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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  F24C
管理番号 1298741
審判番号 無効2014-800085  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-05-29 
確定日 2015-03-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第5281172号発明「電気こたつ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5281172号の請求項1ないし3に係る発明についての出願は、平成24年3月1日に特許出願され、平成25年5月31日にその発明についての特許権の設定登録がなされた。

以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。

1.平成26年 5月29日 本件無効審判の請求
2.平成26年 8月18日 審判事件答弁書の提出
3.平成26年10月23日 審理事項の通知
4.平成26年11月28日 口頭審理陳述要領書(被請求人)の提出
5.平成26年12月 2日 口頭審理陳述要領書(請求人)の提出
6.平成26年12月16日 口頭審理の実施

第2 本件発明
本件特許の請求項2に係る発明(以下「本件発明2」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項2】
使用者の存在の有無を検出する人体検知センサーを備えた電気こたつにおいて、
暖房空間内を暖めるための電気ヒーターと、
この電気ヒーターに接続される電流制限素子と、
前記人体検知センサーを作用させるか否かを選択するための人体検知センサー入切スイッチと、
前記電気ヒーターに前記電流制限素子と並列に接続されるスイッチを備え、閉成している前記スイッチを介して前記電気ヒーターに通電すると共に前記電流制限素子を介して前記電気ヒーターに通電して前記電気ヒーターへの電流の流れる量の制限を解除した状態で前記電気ヒーターに通電するか、前記スイッチを開成させることにより前記電流制限素子により前記電気ヒーターへの電流の流れる量を制限した状態で前記電気ヒーターに通電させるかを切り替えるリレーと、
前記人体検知センサー入切スイッチの操作により前記人体検知センサーを作用させることを選択している場合に、前記人体検知センサーによって前記使用者の存在を検出したときには通常状態モードとするように前記リレーの閉成している前記スイッチを介して前記電気ヒーターに通電すると共に前記電流制限素子を介して前記電気ヒーターに通電して前記電気ヒーターへの電流の流れる量の制限を解除した状態で前記電気ヒーターに通電するように切り替え、前記使用者の不存在を所定時間検出したときには待機状態モードとするように前記リレーを励磁して前記スイッチを開成して前記電流制限素子により前記電気ヒーターへの電流の流れる量を制限した状態で前記電気ヒーターに通電するように切り替える制御手段とを設けたことを特徴とする電気こたつ。」

第3 当事者の主張
請求人が主張する無効理由の概要及び提出した証拠方法並びに被請求人の反論は以下のとおりである。

1.請求人の主張の概要及び証拠
(1)請求人は、審判請求書において、「特許第5281172号発明の特許請求の範囲の請求項2に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨とし、証拠方法として甲第1号証ないし甲第8号証を提出して、本件発明2は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである旨を主張している。
なお、平成26年12月2日付け口頭審理陳述要領書に添付して甲第4号証ないし甲第7号証が提出され、同各号証に基づいて、人体検知センサーによって使用者の存在を検出したときに電気ヒーターの出力を強とし、人体検知センサーによって使用者の不存在を検出したときに電気ヒーターの出力を弱にするよう制御する技術が周知の技術である旨が主張されたが、当該主張は、特許を無効にする根拠となる事実として、当初は主張されていなかった事実を追加するものであるから、実質的に審判請求書の要旨を変更する補正に該当する。そして、審判長は、平成26年12月16日の口頭審理期日において、当該補正を許可しない決定をした。
よって、本件無効審判の審理において採用する証拠は下記のとおりである。


甲第1号証 特開2003-254623号公報
甲第2号証 特開2002-5453号公報
甲第3号証 特開2008-58684号公報
甲第8号証 JIS工業用語大辞典(第4版、P2012?P2013)

