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審決分類 審判 査定不服 特39条先願 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1298110
審判番号 不服2013-23386  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-29 
確定日 2015-03-05 
事件の表示 特願2011-171855「半導体発光素子の分離方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月 4日出願公開、特開2011-223041〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、平成18年10月3日に出願された特願2006-279511号(以下「原出願」という。)の一部を平成23年8月5日に新たな特許出願としたものであって、平成25年6月21日に手続補正がなされ、同年8月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月29日に拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、その後、当審において平成26年9月30日付けで拒絶理由が通知され、同年12月5日に意見書が提出されたものである。
そして、本願の請求項に係る発明は、平成25年11月29日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載される事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「サファイア基板上に形成された半導体発光素子の分離方法において、
パルス幅が10ピコ秒未満であるパルスレーザを前記サファイア基板において集光させて、多光子吸収を発生させる方法を用いて、
前記サファイア基板の表面に分離予定線に沿ってスクライブ溝を形成することなく、前記分離予定線に沿って前記パルスレーザを走査することにより、前記サファイア基板の内部の分離予定面上であって所定の深さに、溶融部を形成することなく、非熱加工により、前記パルスレーザの集光位置に形成される頭部と、そこからフィラメンテーションにより前記パルスレーザの進行方向に延びた足部とから成る前記分離予定線方向に連続しない内部改質部を形成し、
全ての前記内部改質部が形成された後に、外力を加えて、前記連続しない内部改質部に沿って分離面を形成することで各半導体発光素子を分離する
ことを特徴とする半導体発光素子の分離方法。」

2.当審拒絶理由
これに対して、平成26年9月30日付けで通知した当審の拒絶理由は、次のとおりである。

「1.この出願の請求項1ないし5に係る発明は、特願2006-279511号(特許第52332375号、以下『原出願』という。)の請求項1、6、2、4及び5に係る発明とそれぞれ同一であるから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。
備考
本願請求項1は、『サファイア基板の表面に分離予定線に沿ってスクライブ溝を形成することなく』というものであるが、原出願請求項1も『スクライブ溝を形成する』ものではない。
一方、原出願請求項1は、『前記サファイア基板の表面の分離予定線に沿って前記パルスレーザを走査することにより、実質的に分離予定線方向に連続した溝部を形成』するものであるところ、本願請求項1では、このような限定がされていないが、本願明細書の【0017】に『分離線方向に連続した溝部の深さは、0.5?10μm程度が良い。浅すぎると割断が不可能となり、深すぎると溝の側面の面積が大きくなる。』と記載されているように、分離予定線方向に連続した溝部を形成しなければ、割断が不可能なのであるから、本願請求項1に係る発明においても、半導体発光素子の分離のためには、サファイア基板の表面の分離予定線に沿ってパルスレーザを走査することにより、実質的に分離予定線方向に連続した溝部を形成することが必要であると認められるところであり、この点は、本願請求項1に係る発明と原出願請求項1に係る発明との実質的な相違点とはならない。
また、本願請求項1では、『溶融部を形成することなく、非熱加工により、』との限定がなされているが、原出願請求項1に係る発明の『内部改質部』が『溶融部を形成することなく、非熱加工により』形成されたものであることは明らかであり、この点も本願請求項1に係る発明と原出願請求項1に係る発明の実質的な相違点とはいえない。
本願請求項2ないし5がそれぞれ、原出願請求項6、2、4及び5に相当することは明らかである。

