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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  F16K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  F16K
管理番号 1298990
審判番号 無効2013-800177  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-09-18 
確定日 2015-04-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第4547751号発明「遮断弁」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第4547751号(請求項の数[4],以下,「本件特許」という。)は,平成11年12月28日に特許出願された特願平11-373873号に係るものであって,平成22年5月18日付け手続補正書により補正され,その請求項1ないし4に係る発明について,平成22年7月16日に特許権の設定の登録がされた。

これに対して,平成25年9月18日に,本件特許の請求項1ないし4に係る発明の特許に対して,本件特許無効審判請求人(以下,「請求人」という。)により本件特許無効審判〔無効2013-800177号〕が請求されたものであり,本件特許無効審判被請求人(以下,「被請求人」という。)により指定期間内の平成25年12月6日付けで審判事件答弁書が提出されたものである。

また,平成26年2月21日付けの審理事項通知書が請求人及び被請求人に通知され,請求人より平成26年4月2日付け口頭審理陳述要領書が提出され被請求人より平成26年4月1日付け口頭審理陳述要領書及び平成26年4月14日付け口頭審理陳述要領書(2)が提出され,同年4月16日に第1回口頭審理が行われ,同年6月13日付けで審理終結通知書が請求人及び被請求人に通知されたものである。


第2 本件特許に係る発明

本件特許の請求項1ないし4に係る発明は特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された以下の事項により特定されるとおりのものと認める。

1 「【請求項1】
励磁コイルを有するステータと,前記ステータの内側に同軸に配設され貫通穴のないなべ状に成形された剛体性の隔壁と,流体室に取り付け可能で前記隔壁の円筒部外径より若干大きな内径の円筒状段差部を形成された剛体性の取り付け板と,前記隔壁の円筒部外周と前記取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮されて配設された弾性体製のシール部材と,前記隔壁の内側に前記ステータに対向して配設されたロータと,前記ロータの回転軸に配設された弁機構とで構成され,
前記隔壁は,開放端につばを有し,前記つばを前記シール部材と共に前記取り付け板段差部に挿入して構成した遮断弁。」
(以下,「本件特許発明1」という。)

2 「【請求項2】
前記隔壁を取り付け板方向に付勢する付勢手段と,前記隔壁の開放端に嵌挿され中心に軸受を配設した合成樹脂製のふたを有し,前記ふたの外周部を前記つばと前記取り付け板段差部の底面とで挟んで保持した請求項1記載の遮断弁。」
(以下,「本件特許発明2」という。)

3 「【請求項3】
前記付勢手段は前記隔壁と前記ステータの軸方向の相対位置を規制するように形成され,前記隔壁の開放端と前記取り付け板段差部底面とに挟まれるふたの挟持部に,変形することによって前記ふたの前記取り付け板に対する軸方向位置を変えることができる突起もしくは円周リブ状の寸法吸収部を形成した請求項2記載の遮断弁。」
(以下,「本件特許発明3」という。)

4 「【請求項4】
前記ステータと前記シール部材との間に配設され,前記シール部材が前記取り付け板段差部から脱落することを防止するバックアップリングを有する請求項1?3のいずれか1項に記載の遮断弁。」
(以下,「本件特許発明4」という。)


第3 無効理由についての当事者の主張

1 請求人が主張する無効理由の概要

請求人は,平成25年9月18日付けの審判請求書,平成26年4月2日付けの口頭審理陳述要領書及び同年4月16日の第1回口頭審理において,甲第1号証ないし甲第23号証を提示して以下の無効理由を主張した。

(1)無効理由1(新規性欠如に基づく無効理由)

本件特許の請求項1に係る発明は,甲第1号証(特開平5-71655号公報)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)と同一であるから,特許法第29条第1項第3号の規程により特許を受けることができないものであり,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

(具体的理由)
本件特許発明1では,貫通穴のないなべ状に成形された剛体性の隔壁を,ロータを収容する容器として用いているのに対し,甲1発明では,取付板(33)で一端が密閉された薄板パイプ(38)を,ロータ(29)を収容する容器として用いており,この点において記載上の相違点があるとしても,甲1発明では,薄板パイプ(38)と取付板(33)という2つの部品が一体化して貫通穴のないなべ状に成形された剛性体の隔壁を構成しているものであり,本件特許発明1と対比しても,1つの部品でなべ状の隔壁とするか,2つの部品でなべ状の隔壁を構成するかの違いに過ぎないから,貫通穴のないなべ状に成形された剛性体の隔壁は,甲第1号証に記載されているに等しい事項であって,実質的な相違点ではない。甲1発明における,薄板パイプ(38)と取付板(33)との2つの部品からなる隔壁を,当業者であれば,これを一体成形により一つの部品として製造することは,技術常識を参酌して当然に導き出せるものである。
また,本件特許発明1では,隔壁の開放端が「つば(鍔)」を有し,その「つば(鍔)」とシール部材とを共に取り付け板段差部に挿入しているのに対し,甲1発明では,薄板パイプ(38)の開放端に「つば(鍔)」を設けることは明らかでないが,薄板パイプ(38)の開放端をシール材(39)とともに取付板(23)の段差部に挿入しており,この点において記載上の相違点があるとしても,なべ状の隔壁を成形する場合,通常の成形方法である絞り加工によれば隔壁の開放端に「つば(鍔)」が生じることは周知であるから,なべ状の隔壁の開放端に「つば(鍔)」を設けることは,甲第1号証に記載されているに等しい事項であり,実質的な相違点ではない。
したがって,本件特許発明1は,その出願をする前に頒布された刊行物に記載された甲1発明と同一である。

(2)無効理由2(進歩性欠如に基づく無効理由)

本件特許の請求項1ないし4に係る発明は,いずれも甲1発明と,甲第2号証ないし甲第5号証(順に,特開平11-2352号公報,特開平11-2351号公報,特開平11-2353号公報,及び,特開平10-38126号公報)に記載された発明(以下,それぞれ「甲2発明」ないし「甲5発明」という。)又は周知技術を適宜組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許受けることができないものであり,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

(具体的理由)
(2-1)本件特許発明1について
本件特許発明1において,1つの部品で構成されたなべ状の隔壁を用いること(相違点1),及び,隔壁の開放端に「つば(鍔)」を設け,その「つば(鍔)」とシール部材とを共に取り付け板段差部に挿入すること(相違点2)が,甲1発明との相違点であるとしても,1つの部品で構成されたなべ状の隔壁において「つば(鍔)」を設けることは,周知,慣用の技術である。すなわち,相違点1について,甲2発明ないし甲4発明には,双方向流体弁において1つの部品で構成されたなべ状の隔壁を用いることが示されており,また,相違点2について,甲第7号証ないし甲第9号証(順に,特開平11-295174号公報,特開平8-183418号公報,及び,特開昭62-56678号公報)に記載されているように,隔壁の開放端に「つば(鍔)」を設けシール部材と共に取り付け板段差部に挿入することは,周知技術である。
また,甲第21号証ないし甲第23号証(順に,特開平8-189576号公報,特開平7-239053号公報,及び,特開平7-260037号公報)には逆止弁の構成において筒状部材の開放端に外向きフランジを設けることが開示されており,フランジが補強目的であることは自明である。そして,甲第7号証ないし甲第9号証及び甲第21号証ないし甲第23号証から,「筒状部材の開放端に外向きフランジを設けること」は技術分野を問わず広く用いられている。なお,甲1発明の「薄板パイプ38」の開放端に外向きフランジを適用する場合,シール部材を配設する位置を薄板パイプ38の外周面が存在する箇所にすべきことは,甲第21号証ないし甲第23号証の周知技術にも開示されているように,当業者にとって明らかである。
したがって,甲1発明において,なべ状の隔壁を1つの部品で構成し,その開放端に「つば(鍔)」を設けることは当業者が容易に想到し得たものであり,甲1発明において,甲2発明ないし甲4発明及び周知技術を参酌し,本件特許発明1の構成とすることは当業者にとって容易に想到し得る事項である。

(2-2)本件特許発明2について
本件特許発明2では,隔壁を取り付け板方向に付勢する手段を有しているのに対し,甲1発明では,取付板(23,33)をステータヨーク37に螺着することによって,薄板パイプ(38)を取付板(23)方向に付勢しつつ一体に固着する機構を有している。いずれも,隔壁又は薄板パイプ(38)を取り付け板方向に付勢して密着固定するための機構であり,同一のものである。
そして,本件特許発明2では,隔壁の開放端に挿入され中心に軸受を配置した合成樹脂製のふたを有し,このふたの外周部をつばと取り付け板段差部の底面とで挟んで保持した構成となっている。これに対し,甲1発明では,薄板パイプ(38)の開放端(甲第1号証の図1中,弁体22側の薄板パイプ(38)端)に嵌挿され中心に軸受を配設した保持盤を有しているが,「つば(鍔)」が示されておらず,また,つばと取り付け板段差部の底面の間に挟まれて保持される保持盤のフランジ状の外周部についても示されていない。すなわち,甲1発明において,開放端に「つば(鍔)」を設け,保持盤にフランジ状の外周部を設ければ,本件特許発明2に一致する。
ここで,開放端に設ける「つば(鍔)」については,上記本件特許発明1について述べたように,甲第1号証に記載されているに等しい事項であるか,あるいは,周知技術を参酌して当業者が容易に付加し得る事項である。そして,本件特許発明2のふたの外周部については,甲1発明の薄板パイプ(38)の取付板(33)側の開放端(甲第1号証の図1中,外部操作手段40側の薄板パイプ(38)端)において,中心に軸受(31)を配設した保持盤(32)が薄板パイプ(38)に嵌挿されており,こちらの保持盤(32)にはフランジ状の外周部がスペーサとして設けられ,Oリング等のシール材(39)と取付板(33)の段差部底面の間に挟まれて保持されている。
したがって,当業者であれば,甲1発明において,薄板パイプ(38)の取付板(33)側の開放端(甲第1号証の図1中,外部操作手段40側の薄板パイプ(38)端)の保持盤(32)にスペーサとして設けられたフランジ状の外周部を,薄板パイプ(38)の取付板(23)側の開放端(甲第1号証の図1中,弁体22側の薄板パイプ(38)端)に設けられた保持盤に設けることは,単なる設計事項であり,容易に想到できることである。
また,「前記ふたの外周部を前記つばと前記取り付け板段差部の底面とで挟んで保持した」ことは,甲2発明にも開示されている。甲第2号証の段落【0019】には,「段付きフランジ2および平板フランジ7は互いに固着されて,アウターブッシュ3の鍔部とケーシング6の鍔部を同時に挟み込んでいる」ことが開示されており,図1を参照すると,アウターブッシュ3の鍔部が,ケーシング6の鍔部と段付きフランジ2の段差部底面との間で挟まれて保持されていることが把握できる。ここで,「アウターブッシュ3」,「ケーシング6の鍔部」,「段付きフランジ2」がそれぞれ,本件特許発明2の「ふたの外周部」,「つば」,「取り付け板」に相当するため,同一の構成が甲2発明にも開示されていることになる。したがって,甲2発明からも,容易に想到できることである。
以上のように,本件特許発明2は,甲1発明に基づいて,または,甲1発明と甲2発明との組み合わせに基づいて,当業者が容易に想到することができた発明である。

(2-3)本件特許発明3について
本件特許発明3では,付勢手段は隔壁とステータの軸方向の相対位置を規制するように形成されているのに対し,甲1発明では,2つの取付板(23,33)をステータヨーク(37)に螺着することによって,取付板(23,33)とステータヨーク(37)と,これらの間に挟持される薄板パイプ(38)とが一体に固定されているため,薄板パイプ(38)とステータヨーク(37)の軸方向の相対位置が規制されている。このように,本件特許発明3と,甲1発明とはこの点に関し同一である。
次に,本件特許発明3では,隔壁の開放端と取り付け板段差部底面とに挟まれるふたの挟持部に,変形することによってふたの取り付け板に対する軸方向位置を変えることができる突起もしくは円周リブ状の寸法吸収部が形成されているのに対し,甲1発明にはそのような寸法吸収部は示されていない。
しかし,甲5発明には,電気的にバルブの開閉を行う電磁弁において,略カップ状を呈した可動子保持スリーブ(10)とプレート(6)の先端部(6a’)とが当接する部分に,円周状の弾性変形部を設けることにより,軸方向の寸法誤差を吸収することが示されている。
したがって,本件特許発明3は,甲1発明に甲5発明を適用することにより,当業者が容易に想到することができた発明である。

(2-4)本件特許発明4について
本件特許発明4では,ステータとシール部材との間に配設され,シール部材が取り付け板段差部から脱落することを防止するバックアップリングを有しているのに対し,甲1発明では,そのようなバックアップリングは示されていない。
しかし,Oリングを使用する際,大きな隙間が生じる場合あるいは大きな圧力がかかる場合には,Oリングが隙間にはみ出すのを防ぐためにバックアップリングを併用することは,甲第14号証(特開平6-117563号公報)及び甲第15号証(小宮山香苗,松本美韶,国分悦郎,神林治雄,平林弘著,「機械設計・第1巻 漏洩防止法」,第1刷,株式会社誠文堂新光社,昭和40年6月30日,p.89-94)に示されるように周知技術である。
したがって,本件特許発明4は,甲1発明と周知技術に基づいて,当業者が容易に想到することができた発明である。


2 被請求人の主張の概要

これに対して,被請求人は,平成25年12月6日付けの審判事件答弁書,平成26年4月1日付けの口頭審理陳述要領書,平成26年4月14日付け口頭審理陳述要領書(2)及び同年4月16日の口頭審理において,乙第1号証ないし乙第4号証を提示して,請求人主張の無効理由に対して以下のように反論した。

(1)無効理由1(新規性欠如に基づく無効理由)について

甲1発明は,「前記ステータの内側に同軸に配設され貫通穴のないなべ状に成形された剛体性の隔壁」の構成,「前記隔壁は,開放端につばを有し, 前記つばを前記シール部材と共に前記取り付け板段差部に挿入して構成した」の構成のいずれも具備していないから,本件特許発明1と同一の発明ではない。

(具体的理由)
本件特許発明1は,甲1発明に対し,以下の点において相違しており,十分に新規性が認められる。
i)貫通穴のないなべ状に成形された剛性体の隔壁を備えていない。
ii)薄板パイプ38と取付板33が一体となるものであるとして,貫通穴のないなべ状に成形された剛体性の隔壁に相当するとすると,これらは,ステータの内側に配設されていない。
iii)隔壁の開放端につばを有していない。
iv)つばをシール部材と共に取り付け板段差部に挿入して構成したものではない。
i)に関し,本件特許発明1では,隔壁が1個の部材として形成されることを必須の構成とするものであって,隔壁内部に収納されている回転軸,軸受け,永久磁石等の位置が,取付時にあるいは長期間の使用によりずれることがあったとしても,ロータ側から外部へのガス漏れが生じることを確実に防止することができ,また,シールが必要な箇所をできるだけ少なくすることが可能となり,高度の気密性を確保することが可能となる。また,甲1発明は外部操作手段40を備えうるから,両端が開放された薄板パイプを必須の構成とするものと解するのが相当である。
ii)に関し,本件特許発明1では,隔壁が1個の部品で構成されているからこそ,ステータの内側に配設することが可能であり,また,これにより,より簡潔で部品点数の少ない構造が実現可能となっている。
iii)に関し,甲1発明は,ロータを収容する構成として,薄板パイプ38を具備することを明確に要求するものであり,「薄板パイプ」である以上(すなわち,底辺のある筒状の容器でない以上),開放端に「つば(鍔)」が形成されることは全く想定されていない。また,仮にも,甲1発明において,薄板パイプの開放端に「つば(鍔)」が形成される可能性が幾分でも想定されているならば,高い気密性を確保する上において,「つば(鍔)」周辺の構成が,具体的かつ明確に定められる必要があるが,甲第1号証の発明の詳細な説明には, 開放端に「つば(鍔)」を設ける構成であることが全く記載されておらず,これを示唆する記載もない。なお,<底辺のある筒状の容器を製造するに際しては,絞り加工が用いられ,絞り加工を用いれば,必然的に端部に「つば(鍔)」が形成されること>という技術常識論は誤りである。
そして,本件特許発明1が具備する「つば」は,なべ状の隔壁の開放端の変形を防止し,隔壁の強度及び真円度を確保することによって,気密性につき高度の信頼性を確保することを可能とするとともに,シール部材を嵌着するなべ状の隔壁の開放端につばを設けて,その隔壁の開放端の強度を強化する構成によって,つばをシール部材と共に取り付け板段差部に挿入することができ,組立作業を容易にした,という固有の技術的意義を有するものである。また,甲1発明の円周方向に圧縮するシール部材は,これを先行技術とする甲2発明の明細書において気密性・生産効率に問題があるとされたが,本件特許発明1は,この円周方向に圧縮するシール部材を,あらためて採用したものである。その上で,甲2発明の明細書が指摘する上記問題点を克服するため,甲2発明には見られなかった新たな具体的解決手段として, 隔壁の開放端につばを設け,隔壁の開放端の変形を防止して高度の気密性を確保しつつ,組立作業が容易な構成の遮断弁を提供することを可能としたのである。上記の技術的意義は,本件特許発明1の明細書の発明の詳細な説明において,必ずしも直接的には明記されていないが,遮断弁において高度の気密性を確保することは当然の課題であり,また,板金製品の縁を補強するために折り曲げる加工(フランシング)は技術常識であることから,本件特許発明1の明細書の発明の詳細な説明の記載に接する当業者であれば,上記の技術的意義は十分に理解されるところである。なお,開放端を補強するために折り曲げる加工自体が技術常識であっても,これを,円周方向に圧縮するシール部材とともに,本件特許発明1の構成として採用したことが,本件特許発明1の進歩性を基礎付ける1つの根拠となるのであって,上記の技術常識は,本件特許発明1の進歩性を否定するものではない。

