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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B66B
管理番号 1295295
審判番号 不服2012-25916  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-27 
確定日 2014-12-17 
事件の表示 特願2007- 86673「エレベータシステムにユーザを割り当てる方法および当該エレベータシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月 1日出願公開、特開2007-284252〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本件出願は、特許法第36条の2第1項の規定による平成19年3月29日(パリ条約による優先権主張2006年4月13日、ヨーロッパ特許庁)の出願であって、平成19年5月28日に明細書、特許請求の範囲及び要約書の翻訳文が提出され、平成24年2月3日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成24年7月27日に意見書が提出されたが、平成24年8月23日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成24年12月27日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に特許請求の範囲について補正する手続補正がされ、当審において平成25年3月21日付けで書面による審尋がされ、平成25年9月25日に回答書が提出され、その後、当審において平成25年11月1日付けで拒絶理由を通知したところ、平成26年4月16日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本件発明

本件出願の請求項1ないし4に係る発明は、出願当初の明細書及び平成26年4月16日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、以下のとおりのものと認められる。

「【請求項1】
複数のエレベータと、
行き先コールを発行する少なくとも1つの行き先コール発行モジュールと、
行き先コールに応じるエレベータを決定する行き先コール制御モジュールと、
決定されたエレベータにユーザを割り当てるための音響信号を発する少なくとも3つの音響信号モジュールと
を備えたエレベータシステムであって、
それぞれ異なるエレベータのすべてを識別する信号が、ただ1つの単一周波数信号トーンだけを用いて形成され、個々のエレベータを識別する様々な信号が、事前定義された信号継続時間および/またはユーザが区別することができる少なくとも1つの事前定義された信号中断によって認識可能であり、
信号モジュールが、エレベータ昇降路扉の領域、エレベータかごの領域およびエレベータの踊り場領域に配置され、ユーザが割り当てられるエレベータに応じた同じ音響信号を発することを特徴とする、エレベータシステム。」

第3 刊行物に記載された発明

(1-1)刊行物1の記載事項

当審において平成25年11月1日付けで通知した拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)に引用された本件出願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2005/118450号(以下、「刊行物1」という。) には、次の事項が図面とともに記載されている。

a)「This invention relates to assisting vision impaired persons, by identifying with distinctive sounds which elevator is to serve one or more contiguous floors, which may also assist persons that are color blind in locating elevators identified with colors and/or symbols.」(第1ページ第4ないし6行)
(当審仮訳:「本発明は、どのエレベータが1つまたは複数の隣接する階(フロア)にサービスを行うかを特徴のある音で特定して、視覚障害者を補助することに関しており、また、色覚障害者が特定されたエレベータの位置を色や記号によって見つけるのを補助するものである。」)

b)「Objects of the invention include: improvements in serving visually impaired persons during rush hour, up peak elevator traffic; non-visual correlation between desired destination floor and elevator serving that floor; an easily rememberable correlation between destination floor and elevator serving such floor; and smooth passenger service for visually impaired persons in an elevator system employing variable assignments of elevators to sectors.
According to the present invention, a station in a lobby hallway has buttons which are pressed to identify a destination floor or a range of floors including a destination floor; as soon as the elevator that will answer the call has been determined, the station issues a unique sound, such as a tone or series of tones, the sound corresponding to each elevator being readily distinguishable from the sound corresponding to any other elevator. Once a sound is emitted at the hall station, the sound is also emitted at the elevator, which is serving the request indicated by the button until the elevator leaves the landing. 」(第2ページ第30行ないし第3ページ第9行)
(当審仮訳:「本発明の目的は、ラッシュアワーの昇りピーク時のエレベータ交通において視覚障害者のために有用な改善;所望の行き先フロアとそのフロアにサービスを行うエレベータとの間における非視覚的な相互関係;行き先フロアとそのフロアにサービスを行うエレベータとの間における容易に記憶できる相互関係;およびエレベータをセクターに可変的に割り当てるエレベータシステムにおいて視覚障害者に対してスムーズな乗客サービスを提供することである。
本発明によれば、ロビーの廊下におけるステーションは、行き先フロア、または、行き先フロアを含んだフロアの範囲を特定するために押されるボタンを有し、その呼びに応じるエレベータが決定されると、ステーションは、発信音または一連の発信音などの独特な音を発する。その各エレベータに対応する音は、他のエレベータに対応する音とは容易に区別され得る。ホールステーションで音が発せられると、エレベータが乗場から離れるまで、ボタンによって示された要求に応じるエレベータでも音が発せられる。」)