2.本願請求項1には、『前記サファイア基板の表面の分離予定線に沿って前記パルスレーザを走査することにより、実質的に分離予定線方向に連続した溝部を形成』することの記載がないことから、本願請求項1に係る発明は、このような溝部を形成しなくても発光素子の分離が可能であるという発光素子の分離方法の発明であると解することもできるが、この場合には、原出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に、このような溝を形成することなく素子を分離することの記載や示唆はないから、本願についての出願日の遡及は認められない(原出願明細書等の【請求項1】、【0007】、【0010】、【0016】に記載されるとおりであって、原出願明細書等においては、パルスレーザにより形成された実質的に分離予定線方向に連続した溝部を形成することが素子を分離するための必須の要件とされており、このような溝を形成することなしに素子の分離が可能である旨の記載や示唆はない。)。
してみると、原出願の公開公報である特開2008-98465号公報は、本願出願前に頒布された刊行物であり、特開2003-338636号公報には、その図21?25にみられるようにサファイア基板の表面に溝を設けることなく素子を分離することが記載されていることを考えれば、特開2008-98465号公報において、サファイア基板の表面に溝を形成することなく素子を分離することを想到することに格別の困難性は認められず、本願各請求項に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.この出願の請求項1?5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された特開2003-338636号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
備考
引用例の【0054】?【0069】には、サファイア基板1の内部に多光子吸収により形成される改質領域7でもって、切断予定ライン5に沿った切断起点領域を形成した後、外力を加えて素子を分離することが記載されているものと認められる(特に、【0069】の『ウェハ2の基板1の内部に多光子吸収という現象により形成される改質領域7でもって、切断予定ライン5に沿った切断起点領域が形成され、基板1が、切断起点領域に沿ってエキスパンドテープ23などの比較的小さな力で割って切断される。』の記載参照。)。
ここで、改質領域7が分離予定線方向に連続しないものであることは、図5等から明らかであり、また、引用例の溝25及び27は、p型半導体層17b及びn型半導体層17aにエッチングにより形成される溝であるから、サファイヤ基板1の表面に形成されるスクライブ溝ではない。
そして、多光子吸収による改質領域を形成することについて、引用例の【0039】には、『パルス幅を極めて短くして、多光子吸収を基板の内部に起こさせると、多光子吸収によるエネルギーが熱エネルギーに転化せずに、基板の内部にはイオン価数変化、結晶化又は分極配向等の永続的な構造変化が誘起されて屈折率変化領域が形成される』と記載されていることから、引用例の改質領域は、本願発明の内部改質部と同様に『溶融部を形成することなく、非熱加工により』形成されたものと認められる。
また、引用例の【0039】には、パルス幅として『1ps以下がさらに好ましい』と記載されていることから、引用例には、本願発明と同様に『パルス幅が10ピコ秒未満であるパルスレーザを前記サファイア基板において集光させ』ることも記載されているものと認められる。
してみると、本願請求項1に係る発明と引用例に記載された発明は、前者では、内部改質部が『パルスレーザの集光位置に形成される頭部と、そこからフィラメンテーションにより前記パルスレーザの進行方向に延びた足部とから成る』とされているのに対し、後者における改質領域7がこのようなものであるか不明な点で相違するものの、両者に他の格別の相違点は認められない。
上記相違点について検討するに、本願発明の内部改質部が上記のようなものとなる理由について、請求人は請求書において、レーザのピーク出力密度が 6.1×10^(13) W/cm^(2)と高いものであるからとの主張をしている。
一方、引用例には、レーザのピーク出力密度について、【0039】に『電界強度の上限値としては、例えば1×10^(12)(W/cm^(2))である。』と記載されており(ここで、【0039】はパルスレーザに関するものであるから、【0021】及び【0031】の記載からすると、この電界強度は、『ピークパワー密度』であり、本願発明でいう『ピーク出力密度』のことであると考えられる。)、請求人が主張するものよりは小さいが、引用例において、電界強度の上限値を1×10^(12)(W/cm^(2))に抑えなければならない理由の記載はなく、これを大きくすればより小さい外力での基板の分離が可能となるであろうことは当業者に明らかであり、引用例における電界強度の大きさを請求人が主張する程度のものとすることを想到することに格別の困難性は認められない。
そして、電界強度の大きさを請求人が主張する程度の大きさにして引用例の改質領域7を形成した場合には、その改質領域7は、本願発明と同様に『パルスレーザの集光位置に形成される頭部と、そこからフィラメンテーションにより前記パルスレーザの進行方向に延びた足部とから成る』ものと推認される。
請求項2ないし5に係る事項は、当業者が適宜決定できる設計事項にすぎない。」

3.請求人の主張の概要
これに対して、請求人は、平成26年12月5日付け意見書において、大略、次の主張をしている。

(1)拒絶理由1について
原出願の請求項1の特許発明は、
(c)前記サファイア基板の表面の分離予定線に沿って前記パルスレーザを走査することにより、実質的に分離予定線方向に連続した溝部を形成すること。
を構成要件として有するものであるのに対し、
本願の請求項1に係る発明は、原出願の請求項1の構成要件(c)を有していないので、原出願請求項1の発明と同一ではない。

(2)拒絶理由2について
原出願の図1、図4、図5A、明細書段落0021、0022から、サファイア基板10の裏面に、連続した溝部50を形成しなくとも、サファイア基板の裏面近くにレーザの焦点位置を設定して、裏面に最も近い改質部51を、その頭部の手前側(足部と反対側)が裏面下に現れる位置に形成することで、容易に、分離予定線に沿って、基板をブレーキングできると、当業者であれば、容易に認識できるので、原出願の発明の構成要件から構成要件(c)を削除することにより、新たな技術的事項が導入されることにはならない。

