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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1295954
審判番号 不服2012-8091  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-02 
確定日 2015-01-08 
事件の表示 特願2000-394497「非ステロイド系消炎鎮痛貼付剤」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月10日出願公開、特開2002-193793〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年12月26日の出願であって、平成24年1月30日付けで拒絶査定がなされたのに対し、平成24年5月2日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正がなされ、その後、当審からの平成26年3月6日付け拒絶理由の通知に応答し平成26年6月9日付けで手続補正書と意見書が提出されたものである。

2.本願発明
本願請求項1?5に係る発明は、平成26年6月9日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」ともいう。)は、次のとおりである。
「【請求項1】 炭素数が3?30のグリコールを含有し、かつ水を含まない溶液に溶解した非ステロイド系消炎鎮痛剤(インドメタシンを除く)を、架橋剤として多価金属化合物を含有するグリセリン含有含水ゲル中に分散させてなる貼付剤用の膏体であって、ゲル中の炭素数が3?30のグリコール量が2?20重量%であって、ゲル中のグリセリン量が15?30重量%であって、かつ、炭素数が3?30のグリコールがジプロピレングリコール、ブチレングリコール、及びポリエチレングリコールから選ばれる、貼付剤用の膏体。」

3.先願発明
当審の平成26年3月6日付けの拒絶理由に引用された特願2000-175244号(以下、「引用先願」ともいう。)は、本願の出願の日前である平成12年6月12日に出願され、本願の出願後である平成14年1月23日に特開2002-20274号公報として出願公開されたものであり、この出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書等」ともいう。)には,以下の技術事項が記載されている。 なお、下線は当審で付した。