c)「In Fig. 1, an elevator lobby includes a plurality of elevators 26-29, each having an elevator car indicator 32-35 and an elevator car identifier, such as an electronic speaker 32a-35a disposed adjacent thereto. Each indicator is capable of displaying a color (the difference in colors being indicated by cross hatching) and a symbol, such as a letter or other symbol. The speakers could be incorporated into the car indicators 32-35, if desired. ・・・・・中略・・・・・
Tones will emanate from the speakers only when service has been requested from a visually handicapped person. The indicator 35 may be yellow, but it is not currently lit and is displaying no color since it is not assigned to any sector of floors for its next trip, at the particular moment; or elevator 29 may be assigned to interfloor traffic, which is common in systems employing channeling; there would also be no tone emanating from the annunciator 35a.
In a hallway leading to the elevator lobby, there is disposed a floor indicator panel 39 for the sighted, and a station 39a for the visually handicapped. All of the floors served by the group at the elevator lobby are indicated on the panel 39, either simply by floor number, or perhaps by floor number and principal tenants. The important thing is, however, that groups of floors being served by an elevator are identified with the same color displayed by the elevator indicators 32-35 and the same tone from the speakers 32a-35a corresponding to the respective elevator currently assigned to serve the related group of floors.」(第4ページ第26行ないし第5ページ第17行)
(当審仮訳:「図1において、エレベータロビーは複数のエレベータ26?29を含み、各エレベータは、エレベータかご表示装置32?35と、その近傍に配設された電子スピーカー32a?35aなどのエレベータかご特定装置と、を有する。各表示装置は、色(網掛けによって色の違いを示している)、および文字や他の記号などの記号を表示することができる。所望であれば、スピーカーをかご表示装置32?35に組み込んでもよい。・・・・・中略・・・・・
視覚障害者によってサービスの要求があった場合に限ってスピーカーから発信音が発生する。表示装置35は黄色であるが、特定の時点における次の運行に備えてどのフロアのセクターにも割り当てられていないため、現時点では点灯しておらず、何色も示していない。または、チャネルを用いるシステムでは一般的であるようにエレベータ29は各フロア間の交通に割り当てられているため、報知器35aから発信音は出ていない。
エレベータロビーに続く通路には、目の見える人用のフロア表示パネル39と、視覚障害者用のステーション39aと、が設けられている。エレベータロビーにおける群によりサービスが行われるすべてのフロアは、パネル39に表示されており、パネルには、単に階数だけ、または階数および主要テナントが表示されている。しかし、重要なことは、エレベータによりサービスが行われるフロア群は、対応するフロア群にサービスを行うように現在割り当てられている各エレベータに対応したエレベータ表示装置32?35によって表示された同じ色、およびスピーカー32a?35aからの同じ発信音によって特定されることである。」)

d)「The color of a floor in the panel 39 and the tone in the speakers 32a-35a will not change from the time the elevator car is assigned until the assigned car has left on a trip. 」(第5ページ第26ないし28行)
(当審仮訳:「パネル39におけるフロアの色およびスピーカー32a?35aからの発信音は、エレベータかごが割り当てられてから割り当てられたかごが出発するまで変わらない。」)

