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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1294411
審判番号 不服2013-243  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-08 
確定日 2014-11-26 
事件の表示 特願2008- 57599「クライアント環境生成システム、クライアント環境生成方法、クライアント環境生成プログラム、及び記憶媒体」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月24日出願公開、特開2009-217327〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成20年3月7日の出願であって、平成21年4月15日付けで審査請求がなされ、平成24年4月17日付けで拒絶理由通知(同年4月23日発送)がなされ、同年6月18日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたが、同年10月10日付けで拒絶査定(同年10月15日謄本送達)がなされたものである。
これに対して、「原査定を取り消す、本願の発明は特許すべきものとする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨として、平成25年1月8日付けで本件審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。
そして、平成25年3月6日付けで審査官により特許法第164条第3項に定める報告(前置報告)がなされ、同年8月13日付けで当審により特許法第134条第4項の規定に基づく審尋(同年8月14日発送)がなされ、同年10月9日付けで回答書の提出がなされたが、平成26年5月26日付けで当審により拒絶理由通知(同年5月27日発送)がなされ、これに対して、同年7月28日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明

本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記平成26年7月28日付け手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

「利用者に関する利用者情報を管理するユーザ情報管理サーバと、
前記利用者と前記利用者に付随する属性とを基に、前記利用者とクライアント環境の関連付けを自動的に行い、前記利用者が接続するクライアント環境の自動生成と接続管理と自動削除とを行うことで、前記クライアント環境、前記利用者情報、前記利用者と前記クライアント環境との接続設定、の3つの情報を同時に管理する管理サーバと、
前記クライアント環境が稼動するクライアント環境サーバと
を含み、
前記管理サーバは、前記利用者に付随する属性が変更された場合、自動的に前記クライアント環境の削除及び生成を行い、前記利用者に付随する属性と前記クライアント環境との関連付けを行う
クライアント環境生成システム。」

3.平成26年5月26日付け拒絶理由の概要

平成26年5月26日付けで通知した拒絶の理由の概要は、

本願請求項1ないし16に係る発明は、本願の出願前に頒布された、特開2007-272297号公報及び特開2007-310686号公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、

というものである。

4.引用文献に記載されている技術的事項及び引用発明の認定

(1)引用文献1

本願の出願前に頒布され、上記平成26年5月26日付けの当審による拒絶理由通知において引用された刊行物である、特開2007-272297号公報(平成19年10月18日出願公開、以下、「引用文献1」という。)には、関連する図面とともに、以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

A 「【0030】
本発明は、クライアントからのログイン要求に応じて接続先のサーバを用意するオンデマンドクライアントサービスシステム、その管理方法、及びプログラムであって、接続先のサーバとして物理的なサーバを用意するのではなく、Virtual Machineを利用した仮想的なサーバを用意することにより、最大接続数に対応する台数のサーバを電源投入状態にしておく必要がなく、かつ電力消費量を抑えることができる。」

B 「【0032】
まず、本実施形態に係るオンデマンドクライアントサービスシステムの構成について図1を用いて説明する。
【0033】
図1において、VM(1?5)は、Virtual Machineを示し、サーバコンピュータ上に仮想的に作成したコンピュータを示す。VMを作成する仕組みとしては、既に様々な機能がリリースされているが、ここでは説明を省略する。各VMは、リモートから画面を参照、操作できるように設定されているものとする。一般的にVirtual Machineは、VMを実現する手段が共通であれば、容量の違いなどスペックの差は設定できるが、基本的に同一機種として扱うことができ、一旦、VMとして構築することが出来れば、物理的なサーバのようにHW添付のドライバなど機種依存する要素が少なくなるため、将来的なHW交換などに伴うコスト削減が可能となる。
・・・(中略)・・・
【0035】
VM Host(6、7)は、Virtual Machineを作成可能なコンピュータを示す。システム規模に応じて、増減が可能である。」

C 「【0038】
クライアント端末(13、14)は、アカウント/コンピュータ管理手段10と通信し、アカウントの認証を要求する機能と、サーバの画面を表示し、更新するための最低限の機能が実装されていればよい。クライアント端末(13、14)は、近年のシンクライアントと呼ばれている端末に相当する。また、クライアント端末(13、14)は、アカウント/コンピュータ管理手段10とユーザデータ格納手段12とにクライアントサービス用ネットワーク16により接続されている。」

