込むことによって再結晶を行うことができるとされているから、生成物のアトルバスタチンは、再結晶の操作を経た、結晶形態のアトルバスタチンであるといえる。
さらに、甲3には、特許請求の範囲に記載された高コレステロール血症又は高脂質血症の経口治療用の医薬組成物に関し、製剤化に関する事項(摘示(3f))及び用量(摘示(3d))についても説明されている。
してみると、甲3には、式IAで表される、CI-981と略称される化合物のヘミカルシウム塩及び医薬的に許容し得る安定化金属塩添加剤を含有し、さらに、結合剤、希釈剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤又は抗酸化剤を含有する高コレステロール血症又は高脂質血症の経口治療用の医薬組成物についての、以下の、
「〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩及び医薬的に許容し得る安定化金属塩添加剤を含有し、さらに、結合剤、希釈剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤又は抗酸化剤を含有する高コレステロール血症又は高脂質血症の経口治療用の医薬組成物」
の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているということができる。

(3)甲3発明との対比・判断

ア 本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明の「〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩」は、本件発明1の「アトルバスタチン」に相当し、両者は、本件発明1の「結晶性形態I」が結晶形態の一つであることから、結晶形態の「アトルバスタチン」である点で共通する。
甲3発明の「医薬的に許容し得る安定化金属塩添加剤」及び「結合剤、希釈剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤又は抗酸化剤」は、本件発明1の「少なくとも1種の医薬的に許容し得る賦形剤、希釈剤または担体」に相当する。
甲3発明の「高コレステロール血症又は高脂質血症の経口治療用の医薬組成物」は、本件発明1の「医薬組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲3発明は、
「少なくとも1種の医薬的に許容し得る賦形剤、希釈剤または担体と混合された結晶形態のアトルバスタチンを含有する医薬組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1’’:
本件発明1は、結晶形態のアトルバスタチンが、結晶性形態Iの水和物結晶であり、X線粉末回折の2θの数値で特定されたものであるのに対し、甲3発明においては結晶形態のアトルバスタチンがそのように特定されたものではない点

(イ)相違点の検討
甲3に開示されたアトルバスタチンの結晶は、具体的には、その例Aに記載されたものであるが、これは、上記1で無効理由1に関して検討した甲1の実施例10に記載されたものと、用いた各物質の種類と量、操作の手順が実質的に同じものである。
そして、相違点1’’は、先に検討した相違点1における「甲1発明」の文言が「甲3発明」に置き換わったものである。
甲3発明と、先に検討した甲1発明とは、それぞれ本件発明1とは一致点となる「医薬的に許容し得る賦形剤、希釈剤または担体」に相当する構成が、甲3発明は「医薬的に許容し得る安定化金属塩添加剤」を必須とする点などで、異なるが、相違点1も相違点1’’も、アトルバスタチン自体の結晶形態に関するものであり、上記の「医薬的に許容し得る安定化金属塩添加剤」の違いが、相違点1’’の検討を、相違点1の検討とは異なるものとしなければならないように影響するものとは認められない。
そうすると、本件発明1は、アトルバスタチンの特定の結晶性形態(結晶性形態I)に係る発明であるところ、上記1(3)ア(イ)で述べたのと同じ理由で、甲3により開示されたアトルバスタチンの結晶について、水和物結晶を得ることを意図し、水性溶媒中での懸濁物ないし湿潤ケーキを養生するという当業者が通常採用する手法を採用して、諸条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより、相違点1’’に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)効果について
上記1(3)ア(ウ)で検討したのと同様であり、本件発明1の効果は、格別の効果であるとはいえない。

(エ)まとめ
したがって、本件発明1は、甲3に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 本件発明2について
本件発明2と甲3発明を上記1(3)イ(ア)と同様に対比すると、両者は、
「少なくとも1種の医薬的に許容し得る賦形剤、希釈剤または担体と混合された結晶形態のアトルバスタチンを含有する医薬組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点2’’:
本件発明2は、結晶形態のアトルバスタチンが、結晶性形態Iの水和物結晶であり、X線粉末回折の2θ、d-面間隔及び>20%の相対強度の各数値で特定されたものであるのに対し、甲3発明においては結晶形態のアトルバスタチンがそのように特定されたものではない点
相違点2’’について検討すると、本件発明2は、アトルバスタチンの特定の結晶性形態(結晶性形態I)に係る発明であるところ、上記1(3)イ(イ)で述べたのと同じ理由で、甲3により開示されたアトルバスタチンの結晶について、水和物結晶を得ることを意図し、水性溶媒中での懸濁物ないし湿潤ケーキを養生するという当業者が通常採用する手法を採用して、諸条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより、相違点2’’に係る本件発明2の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
効果については、上記1(3)イ(ウ)で検討したのと同様である。
したがって、本件発明2は、甲3に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 本件発明3について
本件発明2と甲3発明を上記1(3)イ(ア)と同様に対比すると、両者は、
「少なくとも1種の医薬的に許容し得る賦形剤、希釈剤または担体と混合された結晶形態のアトルバスタチンを含有する医薬組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点3’’:
本件発明3は、結晶形態のアトルバスタチンが、結晶性形態Iの水和物結晶であり、固体状態の^(13)C核磁気共鳴の化学シフトの数値で特定されたものであるのに対し、甲3発明においては結晶形態のアトルバスタチンがそのように特定されたものではない点
相違点3’’について検討すると、本件発明3は、アトルバスタチンの特定の結晶性形態(結晶性形態I)に係る発明であるところ、上記1(3)ウ(イ)で述べたのと同じ理由で、甲3により開示されたアトルバスタチンの結晶について、水和物結晶を得ることを意図し、水性溶媒中での懸濁物ないし湿潤ケーキを養生するという当業者が通常採用する手法を採用して、諸条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより、相違点3’’に係る本件発明3の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
効果については、上記1(3)ウ(ウ)で検討したのと同様である。
したがって、本件発明3は、甲3に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)被請求人の主張について
被請求人は、甲3に記載されたアトルバスタチンカルシウム塩の製造方法は甲1の実施例と同じであり、ナトリウム塩を塩化カルシウムで処理しており、請求人の主張も無効理由1と同じ理由が適用されるというものであるから、特に検討することを要しないとしており、被請求人の主張は、無効理由1に関する上記1(4)アの主張と同じであると解される。
これについては、上記1(4)イで検討したとおりであり、被請求人の主張は採用できない。

(5)無効理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし3は、甲3に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1ないし3についての特許は、同法第123条第1項第2号に該当するから、無効理由3によって無効とすべきものである。

4 無効理由4について
無効理由4の概要は、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、本件発明1?3についての特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである、というものである。

(1)はじめに
以下の観点に立って、検討する。
「特許制度は、発明を公開する代償として、一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから、明細書には、当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。平成8年6月12日法律第68号による改正前の特許法36条4項実施可能要件を定める趣旨は、明細書の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には、発明が公開されていないことに帰し、発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。
そして、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号)、物の発明について上記の実施可能要件を充足するためには、明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。」(平成24年12月5日言渡平成23年(行ケ)第10445号判決)