(3)拒絶理由3について
a.引用例には、(1)光学的損傷に基づく熱ひずみによるクラックによるもの、(2)溶融によるもの、(3)屈折率変化によるもの、の3通りの方法が記載されているが、引用例の図12において、空洞状の頭部やフィラメンテーションによる足部は形成されていない。
b.引用例の(3)の方法の屈折率変化による改質と、基板内の集光点において、材料の高圧プラズマを生成したアブレーションによるフィラメンテーションを発生させる非熱加工とは全く異なる。
c.引用例では、電力密度の上限値は、1×10^(12)W/cm^(2)であり、本件発明では、電力密度の下限値が1.415×10^(12)W/cm^(2)であり、電力密度において、本件発明と引用例とでは、全く異なる。
d.引用例は、フィラメンテションによるパルスレーザの進行方向に延びた足部を有しておらず、その示唆もないから、本件発明の構成要件は、引用例から容易に発明されたものではない。
e.引用例は、上記b.の3通りの方法を記載しているが、この3つの方法において、焦光点における電界強度は、1×10^(8)W/cm^(2)以上、上限値は1×10^(12)W/cm^(2)と共通しているから、(3)屈折率変化によるもの、においても、電界強度の上限値は、基板の表面に余計なダメージを与えない値であると認識されており、1×10^(12)W/cm^(2)を越えた電界強度のレーザを基板に照射することは、引用例からは、当業者といえども、容易に想起できるものではない。
f.仮に、引用例において、電界強度の上限値1×10^(12)W/cm^(2)を越えるレーザを基板に照射したところで、引用例には、新たな機構が示唆されていないから、本願発明の「溶融部を形成することなく、非熱加工により、前記パルスレーザの集光位置に形成される頭部と、そこからフィラメンテーションにより前記パルスレーザの進行方向に延びた足部とから成る前記分離予定線方向に連続しない内部改質部が形成される」ことにはならない。

4.当審の判断
(1)拒絶理由1について
本願明細書の【0017】には、「分離線方向に連続した溝部の深さは、0.5?10μm程度が良い。浅すぎると割断が不可能となり、深すぎると溝の側面の面積が大きくなる。」との記載がされている。
すなわち、本願明細書には、分離線方向に連続した溝部がなければ、割断が不可能、すなわち、半導体発光素子の分離が不可能であることが記載されている。
そして、本願明細書の【0010】に「…フェムト秒レーザを基板表面に集光し、基板表面の溝部が形成される」と記載され、また、【0019】に「…本発明によるフェムト秒パルスレーザによる溝部50」、【0021】に「…フェムト秒パルスレーザを走査して、溝部50…を形成した」と記載されているように、上記溝(部)は、原出願の請求項1(c)の「溝部」に外ならない。
また、本願明細書には、この溝部を形成することなしに素子分離を行うことの記載はない。
してみると、本願の請求項1に係る発明が半導体発光素子の分離方法である以上、請求項1にこの溝(部)についての記載がなくとも、必ず、その構成要件として上記溝(部)の形成を有しているものと認められるところであり、本願の請求項1に上記(c)の記載がないからといって、この点において、本願の請求項1に係る発明と原出願の請求項1に係る発明が相違するとはいえない。
したがって、請求人の主張は採用できず、本願の請求項1に係る発明は、特願2006-279511号(特許第52332375号(以下「原出願」という。)の請求項1に係る発明と同一であるから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願の請求項2ないし5に係る発明は、それぞれ、原出願の請求項6、2、4及び5に係る発明と同一であるから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2)拒絶理由2について
ア 原出願明細書においては、半導体発光素子の分離は、サファイア基板10の裏面(面11)に連続した溝部50を形成することを前提としており、原出願明細書には、サファイア基板10の裏面に連続した溝部50を形成することなく、素子分離をすることの記載や示唆はないから(原出願明細書に、請求人が主張するような、連続した溝部50を形成することなく、サファイア基板の裏面近くにレーザの焦点位置を設定して、裏面に最も近い改質部51を、その頭部の手前側が裏面下に現れる位置に形成することで、分離予定線に沿って、基板をブレーキングすることを示唆するような記載はない。)、原出願の発明の構成要件から構成要件(c)を削除して、サファイア基板10の表面に連続した溝部50を形成しなくても、半導体発光素子の分離が可能であるという内容にすることは、新たな技術的事項を導入するものといわざるを得ない。
したがって、請求人の主張は採用できず、本願についての出願日の遡及は認められない。

イ しかるところ、本願の出願前に頒布された刊行物であって、原出願の公開公報である特開2008-98465号公報(以下「原出願公開公報」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された半導体発光素子の分離方法において、
パルス幅が10ピコ秒未満であるパルスレーザを前記基板において集光させて、多光子吸収を発生させることにより、
前記基板の表面の分離予定線に沿って、前記パルスレーザにより形成された実質的に分離予定線方向に連続した溝部と、
前記基板の内部の所定の深さに、分離予定面に対応して、前記パルスレーザにより形成された分離予定線方向に連続しない内部改質部とを形成し、
外力を加えて、前記連続した溝部と前記連続しない内部改質部に沿って分離面を形成することで各半導体発光素子を分離することを特徴とする半導体発光素子の分離方法。

