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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F |
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管理番号 | 1293475 |
審判番号 | 不服2013-10649 |
総通号数 | 180 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-12-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-06-06 |
確定日 | 2014-10-28 |
事件の表示 | 特願2012- 21276「高電流薄型インダクタの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月28日出願公開、特開2012-124513〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成8年7月17日(パリ条約に基づく優先権主張 平成7年7月18日 米国(US))に出願した特願平8-206542号の一部を平成21年7月27日に新たな特許出願とした特願2009-174713号の一部を平成23年1月11日にさらに新たな特許出願とした特願2011-3329号の一部を平成24年2月2日にさらにまた新たな特許出願としたものであって、平成24年6月28日付け拒絶理由通知に対する応答時、平成25年1月10日付けで手続補正がなされたが、同年1月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月6日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされたものである。 なおその後、平成25年9月27日付けで前置報告書を利用した審尋がなされたが、請求人からは回答がなされなかった。 2.補正の適否・本願発明 平成25年6月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項10については、本件補正前には、 「【請求項10】 高電流薄型インダクタであって、 第1導電性リード(16,98)と第2導電性リード(18,100)に接続された導電性のコイル(24,90)と、 絶縁処理された粉末磁性鉄材と乾燥樹脂とから成る乾燥粉末混合物を2.54cm^(2)(1in)当りほぼ15?20tnの力を用いて前記導電性コイルの周りに圧縮することによって形成されたインダクタ本体(14,88)とから成り、 該乾燥粉末混合物は、前記導電性コイル及び第1及び第2導電性リードに接触しており、もって、前記インダクタ本体の絶縁処理された粉末磁性鉄材には実質的に空隙がなく、前記第1導電性リード及び第2導電性リードは前記圧縮されたインダクタ本体の外部に突出しており、該絶縁処理された粉末磁性鉄材が前記導電性コイルを遮蔽する構成とされていることを特徴とする高電流薄型インダクタ。」 とあったものが、 「【請求項10】 高電流薄型インダクタであって、 第1導電性リード(16,98)と第2導電性リード(18,100)に接続された導電性のコイル(24,90)と、 絶縁処理された粉末磁性鉄材と乾燥樹脂とから成る乾燥粉末混合物を2.54cm平方(1in平方)当りほぼ15?20tnの力を用いて前記導電性コイルの周りに圧縮することによって形成されたインダクタ本体(14,88)とから成り、 該乾燥粉末混合物は、前記導電性コイル及び第1及び第2導電性リードに接触しており、もって、前記インダクタ本体の絶縁処理された粉末磁性鉄材には実質的に空隙がなく、前記第1導電性リード及び第2導電性リードは前記圧縮されたインダクタ本体の外部に突出しており、該絶縁処理された粉末磁性鉄材が前記導電性コイルを遮蔽する構成とされていることを特徴とする高電流薄型インダクタ。」 と補正された。 上記補正は、補正前の「2.54cm^(2)(1in)」なる記載を、「2.54cm平方(1in平方)」と正しい記載の表現に改めたものであり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第3号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当するといえる。 