(2)本件発明2を無効とすべきである理由
(2-1)本件発明2の構成要件を分説すると次のとおりである。
A.使用者の存在の有無を検出する人体検知センサーを備えた電気こたつにおいて、
B-1.暖房空間内を暖めるための電気ヒーターと、
B-2.この電気ヒーターに接続される電流制限素子と、
B-3.前記人体検知センサーを作用させるか否かを選択するための人体検知センサー入切スイッチと、
B-4.前記電気ヒーターに前記電流制限素子と並列に接続されるスイッチを備え、閉成している前記スイッチを介して前記電気ヒーターに通電すると共に前記電流制限素子を介して前記電気ヒーターに通電して前記電気ヒーターへの電流の流れる量の制限を解除した状態で前記電気ヒーターに通電するか、前記スイッチを開成させることにより前記電流制限素子により前記電気ヒーターへの電流の流れる量を制限した状態で前記電気ヒーターに通電させるかを切り替えるリレーと、
B-5.前記人体検知センサー入切スイッチの操作により前記人体検知センサーを作用させることを選択している場合に、前記人体検知センサーによって前記使用者の存在を検出したときには通常状態モードとするように前記リレーの閉成している前記スイッチを介して前記電気ヒーターに通電すると共に前記電流制限素子を介して前記電気ヒーターに通電して前記電気ヒーターへの電流の流れる量の制限を解除した状態で前記電気ヒーターに通電するように切り替え、前記使用者の不存在を所定時間検出したときには待機状態モードとするように前記リレーを励磁して前記スイッチを開成して前記電流制限素子により前記電気ヒーターへの電流の流れる量を制限した状態で前記電気ヒーターに通電するように切り替える制御手段とを設けたことを特徴とする
C.電気こたつ。

(2-2)そして、本件発明2は、待機状態モード中であっても電気こたつの中が冷え切らないようにでき、待機状態モードから通常状態モードに戻った際の使用者に不快感を与えないようにできると共に、待機状態モードから通常状態モードへの自動復帰が可能で使用者の利便性を損なうことがなく、快適性及び利便性に優れており、省エネ性や安全性にも優れたものであるとする作用効果を奏する。

(2-3)先行技術発明が存在する事実及び証拠の説明
甲第1号証の「人体センサー13の下部には人体(使用者)を検出するためのセンサーとしての赤外線センサー13dを内蔵」との記載(段落【0014】)は、上記構成Aに相当し、同じく「この人体センサー13の運転、停止を選択して切換えるための運転スイッチ13e」との記載(段落【0014】)は、上記構成B-3に相当し、同じく「電気ヒータ5とのを備えた本体型枠2を複数の支持脚6a、6b、6c、6dにより床面上に支持して暖房空間Aを形成する電気こたつ」との記載(段落【0025】)は、上記構成B-1及びCに相当する。
さらに、同じく「赤外線入射量が連続して所定時間(例えば30分間)変化しない時には使用者が不在であると制御回路が判断して、負荷側のマイナスイオン発生器18および電気ヒータ5、送風機4への通電を遮断して停止させる。その後、人体センサー13による負荷側への通電停止中に使用者が暖房空間A内に足を入れると、赤外線センサー13dはこれを検出すると再び負荷側のマイナスイオン発生器18および電気ヒータ5、送風機4へ通電して暖房を行う」こと(段落【0020】)は、上記構成B-5に相当する。なぜなら、B-5は、単に、人体検知センサーによって使用者の存在を検知したときに、制御手段が、電気ヒーターに接続されるスイッチを閉成すること、前記使用者の不存在を所定時間検出したときに、前記制御手段が、前記スイッチを開成することを意味しているに過ぎないからである。つまり、甲第1号証には、スイッチの開閉によって、電気ヒータ5への通電を遮断あるいは電気ヒータ5へ通電することが明示的に記載されてはいないが、出願時の技術常識から判断すると、電気ヒータ5への通電を遮断あるいは電気ヒータ5への通電を行うために、センサーの検知信号を受信する制御手段や、前記電気ヒータ5と接続され、この制御手段によって開閉制御されるスイッチが必要であることは、周知の技術である。
さらに、上記周知の技術を裏付ける証拠として甲第3号証を提出する。甲第3号証には、人体検知センサー13を用いてはいないが、定着ローラ3Aに内蔵された主ヒータ3aへの通電を遮断あるいは主ヒータ3aへの通電を行うために、温度センサ4bを用い、この温度センサ4bの検出温度に基づいて、前記主ヒータ3aに接続される前記主電源スイッチ1を開閉制御することが開示されている。
しかしながら、甲第1号証及び甲第3号証には、上記構成B-2及びB-4が記載されていない。
一方、甲第2号証の「図4に示すように、上発熱体2は切換スイッチ5の接点に直列に結線し、下発熱体3とは並列に結線して電源に接続している。そして補助発熱体6は切換スイッチ5とは並列で上発熱体2には直列に結線されている。従ってもちの加熱時には切換スイッチ5をオフとすれば上発熱体2は補助発熱体6と直列に接続されるので上発熱体2のワットバランスは低下し、もちの上下面は均一に加熱されて、もちの内部は膨らんでも、網体4にこびり付くことはない。パンを焼くときには切換スイッチ5をオンとして上発熱体2と下発熱体3との両面で強く焼くことができる。」との記載(段落【0016】)において、「切換スイッチ5をオフとすれば上発熱体2は補助発熱体6と直列に接続されるので上発熱体2のワットバランスは低下」することは、補助発熱体6が文言上本件発明2の電流制限素子とは異なっていても、補助発熱体6によって上発熱体2のワットバランスを低下させることが明記されており、実質的には、上発熱体2への電流制限素子として働くことは明らかである。また、上発熱体2についても、文言上本件発明2の電気ヒーターとは異なっていても、この上発熱体2は、もちやパンを加熱するためのものであるため、上発熱体2が電気ヒーターであることは明らかである。そうすると、上記段落【0016】の構成は、上記構成B-2及びB-4に相当する構成である(審判請求書第6ページ下から3行?第10ページ下から1行、口頭審理陳述要領書第4ページ第18?21行)。

