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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01N
審判 全部無効 2項進歩性  A01N
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01N
管理番号 1293903
審判番号 無効2013-800142  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-07-31 
確定日 2014-09-29 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2855181号発明「松類の枯損防止用組成物及び防止方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 請求のとおり訂正を認める。 特許第2855181号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は,平成5年12月10日に鈴木敏雄を出願人として,名称を「松類の枯損防止組成物及び防止方法」とする発明について特許出願(特願平5-341367号)され,平成8年8月29日に出願人名義変更がなされて,鈴木敏雄と「メルク エンド カムパニー インコーポレーテッド」が出願人となったものであって,平成10年11月27日に,特許第2855181号として設定登録がなされた(請求項の数4。以下,その特許を「本件特許」といい,その明細書を「本件明細書」といい,特許請求の範囲を「本件特許請求の範囲」という。)。
その後,本件特許は,平成11年5月6日付けで特許権者「鈴木敏雄」から被請求人である「井筒屋化学産業株式会社」がその持分移転を受け,さらに,平成25年8月15日付けで特許権者「メルク エンド カムパニー インコーポレーテッド」が「メルク・シャープ・エンド・ドーム・コーポレイション」に名義表示が変更された上で,そこから「井筒屋化学産業株式会社」がその持分移転を受けたものである。

本件特許について,株式会社理研グリーン(以下「請求人」という。)から,本件無効審判の請求がなされた。その手続の経緯は以下のとおりである。

平成25年 7月31日 審判請求書・甲第1?14号証提出(請求人)
同年 9月 2日 審判請求書副本の送達通知
(発送日同年9月4日)
同日 手続続行通知(被請求人が平成25年8月15
日付けで権利移転を受けたことによる。)
同年10月31日 答弁書(被請求人)
同日 訂正請求書(被請求人)
同年12月16日 審判事件弁駁書(請求人)
平成26年 1月27日 審理事項通知書
同年 3月 3日 口頭審理陳述要領書・甲第15?25号証提出
(請求人)
同日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 3月17日 口頭審理
同年 3月24日 上申書・甲第17,20,24,25号証追加
提出(請求人)
同年 3月31日 上申書(書面の日付は同年3月24日付け)
(被請求人)
同年 3月31日 上申書(被請求人)
同年 5月 1日 書面審理通知
同年 5月 8日 審決の予告
同年 8月 4日 審理終結通知

第2 訂正の可否についての当審の判断
1 訂正の内容
被請求人は,審判長が審判請求書の副本を送達し,被請求人が答弁書を提出するために指定した期間内である平成25年10月31日に訂正請求書を提出して,本件明細書及び本件特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正することを求めた(以下,「本件訂正」という。)。
訂正の内容は,以下のとおりである(審決注:訂正箇所を下線で示した。)。

(1)訂正事項1
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1である,
「【請求項1】 下記構造式で表わされるLL-F28249系化合物、及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ボリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類、アルキル硫酸エステル類、アルカンスルホン酸類、アルキルベンゼンスルホン酸類、アルキルリン酸エステル類、N-アシルサルコシン塩類、N-アシルアラニン塩類及びコハク酸塩類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含む界面活性剤を、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、イソプレングリコール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含有する水と混和しうる溶剤に溶解させた後、水を加える方法により、LL-F28249系化合物の水に対する溶解性及び樹体内での分散性を向上させた、マツノザイセンチュウを駆除するための松類の枯損防止用組成物。

」を,
「【請求項1】 下記構造式で表わされるLL-F28249系化合物、及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、及びショ糖脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含む界面活性剤を、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、イソプレングリコール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含有する水と混和しうる溶剤に溶解させた後、水を加える方法により、LL-F28249系化合物の水に対する溶解性及び樹体内での分散性を向上させた、マツノザイセンチュウを駆除するための松類の枯損防止用組成物。
(化学構造式は訂正前と同じなので省略する。)」と訂正する。

(2)訂正事項2
本件明細書の段落【0017】の,
「本発明の組成物は、LL-F28249系化合物を有効成分とし、水又は/及び溶剤、及び界面活性剤等の少なくとも一種またはその組み合わせにより構成される。」とあるのを,
「本発明の組成物は、LL-F28249系化合物を有効成分とし、水及び溶剤、及び界面活性剤等の少なくとも一種またはその組み合わせにより構成される。」と訂正する。

(3)訂正事項3
本件明細書の特許請求の範囲の請求項3である,
「【請求項3】 前記LL-F28249系化合物がネマデクチンである請求項1記載の松類の枯損防止方法。」を,
「【請求項3】 前記LL-F28249系化合物がネマデクチンである請求項1記載の松類の枯損防止用組成物。」と訂正する。

3 判断
上記訂正事項の適否について検討する。

(1)訂正事項1
訂正事項1のうち,請求項1において,「ボリオキシエチレンアルキルエーテル類」を「ポリオキシエチレンアルキルエーテル類」とする訂正は,明らかに特許法第134条の2第1項ただし書第2号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものに該当する。
また,訂正事項1のうち,請求項1の発明特定事項である界面活性剤のうちの「アルキル硫酸エステル類、アルカンスルホン酸類、アルキルベンゼンスルホン酸類、アルキルリン酸エステル類、N-アシルサルコシン塩類、N-アシルアラニン塩類及びコハク酸塩類」を削除する訂正は,特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
そして,訂正事項1は,上記のように,請求項1において,明らかな誤記を訂正するものと,訂正前の請求項1の発明特定事項の一部を削除するものであり,願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではなく,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2
訂正事項2は,本件明細書において,「本発明の組成物は・・・水又は/及び溶剤・・・の組み合わせにより構成される。」を「本発明の組成物は・・・水及び溶剤・・・の組み合わせにより構成される。」と訂正するものであって,訂正後の請求項1の「水と混和しうる溶剤に溶解させた後、水を加える方法により・・・枯損防止用組成物。」との記載と整合させるためのものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
そして,訂正事項2は,願書に添付した明細書に記載されていた「水又は/及び溶剤」を「水及び溶剤」と訂正するものであるから,願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって,また,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではなく,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3
訂正事項3は,請求項3の「松類の枯損防止方法」を,「松類の枯損防止用組成物」と訂正するものである。
訂正前の請求項3は,「松類の枯損防止用組成物」の発明である請求項1を引用して「請求項1記載の松類の枯損防止方法」と記載されているので,訂正前の請求項3について記載どおり「松類の枯損防止方法」の意味と解すると,両者の発明のカテゴリーが相違し,それ自体明確な記載とはいえない。
そして,請求項2は,請求項1を引用した「請求項1記載の松類の枯損防止用組成物」と「組成物」の発明として記載されており,請求項3の「請求項1記載の松類の枯損防止用方法」との記載と整合していないこと,さらに「松類の枯損防止方法」の発明である請求項4には,「請求項1?3のいずれか記載の松類の枯損防止用組成物の有効量を松類の樹幹に注入し、樹体内に転流させ、マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)を駆除することからなる」と,方法としての発明特定事項が記載されているのに対して,請求項3には,このような方法としての発明特定事項が何ら記載されていないことからすれば,訂正前の請求項3の「松類の枯損防止方法」との意味ではなく,「松類の枯損防止用組成物」の意味であったことは明らかで,当業者であれば,そのような誤記であることに気付いて,この趣旨に理解するのが当然ということができる。
そうすると,訂正事項3は,請求項3の本来の意味である「請求項1記載の松類の枯損防止用組成物」との記載に訂正したものといえるから,特許法第134条の2第1項ただし書第2号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものに該当する。
そして,請求項3の「前記LL-F28249系化合物がネマデクチンである請求項1記載の松類の枯損防止用組成物」は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1に「LL-F28249系化合物」として「ネマデクチン」も記載されているから,訂正事項3は,願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって,また,訂正前の請求項3も「請求項1記載の松類の枯損防止用組成物」との本来の意味に当業者であれば当然理解するものであることは上述のとおりであるから,訂正事項3は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもなく,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(4)一群の請求項であるかについて
本件請求は,二以上の請求項が記載された特許請求の範囲の訂正を請求するものであるので,本件請求が,特許法第126条第3項に規定する要件を満たすものであるかを検討する。
訂正事項3に係る訂正後の請求項3は,訂正事項1に係る訂正後の請求項1の記載を引用して記載されているから,請求項1と請求項3の間の関係は,特許法施行規則第46条の2第2号に掲げる関係に該当する。
なお,訂正後の請求項2,4も訂正事項1に係る訂正後の請求項1の記載を引用して記載されているから,特許法施行規則第46条の2第2号に掲げる関係に該当する。
よって,本件請求は,上記の一群の請求項がある特許請求の範囲について,当該一群の請求項ごとに訂正を請求するものであるから,特許法第126条第3項に適合するものである。

4 請求人の主張の検討
請求人は,訂正事項3は,方法の発明を物の発明に変更するものであり,方法の記載が当然に「訂正後の記載と同一の意味を表示する」ものとはいえないから,請求項のカテゴリー変更に当たり,実質上特許請求の範囲を変更するものであると主張している(弁駁書第3頁第2行?第4頁第10行,口頭審理陳述要領書第11頁第17行?末行)。
しかしながら,上記3(3)で述べたとおり,訂正事項3は,訂正前の請求項1?4の記載からみて,請求項3の本来の意味である「請求項1記載の松類の枯損防止用組成物」との記載に訂正したものといえるから,実質上特許請求の範囲を変更するものではない。
よって,請求人の主張は採用できない。

5 まとめ
以上のとおりであるから,本件訂正は,特許法第134条の2第1項,第3項の規定に適合し,特許法第134条の2第9項の規定によって準用する特許法第126条第5項,第6項の規定に適合するので,訂正を認める。

第3 本件発明
上記「第2」で述べたとおり,本件訂正が認められたので,本件特許の請求項1?4に係る発明(以下,「本件発明1」?「本件発明4」といい,合わせて「本件発明」という。)は,訂正後の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項によって特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】 下記構造式で表わされるLL-F28249系化合物、及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、及びショ糖脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含む界面活性剤を、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、イソプレングリコール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含有する水と混和しうる溶剤に溶解させた後、水を加える方法により、LL-F28249系化合物の水に対する溶解性及び樹体内での分散性を向上させた、マツノザイセンチュウを駆除するための松類の枯損防止用組成物。

【請求項2】 前記LL-F28249系化合物がモキシデクチンである請求項1記載の松類の枯損防止用組成物。
【請求項3】 前記LL-F28249系化合物がネマデクチンである請求項1記載の松類の枯損防止用組成物。
【請求項4】 請求項1?3のいずれか記載の松類の枯損防止用組成物の有効量を松類の樹幹に注入し、樹体内に転流させ、マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)を駆除することからなる、松類の枯損防止方法。」

第4 請求の趣旨並びにその主張の概要及び請求人が提出した証拠方法
1 審判請求書,審判事件弁駁書,口頭審理陳述要領書に記載した無効理由の概要
請求人が主張する請求の趣旨は,
「「特許第2855181号の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明についての特許を無効にする。審判請求費用は被請求人の負担とする。」との審決を求める。」であると認める(審判請求書第2頁「請求の趣旨」,第1回口頭審理調書「請求人 1」参照)。
そして,請求人が主張する無効理由1?4は,概略以下のとおりである(審判請求書第40頁第10行?第64頁下から第4行,審理事項通知書「第2 4(1),5(1),6(1)」,口頭審理陳述要領書第22頁下から第7行?第24頁第10行,第28頁第1?第14行,第1回口頭審理調書「請求人 3」参照)。

(1)無効理由1
無効理由1は,以下の(1A)?(1C)に示すとおりである。
(1A)本件発明1?4は,本件出願日前に頒布された甲第1号証(主引用例)及び甲第2,3,13号証に記載された発明並びに甲第4?12号証に記載された事項から導かれる本件出願日前の技術常識に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(1B)本件発明1,3,4は,本件出願日前に頒布された甲第2号証(主引用例)及び甲第1,3,13号証に記載された発明並びに甲第4?12号証に記載された事項から導かれる本件出願日前の技術常識に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(1C)本件発明1,2,4は,本件出願日前に頒布された甲第13号証(主引用例)及び甲第1?3号証に記載された発明並びに甲第4?12号証に記載された事項から導かれる本件出願日前の技術常識に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,本件発明1?4の特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

(2)無効理由2
無効理由2は,以下の(2A),(2B)に示すとおりである。

(2A)訂正前の本件発明1?4には,「アルカンスルホン酸類、アルキルベンゼンスルホン酸類、アルキルリン酸エステル類、N-アシルサルコシン塩類、N-アシルアラニン塩類及びコハク酸塩類」という陰イオン界面活性剤が記載されているが,発明の詳細な説明には,訂正前の本件発明1?4において,界面活性剤として非イオン界面活性剤を含有することが必須の要件であることが記載されているから,界面活性剤として陰イオン界面活性剤のみの場合を含む本件発明1?4のすべての範囲まで,本件発明の課題が解決できると当業者が理解できるものではなく,発明の詳細な説明に記載されたものということができない。

(2B)本件発明1?4には,「下記構造式で表されるLL-F28249系化合物(構造式は省略する。)」,「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、及びショ糖脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含む界面活性剤」,「メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、イソプレングリコール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含有する水と混和しうる溶剤」が記載されているが,発明の詳細な説明には,実施例として,「LL-F28249系化合物」として「モキシデクチン」,「界面活性剤」として「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油」,「水と混和しうる溶剤」として「メタノール」を使用したものしか記載されておらず,これ以外の「LL-F28249系化合物」,「界面活性剤」,「水と混和しうる溶剤」を使用した場合に,LL-F28249系化合物の樹体内での分散性を向上させるとの本件発明の課題を解決できると当業者が理解できるものではなく,本件発明1?4のすべての範囲まで,発明の詳細な説明に記載されたものということができない。

よって,本件特許請求の範囲の記載は,平成6年法律第116号附則第6条第2項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成6年改正前特許法」という。)第36条第5項第1号に適合するものではないから,本件の特許が同法第36条第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであって,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。

(3)無効理由3
無効理由3は,以下の(3A),(3B)に示すとおりである。

(3A)訂正前の本件発明1?4は,界面活性剤として「アルカンスルホン酸類、アルキルベンゼンスルホン酸類、アルキルリン酸エステル類、N-アシルサルコシン塩類、N-アシルアラニン塩類及びコハク酸塩類」という陰イオン界面活性剤のみを含むものが含まれているが,発明の詳細な説明には,訂正前の本件発明1?4において,界面活性剤として非イオン界面活性剤を含有することが必須の要件であることが記載され,陰イオン界面活性剤のみを含む組成物でも本件発明の効果を奏することが当業者に理解できず,本件発明1?4のうち,界面活性剤として陰イオン界面活性剤のみを含む組成物については当業者といえども実施することができない。

(3B)本件発明1?4には,「下記構造式で表されるLL-F28249系化合物(構造式は省略する。)」,「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、及びショ糖脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含む界面活性剤」,「メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、イソプレングリコール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含有する水と混和しうる溶剤」を含む組成物が記載されているが,発明の詳細な説明には,実施例として,「LL-F28249系化合物」として「モキシデクチン」,「界面活性剤」として「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油」,「水を混和しうる溶媒」として「メタノール」を使用したものしか記載されておらず,これ以外の「LL-F28249系化合物」,「界面活性剤」,「水を混和しうる溶剤」を使用した場合に,LL-F28249系化合物の樹体内での分散性を向上させるとの本件発明の効果を奏することが当業者に理解できず,本件発明1?4のすべての組成物についてまで,当業者といえども実施することができない。

よって,発明の詳細な説明には,当業者が容易に本件発明1?4の実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載していないから,本件特許が平成6年改正前特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであって,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。

(4)無効理由4
無効理由4は,訂正前の請求項3には,「請求項1記載の松類の枯損防止方法」と記載されているのに対して,請求項1は「松類の枯損防止用組成物」に係る発明であるから,記載が矛盾し,請求項3に係る発明が「松類の枯損防止用組成物」に係る発明か「松類の枯損防止方法」に係る発明か不明瞭である。
よって,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみ記載した項に区分してあるものでないから,平成6年改正前特許法第36条第5項第2号の規定に適合するものではなく,本件の特許が同法第36条第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであって,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。

2 請求人の提出した証拠方法
請求人の提出した証拠方法は,以下のとおりである。

(1)審判請求書で提出した証拠方法
甲第1号証 特開昭57-156401号公報
甲第2号証 特開昭61-118387号公報
甲第3号証 特開昭61-10589号公報
甲第4号証 農薬登録情報提供システムにおける登録番号第15278
号の登録内容
(http://www.acis.famic.go.jp/search/vtllg304.do)
農林水産消費安全技術センター(2013年6月18日検
索)
甲第5号証 農薬登録情報提供システムにおける登録失効農薬一覧
No.8
(http://www.acis.famic.go.jp/touroku/sikkou8.html)
農林水産消費安全技術センター(2013年6月18日検
索)
甲第6号証 農薬登録情報提供システムにおける登録番号第18531
号の登録内容
(http://www.acis.famic.go.jp/search/vtllg304.do)
農林水産消費安全技術センター(2013年6月18日検
索)
甲第7号証 米国特許第3549624号明細書
甲第8号証 特開昭50-35342号公報
甲第9号証 特開平2-17191号公報
甲第10号証 松浦邦昭著,植物防疫,第38巻,第1号,1984年1
月,社団法人日本植物防疫協会,第27?31頁
甲第11号証 特開昭56-113702号公報
甲第12号証 特開昭57-65330号公報
甲第13号証 特開昭63-54375号公報
甲第14号証 波多野正信作成,報告書-プロピレングルコール・ベンジ
ルアルコール混合液の水混和性について-,
平成25年6月12日

(2)口頭審理陳述要領書で提出した証拠方法
甲第15号証 大阪地方裁判所,平成25年(ワ)第1470号特許侵害
差止等請求事件,被告(請求人)準備書面(2),
平成25年6月28日,第1?71頁
甲第16号証 登録第16262号の「ホドガヤセンチュリー注入剤」の
パンフレット,保土谷化学株式会社
甲第17号証 岸洋一著,マツ材線虫病-松くい虫-精説,1988年3
月30日,有限会社トーマス・カンパニー,
序i,iii?vi頁,第204頁
甲第18号証 横井進二著,林業と薬剤,第154巻,2000年12月
,社団法人林業薬剤協会,第14?21頁
甲第19号証 Ronald L. Stotichほか講演,SACの会第19回シンポ
ジウム講演集,平成5年5月21日,共立商事株式会社,
第8?11頁
甲第20号証 Richard W. Burgら著,Antimicrobial Agents and
Chemotherapy, 1997年3月,第361?367頁
甲第21号証 松浦邦昭著,林業と薬剤,第146巻,1998年12
月,社団法人林業薬剤協会,第1?6頁
甲第22号証 モキシデンクチンの化学物質安全データシート
(http://www.guidechem.com/msds/113507-06-5.html)
(平成26年2月26日検索)
甲第23号証 社団法人日本植物防疫協会編,農薬ハンドブック
2011年版(改訂新版),平成23年2月25日,
社団法人日本植物防疫協会,第163?164頁
甲第24号証 辻薦著,乳化・可溶化の技術(第7版),
平成元年5月30日,工学図書株式会社,
第3,12?15頁
甲第25号証 界面活性剤,2008年,日本乳化剤株式会社,
第1?8頁

(3)平成26年3月24日付けの上申書で提出した証拠方法
甲第17号証 序ii頁を追加して提出
甲第20号証 アブストラクトの翻訳文を提出
甲第24号証 第8?11頁を追加して提出
甲第25号証 第9?16,31頁を追加して提出

(4)当審による証拠の職権調査
口頭審理において,原本確認をしなかった甲第1?9,11?13,18,21?23,25号証について当審による職権調査を行った。
甲第1?3,7?9,11?13号証については,国内外の特許公報であって,原本と同一であることを確認した。
甲第4?6号証については,農林水産消費安全技術センターのホームページから,審判請求書で示された上記アドレスを検索してその内容が同一であることを確認した。
甲第18,21号証については,請求人が平成26年3月24日付けの上申書で示された「www4.ocn.ne.jp/-rinyaku/rinngyo-yakuzai-106.html」のアドレスからは,甲第18,21号証の発行年月は確認できなかったが,一般財団法人林業薬剤協会のホームページのアドレスからみて,「www4.ocn.ne.jp/~rinyaku/rinngyo-yakuzai-106.html」のアドレスの誤り(審決注:下線部が「-」の上付き文字ではなく,「?」の上付き文字である。)と解され,甲第18,21号証の発行年月が,口頭審理陳述要領書で示された発行年月と同一であることを確認した。
甲第22号証については,口頭審理陳述要領書で示された上記アドレスを検索してその内容が同一であることを確認した。
甲第23号証については,特許庁蔵書であって,原本と同一であることを確認した。
甲第25号証については,日本乳化剤株式会社のホームページから,
「https://www.nipponnyukazai.co.jp/file.jsp?id=306#page=4」のアドレスを検索してその内容が同一であることを確認した。

第5 答弁の趣旨並びにその主張の概要
被請求人が主張する答弁の趣旨は,「「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求める。」であると認める(審判事件答弁書第2頁「6.答弁の趣旨」,審理事項通知書「第3 1」,口頭審理陳述要領書第2頁下から第2行?第3頁第1行,第1回口頭審理調書「被請求人 1」参照)。
そして,被請求人は請求人が主張する上記無効理由1?4は,審判事件答弁書,口頭審理陳述要領書において,いずれも理由がない旨の主張をしていると認める。

第6 無効理由についての当審の判断
本件は事案にかんがみ,無効理由4について判断してから,無効理由1,2,3について順次判断する。

1 無効理由4について
訂正後の請求項3は,訂正前の「請求項1記載の松類の枯損防止方法」から,「請求項1記載の松類の枯損防止用組成物」と訂正された。
そして,訂正後の請求項3の「請求項1記載の松類の枯損防止用組成物」との記載は,請求項1の末尾の「松類の枯損防止用組成物」との記載とも整合するから,請求項3に係る発明が「松類の枯損防止用組成物」に係る発明か「松類の枯損防止方法」に係る発明か不明瞭であるとの無効理由4は解消した。

よって,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載した項に区分してあるものといえ,平成6年改正前特許法第36条第5項第2号の規定に適合するものではなく,本件の特許が同法第36条第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものということはできない。