よって、本願の請求項10に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年6月6日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の上記請求項10に記載されたとおりのものである。 3.引用列 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開3-169002号公報(以下、「引用例」という。)には、「インダクタ」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。 (1)「2.特許請求の範囲 1.磁性体内を通過する導体の両端部に、所望のインダクタンス或はインピーダンス値を得るインダクタに於て、前記磁性体は金属磁性粉末を50vol%以上含有することを特徴とするインダクタ。 2.請求項1記載のインダクタに於て、前記磁性体を前記金属磁性粉末と電気絶縁性粉末結合剤とし、両端に電極を電気的接続した導体が前記各電極の一部を除き前記磁性体の内部を通過する様に前記磁性体を充填一体成形したことを特徴とする面実装インダクタ。 ・・・・・(中 略)・・・・・ 5.請求項2又は3記載のインダクタに於て、前記結合剤を熱硬化性樹脂とし、前記金属磁性粉末と混合加圧成形中又はその後、加熱成形されたインダクタ。 ・・・・・(中 略)・・・・・ 8.請求項1乃至3記載のインダクタに於て、前記金属磁性粉末を電気絶縁被膜を施した粉末としたインダクタ。 9.請求項1乃至8記載のインダクタに於て、前記導体がコイル形に周回したものであるインダクタ。」(1頁左下欄6行?2頁左上欄7行) (2)「それ故に,本発明の課題は,大電流に耐え得りかつ工程数の低減をはかり容易に製造可能とした安価な面実装型のインダクタを提供することにある。 ・・・・・(中 略)・・・・・ [作用] 従来の巻枠などに巻く操作,各層毎の印刷など,複雑な手間が省け,構成も単純であり.しかも磁性金属特有の高飽和磁束密度が高キュリー温度を有する磁性粉末を50vol%以上充填することで磁性体の飽和磁束密度が高く従来に比べ直流重畳耐量の大きくかつ高温に耐え得り,ノイズシールドに十分効果的な実効透磁率をもつ閉磁路型で,更に金属磁性粉末を粉末化することで渦電流損失や発熱が抑えられ高周波帯域でも十分なインダクタンスが得られ,両端面の電極に所望のインダクタンス或はインピーダンスを得る高密度面実装可能であり,少工程,小型,広帯域対応の面実装型のインダクタが得られる。」(2頁右下欄5行?3頁左上欄8行) (3)「<請求項2の実施例> 第1図に本請求項2記載の発明の第1の実施例による面実装インダクタの構成断面図,第2図に同インダクタの製造工程模式図を示す。また第19図に一例としてFeAlSi合金に於ける充填率と比透磁率との関係を示す。 ・・・・・(中 略)・・・・・ 第1の実施例による面実装インダクタは,両端に電極1aと1bを電気的に接続した導体2を成形用金型3に設置し,その後金属磁性粉末と粉末結合剤とからなる磁性体4を射出またはプレスなどの方法で金属磁性粉末の充填率が50vol%以上になる様に充填成形固形化された後,前記金型を外して得ることができる。」(3頁左上欄12行?同頁右上欄7行) (4)「<請求項5の実施例> 請求項5の実施例によるインダクタは,請求項2又は3の実施例のインダクタに於て,請求項5の記載事項に基づき,前記結合剤を熱硬化性樹脂とし金属磁性粉末と混練を行いこれを加圧充填成形しながら,または成形後に加熱により固形化して得られる。 本実施例によるインダクタは.熱的信頼性に高く表面実装部品自動ハンダフロー等に適する。」(4頁右上欄8?16行) (5)「<請求項8の実施例> 第7図に請求項8記載の発明の一実施例によるインダクタの磁性体拡大模式図を示す。 本実施例によるインダクタは,請求項2又は3のインダクタに於て、磁性体を金属磁性粉末Aに酸化などの化学的手法などにより電気絶縁被膜Bを形成させた粉末と電気絶縁粉末結合剤Cを用い第7図の様に構威されている。 この様にして得られたインダクタは,金属磁性粉末間の絶縁を電気絶縁粉末結合剤のみでなく前記粉末被膜でも行っているので前記結合剤は粉末同志を結合させるてために必要な少量で済み,より一層金属磁性粉末の充填率が増加し,磁性体全体での実効透磁率が増加するため.よりインダクション係数の高いインダクタが得られる。」(4頁左下欄7行?同頁右下欄1行) (6)「<請求項9の実施例> 第8図に請求項9記載の発明の一実施例によるインダクタの構成断面図を示す。 