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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1298185
審判番号 不服2013-22596  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-19 
確定日 2015-03-06 
事件の表示 特願2012- 8216「3次元映像データ生成方法、3次元映像データ生成システム、及び3次元映像データ生成プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月21日出願公開、特開2012-120216〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年9月30日を出願日とする特願2008-254049号の特許出願の一部を、平成24年1月18日に分割出願した特願2012-8216号であって、手続の概要は以下のとおりである。

手続補正 :平成24年 2月10日
拒絶理由通知 :平成25年 1月29日(起案日)
手続補正 :平成25年 4月 2日
拒絶査定 :平成25年 9月24日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成25年11月19日
拒絶理由(当審・最初) :平成26年10月 2日(起案日)
手続補正 :平成26年12月 1日

第2 本願発明
本願の請求項3に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年12月1日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

【請求項3】
互いに視差を有する2次元映像である、左目用映像と右目用映像とを含む立体視用の3次元映像データを生成するシステムであり、
遠景および上記遠景より手前側の近景を有する現実又は仮想の3次元空間を観察者の左目に対応する左目視点から観察した2次元映像において、上記左目用映像の遠景映像及び上記左目用映像の近景映像のうち、上記左目用映像の遠景映像のみを本来の位置よりも左の位置に配置して左目用映像を生成する、左目用映像生成手段と、
上記3次元空間を観察者の右目に対応する右目視点から観察した2次元映像において、上記右目用映像の遠景映像及び上記右目用映像の近景映像のうち、上記右目用映像の遠景映像のみを本来の位置よりも右の位置に配置して右目用映像を生成する、右目用映像生成手段と、
を有することを特徴とする3次元映像データ生成システム。

第3 刊行物の記載事項
(1)刊行物1の記載
当審における拒絶の理由の通知において引用された特開2007-110360号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

【請求項2】
複数視点の画像からなる立体画像データの入力を、各視点について1フレームずつ受け付ける入力受付部と、
前記入力受付部から受けた立体画像データを前景立体画像データと背景立体画像データに分離する前景背景分離部と、
前記前景背景分離部から受けた背景立体画像データに、画像処理を施して出力する背景処理部と、
前記背景処理部の出力に、前記前景背景分離部から受けた前景立体画像データを重ねた立体画像データを出力する前景背景合成部と
を備えることを特徴とする立体画像処理装置。

【0001】
本発明は、立体画像の立体感を強調する立体画像処理装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の立体画像の表示は、複数視点の画像を、カメラの配置や人間の目の間隔あるいはディスプレイの設計値などから計算されるパラメータで順当に計算を行い、三次元ディスプレイ上で合成している。そして、この三次元ディスプレイに表示された画像を両目で見ることで、立体的に知覚される。しかし、画像ソースによっては、三次元ディスプレイ上での合成の際に順当に計算を行って表示しただけでは、十分な立体感を得られないことがある。そこで、三次元ディスプレイ上での合成の際に、計算に用いるカメラの配置などのパラメータを調整することで、立体感を強調している。また、動画を対象にして、動きの大きさをコントロールすることで、立体感にメリハリを付ける技術が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平11-98543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、合成の際に計算に用いるパラメータを調整することで、立体感を強調した画像にすると、この画像を見る人間の目に負担が生じてしまい、疲労感や違和感が発生するという問題がある。また、特許文献1に示す方法にあっては、動画を対象にしており、静止画には対応できないという問題がある。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、疲労感や違和感が少なく、動画および静止画に対応した、立体感を強調する立体画像処理装置を提供することにある。

