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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H01L
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  H01L
管理番号 1293372
審判番号 無効2012-800203  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-12-11 
確定日 2014-11-18 
事件の表示 上記当事者間の特許第5046083号発明「炭化珪素半導体装置の製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
被請求人は、平成18年8月24日に特願2006-227650号として特許出願し、平成24年7月27日に特許権の設定登録がされた、発明の名称を「炭化珪素半導体装置の製造方法」とする特許第5046083号(請求項の数4。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
請求人は、平成24年12月11日に本件無効審判の請求をした。
その後の経緯概要は次のとおりである。

平成25年 2月28日:請求人 手続補正書提出
平成25年 5月 2日:被請求人 審判事件答弁書提出
平成25年 6月24日(同年同月20日付け):審理事項通知
平成25年 7月 8日:請求人 口頭審理陳述要領書提出
平成25年 7月 8日:被請求人 口頭審理陳述要領書提出
平成25年 7月22日:請求人 上申書提出
平成25年 7月22日:口頭審理

第2 本件発明
本件特許第5046083号の請求項1ないし4に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものである(以下、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明3」、「本件発明4」という。)。

「【請求項1】
ショットキー電極の終端領域の下の第1導電型の低濃度の炭化珪素膜に、イオン注入により第2導電型の領域を形成し高温活性化処理する工程を含む炭化珪素半導体装置の製造方法において、
上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、結晶学的面指数が(0001)面又は(000-1)面を有する第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されており、
上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜上へのショットキー電極形成に先立って、上記高温活性化処理する工程後に、上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程を備えたことを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
犠牲酸化によって形成された140nm未満の二酸化珪素層を除去することを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項3】
犠牲酸化によって形成した140nm以上の二酸化珪素層を除去することを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項4】
表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上の二酸化珪素層を除去する工程を、複数回繰り返して行うことを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。」

第3 請求人の主張
1 請求の趣旨及び無効理由
請求人は、「特許第5046083号発明の特許請求の範囲の請求項1、2、3及び4に記載された発明の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、本件特許は次の理由により無効とすべきものであると主張した。

(1)無効理由1
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証(以下「甲1」という。他の甲号証、乙号証についても同じ。)に記載された発明の開示からして、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、また、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項3号及び同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
本件特許の請求項3にかかる発明は、甲1に記載された発明の開示からして、本件特許の請求項4にかかる発明は、甲1、甲6及び甲7に記載された発明の開示からして、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)無効理由2
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲6に記載された発明の開示からして、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、また、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項3号及び同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
本件特許の請求項3にかかる発明は、甲6に記載された発明の開示からして、本件特許の請求項4にかかる発明は、甲6及び甲7に記載された発明の開示からして、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

2 証拠方法
請求人は上記主張に伴い、審判請求書において下記甲1?8を提出し、口頭審理陳述要領書において下記甲9?11を提出した。これらの証拠の成立について争いはない。

甲1:Kiyoshi Tone, Jian H Zhao, Maurice Weiner and Menghan Pan, "4H-SiC junction-barrier Schottky diodes with high forward current densities", SEMICONDUCTOR SCIENCE AND TECHNOLOGY, (イギリス), IOP Publishing, 2001年, Vol. 16, No. 7, p. 594-597
甲2:特開2001-53293号公報
甲3:H. Nakamura, H. Watanabe, J. Yamazaki, N. Tanaka and R. K. Malhan, "Micro-Structural and Electrical Properties of Al-Implanted & Lamp-Annealed 4H-SiC", Materials Science Forum, (スイス), Trans Tech Publications, 2002年, Volumes 389-393, p. 807-810
甲4:特開平11-74263号公報
甲5:特開2004-289041号公報
甲6:LIHUI CAO, 4H-SiC Gate Turn-Off Thyristor and Merged P-i-N and Schottky Barrier Diode, (アメリカ合衆国), UMI Dissertation Services, 2000年, p. 64-91
甲7:特開2004-55627号公報
甲8:J. Campi, Y. Shi, Y. Luo, F. Yan, Y. K. Lee and J. H. Zhao, "Effect of Post-Metal Annealing on the Quality of Thermally Grown Silicon Dioxide on 6H- and 4H-SiC", Materials Science Forum, (スイス), Trans Tech Publications, 1998年, Volumes 264-268, p. 849-852
甲9:最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決(昭和62年(行ツ)第3号)
甲10:最高裁判所判例解説 民事篇,財団法人法曹会,1994年2月,28-50ページ
甲11:篠原勝美,「知財高裁から見た特許審査・審判」,特技懇誌,特許庁技術懇話会,2005年11月,239号,3-14ページ

第4 被請求人の主張
1 答弁の趣旨
被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、請求人の主張する無効理由はいずれも理由のないものであると主張した。

2 証拠方法
被請求人は上記主張に伴い、審判事件答弁書において下記乙1?4を提出した。これらの証拠の成立について争いはない。

乙1:高橋清,新居和嘉監修,「半導体・金属材料用語辞典」,株式会社工業調査会,1999年9月20日,1127-1128ページ
乙2:特開2006-66450号公報
乙3:特開2000-319099号公報
乙4:特開2002-261295号公報

第5 各甲号証の記載事項及び各乙号証の記載事項
1 甲1の記載事項
本件特許の出願前に外国において頒布された刊行物である甲1(Kiyoshi Tone, Jian H Zhao, Maurice Weiner and Menghan Pan, "4H-SiC junction-barrier Schottky diodes with high forward current densities", SEMICONDUCTOR SCIENCE AND TECHNOLOGY, (イギリス), IOP Publishing, 2001年, Vol. 16, No. 7, p. 594-597)には、図1とともに次の記載がある(ここにおいて、下線は当審が付加したものである。また、英文の後の日本語訳は、請求人による甲1の翻訳文を参照した当審による翻訳文である。以下同じ。)。

(1)「1. Introduction
Recent development of high-power devices based on the wide-bandgap semiconductor silicon carbide (SiC) has paid special attention to the integrated diode structures, i.e., so-called junction-barrier Schottky (JBS) diodes and merged pin/Schottky-barrier (MPS) diodes, in which regions of pn and Schottky barrier (SB) junctions are alternated in short periods of a few to several μm [1]. The advantages of the JBS/MPS diodes are SB-diode-like forward characteristics with low turn-on voltages and pn-diode-like reverse characteristics with low current leakage. Furthermore, JBS diodes as well as MPS diodes operating at a voltage lower than the turn-on voltage of the pn junctions exhibit faster switching speed in comparison with that of pin diodes due to the absence of minority carrier injection. Fabrication of JBS/MPS diodes in 4H- and 6H-SiC has been demonstrated in recent years with blocking voltages ranging from 600 V to over 2 kV and current capacities from 1 to 60 A [2-7].」(594ページ左欄1行?18行)
(1.はじめに
炭化珪素(SiC)からなるワイドバンドギャップ半導体に基づく高出力デバイスに関する最近の研究は、集積ダイオード構造に特に注目している。すなわち、pn接合とショットキーバリア(SB)接合の領域が数μm間隔の短い間隔て交互に並ぶ、いわゆるジャンクションバリアショットキー(JBS)及びpin/ショットキーバリア融合(MPS)ダイオードが特に注目されている[1]。JBSダイオード及びMPSダイオードの利点は、SBダイオードのような低いターンオン電圧を有する順方向特性と、pnダイオードのような低い漏れ電流を有する逆方向特性とにある。更に、pn接合のターンオン電圧より低い電圧で作動するJBSダイオード並びMPSダイオードには、少数キャリア注入がないので、pinダイオードのスイッチ速度に比較して、より迅速なスイッチ速度を呈示する。近年では、4H-及び6H-SiCにおけるJBS/MBSダイオードの製造は、600V?2kv以上の範囲のブロッキング電圧と1?60Aの電流容量にて実施されている[2-7]。)

(2)「2. Device fabrication
Figure 1 shows the cross-sectional view of a fabricated 4H-SiC JBS diode with multi-step junction termination extension (MJTE) [8]. The n-type 4H-SiC epitaxial wafer purchased from Cree, Inc. has a drift-layer of 13μm in thickness doped to 9.7×10^(15) cm^(-3). The p^(+)-implanted regions for both JBS and MJTE were simultaneously created by multiple-energy (30-600 keV) implantation of Al ions forming a box profile of 2×10^(18) cm^(-3) with a pn junction depth of approximately 1.0μm, which is considerably deeper than the depths of 0.5-0.6μm typically used by other researchers [2,4]. The implantation mask was provided by a three-layer structure of LPCVD SiO_(2), sputtered Ti and sputtered Mo, with the SiO_(2) at the bottom, patterned by CF_(4)-O_(2) plasma etching. For the JBS structure (figure 1), the width d of the p^(+) implantation is 1.5μm, which is much smaller than the corresponding widths of 3-10μm used by other researchers [3-5], being advantageous in obtaining higher forward current densities. As for the spacing s between the p^(+) implantations, we have fabricated JBS diodes with s = 2 and 3μm. However, since the JBS diodes with the 3μm spacing showed high reverse current leakage more like that of pure SB diodes, results from the JBS diodes only with the 2μm spacing are presented in the following. In addition to the JBS diodes, pure SB diodes and pure pin diodes were included on the same wafer by simply changing the implantation configuration, i.e. d = 0μm for the former and s = 0μm for the latter. The implanted Al atoms were then thermally activated for 30 min in a conventional furnace, the method of which is detailed in [9]. However, the temperature was lowered to 1400℃ to maintain the integrity of the SiC surface as much as possible.
Following the post-implantation annealing, the steps for the MJTE were formed by using inductively coupled plasma (ICP) etching. The step widths l_(1) and l_(2) (figure 1) of the MJTE are 15 and 20μm, respectively; the heights of the three steps are 0.4, 0.04, and 1.5μm for the inner, intermediate, and outer steps, respectively. The wafer was then passivated with a 60 nm thick thermal oxide and a 1.0μm thick LPCVD oxide. Following removal of the oxides on the substrate side by buffered HF, the Ni ohmic contact was made on the substrate side by sputter deposition and a 1050℃, 10 min annealing. Further, the SB contacts on the top side were made, after opening the windows in the passivation oxides by buffered HF etching, by sputter depositing a 150 nm thick Ni layer followed by a 300 nm thick Al layer. For comparison purpose, the wafer was cut before opening the oxide windows, and a piece was subjected to a brief pre-metallization ICP etching (PMIE) immediately prior to the Ni deposition for the SB contacts, while all other process steps were shared and performed simultaneously. The 3 min etching used CF_(4) gas at 10 mTorr while the plasma power and dc bias voltage were 360 W and 50 V, respectively; the estimated etching depth is approximately 25 nm. Finally, the fabricated diodes of 1 mm in diameter were wire-bonded into packages by using 125 x 25μm^(2) Al ribbons.」(594ページ右欄18行?595ページ左欄47行)
(2.デバイスの製造
図1は、マルチステップ接合終端延長(MJTE)を有する4H-SiC JBSダイオードの断面図である[8]。Cree社から購入されたn型4H-SiCエピタキシャルウエハは、9.7×10^(15)cm^(-3)にドープされた13μmの厚みのドリフト層を有する。JBS及びMJTEの両者に対するp^(+)注入領域が、約1.0μmのpn接合深さを有する2×10^(18)cm^(-3)の箱状外形を形成するAlイオンの多重エネルギー注入(30-600kev)によって同時に作成された。この約1.0μmというpn接合深さは、他の研究者達に典型的に用いられる0.5-0.6μmという深さよりもかなり大きい[2,4]。注入マスクは、LPCVD SiO_(2)、スパッタされたTi及びスパッタされたMoの3層構造であって、CF_(4)-O_(2)プラズマエッチングによりパターニングされた、SiO_(2)を底部に有するものにより提供された。JBS構造(図1)において、p^(+)注入の幅dは1.5μmである。この幅はこれに対応する他の研究者により用いられる3-10μmの幅よりかなり小さく[3-5]、より高い順方向電流濃度を得る上で有利である.p^(+)注入同士の間の間隔sに関して、私達は間隔sが2μmであるJBSダイオードとsが3μmであるJBSダイオードを作成した。しかしながら、3μmの間隔を有するJBSダイオードが、純SBダイオードにより近い高い逆方向漏れ電流を呈示したため、2μm間隔を有するJBSダイオードのみから得られた結果を以下に示す。JBSダイオードの他に、純SBダイオード及び純pinダイオードが、注入構成を単に変更することにより同一のウエハ上に含まれた。すなわち、前者の幅dは0μmであり、後者の間隔sは0μmである。続いて、一般的な炉において、注入されたAl原子が、30分間、熱的に活性化された。熱的活性化の詳細は文献9にある。しかしながら、温度は、できる限りSiC表面の完全な状態を維持するために、1400℃に下げられた。
注入後のアニール工程に続き、MJTE用の段が、誘導結合プラズマ(ICP)エッチングを用いて形成された。MJTEの段の幅l_(1)及びl_(2)(図1)は、それぞれ、15μm、20μmであり、内側段、中間段、外側段の3つの段の高さは、それぞれ、0.4μm、0.04μm、1.5μmである。続いて、ウエハが60nmの厚みの熱酸化膜と、1.0μmの厚みのLPCVD酸化物とで不動態化された。酸性度が調整されたHFにより基板側の酸化物を除去した後、Niオーミック接触が、スパッタ堆積と1050℃の10分間に亘るアニールにより基板側に形成された。更に、緩衝フッ酸(BHF)エッチングによって不動態化された酸化膜内に開口が開けられた後で、150nmの厚みのNi層に続いて300nmの厚みのAl層をスパッタ堆積することで、SB接触が表側で形成された。比較のために、酸化開口を開ける前にウエハが切断され、その1片にSB接触用のNi堆積の直前に短時間のプレ金属化ICPエッチング(PMIE)が実施されたが、他の全ての工程は同様に同時に実施された。3分間のエッチングは、10mTorrでCF_(4)ガスを用いた。プラズマパワーとdcバイアス電圧はそれぞれ360Wと50VCであった。推定エッチング深さは約25nmである。最後に、製造された直径1mmのダイオードが、125×25μm^(2)のAlリボンを用いてワイヤーボンディングによりパッケージとされた。)