D 「【0042】
アカウント/コンピュータ管理手段10は、図2に示すように、アカウント、クライアント端末のID、該アカウントと接続されたVMのVM ID、及びVMのVM Typeを関連付けて管理する。アカウントは、ユーザデータ格納手段12に格納されており、アカウント/コンピュータ管理手段10により、クライアント端末からのアクセスを制御・管理する。図2のアカウント:user1に対しては、user1のユーザデータのみを端末に見せる。アカウントが、データ共有を許可したデータについては共有可能とする。
【0043】
ユーザ毎の個別情報は、ユーザデータ格納手段12によって格納されており、サーバとなるVMについてはネットワークアクセス情報(IPアドレスやホスト名など)以外、共通で利用でき、複製によるサーバの増設を実現する。」

E 「【0053】
アカウント/コンピュータ管理手段10は、クライアント端末(13、14)からのサーバへの接続要求を受け付ける(ステップS501)。そして、クライアント端末(13、14)からの接続要求時、アカウントの認証を行い(ステップS502)、アカウントの有効/無効を判断する(ステップS503)。
【0054】
アカウントが有効であれば(ステップS503/YES)、接続を許可し、予め設定されているアカウントに対応するサーバの準備として、サーバ管理手段11に対して、サーバ起動要求を指示する(ステップS504)。」

F 「【0055】
サーバ管理手段11は、サーバ起動要求が正常であるか否かを判断する(ステップS505)。サーバ管理手段11への起動要求結果が正常であれば(ステップS505/YES)、アカウント/コンピュータ管理手段10は、図2に示すようにクライアント端末(13、14)からの接続元のクライアント端末のIDとサーバ管理手段11から提供される接続先のサーバのVM IDとをアカウント接続情報として管理する(ステップS506)。そして、認証成功の通知を接続先のサーバのVM IDとともにクライアント端末(13、14)に送信する(ステップS507)。」

G 「【0059】
アカウント/コンピュータ管理手段10は、クライアント端末(13、14)からの切断要求を受け付け(ステップS510)、クライアント端末(13、14)から受信したアカウント接続情報が管理されているか否かを確認する(ステップS511)。クライアント端末(13、14)からの切断要求時、アカウント接続情報として登録されていれば(ステップS512/YES)、サーバ管理手段11に対して、サーバ停止要求を指示する(ステップS513)。サーバ管理手段11は、サーバの停止を実行し、その結果を確認する(ステップS514)。実行結果をクライアント端末に返信する(ステップS515、ステップS516)。」

H 「【0082】
また、VM、又はVM Hostの稼働率が低い場合、VMを任意のVM Host上に移動し、不要なVM Hostを停止状態にすることで消費電力を削減させ、かつ未使用状態のVM Hostが増加した場合、VM Host以外の用途としてサーバを利用することができる。」

J 「クライアント端末と接続先サーバの管理例を示す図」である図2からは、“「User1」及び「User2」というアカウントに対して「VM-A」という種類のVM”を用意し、“「User3」及び「User4」というアカウントに対して「VM-B」という種類のVM”を用意する態様が読み取れる。

ここで、上記引用文献1に記載されている事項を検討する。

(ア)上記Dの「アカウント/コンピュータ管理手段10は、図2に示すように、アカウント、クライアント端末のID、該アカウントと接続されたVMのVM ID、及びVMのVM Typeを関連付けて管理する」、「アカウントは、ユーザデータ格納手段12に格納」、「ユーザ毎の個別情報は、ユーザデータ格納手段12によって格納」との記載からすると、引用文献1には、「アカウント/コンピュータ管理手段」が、
“ユーザ毎の個別情報を管理”する態様
が記載されていると解される。