【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図1は、この発明の一実施形態による立体画像処理装置の構成を示す概略ブロック図である。10は、立体画像処理装置であり、画像データ入力受付部12、前景背景分離部13、前景処理部14、背景処理部15および前景背景合成部16からなる。11は、立体カメラなどで撮影した、両眼用の2視点からの各々1フレームからなる立体画像データである。画像データ入力受付部12は、立体画像データ11の入力を受け付ける処理である。前景背景分離部13は、立体画像データを、予め用意しておいた背景のみの立体画像データと画素ごとに比較し、異なる場合は前景として分離し、同じ場合は背景として分離する処理である。前景処理部14は、前景の立体画像データに対して、明度および彩度を上げることで、色調を視覚的に目立つ色に変化させる処理である。背景処理部15は、予め用意しておいた図2に示すような奥行き感のある立体画像に背景を差し替える処理である。前景背景合成部16は、背景処理部15の出力した背景の上に、前景処理部14の出力した前景を重ねた立体強調画像データ17を出力する処理である。立体強調画像データ17は、三次元ディスプレイに入力すると立体画像を表示するデータであり、両眼用の2視点からの画像からなる。
【0014】
次にこの立体画像処理装置30の動作を説明する。まず、両眼用の画像を撮影できる立体カメラで背景のみを撮影する。立体カメラは、背景のみの立体画像データを立体画像データ11と同じ形式で出力するので、これを立体画像処理装置10の画像データ入力受付部12に入力する。画像データ入力受付部12は、背景のみの立体画像データを受けると、そのまま、これを前景背景分離部13に出力する。前景背景分離部13は、この背景のみの立体画像データを受けると、これを比較用立体画像データとして、そのまま格納する。次に、先ほど撮影した背景と背景が同じなるようにしたまま、対象物を背景の手前に置いて立体カメラにて、目的の画像を撮影する。立体カメラは、撮影結果を立体画像データ11として出力するので、これを立体画像処理装置10の画像データ入力受付部12に入力する。画像データ入力受付部12は、立体画像データ11を受けると、これを各視点について1フレームずつ、前景背景分離部13に出力する。
【0015】
前景背景分離部13は、立体画像データ11を受けると、先に格納した比較用立体画像データと該立体画像データ11とを、各視点のフレームについて、各画素のデータを比較する。データが一致する画素は背景として、データが一致しない画素は、該立体画像データの該当画素のデータを前景として分離する。前景として分離された前景立体画像データは、前景処理部14へ出力され、背景として分離された背景立体画像データは、背景処理部15へ出力される。前景処理部14は、前景立体画像データを受けると、その各画素データの明度および彩度の値を、例えば1.2倍にするなどして、より大きな値に変換する。これにより、前景の各画素は、視覚的に目立つ色となるため、視認性が上がって、立体感が強調される。前景処理部14は、明度および彩度を変換した前景立体画像データを、前景背景合成部16に出力する。
【0016】
一方、背景立体画像データを受けた背景処理部15は、予め背景処理部15に登録してあった図2?図3のような奥行きのある立体画像に差し替えて、これを背景立体画像データとして、前景背景合成部16へ出力する。前景背景合成部16は、背景処理部15から背景立体画像データを、前景処理部14から前景立体画像データを受けると、該前景立体画像データを該背景立体画像データに重ねた立体強調画像データ17を生成して、出力する。出力された立体強調画像データ17を三次元ディスプレイに入力して表示される画像bは、前景は色の変換により視認性が上がっており、背景は奥行きのある画像となっているため、三次元ディスプレイにおける合成の際に計算に用いるパラメータを調整することで立体感を強調した画像と比較すると、画像を見る人間の目に負担をかけずに、立体感を強調することができる。
なお、本実施形態の立体画像処理装置10では、動画を1フレームずつ処理するように説明したが、静止画に対しても、これを動画の1フレームとみなして同様の処理を行うことで対応が可能である。

【0018】
また、前景処理部14は、色を変換して視認性を上げる色調強調としたが、以下の(1)または(2)のどちらかの処理であってもよい。
(1)視差強調
入力された前景立体画像データの左視点の画像と右視点の画像の視差が大きくなるようにずらす。三次元ディスプレイにて表示すると、これにより、ずれを大きくする前よりも、手前にあるように知覚されるため、立体感が強調される。
(2)拡大
入力された前景立体画像データの画像を拡大する。大きく見えることで、立体感が強調される。
【0019】
また、背景処理部15は、背景を奥行きのある画像に差し替える差込みとしたが、以下の(a)?(c)の何れかの処理であってもよい。
(a)ぼかし
入力された背景立体画像データの輪郭をぼかす。ぼかすことで、背景に焦点をあわせづらくなり、前景を目立たせることができる。
(b)コントラスト・明るさ低減
入力された背景のコントラストおよび明度を下げる。背景の色調が目立たなくなることで、前景を強調することができる。
(c)単色化
背景を削除して単色とする。背景を単色として、目立たなくすることで、前景を強調することができる。

【0021】
また、本実施形態においては、前景処理部14にて色調強調、背景処理部15にて差込みを行うとしたが、前景処理部14にて色調強調と拡大の処理をする、背景処理部15にてぼかしとコントラスト・明るさ低減の処理をするなど、前景処理部14もしくは背景処理部15にて、単一の処理を行うだけでなく、複数の処理を行うとしてよい。また、前景処理14または背景処理部15のどちらかがなく、前景だけ、もしくは、背景だけに処理を行うとしてもよい。