(3)本件発明2と先行技術発明との対比
本件発明2と甲第1号証に記載の発明とは、A、B-1、B-3、B-5、Cが共通し、甲第1号証に記載の発明は、B-2及びB-4を採用しない点で、本件発明2と相違する。
しかしながら、甲第2号証には、B-2及びB-4に相当する構成が記載されていて、甲第2号証に記載のものは、発熱体を備えた電気加熱調理器に関する技術であり、甲第1号証に記載された発明と甲第2号証に記載された発明とは、発熱体(電気ヒータ)を用い、発熱体によって被加熱物を加熱する装置という技術分野が共通するため、甲第2号証に記載されたB-2及びB-4に相当する構成を甲第1号証に記載された発明に適用することは当業者が容易になし得たことである。ここで、甲第2号証のスイッチは手動切換ではあるが、上発熱体への電流の流れる量を制限するために、当該スイッチが補助発熱体と並列に備えられており、それを自動切換にするために、手動スイッチを、リレーに置き換えることは、甲第8号証に記載のとおり、「リレー」とは「コイルの励磁によって、接触子が接点の開閉を行うもの」であることからして、リレーがスイッチの一種であるといえる以上、何らの困難性はない。
したがって、甲第2号証に記載されたB-2及びB-4に相当する構成を、甲第1号証に記載された発明に適用し、本件発明2と同様に、人体センサー13によって使用者の存在を検出すると、制御手段によって閉成した切換スイッチ5を介して電気ヒータ5に通電すると共に補助発熱体6を介して前記電気ヒータ5に通電して前記電気ヒータ5への電流の流れる量の制限を解除した状態で前記電気ヒータ5に通電する構成や、前記制御手段が、前記人体センサー13への赤外線入射量が連続して所定時間変化しないときには前記使用者が不存在と判断し、前記切換スイッチ5を開成して、前記補助発熱体6により前記電気ヒータ5への電流の流れる量を制限した状態で前記電気ヒータ5に通電する構成に到達することは、当業者にとって容易である。
そして、本件発明2の効果についても、甲第1号証ないし甲第3号証に記載のものから予測できる以上のものではない(審判請求書第11ページ第1?25行、口頭審理陳述要領書第3ページ第13?15行、第5ページ第13?17行。)。

2.被請求人の反論の概要
被請求人は、審判事件答弁書及び口頭審理陳述要領書において、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は審判請求人の負担とする、との審決を求める。」ことを答弁の趣旨とし、本件発明2は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項に違反してなされたものではないので、同法第123条第1項第2号に該当せず、無効とすることはできないと、反論する。
その反論における主張の概要は、次のとおりである。
(1)甲第2号証の「補助加熱体」は、「補助発熱体の消費電力も上発熱体とともに、もちの上面の加熱に働くので」との記載(【0011】、【0018】)から、明らかにもちを加熱するための補助加熱ヒーターであり、甲第2号証に本件発明2のB-2及びB-4の構成が記載されているという請求人の主張は当を得ないものである。
(2)また、本件発明2のB-5の制御手段は、甲第1号証や甲第3号証で開示するような、単にスイッチを開閉するためのものでも、このスイッチを開閉して電気ヒータの通電を遮断あるいは通電をするためのものでもない。
(3)以上のとおり、本件発明2のB-2、B-4及びB-5が甲第1号証ないし甲第3号証には開示されておらず、また本件発明2の目的、作用及び効果が記載も示唆もないということである(審判事件答弁書第6ページ第3?11行、第7ページ第8?10行、第9ページ第2?5行、第9ページ下から1行?第10ページ第2行)。