【請求項6】
前記基板はサファイア基板であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の半導体発光素子の分離方法。
【請求項7】
前記改質部は、前記パルスレーザの集光位置に形成された前記基板面に平行な方向の直径が1.5μm以上の頭部と、そこからフィラメンテーションにより前記パルスレーザの進行方向に延びた、前記基板面に平行な方向の直径が0.8μm以上の足部とから成ることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の半導体発光素子の分離方法。」
(イ)「【0010】
本発明は、フェムト秒レーザにより、表面の溝部と、内部の改質部とを形成し、外力を加えた際に、これらを起点として分離面を形成することで半導体発光素子の分離を行うものである。フェムト秒レーザによる改質部の形成は、非熱加工であるため、原理的には溶融部は形成されない。」

ウ 原出願発明
上記イによれば、原出願公開公報には、以下の発明(以下「原出願発明」という。)が記載されていると認められる。
「基板上に形成された半導体発光素子の分離方法において、
パルス幅が10ピコ秒未満であるパルスレーザを前記基板において集光させて、多光子吸収を発生させることにより、
前記基板の表面の分離予定線に沿って、前記パルスレーザにより形成された実質的に分離予定線方向に連続した溝部と、
前記基板の内部の所定の深さに、分離予定面に対応して、前記パルスレーザにより形成された分離予定線方向に連続しない内部改質部とを形成し、
外力を加えて、前記連続した溝部と前記連続しない内部改質部に沿って分離面を形成することで各半導体発光素子を分離し、
前記基板はサファイア基板であり、
前記改質部は、前記パルスレーザの集光位置に形成された前記基板面に平行な方向の直径が1.5μm以上の頭部と、そこからフィラメンテーションにより前記パルスレーザの進行方向に延びた、前記基板面に平行な方向の直径が0.8μm以上の足部とから成り、
フェムト秒レーザにより、表面の溝部と、内部の改質部とを形成し、外力を加えた際に、これらを起点として分離面を形成することで半導体発光素子の分離を行い、フェムト秒レーザによる改質部の形成は、非熱加工であるため、原理的には溶融部は形成されない、半導体発光素子の分離方法。」

エ 対比・判断
本願発明と原出願発明を対比すると、両者は、
「サファイア基板上に形成された半導体発光素子の分離方法において、
パルス幅が10ピコ秒未満であるパルスレーザを前記サファイア基板において集光させて、多光子吸収を発生させる方法を用いて、
分離予定線に沿って前記パルスレーザを走査することにより、前記サファイア基板の内部の分離予定面上であって所定の深さに、溶融部を形成することなく、非熱加工により、前記パルスレーザの集光位置に形成される頭部と、そこからフィラメンテーションにより前記パルスレーザの進行方向に延びた足部とから成る前記分離予定線方向に連続しない内部改質部を形成し、
全ての前記内部改質部が形成された後に、外力を加えて、前記連続しない内部改質部に沿って分離面を形成することで各半導体発光素子を分離する半導体発光素子の分離方法。」
の点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。
・本願発明では、サファイア基板の表面に分離予定線に沿ってスクライブ溝を形成することなく、内部改質部を形成するのに対し、原出願発明では、サファイア基板の表面の分離予定線に沿って、パルスレーザにより実質的に分離予定線方向に連続した溝部を形成し、内部改質部を形成する点(以下「相違点1」という。)。
上記相違点1につき検討するに、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-338636号公報(以下「引用例」という。)には、その図21?25にみられるようにサファイア基板の表面に溝を設けることなく素子を分離する発明が記載されているから、原出願発明の「半導体発光素子の分離方法」において、引用例に記載された上記発明を適用し、サファイア基板の表面に溝を形成することなく素子を分離することを想到することは、当業者において格別困難なことではない。
よって、本願の請求項1に係る発明は、原出願発明及び引用例に記載された上記発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(3)拒絶理由3について
ア 引用発明
原出願の出願前に頒布され、当審における拒絶の理由に引用した刊行物である上記特開2003-338636号公報(引用例)には、図とともに以下の事項が記載されている。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板の表面上にIII-V族化合物半導体からなる半導体層が積層されたウェハに、前記ウェハをチップ状に切断するための切断予定ラインに沿って前記半導体層から前記基板に達する溝を形成し、前記溝に臨む前記基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより多光子吸収による改質領域を形成し、この改質領域によって、前記基板のレーザ光入射面から所定距離内側に切断起点領域を形成し、前記切断起点領域に沿って前記ウェハを切断する工程を備える、発光素子の製造方法。」
(イ)「【0020】
【発明の実施の形態】…本実施形態に係る発光素子の製造方法では、ウェハの基板の内部にレーザ光を照射して、多光子吸収による改質領域を形成する。」
(ウ)「【0027】…本実施形態において多光子吸収により形成される改質領域としては、次の(1)?(3)がある。