(i)「【請求項1】 非ステロイド性消炎鎮痛剤の有効成分0.01?2.0質量%、アルキルピロリドン0.5?10質量%、親水性ポリエーテル1?15質量%、親水性非イオン性界面活性剤0.01?5質量%、カルボキシル基を有している水溶性高分子物質またはその塩2?15質量%、水溶性ビニルポリマー0.1?10質量%、水不溶性多価金属塩0.01?10質量%、多価アルコール5?50質量%、有機ヒドロキシ酸および水分からなる外用貼付剤。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)
(ii)「【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記のような貼付剤の問題点を解消し、薬効成分の基剤からの放出性および経皮吸収性が優れ、皮膚粘着力が良く、皮膚刺激感もない製剤的に安定した非ステロイド性消炎鎮痛剤を薬効成分とする経皮吸収形貼布剤を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は、非ステロイド性消炎鎮痛剤とアルキルピロリドン、親水性ポリエチレングリコールおよび親水性非イオン性界面活性剤からなる非ステロイド性消炎鎮痛剤組成物を、含水基剤、たとえばカルボキシル基を有している水溶性高分子物質、水溶性ビニルポリマー、水不溶性の多価金属塩、多価アルコール等の湿潤剤、有機ヒドロキシ酸、水分等からなる含水基剤に分散させることにより、非ステロイド性消炎鎮痛剤が含水基剤中に微細乳化的状態で溶解分散され、経皮吸収性が優れ、皮膚粘着性が良く、皮膚刺激がほどんどない非ステロイド性消炎鎮痛剤含有外用貼付剤を提供し、上記問題を解決する。非ステロイド性消炎鎮痛剤の有効成分は、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、ピロキシカム、テノキシカム、ジクロフェナク、フェルビナクよりなる群から選ばれることが好ましい。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明者は、上記の目的を達成するため長期研究を行った結果、非ステロイド性消炎鎮痛剤をアルキルピロリドン、親水性ポリエチレングリコール、および親水性非イオン性界面活性剤からなる組成物に溶解させ、特定混合の含水基剤に分散させる場合、非ステロイド性消炎鎮痛剤が含水基剤の中で微細乳化的状態にほぼ近い状態で安定的に溶解分散され、薬物の放出性および経皮吸収性が優れ、皮膚粘着力による物理的な刺激がなく、製剤的に安定した非ステロイド性炎症鎮痛剤含有外用貼付剤を得られるということを発見し、本発明を完成するに至った。」(段落【0010】?【0012】)
(iii)「【0016】本発明に使用する非ステロイド性消炎鎮痛剤(以下「NSAID」という。)として含有される有効成分は、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、ピロキシカム、テノキシカム、ジクロフェナクまたはフェルビナクから選択されることが好ましいが、これらは殆んどが水に難溶性なので粉末のままでは含水基剤に適用できない。」(段落【0016】)
(iv)「【0022】これに対する添加剤としては、親水性ポリエチレングリコール等の親水性ポリエーテルや、親水性非イオン性界面活性剤等が適当である。・・・略・・・。
【0023】本発明に使用する親水性ポリエーテル、たとえば親水性ポリエチレングリコールは、分子量によっていろいろな種類があるが、中でも室温で液状であるポリエチレングリコール400が最も適当である。親水性ポリエチレングリコールは、含水基剤ともうまくなじむ(相溶性である)。NSAIDの溶剤および溶解補助剤の組み合わせにより、NSAIDが含水基剤の中で結晶化し析出することを阻止し、経皮吸収を促進する。親水性ポリエーテルたとえばポリエチレングリコールの配合量は、薬効成分より多い分には関係ないが、好ましくは、膏体全体に対して1?15質量%である。」(段落【0022】?【0023】)
(v)「【0032】本発明で使用する水不溶性多価金属塩は、架橋剤であり、水酸化アルミウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミウム、酢酸アルミウム、アルミン酸ナトリウム、アルミニウムグリシネート等の三価アルミニウム化合物、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム等の二価マグネシウム化合物および水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、クエン酸カルシウム、パントテン酸カルシウム等がある。
【0033】このような多価金属塩は、酸と接触すると金属イオンを徐々に溶出させ、溶出した金属イオンは、分子鎖にカルボキシル基を有する水溶性ポリマーと反応して均質な含水ゲルを形成する。好ましくは、これらを一種または二種以上選び、その配合量は、含水基剤の保型性保持のため、膏体全体に対して0.01?10質量%である。配合量が0.01質量%以下では架橋が不充分となり、ゲルの強度が落ち、得られるゲル自体の保型性が顕著に悪化し、一方、10質量%より多くなると含水基剤が固く硬化し、柔軟性、粘着性、薬物放出性および成形加工性が悪くなる。上述した多価金属塩化合物の以外にも、アルミニウム明礬、鉄明礬等の明礬類、あるいはアルミニウムとマグネシウムとを含有する制酸剤等を多価金属塩として使用することができる。」(段落【0032】?【0033】)
(vi)「【0035】本発明で使用する多価アルコールは、含水基剤の保湿性、柔軟性、防湿後の粘着性、経時安定性等に影響を与え、また貼付剤製造工程で水溶性高分子の分散媒として良い役割を行なう。多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、トリエチレングリコール等の二価アルコール、グリセリン、ノニルグリセリン、トリオキシイソブタン等の三価アルコール、エリトリトール、ペンタエリトリトール等の四価アルコール、キシリトール、アドニトール等の五価アルコール、ソルビトール、マンニトール等の六価アルコール等がある。配合量は、膏体全体量に対して5?50質量%であり、好ましくは10?40質量%である。」(段落【0035】)
(vii)「【0039】次の実施例によりNSAID中ケトプロフェンが含有された貼付剤について本発明をより具体的に説明するが、本発明はケトプロフェン(以下「KP」という)含有貼付剤に限られるものではない。以下の例における%(パ-セント)は特に言及しない限り質量%を意味する。
【0040】各実施例および比較例に係る貼付剤(膏体)の処方を下記表1に記載する
【0041】 【表1】

【0042】実施例1
表1に示す配合量により、適量の精製水にVP-VA共重合体を撹拌溶解し、EDTA-2Na、酒石酸、乾燥Al(OH)_(3)ゲルを入れて充分に撹拌した。そこに、濃グリセリンにポリアクリル酸ナトリウム、CMC-Naおよびメチルパラベンを分散させたグリセリンペーストと、KP、ポリソルベート#80、メチルピロリドンおよびPEG#400を均一に混合したKP混合液を入れ、均質になるまで混練して膏体を調剤した。この膏体を不織布に715g/m^(2)になるよう塗布し、その表面をプラスチックフィルムにより被覆し、10×14cm^(2)に切断し、本発明のケトプロフェン貼付薬を得た。」(段落【0039】?【0042】)
(viii)「【0055】試験1
経皮吸収試験
薬物の放出および経皮吸収性を確認するため、ラットを使用したインビボ経皮吸収実験を実施した。実験動物は、Sprague Dowly系ラット(体重180?220g)を1群5匹とし、検体塗布の前日にエーテルにより麻酔して各動物の背中部位の毛を電気ヒゲ剃りおよび電気カッタ-で完全に除去した。検体として、実施例1、2および比較例1、2の貼付薬を一ヶ月以上充分に熟成して各々7cm×5cmの大きさに切断して使用した。
【0056】検体をラットの背中部位に貼って医療用バンドにより固定し、貼付後1時間、4時間、8時間、12時間ごとに採血して血漿中の薬物の濃度を高速液体クロマトグラフィーにより定量した。試験結果を表2および図1に示す。但し、数値は全試料数(5)の平均値と標準誤差率を示したものである。この結果からわかるように、本発明の貼付剤によれば、比較例より血液中のKP濃度が高く、本発明の貼付剤は薬物の放出性および経皮吸収性が確実に優れていることがわかる。
【0057】 【表2】