(2)無効理由2(進歩性欠如に基づく無効理由)について

本件特許発明1ないし4は,甲1発明と,i)甲2発明,甲3発明,甲4発明,甲5発明,及び,ii)周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたものであるとして,進歩性が欠如する旨の主張は,高い気密性を確保するために部品相互の構成が密接に関連している遮断弁において,部品単体のレベルで,区々別々に,相違点にかかる構成の適用を論じるものにすぎない。また,主張する周知技術は,その証拠となる公知文献の技術分野が本件発明と異なっている上に,徒に構成を抽象化して周知技術論を展開しているものである。

(具体的理由)
(2-1)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とは,少なくとも, 以下の点において相違するものである。相違点1:本件特許発明1は,ロータを収納する部材として,ステータの内側に同軸に配設され貫通穴のないなべ状に成形された剛体性の隔壁を具備しているのに対し,甲1発明は,薄板パイプ38内にロータを収容し,その一端に取付板(33,甲第1号証図1の一点鎖線が示す構成)を設ける構成である点。相違点2:本件特許発明1は,隔壁の開放端につばを有し,つばをシール部材と共に取付板段差部に挿入して構成したものであるのに対し,甲1発明は,かかる構成を備えていない点。
本件特許発明1の隔壁,つば,シール部材,取付板段差部は,相互に密接に関連し合い,一体となってシール構造を構成している。そして,甲2発明は,部品単体としてみれば,本件特許発明1の「隔壁」に相当する「ケーシング6」を具備していて,その開放端につばを有するものではある。しかし,甲2発明のケーシング6の開放端周辺部におけるシール構造は,平板フランジ7と段付きフランジ2が,かしめ工法により固着されていて,段付きフランジ2の段差部において,平板フランジ7と段付きフランジ2との間に,アウターブッシュ3の鍔部とケーシング6の鍔部,シールドリング8が挟み込まれていて,シールドリング8が, 軸方向に圧縮される構成であるから,本件特許発明1のシール構造と全く異なっているのであって,ただ単純に,甲1発明の「薄板パイプ38」を甲2発明の「ケーシング6」に置き換えたとしても, 製品としては全く成り立たない。また,甲1発明の「薄板パイプ38」に替えて,「隔壁」を適用するという動機付けを認める余地はない。
「なべ状の隔壁を,その外周より若干大きな内径を有する円筒状段差部に挿入して嵌め合わせるにあたり,Oリングを用いるとともに,隔壁の開放端につばを設けること」が周知技術である旨主張すべく提出した甲第7号証ないし甲第9号証は,遮断弁と技術分野が異なる発明,あるいは,構造が全く相違する遮断弁の発明についての公報であって,周知技術を論ずる前提を欠いているから,本件特許発明1が属する「モータを動力源とした遮断弁」の技術分野において,周知技術と認められるものではない。また,甲第7号証ないし甲第9号証記載の具体的なシール構造は,いずれも,本件特許発明1に特徴的な構成とは全く異なっており,本件特許発明1の固有の技術的意義を有するものではないから,甲1発明に甲第7号証ないし甲第9号証の相違点2に係る構成を適用して,本件特許発明1に至る動機付けは存在しない。
なお,本件特許発明1と具体的な技術分野が異なる甲第21号証ないし甲第23号証に記載されたフランジ様なるものに,補強の用途・技術的意義を一義的に明確に理解できず,それを認めることはできないし,それらに記載発明の具体的な構成・組立工程に照し,フランジ様なるものに補強の用途・技術的意義が認められる余地はない。

(2-2)本件特許発明2について
本件特許発明2の構成要件「前記隔壁を取り付け板方向に付勢する付勢手段」の構成は,隔壁を取り付け板方向に付勢することによって,一般に約10年間とされる長期の使用期間であっても,温度変化によるふたの膨張収縮で隔壁と取り付け板との組付けがゆるまず,気密性に関してより高い信頼性を持った遮断弁を提供することができるという技術的意義を有するのに対し,甲第1号証の段落番号【0010】に「取付板23,33をステータヨーク37,37に螺着することによって,軸受31,保持盤32,パイプ38,Oリング39,ステータヨーク37,取付板23,33は一体に固定されて組立てられる。」と記載されているとおり,単なる螺着により,取付板をステータヨークに固着する構成でしかなく,「保持盤(32)と,薄板パイプ(38)と,Oリング等のシール材(39)は,軸方向に圧縮されて,取付板(23)方向に付勢されることになる」という構成は記載されていないから,甲1発明は,構成要件「前記隔壁を取り付け板方向に付勢する付勢手段」の構成を具備しておらず,この点において,本件特許発明2と相違する。
そして,「円筒状の電磁モータを組み立てるにあたり,螺着による固定によらず,コの字状の弾性のある板材からなるバンドを用いて付勢して固定することは周知技術である」との主張の証拠として提出した,甲第10号証ないし甲第13号証に記載されたバンド等は,たかだか,モータの技術分野において,取付のための固定部材として採用されたものにすぎず,本件特許発明2に認められる上記の「付勢手段」の技術的意義を備えるものではない。
また,本件特許発明2の構成要件「前記ふたの外周部を前記つばと前記取り付け板段差部の底面とで挟んで保持した」の構成は,ふたの外周部をつばと取り付け板段差部の底面とで挟んで保持することによって,ふたと一体的に隔壁の開放端側の軸受を容易に配置することを可能とし,温度変化によるふたの膨張収縮でシール部材の圧縮率が影響を受けず,気密性に関してより高い信頼性を持った遮断弁を提供することができるという技術的意義を有する。これに対し,甲1発明につき,薄板パイプ38の開放端に「つば(鍔)」を設ける構成が,甲1発明が有しているに等しい事項であるか,周知技術を参酌して当業者が容易に付加し得る事項である理由はない。また,甲第1号証の図1につき,弁と反対側の薄板パイプ38の開放端において,軸受保持盤32にフランジ状の外周部が設けられ,この外周部が,Oリング等のシール材39と取付板33の段差部の底面の間に挟まれて保持されていると主張する構成は,甲第1号証の発明の詳細な説明には,全く記載されておらず,単に図面上で,そのように読み取ることも可能と考えられるような記載がなされているにすぎないし,上記の構成が図1から読み取れるとしても,これは,軸受保持盤の外周部のみを取付板の段差部の底面との間で挟んだにすぎず,本件特許発明2のように,「前記ふたの外周部を前記つばと前記取り付け板段差部の底面とで挟んで保持した」構成ではないのみならず,Oリングを径方向シール方式で用いながら軸方向にも圧縮を加える構成は,圧縮永久歪の増大の原因となるものであるから,本件特許発明2の「温度変化によるふた49の膨張収縮でシール部材58の圧縮率が影響を受けず,・・・気密性に関してより高い信頼性を持った遮断弁を提供する」目的と明らかに相反するのであって,同構成が,本件特許発明2の上記構成要件に相当すると認め得る余地はない。さらに,甲2発明には,上記構成要件の上記技術的意義は認められないから,本件特許発明2の上記構成要件に相当する構成は開示されていない。

(2-3)本件特許発明3について
本件特許発明3の構成要件「前記付勢手段は前記隔壁と前記ステータの軸方向の相対位置を規制するように形成され」の構成は,隔壁とステータとの軸方向の相対位置を規制することによって,隔壁の円筒部外周でステータから突出する部分の長さを規制し,以て,シール部材が軸方向に圧縮を受けることによって過圧縮状態になり気密性が劣化することを防止するという技術的意義を有するのに対し,甲1発明は,取付板をステータに螺着することによって取付板とステータとの位置関係を固定的に固着する構成でしかなく,隔壁とステータとの軸方向の相対位置を規制するものではなく,また,上記の構成要件の技術的意義を有するものでもないから,甲1発明は,本件特許発明3の上記構成要件の構成を備えていない。
本件特許発明3の構成要件「前記隔壁の開放端と前記取り付け板段差部底面とに挟まれるふたの挟持部に,変形することによって前記ふたの前記取り付け板に対する軸方向位置を変えることができる突起もしくは円周リブ状の寸法吸収部を形成した」の構成は,寸法吸収部が変形することによって,ふたのほかの部分や隔壁に大きな応力を伝えないために,シール部材の入る部分の寸法を確保したまま,取り付け板と隔壁の開放端でふたを強固に扶持でき,ふた全体やふたに配された軸受,隔壁を変形させず,以て,気密性と動作特性の信頼性を確保するという技術的意義を有するのに対し,甲第5号証において本件特許発明3の「寸法吸収部」に相当するとしている「弾性変形部10c」は,従来のウェーブワッシャのように作用して,可動子保持スリーブ10が電磁弁1に固定されるものであって,可動子保持スリーブ10は,溶接等の接合工程や,ウェーブワッシャ等の特別な固定部材を用いることなく,電磁弁1に固定されるのであり,従来に比較して,工程数の低減,あるいは部品点数の減少により,電磁弁1の組付が容易となるとともに,電磁弁1の製造コストを低く抑えることができるというものである(甲第5号証の段落番号【0020】)から,甲第5号証の「弾性変形部10c」が,気密性と動作特性の信頼性を確保する本件特許発明3の「寸法吸収部」と全く異なる構成であることは明らかである。また,甲第5号証の「弾性変形部10c」はプレート6の先端部6a’に当接するものであって,「隔壁の開放端と取り付け板段差部底面とに挟まれるふたの挟持部」に形成されたものではない。

(2-4)本件特許発明4について
本件特許発明4の構成要件「前記ステータと前記シール部材との間に配設され,前記シール部材が前記取り付け板段差部から脱落することを防止するバックアップリングを有する」につき,同構成が周知技術であるとして,甲第14号証及び甲第15号証を提出したが,甲第14号証は「電磁弁装置」に関する発明の公開特許公報であって,本件特許発明4の「モータを動力源とした遮断弁」に関するものではなく,弁の開閉構造や部品が全く異なるし,甲第15号証は,バックアップリングに関する記載はあるものの,遮断弁に採用するための具体的な構成を開示したものではないから,甲第14号証及び甲第15号証から,バックアップリングを一般化して,これが周知技術だとして,甲1発明に適用することが容易に想到し得たとすることはできない。


