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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2014800048 審決 特許
無効2014800125 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E04H
管理番号 1295626
審判番号 無効2013-800084  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-05-13 
確定日 2014-12-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第5203432号発明「アンテナポール」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5203432号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5203432号に係る手続の経緯の概要は以下のとおりである。
・平成22年 9月 6日 出願 (特願2010-198416号)
・平成25年 2月22日 設定登録 特許第5203432号
・平成25年 5月13日 本件審判請求
・平成25年 8月 6日 審判事件答弁書(被請求人提出)
・平成25年10月28日 審理事項通知
・平成25年11月29日 口頭審理陳述要領書(請求人提出)
・平成25年11月29日 口頭審理陳述要領書(被請求人提出)
・平成25年12月13日(差出日) 口頭審理陳述要領書(2)
(請求人提出)
・平成25年12月13日 口頭審理
・平成26年 1月10日 上申書(請求人提出)
・平成26年 1月10日 上申書(被請求人提出)
・平成26年 1月17日 上申書(2)(請求人提出)
・平成26年 6月18日 審決の予告

第2 当事者の主張
1 請求人の主張の概要
(1)審判請求書における主張
請求人は,特許第5203432号発明の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として甲第1号証ないし甲第2号証を提出している。
[無効理由]
本件の請求項1に係る特許発明(以下、本件特許発明という。)は、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。(第4頁)

(2)平成25年11月29日付け口頭審理陳述要領書における主張
請求人は、証拠方法として甲第3号証乃至甲第14号証を追加して提出して、以下のように主張する。
(2)-1 甲第2号証のカタログの刊行物頒布性について
甲第3号証および甲第4号証によれば、甲第2号証のカタログの裏表紙の
右下部分の「2006.07.500」は、「2006年7月」に「500部」のカタログを印刷して納品したことを意味することが明らかである。(第2頁)
甲第5?7号証によれば、甲第2号証のカタログに関し、遅くとも、2006年7月頃には、関西電力株式会社の戸田敏氏と、株式会社きんでんの堀江庸弘氏および喜田定逸氏とが、株式会社日本ネットワークサポートの藤原氏と山本氏とから、それぞれ、甲第2号証のカタログの頒布を受けたことが明らかである。
そうすると、甲第2号証のカタログは、「頒布されたカタログ」に該当するとともに、公知日は、2006年7月であることが明らかである。(第2頁)
(2)-2 甲第1号証および甲第2号証の組合せについて
本件特許発明は、甲第1号証、甲第2号証、甲第8号証?甲第10号証および甲第14号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項、特許法第123条第1項第2号に該当し、本件特許は無効である。(第10頁)

(3)平成25年12月13日差出の口頭審理陳述要領書(2)における追加主張
被請求人が主張する「2段テーパー」は、甲第10号証に開示されるように周知技術であって、その点を参酌すれば、本件特許発明は、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項、特許法第123条第1項第2号に該当し、本件特許は無効であることを、平成25年11月29日付け提出の口頭審理陳述書(1)の主張に対して、追加主張する。(第3頁)

(4)平成26年1月10日付け上申書における主張
甲第5号証?甲第7号証の2006年および2013年における各署名人の所属を証明するために、甲第15号証および甲第16号証を追加する。(第1頁)
少なくとも、甲第5号証の署名人である戸田敏氏、および、甲第7号証の署名人である喜田定逸氏については、甲第2号証のカタログを頒布を受けた2006年に、上記した会社および部署に実際に在職していたことが客観的に証明されている。(第3頁)

(5)平成26年1月17日付け上申書(2)における主張
甲第17号証のA柱における鋼管部とコンクリート柱との結合部の長さ500mm、および、甲第17号証のB柱における鋼管部とコンクリート柱との結合部の長さ730mmは、本件発明の請求項1の「鋼管柱とコンクリート柱との結合部の長さを500?1000mmとし」の範囲に含まれる(第4頁)。

[証拠方法]
甲第1号証 特開平11-332072号公報
甲第2号証 金属製品カタログ(配電機材編No.2、株式会社日本ネットワークサポート社発行)
甲第3号証 岩本喜彦氏の覚書
甲第4号証 一般契約請求確認書
甲第5号証 戸田敏氏の覚書
甲第6号証 堀江庸弘氏の覚書
甲第7号証 喜田定逸氏の覚書
甲第8号証 意匠登録第1102200号公報
甲第9号証 意匠登録第1034037-1(類似)号公報
甲第10号証 意匠登録第1033258号公報
甲第11号証 NTT技術ジャーナル 2007.10 技術基礎講座【架空構造物設計技術】第3回 架空構造物が持つ強度の写し
甲第12号証 JIS A 5373:2004 プレキャストプレストレストコンクリート製品 平成16年3月20日 第1刷発行の写し
甲第13号証 JIS A 5373:2010 プレキャストプレストレストコンクリート製品 平成22年3月23日 第1刷発行の写し
甲第14号証 キャップ型取付金具の製作図の写し
甲第15号証 季刊「電力人事 秋季版 No.177」の一部抜粋頁 社団法人日本電気協会新聞部、2006年8月31日発行の写し
甲第16号証 季刊「電力人事 秋季版 N0.205」の一部抜粋頁 社団法人日本電気協会新聞部、2013年8月31日発行の写し
甲第17号証 技術開発ニュースの抜粋(第1頁および第5頁)、中部電力株式会社、1984年10月発行の写し