(2)刊行物2の記載
当審における拒絶の理由の通知において引用された特開平8-191463号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、立体画像表示装置に関し、より特定的には、電子ゲーム装置,訓練装置,教育機器,案内装置等のように表示器を伴った種々の電子機器に用いられる立体画像表示装置に関する。

【0055】本実施例は、少ない情報量で立体画像を表示するために、従来にはない2種類の新規な視差付け手法を採用している。基本的には、1枚の絵から視差付けされた2枚の絵を生成することにより、情報量の低減を図っている。以下、本実施例で採用している新規な視差付け手法について説明する。
【0056】まず、OBJのための視差付け手法について説明する。概略的に言うと、OBJは、同一の絵を左右の画面上で、X軸(水平)に沿って反対方向に、視差量JPに対応する距離だけシフトさせて表示することにより、視差が付けられる。
【0057】今、図19(a)?(d)に示されるようなドットパターンを有する4つのキャラクタを用いてOBJを表示するものとする。各キャラクタ(a)?(d)には、それぞれ、キャラクタ番号(JCA)20,8,10,1023が割り当てられている。また、各キャラクタ(a)?(d)は、それぞれ、ドットパターンの右側に示されているようなOBJアトリビュートにより設定されているものとする。図19の場合、各キャラクタの視差量JPは0であるため、各キャラクタは、表示画面上において、(JX,JY)で規定されるそのままの位置から表示される。したがって、表示画面には、図20に示されるようなOBJが表示される。
【0058】一方、図21(a)?(d)に示すように、各キャラクタに視差が設定されている場合、各キャラクタは、X軸方向の表示位置が、左画面上で(JX-JP)とシフトされて表示され(図22(a)参照)、右画面上で(JX+JP)とシフトされて表示される(図22(b)参照)。このように、左右の画面上で、X軸方向の表示位置が、視差量JPに対応する距離だけ反対方向にシフトされることにより、物体が飛び出して見えたり、遠くの方に見えたりする。図22(a),(b)に示す画像を、それぞれ左右の目で見ると、図23に示すように、手前からキャラクタ番号20のブロック、キャラクタ番号8のブロック、キャラクタ番号10のブロック、キャラクタ番号1023のブロックの順番で見える。
【0059】視差量と遠近感との関係についてより詳細に言及すると、視差量が0の場合、遊戯者は、図24に示すように、OBJが基準スクリーン上に存在するように感じる。また、視差量が正の場合、遊戯者は、図25に示すように、OBJが基準スクリーンより手前に存在するように感じる。また、視差量が負の場合、遊戯者は、図26に示すように、OBJが基準スクリーンより奥に存在するように感じる。従って、近景を表示する場合は、視差量(左右の画像をずらせる量)を正にし、視差量を増分するようにする。また、遠景を表示する場合は、視差量を負にし、視差量を減分するようにする。

第4 刊行物に記載された発明
以上の記載によれば、刊行物1には次の発明(以下、刊行物1発明という。)が記載されている。

4a.刊行物1の【0001】等の記載によれば、刊行物1は、立体画像処理装置に関する発明であるといえる。
また、【0013】の記載をみると、刊行物1の立体画像処理装置は、立体画像データ11の入力を受け付け、受け付けた画像データを処理して立体強調画像データ17として三次元ディスプレイに入力して立体画像を表示する構成を有しているといる。また、
「11は、立体カメラなどで撮影した、両眼用の2視点からの各々1フレームからなる立体画像データである。」
「立体強調画像データ17は、三次元ディスプレイに入力すると立体画像を表示するデータであり、両眼用の2視点からの画像からなる。」
の記載もあるから、刊行物1の立体画像処理装置は両眼用の2視点からの画像からなる立体強調画像データを生成しているといえる。
以上のことから、刊行物1には「両眼用の2視点からの立体画像データの入力を受け付け、処理をすることで、両眼用の2視点からの画像からなる立体強調画像データを生成する立体画像処理装置」が記載されているといえる。