e)「Referring to Fig. 2, the station 39a for the visually handicapped, illustrated in Fig. 1, comprises a plurality of Braille selection buttons 45-51 each of which indicates in Braille (although not shown in Fig. 2 for clarity) a grouping of floors which are within fixed sector assignments. As indicated above each of the buttons 45-51, button 45 designates a sector including floors 2-5, and button 51 designates a sector including floors 23-26; and the other buttons similarly designate sectors of groups of floors. In the station 39a, there is an electronic speaker 54 which will emit a sound such as a tone, or a sound comprising a mixture of tones, which is unique for each of the buttons 45-51. The sounds are sufficiently distinguishable so that a visually handicapped person will recognize each sound in contrast to each other sound when seeking an elevator adjacent to a corresponding one of the speakers 32a-35a (Fig. 1).
An illustration of the functions which might be performed with the embodiment of Fig. 2 is shown in Fig. 3. The routine may start at a point 56 and a first test 57 determines if there is a button interrupt, which will occur when any of the buttons 45-51 is pressed. If not, the routine cycles around a negative result of test 57. When a button is pressed, a step 59 sets a sector indicator, S, equal to the sector of the button which in fact was pressed. Then, a test 60 determines if a car is assigned to sector S at this point in time; if not, the routine cycles around a negative result of test 60. When a car is assigned to sector S, the step 63 sounds a tone herein defined to include a series of tones or other sounds in speaker 54 (Fig. 2) indicating sector S at the station. After a short delay at step 63a, a step 64 sounds the same tone indicating sector S at the car assigned to sector S (one of the speakers 32a-35a of Fig. 1).」(第6ページ第11ないし30行)
(当審仮訳:「図2を参照すると、図1に示された視覚障害者用のステーション39aは、複数の点字選択ボタン45?51を備え、(図2では明確に図示していないが)各点字選択ボタンは、固定されたセクターの割り当て内におけるフロア群を点字で表示している。各ボタン45?51の上に示されているように、ボタン45は、2階?5階を含むセクターに指定され、ボタン51は、23階?26階を含むセクターに指定され、他のボタンは、同様にフロア群のセクターに指定されている。ステーション39aには、各ボタン45?51に固有の、発信音などの音やトーンの混合からなる音を出す電子スピーカー54が設けられている。これらの音は、視覚障害者がスピーカー32a?35a(図1)のうち対応するスピーカーに隣接するエレベータを探す際に、互いに異なる各々の音を認識できるように十分に区別できるものである。
図2の実施例で実行される機能は、図3に示されている。ルーチンはポイント56から開始され、第1のテスト57は、ボタン45?51のいずれかが押されたときに起こるボタンインタラプト(割り込み)があるか否かを判断する。もしなければ、ルーチンはテスト57の否定的結果へと進む。ボタンが押された場合、ステップ59は、セクター表示Sを実際に押されたボタンのセクターと等しく設定する。その後、テスト60はこの時点でセクターSにかごが割り当てられているか否かを判断する。割り当てられていない場合には、ルーチンはテスト60の否定的結果へと進む。かごがセクターSに割り当てられている場合には、ステップ63は、セクターSを示すスピーカー54(図2)の一連の発信音または他の音を含むように本明細書で画定された発信音をステーションにおいて鳴らす。ステップ63aの短いディレイ(遅延)の後、ステップ64は、セクターSに割り当てられたかご(図1のスピーカー32a?35aのひとつ)でセクターSを示す同じ発信音を鳴らす。」)

f)「A third embodiment of the invention, illustrated in Fig. 6, is a station 39c having a button 93 with a Braille indication for each floor in the building. Referring to Fig. 7, a routine indicative of functions suitable for the embodiment of Fig. 6 starts at a point 95 and a first test 96 waits for a button interrupt. When a button is pressed, a step 98 causes a sector indicator S to be set to the sector to which the floor related to the pressed button is assigned.
Then a test 100 determines if a car has been assigned to the sector of the desired floor, or not. When it has, a step 101 causes the tone of the car assigned to sector S to be sounded at the station, through the speaker 54. After a short delay at step 102, a step 104 will cause the tone of the car assigned to sector S to be sounded at the car assigned to sector S, through one of o the speakers 32a-35a in Fig. 1.」(第8ページ第11ないし20行)
(当審仮訳:「図6に示された本発明の他の実施例では、ステーション39cは、建物の各フロアの点字表示付きボタン93を有する。図7を参照すると、図6の実施例に適した機能を示すルーチンは、ポイント95から開始され、第1のテスト96は、ボタンインタラプト(割り込み)を待つ。ボタンが押された場合、ステップ98で、セクター表示Sは、押されたボタンに対応するフロアが割り当てられたセクターにセットされる。
その後、テスト100は、かごが所望のフロアのセクターに割り当てられているか否かを判断する。割り当てられている場合、ステップ101で、セクターSに割り当てられたかごの発信音がステーションのスピーカー54から発せられる。ステップ102の短いディレイの後、ステップ104において、セクターSに割り当てられたかごの発信音がセクターSに割り当てられたかごで図1のスピーカー32a?35aの1つから鳴らされる。」)