2 被請求人の主張の概要
(1)答弁書における主張
(1)-1 特許第5203432号発明の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許を無効とするとの請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。(第2頁)
本件の請求項1に係る特許発明(以下、本件特許発明という。)は、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易になすことができない発明であるから、特許法第29条第2項には該当せず、請求項1に記載された発明についての特許を無効とするとの請求は成り立たない。(第2頁)
(1)-2 甲第2号証裏表紙の写しの右下部分には、2006.07.500と記載されているが、これが2007年5月を意味するとは考えられない。
従って、甲第2号証は、本件特許の出願日である平成22年9月6日より前に頒布された刊行物とは認められない。(第3頁)
(1)-3 甲第2号証26頁「架空地線用腕金 継柱式」の上端部はストレート、下端部は下方に広がるテーパー形状でありテーパー率は1/75である。また、中央部は上側中央部と下側中央部に分けられ、上側中央部は下方に広がるテーパー形状であり、下側中央部は同一の径である円筒形状(二点鎖線で囲われた部分)であるため、「2段テーパー」ではなく「中央部が円筒形状の連続しない2段テーパー」である。(第5頁)
(1)-4 甲第1号証と甲第2号証とは組み合わせることができず、また、組み合わせたとしてもアンテナの取り付けについて具体的な構成を開示していない甲第1号証と、そもそもアンテナを取り付けるポールではない甲第2号証を組み合わせても要件A?Lの特許発明には想到できない。(第6頁)

(2)平成25年11月29日付け口頭審理陳述要領書における主張
(2)-1 構成について
鋼管柱3は、連続して形成される2つのテーパー部と、上方のテーパー部と連続して形成されるストレート部とを有します。下方のテーパー部はコンクリート柱の上部に連結される結合部を形成します。下方のテーパー部のテーパーの数値は、1/100?1/50とし、このテーパーの数値は、コンクリート柱の上部のテーパーと同一とします。(第2頁)
(2)-2 効果について
出願当初の明細書における[0019]段落に記載しております通り、「鋼管柱3のテーパーは、図2、図3に示すように、2段テーパーとすることによって、鋼管柱3の上部の外形を小さくすること」ができ、アンテナポール特有の下記の効果を奏します。
1)鋼管柱3に2段テーパーを形成することで、鋼管柱3の外径は上方にいくに従い小さくなるため、鋼管柱3の重心を下げることができると共に、風圧を受けにくくなり、倒壊の危険性を低下することができる。
2)鋼管柱3の上部をテーパーを設けないストレートな構造とすることにより、アンテナの取り付けやすさが向上する。すなわち、もし、鋼管柱3の取付部がストレートでなく一定のテーパーを有していると、取付金具やベルトなどの取付位置や長さなどを取り付け箇所に応じて調整する必要が生じ、取付作業性の悪化につながる。
3)アンテナ5の向きの調整については、取付部がストレートであれば、取付部のどの位置においても鋼管柱は同一径であるため、アンテナを鋼管の周りで回転させるだけで容易に向きの調整が可能となり、取付作業性の向上につながる。(第2頁)