(2)本件明細書の記載

ア 結晶性形態Iを得るための方法について、本件明細書には、以下の、一般的な記載及び実施例1の記載がある。
「【0037】・・・結晶性形態Iのアトルバスタチンは、水約1?8モルを含有する。好ましくは、形態Iのアトルバスタチンは、水3モルを含有する。
【0038】本発明は、結晶性形態Iのアトルバスタチンを与える条件下で溶剤中の溶液からアトルバスタチンを結晶化させることからなる結晶性形態Iのアトルバスタチンの製法を提供する。
結晶性形態Iのアトルバスタチンが形成される正確な条件は、経験的に決定することができそして実施に適当であることが見出される多数の方法を与えることができる。
【0039】すなわち、例えば、結晶性形態Iのアトルバスタチンは、調節された条件下における結晶化によって製造することができる。特に、それは、例えば酢酸カルシウムなどのようなカルシウム塩の添加によって、相当する塩基性塩、例えばアルカリ金属塩、例えばリチウム、カリウム、ナトリウム塩など;アンモニアまたはアミン塩;好ましくはナトリウム塩の水溶液から、または、無定形のアトルバスタチンを水に懸濁することによって製造することができる。一般に、ヒドロキシル性補助溶剤、例えば低級アルカノール、例えばメタノールなどの使用が好ましい。
【0040】所望の結晶性形態Iのアトルバスタチンを製造するための出発物質が相当するナトリウム塩の溶液である場合は、一つの好ましい製法は、約5v/v%以上のメタノール、好ましくは約5?33v/v%のメタノール、特に好ましくは約10?15v/v%のメタノールを含有する水中のナトリウム塩の溶液を、約70℃までの高い温度、例えば約45?60℃、特に好ましくは約47?52℃で、酢酸カルシウムの水溶液で処理することからなる。一般に、アトルバスタチンのナトリウム塩2モルに対して酢酸カルシウム1モルを使用することが好ましい。これらの条件下において、カルシウム塩形成ならびに結晶化は、好ましくは高い温度、例えば上述した温度範囲内で実施しなければならない。出発溶液に、例えば約7w/w%のような少量のメチル第3ブチルエーテル(MTBE)を含有させることが有利であるということが見出された。しばしば、結晶性形態Iのアトルバスタチンを一貫して製造するために、結晶性形態Iのアトルバスタチンの“種子(seeds)”を結晶化溶液に加えるのが望ましいということが見出されている。
【0041】出発物質が無定形のアトルバスタチンまたは無定形および結晶性形態Iのアトルバスタチンの組み合わせである場合は、所望の結晶性形態Iのアトルバスタチンは、必要な形態への変換が完了するまで、約40v/v%まで、例えば約0?20v/v%、特に好ましくは約5?15v/v%の補助溶剤、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトンなどを含有する水中に固体を懸濁し次いで濾過することによって得ることができる。しばしば、結晶性形態Iのアトルバスタチンへの完全な変換を確保するために、結晶性形態Iのアトルバスタチンの“種子”を懸濁液に添加することが望ましいということが見出されている。このようにする代わりに、主として無定形のアトルバスタチンからなる水湿潤ケーキを、有意な量の結晶性形態Iのアトルバスタチンが存在するまで、高い温度、例えば約75℃まで、特に好ましくは約65?70℃の温度で加熱し、それによって無定形/懸濁液形態Iの混合物を上述したようにスラリー化することができる。
【0042】結晶性形態Iのアトルバスタチンは、無定形のアトルバスタチンよりも著しく容易に単離し、そして冷却後結晶化媒質から濾過し、洗浄しそして乾燥することができる。例えば、結晶性形態Iのアトルバスタチンの50mlのスラリーの濾過は、10秒以内に完了した。無定形のアトルバスタチンの同様な量の試料は、濾過するのに1時間以上を必要とした。」
「【0060】【実施例】
実施例 1
〔R-(R^(*),R^(*))〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩(形態Iのアトルバスタチン)
方法A
(2R-トランス)-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミド(アトルバスタチンラクトン)(米国特許第5,273,995号)(75kg)、メチル第3ブチルエーテル(MTBE)(308kg)、メタノール(190L)の混合物を、48?58℃で水酸化ナトリウムの水溶液(950L中5.72kg)と40?60分反応させて開環したナトリウム塩を形成させる。25?35℃に冷却した後、有機層を捨てそして水性層を再びMTBE(230kg)で抽出する。有機層を捨て、そしてナトリウム塩のMTBE飽和水溶液を、47?52℃に加熱する。この溶液に、水(410L)に溶解した酢酸カルシウム半水和物(11.94kg)の溶液を、少なくとも30分にわたって加える。酢酸カルシウム溶液の添加後直ぐに、結晶性形態Iのアトルバスタチンのスラリー(水11Lおよびメタノール5L中の1.11kg)を、種子として混合物に加える。それから、混合物を少なくとも10分51?57℃に加熱し、そしてそれから15?40℃に冷却する。混合物を濾過し、水(300L)およびメタノール(150L)の溶液で洗浄し、次いで水(450L)で洗浄する。固体を、真空下60?70℃で3?4日間乾燥して結晶性形態Iのアトルバスタチン(72.2kg)を得た。
方法B
無定形のアトルバスタチン(9g)および結晶性形態Iのアトルバスタチン(1g)を、水(170ml)およびメタノール(30ml)の混合物中において約40℃で全体で17時間撹拌する。混合物を濾過し、水ですすぎ、そして減圧下70℃で乾燥して結晶性形態Iのアトルバスタチン(9.7g)を得た。」

イ 上記アの記載のうち、実施例1は、方法Aと方法Bからなるが、何れも、原料の一部に結晶性形態Iのアトルバスタチンを用いるものであるから、結晶性形態Iのアトルバスタチンを製造することができるように記載されているか否かの、実施可能要件の検討は、段落【0037】?【0042】の一般的な記載について行う。
この記載は、段落【0037】で、水和物に言及し、段落【0038】で、多数の方法があることに言及し、段落【0039】で、その方法とは「調節された条件下における結晶化によって製造する・・・好ましくはナトリウム塩の水溶液から」及び「無定形のアトルバスタチンを水に懸濁することによって製造する」であり、「ヒドロキシル性補助溶剤の使用が好ましい」とし、結晶化と懸濁のそれぞれの方法を、段落【0040】及び段落【0041】で説明している。段落【0041】においては、「このようにする代わりに」の前後で2つの方法を紹介している(以下、段落【0040】に記載された方法を「方法1」、段落【0041】の前半に記載された方法を「方法2」、段落【0041】の後半に記載された方法を「方法3」という。また、段落【0039】に記載された2つの方法は、方法1並びに方法2及び方法3の上位概念であり、それぞれ「方法A0」及び「方法B0」という。)。

(3)検討
はじめに、結晶化についての技術常識を示す文献の記載を確認し、次に、方法2、方法3、方法1の順に、方法A0及び方法B0並びに実施例1の方法A及び方法Bの記載も参考に、検討する。

ア 甲14(Chem. Mater.,6(8),1994,p.1148-1158)は、固体の医薬化合物に関する文献であり、以下の記載がある。訳文で示す。
(14a)「固体製薬化学」(1148頁、標題)
(14b)「数多くの因子が、溶液中の水素結合した凝集体前駆体に影響したり、あるいは結晶化に関する他の多くの因子の1つに影響を与えることによって、形成される結晶に影響し得る。これらは、(1)溶媒の組成又は極性、(2)濃度又は過飽和の程度、(3)冷却速度及び冷却プロフィールを含む温度、(4)添加物、(5)種晶及び種晶の存在、(6)pH(pHは塩の結晶化において重要である)、及び(7)攪拌、を含む。」(1150頁右欄16?24行)