2 無効理由1について
(1)刊行物の記載事項
ア 甲第1号証の記載事項
本件の出願日前に頒布された甲第1号証には,以下の事項が記載されている。
(1a)「1. 樹幹注入用生物活性成分、水及び/又は溶剤、及び該活性成分可溶化界面活性剤を含有することを特徴とする樹幹注入用可溶化型製剤。
2. 該樹幹注入用生物活性成分が、O,O?ジメチル?O?4?メチルチオ?m?トリルホスホロチオエート、O,O?ジエチル?O?4?メチルスルフイニルフエニルホスホロチオエート、O,O?ジメチル?O?4?メチルスルフイニル?m?トリルホスホロチオエート、O,O?ジエチル?O?4?メチルスルフイニル?m?トリルホスホロチオエート及びO?エチル?S?n?プロピル?O?4?メチルスルフイニルフエニルホスホロチオエートより成る群からえらばれた少なくとも一種の生物活性成分である特許請求の範囲第1項記載の製剤。
3. 該溶剤が、低級アルコール類、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類より成る群からえらばれた少なくとも一種の溶剤である特許請求の範囲第1項もしくは第2項記載の製剤。
4. 該界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルフエニルエーテル及びそのホルマリン縮合物、多環式置換基を有するフエノール類のポリオキシアルキレンエーテル及びそのホルマリン縮合物、ポリオキシアルキレンカスターオイルエーテル、ポリオキシアルキレンロジンエステル、ジアルキルスルホコハク酸塩及びアルキルベンゼンスルホン酸塩より成る群からえらばれた少なくとも一種の界面活性剤もしくはその配合物である特許請求の範囲第1項?第3項記載の製剤。
5. 樹幹注入用生物活性成分、水及び/又は溶剤、及び該活性成分可溶化界面活性剤を含有する組成物を、樹幹内に施用することを特徴とする有用樹木枯損防止方法。」(特許請求の範囲第1?5項)
(1b)「本発明者等は、有用樹木、特にはマツ類の枯死の主たる原因であるマツノザイセンチユウを的確に防除し、枯損防止を行うことを目的として研究を行つてきた。
その結果、前記した樹幹注入用可溶化型製剤が、それを樹体内に施用たとえば注入施用した際に、後記実験例に示すように、見掛上の薬剤吸収は極めて緩慢であるにも拘わらず、驚くべきことに、該製剤中の生物活性成分は、確実且つ充分に、樹体内各部位に広く取り込まれ、その結果、有用樹木の枯損防止を的確且つ完壁に達成さすことができることを発見した。
従つて、本発明の目的は、有用樹木の枯損防止に卓越した効果を示す樹幹注入用可溶化型製剤を提供するにある。
本発明の樹幹注入用可溶化型製剤は、農林用の広く生きている樹木に対する樹幹注入薬剤として有用であるが、たとえば、松、杉、その他針葉樹の如き比較的ヤニ質分泌の多い樹木に対する樹幹注入薬剤として、とくに適しており、とくには、松類に好適に利用できる。」(第2頁左下欄第12行?右下欄第16行)
(1c)「本発明の樹幹注入用可溶化型製剤における樹幹注入用生物活性成分は、防除を目的とする有害生物の種類、樹木の種類などによっても適宜選択、変更できる」(第2頁右下欄末行?第3頁左上欄第3行)
(1d)「本発明によれば、好ましくは、マツノザイセンチユウの侵入する以前に、有用樹木の樹体内に本発明の樹幹注入用可溶化型製剤を施用、好ましくは非圧入タイプの施用手段で注入し、有用樹木、たとえばマツ類の枯損を防止する方法を提供することができる。」(第4頁左下欄第2?7行)
(1e)「試験例1 枯損防止効果試験(線虫自然感染)
試験方法
供試樹として、胸高直径15?20cmのアカマツ林を使用した。地上部(0.5?1m)に直径9mm、深さ10cmの小孔を樹体の中心に向かつてドリルを用いてあけた。この小孔に各種製剤を充填した50mlの各アンプルを挿入し(5月27日)、樹体内に注入した。
挿入2時間後と、24時間後の吸収残量、及び30日後の樹幹、樹枝中の生物活性成分の残留濃度を測定し、更に169日後に枯損防止効果を判定した。吸収残量はアンプル内の製剤残量(10本の平均)を示し、単位は全量を5とし、その割合で表した。枯損防止効果は、枯死率で示し、枯死率は健全木10本当りの枯死本数の割合で表した。
また残留濃度は試験木、3本の平均値で表わした。結果を第1表に示す。
第1表

〔註〕
1.製剤の組成比は以下の通り。

上記中、
界面活性剤A:ポリオキシエチレン(10モル)
ノニルフエニルエーテル
界面活性剤B:ポリオキシエチレン(15モル)
スチリルフエニルエーテル
界面活性剤C:ポリオキシエチレン(50モル)
カスターオイルエーテル
界面活性剤D:ポリオキシエチレン(20モル)
ロジンエステル
界面活性剤E:ナトリウム?ジイソオクチルスルホサクシネート
フエンスルホキシド:O,O?ジメチルO?4?メチルスルフイニル?m?トリルホスホロチオエート
フエンスルホチオン:O,O?ジエチルO?4?メチルスルフイニルフエニルホスホロチオエート
試験例2 枯損防止効果試験(線虫接種)
試験方法
試験例1と同様なアカマツ林を用いて、各種製剤アンプル(50ml)を、挿入し(5月27日)、樹体内に注入した。アンプル挿入30日後(6月27日)に、予め室内飼育したマツノザイセンチユウ30,000頭を人工的に接種した。
吸収残量、残留濃度、枯損防止効果を試験例1と同様に測定、判定した。
結果を第2表に示す。
第2表

〔註〕製剤Noは第1表と同じ。
尚、生物活性成分として、O,O?ジメチルO?4?メチルチオ?m?トリルホスホロチオエート(一般名:フエンチオン)、又はO,O?ジエチルO?4?メチルスルフイニル?m?トリルホスホロチオエート、又はO?エチル?S?n?プロピル?O?4?メチルスルフイニルフエニルホスホロチオエートを用いた場合にも、上記試験結果と同様な優れた効果を示すことが確認された。また、前記実施例5,6,7に示した様な可溶化型製剤についても、上記試験結果と同様な優れた効果が確認された。」(第5頁左下欄第7行?第7頁左下欄)

イ 甲第2号証の記載事項
本件出願日前に頒布された甲第2号証には,以下の事項が記載されている。
(2a)「1)部分式(I)
(化学式は省略する。)
を有する化合物。
2)部分式(I I)
(化学式は省略する。)
を有する特許請求の範囲第1項記載の化合物。
3)一般式(III)

(式中、
R^(1)はメチル、エチルまたはイソプロピル基であり、
R^(2)は水素またはメチル基である。)
を有する特許請求の範囲第2項記載の化合物。
・・・
6)特許請求の範囲第1項記載の化合物の少なくとも1種と1種またはそれ以上の担体および/または賦形剤とを、必要に応じ、1種またはそれ以上の表面活性剤、抗ケーキング剤、あわ止め剤、粘度調整剤、結合剤、接着剤、肥料、安定剤またはその他の添加物もしくは活性成分と共に含有する例えば農業、園芸または森林における害虫駆除に用いるための組成物。
・・・
14)感染または侵襲をおこす寄生生物またはその他の害虫または真菌またはその他の生物あるいはそれらの存在する場所に有効量の特許請求の範囲第1項記載の化合物または特許請求の範囲第6項記載の組成物を適用することからなる感染または侵襲を抑制する方法。」(特許請求の範囲第1?3,6,14項)
(2b)「従つて、さらに他の観点から、本発明は一般式(III)の化合物をも提供するものである。
(化学式は、摘記2aと同じなので省略する。)
(式中、
R^(1)はメチル、エチルまたはインプロピル基であり、
R^(2)は水素原子またはメチル基である。)
本発明者らは式(III)の6種類の化合物をフアクターA(R^(1)=イソプロピル、R^(2)=水素)、ファクターE(R^(1)=メチル、R^(2)=メチル)、フアクターC(R^(1)=メチル、R^(2)=水素)、フアクターD(R^(1)=エチル、R^(2)=水素)、フアクターE(R^(1)=エチル、R^(2)=メチル)およびフアクターF(R^(1)=イソプロピル、R^(2)=メチル)と命名した。」(第3頁右下欄第12行?第4頁左上欄末行)
(2c)「本発明の化合物は抗生物活性、例えば線虫等に対する抗蠕虫活性、特に抗内部寄生虫および抗外部寄生虫活性を有する。・・・特に、本発明の化合物は寄生線虫、例えばヘモンカス・コントルツス、オステルタジア・サーカムシンクタ、コルブリフオルミス毛様線虫・・・に対し活性であることが見出された。・・・
寄生虫の種類は、宿主および感染の優勢な部位によつて異なる。即ち、例えばヘモンカス・コントルツス、オステルタジア・サーカムシンクタおよびコルブリフオルミス毛様線虫は一般に羊に感染し、胃および小腸内に優勢に存在するのに対し、ウシ肺虫、クーペリア・オンコフオラおよびオステルタジア・オステルタジは一般に畜牛に感染し、各々肺、腸または胃内に優勢に存在する。」(第4頁右上欄第5行?第5頁左上欄第16行)
(2d)「また、本発明の化合物は農業、園芸、森林、公衆衛生および貯蔵製品における昆虫、ダニおよび線虫害虫の駆除にも有効であることが見出された。土壌の害虫、ならびに穀物(例えば小麦、大麦、とうもろこしおよび米)、野菜(例えば大豆)、菓物(例えばリンゴ、ぶどうの木およびかんきつ類)および根菜作物(例えばてん菜糖、ジヤガイモ)を含む作物の害虫を有効に処理することができる。
特に、本発明の化合物は・・・線虫例えばアフエレンコイデス属、クロボデラ属、ヘテロデラ属、メロイドジン属およびパナグレルス属に属するもの;・・・に対しても活性であることが見出された。」(第5頁右上欄第9行?右下欄第4行)
(2e)「本発明の化合物は園芸または農業用に適した様々な形態に製剤化することができ、従つて本発明は、本発明の化合物を含有する園芸および農業用に調合された組成物を、その範囲に含む。このような製剤には乾燥または液体型が含まれ、例えば粉剤基剤または濃縮薬を含有する粉剤、溶解性または湿潤性散剤を含有する散剤、微顆粒および分散性顆粒を含有する顆粒剤、ペレツト剤、流動剤、エマルジヨン、例えば希釈エマルジヨンまたは乳化し得る濃縮薬、浸液剤、例えば根浸液剤および種子浸液剤、種子包帯剤、種子ペレツト剤、油濃縮薬、油液剤、注射剤例えば幹注射液、スプレー、煙剤および霧剤がある。」(第8頁左上欄第6行?右上欄第2行)
(2f)「一般にこれらの組成物は、化合物を好適な担体または希釈剤と共に含有する。このような担体は液体または固体とすることができ、化合物を適用する場所に分散せしめ、または使用者が分散性調製物とし得るような製剤を提供することにより、化合物の適用を助ける目的で用いられる。このような製剤は当業者に周知であり、従来技術により、例えば活成成分を担体または希釈剤、例えば固体担体、溶剤または表面活性剤と共に混合および/または粉砕することにより、調製することができる。・・・
担体または希釈剤として使用し得る好適な溶剤には、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、アルコールおよびグリコールまたはそれらのエーテル、エステル、ケトン、酸アミド、強極性溶剤、任意にエポキシ化した植物油および水が含まれる。」(第8頁右上欄第3行?左下欄第15行)
(2g)「良好な乳化、分散および/または湿潤特性を有する従来の非イオン性、カチオンまたはアニオン表面活性剤、例えばエトキシル化アルキルフエノールおよびアルコール、アルキルベンゼンスルホン酸、リグノスルホン酸もしくはサルフオコハク酸のアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属塩、またはポリマーフエノールのスルホン酸エステルも単独で、または組み合わせて組成物中に用いることができる。」(第8頁左下欄第16行?右下欄第7行)
(2h)「以下に本発明による製剤例を記載する。以下に使用される「活性成分」の用語は本発明化合物を意味し、たとえばファクターA、B、C、D、EまたはFの内の1種であることができる。」(第25頁第8?11行)
(2i)「獣医薬の経口用飲薬
%w/v 範囲
活性成分 0.35 0.05?0.50%w/v
ボリソルベート85 5.0
ベンジルアルコール 3.0
プロピレングリコール 30.0
ホスフエートバツフアー 6.0?6.5として
水を加えて100.0%にする。
ポリソルベート85、ベンジルアルコールおよびプロピレングリコール中に活性成分を溶解する。これに上記水の一部分を加えついで必要によりホスフエートバツフアーでpHを6.0?6.5に調整する。水を加えて最終容量に調製する。」(第26頁第2?14行)

ウ 甲第3号証の記載事項
本件出願日前に頒布された甲第3号証には,以下の事項が記載されている。
(3a)「本発明は、微生物ストレプトマイシス・シアネオグリセウス(streptomyces cyaneogrisess)亜種のノンシアノゲヌス(noncyanoggsus)LL-F28249、NRRL15773号を含む栄養媒体の発酵によって生産される預託付号番号LL-F28249として同定される新規な抗生物質化合物及びその製薬学的に且つ薬理学的に許容しうる塩に関する。また本発明は、名称LL-F28249α,β,γ,δ,ε,ζ,η,θ,ι,κ,λ,μ,ν及びωの薬剤或いはこれらの混合物例えば発酵汁又は全マツシュ或いはその製薬学的に及び薬理学的に許容しうる塩を投与することによる、温血動物の腸内寄生虫、節足動物体外寄生虫及びダニの感染を防止、処置又は駆除するための方法及び組成物に関する。これらの薬剤、混合物及び/又は塩を用いれば、植物の線虫も効果的に駆除される。更に、これらの薬剤は殺虫剤としても有効である。」(第6頁右下欄第10行?第7頁左上欄第7行)
(3b)「LL-F29249の構造及び立体化学は完全に定義されていないが、提案される構造式は下記の通りである。成分LL-F29249は、ザ・ジャーナル・オブ・アンチパイオチクス(The Journal of Antibiotics, 22(11),521?526(1969))に開示されているホンダマイシン(Hondamycin)〔アルビマイシン(Albimycin)〕に関係する。

LL-F28249α-μ」(第9頁右上欄第15行?左下欄)
(3c)「上述の薬剤、並びに該微生物の発酵汁及び全マツシュは、食肉用動物例えば牛、羊、豚、兎、家きん例えばニワトリ、七箇鳥、アヒル、ガン、ウズラ及びキジ、及び仲間の動物における腸内寄生虫、節足動物体外寄生虫及びダニの感染を駆除するのに特に有効であることが発見された。」(第12頁右下欄第9?14行)
(3d)「本発明の化合物及びその製薬学的且つ薬理学的に許容しうる塩は水に比較的不溶であるから、いずれかのそのような化合物を動物の飲料水に投与する場合、活性成分をメタノール、エタノール、アセトン、DMSO、オレイン酸、リノール酸、プロピレングリコールなどのような有機溶媒に溶解し、またこの溶液と少量の表面活性剤及び/又は分散剤を混合して、活性成分の動物の飲料水中への溶解及び/又は分散を保証することが一般に望ましい。」(第13頁右下欄第15行?第14頁右上欄第4行)
(3e)「本発明の活性成分は、自由に生きる土壌の線虫、シー・エレガンス(C. elegans)の駆除における効果で示されるように植物の線虫に対しても殺線虫活性を示す。植物の線虫を駆除するためにこれらの活性成分を含有する組成物は、液体又は水和性粉剤中に配合することができる。液体組成物は、活性成分(活性薬剤、発酵汁、全マツシュ又は塩)約5?20w/w%を、適当な量の溶媒例えばメタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリルなど及び残りの水と一緒に含有する。」(第14頁左上欄第12行?右上欄第1行)
(3f)「これらの薬剤は、局所的殺虫剤、胃毒剤及び全身的殺虫剤として活性があり、特に鱗翅目(Lepedoptera)、鞘翅目(Coleoptera)、同翅目(Homoptera)、双翅目(Deptera)及びアサミウマ目(Thysanoptera)の昆虫を駆除するのに有効である。更に植物ダニ、ダニも本発明の薬剤によって駆除される。」(第14頁右上欄第8?14行)
(3g)「実施例 8
LL-F28249、NRRL15775の抗線虫活性
発酵汁の、土壌からの微生物に対する抗線虫活性を検知するために、自由に生活するケノルハプチジス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)(シー・エレガンス)を用いる試験管内試験を設定した。・・・LL-F28249、NRRL15775の汁はすべての成虫を死滅させ、また最初の及び繰返しの評価において種々の幼虫段階の、汁中の生存及び移動性を著るしく減少させた。
実施例 9
LL-F28249、NRRL15775の生体内での腸内寄生虫活性
シー・エレガンスに対して抗線虫活性を有することがわかったすべての発酵生成物の潜在的な腸内寄生虫活性を検知するために、生体内系で試験した。LL-F28249、NRRL15775の試料を、0.0031?2.0%(31?20,000ppm)の濃度で食物に混入した。・・・第13表に要約するこれらの実験の結果は、食物で投与した時、1回の口からの飲水として投与した時、及び皮下注射した時のLL-F28249の腸内寄生虫活性を示す。
・・・
実施例 10
LL-F28249α、羊の寄生線虫に対する腸内寄生虫活性
LL-F28249αの、経済的に重要な羊の寄生虫に対する活性を評価するために実験を行なった。羊に、ヘモンクス・コントルツス(Haemonchus contortus)、オステルタギア・シルクムシンクタ(0stertagia circumcincta)及びトリコストロンギルス・コルリホルミス(coluriformis)の感染性幼虫を実験的に接種し、感染を形成させ、LL-F28249αを試験した。
・・・第14表に要約するこれらの評価の結果は、LL-F28249αの腸内寄生虫剤としての効果が大きいことを示す。」(第25頁左下欄第2行?第27頁右上欄第5行)

エ 甲第4号証の記載事項
甲第4号証には,以下の事項が記載されている。
(4a)「農薬登録情報
登録番号 第15278号
登録年月 昭和57年11月24日
・・・
農薬の種類 酒石酸モランテル液剤
農薬の名称 グリンガード

適用表
作物名 まつ(生立木)
適用病害虫名 マツノザイセンチュウ
・・・
使用方法 樹幹注入」

オ 甲第5号証の記載事項
甲第5号証には,以下の事項が記載されている。
(5a)「登録失効農薬一覧 No.8
登録番号 16262
農薬の種類 塩酸レバミゾール液剤
農薬の名称 ホドガヤセンチュリー注入剤
・・・
登録日 1986年02月07日」(縦横を入れ換えて記載した。)

カ 甲第6号証の記載事項
甲第6号証には,以下の事項が記載されている。
(6a)「農薬登録情報
登録番号 第18531号
登録年月 平成5年12月01日
・・・
農薬の種類 塩酸レバミゾール液剤
農薬の名称 ホドガヤセンチュリーエース注入剤

適用表
作物名 まつ(生立木)
適用病害虫名 マツノザイセンチュウ
・・・
使用方法 樹幹部に注入孔をあけ、注入器の先端を押し込み樹幹注入する。」

キ 甲第7号証の記載事項
本件出願日前に頒布された甲第7号証には,日本語にして以下の事項が記載されている。なお,日本語訳は請求人が提出したものによった。
(7a)「本発明において、意外なことに、2-[ω-(2-トリエチル)アルキル)-、2-[-(2-トリエチル)ビニル)-Δ2-テトラヒドロピリミシン及びΔ2-イミダゾリン・・・及びそれらの非毒性の酸付加塩は、経口的又は非経口的に投与された際に、ヒトを含む動物における蠕虫病のコントロールとして驚くほど有効な薬剤であることがわかった。」(第1欄第61行?第2欄第15行)
(7b)「これらの薬剤は、住血吸虫や、蠕虫の成熟体と未成熟体の両方に対して活性があり、特に、特定の種の線虫、中でもストロンギルス属、カイチュウ目、及び毛頭虫亜目の亜目に対して活性がある。
具体的には、以下の属が言及される:ヘモンクス属、トリコストロンギルス属、アスカリス属、トリコリス属、アンシクロストーマ属、ネマトジラス属、ストロンギラス属、コーペリア属、及びブノストムム属。これらは特に、反芻動物(例えば、ヒツジ、ウシ、ヤギ)の胃腸寄生虫や、イヌ、ネコ、ウマ、及びブタのような非反芻動物の胃腸寄生虫に対して活性である。」(第2欄第27?36行)
(7c)「実施例43 薬剤として1-メチル-2-[2-(3-メチル-2-チエニル)ビニル]-Δ2-テトラヒドロピリミシン塩酸塩を用いて、実施例42の手順を繰り返すことにより、駆虫剤としての当該薬剤の効果を示す以下の結果が得られる。」(第22欄第72行?第23欄第2行)

ク 甲第8号証の記載事項
本件出願日前に頒布された甲第8号証には,以下の事項が記載されている。
(8a)「本発明は「テトラミソール(Tetramisole)」として一般に公知である、公知駆虫剤2,3,5,6-テトラヒドロ-6-フェニル-イミダゾ-(2,1-b)チアゾールを用いる新規の方法に関する。
本発明によれば活性成分としてD,L-またはL-2,3,5,6-テトラヒドロ-6-フェニル-イミダゾ-(2,1-b)チアゾールまたは2,3,5,6-テトラヒドロ-6-フェニル-イミダゾ-(2,1-b)チアゾールの酸付加塩および液体希釈剤を動物の外皮に対して適用することからなる動物の寄生虫の侵入を防除する(combatting)方法が提供される。」(第1頁左下欄第14行?右下欄第11行)
(8b)「「テトラミソール」はD,L-2,3,5,6-テトラヒドロ-6-フェニル-イミダゾ-(2,1-b)チアゾールを意味する。「レバミソール」はL-2,3,5,6-テトラヒドロ-6-フェニルーイミダゾー(2,1-b)チアゾールを意味する。」(第6頁左上欄第4?9行)
(8c)「実施例D
畜牛の肺虫(Lung worm)試験
肺吸虫病(Dictyocaulus)を実験的にもしくは自然に感染させた畜牛をそれらの背中に活性化合物の溶液を注ぐか皮下注射によって処置する。活性は処置前後に糞便中に排出された肺吸虫の幼虫を定量的に数えることによって決定する。
処置後に排出された幼虫の減少は肺吸虫が殺されたか非常に傷つけられたので、それらがもはや幼虫を生ずることができないことを示す。
第9表(実施例D)
(表は省略する。)」(第11頁左上欄第1行?右上欄末行)
(8d)「実施例E
胃腸虫(Gastro-intestinal worm)試験/成虫に対するコントロール試験
ヘモンクス属(Haemonchus)、コーペリア属(Cooperia)およびオエソフアゴストムム属(Oesophagosiomum)を実験的感染させた畜牛をそれらの背中に活性化物溶液をそれらの背中に注ぐことによって処置した。調合物の活性は動物を解剖し、残っている虫を数え、未処置のコントロール動物のそれと結果を比較し、そして%作用を計算することによって計算する。
第10表(実施例E)
(表は省略する。)」(第11頁左下欄第1行?第12頁上欄末行)
(8e)「実施例F
畜牛の胃腸の虫(Gastro-intestinal worm)試験/幼虫の段階に対するコントロール試験
ヘモンクス、コーペリアおよびオエソフアゴストムムを実験的に感染させた畜牛をそれらの背中に活性化合物の溶液をそれらの背中に注ぐか皮下注射によって処置する。処置が行われた時間は幼虫か発育の第4段階にあるように選んだ。薬剤の活性は動物を解剖し、残っている虫を数え、未処置のコントロール動物で得られたものと結果を比較し、そして%作用を計算することによって決定する。
第11表(実施例F)
(表は省略する。)」(第12頁左下欄第1行?第13頁上欄末行)
(8f)「実施例G
畜牛の胃腸の虫試験/卵の排出
種々な種の胃腸の虫(コオペリア属、オステルタジア属(Ostertagia)、トリコストロンギルス属(Trichostrongylus)、ブノストムム属(Bunostomun)およびオエソフアゴストムム属を実験的にまたは自然に感染させた畜牛を活性化合物の溶液をそれらの背中に注ぐことによって寄生虫の明白前期の終りに処置した。活性は処置前後に糞便とともに排出される虫の卵を定量的に数えることによって決定する。処置後の卵の排出の減少は虫が殺されたか非常にひどく傷つけられたのでそれらはもはや卵を生ずることができないことを示す。
第12表(実施例G)
(表は省略する。)」(第13頁左下欄第1行?右下欄末行)
(8g)「実施例H
羊の胃腸の虫試験
ヘモンクスまたはコオペリアを実験的に感染させた羊を活性物質溶液をそれらの背中に注ぐことによって寄生虫の明白前期の終りに処置した。活性は処置前後に糞便とともに排出された虫の卵を定量的に数えることによって決定する。処置後の卵の排出の減少は虫が殺されたか非常にひどく傷つけられたのでそれらはもはや卵を生ずることができないことを示す。
第13表(実施例H)
(表は省略する。)」(第14頁左上欄第1行?下欄末行)