【0039】(3)改質領域が屈折率変化領域の場合
例えばガラスなどからなる基板の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×10^(8)(W/cm^(2))以上で且つパルス幅が1ns以下の条件でレーザ光を照射する。パルス幅を極めて短くして、多光子吸収を基板の内部に起こさせると、多光子吸収によるエネルギーが熱エネルギーに転化せずに、基板の内部にはイオン価数変化、結晶化又は分極配向等の永続的な構造変化が誘起されて屈折率変化領域が形成される。電界強度の上限値としては、例えば1×10^(12)(W/cm^(2))である。パルス幅は例えば1ns以下が好ましく、1ps以下がさらに好ましい。」
(エ)「【0040】以上、多光子吸収により形成される改質領域として(1)?(3)の場合を説明したが、基板の結晶構造やその劈開性などを考慮して切断起点領域を次のように形成すれば、その切断起点領域を起点として、より一層小さな力で、しかも精度良く基板を切断することが可能になる。
【0041】すなわち、…サファイアなどの六方晶系の結晶構造を有する基板の場合は、(0001)面(C面)を主面として(1120)面(A面)或いは(1100)面(M面)に沿った方向に切断起点領域を形成するのが好ましい。」
(オ)「【0054】図18及び図19は、本実施形態に係る発光素子の製造方法を説明するためのフローチャートである。また、図20?図24は、発光素子の製造方法を説明するためのウェハ2の断面図である。
【0055】図18を参照すると、まず、ウェハ2の裏面(すなわち、基板1の裏面21)にエキスパンドテープ23を貼る(S1、図20)。エキスパンドテープ23は、例えば加熱により伸びる材料からなり、後の工程において、ウェハ2をチップ状に分離させるために用いられる。
【0056】続いて、図16に示された切断予定ライン5に沿ってウェハ2のp型半導体層17b側の面をエッチングすることにより、第1の溝25を形成する(S3、図21)。このとき、第1の溝25の深さが、p型半導体層17bからn型半導体層17aの途中までの深さとなるように第1の溝25を形成する。…
【0057】続いて、切断予定ライン5に沿ってウェハ2の第1の溝25の底面をエッチングすることにより、第2の溝27を形成する(S5、図22)。このとき、第2の溝27が基板1の表面3に達するように、第2の溝27を形成する。このように形成することによって、第2の溝27の底面に基板1の表面3が露出する。

【0059】続いて、ウェハ2の基板1の内部に、第2の溝27に沿って切断起点領域を形成する(S7、図23)。すなわち、第2の溝27の底面をレーザ光入射面として基板1の内部の集光点Pへレーザ光Lを照射することにより、基板1の内部に改質領域7を形成する。この改質領域7が、ウェハ2を切断する際の切断起点領域となる。