」(段落【0055】?【0057】)
(ix)「【0068】試験5
製剤の安定性
実施例および比較例の貼付薬をアルミニウムラミネートフィルムにより密封して40℃の恒温槽で保存し、製造時?3ヶ月月間まで成分の安定性および膏体の外部性状変化等を評価した。成分の安定性は、HPLC法により、外部の性状変化は肉眼により確認した。その結果を表9、10に示す。表9、10に示すように、本発明の貼付剤が比較例の貼付剤に比べ製剤の安定性が優れていることがわかる。
【0069】 【表9】

【0070】注1:膏体10g当たりケトプロフェン30mgを含有することを基準に評価した。
注2:測定値は3回測定の平均値である。
注3:( )内の数値は初期量に比べて落ちた値である。
【0071】 【表10】

」(段落【0068】?【0071】)

これらの記載(特に実施例1;摘示(vii)参照)から見て、そして、表1中の数値は、「以下の例における%(パ-セント)は特に言及しない限り質量%を意味する」との記載やこの実施例がその実施の態様と認められる請求項1の記載(摘示(i)参照)などに鑑みて貼付剤(膏体)中の割合を意味するものと理解できること、また、薬物の放出性および経皮吸収性が優れ膏体(製剤)として安定なものが得られている(摘示(ii),(viii),(ix)参照)ことから、先願明細書等には、薬物の放出性および経皮吸収性が優れ製剤的に安定した次の発明(以下、「先願発明」ともいう。)が開示されているものと認められる。なお、濃グリセリンとPEG#400以外の成分の割合については、後記の対比・判断に実質的な影響がないので、その記載を割愛した(後記(h)も参照)。

<先願発明>(先願明細書等の実施例1から認定した;摘示(vii)参照)
「精製水にVP-VA共重合体を撹拌溶解し、EDTA-2Na、酒石酸、乾燥Al(OH)_(3)ゲルを入れて充分に撹拌し、そこに、濃グリセリン(膏体中に28.0質量%)にポリアクリル酸ナトリウム、CMC-Naおよびメチルパラベンを分散させたグリセリンペーストと、KP(ケトプロフェン)、ポリソルベート#80、メチルピロリドンおよびPEG#400(膏体中に10.0質量%)を均一に混合したKP混合液を入れ、均質になるまで混練して得た、貼付剤用の膏体。」
(「KP」がケトプロフェンを意味することは段落【0039】に記載されている。;摘示(vii)参照)

4.対比、判断
そこで、本願発明と先願発明を対比する。

(a)先願発明の「PEG#400」は、平均分子量約400のポリエチレングリコールを意味する慣用的な表記であって(例えば,特開2000-292891号公報の段落【0044】、特開平11-189435号公報の【0051】の【表1】の脚注3)及び特開平8-283392号公報の段落【0037】参照)、先願明細書等の段落【0023】(摘示(iv)参照)に親水性ポリエーテルとして例示されている「ポリエチレングリコール400」に相当し、また平均分子量400というのは、炭素数は約18前後(繰返し部分「-CH_(2)CH_(2)O-」の分子量相当は44であり、両末端のHとOHの分子量相当は18であるから、繰り返し部分が9(繰り返し部分1単位の炭素数2なので全炭素数は18)の場合の平均分子量は414(=44×9+18)となる)に相当する。
そうすると、先願発明の「PEG#400」成分は、本願発明の「炭素数が3?30のグリコール」成分に該当し、さらに「炭素数が3?30のグリコールがジプロピレングリコール、ブチレングリコール、及びポリエチレングリコールから選ばれる」中からポリエチレングリコールを選択したことに対応する。
なお、本願明細書の段落【0006】及び段落【0023】の製剤例2などで用いられているいる「ポリエチレングリコール400」は、『PEG#400』と同義であると解せられる。