本実施例によるインダクタは,請求項2又は3の実施例に於て、導体部を第9図に示す様にソレノイド状周回整列巻構成としてある。 この様にして得られたインダクタは,第10図に示す様な閉磁路型インダクタとなり漏洩磁束が問題とならない高インダクタンスのインダクタが得られ,またソレノイド状整列巻構造をとることで電極と巻線との間隔が第17図のフェライト積層印刷型インダクタよりも開くため巻線と電極間による寄生容量が比較して小さくなり自己共振周波数がより高くなることで,広帯域で一定のインダクタンスをもつインダクタが得られる。 本実施例では巻線構成をソレノイド状としたが,周回整列巻であればコイルの断面は四角でも三角でも楕円でもよく円である必要はない。この時も本実施の効果は問題なく得られる。」(4頁右下欄2?20行) ・上記引用例に記載の「インダクタ」は、上記(1)の特許請求の範囲1?2、上記(3)の記載事項、及び第1図、第2図によれば、両端に電極1a,1bを電気的に接続した導体2が電極1a,1bの一部を除き金属磁性粉末と電気絶縁性粉末結合剤とからなる磁性体4の内部を通過し、かつ、金属磁性粉末の充填率が50vol%以上となるように磁性体4を成形用金型を用いて充填一体成形してなる面実装インダクタに関するものである。 ・上記(1)の特許請求の範囲5、上記(3)(4)の記載事項によれば、電気絶縁性粉末結合剤は熱硬化性樹脂であり、当該樹脂と例えばFeAlSi合金の金属磁性粉末とを混合した混合物を、充填一体成形として例えばプレスにより加圧充填成形するようにしたものである。 ・上記(1)の特許請求の範囲8、上記(5)の記載事項によれば、金属磁性粉末は、電気絶縁被膜を施した粉末である。 ・上記(1)の特許請求の範囲9、上記(6)の記載事項、及び第8図によれば、導体2は、コイル形(例えばソレノイド状)に周回したものである。 ・上記(1)の特許請求の範囲2の記載事項、及び第1図、第2図によれば、導体2の両端に接続された電極1a,1bは、少なくともその一部が磁性体4の外部に突出しており、導体2と接続される側の面が磁性体4に接している。 ・そして、上記(2)の記載事項によれば、この面実装インダクタは、磁性体の飽和磁束密度が高く、直流重畳耐量が大きく大電流に耐え得り、ノイズシールドに十分効果的な閉磁路型で、小型の面実装型インダクタである。 したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「両端にそれぞれ電極を電気的に接続した、コイル形に周回した導体と、 電気絶縁被膜を施した例えばFeAlSi合金の金属磁性粉末と熱硬化性樹脂の電気絶縁性粉末結合剤との混合物からなり、前記両端の電極の一部を除き前記導体がその内部を通過し、かつ、前記金属磁性粉末の充填率が50vol%以上となるように成形用金型を用いて例えばプレスにより加圧充填成形した磁性体とからなり、 前記導体の両端にそれぞれ接続された電極は、少なくともその一部が前記磁性体の外部に突出しており、前記導体と接続される側の面が前記磁性体に接してなる、 磁性体の飽和磁束密度が高く、直流重畳耐量が大きく大電流に耐え得り、ノイズシールドに十分効果的な閉磁路型で、小型の面実装型インダクタ。」 4.対比 そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、 (1)引用発明における、導体の両端にそれぞれ電気的に接続された「電極」、「コイル形に周回した導体」は、それぞれ本願発明における「第1導電性リード」及び「第2導電性リード」、「導電性のコイル」に相当し、 引用発明における「両端にそれぞれ電極を電気的に接続した、コイル形に周回した導体と」によれば、本願発明と引用発明とは、「第1導電性リードと第2導電性リードに接続された導電性のコイルと」を備えるものである点で一致する。 (2)引用発明における「電気絶縁被膜を施した例えばFeAlSi合金の金属磁性粉末と熱硬化性樹脂の電気絶縁性粉末結合剤との混合物からなり、前記両端の電極の一部を除き前記導体がその内部を通過し、かつ、前記金属磁性粉末の充填率が50vol%以上となるように成形用金型を用いて例えばプレスにより加圧充填成形した磁性体とからなり」によれば、 (a)引用発明の「電気絶縁被膜を施した例えばFeAlSi合金の金属磁性粉末」と本願発明における「絶縁処理された粉末磁性鉄材」とは、後述の相違点を除いて「絶縁処理された鉄系の粉末磁性材」である点で共通し、 (b)引用発明の「熱硬化性樹脂の電気絶縁性粉末結合剤」と本願発明における「乾燥樹脂」とは、後述の一応の相違点を除いて「樹脂」である点で共通し、 (c)引用発明の「混合物」と本願発明における「乾燥粉末混合物」とは、後述の一応の相違点を除いて「混合物」である点で共通し、 (d)また、引用発明における「・・混合物からなり、・・・・前記導体がその内部を通過し、かつ、前記金属磁性粉末の充填率が50vol%以上となるように成形用金型を用いてプレスなどにより加圧充填成形した磁性体・・」というのは、当該混合物を導体の回りに所定の力で圧縮成形して磁性体を形成しているに他ならず、 (e)そして、引用発明における「磁性体」は、本願発明における「インダクタ本体」に相当するといえるから、 本願発明と引用発明とは、後述の相違点はあるものの「絶縁処理された鉄系の粉末磁性材と樹脂とから成る混合物を所定の力を用いて前記導電性コイルの周りに圧縮することによって形成されたインダクタ本体とから成り」の点で共通するということができる。 (3)引用発明における「・・混合物からなり、前記両端の電極の一部を除き前記導体がその内部を通過し、かつ、前記金属磁性粉末の充填率が50vol%以上となるように成形用金型を用いて例えばプレスにより加圧充填成形した磁性体とからなり、前記導体の両端にそれぞれ接続された電極は、少なくともその一部が前記磁性体の外部に突出しており、前記導体と接続される側の面が前記磁性体に接してなる・・」によれば、 導体及びその両端にそれぞれ接続された電極の一部は、磁性体つまり加圧充填成形された混合物と接触していることは明らかであるから、 本願発明と引用発明とは、「該混合物は、前記導電性コイル及び第1及び第2導電性リードに接触しており、前記第1導電性リード及び第2導電性リードは前記圧縮されたインダクタ本体の外部に突出しており」の点で共通するといえる。 (4)そして、引用発明における「インダクタ」は、本願発明における「インダクタ」に相当し、 引用発明における「磁性体の飽和磁束密度が高く、直流重畳耐量が大きく大電流に耐え得り、ノイズシールドに十分効果的な閉磁路型で、小型の面実装型インダクタ」によれば、 (a)当該面実装型インダクタは大電流(高電流)に耐え得るものであり、 (b)「小型の面実装型」であるから、鉄心に巻線(コイル)を巻装してなる従来のインダクタ(本願明細書の段落【0002】や、引用例の2頁右上欄3?8行、及び第16図を参照)に比べて「薄型」といえるものであることも自明である。 (c)また、「ノイズシールドに十分効果的な閉磁路型」であることから、磁性体に含まれる電気絶縁被膜を施した金属磁性粉末によって当該磁性体内部の導体をシールド(遮蔽)する構成であるといえる。 したがって、本願発明と引用発明とは、「該絶縁処理された鉄系の粉末磁性材が前記導電性コイルを遮蔽する構成とされている」「高電流薄型インダクタ」である点で共通するということができる。 よって、本願発明と引用発明とは、 「高電流薄型インダクタであって、 第1導電性リードと第2導電性リードに接続された導電性のコイルと、 絶縁処理された鉄系の粉末磁性材と樹脂とから成る混合物を所定の力を用いて前記導電性コイルの周りに圧縮することによって形成されたインダクタ本体とから成り、 該混合物は、前記導電性コイル及び第1及び第2導電性リードに接触しており、前記第1導電性リード及び第2導電性リードは前記圧縮されたインダクタ本体の外部に突出しており、該絶縁処理された鉄系の粉末磁性材が前記導電性コイルを遮蔽する構成とされていることを特徴とする高電流薄型インダクタ。」 である点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 絶縁処理された鉄系の粉末磁性材について、本願発明では、単に「鉄」材と特定するのに対し、引用発明では、例えば「FeAlSi合金」材である点。 [相違点2] 混合物、及びそれに含まれる樹脂について、本願発明では、それぞれ「乾燥粉末」混合物、「乾燥」樹脂である旨特定するのに対し、引用発明では、そのような明確な特定を有してない点。 [相違点3] 混合物を導電性コイルの周りに圧縮する際の所定の力について、本願発明では、「2.54cm平方(1in平方)当りほぼ15?20tn」と特定するのに対し、引用発明では、そのような特定を有していない点。 [相違点4] 本願発明では、「前記インダクタ本体の絶縁処理された粉末磁性鉄材には実質的に空隙がなく」と特定するのに対し、引用発明では、そのような明確な特定を有してない点。 