【0066】…レーザ光源101からレーザ光Lを発生させて、レーザ光Lをウェハ2の第2の溝27の底面に照射する。レーザ光Lの集光点Pは基板1の内部に位置しているので、改質領域7は基板1の内部にのみ形成される。また、このとき、レーザ光Lを第2の溝27の幅よりも狭い範囲に入射して、第2の溝27の長手方向と交差する方向の改質領域7の幅を、第2の溝27の当該方向の幅よりも狭く形成することが好ましい。…
【0067】続いて、第2の溝27に沿うようにX軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させて、第2の溝27に沿うように改質領域7を複数形成…し、切断予定ライン5に沿う切断起点領域を基板1の内部に形成する(S113)。
【0068】ここで、…ウェハ2の基板1に切断起点領域を形成したのち、切断起点領域に沿ってウェハ2を複数のチップに切断する(S9、図24)。すなわち、エキスパンドテープ23をウェハ2の裏面21と平行な方向に伸ばすことにより、基板1の内部に形成された切断起点領域を起点としてウェハ2が切断され、複数のチップ状に分割される。こうして、n型半導体層17a及びp型半導体層17bとの間にpn接合を有する発光ダイオード31が形成される。
【0069】以上説明したように、本実施形態に係る発光素子の製造方法及び発光ダイオードでは、まず、ウェハ2にp型半導体層17bから基板1に達する第1の溝25及び第2の溝27が形成されることによって、n型半導体層17a及びp型半導体層17bが所望の形状寸法に加工される。そして、ウェハ2の基板1の内部に多光子吸収という現象により形成される改質領域7でもって、切断予定ライン5に沿った切断起点領域が形成され、基板1が、切断起点領域に沿ってエキスパンドテープ23などの比較的小さな力で割って切断される。したがって、この製造方法及び発光ダイオードによれば、n型半導体層17aやp型半導体層17bなどの積層構造を有するウェハ2を高精度かつ効率よく切断することができる。」
(カ)上記(エ)に照らして図22を見ると、「第2の溝27」は、「n型半導体層17a」に形成されるものであることが見て取れる。
上記(ア)?(カ)によれば、引用例には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「基板の表面上にIII-V族化合物半導体からなる半導体層が積層されたウェハに、前記ウェハをチップ状に切断するための切断予定ラインに沿って前記半導体層から前記基板に達する溝を形成し、前記溝に臨む前記基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより多光子吸収による改質領域を形成し、この改質領域によって、前記基板のレーザ光入射面から所定距離内側に切断起点領域を形成し、前記切断起点領域に沿って前記ウェハを切断する工程を備える、発光素子の製造方法であって、
多光子吸収により形成される改質領域としては、改質領域が屈折率変化領域の場合があり、この場合、基板の内部に集光点を合わせて、集光点における電界強度が1×10^(8)(W/cm^(2))以上で且つパルス幅が1ns以下の条件でレーザ光を照射し、パルス幅を極めて短くして、多光子吸収を基板の内部に起こさせると、多光子吸収によるエネルギーが熱エネルギーに転化せずに、基板の内部にはイオン価数変化、結晶化又は分極配向等の永続的な構造変化が誘起されて屈折率変化領域が形成され、電界強度の上限値としては、例えば1×10^(12)(W/cm^(2))であり、パルス幅は例えば1ns以下が好ましく、1ps以下がさらに好ましく、
サファイアなどの六方晶系の結晶構造を有する基板の場合は、(0001)面(C面)を主面として(1120)面(A面)或いは(1100)面(M面)に沿った方向に切断起点領域を形成するのが好ましく、
まず、ウェハ2の裏面(すなわち、基板1の裏面21)にエキスパンドテープ23を貼り、続いて、切断予定ライン5に沿ってウェハ2のp型半導体層17b側の面をエッチングすることにより、第1の溝25を形成し、続いて、切断予定ライン5に沿ってウェハ2の第1の溝25の底面をエッチングすることにより、n型半導体層17aに第2の溝27を形成し、このとき、第2の溝27が基板1の表面3に達するようになし、続いて、第2の溝27の底面をレーザ光入射面として基板1の内部の集光点Pへレーザ光Lを照射することにより、基板1の内部に改質領域7を形成し、この改質領域7が、ウェハ2を切断する際の切断起点領域となり、レーザ光Lの集光点Pは基板1の内部に位置しているので、改質領域7は基板1の内部にのみ形成され、続いて、第2の溝27に沿うようにX軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させて、第2の溝27に沿うように改質領域7を複数形成し、切断予定ライン5に沿う切断起点領域を基板1の内部に形成し、ウェハ2の基板1に切断起点領域を形成したのち、エキスパンドテープ23をウェハ2の裏面21と平行な方向に伸ばすことにより、基板1の内部に形成された切断起点領域を起点としてウェハ2が切断され、複数のチップ状に分割され、切断起点領域に沿ってウェハ2を複数のチップに切断し、こうして、n型半導体層17a及びp型半導体層17bとの間にpn接合を有する発光ダイオード31が形成される、発光素子の製造方法。」