(3)平成26年1月10日付け上申書における主張
(3)-1 甲第3号証?甲第7号証について
請求人は、甲第3号証?甲第7号証を提出し、甲第2号証のカタログが「頒布されたカタログ」に該当するとともに、公知日が2006年7月であると主張する。
しかし、下記に示す通り、証拠としての有効性は疑わしい。
(1-1)甲第3号証の覚書で、岩本善彦氏が、仁巧印刷社在職中に株式会社日本ネットワークサポートの依頼により甲第2号証のカタログを作成し納品したと記述しているが、そもそも、仁巧印刷社の所在地も代表者も開示されておらず、その存在自体が疑わしい。また、現実に存在している会社であるとしても岩本氏の在職期間や、在職中、とくにカタログを作製したとしている時期の担当業務について、何ら証明されておらず、甲第3号証の有効性は疑わしい。
(1-2)甲第4号証は、甲第3号証が有効であることを前提として提出されているが、もし、甲第3号証が有効であると立証されたとしても、社名が記載されていない社内文書であり、客観的な証拠としてはなりえない。
(1-3)甲第5号証、甲第6号証、甲第7号証は、いずれもカタログを頒布した相手の会社の担当者による証明となっているが、これらの人たちが実際に在職していたのか、会社の証明もなく疑わしい。また、これらの人たちがカタログ頒布時、どのような部署に在職し、これらを受け取ったのか全く記されておらず、証拠としての有効性が疑わしい。
(1-4)例え、甲第2号証の証拠としての有効性が認められたとしても、甲第2号証には特殊継柱鋼管のコンクリート柱との結合部の模式図が記載されているものの、その結合長さ500?1000mmであることは記載されておらず、甲第1号証及び甲第2号証から本特許発明が容易になされたことの立証がなされていない。(第2?3頁)
(3)-2 甲第8号証?甲第10号証について
甲第8号証?甲第10号証は意匠公報であり、これらの意匠は物品の形状に係る創作であり、技術思想の創作である発明は開示されていない。
すなわち、甲第8号証および甲第9号証の【意匠に係る物品の説明】欄に「電柱の上部に取付けた既存の架空地線取付金具等に当該アンテナ支持金具を取付け、その支持金具に簡易携帯電話用のアンテナを取付ける。」と記載されているように、架空地線取付金具は、従来の金具を使用するものであり、アンテナポールとしての技術的特徴を有する発明は記載されていない。
また、甲第10号証の【意匠に係る物品の説明】欄及び図面には、アンテナ支持金具及びその形状について記載されているが、本件発明の技術的特徴は記載されておらず、何ら示唆もされていないことから、甲第1号証と甲第2号証との組合せが容易であることは立証されていない。
さらに、架空地線は雷の電線への直撃を防止するものであり、電柱の上部に設置され、たとえ、風による揺れがあったとしても、その機能に影響を受けないがアンテナポールは電波の送受信を行うものであるため、架空地線に比べて、揺れによる影響を受けやすいため、揺れないようにしっかりと固定される必要がある。したがって、アンテナを取り付けるアンテナポールについても、風による揺れを防止する事が必要となる。このように双方の技術課題は基本的な部分において異なるため、甲第1号証の記載されたアンテナ用キャップに、甲第2号証に記載された架空地線取付金具を適用することは、例え当業者であっても容易ではない。(第3?4頁)

第3 無効理由についての当審の判断
1 本件に係る発明
本件特許の請求項1に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
通信用アンテナと、該アンテナを支持する鋼管柱とを有するアンテナポールであって、前記鋼管柱の下部は下方に広がった1/100?1/50のテーパーを有し、前記鋼管柱のテーパーと同じテーパーを有し、鋼管柱と中心軸が一致するコンクリート柱の先端に、前記鋼管柱の下部を嵌合させてなり、前記鋼管柱とコンクリート柱との結合部の長さを500?1000mmとし、前記鋼管柱のテーパーを2段テーパーとするとともに、前記鋼管柱の上部はテーパーを設けないストレート鋼管として、該ストレート鋼管にアンテナを取り付けることを特徴とするアンテナポール。
」(以下、「本件特許発明」という。)

2 甲各号証の記載事項
(1)甲第1号証
本願出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開平11-332072号公報)には、支柱用バンドに関し、図面とともに、次の事項が記載されている。
(1a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、複数のバンド片をバンド片間にわたした緊締ボルトと該ボルトに螺合するナットによって電柱等の支柱に締め付けるようにした支柱用バンドに関するものである。」
(1b)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】支柱用バンドは、例えば、電柱に巻回し、緊締ボルトとナットによって電柱に締め付けるものであるが、前記電柱は概して下端から上端方向に漸次外径を細くした形態でなるため、緊締ボルトとナットによる締付けは当該バンド締付け位置における電柱径の大きい部分を基準にして行われ、すなわち、バンド片の下部側のみが電柱面に接触し、上部側と電柱との間に隙間が生じるような状態で行われ、従って、上部側が電柱に接触していない分、締付け強度が弱くなる。」
(1c)「【0004】殊に、電柱の上端に補助用とし組付けるほぼ円錐形状体の架空地線用キャップのように、上部と下部の外径の差が大きいと、前記の締付け強度は尚一層低下する。」
(1d)「【0009】実施例の電柱用バンドAは、電柱(本柱)の上端に組付けた架空地線用キャップDに締付けて用い、該電柱用バンドAを利用してPHSアンテナを取付けるようにしたものであるが、本発明の実施に当っては、実施例の構造に限定する必要はない。」
(1e)「【0016】なお、本発明は、鋼管柱、コンクリート柱などの電柱やその他の支柱に適用できる。」
(1f)「【0017】
【発明の効果】本発明は前記の通りの構成であるから、支柱(実施例では、本柱に対して補助柱となる架空地線用キャップ)の、下側から上側方向に漸次径が小さくなる形態に対応して締付け強度の優れた支柱用バンドを提供できる。」
(1g)「【図面の簡単な説明】
【図1】一部欠截平面図。
【図2】図1のX-X線断面図。」
(1h)上記(1c)?(1d)の記載事項から【図2】には、「ほぼ円錐形状体であり、管柱からなる架空地線用キャップ」が記載されていると認められる。
上記記載事項及び図面の記載から、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「架空地線用キャップに支柱用バンドを取り付けた構造であり、当該架空地線用キャップは、電柱の上端に補助用として組付けられ、上部と下部の外径の差を有する円錐形状体であり、支柱用バンドを利用してPHSアンテナを取付けるようにした管柱からなる架空地線用キャップ」