第4 甲各号証について
1.甲第1号証
甲第1号証には、図面とともに、以下の記載がある(下線は当審において付与したものである。)。

(1a)「【請求項1】 電気ヒータを備えた本体型枠を複数の支持脚により床面上に支持して暖房空間を形成する電気こたつにおいて、前記暖房空間内で使用者の有無を検出するもので無しを検出すると前記電気ヒータへの通電を停止する人体センサーを支持脚の何れかに設けたことを特徴とする電気こたつ。
【請求項2】 前記支持脚の何れかに設けられる前記人体センサーは暖房空間内の対角線上にある他の支持脚に向けて配置したことを特徴とする請求項1に記載の電気こたつ。
【請求項3】 前記人体センサーは前記支持脚に着脱自在に設けると共に前記電気ヒータへ電源を供給する電源線の途中に設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電気こたつ。
【請求項4】 前記人体センサーの運転又は停止を切換えるための運転スイッチを設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の電気こたつ。」(特許請求の範囲)

(1b)「【0005】そこで本発明は、上記の点に鑑み、暖房空間内における使用者の有無を人体センサーで検出し、使用者の不使用時には電気ヒータへの通電を停止して無駄な電力消費を抑えると共に安全性の高い電気こたつを提供することを目的とする。」

(1c)「【0012】そして、電気こたつ1の暖房空間A内に足や身体を入れたときに前記電気ヒータ5に直接触れて火傷などが起こるのを防止する網目状の保護カバー9が設けられ、この保護カバー9内に設けた感熱抵抗素子11の抵抗と後述するコントローラ17に設けた温度調節ボリューム17Cで設定された抵抗の合成抵抗により前記電気ヒータ5への電力供給量を制御し温度調節がなされる。また、12は安全保護のための温度ヒューズで、保護カバー9内の空間Aが異常過熱温度の状態になった場合に作動して電気ヒータ5や送風機4への通電を遮断する。」

(1d)「【0014】前述の人体センサー13は、合成樹脂製の縦長の前ケース13aと後ケース13bにて箱状を成すよう形成し、上部左右に電源線19の配線を行う配線孔13gを設けると共に後ケース13bの背面側には2箇所の爪部13cを設けてアングル14に着脱自在に固定できるようにしている。さらに、人体センサー13の下部には人体(使用者)を検出するためのセンサーとしての赤外線センサー13dを内蔵しており、その検出部を前ケース13aから外部に露出させることで暖房空間A内における使用者の有無を検出するようにしている。また、人体センサー13の中央部には、この人体センサー13の運転、停止を選択して切換えるための運転スイッチ13eと、その上部にはコントローラ17から電源が供給され、かつ運転スイッチ13eが入っているとき(人体センサー13の運転中)に点灯するLED(ライトエミッティングダイオード)から成る運転ランプ13fを設けている。」

(1e)「【0016】19は電源を電気ヒータ5に供給する電源線で、一端を負荷としての電気ヒータ5および送風機4やマイナスイオン発生器18と接続する負荷側プラグ19aに接続すると共にその途中に人体センサー13およびコントローラ17を介して他端をAC100Vの商用電源21の電源コンセント20に接続するための電源プラグ19bに接続している。」

(1f)「【0020】人体センサー13は、運転スイッチ17aの閉成により電源が供給されると赤外線センサー13dは暖房空間A内での人体が発する赤外線を検出することで、この空間A内での使用者の有無検出を開始する。そして、赤外線入射量が連続して所定時間(例えば30分間)変化しない時には使用者が不在であると制御回路が判断して、負荷側のマイナスイオン発生器18および電気ヒータ5、送風機4への通電を遮断して停止させる。その後、人体センサー13による負荷側への通電停止中に使用者が暖房空間A内に足を入れると、赤外線センサー13dはこれを検出すると再び負荷側のマイナスイオン発生器18および電気ヒータ5、送風機4へ通電して暖房を行う。
【0021】このように、使用者の有無を検出して上述の動作を繰り返すことで、使用者がコントローラ17の運転スイッチ17aの切り忘れがあっても、自動的に負荷側への通電を遮断するように構成している。」

(1g)「【0033】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、暖房空間内における使用者の有無を人体センサーで検出し、使用者の不使用時には電気ヒータへの通電を停止して無駄な電力消費を抑えると共に安全性の高い電気こたつを提供することができる。」