(3)図1は、次のものである。



2 甲2の記載事項
本件特許の出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲2(特開2001-53293号公報)には、図2、3及び9とともに次の記載がある。

(1)「【0020】
【発明の実施の形態】以下図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
〔実施例1〕図2は、本実施例1のショットキーダイオードの断面図である。ショットキーダイオードはSiC基板1とショットキー電極2、オーミック電極3とからなる。以下に実施例1のショットキーダイオードの作製方法と評価方法について述べる。
【0021】SiC基板1としては、高濃度のn型不純物を含む4H型のSiC単結晶のn^(+) サブストレート11上にnエピタキシャル層12を成長したエピタキシャルウェハを用いた。そのn^(+) サブストレート11、nエピタキシャル層12の厚さはそれぞれ300μm 、10μm であり、不純物濃度はそれぞれ1.1×10^(19)cm^(-3)、1×10^(16)cm^(-3)である。なお本実施例のエピタキシャルウェハは、(0001)Si面から<11-20> 方向に8度傾けた面にnエピタキシャル層12を成長してある。」

(2)「【0035】〔実施例2〕図3は、本発明第二の実施例のショットキーダイオードの断面図である。
【0036】このSBDと実施例1のショットキーダイオードとの違いは、ショットキー電極4が、バリア金属41、密着用金属42、配線用金属43からなっている点である。
【0037】次にこのダイオードの作製方法を述べる。用いたSiC基板と熱酸化、ふっ酸洗浄による表面不完全層除去、水素終端処理、およびその後の熱処理までの処理は実施例1と同じである。熱処理は700℃でおこなった。
【0038】その処理の後、nエピタキシャル層12上にショットキー電極4を形成した。バリア金属41にはTiを用い、その厚さを300?600nmとした。続いて密着用金属42としてNiを300nm、配線用金属43としてAuを2000nm成膜した。成膜法はいずれもスパッタ法である。ショットキー電極4形成後、フォトリソグラフィ法でパターニングした。電極径は200μm である。」

(3)「【0061】[実施例]図9は、本発明第三の実施例のSiCショットキーダイオードの断面図である。本実施例のダイオードは、SiC基板1と、Tiのコンタクト金属41、Niの密着用金属42、Auの配線用金属43からなるショットキー電極4が設けられ、SiC下地板11の裏面に燐イオンを高濃度注入した注入層5を有し、その表面に接触して、同じくTiのコンタクト金属61、Niの密着用金属62、Auの配線用金属63からなるオーミック電極6が設けられている。以下、本実施例3のSiCショットキーダイオードの製造方法を説明する。
【0062】SiC基板1は、実施例1と同じ4H型SiC単結晶エピウェハを用いた。基板の前処理として有機溶剤と酸による有機物除去および熱酸化とフッ酸浸漬による表面不完全層除去をおこなった。SiC下地板11の裏面に燐イオンを注入した。注入条件、アニールは、予備実験2と同じである。
【0063】フッ酸処理およびRCA洗浄をおこなった後、基板の表面層を除去するため酸化をおこなった。ウェット雰囲気下で1100℃×30分間加熱し、酸化膜を形成した。この酸化で生じる酸化膜は、(000-1) C面で約50nmであり、(0001)Si面では、約15nmである。
【0064】酸化膜をフッ酸で除去し、(0001)Si面すなわちエピタキシャル層表面にショットキー電極4を形成した。コンタクト金属41にはTiを用い、その厚さを500nmとした。続いて密着用金属42としてNiを200nm、配線用金属43としてAuを2000nmを成膜した。成膜法はスパッタ法である。これら金属薄膜を形成した後、フォトリソグラフィ法で電極をパターニングした。電極径は200μm である。
【0065】その後、燐イオンの注入により形成した注入層5の表面にTi、Ni、Auをそれぞれ厚さが500、200、150nmとなるようにスパッタ法で形成して三層のオーミック電極6とした。」

3 甲3の記載事項
本件特許の出願前に外国において頒布された刊行物である甲3(H. Nakamura, H. Watanabe, J. Yamazaki, N. Tanaka and R. K. Malhan, "Micro-Structural and Electrical Properties of Al-Implanted & Lamp-Annealed 4H-SiC", Materials Science Forum, (スイス), Trans Tech Publications, 2002年, Volumes 389-393, p. 807-810)には、次の記載がある。

(1)「Exprimental
The (0001)-oriented 10μm thick n-type 4H-SiC epitaxial wafers with net donor concentration of 1x10^(16)cm^(-3) were used.」(807ページ28行?30行)
(実験
1×10^(16)cm^(-3)の正味ドナー濃度を有し、10μmの厚みで、(0001)面のn型の4H-SiCエピタキシャルウエハが使用された。)

4 甲4の記載事項
本件特許の出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲4(特開平11-74263号公報)には、図1及び3とともに次の記載がある。

(1)「【0002】
【従来の技術】炭化けい素(以下SiCと記す)は、バンドギャップが広く、また最大絶縁電界がシリコンと比較して一桁も大きいことから、次世代の電力用半導体素子等への応用が期待されている材料である。そして、6H-SiCや4H-SiCなどアルファ相の高品質の単結晶が製造されるようになり、これまでに、ショットキーダイオード、MOS電界効果トランジスタ(MOSFET)、サイリスタなどの半導体素子が試作されて、その特性から従来のシリコンと比較して非常に特性が良好なことが確認されている。
【0003】SiCはシリコンと同様に酸化性雰囲気(例えば、ドライ酸素、水蒸気など)中で、高温(1000℃?1200℃)にさらすと表面に、酸化けい素膜(以下SiO_(2) 膜と記す)が成長する。しかも、良好な絶縁膜?半導体界面をもつSiO_(2) 膜が得られることが知られている。このような物性は化合物半導体としては他に類を見ない特性であり、この特性を利用して比較的容易にMOSFETの製造ができるので、将来の広い応用が期待されている。
【0004】熱酸化によるSiC上のSiO_(2) 膜の成長については、種々の性質があきらかにされている。例えば、図3は、M.R.Melloch とJ.A.Cooperによる水蒸気雰囲気におけるSiCのSiO_(2) 膜成長速度の温度依存性を示した図である(MRS Bulletin, March 1997,p.42)。比較のため、シリコンの酸化膜成長速度も示してある。他に、 K.Ueno and Y.Seki: "Silicon Carbide and Related Materials 1995" IOP publishing p.629 、A.Golz, G.Horstmann, E.Stein von Kamienski and H.Kurz: "Silicon Carbide and Related Materials 1995" IOP publishing p.633 にもSiC上のSiO_(2) 膜の成長に関する報告がなされている。
【0005】図3に見られるようにSiC上のSiO_(2) 膜の成長速度には結晶方位依存性があり、(0001)シリコン面(以下Si面と記す)は(000-1)炭素面(以下C面と記す)と比較して成長速度が非常に小さいという特徴がある。このことから、C面を用いてSiC半導体装置を試作することが考えられる。しかし実際には、C面はSiO_(2) 膜?SiC界面の界面準位密度が、Si面と比較してはるかに高く、特にMOS型のSiC半導体装置には不適であることがわかった。このような状況から、最近のSiC半導体装置の開発には、Si面を使用するのが主流となっている。」

(2)「【0017】[実験1]ドライ酸素からウェット酸素雰囲気の水蒸気分圧の高くなるほど、酸化膜厚が厚くなるというシリコンについての実験結果は、SiCにおいても同様であろうと、これまで考えられてきたが、それを立証する実験データは無かった。発明者はこれを確認するため、SiCにおいて予備実験と同様に、パイロジェニック酸化で水素と酸素との流量比を変えて、水蒸気の分圧を変化させた実験をおこなったところ、シリコンとはまったく異なる特性になることを見出した。実験の条件としては、水素流量を8リットル/minとして、酸素流量を変えた。ただし、酸素流量が余り多くなるところは、水素流量を4リットル/minとした。
【0018】試料としては、1×10^(16)cm^(-3)のキャリア濃度のAlドープ、面方位(0001)Si面のp型SiCを用いた。熱酸化条件は、1100℃、5時間である。図1は、水蒸気の分圧とSiO_(2) 膜厚との関係を示す図である。横軸は、水蒸気分圧、p(H_(2)O )/[p(H_(2)O )+p(O_(2))]である。水素と、水素流量の半分の酸素とは反応して全部水蒸気になり、残りの酸素は気体のままであると考えている。SiO_(2) 膜厚はエリプソメータで測定した。
【0019】この図からわかるように、水蒸気の分圧が0.2前後のところで、SiO_(2) 膜厚はピークを示している。水素と酸素とを導入するパイロジェニック酸化法では、水蒸気分圧が1.0すなわち水蒸気100%の条件は危険で実現できないが、その付近の傾向から類推して、約25nmになると思われる。従って、水蒸気の分圧が0.2前後の条件では、実験した最大水蒸気分圧0.95の場合と比較して1.5倍以上、水蒸気100%の場合と比較すれば、ほぼ2倍にあたる厚い酸化膜が得られることになる。そして水蒸気分圧が0.1?0.9の範囲では、水蒸気分圧0.95の場合と比較して、20%以上厚いSiO_(2) 膜が得られ、特に、水蒸気分圧が0.1?0.4の範囲では、50%以上厚いSiO_(2) 膜が得られることがわかる。」

(3)図3は、次のものである。



5 甲5の記載事項
本件特許の出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲5(特開2004-289041号公報)には、図3とともに次の記載がある。