第4 無効理由についての当審の判断

1 甲第1号証ないし甲第5号証,甲第7号証ないし甲第15号証,甲第21号証ないし甲第23号証記載事項

(1)本件特許の出願前に頒布された特開平5-71655号公報(甲第1号証)には,「モータ駆動双方向弁とそのシール構造」について,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は,正逆回転可能なモータによる回転運動を,弁体移動手段によって左右双方向の直線運動に変換し,弁体を弁座に密着又は弁座から離隔せしめるモータ駆動双方向弁における流体特にガス雰囲気に対するシール構造に関する。
【0002】
【従来の技術】従来,この種の装置のシール構造としては図3に示される構成例のものがある。すなわち,図3はガス遮断時のガス遮断装置の要部断面を示すもので,1はガス供給管路中の弁座で,弁体2の保持板2aとゴム材等の弾性材で形成したシール弁2bから構成されている。そして,弁体2は,ガス通路の側壁の開口(図示していない)に外側から取り付けられたホルダ3に,スプリング4を介して取り付けられており,該スプリング4は弁2を弁座1に押し付ける方向に付勢されている。また,弁体2の中央部にはリードスクリュー5の先端部6が貫通した後,Eリング7,7で挟持するようにして連結されている。リードスクリュー5は前記ホルダ3の貫通孔8を貫通して流体通路外側に延設され,その中程にはスクリューねじ9が形成されている。10はロータで内周面の雌形スクリューねじ10aがスクリューねじ9と螺合する。11は永久磁石,12は電磁コイル,12aはボビン,13はステータヨーク,14は軸受で15はホルダ3にねじ等で固定されたモータの取付板である。また,15は弾性材で成形されたOリングで,シール板17と共に,ホルダ3に形成された貫通孔8とリードスクリュー5との隙間からのガスの漏出を防止するためのものである。
【0003】上記のように構成されているため,ステータヨーク13とこれに内装されている電磁コイル12とを備えたロータ回転手段Aの制御により,ロータ10と永久磁石11とよりなる回転手段Bが正逆回転し,この回転手段Bと螺合しているリードスクリュー5と弁体2からなる弁体移動手段Cが左右にリニア移動する。これにより,弁体2は弁座1と密着又は弁座1から離隔する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記のように構成された貫通孔8とリードスクリュー5との間のシール構造では,シール材としてのOリング16は密着状態にあるリードスクリュー5が左右に移動するため,摩擦熱等による経年変化を起して,リードスクリュー5と粘着状態になってしまう。このため,流体遮断装置の負荷が増大し,緊急時におけるガス遮断に即応することができなくなるという問題点が生じる。
【0005】本発明は,このような従来の技術の有していた問題点を解消するため,非磁性材の薄板パイプをステータヨーク内周面及び軸受保持板外周面に接するように配設し,このパイプとその幅方向の両端に嵌装したOリングと,モータの軸端部に設けたOリングとによるシール構造によって,負荷の安定と信頼性の向上を図ったモータ駆動双方向弁とそのシール構造を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため,第1の発明に係るモータ駆動双方向弁装置は,回転軸28の左端にリードスクリュー28aを形成した正逆回転可能なモータDと,このモータDの取付板23との間に装着されたスプリング24により弁座21に密着する弁体22と,先端部25aがこの弁体22の保持板22aに固定され,前記リードスクリュー28aと螺合して左右に移動する弁体移動手段25とより構成される。また,第2の発明に係る外部操作用円盤装置は,第1の発明に係るモータ駆動双方向弁装置を停電時等の緊急時に,外部から手動等の操作により,弁体22と弁座21に密着し又は弁座21から離隔させるために,この弁体移動手段25とは反対側にモータに外部操作手段40を付属させたものである。さらに,第3の発明は,第1又は第2の発明における弁体移動手段25の実施態様である。そして,第4の発明は,第1の発明のモータ駆動双方向弁装置におけるシール構造において,その両端縁が軸受保持盤22aの外周面に接するとともに,残りの部分はステータヨーク37の内周面に接するように,黄銅等の非磁性材の薄板パイプ38を配設し,この薄板パイプ38の両端縁においてモータの取付板23,33及びステータヨーク37,37とにより包囲される隙間にOリング等のシール材39,39を嵌装したものである。
【0007】
【作用】上記構成の弁体移動手段25により,弁体22は弁座21に密着されてガス通路等を遮断してガス流を停止させるとともに,弁座21から離隔保持してガス通路を開放する。また,弁体移動手段25のみがガス通路隔壁内に配置され,他のモータ構成部分はガス通路隔壁外に配置されているから,このモータのステータヨーク37内周面及び軸受保持盤32の外周面に接する薄板パイプ38と,これらにより形成される隙間にOリング等のシール材39を嵌装するシール構造のため,シール材39は移動部分との接触がなくなるので,双安定弁の負荷が安定する。さらには,外部操作手段としての円盤40を備えたことにより,停電中の緊急時には,工具(ドライバ等)により,円盤40を押し込んで,その突起140aを回転軸28の先端溝28bに係合することにより,弁体22と弁座21の開閉を手動操作により行うことが可能になる。
【0008】
【実施例】以下,本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は第1の発明及び第2の発明の実施例を示す要部断面図であって,開弁時を示している。弁体22は,略灰皿状で中央に透孔22bのある弁体保持板22aと,ゴム材等の弾性材で形成され,前記弁体保持板22aに嵌着されたシール板22Cとから構成されている。そして,弁体22は,流通路の側壁の開口(図示していない)に外側から取り付けられた取付板23に,スプリング24を介して取り付けられており,該スプリング24は弁体22を弁座21に押し付ける方向(図面上,左右)に付勢している。また,弁体22の保持板22aの中央孔22bには弁体移動手段25の先端部25aが貫通した後,Eリング26で連結されている。
【0009】図2は弁体移動手段25の一実施例の要部断面及び上面を示しており,円筒状本体25bの先端部25aには段差部25Cが形成され,下端部(図面上,右端部)にはフランジ部25dが延設されている。そして,該フランジ部25dの凹部には環状盤25eが支持板25hによってねじ25iにて固定支持されている。なお,25fは雌形スクリューねじで,弁体移動手段25の中央貫通孔25gとの連通孔125e内周面に設けられている。
【0010】また,図1において,27は取付板23に固定されている弁体移動手段25の回り止め棒であり,弁体移動手段25のフランジ部25dにおいて,ねじ25iの固定位置に対して直角をなす位置に設けられた透孔125dに遊嵌されている。28は丸棒状の回転軸で,取付板23を左側に貫通して,その先端部のリードスクリュー28aは弁体移動手段25の中央貫通孔25gに設けられている,環状盤25eの雌形スクリューねじ25f(図2参照)と螺合している。したがって,弁体移動手段25はリードスクリュー28aの回転に従動して左右に移動する。29は前記回転軸28と一体のロータで,30はロータ29外周面に配設された分極着磁された永久磁石である。そして,31は回転軸28のための軸受で,この軸受の環状保持盤32を介して取付板23,33に取り付けられている。ここで,取付板33は,第1の発明では一点鎖線にて閉結されており,図の実線部は第2の発明を示している。さらに,34は,環状の永久磁石30の外周面から僅かに離隔するように環装されているロータ回転手段である。該ロータ回転手段34は次のように構成されている。すなわち,コイルボビン35,35に巻回された電磁コイル36,36が前記永久磁石30に対向して環装するように配置され,各電磁コイル36,36はそれぞれステータヨーク37内に収納されている。なお,図示していないが,図3と同様に,ステータヨーク37は,内周縁に複数枚の磁極歯を有する環状内ヨーク板と,この磁極歯と交互に配設される磁極歯を内周縁に有する円筒状外ヨークが上下(図面上,左右)から接合され溶着されている。さらにまた,38は黄銅などの非磁性材の薄板パイプで,その幅方向の両端部38a,38aは前記軸受保持盤32,32の外周面に接し,かつ,その中央部38bがステータヨーク37と接するように嵌装されており,このパイプ38の両端部38a,38aと取付板23,33及びステータヨーク37,37とで包囲される空隙はOリング等のシール材39により嵌装シールされている。そして,取付板23,33をステータヨーク37,37に螺着することによって,軸受31,保持盤32,パイプ38,Oリング39,ステータヨーク37,取付板23,33は一体に固定されて組立てられる。
【0011】ところで,40は,手などにより工具を使用して双方向弁を外部から操作するための外部操作手段であり,内面40aには突起140aが設けられており,また,外面40bには工具等との嵌合溝140bが設けられている。さらに,外周面40Cには溝140Cが設けられていて,Oリング等のシール材41が嵌装されて取付板33内面との気密を保持し,かつ,スプリング42を介して移動可動に取り付けられている。
【0012】本発明に係る上記構成の実施例は次のように動作する。電磁コイル36に所定の制御パルス電圧を印加することにより磁束が発生し,ステータヨーク37,37内に導かれる。これにより発生する磁界とロータ29の外周に環装されている永久磁石30間の電磁作用により,ロータ29がステップ回転させられる。したがって,このロータ29と一体の回転軸28も同時にステップ回転し,そのリードスクリュー28aのスクリューねじと螺合している雌形スクリューねじのある弁体移動手段25がステップ移動する。このため,弁体移動手段25の先端部25aとEリング26により固定されている保持板22aと共に,弁体22が左方向に移動し,弁座21に密着する。また,逆に,上記と反対の制御パルスでリードスクリュー28aを右方向に移動させることにより,スプリング24の付勢力に対抗して弁体22を移動させ,ガス通路を開放して双方向弁を復帰させることができる。
【0013】また,停電時などには,上述のように制御パルスを印加して双方向弁を作動させることができないから,外部操作手段40を,その溝140bにドライバ等の工具又は治具を当てて内部に押し込み,その突起140aを回転軸28の右端溝28bに係合し,回転軸28を回動することにより,弁体22を直接回転して双方向弁を作動させることができる。
【0014】さらに,この双方向弁を開放したとき,ロータ内部にガスの漏入があっても,薄板パイプ38とOリング39及びOリング41によって,モータ駆動双方向弁装置は気密が確保され,装置を通して流通路以外の外部へのガス漏洩が防止される。外部操作手段40のない第1の発明の場合は取付板33が一点鎖線で示されるように閉結されているから,この場合には,薄板パイプ38とOリング39によって,装置外へのガス漏洩が防止されるのである。
【0015】
【発明の効果】以上詳細に説明したように,本発明によれば,次に記載する効果を奏する。弁体移動手段はモータの外側に設け,モータのステータヨーク内周面を非磁性材の薄板パイプで覆うとともに,このパイプの幅方向の両端部をOリング等のシール材で装填し固定したので,静止部分でのシール構造が得られるようになり,弁体移動手段との摩擦を避けることが可能となったので,Oリングの劣化により負荷が増大するという従来シール構造の問題点が解消されるため,負荷の安定性を保持できるとともに,高い信頼性を実現できる。また,外部操作手段を設けることにより,停電時でも,工具等の使用により,手動で双方向弁の開閉が可能になる。」

・図1には,要部断面図が示されている。

・図1の図示内容と上記記載事項とから,次の事項が理解できる。
・・取付板23は,Oリング39に接する部分を有し,薄板パイプ38の円筒部外径より若干大きな内径の円筒状の段差部といえる部分が形成されていること。
・・取付板23は,流通路に取り付けられたモータの取付板であって,回り止め棒27を固定しており,軸受31が保持盤32を介して取り付けられていること等からすると,剛体性であること。
・・弾性体製のシール材としてのOリング39は,薄板パイプ38の両端部38aの外周と取付板23,33の段部の内周と接してシールしており,円周方向に密着・シールしているから,薄板パイプ38の円筒部外周と取付板23の段差部内周との間に円周方向に圧縮されて嵌装されていること。
・・ロータ29は,薄板パイプ38の内側にロータ回転手段34に対向して配設されていること。
・・弁体移動手段25と弁体22は,ロータ29と一体の回転軸28に配設されていること。
・・薄板パイプ38は,端部38aをOリング39と共に取付板23の段差部に挿入されていること。
・・保持盤32は,薄板パイプ38の端部38aに嵌装され中心に軸受31を配設していること。

これらの事項を総合すると,甲第1号証には,次の発明(以下,順に「甲1発明1」及び「甲1発明2」という。)が記載されていると認めることができる。

・「電磁コイル36とコイルボビン35を配置するロータ回転手段34と,前記ロータ回転手段34のステータヨーク37と接するように嵌装された黄銅などの非磁性材の薄板パイプ38と,流通路に取り付けられた前記薄板パイプ38の円筒部外径より若干大きな内径の円筒状の段差部を形成された剛体性の取付板23と,前記薄板パイプ38の円筒部外周と前記取付板23の段差部内周との間に円周方向に圧縮されて嵌装された弾性体製のシール材としてのOリング39と,前記薄板パイプ38の内側に前記ロータ回転手段34に対向して配設されたロータ29と,前記ロータ29と一体の回転軸28に配設された弁体移動手段25と弁体22とで構成され,
前記薄板パイプ38は,両端部38aを有し,前記端部38aを前記Oリング39と共に前記取付板23の段差部に挿入して構成したモータ駆動双方向弁装置。」

・「電磁コイル36とコイルボビン35を配置するロータ回転手段34と,前記ロータ回転手段34のステータヨーク37と接するように嵌装された黄銅などの非磁性材の薄板パイプ38と,流通路に取り付けられた前記薄板パイプ38の円筒部外径より若干大きな内径の円筒状の段差部を形成された剛体性の取付板23と,前記薄板パイプ38の円筒部外周と前記取付板23の段差部内周との間に円周方向に圧縮されて嵌装された弾性体製のシール材としてのOリング39と,前記薄板パイプ38の内側に前記ロータ回転手段34に対向して配設されたロータ29と,前記ロータ29と一体の回転軸28に配設された弁体移動手段25と弁体22とで構成され,
前記薄板パイプ38は,両端部38aを有し,前記端部38aを前記Oリング39と共に前記取付板23の段差部に挿入して構成したモータ駆動双方向弁装置であって,
前記薄板パイプ38の端部38aに嵌装され中心に軸受31を配設した軸受保持盤32を有する,モータ駆動双方向弁装置。」

(2)本件特許の出願前に頒布された特開平11-2352号公報(甲第2号証)には,「双方向流体弁モータのシールド構造」について,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,一般家庭のガス供給管路に設置されたガス緊急遮断装置その他の流体遮断装置に適用するに好適なステッピングモータ等の双方向流体弁モータのシールド構造に関し,さらに詳しくは,流体経路上に形成された弁座に対して弁体を移動(前進または後退)させることによって流体経路の開閉動作を行う弁機構に適用しうる双方向流体弁モータのシールド構造に関する。」

・「【0017】本発明が適用された双方向流体弁モータ1は,図1および図2に示すように,鍔付きカップ状のケーシング6を有しており,ケーシング6の外周にはステータ4が装着されている。このステータ4は2個のコイル状のマグネットワイヤ9を具備しており,各マグネットワイヤ9にはそれぞれ外ヨーク10および内ヨーク11が周設されている。また,ケーシング6の開口部には,自己潤滑性のある合成樹脂(例えば,ポリアセタール等)を一体成型したアウターブッシュ3が内接する形で嵌着されており,このアウターブッシュ3は本体31およびスタッド5から構成されている。すなわち,アウターブッシュ3は鍔付きカップ状の本体31を有しており,本体31の円形底面の中心から偏心した部位にはスタッド5が前方(図1左方)に突出する形で一体に形設されている。一方,ケーシング6内には,自己潤滑性のある合成樹脂(例えば,ポリアセタール等)からなるインナーブッシュ12が挿設されている。
【0018】また,アウターブッシュ3およびインナーブッシュ12にはリードスクリュー17がその先端をアウターブッシュ3より前方に突出させた状態で正逆方向に回転自在に支持されており,リードスクリュー17の先端には雄ネジ部17aが形成されている。リードスクリュー17には,マグネットコア15を樹脂13でモールドしたロータ16がステータ4の内側に対向する形で取り付けられており,ロータ16とアウターブッシュ3との間にはスラスト荷重用ころがり軸受としてスラスト玉軸受18が介挿されている。さらに,ロータ16とインナーブッシュ12との間には螺旋バネ30がその前後に位置する2枚のワッシャ22,23に挟まれた形で介挿されている。
【0019】また,アウターブッシュ3の外周には円盤状の段付きフランジ2が嵌合しているとともに,ケーシング6の外周には円環状の平板フランジ7が嵌合しており,これら段付きフランジ2および平板フランジ7は互いに固着されて,アウターブッシュ3の鍔部とケーシング6の鍔部を同時に挟み込んでいる。さらに,段付きフランジ2と平板フランジ7との間には,弾性のある合成樹脂からなる断面円形のシールドリング8が弾性シール部材として前後方向(図1左右方向)に押圧された状態で組み付けられている。
【0020】ところで,この双方向流体弁モータ1は次のようにして簡単に組み立てることができる。なお,この組立作業は軸方向が上下方向(鉛直方向)に一致するようにして行う。
【0021】まず,アウターブッシュ3内にスラスト玉軸受18を載置し,リードスクリュー17を取り付けたロータ16をリードスクリュー17の雄ネジ部17aがアウターブッシュ3より突出するようにスラスト玉軸受18に載置する。その後,ロータ16上にワッシャ22,螺旋バネ30,ワッシャ23を順に載置する。次いで,前記組立品を予めインナーブッシュ12を挿設しておいたケーシング6内に挿設し,ロータ組立品を完成させる。
【0022】一方,平板フランジ7を予め取り付けておいた外ヨーク10および他の外ヨーク10にそれぞれコイル組立品(マグネットワイヤ9とコイルボビンなどからなるもの)を挿設し,この挿設品に内ヨーク11を嵌着し,内ヨーク11同士が背中合わせになるように嵌着(溶接など)し,ステータ4を完成させる。
【0023】最後に,ステータ4にロータ組立品を装着し,ケーシング6の鍔部にシールドリング8を載置し,次に段付きフランジ2を載置し,平板フランジ7と段付きフランジ2を固定すれば,双方向流体弁モータ1が出来上がる。
【0024】このように,双方向流体弁モータ1はその構成部品を単一の方向(軸方向)に組み付けていくだけで組立が完了し,しかも,これをロータ16を中心としたロータ部組立作業とマグネットワイヤ9を中心としたステータ部組立作業とに分け,これらの組立作業を同時に並行して進めることにより,組立に要する時間を大幅に短縮できることから,双方向流体弁モータ1の生産効率を高めることができるとともに,その組立精度ひいては品質を改善することが可能となる。
【0025】本発明が適用された双方向流体弁モータ1は以上のような構成を有するので,この双方向流体弁モータ1をガス緊急遮断装置などの流体遮断装置に適用するには次の手順による。
【0026】まず,図1に示すように,双方向流体弁モータ1に弁体25を螺着し,これを流体遮断装置の筺体27の所定位置に取り付ける。すると弁体25は,筺体27に形成された弁座26に対して所定の間隔をおいて対向するように位置決めされる。そして,正常時においては弁座26と弁体25との隙間を通ってガス等の流体が供給される。この際,段付きフランジ2と平板フランジ7との間にはシールドリング8が設けられているので,流体シールド性は高く,流体が段付きフランジ2と平板フランジ7との隙間を通って外部に漏出してしまうことはない。
【0027】ところで,地震発生時などの異常時に流体を緊急遮断する際には,ステータ4の各マグネットワイヤ9に通電してロータ16を正回転させる。すると,ロータ16に同期してリードスクリュー17が正方向に回転し,その回転力が弁体25に伝達されるが,弁体25はスタッド5によって回転を拘束されているので,軸方向に沿ってリードスクリュー17から離れる方向(図1左向き),すなわち弁座26側に前進する。そして,弁体25が弁座26に当接したところで,流体経路が閉塞されて流体が遮断される。さらにロータ16を正回転させると,弁体25が弁座26に当接しているので,弁体25は固定されたままでリードスクリュー17およびロータ16が後退し,螺旋バネ30が縮む。その結果,螺旋バネ30がロータ16およびリードスクリュー17を介して弁体25を弁座26側に弾性的に押圧する。
【0028】ここで,流体遮断装置の使用期間の大半を占める正常時には,弁体25を弁座26側に押圧する螺旋バネ30は自然長に近い状態であり,螺旋バネ30の弾性力が経時的に低下することはほとんどなく,また異常時に流体を遮断したときには,ロータ16が後退するほど螺旋バネ30の弾性力が強大になり,弁体25は弁座26に強く圧接された状態となるので,信頼性の高い遮断を実現することが可能となる。
【0029】また,こうして閉塞された流体経路を開放して流体の供給を再開する際には,ステータ4の各マグネットワイヤ9に通電してロータ16を逆回転させる。すると,ロータ16に同期してリードスクリュー17が逆方向に回転し,その回転力が弁体25に伝達されるが,弁体25はスタッド5によって回転を拘束されているので,軸方向に沿って弁座26から離れる方向(図1右向き),すなわちリードスクリュー17側に後退する。その結果,弁座26と弁体25との間に隙間ができ,再度この隙間を通って流体が供給されるようになる。
【0030】この際,ロータ16とアウターブッシュ3との間にはスラスト玉軸受18が介挿されているので,ロータ16とアウターブッシュ3との間で発生する軸方向の荷重をスラスト玉軸受18によってころがりで受け,トルク損失を大幅に軽減することができる。その結果,双方向流体弁モータ1の出力トルクを弁体25の後退動作に効率よく変換できることから,たとえ弁体25が弁座26に貼り付いていても弁体25を円滑に後退させることが可能となり,復元不能になる事態を回避することができる。
【0031】また,アウターブッシュ3のスタッド5は本体31と一体に形設されているので,リードスクリュー17とスタッド5とは位置度が高く,リードスクリュー17の回転軸に対してスタッド5が位置ずれを生じることはない。その結果,リードスクリュー17の回転運動を弁体25の直線運動に支障なく変換することができ,従って流体経路の開閉動作を支障なく実施することが可能となる。」