(1h)図2には、電源線の途中に人体センサー13およびコントローラ17が設けられている態様が図示されている。


2.甲第2号証
甲第2号証には、次の事項が図面と共に記載されている。

(2a)「【請求項1】 加熱室を形成する内筐体と、内筐体の上に配置した上発熱体と下に配置した下発熱体と、前記上、下発熱体の間に配置して調理物を戴置する網体と、前記上、下発熱体への通電を制御する切換スイッチと補助発熱体を具備し、上発熱体と下発熱体を並列に結線するとともに、切換スイッチの接点と直列に上発熱体を結線し、切換スイッチの接点と並列に補助発熱体を結線した電気加熱調理器。
【請求項2】 上発熱体は、コイル状の発熱体を絶縁管の内部に挿入し、補助発熱体は前記上発熱体の内部に挿入して構成した電気加熱調理器。」(特許請求の範囲)

(2b)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながらこの様な構成では、使用頻度の高いパンの加熱に合わせて上発熱体42と下発熱体43のワットバランスを設定すると、パンより厚みの厚いもちを焼くときは、上面が焦げ易い為にもちの上面が先に固まり、もちが膨れると、下面側が割れて網体44にこびりついてしまいとれないという課題を抱えていた。
【0004】本発明はこのような課題を解決するもので、パンの加熱性能を確保しながら、しかももちの加熱時においても網体へのこびり付きのない電気加熱調理器を提供することを目的とするものである。」

(2c)「【0005】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために本発明の電気加熱調理器は、上発熱体と下発熱体を並列に結線するとともに、切換スイッチの接点と上発熱体を直列に結線し、切換スイッチの接点と並列に補助発熱体を結線したのでパン加熱モ-ドともち加熱モ-ドを切換スイッチで切り換えるとともに、もち加熱時は上発熱体を補助発熱体を介して加熱して上発熱体のワットバランスを低下させて焼くことができるものである。」

(2d)「【0016】この構成において、電気回路を説明する。図4に示すように、上発熱体2は切換スイッチ5の接点に直列に結線し、下発熱体3とは並列に結線して電源に接続している。そして補助発熱体6は切換スイッチ5とは並列で上発熱体2には直列に結線されている。従ってもちの加熱時には切換スイッチ5をオフとすれば上発熱体2は補助発熱体6と直列に接続されるので上発熱体2のワットバランスは低下し、もちの上下面は均一に加熱されて、もちの内部は膨らんでも、網体4にこびり付くことはない。パンを焼くときには切換スイッチ5をオンとして上発熱体2と下発熱体3との両面で強く焼くことができる。」

(2e)「【0017】
【発明の効果】請求項1記載の発明によれば、パン加熱モ-ドともち加熱モ-ドを切換スイッチで切り換えるとともに、もち加熱時には、上発熱体を補助発熱体を介して加熱して上発熱体のワットバランスを低下させて焼く為、上発熱体及び下発熱体を同時に加熱するパン加熱時のパンの表裏の焼き色にワットバランスを合わせても、もち加熱時には上発熱体は補助発熱体を介して通電するので上発熱体のワットバランスが低下し、もちの上下面を均一に焼くので、もちの内部が膨れても、もちの上面側へ膨らみ網体へのこびり付きがないという効果が得られるものである。
【0018】また、請求項2記載の発明によれば、上発熱体は、コイル状の発熱体を絶縁管の内部に挿入し、補助発熱体はこの上発熱体の内部に挿入して構成したものである為、もちの加熱に適したワットバランスが得られるとともに、補助発熱体の消費電力も上発熱体とともに、もちの上面の加熱に働くので消費電力の無駄が生じないという効果が得られるものである。」

(2f)図1?3には、手動による切換スイッチ5が図示されている。

3.甲第3号証
甲第3号証には、次の事項が図面とともに記載されている。

(3a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置及び画像形成装置に関する。」

(3b)「【0004】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、補助電源装置としての機能を損なわず適切なタイミングで補助発熱体への給電を可能としながら蓄電器を長寿命化させることを目的とする。」

(3c)「【0011】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態における定着装置の機能構成を示すブロック図である。この図1に示すように、本定着装置は、主電源スイッチ1(主電源装置)、補助電源装置2、一対の定着ローラ3A,3B及び制御装置4を備えている。
また、補助電源装置2は、整流回路2a、充電回路2b、選択スイッチ2c、コンデンサ2d(蓄電器)及び放電回路2eを備え、一方の定着ローラ3Aは、主ヒータ3a(主発熱体)及び補助ヒータ3b(補助発熱体)を内蔵し、更に、制御装置4は、開閉スイッチ4a、温度センサ4b及び制御部4c(検出手段)を備えている。」