4b.刊行物1の請求項2の記載によれば、刊行物1の立体画像処理装置は、
「複数視点の画像からなる立体画像データの入力を、各視点について1フレームずつ受け付ける入力受付部と、
前記入力受付部から受けた立体画像データを前景立体画像データと背景立体画像データに分離する前景背景分離部と」
を有している。
上記刊行物1の複数視点の画像は、【0013】の実施例の記載を参酌すると、両眼用の2視点(すなわち、右目、左目用の視点。)からの画像である。
そして、上記両眼用の2視点からの画像を前景立体画像データと背景立体画像データに分離しているから、前景背景分離部に入力される立体画像データは、左目視点用の前景立体画像と背景立体画像とを含む画像データ、および右目視点用の前景立体画像と背景立体画像とを含む画像データであり、分離部で分離することにより、上記左目視点用の前景立体画像と背景立体画像とを含む画像データからi)左目視点用の背景立体画像データ、ii)左目視点用の前景立体画像データを分離し、上記右目視点用の前景立体画像と背景立体画像とを含む画像データからiii)右目視点用の背景立体画像データ、vi)右目視点用の前景立体画像データを分離することで、上記i)?vi)の4つの画像データを出力していることは明らかである。
以上のことから、刊行物1には「左目視点用の前景立体画像と背景立体画像とを含む立体画像データ、および右目視点用の前景立体画像と背景立体画像とを含む立体画像データとを入力し、左目視点用の背景立体画像データ、左目視点用の前景立体画像データ、右目視点用の背景立体画像データ、右目視点用の前景立体画像データに分離して出力する前景背景分離部」
が記載されている。

4c.刊行物1の請求項2の記載によれば、刊行物1の立体画像処理装置は、
「前記前景背景分離部から受けた背景立体画像データに、画像処理を施して出力する背景処理部と、
前記背景処理部の出力に、前記前景背景分離部から受けた前景立体画像データを重ねた立体画像データを出力する前景背景合成部」
とを有している。
上記4b.で検討したように、分離後は、「左目視点用の背景立体画像データ、左目視点用の前景立体画像データ、右目視点用の背景立体画像データ、右目視点用の前景立体画像データ」が出力されるのであるから、上記背景立体画像データは、左目視点用の背景画像データと右目視点用の背景画像データとからなり、前景立体画像データは、左目視点用の前景画像データと右目視点用の前景画像データとからなっているといえる。
したがって、上記請求項2に記載された背景処理部と前景背景合成部は、左目視点用および右目視点用の画像データそれぞれに対して背景処理、合成処理を行っているといえる。
この左目視点用および右目視点用の画像データそれぞれに対して背景処理、合成処理を行う構成について、刊行物1の発明の詳細な説明(【0014】-【0016】)を参酌すると、「画像データ入力受付部12は、立体画像データ11を受けると、これを各視点について1フレームずつ、前景背景分離部13に出力・・・前景背景分離部13は、立体画像データ11を受けると、先に格納した比較用立体画像データと該立体画像データ11とを、各視点のフレームについて、各画素のデータを比較・・・前景として分離・・・前景として分離された前景立体画像データは、前景処理部14へ出力され、背景として分離された背景立体画像データは、背景処理部15へ出力・・・前景処理部14は、前景立体画像データを受けると、・・・大きな値に変換・・・前景処理部14は、・・・変換した前景立体画像データを、前景背景合成部16に出力・・・背景立体画像データを受けた背景処理部15は、・・・差し替えて、これを背景立体画像データとして、前景背景合成部16へ出力する。前景背景合成部16は、背景処理部15から背景立体画像データを、前景処理部14から前景立体画像データを受けると、該前景立体画像データを該背景立体画像データに重ねた立体強調画像データ17を生成して、出力する。」との記載からみて、前景背景分離部から出力される画像データは、右目視点用の画像データ、左目視点用画像データを1フレームずつ順に前景と背景とを分離した画像データといえ、したがって、上記背景処理部と前景背景合成部は、左目視点用および右目視点用の画像データが1フレーム毎に順に入力されることで、右目・左目視点用の画像データを切り換えて順に背景処理と合成処理を行う、それぞれ一つの処理部および合成部といえる。
以上のことからみて、刊行物1の立体画像処理装置は、
「前記前景背景分離部から受けた左目視点用の背景立体画像データに、画像処理を施して出力する背景処理部と、
前記背景処理部の出力に、前記前景背景分離部から受けた左目視点用の前景立体画像データを重ねた立体画像データを出力する前景背景合成部、
前記前景背景分離部から受けた右目視点用の背景立体画像データに、画像処理を施して出力する前記背景処理部と、
前記背景処理部の出力に、前記前景背景分離部から受けた右目視点用の前景立体画像データを重ねた立体画像データを出力する前記前景背景合成部」
からなることは当業者には明らかなことである。
そして、【0013】には、「前景背景合成部16は、背景処理部15の出力した背景の上に、前景処理部14の出力した前景を重ねた立体強調画像データ17を出力する処理である。立体強調画像データ17は、三次元ディスプレイに入力すると立体画像を表示するデータであり、両眼用の2視点からの画像からなる。」とあるから、前景背景合成部からの出力は「立体強調画像データ」であって、「立体画像を表示するデータ」であるといえる。
また、上記請求項2の記載からは、「背景立体画像データに、画像処理を施」すことが、「背景立体画像データのみに、画像処理を施」すことを特定しているか明確ではないが、刊行物1の【0021】に「また、前景処理14または背景処理部15のどちらかがなく、前景だけ、もしくは、背景だけに処理を行うとしてもよい。」との記載があるから、上記請求項2の記載は「背景立体画像データのみに、画像処理を施」すことを含むものであるといえる。
以上のことから、刊行物1には、
「前記前景背景分離部から受けた左目視点用の背景立体画像データのみに、画像処理を施して出力する背景処理部と、
前記背景処理部の出力に、前記前景背景分離部から受けた左目視点用の前景立体画像データを重ねた立体画像を表示するデータを出力する前景背景合成部と、
前記前景背景分離部から受けた右目視点用の背景立体画像データのみに、画像処理を施して出力する前記背景処理部と、
前記背景処理部の出力に、前記前景背景分離部から受けた右目視点用の前景立体画像データを重ねた立体画像を表示するデータを出力する前記前景背景合成部と」
が開示されているといえる。