5.判断 上記相違点について検討する。 [相違点1]について 引用発明における「FeAlSi合金」(いわゆるセンダスト)は、鉄合金である。 したがって、本願発明でいう「鉄」材が、純粋な鉄のみでなく、鉄合金についても含むとすれば、この相違点1は実質的に相違点とはならない。 一方、純粋な鉄のみを意味するとしたとしても、例えば原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-358003号公報(段落【0010】を参照)、同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-132109号公報(段落【0022】を参照)、さらには特開昭63-300506号公報(3頁左上欄13?17行を参照)に記載のように、成形された磁性体を構成する磁性粉末として鉄合金の他、純粋な「鉄」を用いることも周知の技術事項であり、引用発明において、絶縁処理された鉄系の粉末磁性材として「FeAlSi合金」材に代えて、純粋な「鉄」材を用いるようにすることは当業者であれば適宜なし得ることである。 [相違点2]について 引用発明における混合物の充填一体成形は、「射出成形」ではなく例えばプレスによる「加圧充填成形」であり、そして、金属磁性粉末と結合剤である電気絶縁粉末との混合法としては、例えば原査定の拒絶の理由に引用された上記特開平4-358003号公報(段落【0013】?【0014】を参照)に記載のように乾式混合法と湿式混合法とがある(なお本願発明では、明細書の段落【0017】によれば湿式混合法が用いられている)が、いずれの場合であっても、上記のようにプレスによる「加圧充填成形」を行う際には、最終的に混合物は「乾燥」させた「粉末」の状態として用いることは、上記特開平4-358003号公報(段落【0014】を参照)、原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-115507号公報(2頁左上欄18行?同頁左下欄11行、第1図を参照)、さらには特開平1-228107号公報(2頁右上欄13行?同頁右下欄7行)に実質的に記載(なお、上記特開平4-115507号公報や上記特開平1-228107号公報では、「乾燥」の明記はないが、混合物は「粉末」状のものであり、「乾燥」したものであることは自明である。)されているように周知といえる技術事項である。 したがって、引用発明においても、混合物、及びそれに含まれる樹脂(結合剤)について、それぞれ「乾燥粉末」混合物、「乾燥」樹脂とすることは当業者がごく普通になし得ることである。 なお付言しておくと、最終的に完成した状態の「インダクタ本体」は、本願明細書の段落【0019】にも記載のように、加熱処理により樹脂を硬化させた状態にあるといえ、この点からすれば、製造途中で「乾燥」粉末混合物、「乾燥」樹脂であるか否かによって、最終的に完成した状態の「インダクタ本体」自体の構成(構造)上の違いは見出すことができないものであり、この相違点2については実質的な相違点とはならないということもできる。 [相違点3]について そもそも、混合物を圧縮する際の最適な力は、磁性粉末と樹脂(結合剤)粉末との混合比、混合物の粉末サイズ(粒径)、さらには埋設するコイルの形状などに依存するものであって、これらを考慮して定められるべきものである。 また、例えば特開平2-62012号公報(3頁左上欄1?9行を参照)には2t/cm^(2)(1in平方あたり約13tn)の圧力とすることが記載され、また、コイルを埋設するものではないが、特開平5-335130号公報(段落【0007】を参照)には成形圧力を3ton/cm^(2)(1in平方あたり約19tn)とすることが記載され、特開平1-223704号公報(3頁左上欄1?7行を参照)には2.6トン/cm^(2)(1in平方あたり約17tn)で圧縮成形することが記載されているところであり、本願発明で特定する「2.54cm平方(1in平方)当りほぼ15?20tn」の加圧(圧縮)力の範囲は、通常想定される範囲を大きく外れるようなものでもない。 したがって以上のことを踏まえると、引用発明において、混合物を加圧(圧縮)する際の力を本願発明で特定する「2.54cm平方(1in平方)当りほぼ15?20tn」の範囲を満たすような値とすることも、上述のように混合比、混合物の粉末サイズ(粒径)、コイルの形状等を考慮して当業者が容易になし得ることである。 [相違点4]について 引用発明では、コイルを埋設する磁性体(混合物を加圧充填成形したもの)における金属磁性粉末について、その充填率が50vol%以上となるようにするとしているにすぎないが、引用例には、金属磁性粉末を電気絶縁被膜を施した粉末とすることにより「金属磁性粉末間の絶縁を電気絶縁粉末結合剤のみでなく電気絶縁皮膜被膜でも行えることから電気絶縁性粉末結合剤は粉末同志を結合させるために必要な少量で済み,より一層金属磁性粉末の充填率が増し、磁性体全体での実効透磁率が増加する」と記載(上記「3.(5)」を参照)され、上記特開平1-228107号公報(2頁左上欄6?11行、3頁左上欄14行?同頁右上欄4行を参照)には、空隙の発生を抑制する(空隙率を低く抑える)ことによって飽和磁束密度が大きくなる等、磁気特性が向上することなどが記載され、上記特開平2-62012号公報(3頁左上欄1?9行を参照)には、磁性粉末(フェライト粉末)をできる限り高充填にたとえば90wt%以上にまでとし高透磁率になるようにすることが記載され、さらには特開平5-217777号公報(段落【0006】)には、高い透磁率を得るためには金属粉末間の磁気的空隙を可能な限り減少させて高密度化する必要があることが記載されているように、磁気特性向上等のために極力、磁性粉末を高充填とし空隙が生じないようにすることは周知の技術事項であり、引用発明においても、高透磁率、高飽和磁束密度といった磁気特性向上等のために、できる限り電気絶縁被膜を施した金属磁性粉末の充填率を高くし、「実質的に空隙がない」ものとすることは当業者であれば容易になし得ることである。 そして、本願発明において、特に、乾燥粉末混合物を導電性コイルの周りに圧縮する際の力を「2.54cm平方(1in平方)当りほぼ15?20tn」とその数値範囲を特定することに関して、発明の詳細な説明を参照しても、上限値(20tn)を上回る場合や、下限値(15tn)を下回る場合とのインダクタ性能についての具体的な比較データが示されているわけでもなく、 また、上述したように、そもそも乾燥粉末混合物を圧縮する際の最適な力は、磁性粉末と樹脂(結合剤)粉末との混合比、混合物の粉末サイズ(粒径)、さらには埋設するコイルの形状などに依存するものであるにもかかわらず、本願発明にあってはこれらについて何ら特定(限定)がなされておらず、単に、乾燥粉末混合物を圧縮する際の力のみを「2.54cm平方(1in平方)当りほぼ15?20tn」と定めたことに格別の技術的意義(臨界的意義)は見出せないことを考慮すると、 上記各相違点を総合的に判断しても本願発明が奏する効果は、引用発明及び周知の技術事項から当業者が十分に予測できた程度のものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。 <<予備的見解>> なお、本願発明における「第1及び第2導電性リード」について、例えば本願の図3に見られるように、仮にその一端がインダクタ本体(乾燥粉末混合物を圧縮成形したもの)の内部に埋設され、他端がインダクタ本体の外部に突出しているものと解したとしても、そのように両導電性リード(両電極あるいは両端子)をその一端がインダクタ本体の内部に埋設され、他端がインダクタ本体の外部に突出してなるものとすることは、例えば原査定の拒絶の理由に引用された上記特開平4-115507号公報(第1図を参照)、上記特開平2-62012号公報(第1図を参照)、さらには特開平4-165605号公報(第1図、第2図を参照)に見られるように周知のものであり、引用発明においても、両電極をその一端がインダクタ本体の内部に埋設され、他端がインダクタ本体の外部に突出してなるものとすることは当業者であれば容易になし得ることである。 6.むすび 以上のとおり、本願の請求項10に係る発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-05-21 |
結審通知日 | 2014-05-27 |
審決日 | 2014-06-09 |
出願番号 | 特願2012-21276(P2012-21276) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H01F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 久保田 昌晴 |
特許庁審判長 |
酒井 伸芳 |
特許庁審判官 |
井上 信一 萩原 義則 |
発明の名称 | 高電流薄型インダクタの製造方法 |
代理人 | 飯田 伸行 |