イ 方法2について

(ア)方法2の開示内容について
方法2は、以下のとおりである。
「出発物質が無定形のアトルバスタチンまたは無定形および結晶性形態Iのアトルバスタチンの組み合わせである場合は、所望の結晶性形態Iのアトルバスタチンは、必要な形態への変換が完了するまで、約40v/v%まで、例えば約0?20v/v%、特に好ましくは約5?15v/v%の補助溶剤、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトンなどを含有する水中に固体を懸濁し次いで濾過することによって得ることができる。しばしば、結晶性形態Iのアトルバスタチンへの完全な変換を確保するために、結晶性形態Iのアトルバスタチンの“種子”を懸濁液に添加することが望ましいということが見出されている。」
参考に、方法2の上位概念に当たる方法B0は、以下のとおりである。
「無定形のアトルバスタチンを水に懸濁することによって製造することができる。一般に、ヒドロキシル性補助溶剤、例えば低級アルカノール、例えばメタノールなどの使用が好ましい。」
参考に、方法2を具体化したものに当たる実施例1の方法Bは、以下のとおりである(ただし、原料の一部に結晶性形態Iのアトルバスタチンを使用)。
「方法B 無定形のアトルバスタチン(9g)および結晶性形態Iのアトルバスタチン(1g)を、水(170ml)およびメタノール(30ml)の混合物中において約40℃で全体で17時間撹拌する。混合物を濾過し、水ですすぎ、そして減圧下70℃で乾燥して結晶性形態Iのアトルバスタチン(9.7g)を得た。」
方法2は、補助溶剤を含む水中にアトルバスタチンを懸濁するというごく一般的な結晶化方法であるものの、補助溶剤としてメタノール等を例示し、その含有率が特に好ましくは約5ないし15v/v%であることを特定するのみであり、結晶化に対して一般的に影響を及ぼすpH、スラリー濃度、温度、その他の添加物などの諸因子について具体的な特定を欠くものであるから、これらの諸因子の設定状況によっては、本件明細書において概括的に記載されている方法2に含まれる方法であっても、結晶性形態Iが得られない場合があるものと解される。
そうだとすると、結晶化に対して特に強く影響を及ぼすpHやスラリー濃度を含め、温度、その他の添加物などの諸因子が一切特定されていない方法2の記載を以てしては、本件明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識を併せ考慮しても、当業者が過度な負担なしに具体的な条件を決定し、結晶性形態Iを得ることができるものということはできない。

(イ)追試実験について
被請求人は、方法2の記載によって実施可能要件が裏付けられている証拠として、追試実験の実験報告書を提出している。方法2の追試に相当するとされるのは、乙1の実験C、乙25、乙24である。しかし、これらの実験の条件を検討すると、以下に示すように、当業者が過度な負担なしに設定することができるものということはできない。

a 乙1(2003年12月3日付けのSSCI社のRex Shipplettの実験報告書)の実験Cの記載は、以下のとおりである。訳文により示す。
「約10gの無定形アトルバスタチンカルシウム・・・を56mLの水中で、3日間、室温にて懸濁状態に維持した。得られた試料を濾過した。最終生成物は米国特許5969156号に開示された結晶性形態I・・・であった。」
まず、スラリー濃度は、結晶化の実現に関する重要な因子である以上、物の発明において、当該物の製造方法を開示するにあたり、具体的に記載される必要がある事項というべきところ、方法2については、補助溶剤の種類とその好ましい濃度程度しか記載されていないのであるから、当該記載から、結晶性形態Iが得られるスラリー濃度(この実験の設定である試料約10g、溶媒56mL)を当業者が見出すことは困難である。
次に、方法2において具体的な条件として記載されている補助溶剤の種類とその好ましい濃度については、この実験においては、補助用剤を用いずに実験が行われているものである。確かに、方法2において、補助溶剤を用いなくてもよいとされてはいるが、方法2が具体的に開示した好ましい条件に基づくことなく、本件実験が行われたことは不合理である。
さらに、攪拌温度は、方法2では開示されていないところ、これを「室温」と理解することは困難であり、また、「室温」とのみ記載され、具体的な温度が明示されていないから、当業者が、攪拌の要否すら特定していない本件明細書の方法2に係る記載を以て、その他の諸因子との相関関係において決定されるべき最適な攪拌温度を過度の負担なしに設定することができるものということはできない。
加えて、結晶化に要する攪拌時間は、pH、スラリー濃度、温度、その他の添加物などの諸因子によって異なるものであるから、本件明細書に特定の条件下における攪拌時間(方法Bの17時間)が開示されていたとしても、当業者が方法2における攪拌時間を合理的に予測することができるとまでいうことはできない。
このように、乙1の実験Cの条件は、当業者が過度な負担なしに設定することができるものではない。

b 乙25(2007年10月15日付けのaptuit consulting社のLeonard J. Chyallの実験報告書)の実験の記載は、以下のとおりである。訳文により示す。
「9:1(v:v)水:メタノール100mL中3.75gの無定形アトルバスタチンカルシウムの懸濁液を周囲温度で撹拌した。17時間後、少量の材料をフラスコから取り、濾過し、固形分を周囲温度で乾燥したが、その間バルク試料は攪拌を続けた。攪拌17時間後に単離した少量の固形分は、XRPD分析によってアトルバスタチン形態Iに相当することがわかった・・・。
バルク試料の固形分を、合計24時間混合物を撹拌した後、減圧濾過によって回収した。固形分を、3日間に亘り、換気フード内で、環境条件に放置した開放容器中で風乾した。固形分をバイアルに入れ、固形分の塊を砕くために振り動かした。XPRD分析により、単離した固形分がアトルバスタチンカルシウム形態Iに相当することが証明された。」
上記aと同様に検討すると、まず、方法2の記載から、スラリー濃度(この実験の設定である試料3.75g、溶媒100mL)を当業者が見出すことは困難である。
攪拌温度の「周囲温度」も、上記aの「室温」と同様であり、方法2の記載から、その他の諸因子との相関関係において決定されるべき最適な攪拌温度を過度の負担なしに設定することができるものということはできない。
攪拌時間も、pH、スラリー濃度、温度、その他の添加物などの諸因子によって異なるものであるから、本件明細書に特定の条件下における攪拌時間(方法Bの17時間)が開示されていたとしても、当業者が方法2における攪拌時間を合理的に予測することができるとまでいうことはできない。
さらに、乾燥方法は、結晶形に影響を及ぼす可能性があるところ、方法2では開示されていないのであるから、方法2の記載から、適する乾燥方法(この実験の設定である3日間、換気フード内、環境条件に放置した開放容器中で風乾)を当業者が見出すことは困難である。
このように、乙25の実験の条件は、当業者が過度な負担なしに設定することができるものではない。