4d.まとめ
以上まとめると、刊行物1発明として、以下のとおりのものを認定することができる。

両眼用の2視点からの立体画像データの入力を受け付け、処理をすることで、両眼用の2視点からの画像からなる立体強調画像データを生成する立体画像処理装置であって、
左目視点用の前景立体画像と背景立体画像とを含む立体画像データ、および右目視点用の前景立体画像と背景立体画像とを含む立体画像データとを入力し、左目視点用の背景立体画像データ、左目視点用の前景立体画像データ、右目視点用の背景立体画像データ、右目視点用の前景立体画像データに分離して出力する前景背景分離部と、
前記前景背景分離部から受けた左目視点用の背景立体画像データのみに、画像処理を施して出力する背景処理部と、
前記背景処理部の出力に、前記前景背景分離部から受けた左目視点用の前景立体画像データを重ねた立体画像を表示するデータを出力する前景背景合成部と、
前記前景背景分離部から受けた右目視点用の背景立体画像データのみに、画像処理を施して出力する前記背景処理部と、
前記背景処理部の出力に、前記前景背景分離部から受けた右目視点用の前景立体画像データを重ねた立体画像を表示するデータを出力する前記前景背景合成部と
を有する立体画像処理装置。

第5 対比
本願発明と刊行物1発明とを対比する。

5a.刊行物1発明は、「両眼用の2視点からの立体画像データの入力を受け付け、処理をすることで、両眼用の2視点からの画像からなる立体強調画像データを生成する立体画像処理装置」である。
本願発明が対象とする「映像データ」は、本願明細書の【0009】に「なお、映像は静止画でも動画でもよい。」とあるから、表示装置に動画や静止画を表示するためのデータという程度の意味であり、刊行物1発明の「画像データ」も表示装置に画像を表示するためのデータであるから、この点で相違はない。
両眼用の2視点からの画像からなる立体強調画像データは、左目用と右目用の視点から見た画像データ(すなわち、左目視点用の画像データ、右目視点用の画像データ)からなる立体(3次元)画像データであるといえ、上記左目視点用の画像データと右目視点用の画像データとは互いに視差を有する2次元の画像のデータであることは当業者には技術常識であるから、刊行物1発明の「両眼用の2視点からの画像からなる立体強調画像データを生成する立体画像処理装置」は、「互いに視差を有する2次元映像である、左目用映像と右目用映像とを含む立体視用の3次元映像データを生成するシステム」といえる点で、本願発明と相違がない。

