ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02M |
---|---|
管理番号 | 1296042 |
審判番号 | 不服2013-20915 |
総通号数 | 182 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-02-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-10-28 |
確定日 | 2015-01-05 |
事件の表示 | 特願2006-289290「燃料噴射装置用インジェクタおよび該インジェクタを備えた燃料噴射装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 5月17日出願公開、特開2007-120500〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成18年10月24日(パリ条約による優先権主張 2005年10月25日 スイス連邦)の出願であって、平成18年12月25日に特許法第36条の2第2項に規定する明細書、請求の範囲、図面及び要約書の翻訳文が提出され、平成23年8月11日付けで拒絶理由が通知され、平成24年2月17日に意見書及び手続補正書が提出され、平成24年7月19日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成25年1月25日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年6月20日付けで平成25年1月25日に提出された手続補正書による補正が却下されるとともに同日付けで拒絶査定がなされ、平成25年10月28日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に、特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。 第2.平成25年10月28日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成25年10月28日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正 (1)本件補正の内容 平成25年10月28日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正により補正される前の(すなわち、平成24年2月17日提出の手続補正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1の下記(ア)の記載を、下記(イ)の記載へと補正するものである。 (ア)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1 「 【請求項1】 軸(45)に沿って延在し、高圧下の燃料を収容する内部高圧空間(14’、23)を囲むインジェクタハウジング(18)と、 前記インジェクタハウジング(18)の下端部に前記高圧空間(14’、23)に接続する噴射バルブ(13、16、22)と、 ノズルニードル(21、26)であって、前記ノズルニードル(21、26)は前記高圧空間(14’、23)を軸方向に走り、前記ノズルニードル(21、26)は作動機構(19)により油圧により作動し、ここで前記作動機構(19)は前記インジェクタハウジング(18)の上端部に配置され、電磁石(30)と、制御孔(32)を有する制御空間(34)と、前記制御空間(34)内で軸方向に摺動可能な制御ピストン(35)とを具備し、かつ前記ノズルニードル(21、26)は軸の位置に応じて前記噴射バルブ(13、16、22)を開閉してなるノズルニードル(21、26)と を含む燃料噴射装置(10’、49)用インジェクタ(11’、12’、20)において、 前記インジェクタハウジング(18)内に少なくとも二つの分離高圧接合部(A’、24、25)が設けられることで、外部から前記高圧空間(14’、23)への連絡が可能となり、前記少なくとも二つの接合部(A’、24、25)はそれぞれ高圧ライン(17’、42、43、44)に接続するように設計されることを特徴とするインジェクタ。」 (イ)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1 「 【請求項1】 軸(45)に沿って延在し、高圧下の燃料を収容する内部高圧空間(14’、23)を囲むインジェクタハウジング(18)と、 前記インジェクタハウジング(18)の下端部に前記高圧空間(14’、23)に接続する噴射バルブ(13、16、22)と、 ノズルニードル(21、26)であって、前記ノズルニードル(21、26)は前記高圧空間(14’、23)を軸方向に走り、前記ノズルニードル(21、26)は作動機構(19)により油圧により作動し、ここで前記作動機構(19)は前記インジェクタハウジング(18)の上端部に配置され、電磁石(30)と、制御孔(32)を有する制御空間(34)と、前記制御空間(34)内で軸方向に摺動可能な制御ピストン(35)とを具備し、かつ前記ノズルニードル(21、26)は軸の位置に応じて前記噴射バルブ(13、16、22)を開閉してなるノズルニードル(21、26)と を含む燃料噴射装置(10’、49)用インジェクタ(11’、12’、20)において、 前記インジェクタハウジング(18)内に少なくとも二つの分離高圧接合部(A’、24、25)が設けられることで、外部から前記高圧空間(14’、23)への連絡が可能となり、前記少なくとも二つの高圧接合部(A’、24、25)はそれぞれ高圧ライン(17’、42、43、44)に接続するように設計され、 内部に前記ノズルニードル(13、21、26)を備えた前記高圧空間(14’、23)は前記高圧接合部(A’、24、25)から前記噴射バルブ(13、22)にわたって走り、閉鎖バネ(36)を囲い込み,この閉鎖バネ(36)は閉鎖方向に前記ノズルニードル(13、21、26)に軸圧力を印加することを特徴とするインジェクタ。」