c 乙24(2012年5月12日付けのSaul H. Lapidusの実験報告書)の実験の記載は、以下のとおりである。訳文により示す。
「実験1
(1)38mLの蒸留水と2mLのメタノールからなる溶液を調製した。2.0089gの無定形粉末を溶液に加え、最初にガラス棒で混合した。次いで、磁気攪拌子を用いておよそ17時間、この混合物を撹拌した。その後、得られた混合物を濾過し、生成物を真空オーブンに入れて、およそ4時間、70℃、22inHgで乾燥した。
・・・・・・・・・・・・・・・
実験2
(1)34mLの蒸留水と6mLのメタノールからなる溶液を調製した。2.0077gの無定形粉末を溶液に加え、最初にガラス棒で混合した。次いで、磁気攪拌器子を用いておよそ17時間、この混合物を撹拌した。その後、得られた混合物を濾過し、生成物を真空オーブンに入れて、およそ4時間、70℃、22inHgで乾燥した。
・・・・・・・・・・・・・・・
実験3
(1)190mLの蒸留水と10mLのメタノールからなる溶液を調製した。10.0022gの無定形粉末を溶液に加え、最初にガラス棒で混合した。次いで、磁気攪拌子を用いておよそ17時間、この混合物を撹拌した。その後、得られた混合物を濾過し、生成物を真空オーブンに入れて、およそ6時間、70℃、22inHgで乾燥した。
・・・・・・・・・・・・・・・
実験4
(1)170mLの蒸留水と30mLのメタノールからなる溶液を調製した。10.0070gの無定形粉末を溶液に加え、最初にガラス棒で混合した。次いで、磁気攪拌子を用いておよそ17時間、この混合物を撹拌した。その後、得られた混合物を濾過し、生成物を真空オーブンに入れて、およそ3時間、70℃、22inHgで乾燥した。
・・・・・・・・・・・・・・・
結論
実験1?4で生じた生成物は、各ピーク2θについて±0.2度の誤差で、米国特許第5969156号で提供される結晶形IアトルバスタチンカルシウムのXRPDパターン及び2θピークリストとよく一致するXRPDパターン及び2θピークリストを示す。」
検討すると、攪拌温度は、方法2の記載から、その他の諸因子との相関関係において決定されるべき最適な攪拌温度を過度の負担なしに設定することができるものということはできないところ、この実験では明らかにされていない。
攪拌時間も、pH、スラリー濃度、温度、その他の添加物などの諸因子によって異なるものであるから、本件明細書に特定の条件下における攪拌時間(方法Bの17時間)が開示されていたとしても、当業者が方法2における攪拌時間を合理的に予測することができるとまでいうことはできない。
さらに、乾燥方法は、結晶形に影響を及ぼす可能性があるところ、方法2では開示されていないのであるから、方法2の記載から、適する乾燥方法(この実験の設定である真空オーブン中、3?6時間、70℃、22inHg)を当業者が見出すことは困難である。
このように、乙24の実験の条件は、当業者が過度な負担なしに設定することができるものではなく、しかも一部は不明なものである。

(ウ)以上のとおり、本件明細書における方法2に係る記載は、結晶性形態Iを得るための諸因子の設定について当業者に過度の負担を強いるものというべきであって、実施可能要件を満たすものということはできない。

ウ 方法3について

(ア)方法3の開示内容について
方法3は、以下のとおりである。
「主として無定形のアトルバスタチンからなる水湿潤ケーキを、有意な量の結晶性形態Iのアトルバスタチンが存在するまで、高い温度、例えば約75℃まで、特に好ましくは約65?70℃の温度で加熱し、それによって無定形/懸濁液形態Iの混合物を上述したようにスラリー化することができる。」
上記の「上述したようにスラリー化する」は、方法2における「約40v/v%まで、例えば約0?20v/v%、特に好ましくは約5?15v/v%の補助溶剤、例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトンなどを含有する水中に固体を懸濁し」であると解される。
また、上記の「有意な量の結晶性形態Iのアトルバスタチンが存在するまで」の記載と「上述したようにスラリー化する」の記載からみて、方法3は、方法2のうちの「出発物質が・・・無定形および結晶性形態Iのアトルバスタチンの組み合わせである場合」について、その出発物質を得る工程に特徴のある一態様を、記載したものであるとも解される。方法3の記載の直前に「このようにする代わりに」の記載があり、その直前の記載は、方法2についての「結晶性形態Iのアトルバスタチンの“種子”を懸濁液に添加することが望ましいということが見出されている」の記載であることからも、方法3は、方法2の、結晶性形態Iの“種子”を懸濁液に添加する代わりに出発物質に結晶性形態Iを存在させる一態様を、記載したものであるとも解される。
なお、方法1?方法3の上位概念について記載した本件明細書の段落【0039】の記載では、「水溶液」、「水に懸濁」というときに、メタノールなどの補助溶剤の使用が、好ましいとされていて、排除されていないから、方法3における「主として無定形のアトルバスタチンからなる水湿潤ケーキ」は、水で湿潤したケーキよりも、補助溶剤を含む水で湿潤したケーキが、好ましいと解する余地もある。
参考に、方法3の上位概念に当たる方法B0は、以下のとおりである。
「無定形のアトルバスタチンを水に懸濁することによって製造することができる。一般に、ヒドロキシル性補助溶剤、例えば低級アルカノール、例えばメタノールなどの使用が好ましい。」
方法3を具体化したものに当たる実施例は、存在せず、参考にできない。
方法3は、主として無定形のアトルバスタチンからなる水湿潤ケーキを養生するというごく一般的な結晶化方法であるものの、湿潤ケーキを例えば約65?70℃の温度で加熱することを特定するのみであり、結晶化に対して一般的に影響を及ぼすpH、ケーキの湿潤度、加熱時間、補助溶剤その他の添加物、乾燥時の減圧の程度などの諸因子について具体的な特定を欠くものであるから、これらの諸因子の設定状況によっては、本件明細書において概括的に記載されている方法3に含まれる方法であっても、結晶性形態Iが得られない場合があるものと解される。
しかも、方法3の「有意な量の結晶性形態Iのアトルバスタチンが存在するまで」とはどの程度の量なのか、不明であるし、そもそも、方法3は、部分工程に特徴のある方法2の一態様である可能性すらあるのである。
そうだとすると、結晶化に対して特に強く影響を及ぼすpH、湿潤度を含め、加熱時間、その他の添加物、乾燥時の減圧の程度などの諸因子が一切特定されていない方法3の記載を以てしては、本件明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識を併せ考慮しても、当業者が過度な負担なしに具体的な条件を決定し、結晶性形態Iを得ることができるものということはできない。

(イ)追試実験について
被請求人は、方法3の記載によって実施可能要件が裏付けられている証拠として、追試実験の実験報告書を提出している。方法3の追試に相当するとされるのは、乙1の実験Dである。しかし、この実験の条件を検討すると、以下に示すように、当業者が過度な負担なしに設定することができるものということはできない。
乙1(2003年12月3日付けのSSCI社のRex Shipplettの実験報告書)の実験Cの記載は、以下のとおりである。訳文により示す。
「固形物が含浸するまで無定形アトルバスタチンカルシウム・・・3.5gを42mLの水中でスラリー化させた。スラリーを濾過し、湿潤ケーキを250mLの広口瓶に入れた。瓶に蓋をし、70℃の対流式オーブンに入れた。湿潤ケーキの一定分量を22.5時間で取り出し、一晩61?63℃で真空乾燥させ、その後X線粉末回折を行った。サンプルは、米国特許5969156号・・・に開示されている結晶性形態Iであった。」
まず、湿潤度、すなわち、水の量は、結晶化の実現に関する重要な因子である以上、物の発明において、当該物の製造方法を開示するにあたり、具体的に記載される必要がある事項というべきところ、方法3については、加熱温度しか記載されていないのであるから、当該記載から、結晶性形態Iが得られる湿潤度を当業者が見出すことは困難であるところ、この実験では明らかにされていない。
次に、加熱時間は、方法3では開示されていないのであるから、当該記載から、結晶性形態Iが得られる加熱時間と加熱方法(この実験の設定である広口瓶中、蓋をし、70℃で、22.5時間)を当業者が見出すことは困難である。
さらに、乾燥方法は、結晶形に影響を及ぼす可能性があるところ、方法3では開示されていないのであるから、方法3の記載から、適する乾燥方法(この実験の設定である一晩61?63℃で真空乾燥)を当業者が見出すことは困難である。
このように、乙1の実験Dの条件は、当業者が過度な負担なしに設定することができるものではなく、しかも一部は不明なものである。

(ウ)以上のとおり、本件明細書における方法3に係る記載は、結晶性形態Iを得るための諸因子の設定について当業者に過度の負担を強いるものというべきであって、実施可能要件を満たすものということはできない。