5b.刊行物1発明は、
「左目視点用の前景立体画像と背景立体画像とを含む立体画像データ、および右目視点用の前景立体画像と背景立体画像とを含む立体画像データとを入力し、左目視点用の背景立体画像データ、左目視点用の前景立体画像データ、右目視点用の背景立体画像データ、右目視点用の前景立体画像データに分離して出力する前景背景分離部と、
前記前景背景分離部から受けた左目視点用の背景立体画像データのみに、画像処理を施して出力する背景処理部と、
前記背景処理部の出力に、前記前景背景分離部から受けた左目視点用の前景立体画像データを重ねた立体画像を表示するデータを出力する前景背景合成部と、
前記前景背景分離部から受けた右目視点用の背景立体画像データのみに、画像処理を施して出力する前記背景処理部と、
前記背景処理部の出力に、前記前景背景分離部から受けた右目視点用の前景立体画像データを重ねた立体画像を表示するデータを出力する前記前景背景合成部と」
を有している。
上記構成のうち、左目視点用の画像データに関する構成を抽出すると、
「左目視点用の前景立体画像と背景立体画像とを含む立体画像データを入力し、左目視点用の背景立体画像データ、左目視点用の前景立体画像データに分離して出力する前景背景分離部と、
前記前景背景分離部から受けた左目視点用の背景立体画像データのみに、画像処理を施して出力する背景処理部と、
前記背景処理部の出力に、前記前景背景分離部から受けた左目視点用の前景立体画像データを重ねた立体画像を表示するデータを出力する前景背景合成部」
とを有しているといえる。
以下では、本願発明の「現実又は仮想の3次元空間を観察者の左目に対応する左目視点から観察した2次元映像」の「又は」の記載は択一的な記載であるから、このうちの「現実の3次元空間を観察者の左目に対応する左目視点から観察した2次元映像」について検討する。
刊行物1発明の「左目視点用の前景立体画像と背景立体画像とを含む立体画像データを入力し」における、入力される「左目視点用の前景立体画像と背景立体画像とを含む立体画像データ」は、刊行物1の【0014】の記載によれば「対象物を背景の手前に置いて立体カメラにて、目的の画像を撮影する。立体カメラは、撮影結果を立体画像データ11として出力するので、これを立体画像処理装置10の画像データ入力受付部12に入力する。画像データ入力受付部12は、立体画像データ11を受けると、これを各視点について1フレームずつ、前景背景分離部13に出力する。」とあり、刊行物1において、立体カメラで撮影した画像データは、【0013】に「立体カメラなどで撮影した、両眼用の2視点からの各々1フレームからなる立体画像データ」とあるから、現実の3次元空間を観察者の左目に対応する左目視点から撮影(観察)した2次元映像のデータであるといえる。
また、刊行物1発明の「背景」及び「前景」は、撮影された画像のうちの遠くを映した部分、近くを映した部分という意味において、本願発明の「遠景」、「近景」と一致する。
そして、刊行物1発明では、上記入力した左目視点用の立体画像データを、左目視点用の背景立体画像データ、左目視点用の前景立体画像データに分離して出力した後、「左目視点用の背景立体画像データのみに、画像処理を施して出力する背景処理部と、前記背景処理部の出力に、前記前景背景分離部から受けた左目視点用の前景立体画像データを重ねた立体画像を表示するデータを出力する前景背景合成部」を有しているから、「上記左目用映像の遠景映像及び上記左目用映像の近景映像のうち、上記左目用映像の遠景映像のみを画像処理を施して左目用映像を生成する、左目用映像生成手段」ということができる点で本願発明と対応する。
もっとも、本願発明では、上記画像処理が「上記左目用映像の遠景映像のみを本来の位置よりも左の位置に配置して左目用映像を生成する」のに対して、刊行物1発明ではそのような特定がなされていない点で相違する。
以上まとめると、刊行物1発明は「遠景および上記遠景より手前側の近景を有する現実の3次元空間を観察者の左目に対応する左目視点から観察した2次元映像において、上記左目用映像の遠景映像及び上記左目用映像の近景映像のうち、上記左目用映像の遠景映像のみを画像処理を施して左目用映像を生成する、左目用映像生成手段」を有する点で本願発明と相違がない。
もっとも、本願発明では、上記画像処理が「上記左目用映像の遠景映像のみを本来の位置よりも左の位置に配置して左目用映像を生成する」のに対して、刊行物1発明ではそのような特定がなされていない点で相違する。