(なお、下線は、当審が補正箇所を示すために付したものである。) (2)本件補正の目的 本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「接合部(A’、24、25)」を「高圧接合部(A’、24、25)」と補正することで誤記の訂正をするとともに、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された「高圧空間」が、「高圧接合部(A’、24、25)から前記噴射バルブ(13、22)にわたって走り、閉鎖バネ(36)を囲い込」む旨、及び、該「閉鎖バネ(36)」が「閉鎖方向に前記ノズルニードル(13、21、26)に軸圧力を印加する」旨を限定することを含むものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。 したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮及び同第3号の誤記の訂正を目的とするものに該当する。 2.本件補正の適否についての判断 本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。 2.-1 引用文献 (1)引用文献の記載 本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である欧州特許出願公開第1063420号明細書(以下、「引用文献」という。)には、例えば、次のような記載がある。 (ア)「[0011] The common rail 11 includes a first region 11a‥‥the height of the system can be reduced.」(段落[0011]ないし[0015]) <当審仮訳> 「[0011] コモンレール11は、一の方向に延びる第1部分11aを含む。多数の横方向に延びる第2部分11bがあり、該第2部分11bは、比較的長い軸の方向である一の方向に対して側方に(実施例において垂直に)位置する。第2部分11bのそれぞれは、内孔11cの間にある深い凹部として規定される。その内孔11cは、第1部分11aの長さに亘って伸びる。第2部分11bの各端部は、第1部分11aから離れており、雄ねじが設けられ、キャップナット13が被せられている。該キャップナット13は、各第2部分11bの端部に、噴射ノズル14を装着するために用いられる。第2部分11bは、噴射ノズル14のノズルホルダとして用いられるとよい。 [0012] 図上、各インジェクターは、ノズル14に加え、圧電素子の作動積層物15を有する。該圧電素子の作動積層物15は、深い凹部に位置し、第2部分11bに適合するように形成される。これにより、各第2部分11bはインジェクターのハウジングとなっており、実施例においては、圧電素子の作動積層物15のハウジングとなっている。 [0013] 圧電素子の作動積層物15の通電レベルを制御することにより、ノズル14のニードルバルブ16が着座して、コモンレールからの燃料の流れが複数の開口に至る弁座を通過することを止めている閉位置と、ニードルバルブ16が離座して燃料噴射が行われる位置と、の間で動く。 [0014] コモンレール11は、図1で線17により示されるエンジンのハウジングの中に位置する。この実施例においては、ハウジング17はエンジンのロッカーカバー、即ち、エンジンの吸排気バルブを開閉する機構の一部をカバーするものである。その結果、コモンレール燃料システムは比較的コンパクトとなり、エンジンからの高圧燃料の漏れの恐れを減らすことができる。さらに、噴射ノズル14をコモンレール11に直接搭載することで、各インジェクターにラインを接続することなく、組立て部品の数も減る。組立て部品の数が減ることで、燃料システムに用いる高圧シールの数も減らせ、さらには、燃料漏れの恐れも減らすことができる。 [0015] この発明と共に図1に描かれたタイプのインジェクターを用いることによるさらなる利点は、コモンレール11の第2部分11bの凹部が、かなりの量の高圧燃料を蓄えるようにでき、コモンレール11の内孔11cの容積を他のものに比して減らすことができるということにある。この内孔11cのサイズを小さくすることによって、第1部分11aの外径を小さくすることもでき、その結果、コモンレール11の自由度を増加させることできる。この自由度は、エンジンの製造における僅かな許容変化と使用における熱膨張差を補償する。また、このインジェクターをコモンレール11に用いたときに、システムの高さを小さくすることができる。」 (イ)「[0017] In a further modification illustrated in Figure 1,‥‥and is not limited to the particular type of injector illustrated in Figure 1.」