(2)甲第2号証
表紙に「金属製品カタログ(配電機材編No.2) 株式会社日本ネットワークサポート」と記載されており、裏表紙の右下部分に2006.07.500と記入されている。
本カタログの26頁には「架空地線用腕金 継柱式(22KV用)」との記載があり、図面と写真が記載されている。
この図面には、「架空地線用腕金 継柱式」の形状として上端部はストレート、下端部は下方に広がるテーパー形状でありテーパー率は1/75であり、また、中央部は上側中央部と下側中央部に分けられ、上側中央部は下方に広がるテーパー形状であり、下側中央部は同一の径である円筒形状(二点鎖線で囲われた部分)に形成されていることが図示されている。また、写真には、電柱の上端に、この「架空地線用腕金 継柱式」が取り付けられたものが示されている。
また、甲第2号書の第73頁には、「特殊継柱鋼管」の図面が記載されている。その左側図には、当該鋼管が柱の頂部に嵌合して取り付けられた図面が記載されている。この図面には、当該鋼管の上部の長さ(足場座から頂部まで)が1,500mmである点が開示されている。さらに、図面上、上部の長さを実測すると約44mmであり、かつ、図面上、接合部テーパーの長さを実測すると約22mmである。それらから、接合部テーパーの長さを計算すると、750mmであること(=22mm×1,500mm/44mm)が実質的に開示されていることが認められる。

(3)甲第3号証
岩本喜彦氏による2013年11月1日付の記名押印付き覚書
仁巧印刷社在職中に株式会社日本ネットワークサポートの購買担当の吉田氏からの依頼により、甲第2号証のカタログを500部印刷し、2006年7月頃、株式会社日本ネットワークサポートの営業企画担当の坂本氏に納品した点。および、甲第2号証のカタログの裏表紙の右下部分の「2006.07.500」は、「2006年7月」に「500部」のカタログを印刷して納品したことを意味する点が、覚え書きされている。

(4)甲第4号証
甲第2号証のカタログを仁巧印刷社に発注したとする一般契約請求確認書。

(5)甲第5号証
関西電力株式会社扇町営業所ネットワーク技術センター所長の戸田敏氏による2013年10月31日付の記名押印付き覚書。
2006年7月頃に、株式会社日本ネットワークサポートの営業担当の藤原氏から、甲第2号証のカタログの頒布を受けた点が覚書きされている。

(6)甲第6号証
(株)きんでん中央支店ネットワーク部長の堀江庸弘氏による2013年10月31日付の記名押印付きの覚書。
2006年7月頃に、株式会社日本ネットワークサポートの営業担当の山本氏から、甲第2号証のカタログの頒布を受けた点が覚書きされている。

(7)甲第7号証
(株)きんでん神戸支店電力部次長の喜田定逸氏による2013年10月31日付の記名押印付きの覚書。
2006年7月頃に、株式会社日本ネットワークサポートの営業担当の山本氏から、甲第2号証のカタログの頒布を受けた点が覚書きされている。

(8)甲第8号証
本願出願前に頒布された刊行物である甲第8号証(意匠登録第1102200号公報)には次の事項が記載されている。
【意匠に係る物品】欄には、「簡易携帯電話用アンテナ支持具」が記載されており、正面図には、簡易携帯電話用アンテナ支持金具がT字形状である点が開示される。
【意匠に係る物品の説明】欄には、「本物品は簡易携帯電話用のアンテナを電柱の上部等に取付け支持させるためのアンテナ支持金具に係り、例えば使用状態を示す参考図(1)?(3)のように、電柱の上部に取付けた既存の架空地線取付金具等に当該アンテナ支持金具を取付け、その支持金具に簡易携帯電話用のアンテナを取付ける。当該アンテナ支持金具においては、簡易携帯電話用アンテナを2本取付けることができる。」と記載されている。
甲第8号証の【使用状態を示す参考図】(1)乃至(3)には、アンテナ支持金具を電柱の先端に架空地線取付金具を介して取り付けられる点、アンテナ支持金具の左右方向両端部にアンテナの下端を取り付ける点、及び、甲第8号証の【使用状態を示す参考図】(3)には、前側に向かって延びる架空地線付金具の先端に架空地線を碍子を介して取り付ける点が開示されている。
さらに、甲第8号証の【使用状態を示す参考図】(1)及び(2)には、電柱の頂部は、円筒部の中心軸と一致する点、および、円筒部の下部を、電柱の頂部に嵌合する点が開示されている。