5c.刊行物1発明の「前景背景分離部」、「背景処理部」、「前景背景合成部」に関して、右目視点用の画像データに関する構成を抽出すると、
「右目視点用の前景立体画像と背景立体画像とを含む立体画像データを入力し、右目視点用の背景立体画像データ、右目視点用の前景立体画像データに分離して出力する前景背景分離部と、
前記前景背景分離部から受けた右目視点用の背景立体画像データのみに、画像処理を施して出力する前記背景処理部と、
前記背景処理部の出力に、前記前景背景分離部から受けた右目視点用の前景立体画像データを重ねた立体画像を表示するデータを出力する前記前景背景合成部と」
を有しているといえる。
刊行物1発明の、入力される「右目視点用の前景立体画像と背景立体画像とを含む立体画像データ」は、刊行物1の【0013】にあるように「立体カメラなどで撮影した、両眼用の2視点からの各々1フレームからなる立体画像データ」であるから、上記5b.で検討した「左目視点用の立体画像データを撮影した空間」と同じ空間を観察者の右目に対応する右目視点から撮影(観察)した2次元映像といえるから、「上記3次元空間を観察者の右目に対応する右目視点から観察した2次元映像」である。
そして、刊行物1発明の「背景」及び「前景」は、本願発明の「遠景」、「近景」と一致することは、上記5b.で検討したとおりであり、刊行物1発明では、上記入力した右目視点用の立体画像データを、右目視点用の背景立体画像データ、右目視点用の前景立体画像データに分離して出力した後、「右目視点用の背景立体画像データのみに、画像処理を施して出力する前記背景処理部と、前記背景処理部の出力に、前記前景背景分離部から受けた右目視点用の前景立体画像データを重ねた立体画像を表示するデータを出力する前記前景背景合成部」を有しているから、「上記右目用映像の遠景映像及び上記右目用映像の近景映像のうち、上記右目用映像の遠景映像のみを画像処理を施して右目用映像を生成する、右目用映像生成手段」ということができる点で本願発明と対応するといえる。
もっとも、
本願発明では、上記画像処理が「上記右目用映像の遠景映像のみを本来の位置よりも右の位置に配置して右目用映像を生成する」のに対して、刊行物1発明ではそのような特定がなされていない点、
本願発明では、左目用映像処理手段と右目用映像処理手段とを有しているのに対し、刊行物1発明では、右目映像生成手段が左目映像生成手段と同じ手段であって、上記映像生成手段を左目映像生成用と右目映像生成用とで(1フレーム毎に順に)切り換えている点、
で相違する。
以上まとめると刊行物1発明は「上記3次元空間を観察者の右目に対応する右目視点から観察した2次元映像において、上記右目用映像の遠景映像及び上記右目用映像の近景映像のうち、上記右目用映像の遠景映像のみを画像処理を施して右目用映像を生成する、右目用映像生成手段」を有している点で本願発明と相違がない。
もっとも、
本願発明では、上記画像処理が「上記右目用映像の遠景映像のみを本来の位置よりも右の位置に配置して右目用映像を生成する」のに対して、刊行物1発明ではそのような特定がなされていない点、
本願発明では、左目用映像処理手段と右目用映像処理手段とを有しているのに対し、刊行物1発明では、右目映像生成手段が左目映像生成手段と同じ手段であって、上記映像生成手段を左目映像生成用と右目映像生成用とで(1フレーム毎に順に)切り換えている点、
で相違する。

5d.まとめ(一致点・相違点)
以上まとめると、本願発明と刊行物1発明とは以下の一致点で一致し相違点で相違する。
(一致点)
互いに視差を有する2次元映像である、左目用映像と右目用映像とを含む立体視用の3次元映像データを生成するシステムであり、
遠景および上記遠景より手前側の近景を有する現実又は仮想の3次元空間を観察者の左目に対応する左目視点から観察した2次元映像において、上記左目用映像の遠景映像及び上記左目用映像の近景映像のうち、上記左目用映像の遠景映像のみを画像処理を施して左目用映像を生成する、左目用映像生成手段と、
上記3次元空間を観察者の右目に対応する右目視点から観察した2次元映像において、上記右目用映像の遠景映像及び上記右目用映像の近景映像のうち、上記右目用映像の遠景映像のみを画像処理を施して右目用映像を生成する、右目用映像生成手段と、
を有することを特徴とする3次元映像データ生成システム。