(段落[0017]ないし[0019]) <当審仮訳> 「[0017] 図1に示されたさらなる変更点は、コモンレールを複数の一般的なL型部材を製作する代わりに、複数の管状部材とインジェクターのノズルホルダーとなる複数の部材から構成することができ、それらの部材は互いに破線18及び19で表示された両方の位置で、シールされる。 [0018] 位置18、又は位置18及び19の両方で、高圧シールを用いる図1に示された変更は、燃料供給システムに部材を追加又は削除することにより、システムの現在のインジェクターの数を変更することができるとともに、異なる気筒数を有する様々なエンジンに用いることができる。上記変更点は、このようなシールを用いることによって、コモンレールを1部材で構成することに比べ、柔軟性の度合いが大きくなるというさらなる利点を有する。そのような柔軟性は、エンジンに的確にインジェクターを装着することを助ける。 [0019] 図1及びその変形に図示した構成においては、圧電素子により作動されるインジェクターが用いられ、それによる利点はあるが、この発明において、コモンレール燃料システムに利用できるタイプであれば、図1に図示された特定のタイプのインジェクターに限らず、どのようなインジェクターを用いることも可能である。」 (2)引用文献記載の事項 上記(1)及び図1の記載から、引用文献には次の事項が記載されていることが分かる。 (ウ)上記(1)(ア)及び(イ)並びに図1の記載から、引用文献には、燃料供給システムに用いるインジェクターが記載されているということができる。 (エ)上記(1)(ア)の段落[0015]の記載によれば、「コモンレール11の第2部分11bの凹部が、かなりの量の高圧燃料を蓄えるようにでき」るものであるところ、上記(1)(イ)の段落[0017]の記載において「インジェクタのノズルホルダー」は、図1に示された第2部分11bである。したがって、段落[0017]ないし[0019]に示された実施例において、燃料供給システムに用いるインジェクターは、垂直方向に位置し、凹部に高圧燃料を蓄えるノズルホルダーを有することが分かる。 (オ)上記(1)(ア)の段落[0011]及び図1の記載によれば、コモンレールの第2部分11bの下方の端部に噴射ノズル14が装着され、該噴射ノズル14はコモンレールの第2部分11bに蓄えた高圧燃料に接続することは明らかであるから、段落[0017]ないし[0019]に示された実施例において、燃料供給システムに用いるインジェクターは、ノズルホルダーの下方の端部に装着され、ノズルホルダーに蓄えた高圧燃料に接続する噴射ノズル14を有することが分かる。 (カ)上記(1)(ア)の段落[0011]及び(イ)並びに図1の記載から、段落[0017]ないし[0019]に示された実施例において、燃料供給システムに用いるインジェクターは、圧電素子の作動積層物15の通電レベルを制御することで動き、軸方向の位置に応じて噴射ノズル14を開閉するニードルバルブ16を含むことが分かる。 (キ)上記(1)(イ)の段落[0017]の記載において「管状部材」は、図1に示された第1部分11aであることは明らかであり、複数の管状部材とインジェクターのノズルホルダーは、破線18及び19で表示された両方の位置で接続されているから、段落[0017]ないし[0019]に示された実施例において、ノズルホルダーの二つの部位で管状部材に接続されるものであることが分かる。 (3)引用発明 上記(1)及び(2)並びに図1の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「 垂直方向に位置し、凹部に高圧燃料を蓄えるノズルホルダーと、 ノズルホルダーの下方の端部に装着され、ノズルホルダーに蓄えた高圧燃料に接続する噴射ノズル14と、 圧電素子の作動積層物15の通電レベルを制御することで動き、軸方向の位置に応じて噴射ノズル14を開閉するニードルバルブ16とを含む燃料供給システムに用いるインジェクターにおいて、 ノズルホルダーの二つの部位で、管状部材に接続されるインジェクター。」 2.-2 対比 本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「ノズルホルダー」は、その構成、機能及び技術的意義からみて、本願補正発明における「インジェクタハウジング」に相当し、以下同様に、「下方の端部」は「下端部」に、「噴射ノズル14」は「噴射バルブ」に、「ニードルバルブ16」は「ノズルニードル」に、「燃料供給システムに用いるインジェクター」及び「インジェクター」は「燃料噴射装置用インジェクタ」及び「インジェクタ」に、それぞれ相当する。 また、引用発明において、ノズルホルダーが「垂直方向に位置し、凹部に高圧燃料を蓄える」ことは、ノズルホルダーが垂直軸に沿って延び、ノズルホルダーの内部にある凹部という空間に高圧の燃料を収容することであるといえるから、本願発明において、インジェクタハウジングが「軸に沿って延在し、高圧下の燃料を収容する内部高圧空間を囲む」ことに相当し、引用発明において、噴射ノズル14が「ノズルホルダーの下方の端部に装着され、ノズルホルダーに蓄えた高圧燃料に接続する」ことは、本願補正発明において、噴射バルブを「インジェクタハウジングの下端部に高圧空間に接続する」ことに相当する。 