・図1には,双方向流体弁モータの断面図が示されている。

これらの事項及び図示内容を総合すると,甲第2号証には,次の事項(以下,「甲2記載事項」という。)が記載されていると認めることができる。

・「モータ駆動双方向弁装置において,ロータ16を流体シールする,1つの部品で構成された鍔付きカップ状のケーシング6を用い,ケーシング6の鍔部にシールドリング8を載置し,次に段付きフランジ2を載置し,平板フランジ7と段付きフランジ2を固定することで,段付きフランジ2および平板フランジ7は互いに固着され,段付きフランジ2と平板フランジ7との間にはシールドリング8が設けられてアウターブッシュ3の鍔部とケーシング6の鍔部を同時に挟み込んでいること。」

(3)本件特許の出願前に頒布された特開平11-2351号公報(甲第3号証)には,「双方向流体弁モータおよびその製造方法」について,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,一般家庭のガス供給管路に設置されたガス緊急遮断装置その他の流体遮断装置に適用するに好適なステッピングモータ等の双方向流体弁モータおよびその製造方法に関し,さらに詳しくは,流体経路上に形成された弁座に対して弁体を移動(前進または後退)させることによって流体経路の開閉動作を行う弁機構に適用しうる双方向流体弁モータと,その双方向流体弁モータの製造方法に関する。」

・「【0019】本発明が適用された双方向流体弁モータ1は,図1および図2に示すように,鍔付きカップ状のケーシング6を有しており,ケーシング6の外周にはステータ4が装着されている。このステータ4は2個のコイル状のマグネットワイヤ9を具備しており,各マグネットワイヤ9にはそれぞれ外ヨーク10および内ヨーク11が周設されている。また,ケーシング6の開口部には,自己潤滑性のある合成樹脂(例えば,ポリアセタール等)を一体成型したアウターブッシュ3が内接する形で嵌着されており,このアウターブッシュ3は本体31およびスタッド5から構成されている。すなわち,アウターブッシュ3は鍔付きカップ状の本体31を有しており,本体31の円形底面の中心から偏心した部位にはスタッド5が前方(図1左方)に突出する形で一体に形設されている。一方,ケーシング6内には,自己潤滑性のある合成樹脂(例えば,ポリアセタール等)からなるインナーブッシュ12が挿設されている。
【0020】また,アウターブッシュ3およびインナーブッシュ12にはリードスクリュー17がその先端をアウターブッシュ3より前方に突出させた状態で正逆方向に回転自在に支持されており,リードスクリュー17の先端には雄ネジ部17aが形成されている。リードスクリュー17には,マグネットコア15を樹脂13でモールドしたロータ16がステータ4の内側に対向する形で取り付けられており,ロータ16とアウターブッシュ3との間にはスラスト荷重用ころがり軸受としてスラスト玉軸受18が介挿されている。さらに,ロータ16とインナーブッシュ12との間には螺旋バネ30がその前後に位置する2枚のワッシャ22,23に挟まれた形で介挿されている。
【0021】また,アウターブッシュ3の外周には円盤状の段付きフランジ2が嵌合しているとともに,ケーシング6の外周には円環状の平板フランジ7が嵌合しており,これら段付きフランジ2および平板フランジ7は互いに固着されて,アウターブッシュ3の鍔部とケーシング6の鍔部を同時に挟み込んでいる。さらに,段付きフランジ2と平板フランジ7との間には,弾性のある合成樹脂からなる断面円形のシールドリング8が弾性シール部材として前後方向(図1左右方向)に押圧された状態で組み付けられている。
【0022】ところで,この双方向流体弁モータ1は次のようにして簡単に組み立てることができる。なお,この組立作業は軸方向が上下方向(鉛直方向)に一致するようにして行う。
【0023】まず,アウターブッシュ3内にスラスト玉軸受18を載置し,リードスクリュー17を取り付けたロータ16をリードスクリュー17の雄ネジ部17aがアウターブッシュ3より突出するようにスラスト玉軸受18に載置する。その後,ロータ16上にワッシャ22,螺旋バネ30,ワッシャ23を順に載置する。次いで,前記組立品を予めインナーブッシュ12を挿設しておいたケーシング6内に挿設し,ロータ組立品を完成させる。
【0024】一方,平板フランジ7を予め取り付けておいた外ヨーク10および他の外ヨーク10にそれぞれコイル組立品(マグネットワイヤ9とコイルボビンなどからなるもの)を挿設し,この挿設品に内ヨーク11を嵌着し,内ヨーク11同士が背中合わせになるように嵌着(溶接など)し,ステータ4を完成させる。
【0025】最後に,ステータ4にロータ組立品を装着し,ケーシング6の鍔部にシールドリング8を載置し,次に段付きフランジ2を載置し,平板フランジ7と段付きフランジ2を固定すれば,双方向流体弁モータ1が出来上がる。
【0026】このように,双方向流体弁モータ1はその構成部品を単一の方向(軸方向)に組み付けていくだけで組立が完了し,しかも,これをロータ16を中心としたロータ部組立作業とマグネットワイヤ9を中心としたステータ部組立作業とに分け,これらの組立作業を同時に並行して進めることにより,組立に要する時間を大幅に短縮できることから,双方向流体弁モータ1の生産効率を高めることができるとともに,その組立精度ひいては品質を改善することが可能となる。
【0027】本発明が適用された双方向流体弁モータ1は以上のような構成を有するので,この双方向流体弁モータ1をガス緊急遮断装置などの流体遮断装置に適用するには次の手順による。
【0028】まず,図1に示すように,双方向流体弁モータ1に弁体25を螺着し,これを流体遮断装置の筺体27の所定位置に取り付ける。すると弁体25は,筺体27に形成された弁座26に対して所定の間隔をおいて対向するように位置決めされる。そして,正常時においては弁座26と弁体25との隙間を通ってガス等の流体が供給される。この際,段付きフランジ2と平板フランジ7との間にはシールドリング8が設けられているので,流体シールド性は高く,流体が段付きフランジ2と平板フランジ7との隙間を通って外部に漏出してしまうことはない。
【0029】ところで,地震発生時などの異常時に流体を緊急遮断する際には,ステータ4の各マグネットワイヤ9に通電してロータ16を正回転させる。すると,ロータ16に同期してリードスクリュー17が正方向に回転し,その回転力が弁体25に伝達されるが,弁体25はスタッド5によって回転を拘束されているので,軸方向に沿ってリードスクリュー17から離れる方向(図1左向き),すなわち弁座26側に前進する。そして,弁体25が弁座26に当接したところで,流体経路が閉塞されて流体が遮断される。さらにロータ16を正回転させると,弁体25が弁座26に当接しているので,弁体25は固定されたままでリードスクリュー17およびロータ16が後退し,螺旋バネ30が縮む。その結果,螺旋バネ30がロータ16およびリードスクリュー17を介して弁体25を弁座26側に弾性的に押圧する。
【0030】ここで,流体遮断装置の使用期間の大半を占める正常時には,弁体25を弁座26側に押圧する螺旋バネ30は自然長に近い状態であり,螺旋バネ30の弾性力が経時的に低下することはほとんどなく,また異常時に流体を遮断したときには,ロータ16が後退するほど螺旋バネ30の弾性力が強大になり,弁体25は弁座26に強く圧接された状態となるので,信頼性の高い遮断を実現することが可能となる。
【0031】また,こうして閉塞された流体経路を開放して流体の供給を再開する際には,ステータ4の各マグネットワイヤ9に通電してロータ16を逆回転させる。すると,ロータ16に同期してリードスクリュー17が逆方向に回転し,その回転力が弁体25に伝達されるが,弁体25はスタッド5によって回転を拘束されているので,軸方向に沿って弁座26から離れる方向(図1右向き),すなわちリードスクリュー17側に後退する。その結果,弁座26と弁体25との間に隙間ができ,再度この隙間を通って流体が供給されるようになる。
【0032】この際,ロータ16とアウターブッシュ3との間にはスラスト玉軸受18が介挿されているので,ロータ16とアウターブッシュ3との間で発生する軸方向の荷重をスラスト玉軸受18によってころがりで受け,トルク損失を大幅に軽減することができる。その結果,双方向流体弁モータ1の出力トルクを弁体25の後退動作に効率よく変換できることから,たとえ弁体25が弁座26に貼り付いていても弁体25を円滑に後退させることが可能となり,復元不能になる事態を回避することができる。
【0033】また,アウターブッシュ3のスタッド5は本体31と一体に形設されているので,リードスクリュー17とスタッド5とは位置度が高く,リードスクリュー17の回転軸に対してスタッド5が位置ずれを生じることはない。その結果,リードスクリュー17の回転運動を弁体25の直線運動に支障なく変換することができ,従って流体経路の開閉動作を支障なく実施することが可能となる。」

・図1には,双方向流体弁モータの断面図が示されている。

これらの事項及び図示内容を総合すると,甲第3号証には,次の事項(以下,「甲3記載事項」という。)が記載されていると認めることができる。

・「モータ駆動双方向弁装置において,ロータ16を流体シールする,1つの部品で構成された鍔付きカップ状のケーシング6を用い,ケーシング6の鍔部にシールドリング8を載置し,次に段付きフランジ2を載置し,平板フランジ7と段付きフランジ2を固定することで,段付きフランジ2および平板フランジ7は互いに固着され,段付きフランジ2と平板フランジ7との間にはシールドリング8が設けられてアウターブッシュ3の鍔部とケーシング6の鍔部を同時に挟み込んでいること。」

(4)本件特許の出願前に頒布された特開平11-2353号公報(甲第4号証)には,「双方向流体弁モータ用アウターブッシュ」について,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,一般家庭のガス供給管路に設置されたガス緊急遮断装置その他の流体遮断装置に適用するに好適なステッピングモータ等の双方向流体弁モータに用いられるアウターブッシュに関し,さらに詳しくは,流体経路上に形成された弁座に対して弁体を移動(前進または後退)させることによって流体経路の開閉動作を行う弁機構に適用しうる双方向流体弁モータに用いられるアウターブッシュに関する。」

・「【0015】本発明が適用された双方向流体弁モータ1は,図1および図2に示すように,鍔付きカップ状のケーシング6を有しており,ケーシング6の外周にはステータ4が装着されている。このステータ4は2個のコイル状のマグネットワイヤ9を具備しており,各マグネットワイヤ9にはそれぞれ外ヨーク10および内ヨーク11が周設されている。また,ケーシング6の開口部には,自己潤滑性のある合成樹脂(例えば,ポリアセタール等)を一体成型したアウターブッシュ3が内接する形で嵌着されており,このアウターブッシュ3は本体31およびスタッド5から構成されている。すなわち,アウターブッシュ3は鍔付きカップ状の本体31を有しており,本体31の円形底面の中心から偏心した部位にはスタッド5が前方(図1左方)に突出する形で一体に形設されている。一方,ケーシング6内には,自己潤滑性のある合成樹脂(例えば,ポリアセタール等)からなるインナーブッシュ12が挿設されている。
【0016】また,アウターブッシュ3およびインナーブッシュ12にはリードスクリュー17がその先端をアウターブッシュ3より前方に突出させた状態で正逆方向に回転自在に支持されており,リードスクリュー17の先端には雄ネジ部17aが形成されている。リードスクリュー17には,マグネットコア15を樹脂13でモールドしたロータ16がステータ4の内側に対向する形で取り付けられており,ロータ16とアウターブッシュ3との間にはスラスト荷重用ころがり軸受としてスラスト玉軸受18が介挿されている。さらに,ロータ16とインナーブッシュ12との間には螺旋バネ30がその前後に位置する2枚のワッシャ22,23に挟まれた形で介挿されている。
【0017】また,アウターブッシュ3の外周には円盤状の段付きフランジ2が嵌合しているとともに,ケーシング6の外周には円環状の平板フランジ7が嵌合しており,これら段付きフランジ2および平板フランジ7は互いに固着されて,アウターブッシュ3の鍔部とケーシング6の鍔部を同時に挟み込んでいる。さらに,段付きフランジ2と平板フランジ7との間には,弾性のある合成樹脂からなる断面円形のシールドリング8が弾性シール部材として前後方向(図1左右方向)に押圧された状態で組み付けられている。
【0018】ところで,この双方向流体弁モータ1は次のようにして簡単に組み立てることができる。なお,この組立作業は軸方向が上下方向(鉛直方向)に一致するようにして行う。
【0019】まず,アウターブッシュ3内にスラスト玉軸受18を載置し,リードスクリュー17を取り付けたロータ16をリードスクリュー17の雄ネジ部17aがアウターブッシュ3より突出するようにスラスト玉軸受18に載置する。その後,ロータ16上にワッシャ22,螺旋バネ30,ワッシャ23を順に載置する。次いで,前記組立品を予めインナーブッシュ12を挿設しておいたケーシング6内に挿設し,ロータ組立品を完成させる。
【0020】一方,平板フランジ7を予め取り付けておいた外ヨーク10および他の外ヨーク10にそれぞれコイル組立品(マグネットワイヤ9とコイルボビンなどからなるもの)を挿設し,この挿設品に内ヨーク11を嵌着し,内ヨーク11同士が背中合わせになるように嵌着(溶接など)し,ステータ4を完成させる。
【0021】最後に,ステータ4にロータ組立品を装着し,ケーシング6の鍔部にシールドリング8を載置し,次に段付きフランジ2を載置し,平板フランジ7と段付きフランジ2を固定すれば,双方向流体弁モータ1が出来上がる。
【0022】このように,双方向流体弁モータ1はその構成部品を単一の方向(軸方向)に組み付けていくだけで組立が完了し,しかも,これをロータ16を中心としたロータ部組立作業とマグネットワイヤ9を中心としたステータ部組立作業とに分け,これらの組立作業を同時に並行して進めることにより,組立に要する時間を大幅に短縮できることから,双方向流体弁モータ1の生産効率を高めることができるとともに,その組立精度ひいては品質を改善することが可能となる。
【0023】本発明が適用された双方向流体弁モータ1は以上のような構成を有するので,この双方向流体弁モータ1をガス緊急遮断装置などの流体遮断装置に適用するには次の手順による。
【0024】まず,図1に示すように,双方向流体弁モータ1に弁体25を螺着し,これを流体遮断装置の筺体27の所定位置に取り付ける。すると弁体25は,筺体27に形成された弁座26に対して所定の間隔をおいて対向するように位置決めされる。そして,正常時においては弁座26と弁体25との隙間を通ってガス等の流体が供給される。この際,段付きフランジ2と平板フランジ7との間にはシールドリング8が設けられているので,流体シールド性は高く,流体が段付きフランジ2と平板フランジ7との隙間を通って外部に漏出してしまうことはない。
【0025】ところで,地震発生時などの異常時に流体を緊急遮断する際には,ステータ4の各マグネットワイヤ9に通電してロータ16を正回転させる。すると,ロータ16に同期してリードスクリュー17が正方向に回転し,その回転力が弁体25に伝達されるが,弁体25はスタッド5によって回転を拘束されているので,軸方向に沿ってリードスクリュー17から離れる方向(図1左向き),すなわち弁座26側に前進する。そして,弁体25が弁座26に当接したところで,流体経路が閉塞されて流体が遮断される。さらにロータ16を正回転させると,弁体25が弁座26に当接しているので,弁体25は固定されたままでリードスクリュー17およびロータ16が後退し,螺旋バネ30が縮む。その結果,螺旋バネ30がロータ16およびリードスクリュー17を介して弁体25を弁座26側に弾性的に押圧する。
【0026】ここで,流体遮断装置の使用期間の大半を占める正常時には,弁体25を弁座26側に押圧する螺旋バネ30は自然長に近い状態であり,螺旋バネ30の弾性力が経時的に低下することはほとんどなく,また異常時に流体を遮断したときには,ロータ16が後退するほど螺旋バネ30の弾性力が強大になり,弁体25は弁座26に強く圧接された状態となるので,信頼性の高い遮断を実現することが可能となる。
【0027】また,こうして閉塞された流体経路を開放して流体の供給を再開する際には,ステータ4の各マグネットワイヤ9に通電してロータ16を逆回転させる。すると,ロータ16に同期してリードスクリュー17が逆方向に回転し,その回転力が弁体25に伝達されるが,弁体25はスタッド5によって回転を拘束されているので,軸方向に沿って弁座26から離れる方向(図1右向き),すなわちリードスクリュー17側に後退する。その結果,弁座26と弁体25との間に隙間ができ,再度この隙間を通って流体が供給されるようになる。
【0028】この際,ロータ16とアウターブッシュ3との間にはスラスト玉軸受18が介挿されているので,ロータ16とアウターブッシュ3との間で発生する軸方向の荷重をスラスト玉軸受18によってころがりで受け,トルク損失を大幅に軽減することができる。その結果,双方向流体弁モータ1の出力トルクを弁体25の後退動作に効率よく変換できることから,たとえ弁体25が弁座26に貼り付いていても弁体25を円滑に後退させることが可能となり,復元不能になる事態を回避することができる。
【0029】また,アウターブッシュ3のスタッド5は本体31と一体に形設されているので,リードスクリュー17とスタッド5とは位置度が高まり,リードスクリュー17の回転軸に対してスタッド5が位置ずれを生じることはない。その結果,リードスクリュー17の回転運動を弁体25の直線運動に支障なく変換することができ,従って流体経路の開閉動作を支障なく実施することが可能となる。」