(9)甲第9号証
本願出願前に頒布された刊行物である甲第9号証(意匠登録第1034037-1(類似)号公報)には次の事項が記載されている。
【意匠に係る物品】欄には、「簡易携帯電話用アンテナ支持具」が記載されており、正面図には、簡易携帯電話用アンテナ支持金具がT字形状である点が開示される。
【意匠に係る物品の説明】欄には、「本物品は簡易携帯電話用のアンテナを電柱の上部等に取付け支持させるためのアンテナ支持金具に係り、例えば使用状態を示す参考図のように、電柱の上部に取付けた既存の架空地線取付金具等に当該アンテナ支持金具を取付け、その支持金具に簡易携帯電話用のアンテナを取付ける。当該アンテナ支持金具においては、簡易携帯電話用アンテナを2本取付けることができる。」と記載されている。
甲第9号証の【底面図】および【D一D’部分拡大図】には、斜め前側に延びる部材の先端に設けられるコ字部材に、2つのねじが設けられる点、【使用状態を示す参考図】には、コ字状部材によって、上下方向に延びる架空地線取付金具の先端を挟持する点、および、架空地線取付金具の先端には、さらに、架空地線を碍子を介して取り付ける点が開示されている。

(10)甲第10号証
本願出願前に頒布された刊行物である甲第10号証(意匠登録第1033258号公報)には次の事項が記載されている。
「意匠に係る物品」欄には、「簡易携帯電話用アンテナ取付け具」が記載されている。
「説明」欄には、「本物品は、電柱の頂部に、2本の簡易携帯電話(PHSすなわちPersonal Hayndy-phone System)用アンテナを取り付けるための手段(金具)である。」と記載されている。
甲第10号証の正面図および背面図には、簡易携帯電話用アンテナ取付け具が、上下方向に延びる円筒部と、円筒部の上端に、左右方向に延びるアーム部とを備える点が開示されている。
甲第10号証の使用状態を示す参考図には、円筒部の下部を電柱の頂部に取り付ける点、および、アームの両端部に、2本のPHS用アンテナを取り付ける点が開示されている。
甲第10号証は、意匠公報であるものの、これらの図面および説明に関する記載並びに技術常識を参酌すると、甲第10号証には、「上下方向に延びる円筒部からなる管柱において、上端部がストレート管であり、中央部が上側に向かうにしたがって縮径するテーパー状に形成され、下端部が電柱の頂部に嵌合するように形成された簡易携帯電話用アンテナ取付け具」に関する発明が記載されていると認められる(以下、「甲10発明」という)。

(11)甲第11号証
本願出願前に頒布された刊行物である甲第11号証(NTT技術ジャーナル 2007.10 技術基礎講座【架空構造物設計技術】第3回 架空構造物が持つ強度)には次の事項が記載されている。
「通信で使用するコンクリート柱は1種に該当します。」と記載されている。(第64頁)同頁には、コンクリート柱および鋼管柱のテーパー率が1/75である点が記載されている。また、甲第11号証の第64頁および66頁の記載から、コンクリート柱の1種は、JIS A 5373(2006)に基づいていると認められる。

(12)甲第12号証及び甲第13号証
本願出願前に頒布された刊行物である甲第12号証(JIS A 5373:2004 プレキャストプレストレストコンクリート製品 平成16年3月20日第1刷発行)及び甲第13号証(JIS A 5373:2010 プレキャストプレストレストコンクリート製品 平成22年3月23日 第1刷発行)には、それぞれにおいて、コンクリート柱および鋼管柱のテーパー率が1/75である点が記載されている。

(13)甲第14号証
キャップ型取付金具の製作図

(14)甲第15号証
甲第15号証は、2006年8月31日に、社団法人日本電気協会新聞部により発行された季刊「電力人事 秋季版 No.177」の一部抜粋頁である。
甲第15号証の第376頁には、喜田定逸氏が、甲第15号証の発行年の2006年に、関西電力株式会社の明石ネットワーク技術センター所長であったことが記載されている。
甲第15号証の第382頁には、戸田敏氏が、甲第15号証の発行年の2006年に、関西電力株式会社の姫路営業所の姫路ネットワークサポート技術センター係長であったことが記載されている。
甲第15号証の「関西電力編」の頁の枠囲み部分には、「きんでん」が、「関西電力」の関係会社であることが記載されている。

(15)甲第16号証
甲第16号証は、2013年8月31日に、社団法人日本電気協会新聞部により発行された季刊「電力人事 秋季版 No.205」の一部抜粋頁である。
甲第16号証の第369頁には、戸田敏氏が、甲第16号証の発行年の2013年に、関西電力株式会社の扇町ネットワーク技術センター所長であったことが記載されている。
甲第16号証の第415頁には、堀江庸弘氏が、甲第16号証の発行年の2013年に、株式会社きんでんの中央支店のネットワーク部長であったことが記載されている。
甲第16号証の第416頁には、甲第7号証の署名人である喜田定逸氏が、甲第16号証の発行年の2013年に、株式会社きんでんの神戸営業所長であったことが記載されている。

(16)甲第17号証
甲第17号証は、中部電力株式会社が1984年10月に発行した技術開発ニュースの抜粋である。
甲第17号証の第5頁には、タイトルとして、「コンクリート複合柱の開発」が記載されている。甲第17号証の上段には、コンクリート複合柱は、コンクリート台柱と鋼管部を組み合わせた構造である点が記載されている。また、「1 開発の背景」欄には、下部はコンクリート柱とし、上部は鋼管部としてコンクリート複合柱が記載されている。また、このコンクリート複合柱は、架空配電線路の支持物として開発されたことが記載されている。甲第17号証の「2 コンクリート複合柱の仕様」欄の「第1図 コンクリート複合柱の形状」欄には、A柱およびB柱の2種類のコンクリート複合柱の図面が開示されている。第1図の記載から、A柱のコンクリート柱と鋼管部との結合部の長さは、500mmと算出され、B柱については、730mmと算出される。