(3d)「【0012】
主電源スイッチ1は、商用電力であるAC100Vの主ヒータ3aへの供給を規制する開閉スイッチであり、制御部4cから入力される開閉信号に基づいてAC100Vの主ヒータ3aへの供給をON/OFFする。補助電源装置2は、補助ヒータ3bに電力を供給(給電)するものである。」

(3e)「【0023】
制御部4cは、温度センサ4bの検出温度により定着ローラ3Aの温度が所定温度に達したと判断すると、アイドル状態となる(図3のt2)。アイドル状態において、制御部4cは、定着ローラ3Aの温度を所定温度に保つように、温度センサ4bの検出温度に基づいて、主電源スイッチ1のON/OFF制御を行う。このとき、制御部4cは、開閉スイッチ4aをOFF状態となるように制御し、補助ヒータ3bへの給電を停止する。」

4.甲第8号証
甲第8号証には、次の事項が図面と共に記載されている。

(4a)「リレー relay
コイルを励磁すると接触子が直接又は間接に接点の開閉を行う機器。」

第5 当審の判断
1.甲第1号証記載の発明
上記記載事項(1a)?(1g)及び図示内容(1h)を総合すると、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

甲1発明
「電気ヒータを備えた本体型枠を複数の支持脚により床面上に支持して暖房空間を形成する電気こたつにおいて、
前記暖房空間内で使用者の有無を検出するもので赤外線入射量が連続して所定時間(例えば30分間)変化しない時には使用者が不在であると制御回路が判断して、前記電気ヒータへの通電を停止し、その後、負荷側への通電停止中に使用者が暖房空間A内に足を入れ、これを検出すると再び負荷側のマイナスイオン発生器18および電気ヒータ5、送風機4へ通電して暖房を行う人体センサーを支持脚の何れかに設け、
電源線の途中に前記人体センサー13およびコントローラ17が設けられ、
前記電気ヒータ5に直接触れて火傷などが起こるのを防止する網目状の保護カバー9内に設けた感熱抵抗素子11の抵抗と前記コントローラ17に設けた温度調節ボリューム17Cで設定された抵抗の合成抵抗により前記電気ヒータ5への電力供給量を制御して温度調節し、
前記人体センサーの運転又は停止を切換えるための運転スイッチを設けた、
電気こたつ。」

2.対比
本件発明2と甲1発明とを対比すると、その用語の意味、機能または作用等からみて、後者の「人体センサー」及び「制御回路」は、それぞれ前者の「人体検知センサー」及び「制御手段」に相当する。
後者の「電気ヒータを備えた本体型枠を複数の支持脚により床面上に支持して暖房空間を形成する電気こたつ」は、前者の「暖房空間内を暖めるための電気ヒーター」を備えた「電気こたつ」に相当する。
後者の「前記電気ヒータへの通電を停止する」ことは、電流の流れる量をゼロに制限しているから、後者の「前記暖房空間内で使用者の有無を検出するもので赤外線入射量が連続して所定時間(例えば30分間)変化しない時には使用者が不在であると制御回路が判断して、前記電気ヒータへの通電を停止」する「人体センサーを支持脚の何れかに設け」ることと、前者の「使用者の存在の有無を検出する人体検知センサーを備え」、「前記使用者の不存在を所定時間検出したときには待機状態モードとするように前記リレーを励磁して前記スイッチを開成して前記電流制限素子により前記電気ヒーターへの電流の流れる量を制限した状態で前記電気ヒーターに通電するように切り替える」こととは、「使用者の存在の有無を検出する人体検知センサーを備え」、「前記使用者の不存在を所定時間検出したときには前記電気ヒーターへの電流の流れる量を制限するように切り替える」限りにおいて、一致する。
後者の人体センサーが「その後、負荷側への通電停止中に使用者が暖房空間A内に足を入れ、これを検出すると再び負荷側のマイナスイオン発生器18および電気ヒータ5、送風機4へ通電して暖房を行う」ことは、前者の「前記人体検知センサーによって前記使用者の存在を検出したときには」「前記電気ヒーターに通電するように切り替え」ることに相当する。
後者の「電源線の途中に前記人体センサー13およびコントローラ17が設けられ、前記電気ヒータ5に直接触れて火傷などが起こるのを防止する網目状の保護カバー9内に設けた感熱抵抗素子11の抵抗と前記コントローラ17に設けた温度調節ボリューム17Cで設定された抵抗の合成抵抗により前記電気ヒータ5への電力供給量を制御して温度調節」していることは、前者の「この電気ヒーターに接続される電流制限素子」を備えることに相当する。
後者の「前記人体センサーの運転又は停止を切換えるための運転スイッチ」は、前者の「前記人体検知センサーを作用させるか否かを選択するための人体検知センサー入切スイッチ」に相当する。
後者の「運転スイッチ」で「人体センサーの運転」を選択した場合は、前者の「人体検知センサー入切スイッチの操作により前記人体検知センサーを作用させることを選択している場合」といえる。