g)「1. An elevator system, comprising: a group of elevators (26-29) serving a selected plurality of floors of a building, which may be all or less than all of the floors of the building, from a plurality of corresponding elevator lobbies around which the elevators are disposed; characterized by: an elevator identifier disposed adjacent each elevator of the group on each floor, said elevator identifiers each emitting a unique sound; at least one floor selection station (39a), on at least a main lobby floor at one or more positions which may be at or near an entrance to an elevator lobby, or within an elevator lobby, each having one or more switch buttons (45-51, 70, 93); and means responsive to operation of one of said buttons one or more times to identify a choice selected from (a) a destination floor and (b) a group of related floors including a destination floor, for determining that one of said elevators has been assigned to respond to one or more floors identified as said choice, and to thereafter cause a sound uniquely identified with said choice to be emitted (I) at said station and (ii) at the one of said elevator identifiers, on the same floor as said station, adjacent to said one of said elevators assigned to serve said one or more floors identified as said choice.
2. A system according to claim 1 wherein: there are a plurality of buttons, each button having an indication in Braille identifying said choice.
・・・・・中略・・・・・
4. A system according to claim 2 wherein: each said button relates to an individual floor. 」(第9ページ第2ないし25行)
(当審仮訳:「1.エレベータが配された複数の対応するエレベータロビーから、建物の全てのフロアあるいは全てのフロアよりも少ない選択された複数のフロアへとサービスを行うエレベータ群(26?29)を有するエレベータシステムにおいて、該エレベータシステムは、
各フロアで前記群の各エレベータに隣接して配設されるとともに、独自の音を発するエレベータ特定装置と、
少なくともメインロビーフロアで、エレベータロビーへの入口またはその付近あるいはエレベータロビー内の1つまたは複数の位置に配設されるとともに、1つまたは複数のスイッチボタン(45?51、70、93)をそれぞれ有する少なくとも1つのフロア選択ステーション(39a)と、
(a)行き先フロア、および(b)行き先フロアを含んだ対応するフロア群から選択された選択を特定するように1回または複数回の前記複数のボタンの1つの操作に応答する手段であって、該手段は、前記エレベータの1つが前記選択として特定された1つまたは複数のフロアに応答するように割り当てられたことを判断し、その後、(I)前記ステーション、および(ii)前記ステーションと同じフロアの、前記選択として特定された前記1つまたは複数のフロアにサービスを行うように割り当てられた前記 1つのエレベータに隣接した前記エレベータ特定装置の1つにおいて、前記選択として独自に特定される音を発する手段と、
を備えることを特徴とするエレベータシステム。
2.前記選択を特定する点字による表示をそれぞれ有する複数のボタンが配設されていることを特徴とする請求項1に記載のエレベータシステム。
・・・・・中略・・・・・
4.前記ボタンの各々が、個々のフロアに関連することを特徴とする請求項2に記載のエレベータシステム。」)

(1-2)上記(1-1)及び図面の記載より分かること

イ)上記(1-1)b)ないしg)並びに図1、6及び7の記載によれば、ステーション39cは、行き先呼びを発行することが分かる。
また、ステーション39cとステーション39aは、ともに、行き先呼びを発行するステーションの一態様であることが分かる。

ロ)上記(1-1)b)の記載を上記イ)とあわせてみると、エレベータシステムは、行き先呼びに応じるエレベータを決定する行き先呼び制御手段を備えていることが明らかである。

ハ)上記(1-1)b)ないしg)並びに図1、6及び7の記載によれば、それぞれ異なるエレベータのすべてを区別する音が、形成され、個々のエレベータを区別する様々な音が、認識可能であることが分かる。

ニ)上記(1-1)b)ないしg)並びに図1、6及び7の記載によれば、スピーカー54がエレベータの踊り場領域に、スピーカー32a?35aがエレベータ昇降路扉の領域に配置されることが分かる。