(1)「【0023】
次に、図3(d)に示すように、ソース領域5/ドレイン領域6の形成が終了したら、RCA洗浄で清浄化した基板表面に約20?40nmの一過性の酸化膜(1100℃、DRY酸化)を成長させ、成長した酸化膜を希釈フッ酸溶液(DHF)で直ちに取り除く。
この工程によって、イオン注入と活性化熱処理で基板表面に生じた結晶不整層、注入損傷層、各種汚染層、炭化層を効果的に除去することができる。
【0024】
一過性の熱酸化膜をDHFで除去したら基板を充分洗浄し、基板表面に再び約20nm厚さの熱酸化膜(1100℃、WET酸化)9を成長し、更にその上に常温CVDで800nmの酸化膜からなる上部絶縁膜10を堆積する。こうして熱酸化膜9と上部絶縁膜10とで構成されるフィールド絶縁膜8が形成される。従来技術では上記一過性の熱酸化膜を形成することなく、熱酸化膜を形成しているので、酸化した膜中に結晶の汚染や欠陥が取り込まれる。このような結晶の汚染や結果の取り込みは、デバイス性能の低下や不安定の原因になる。」

6 甲6の記載事項
本件特許の出願前に外国において頒布された刊行物である甲6(LIHUI CAO, 4H-SiC Gate Turn-Off Thyristor and Merged P-i-N and Schottky Barrier Diode, (アメリカ合衆国), UMI Dissertation Services, 2000年, p. 64-91)には、図3.1及び3.8とともに次の記載がある。

(1)「In contrast to p-i-n diodes, Schottky diodes exhibit a reverse current characteristic, which is by far more dependent on the applied reverse voltage. This is equivalent to a dependence on the electrical field strength at the Schottky barrier. For instance, the well-known Schottky barrier lowering by image force results in an exponential increase of reverse current with the square root of the field strength (J_(R)?exp(E^(0.5))). An even critical term in the exponential function of the reverse current characteristic is the linear dependence of the barrier lowering on the electrical field (J_(R)?exp(E)). Such a strong field dependence is described to arise from a 'static lowering' [S.M.Sze, 1981 [1] or is derived from an 'interfacial layer theory' [Wu, 1982 [7]. In comparison with silicon based Schottky diodes, an electrical field dependence of the reverse current becomes more crucial using SiC due to its extreme high critical electrical field strength [See Table 1.1]. For practical applications of SiC Schottky rectifiers, it is essential to limit the reverse current at the maximum reverse voltage to acceptable level. One solution is to screen the metal-semiconductor interface from high fields during reverse biasing. This is realized by forming a geometrical structure of p regions at the surface of the n-drift region below the Schottky metal (See Fig. 3.1) as was proposed by Wtlamowski for silicon devices [Wilamowski, 1983 [8]. This kind of device is called merged pn and Schottky barrier diode (MPS) and is the topic of this chapter. The MPS structure shown in Figure 3.1 has p regions beyond the Schottky metal. Those p regions are floating field rings [BJ. Baliga, 1992[9] and are used to be the device's edge termination. This MPS structure has the advantage of simplicity, i.e. the process which creates the p regions also creates the floating field rings. This reduces fabrication cost.
The MPS behaves like a SBD when it is forward biased but with lower current density at a specified bias voltage, depending on the area ratio of the p region. This is because the p regions do not conduct current at usual working forward bias. The MPS behaves like a p-i-n diode when it is reverse biased. When the MPS is reverse biased, the depletion layers formed at the P-N junctions spread into the channel. After depletion layer pinch-off, a potential barrier is formed in the channel and further increase in applied voltage is supported by it with the depletion layer extending toward the N^(+) substrate. The potential barrier shields the Schottky barrier from the applied voltage. This shielding eliminates the large increase in leakage current observed for conventional Schottky barrier diode. The shielding effectiveness depends on the geometry of the MPS structure and will be discussed in section 3.2.
Al or Al+C implantation [J. Zhao, 1997 and K. Tone, 1997, [10] can be used to create the top p^(+) layer and the floating field rings. Ion-implantation causes material damage and reduces the critical field value. The dose has to be carefully chosen to yield reasonably high hole concentration and at the same time not cause severe material damage. Appropriate annealing of the implanted wafer is necessary to cure the damaged crystal structure and activate the dopant. Annealing time and temperature is important.
Recently, R. Held et al [R. Held et al, 1998 [11] and F. Dahiquist et al [F. Dahlquist et al, 1998 [12] fabricated SiC MPS and encouraging results were obtained. However, their devices did not have advanced edge termination and only limited data is available. So, further study of this approach is needed. In this chapter, MPS with floating field rings edge termination will be designed, fabricated, and tested.」(66ページ17行?68ページ14行)
(p-i-nダイオードとは対照的に、ショットキーダイオードは、印加された逆電圧にはるかに強く依存する逆電流特性を有する。これはショットキー障壁における電界強度への依存と同等である。例えば、鏡像力による周知のショットキー障壁の低下は、電界強度の平方根による逆電流の指数関数的増加(J_(R)?exp(E^(0.5)))をもたらす。逆電流特性の指数関数におけるはるかに影響の大きい項は、電界に対する障壁低下の一次従属(J_(R)?exp(E))である。このような強い電界依存は「静的障壁低下」に起因する[S.M.Sze, 1981 [1]、或いは「インターフェース層理論」に由来すると述べられている[Wu, 1982 [7]。珪素をベースとしたショットキーダイオードに比較すると、SiCを使用した(ショットキーダイオード)の逆電流の電界依存性は、その極めて高い臨界電界強度を理由として更に決定的である[表1.1参照]。SiCショットキー整流器の実用を目的として、最大逆電圧における逆電流を受容可能なレベルに制限することが必要不可欠である。ひとつの解決法は、逆方向バイアスの問に高い電界から金属半導体界面を遮蔽することである。これは、Wi1amowskiが珪素デバイスに対して提唱したように、ショットキー金属の下のn-ドリフト領域の表面にp領域の幾何学的構造を形成することにより実現される(図3.1参照)[Wilamowski, 1983 [8]。このような種類のデバイスはpn・ショットキーバリア融合ダイオード(MPS)と称され、本章の主題である。図3.1に示すMPS構造は、ショットキー金属(の下)以外にp領域を有している。これらのp領域はフローティングフィールドリングであって[BJ. Baliga, 1992[9]、デバイスの終端となるようにして使用されている。このMPS構造は単純であるという点で有利であり、すなわち、p領域を作成する工程でフローティングフィールドリングも作成されるので、製造コスト削減につながる。
p領域の面積比に依存するが、低い電流密度と特定のバイアス電圧において順方向にバイアスされたとき、MPSはSBDのように振舞う。これは、p領域が通常の作動順方向バイアスでは電流を伝導しないためである。逆方向にバイアスされたとき、MPSはp-i-nダイオードのように振舞う。MPSが逆方向にバイアスされると、P-N接合に形成された空乏層がチャンネル内で伸張する。空乏層がピンチオフした後には、ポテンシャル障壁がチャネル内に形成される。そして、印加電圧の更なる上昇は、空乏層がN^(+)基板の方向に延出することで支えられる。ポテンシャル障壁は、印加電圧からショットキー障壁をシールド(遮蔽)する。このシールドにより、従来のショットキーバリアダイオードに見られた漏れ電流の大きな増加が解消される。このシールド効果はMPS構造の幾何学的形状に依存するが、これについては3.2で述べる。
Al又はAl+C注入[J. Zhao, 1997 and K. Tone, 1997, [10]は、上部p^(+)層及びフローティングフィールドリングを作成するために使用できる。イオン注入は材料にダメージを与えるとともに臨界電界値を減少させる。高いホール濃度を得ると同時に深刻な材料ダメージを引き起こさないように、ドーズ(イオン注入量)は入念に選択されるべきである。ダメージを受けた結晶構造を回復させ且つ不純物を活性化させるために、注入を受けたウエハの適切なアニールが必要である。アニール時間と温度が重要である。
近年、R.Heldら[R. Held et al, 1998 [11]及びF.Dahiquistら[F. Dahlquist et al, 1998 [12]がSiC MPSを製造し、有望な結果が得られた。しかしながら、彼らのデバイスは有利な終端を有するものではなく、限られたデータしかない。したがって、このアプローチに対する更なる研究が必要である。本章ではフローティングフィールドリングを有するMPSが設計され、製造され、テストされる。)

(2)「3.3 4H-SiC MPS Fabrication
The fabrication processes have been successfully developed and integrated. The fabrication of 4H-SiC MPS followed the process flow shown in Figure 3.8. Only the schematic cross-sectional view of the MPS at major fabrication steps are shown. The fabrication started from wafer cutting, then cleaning, ICP alignment mark etching, Al implantation, post implantation annealing, thermal oxidation, and metalization. A total of three masks were used. The details of each step are described below.
(1) Wafer cutting using a dicing saw
(2) Standard RCA cleaning
(3) Lithography to pattern alignment mark
(4) ICP etching mask deposition: ITO (Indium Tin Oxide) 2000A by sputtering
(5) Lift-off in acetone, DI water rinse, nitrogen blow dry
(6) ICP etching of SiC to create alignment marks (See Table 3.1 for conditions)
(7) ITO removal by HCl acid
(8) RCA cleaning
(9) Implantation mask deposition: LPCVD oxide 1.4μm
(10) Lithography to define Al implantation pattern (guard rings and pn diode portion)
(11) ICP etching mask deposition: Al (thickness 2000A) by sputtering
(12) Lift-off in acetone, DI water rinse, Nitrogen blow dry
(13) ICP etching of LPCVD oxide (See Table 3.2)
(14) Removal of Al etching mask using Aluminum etchant
(15) Al ion implantation (See Table 3.3)
(16) Removal of LPCVD oxide implantation mask using 7:1 buffered HF, followed by RCA cleaning
(17) Dopant activation annealing (1550℃, 30min. in Ar)
(18) RCA cleaning
(19) Wet thermal oxidation, 1100℃, 1 hour. Remove thermal oxide buffered HF
(20) RCA cleaning
(21) Wet thermal oxidation, 1100℃, 5 hours
(22) Backside cleaning
(23) Backside contact metal (Ni) sputtering deposition (3000A)
(24) Backside contact metal annealing to form ohmic contact (1050℃, 10min. in Ar) The specific contact resistivity of the backside ohmic contact is expected in the 10^(-6)-10^(-5) Ω・cm^(2) range according to our previous experience.
(25) Lithography to pattern front side metal
(26) Front surface thermal oxide window opening (Buffered HF, 7:1. 1min, followed by 1%HF, 30sec.)
(27) Front side metal (Ni) sputtering deposition (2000A)
(28) Lift-off in acetone
The top view of a fabricated MPS is shown in Figure 3.9.」(75ページ20行?83ページ16行)
(3.3 4H-SiC MPSの製造
製造方法の開発や統合が順調に行われた。4H-SiC MPSの製造は、図3.8に示す工程フローに沿うものであった。MPSの主要な製造工程での概略断面図のみが示されている。製造はウエハ切断から開始し、次いで、クリーニング、ICP位置合わせマークエッチング、Al注入、注入後ア二-ル、熱酸化、金属化を実施した。合計3つのマスクが使用された。各工程の詳細を以下に記す。
(1)ダイシングソーによるウエハ切断
(2)標準RCAクリーニング
(3)位置合わせマークのパターンニングのためのリソグラフィ
(4)ICPエッチングマーク堆積:スパッタリングによるITO(インジウムスズ酸化物)2000A
(5)アセトン内でのリフトオフ、純水リンス、窒素ブロー乾燥
(6)位置合わせマーク作成のためのSiCのICPエッチング(条件については表3.1参照)
(7)HCl酸によるITO除去
(8)RCAクリーニング
(9)注入マスク堆積:LPCVD酸化物 1.4μm
(10)Al注入パターン形成のためのリソグラフィ(ガードリング及びpnダイオード部)
(11)ICPエッチングマスク堆積:スパッタリングによるAl(厚さ2000A)
(12)アセトン内でのリフトオフ、純水クリーニング、窒素ブロー乾燥
(13)LPCVD酸化物のICPエッチング(表3.2参照)
(14)Alエッチング液によるAlエッチングマスクの除去
(15)Alイオン注入(表3.3参照)
(16)7:1に酸性度の調整されたHFによるLPCVD酸化物注入マスク除去、その後RCAクリーニング
(17)不純物活性化アニール(1550℃、30分、Ar中)
(18)RCAクリーニング
(19)ウェット熱酸化、1100℃、1時間。緩衝フッ酸(BHF)で熱酸化層を除去
(20)RCAクリーニング
(21)ウェット熱酸化、1100℃、5時間
(22)裏面側クリーニング
(23)裏面側接触金属(Ni)スパッタリング堆積(3000A)
(24)オーミック接触形成のための裏面側接触金属アニール(1050℃、10分、Ar中)。我々の経験によれば、裏面側オーミック接触の接触比抵抗率は10^(-6)乃至10^(-5)Ω・cm^(2)と予想される。
(25)表面側金属のパターニングのためのリソグラフィ
(26)表面熱酸化層に開口を開ける(BHF、7:1で1分、その後、1%HFで30秒)
(27)表面側金属(Ni)をスパッタ堆積(2000A)
(28)アセトン内でのリフトオフ
製造されたMPSの上面図を図3.9に示す。)