(b)先願発明の「PEG#400」成分が「膏体中に10.0質量%」存在することは、本願発明の「ゲル中の炭素数が3?30のグリコール量が2?20重量%」に合致している。
なお、本願発明の「ゲル中の」との記載は、「膏体中の」と実質的に同義であると理解できることは明白であるし、「重量%」と「質量%」は、厳密には異なる概念であるものの、地球表面におけることを前提に両者は実質的に同じ意味で使用されている。

(c)先願発明の「KP(ケトプロフェン)」成分は、非ステロイド性消炎鎮痛剤の有効成分であること(摘示(ii),(iii)参照)から、本願発明の「非ステロイド系消炎鎮痛剤(インドメタシンを除く)」成分に相当する。
なお、本願明細書段落【0005】には、非ステロイド系消炎鎮痛剤(インドメタシンを除く)として、ケトプロフェンが明示され、また実施例2(【0019】?【0021】)でも使用されている。

(d)先願発明の「濃グリセリン」成分は、一般にグリセリンの濃度が98%以上のものを指すことが知られていることに鑑み、その成分が「膏体中に28.0質量%」存在することは、本願発明の「ゲル中のグリセリン量が15?30重量%」に合致している。
なお、先願発明に係るグリセリンは「多価アルコール」として使用されている(摘示(vi)参照)。

(e)先願発明の「乾燥Al(OH)_(3)ゲル」成分は、すなわち、水酸化アルミニウムであり、先願明細書等の段落【0032】?【0033】(摘示(v)参照)において、架橋剤として例示されていて、しかも「分子鎖にカルボキシル基を有する水溶性ポリマーと反応して均質な含水ゲルを形成する」ものであるから、本願発明の「架橋剤として多価金属化合物」成分に相当する(なお、本願明細書【0013】において、『架橋剤』として「水酸化アルミニウム」が例示されている。)。
また、先願明細書等の上記記載(段落【0033】)において、多価金属塩に由来する金属イオンが反応して含水ゲルを形成するとしている「分子鎖にカルボキシル基を有する水溶性ポリマー」は、先願明細書等の請求項1(摘示(i)参照)の『カルボキシル基を有している水溶性高分子物質』に対応する成分であって、先願発明における「ポリアクリル酸ナトリウム」に相当するものであることから、先願発明に係る膏体中では、かかるポリアクリル酸ナトリウムと架橋剤である水酸化アルミニウムとが反応して含水ゲルが形成しているものと解される。
そして、先願発明では、乾燥Al(OH)_(3)ゲルを入れて充分に撹拌した精製水に、濃グリセリンにポリアクリル酸ナトリウムを分散させたグリセリンペーストを入れていることから、それにより架橋剤である水酸化アルミニウムとポリアクリル酸ナトリウムとが反応して形成する含水ゲルはグリセリンを含有しているといえるので、先願発明においても、実質的に本願発明でいう「架橋剤として多価金属化合物を含有するグリセリン含有含水ゲル」が形成していることは明らかである。

(f)先願発明の「KP(ケトプロフェン)、ポリソルベート#80、メチルピロリドンおよびPEG#400(膏体中に10.0質量%)を均一に混合したKP混合液」は、水を含まないものであって、「PEG#400」は前記(a)で記載したように「炭素数が3?30のグリコール」に相当することから、本願発明の「炭素数が3?30のグリコールを含有し、かつ水を含まない溶液に溶解した非ステロイド系消炎鎮痛剤(インドメタシンを除く)」に相当する。