ホ)上記(1-1)e)及びf)の記載を上記イ)とあわせてみると、スピーカー54およびスピーカー32a?35aのひとつにおいて、セクターSを示す同じ発信音を鳴らすのであるから、換言すれば、スピーカー54およびスピーカー32a?35aのひとつにおいて、視覚障害者が割り当てられるエレベータに応じた同じ音を発することが分かる。

(1-3)刊行物1に記載された発明

したがって、上記(1-1)及び(1-2)を総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物1に記載された発明>

「複数のエレベータと、
行き先呼びを発行するステーション39cと、
行き先呼びに応じるエレベータを決定する行き先呼び制御手段と、
決定されたエレベータに視覚障害者を割り当てるための音を発する少なくとも2つのスピーカー54および32a?35aと
を備えたエレベータシステムであって、
それぞれ異なるエレベータのすべてを区別する音が、形成され、個々のエレベータを区別する様々な音が、認識可能であり、
スピーカー54および32a?35aが、エレベータ昇降路扉の領域およびエレベータの踊り場領域に配置され、視覚障害者が割り当てられるエレベータに応じた同じ音を発する、エレベータシステム。」

(2-1)刊行物2の記載事項

当審拒絶理由に引用された本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭55-74971号公報(以下、「刊行物2」という。) には、次の事項が図面とともに記載されている。

a)「この発明は、身体障害者のうち、とくに目の不自由な人が利用するエレベータ装置に関するものである。
従来のエレベータ装置は、目の不自由な人の使用については何ら考慮されていなかつたので、このような人は付添人なしにエレベータを利用できないという不都合があつた。
この発明は、エレベータの乗客を、エレベータ装置の目的位置に音によつて誘導することにより、前述した不都合を解消することを目的とするものである。」(第1ページ右下欄第7ないし17行)

b)「以下この発明の一実施例を第1図、第2図に基いて説明する。第1図において、1は建物のエレベータ設置部外に通じているエレベータホール、2はエレベータかご、3は乗場側出入口、3aは乗場側出入口3を開閉する扉、4はエレベータかご2に設けたかご側出入口、4aはかご側出入口4を開閉する扉、5はエレベータかご2の昇降路である。6は乗場側出入口3の側壁7に設けられた呼び釦、8は呼び釦6の付近に設置された第1発音装置、9はエレベータかご2に設けられかご側出入口4を適当の高さの位置で横断する光電装置、10はエレベータかご2の床11の下方またはかご側出入口4の上方中央部に設けられた第2発音装置、12はかご側出入口4の側壁13に設けられたエレベータかご2の操作盤、14は操作盤12の付近に設けられた第3発音装置、15は乗場側出入口3から適当距離だけ離してエレベータホール1の天井、床あるいは側壁に設けられ、エレベータホール1を乗場側出入口3に向つて移動している人を検知する検出装置である。」(第1ページ右下欄第18行ないし第2ページ左上欄第17行)

c)「以上のように構成されたエレベータ装置において、目の不自由な人が、エレベータホール1をエレベータに向つている場合に、検出装置15の検出範囲内に入ると、常開接点16が閉じてリレーコイル17が励磁され、常開接点17a,17bが閉じ、第1発音装置8が発音する。このため、目の不自由な人を正確に呼び釦6の前に誘導し、呼び釦6を操作することを可能にする。
次に、目の不自由な人が呼び釦6を操作すると、常開接点18が閉じ、リレーコイル19が励磁され、常閉接点19cが開いて第1発音装置8の発音が停止され、同時にエレベータかご2が呼び寄せられる。さらに、同時に常開接点19a,19bが閉じる。エレベータかご2の到着によつて常開接点20が閉じてリレーコイル21が励磁され、常開接点21aが閉じ、第2発音装置10が発音する。このため、目の不自由な人を既に扉3aおよび4aが開かれている乗場側出入口3およびかご側出入口4の中央部に誘導し、安全にエレベータかご2内に誘導することができる。
そして、目の不自由な人がエレベータかご2内に入る時に光電装置9が作動して常開接点22が閉じ、リレーコイル23が励磁され、常閉接点23cが開いて第2発音装置10の発音が停止される。同時に常開接点23a,23bが閉じるので、第3発音装置14の発音が開始される。このため、目の不自由な人を正確に操作盤12の前に誘導し、操作盤12の操作を可能にする。」(第2ページ右上欄第12行ないし左下欄第19行)