(3)図3.1は、次のものである。



(4)図3.8は、次のものである。













7 甲7の記載事項
本件特許の出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲7(特開2004-55627号公報)には、図7?14とともに次の記載がある。

(1)「【0037】
次に、上記本発明のデバイスを製作する場合のプロセスの概要を、図7?図14を参照して説明する。
まず、図7の第1の工程で、N↑-型シリコン基板(Nd=1×10↑14 1/cm↑3)上に約1μm厚の埋め込み酸化膜22(BOX)があり、さらにその上に12μm厚でかつρ=0.49Ω・cmのn↑-層23を有するSOI基板21を使用する。
このSOI基板21は、上下のn↑-・N↑-ウェーハが各々のBOX面同士を対向配置させ、高温熱処理炉中で貼り合わせられ、合体させた後に、n↑-側(当初のBOX面の反対面)のみを研磨し、12μmの厚さに仕上げるものであるが、現在では比較的安価であるので市販のものを使用する。
【0038】
次に、図8に示すように、第2の工程で上記SOI基板21が高温(1000?1100℃)の酸化炉中に投入され、その表面に酸化膜27が形成される。
続いて、図9の第3の工程において、例えば4μm幅のトレンチ部24aが開口され、シリコンバルク部となる8μm幅が残される。
次の第4の工程においては、図10に示すように、トレンチ24が、周知のドライ・エッチング技術を駆使してその深さ12μmのBOX22に達するまで掘り込まれる。
【0039】
上記トレンチ24側面のシリコンがドライ・エッチされた面は、エッチングの際に傷んでいる結晶表面となっているので、凹凸が激しく、良好なSBD界面あるいはオーミック接触界面(カソード電極側)となり得ない。
したがって、その凹凸に荒れたシリコンの表面に犠牲酸化が行なわれ、場合によっては複数回、付けては剥し、剥しては付ける酸化工程を繰り返して図10に示した第4の工程を終える。」

8 甲8の記載事項
本件特許の出願前に外国において頒布された刊行物である甲8(J. Campi, Y. Shi, Y. Luo, F. Yan, Y. K. Lee and J. H. Zhao, "Effect of Post-Metal Annealing on the Quality of Thermally Grown Silicon Dioxide on 6H- and 4H-SiC", Materials Science Forum, (スイス), Trans Tech Publications, 1998年, Volumes 264-268, p. 849-852)には、次の記載がある。

(1)「Sample Preparation
Si-faced 6H-SiC and 4H-SiC wafers, purchased from CREE Research, were used in this study. For all the samples, there is a 10μm thick CVD grown epilayer on the p+ or n+ substrate. The doping concentration is 1.1×10^(16)cm^(-3) for n type 6H-SiC samples and 1.2×10^(16)cm^(-3) for p type 6H-SiC samples, respectively. The doping concentration for p type 4H-SiC samples is 8×10^(16)cm^(-3) . before oxidation, wafers were cleaned by RCA cleaning process. Oxidation was performed at 1100℃ in wet oxygen for 2 hours to form a 300Å thick oxide layer.」(849ページ35行?850ページ3行)
(サンプルの準備
CREEリサーチから購入されたSi面の6H-SiC及び4H-SiCウエハが本研究において使用された。全てのサンプルについて、厚み10μmのCVD成長エピ層がp^(+)又はn^(+)基板上に存在する。ドーピング濃度は、n型6H-SiCサンプルでは1.1×10^(16)cm^(-3)であり、p型6H-SiCサンプルでは1.2×10^(16)cm^(-3)である。p型4H-SiCサンプルのドーピング濃度は8×10^(16)cm^(-3)である。酸化工程の前に、ウエハはRCA洗浄により洗浄された。酸化は、1100℃において湿潤酸素中で2時間に亘って実施され、これにより厚み300Åの酸化皮膜が形成された。)

9 甲9の記載事項
甲9(最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決(昭和62年(行ツ)第3号))には、次の記載がある。

(1)「特許法29条1項及び二項所定の特許要件、すなわち、特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては、この発明を同条一項各号所定の発明と対比する前提として、特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ、この要旨認定は、特段の事情のない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。このことは、特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない旨定めている特許法36条5項2号の規定(本件特許出願については、昭和五〇年法律第四六号による改正前の特許法36条5項の規定)からみて明らかである。」(2ページ23行?3ページ7行)

10 甲10の記載事項
甲10(最高裁判所判例解説 民事篇,財団法人法曹会,1994年2月,28-50ページ)には、次の記載がある。

(1)「8 「参酌する」の意味
特許請求の範囲の記載は、発明の要旨や権利範囲にかかわる事項(構成要件)が凝縮して記載されているため、それを通読しただけでは、意味内容を把握できない場合が大部分である。しかしながら、本判決が、発明の要旨を認定するに際して、発明の詳細な説明の記載を参酌することができるとした例外的な場合の「特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合」というのは、このような場合をいうのではない。すなわち、本判決は、発明の要旨を認定する過程においては、発明にかかわる技術内容を明らかにするために、発明の詳細な説明や図面の記載に目を通すことは必要であるが、しかし、技術内容を理解した上で発明の要旨となる技術的事項を確定する段階においては、特許請求の範囲の記載を越えて、発明の詳細な説明や図面だけに記載されたところの構成要素を付加してはならないとの理論を示したものであり、この意味において、発明の詳細な説明の記載を参酌することができるのは例外的な場合に限られるとしたものである。」(39ページ6行?16行)

11 甲11の記載事項
甲11(篠原勝美,「知財高裁から見た特許審査・審判」,特技懇誌,特許庁技術懇話会,2005年11月,239号,3-14ページ)には、次の記載がある。

(1)「特許発明の技術的範囲の確定は、特許侵害訴訟において問題となり、特許法70条1項の規定するところであるが、発明の要旨の認定は、特許出願手続、特許無効審判手続及び審決取消訴訟において問題となり、最高裁平成3年3月8日判決・民集45巻3号123頁(リパーゼ判決)の規律するところである。すなわち、発明の要旨認定は、特許請求の範囲の記載をそのまま権利化して独占権を付与してもよいかとの観点から行われる、発明の実体の認定作業である。したがって、特許請求の範囲の記載に基づいて行われることが原則であり、発明の詳細な説明の参酌が許されるのは、特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとき、一見してその記載が誤記であることが明らかであるときなどの特段の事情があるときに限定される。」(7ページ左欄3行?16行)

12 乙1の記載事項
本件特許の出願前に日本国内において頒布された刊行物である乙1(高橋清,新居和嘉監修,「半導体・金属材料用語辞典」,株式会社工業調査会,1999年9月20日,1127-1128ページ)には、次の記載がある。

(1)「不動態 〔passivity〕
金属が理論上予期される化学反応性を失った状態をいう。」(1127ページ32行?33行)

(2)「不動態皮膜 〔passive film〕
金属を不動態化している薄膜をいう。」(1128ページ16行?17行)

13 乙2の記載事項
本件特許の出願前に日本国内において頒布された刊行物である乙2(特開2006-66450号公報)には、次の記載がある。

(1)「【0003】
しかしながら、ディスプレィに用いられる有機EL素子において、その正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子注入層、電子輸送層等を形成する有機材料は、一般的に水分や酸素等に弱く、また、背面電極にはLi、Na、Mg等の金属が用いられるが、この背面電極も水分や酸素に非常に弱いという欠点を有しており、有機EL素子ディスプレィの普及の妨げになっている。また、MOS等の半導体装置においても水分や酸素を遮断する必要がある。
【0004】
このため、半導体装置や有機EL素子の最上層には、パッシベーション膜と呼ばれる表面保護層が設けられる。このパッシベーション膜には、通常、窒化シリコンや酸化シリコン、あるいは金属等の無機系の絶縁膜が利用されていることが多い。例えば、特許文献1には、特性の異なる窒化シリコン膜を積層したパッシベーション膜を有する半導体装置が示されている。これらの無機膜は、形成するための装置が高価であったり、高温での熱処理を行う必要があるため、半導体や有機EL素子に熱負荷がかかるというデメリットがある。」

14 乙3の記載事項
本件特許の出願前に日本国内において頒布された刊行物である乙3(特開2000-319099号公報)には、図7及び8とともに次の記載がある。

(1)「【請求項1】 面方位がほぼ(11-20)であり、4H型ポリタイプまたは15R型ポリタイプのSiC基板と、
前記SiC基板上に形成されたSiCからなるバッファ層と、
を備えることを特徴とするSiCウエハ。」

(2)「【0008】また、近年、SiC(1-100)基板の他に、6H型ポリタイプのSiC(11-20)基板を用いてSiCウエハを作製する研究もなされている。そして、かかる6H型ポリタイプのSiC(11-20)基板を用いれば、<0001>軸方向に伸びるマイクロパイプやらせん転位は基板上のエピタキシャル層に到達しないため、当該エピタキシャル層内のマイクロパイプ欠陥を低減することができる。」

(3)「【0012】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明のSiCウエハは、面方位がほぼ(11-20)であり、4H型ポリタイプまたは15R型ポリタイプのSiC基板と、SiC基板上に形成されたSiCからなるバッファ層と、を備えることを特徴とする。」

(4)「【0051】[実施例4]本実施例では、4H-SiC(11-20)基板および(0001)8度オフ基板を使用したSiCウエハを用いて、図7に示す高耐圧ダイオードを作製した。SiC基板2は、4H-SiC(000-1)種結晶上に改良レーリー法によって成長したインゴットを成長方向に平行にスライスし、鏡面研磨することによって作製した。基板は共にn型で、ショットキー障壁の容量-電圧特性から求めた実効ドナー密度は6×10^(18)cm^(-3)、厚さは約340μmとした。そして、このSiC基板2上に、CVD法によって窒素ドープn型4H-SiC層をエピタキシャル成長させた。
【0052】実施例3の試料(b)と同様に、3×10^(18)cm^(-3)から1×10^(16)cm^(-3)までドナー密度を階段的に変化させながら各層につき約0.3μmずつ、合計約11.5μmのバッファ層4を形成した後、活性層6となる高純度n型4H-SiC層を成長させた。・・(略)・・
【0053】さらに、このようにして作製した各SiCウエハに、ショットキー電極12およびオーム性電極14を形成した。ショットキー電極12は活性層6の上面に形成し、オーム性電極14はSiC基板2の下面に形成した。・・(略)・・
【0054】・・(略)・・
【0055】図8は、作製したショットキーダイオードの典型的な電流密度-電圧特性を示すグラフである。これは4H-SiC(11-20)基板上にバッファ層を設けて成長したSiCウエハで作製したダイオードで、電極直径は500μmである。・・(略)・・」

15 乙4の記載事項
本件特許の出願前に日本国内において頒布された刊行物である乙4(特開2002-261295号公報)には、図1とともに次の記載がある。

(1)「【0014】また、本発明においてリーク電流が低減される理由として、以下のことも考えられる。すなわち、4H型SiC[03-38]面は[0001]面と異なり、4H型の周期構造が界面に現れている。それゆえ界面原子に乱れが生じる影響が働いても、表面に現れた周期構造のポテンシャルでその乱れが最小限に抑えられ、また、結晶欠陥の発生も抑制される。一方、[0001]面では、表面に現れているのは珪素原子、あるいは炭素原子のみであり、SiCがもつ周期構造のポテンシャル力が働かないため、界面が乱れやすい。最密面からずれた面のなかでも特に4H型SiC[03-38]面を用いると高性能な界面が得られることは、本発明者らが様々な面方位を検討した結果である。4H型SiC[03-38]で特に良い結果が得られた理由としては、最密面から離れた面でありながら原子の結合手が、比較的周期的に表面に現れているためと考えられる。」