(イ)上記Aの「本発明は、クライアントからのログイン要求に応じて接続先のサーバを用意するオンデマンドクライアントサービスシステム・・・接続先のサーバとして物理的なサーバを用意するのではなく、Virtual Machineを利用した仮想的なサーバを用意する」との記載、上記Dの「アカウント/コンピュータ管理手段10は、図2に示すように、アカウント、クライアント端末のID、該アカウントと接続されたVMのVM ID、及びVMのVM Typeを関連付けて管理する」との記載、上記Eの「アカウント/コンピュータ管理手段10は、クライアント端末(13、14)からのサーバへの接続要求を受け付ける・・・アカウントが有効であれば・・・予め設定されているアカウントに対応するサーバの準備として、サーバ管理手段11に対して、サーバ起動要求を指示する」との記載からすると、引用文献1には、「アカウント/コンピュータ管理手段」が、
“ユーザと前記ユーザのアカウントを基に、予め設定されているアカウントに対応するVMを関連付け”る態様
が記載されていると解される。

(ウ)上記(イ)における検討内容、上記Dの「アカウント/コンピュータ管理手段10により、クライアント端末からのアクセスを制御・管理する」との記載、上記Fの「アカウント/コンピュータ管理手段10は、図2に示すようにクライアント端末(13、14)からの接続元のクライアント端末のIDとサーバ管理手段11から提供される接続先のサーバのVM IDとをアカウント接続情報として管理する」との記載、上記Gの「アカウント/コンピュータ管理手段10は・・・クライアント端末(13、14)からの切断要求時・・・サーバ管理手段11に対して、サーバ停止要求を指示する」との記載からすると、引用文献1には、「アカウント/コンピュータ管理手段」が、
“ユーザが接続するVMの用意と接続管理と停止”を行う態様
が記載されていると解される。

(エ)上記(ア)ないし(ウ)における検討内容を踏まえると、引用文献1には、「アカウント/コンピュータ管理手段」が、
“VM、ユーザ毎の個別情報、前記ユーザと前記VMとの接続設定、の3つの情報を同時に管理する”態様
が記載されていると解される。

(オ)上記Bの「図1において、VM(1?5)は、Virtual Machineを示し、サーバコンピュータ上に仮想的に作成したコンピュータ・・・VM Host(6、7)は、Virtual Machineを作成可能なコンピュータ」との記載からすると、引用文献1には、
“VMが稼働するVM Host”
が記載されていると解される。

(カ)上記Aの「本発明は、クライアントからのログイン要求に応じて接続先のサーバを用意するオンデマンドクライアントサービスシステム」との記載、上記Bの「本実施形態に係るオンデマンドクライアントサービスシステムの構成について図1を用いて説明」との記載からすると、引用文献1には、
“オンデマンドクライアントサービスシステム”
が記載されていると解される。

以上、(ア)ないし(カ)で指摘した事項を踏まえると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「ユーザ毎の個別情報を管理し、前記ユーザと前記ユーザのアカウントを基に、予め設定されているアカウントに対応するVMを関連付け、前記ユーザが接続するVMの用意と接続管理と停止とを行うことで、前記VM、前記ユーザ毎の個別情報、前記ユーザと前記VMとの接続設定、の3つの情報を同時に管理するアカウント/コンピュータ管理手段と、
前記VMが稼働するVM Hostと
を含む
オンデマンドクライアントサービスシステム。」

(2)引用文献2

本願の出願前に頒布され、上記平成26年5月26日付けの当審による拒絶理由通知において引用された刊行物である、特開2007-310686号公報(平成19年11月29日出願公開、以下、「引用文献2」という。)には、関連する図面とともに、以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

K 「【0022】
<データ>
図2は、認証情報記憶部に保持されるデータ構成の一例を示す図である。
認証情報記憶部320は、2つの情報を備える。図2(a)は、認証ユーザ情報であり、利用許可される識別情報とそれに対応するユーザの情報を管理する。図2(b)は、接続先認証情報であり、接続先として認証可能な業務端末の情報をユーザ毎に管理する。
・・・(中略)・・・
【0024】
接続先認証情報322の項目としては、それぞれの接続先認証情報を一意に識別する項番、ユーザID、業務端末情報、所属組織、利用許可されている業務システムなどの情報で構成された例が示されている。
この接続先認証情報322の情報を参照することで、ユーザIDに対応する業務端末を検出する。
なお、所属組織、利用許可されている業務システムなどの項目は、必須ではなく、また、適宜変更されてもよい。
認証情報記憶部320において、認証ユーザ情報321のユーザIDは、接続先認証情報322のユーザIDとリンクしている。」