ケ 甲第9号証の記載事項
本件出願日前に頒布された甲第9号証には,以下の事項が記載されている。
(9a)「1. 式

を有する化合物。
〔式中、-X-Y-は、-CH_(2)-CH_(2)-,-CH_(2)-CH(OH)-,-CH=CH-,-CH_(2)-C(=O)-,又は-CH(OH)-CH_(2)-を示す。
R^(1)はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシアルキル基、アルキルチオアルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基または複素環基を示し、R^(1)が環状の基であるときは当該環は置換分を有していてもよい。
R^(2)は水素原子、メチル基、ヒドロキシル保護基又はエステルを形成するカルボン酸残基もしくは炭酸残基を示す。
R^(3)は水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基又はOR^(4)を示し、R^(4)は低級アルキル基、フェニル基、エステルを形成するカルボン酸残基もしくは炭酸残基またはアセタールを形成する糖残基もしくはオキサシクロアルキル基を示す。
Aは低級アルキル基、ホルミル基、アジドメチル基、シアノメチル基、フロロメチル基、クロロメチル基、ヨードメチル基、又は式、CH_(2)OCOR^(5)、CH_(2)OR^(6)、CH_(2)S(CO)_(n)R^(6)、CH=N-O(CO)_(n)R^(6)、CH_(2)N(R^(7))-(CO)_(n)-R^(6)、CH_(2)OSO_(2)R^(8)もしくはCH_(2)OP(=O)(OR^(8))_(2)を示す。nは0または1を示し、R^(5)はシクロアルキル基、シクロアルケニル基、置換フェニル基、アラルキル基、置換ピリジル基又は少なくとも1つの硫黄原子もしくは酸素原子を含む複素環基を示す。R^(6)は水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基又は複素環基を示す。ただしR^(6)はnが0のときのみ水素原子となり得る。R^(7)は水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。R^(8)は低級アルキル基、フェニル基またはトリル基を示す。
ただしAはメチル基およびヒドロキシメチル基を除く。」(特許請求の範囲第1項)
(9b)「16員環マクロライド構造をもつ数種の既知化合物が各種微生物の発酵あるいはそのような天然発酵産物からの化学的誘導により半合成的に得られ、そして殺ダニ、殺虫、駆虫およびその他の殺寄生虫活性を示す。ミルベマイシン類とアベルメクチン類は既知化合物のこのような二つのクラスの例であるが、・・・天然のミルベマイシン類は次のように式(A)で定義されている。

」(第3頁左上欄第5行?右上欄末行)
(9c)「ミルベマイシン類のように、アベルメクチン類も16員環マクロライド構造を有している。アベルメククン類は・・・これらの化合物は13位が4’-(α-L-オレアンドロシル)-α-L-オレアンドロシルオキシ基で置換されている以外、上記式(A)によって表わされる。25位はイソプロピル基またはsec-ブチル基で置換されていて、そして22位と23位の間は炭素-炭素二重結合があるかまたは23位に水酸基があり、4位にメチルが置換されている。
アベルメクチン類は(文献によってはC076化合物と称されている)次のように定義される。

"db"は22位と23位の間の二重結合を示し、"sb"は22位と23位の間の一重結合を示す。」(第3頁右下欄第13行?第4頁左上欄下から第2行)
(9d)「上記の各種のクラスのミルベマイシン関連マクロライド化合物はすべて駆虫剤、殺外部寄生虫剤、殺ダニ剤あるいはその他の農薬としての一つまたはそれ以上の活性を有するといわれている。けれども、一つないしそれ以上の網の寄生性害虫に対して改良された活性を有する化合物を提供することがさらに要求されている。
〔発明が解決しようとする課題〕
それ故、改良された殺寄生虫活性を有するマクロライド化合物を提供することが本発明の目的である。このような化合物を製造するだめの方法を提供することが本発明のもう一つの目的である。本化合物に基づく殺寄生虫組成物を提供することがさらにまた別の目的である。
〔発明の構成〕
ミルベマイシン誘導体の活性が、4位メチル基の種々の有機置換基を変換することにより改良されることを見い出した。」(特許請求の範囲第4頁右下欄第15行?第5頁左上欄第12行)
(9e)「本発明の式(I)の化合物は・・・殺ダニ活性を有している。さらにヒツジバエ(Oestrus)、キンバエ(Lucilia)、ウシバエ(Hypoderma)、ウマバエ(Gautrophilus)等及びのみ、しらみ等の動物や鳥類の外部寄生虫;ゴキブリ、家バエ等の衛生害虫;その他アブラムシ類、コナガ、鱗翅目幼虫等の各種農園害虫に対しで活性である。
本発明の化合物は、更にまた土壌中の根こぶ線虫(Meloidogyne)、マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus)、ネダニ(Phizoglyphus)等に対しても活性である。特に豚、羊、山羊、牛、馬、犬、猫および鶏のような家畜、家禽およびペットに感染する線虫のほか、フィラリア科(Filariidae)やセタリヤ科(Setariidae)の寄生虫、人間の消化管、血液または他の組織および臓器に見出される寄生虫に対しても有効である。」(第25頁左下欄第1?19行)
(9f)「実施例17
活性試験:ダニ成虫
本発明の個々の化合物または対照化合物(特開昭50-29742号に記載された26-アセトキシミルベマイシンA4)を各3ppmまたは10ppm含有し、これに展着剤0.01%を加用した薬液を調製した。ササゲ(Vlgna sinensis Savi)の初生葉に、有機リン殺虫剤感受性のナミハ・ダニ(Tetranychus urticae)を接種し、接種1日後にミズホ式回転撒布塔にて、上記の薬液7mlを、撒布液量が3.5mg/cm2葉になるように撒布した。撒布後、ササゲ葉を25℃の恒温室内に保存し、3日後に実体顕微鏡によって成虫の生死を調べ、死虫率(%)を算出した。その結果を次表に示す。
死虫率(%)
化合物番号 10ppm 3ppm
2 100 95
5 62 53
・・・
ミルベマイシンA4 75 40」(第36頁左下欄第1行?第37頁右上欄)

コ 甲第10号証の記載事項
本件の出願日前に頒布された甲第10号証には,以下の事項が記載されている。
(10a)「マツノザイセンチュウ防除に関する研究が始められて以来、多くの試験を経たのち、メスルフェンホス油剤(ネマノーン注入剤)および酒石酸モランテル液剤(グリンガード)が1982年に農薬登録され、実用化された。線虫を防除対象とするこの方法は、樹体内を根から葉にいたる樹液の流れ(蒸散流)に殺線虫活性を示す薬剤を導入することにより、1本1本のマツを守っていこうとするものである。」(第27頁左欄第11?18行)
(10b)「マツ材線虫病に対する防除剤として試験し、有効性を示した薬剤はいずれも神経毒性を示す薬剤であり、薬剤の作用を受けると線虫は全身がマヒする。」(第30頁右欄第20?22行)
(10c)「殺線虫剤で何とかしようと考えていたところ、動物用駆虫剤にマツノザイセンチュウを防除する効能のある薬剤を見つけることができ、それが農薬登録されるに至った。」(第31頁右欄第1?4行)
(10d)「水に対する溶解度の高い薬剤ほど、注入後の試料採取部での検出値が高くなっている。また、防除効果を見ても水に対する溶解度が高くなるほど、効果が高くなっている。つまり、前に、水に対する溶解度が高いほど、防除効果が高いと思われる結果が出たのは、水に対する溶解度が高いほど検出薬量が高い、すなわち、移行量が多いからと思われた。」(第28頁右欄第14?20行)

サ 甲第11号証の記載事項
本件出願日前に頒布された甲第11号証には,以下の事項が記載されている。
(11a)「従来、クロルデン、ヘプタクロール、ディルドリン、アルドリン等の油溶性有機塩素系防虫防蟻剤は、有機溶媒に溶かし油剤として用いるか、乳剤の形で水に分散せしめて用いられていた。しかしながら、油剤として用いる場合は、木材への加圧注入は可能であるが、高価なため経済的でなく、実用には供し得ない欠点があり、乳剤として用いる場合は、比較的コストは低下するが、分離し易いと共に、粒子が大きいため木材への浸透性が悪く、加圧注入することは不可能であった。」(第1頁左下欄第14行?右下欄第3行)
(11b)「本発明者は、油溶性の有機塩素系防虫防蟻剤を可溶化することにより粒子を細分化し、加圧注入することにより充分木材中に浸透する事実を実験的に確認した。」(第1頁右下欄第9?12行)
(11c)「本発明は、油溶性の有機塩素系防虫防蟻剤に、非イオン系または非イオン系とアニオン系の混合物からなる界面活性剤と、アルコール類またはグリコール類、もしくはエーテル類の安定助剤を混入したことを特徴とする可溶化型木材用防虫防蟻剤である。」(第1頁右下欄第13?18行)
(11d)「安定助剤としては、たとえば、メチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、モノエチレングリコール、モノブチルエーテル、ブチルジグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール類、エーテル類が用い得る。」(第2頁左上欄第6?12行)
(11e)「防虫防蟻剤原体、界面活性剤および安定助剤の3成分のみの濃縮液としておいてもよい。そして、使用時に本組成物を1?2%水溶液の形で木材に加圧注入する。」(第2頁右上欄第8?11行)

シ 甲第12号証の記載事項
本件出願日前に頒布された甲第12号証には,以下の事項が記載されている。
(12a)「イベルメクチン(Ivermectin)は、新規かつ非常に強力な抗寄生虫剤であり、哺乳類における広範囲の内部寄生虫及び外部寄生虫に対して有用であるのみならず、殻物内部及び表面及び土壌中に見出される種々の寄生虫に対して農業的に使用される。」(第2頁右下欄第13?18行)
(12b)「従つて、イベルメクチンの水性液体処方物を調製することが望ましい。しかし、イベルメクチンの水に対する溶解度は極めて低く、室温に於て1ml当り約0.005mgである。
イベルメクチンは、表面活性剤を可溶化剤として使用することにより可溶化できる。このことによりミセル又は微小なコロイド状粒子が形成され、これらがイベルメクチン分子を取り囲み、イベルメクチン分子を水から隔離し、透明な水溶液を形成する。そのような溶液は、非経口又は経口投与用の液体処方物を調製するに足るだけの十分量の活性成分を含有する。しかし、そのようなミセル処方物は不安定であり、イベルメクチンは早く分解してしまうので商業的調製物として貯蔵寿命が不適当である。」(第3頁左上欄第14行?右上欄第9行)
(12c)「本発明は、水及び表面活性剤から調製したイベルメクチンの水溶液に補助溶媒及び基質の両方を加えた場合の予期せざる溶液の安定性に基づいている。補助溶媒及び基質は、独立してイベルメクチン溶液の不安定性を減少させるが、補助溶媒及び基質を組み合せると、溶液の安定性を更に驚くほど増加させるということが見出された。」(第3頁左下欄第11?18行)
(12d)「非経口的使用の場合、薬理学的に許容される非イオン性の表面活性剤が採用される。そのような非イオン性の表面活性剤として、ポリオキシエチル化した植物油、ポリオキシエチレンソルビタンモノイソステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート及びポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート〔ポリソルベート(Polysorbate)80又はツイン(TWEEN)80としても知られている〕が挙げられる。好ましい表面活性剤はポリソルベート80である。」(第3頁右下欄第4?13行)
(12e)「採用する補助溶媒は、これらはイベルメクチンの安定性を劇的に増加させることが見出されているものであるが、非経口又は経口投与に適した水と混ざり合う有機溶媒である。そのような補助溶媒として、グリセロールフオルマール、プロピレングリコール、グリセリン及びポリエチレングリコールが挙げられる。」(第4頁左上欄末行?右上欄第7行)
(12f)「それ単独で、或いは補助溶媒と組み合せて、処方物を安定化させるために使用する基質は、ベンジルアルコール、リドカイン、パラベン、コリン等である。」(第4頁右上欄第12?15行)
(12g)「処方物を調製するための好ましい方法は、表面活性剤中のイベルメクチン、補助溶媒及び基質を混合することである。この時、最終処方物中に於て助力する緩衝剤及び他のアジユバントを加えることも可能である。次いで水を加えて所望する容量、又はそれに近い容量にし、もし必要ならば至適安定性が得られるように、PHを6.0?6.5の範囲に調節する。」(第4頁左下欄第3?10行)

ス 甲第13号証の記載事項
本件出願日前に頒布された甲第13号証には,以下の事項が記載されている。
(13a)「1)式(I)

(式中R^(1)はメチル、エチルまたはイソプロピル基を示し;R^(2)は水素原子、C_(1)?_(8)のアルキル基、またはC_(3)?_(8)のアルケニル基を示し、また基NOR^(2)はE配置をなし、
OR^(3)はヒドロキシル基または25個までの炭素原子を有する置換されたヒドロキシル基を示す)
で表わされる化合物及びその塩。」(特許請求の範囲第1項)
(13b)「本発明の特に重要な化合物は、式(I)(式中R^(1)はイソプロピル基であり、R^(2)はメチル基であり、OR^(3)はヒドロキシル基である)の化合物である。
式(I)(式中R^(1)はイソプロピル基であり、R^(2)はメチル基であり、OR^(3)はヒドロキシル基である)の化合物は、広範囲の内部寄生虫及び外部寄生虫に対して活性である。例えば、この化合物は、・・・寄生線虫、並びに・・・寄生地虫、疥癬ダニ、マダニ及びシラミに対して生体内で活性を有することが判明している。」(第6頁右下欄第2行?左下欄第4行)
(13c)「本発明の化合物は、また、農業、園芸、林業、公衆衛生および貯蔵製品における昆虫、ダニおよび線虫を撲滅するのにも使用される。土壤および穀類(例えば小麦、大麦、とうもろこしおよび米)、綿、煙草、野菜(例えば大豆)、果実(例えばりんご、ぶどうおよび柑橘類)ならびに根菜作物(例えばてんさい、馬鈴薯)を包含する農園芸作物の害虫を処理することができる。このような害虫の具体的な例としては・・・アフエレンコイデス(Aphelencoides)、グロボデラ(Globodera)、ヘテロデラ(Heterodera)、メロイドギネ(Meloidogyne)およびパナグレルス(Panagrellus)属の種のような線虫・・・である。」(第7頁左下欄第5行?第8頁左上欄第8行)
(13d)「本発明の化合物は、園芸または農業に使用するために何れかの有利な方法で処方することができそしてそれ故に本発明はその範囲内に園芸または農業に使用するのに適した本発明の化合物を含有する組成物を包含する。
このような処方は、乾燥または液状型のもの例えばダストベースまたは濃厚物を包含するダスト(dust)、可溶性または湿潤性粉剤を包含する粉剤、微小顆粒剤および分散性顆粒剤を包含する顆粒剤、ペレツト、流動物、希釈乳濁液または乳化性濃厚物のような乳化物、根浸液および種子浸液のような浸液、種子粉衣(seed dressing)、種子ペレツト、油状濃厚物、油剤、注入剤例えば茎注入剤、スプレー、くん煙およびミストを包含する。」(第10頁右下欄第10行)
(13e)「一般に、このような処方は、適当な担体または希釈剤と一緒に化合物を含有する。・・・
担体または希釈剤として使用される適当な溶剤は、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、アルコールおよびグリコールまたはそのエーテル、エステル、ケトン、酸アミド、強極性溶剤、場合によつてはエポキシ化した植物油および水を包含する。」(第11頁左上欄第7行?左下欄第3行)
(13f)「従来の非イオン性、陽イオン性または陰イオン性界面活性剤例えばエトキシル化アルキルフエノールおよびアルコール、アルキルベンゼンスルホン酸、リグノスルホン酸またはスルホコハク酸のアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩または重合体フエノールのスルホネートは、良好な乳化、分散および(または)湿潤性を有しておりそして単独でかまたは組み合せて組成物に使用することができる。」(第11頁左下欄第4?12行)
(13g)「ネマトスピロイデスデコビウス(Nematospiroides dubius)に感染したマウスに対する本発明の化合物の有効性を測定した。雌のCR/Hマウス(18?22g)群をネマトスピロイデスデユビウス(Nemaospiroides dubius)の100個のL3幼虫で攻撃させ、感染を完成させた(通常3週間)。このマウス群をその後、粉状にされた3/4の投与量で、本発明の化合物を単位経口投与することにより処理した。化合物はプロピレングリコール中のものとして投与した。その後マウス群を少くとも3日間(通常5日間)放置し、感染が完成したこのマウス群を殺し、小腸を取り出した。摘出した腸の一部を鈍い先端部を有するハサミで割り、腸粘膜を露出させた。成熟した寄生虫を調整されたBaermann装置を使用して集めた。移行時間は5時間であり、この間、移行中の寄生虫を37℃に保つた。5時間後に、寄生虫が移行したナイロンガーゼを2倍の拡大鏡により調べた。ガーゼに捕獲された寄生虫と移行した寄生虫を計数し、各マウスごとの全寄生虫数を得、それをコントロールと比較した。
従つてこの方法及び本発明の化合物の2mg/kgの投与量によつて、処理されたマウス中の寄生虫の数が著しく減少することが判明した。」(第28頁左下欄第13行?第29頁左上欄第2行)

セ 甲第14号証の記載事項
甲第14号証には,以下の事項が記載されている。
(14a)「特開昭61-118387の特許公開公報(以下、「本公知文献」という。)26頁の右上欄に獣医薬の経口用飲薬として「活性成分0.35、ポリソルベート85 5.0、ベンジルアルコール 3.0、プロピレングリコール 30.0、ホスフエートバツフアー 6.0?6.5として水を加えて100.0%」との構成よりなる製剤例が記載されている。
本試験では、上記製剤例で用いられるプロピレングリコールとベンジルアルコールを上記製剤例の割合で混合した混合液が「水と混和しうる溶剤」に該当することを確認するため、プロピレングリコールにプロピレングリコールの10分の1倍量のベンジルアルコールを混合した混合液と水との相溶性を調査したものである。」(第1頁第1?8行)
(14b)「結論:
本公知文献の上記製剤例で用いられているプロピレングリコールとベンジルアルコールとの混合液は「水と混和しうる溶剤」に該当することが確認された。」(第1頁下から第3行?末行)

ソ 甲第16号証の記載事項
甲第16号証には,以下の事項が記載されている。
(16a)「農林水産省登録第16262号
ホドガヤセンチュリー注入剤」(第1頁)
(16b)「センチュリー注入剤は、ヤンセン社(ベルギー)の開発した、動物用駆虫薬「塩酸レバミゾール」を有効成分とした、松枯枯損防止用の樹幹注入剤です。マツに点滴注入することにより優れた予防効果を発揮します。
有効成分の塩酸レバミゾールは、高いセンチュウ活性を有し、水に良く溶けることから、注入後速やかに松の枝先まで浸透し、マツノザイセンチュウの侵入増殖を防ぎます。」(第2頁第2?6行)

タ 甲第17号証の記載事項
本件出願日前に頒布された甲第17号証には,以下の事項が記載されている。
(17a)「日本のマツと言えば、アカマツとクロマツが主要なものであり、アカマツは本州、四国、九州の山野にもっとも普通に見られ、クロマツは海岸地域を中心に生育している。・・・この重要なマツは病虫害に弱く、とくに松くい虫(マツに寄生穿孔虫類の総称)による大被害を明治時代より受けてきた。多くの研究者の努力により、松くい虫が寄生する以前にマツに生理異常が認められ、その原因解明がマツ枯れ防止を可能にする絶対条件であった。
農林水産省林業試験場を中心とする研究グループにより、その生理異常の主因はマツノザイセンチュウによるものであり、センチュウの媒介昆虫はマツノマダラカミキリであるという画期的な成果があげられ、マツノマダラカミキリの後食を予防すればマツ枯れが防げることが判明した。しかし、このような研究成果にもかかわらず、被害はいっこうに減少せず、そのため、1977年には松くい虫防除特別措置法が制定されるに至った。被害の微害化が計画されたが被害量は増加を続け、1980年度には200万m^(3)を超え、松くい虫被害史上空前のものとなった。」(序i第1?13行)
(17b)「地上散布ですら困難な単木的なマツの枯損予防法として、日本でも樹体内への薬注入が考えられた。・・・
低毒性で、取り扱い上安全で、予防効果のあるものは、・・・7751液剤(メスルフエンホス50%)は1982年に(水野1982号)、PC-3203(酒石酸モランテ12.5%)は1982年に、MTS(塩酸レバミゾール4%)は1986年に市販されるに至った。・・・マリーゴールドは土壌線虫の密度抑制効果を持ったが・・・樹幹に注入してもマツ枯れ予防効果はなかった(大山1975)。」(第204頁第13?25行)

チ 甲第18号証の記載事項
甲第18号証には,以下の事項が記載されている。
(18a)「マツガード液剤は,三共(株)が開発したマクロライド系化合物ミルベメクチンを有効成分とする“松枯れ防止樹幹注入剤”です。
「ミルベメクチン」は土壌から分離した放線菌(Streptomyces属)の培養液から単離された一群の二次代謝産物で,マツノザイセンチュウに対して極めて高い殺センチュウ活性を示します。また,マツノザイセンチュウのような植物に寄生するセンチュウだけでなく,動物寄生性のセンチュウや植物を加害するダニなどにも高い活性を有しており,すでに平成2年より農業場面では,安全性の高い,高活性の農業用ダニ剤として茶や果樹,園芸場面(なす,きゅうり,いちごなど)に広く使用されて来ています。また動物薬として,ミルべメクチンの誘導体や類縁化合物が,動物寄生性のセンチュウである犬のフィラリア(難病と言われた犬フィラリア症)に対し,安全性の高い特効薬として昭和63年より使用されています。
ミルべメクチンは,開発当初から,センチュウを含む種々の害虫に対して極めて活性が高い事,また,特異な作用性,化学構造の新規性,環境での分解の早さ,そして天然有機化合物であることなどの理由から多くの注目を集めてきました。
マツノザイセンチュウに対しては平成8年から試験番号SI-9601として林業薬剤協会への委託試験を開始し,各府県の林業試験場などで,松枯れ防止剤としての高い効果と安全性(薬害)が確認され,“3年の効果”が認められました。」(第14頁左欄第2行?右欄第3行)
(18b)「試験番号:SI-9601
一般名:ミルベメクチン(milbemectin)
ミルベメクチンはミルベマイシンA3(M.A3)とミルベマイシンA4(M.A4)の2つの有効成分で構成されており,存在比率は,それぞれ約30%,70%です。
・・・
構造式:(省略する。)」(第14頁右欄第8行?末行)