エ 方法1について

(ア)方法1の開示内容について
方法1は、以下のとおりである。
「所望の結晶性形態Iのアトルバスタチンを製造するための出発物質が相当するナトリウム塩の溶液である場合は、一つの好ましい製法は、約5v/v%以上のメタノール、好ましくは約5?33v/v%のメタノール、特に好ましくは約10?15v/v%のメタノールを含有する水中のナトリウム塩の溶液を、約70℃までの高い温度、例えば約45?60℃、特に好ましくは約47?52℃で、酢酸カルシウムの水溶液で処理することからなる。一般に、アトルバスタチンのナトリウム塩2モルに対して酢酸カルシウム1モルを使用することが好ましい。これらの条件下において、カルシウム塩形成ならびに結晶化は、好ましくは高い温度、例えば上述した温度範囲内で実施しなければならない。出発溶液に、例えば約7w/w%のような少量のメチル第3ブチルエーテル(MTBE)を含有させることが有利であるということが見出された。しばしば、結晶性形態Iのアトルバスタチンを一貫して製造するために、結晶性形態Iのアトルバスタチンの“種子(seeds)”を結晶化溶液に加えるのが望ましいということが見出されている。」
参考に、方法1の上位概念に当たる方法A0は、以下のとおりである。
「結晶性形態Iのアトルバスタチンは、調節された条件下における結晶化によって製造することができる。特に、それは、例えば酢酸カルシウムなどのようなカルシウム塩の添加によって、相当する塩基性塩、例えばアルカリ金属塩、例えばリチウム、カリウム、ナトリウム塩など;アンモニアまたはアミン塩;好ましくはナトリウム塩の水溶液から・・・製造することができる。一般に、ヒドロキシル性補助溶剤、例えば低級アルカノール、例えばメタノールなどの使用が好ましい。」
参考に、方法1を具体化したものに当たる実施例1の方法Aは、以下のとおりである(ただし、原料の一部に結晶性形態Iのアトルバスタチンを使用)。
「方法A (2R-トランス)-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-〔2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル〕-1H-ピロール-3-カルボキサミド(アトルバスタチンラクトン)(米国特許第5,273,995号)(75kg)、メチル第3ブチルエーテル(MTBE)(308kg)、メタノール(190L)の混合物を、48?58℃で水酸化ナトリウムの水溶液(950L中5.72kg)と40?60分反応させて開環したナトリウム塩を形成させる。25?35℃に冷却した後、有機層を捨てそして水性層を再びMTBE(230kg)で抽出する。有機層を捨て、そしてナトリウム塩のMTBE飽和水溶液を、47?52℃に加熱する。この溶液に、水(410L)に溶解した酢酸カルシウム半水和物(11.94kg)の溶液を、少なくとも30分にわたって加える。酢酸カルシウム溶液の添加後直ぐに、結晶性形態Iのアトルバスタチンのスラリー(水11Lおよびメタノール5L中の1.11kg)を、種子として混合物に加える。それから、混合物を少なくとも10分51?57℃に加熱し、そしてそれから15?40℃に冷却する。混合物を濾過し、水(300L)およびメタノール(150L)の溶液で洗浄し、次いで水(450L)で洗浄する。固体を、真空下60?70℃で3?4日間乾燥して結晶性形態Iのアトルバスタチン(72.2kg)を得た。」
方法1は、アトルバスタチンのナトリウム塩のメタノールを含む水中の溶液を、酢酸カルシウム水溶液で処理して、カルシウム塩を結晶化させるというごく一般的な結晶化方法であるものの、メタノールの含有率が特に好ましくは約10ないし15v/v%であり、処理温度が特に好ましくは47?52℃であること、7w/w%程度のMTBEの存在が好ましいことを特定するのみであり、結晶化に対して一般的に影響を及ぼすpH、両方の溶液の濃度と量、酢酸カルシウム水溶液の添加速度、添加後の攪拌の要否と時間と温度、冷却の温度と時間、乾燥の方法、その他の添加物などの諸因子について具体的な特定を欠くものであるから、これらの諸因子の設定状況によっては、本件明細書において概括的に記載されている方法1に含まれる方法であっても、結晶性形態Iが得られない場合があるものと解される。
そうだとすると、結晶化に対して特に強く影響を及ぼすpH、両方の溶液の濃度と量を含め、酢酸カルシウム水溶液の添加速度、添加後の攪拌の要否と時間と温度、冷却の温度と時間、乾燥の方法、その他の添加物の諸因子が一切特定されておらず、また、それらを決めるための指針も記載されていない方法2の記載を以てしては、本件明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識を併せ考慮しても、当業者が過度な負担なしに具体的な条件を決定し、結晶性形態Iを得ることができるものということはできない。

(イ)追試実験について
被請求人は、方法1の記載によって実施可能要件が裏付けられている証拠として、追試実験の実験報告書を提出している。方法1の追試に相当するとされるのは、乙1の実験B及び乙2である。しかし、これらの実験の条件を検討すると、以下に示すように、当業者が過度な負担なしに設定することができるものということはできない。

a 乙1(2003年12月3日付けのSSCI社のRex Shipplettの実験報告書)の実験Bの記載は、以下のとおりである。訳文により示す。
「米国特許5969156号の実施例1に基づいてアトルバスタチンナトリウム塩を調製した。アトルバスタチンナトリウム塩を含む溶液を減圧下で蒸発、凍結乾燥させ、5.4gのアトルバスタチンナトリウム塩を得た。アトルバスタチンナトリウム塩を、還流冷却器と機械攪拌機付きの250mLの三つ口丸底フラスコに充填した。12%v/vのメタノールと7%w/wのMTBEからなる82mLの水溶液を加えて、43℃で溶液とした。
溶液を49-52度に加熱し、水(27mL)に溶かした0.00476モルの酢酸カルシウムの溶液を30分間にわたって攪拌しながら加えた。添加終了後、得られた混合物を一晩52-57℃で攪拌した。一定分量4mLのスラリーを取り出し、濾過し、その結果得られた湿潤ケーキを一晩60-61℃で真空乾燥させ、その後XRPDにより分析した。固形物の組成は、米国特許5969156号・・・に開示されるような、結晶性形態Iである。その後、残りのポットのスラリーを26℃に冷却し、濾過し、米国特許5969156号の実施例1に従って湿潤ケーキを洗浄し、恒量になるまで58-63℃で真空乾燥させ、その後X線粉末回折を行った。最終生成物は、米国特許5969156号・・・に開示されている、結晶性形態Iである。」
まず、両方の溶液の濃度と量は、結晶化の実現に関する重要な因子である以上、物の発明において、当該物の製造方法を開示するにあたり、具体的に記載される必要がある事項というべきところ、方法1については、補助溶剤がメタノールであることとメタノールの好ましい濃度と7w/w%程度のMTBEの存在が好ましいことと、アトルバスタチンナトリウム塩2モルに対して酢酸カルシウム1モルとする程度しか記載されていないのであるから、当該記載から、種晶の添加なしにカルシウム塩を結晶性形態Iに結晶化させる両方の溶液の濃度と量(この実験の設定である、一方は、アトルバスタチンナトリウム塩5.4g(審決注:計算すると0.0093モル)と溶媒(12%v/vメタノール、7%w/wのMTBE、残りは水)82mL、他方は、酢酸カルシウム0.00476モル(審決注:無水物と仮定して計算すると0.75g、1水和物なら0.84g)と水27mL)を当業者が見出すことは困難である。
酢酸カルシウム水溶液の添加速度は、方法1では開示されていないのであるから、方法1の記載から、適する添加時間(この実験の設定である30分間)を当業者が見出すことは困難である。
添加後の攪拌の要否と時間と温度は、方法1では開示されていないのであるから、方法1の記載から、適する条件(この実験の設定である一晩52-57℃で攪拌)を当業者が見出すことは困難である。
冷却の温度と時間、乾燥の方法は、方法1では開示されていないのであるから、方法1の記載から、適する条件(この実験の設定である26℃に冷却し、濾過し、洗浄し、恒量になるまで58-63℃で真空乾燥)を当業者が見出すことは困難である。
このように、乙1の実験Bの条件は、当業者が過度な負担なしに設定することができるものではない。