5.参考文献に記載されている技術的事項

(1)参考文献1

本願の出願前に頒布され、原審の拒絶の査定の理由である上記平成24年4月17日付けの拒絶理由通知において引用された文献である、“川又 英紀,「複数システムのユーザーを一元管理:シングル・ログインの導入始まる」,日経コンピュータ,日本,日経BP社,1999年 7月19日,第474号,p.32-33”には、図とともに、以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

L 「アクセス権を人事情報と連携
旭化成はシングル・ログイン環境を実現するために,サーバー・ソフト「getAccess」(開発は米エンコマース)を導入した(図1)。WWWサーバーはユーザーからログイン要求を受けるとまず,getAccessを搭載した「アクセス制御用サーバー」にその旨を通知する。アクセス制御用サーバーはユーザーIDとパスワードを確認して,ユーザーがログイン要求を出したWWWサーバーだけでなく,そのユーザーがアクセス権を持つすべてのWWWサーバーにアクセスできるようにする。
ユーザーのアクセス権は,アクセス制御用サーバーに搭載したデータベース(DB)で管理する。旭化成はアクセス権の管理を容易にするため,このデータベースを,人事DBと連携させている。人事DBに格納した社員の役職や所属の情報を1日に1回,アクセス制御用サーバーに転送し,アクセス権を自動設定している。」(33頁左欄18行?中欄5行)

(2)参考文献2

本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2007-226428号公報(平成19年9月6日出願公開、以下、「参考文献2」という。)には、関連する図面とともに、以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。)

M 「【0030】
人事データベース8内には、例えば、図2に示すように、この企業に在籍している全部の社員に対して、社員コード、名前、所属組織、資格、住所等の人事情報が登録されている。この人事情報は、人事管理部9の人事担当者が組織変更発令、人事発令を実施すると自動的に新規の人事情報に更新される。」

N 「【0062】
このように、各システム3、4、サーバ2に対する処理要求が発生する毎に、処理要求を行ったユーザ(利用者)の利用権限16が、人事データベース8に登録されている現在時点における人事属性に基づいて設定される。よって、最新の人事異動に基づく利用権限16にて制限された処理が実施され、各システム3、4、サーバ2のセキュリティを大幅に向上できる。」

6.対比

ここで、引用発明と本願発明を対比する。

(1)引用発明の「ユーザ」及び「ユーザ毎の個別情報」は、それぞれ、本願発明の「利用者」及び「利用者に関する利用者情報」に相当する。また、引用発明の「アカウント/コンピュータ管理手段」をサーバにより構成できることは、当業者にとって自明の事項である。
してみると、引用発明の「ユーザ毎の個別情報を管理」する「アカウント/コンピュータ管理手段」と、本願発明の「利用者に関する利用者情報を管理するユーザ情報管理サーバ」とは、“利用者に関する利用者情報を管理する機能を含むサーバ”である点で共通する。

(2)引用発明の「VM」は、ユーザから要求があると、サーバ上に、当該ユーザに対するコンピュータ環境として自動的に作成されるものであることから、本願発明の「クライアント環境」に相当する。
そして、引用発明の「VM Host」は、本願発明の「クライアント環境サーバ」に相当する。

(3)引用発明の「ユーザのアカウント」と、本願発明の「利用者に付随する属性」とは、ともに“利用者に関する情報”といえるものである。また、引用発明の「予め設定されているアカウントに対応するVMを関連付け」ているところ、ユーザのアカウントに関連付けられているVMを自動的に用意することから、当該処理に際して、ユーザとVMの関連付けを自動的に行っていることは自明の事項である。
そうすると、引用発明の「前記ユーザと前記ユーザのアカウントを基に、予め設定されているアカウントに対応するVMを関連付け」ることと、本願発明の「前記利用者と前記利用者に付随する属性とを基に、前記利用者とクライアント環境の関連付けを自動的に行」うこととは、ともに、“前記利用者と前記利用者に関する情報を基に、前記利用者とクライアント環境の関連付けを自動的に行”うことである点で共通するといえる。