そして、「ノズルニードルは作動機構により作動し、軸の位置に応じて噴射バルブを開閉する」という限りにおいて、引用発明においてニードルバルブ16が「圧電素子の作動積層物15の通電レベルを制御することで動き、軸方向の位置に応じて噴射ノズル14を開閉する」ことは、本願発明において「ノズルニードルは作動機構により油圧により作動」し、「前記作動機構は前記インジェクタハウジングの上端部に配置され、電磁石と、制御孔を有する制御空間と、前記制御空間内で軸方向に摺動可能な制御ピストンとを具備し」、「軸の位置に応じて噴射バルブを開閉」することに相当する。 さらに、引用発明における「管状部材」は、図1に示されているようにポンプ10とノズルホルダーとの間に介在するものであり、ノズルホルダとの接合部をシールするものであるから、引用発明における管状部材とノズルホルダとの接合部が、外部から高圧空間への連絡を可能とし、高圧ラインに接続するように設計される分離高圧接合部といえることは明らかである。したがって、「インジェクタハウジングに少なくとも二つの分離高圧接合部が設けられることで、外部から前記高圧空間への連絡が可能となり、少なくとも二つの高圧接合部はそれぞれ高圧ラインに接続するように設計する」という限りにおいて、引用発明において「ノズルホルダーの二つの部位で、管状部材に接続される」ことは、本願補正発明において「前記インジェクタハウジング内に少なくとも二つの分離高圧接合部が設けられることで、外部から前記高圧空間への連絡が可能となり、前記少なくとも二つの高圧接合部はそれぞれ高圧ラインに接続するように設計され」ることに相当する。 以上から、本願補正発明と引用発明は、 「 軸に沿って延在し、高圧下の燃料を収容する内部高圧空間を囲むインジェクタハウジングと、 前記インジェクタハウジングの下端部に前記高圧空間に接続する噴射バルブと、 作動機構により作動し、軸の位置に応じて前記噴射バルブを開閉してなるノズルニードルとを含む燃料噴射装置用インジェクタにおいて、 前記インジェクタハウジングに少なくとも二つの分離高圧接合部が設けられることで、外部から前記高圧空間への連絡が可能となり、前記少なくとも二つの高圧接合部はそれぞれ高圧ラインに接続するように設計されるインジェクタ。」 である点で一致し、次の点において相違する。 〈相違点〉 (a)本願補正発明におけるノズルニードルは、高圧空間を軸方向に走り、作動機構により油圧により作動し、該作動機構はインジェクタハウジングの上端部に配置され、電磁石と、制御孔を有する制御空間と、制御空間内で軸方向に摺動可能な制御ピストンとを具備するのに対し、引用発明におけるニードルバルブは、このような構成を有さない点(以下、「相違点1」という。)。 (b)本願補正発明においては、インジェクタハウジング内に少なくとも二つの分離高圧接合部が設けられることで、外部から前記高圧空間への連絡が可能となり、前記少なくとも二つの高圧接合部はそれぞれ高圧ラインに接続するように設計されるのに対し、引用発明においては、ノズルホルダーの二つの部位で、管状部材に接続される点(以下、「相違点2」という。)。 (c)本願補正発明においては、内部にノズルニードルを備えた高圧空間が高圧接合部から噴射バルブにわたって走り、閉鎖バネを囲い込み,この閉鎖バネは閉鎖方向に前記ノズルニードルに軸圧力を印加するものであるのに対し、引用発明においては、このような構成を有さない点(以下、「相違点3」という。)。 2.-3 判断 まず、相違点1について検討する。 「燃料噴射装置用インジェクタにおいて、ノズルニードルが、高圧空間を軸方向に走り、作動機構により油圧により作動し、該作動機構はインジェクタハウジングの上端部に配置され、電磁石と、制御孔を有する制御空間と、制御空間内で軸方向に摺動可能な制御ピストンとを具備すること」は、周知の技術(以下、「周知技術1」という。例えば、特開2004-183647号公報の図2、特開2005-256703号公報の図2、特開2004-44595号公報の図1等参照。)である。 そして、引用発明におけるインジェクタは、高圧燃料を噴射する噴射ノズルを有するインジェクタであるから、上記周知技術1は共通の技術分野に属するもので、置換可能であるから、引用発明において、インジェクタに代えて上記周知技術1に係る燃料噴射装置用インジェクタを採用することにより、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項としたことは、当業者が容易に想到し得たことである。 次に、相違点2について検討する。 上記したように引用発明において「管状部材」は、図1に示されているようにポンプ10とノズルホルダーとの間に介在するものであり、ノズルホルダとの接合部をシールするものであるから、引用発明における管状部材とノズルホルダとの接合部が、外部から高圧空間への連絡を可能とする分離高圧接合部といえることは明らかであるところ、分離高圧接合部を設ける位置をノズルホルダの内部とすることは、単なる設計上の事項にすぎないから、引用発明において、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項としたことは、当業者が容易に想到し得たことである。 さらに、相違点3について検討する。 「燃料噴射装置用インジェクタにおいて、内部にノズルニードルを備えた高圧空間が高圧接合部から噴射バルブにわたって走り、閉鎖バネを囲い込み,この閉鎖バネは閉鎖方向に前記ノズルニードルに軸圧力を印加するように構成すること」は、周知の技術(以下、「周知技術2」という。