b 乙2(2006年6月8日付けのファイザー社のPhillip J. Johnsonの実験報告書)の実験の記載は、以下のとおりである。訳文により示す。被請求人が提出した訳文を採用しているが、「および」は公用文における漢字表記に改めた。
「(2R-トランス)-5-(4-フルオロフェニル)-2-(1-メチルエチル)-N,4-ジフェニル-1-[2-(テトラヒドロ-4-ヒドロキシ-6-オキソ-2H-ピラン-2-イル)エチル]-1H-ピロール-3-カルボキサミド(アトルバスタチンラクトン)(米国特許5,273,995号)(15gm)、メチル第3ブチルエーテル(MTBE)(61gm)及びメタノール(38mL)の混合物を、53℃で水酸化ナトリウムの水溶液(190mL中1.14gm)と、50分間反応させて、開環したナトリウム塩を生成させた。30℃に冷却した後、有機層を捨て、そして水層を再びMTBA(46gm)で抽出した。有機層を捨て、そして、MTBEを飽和させたナトリウム塩の水溶液を50℃に加熱した。この溶液に、水(82mL)に溶解した酢酸カルシウム半水和物(2.39gm)の溶液を1時間にわたって加えた。それから、混合液を54℃に加熱し、一晩攪拌し、次いで25℃に冷却した。混合液を濾過し、水(60mL)及びメタノール(30mL)の溶液で洗浄し、次いで水(90mL)で洗浄した。固体を、真空下、60?65℃にて4日間乾燥して、結晶性形態Iのアトルバスタチン水和物(13.5gm)を得た。この物質を小さなセラミック製の乳鉢・乳棒で粉砕し、その結果、結晶性形態Iのアトルバスタチン水和物・・・を得た。得られたサンプルは、X線回折により、結晶性形態Iのアトルバスタチン水和物であることが確認された。」
上記aと同様に検討すると、まず、方法1の記載から、両方の溶液の濃度と量と調製手順(この実験の設定である、一方は、アトルバスタチラクトン15gから出発して特定の手順でMTBE、メタノール、水酸化ナトリウム水溶液190mL、を用いて調製したアトルバスタチンナトリウム塩の溶液、他方は酢酸カルシウム半水和物2.39gと水82mL)を当業者が見出すことは困難である。本件明細書の実施例1の方法Aを参考にして初めて、5000分の1のスケールとして、両方の溶液の濃度と量と調製手順を見出せるに過ぎない。
酢酸カルシウム水溶液の添加速度は、方法1では開示されていないのであるから、方法1の記載から、適する添加時間(この実験の設定である1時間)を当業者が見出すことは困難である。アトルバスタチンカルシウム塩を生成及び結晶化させるための添加速度は、pH、両方の溶液の濃度、温度、種晶の有無、その他の添加物、攪拌などの諸因子によって異なるものであるから、本件明細書に特定の条件下における添加速度(方法Aの、少なくとも30分にわたって加え、添加後すぐに種晶のスラリーを加える)が開示されていたとしても、当業者が方法1における添加速度を合理的に予測することができるとまでいうことはできない。
添加後の攪拌の要否と時間と温度は、方法1では開示されていないのであるから、方法1の記載から、適する条件(この実験の設定である54℃で一晩攪拌)を当業者が見出すことは困難である。攪拌の要否と時間と温度も、上記の諸因子によって異なるものであるから、本件明細書に特定の条件下における温度(方法Aの少なくとも10分51?57℃に加熱)が開示されていたとしても、当業者が方法1における攪拌の要否と時間と温度を合理的に予測することができるとまでいうことはできない。
このように、乙2の実験の条件は、当業者が過度な負担なしに設定することができるものではない。

(ウ)以上のとおり、本件明細書における方法1に係る記載は、結晶性形態Iを得るための諸因子の設定について当業者に過度の負担を強いるものというべきであって、実施可能要件を満たすものということはできない。

(4)被請求人の主張について

ア 被請求人は、概略以下の主張をしている。
種晶に使用可能な結晶Iを最初に取得する方法は、本件明細書に3通り記載されており(方法1?方法3)、実施例の形式をとっていないだけで、内容としては実施例に相当し、追試実験によって、これらの方法により結晶Iが得られることが確認されている。明細書の記載と技術常識を併せて製造できれば、実施可能要件は満たされる。
方法2については、温度は、指定がなければ室温、スラリー濃度は、攪拌可能で濃厚な状態から出発するのが技術常識であり、3回程度の試行をしても実施可能要件違反にはならない。
方法3については、密閉容器で加熱するのは技術常識である。
方法1については、30分で加えて一晩52?57℃で処理するのは、種晶を加えないので実施例1の方法Aより長時間を要するのは当然で、一晩継続するのは極めてありふれた操作だから(乙42?乙49)、技術常識に反するものでない。

イ 検討
上記(3)で検討したとおり、方法2、方法3、方法1のいずれも、結晶化に対して一般的に影響及ぼす諸因子(方法2におけるpH、スラリー濃度、温度、その他の添加物など、方法3におけるpH、ケーキの湿潤度、加熱時間、補助溶剤その他の添加物、乾燥時の減圧の程度、方法1におけるpH、溶液の濃度と量、酢酸カルシウム水溶液の添加速度、添加後の攪拌の要否と時間と温度、冷却の温度と時間、乾燥の方法、その他の添加物)について具体的な特定を欠くものであり、本件明細書の種晶を用いた実施例の記載及び技術常識を考慮しても、結晶性形態Iのアトルバスタチンを得るための条件の設定には、複数の因子のそれぞれについて手がかりのない状態から複数の試行を要するので、多数回の実験と測定を繰り返す必要があり、当業者に過度の負担を強いるといえ、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法が実施可能要件を定めた趣旨に反するものであるから、実施可能要件は満たされるという被請求人の主張は、採用できない。

(5)無効理由4についてのまとめ
以上のとおり、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、本件発明1?3についての特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件発明1ないし3についての特許は、同法第123条第1項第4号に該当するから、無効理由4によって無効とすべきものである。

5 無効理由5について
無効理由5の概要は、本件発明1は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明1についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである、というものである。

(1)請求人の主張
請求人は、概略以下の主張をしている。
本件発明1は、X線粉末回折パターンの16個の2θ値につき、相対強度が種々の数値となるものを含むことになり、甲18によれば、回折角の違いは単位格子の違いを表し、相対回折強度の違いは単位格子中の構造の違いを表すから、本件発明1は、単位格子中の構造の異なるものを含んでいることになる。
ところが、本件明細書には、【表1】(審決注:本件発明2においては発明特定事項とされている。前記第2参照)の特定の2θ、d-面間隔及び相対強度の組合せにより特定されたものしか記載されておらず、その2θ値は請求項1に記載された数値と同じであるが、2θ値を維持したまま相対強度を変化させられるかについての記載はなく、当業者の技術常識であるとの証拠もない。
そうすると、本件優先日の当業者の技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明に開示された内容を本件発明1の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超え、本件発明1は、サポート要件に適合していない。