・図1には,双方向流体弁モータの断面図が示されている。

これらの事項及び図示内容を総合すると,甲第4号証には,次の事項(以下,「甲4記載事項」という。)が記載されていると認めることができる。

・「モータ駆動双方向弁装置において,ロータ16を流体シールする,1つの部品で構成された鍔付きカップ状のケーシング6を用い,ケーシング6の鍔部にシールドリング8を載置し,次に段付きフランジ2を載置し,平板フランジ7と段付きフランジ2を固定することで,段付きフランジ2および平板フランジ7は互いに固着され,段付きフランジ2と平板フランジ7との間にはシールドリング8が設けられてアウターブッシュ3の鍔部とケーシング6の鍔部を同時に挟み込んでいること。」

(5)本件特許の出願前に頒布された特開平10-38126号公報(甲第5号証)には,「電磁弁」について,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,電気的にバルブの開閉を行う電磁弁に関する。」

・「【0009】電磁弁1は,通電を受けて磁力を発生するコイル2を備える。このコイル2は,樹脂製ベース3によって形成されたコイルボビン3aの周囲に巻回されたもので,コイル2の端部は,ベース3に固定されたターミナル4に接続されている。なお,ターミナル4の周囲には,ターミナル4接続用の樹脂製コネクタ部5が設けられている。また,ベース3には,油圧の供給を受けるインポート3b,このインポート3bに同軸的に設けられた弁座3c,インポート3bおよび弁座3cに対して垂直方向に設けられた流出用のアウトポート3dが設けられてる。
【0010】電磁弁1は,コイル2の発生した磁力によって磁気回路の一部を構成する磁性体金属製のプレート6およびヨーク7を備える。プレート6は,ベース3内にモールド固定されたもので,コイル2の内側に配置されるプレート内周部6aの内側に,円筒状の弁体用スリーブ8が圧入されている。
【0011】この弁体用スリーブ8は,その内側において,弁体9を軸方向に摺動自在に支持するものである。なお,弁体用スリーブ8も磁性体金属製で,プレート6に磁気的に結合して磁気回路の一部を構成している。弁体9は,ステンレスなどの非磁性体金属製で,弁体用スリーブ8によって弁座3cに対して同軸的に配置される。この弁体9は,略棒状を呈し,その両端はそれぞれ略球状に設けられており,その一端は弁座3cに当接して弁座3cを閉塞可能に設けられている。
【0012】ヨーク7は,コイルボビン3aの後方(図右側)から取り付けられるもので,コイルボビン3aの内側に挿入されるヨーク内周部7aと,コイルボビン3aの外側を覆う外周部7bとを備え,この外周部7bの前端(図左側の端)が内側にカシメられて固定されている。
【0013】ヨーク内周部7aの内側には,ステンレスなどの非磁性体金属製の薄板をプレス形成した略カップ状を呈した可動子保持スリーブ10が組み付けられている。この可動子保持スリーブ10は,弁座3cおよび弁体9に対して同軸に配置される略円柱状の可動子11を軸方向に案内するもので,可動子11の周囲を覆って可動子11を軸方向に摺動自在に支持する筒部10aと,弁体9とは異なった側(後端側)の可動子11の移動範囲を規制する規制部10bとを備える。
【0014】また,可動子保持スリーブ10の弁体9側の端(前端)には,軸方向に弾性変形可能な弾性変形部10cが一体に設けられている。この弾性変形部10cは,プレート内周部6a(他の部材に相当する)の先端部6a’に当接し,弾性変形した状態で固定されるもので,断面が略S字状の凹凸形状に設けられている。この凹凸形状に設けられた弾性変形部10cの根元部10c’が,ヨーク内周部7aの先端部7a’によってプレート6(他の部材に相当する)に向けて押し付けられており,これによって,弾性変形部10cが弾性変形した状態で固定される。
【0015】可動子11は,可動子保持スリーブ10によって,弁体9と同軸的にコイル2内に保持されたもので,コイル2が通電を受けて磁力を発生すると,弁体用スリーブ8に吸引されて,プレート6,ヨーク7,弁体用スリーブ8とともに閉じた磁気回路を構成する。なお,可動子11が弁体用スリーブ8に吸引されると,弁体9を弁座3cに押し付けて弁座3cを閉じる。
【0016】〔電磁弁1の作動〕次に,電磁弁1の無通電時および通電時の作動を説明する。
(無通電時)ターミナル4に電源の供給が無い場合,コイル2は磁力を発生せず,弁体9は可動子11とともに摺動自在な状態にある。このため,インポート3bから供給される油圧によって,弁体9が弁座3cから離れ,インポート3bに供給されるオイルは,弁座3cを介してアウトポート3dへ流出する。
【0017】(通電時)ターミナル4に電源が供給されるとコイル2が磁力を発生し,可動子11が吸引され供給油圧の付勢力に打ち勝って弁体9を弁座3cに押し付ける。このため,弁座3cが閉塞し,インポート3bからアウトポート3dへのオイルの流出が遮断される。
【0018】〔電磁弁1の製造工程〕次に,上記構成の電磁弁1の組付け順序を説明する。
1)プレート6を樹脂モールド製のベース3にインサート成形する。
2)コイルボビン3aにコイル2を巻回した後,所定形状に曲げ加工したターミナル4をベース3に圧入し,コイル2の先端末をフュージング固定する。なお,この工程に代えて,真っ直ぐなターミナル4をベース3に圧入した後,コイルボビン3aにコイル2を巻回し,ターミナル4を所定形状に曲げ加工し,その後にコイル2の先端末をフュージング固定しても良い。
【0019】3)コネクタ部5を樹脂モールド成形する。
4)プレート内周部6aの内側に弁体用スリーブ8を圧入する。この時,弁体用スリーブ8がベース3に当接する位置まで圧入する。
5)弁体用スリーブ8の内側に弁体9を挿入する。
6)可動子保持スリーブ10内に可動子11を挿入し,これをコイルボビン3aの内側に挿入する。
7)最後に,コイルボビン3aと可動子保持スリーブ10の間に,ヨーク内周部7aが挿入されるように,ヨーク7を組付け,ヨーク7の前端をプレート6側にカシメて固定する。この時,弾性変形部10cがプレート6とヨーク7との間で弾性変形して,軸方向の寸法誤差を吸収する。
【0020】〔実施例の効果〕本実施例の電磁弁1は,上記の製造工程で示したように,可動子保持スリーブ10の端部に一体に設けられた弾性変形部10cが,従来のウエーブワッシャのように作用して,可動子保持スリーブ10が電磁弁1に固定される。つまり,可動子保持スリーブ10は,溶接等の接合工程や,ウエーブワッシャ等の特別な固定部材を用いることなく,電磁弁1に固定される。このように,従来に比較して,工程数の低減,あるいは部品点数の減少により,電磁弁1の組付が容易となるとともに,電磁弁1の製造コストを低く抑えることができる。
【0021】また,弾性変形部10cを断面凹凸形状に設け,その先端をプレート6の先端部6a’に当接させて保持させることで,プレート6と可動子保持プレート10の間に生じる軸方向の寸法誤差を,弾性変形部10cの変形量によって吸収できる。さらに,弾性変形部10cの先端をプレート6の先端部6a’に当接させることで,磁気回路を従来構造に対して変更することなく,可動子保持スリーブ10を形成できる。」

・図1には,電磁弁1の断面図が示されている。

これらの事項及び図示内容を総合すると,甲第5号証には,次の事項(以下,「甲5記載事項」という。)が記載されていると認めることができる。

・「電磁弁において,可動子保持スリーブ10のプレートの先端部6’と当接する部分に,断面略S字状の凹凸形状に設けられ,軸方向に弾性変形可能な弾性変形部10cを一体に設けることにより,軸方向の寸法誤差を吸収すること。」

(6)本件特許の出願前に頒布された特開平11-295174号公報(甲第7号証)には,「圧力センサ」について,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0011】
【発明の実施の形態】以下,本発明の第1の実施の形態にかかる圧力センサの構成を図を用いて説明する。本発明にかかる圧力センサの第1の実施の形態について,図1を用いて説明する。図1は圧力センサの構成を示す縦断面図である。
【0012】本発明の第1の実施の態様にかかる圧力センサ1は,ハウジング10と,センサエレメント20と,圧力ケース30と,コネクタケース40と,回路基板50と,ターミナルホルダ70等から構成されている。ハウジング10と,圧力ケース30およびコネクタケース40からなる容器内に,センサエレメント20,回路基板50,回路基板保持部材60,リード52,ターミナルホルダ70,Oリング49等が収納されている。
【0013】ハウジング10は,センサエレメント20,回路基板50,圧力ケース30等を組み込む円筒形状の金属製のケースとして構成され,測定する流体を内部に導入する流体導入孔11と,内部空間の底部13と,該底部に開口した流体導入孔11の周辺に設けた環状の突起12と,内部空間の上方に設けた平坦な上面を有する段部14と,周辺上縁に設けた肉薄の立上部15とを有している。」

・「【0020】圧力ケース30は,鉄もしくはステンレス鋼から形成され,ハウジングなどによって構成される内部空間に配置されたセンサエレメント20を外部ノイズから保護するシールド部としての働きと,気密な内部空間を形成する部材としての働きを有している。圧力ケース30は,円板状の底部31と,その周辺から立ち下がる周壁32と,周壁32の先端部を外側に折り曲げたつば部33と,リード引出部を構成する立上部34とを有している。この形状の圧力ケース30には内部に空間35が形成される。さらに,立上部34は中心にリード36が配置されガラス37によって封止されたハーメチックシールを形成している。」

・「【0022】コネクタケース40は,ターミナル71を差し込み固定する樹脂製ケースであり,上部に設けたソケット部41と,下方にたれ下がった周壁42と,周壁42の外側下方に設けた肩部43と,周壁の下端の平坦面44と,ソケット部41の下方に設けたターミナルホルダ用空間45と,ターミナル71を挿通するためのターミナル貫通孔46を有し,空間45内に圧力ケース30の底部と共同してターミナルホルダ70を保持している。このコネクタケース40は,その形状を変更することによって,種々の異なる形状のコネクタに対応することができる。」

・「【0026】シリコンゴムなどからなるOリング49は,外部からの水や湿気等の浸入を防ぐものであり,圧力ケース30のつば部33の上面ととおよびコネクタケース40の平坦面44との間に設けられている。」

・「【0028】次に,リード52を,圧力ケース30のハーメチックシール部のリード36に位置合わせして接続固定し,圧力ケース30のつば部33をハウジング10の段部14の平坦面に載置した後,例えば,電子ビーム溶接によって,つば部33と段部14の平坦面を溶接する。この溶接は高度の真空中で行われるので,内部空間35は真空に保たれる。
【0029】次いで,圧力ケース30上にターミナルホルダ70を配置し,リード36の先端をターミナル71の開口に挿入した後,両者を半田付けする。その後,Oリング49を圧力ケース30のつば部33上に配置し,その上にコネクタケースのターミナル貫通孔46にターミナル71を通してコネクタケース40を載置し,かしめ受部43側へハウジング10の立上部15の上端をかしめてハウジング10とコネクタケース40を固定する。このかしめ部16の境界に接着剤を塗布して確実な固定とする。」

・「【0040】図6を用いて本発明の第3の実施の形態を説明する。この実施の形態は,第2の実施の形態に比較して,以下の点に特徴を有している。
電子回路基板50のほかに第2の電子回路基板55を設け,この基板55上に基板50から送られてきた電気信号を,PWM信号として出力する信号変換回路を配置した点。
圧力ケース30とハウジング10との固着を,圧力ケースのつば部33の平面とハウジング10の段部14に設けた環状突起12’を用いてプロジェクション溶接するようにした点。
ターミナルホルダ70を省略してターミナル71をコネクタケース40の貫通孔46に直接埋め込んで保持した点。
ターミナル71の下端部と,電子回路基板50に設けたリード52の貫通コンデンサを通過して圧力ケース30上に突出した上端部とを,表面にプリント配線を設けたフレキシブルプリント配線基板76を用いて接続するとともに該フレキシブルプリント配線基板76には基板55から得られるPWM信号を処理する回路が設けられ,リード52の先端とフレキシブルプリント配線基板76の配線および該配線とターミナル71の下端部とを半田付けした点。
ハウジング10と圧力ケース30の組立体にコネクタケース40を,下端部を内側に折れ曲げたハウジング支持部66を有する円筒状のかしめ部材65を用いてかしめ固着した点。」

・「【0042】以下,図7を用いて本発明の第4の実施の形態を説明する。図7は第4の実施の形態にかかる圧力センサの構成を示す縦断面図である。この実施の形態は,参照内部空間35を,ハウジング10を利用せずに形成した点,および,ハーメチックシールの形状を他の実施の形態に示した形状と異ならせた点に特徴を有している。」

・「【0048】圧力ケース30自体は,図1に示した第1の実施の形態の圧力ケース30と同様に形成されている。しかしながら,内部空間35は,圧力ケース30およびセンサエレメント支持底板37とを溶接することによって形成される。圧力ケース30は,円板状の底部31と,その周辺から立ち下がる周壁32と,周壁32の先端部を外側に折り曲げたつば部33と,リード引出部を構成する立上り部64とを有している。この形状の圧力ケース30には内部に空間35が形成される。さらに,立上り部34には,内管状部材341とつば部を有する外管状部材342の間をガラス37によって封止されたハーメチックシールが嵌め込まれ,外周と立上り部34とをはんだによって気密に封止している。さらに,内管状部材342の貫通穴にはリード52が挿通され,リード52と貫通穴の内壁との間に半田39を流し込んで気密に封止している。」

・「【0052】この後,立上り部34にハーメチックシール部を取り付けた圧力ケース30を,前記リード52に位置が合うようにセンサエレメント支持底板37上に配置し,つば部33と底板37の周辺に設けた平坦面に溶接して圧力センサ本体を組み立てる。この溶接は,電子ビーム溶接,プロジェクション溶接など任意の溶接方法を採用することができる。このようにして得た圧力センサ本体は,ヘッダ21とセンサエレメント支持底板37の管状突起12”との溶接部分を引き剥がす力が働かないので,異なる材質の溶接であっても溶接部分が剥がれることがなくなり,信頼性の高い気密構造を得ることができる。
【0053】次いで,Oリング収容溝212にOリング49bを嵌めた圧力センサ本体の垂下部211を,ハウジング10の流体導入穴11に挿入して位置決めし,圧力センサ本体の上にコネクタケース40をOリング49aを介して載置した後,ハウジング10の立上部15の上端をかしめてハウジング10とコネクタケース40を一体化して圧力センサを組み立てる。」