(2)「【0027】[第1実施形態]図1は、本実施形態のショットキーダイオード10を示す断面図である。n型の4H型SiC(以下、SiCと記す。){03-38}面を用いた基板上、及び面方位が{0001}面から8度のオフ角をもつ4H型SiC基板上にn型の4H型SiCエピタキシャル成長層を形成してショットキーダイオード10を作製した。尚、4H型の“H”は六方晶系、“4”は原子積層が4層で一周期となる結晶構造を意味する。」

第6 無効理由に対する当審の判断
1 無効理由1についての判断
(1)甲1に記載された発明
上記第5の1に摘記した事項を総合すると、甲1には次の発明(以下「甲1記載発明」という。)が記載されているものと認められる。

「マルチステップ接合終端延長(MJTE)を有する4H-SiC ジャンクションバリアショットキー(JBS)ダイオードの製造方法であって、
n^(-)4H-SiCエピタキシャル層が、n^(+)4H-SiC基板上に設けられたn型4H-SiCエピタキシャルウエハに、Alイオンの注入によって、JBS及びMJTEのp^(+)注入領域を同時に形成する工程と、
続いて、注入されたAl原子を、1400℃で熱的に活性化する工程と、
続いて、MJTE用の段をエッチングで形成する工程と、
続いて、ウエハに、60nmの厚みの熱酸化膜と、1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜を形成して不動態化する工程と、
続いて、緩衝フッ酸(BHF)エッチングによって、不動態化された酸化膜内に開口を形成する工程と、
続いて、Ni層に続いてAl層をスパッタ堆積することで、ショットキーバリア(SB)接触をn^(-)4H-SiCエピタキシャル層表面に形成する工程を備えたことを特徴とする4H-SiC JBSダイオードの製造方法。」

(2)本件発明1と甲1記載発明との対比
ア 甲1記載発明の「ショットキーバリア(SB)接触」、「n^(-)4H-SiCエピタキシャル層」、「p^(+)注入領域」、「1400℃で熱的に活性化する工程」、「4H-SiC ジャンクションバリアショットキー(JBS)ダイオード」は、各々本件発明1の「ショットキー電極」、「第1導電型の低濃度の炭化珪素膜」、「第2導電型の領域」、「高温活性化処理する工程」、「炭化珪素半導体装置」に相当する。
また、甲1記載発明の「p^(+)注入領域」からなる「マルチステップ接合終端延長(MJTE)」が「ショットキーバリア(SB)接触」の終端の領域の下に形成されることは、甲1の図1からも、電界緩和のためのJTEはショットキー電極の終端領域の下に設けられるという技術常識からも明らかである。
したがって、甲1記載発明の「n^(-)4H-SiCエピタキシャル層」に、「Alイオンの注入によって」「MJTEのp^(+)注入領域」を「形成する工程」と、「続いて、注入されたAl原子を、1400℃で熱的に活性化する工程」とを含む「マルチステップ接合終端延長(MJTE)を有する4H-SiC ジャンクションバリアショットキー(JBS)ダイオードの製造方法」は、本件発明1の「ショットキー電極の終端領域の下の第1導電型の低濃度の炭化珪素膜に、イオン注入により第2導電型の領域を形成し高温活性化処理する工程を含む炭化珪素半導体装置の製造方法」に相当する。

イ 甲1記載発明の「n^(+)4H-SiC基板」は、本件発明1の「第1導電型の炭化珪素基板」に相当する。
したがって、甲1記載発明の「n^(-)4H-SiCエピタキシャル層が、n^(+)4H-SiC基板上に設けられ」ている点と、本件発明1の「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、結晶学的面指数が(0001)面又は(000-1)面を有する第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されて」いる点とは、「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されて」いる点で一致する。

ウ 甲1記載発明の「注入されたAl原子を、1400℃で熱的に活性化する工程」、「Ni層に続いてAl層をスパッタ堆積することで、ショットキーバリア(SB)接触をn^(-)4H-SiCエピタキシャル層表面に形成する工程」は、各々本件発明1の「上記高温活性化処理する工程」、「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜上へのショットキー電極形成」工程に相当する。
甲1記載発明の「ウエハに、60nmの厚みの熱酸化膜」「を形成」「する工程」と、本件発明1の「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程」とは、「上記炭化珪素膜表面を酸化する工程」である点で共通する。
甲1記載発明の「緩衝フッ酸(BHF)エッチングによって、不動態化された酸化膜内に開口を形成する工程」と、本件発明1の「犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程」とは、「酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層」に対する処理工程である点で共通する。
したがって、甲1記載発明の「注入されたAl原子を、1400℃で熱的に活性化する工程」と、「続いて、ウエハに、60nmの厚みの熱酸化膜と、1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜を形成して不動態化する工程」と、「続いて、緩衝フッ酸(BHF)エッチングによって、不動態化された酸化膜内に開口を形成する工程」と、「続いて、Ni層に続いてAl層をスパッタ堆積することで、ショットキーバリア(SB)接触をn^(-)4H-SiCエピタキシャル層表面に形成する工程を備えたこと」と、本件発明1の「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜上へのショットキー電極形成に先立って、上記高温活性化処理する工程後に、上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程を備えたこと」とは、「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜上へのショットキー電極形成に先立って、上記高温活性化処理する工程後」に、「上記炭化珪素膜表面を酸化する工程」、及び「酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層」に対する処理工程を備えている点で一致する。

エ したがって、本件発明1と甲1記載発明とは、
「ショットキー電極の終端領域の下の第1導電型の低濃度の炭化珪素膜に、イオン注入により第2導電型の領域を形成し高温活性化処理する工程を含む炭化珪素半導体装置の製造方法において、
上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されており、
上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜上へのショットキー電極形成に先立って、上記高温活性化処理する工程後に、上記炭化珪素膜表面を酸化する工程、及び酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層に対する処理工程を備えたことを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。」
である点で一致し、次の2点で相違する。

(相違点1)
本件発明1は、「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、結晶学的面指数が(0001)面又は(000-1)面を有する第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されて」いるのに対し、甲1記載発明は、「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されて」いるものの、本件発明1の「第1導電型の炭化珪素基板」に対応する「n^(+)4H-SiC基板」の結晶学的面指数が特定されていない点。

(相違点2)
「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜上へのショットキー電極形成に先立って、上記高温活性化処理する工程後」に備えている「上記炭化珪素膜表面を酸化する工程、及び酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層に対する処理工程」が、本件発明1は、「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程」であるのに対し、甲1記載発明は、「60nmの厚みの熱酸化膜と、1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜を形成して不動態化する工程」と、「続いて、緩衝フッ酸(BHF)エッチングによって、不動態化された酸化膜内に開口を形成する工程」である点。

(3)相違点についての判断
ア 相違点1について
(ア)新規性について
例えば、乙3に、「SiC(1-100)基板」、「面方位がほぼ(11-20)であり、4H型ポリタイプまたは15R型ポリタイプのSiC基板」と記載され、また、乙4に、「n型の4H型SiC(以下、SiCと記す。){03-38}面を用いた基板」と記載されているように、炭化珪素基板の結晶学的面指数は、(0001)面又は(000-1)面以外のものが知られている。さらに、乙3に、「n型の4H-SiC(11-20)基板2上にバッファ層4及び活性層6をエピタキシャル成長させ、活性層6の上面にショットキー電極12を形成したショットキーダイオード」が開示され、乙4には、「n型の4H型SiC{03-38}面を用いた基板上にn型の4H型SiCエピタキシャル成長層を形成したショットキーダイオード10」が開示されているように、ショットキーダイオードに用いられる炭化珪素基板の結晶学的面指数として、(0001)面又は(000-1)面以外のものが知られている。
以上のとおり、炭化珪素基板の結晶学的面指数として、(0001)面又は(000-1)面以外のものが知られており、さらに、ショットキーダイオードに用いられる炭化珪素基板の結晶学的面指数として、(0001)面又は(000-1)面以外のものが知られている以上、甲1に記載された、「4H-SiC ジャンクションバリアショットキー(JBS)ダイオードの製造方法」に用いる、結晶学的面指数の記載がない「n^(+)4H-SiC基板」の結晶学的面指数が、必ず(0001)面又は(000-1)面であるとは言えないことは明らかである。すなわち、甲1記載発明の「n^(+)4H-SiC基板」が、(0001)面又は(000-1)面の結晶学的面指数を有するものであるということは、甲1に記載されているに等しい事項と言うことはできず、「n^(+)4H-SiC基板」の結晶学的面指数について、甲1には何ら特定がないとみるのが相当である。
したがって、甲1記載発明の「n^(+)4H-SiC基板」は、いかなる結晶学的面指数を有するものか特定されていないから、相違点1は実質的な相違点である。