(2-2)刊行物2に記載された発明

したがって、上記(2-1)及び図面[特に、第1図]の記載を総合すると、刊行物2には次の発明(以下、「刊行物2に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物2に記載された発明>

「目の不自由な人に対して、音によってエレベータ装置の目的位置に誘導するために、第1発音装置8、第2発音装置10及び第3発音装置14をそれぞれ、乗場側出入口3の側壁7に設けられた呼び釦6の付近、エレベータかご2及びエレベータかご2の操作盤12付近に設け、第1発音装置8により目の不自由な人を正確に呼び釦6の前に誘導し、第2発音装置10により目の不自由な人を安全にエレベータかご2内に誘導し、第3発音装置14により目の不自由な人を正確に操作盤12の前に誘導するエレベータ装置。」

(3-1)刊行物3の記載事項

当審拒絶理由に引用された本件出願の優先日前に頒布された刊行物である実願昭56-11313号(実開昭57-126476号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物3」という。) には、次の事項が図面とともに記載されている。

a)「この考案は上記不具合を改良するもので、視覚による確認をしなくても、到着するかご、異常の生じたかご等を判断できるようにしたエレベータの報知装置を提供することを目的とする。
以下、第1図及び第2図によりこの考案を3階の乗場に適用した一実施例を説明する。
図中、(+)、(-)は直流電源、(1A)?(1C)はそれぞれ1号機?3号機のかごが走行中のとき閉成する走行リレー接点、(2A)?(2C)は同じくかごが3階の一定距離手前の停止決定点に達すると閉成する停止決定リレー接点、(3A)?(3C)は同じくかごがそれぞれの上記停止決定点よりも3階に接近すると閉成し停止すると開放する予報位置検出リレー接点、(4A)?(4C)は同じく到着予報リレーで、(4aA)?(4aC)、(4bA)?(4bC)はそれぞれ常開接点、(5A)?(5C)は同じくかごが上り運転するとき閉成する上り方向リレー接点、(6A)?(6C)は同じく下り運転するとき閉成する下り方向リレー接点、(7A)?(7C)は同じく3階の乗場に設置され付勢される度に1音を発するゴング、チャイム等の上り用発音器、(8A)?(8C)は同じく下り用発音器、(9A)は付勢されると第2図に示すように接点(9aA)を時間t_(1)(例えば1秒)だけ1回閉成させる1号機の断続リレー、(9B)は同じく接点(9aB)を時間tだけ閉成させこれを時間t間隔で2回繰り返えす2号機の断続リレー、(9C)は同じく接点(9aC)を時間tだけ閉成させこれを時間t_(1)間隔で3回繰り返えす3号機の断続リレーである。
次に、この実施例の動作を説明する。
今、1号機のかごが3階の上り呼びに応答すべく上り運転しているものとすると、上り方向リレー(5A)及び走行リレー接点(1A)は閉成している。かごが3階の停止決定点に達すると、停止決定リレー接点(2A)は閉成する。かごが更に3階に接近すると、予報位置検出リレー接点(3A)は閉成する。これで、(+)-(1A)-(2A)-(3A)-(4A)-(-)の回路により、1号機の到着予報リレー(4A)は付勢され、接点(4aA)は閉成する。また、接点(4bA)も閉成するので、断続リレー(9A)は付勢され、接点(9aA)は1秒間だけ1回閉成する。したがって、(+)-(4aA)-(9aA)-(5A)-(7A)-(-)の回路により、3階の1号機の上り用発音器(7A)は1回鳴動する。かごが3階に停止すれば、予報位置検出リレー接点(3A)は開放するので、到着予報リレー(4A)は消勢され、接点(4aA)、(4bA)は開放する。これで、上り用発音器(7A)及び断続リレー(9A)は消勢される。下り運転の場合も同様で、下り用発音器(8A)が鳴動する。他の階でも同様であり、1号機のかごはどの階に停止するときも、1回だけ鳴動する。
2号機のかごが3階に停止するときは、断続リレー(9B)の付勢により発音器(7B)、(8B)は2回鳴動し、3号機は断続リレー(9C)の付勢により発音器(7C)、(8C)は3回鳴動する。このようにして、発音器の鳴動回数をかごごとに異ならせたので、乗場待客はどのかごが到着するかを容易に判断することが可能である。
実施例では、かごの到着予報について説明したが、割当式の群管理エレベータでは、かごが乗場呼びに割り当てられたとき報知するサービス予報(割当予報)にも実施し得ることは言うまでもない。」(明細書第2ページ第15行ないし第5ページ第19行)