(2)検討

ア 請求人が引用した甲18(「第十六改正 日本薬局方解説書」,廣川書店,2011年,B-370-B-380)は、医薬品の規格基準書である「薬局方」を解説した文献であり、薬局方で定められている試験法の粉末X線回折法について、以下の記載がある。
(18a)「2.58 粉末X線回折測定法
本試験法は,三薬局方での調和合意に基づき規定した試験法である.
なお,三薬局方で調和されていない部分は「^(◆) _(◆)」で囲むことにより示す.
^(◆)粉末X線回折測定法は,粉末試料にX線を照射し,その物質中の電子を強制振動させることにより生じる干渉性散乱X線による回折強度を,各回折角について測定する方法である._(◆)
化合物のすべての結晶相は特徴的なX線回折パターンを示す^((注1)).X線回折パターンは,微結晶又はある程度の大きさの結晶片からなる無配向化した結晶性粉末から得られる.単位格子の種類と大きさに依存した回折線の角度,主として原子の種類と配列並びに試料中の粒子配向に依存した回折線の強度,及び測定装置の解像力と微結晶の大きさ,歪み及び試料の厚さに依存した回折線の形状の3種類の情報が,通例,X線回折パターンから得られる.
回折線の角度及び強度の測定は,結晶物質の結晶相の同定などの定性的及び定量的な相分析に用いられる^((注2)).また,非晶質と結晶の割合の評価も可能である^(1))。粉末X線回折測定法は,他の分析試験方法と比べ,非破壊的な測定法である(試料調製は,試料の無配向を保証するための粉砕に限られる).粉末X線回折測定は,低温・低湿又は高温・高湿のような特別な条件においても可能である^((注3)).」(B-370頁1?17行)
(18b)「1.原理
X線回折はX線と原子の電子雲との間の相互作用の結果生じる.原子配列に依存して,散乱X線に干渉が生じる.干渉は回折した二つのX線波の光路差が波長の整数倍異なる場合に強められる.この選択的条件はブラッグの法則と呼ばれ,ブラッグの式(次式)により表される・・・.
2d_(hkl)sinθ_(hkl)=nλ
X線の波長λは,通例,連続する結晶格子面間の距離又は面間隔d_(hkl) と同程度の大きさである.θ_(hkl) は入射X線と格子面群との間の角度であり,sinθ_(hkl) は連続する結晶格子面間の距離又は面間隔d_(hkl) と反比例の関係となる.
単位格子軸に関連して,格子面の方向と間隔はミラー指数(hkl)により規定される.これらの指数は,結晶面が単位格子軸と作る切片の逆数の最も小さい整数である.単位格子の大きさは,軸長a,b,cとそれぞれの軸間の角度α,β,γにより与えられる.
特定の平行なhkl面の組の格子面間隔はd_(hkl) により表される.それぞれの格子面の同系列の面は1/n(nは整数)の面間隔を持ち,nh,nk,nl面による高次の回折を示す.結晶のあらゆる組の格子面は,特定のλに対応するブラッグ回折角θ_(hkl) を有する.
粉末試料は多結晶であり,いずれの角度θ_(hkl) においてもブラッグの法則で示される回折が可能となる方向を向いている微結晶が存在する^(2)).一定の波長のX線に対して,回折ピーク(回折線,反射又はブラッグ反射とも呼ばれる)の位置は結晶格子(d-間隔)の特性を示し,それらの理論的強度は結晶学的な単位格子の内容(原子の種類と位置)に依存し,回折線形状は結晶格子の完全性や結晶の大きさに依存する.これらの条件の下で,回折ピーク強度は,原子配列,原子の種類,熱運動及び構造の不完全性や測定装置特性等により決められる.回折強度は構造因子,温度因子,結晶化度,偏光因子,多重度因子,ローレンツ因子などの多くの因子に依存する.回折パターンの主要な特徴は,2θの位置,ピーク高さ,ピーク面積及びピーク形状(例えば,ピークの幅や非対称性,あるいは解析関数や経験的な表現法などにより示される)である.ある物質の異なる五つの固体相で認められた粉末X線パターンの例を図2.58-2に示す.
粉末X線回折測定では回折ピークに加えてある程度のバックグラウンドが発生し,ピークに重なって観察される.試料調製方法に加え,試料ホルダーなど装置及び空気による散漫散乱や,検出器のノイズ,X線管から発生する連続X線など,装置側の要因もバックグラウンドの原因となる.バックグラウンドを最小限にし,照射時間を延長することによってピーク対バックグラウンド比を増加させることができる.
・・・・・・・・・・・・・・・

」(B-370頁18行?B-371頁下から3行)
(18c)「3.試料の調製と取付け
粉末試料の調製と試料ホルダーへの適切な充てんは,得られるデータの質に重大な影響を与えるので,特に粉末X線回折測定法では重要な操作となる^(3)).ブラッグ?ブレンターノ集中法光学系の装置を用いた場合における試料調製及び充てんに起因する主なエラーの要因を以下に示す.
3.1.試料の調製^((注5))
一般的には,多くの結晶粒子の形態は試料ホルダー中で試料に選択配向性を与える傾向がある.粉砕により微細な針状晶又は板状晶が生成する場合には,この傾向は特に顕著となる.試料中の選択配向は種々の反射強度に影響を与え,その結果,完全な無配向な試料で予測される反射に比べ,ある場合には強く,ある場合には弱く観察される.いくつかの手法が微結晶の配向のランダム化(結果として選択配向が最小になる)のために用いられるが,最良で最も簡便な方法は,粒子径を小さくすることである.微結晶の最適数は,回折装置の配置,必要な解像度及び試料によるX線ビームの減衰の程度に依存する.相の同定であれば,通例,50μm程度の粒子径によって十分な結果が得られる.しかしながら,過度の粉砕(結晶形が約0.5μm以下となる場合)は,線幅の広がりや下記のような,試料の性質の重大な変化の原因となることがある.
(i)乳鉢,乳棒,ボールなどの粉砕装置から発生する粒子による試料の汚染
(ii)結晶化度の低下
(iii)他の多形への固相転移
(iv)化学的分解
(v)内部応力の発現
(vi)固体反応
したがって,未粉砕試料の回折パターンと粉砕した粒子径の小さい試料の回折パターンを比較することが望ましい.得られた粉末X線回折パターンが利用目的に十分に適合するならば,粉砕操作は不要である.試料中に複数の相が存在し,特定の大きさの粒子を得るためふるいを用いた場合には,組成が初期状態から変化している可能性があることに注意すべきである.」(B-374頁末行?B-375頁26行)
(18d)「5.定性分析(相の同定)^((注6))
粉末X線回折による未知試料中の各相の同定は,通例、基準となる物質について実験的に又は計算により求められる回折パターンと,試料による回折パターンとの視覚的あるいはコンピューターによる比較に基づいて行われる.標準パターンは,理想的には特性が明確な単一相であることが確認された試料について測定されたものでなければならない.多くの場合,この方法によって回折角2θ又は面間隔d及び相対強度から結晶性化合物を同定することができる.コンピューターを用いた未知試料回折パターンと標準データとを比較する場合,ある程度の2θ範囲の回折パターン全体か,あるいは回折パターンの主要部分を用いるか,いずれかの方法により行われる.例えば,それぞれの回折パターンから得られた面間隔d及び標準化した強度I_(norm) の表,いわゆる(d,I_(norm))表は,その結晶性物質の指紋に相当するものであり,データベースに収載されている単一相試料の(d,I_(norm))と比較対照することができる.
CuK_(α) 線を用いた多くの有機結晶の測定では,できるだけ0°付近から少なくとも40°までの2θの範囲で回折パターンを記録するのが,通例,適切である.同一結晶形の試料と基準となる物質との間の2θ回折角は,0.2°以内で一致する.しかしながら,試料と基準となる物質間の相対的強度は選択配向効果のためかなり変動することがある.転移しやすい水和物や溶媒和物は,単位格子の大きさが変化することが知られており,その場合回折パターン上,ピーク位置のシフトが生じる.これらの物質では,0.2°を超える2θ位置のシフトが予期されることから,0.2°以内というピーク位置の許容幅は適用しない.その他の無機塩類等の試料については,2θ測定範囲を40°以上に拡大する必要がある.一般的には,単一相試料の粉末X線回折データベースに収載されている,10本以上の強度の大きな反射を測定すれば十分である.
以下のように,相を同定することがしばしば困難であるか,あるいは不可能な場合がある.
(i)結晶化していない物質,あるいは非晶質物質
(ii)同定すべき成分が質量分率で少量(通例,10%未満)
(iii)著しい選択配向性を示す
(iv)当該相がデータベースに収載されていない
(v)固溶体の生成
(vi)単位格子を変化させる不規則構造の存在
(vii)多数の相から成る
(viii)単位格子の変形
(ix)異なる相での構造類似性の存在」(B-376頁1?下から5行)