そこで、本件発明2の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。

(一致点)
「使用者の存在の有無を検出する人体検知センサーを備えた電気こたつにおいて、
暖房空間内を暖めるための電気ヒーターと、
この電気ヒーターに接続される電流制限素子と、
前記人体検知センサーを作用させるか否かを選択するための人体検知センサー入切スイッチと、
前記人体検知センサー入切スイッチの操作により前記人体検知センサーを作用させることを選択している場合に、前記人体検知センサーによって前記使用者の存在を検出したときには前記電気ヒーターに通電するように切り替え、前記使用者の不存在を所定時間検出したときには前記電気ヒーターへの電流の流れる量を制限するように切り替える制御手段とを設けた電気こたつ。」

そして、両者は、次の点で相違する。

(相違点1)
本件発明2は、電気ヒーターに電流制限素子と並列に接続されるスイッチを備え、閉成している前記スイッチを介して前記電気ヒーターに通電すると共に前記電流制限素子を介して前記電気ヒーターに通電して前記電気ヒーターへの電流の流れる量の制限を解除した状態で前記電気ヒーターに通電するか、前記スイッチを開成させることにより前記電流制限素子により前記電気ヒーターへの電流の流れる量を制限した状態で前記電気ヒーターに通電させるかを切り替えるリレーを備えているのに対して、甲1発明は、そのような構成を備えていない点。

(相違点2)
制御手段について、本件発明2は、人体検知センサーによって使用者の存在を検出したときには通常状態モードとするようにリレーの閉成しているスイッチを介して電気ヒーターに通電すると共に電流制限素子を介して前記電気ヒーターに通電して前記電気ヒーターへの電流の流れる量の制限を解除した状態で前記電気ヒーターに通電するように切り替え、前記使用者の不存在を所定時間検出したときには待機状態モードとするように前記リレーを励磁して前記スイッチを開成して前記電流制限素子により前記電気ヒーターへの電流の流れる量を制限した状態で前記電気ヒーターに通電するように切り替えているのに対して、甲1発明は、使用者が不在であると制御回路が判断したときは、電気ヒーターへの通電を停止させている点。