(イ)新規性に関する請求人の主張の検討
この点に関連して、請求人は、甲2?4の記載から、「第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、結晶学的面指数が(0001)面又は(000-1)面を有する第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されていること」は周知技術であると言え、このため、「第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、結晶学的面指数が(0001)面又は(000-1)面を有する第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されて」いることは、甲1に「記載されているに等しい事項」と言える旨主張している(請求人審判請求書12ページ15行?13ページ20行)。
しかしながら、(ア)で検討したとおり、炭化珪素基板の結晶学的面指数として、(0001)面又は(000-1)面以外のものが知られており、さらに、ショットキーダイオードに用いられる炭化珪素基板の結晶学的面指数として、(0001)面又は(000-1)面以外のものが知られている以上、たとえ「第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、結晶学的面指数が(0001)面又は(000-1)面を有する第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されていること」が周知技術であるとしても、甲1に記載された、結晶学的面指数の記載がない「n^(+)4H-SiC基板」の結晶学的面指数が、必ず(0001)面又は(000-1)面であるとは言えないから、「第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、結晶学的面指数が(0001)面又は(000-1)面を有する第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されて」いることは、甲1に「記載されいるに等しい事項」ではない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(ウ)進歩性について
請求人は、相違点1に関して、甲1に「記載されているに等しい事項」と主張するにとどまり、実質的に新規性欠如についての主張しかしておらず、進歩性欠如についての具体的主張をしていない(甲1に記載された発明に基づいて、なぜ本件発明1を容易に発明をすることができたと言えるのかについての「論理構成」を何ら示していない)。
しかしながら、請求人は、無効理由1として、本件発明1は、甲1に記載された発明の開示からして、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨も主張し、また、相違点1に係る「第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、結晶学的面指数が(0001)面又は(000-1)面を有する第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されていること」は、甲2?4に記載されているように、周知技術である旨の主張はしているので、進歩性の有無についても検討する。
本件特許の明細書の記載によれば、本件発明1の技術分野、背景技術、解決しようとする課題、課題を解決する手段、及び効果について、次のとおり認められる。
本件発明1は、炭化珪素半導体装置の製造方法に関し、特に炭化珪素基板上に形成したショットキーバリアダイオード(以下SBDと略称する)の製造方法に関するものである(段落【0001】)。SBD製造工程において、高温活性化の後ショットキー電極を形成する前に、犠牲酸化を行う製造工程は知られているが、活性化後に行う犠牲酸化で表面から取り除く量が少なければ漏洩電流の劇的な減少が見られないことが発明者らの実験によって明らかになった(段落【0007】、【0008】)。そこで、本件発明1は、炭化珪素半導体装置において、活性化後に生じる汚染又は損傷等により劣化した炭化珪素表面上のショットキー電極形成による漏洩電流の問題を解決し、高耐圧SBDを効率良く製造するプロセスを提供することを目的として(段落【0009】)、本件発明1の各構成を採用すること、すなわち、「第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、結晶学的面指数が(0001)面又は(000-1)面を有する第1導電型の炭化珪素基板上に堆積され」たものという前提において、「炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程を備え」るという解決手段を採ることにより、漏洩電流の少ないSBD(逆方向電圧を100V印加した時に流れる電流値が10^(-6)A/cm^(2)以下のSBD)の割合が0%より大きくなる(当該割合が100%に近づく)という効果を奏するものである(段落【0018】)。
一方、甲1記載発明の「n^(+)4H-SiC基板」の結晶学的面指数は、前述のとおり、いかなる結晶学的面指数を有するものか特定されていないから、本件発明1の有する上記効果を当然に備えているということはできない。また、甲1には、活性化後に生じる汚染又は損傷等に起因する漏洩電流に関して、記載も示唆もなく、活性化後に行う犠牲酸化で表面から取り除く量を一定値以上とすることで漏洩電流が劇的に減少する点について、記載も示唆もない。
ここで、甲5には、「基板表面に約20?40nmの一過性の酸化膜(1100℃、DRY酸化)を成長させ、成長した酸化膜を希釈フッ酸溶液(DHF)で直ちに取り除く。この工程によって、イオン注入と活性化熱処理で基板表面に生じた結晶不整層、注入損傷層、各種汚染層、炭化層を効果的に除去することができる。」(段落【0023】)との記載がある。しかしながら、本件発明1の「犠牲酸化により形成された」「二酸化珪素層」の除去厚さを下回るものであるし、また、甲5には、「一過性の熱酸化膜をDHFで除去したら基板を充分洗浄し、基板表面に再び約20nm厚さの熱酸化膜(1100℃、WET酸化)9を成長し、更にその上に常温CVDで800nmの酸化膜からなる上部絶縁膜10を堆積する。こうして熱酸化膜9と上部絶縁膜10とで構成されるフィールド絶縁膜8が形成される。従来技術では上記一過性の熱酸化膜を形成することなく、熱酸化膜を形成しているので、酸化した膜中に結晶の汚染や欠陥が取り込まれる。このような結晶の汚染や結果の取り込みは、デバイス性能の低下や不安定の原因になる。」(段落【0024】)と記載されているように、甲5に記載された「一過性の酸化膜」の形成及び除去は、残存させる「熱酸化膜9」に結晶の汚染や欠陥が取り込まれることによるデバイス性能の低下や不安定の原因を解消するためのものであって、活性化後に生じる汚染又は損傷等により劣化した炭化珪素表面上のショットキー電極形成による漏洩電流の問題を解決するためのものではない。甲5には、活性化後に生じる汚染又は損傷等に起因する漏洩電流に関して、記載も示唆もなく、活性化後に行う犠牲酸化で表面から取り除く量を一定値以上とすることで漏洩電流が劇的に減少する点について、記載も示唆もない。
したがって、たとえ相違点1に係る「第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、結晶学的面指数が(0001)面又は(000-1)面を有する第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されていること」が周知技術であるとしても、甲1の記載、及び甲2?5に記載されている周知乃至公知の技術に基づいて、当業者が本件発明1の上記効果を予測することができたものではなく、本件発明1は甲1記載発明と比較した有利な上記効果を有するものであるから、甲1記載発明において、「n^(+)4H-SiC基板」の結晶学的面指数を(0001)面又は(000-1)面とし、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
よって、相違点1は、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものではない。

(エ)進歩性に関する請求人の主張の検討
請求人は、甲1記載発明における「不動態化」は、甲5に記載されているように、「結晶の汚染や欠陥を酸化した膜中に取り込むためのものであり、従来から知られていた周知事項である」旨主張している(審判請求書14ページ4行?10行)。
また、請求人は、「甲第1号証の熱酸化膜は二つの機能を有しており、その一つが、活性化後に生じた汚染又は損傷等により劣化した炭化珪素表面を取り除くことである(別の一つが保護膜としての機能である。)。 仮に保護膜としてのみ機能させることを考えるのであれば、塗布する等して保護膜を形成すればよいが、そのような態様を取っておらず、あえて酸化膜を形成した後、当該酸化膜を除去していることからも、本件発明1(審決注:「甲第1号証」の誤記)では、活性化後に生じた汚染又は損傷等により劣化した炭化珪素表面を取り除くことも目的として熱酸化膜を形成していることが理解される。」と主張している(口頭審理陳述要領書8ページ15行?22行)。
しかしながら、口頭審理陳述要領書における請求人の主張は、証拠に基づいたものでなく、根拠がない。甲1記載発明の「60nmの厚みの熱酸化膜」は、「1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜」を「n^(-)4H-SiCエピタキシャル層」表面に直接形成するのを避けることで、密着性を向上させたり、応力を緩和させたりすること等、様々な目的が考えられるから、甲1記載発明の「60nmの厚みの熱酸化膜」は、活性化後に生じた汚染又は損傷等により劣化した炭化珪素表面を取り除くことを目的としたものとは言えない。
そもそも、請求人の両主張は、活性化後に生じる汚染又は損傷等に起因する漏洩電流に関する主張でなく、活性化後に行う犠牲酸化で表面から取り除く量と漏洩電流の関係についての主張でもないから、本件発明1の効果を予測できたとの主張になっておらず、当を得ていない。
なお、請求人は、審査段階の拒絶理由通知書の記載を引用している(審判請求書14ページ20行?24行)が、本件発明1の効果を予測できたことを立証するための根拠にならない。また、当該記載事項が自明であるとする根拠はない。
よって、請求人の主張は採用できない。

イ 相違点2について
(ア)新規性について
本件発明1の「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程」における「除去する工程」の「除去」対象物は、「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程」により「形成された」「二酸化珪素層」である。したがって、本件発明1の当該「除去する工程」は、当該対象物を「除去」する工程、すなわち、取り除く工程であるから、「犠牲酸化により形成された」「二酸化珪素層」をすべて取り除くものと認められる。
この認定は、本件特許の明細書(段落【0006】及び【0015】)及び図面(図2)の記載とも整合するものである。
一方、甲1記載発明の「60nmの厚みの熱酸化膜と、1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜を形成して不動態化する工程」と、「続いて、緩衝フッ酸(BHF)エッチングによって、不動態化された酸化膜内に開口を形成する工程」によって、「開口」以外の部分に「60nmの厚みの熱酸化膜」と「1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜」からなる「不動態化された酸化膜」が残存することになる。
したがって、甲1記載発明は、本件発明1の「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程」を有しないから、相違点2は実質的な相違点である。

(イ)新規性に関する請求人の主張の検討
請求人は、甲9の「発明の・・・要旨認定は、特段の事情のない限り、・・・特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。」との判例(いわゆる「リパーゼ判決」)、及び甲10の「本判決は、発明の要旨を認定する過程においては、発明にかかわる技術内容を明らかにするために、発明の詳細な説明や図面の記載に目を通すことは必要であるが、しかし、技術内容を理解した上で発明の要旨となる技術的事項を確定する段階においては、特許請求の範囲の記載を越えて、発明の詳細な説明や図面だけに記載されたところの構成要素を付加してはならないとの理論を示したもの」との判例解説、並びに甲11の「特許発明の技術的範囲の確定は、特許侵害訴訟において問題となり、特許法70条1項の規定するところであるが、発明の要旨の認定は、特許出願手続、特許無効審判手続及び審決取消訴訟において問題となり、最高裁平成3年3月8日判決・民集45巻3号123頁(リパーゼ判決)の規律するところである。」との寄稿を示し、本件発明1の「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程」(以下「構成1C」という。)についての審理事項通知書における合議体の認定は、リパーゼ判決に反するものである旨主張している(口頭審理陳述要領書2ページ4行?4ページ17行)。
しかしながら、上記(ア)で述べたとおり、本件発明1の当該構成1Cは、特許請求の範囲の記載に基づいて認定したものであって、当該認定が明細書の発明の詳細な説明の記載や図面の記載と整合していることを確認したものであるから、何らリパーゼ判決に反するものではない。
また、請求人は、上記構成1Cは、「犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層」を部分的に除去する工程とすべて除去する工程の両方を含む記載となっている旨主張している(口頭審理陳述要領書4ページ18行?5ページ17行)。
しかしながら、請求人が主張するような部分的に除去する工程では、構成1Cにおける「除去」対象物である、「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程」により「形成された」「二酸化珪素層」を、取り除ききれていないことになる。また、本件発明1に「部分的に除去する工程」のような明示的な記載があるわけでもなく、本件発明1は、例えば、コンタクトホール形成のための層間絶縁膜のエッチング工程のように、一部のみを取り除く工程であることが明らかな場合でもない。したがって、上記構成1Cは、上記「除去」対象物をすべて取り除く工程と解釈するのが自然である。
さらに、請求人は、「すべて」という文言を組み入れたとしても、上記構成1Cは、「ショットキー電極が形成される予定の場所に位置する二酸化珪素層のすべてを除去する」と解釈すべきである旨主張している(口頭審理陳述要領書6ページ5行?8ページ14行)。
しかしながら、前述したとおり、上記構成1Cには、上記「除去」対象物が「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程」により「形成された」「二酸化珪素層」と明確に特定されているから、「ショットキー電極が形成される予定の場所に位置する二酸化珪素層のすべてを除去する」と解釈する余地はない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(ウ)進歩性について
請求人は、相違点2は存在しない旨主張し、実質的に新規性欠如についての主張しかしておらず、進歩性欠如についての具体的主張をしていない。
しかしながら、請求人は、無効理由1として、本件発明1は、甲1に記載された発明の開示からして、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨も主張しているので、進歩性の有無についても検討する。
甲1記載発明の「60nmの厚みの熱酸化膜と、1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜を形成して不動態化する工程」と、「続いて、緩衝フッ酸(BHF)エッチングによって、不動態化された酸化膜内に開口を形成する工程」によって、「開口」以外の部分に「60nmの厚みの熱酸化膜」と「1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜」からなる「不動態化された酸化膜」が残存することになるのは、前述したとおりである。ここで、当該「不動態化された酸化膜」(passivation oxides)とは、「n^(-)4H-SiCエピタキシャル層表面」を覆う、いわゆるパッシベーション膜(表面保護膜)として機能させるために形成したものである。このことは、例えば、乙2に、半導体装置において、水分や酸素を遮断する必要があるため、半導体装置の最上層には、酸化シリコン等の無機系の絶縁膜からなるパッシベーション膜と呼ばれる表面保護層が設けられる(段落【0003】?【0004】)旨記載されているように、当業者にとって明らかである。なお、請求人も、当該「熱酸化膜」が保護膜としての機能を有するものであることを認めている(口頭審理陳述要領書8ページ15行?17行)。
したがって、甲1記載発明は、「開口」を有する「不動態化された酸化膜」を形成するために、言い換えれば、「n^(-)4H-SiCエピタキシャル層表面」の「ショットキーバリア(SB)接触」が形成されない部分を覆うパッシベーション膜(表面保護膜)を形成するために、「60nmの厚みの熱酸化膜と、1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜を形成して不動態化する工程」と、「続いて、緩衝フッ酸(BHF)エッチングによって、不動態化された酸化膜内に開口を形成する工程」を備えるものである。
そうすると、甲1記載発明において、「開口」以外の「60nmの厚みの熱酸化膜」と「1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜」は、パッシベーション膜(表面保護膜)として機能させるために形成したもの、すなわち、最終的に残存させるものであるから、「60nmの厚みの熱酸化膜」に「開口を形成する工程」に代えて、「60nmの厚みの熱酸化膜」をすべて除去する工程に置き換えることを、明らかに阻害するものである。
よって、相違点2は、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものではない。

ウ 相違点についての判断のまとめ
以上検討したとおり、本件発明1と甲1記載発明には、相違点1及び2が存在するから、本件発明1は甲1記載発明ではなく、また、当該相違点1及び2は、甲2?5に記載された周知の事項等を考慮しても、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものではないから、本件発明1は甲1記載発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1に対して、各々請求項2及び3に記載された技術的限定を付加したものである。
そして、本件発明1は、上において検討したとおり、甲1記載発明ではなく、また、甲2?5に記載された周知の事項等を考慮しても、甲1記載発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1に対して、技術的限定を付加した本件発明2についても、甲1記載発明ではなく、また、甲1記載発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないことは明らかである。
同様に、本件発明1に対して、技術的限定を付加した本件発明3についても、甲1記載発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないことは明らかである。