イ 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(ア)引用発明の「発光素子の製造方法」は、「基板の表面上にIII-V族化合物半導体からなる半導体層が積層されたウェハに、前記ウェハをチップ状に切断するための切断予定ラインに沿って前記半導体層から前記基板に達する溝を形成し、前記溝に臨む前記基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射することにより多光子吸収による改質領域を形成し、この改質領域によって、前記基板のレーザ光入射面から所定距離内側に切断起点領域を形成」するものであって、「多光子吸収により形成される改質領域としては、改質領域が屈折率変化領域の場合があり、この場合、基板の内部に集光点を合わせて、…パルス幅が1ns以下の条件でレーザ光を照射し、パルス幅を極めて短くして、多光子吸収を基板の内部に起こさせると、多光子吸収によるエネルギーが熱エネルギーに転化せずに、基板の内部にはイオン価数変化、結晶化又は分極配向等の永続的な構造変化が誘起されて屈折率変化領域が形成され、…パルス幅は…1ps以下がさらに好まし」く、「(n型半導体層17aに形成された)第2の溝27に沿うようにX軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させて、…改質領域7を複数形成し」、「サファイアなどの六方晶系の結晶構造を有する基板の場合は、…(C面)を主面として…(A面)或いは…(M面)に沿った方向に切断起点領域を形成するのが好まし」いものであるから、引用発明の上記の事項と、本願発明の「パルス幅が10ピコ秒未満であるパルスレーザを前記サファイア基板において集光させて、多光子吸収を発生させる方法を用いて、前記サファイア基板の表面に分離予定線に沿ってスクライブ溝を形成することなく、前記分離予定線に沿って前記パルスレーザを走査することにより、前記サファイア基板の内部の分離予定面上であって所定の深さに、溶融部を形成することなく、非熱加工により、前記パルスレーザの集光位置に形成される頭部と、そこからフィラメンテーションにより前記パルスレーザの進行方向に延びた足部とから成る前記分離予定線方向に連続しない内部改質部を形成し」との事項は、「パルス幅が10ピコ秒未満であるパルスレーザを前記サファイア基板において集光させて、多光子吸収を発生させる方法を用いて、前記サファイア基板の表面に分離予定線に沿ってスクライブ溝を形成することなく、前記分離予定線に沿って前記パルスレーザを走査することにより、前記サファイア基板の内部の分離予定面上であって所定の深さに、溶融部を形成することなく、非熱加工により、前記分離予定線方向に連続しない内部改質部を形成し」との点で一致する。
(イ)引用発明は、「切断起点領域に沿って前記ウェハを切断する工程を備え」、「改質領域7は基板1の内部にのみ形成され、…第2の溝27に沿うように改質領域7を複数形成し、切断予定ライン5に沿う切断起点領域を基板1の内部に形成し、ウェハ2の基板1に切断起点領域を形成したのち、エキスパンドテープ23をウェハ2の裏面21と平行な方向に伸ばすことにより、基板1の内部に形成された切断起点領域を起点としてウェハ2が切断され、複数のチップ状に分割され、切断起点領域に沿ってウェハ2を複数のチップに切断し、こうして、n型半導体層17a及びp型半導体層17bとの間にpn接合を有する発光ダイオード31が形成される」ものであるから、本願発明の「全ての前記内部改質部が形成された後に、外力を加えて、前記連続しない内部改質部に沿って分離面を形成することで各半導体発光素子を分離する」との事項を備える。
(ウ)引用発明の「発光素子の製造方法」は、「サファイアなどの六方晶系の結晶構造を有する基板の場合は、…(C面)を主面として…(A面)或いは…(M面)に沿った方向に切断起点領域を形成するのが好まし」く、「前記切断起点領域に沿って前記ウェハを切断する工程を備える」ものであるから、本願発明の「サファイア基板上に形成された半導体発光素子の分離方法」に相当する。
(エ)したがって、両者は、
「サファイア基板上に形成された半導体発光素子の分離方法において、
パルス幅が10ピコ秒未満であるパルスレーザを前記サファイア基板において集光させて、多光子吸収を発生させる方法を用いて、
前記サファイア基板の表面に分離予定線に沿ってスクライブ溝を形成することなく、前記分離予定線に沿って前記パルスレーザを走査することにより、前記サファイア基板の内部の分離予定面上であって所定の深さに、溶融部を形成することなく、非熱加工により、前記分離予定線方向に連続しない内部改質部を形成し、
全ての前記内部改質部が形成された後に、外力を加えて、前記連続しない内部改質部に沿って分離面を形成することで各半導体発光素子を分離する
半導体発光素子の分離方法。」
の点で一致し、以下の点において相違する。
・分離改質部が、本願発明では、パルスレーザの集光位置に形成される頭部と、そこからフィラメンテーションにより前記パルスレーザの進行方向に延びた足部とから成るのに対し、引用発明では、そのようなものであるのか否か明らかでない点(以下「相違点2」という。)。

ウ 判断
上記相違点2につき検討する。
本願明細書の【0015】によれば、フィラメンテーションは、「自己集光作用により形成される」ものであるから、レーザパルスの照射条件が本願明細書に記されるものと同程度であれば、引用発明においても自己集光作用により形成されるものと認められる。
しかるところ、引用発明は、多光子吸収により基板の内部に改質領域を形成する際、照射されるレーザー光の集光点における電界強度の上限値を、「例えば1×10^(12)(W/cm^(2))」とするものであって、必ずしもその上限値を1×10^(12)W/cm^(2)に限定するものではなく、また、引用例には、電界強度の上限値を1×10^(12)W/cm^(2)に抑えなければならない格別の理由も記載されていない。そして、その電界強度の上限値を大きくすれば、より小さい外力で基板を分離し得ると予測することは当業者において格別困難なことではない。
この点に関し、請求人は、平成26年12月5日付け意見書において、「引例では、電力密度の上限値は、1×10^(12)W/cm^(2)であり、本件発明では、電力密度の下限値が1.415×10^(12)W/cm^(2)です。したがって、電力密度において、本件発明と引例とでは、全く異なります。」と主張する( 5)2.A.参照。)。しかしながら、電力密度の値として、1×10^(12)W/cm^(2)と1.415×10^(12)W/cm^(2)は、ともに10^(12)W/cm^(2)台であり、本件発明と引用発明とが、電力密度において全く異なるとはいえない。加えて、引用発明は、照射されるレーザー光の集光点における電界強度の上限値を必ずしも1×10^(12)W/cm^(2)に限定するものでないことは上述したとおりである。
したがって、引用発明において、「例えば1×10^(12)(W/cm^(2))」とされているレーザ光の集光点における電界強度の上限値をより大きなものとして、レーザ光の照射条件を本願明細書に記されるものと同程度となし、その結果、レーザ光の照射による多光子吸収によって形成される改質領域を、レーザ光の集光位置に形成される頭部と、そこからフィラメンテーションにより前記レーザ光の進行方向に延びた足部とから成るものとなして、本願発明に係る上記相違点2の構成となすことは、当業者が容易になし得ることである。