3 甲第2号証のカタログの刊行物頒布性
請求人は、甲第3号証?甲第7号証を提出し、甲第2号証のカタログが「頒布されたカタログ」に該当するとともに、公知日が2006年7月であると主張する。
これに対して被請求人は、甲第3号証及び甲第5号証?甲第7号証の覚書はいずれもカタログを頒布した相手の会社の担当者による証明となっているが、これらの人たちが実際に在職していたのか、会社の証明もなく疑わしい。また、これらの人たちがカタログ頒布時、どのような部署に在職し、これらを受け取ったのか全く記されておらず、証拠としての有効性が疑わしいと主張する。
被請求人は、甲第5号証により関西電力株式会社の戸田敏氏が2006年7月頃に株式会社日本ネットワークサポートの営業担当の藤原氏から甲第2号証のカタログの頒布を受けたこと、また、甲第7号証により(株)きんでんの喜田定逸氏が2006年7月頃に株式会社日本ネットワークサポートの営業担当の山本氏から甲第2号証のカタログの頒布を受けたと主張していたが、これを補強する証拠として請求人から甲第15号証および甲第16号証が追加されている。
甲第5号証及び甲第7号証並びに甲第15号証及び甲第16号証には、次の事実が記載されている。(上記「2 甲各号証の記載事項(5)(7)(14)(15)」参照)
甲第5号証の覚書によれば、戸田敏氏は、2006年7月頃に、株式会社日本ネットワークサポートの営業担当の藤原氏から、甲第2号証のカタログの頒布を受けたとして、2013年10月31日付けで関西電力株式会社扇町ネットワーク技術センター所長の立場で覚書に記名押印している。
また、甲第7号証の覚書によれば、喜田定逸氏は、2006年7月頃に、株式会社日本ネットワークサポートの営業担当の山本氏から、甲第2号証のカタログの頒布を受けたとして、2013年10月31日付で(株)きんでん神戸支店電力部次長の立場で覚書に記名押印している。
一方、甲第15号証によれば、その第382頁には戸田敏氏が甲第15号証の発行年の2006年に関西電力株式会社の姫路営業所の姫路ネットワークサポート技術センター係長であったことが記載されており、また、甲第15号証の第376頁には、喜田定逸氏が甲第15号証の発行年の2006年に関西電力株式会社の明石ネットワーク技術センター所長であったことが記載されている。
また、甲第16号証の第369頁には、甲第5号証の署名人である戸田敏氏が甲第16号証の発行された2013年に関西電力株式会社の扇町ネットワーク技術センター所長であったことが記載されており、また、甲第16号証の第416頁には、甲第7号証の署名人である喜田定逸氏が甲第16号証の発行された2013年に(株)きんでんの神戸営業所長であったことが記載されている。請求人は、平成26年1月10付けの上申書により喜田定逸氏は、甲第16号証の発行後、人事異動によって、甲第7号証に署名した役職名である、(株)きんでんの神戸支店電力部次長になったと主張する。
これらの事実及び請求人の主張に矛盾はなく、甲第5号証及び甲第7号証並びに甲第15号証および甲第16号証からは、2013年の署名時に関西電力株式会社に在籍していた戸田敏氏が2006年7月頃に関西電力株式会社の職員の立場で甲第2号証のカタログの配布を受けていたこと、また、2013年の署名時に(株)きんでんに在籍していた喜田定逸氏が2006年7月頃に株式会社関西電力株式会社の職員の立場で甲第2号証のカタログの配布を受けていた事実が推認される。
そして、関西電力株式会社は、カタログの配布者である(株)日本ネットワークサポートにとっては営業先であるところ、関西電力株式会社が、(株)日本ネットワークサポートのカタログの内容を秘密にする必要はないので、少なくとも、関西電力株式会社の職員であった戸田敏氏あるいは喜田定逸氏がこのカタログの配布を受けた2006年の7月の時点で、甲第2号証のカタログは、その内容を秘密にする必要の無い者である不特定の者が見得るような状態におかれたことになり、特許法第29条第1項3号に規定する「頒布された刊行物」になったものと認められる。