例えば、特表2003-519754号公報の図2a、特開2003-35234号公報の図2、特開2000-320428号公報の図6等参照。)である。 そして、引用発明におけるインジェクタは、高圧燃料を噴射する噴射ノズルを有するインジェクタであって、上記周知技術2とは共通の技術分野に属するものであるから、引用発明において、上記周知技術2に係る燃料噴射装置用インジェクタに係る構成を付加することにより、上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項としたことは、当業者が容易に想到し得たことである。 さらに、本願補正発明を全体として検討しても、引用発明並びに周知技術1及び2から予測される以上の格別の効果を奏すると認めることはできない。 したがって、本願補正発明は、引用発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって結論のとおり決定する。 第3.本願発明について 1.本願発明 前記のとおり、平成25年10月28日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1ないし11に係る発明は、平成24年2月17日提出の手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに平成18年12月25日提出の図面の翻訳文の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるものであり、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2.の[理由]1.(1)(ア)【請求項1】のとおりのものである。 2.引用文献 本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(欧州特許出願公開第1063420号明細書)記載の発明(引用発明)は、前記第2.の[理由]2.-1に記載したとおりである。 3.対比 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の構成と本願発明における発明特定事項との関係は、前記第2.の[理由]2.-2に記載したとおりであるから、次に記載する〈一致点〉で一致し、〈相違点〉で相違する。 〈一致点〉 「 軸に沿って延在し、高圧下の燃料を収容する内部高圧空間を囲むインジェクタハウジングと、 前記インジェクタハウジングの下端部に前記高圧空間に接続する噴射バルブと、 作動機構により作動し、軸の位置に応じて前記噴射バルブを開閉してなるノズルニードルとを含む燃料噴射装置用インジェクタにおいて、 前記インジェクタハウジングに少なくとも二つの分離高圧接合部が設けられることで、外部から前記高圧空間への連絡が可能となり、前記少なくとも二つの高圧接合部はそれぞれ高圧ラインに接続するように設計されるインジェクタ。」 〈相違点〉 (a)本願発明におけるノズルニードルは、高圧空間を軸方向に走り、作動機構により油圧により作動し、該作動機構はインジェクタハウジングの上端部に配置され、電磁石と、制御孔を有する制御空間と、制御空間内で軸方向に摺動可能な制御ピストンとを具備するのに対し、引用発明におけるニードルバルブは、このような構成を有さない点(以下、「相違点4」という。)。 (b)本願発明においては、インジェクタハウジング内に少なくとも二つの分離高圧接合部が設けられ、引用発明においては、ノズルホルダーの二つの部位で、管状部材に接続される点(以下、「相違点5」という。)。 4.判断 上記相違点4に関し、引用発明におけるインジェクタは、高圧燃料を噴射する噴射ノズルを有するインジェクタであるから、上記周知技術1は共通の技術分野に属するもので、置換可能であるから、引用発明において、インジェクタに代えて上記周知技術1に係る燃料噴射装置用インジェクタを採用することにより、上記相違点4に係る本願補正発明の発明特定事項としたことは、当業者が容易に想到し得たことである。 また、相違点5に関し、上記第2の[理由]2.-3で相違点2について検討したように、分離高圧接合部を設ける位置をノズルホルダの内部とすることは、単なる設計上の事項にすぎないから、引用発明において、上記相違点5に係る本願発明の発明特定事項としたことは、当業者が容易に想到し得たことである。 さらに、本願発明を全体として検討しても、引用発明及び周知技術1から予測される以上の格別の効果を奏すると認めることはできない。 したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-08-01 |
結審通知日 | 2014-08-06 |
審決日 | 2014-08-21 |
出願番号 | 特願2006-289290(P2006-289290) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(F02M)
P 1 8・ 121- Z (F02M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 赤間 充 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
中村 達之 金澤 俊郎 |
発明の名称 | 燃料噴射装置用インジェクタおよび該インジェクタを備えた燃料噴射装置 |
代理人 | 田辺 稜 |
代理人 | 浅沼 聖子 |
代理人 | 浜田 治雄 |
代理人 | 西口 克 |