エ 請求人の主張に対して
(ア)a.に対して
引用例の図12は、(2)溶融によるものであり、引用例の【0034】に記載されるようにそのパルス幅が30nsであるから、拒絶理由3で指摘したパルス幅として「1ps以下がさらに好ましい」とする(3)屈折率変化によるものとは異なるから、引用例の図12において空洞状の頭部やフィラメンテーションによる足部が形成されていないことは、拒絶理由3を覆す理由とはならない。
(イ)b.について
本願明細書において、本願発明の「フィラメンテーションを発生させる非熱加工」が「材料の高圧プラズマを生成したアブレーションによる」との記載はないから、請求人の上記主張は採用できない。なお、拒絶理由3で指摘したとおり、引用例の(3)屈折率変化によるものは、「溶融部を形成することなく、非熱加工により」改質領域を形成したものと認められる。
(ウ)c.について
上記ウにおいて述べたとおり、電力密度の値として、1×10^(12)W/cm^(2)と1.415×10^(12)W/cm^(2)は、ともに10^(12)W/cm^(2)台であり、本件発明と引用例に記載された発明とが、電力密度において全く異なるとはいえない。
(エ)d.について
本願明細書の【0015】によれば、フィラメンテーションは、「自己集光作用により形成される」ものであるから、レーザパルスの照射条件が本願明細書に記されるものと同程度であれば、引用発明においても自己集光作用により形成されるものと認められる。
また、引用例に記載されたビームスポット径、パルス幅は、本願明細書に記載されるものと格別変わらないから、引用例において、電力密度を本願発明で規定するものと同程度にすれば、当然に自己集光作用によりフィラメンテーションが形成されるものと考えられる。
しかるところ、上述したとおり、引用発明は、多光子吸収により基板の内部に改質領域を形成する際、照射されるレーザー光の集光点における電界強度の上限値を、「例えば1×10^(12)(W/cm^(2))」とするものであって、必ずしもその上限値を1×10^(12)W/cm^(2)に限定するものではなく、また、引用例には、電界強度の上限値を1×10^(12)W/cm^(2)に抑えなければならない格別の理由は記載されていない。そして、その電界強度の上限値を大きくすれば、より小さい外力で基板を分離し得ると予測することは当業者において格別困難なことではない。
(オ)e.について
請求人は、引用例に記載される3つの方法において、電界強度の上限値は共通しているから、(3)屈折率変化によるものにおいても、1×10^(12)W/cm^(2)を越えた電界強度のレーザを基板に照射することは当業者に想起されないと主張するが、上記d.で指摘したとおり、1×10^(12)W/cm^(2)を越えた電界強度のレーザを基板に照射することを想起することに格別の困難性は認められない。
また、引用例の(3)屈折率変化によるものにおいては、パルス幅が、(1)光学的損傷に基づく熱ひずみによるクラックによるもの、(2)溶融によるものに比べて、「1ps以下がさらに好ましい」と、本願発明で規定する程度に短いのであるから、電界強度を大きくしても、基板の表面に与えるダメージは小さいものと考えられるところであり、電界強度を大きくすることに格別の阻害要因があるとはいえない。
(カ)f.について
上記d.で指摘したとおり、フィラメンテーションは、自己集光作用により形成されるものであるから、引用例記載のものにおいて、電界強度を大きくして、レーザパルスの照射条件を本願明細書に記されるものと同程度にすれば、引用例にその記載がなくとも、自己集光作用によりフィラメンテーションが形成されるものと考えられるところであり、請求人の主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおりであって、本願の請求項1ないし5に係る発明は、それぞれ、原出願の請求項1、6、2、4及び5に係る発明と同一であるから、特許法第39条第2項の規定により、特許を受けることができない。
また、本願の請求項1に係る発明は、特開2008-98465号公報に記載された発明及び特開2003-338636号公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
また、本願の請求項1に係る発明は、特開2003-338636号公報に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-25 
結審通知日 2015-01-07 
審決日 2015-01-20 
出願番号 特願2011-171855(P2011-171855)
審決分類 P 1 8・ 4- WZ (H01L)
P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松崎 義邦  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 鈴木 肇
星野 浩一
発明の名称 半導体発光素子の分離方法  
代理人 藤谷 修  
代理人 藤谷 修  

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