(5)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1に対して、請求項4に記載された技術的限定を付加したものである。
そして、本件発明1は、上において検討したとおり、甲1記載発明ではなく、また、甲2?5に記載された周知の事項等を考慮しても、甲1記載発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1に対して、技術的限定を付加した本件発明4についても、さらに甲6?7に記載された技術等を勘案したとしても、甲1記載発明及び甲6?7に記載された発明乃至技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないことは明らかである。
なお、「2 無効理由2についての判断」の(5)において後述するように、甲6には、本件発明4の「表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上の二酸化珪素層を除去する工程を、複数回繰り返して行うこと」は記載されていない。
また、甲7に記載されているのは、「ドライ・エッチ」によって「傷んでいる結晶表面」を、「良好なSBD界面あるいはオーミック接触界面」とする技術である。一方、甲1記載発明は、「ショットキーバリア(SB)接触」を形成する部分の「n^(-)4H-SiCエピタキシャル層表面」に「ドライ・エッチ」をしていないので、甲7に記載されているような課題は生じない。したがって、甲1記載発明に甲7に記載された技術を適用する動機付けは存在しない。

(6)無効理由1についてのまとめ
以上検討したとおり、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
本件特許の請求項3に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
本件特許の請求項4に係る発明は、甲1、甲6及び甲7に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2 無効理由2についての判断
(1)甲6に記載された発明
上記第5の6に摘記した事項を総合すると、甲6には次の発明(以下「甲6記載発明」という。)が記載されているものと認められる。

「デバイスの終端にフローティングフィールドリングを有する4H-SiC pn・ショットキーバリア融合ダイオード(MPS)の製造方法であって、
n^(+)4H-SiC基板上に設けられたn型ドリフト層の表面に、MPS及びフローティングフィールドリングのためのp領域を形成するために、Alをイオン注入する工程(15)と、
不純物を活性化するために1550℃でアニールする工程(17)と、
1100℃で1時間ウェット熱酸化してn型ドリフト層の表面に第1熱酸化層を形成し、緩衝フッ酸(BHF)で第1熱酸化層を除去する工程(19)と、
1100℃で5時間ウェット熱酸化してn型ドリフト層の表面に第2熱酸化層を形成する工程(21)と、
表面側ショットキー金属パターン形成のためのリソグラフィを行う工程(25)と、
第2熱酸化層に開口を開ける工程(26)と、
表面側ショットキー金属(Ni)をスパッタ堆積する工程(27)と、
リフトオフにより、開口内に表面側ショットキー金属(Ni)のパターンを形成する工程(28)とを備えたことを特徴とする4H-SiC MPSの製造方法。」

(2)本件発明1と甲6記載発明との対比
ア 甲6記載発明の「表面側ショットキー金属(Ni)のパターン」、「n型ドリフト層」、「フローティングフィールドリングのためのp領域」、「不純物を活性化するために1550℃でアニールする工程(17)」、「4H-SiC pn・ショットキーバリア融合ダイオード(MPS)」は、各々本件発明1の「ショットキー電極」、「第1導電型の低濃度の炭化珪素膜」、「第2導電型の領域」、「高温活性化処理する工程」、「炭化珪素半導体装置」に相当する。
また、甲6記載発明の「デバイスの終端」の「フローティングフィールドリングのためのp領域」が、「表面側ショットキー金属(Ni)のパターン」の終端の領域の下に形成されることは、甲6の図3.1からも、電界緩和のためのp領域はショットキー電極の終端領域の下に設けられるという技術常識からも明らかである。
したがって、甲6記載発明の「n型ドリフト層の表面」に「フローティングフィールドリングのためのp領域を形成するために、Alをイオン注入する工程(15)」と、「不純物を活性化するために1550℃でアニールする工程(17)」とを含む「フローティングフィールドリングを有する4H-SiC pn・ショットキーバリア融合ダイオード(MPS)の製造方法」は、本件発明1の「ショットキー電極の終端領域の下の第1導電型の低濃度の炭化珪素膜に、イオン注入により第2導電型の領域を形成し高温活性化処理する工程を含む炭化珪素半導体装置の製造方法」に相当する。

イ 甲6記載発明の「n^(+)4H-SiC基板」は、本件発明1の「第1導電型の炭化珪素基板」に相当する。
したがって、甲6記載発明の「n型ドリフト層」が「n^(+)4H-SiC基板上に設けられ」ている点と、本件発明1の「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、結晶学的面指数が(0001)面又は(000-1)面を有する第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されて」いる点とは、「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されて」いる点で一致する。

ウ 甲6記載発明の「不純物を活性化するために1550℃でアニールする工程(17)」、「表面側ショットキー金属(Ni)をスパッタ堆積する工程(27)と、 リフトオフにより、開口内に表面側ショットキー金属(Ni)のパターンを形成する工程(28)」は、各々本件発明1の「上記高温活性化処理する工程」、「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜上へのショットキー電極形成」工程に相当する。
また、甲6記載発明の「1100℃で1時間ウェット熱酸化してn型ドリフト層の表面に第1熱酸化層を形成し、緩衝フッ酸(BHF)で第1熱酸化層を除去する工程(19)」と、本件発明1の「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程」とは、「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された二酸化珪素層を除去する工程」である点で一致する。
したがって、甲6記載発明の「不純物を活性化するために1550℃でアニールする工程(17)と、 1100℃で1時間ウェット熱酸化してn型ドリフト層の表面に第1熱酸化層を形成し、緩衝フッ酸(BHF)で第1熱酸化層を除去する工程(19)と、 1100℃で5時間ウェット熱酸化してn型ドリフト層の表面に第2熱酸化層を形成する工程(21)と、 表面側ショットキー金属パターン形成のためのリソグラフィを行う工程(25)と、 第2熱酸化層に開口を開ける工程(26)と、 表面側ショットキー金属(Ni)をスパッタ堆積する工程(27)と、 リフトオフにより、開口に表面側ショットキー金属(Ni)のパターンを形成する工程(28)とを備えたこと」と、本件発明1の「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜上へのショットキー電極形成に先立って、上記高温活性化処理する工程後に、上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程を備えたこと」とは、「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜上へのショットキー電極形成に先立って、上記高温活性化処理する工程後に、上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された二酸化珪素層を除去する工程を備えたこと」である点で一致する。

エ したがって、本件発明1と甲6記載発明とは、
「ショットキー電極の終端領域の下の第1導電型の低濃度の炭化珪素膜に、イオン注入により第2導電型の領域を形成し高温活性化処理する工程を含む炭化珪素半導体装置の製造方法において、
上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されており、
上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜上へのショットキー電極形成に先立って、上記高温活性化処理する工程後に、上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された二酸化珪素層を除去する工程を備えたことを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。」
である点で一致し、次の2点で相違する。

(相違点3)
本件発明1は、「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、結晶学的面指数が(0001)面又は(000-1)面を有する第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されて」いるのに対し、甲6記載発明は、「上記第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されて」いるものの、本件発明1の「第1導電型の炭化珪素基板」に対応する「n^(+)4H-SiC基板」の結晶学的面指数が特定されていない点。

(相違点4)
本件発明1は、「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程」を備えているのに対し、甲6記載発明は、「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された二酸化珪素層を除去する工程」を備えているものの、本件発明1の「二酸化珪素層」に対応する「第1熱酸化層」の厚さが不明である点。

(3)相違点についての判断
ア 相違点3について
(ア)新規性について
上記「1 無効理由1についての判断」における(3)ア(ア)で検討したのと同様に、炭化珪素基板の結晶学的面指数として、(0001)面又は(000-1)面以外のものが知られており、さらに、ショットキーダイオードに用いられる炭化珪素基板の結晶学的面指数として、(0001)面又は(000-1)面以外のものが知られている以上、甲6に記載された、「4H-SiC pn・ショットキーバリア融合ダイオード(MPS)の製造方法」に用いる、結晶学的面指数の記載がない「n^(+)4H-SiC基板」の結晶学的面指数が、必ず(0001)面又は(000-1)面とは言えないことは明らかである。すなわち、甲6記載発明の「n^(+)4H-SiC基板」が、(0001)面又は(000-1)面の結晶学的面指数を有するものであるということは、甲6に記載されているに等しい事項と言うことはできず、「n^(+)4H-SiC基板」の結晶学的面指数について、甲6には何ら特定がないとみるのが相当である。
したがって、甲6記載発明の「n^(+)4H-SiC基板」は、いかなる結晶学的面指数を有するものか特定されていないから、相違点3は実質的な相違点である。

(イ)進歩性について
甲6記載発明の「n^(+)4H-SiC基板」の結晶学的面指数は、前述のとおり、いかなる結晶学的面指数を有するものか特定されていないから、本件発明1の有する効果を当然に備えているということはできない。また、甲6には、活性化後に生じる汚染又は損傷等に起因する漏洩電流に関して、記載も示唆もなく、活性化後に行う犠牲酸化で表面から取り除く量を一定値以上とすることで漏洩電流が劇的に減少する点について、記載も示唆もない。
したがって、上記「1 無効理由1についての判断」における(3)ア(ウ)で検討したのと同様に、たとえ相違点1に係る「第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、結晶学的面指数が(0001)面又は(000-1)面を有する第1導電型の炭化珪素基板上に堆積されていること」が周知技術であるとしても、本件発明1は、甲6の記載、及び甲2?5に記載されている周知乃至公知の技術から見いだせない有利な効果を有するものであるから、甲6記載発明において、「n^(+)4H-SiC基板」の結晶学的面指数を(0001)面又は(000-1)面とし、上記相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
よって、相違点3は、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものではない。

イ 相違点4について
(ア)新規性について
甲6記載発明の「第1熱酸化層」は、「1100℃で1時間ウェット熱酸化してn型ドリフト層の表面に」形成したものであるが、当該「第1熱酸化層」の厚さについて検討する。
甲4には、「図3に見られるようにSiC上のSiO_(2) 膜の成長速度には結晶方位依存性があり、(0001)シリコン面(以下Si面と記す)は(000-1)炭素面(以下C面と記す)と比較して成長速度が非常に小さいという特徴がある。」(段落【0005】)、「発明者は・・・パイロジェニック酸化で水素と酸素との流量比を変えて、水蒸気の分圧を変化させた実験をおこなったところ、シリコンとはまったく異なる特性になることを見出した。・・・試料としては、1×10^(16)cm^(-3)のキャリア濃度のAlドープ、面方位(0001)Si面のp型SiCを用いた。熱酸化条件は、1100℃、5時間である。図1は、水蒸気の分圧とSiO_(2) 膜厚との関係を示す図である。・・・この図からわかるように、水蒸気の分圧が0.2前後のところで、SiO_(2) 膜厚はピークを示している。・・・水蒸気の分圧が0.2前後の条件では、実験した最大水蒸気分圧0.95の場合と比較して1.5倍以上、水蒸気100%の場合と比較すれば、ほぼ2倍にあたる厚い酸化膜が得られることになる。そして水蒸気分圧が0.1?0.9の範囲では、水蒸気分圧0.95の場合と比較して、20%以上厚いSiO_(2) 膜が得られ、特に、水蒸気分圧が0.1?0.4の範囲では、50%以上厚いSiO_(2) 膜が得られることがわかる。」(段落【0017】?【0019】)と記載されている。すなわち、甲4には、SiCの熱酸化速度は、結晶方位依存性があること、及び熱酸化雰囲気中の水蒸気の分圧にも依存することが記載されている。
ここで、甲6記載発明の「n^(+)4H-SiC基板」は、いかなる結晶学的面指数を有するものか特定されていないから、「n型ドリフト層」の結晶学的面指数も不明である。また、甲6には、「ウェット熱酸化」の条件は、「1100℃で1時間」であることしか記載されておらず、熱酸化雰囲気中の水蒸気の分圧が特定されていない。よって、甲4に記載された事項を踏まえると、甲6記載発明の「第1熱酸化層」の具体的な厚さを特定することはできない。
したがって、本件発明1の「二酸化珪素層」に対応する甲6記載発明の「第1熱酸化層」の厚さは不明であるから、甲6記載発明は、本件発明1のように、「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程」を備えているとは言えず、相違点4は実質的な相違点である。
なお、請求人は、甲4及び甲8の記載から、1100℃で1時間ウェット熱酸化した場合、約22nmの熱酸化膜が形成されると推認できる旨、すなわち、甲6記載発明における「第1熱酸化膜」の厚さは約22nmである旨主張している(審判請求書30ページ10行?32ページ7行)。甲6記載発明の「第1熱酸化層」の具体的な厚さを特定できないことは、前述したとおりであるが、仮に、請求人の主張のように、当該厚さを約22nmと認定できたとしても、甲6記載発明の「第1熱酸化層」は、本件発明1のように、「40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層」ではないことになるから、やはり、相違点4は実質的な相違点である。