・図1,6及び7には,圧力センサの構造を示す縦断面図が示されている。

これらの事項及び図示内容を総合すると,甲第7号証には,次の事項(以下,「甲7記載事項」という。)が記載されていると認めることができる。

・「なべ状の圧力ケース30の周壁32の先端部を外側に折り曲げたつば部33を有し,つば部33のハウジング10側を溶接し,つば部33とコネクタケース40の段状部の間でOリング49,49aが押圧された状態で,かしめによりハウジング10の段状部に圧力ケース30の周壁32の先端部を固定すること。」

(7)本件特許の出願前に頒布された特開平8-183418号公報(甲第8号証)には,「エアバッグ用ガス発生器」について,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0015】図2は,図1に示す本ガス発生器の要部拡大断面図である。前記ハウジング2は,ハウジングの外側に開放された点火手段取付用の孔部9を有している。この孔部9は,Oリング11配設のための段部10を有している。またこの孔部9は,後述する筒状部材12の外径よりも僅かに大きな内径を有する小径部13と,スクイブ・エンハンサ14のカラー15が係止する係止部16と,この係止部16に係止されるカラー15を介してスクイブ・エンハンサ14を孔部9に固定するかしめ部17とを有している。係止部16は,筒状部材12と段部10の間でOリング11が弾縮されるような位置に形成される。Oリングは,耐熱性を有することが好ましく,本実施例ではニトリルゴムより構成されたものを使用した。」

・「【0017】またスクイブ・エンハンサ14は,一端が閉鎖され他端が開放された筒状部材12を具備している。この筒状部材12は,前記スクイブ・エンハンサ14が嵌入するとき,スクイブ・エンハンサのカラー15が係止するフランジ19をその開放端に備えている。筒状部材は,耐食性のある薄肉の金属,好ましくはアルミニウム,ステンレス鋼などからプレス加工によって成形することができる。筒状部材の肉厚は,0.1?2mmの間で選ばれる。フランジ19は,スクイブ・エンハンサ14が筒状部材12内に嵌入するとき,スクイブ・エンハンサ14の先端面と筒状部材12の天井面との間に所定の空間が形成されるような位置に形成される。カラー15は,フランジ19と前記段部10の間でOリング11が押圧された状態で,かしめ部17により前記孔部9に固定される。」

・「【0021】図6に,固定手段をねじにより構成した例を示す。カラー15″は円筒部26を備え,この円筒部26におねじ27が形成され,これに螺合するめねじ28が孔部9の対応する位置に形成されている。螺合の際に,筒状部材のフランジ19がOリング11を押圧し,カラー15″は,フランジ19と段部10の間でOリング11が押圧された状態で,孔部9に固定される。」

・図2には,ガス発生器の要部拡大断面図,及び,図6には,ガス発生器の別の固定手段の断面図が示されている。

これらの事項及び図示内容を総合すると,甲第8号証には,次の事項(以下,「甲8記載事項」という。)が記載されていると認めることができる。

・「一端が閉鎖され他端が開放されたなべ状の筒状部材12の開放端にフランジ19を備え,かしめや螺合によりフランジ19と段部10の間でOリング11が押圧された状態で,段部10に筒状部材12の開放端を固定すること。」

(8)本件特許の出願前に頒布された特開昭62-56678号公報(甲第9号証)には,「ガス遮断弁」について,図面と共に次の事項が記載されている。

・「以下本発明の一実施例のガス遮断弁について,図面を参照しながら説明する。
第1図は本発明の一実施例におけるガス遮断弁の縦断面図を示すものである。第1図において,1は円筒状に絞った筒部及び鍔1aのある磁性体金属のヨークで,その中央底部に永久磁石5を固着させ,さらに永久磁石5のヨーク1と反対側である上面にはコアピース2を固定させている。14は永久磁石5及びコアピース2の外周に位置してヨーク1の円筒部に装着し,かつ電磁コイル4の巻いてある合成樹脂製のボビンである。そして,上記ヨーク1の鍔1aの裏にパツキン15をあてがい,また磁性体のワッシャー16を鍔1aの表面およびボビン14の鍔14aにあてがって,さらにワッシャー16の上面にのせたシール部材6の一部6aをかしめて鍔1aの全周にわたってかしめられている。」(2頁左下欄15行?右下欄11行)

・「一方,可動部はプランジャー7の先端部に弁ゴム8を嵌め込み装着した形で,ボビン14の中にプランジャー7を挿入し,シールフランジ6と弁ゴム8の間にスプリング12を設けた構造である。
以上のように構成されたガス遮断弁について,以下第1図を用いてその動作を説明する。
第1図は正常時にガス遮断弁の弁ゴム8が開きガス通路が開状態になっている場合の縦断面図を示すものである。まず,プランジャー7をセット用ロッド11で押し込むと,移動してプランジャー7がコアピース2に接し,スプリング12の反力よりも大きい吸着力が,ヨーク1,ワッシャー16,プランジャー7及びコアピース2中を流れる永久磁石5の磁束により,プランジャー7とコアピース2間の吸着面に生じ,そのまま吸着保持される。この状態で弁ゴム8は弁座13から離れ,弁開状態となり,ガスが矢印の方向に流れるようになる。この場合ガスは,ボビン14とプランジャー7,コアピース2,永久磁石5間のすきま及びボビン14とワッシャー16間のすきまを通って,ヨーク1の筒部内に流れ込むのであるが,気密用パツキン15が装着しであるため,外部へガスが漏れることはない。
異常時には,永久磁石5とは逆向きの磁界が発生するように電磁コイル4に瞬時に通電すると,コアピース2とプランジャー7間の吸着力が減少し,スプリング12の反力が相対的に大きくなり,プランジャー7がコアピース2から離脱し,弁ゴム8が弁座13を閉じガスの流れを遮断する。」(2頁右下欄14行?3頁右上欄2行)

・図1には,ガス遮断弁の縦断面図が示されている。

これらの事項及び図示内容を総合すると,甲第9号証には,次の事項(以下,「甲9記載事項」という。)が記載されていると認めることができる。

・「円筒状に絞った筒部及び開放端に鍔1aのあるなべ状のヨーク1の鍔1aの裏にパツキン15をあてがい,シール部材6の一部6aをかしめて鍔1aの全周にわたってかしめてシール部材6の段差状部にヨーク1の開放端を固着すること。」

(9)本件特許の出願前に頒布された実公昭61-22473号公報(甲第10号証)には,「電動機」について,図面と共に次の事項が記載されている。

・「本考案の目的は,組立て時のスポツト溶接やカシメ圧入等の工程を不要とし,個々の部品をビルドアツプ式に組立て,最後にバンドで固定して完成品とすることのできる,量産性のよいバンド固定式小形同期電動機を提供するにある。」(3欄11?15行)

・「以下図面により本考案を説明する。
第1図は本考案の一実施例電動機の断面図,第2図はその組立て順序を説明するための展開図,第3図は第1図電動機の一部を切断展開して示した斜視図,第4図は固定子ポールの拡大斜視図である。図面において,1は軸受,2はフランジ(取付板),3は出力側の固定子ケース,3′は出力側とは反対側の固定子ケース,4及び4′はそれぞれボビン巻コイル,5及び5′はそれぞれ固定子ポールである。また,6はマグネツトロータ,7は回転子軸,8は中子,9はスプリングワツシヤ,10はリング状ワツシヤ,11はバンドである。電動機組立ては次のように行なわれる。
軸受1をフランジ2のバーリング部に圧入固定させ,フランジ2の2個所の円形押出し部に出力側固定子ケース3の2個所の穴を嵌合させ,これにて軸受1の回転子軸(第1図の7)が入る貫通孔部と出力側固定子ケース3のポール内径との同芯度を出し,次にボビン巻コイル4を固定子ケース3に組み込む。この時ボビン巻コイル4のリード線は,固定子ケース3に予め設けてあるリード線用切欠部より外部に出す。次に固定子ポール5を固定子ケース3に組み込む。このとき,固定子ケース3と固定子ポール5の角度位置決めは,固定子ポール5の外径部に設けた2個所(これは3個所でも差支えない)の押出し部を固定子ケース3の2個所の切欠部に嵌合させることで行なう。この押出し部または切欠部は,幅が違えてあり,ある1個所での嵌合しかできないようにしてある。
次に,2つの固定子ポール5と5′とを背合せで半周回転させた位置で,それぞれに設けた穴部と押出し部を嵌合させることで位置決めして組立てる。この場合,固定子ポール5には,第4図に拡大して示すように,穴部と押出し部とが1つずつ180度離れた位置に設けられている。
次に,フエライトマグネツト等よりなる,外周に均等に多極着磁してあるマグネツトロータ6と回転子軸7とを,樹脂または非磁性金属よりなる中子8で固定したものを,第1図に示すように,スプリングワツシヤ9とリング状ワツシヤ10を介して,軸受1の貫通孔に挿入して組込む。
最後に,弾性のある板材で作成したバンド11の最先端部の爪状折曲げ部をフランジ2の2個所の切欠部の溝穴に押込むことでバンド11を掛ける。バンド11の中央部には2個所の押出し部分が作つてあり,この押出し部分を出力側とは反対側の固定子ケース3′の内径孔にはめ込ませて,バンド11で押し付けることでバンド11を固定する。このドンド11は,固定子ケース3′の内径孔部をふさぐ働きをするとともに,回転子軸7の後側部の度当りもさせ,かつ,第2図11に示すように,プレス刻印したネームプレートをも兼ねさせる。
以上説明したように,本考案によれば,カシメやスポツト溶接,圧入固着等を用いないで,ビルドアツプ式の組立てだけで完成品とする構成であることから,溶着,圧入等による部品相互間固定での変形や歪に起因する精度の劣化を除くことができると共に量産性を大幅に向上させることができ,さらに,製品化の過程や製品完成後に解体を必要とする際には組立前の初期状態を再現することが容易にできる構成であるので,部品の歩留りを高めることができる利点がある。」(3欄41行?6欄1行)

・第1図には,断面図,第2図には,その組立て順序説明用展開図,第3図には,第1図の一部を切断展開して示した斜視図が示されている。

これらの事項及び図示内容を総合すると,甲第10号証には,次の事項(以下,「甲10記載事項」という。)が記載されていると認めることができる。

・「弾性のある板材で作成したバンド11で固定する量産性のよいバンド固定式小形同期電動機。」

(10)本件特許の出願前に頒布された特開平8-84451号公報(甲第11号証)には,「パチンコ機のモータ」について,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0003】モータ1は,ステッピングモータ等のモータ本体11と,減速用のギアを内蔵したギアケース12とを金属性のバンド13により固定してなっている。また,制御基板2は,絶縁性基板21上に,モータ本体11の励磁コイルに対する駆動制御信号を発生する駆動制御回路や図示しないパチンコ機の操作ノブへの人体の接触を検出するタッチセンサ回路等を構成する各種の回路素子22と,モータ1からのリード線14や外部からの電源供給用のリード線等を接続するコネクタ23とを搭載してなるものである。また,基板取付カバー3は,プラスチック等の絶縁性を有する素材よりなる略円筒形状の基板取付カバー31と,同じく絶縁性を有する素材よりなる略カップ形状の基板取付カバー32とからなっている。」

・図1,3及び4には,縦断面図が示されている。

これらの事項及び図示内容を総合すると,甲第11号証には,次の事項(以下,「甲11記載事項」という。)が記載されていると認めることができる。

・「モータ本体11と,ギアケース12とを金属性のバンド13により固定したモータ1。」

(11)本件特許の出願前に頒布された特開昭61-109437号公報(甲第12号証)には,「ステッピングモータ」について,図面と共に次の事項が記載されている。

・「第1図は,従来のリードスクリュー・タイプのステッピングモータの構成をしめすもので,1は外周に多極着磁された磁石からなるロータ,2はロータ1の内周壁面に形設されためねじ,3はめねじ2に螺合するスクリュー軸で,このスクリュー軸3は係止手段(図示しない)によりラジアル方向の回転が阻止されると共に,バネ部材(図示しない)により図中左方向に付勢されている。4は,コイル5を内装した磁極片6及び7と,コイル8を内装した磁極片9及び10とをマウント11に取り付ける取付金具,12はロータ1の後端部と取付金具4の開口部4aとの間,及び,ロータ1の先端部とマウント11の開口部11aとの間にそれぞれ介装したラジアルボールベアリング(以下ベアリングという)で,このベアリング12は,ロータ1の外周壁面と磁極片6及び7の内周面との間隔と,ロータ1の外周壁面と磁極片9及び10の内周面との間隔とがそれぞれ一定になるように支持している。
このように構成された従来例では,ロータ1が回動すると,スクリュー軸3はロータ1の回転角に比例した長さだけ軸線方向に直線移動する。」(1頁右下欄1行?2頁左上欄2行)

・第1図には,リードスクリュータイプのステッピングモータの半截断面の平面図が示されている。

これらの事項及び図示内容を総合すると,甲第12号証には,次の事項(以下,「甲12記載事項」という。)が記載されていると認めることができる。

・「取付金具4でコイル5,8等をマウント11に取り付けたステッピングモータ。」

(12)本件特許の出願前に頒布された実公昭49-46003号公報(甲第13号証)には,「モータ」について,図面と共に次の事項が記載されている。

・「1は金属板をコの字形に屈折した枠体からなる結合枠で,2がその屈折部,3が屈折部2の先端を内側に若干屈折した係止縁,4は結合枠1の背面中央部に穿切した切欠部で,この切欠部4内には左右に軸受挟(当審注:旧字体)着用の爪片5,5を設けてある。6は小型モーター,7はギヤー8にモーター側のギヤー11を連設して小型モーター6にギヤー機構7を重ね合わせて結合する。」(1欄32行?2欄6行)

・「しかして本案では従来のねじ式,かしめ式などの方法によらず,結合枠1を装着して小型モータ1とギヤー機構7とを結合するから,両者の結合が極めて簡単で,組立作業場の能率を向上し得るし,爪片5,5が軸受9の部分を挟(当審注:旧字体)持している関係上外れる虞れがない等の効果を奏し,構造は簡単であるが実用的価値は大きい。」(2欄16行?22行)

・第1図には,取付金具の使用状態を示す外観図,第2図には,取付金具の正面図と側面図,第3図には,第1図の側面図が示されている。

これらの事項及び図示内容を総合すると,甲第13号証には,次の事項(以下,「甲13記載事項」」という。)が記載されていると認めることができる。

・「小型モータ6とギヤー機構7とを取付金具で結合したモータ。」

(13)本件特許の出願前に頒布された特開平6-117563号公報(甲第14号証)には,「電磁弁装置」について,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0008】
【実施例】以下,本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。本実施例は,自動車のABSに用いられる電磁弁装置としての適用例である。
【0009】図1において1は,下側のハウジング50と上側のカバー60との間に挾持される円筒状の装置本体であり,・・・
【0013】さらに,ハウジング50の大径孔部50Aと装置本体1の大径部1Aとの間,および小径孔部50Bと小径部1Cとの間のそれぞれには,Oリング21および22が介在されている。前者のOリング21は,図4に示すように,バックアップリング23と共に装置本体1の大径部1Aに嵌合されたまま,同図中の矢印A方向から大径孔部50A内に差し込まれることにより,図1および図3に示すように装着される。その際,Oリング21は,図4に示すように大径孔部50Aの開口部周縁のテーパー面部50Eにガイドされつつスムーズに装着され,その損傷が防止される。なお,バックアップリング23の外周縁には,テーパー面部50Eに圧接するテーパー面部23Aが形成されている。一方,後者のOリング22は,小径部1Bの環状溝1E内に嵌合されたまま,小径孔部50B内に差し込まれることによって装着される。このように,Oリング21,22が装置本体1側に嵌合されてから,その装置本体1がハウジング50側に組付けられることになり,この結果,装置本体1とハウジング50との組付け作業の自動化が可能となる。」