ツ 甲第19号証の記載事項
本件出願日前に頒布された甲第19号証には,以下の事項が記載されている。
(19a)「1983年7月に、オーストラリアで採取した土壌サンプルの発酵産物が、第1段階のスクリーニングテストで陽性と判定されました。・・・1984年の1月には、活性化物質が分離され、構造式も決定されました。その化合物は、動物試験でアイバメクチンと同じような効力を持ち、構造式はミルベマイシンと非常に似ていることが分かりました。この物質は、最初、F28-249-α、あるいは省略してF-αという化学名で呼ばれていました。その後、このF-αは正式にネマデクチンと命名されました。
ここでお分かりのように、ミルベマイシンおよびアイバメクチンとの間には構造的に類似性があります。その後いろいろな動物実験の結果、線虫に対して非常に広いスペクトルをもつことが明らかになりました。このネマデクチンという物質は、0.1?0.2μg/kgで経口投与あるいは皮下投与すると、ほとんどの寄生虫に対して100%の効果を示します。しかし、さまざまなCooperia種に対してはもっと大量に投与しないと効果がないことが分かりました。また、内部寄生虫に対してはよく効くのですが、その他の外部寄生虫に対しては、効果はあるものの、さらに大量を投与しないと効果を発揮しないことが分かりました。」(第9頁左欄第16行?右欄第20行)
(19b)「ネマデクチンの多くのアナログをいくつも化学的に合成し、その効力とスペクトルについて次々と実験を行いました。・・・そして1985年までに、内部寄生虫に対する非常に高い効果と外部虫に対する非常に高い抗寄生虫作用を合わせ持つ候補薬剤が選抜されてきました。
この選抜された化合物は、モキシデクチンと名付けられました。・・・モキシデクチンがアイバメクチンおよびミルペマイシンと構造的に異なる最も重要な点は、この23番目の炭素にNOCH_(3)がついていること、また一番右側の部分に側鎖がついていることです。」(第9頁右欄第25行?第10頁右欄第2行)
(19c)「先ほど構造式をご覧になってお分かりのように、モキシデクチンはいわゆるラクトン環をもったマクロライド系化合物です。効果の範囲が非常に広く、安全域も広いことが特長です。作用機序に関しては、モキシデクチンはGABA受容体に結合し、受容体に対するベンゾジアゼピンの結合を高める作用があります。
これらの作用は、アイバメクチンやミルべマイシンで示されているものと同様です。・・・私どもがテストした限りでは、アイバメクチンに耐性があると知られている寄生虫は、全てモキシデクチンでコントロールすることが可能です。」(第10頁右欄下から第9行?第11頁右欄第4行)

テ 甲第20号証の記載事項
本件出願日前に頒布された甲第20号証には,日本語に訳して以下の事項が記載されている。なお,日本語訳は請求人の提出した翻訳によった。
(20a)「アベルメクチン系は、極めて強い駆虫活性を示す一連の化学物質の複合体である。これらは、我々がストレプトマイセス・アベルミチリスと名付けた新種の放射菌NRRL8165株によって生産される。本論文では、この生産菌を他の生物種と識別する形態学的及び培養学的特徴が説明されている。アベルメクチン系は、マクロライド系又はポリエン系抗生物質と比べ抗生物質活性又は抗真菌活性は低いが、一連の大環状ラクトン誘導体として同定された。アベルメクチン複合体は、0.0002%量を6日間混餌投与させたマウスにおいて、胃腸管線虫ネマトスピロイデス・デュビウスに対して完全に活性を有する。培地の改変や株の選択等の発酵技術を発展させることにより、培地当たりの収量を9μ/mlから500μg/mlにまで増大させることができた。」(第361頁要約)

ト 甲第21号証の記載事項
甲第21号証には,以下の事項が記載されている。
(21a)「この物質の動物寄生性線虫への特効薬的効能が認められ、アべルメクチン(Avermectin)の名で世界の動物薬市場で発売され、大きな成功を得た。著者は、アべルメクチンを供試薬として取り寄せマツノザイセンチュウに対する浸漬試験を行った。試験の結果、ppbオーダーという低濃度でのマヒ作用を確認したが、提供された薬量が少なかったことと、水に対する溶解度が極めて低いというデータから、苗木試験が困難と判断し、それ以上の追求はしなかった。
それから10数年経ったところであるが、日本サイアナミッド社はマクロライド系薬剤であるネマデクチン(商品名メガトップ)について1996年9月にマツノザイセンチュウ防除剤として農薬登録(農薬登録上は抗生物質といわないで有機化合物という)を得た(池田、1997)。」(第1頁右欄第15?27行)

(3)無効理由1Aについて
(3-1)本件発明1に対して
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には,「樹幹注入用生物活性成分、水及び/又は溶剤、及び該活性成分可溶化界面活性剤を含有することを特徴とする樹幹注入用可溶化型製剤」であって,「該樹幹注入用生物活性成分が、O,O?ジメチル?O?4?メチルチオ?m?トリルホスホロチオエート、O,O?ジエチル?O?4?メチルスルフイニルフエニルホスホロチオエート、O,O?ジメチル?O?4?メチルスルフイニル?m?トリルホスホロチオエート、O,O?ジエチル?O?4?メチルスルフイニル?m?トリルホスホロチオエート及びO?エチル?S?n?プロピル?O?4?メチルスルフイニルフエニルホスホロチオエートより成る群からえらばれた少なくとも一種の生物活性成分であ」り,「該溶剤が、低級アルコール類、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類より成る群からえらばれた少なくとも一種の溶剤であ」り,「該界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルフエニルエーテル及びそのホルマリン縮合物、多環式置換基を有するフエノール類のポリオキシアルキレンエーテル及びそのホルマリン縮合物、ポリオキシアルキレンカスターオイルエーテル、ポリオキシアルキレンロジンエステル、ジアルキルスルホコハク酸塩及びアルキルベンゼンスルホン酸塩より成る群からえらばれた少なくとも一種の界面活性剤・・・である」ものが記載されている(摘記1a参照)。
そして,甲第1号証には,「特にはマツ類の枯死の主たる原因であるマツノザイセンチユウを的確に防除し、枯損防止を行うことを目的として研究を行つてきた。・・・その結果、前記した樹幹注入用可溶化型製剤が、それを樹体内に施用たとえば注入施用した際に、後記実験例に示すように、見掛上の薬剤吸収は極めて緩慢であるにも拘わらず、驚くべきことに、該製剤中の生物活性成分は、確実且つ充分に、樹体内各部位に広く取り込まれ、その結果、有用樹木の枯損防止を的確且つ完壁に達成さすことができることを発見した」(摘記1b参照),「本発明によれば、好ましくは、マツノザイセンチユウの侵入する以前に、有用樹木の樹体内に本発明の樹幹注入用可溶化型製剤を施用、好ましくは非圧入タイプの施用手段で注入し、有用樹木、たとえばマツ類の枯損を防止する方法を提供することができる」(摘記1d参照)と記載されていることから,上記樹幹注入用可溶化型製剤が「マツノザイセンチュウを防除し、枯損防止を行うための松類の樹幹注入用可溶化型製剤」であることは明らかである。
そして,甲第1号証には,試験例として,「マツノザイセンチュウを人工的に接種した」マツの樹体内に,「O,O?ジメチルO?4?メチルチオ?m?トリルホスホロチオエート」,「O,O?ジエチルO?4?メチルスルフイニル?m?トリルホスホロチオエート、又はO?エチル?S?n?プロピル?O?4?メチルスルフイニルフエニルホスホロチオエート」などを生物活性成分とし,「ポリオキシエチレンノニルフエニルエーテル」などを界面活性剤とし,「メタノール」などを溶剤として,水に溶解させた組成物を,注入して,枯損を防止する効果が生じることが具体的に記載されている(摘記1e参照)。

そうすると,甲第1号証には,
「O,O-ジメチル-O-4-メチルチオ-m-トリルホスホロチオエート、O,O-ジエチル-O-4-メチルスルフイニルホスホロチオエート、O,O-ジメチル-O-4-メチルスルフイニル-m-トリルホスホロチオエート、O,O-ジエチル-O-4-メチルスルフイニル-m-トリルホスホロチオエート及びO-エチル-S-n-プロピル-O-4-メチルスルフイニルホスホロチオエートより成る群からえらばれた少なくとも一種の生物活性成分、水及び/又は低級アルコール類、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類より成る群からえらばれた少なくとも一種の溶剤、及びポリオキシアルキレンアルキルフエニルエーテル及びそのホルマリン縮合物、ポリオキシアルキレンカスターオイルエーテル、ポリオキシアルキレンロジンエステル、ジアルキルスルホコハク酸塩及びアルキルベンゼンスルホン酸塩より成る群からえらばれた少なくとも一種の活性成分可溶化界面活性剤を含有することを特徴とする、マツノザイセンチュウを防除し、枯損防止を行うための松類の樹幹注入用可溶化型製剤」の発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されているといえる。

イ 対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1の「生物活性成分」は,本件発明1の「LL-F28249系化合物」に対応する「殺虫活性成分」に,甲1発明1の「水及び・・・溶剤」は,本件発明1の「水と混和しうる溶剤」,「水を含有する」ことに相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明1とは,
「殺虫活性成分、及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、及びショ糖脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含む界面活性剤、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、イソプレングリコール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含有する水と混和しうる溶剤、水を含有する、マツノザイセンチュウを駆除するための松類の枯損防止用組成物。」である点で一致し,以下の点で相違している。
(1-i)殺虫活性成分が,本件発明1では,
「下記構造式で表されるLL-F28249系化合物
(構造式は省略する。以下同じである。)」であるのに対して,
甲1発明1では,
「O,O-ジメチル-O-4-メチルチオ-m-トリルホスホロチオエート、O,O-ジエチル-O-4-メチルスルフイニルホスホロチオエート、O,O-ジメチル-O-4-メチルスルフイニル-m-トリルホスホロチオエート、O,O-ジエチル-O-4-メチルスルフイニル-m-トリルホスホロチオエート及びO-エチル-S-n-プロピル-O-4-メチルスルフイニルホスホロチオエートより成る群からえらばれた少なくとも一種」である点
(1-ii)「殺虫活性成分、及び界面活性剤」を,本件発明1では,
「水と混和しうる溶剤に溶解させた後、水を加える方法により、LL-F28249系化合物の水に対する溶解性及び樹体内での分散性を向上させた」ものであるのに対して,甲1発明1は,そのようなものか明確ではない点

ウ 相違点の検討
相違点(1-i)について検討する。

(ア)甲第2,3,13号証の記載について
甲第2号証には,式(III)において,「R^(1)=イソプロピル、R^(2)=水素」,「R^(1)=メチル、R^(2)=水素」,「R^(1)=メチル、R^(2)=メチル」,「R^(1)=イソプロピル、R^(2)=メチル」が記載され(摘記2b参照),これらは,化学構造式からみて、本件発明1の「ネマデクチン(LL-F28249α)、LL-F28249β、LL-F28249γ、LL-F28249λ」に相当し,これらの化合物が,動物の寄生線虫や森林の線虫害虫の駆除に有効であり(摘記2a,2c,2d参照),その植物の「線虫」として,「アフエレンコイデス属、クロボデラ属、ヘテロデラ属、メロイドジン属およびパナグレルス属に属するもの」が例示されている(摘記2d参照)ものの,甲第2号証には,「マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)」がこれらの化合物で防除できることについては記載されていない。
また,甲3号証には,「LL-F28249α,β、γ・・・λ」(摘記3a,3b参照)が記載され,これらは,化学構造式からみて、本件発明1の「ネマデクチン(LL-F28249α)、LL-F28249β、LL-F28249γ、LL-F28249λ」に相当し,これらの化合物が土壌の線虫,ダニや動物の腸内寄生虫に対する活性を有することは記載されている(摘記3a,3c,3e,3f,3g参照)ものの,甲第3号証には,これらの化合物がマツノザイセンチュウの駆除に有効であることについては記載されていない。
さらに,甲第13号証には,「式(I)」で「式中R^(1)はイソプロピル基であり、R^(2)はメチル基であり、OR^(3)はヒドロキシル基」である化合物(化学構造式からみて,本件発明1の「モキシデクチン」に相当する。)が記載され(摘記13a,13b参照),この化合物が各種の寄生線虫や森林の害虫に活性があることが記載され(摘記13b,13c参照),その植物の「線虫」として,「アフエレンコイデス(Aphelencoides)、グロボデラ(Globodera)、ヘテロデラ(Heterodera)、メロイドギネ(Meloidogyne)およびパナグレルス(Panagrellus)属」が例示されている(摘記13c参照)ものの,甲第13号証には,「マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)」が,モキシデクチンで防除できることについては記載されていない。

(イ)甲第9号証の記載からの容易想到性について
甲第9号証には,「式

を有する化合物。
〔式中、-X-Y-は、-CH_(2)-CH_(2)-,-CH_(2)-CH(OH)-,-CH=CH-,-CH_(2)-C(=O)-,又は-CH(OH)-CH_(2)-を示す。
R^(1)はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシアルキル基、アルキルチオアルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基または複素環基を示し、R^(1)が環状の基であるときは当該環は置換分を有していてもよい。
R^(2)は水素原子、メチル基、ヒドロキシル保護基又はエステルを形成するカルボン酸残基もしくは炭酸残基を示す。
R^(3)は水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基又はOR^(4)を示し、R^(4)は低級アルキル基、フェニル基、エステルを形成するカルボン酸残基もしくは炭酸残基またはアセタールを形成する糖残基もしくはオキサシクロアルキル基を示す。
Aは低級アルキル基、ホルミル基、アジドメチル基、シアノメチル基、フロロメチル基、クロロメチル基、ヨードメチル基、又は式、CH_(2)OCOR^(5)、CH_(2)OR^(6)、CH_(2)S(CO)_(n)R^(6)、CH=N-O(CO)_(n)R^(6)、CH_(2)N(R^(7))-(CO)_(n)-R^(6)、CH_(2)OSO_(2)R^(8)もしくはCH_(2)OP(=O)(OR^(8))_(2)を示す。nは0または1を示し、R^(5)はシクロアルキル基、シクロアルケニル基、置換フェニル基、アラルキル基、置換ピリジル基又は少なくとも1つの硫黄原子もしくは酸素原子を含む複素環基を示す。R^(6)は水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基又は複素環基を示す。ただしR^(6)はnが0のときのみ水素原子となり得る。R^(7)は水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。R^(8)は低級アルキル基、フェニル基またはトリル基を示す。
ただしAはメチル基およびヒドロキシメチル基を除く。」(以下「甲9マクロライド化合物」という。)が記載されている(摘記9a参照)ものの,上記甲9マクロライド化合物はAがメチル基である場合が除かれているから,4位がメチル基である本件発明1の「LL-F28249系化合物」ではない。
そして,甲第9号証において,これらの化合物は,「マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus)・・・に対しても活性である」と一応記載されている(摘記9d参照)が,甲9マクロライド化合物の殺虫効果を具体的に確認しているのは,殺ダニ活性のみであって(摘記9f参照),マツノザイセンチュウの防除については具体的に確認されていない。さらに「ミルベマイシン誘導体の活性が、4位メチル基の種々の有機置換基を変換することにより改良されることを見い出した」と記載されている(摘記9c参照)ことからみれば,仮に,甲9マクロライド化合物でマツノザイセンチュウに活性を有することが記載されているとしても,その活性が4位をメチル基にしたLL-F28249系化合物でも同様に奏するとまではいえない。
仮に,甲第9号証の記載から,甲9マクロライド化合物の類似化合物であるLL-F28249系化合物にマツノザイセンチュウの殺虫効果があることが期待し得るとしても,これを松類の枯損防止用組成物の有効成分として使用するには,さらに,松類に対して薬害を起こさないことを確認する必要があるが,LL-F28249系化合物が松類に対して薬害を起こさないことについては,甲第9号証をはじめいずれの証拠にも記載されていない。
そうすると,甲第9号証の記載を参酌しても,甲第2,3,13号証記載のLL-F28249系化合物を,甲1発明1の「殺虫活性成分」として採用することが当業者に容易であったということはできない。

(ウ)甲第4?8,10号証の記載からの容易想到性について
甲第4号証には,登録番号15278号の「酒石酸モランテル液剤」が昭和57年11月24日に登録され,その適用作物がマツであり,適用病害虫がマツノザイセンチュウであることが記載されている(摘記4a参照)。
甲第5号証には,登録番号16262号の「塩酸レバミゾール液剤」が1986年2月7日に登録されたことが記載され(摘記5a参照),甲第16号証には,農薬の「登録番号第16262号」の「ホドガヤセンチュリー注入剤」が「塩酸レバミゾール」を有効成分とし,マツノザイセンチュウの防除を対象とすることが記載されている(摘記16a,16b参照)。
甲第6号証には,登録番号18531号の「塩酸レバミゾール液剤」という農薬が平成5年12月1日に登録され,その適用作物がマツであり,適用病害虫がマツノザイセンチュウであることが記載されている(摘記6a参照)。
甲第7号証には,「1-メチル-2-[2-(3-メチル-2-チエニル)ビニル]-Δ2-テトラヒドロピリミシン塩酸塩」(摘記7c参照),すなわちモランテル塩酸塩が,経口的又は非経口的に投与された際に,ヒトを含む動物における蠕虫病のコントロールとして驚くほど有効な薬剤であって(摘記7a参照),「ヘモンクス属、トリコストロンギルス属、アスカリス属、トリコリス属、アンシクロストーマ属、ネマトジラス属、ストロンギラス属、コーペリア属、及びブノストムム属」などの「特定の種の線虫・・・に対して活性があ」ることが記載されている(摘記7b参照)。
甲第8号証には,「D,L-またはL-2,3,5,6-テトラヒドロ-6-フェニル-イミダゾ-(2,1-b)チアゾール」(レバミゾール)の酸付加塩および液体希釈剤を動物の外皮に対して適用することからなる動物の寄生虫の侵入を防除することが記載され(摘記8a,8b参照),具体的には,畜牛,羊などの動物の寄生虫の防除に効果があることが示されている(摘記8c?8g参照)。
甲第10号証には,「マツノザイセンチュウ防除」に,「メスルフェンホス油剤(ネマノーン注入剤)および酒石酸モランテル液剤(グリンガード)が・・・農薬登録され、実用化されたこと」が記載され(摘記10a参照),「殺線虫剤で何とかしようと考えていたところ、動物用駆虫剤にマツノザイセンチュウを防除する効能のある薬剤を見つけることができ、それが農薬登録されるに至った」ことが記載されている(摘記10c参照)。
そうすると,甲第4?6,10号証の記載から,松類のマツノザイセンチュウの防除のため,メスルフェンホス油剤,酒石酸モランテル液剤,塩酸レバミゾール液剤が本件出願日前に使用されていたことが,また,甲7,8号証の記載から,モランテル,塩酸レバミゾールなどが動物用駆虫剤として使用されていたことが,さらに,甲第10号証の記載から,モランテル,塩酸レバミゾールが動物用駆虫剤からマツノザイセンチュウに転用されたものであることが認められる。
しかしながら,これらの記載は,動物用駆虫剤であれば,当然に,マツノザイセンチュウに対する防除の活性があることを意味するわけでなく,動物用駆虫剤やその他の線虫の駆除剤であったメスルフェンホス油剤,酒石酸モランテル液剤,塩酸レバミゾール液剤がマツノザイセンチュウの防除に活性があったとしても,同じく,線虫を含む動物寄生虫の防除に有効であるとされた甲第2,3,13号証に記載されたLL-F28249系化合物(摘記2c,3c,3e?3g,13b,13g参照)がマツノザイセンチュウの防除の活性を示すことにはならない。
したがって,甲第4?8,10号証の記載に基づいて,甲第2,3,13号証記載のLL-F28249系化合物を,甲1発明1の「殺虫活性成分」として採用することが当業者に容易であったということはできない。

(エ)その他の証拠について
甲第11号証は,「油溶性有機塩素系防虫防蟻剤を可溶化することにより粒子を細分化し、加圧注入することにより充分木材中に浸透する」ことに関して記載されたもの(摘記11a?11e参照)であり,甲第12号証は,抗寄生虫剤である「イベルメクチン」を「表面活性剤を可溶化剤として使用すること」により可溶化することに関して記載されたもの(摘記12a?12g参照)であって,いずれも,マツノザイセンチュウに対する防除と関係がない。

(オ)請求人の主張について
請求人は,無効理由1Aに関して,(α)甲第1号証記載の発明の認定,(β)甲第9号証からの容易想到性及び(γ)甲第4?8,10号証からの容易想到性について以下のような主張をしているので,これらについて検討する。

(α)甲第1号証記載の発明の認定について
・請求人の主張(平成26年3月3日付け口頭審理陳述要領書第12頁第8?17行)
甲1発明1は,甲第1号証に「本発明の樹幹注入用可溶化型製剤における樹幹注入用生物活性成分は、防除を目的とする有害生物の種類、樹木の種類などによっても適宜選択、変更できる」(摘記1c参照)と記載されるように,「O,O-ジメチル-O-4-メチルチオ-m-トリルホスホロチオエート」等の特定の成分に限定されるものではない。

・請求人の主張の検討
甲1発明1は,「マツノザイセンチュウを駆除するための松類の枯損防止用組成物」の発明であるから,防除を目的とする有害生物の種類,樹木の種類が決定されており,樹幹注入用生物活性成分は,それに対応する「O,O-ジメチル-O-4-メチルチオ-m-トリルホスホロチオエート」等の特定の成分に限定されることは,上記記載(摘記1c)から明らかである。
よって,請求人の主張は採用できない。

(β)甲第9号証からの容易想到性について
・請求人の主張(平成26年3月24日付け上申書第3頁第19行?第6頁第17行参照)
甲第9号証のミルベマイシン化合物は,殺虫活性を改良するために,16員環マクロライド構造の4位のメチルを有機置換基に置換した化合物であって,4位のメチル基とした化合物が殺虫活性を有していないことを意味するものではなく,実施例17では,4位がメチル基でないミルベマイシン化合物よりも効果は低いが,4位がメチル基であるミルベマイシンA4でも殺ダニの効果が得られているのであるから,4位がメチル基であるネマデクチンをはじめとするLL-F28249系化合物でもマツノザイセンチュウに活性があることを当業者が容易に想到する。
甲第9号証では殺ダニ活性しか示されていない(実施例17)が,これは甲第9号証のマクロライド化合物がミルベマイシンA4より活性があることを示すためのものであり,ミルベマイシンA4をはじめとするミルベマイシン類やアルベメクチン類は,ダニのみならず,線虫に対しても広く活性を有していることが甲第9号証に記載される(摘記9b,9c参照)ように広く知られていたのであるから,マツノザイセンチュウの活性に関する具体的な実施例がなくても,甲第9号証のマクロライド化合物がマツノザイセンチュウに対する活性があると記載されている(摘記9d参照)以上,マクロライド化合物がマツノザイセンチュウに対する活性を有することは当業者が理解できる。