(イ)新規性に関する請求人の主張の検討
請求人は、甲4及び甲8の記載から、「1100℃で1時間熱酸化し、形成された熱酸化膜を除去した後、1100℃で5時間熱酸化した場合には、約71nm(約22nm+約49nm)の熱酸化膜が形成されたものと強く推認することができる。」と主張し、したがって、甲6には、「第1導電型(n型)の低濃度の炭化珪素膜(Nエピタキシャル層)上へのショットキー電極形成に先立って、高温活性化処理する工程後に、上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された約71nmの二酸化珪素層を除去することが、実質的に開示されていると認定することができる。」と主張している(審判請求書30ページ10行?32ページ12行)。
すなわち、甲6記載発明の「1100℃で1時間ウェット熱酸化してn型ドリフト層の表面に第1熱酸化層を形成し、緩衝フッ酸(BHF)で第1熱酸化層を除去する工程(19)」と、「1100℃で5時間ウェット熱酸化してn型ドリフト層の表面に第2熱酸化層を形成する工程(21)と、・・・第2熱酸化層に開口を開ける工程(26)」とを合わせたものが、本件発明1の「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程」に相当する旨主張している。
しかしながら、甲6記載発明の「第1熱酸化層」の具体的な厚さを特定できないことは上記(ア)で検討したとおりであり、同様に、「第2熱酸化層」の具体的な厚さも特定することはできない。
また、上記「1 無効理由1についての判断」の(3)イ(ア)及び(イ)において検討したのと同様に、甲6記載発明の「1100℃で5時間ウェット熱酸化してn型ドリフト層の表面に第2熱酸化層を形成する工程(21)と、・・・第2熱酸化層に開口を開ける工程(26)」は、「開口」以外の部分に「第2熱酸化層」が残存することになるから、本件発明1の「上記炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された・・・二酸化珪素層を除去する工程」に相当するものでもない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(ウ)進歩性について
請求人は、相違点4に関して、当初は進歩性欠如についての具体的主張をしていなかった。
しかしながら、請求人は、無効理由2として、本件発明1は、甲6に記載された発明の開示からして、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨主張しているし、また、口頭審理陳述要領書、及び口頭審理において、甲1に記載された周知技術を考慮すれば、本件発明1は、甲6に記載された発明の開示からして、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張しているので、進歩性の有無についても検討する。

最初に、甲6記載発明における「第1熱酸化層」の厚さを、本件発明1のような厚さにすることが容易であるか否かについて検討する。
甲6記載発明における「1100℃で1時間ウェット熱酸化してn型ドリフト層の表面に第1熱酸化層を形成し、緩衝フッ酸(BHF)で第1熱酸化層を除去する工程(19)」について、甲6には、「工程(19)」を行う技術上の意義に関する記載はない。
ここで、例えば甲5を参照すれば、当該「工程(19)」が、イオン注入と活性化熱処理で基板表面に生じた結晶不整層、注入損傷層、各種汚染層、炭化層等を除去するための工程であることは、理解し得る。
しかしながら、上記「1 無効理由1についての判断」の(3)ア(ウ)において検討したとおり、甲5に記載された「一過性の酸化膜」の形成及び除去は、本件発明1の「犠牲酸化により形成された」「二酸化珪素層」の除去厚さを下回るものであるし、残存させる「熱酸化膜9」に結晶の汚染や欠陥が取り込まれることによるデバイス性能の低下や不安定の原因を解消するためのものであって、活性化後に生じる汚染又は損傷等により劣化した炭化珪素表面上のショットキー電極形成による漏洩電流の問題を解決するためのものではない。特定の結晶学的面指数において、活性化後に行う犠牲酸化で表面から取り除く量を一定値以上とすることで漏洩電流が劇的に減少する点は、周知の事項ではない。
よって、たとえ甲5に記載されている事項が周知の事項であるとしても、甲6記載発明において、「第1熱酸化層」の厚さを、本件発明1のように「40nm以上(ただし、50nm未満を除く)」とすることの動機付けはない。
一方、上記「1 無効理由1についての判断」の(3)ア(ウ)において検討したとおり、本件発明1は、「第1導電型の低濃度の炭化珪素膜は、結晶学的面指数が(0001)面又は(000-1)面を有する第1導電型の炭化珪素基板上に堆積され」たものという前提において、「炭化珪素膜表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程を備え」ることにより、甲6の記載、及び甲2?5に記載されている周知乃至公知の技術から見いだせない有利な効果を有するものである。
したがって、甲6記載発明において、「第1熱酸化層」の厚さを、本件発明1のように「40nm以上(ただし、50nm未満を除く)」とし、上記相違点4に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

次に、甲6記載発明における「第2熱酸化層に開口を開ける工程(26)」を、本件発明1のように、「犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程」とすることが容易であるか否かについて検討する。
上記「1 無効理由1についての判断」の(3)イ(ウ)において検討したのと同様に、甲6記載発明は、「開口」を有する「第2熱酸化層」を形成するために、言い換えれば、「n型ドリフト層の表面」の「表面側ショットキー金属(Ni)のパターン」が形成されない部分を覆う「第2熱酸化層」からなるパッシベーション膜(表面保護膜)を形成するために、「1100℃で5時間ウェット熱酸化してn型ドリフト層の表面に第2熱酸化層を形成する工程(21)」と、「第2熱酸化層に開口を開ける工程(26)」を備えるものである。
そうすると、甲6記載発明において、「開口」以外の「第2熱酸化層」は、最終的に残存させるために形成したものであるから、「第2熱酸化層に開口を開ける工程(26)」に代えて、「第2熱酸化層」をすべて除去する工程に置き換えることを、明らかに阻害するものである。
よって、甲6記載発明における「第2熱酸化層」の厚さの検討をするまでもなく、甲6記載発明における「第2熱酸化層に開口を開ける工程(26)」を、本件発明1のように、「犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程」とし、上記相違点4に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

以上のとおり、相違点4は、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものではない。

(エ)進歩性に関する請求人の主張の検討
請求人は、「甲第1号証では現に『60nmの厚みの熱酸化膜』が開示されているのであるから、甲第6号証において『60nmの厚みの熱酸化膜』を採用することは、当業者であれば容易に思いつく。(このように甲第6号証に甲第1号証を組み合わせることについては、今回の口頭審理陳述要領書において主張しておく。)」と主張し(口頭審理陳述要領書12ページ16行?19行)、口頭審理において、当該主張は、「『60nmの厚みの熱酸化膜』という周知技術が存在する事実を追加的に主張し、その事実を立証する証拠(周知例)として甲第1号証を例示したものである。」と釈明するとともに、「甲第6号証を主引用発明とし、甲第1号証を副引用発明とした本件発明1の進歩性に関する職権審理を希望する。」とも主張している(口頭審理調書)。
しかしながら、上記「1 無効理由1についての判断」の(3)ア(ウ)において検討したとおり、甲1には、「開口」を有するパッシベーション膜(表面保護膜)を形成する工程として、「60nmの厚みの熱酸化膜と、1.0μmの厚みのLPCVD酸化膜を形成して不動態化する工程」と、「続いて、緩衝フッ酸(BHF)エッチングによって、不動態化された酸化膜内に開口を形成する工程」が記載されているのであるから、パッシベーション膜を形成するにあたり、その一部となる「熱酸化膜」の厚さとして、「60nm」という値が記載されているにすぎない。
一方、上記(ウ)で検討したとおり、甲6記載発明の「第1熱酸化層」は、イオン注入と活性化熱処理で基板表面に生じた結晶不整層、注入損傷層、各種汚染層、炭化層等を除去するために設けられたものと理解できる。
したがって、甲1の「60nmの厚みの熱酸化膜」と、甲6記載発明の「第1熱酸化層」とは、その技術上の意義が異なるから、甲1に記載された事項が公知乃至周知であるとしても、甲6記載発明の「第1熱酸化層」の厚さを変更する動機付けにならない。
一方、甲1の「60nmの厚みの熱酸化膜」と、甲6記載発明の「第2熱酸化層」とは、パッシベーション膜を構成する「熱酸化膜」という点で、機能が共通している。したがって、甲1に記載された公知乃至周知の事項を甲6記載発明に適用し、「第2熱酸化層」の厚さを「60nm」とすることは、当業者が容易になし得たことと言えるものの、上記(ウ)で検討したとおり、甲6記載発明の「第2熱酸化層に開口を開ける工程(26)」は、「第2熱酸化層」をすべて除去するものではないから、本件発明1の「犠牲酸化により形成された40nm以上(ただし、50nm未満を除く)の二酸化珪素層を除去する工程」が導き出せたことにはならない。
よって、請求人の主張は採用できない。

ウ 相違点についての判断のまとめ
以上検討したとおり、本件発明1と甲6記載発明には、相違点3及び4が存在するから、本件発明1は甲6記載発明ではなく、また、当該相違点3及び4は、甲1?5に記載された周知の事項等を考慮しても、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものではないから、本件発明1は甲6記載発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1に対して、各々請求項2及び3に記載された技術的限定を付加したものである。
そして、本件発明1は、上において検討したとおり、甲6記載発明ではなく、また、甲1?5に記載された周知の事項等を考慮しても、甲6記載発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1に対して、技術的限定を付加した本件発明2についても、甲6記載発明ではなく、また、甲6記載発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないことは明らかである。
同様に、本件発明1に対して、技術的限定を付加した本件発明3についても、甲6記載発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないことは明らかである。

(5)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1に対して、請求項4に記載された技術的限定を付加したものである。
そして、本件発明1は、上において検討したとおり、甲6記載発明ではなく、また、甲1?5に記載された周知の事項等を考慮しても、甲6記載発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1に対して、技術的限定を付加した本件発明4についても、甲7に記載された技術等を勘案したとしても、甲6記載発明及び甲7に記載された発明乃至技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないことは明らかである。
なお、上記(3)イ(イ)で検討したのと同様に、甲6記載発明の「1100℃で5時間ウェット熱酸化してn型ドリフト層の表面に第2熱酸化層を形成する工程(21)と、・・・第2熱酸化層に開口を開ける工程(26)」は、本件発明4の「表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された・・・二酸化珪素層を除去する工程」に相当するものではないから、甲6には、本件発明4のような、「表面を犠牲酸化する工程及び犠牲酸化により形成された40nm以上の二酸化珪素層を除去する工程を、複数回繰り返して行うこと」は記載されていない。

(6)無効理由2についてのまとめ
以上検討したとおり、本件特許の請求項1及び2に係る発明は、甲6に記載された発明ではなく、また、甲6に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
本件特許の請求項3に係る発明は、甲6に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
本件特許の請求項4に係る発明は、甲6及び甲7に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び提出した証拠方法によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る発明の特許を無効とすることができない。また、その他本件特許を無効とすべき理由も見いだせない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-05 
結審通知日 2013-09-09 
審決日 2013-09-30 
出願番号 特願2006-227650(P2006-227650)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (H01L)
P 1 113・ 113- Y (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青鹿 喜芳  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 早川 朋一
恩田 春香
登録日 2012-07-27 
登録番号 特許第5046083号(P5046083)
発明の名称 炭化珪素半導体装置の製造方法  
代理人 高田 泰彦  
代理人 宮嶋 学  
代理人 柏 延之  
代理人 大野 浩之  

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