(g)先願発明では「KP混合液を入れ、均質になるまで混練して得た、貼付剤用の膏体」とするものであるが、先願発明の認定の根拠とした実施例1が実施の態様となる発明の説明である先願明細書等の段落【0011】(摘示(ii)参照)には、「非ステロイド性消炎鎮痛剤とアルキルピロリドン、親水性ポリエチレングリコールおよび親水性非イオン性界面活性剤からなる非ステロイド性消炎鎮痛剤組成物を、含水基剤、たとえばカルボキシル基を有している水溶性高分子物質、水溶性ビニルポリマー、水不溶性の多価金属塩、多価アルコール等の湿潤剤、有機ヒドロキシ酸、水分等からなる含水基剤に分散させることにより、非ステロイド性消炎鎮痛剤が含水基剤中に微細乳化的状態で溶解分散され、」と記載されていることを参酌すると、先願発明においても「KP混合液」が、含水基剤中に溶解分散された状態となっていると解釈すべきことは明らかであり、また、実際に非ステロイド性消炎鎮痛剤が含水基剤の中で長期間安定に分散されることも、ケトプロフェンを使用した製剤についての「試験5」として具体的に説明されている(摘示(ix)参照)。
したがって、先願発明の「・・・KP混合液を入れ、均質になるまで混練して得た、貼付剤用の膏体」についても、KP混合液が含水基剤中に溶解分散した膏体であると解するのが相当である。
ところで、上記(f)でも記載したように、先願発明の「KP混合液」(KP、・・・およびPEG#400(膏体中に10.0質量%)を均一に混合したもの)は、本願発明でいう「炭素数3?30のグリコール(ポリエチレングリコール)を含有し、かつ水を含まない溶液に溶解した非ステロイド性消炎鎮痛剤」に相当し、また先願明細書等でいう「含水基剤」は、上で引用した段落【0011】(摘示(ii)参照)において「たとえばカルボキシル基を有している水溶性高分子物質、…水不溶性の多価金属塩、…水分等からなる含水基剤」と記載されているように、ゲル基剤、架橋剤及び水を含むものであるから、本願発明でいう「含水ゲル」に相当するものである。
これらの対応関係を前提とするならば、先願発明には『含水ゲル』又は『含水ゲル中に分散させてなる』といった直接的な表現はないものの、「・・・KP混合液を入れ、均質になるまで混練して得た、貼付剤用の膏体」は、本願発明における「非ステロイド系消炎鎮痛剤(・・・)を、・・・含水ゲル中に分散させてなる貼付剤用の膏体」に実質的に相当するものといえる。

(h)先願発明の「VP-VA共重合体」、「EDTA-2Na」、「酒石酸」、「ポリアクリル酸ナトリウム」、「CMC-Na」および「メチルパラベン」、「ポリソルベート#80」、「メチルピロリドン」の各成分については、本願発明では明示的に特定されていない。
しかし、そもそも本願発明では、含有される必須成分のみが特定され、それら以外の成分についは、(非ステロイド系消炎鎮痛剤を溶解したグリコールについての)「水を含まない溶液」との特定を除き、必要に応じて適宜配合し得るものと認められ、例えば、本願発明の実施例(表1参照)でも、「ポリビニルアルコール」、「酒石酸」、「ソルビトール液」、「カオリン」、「カルメロースナトリウム」(当審注:CMC-Naのこと)、「ポリアクリル酸部分中和物」(当審注:ポリアクリル酸ナトリウムに対応)、「エデト酸ナトリウム」(当審注:EDTA-Naのこと)、「ポリソルベート80」、「パラオキシ安息香酸エステル」(当審注:メチルパラベンに相当)が配合されているように、それら成分と先願発明の前記各成分の多くは重複するし、また、先願発明で前記各成分が特定されているからと言って実質的な相違点とは言えない。
そして、当然にそれらの成分の配合割合は本願発明で任意であると理解され、実質的な相違点とはなり得ない。

なお、審判請求人は、平成26年6月9日付け意見書において、先願明細書等に記載の実施例1について、架橋剤の存在しない追試データを提示して、先願発明は本願発明と異なる旨主張しているが、前記(e)で記載したように先願発明においては、Al(OH)_(3)を架橋剤として使用しているのであるから、かかる主張は採用の余地はない。

以上、(a)?(i)の検討・判断からみて、本願発明の貼付剤用の膏体は、先願発明の貼付剤用の膏体と実質的な差異はないと認められることから、本願発明は、先願明細書等に記載された発明と同一であるということができる。

5.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明は、引用先願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であり、本願発明の発明者が先願発明の発明者と同一ではなく、また、本願の出願の時において、本願の出願人が引用先願の出願人と同一でもないから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
それゆえ、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-07 
結審通知日 2014-11-11 
審決日 2014-11-26 
出願番号 特願2000-394497(P2000-394497)
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 清子  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 冨永 保
関 美祝
発明の名称 非ステロイド系消炎鎮痛貼付剤  
代理人 新田 昌宏  
代理人 呉 英燦  
代理人 秋山 信彦  
代理人 田村 恭生  
代理人 鮫島 睦  

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