(4)引用発明の「ユーザが接続するVMの用意」とは、ユーザが利用できるVMを自動的に用意するものであるから、本願発明の「クライアント環境の自動生成」に相当するといえる。そして、引用発明の「停止」と、本願発明の「自動削除」とは、ともに、“セッション終了時の処理”といえるものである。
してみると、上記(3)の検討内容も踏まえると、引用発明の「前記ユーザと前記ユーザのアカウントを基に、予め設定されているアカウントに対応するVMを関連付け、前記ユーザが接続するVMの用意と接続管理と停止とを行うことで、前記VM、前記ユーザ毎の個別情報、前記ユーザと前記VMとの接続設定、の3つの情報を同時に管理するアカウント/コンピュータ管理手段」と、本願発明の「前記利用者と前記利用者に付随する属性とを基に、前記利用者とクライアント環境の関連付けを自動的に行い、前記利用者が接続するクライアント環境の自動生成と接続管理と自動削除とを行うことで、前記クライアント環境、前記利用者情報、前記利用者と前記クライアント環境との接続設定、の3つの情報を同時に管理する管理サーバ」とは、“前記利用者と前記利用者に関する情報を基に、前記利用者とクライアント環境の関連付けを自動的に行い、前記利用者が接続するクライアント環境の自動生成と接続管理とセッション終了時の処理とを行うことで、前記クライアント環境、前記利用者情報、前記利用者と前記クライアント環境との接続設定、の3つの情報を同時に管理する機能を含むサーバ”である点で共通する。

(5)上記(2)の検討内容を踏まえると、引用発明の「VMが稼働するVM Host」は、本願発明の「クライアント環境が稼動するクライアント環境サーバ」に相当する。

(6)引用発明の「オンデマンドクライアントサービスシステム」は、ユーザからの要求に応じて、当該ユーザが使用するVMを作成して提供するシステムであることから、本願発明の「クライアント環境生成システム」に対応する。

以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

(一致点)

「利用者に関する利用者情報を管理する機能を含むサーバと、
前記利用者と前記利用者に関する情報を基に、前記利用者とクライアント環境の関連付けを自動的に行い、前記利用者が接続するクライアント環境の自動生成と接続管理とセッション終了時の処理とを行うことで、前記クライアント環境、前記利用者情報、前記利用者と前記クライアント環境との接続設定、の3つの情報を同時に管理する機能を含むサーバと、
クライアント環境が稼動するクライアント環境サーバと、
を含む
クライアント環境生成システム。」

(相違点1)

本願発明では、「利用者に関する利用者情報を管理する」機能と「前記クライアント環境、前記利用者情報、前記利用者と前記クライアント環境との接続設定、の3つの情報を同時に管理する」機能が、それぞれ別のサーバ(「ユーザ情報管理サーバ」と「管理サーバ」)が有する機能として構成されているのに対して、引用発明においては、「ユーザ毎の個別情報を管理」する機能と「前記VM、前記ユーザ毎の個別情報、前記ユーザと前記VMとの接続設定、の3つの情報を同時に管理する」機能が、いずれも「アカウント/コンピュータ管理手段」が有する機能として構成されている点。

(相違点2)

利用者とクライアント環境の関連付けを自動的に行う際の基となる利用者に関する情報に関して、本願発明が、「利用者に付随する属性」であるのに対して、引用発明は、「ユーザのアカウント」である点。

(相違点3)

セッション終了時の処理に関して、本願発明が、クライアント環境を「自動削除」するものであるのに対して、引用発明は、VMを「停止」するものである点。

(相違点4)

本願発明が、「前記管理サーバは、前記利用者に付随する属性が変更された場合、自動的に前記クライアント環境の削除及び生成を行い、前記利用者に付随する属性と前記クライアント環境との関連付けを行う」ものであるのに対して、引用発明は、「ユーザの個別情報」や「ユーザのアカウント」が変更された場合の処理について特に明記されていない点。

7.当審の判断

上記相違点1ないし相違点4について検討する。

(1)相違点1について

当該技術分野において、管理する情報をどのようなサーバ構成で管理するかについては、当業者が必要に応じて、適宜選択し得る設計的事項にすぎない。
してみると、上記相違点1は、実質的な相違点とはいえず、引用発明においても、「ユーザ毎の個別情報を管理する」機能と「前記VM、前記ユーザに関する個別情報、前記ユーザと前記VMとの接続設定、の3つの情報を同時に管理する」機能を、本願発明のように別のサーバで管理するように構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。