3.相違点1、2の判断
本件発明2は、人体検知センサーによって使用者の存在を検出したときには通常状態モードとするようにリレーの閉成しているスイッチを介して電気ヒーターに通電すると共に電流制限素子を介して前記電気ヒーターに通電して前記電気ヒーターへの電流の流れる量の制限を解除した状態で前記電気ヒーターに通電するように切り替え、前記使用者の不存在を所定時間検出したときには待機状態モードとするように前記リレーを励磁して前記スイッチを開成して前記電流制限素子により前記電気ヒーターへの電流の流れる量を制限した状態で前記電気ヒーターに通電するように切り替えることにより、電気ヒーターへの電流の流れる量を制限し、この電流制限素子によって電気ヒーターの発熱量が大幅に制限され、省エネ性及び安全性を維持しながら、電気こたつの中が適度に保温され、冷え切らないようにできる(以下「本件発明2の効果」という。)というものである(本件特許明細書段落【0034】)。
一方、甲1発明は、使用者が不在であると制御回路が判断したときは、電気ヒーターへの通電を遮断して停止し、その後、人体センサーによる負荷側への通電停止中に使用者が暖房空間A内に足を入れると、赤外線センサーはこれを検出すると再び負荷側のマイナスイオン発生器および電気ヒータ、送風機へ通電して暖房を行うことにより、無駄な電力消費を抑えると共に安全性の高い電気こたつを提供するものである(上記記載事項(1g))。
また、甲第2号証に記載のものは、使用頻度の高いパンの加熱に合わせて上発熱体42と下発熱体43のワットバランスを設定すると、パンより厚みの厚いもちを焼くときは、上面が焦げ易い為にもちの上面が先に固まり、もちが膨れると、下面側が割れて網体44にこびりついてしまいとれないという課題を解決するもので、パンの加熱性能を確保しながら、しかももちの加熱時においても網体へのこびり付きのない電気加熱調理器を提供することを目的として(上記記載事項(2b))、電気加熱調理器において、上、下発熱体への通電を制御する切換スイッチと補助発熱体を具備し、上発熱体と下発熱体を並列に結線するとともに、切換スイッチの接点と直列に上発熱体を結線し、切換スイッチの接点と並列に補助発熱体を結線したものである。そして、パン加熱モ-ドともち加熱モ-ドを手動の切換スイッチで切り換えて、もち加熱時は上発熱体を補助発熱体を介して加熱して上発熱体のワットバランスを低下させて焼くことができるというものである(上記記載事項(2c))。
さらに、甲第3号証に記載のものは、定着装置において、補助電源装置としての機能を損なわず適切なタイミングで補助発熱体への給電を可能としながら蓄電器を長寿命化させることを目的とし、制御部4cが、温度センサ4bの検出温度により定着ローラ3Aの温度が所定温度に達したと判断すると、アイドル状態となって定着ローラ3Aの温度を所定温度に保つように、温度センサ4bの検出温度に基づいて、主ヒータ3aへの供給をON/OFFする主電源スイッチ1のON/OFF制御を行い、補助ヒータ3bへの給電を停止するものである(上記記載事項(3a)、(3b)、(3e))。
また、甲8発明は、リレーの一般的用語の説明である。
そうすると、使用者が不在であると制御回路が判断したときは、電気ヒーターへの通電を遮断して停止し、その後、人体センサーによる負荷側への通電停止中に使用者が暖房空間A内に足を入れると、赤外線センサーはこれを検出すると再び負荷側のマイナスイオン発生器および電気ヒータ、送風機へ通電して暖房を行う電気こたつに関する甲1発明に、電気加熱調理器という技術分野が大きく異なり、また、パンの加熱性能を確保しながら、しかももちの加熱時においても網体へのこびり付きのない電気加熱調理器を提供するという甲1発明とは異なる目的であって、さらに、上、下発熱体への通電を制御する切換スイッチと補助発熱体を具備し、上発熱体と下発熱体を並列に結線するとともに、切換スイッチの接点と直列に上発熱体を結線し、切換スイッチの接点と並列に補助発熱体を結線し、パン加熱モ-ドともち加熱モ-ドを手動の切換スイッチで切り換えて、もち加熱時は上発熱体を補助発熱体を介して加熱して上発熱体のワットバランスを低下させて焼くという甲第2号証記載のものを適用することは、その適用に動機付けがないから当業者といえども容易に想起し得ないことである。
また、同じく甲1発明に、定着装置という、技術分野が大きく異なり、また、補助電源装置としての機能を損なわず適切なタイミングで補助発熱体への給電を可能としながら蓄電器を長寿命化させるという甲1発明とは異なる目的であって、さらに、制御部4cが、温度センサ4bの検出温度により定着ローラ3Aの温度が所定温度に達したと判断すると、アイドル状態となって定着ローラ3Aの温度を所定温度に保つように、温度センサ4bの検出温度に基づいて、主電源スイッチ1のON/OFF制御を行い、補助ヒータ3bへの給電を停止するという甲第2号証記載のものを適用することは、その適用に動機付けがないから当業者といえども容易に想起し得ないことである。
そして、本件発明2は、相違点1及び相違点2に係る構成を採用することにより、本件発明2の効果を奏するのであり、甲1発明に、甲第2号証及び甲第3号証を適用して、上記各相違点に係る特定事項とすることは、当業者であっても容易になし得たものとはいえない。
したがって、本件発明2は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできず、本件発明2についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とされるべきであるとする請求人の主張は理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明2についての特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-16 
結審通知日 2015-01-20 
審決日 2015-02-02 
出願番号 特願2012-45051(P2012-45051)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (F24C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土屋 正志  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 山崎 勝司
森林 克郎

登録日 2013-05-31 
登録番号 特許第5281172号(P5281172)
発明の名称 電気こたつ  
代理人 石田 喜樹  
代理人 中村 幸広  
代理人 稲村 悦男  

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