(相違点1)
本願発明では、上記画像処理が「上記左目用映像の遠景映像のみを本来の位置よりも左の位置に配置して左目用映像を生成する」のに対して、刊行物1発明ではそのような特定がなされていない点。
(相違点2)
本願発明では、上記画像処理が「上記右目用映像の遠景映像のみを本来の位置よりも右の位置に配置して右目用映像を生成する」のに対して、刊行物1発明ではそのような特定がなされていない点。
(相違点3)
本願発明では、左目用映像処理手段と右目用映像処理手段とを有しているのに対し、刊行物1発明では、右目映像生成手段が左目映像生成手段と同じ手段であって、上記映像生成手段を左目映像生成用と右目映像生成用とで(1フレーム毎に順に)切り換えている点。

第6 判断
6a.相違点1、相違点2について
上記刊行物1は、「疲労感や違和感が少なく、動画および静止画に対応した、立体感を強調する立体画像処理装置を提供する」(【0004】)ことを目的として、前景(近景)と背景(遠景)に対して異なる画像処理を行う構成を開示したものといえる。
そして、上記画像処理の内容として、【0018】の記載をみると、
「また、前景処理部14は、色を変換して視認性を上げる色調強調としたが、以下の(1)または(2)のどちらかの処理であってもよい。
(1)視差強調
入力された前景立体画像データの左視点の画像と右視点の画像の視差が大きくなるようにずらす。三次元ディスプレイにて表示すると、これにより、ずれを大きくする前よりも、手前にあるように知覚されるため、立体感が強調される。」
との記載がある。
すなわち、近景画像データに対して視差が大きくなるような処理を行うと、(背景に対して)手前にあるように知覚されるため、立体感が強調されることが開示されているといえる。
一方遠景画像データに対する画像処理としては、刊行物1の【0019】に、
「また、背景処理部15は、背景を奥行きのある画像に差し替える差込みとしたが、以下の(a)?(c)の何れかの処理であってもよい。
(a)ぼかし
入力された背景立体画像データの輪郭をぼかす。ぼかすことで、背景に焦点をあわせづらくなり、前景を目立たせることができる。
(b)コントラスト・明るさ低減
入力された背景のコントラストおよび明度を下げる。背景の色調が目立たなくなることで、前景を強調することができる。
(c)単色化
背景を削除して単色とする。背景を単色として、目立たなくすることで、前景を強調することができる。」
との記載があるのみで、視差を変更することについて記載はないが、上記近景画像データに対して視差が大きくなるような処理を行うと、(近景画像が背景画像に対して)手前にあるように知覚されるため、立体感が強調されることが開示されているのであるから、遠景画像に対して視差が小さくなるような処理を行うと、背景がより遠くにあるように表示されることで近景が手前にあるように知覚され、立体感が強調されることは当業者が普通に予測しえたことであるから、刊行物1発明に触れた当業者であれば、遠景画像データに対して視差が小さくなるような画像処理を施そうとすることは、当業者が容易になしえたことであるといえる。
そして、立体画像を生成するために、視差を有する左目視点用画像データと右目視点用の画像データをそれぞれ表示するとき、視差がないとき(基準スクリーンに表示されるとき)と比べて左目視点用画像データはより左に表示し、右目視点用の画像データはより右に表示することで、より遠くに表示されるように知覚することは刊行物2(特に【0059】)に記載されるようによく知られた技術事項であり、刊行物1発明において、遠景画像データに対して視差が小さくなるような画像処理を施そうとしたとき、当該技術を採用し本願発明の構成とすることは当業者が容易になしえたことであるといえる。

6b.相違点3について
上記相違点3に係る左目用映像処理、右目用映像処理のように同等の処理を、一つの処理手段で兼用してするか、それぞれに処理手段を用意して別々に処理を行うかは、その必要正等に応じて当業者が適宜選択し得た設計的事項といえ、刊行物1発明の一つの処理手段で左目用映像処理、右目用映像処理を行う構成に換えて、上記相違点3の構成を採用することは当業者が適宜なしえたことである。

以上のように、上記各相違点は、当業者が容易に想到し得たものと認められ、本願発明全体としてみても格別のものはなく、その作用効果も、上記各相違点に係る構成の採用に伴って当然に予測される程度のものにすぎず、格別顕著なものがあるとは認められない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1、刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、残る請求項1、請求項2、請求項4、請求項5に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-19 
結審通知日 2015-01-05 
審決日 2015-01-19 
出願番号 特願2012-8216(P2012-8216)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅 和幸  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 渡辺 努
渡邊 聡
発明の名称 3次元映像データ生成方法、3次元映像データ生成システム、及び3次元映像データ生成プログラム  
代理人 斎藤 圭介  

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