・請求人の主張の検討
甲第9号証には,「16員環マクロライド構造をもつ数種の既知化合物が各種微生物の発酵あるいはそのような天然発酵産物からの化学的誘導により半合成的に得られ、そして殺ダニ、殺虫、駆虫およびその他の殺寄生虫活性を示す。」(摘記9b参照),「上記の各種のクラスのミルベマイシン関連マクロライド化合物はすべて駆虫剤、殺外部寄生虫剤、殺ダニ剤あるいはその他の農薬としての一つまたはそれ以上の活性を有するといわれている。」(摘記9d参照)との記載があるが,これらの記載は,あくまでも,ミルベマイシン関連のマクロライド化合物であれば,必ず,「駆虫剤、殺外部寄生虫剤、殺ダニ剤」のすべてに対して使用できることを意味するものではない。
そして,甲第9号証には,甲9マクロライド化合物がマツノザイセンチュウに対する活性を有するとの記載は一応あるが(摘記9e参照),多数の例示の一つにすぎず,実際にそのような効果が確認されているわけではなく,殺ダニ効果を有する成分が,マツノザイセンチュウにも同様に活性があるとの技術常識も示されていないことからすれば,甲9マクロライド化合物がマツノザイセンチュウに対する活性が確実にあるとまではいえず,さらに,甲9マクロライド化合物よりも効果が劣るとされている4位がメチル基のマクロライド化合物であるLL-F28249系化合物についてまで,マツノザイセンチュウに対する活性があると認めることはできない。また,4位にメチル基を有するミルベマイシンA4についても甲9マクロライド化合物より効果は劣るが一応の殺ダニ活性が認められるとしても,同じく,甲9マイクロライド化合物の中でも効果の劣る化合物5などがあり(摘記9f参照),化合物の構造が多少でも変われば,殺虫活性は当然に変わり得るものであるから,甲第9号証の記載から,LL-F28249系化合物もマツノザイセンチュウに対する活性があると理解することはできない。
さらに,上記(イ)で述べたとおり,仮に,LL-F28249系化合物にマツノザイセンチュウの殺虫効果が期待し得るとしても,松類の枯損防止用組成物の有効成分として使用するには,これが松類に対して薬害を起こさない必要があり,LL-F28249系化合物が松類に対して薬害を起こさないことについては,甲第9号証をはじめいずれの証拠にも記載されていない。
そうすると,いずれにしても,請求人の主張は採用できない。

(γ)甲第4?8,10号証から(動物用駆虫剤からの転用)の容易想到性について
・請求人の主張(平成26年3月3日付け口頭審理陳述要領書第14頁下から第7行?第18頁第18行参照)
甲第17号証に記載されるように(摘記17a,17b参照),マツノザイセンチュウに対する防除薬の開発が進められ,メスルフェンホス,酒石酸モランテル,塩酸レバミゾール用いた樹幹注入剤が上市されていたところ,甲第4?8,10号証で示したとおり,これらの薬剤はいずれも動物用の内部寄生線虫に対する活性を有することが知られており,それがマツノザイセンチュウの防除薬に転用されたものであり,また,甲第21号証の記載されるように(摘記21a参照),アベルメクチンがマツノザイセンチュウに対してマヒ効果を示すことを本件出願日前に確認した当業者がいたのであるから,当業者であれば,動物の内部寄生線虫に活性を有することが知られているLL-F28249系化合物をマツノザイセンチュウに適用し,マツに樹幹注入して活性を確認することは当業者であれば容易に想到する。
16員環マクロライド化合物は,甲第2,3,9,13号証に記載される(摘記2c,3e?3g,9c,9d,13b,13c参照)ように,広く線虫活性を有する化合物として知られており,そのことは,甲第18号証のミルべメクチンは,開発当初から,センチュウを含む種々の害虫に対して極めて活性が高いとの記載(摘記18a参照),甲第19号証のネマデクチン及びモキシデクチンは,アイバメクチンやミルベマイシンと類似化合物で線虫に対して広い殺虫スペクトルを有しているとの記載(摘記19a?19c参照),甲第20号証のアベルメクチンはセンチュウに対して強い駆虫活性があるとの記載(摘記20a参照)から明らかであって,16員マクロライド構造を有しているLL-F28249系化合物が,マツノザイセンチュウにも活性を有することを期待して,マツに樹幹注入して活性を確認することは当業者であれば容易に想到する。
甲第10号証には,「マツ材線虫病に対する防除剤として試験し、有効性を示した薬剤はいずれも神経毒性を示す薬剤である」と記載され(摘記10b参照),また,モキシデクチンなどのマクロライド系化合物はGABA受容体に結合して,受容体に対するベンゾジアゼピンの結合を結合を高める作用があると記載される(摘記19c参照)ように,マクロライド系化合物であるアイバメクチンがセンチュウにマヒ作用を示すことが公知であったから,神経毒性を有するモキシデクチンなどのマクロライド化合物をマツノザイセンチュウ防除に用いることは当業者が容易に想到する。

・請求人の主張の検討
マクロライド化合物,ミルベマイシン(ミルベメクチン),アベルメクチン(アイバメクチン),LL-F28249系化合物の関係について整理しておく。
甲第9号証に記載される(摘記9a参照)ように,マクロライド化合物は,以下の構造式を有する。



そして,ミルベマイシンは,このマクロライド化合物において,-X-Y-が-CH_(2)-CH_(2)-,R^(1)はアルキル基,R^(2)は水素原子,メチル基,R^(3)は水素原子,Aはメチル基,-CH_(2)OCOR^(5)(R5は複素環)が選択された化合物である(摘記9b参照)。なお,甲第18号証の「ミルベメクチン」は2つの「ミルベマイシン」化合物の混合物である(摘記18b参照)。
また,アベルメクチンは,このマクロライド化合物において,-X-Y-が-CH_(2)-CH(OH)-,-CH=CH-,R^(1)はアルキル基,R^(2)は水素原子,メチル基,R^(3)は4’-(α-L-オレアンドロシル)-α-L-オレアンドロシルオキシ基,Aはメチル基が選択された化合物(摘記9c参照)である。なお,甲第19号証の「アイバメクチン」は「イベルメクチン(ivermectin)」のことであって,「アベルメクチン(avermectin)」のことをイベルメクチンと呼ぶこともあるから,同じ化合物を意味する。
一方,LL-F28249系化合物は,-X-Y-が-CH_(2)-CH(OH)-,-CH_(2)-CH(=NOCH_(3))-,R^(1)はアルケニル基,R^(2)は水素原子,メチル基,R^(3)は水素原子,Aはメチル基が選択された化合物である(本件特許請求の範囲第1項参照)。
そうすると,ミルベマイシン(ミルベメクチン),アベルメクチン(アイバメクチン),LL-F28249系化合物は,マクロライド化合物である点では共通しているが,それぞれ別の化合物である。
したがって,ミルベマイシン,アベルメクチンについての効果の記載は,直ちに,LL-F28249系化合物でも同じ効果があることにはならない。

そこで,請求人の主張を順次検討する。
上記(ウ)でも述べたとおり,甲第4?6,10,17号証の記載から,マツノザイセンチュウの防除に,メスルフェンホス油剤,酒石酸モランテル液剤,塩酸レバミゾール液剤が本件出願日前に使用され,また,これらの薬剤が動物寄生虫の駆虫剤として使用され,これらの薬剤が動物寄生虫の駆虫剤からマツノザイセンチュウに転用されたものであることは理解できるが,そのことは,動物寄生虫の駆虫剤であれば,当然に,マツノザイセンチュウに対する防除の活性があることを意味するわけではない。
また,甲第21号証は本件出願日後に頒布された刊行物であって,アベルメクチンがマツノザイセンチュウに対してマヒ効果を示すことを本件出願日前に確認した当業者がいたとしても,そのことが本件出願日前にアベルメクチンがマツノザイセンチュウに対してマヒ効果を示すとの事実が公知になっていたことを意味しないし,アベルメクチンでは苗木試験が困難であるからマツノザイセンチュウへの適用を断念したことも記載されている(摘記21a参照)。
請求人は,LL-F28249系化合物がマツノザイセンチュウの防除活性を示すことを期待し得ると主張するが,甲第4?6,10,17号証のいずれにも,LL-F28249系化合物がマツノザイセイチュウの防除活性を有することを明確に示唆する記載はなく,たまたま,動物寄生虫の駆虫剤として使用されていた塩酸レバミゾール液剤等がマツノザイセンチュウの防除に適用できたことを,すべての動物寄生虫の駆虫剤に同様に一般化できる根拠が示されていない以上,請求人の主張は採用できない。
上記(β)で述べたように,甲第9号証の記載は,ミルベマイシン関連のマクロライド化合物であれば,必ず,「駆虫剤、殺外部寄生虫剤、殺ダニ剤」として使用できることを意味するものではない。実際に,甲第9号証には,マクロライド化合物でもミルベメクチンA4や化合物5が他の甲9マクロライド化合物よりも殺ダニ効果が劣ることが記載されているし(摘記9f参照),甲第19号証にも「ネマデクチンという物質は・・・ほとんどの寄生虫に対して100%の効果を示します。しかし、さまざまなCooperia種に対してはもっと大量に投与しないと効果がない・・・内部寄生虫に対してはよく効くのですが、その他の外部寄生虫に対しては、効果はあるものの、さらに大量を投与しないと効果を発揮しない」(摘記19a参照)と記載されるように,寄生虫であっても種類が違ったり,マクロクロライドの構造が異なれば,それに対する活性が異なることが理解できる。
また,甲第18号証には,ミルベメクチンは,センチュウを含む種々の害虫に対して極めて活性が高い効果があるとの記載はあるが,その一方で,「マツノザイセンチュウに対しては平成8年から試験番号SI-9601として林業薬剤協会への委託試験を開始し,各府県の林業試験場などで,松枯れ防止剤としての高い効果と安全性(薬害)が確認され,“3年の効果”が認められました」(摘記18a参照)とも記載されており,この記載からすれば,ミルベメクチンがマツノザイセンチュウに適用されたのは本件出願後であったことが明らかである。
さらに,甲第20号証のアベルメクチンは強い駆虫活性があることが記載されている(摘記20a参照)が,そのセンチュウとは、胃腸管線虫ネマトスピロイデス・デュビウスであってマツノザイセンチュウではない。
そうすると,甲第2,3,9,13号証並びに甲第18?20号証の記載を参酌しても,LL-F28249系化合物がマツノザイセイチュウの防除活性を有することを明確に示唆する記載はなく,マクロライド化合物の中にはセンチュウ等に対する活性があるものがあるということから,直ちに,マクロライド化合物であるLL-F28249系化合物がマツノザイセンチュウに対する活性を期待できるということを導き出すことはできない。
甲第19号証には,「モキシデクチンはGABA受容体に結合して,受容体に対するベンゾジアゼピンの結合を高める作用があ」ると記載されているが(摘記19c参照),「しかし、これらの薬物の作用機序は同じでも、その効く範囲が大きく異なります。・・・これは、米国および南アフリカの羊から分離された捻転胃虫Haemonchusですが、これらの虫自体がアイバメクチンに対して抵抗性を獲得していることが知られております。」(摘記19d参照)とも記載されるように,マクロライド化合物の中でも内部寄生虫に効かないものも存在することからすれば,モキシデクチンはGABA受容体に結合する作用,すなわち,神経系に何らかの作用が期待できるとしても,マツノザイセンチュウを防除できる程度の神経毒性を有することが,甲第19号証の記載から理解できるとはいえない。
そして,上記(イ)で述べたとおり,仮に,LL-F28249系化合物がマツノザイセンチュウの殺虫効果があるとしても,松類の枯損防止用組成物の有効成分として使用するには,松類に対して薬害を起こさない必要があり,LL-F28249系化合物が松類に対して薬害を起こさないことについては,甲第19号証はじめいずれの証拠にも記載されていない。
そうすると,本件出願日の時点では,モキシデクチンのようなLL-F28249系化合物がマツノザイセンチュウに対する神経毒性を有することが当業者に知られていたといえない上に,松類に対する薬害を起こさないことを示す証拠も示されていないのであるから,甲第10号証に,マツノザイセンチュウの防除がセンチュウに対する神経毒性を示す薬剤であることの示唆があるとしても,モキシデクチンをマツノザイセンチュウ防除の薬剤として用いることは当業者が容易に想到し得たということはできない。

エ 小括
以上のとおり,甲1発明1において,甲第1?13号証の記載(さらに甲第16?21号証の記載を参酌しても)に基いて,本件出願前に,相違点(1-i)を構成することが当業者にとって容易になし得たものとはいえないから,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明1は,甲第1号証(主引用例)及び甲第2,3,13号証に記載された発明並びに甲第4?12号証に記載された事項から導かれる本件出願日前の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(3-2)本件発明2,3に対して
本件発明2は,本件発明1において,LL-F28249系化合物を「モキシデクチン」に限定されたものであり,また,本件発明3は,本件発明1において,LL-F28249系化合物を「ネマデクチン」に限定されたものであるから,本件発明2,3も本件発明1と同様に,甲第1号証(主引用例)及び甲第2,3,13号証に記載された発明並びに甲第4?12号証に記載された事項から導かれる本件出願日前の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(3-3)本件発明4に対して
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には,上記(3-1)アで述べたように,
「O,O-ジメチル-O-4-メチルチオ-m-トリルホスホロチオエート、O,O-ジエチル-O-4-メチルスルフイニルホスホロチオエート、O,O-ジメチル-O-4-メチルスルフイニル-m-トリルホスホロチオエート、O,O-ジエチル-O-4-メチルスルフイニル-m-トリルホスホロチオエート及びO-エチル-S-n-プロピル-O-4-メチルスルフイニルホスホロチオエートより成る群からえらばれた少なくとも一種の生物活性成分、水及び/又は低級アルコール類、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類より成る群からえらばれた少なくとも一種の溶剤、及びポリオキシアルキレンアルキルフエニルエーテル及びそのホルマリン縮合物、ポリオキシアルキレンカスターオイルエーテル、ポリオキシアルキレンロジンエステル、ジアルキルスルホコハク酸塩及びアルキルベンゼンスルホン酸塩より成る群からえらばれた少なくとも一種の活性成分可溶化界面活性剤を含有する組成物」が記載され,さらに,この組成物を,「樹幹内に施用することを特徴とする有用樹木枯損防止方法」(摘記1a参照)も記載され,さらに,「本発明によれば、好ましくは、マツノザイセンチユウの侵入する以前に、有用樹木の樹体内に本発明の樹幹注入用可溶化型製剤を施用、好ましくは非圧入タイプの施用手段で注入し、有用樹木、たとえばマツ類の枯損を防止する方法を提供することができる」(摘記1c参照)と記載されている。

そうすると,甲第1号証には,
「O,O-ジメチル-O-4-メチルチオ-m-トリルホスホロチオエート、O,O-ジエチル-O-4-メチルスルフイニルホスホロチオエート、O,O-ジメチル-O-4-メチルスルフイニル-m-トリルホスホロチオエート、O,O-ジエチル-O-4-メチルスルフイニル-m-トリルホスホロチオエート及びO-エチル-S-n-プロピル-O-4-メチルスルフイニルホスホロチオエートより成る群からえらばれた少なくとも一種の生物活性成分、水及び/又は低級アルコール類、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類より成る群からえらばれた少なくとも一種の溶剤、及びポリオキシアルキレンアルキルフエニルエーテル及びそのホルマリン縮合物、ポリオキシアルキレンカスターオイルエーテル、ポリオキシアルキレンロジンエステル、ジアルキルスルホコハク酸塩及びアルキルベンゼンスルホン酸塩より成る群からえらばれた少なくとも一種の活性成分可溶化界面活性剤を含有する組成物を、樹幹内に施用することを特徴とする、マツノザイセンチュウを防除する松類の樹木枯損防止方法」の発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されているといえる。

イ 対比
本件発明4と甲1発明2とを対比する。
本件発明4は,本件発明1の「松類の枯損防止用組成物」の「有効量を松類の樹幹に注入し、樹体内に転流させ、マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)を駆除することからなる、松類の枯損防止方法。」であるから,上記(3-1)アで述べたように,本件発明1と甲1発明1との対応関係は本件発明4と甲1発明2にもそのまま対応する。
そして,甲1発明2の「松類枯損防止用組成物を、樹幹内に施用すること」は,具体的に樹幹内に注入すること(摘記1c参照)であるから,これは,本件発明4の「松類の枯損防止用組成物の有効量を松類の樹幹に注入」することに相当する。

そうすると,本件発明4と甲1発明2とは,
「殺虫活性成分、及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、及びショ糖脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含む界面活性剤、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、イソプレングリコール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含有する水と混和しうる溶剤、水を含有する、マツノザイセンチュウを駆除するための松類の枯損防止用組成物の有効量を松類の樹幹に注入し、マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)を駆除することからなる、松類の枯損防止方法。」である点で一致し,以下の点で相違している。
(1-i’)殺虫活性成分が,本件発明4では,
「下記構造式で表されるLL-F28249系化合物(化学式は省略する。)」であるのに対して,
甲1発明2では,
「O,O-ジメチル-O-4-メチルチオ-m-トリルホスホロチオエート、O,O-ジエチル-O-4-メチルスルフイニルホスホロチオエート、O,O-ジメチル-O-4-メチルスルフイニル-m-トリルホスホロチオエート、O,O-ジエチル-O-4-メチルスルフイニル-m-トリルホスホロチオエート及びO-エチル-S-n-プロピル-O-4-メチルスルフイニルホスホロチオエートより成る群からえらばれた少なくとも一種」である点
(1-ii’)「殺虫活性成分、及び界面活性剤」を,本件発明4では,
「水と混和しうる溶剤に溶解させた後、水を加える方法により、LL-F28249系化合物の水に対する溶解性及び樹体内での分散性を向上させた」ものであって,組成物を「樹体内に転流させ」るのに対して,甲1発明2では,そのようなものか明確でない点

ウ 相違点の検討
相違点(1-i’)について検討する。
相違点(1-i’)は,上記(3-1)ウで検討した相違点(1-i)と実質的に同じであるから,上記(3-1)ウで述べたのと同様の理由により,甲1発明2において,甲第2?13号証の記載に基いて,本件出願前に,相違点(1-i’)を構成することが当業者にとって容易になし得たものとはいえない。

エ 小括
以上のとおり,甲1発明2において,甲第2?13号証の記載に基いて,本件出願前に,相違点(1-i’)を構成することが当業者にとって容易になし得たものとはいえないから,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明4は,甲第1号証(主引用例)及び甲第2,3,13号証に記載された発明並びに甲第4?12号証に記載された事項から導かれる本件出願日前の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(4)無効理由1Bについて
(4-1)本件発明1に対して
ア 甲第2号証に記載された発明(甲2発明1)
甲第2号証には,「一般式(III)
(式は省略する。)
(式中、
R^(1)はメチル、エチル、イソプロピル基であり、R^(2)は水素またはメチル基である)を有する化合物」の「少なくとも1種と1種またはそれ以上の担体・・・とを、必要に応じ、1種またはそれ以上の表面活性剤・・・と共に含有する・・・森林における害虫駆除に用いるための組成物」が記載され(摘記2a参照),「担体または希釈剤として使用し得る好適な溶剤には、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、アルコールおよびグリコールまたはそれらのエーテル、エステル、ケトン、酸アミド、強極性溶剤、任意にエポキシ化した植物油および水が含まれる。」との記載(摘記2f参照),「良好な乳化、分散および/または湿潤特性を有する従来の非イオン性、カチオンまたはアニオン表面活性剤」との記載(摘記2g参照)からみて,担体が「溶剤」として「芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、アルコールおよびグリコールまたはそれらのエーテル、エステル、ケトン、酸アミド、強極性溶剤、任意にエポキシ化した植物油および水」であり,界面活性剤が「非イオン性、カチオンまたはアニオン表面活性剤」である。
そうすると,甲第2号証には,
「一般式(III)

(式中、
R^(1)はメチル、エチル、イソプロピル基であり、R^(2)は水素またはメチル基である)化合物の少なくとも1種と、溶剤として芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、アルコールおよびグリコールまたはそれらのエーテル、エステル、ケトン、酸アミド、強極性溶剤、任意にエポキシ化した植物油および水を、界面活性剤として非イオン性、カチオンまたはアニオン表面活性剤を含む、森林における害虫駆除に用いるための組成物。」の発明(以下「甲2発明1」という。)が記載されているといえる。

また,甲第2号証には,「獣医薬の経口用飲薬」として,
「活性成分」が「ファクターA、B、C、D、EまたはFの内の1種」(摘記2h参照)で,これを「0.05?0.50w%/v」,「ポリソルベート85」を「5.0w%/v」,「ベンジルアルコール」を「3.0w%/v」,「プロピレングリコール」を「30.0w%/v」,「ホスフェートバッファー」を「6.0?6.5w%/v」に,水を加えて100%にしたもの」であって,「ポリソルベート85、ベンジルアルコールおよびプロピレングリコール中に活性成分を溶解・・・これに上記水の一部分を加えついで必要によりホスフエートバツフアーで・・・調整・・・水を加えて最終容量に調整する」ものが記載されている(摘記2i参照)。
そして,「ファクターA、B、C、D、EまたはF」は,
「式(III)
(化学式は省略する。)」において,それぞれ,
「フアクターA(R^(1)=イソプロピル、R^(2)=水素)、ファクターB(R^(1)=メチル、R^(2)=メチル)、フアクターC(R^(1)=メチル、R^(2)=水素)、フアクターD(R^(1)=エチル、R^(2)=水素)、フアクターE(R^(1)=エチル、R^(2)=メチル)およびフアクターF(R^(1)=イソプロピル、R^(2)=メチル)」(摘記2b参照)である。

そうすると,甲第2号証には,
「活性成分(ファクターA、B、C、
D、EまたはFのうちの1種) 0.05?0.50w%/v
ポリソルベート85 5.0
ベンジルアルコール 3.0
プロピレングリコール 30.0
ホスフェートバッファー 6.0?6.5
に水を加えて100%にしたものであって、
ポリソルベート85、ベンジルアルコールおよびプロピレングリコール中に活性成分を溶解し、水を加えて調製した獣医薬の経口用飲薬。
ただし,ファクターA、B、C、D、EまたはFは,
式(III)
(化学式は省略する。)において,それぞれ,
フアクターA(R^(1)=イソプロピル、R^(2)=水素)、ファクターB(R^(1)=メチル、R^(2)=メチル)、フアクターC(R^(1)=メチル、R^(2)=水素)、フアクターD(R^(1)=エチル、R^(2)=水素)、フアクターE(R^(1)=エチル、R^(2)=メチル)およびフアクターF(R^(1)=イソプロピル、R^(2)=メチル)である。」の発明(以下「甲2発明3」という。)が記載されている。

イ 本件発明1と甲2発明1との対比
本件発明1と甲2発明1とを対比する。
甲2発明1の式(III)において,R^(1)=イソプロピル、R^(2)=水素の場合,本件発明1の「ネマデクチン」に相当し,R^(1)=メチル、R^(2)=水素の場合,本件発明1の「LL-F28249β」に相当し,R^(1)=メチル、R^(2)=メチルの場合,本件発明1の「LL-F28249γ」に相当し,R^(1)=イソプロピル、R^(2)=メチルの場合,本件発明1の「LL-F28249λ」に相当するから,「LL-F28249系化合物」に相当する。
そして,本件発明1の「マツノザイセンチュウ」は,「森林の害虫」に当たる。