イ 甲37(中井泉,泉富士夫編集,「粉末X線解析の実際 第2版」,初版第1刷,朝倉書店,2009年7月10日,p.8-10)には、以下の記載がある。
(37a)「次に,d_(hkl) の間隔で平行に配列しているミラー指数(hkl)の格子面P_(1) とP_(2) を想定してみよう.・・・このような面に入射した波1と波2は・・・光路差2d_(hkl)sinθがもしX線の波長λの整数倍であれば,出射した波1と2の位相がそろうので,互いに強め合う.
nλ=2d_(hkl)sinθ (1.1)
ここで,nは整数である.・・・これをブラッグの条件という.
・・・・・・・・・・・・・・・
式(1.1)より,波長λのX線を結晶に照射したときにどの方向に回折するか(回折角θ)は,その格子面間隔d_(hkl) で決まることがわかった.1.1.2で述べたように,各格子面にはミラー指数(hkl)がつけられている.・・・(hkl)面の格子面間隔d_(hkl) は・・・結晶の格子定数から簡単に計算できるので,回折角θは物質の格子定数によって決まることがわかる.」(8頁右欄3行?9頁左欄11行)
(37b)「c.回折強度は何によって決まるか
個々の原子はその電子数に応じたX線の散乱能,すなわち原子散乱因子fをもつことを1.1.1で述べた.6章で詳述するように,単位格子(単位胞)中に散乱能f_(j) をもつN個の原子が含まれており,それぞれの原子(分率)座標が(x_(j),y_(j),z_(j))であるとすると,ある格子面(hkl)からの散乱に寄与するN個の原子からの散乱波の合成波は,原子の熱振動を無視すれば,
F(hkl)=Σ_(j=1)^(N)f_(j)exp{2πi(hx_(j)+ky_(j)+lz_(j))} (1.2)
で与えられる.結晶構造因子F(hkl)はF(hkl)=|F(hkl)|exp{iφ(hkl)}という形の複素数であり,|F(hkl)|は構造振幅,φ(hkl)は位相である.X線回折装置で測定され,吸収因子やローレンツ・偏光因子などで補正した積分強度I(hkl)とは
|F(hkl)|^(2)=sI(hkl) (1.3)
という式で関係づけられる.ここで,sは装置や実験条件に依存するパラメーターをすべて盛り込んだ比例定数であり,尺度因子と呼ばれる.単位格子中のどこにどの原子が位置するか,言い換えればそれぞれの原子の座標(x_(j),y_(j),z_(j))が求まれば,式(1.2),(1.3)から,hkl反射の回折強度I(hkl)を計算できる.すなわち,回折強度は原子の種類と配列(原子座標)によって決まる.」(9頁左欄26行?右欄7行)
(37c)「1.1.4b,cで述べたように,ある物質における回折角θはその物質の格子定数によって決まり,回折強度はその物質の構成原子の配列(座標)によって決まる.したがって,ある物質の粉末回折パターン(すなわち回折角と回折強度の集合)はその結晶構造に依存するため,既知物質と未知物質の粉末X線回折パターンを比べることで,未知物質を同定できる.これが粉末回折法による同定の原理である.」(10頁左欄下から11?下から4行行)

ウ 上記ア及びイに示した甲18及び甲37は、本件優先日後に発行された刊行物であるが、X線回折法についての技術常識を示す文献であり、X線回折法の原理やデータの評価についての技術常識は本件優先日当時も異ならないと認められる。
これらの記載によれば、理論的には、回折角θは、格子面間隔dで決まり(摘示(18a)(18b)(37a)(37c))、回折強度は、原子の種類(原子により異なる電子散乱因子fをもつ。)と配列(原子座標)によって決まり(摘示(18a)(18b)(37b)(37c))、回折角と回折強度のセット(回折パターン、回折線形状)の比較により、物質(結晶物質の結晶相など)の同定ができることが認められる(摘示(18a)(18b)(18d)(37c))。ただし、医薬化合物の各固体相(すなわち異なる結晶形や非晶質の相)の同定に際しては、測定されるX線回折パターンにおける相対的強度は、選択的配向効果その他の多くの因子により変動することが知られており(摘示(18c)(18d))、また、同定のためには、10本以上の強度の大きな反射(回折と同義である。)を測定すれば十分であるとの目安が示されており(摘示(18d))、何れも、当業者の技術常識であると認められる。
ここで、本件発明1についてみると、16個の2θ値で特定されているものであり、本件明細書の図1及び【表1】と併せ見れば、強度の大きな2θ値を特定したものと認められる。
そうすると、本件発明1のように、16個もの2θ値で特定される単位格子は、回折角が全部一致すれば結晶として同一であり、同一の2θ値において、相対回折強度が異なるからといって、別の構造と評価されるわけではないというべきである。
請求人の主張は、本件発明1は、発明の詳細な説明に開示されていない「単位格子中の構造の異なるものを含んでいることになる」から、サポート要件に適合しないというものであるが、この主張は、16個の2θが一致するのに(すなわち16個の格子面間隔が一致するのに)原子の種類と配列(原子座標)が異なる結晶を想定して、それが発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないとするもので、医薬品化合物のX線粉末回折法における回折強度についての技術常識を無視してサポート要件違反を主張するものであり、採用することができない。

(3)無効理由5についてのまとめ
以上のとおり、請求人が主張する理由及び証拠によっては、本件発明1は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないとすることはできないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合し、本件発明1についての特許は、同条同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
よって、本件発明1についての特許は、同法第123条第1項第4号に該当せず、無効理由5によっては、無効とすべきものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし3に係る特許は、無効理由1?4によって無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-05-27 
結審通知日 2014-06-03 
審決日 2014-06-16 
出願番号 特願2002-8746(P2002-8746)
審決分類 P 1 123・ 536- Z (C07D)
P 1 123・ 121- Z (C07D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 渡辺 仁内藤 伸一上條 のぶよ  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 齋藤 恵
井上 雅博
登録日 2011-07-29 
登録番号 特許第4790194号(P4790194)
発明の名称 結晶性の〔R-(R*,R*)〕-2-(4-フルオロフェニル)-β,δ-ジヒドロキシ-5-(1-メチルエチル)-3-フェニル-4-〔(フェニルアミノ)カルボニル〕-1H-ピロール-1-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩(アトルバスタチン)  
代理人 原 裕子  
代理人 豊岡 静男  
代理人 増井 和夫  
代理人 橋口 尚幸  
代理人 齋藤 誠二郎  

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