・図1,3及び4には,装置本体の縦断面図が示されている。

これらの事項及び図示内容を総合すると,甲第14号証には,次の事項(以下,「甲14記載事項」という。)が記載されていると認めることができる。

・「Oリング21をバックアップリング23と共に装着すること。」

(14)本件特許の出願前に頒布された『小宮山香苗,松本美韶,国分悦郎,神林治雄,平林弘著,「機械設計・第1巻 漏洩防止法」,第1刷,株式会社誠文堂新光社,昭和40年6月30日,p.89-94』(甲第15号証)には,「バック・アップ・リング」について,次の事項が記載されている。

・「1.3 バック・アップ・リング
高圧においてOリングが軸とシリンダーの間の隙間にはみ出す(Extrude)のを防ぐためにバック・アップ・リング(back up ring または Non-extrusion ring)が使用される。
(1)はみ出しの発生
(イ)軸とシリンダー間の隙間
(ロ)Oリングに加わる液圧
・・・
バック・アップ・リングを使用すると否とに関わらず,ピストンとシリンダーの遊隙は最小にすべきである。」

この事項からすると,甲第15号証には,次の事項(以下,「甲15記載事項」という。)が記載されていると認めることができる。

・「Oリングが隙間にはみ出すのを防ぐためにバック・アップ・リングを使用すること。」

(15)本件特許の出願前に頒布された特開平8-189576号公報(甲第21号証)には,「逆止弁」について,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0009】
【実施例】図1は,本発明の一実施例である逆止弁10と電磁弁20とを組み合わせてなるソレノイドチェック弁45の側面断面図を示す。電磁弁20は,ハウジング21の内部に電磁コイル22を有し,この電磁コイル22への電流を通電,遮断することに対応してニードル23を変位させて開弁又は閉弁状態を形成する電磁弁である。
【0010】ニードル23は,一端側が円錐形状とされ,その先端部を半球状とされて弁24が形成されると共に,その他端には磁性体からなる可動子25が固定されている。可動子25は,電磁コイル22に挿入された非磁性体からなるスリーブ26内に,その内部を摺動可能に挿入されている。また,スリーブ26の開口端には,その中央にニードル23を摺動可能に支持する固定子27が配設され,可動子25の変位端を規制している。
【0011】ここで,電磁弁20のハウジング21及び固定子27は磁性体で構成されており,電磁コイル22に電流が流れると,電磁コイル22の内外を還流すべく発生する磁束が,可動子25,固定子27,ハウジング21からなるループ内を流通する。」

・図1には,逆止弁10と電磁弁20とを組み合わせてなるソレノイドチェック弁45の構成を表す側面断面図が示されている。

・図1の図示内容と上記記載事項とから,電磁弁20は,電磁コイル22に挿入され,その内部に固定子27と可動子25を挿入したなべ状のスリーブ26の開放端に,外向きフランジ様のものがあり,フランジ様のものに隣接したスリーブ26外周に周方向シール様のものがあり,ハウジング21の段差部様のところに,フランジ様のものと周方向シール様のものとが挿入されているような構成であることが理解できる。

これらの事項を総合すると,甲第21号証には,次の事項(以下,「甲21記載事項」という。)が記載されていると認めることができる。

・「電磁弁20は,電磁コイル22に挿入され,その内部に固定子27と可動子25を挿入したなべ状のスリーブ26の開放端に,外向きフランジ様のものがあり,フランジ様のものに隣接したスリーブ26外周に周方向シール様のものがあり,ハウジング21の段差部様のところに,フランジ様のものと周方向シール様のものとが挿入されているような構成であること。」

(16)本件特許の出願前に頒布された特開平7-239053号公報(甲第22号証)には,「電磁弁」について,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0030】次に,電磁弁40について,図1を参照して説明する。」

・「【0032】電磁弁40は,ハウジング60,コイル61,プランジャ62,ヨーク63,シャフト64,弁体65,弁座66を有する。」

・図1には,電磁弁40を示す断面図が示されている。

・図1の図示内容と上記記載事項とから,電磁弁40は,コイル61に挿入され,その内部にヨーク63とプランジャ62を挿入したなべ状のものの開放端に,外向きフランジ様のものがあり,フランジ様のものに隣接したなべ状のものの外周に周方向シール様のものがあり,ハウジング60の段差部様のところに,フランジ様のものと周方向シール様のものとが挿入されているような構成であることが理解できる。

これらの事項を総合すると,甲第22号証には,次の事項(以下,「甲22記載事項」という。)が記載されていると認めることができる。

・「電磁弁40は,コイル61に挿入され,その内部にヨーク63とプランジャ62を挿入したなべ状のものの開放端に,外向きフランジ様のものがあり,フランジ様のものに隣接したなべ状のものの外周に周方向シール様のものがあり,ハウジング60の段差部様のところに,フランジ様のものと周方向シール様のものとが挿入されているような構成であること。」

(17)本件特許の出願前に頒布された特開平7-260037号公報(甲第23号証)には,「流体制御用電磁弁」」について,図面と共に次の事項が記載されている。

・「【0011】
【実施例】図1には本発明の第1実施例に係る流体制御用の電磁弁10の全体構成が断面図にて示されている。」

・「【0014】シートバルブ12の図中右にはヨーク(コア)20が本体16に固定されている。ヨーク20も円筒形に形成されており,軸心部にはガイド孔22が形成されている。このガイド孔22には,開口面積制御機構を構成するスリーブ24が軸線に沿って移動可能に支持されている。スリーブ24も略円筒形に形成されており,一端部(図1の紙面右側端部)は図2に詳細に示す如くヨーク20の端部よりも更に外方へ突出されている。このスリーブ24は,図1のようにヨーク20に設けられたテーパー部により図中右方への移動を規制されており,後述するシャフト28と共にこれ以上図中右方向には移動しないようになっている。また,スリーブ24の他端部と本体16内壁との間には,開口面積制御機構を構成する外リターンスプリング26が配置されており,常にスリーブ24を前記一端部が突出する方向(シートバルブ12から離間する方向)へ付勢している。これにより,通常は図2に示す如くスリーブ24はヨーク20の端部から寸法a突出している。」

・「【0017】スリーブ24から突出するシャフト28の端部には,ヨーク20に対向してプランジャ34が固定されており,プランジャ34とシャフト28は常に一体的に移動する。プランジャ34の軸心部には嵌入孔36が形成されており,この嵌入孔36内に,ケース38から突出固定されたロッド40が嵌入し,プランジャ34が移動可能に支持される構成である。
【0018】前述の如きヨーク20及びプランジャ34を収容するケース38の周囲には,インナヨーク42及びコイル44を内蔵したヨーク46が配置されており,これにより,コイル44に通電されることによりプランジャ34が図中左方に吸引されて移動する構成である。この場合,プランジャ34の移動初期においては,プランジャ34はシャフト28と共に内リターンスプリング32の付勢力に抗してヨーク20の側へ移動して弁体30が流路18に次第に接近して流路18が次第に閉鎖され,プランジャ34が寸法b移動した時点でプランジャ34がスリーブ24に当接し,その後はプランジャ34はシャフト28及びスリーブ24と共に内リターンスプリング32及び外リターンスプリング26の付勢力に抗してヨーク20の側へ移動して最終的に弁体30が流路18に当接して流路18が閉鎖される構成である。」

・図1には,流体制御用の電磁弁10の全体構成を示す断面図が示されている。

・図1の図示内容と上記記載事項とから,電磁弁10は,周囲にインナーヨーク42及びコイルを内蔵したヨーク46を配置し,その内部にヨーク20とプランジャ34を収容したなべ状のケース38の開放端に,外向きフランジ様のものがあり,フランジ様のものに隣接したケース38外周に周方向シール様のものがあり,本体16の段差部様のところに,フランジ様のものと周方向シール様のものとが挿入されているような構成であることが理解できる。

これらの事項を総合すると,甲第23号証には,次の事項(以下,「甲23記載事項」という。)が記載されていると認めることができる。

・「電磁弁10は,周囲にインナーヨーク42及びコイルを内蔵したヨーク46を配置し,その内部にヨーク20とプランジャ34を収容したなべ状のケース38の開放端に,外向きフランジ様のものがあり,フランジ様のものに隣接したケース38外周に周方向シール様のものがあり,本体16の段差部様のところに,フランジ様のものと周方向シール様のものとが挿入されているような構成であること。」


2 無効理由2(進歩性欠如に基づく無効理由)について

(1)本件特許発明1について
(1-1)対比
本件特許発明1と甲1発明1とを対比する。ここでは,本件特許発明1を「前者」ともいい,甲1発明1を「後者」ともいう。

機能・構造からすると,後者の「電磁コイル36とコイルボビン35」は前者の「励磁コイル」に相当し,後者の「配置する」態様は前者の「有する」態様に相当し,後者の「ロータ回転手段34」は前者の「ステータ」に相当し,後者の「ロータ回転手段34のステータヨーク37と接するように嵌装された黄銅などの非磁性材の薄板パイプ38」と前者の「ステータの内側に同軸に配設され貫通穴のないなべ状に成形された剛体性の隔壁」は,そのうちの後者の「ロータ回転手段34ステータヨーク37と接するように嵌装された」態様は前者の「ステータの内側に同軸に配設され」た態様に相当するから,「ステータの内側に同軸に配設されたもの」の概念で共通し,後者の「流通路」は前者の「流体室」に相当し,後者の「取り付けられた」態様は,前者の「取り付け可能で」との態様に相当し,後者の「円筒状の段差部」は前者の「円筒状段差部」に相当し,後者の「取付板」は前者の「取り付け板」に相当し,後者の「取付板23の段差部」は前者の「取り付け板段差部」に相当し,後者の「嵌装された」た態様は前者の「配設された」態様に相当し,後者の「シール材としてのOリング39」及び「Oリング39」は前者の「シール部材」に相当し,後者の「ロータ29と一体の回転軸28」は前者の「ロータの回転軸」に相当し,後者の「弁体移動手段25と弁体22」は前者の「弁機構」に相当し,後者の「薄板パイプ38は,両端部38aを有し,前記端部38aを前記Oリング39と共に前記取付板23の段差部に挿入して」た態様と前者の「隔壁は,開放端につばを有し,前記つばを前記シール部材と共に前記取り付け板段差部に挿入し」た態様は,後者の「端部38a」は前者の「開放端」に相当するから「ステータの内側に同軸に配設されたものは,開放端を有し,前記開放端を前記シール部材と共に前記取り付け板段差部に挿入し」の概念で共通し,後者の「モータ駆動双方向弁装置」は前者の「遮断弁」に相当している。

したがって,両者は,
「励磁コイルを有するステータと,前記『ステータの内側に同軸に配設されたもの』と,流体室に取り付け可能で前記『ステータの内側に同軸に配設されたもの』の円筒部外径より若干大きな内径の円筒状段差部を形成された剛体性の取り付け板と,前記『ステータの内側に同軸に配設されたもの』の円筒部外周と前記取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮されて配設された弾性体製のシール部材と,前記『ステータの内側に同軸に配設されたもの』の内側に前記ステータに対向して配設されたロータと,前記ロータの回転軸に配設された弁機構とで構成され,
前記『ステータの内側に同軸に配設されたもの』は,開放端を有し,前記開放端を前記シール部材と共に前記取り付け板段差部に挿入して構成した遮断弁。」
の点で一致し,以下の点で相違している。

[相違点1]
『ステータの内側に同軸に配設されたもの』に関し,本件特許発明1では,「貫通穴のないなべ状に成形された剛体性の隔壁」であるのに対し,甲1発明1では,「黄銅などの非磁性材の薄板パイプ38」である点。

[相違点2]
「『ステータの内側に同軸に配設されたもの』は,開放端を有し,前記開放端をシール部材と共に取り付け板段差部に挿入して」いる点に関し,本件特許発明1では,「隔壁は,開放端につばを有し,つばをシール部材と共に取り付け板段差部に挿入して」いるのに対し,甲1発明1では,「薄板パイプ38は,両端部38aを有し,端部38aをシール部材と共に取り付け板段差部に挿入して」いる点。

(1-2)判断
上記[相違点1]及び[相違点2]について検討する。

本件特許発明1における隔壁の厚さは,ステータとロータとの隙間,いわゆるモータのエアギャップの大きさに直接関わるパラメータである。そして,エアギャップは,狭くするほど磁束密度が大きくなり,磁気吸引力は増大し発生トルクが上昇するため,トルク定数が増加するというモータ技術の基礎的な見地からすると,ロータと接触しないように隔壁の形状を維持しながらも厚さは可能な限り薄くすることが求められるといえ,その開放端を補強する動機があると理解できるものである。この点,甲1発明1の薄板パイプ38のように両端部を有し,両端部をシール材でシールしている円筒体のような場合は,円筒体に鍔を設けることにより強度を確保できることは当然であるとしても,単純に端部に補強機能として周知の外向きフランジを設けるとすると,両方の端部に設けることになり,シール材を配設する際フランジの外径以上にシール材の径を広げる必要が生じ望ましくないといえ,当業者はあえて両方の端部に外向きフランジを設けようとしないと解せる。ところが,なべ状の隔壁であれば,一方の端部である開放端に外向きフランジを設けて両端部の強度を確保しても,シール材の径をフランジ外径以上に広げて配設する必要がない。換言すると,シール材を配設する際にその径を広げる点から,当業者は隔壁の端部に外向きフランジを設けようとしないが,なべ状の隔壁とすればシール材配設・強度確保に支障がない。
こうしたことをふまえれば,本件特許発明1において,なべ状の隔壁であること,と,その開放端につばがあること,と,さらに隔壁の円筒部に弾性体製のシール部材を配設すること,とは技術的に密接な関連があるものと理解すべきである。
したがって,上記相違点1及び相違点2は併せて検討すべきである。

甲1発明1は,リードスクリューとシール材とが密着状態にある従来のシール構造に替えて,ロータ内部にガスの漏入があっても,薄板パイプ38の両端部38a,38aと取付板23,33及びステータヨーク37,37とで包囲される空隙はOリング等のシール材39により嵌装シールされているものとすることによって,モータ駆動双方向弁装置は気密が確保され,装置を通して流通路以外の外部へのガス漏洩が防止されるとしたのであるから,シール性の向上が図られるものである。したがって,シール性向上の観点からすると,薄板パイプ38の端部38aと閉結された取付板33及びシール材39による気密確保に替えて,甲2記載事項,甲3記載事項及び甲4記載事項のような,甲1発明1と同じモータ駆動双方向弁装置の1つの部品で構成された「なべ状の隔壁」といえる「カップ状のケーシング6」を用いることにより,ガス漏れの要因というべきシールの使用を省いた気密を確保することは,当業者が容易に想起し得るものといえる。
しかしながら,甲2記載事項,甲3記載事項及び甲4記載事項において「なべ状の隔壁」といえる「鍔付きカップ状のケーシング6」は「開放端のつば」といえる「鍔」を有するものの,いずれの「鍔」も段付フランジ2と平板フランジ7とで,シールドリング8と共に固定するために必要なものと解せる。ところが,甲1発明1において取付板23,33をステータヨーク37に螺着することによって,薄板パイプ38を一体に固定しており,薄板パイプ38の固定にはつばを必要としない。したがって,その端部38aに甲2記載事項,甲3記載事項及び甲4記載事項にあるような固定するためのつばを設ける動機がないというべきである。
さらに,甲2記載事項,甲3記載事項及び甲4記載事項において,ケーシング6をシールするシールドリング8は弾性体製のシール部材を隔壁の円筒部に配設したものではない。したがって,有底円筒部材の開口端部に鍔を設け円筒部外周と前記取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮されて配設された弾性体製のシール部材を有するものとは解せない。
よって,甲1発明1からは,甲2記載事項,甲3記載事項及び甲4記載事項を考慮しても,本件特許発明1を当業者が容易に想到し得たとはいえない。

甲7記載事項,甲8記載事項及び甲9記載事項から,技術分野は異なるが,なべ状の隔壁の開放端につばを有することは周知技術であったと解せるとしても,これらはいずれも隔壁を固定するための機能を有するものである(甲7記載事項において「開放端のつば」といえる「つば部33」は溶接され,甲8記載事項において「開放端のつば」といえる「フランジ19」はかしめや螺合により固定され,また,甲9記載事項において「開放端のつば」といえる「鍔1a」はかしめにより固定されている。)。ところが,既に述べたように,甲1発明1において,薄板パイプ38の固定にはつばを必要としない。したがって,その端部38aに甲7記載事項,甲8記載事項及び甲9記載事項にあるような固定するためのつばを設ける動機がないというべきである。
さらに,甲7記載事項及び甲9記載事項のものはシールのための鍔であり(シールの圧縮方向も円周方向ではなく異なる。),甲8記載事項のものもシールのための顎であると解せる(シールの圧縮方向は円周方向というより傾斜方向であって,いわゆる三角シール構造をなす。)。したがって,いずれも有底円筒部材の開口端部に鍔を設け円筒部外周と前記取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮されて配設された弾性体製のシール部材を有するものとは解せない。
よって,甲1発明1からは,甲7記載事項,甲8記載事項及び甲9記載事項を考慮しても,本件特許発明1を当業者が容易に想到し得たとはいえない。