4 本件特許発明と甲1発明との比較検討
(1)一致点
甲1発明の「PHSアンテナ」は、本件特許発明の「通信用アンテナ」に相当する。また、甲1発明の「PHSアンテナを取り付ける」「管柱からなる」「架空地線用キャップ」は、「通信用のアンテナを取り付ける」「ポール」であることから、本件特許発明の「通信用アンテナと、該アンテナを支持する」「管柱とを有する」「アンテナポール」に相当する。
そして、甲1発明の「架空地線用キャップ」は、「電柱の上端に補助用として組付けられる」ことから、本件特許発明の「アンテナポール」とは「柱の先端に」組付けられる点で共通する。さらに、甲1発明の「架空地線用キャップ」は、「上部と下部の外径の差を有する円錐形状体」の下方に広がったテーパー状の形状を備えることから、本件特許発明の「アンテナポール」とは「下方に広がった」「テーパーを有」する点でも共通する。
また、甲1発明の「電柱」と本件特許発明の「コンクリート柱」とは、前者の「架空地線用キャップ」及び後者の「アンテナポール」が組付けられる「柱」である点で共通する。
以上より、本件特許発明は、甲一発明と以下の構成において一致する。
「通信用アンテナと、該アンテナを支持する管柱とを有するアンテナポールであって、前記管柱は下方に広がったテーパーを有し、柱の先端に前記管柱を組み付けたアンテナポール。」

(2)そして、両者は、以下の点で相違する。
(ア)「アンテナポール」の「管柱」が、本件特許発明では「テーパーを2段テーパーとするとともに」、「管柱の上部はテーパーを設けないストレート鋼管」であり、下部は「下方に広がった1/100?1/50のテーパー」を有する鋼管柱であるのに対して、甲1発明では、このような構成を備えるのかどうか不明である点。
(イ)「アンテナポール」を組み付ける「柱」が、本件特許発明では「コンクリート柱」であり、その形状が、鋼管柱の下部のテーパーである1/100?1/50の「管柱のテーパーと同じテーパーを有し、鋼管柱と中心軸が一致する」ものであるのに対して、甲1発明の「電柱」が、このような構成を備えるのかどうかは不明である点。
(ウ)「アンテナポール」と「柱」を組み付けるにあたり、本件特許発明は「アンテナポール」の「鋼管柱の下部を嵌合させて」「結合部の長さを500?1000mm」であるとしているのに対して、甲1発明ではどのように組み付けているのか不明である点。
(エ)「管柱」にアンテナを取り付けるにあたり、本件特許発明では「管柱の上部」の「ストレート鋼管」に取り付けているのに対して、甲1発明では「管柱」に取り付けるに止まる点。

5 相違点についての判断
(1)相違点(ア)について
ア 上記「2 甲各号証の記載事項 (2)」に示したように、甲第2号証には、「上端部はストレート、下端部は下方に広がるテーパー形状でテーパー率は1/75であり、また、中央部は上側中央部と下側中央部に分けられ、上側中央部は下端部のテーパー率と異なる下方に広がるテーパー形状であり、下側中央部は同一の径である円筒形状に鋼管を形成した電柱の上部に取り付けられる架空地線用腕金」(以下、甲2発明と呼ぶ。)が示されている。
甲2発明と本件特許発明とを比較すると、甲2発明が「円筒形状」の「鋼管」であることは本件特許発明が「鋼管柱」であることに、また、前者の「上端部はストレート」の「鋼管」は、後者の「鋼管柱の上部はテーパーを設けないストレート鋼管」に相当し、また、両者の下部は「下方に広がった1/75のテーパーを有」している点で一致する。そして、甲2発明が下端部には「下方に広がるテーパー形状」を備えると共に上側中央部に「下端部のテーパー率と異なる下方に広がるテーパー形状」を備えることは、その間には下側中央部として同一の径の部分が設けられているとしてもテーパー率が異なる2つのテーパー部を備えることから、本件特許発明とは「鋼管柱のテーパーを2段テーパーとする」点で一致する。
これより、両者は、「鋼管柱の下部は下方に広がった1/75のテーパーを有し、鋼管柱のテーパーを2段テーパーとするとともに、鋼管柱の上部はテーパーを設けないストレート鋼管」で一致することから、甲2発明の「架空地線用腕金」は、相違点(ア)に係る「鋼管柱のテーパーを2段テーパーとするとともに」、「管柱の上部はテーパーを設けないストレート鋼管」であり、下部は「下方に広がった1/75のテーパー」を有する構成を備えている。
そして、甲1発明及び甲2発明は、いずれも、柱の頂部に取付けることを目的の一つとする発明であること、また、甲第8号証及び甲第9号証に示されるように、電柱の上部に取付けた架空地線取付金具等にアンテナを取付けることは慣用手段であることから、甲1発明の「アンテナポール」に甲2発明の「架空地線用腕金」を適用して、本願発明の相違点(ア)にかかる構成を採用することは当業者が容易に想到し得たことである。
イ なお、「2 甲各号証の記載事項(10)」のとおり、甲第10号証には、「上下方向に延びる円筒部からなる管柱において、上端部がストレート管であり、中央部が上側に向かうにしたがって縮径するテーパー状に形成され、下端部が電柱の頂部に嵌合するように形成された簡易携帯電話用アンテナ取付け具」が記載されている。
ここで、甲第10証記載のものの電柱の頂部に嵌合する下端部にテーパーが形成されているかどうかは甲第10号証の記載からは明らかではないが、電柱に1/75のテーパーを形成することは甲第11?13号証に記載されているように慣用手段であることから、これに合わせて、甲第2号証に記載されているように(「2 甲各号証の記載事項 (2)」参照)、電柱の頂部に嵌合して取り付けられる管柱の下端部を下方に広がった1/75のテーパー状に形成することは技術常識であるため、甲第10号証記載のものは、電柱の頂部に嵌合する下端部には「下方に広がった1/75のテーパー」が実質的には形成されており、中央部が上側に向かうにしたがって縮径するテーパー状に形成されていることと併せて「2段テーパー」を備えていると認められる。
甲第10号証記載のものと本件特許発明とを比較すると、両者は「2段テーパー」を備え「管柱の上部はテーパーを設けないストレート管」であり、下部は「下方に広がった1/75のテーパー」を有する管柱である点で一致する。また、甲第10号証記載のもののような電柱の頂部に取付けられる部材を、甲第2号証記載の部材のように、鋼管で形成することも慣用手段である。
そして、甲1発明及び甲第10号証記載のものは、いずれも、柱の頂部にアンテナを取付けることを目的の一つとする発明であることから、慣用手段の採択と併せて甲1発明に甲第10号証記載のものを適用することよっても、上記のアと同様に、本願発明の相違点(ア)にかかる構成を採用することは当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点(イ)について
甲第11?13号証に記載されているように、電「柱」として「コンクリート柱」を用いること、そして、その柱に1/75のテーパーを形成することは慣用手段である。また、電柱の先端に管柱の下部を嵌合させて結合するにあたり、「管柱」と電柱の「中心軸が一致する」ように形成することも甲第8号証の【使用状態を示す参考図】(1)及び(2)に記載されているように慣用手段にすぎない。
そこで、甲1発明において、慣用手段を参酌することにより、相違点(イ)に係る構成を採用することは当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点(ウ)について
電柱の先端に管柱の下部を嵌合させて結合することは、甲第8号証の【使用状態を示す参考図】(1)及び(2)、甲第10号証の使用状態を示す参考図並びに甲第2号証の第26頁及び第73頁に記載されているように慣用手段にすぎない。
そして、管柱の下部と電柱との結合部の長さは、甲第2号書の第73頁には、図面上、その一例として両者の結合長さをおおよそ750mmとすることが記載されており、また、甲第17号証には、コンクリート複合柱としてコンクリート柱と鋼管部との結合部の長さを500mmあるいは730mmとすることが記載されているように、結合の強度を考慮して、技術常識に基づいて適宜決められることである。
したがって、甲1発明において、慣用手段及び技術常識を考慮して、相違点(ウ)に係る構成を採用することは当業者が容易になし得たことである。