(3-2)刊行物3に記載された発明

したがって、上記(3-1)及び図面[特に、第1及び2図]の記載を総合すると、刊行物3には次の発明(以下、「刊行物3に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物3に記載された発明>

「視覚による確認をしなくても、到着するかご又は乗場呼びに割り当てられたかごを判断できるようにしたエレベータの報知装置であって、鳴動継続時間t1と鳴動中断時間t1との組合せにより、鳴動動作をかごごとに異ならせたエレベータの報知装置。」

第4 対比・判断

本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明における「行き先呼び」、「ステーション39c」、「行き先呼び制御手段」、「視覚障害者」及び「区別」は、それらの構造、機能又は技術的意義からみて、それぞれ、本件発明における「行き先コール」、「行き先コール発行モジュール」、「行き先コール制御モジュール」、「ユーザ」及び「識別」に相当する。
また、刊行物1に記載された発明における「音」は、その機能又は技術的意義からみて、本件発明における「音響信号」及び「信号」に相当する。
また、刊行物1に記載された発明における「スピーカー54および32a?35a」は、その構造及び機能からみて、本件発明における「音響信号モジュール」及び「信号モジュール」に相当する。
また、刊行物1に記載された発明における「2つ」は、「複数」という限りにおいて、本件発明における「3つ」に相当する。

してみると、本件発明と刊行物1に記載された発明とは、
「複数のエレベータと、
行き先コールを発行する少なくとも1つの行き先コール発行モジュールと、
行き先コールに応じるエレベータを決定する行き先コール制御モジュールと、
決定されたエレベータにユーザを割り当てるための音響信号を発する少なくとも複数の音響信号モジュールと
を備えたエレベータシステムであって、
それぞれ異なるエレベータのすべてを識別する信号が、形成され、個々のエレベータを識別する様々な信号が、認識可能であり、
信号モジュールが、エレベータ昇降路扉の領域およびエレベータの踊り場領域に配置され、ユーザが割り当てられるエレベータに応じた同じ音響信号を発する、エレベータシステム。

<相違点1>

「信号モジュール(音響信号モジュール)」に関し、
本件発明においては、「少なくとも3つの音響信号モジュール」であり、「エレベータ昇降路扉の領域、エレベータかごの領域およびエレベータの踊り場領域に配置される」のに対し、
刊行物1に記載された発明においては、「少なくとも2つのスピーカー54および32a?35a」であり、エレベータ昇降路扉の領域およびエレベータの踊り場領域に配置されるものの、エレベータかごの領域に配置されるか否か不明である点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>

「信号(音響信号)」に関し、
本件発明においては、「信号が、ただ1つの単一周波数信号トーンだけを用いて形成され、」、「事前定義された信号継続時間および/またはユーザが区別することができる少なくとも1つの事前定義された信号中断によって(認識可能に)」形成されているのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、「音(本件発明における「信号(音響信号)」に相当する。)」は、そのように形成されているか否か不明である点(以下、「相違点2」という。)。

まず、相違点1及び2を検討するにあたり、エレベータシステムにおける周知の技術課題について検討すると、刊行物1には、どのエレベータが1つまたは複数の隣接する階(フロア)にサービスを行うかを特徴のある音で特定して、視覚障害者を補助する旨の記載(上記第3(1-1)a)参照。)及びエレベータシステムにおいて視覚障害者に対してスムーズな乗客サービスを提供するとの目的の記載(上記第3(1-1)b)参照。)があるところ、エレベータシステムにおいて、視覚障害者のエレベータ利用に際し、エレベータが複数設置されている場合に、どのエレベータが視覚障害者の呼びに応答して到着するかの判断が困難であるため、エレベータかごへの乗り込みが容易ではないという課題は、本件出願の優先日前周知の課題(例えば、特開平10-114474号公報[特に、段落【0003】]及び特開2002-348055号公報[特に、段落【0012】及び【0013】]等参照。以下、「周知課題」という。)であることを考慮すれば、この周知課題は、刊行物1に記載された発明においても、内在するものであるといえる。