そうすると,本件発明1と甲2発明1とは,
「下記構造式で表されるLL-F28249系化合物(化学式は省略する。)、及び界面活性剤、溶剤を含有する、森林の害虫を駆除するための組成物。」である点で一致し,以下の点で相違している。
(2-i)本件発明1では,「メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、イソプレングリコール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含有する水と混和しうる溶剤、水を」含有しているのに対して,
甲2発明1では,溶剤が含まれるものの,「溶剤が芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、アルコールおよびグルコールおよびグリコールまたはそれらのエーテル、エステル、ケトン、酸アミド、強極性溶剤、任意にエポキシ化した植物油および水が含まれる」ものであって,上記本件発明1の溶剤と,水を含有することが必須の要件として特定されていない点
(2-ii)界面活性剤が,本件発明1では,「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、及びショ糖脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれた」ものであるのに対して,
甲2発明1では,「非イオン性、カチオンまたはアニオン表面活性剤」であって,上記本件発明1の界面活性剤とすることが必須の要件として特定されていない点
(2-iii)本件発明1は,「マツノザイセンチュウを防除し、枯損防止を行うための松類の枯損防止組成物」であるのに対して,
甲2発明1では,「森林の害虫を駆除するための組成物」であって,駆除対象となる害虫,植物について特定されていない点
(2-iv)本件発明1は,「水と混和しうる溶剤に溶解させた後、水を加える方法により、LL-F28249系化合物の水に対する溶解性及び樹体内での分散性を向上させた」ものであるのに対して,甲2発明1では,そのようなものか明確でない点

ウ 相違点(2-iii)の検討
上記(3)(3-1)ウ(ア)で述べたように,甲第2号証には,LL-F28249系化合物が,動物の寄生線虫や森林の線虫害虫の駆除に有効であり(摘記2a,2b,2c参照),その植物の「線虫」として,「アフエレンコイデス属、クロボデラ属、ヘテロデラ属、メロイドジン属およびパナグレルス属に属するもの」が例示されている(摘記2d参照)ものの,「マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)」がこれらの化合物で防除できることについては記載されていない。
そして,上記(3)(3-1)ウ(ア),(イ)で述べたように,LL-F28249系化合物について記載のある甲3,13号証にもLL-F28249系化合物でマツノザイセンチュウを駆除できることについて記載はなく,甲第9号証においても,4位のメチル基を置換したマクロライド化合物でマツノザイセンチュウに対する活性を示唆する記載があるものの,具体的にマツノザイセンチュウに対する活性を確認したものでもなく,LL-F28249系化合物は,松に対する薬害を起こさないことが示されてもいないから,甲2発明1において,「マツノザイセンチュウを防除し、枯損防止を行うための松類の枯損防止組成物」に使用することが当業者に容易になし得たとは認めることができない。
さらに,上記(3)(3-1)ウ(ウ)で述べたように,甲第4?8,10号証には,LL-F28249系化合物とは異なる酒石酸モランテル,塩酸レバミゾール液剤などがマツノザイセンチュウに対する活性を有すること,これらの薬剤が動物の寄生虫に防除効果があることを記載してはいるが,動物の寄生虫の駆除剤であれば,当然に,マツノザイセンチュウに対する防除の活性があることを意味するわけでないから,動物の寄生虫の駆除剤であったメスルフェンホス油剤,酒石酸モランテル液剤,塩酸レバミゾール液剤がマツノザイセンチュウの防除に活性があったとしても,同じく動物の寄生虫の駆除剤として有効な甲2,3,13号証に記載されたLL-F28249系化合物がマツノザイセンチュウの防除の活性を示すことにはならない。
また,甲第1号証は,上記(3)(3-1)アで述べたように,LL-F28249系化合物とは異なる「O,O-ジメチル-O-4-メチルチオ-m-トリルホスホロチオエート」等を生物活性成分として用いるマツノザイセンチュウを防除する枯損防止を行うための松類の樹幹注入用可溶化型製剤が記載されているにすぎず,甲第11,12号証は,上記(3-1)ウ(エ)で述べたように,マツノザイセンチュウに対する防除とも,LL-F28249系化合物とも関係がない。

そうすると,甲2発明1において,甲第1?13号証の記載に基いて,本件出願前に,相違点(2-iii)を構成することが当業者にとって容易になし得たものとはいえない。

エ 本件発明1と甲2発明3との対比
本件発明1と甲2発明3とを対比する。
甲2発明3において,ファクターA(R^(1)=イソプロピル、R^(2)=水素)は,本件発明1の「ネマデクチン」に相当し,ファクターC(R^(1)=メチル、R^(2)=水素)は,本件発明1の「LL-F28249β」に相当し,ファクターB(R^(1)=メチル、R^(2)=メチル)は,本件発明1の「LL-F28249γ」に相当し,ファクターF(R^(1)=イソプロピル、R^(2)=メチル)は,本件発明1の「LL-F28249λ」に相当するから,「LL-F28249系化合物」に相当する。
甲2発明3の「ポリソルベート85」は,本件発明1の「ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類」に相当し,甲2発明3の「ベンジルアルコールとプロピレングルコール」の容量比1:10の混合溶媒は,甲第14号証(摘記14a,14b参照)からみて,「プロピレングリコールを含む水と混和し得る溶媒」に相当する。
そうすると,本件発明1と甲2発明3とは,
「下記構造式で表されるLL-F28249系化合物(化学式は省略する。)、及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ボリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、及びショ糖脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含む界面活性剤を、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、イソプレングリコール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含有する水と混和しうる溶剤に溶解した後、水を加える方法により得られた組成物」である点で一致し,以下の点で相違する。
(2-v)本件発明1が「マツノザイセンチュウを駆除するための松類の枯損防止用」であるのに対して,甲2発明3は,「獣医薬の経口用飲薬」である点
(2-vi)本件発明1が「LL-F28249系化合物の水に対する溶解性を向上させた」ものであるのに対して,甲2発明3では,その点が明確でない点

オ 相違点(2-v)の検討
甲2発明3は,獣医薬の経口用飲薬であり,そもそも,松類のマツノザイセンチュウの駆除とは対象が相違するものである。
そして,上記(3-1)ウ(ア)で述べたように,甲第2号証には,LL-F28249系化合物が「マツノザイセンチュウ」を防除できることについては記載がなく,甲第3,13号証や甲第9号証の記載が,甲2発明3で使用されているLL-F28249系化合物がマツノザイセンチュウの防除に適用できることを示唆するものではないことも上記(3)(3-1)ウ(ア),(イ)で述べたとおりである。
また,上記(3)(3-1)ウ(ウ)で述べたように,甲第4?8,10号証の記載から,動物の寄生虫の防除効果がある酒石酸モランテルや塩酸レバミゾール等の薬剤がマツノザイセンチュウの駆除に効果があることが理解できるとしても,動物の寄生虫の駆除剤であれば,当然に,マツノザイセンチュウに対する防除の活性があることを意味するわけでないから,甲2発明3の「獣医薬の経口用飲薬」を「マツノザイセンチュウを駆除するための松類の枯損防止用」に用途を変更することが当業者にとって容易であったとは認められない。
さらに,甲第1号証は,上記(3)(3-1)アで述べたように,LL-F28249系化合物とは異なる「O,O-ジメチル-O-4-メチルチオ-m-トリルホスホロチオエート」等を生物活性成分として用いるマツノザイセンチュウを防除する枯損防止を行うための松類の樹幹注入用可溶化型製剤が記載されているにすぎず,甲第11,12号証は,上記(3)(3-1)ウ(エ)で述べたように,マツノザイセンチュウに対する防除とは関係がない。

そうすると,甲2発明3において,甲第1?14号証の記載に基いて,本件出願前に,相違点(2-v)を構成することが当業者にとって容易になし得たものとはいえない。

カ 小括
以上のとおり,甲2発明1において,甲第1?13号証の記載に基いて,本件出願前に,相違点(2-iii)を構成することが当業者にとって容易になし得たものとはいえず,また,甲2発明3において,甲第1?14号証の記載に基いて,本件出願前に,相違点(2-v)を構成することが当業者にとって容易になし得たものとはいえないから,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明1は,甲第2号証(主引用例)及び甲第1,3,13号証に記載された発明並びに甲第4?12号証に記載された事項から導かれる本件出願日前の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(4-2)本件発明3に対して
本件発明3は,本件発明1において,LL-F28249系化合物を「ネマデクチン」に限定されたものであるから,上記(4-1)で述べたとおり,本件発明3も本件発明1と同様に,甲第2号証(主引用例)及び甲第1,3,13号証に記載された発明並びに甲第4?12号証に記載された事項から導かれる本件出願日前の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(4-3)本件発明4に対して
ア 刊行物2に記載された発明
甲第2号証には,「感染または侵襲をおこす寄生生物またはその他の害虫または真菌またはその他の生物あるいはそれらの存在する場所に有効量の」,
「一般式(III)
(式は省略する。)
(式中、
R^(1)はメチル、エチル、イソプロピル基であり、R^(2)は水素またはメチル基である)を有する化合物」の「少なくとも1種と1種またはそれ以上の担体・・・とを、必要に応じ、1種またはそれ以上の表面活性剤・・・と共に含有する・・・森林における害虫駆除に用いるための組成物」,「を適用することからなる感染または侵襲を抑制する方法」が記載されている(摘記2a参照)。
そして,上記(4-1)アで述べたとおり,担体が「溶剤」として「芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、アルコールおよびグリコールまたはそれらのエーテル、エステル、ケトン、酸アミド、強極性溶剤、任意にエポキシ化した植物油および水」であり,表面活性剤が「非イオン性、カチオンまたはアニオン表面活性剤」である。
そうすると,甲第2号証には,
「感染または侵襲をおこす害虫の存在する場所に、有効量の
一般式(III)
(化学式は省略する。)
(式中、
R^(1)はメチル、エチル、イソプロピル基であり、R^(2)は水素またはメチル基である)化合物の少なくとも1種と、希釈剤としての溶剤と、非イオン性、カチオンまたはアニオン表面活性剤を含む、森林における害虫駆除に用いるための組成物を適用することからなる感染または侵襲を抑制する方法。」の発明(以下「甲2発明2」という。)が記載されている。

イ 本件発明4と甲2発明2との対比
本件発明1と甲2発明2とを対比する。
本件発明4は,本件発明1の「松類の枯損防止用組成物のの有効量を松類の樹幹に注入し、樹体内に転流させ、マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)を駆除することからなる、松類の枯損防止方法。」であるから,上記(4-1)アで述べたように,本件発明1と甲2発明1との対応関係は本件発明4と甲2発明2にもそのまま対応する。
そうすると,本件発明4と甲2発明2とは,
「下記構造式で表されるLL-F28249系化合物(化学式は省略する。)、及び界面活性剤、溶剤を含有する、森林の害虫を駆除するための組成物の有効量を適用して、害虫を駆除することからなる、方法。」である点で一致し,以下の点で相違している。
(2-i’)本件発明4では,「メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、イソプレングリコール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含有する水と混和しうる溶剤、水を」含有しているのに対して,
甲2発明2では,溶剤が含まれるものの,「溶剤が芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、アルコールおよびグルコールおよびグリコールまたはそれらのエーテル、エステル、ケトン、酸アミド、強極性溶剤、任意にエポキシ化した植物油および水が含まれる」ものであって,上記本件発明4の溶剤と,水を含有することが必須の要件として特定されていない点
(2-ii’)界面活性剤が,本件発明4では,「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、及びショ糖脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれた」ものであるのに対して,
甲2発明2では,「非イオン性、カチオンまたはアニオン表面活性剤」であって,上記本件発明4の界面活性剤とすることが必須の要件として特定されていない点
(2-iii’)本件発明4は,「マツノザイセンチュウを防除し、枯損防止を行うための松類の枯損防止組成物の有効量を松類の樹幹に注入し、マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)を駆除することからなる、松類の枯損防止方法」であるのに対して,
甲2発明2では,「森林の害虫を駆除するための組成物を適用する害虫を駆除することからなる方法」であって,駆除対象となる害虫,植物について特定されていない点
(2-iv’)本件発明4は,組成物が「水と混和しうる溶剤に溶解させた後、水を加える方法により、LL-F28249系化合物の水に対する溶解性及び樹体内での分散性を向上させた」もので,「樹体内に転流させる」のに対して,甲2発明2では,そのようなものか明確でない点

ウ 相違点(2-iii’)の検討
相違点(2-iii’)は,上記(4-1)ウで検討した相違点(2-iii)と実質的に同じであるから,上記(4-1)ウで述べたのと同様の理由により,甲2発明2において,甲第1?13号証の記載に基いて,本件出願前に,相違点(2-iii’)を構成することが当業者にとって容易になし得たものとはいえない。

エ 小括
以上のとおり,甲2発明2において,甲第1?13号証の記載に基いて,本件出願前に,相違点(2-iii’)を構成することが当業者にとって容易になし得たものとはいえないから,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明4は,甲第2号証(主引用例)及び甲第1,3,13号証に記載された発明並びに甲第4?12号証に記載された事項から導かれる本件出願日前の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(5)無効理由1Cについて
(5-1)本件発明1に対して
ア 甲第13号証に記載された発明(甲13発明1)
甲第13号証には,
「式(I)
(化学式は省略する。)
(式中R^(1)はメチル、エチルまたはイソプロピル基を示し;R^(2)は水素原子、C_(1)?_(8)のアルキル基、またはC_(3)?_(8)のアルケニル基を示し、また基NOR^(2)はE配置をなし、
OR^(3)はヒドロキシル基または25個までの炭素原子を有する置換されたヒドロキシル基を示す)
で表わされる化合物」を「少なくとも1」つ「有効量」含有し,「1または2以上の担体及び/または賦形剤を含有する害虫抑制組成物」(摘記13a参照)が記載され,「植物・・・に適用する」(摘記13b参照)ことが記載されている。さらに,「担体または希釈剤として使用される適当な溶剤は、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、アルコールおよびグリコールまたはそのエーテル、エステル、ケトン、酸アミド、強極性溶剤、場合によつてはエポキシ化した植物油および水を包含する。」との記載(摘記13e参照),「従来の非イオン性、陽イオン性または陰イオン性界面活性剤・・・は、良好な乳化、分散および(または)湿潤性を有しており・・・組成物に使用することができる」との記載(摘記13f参照)からみて,担体が「溶剤」として「芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、アルコールおよびグリコールまたはそのエーテル、エステル、ケトン、酸アミド、強極性溶剤、任意にエポキシ化した植物油および水」であり,組成物には「非イオン性、陽イオン性または陰イオン性界面活性剤」を含むことができる。
そうすると,甲第13号証には,
「式(I)

(式中R^(1)はメチル、エチルまたはイソプロピル基を示し;R^(2)は水素原子、C_(1)?_(8)のアルキル基、またはC_(3)?_(8)のアルケニル基を示し、また基NOR^(2)はE配置をなし、OR^(3)はヒドロキシル基または25個までの炭素原子を有する置換されたヒドロキシル基を示す)で表わされる化合物の少なくとも1つと、溶剤として芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、アルコールおよびグリコールまたはそのエーテル、エステル、ケトン、酸アミド、強極性溶剤、場合によつてはエポキシ化した植物油および水と、非イオン性、陽イオン性または陰イオン性界面活性剤を含む、植物の害虫抑制組成物。」の発明(以下,「甲13発明1」という。)が記載されているといえる。

イ 本件発明1と甲13発明1との対比
本件発明1と甲13発明1とを対比する。
甲13発明1の式(I)において,R^(1)はイソプロピル基,R^(2)はC_(1)のアルキル基、OR^(3)はヒドロキシル基で表される化合物は,本件発明1の「モキシデクチン」に相当するから,「LL-F28249系化合物」に相当する。
そして,本件発明1の「マツノザイセンチュウ」は,「植物の害虫」に当たる。

そうすると,本件発明1と甲13発明1とは,
「下記構造式で表されるLL-F28249系化合物(化学式は省略する。)、及び界面活性剤、溶剤を含有する、植物の害虫を駆除するための組成物」である点で一致し,以下の点で相違している。
(3-i)本件発明1では,「メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、イソプレングリコール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含有する水と混和しうる溶剤、水を」含有しているのに対して,
甲13発明1では,溶剤が含まれるものの,「溶剤が芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、アルコールおよびグルコールおよびグリコールまたはそのエーテル、エステル、ケトン、酸アミド、強極性溶剤、場合によってはエポキシ化した植物油および水が含まれる」ものであって,上記本件発明1の溶剤と,水を含有することが必須の要件として特定されていない点
(3-ii)界面活性剤が,本件発明1では,「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、及びショ糖脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれた」ものであるのに対して,
甲13発明1では,「非イオン性、陽イオン性または陰イオン性界面活性剤」であって,上記本件発明1の界面活性剤とすることが必須の要件として特定されていない点
(3-iii)本件発明1は,「マツノザイセンチュウを防除し、枯損防止を行うための松類の枯損防止組成物」であるのに対して,
甲13発明1では,「植物の害虫を駆除するための組成物」であって,防除対象となる害虫,植物について特定されていない点
(3-iv)本件発明1は,「水と混和しうる溶剤に溶解させた後、水を加える方法により、LL-F28249系化合物の水に対する溶解性及び樹体内での分散性を向上させた」ものであるのに対して,甲13発明1では,そのようなものか明確ではない点

ウ 相違点(3-iii)の検討
上記(3)(3-1)ウ(ア)で述べたように,甲第13号証には,式(I)の化合物が,広範囲の内部寄生虫及び外部寄生虫に対して活性である。森林の線虫害虫の駆除に有効であり(摘記13c参照),「アフエレンコイデス(Aphelencoides)、グロボデラ(Globodera)、ヘテロデラ(Heterodera)、メロイドギネ(Meloidogyne)およびパナグレルス(Panagrellus)属の種のような線虫」が例示されている(摘記13d参照)ものの,「マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)」がこれらの化合物で防除できることについては記載されていない。
そして,上記(3)(3-1)ウ(ア),(イ)で述べたように,LL-F28249系化合物について記載のある甲2,3号証にもLL-F28249系化合物でマツノザイセンチュウを駆除できることについて記載はなく,甲第9号証においても,4位のメチル基を置換したマクロライド化合物でマツノザイセンチュウに対する活性を示唆する記載があるものの,具体的にマツノザイセンチュウに対する活性を確認したものでもなく,LL-F28249系化合物は,4位にメチル基を置換したマクロライド化合物と同様の線虫に対する活性を奏するともいえず,LL-F28249系化合物は,松に対する薬害を起こさないことが示されてもいないから,甲13発明1において,「マツノザイセンチュウを防除し、枯損防止を行うための松類の枯損防止組成物」に使用することが当業者に容易になし得たとは認めることができない。
さらに,上記(3)(3-1)ウ(ウ)で述べたように,甲第4?8,10号証には,LL-F28249系化合物とは異なる酒石酸モランテル,塩酸レバミゾール液剤などがマツノザイセンチュウに対する活性を有すること,これらの薬剤が動物の寄生虫の防除効果があることを記載しているにすぎず,動物用駆虫剤であれば,当然に,マツノザイセンチュウに対する防除の活性があることを意味するわけでないから,動物用の駆虫剤であったメスルフェンホス油剤,酒石酸モランテル液剤,塩酸レバミゾール液剤がマツノザイセンチュウの防除に活性があったとしても,同じく動物の寄生虫の駆除剤として有効な甲2,3,13号証に記載されたLL-F28249系化合物がマツノザイセンチュウの防除の活性を示すことにはならない。
また,甲第1号証は,上記(3)(3-1)アで述べたように,LL-F28249系化合物とは異なる「O,O-ジメチル-O-4-メチルチオ-m-トリルホスホロチオエート」等を生物活性成分として用いるマツノザイセンチュウを防除する枯損防止を行うための松類の樹幹注入用可溶化型製剤が記載されているにすぎず,甲第11,12号証は,上記(3)(3-1)ウ(エ)で述べたように,マツノザイセンチュウに対する防除と関係がない。

そうすると,甲13発明1において,甲第1?13号証の記載に基いて,本件出願前に,相違点(3-iii)を構成することが当業者にとって容易になし得たものとはいえない。

エ 小括
以上のとおり,甲13発明1において,甲第1?13号証の記載に基いて,本件出願前に,相違点(3-iii)を構成することが当業者にとって容易になし得たものとはいえないから,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明1は,甲第13号証(主引用例)及び甲第1?3号証に記載された発明並びに甲第4?12号証に記載された事項から導かれる本件出願日前の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(5-2)本件発明2に対して
本件発明2は,本件発明1において,LL-F28249系化合物を「モキシデクチン」に限定されたものであるから,本件発明2も本件発明1と同様に,甲第13号証(主引用例)及び甲第1?3号証に記載された発明並びに甲第4?12号証に記載された事項から導かれる本件出願日前の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(5-3)本件発明4に対して
ア 刊行物13に記載された発明(甲13発明2)
甲第13号証には,「植物・・・に適用することからなる・・・害虫を撲滅する方法」(摘記13b参照)であって,「有効量」の
「式(I)
(化学式は省略する。)
(式中R^(1)はメチル、エチルまたはイソプロピル基を示し;R^(2)は水素原子、C_(1)?_(8)のアルキル基、またはC_(3)?_(8)のアルケニル基を示し、また基NOR^(2)はE配置をなし、
OR^(3)はヒドロキシル基または25個までの炭素原子を有する置換されたヒドロキシル基を示す)で表わされる化合物」の「少なくとも1」つを適用する(摘記13a参照)ことが記載されている。
さらに,上記(5-1)アで述べたように,甲第13号証には,式(I)の化合物と担体を含む害虫抑制組成物が記載され,これを植物に適用することも記載されているといえ,その際,担体が「溶剤」として「芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、アルコールおよびグリコールまたはそのエーテル、エステル、ケトン、酸アミド、強極性溶剤、任意にエポキシ化した植物油および水」であり,組成物に「非イオン性、陽イオン性または陰イオン性界面活性剤」を含むことができるものである。
そうすると,甲第13号証には,
「有効量の
式(I)
(化学式は省略する。)
(式中R^(1)はメチル、エチルまたはイソプロピル基を示し;R^(2)は水素原子、C_(1)?_(8)のアルキル基、またはC_(3)?_(8)のアルケニル基を示し、また基NOR^(2)はE配置をなし、OR^(3)はヒドロキシル基または25個までの炭素原子を有する置換されたヒドロキシル基を示す)で表わされる化合物の少なくとも1つと、溶剤として芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、アルコールおよびグリコールまたはそのエーテル、エステル、ケトン、酸アミド、強極性溶剤、場合によつてはエポキシ化した植物油および水と、非イオン性、陽イオン性または陰イオン性界面活性剤を含む、植物の害虫抑制組成物を植物に適用することからなる害虫を撲滅する方法。」の発明(以下「甲13発明2」という。)が記載されているといえる。