(4)相違点(エ)について
相違点(ア)で述べたように、甲2発明の「架空地線用腕金」は、「管柱の上部はテーパーを設けないストレート鋼管」を備えており、甲第8号証及び9号証に記載されているように、電柱の頂部に架空地線用取付金具を取付けその上部にアンテナを取り付けることは慣用手段である。
また、甲第10号証の使用状態を示す参考図には、管柱のストレート管部に取り付けられたアンテナを支持する金具を介してアンテナを取り付けることが記載されている。
そして、甲1発明並びに甲2発明及び甲10発明は、いずれも、電柱の頂部に取付けることを目的の一つとする発明であることから、甲1発明に甲2発明あるいは甲10発明並びに技術常識及び慣用手段を適用することにより、本願発明の相違点(エ)にかかる発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことである。

(5)本件特許発明の効果について
その他、被請求人は、本件特許発明の特有の効果として、1)管柱3に2段テーパーを形成することで、鋼管柱3の重心を下げることができると共に、風圧を受けにくくなり、倒壊の危険性を低下することができること、2)鋼管柱3の上部をテーパーを設けないストレートな構造とすることにより、アンテナの取り付けやすさが向上すること、3)アンテナ5の向きの調整については、取付部がストレートであれば、取付作業性の向上につながること、を挙げて進歩性の存在を主張する。
しかしながら、これらの効果は、甲2発明あるいは甲10発明に付随し、これらの発明の組み合わせによりもたらせるものであり、これらの引用発明がもたらす効果と比較して異質あるいは際だって優れた効果であるとも言えないことから、この主張に基づいての本件発明の進歩性を認めることはできない。

6 無効理由についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証あるいは甲第10号証に記載された発明並びに技術常識及び慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証あるいは甲第10号証に記載された発明並びに技術常識及び慣用手段に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法123条1項2号に該当し、無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-17 
結審通知日 2014-10-22 
審決日 2014-11-12 
出願番号 特願2010-198416(P2010-198416)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (E04H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 渋谷 知子  
特許庁審判長 本郷 徹
特許庁審判官 杉浦 淳
住田 秀弘
登録日 2013-02-22 
登録番号 特許第5203432号(P5203432)
発明の名称 アンテナポール  
代理人 宇田 新一  
代理人 松本 悦一  
代理人 岡本 寛之  

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