甲21記載事項,甲22記載事項及び甲23記載事項は,いずれも段差部様の部分に,なべ状のものの開放端のフランジ様のものと,周方向シール様のものとが挿入されているような構造を有し,本件特許発明1のなべ状の隔壁であること,と,その開放端につばがあること,と,さらに隔壁の円筒部に弾性体製のシール部材を配設することと同様の構造を有することが理解できる。しかしながら,なべ状のものの開放端のフランジ様のもの,シール様のものと段差部様のものに係る構造について,甲第21ないし23号証に詳細な記載がなく,その技術的意義については不明であるといわざるを得ない。したがって,甲21記載事項,甲22記載事項及び甲23記載事項から,有底円筒部材の開口端部に鍔を設け円筒部外周と前記取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮されて配設された弾性体製のシール部材を有するような構成が明らかであるとはいえず,また,そのような構成が周知であるともいえない。
また,先に述べたとおり,甲1発明1においては,薄板パイプ38の厚さがいわゆるモータのエアギャップの大きさに直接関わるからこそ,その開放端を補強する動機があると理解できるものである。ところが,甲21記載事項における「なべ状のスリーブ26」,甲22記載事項における「なべ状のもの」及び甲23記載事項における「なべ状のケース38」は,いずれも電磁弁に関わるものであるから,その円筒部の厚さはモータのエアギャップとは無関係であって,必ずしも甲1発明1における薄板パイプ38のように開放端を補強せねばならない程度の薄さが求められるものとはいえない。そうすると,円筒部の開放端の補強が必ずしも要求されないからフランジ様のものが開放端の補強のためのものともいえない。したがって,甲21記載事項,甲22記載事項及び甲23記載事項に係る上記構成を,甲1発明1に適用する動機があるとはいえない。さらに,電磁弁に係る技術分野の構成をモータ駆動の遮断弁である甲1発明1に適用することが一般的に行われていることともいえない。
よって,甲1発明1において,甲21記載事項,甲22記載事項及び甲23記載事項に係る周知技術から,本件特許発明1を当業者が容易に想到し得たとはいえない。

なお,甲第5,6,10ないし20号証にも,有底円筒部材の開口端部に鍔を設け円筒部外周と前記取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮されて配設された弾性体製のシール部材を有する構成は開示されていない。

そして,本件特許発明1は,「隔壁が開放端につばを有し,このつばをシール部材と共に取り付け板段差部に挿入して構成したところに特徴を有するもので,隔壁の開放端につばを構成することにより強度を確保できるので,隔壁の変形を防止して真円度を確保することができ,更に,組み立ての際に,シール部材を押し込むことで,同時に隔壁を取り付け板段差部に挿入する事が出来るため組立作業も容易となるという格別の効果を奏するものであります。」と平成22年5月18日付け意見書2頁11-16行(甲第19号証)でも主張している効果が認められるものである。

(1-3)まとめ
以上のとおり,本件特許発明1は,請求人の主張する甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,本件特許発明1に係る特許は,請求人の主張する特許法第29条第2項(同法第123条第1項第2号)に係る無効理由を有しない。

(2)本件特許発明2について
(2-1)対比
本件特許発明2と甲1発明2とを対比する。ここでは,本件特許発明2を「前者」ともいい,甲1発明2を「後者」ともいう。

上記(1-1)に記載した事項を考慮すると,
機能・構造からして,さらに,後者の「保持盤32」は前者の「ふた」に相当している。

したがって,両者は,
「励磁コイルを有するステータと,前記ステータの内側に同軸に配設されたものと,流体室に取り付け可能で前記ステータの内側に同軸に配設されたものの円筒部外径より若干大きな内径の円筒状段差部を形成された剛体性の取り付け板と,前記ステータの内側に同軸に配設されたものの円筒部外周と前記取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮されて配設された弾性体製のシール部材と,前記ステータの内側に同軸に配設されたものの内側に前記ステータに対向して配設されたロータと,前記ロータの回転軸に配設された弁機構とで構成され,
前記ステータの内側に同軸に配設されたものは,開放端を有し,前記開放端を前記シール部材と共に前記取り付け板段差部に挿入して構成した遮断弁であって,
前記隔壁の開放端に嵌挿され中心に軸受を配設したふたを有する遮断弁。」
の点で一致し,上記[相違点1]及び[相違点2]に加え,以下の点で相違している。

[相違点3]
本件特許発明2では,「隔壁を取り付け板方向に付勢する付勢手段と,合成樹脂製のふたを有し,前記ふたの外周部をつばと取り付け板段差部の底面とで挟んで保持した」のに対し,甲1発明2では,「ふた(保持盤)」を有するものの,その他について特定されていない点。

(2-2)判断
上記相違点について検討する

・[相違点1]及び[相違点2]について
上記(1-2)にて検討したとおり,両相違点について,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

・[相違点3]について
本件特許発明2の「隔壁を取り付け板方向に付勢する付勢手段」は,本件特許の特許明細書の段落【0072】に「隔壁は付勢手段で付勢されているので,温度変化によるふたの膨張収縮で隔壁と取り付け板との組付けがゆるまず,」と記載されているように,それにより,「温度変化によるふたの膨張収縮で隔壁と取り付け板との組付けがゆるま」ないものとする効果を奏するものと認められる。
しかし,甲1発明2は,取付板23,33をステータヨーク37に螺着することによって,薄板パイプ38を取付板23方向に付勢しつつ一体に固定していると解せるもの,甲第1号証には温度変化によるふたの膨張収縮で隔壁と取り付け板との組付けがゆるむことの記載も示唆もなく,甲1発明2は本件特許発明2の隔壁を取り付け板方向に付勢する付勢手段に相当するものを有するとはいえない。
また,付勢手段と解し得る甲10記載事項の「バンド11」,甲11記載事項の「バンド13」,甲12記載事項の「取付金具4」及び甲13記載事項の「取付金具」は,いずれも隔壁を付勢するものではない。そして,甲第1号証には,本件特許発明2の効果に係る,温度変化によるふたの膨張収縮で隔壁と取り付け板との組付けがゆるむことに関する記載も示唆もなく,甲1発明2の薄板パイプ38を付勢して固定する動機はないというべきである。
そうすると,甲1発明2において,隔壁を取り付け板方向に付勢する付勢手段を設けることは,当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

さらに,甲1発明2の薄板パイプ38につばを設けることが容易に想到できないことは本件特許発明1について既に検討したとおりであるし,薄板パイプ38につばを設け,取付板23側の保持盤32を取付板33側のフランジ(状の部分)のある保持盤32として,これをつばと取付板23段差部の底面とで挟んで保持するものとすることは,つばとフランジ(状の部分)により保持固定する構造をあらたに設けることであって新たな効果を奏するものであり,単なる設計事項とはいえない。
そして,甲2記載事項,甲3記載事項及び甲4記載事項は,段付きフランジ2および平板フランジ7が互いに固着され,アウターブッシュ3の鍔部とケーシング6の鍔部を同時に挟み込んでいる構造を有するものの,それらは,シールしながら固定保持する構造であるから,当該シールに関わる構造を有さない甲1発明2に甲2記載事項,甲3記載事項及び甲4記載事項の固定保持に関する構造を適用する動機があるとはいえないばかりか,甲1発明2のステータの内側に同軸に配設されたものの円筒部外周と取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮されて配設された弾性体製のシール部材を有する構造は,甲2記載事項,甲3記載事項及び甲4記載事項の段付きフランジ2および平板フランジ7が互いに固着される構造を付加することを阻害し,両構造は相容れないものである。したがって,甲1発明2において,ふたの外周部をつばと取り付け板段差部の底面とで挟んで保持した構造とすることは,甲2記載事項,甲3記載事項及び甲4記載事項に基づいて,当業者が容易に想到できたものともいえない。

なお,甲第5ないし9,13ないし23号証にも,相違点3に係る本件特許発明2の構成は開示されていない。

(2-3)まとめ
以上のとおり,本件特許発明2は,請求人の主張する甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって,本件特許発明2に係る特許は,請求人の主張する特許法第29条第2項(同法第123条第1項第2号)に係る無効理由を有しない。

(3)本件特許発明3について
(3-1)対比
本件特許発明3と甲1発明2とを対比する。ここでは,本件特許発明3を「前者」ともいい,甲1発明2を「後者」ともいう。

上記(1-1)及び(2-1)に記載した事項を考慮すると,
機能・構造からして,さらに,後者の「嵌装され」た態様は前者の「嵌挿され」た態様に相当している。

したがって,両者は,
「励磁コイルを有するステータと,前記ステータの内側に同軸に配設されたものと,流体室に取り付け可能で前記ステータの内側に同軸に配設されたものの円筒部外径より若干大きな内径の円筒状段差部を形成された剛体性の取り付け板と,前記ステータの内側に同軸に配設されたものの円筒部外周と前記取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮されて配設された弾性体製のシール部材と,前記ステータの内側に同軸に配設されたものの内側に前記ステータに対向して配設されたロータと,前記ロータの回転軸に配設された弁機構とで構成され,
前記ステータの内側に同軸に配設されたものは,開放端を有し,前記開放端を前記シール部材と共に前記取り付け板段差部に挿入して構成した遮断弁であって,
前記隔壁の開放端に嵌挿され中心に軸受を配設したふたを有する遮断弁。」
の点で一致し,上記相違点1ないし3に加え,以下の点で相違している。

[相違点4]
本件特許発明3では,「付勢手段は隔壁とステータの軸方向の相対位置を規制するように形成され,前記隔壁の開放端と取り付け板段差部底面とに挟まれるふたの挟持部に,変形することによって前記ふたの前記取り付け板に対する軸方向位置を変えることができる突起もしくは円周リブ状の寸法吸収部を形成した」のに対し,甲1発明2では,そのように特定されていない点。

(3-2)判断
上記相違点について検討する

・[相違点1]ないし[相違点3]について
上記(2-2)において検討したとおり,全相違点について,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

・[相違点4]について
上記(2-2)において,相違点3について既に検討したとおり,甲1発明2において,本件特許発明3に係る付勢手段を設けることは容当業者が易に想到し得たものとすることはできないから,付勢手段が隔壁とステータの軸方向の相対位置を規制するように形成されている点についても,詳細に検討するまでもなく,当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
さらに,甲5記載事項の寸法吸収部は,その形成位置や具体的形状からして,甲1発明2に甲5記載事項の寸法吸収部を適用することにより,「隔壁の開放端と取り付け板段差部底面とに挟まれるふたの挟持部に,変形することによって前記ふたの前記取り付け板に対する軸方向位置を変えることができる突起もしくは円周リブ状の寸法吸収部を形成」することが,当業者に直ちに想起できるものではないから,甲1発明2において,相違点4に係る本件特許発明3の構成とすることは,当業者が容易に想到し得るものではない。

なお,甲第2ないし4,6ないし23号証にも,相違点4に係る本件特許発明3の構成は開示されていない。

(3-3)まとめ
以上のとおり,本件特許発明3は,請求人の主張する甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって,本件特許発明3に係る特許は,請求人の主張する特許法第29条第2項(同法第123条第1項第2号)に係る無効理由を有しない。

(4)本件特許発明4について
(4-1)対比
本件特許発明4(但し,請求項1を引用するもの。)と甲1発明1とを対比する。

上記(1-1)に記載した事項を考慮すると,両者は,
「励磁コイルを有するステータと,前記ステータの内側に同軸に配設されたものと,流体室に取り付け可能で前記ステータの内側に同軸に配設されたものの円筒部外径より若干大きな内径の円筒状段差部を形成された剛体性の取り付け板と,前記ステータの内側に同軸に配設されたものの円筒部外周と前記取り付け板段差部内周との間に円周方向に圧縮されて配設された弾性体製のシール部材と,前記ステータの内側に同軸に配設されたものの内側に前記ステータに対向して配設されたロータと,前記ロータの回転軸に配設された弁機構とで構成され,
前記ステータの内側に同軸に配設されたものは,開放端を有し,前記開放端を前記シール部材と共に前記取り付け板段差部に挿入して構成した遮断弁。」
の点で一致し,上記[相違点1]及び[相違点2]に加え,以下の点で相違している。

[相違点5]
本件特許発明4では,「ステータとシール部材との間に配設され,前記シール部材が取り付け板段差部から脱落することを防止するバックアップリングを有する」のに対し,甲1発明1では,そのように特定されていない点。

(4-2)判断
上記相違点について検討する

・[相違点1]及び[相違点2]について
上記(1-2)にて検討したとおり,両相違点について,当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

・[相違点5]について
甲14記載事項及び甲15記載事項にあるように,Oリングと共にバックアップリングを装着して使用することは周知技術(常套手段)であり,甲1発明1のOリングを使用する箇所にバックアップリングを装着する上記周知技術を適用して,上記相違点5に係る本件特許発明4の構成とすることは,当業者が容易に想到し得るものである。

(4-3)まとめ
以上,検討したとおり,請求項1を引用する本件特許発明4は,請求人の主張する甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。また,請求項2或いは請求項3を引用する本件特許発明4も,間接的に請求項1を引用するものであるから,請求項1を引用する本件特許発明4と同様に,請求人の主張する甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって,本件特許発明4に係る特許は,請求人の主張する特許法第29条第2項(同法第123条第1項第2号)に係る無効理由を有しない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから,請求人の主張する無効理由2及び提出した証拠方法によっては本件特許発明1ないし本件特許発明4に係る特許を無効とすることはできない。


3 無効理由1(新規性欠如に基づく無効理由)について

上記「2 無効理由2(進歩性欠如に基づく無効理由)について」で既に検討したとおり,本件特許発明1に係る相違点1及び相違点2についての判断は,本件特許発明1は進歩性を有しないとはいえないというものであって,いずれの相違点も実質的な相違点ではないといえるものではない。したがって,詳細に検討するまでもなく,本件特許発明1は新規性を有しないとはいえない。
よって,本件特許発明1に係る特許は,請求人の主張する特許法第29条第1項第3号(同法第123条第1項第2号)に係る無効理由を有しない。
なお,甲1発明1における,薄板パイプ(38)と取付板(33)との2つの部品からなる隔壁を一体成形により一つの部品として製造することが,当業者であれば技術常識を参酌して当然に導き出せるとしても,甲第1号証に記載されているに等しい事項であるとまではいえない。また,なべ状の隔壁を成形する場合,絞り成形方法によれば隔壁の開放端に「つば(鍔)」が生じることがあることは周知であるとしても,開放端に生じた「つば(鍔)」を除去するトリミング工程を行えることも周知であるし,さらに,なべ状の隔壁を成形する場合,絞り成形方法以外の,例えば,隔壁の開放端に「つば(鍔)」が生じないインパクト加工によっても成形可能であることも周知であるので,なべ状の隔壁の開放端に「つば(鍔)」を設けることは,甲第1号証に記載されているに等しい事項であるとはいえない。
以上のことから,請求人の主張する無効理由1及び提出した証拠方法によっては本件特許発明1に係る特許を無効とすることはできない。


第5 むすび

以上のとおりであるから,請求人の主張する無効理由1ないし無効理由2及び提出した証拠方法によっては本件特許発明1ないし本件特許発明4に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-06-13 
結審通知日 2014-06-17 
審決日 2014-06-30 
出願番号 特願平11-373873
審決分類 P 1 113・ 121- Y (F16K)
P 1 113・ 113- Y (F16K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 刈間 宏信  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 平城 俊雅
新海 岳
登録日 2010-07-16 
登録番号 特許第4547751号(P4547751)
発明の名称 遮断弁  
代理人 若山 俊輔  
代理人 阿部 伸一  
代理人 永島 孝明  
代理人 川端 さとみ  
代理人 森本 純  
代理人 久米川 正光  
代理人 安國 忠彦  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 山崎 道雄  

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