よって、相違点1は格別なものではない。

(2)相違点2について

上記Jに記載されるように、引用文献1の図2から、“「User1」及び「User2」というアカウントに対して「VM-A」という種類のVM”を用意し、“「User3」及び「User4」というアカウントに対して「VM-B」という種類のVM”を用意する態様が読み取れる。
このように、引用発明は、ユーザ毎にVMの種類を決定するものであるが、当該VMの種類を決定するに際して、ユーザのアカウントに関連付けられているユーザ毎の個別情報(引用文献1記載の「属性」に相当)を基に決定するものであることは、当業者にとって自明の事項である。
してみると、引用発明においても、ユーザのアカウントに関連付けられているユーザ毎の個別情報に基づいてVMの種類を決定するように構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。

なお、本願発明における「属性」がどのようなものであるかについて、本願請求項1の記載からは、具体的な限定は読み取れないが、本願明細書の段落【0002】に記載の『「属性」は、所属部署、担当業務等を示す』を参酌して、「属性」とは「所属部署、担当業務等」を意味するものであると仮定しても、上記引用文献2(上記K等参照)に記載されるように、ユーザが所属する組織に応じたシステムを提供する技術は、当該技術分野において、普通に行われている技術にすぎず、引用発明の「ユーザ毎の個別情報」においても、ユーザが所属する組織を管理しておき、当該組織に応じたVMを提供するように構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。

よって、相違点2は格別なものではない。

(3)相違点3について

引用発明は、起動要求時の応答性を向上させるために、VMを停止状態にしておくものであるが、引用文献1の上記Hに「VM、又はVM Hostの稼働率が低い場合、VMを任意のVM Host上に移動し、不要なVM Hostを停止状態にすることで消費電力を削減させ、かつ未使用状態のVM Hostが増加した場合、VM Host以外の用途としてサーバを利用することができる」と記載されるように、必要に応じて、消費電力を削減することを目的としてVM Hostを停止状態にしたり、VM Hostを他の用途として利用したりする態様が示唆されている。そして、このような態様を実現するために、当該VM Host上のVMを自動削除することは、当業者にとって自明の事項である。
してみると、引用発明においても、VMの「停止」に替えて、VMを「自動削除」するように構成すること、すなわち、上記相違点3に係る構成とすることは、必要に応じて、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

よって、相違点3は格別なものではない。

(4)相違点4について

本願発明は、本願明細書の段落【0002】、段落【0035】等に記載されるように、「シンクライアントシステム」における発明である。また、引用発明も、引用文献1の上記Cに「クライアント端末(13、14)は、近年のシンクライアントと呼ばれている端末に相当する」と記載されるように、「シンクライアント」環境における発明である。そして、「シンクライアント」環境において、接続するユーザのアカウントを管理することは、普通に行われていることであり、その際に、テーブル等を用いてユーザを一元管理することも、慣用的に行われている技術にすぎない。
そして、ユーザのアクセス権を一元管理する場合に、変更された人事異動情報を自動的に反映させることについても、参考文献1(上記L)や参考文献2(上記M)等に記載されるように、当業者が普通に採用している周知慣用技術に他ならず、また、変更された最新の人事属性に基づいて処理を実施するようにすることについても、参考文献2(上記N)等に記載されるように、周知技術であった。
してみると、引用発明においても、人事異動等によりユーザの個別情報やユーザのアカウントが変更された場合に、自動的に変更された当該ユーザの個別情報やユーザのアカウントに対応するVMを用意し、当該ユーザの個別情報とVMとを関連付けて管理するように構成すること、すなわち、上記相違点4に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

よって、相違点4は格別なものではない。

(5)小括

上記で検討したごとく、上記相違点1ないし相違点4は格別のものではなく、そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、上記引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、容易に発明できたものである。

8.むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、本願の特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-02 
結審通知日 2014-10-03 
審決日 2014-10-15 
出願番号 特願2008-57599(P2008-57599)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 漆原 孝治  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 田中 秀人
小林 大介
発明の名称 クライアント環境生成システム、クライアント環境生成方法、クライアント環境生成プログラム、及び記憶媒体  
代理人 工藤 実  

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