そこで、相違点1について検討する。

刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された発明、及び、本件発明は、いずれも、エレベータシステムの技術分野に属するものであり、しかも、視覚障害者ないし目の不自由な人がエレベータを使用する際の不都合を課題を解決するために、視覚障害者ないし目の不自由な人に対して音を用いてエレベータ使用の容易化を図る点で、軌を一にするものである。

そこで、刊行物2に記載された発明における(目の不自由な人を誘導するための)音を発生する第1及び2発音装置について着目すると、乗場側出入口3の側壁7に設けられた呼び釦6の付近は、昇降路扉の領域であり、また、エレベータかご2は、エレベータかごの領域であるから、刊行物2に記載された発明から以下の技術(以下、「刊行物2に記載された技術」という。)を導き出すことができる。
「昇降路扉の領域に設けた発音装置に加えてエレベータかごの領域に発音装置を設ける技術。」
したがって、刊行物1に記載された発明において、視覚障害者が割り当てられるエレベータに応じた同じ音を発するスピーカー54および32a?35a(本件発明における「(音響)信号モジュール」に相当する。)の配置について、周知課題を考慮して、視覚障害者を音によってエレベータかご内に誘導するために、刊行物2の技術を適用し、エレベータ昇降路扉の領域およびエレベータの踊り場領域の配置に加えて、スピーカーをエレベータかごの領域に配置して、上記相違点1に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

次に、相違点2について検討する。

まずはじめに、刊行物3に記載された発明は、「視覚による確認をしなくても、到着するかご又は乗場呼びに割り当てられたかごを判断できるようにした」のであるから、視覚障害者においても、到着するかご又は乗場呼びに割り当てられたかごを区別(識別)できることは明らかである。
そして、このことを考慮すると、刊行物3に記載された発明における「鳴動時間t1と鳴動中断時間t1との組合せにより、鳴動動作をかごごとに異ならせ」ることは、視覚障害者が到着するかご又は乗場呼びに割り当てられたかごを区別(識別)するために、個々のエレベータを区別(識別)する様々な信号である鳴動動作が、事前定義された信号継続時間(鳴動継続時間)および/またはユーザが区別することができる少なくとも1つの事前定義された信号中断(鳴動中断)によって認識可能であることといえる。
以上を総合すると刊行物3に記載された発明から以下の技術(以下、「刊行物3に記載された技術」という。)を導き出すことができる。
「個々のエレベータを識別する様々な信号が、事前定義された信号継続時間および/またはユーザが区別することができる少なくとも1つの事前定義された信号中断によって認識可能である技術。」
一方、複数の異なる事象を識別する信号が、ただ1つの単一周波数信号トーンだけを用いて形成され、個々の事象を識別する様々な信号が、事前定義された信号継続時間および/またはユーザが区別することができる少なくとも1つの事前定義された信号中断によって認識可能である技術は、本件出願の優先日前周知の技術(例えば、当審拒絶理由に周知例として例示した本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭63-73726号公報[特に、第1ページ左下欄末行ないし右下欄第14行]等参照。以下、「周知技術」という。)である。
したがって、周知課題を考慮すると、視覚障害者が音によってエレベータを区別する際に、刊行物1に記載された発明における音について、周知技術を考慮しつつ刊行物3に記載された技術を適用して、上記相違点2に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明、刊行物2及び3に記載された技術並びに周知課題及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

第5 むすび

以上のとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2及び3に記載された技術並びに周知課題及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-06-30 
結審通知日 2014-07-01 
審決日 2014-08-01 
出願番号 特願2007-86673(P2007-86673)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B66B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 杏子  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 藤原 直欣
槙原 進
発明の名称 エレベータシステムにユーザを割り当てる方法および当該エレベータシステム  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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