イ 本件発明4と甲13発明2との対比
本件発明4と甲13発明2とを対比する。
本件発明4は,本件発明1の「松類の枯損防止用組成物のの有効量を松類の樹幹に注入し、樹体内に転流させ、マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)を駆除することからなる、松類の枯損防止方法。」であるから,上記(4-1)アで述べたように,本件発明1と甲13発明1の対応関係は本件発明4と甲13発明2にもそのまま対応する。
そうすると,本件発明4と甲13発明2とは,
「下記構造式で表されるLL-F28249系化合物(式は省略する。)、及び界面活性剤、溶剤を含有する、植物の害虫を駆除するための組成物を適用して、害虫を駆除することからなる、方法。」である点で一致し,以下の点で相違している。
(3-i’)本件発明4では,「メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、イソプレングリコール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含有する水と混和しうる溶剤、水を」含有しているのに対して,
甲13発明2では,溶剤が含まれるものの,「溶剤が芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、アルコールおよびグルコールおよびグリコールまたはそれらのエーテル、エステル、ケトン、酸アミド、強極性溶剤、場合によってはエポキシ化した植物油および水が含まれる」ものであって,上記本件発明4の溶剤と,水を含有することが必須の要件として特定されていない点
(3-ii’)界面活性剤が,本件発明4では,「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、及びショ糖脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれた」ものであるのに対して,
甲13発明2では,「非イオン性、カチオンまたはアニオン表面活性剤」であって,上記本件発明4の界面活性剤とすることが必須の要件として特定されていない点
(3-iii’)本件発明4は,「マツノザイセンチュウを防除し、枯損防止を行うための松類の枯損防止組成物の有効量を松類の樹幹に注入し、マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)を駆除することからなる、松類の枯損防止方法」であるのに対して,
甲13発明2では,「植物の害虫を駆除するための組成物を適用する害虫を駆除することからなる方法」であって,駆除対象となる害虫,植物について特定されていない点
(3-iv’)本件発明4は,組成物が「水と混和しうる溶剤に溶解させた後、水を加える方法により、LL-F28249系化合物の水に対する溶解性及び樹体内での分散性を向上させた」もので,「樹体内に転流させる」ものであるのに対して,甲13発明2では,そのようなものか明確でない点

ウ 相違点(3-iii’)の検討
相違点(3-iii’)は,上記(5-1)ウで検討した相違点(3-iii)と実質的に同じであるから,上記(5-1)ウで述べたのと同様の理由により,甲13発明2において,甲第1?13号証の記載に基いて,本件出願前に,相違点(3-iii’)を構成することが当業者にとって容易になし得たものとはいえない。

エ 小括
以上のとおり,甲13発明2において,甲第1?13号証の記載に基いて,本件出願前に,相違点(3-iii’)を構成することが当業者にとって容易になし得たものとはいえないから,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明4は,甲第13号証(主引用例)及び甲第1?3号証に記載された発明並びに甲第4?12号証に記載された事項から導かれる本件出願日前の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(6)小括
以上のとおり,本件発明1?4は,甲第1?13号証に記載された発明に基いて,当業者が本件出願前に容易に発明をすることができたものと認めることができず,上記理由及び証拠によっては,本件発明1?4についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえない。

3 無効理由2について
(1)特許法第36条第5項第1号の解釈について
特許法第36条第5項は,「第三項第四号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し,その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は,明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって,特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人又は特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である。
以下,この観点に立って検討する。

(2)特許請求の範囲の記載
本件の特許請求の範囲の記載は,上記第3に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
訂正後の本件明細書の発明の詳細な説明に,以下の事項が記載されている。
(a)「【0010】
【発明が解決しようとする課題】
前述したマツ材線虫病の防除技術にはそれぞれ一長一短がある。
カミキリ幼虫の駆除を目的とした伐倒・剥皮・焼却及び薬剤処理については、処理を徹底させるに必要な労働力が不足しており問題を抱えている。
また、カミキリ成虫の後食防止を目的とした殺虫剤の予防散布は、効果的な防除法であるが、その実施に際しては、周辺の状況によっていろいろな制約を受けている。
【0011】
樹幹注入剤による単木薬剤処理は、環境保存上重要な神社、仏閣または公園の大径木や市街地内の松、あるいは一般庭園の松等のカミキリの後食防止薬剤の散布がしにくい場所、さらに、予防散布をしても感染の可能性のある場合に実施されており有効な方法である。しかしながら、樹幹注入剤による薬害の発生、効果の安定性と持続性等の点で依然問題を抱えており、さらなる検討が求められている。
従って、本発明の目的は、上記問題を克服し、効果の安定した松類の枯損防止用組成物を提供することにある。」
(b)「【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、これらの課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記構造式のLL-F28249系化合物にマツノザイセンチュウに対して強力な殺虫活性があることを見い出した。
【0013】

【化3】
【0014】

【0015】
本発明において使用するLL-F28249系化合物としては、上記の化合物が挙げられるが、その中でも特にモキシデクチンが好ましい。本発明の松類の枯損防止用組成物は当該化合物を有効成分とする組成物であり、これを樹幹に注入し、樹体内で転流させることにより、感染した線虫が樹体内で活動を開始する以前に殺滅し、松類の枯損防止を図ることができる。」
(c)「【0017】
本発明の組成物は、LL-F28249系化合物の水に対する溶解性を改善し、さらに松樹体内への注入を容易にしたものであり、当該化合物の樹体内での分散を良好にし安定な駆除効果を発現させるものである。
本発明の組成物は、LL-F28249系化合物を有効成分とし、水及び溶剤、及び界面活性剤等の少なくとも一種またはその組み合わせにより構成される。」
(d)「【0018】
本発明の組成物に使用する溶剤は、水と容易に混和するものであればよい。例えば、メタノール、エタノール等のような低級アルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、イソプレングリコール等のような多価アルコール類、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等の極性溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、エチレングリコールモノアセテート等のようなグリコールエステル類及びジオキサン等が挙げられる。」
(e)「【0019】
本発明の組成物に使用する界面活性剤には、例えば、陰イオン界面活性剤としてアルキル硫酸エステル類、アルカンスルホン酸類、アルキルベンゼンスルホン酸類、アルキルリン酸エステル類、N-アシルサルコシン塩類、N-アシルアラニン塩類及びコハク酸塩類等が、陽イオン界面活性剤としてアルキルアミン類、アルキルトリメチルアンモニウム塩類、ジアルキルジメチルアンモニウム塩類、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩類及びアルキルピリジニウム塩類が、非イオン界面活性剤としてポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類及びプロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類等が、さらに両性界面活性剤としてアミノカルボン酸類、カルボキシベタイン類及びスルホベタイン類等がある。
【0020】
また、界面活性剤として非イオン界面活性剤を含有することが必須の要件であり、上記非イオン界面活性剤のうちポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類及びショ糖脂肪酸エステル類等が特に好適である。」
(f)「【0021】
本発明の組成物の各成分量は適宜変更できるが、活性成分(LL-F28249系化合物)を0.1?50重量%、好ましくは1?10重量%、界面活性剤を1?50重量%、好ましくは1?20重量%、水を10?80重量%、好ましくは10?70重量%、溶剤を10?80重量%、好ましくは10?70重量%、それぞれ含有することができる。
また、本発明の組成物の各成分の配合は任意の方法により行うことができるが、例えば、活性成分及び界面活性剤を溶剤に溶解させた後、水を加える方法により活性成分の水に対する溶解性を改善すると、樹体内での分散性に優れた本発明の組成物を容易に製造することができる。」
(g)「【0024】
実施例 1
(抗マツノザイセンチュウ活性試験)
LL-F28249系化合物の中より、モキシデクチンについて抗線虫活性の試験を以下の方法により行った。なお、本発明の化合物と抗線虫活性を比較するため、酒石酸モランテル、メスルフェンホス、塩酸レバミゾール及びコントロールの場合についても同様の試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0025】
試験方法
シャーレ内のポテトデキストロース寒天培地の全面に、 Botrytis cinerea 菌叢を形成して、試験用シャーレとした。試験用シャーレの中央に置いた綿球に、所定の濃度の薬剤溶液を0.15ml添加し、さらにマツノザイセンチュウ懸濁液(10000頭/ml)を0.15ml添加して、25℃で5日間インキュベートした後に Botrytis cinerea 菌叢の食痕部分の面積を測定した。なお、薬剤溶液は、薬剤0.1gをPOE(50)硬化ヒマシ油3g及びプロピレングリコール6gに溶解し、水を加えて100mlとしたものを、所定の濃度に水で稀釈したものである。
【0026】
食痕部分の面積(S)は食痕部分が円状となるため、その直径(D)を測定し、S=πD^(2 )/4の式により算出した。
抗線虫活性は次式により算出した。
抗線虫活性(%)=100-シャーレの内面積に対する食痕部分の面積比率(%)
【0027】
表1 薬剤の抗線虫活性試験の結果
┌─────────┬───────────────────┐
│ │ 薬 剤 濃 度 │
│ │50ppm 10ppm 5ppm 1ppm 0.5ppm│
├─────────┼───────────────────┤
│(本発明の化合物)│ │
│モキシデクチン │100 % 100 % 100 % 100 % 100 %│
├─────────┼───────────────────┤
│(比較対照化合物)│ │
│酒石酸モランテル │100 % 70 % 0 0 0 │
│メスルフェンホス │100 % 60 % 0 0 0 │
│塩酸レバミゾール │100 % 100 % 100 % 0 0 │
├─────────┼───────────────────┤
│(コントロール) │ 0 0 0 0 0 │
└─────────┴───────────────────┘
なお、コントロールは、前記薬剤溶液から薬剤を除いた溶液である。
【0028】
表1の試験結果から明らかなように、本発明のLL-F28249系化合物は、従来型の樹幹注入剤である酒石酸モランテル、メスルフェンホス及び塩酸レバミゾールより少ない薬剤濃度で抗線虫活性が認められた。」
(h)「【0029】
実施例 2
(松苗木による枯損防止試験)
LL-F28249系化合物の中より、モキシデクチンの可溶化製剤及び非可溶化製剤について松苗木(5年生)による枯損防止試験を以下の方法により実施した。なお、実施例1と同様、酒石酸モランテル、メスルフェンホス、塩酸レバミゾール及び薬剤非注入区についても試験を行った。注入製剤の組成を表2に、松苗木による枯損防止試験の結果を表3に示す。
【0030】
試験方法
マツ樹体内に表2の製剤、酒石酸モランテル製剤、メスルフェンホス製剤及び塩酸レバミゾール製剤を注入した後、約2週間後に強毒性マツノザイセンチュウ(S6-1)懸濁液(10000頭/ml)1mlを接種し、約2カ月後に枯損防止効果を判定した。
【0031】
表2 注入製剤
┌────────┬───────┬────────┐
│ │ 可溶化製剤 │ 非可溶化製剤 │
├────────┼───────┼────────┤
│モキシデクチン │ 2.0g │ 2.0g │
│HCO-40* │ 6.0g │ - │
│メタノール │ 70ml │ 70ml │
│精製水 │ 適量 │ 適量 │
├────────┼───────┼────────┤
│ 全 量 │ 100ml │ 100ml │
└────────┴───────┴────────┘
* HCO-40:POE(40)硬化ヒマシ油
【0032】
表3 松苗木による枯損防止試験の結果
┌──────────┬───────┬──────┬──────┐
│ │活性成分注入量│ 試験木数 │ 枯損木数 │
├──────────┼───────┼──────┼──────┤
│(本発明の組成物) │ │ │ │
│ 可溶化製剤 │ 20mg │ 10 │ 0 │
│ │ 5mg │ 10 │ 0 │
│ │ 1mg │ 10 │ 0 │
├──────────┼───────┼──────┼──────┤
│(比較対照製剤) │ 20mg │ 10 │ 8 │
│ 非可溶化製剤 │ 5mg │ 10 │ 9 │
│ │ 1mg │ 10 │ 10 │
├──────────┼───────┼──────┼──────┤
│酒石酸モランテル製剤│ 20mg │ 10 │ 1 │
│ │ 5mg │ 10 │ 8 │
│ │ 1mg │ 10 │ 9 │
├──────────┼───────┼──────┼──────┤
│メスルフェンホス製剤│ 20mg │ 10 │ 2 │
│ │ 5mg │ 10 │ 8 │
│ │ 1mg │ 10 │ 9 │
├──────────┼───────┼──────┼──────┤
│塩酸レバミゾール製剤│ 20mg │ 10 │ 0 │
│ │ 5mg │ 10 │ 5 │
│ │ 1mg │ 10 │ 9 │
├──────────┼───────┼──────┼──────┤
│(薬剤非注入区) │ - │ 10 │ 10 │
└──────────┴───────┴──────┴──────┘
酒石酸モランテル製剤:グリーンガード・エイト(ファイザー製薬製)
メスルフェンホス製剤:ネマノーン注入剤(日本バイエルアグロケム製)
塩酸レバミゾール製剤:センチュリー注入剤(保土谷化学工業製)
【0033】
表3の試験結果から明らかなように、本発明のLL-F28249系化合物の可溶化製剤は該化合物の非可溶化製剤、酒石酸モランテル製剤、メスルフェンホス及び塩酸レバミゾール製剤に比較して低薬量で松苗木による枯損防止効果が認められた。」

(4)判断
(4-1)無効理由2Aについて
訂正後の請求項1は,訂正前に,界面活性剤として記載されていた「アルキル硫酸エステル類、アルカンスルホン酸類、アルキルベンゼンスルホン酸類、アルキルリン酸エステル類、N-アシルサルコシン塩類、N-アシルアラニン塩類及びコハク酸塩類」が削除された。
そうすると,訂正後の本件発明1?4においては,界面活性剤は,非イオン性界面活性剤に限定されたから,発明の詳細な説明の「界面活性剤として非イオン界面活性剤を含有することが必須の要件であり」との記載(摘記d参照)と整合する。
よって,無効理由2Aは,訂正によって解消した。

(4-2)無効理由2Bについて
ア 本件発明の課題
発明の詳細な説明には,「マツ材線虫病の防除技術にはそれぞれ一長一短がある」こと,「樹幹注入剤による薬害の発生、効果の安定性と持続性等の点で依然問題を抱えて」いること,そして,「本発明の目的は、上記問題を克服し、効果の安定した松類の枯損防止用組成物を提供することにある」と記載されている(摘記a参照)から,本件発明が解決しようとする課題は,「樹幹注入剤による薬害の発生を防ぎ、効果の安定性と持続性がある松類の枯損防止用組成物(及び松類の枯損防止方法)を提供すること」にあるものと認める。

イ LL-F28249系化合物について
発明の詳細な説明には,「下記構造式のLL-F28249系化合物にマツノザイセンチュウに対して強力な殺虫活性があることを見い出した。」(摘記b参照)と記載され,実施例1では,LL-F28249系化合物の「モキシデクチン」について抗マツノザイセンチュウ活性試験を行い,抗線虫活性が認められることが記載され(摘記g参照),実施例2では,「モキシデクチンの可溶化製剤」を用いて松苗木による枯損防止試験を行い,松苗木の枯損防止効果が認められたことが記載されている(摘記h参照)。
その一方,LL-F28249系化合物には,モキシデクチン以外に,ネマデクチン,LL-F28249β,LL-F28249γ,LL-F28249λも含まれているが,モキシデクチン以外のLL-F28249系化合物がマツノザイセンチュウに対する殺虫活性があること,松類の枯損防止効果を示す具体的な効果は,発明の詳細な説明には記載されていない。
そして,これらのLL-F28249系化合物は,類似した化学構造式を有してはいるが,本件出願日前に頒布された甲第19号証には,「ネマデクチン」は,内部寄生虫に対してはよく効くが,その他の外部寄生虫に対してはさらに大量を投与しないと効果を発揮せず(摘記19a参照),そのため,より強力な「モキシデクチン」が開発されたことが記載されている(摘記19b参照)こと,また,本件出願日前に頒布された甲第9号証には,同様のマクロライド化合物であっても,4位のメチル基を置換したミルベマイシンや化合物5では他のマクロライド化合物と殺虫活性が異なることが記載されている(摘記9c,9f参照)ことからすれば,類似した化学構造式を有する化合物であれば,必ず同様の殺虫効果を奏するとはいえないし,松類に対して同様に薬害が生じないともいえないから,本件出願時において,モキシデクチンで抗マツノザイセンチュウ活性,松の枯損防止効果が得られれば,それ以外のLL-F28249系化合物の場合でも同様に抗マツノザイセンチュウ活性,松類の枯損防止効果を得ることができるとの技術常識があったとは認めることができない。
そうすると,本件発明1,3,4において,モキシデクチン以外のLL-F28249系化合物を使用した場合に,本件発明の課題を解決できると当業者が理解できる程度に,発明の詳細な説明に記載されているとはいえないから,本件発明1,3,4は,発明の詳細な説明に記載されたものとすることはできない。

ウ 溶剤及び界面活性剤について
(ア)発明の詳細な説明における記載
発明の詳細な説明には,「本発明の組成物は、LL-F28249系化合物の水に対する溶解性を改善し、さらに松樹体内への注入を容易にしたものであり、当該化合物の樹体内での分散を良好にし安定な駆除効果を発現」すると記載され(摘記c参照),LL-F28249系化合物の水への溶解性を改善し,枯損防止用組成物の樹体内での分散を良好にするため(本件発明の課題を解決するため)に,水と混和しうる溶剤及び界面活性剤が組成物に含まれているものと解される。
発明の詳細な説明には,本件発明に用いる「界面活性剤」及び「水と混和しうる溶剤」について,どのような物を使用するかについては一応記載され(摘記d,e参照),組成物の混合割合も含めた製造方法も記載されている(摘記f参照)ものの,この組成物に含まれる水と混和しうる溶剤及び界面活性剤がどのように作用して,LL-F28249系化合物の水への溶解性を改善し,枯損防止用組成物の樹体内での分散を良好にするのかについて理論的な説明は記載されていない。
そして,発明の詳細な説明の実施例においては,溶剤として「メタノール」,界面活性剤として「POE(40)硬化ヒマシ油」のみが使用されているだけ(摘記g参照)で,それ以外の「水と混和しうる溶剤」,「界面活性剤」について具体的に使用された実施例は記載されていない。
そうすると,発明の詳細な説明の記載のみからは,実施例以外の溶剤や界面活性剤を使用することで,LL-F28249系化合物の水への溶解性を改善し,枯損防止用組成物の樹体内での分散を良好にすることができるのかを,当業者が直ちに理解できるとまでいうことができない。

(イ)溶剤と界面活性剤の作用機序について
上記(ア)で述べたように,溶剤と界面活性剤がどのように,LL-F28249系化合物の水への溶解性を改善し,枯損防止用組成物の樹体内での分散を良好にするのかについて理論的な記載はないが,甲第12号証の「イベルメクチンの水に対する溶解度は極めて低く・・・イベルメクチンは、表面活性剤を可溶化剤として使用することにより可溶化できる。このことによりミセル又は微小なコロイド状粒子が形成され、これらがイベルメクチン分子を取り囲み、イベルメクチン分子を水から隔離し、透明な水溶液を形成する。」との記載(摘記12b参照)からその作用機序について類推する。
イベルメクチンは,上記2(3)(3-1)ウ(オ)(γ)で述べたように,LL-F28249系化合物と同じマクロライド化合物であって,本件発明においても,水に難溶性のLL-F28249系化合物を水と混和しうる溶剤及び界面活性剤と混合すると,LL-F28249系化合物を含むミセル又はコロイド粒子を形成し,LL-F28249系化合物を水から隔離して透明な水溶液を形成されていると解される。そして,このような可溶化された水溶液になることで,甲第1号証に「樹幹注入用可溶化型製剤が、それを樹体内に施用たとえば注入施用した際に・・・該製剤中の生物活性成分は、確実且つ充分に、樹体内各部位に広く取り込まれ、その結果、有用樹木の枯損防止を的確且つ完壁に達成」されると記載されるように(摘記1d参照),枯損防止用組成物の樹体内での分散を良好にするとの効果が生じたものと,一応推認できる。このことは,甲第10号証のマツノザイセンチュウに対する防除効果が水溶性が高い溶剤ほど高くなるとの記載(摘記10d参照)からも裏付けられているといえる。
その一方,甲第12号証には,可溶化された「そのような溶液は、・・・十分量の活性成分を含有する。しかし、そのようなミセル処方物は不安定であ」るとの記載(摘記12b参照),「採用する補助溶媒は、これらはイベルメクチンの安定性を劇的に増加させることが見出されているものであるが・・・水と混ざり合う有機溶媒である」との記載(摘記12c参照)からみて,本件発明においても,LL-F28249系化合物を水に可溶化させるため,水と混ざり合う溶媒(水と混和しうる溶剤)としたものであるが,さらに,溶媒はLL-F28249系化合物を安定化させることも必要であると解される。
また,本件出願日前に頒布された甲第24号証には,「界面活性剤のH.L.B.価について記述したが,活性剤を利用する上でこのH.L.B.価は極めて重要な指標となることが多い。そうしてこの価と用途の間には図1・61)のような一般的な関係があることが報告されている。」(第15頁第2?7行)と記載され,その図1・6には「15?18:可溶化作用」と記載され,さらに,「H.L.B.価は,その界面活性剤の水溶性と表1・102)に示すような関係がある。」と記載され(第15頁第17?18行),その表1・10には,H.L.B.価が10?13で,水溶性は「半透明または透明な分散」となること,H.L.B.価が10?13で,水溶性は「半透明または透明な分散」となることが記載されていることからすれば,H.L.B.価がある程度高い界面活性剤でないと本件発明においても可溶化できない可能性があるとの合理的な疑義を生じさせる。

(ウ)溶剤について
上記(イ)で述べたように,本件発明の「水と混和しうる溶媒」は,「水と混和しうる溶媒」であれば,当然に,LL-F28249系化合物を水に可溶化でき,それによって本件発明の課題を解決し得るというものではなく,その可溶化にあたっては,LL-F28249系化合物を安定化する性質も必要と解されるところ,本件発明の「水と混和しうる溶剤」として記載された「メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、イソプレングリコール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類」のすべてにそのような性質がある(可溶化に適する)と当業者が理解できるように発明の詳細な説明には記載されていないし,そのような技術常識も示されていない。
そうすると,「水と混和しうる溶剤」には,必ずしも「メタノール」と化学的な性質が類似するとはいえない溶媒(アセトン,アセトニトリル,テトラヒドロフラン,ジオキサン)も含まれていることからすれば,本件発明のすべての「水と混和しうる溶剤」についてまで,本件出願当時の技術常識を参酌しても,本件発明の課題が解決できると当業者が理解できるように,発明の詳細な説明に記載されているということはできない。

(エ)界面活性剤について
上記(イ)で述べたように,本件発明の「界面活性剤」として記載された「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類」であれば,当然に,LL-F28249系化合物を水に可溶化でき,それによって本件発明の課題を解決し得るとは認められない。そして,実施例で使用された「POE(40)硬化ヒマシ油」のH.L.B.価が12.5(当審の職権調査による)であることからみて,その可溶化にあたっては,界面活性剤ののH.L.B.価は最低でもこの程度の値であることが必要と認められる(なお,職権調査は「製品検索-ケミナビ(chemical-navi.com)」https://www.chemical-navi.com/product_search/detail323.htmlによる。口頭審理で,被請求人が上申書でこのH.L.B.価を釈明するとしていた(第1回口頭審理調書「別紙2(4)」参照)が,釈明がなされなかった(平成26年3月31日付け上申書参照)ため,職権調査を行った。)。
そして,本件発明の「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類」のなかには,例えば,甲第25号証(第1,3頁参照)に記載される,「ポリオキシエチレンアルキルエーテル類」に含まれる「商品名ニューコール2302(H.L.B.価6.3)」,「商品名ニューコールNT-3(H.L.B.価7.9)」などのように,明らかに,H.L.B.値が可溶化に必要と思われる値よりも低い界面活性剤が含まれている。
そうすると,本件発明の界面活性剤は,「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類」であるところ,この中には,実施例で示された「POE(40)硬化ヒマシ油」よりもはるかに低いH.L.B.価の界面活性剤が含まれており,そのような界面活性剤でも,LL-F28249系化合物の可溶化ができると当業者が理解できるように発明の詳細な説明には記載されていないし,そのような技術常識も示されていない。
よって,本件発明のすべての界面活性剤についてまで,本件出願当時の技術常識を参酌しても,本件発明の課題が解決できると当業者が理解できるように,発明の詳細な説明に記載されているということはできない。

(オ)小括
以上のとおり,本件発明1?4には,「LL-F28249系化合物」,「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ボリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、及びショ糖脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含む界面活性剤」,「メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、イソプレングリコール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含有する水と混和しうる溶剤」が記載されているが,発明の詳細な説明には,すべての「LL-F28249系化合物」,すべての「界面活性剤」,すべての「水と混和しうる溶剤」を使用した場合についてまで,LL-F28249系化合物の樹体内での分散性を向上させて,本件発明の課題を解決できると当業者が理解できるように記載されていないから,本件発明1?4のすべての範囲まで,発明の詳細な説明に記載されたものということができない。

(5)被請求人の主張
ア 被請求人の主張
被請求人は,無効理由2Bに対して,概ね以下の主張をしている。
実施例としての可溶化剤は1つしか例示していないが,代表例として,本件発明で規定された非イオン界面活性剤(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油)とメタノールを使用してその効果を確認しており,その他の非イオン界面活性剤や溶剤を使用しても実施例と同様の効果が実際に得られ,そのことに対して理解困難な部分はない(答弁書第13頁第24行?第14頁第19行)。
同容量のLL-F28249系化合物と,実施例2以外の界面活性剤,水と混和しうる溶剤を用いた場合にも実施例2の可溶化剤と同様の溶解性と粘度が達成できることは,実施例2の一例から当業者が十分に理解できることであって,薬害を及ぼさずに樹幹注入に適切な溶解性と粘度の要件を達成すれば,その結果として分散性の向上を図ることができ,実施例と同様の効果を期待し得る(口頭審理陳述要領書第10頁第11行?末行)。

イ 検討
サポート要件の立証責任は,上記(1)で述べたとおり,被請求人側にあるが,被請求人は,実施例以外の非イオン界面活性剤や溶剤を使用しても実施例と同様の効果が実際に得られると主張するのみで,そのような主張の具体的な根拠は何も示されていない。
また,実施例2以外の界面活性剤,水と混和しうる溶剤を用いた場合にも実施例2の可溶化剤と同様の溶解性と粘度が達成できるとも主張しているが,これについてもその根拠が何ら示されていない。
そして,実施例2以外,すべての「LL-F28249系化合物」,すべての「界面活性剤」,すべての「水と混和しうる溶剤」を使用した場合において,技術常識を参酌しても,実施例2に示した場合と同様の効果が得られると当業者が理解できる程度に発明の詳細な説明に記載されていると認められないことは,上記(4)(4-2)で詳述したとおりである。
よって,被請求人の主張は採用できない。

(6)小括
以上のとおり,本件発明1?4は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものということはできないから,本件特許請求の範囲の記載は,平成6年改正前特許法第36条第5項第1号に適合するものではなく,本件の特許が同法第36条第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであって,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。

4 無効理由3について
(1)特許法第36条第4項の解釈
特許法第36条第4項は,「前項第三号の発明の詳細な説明の記載には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成、効果を記載しなければならない。」と規定している。特許法第36条第4項は,明細書のいわゆる実施可能要件を規定したものであって,物の発明では,その物を作り,かつ,その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか,そのような記載がない場合には,明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき,当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく,その物を製造することができ,かつ,使用できる程度に発明の目的,構成,効果を記載されてなければならないと解される。
よって,この観点に立って,本件の実施可能要件の判断をする。

(2)発明の詳細な説明の記載
上記3(3)に記載されたとおりである。

(3)判断
(3-1)無効理由3Aに対して
訂正後の請求項1は,訂正前に,界面活性剤として記載されていた「アルキル硫酸エステル類、アルカンスルホン酸類、アルキルベンゼンスルホン酸類、アルキルリン酸エステル類、N-アシルサルコシン塩類、N-アシルアラニン塩類及びコハク酸塩類」が削除された。
そうすると,訂正後の本件発明1?4においては,界面活性剤は,非イオン性界面活性剤に限定されたから,陰イオン界面活性剤のみを含む組成物でも本件発明の効果を奏することが当業者に理解できないことを理由とする無効理由3Aは,訂正によって解消した。

(3-2)無効理由3Bに対して
ア 本件発明の効果について
発明の詳細な説明には,「本発明の組成物は、LL-F28249系化合物の水に対する溶解性を改善し、さらに松樹体内への注入を容易にしたものであり、当該化合物の樹体内での分散を良好にし安定な駆除効果を発現」すると記載され(摘記c参照),さらに,「本発明のLL-F28249系化合物の可溶化製剤は・・・松苗木による枯損防止効果が認められた」と記載されている(摘記g参照)ことからみて,本発明の組成物は,樹体内での分散を良好にして松類に対して枯損防止の効果を奏することが本件発明の効果であると認められる。
そうすると,発明の詳細な説明には,本件発明の組成物を当業者が単なる組成物として調製できるというだけではなく,当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく,当該組成物を,松類の樹幹内に注入し,樹体内での分散を良好にし,松類に対して枯損防止の効果が得られることが理解できるように記載されていなければならないものと認められる。

イ 発明の詳細な説明の記載について
上記3(4)(4-2)イ,ウで述べたように,発明の詳細な説明には,実施例として記載されたLL-F28249系化合物として「モキシデクチン」,界面活性剤として「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類のHOC-40」,水と混和しうる溶剤として「メタノール」を使用した場合に,上記の本件発明の効果を奏することが記載されているとはいえるが,それ以外のLL-F28249系化合物,界面活性剤,水と混和しうる溶剤についてはそのような効果を奏することが記載されておらず,本件出願時の技術常識を参酌しても,本件発明のすべてのLL-F28249系化合物,界面活性剤,水と混和しうる溶剤について,そのような効果が生じると当業者が理解できる程度に記載されているともいえない。

オ 小括
以上のとおり,発明の詳細な説明には,すべての「LL-F28249系化合物」,すべての「ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、及びショ糖脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含む界面活性剤」,すべての「メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、イソプレングリコール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含有する水と混和しうる溶剤」を使用した場合についてまで,本件発明を当業者が容易に実施することができる程度に本件発明の効果が記載されているということができない。

(4)被請求人の主張について
ア 被請求人の主張
被請求人は,無効理由3Bに対して,概ね以下の主張をしている。
実施例としての可溶化剤は1つしか例示していないが,可溶化製剤の配合例も記載され,実施例以外の非イオン界面活性剤や溶剤を使用しても,可溶化製剤を容易に製造でき,同様の効果が得られることに何ら困難性はない(答弁書第14頁第20行?第15頁第10行)。
同容量のLL-F28249系化合物と,実施例2以外の界面活性剤,水と混和しうる溶剤を用いた場合にも実施例2の可溶化剤と同様の溶解性と粘度が達成できることは,実施例2の一例から当業者が十分に理解できることであって,薬害を及ぼさずに樹幹注入に適切な溶解性と粘度の要件を達成すれば,その結果として分散性の向上を図ることができ,実施例と同様の効果を期待し得る(口頭審理陳述要領書第11頁第1?12行)。

イ 検討
実施可能要件の立証責任も,サポート要件と同様被請求人側にあるが,被請求人は,実施例以外の非イオン界面活性剤や溶剤を使用しても実施例と同様の効果が実際に得られると主張するのみで,そのような主張の具体的な根拠は何も示されていない。
また,実施例2以外の界面活性剤,水と混和しうる溶剤を用いた場合にも実施例2の可溶化剤と同様の溶解性と粘度が達成できるとも主張しているが,これについてもその根拠が何ら示されていない。
そして,実施例2以外,すべての「LL-F28249系化合物」,すべての「界面活性剤」,すべての「水と混和しうる溶剤」を使用した場合において,本件出願時の技術常識を参酌しても,実施例2に示した場合と同様の効果が得られると当業者が理解できる程度に発明の詳細な説明に記載されていると認められないことは,上記(3)(3-2)で述べたとおりである。
よって,被請求人の主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおりであるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載には,当業者が容易に本件発明の実施をすることができる程度に,本件発明の目的,構成,効果が記載されているとはいえないから,本件特許は平成6年改正前特許法第36条第4項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであって,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。

第7 むすび
以上のとおり,本件特許請求の範囲の記載は,訂正後の請求項1ないし4の特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから,平成6年改正前特許法第36条第5項第1号に適合するものではなく,訂正後の本件請求項1ないし4に係る発明についての特許は,同法第36条第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであって,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。
また,本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者が容易に訂正後の請求項1ないし4の特許を受けようとする発明の実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成,効果が記載されているとはいえないから,訂正後の本件請求項1ないし4に係る発明についての特許は平成6年改正前特許法第36条第4項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであって,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。

審判費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
松類の枯損防止用組成物及び防止方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】下記構造式で表わされるLL-F28249系化合物、及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、及びショ糖脂肪酸エステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含む界面活性剤を、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、イソプレングリコール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グリコールエーテル類及びグリコールエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも一種以上を含有する水と混和しうる溶剤に溶解させた後、水を加える方法により、LL-F28249系化合物の水に対する溶解性及び樹体内での分散性を向上させた、マツノザイセンチュウを駆除するための松類の枯損防止用組成物。
【化1】

【化2】

【請求項2】前記LL-F28249系化合物がモキシデクチンである請求項1記載の松類の枯損防止用組成物。
【請求項3】前記LL-F28249系化合物がネマデクチンである請求項1記載の松類の枯損防止用組成物。
【請求項4】請求項1?3のいずれか記載の松類の枯損防止用組成物の有効量を松類の樹幹に注入し、樹体内に転流させ、マツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)を駆除することからなる、松類の枯損防止方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、マツ材線虫病による松類の枯損防止用組成物に関し、当該組成物を用いる松類の枯損防止方法にも関するものである。
【0002】
【従来の技術】
夏から秋の初めにかけて松の葉が変色を始め、その約1カ月後には樹冠全体が赤変して枯死するマツ材線虫病は、線虫の一種であるマツノザイセンチュウ(Bursaphelenchus xylophilus)(以下線虫と略する)が病原とされている。また、この線虫はカミキリムシの一種であるマツノマダラカミキリ(Monochamus alternatus)(以下カミキリと略する)によって媒介される。5月中旬から7月末にかけて前年のマツ材線虫病の被害木から羽化、脱出したカミキリは、その体内及び体表に数千頭から数万頭の線虫を保持して健全な松の若枝を後食(成熟のための摂食)する。このとき線虫はカミキリの体から離脱し、カミキリが後食して傷ついた部位から松の樹体内に侵入し、増殖する。
【0003】
線虫が侵入した松は、2?3カ月すると外見的な萎凋症状を呈し、葉が変色する。葉が変色を始めた木を異常木というが、後食して成熟したカミキリは、子孫を残すため交尾後、この異常木に産卵し、やがて異常木は枯死する。一方、健全木では産卵されたカミキリの卵は、松の樹脂に巻かれるなどして孵化できなかったり、孵化した幼虫も樹皮下を食害中に樹脂に巻かれて死亡するためカミキリはほとんど成長できない。しかし、線虫の侵入によって衰弱した異常木や枯死木に産卵されたカミキリの卵は、樹脂に巻かれることなく孵化し、幼虫は樹皮下を食害しながら成長する。
【0004】
十分に成長したカミキリの幼虫は、晩秋から初冬にかけて越冬のために松の材内深く蛹室を作り冬の低温から身を守る。春になり気温が上昇すると蛹室で越冬したカミキリの幼虫は蛹となり、やがて羽化して成虫となり枯損木から脱出する。このとき蛹室の周囲に集まってきた線虫は羽化したカミキリに乗り移り、カミキリとともに枯損木から運び出される。線虫は、線虫を保持したカミキリが健全な松の若枝を後食する間にカミキリの体から離脱し、松の樹体内に侵入する。やがてこの松は、萎凋症状を呈し、葉が変色し始める。このようにして次々とマツ材線虫病により松の枯損が広がってゆく。
【0005】
このようなマツ材線虫病による松の枯損を防止するために次のような方法((1)?(4))がとられている。
【0006】
(1)カミキリ幼虫の駆除
カミキリが羽化する以前に、主に幼虫期に駆除することが行われる。カミキリ幼虫の生息場所は枯損木に限られており、枯損木を伐倒・剥皮・焼却あるいは薬剤処理することにより、カミキリ幼虫を駆除することができる。薬剤処理では有機リン系殺虫剤及びカーバメイト系殺虫剤を散布する方法、またはカーバム系の薬剤によるくん蒸等の方法がある。さらに、昆虫寄生性微生物や補食性天敵利用等の方法も検討されている。
【0007】
(2)カミキリ成虫の後食防止
カミキリ成虫の後食を阻止することにより、線虫の感染を防止することができる。これには殺虫剤をカミキリの羽化以前に散布する方法がとられており、地上からの散布やヘリコプターによる空中からの散布が実施されている。
【0008】
(3)単木薬剤処理による枯損防止方法
線虫の感染が予想される以前に、殺線虫作用のある薬剤を松の樹体に注入、あるいは土壌に施用することにより、線虫を直接駆除する方法である。現在、樹幹注入用薬剤として、メスルフェンホス、酒石酸モランテル、及び塩酸レバミゾールが使用されている。土壌施用薬剤としては、エチルチオメトン、メソミル及びアルデイカルブ等が有効であったが、いずれも実用化はされていない。
【0009】
(4)抵抗性松の育種
線虫に感染しても枯れない抵抗性の松を作るため、選抜育種や交雑育種あるいは弱毒性線虫による誘導抵抗性発現等が検討されている。これらの方法は徐々に成果は挙げられているものの、技術的に確立されるには相当の時間を要するものと思われる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
前述したマツ材線虫病の防除技術にはそれぞれ一長一短がある。カミキリ幼虫の駆除を目的とした伐倒・剥皮・焼却及び薬剤処理については、処理を徹底させるに必要な労働力が不足しており問題を抱えている。また、カミキリ成虫の後食防止を目的とした殺虫剤の予防散布は、効果的な防除法であるが、その実施に際しては、周辺の状況によっていろいろな制約を受けている。
【0011】
樹幹注入剤による単木薬剤処理は、環境保存上重要な神社、仏閣または公園の大径木や市街地内の松、あるいは一般庭園の松等のカミキリの後食防止薬剤の散布がしにくい場所、さらに、予防散布をしても感染の可能性のある場合に実施されており有効な方法である。しかしながら、樹幹注入剤による薬害の発生、効果の安定性と持続性等の点で依然問題を抱えており、さらなる検討が求められている。従って、本発明の目的は、上記問題を克服し、効果の安定した松類の枯損防止用組成物を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、これらの課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記構造式のLL-F28249系化合物にマツノザイセンチュウに対して強力な殺虫活性があることを見い出した。
【0013】
【化3】

【0014】
【化4】

【0015】
本発明において使用するLL-F28249系化合物としては、上記の化合物が挙げられるが、その中でも特にモキシデクチンが好ましい。本発明の松類の枯損防止用組成物は当該化合物を有効成分とする組成物であり、これを樹幹に注入し、樹体内で転流させることにより、感染した線虫が樹体内で活動を開始する以前に殺滅し、松類の枯損防止を図ることができる。
【0016】
本発明において使用するLL-F28249系化合物は、南オーストラリアの土壌より単離培養された菌Streptomyces cyaneogriseus sp.noncyanogenusの産生する代謝生産物であり、LL-F28249の菌と異なる菌から産生される殺ダニ活性を有するミルベマイシン系化合物とは明確に異なるものである。LL-F28249系化合物は人間を含む動物の寄生虫症の治療及び予防に有効であることが知られているが、ネマデクチン(LL-F28249α)の誘導体であるモキシデクチンは特に犬糸状虫症予防剤として使用されている。しかしながら、LL-F28249系化合物をマツ材線虫病の防除に利用して松類の枯損防止を図ろうとした知見は全くない。一方、LL-F28249系化合物はいずれも、水に対する溶解度が非常に小さいため、有機溶剤に溶かして松の樹体に注入しても樹体内での分散性が悪く、線虫の駆除効果に問題があった。
【0017】
本発明の組成物は、LL-F28249系化合物の水に対する溶解性を改善し、さらに松樹体内への注入を容易にしたものであり、当該化合物の樹体内での分散を良好にし安定な駆除効果を発現させるものである。本発明の組成物は、LL-F28249系化合物を有効成分とし、水及び溶剤、及び界面活性剤等の少なくとも一種またはその組み合わせにより構成される。
【0018】
本発明の組成物に使用する溶剤は、水と容易に混和するものであればよい。例えば、メタノール、エタノール等のような低級アルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、イソプレングリコール等のような多価アルコール類、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等の極性溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、エチレングリコールモノアセテート等のようなグリコールエステル類及びジオキサン等が挙げられる。
【0019】
本発明の組成物に使用する界面活性剤には、例えば、陰イオン界面活性剤としてアルキル硫酸エステル類、アルカンスルホン酸類、アルキルベンゼンスルホン酸類、アルキルリン酸エステル類、N-アシルサルコシン塩類、N-アシルアラニン塩類及びコハク酸塩類等が、陽イオン界面活性剤としてアルキルアミン類、アルキルトリメチルアンモニウム塩類、ジアルキルジメチルアンモニウム塩類、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩類及びアルキルピリジニウム塩類が、非イオン界面活性剤としてポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類及びプロピレングリコールモノ脂肪酸エステル類等が、さらに両性界面活性剤としてアミノカルボン酸類、カルボキシベタイン類及びスルホベタイン類等がある。
【0020】
また、界面活性剤として非イオン界面活性剤を含有することが必須の要件であり、上記非イオン界面活性剤のうちポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類及びショ糖脂肪酸エステル類等が特に好適である。
【0021】
本発明の組成物の各成分量は適宜変更できるが、活性成分(LL-F28249系化合物)を0.1?50重量%、好ましくは1?10重量%、界面活性剤を1?50重量%、好ましくは1?20重量%、水を10?80重量%、好ましくは10?70重量%、溶剤を10?80重量%、好ましくは10?70重量%、それぞれ含有することができる。また、本発明の組成物の各成分の配合は任意の方法により行うことができるが、例えば、活性成分及び界面活性剤を溶剤に溶解させた後、水を加える方法により活性成分の水に対する溶解性を改善すると、樹体内での分散性に優れた本発明の組成物を容易に製造することができる。
【0022】
松類への施用に際して、本発明の組成物の施用量は、目的、時期、樹齢及び被害の状況等によって適当に変更できる。施用には、松類の樹幹にボーリングにより穴を開け、その穴より、本発明の組成物を注入する等の方法を採用することができる。
【0023】
【実施例】
次に、実施例により本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
実施例 1
(抗マツノザイセンチュウ活性試験)
LL-F28249系化合物の中より、モキシデクチンについて抗線虫活性の試験を以下の方法により行った。なお、本発明の化合物と抗線虫活性を比較するため、酒石酸モランテル、メスルフェンホス、塩酸レバミゾール及びコントロールの場合についても同様の試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0025】
試験方法
シャーレ内のポテトデキストロース寒天培地の全面に、Botrytis cinerea菌叢を形成して、試験用シャーレとした。試験用シャーレの中央に置いた綿球に、所定の濃度の薬剤溶液を0.15ml添加し、さらにマツノザイセンチュウ懸濁液(10000頭/ml)を0.15ml添加して、25℃で5日間インキュベートした後にBotrytis cinerea菌叢の食痕部分の面積を測定した。なお、薬剤溶液は、薬剤0.1gをPOE(50)硬化ヒマシ油3g及びプロピレングリコール6gに溶解し、水を加えて100mlとしたものを、所定の濃度に水で稀釈したものである。
【0026】
食痕部分の面積(S)は食痕部分が円状となるため、その直径(D)を測定し、S=πD^(2)/4の式により算出した。抗線虫活性は次式により算出した。
抗線虫活性(%)=100-シャーレの内面積に対する食痕部分の面積比率(%)
【0027】

なお、コントロールは、前記薬剤溶液から薬剤を除いた溶液である。
【0028】
表1の試験結果から明らかなように、本発明のLL-F28249系化合物は、従来型の樹幹注入剤である酒石酸モランテル、メスルフェンホス及び塩酸レバミゾールより少ない薬剤濃度で抗線虫活性が認められた。
【0029】
実施例 2
(松苗木による枯損防止試験)
LL-F28249系化合物の中より、モキシデクチンの可溶化製剤及び非可溶化製剤について松苗木(5年生)による枯損防止試験を以下の方法により実施した。なお、実施例1と同様、酒石酸モランテル、メスルフェンホス、塩酸レバミゾール及び薬剤非注入区についても試験を行った。注入製剤の組成を表2に、松苗木による枯損防止試験の結果を表3に示す。
【0030】
試験方法
マツ樹体内に表2の製剤、酒石酸モランテル製剤、メスルフェンホス製剤及び塩酸レバミゾール製剤を注入した後、約2週間後に強毒性マツノザイセンチュウ(S6-1)懸濁液(10000頭/ml)1mlを接種し、約2カ月後に枯損防止効果を判定した。
【0031】

*HCO-40:POE(40)硬化ヒマシ油
【0032】

酒石酸モランテル製剤:グリーンガード・エイト(ファイザー製薬製)
メスルフェンホス製剤:ネマノーン注入剤(日本バイエルアグロケム製)
塩酸レバミゾール製剤:センチュリー注入剤(保土谷化学工業製)
【0033】
表3の試験結果から明らかなように、本発明のLL-F28249系化合物の可溶化製剤は該化合物の非可溶化製剤、酒石酸モランテル製剤、メスルフェンホス及び塩酸レバミゾール製剤に比較して低薬量で松苗木による枯損防止効果が認められた。
【0034】
【発明の効果】
本発明の組成物は、他の樹幹注入製剤(例えば、酒石酸モランテル、メスルフェンホス及び塩酸レバミゾール)に比較して、低薬量で優れた抗線虫活性を示すため、マツ材線虫病による松類の枯損に極めて有効である。また、本発明の組成物はLL-F28249系化合物の水に対する溶解性を改善しているため、松類の樹体内に該化合物の薬効が行きわたり、マツ材線虫病による松類の枯損防止が有効に図れる。さらに、本発明の松類の枯損防止方法はLL-F28249系化合物の有効量を松類の樹幹に注入し、樹体内に転流させて行うため、線虫の駆除が容易である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2014-08-04 
結審通知日 2014-08-06 
審決日 2014-08-19 
出願番号 特願平5-341367
審決分類 P 1 113・ 537- ZAA (A01N)
P 1 113・ 536- ZAA (A01N)
P 1 113・ 121- ZAA (A01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 今村 玲英子田中 耕一郎鈴木 恵理子大久保 元浩  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 門前 浩一
木村 敏康
登録日 1998-11-27 
登録番号 特許第2855181号(P2855181)
発明の名称 松類の枯損防止用組成物及び防止方法  
代理人 浅野 典子  
代理人 飯塚 卓也  
代理人 小笠原 匡隆  
代理人 増田 雅史  
代理人 風早 信昭  
代理人 高橋 詔男  
代理人 浅野 典子  
代理人 風早 信昭  
代理人 大槻 真紀子  
代理人 小野寺 良文  

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