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審決分類 |
審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 C08G 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08G |
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管理番号 | 1300299 |
審判番号 | 不服2014-3874 |
総通号数 | 186 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-06-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-02-28 |
確定日 | 2015-04-30 |
事件の表示 | 特願2009- 26308「熱硬化性樹脂組成物、ドライフィルムおよびプリント配線板とその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 8月19日出願公開、特開2010-180355〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯 本願は,平成21年2月6日にされた特許出願であって,平成24年12月21日付けで拒絶理由が通知され,平成25年3月8日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲及び明細書が補正され,同年11月26日付けで拒絶査定がされたところ,これに対して,平成26年2月28日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲が補正されたので特許法162条所定の審査がされた結果,同年4月24日付けで同法164条3項の規定による報告がされ,同年6月27日に上申書が提出されたものである。 第2 補正の却下の決定 [結論] 平成26年2月28日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 平成26年2月28日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の内容 本件補正は特許請求の範囲の全文を変更する補正事項からなるものであるところ,本件補正前の請求項1の記載,並びに,当該請求項に対応する本件補正後の請求項1の記載は,それぞれ以下のとおりである。 ・ 本件補正前(平成25年3月8日付け手続補正書) 「フェノール樹脂と,エポキシ樹脂と,無機充填剤を含有し, 水酸基/エポキシ基(当量比)が0.3?1.0であるレーザー加工用の熱硬化性樹脂組成物であって, 前記無機充填剤が,硫酸バリウム又は硫酸カルシウムであることを特徴とする,レーザー加工用の熱硬化性樹脂組成物。」 ・ 本件補正後 「フェノール樹脂(トリアジン含有フェノールノボラック樹脂を除く)と,エポキシ樹脂と,無機充填剤を含有し,水酸基/エポキシ基(当量比)が0.3?1.0であるレーザー加工用の熱硬化性樹脂組成物であって, 前記無機充填剤が,硫酸バリウム又は硫酸カリウムであることを特徴とする,レーザー加工用の熱硬化性樹脂組成物(1分子中の平均水酸基含有率P((総水酸基数/総ベンゼン環数)の平均値)が0<P<1であるフェノール系硬化剤,及びポリビニルアセタール樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物を除く)。」(なお,本件補正の前後を対比すると,本件補正は,「無機充填剤」について,補正前において「硫酸バリウム又は硫酸カルシウム」と特定していたものを「硫酸バリウム又は硫酸カリウム」と変更するものであるところ,本願の明細書には無機充填剤の例として「硫酸カリウム」の記載がなく,「硫酸カルシウム」が「硫酸バリウム」とともに併記されていること(例えば【0044】,【0045】),請求人は上申書において本件補正後の請求項1に記載の「硫酸カリウム」は「硫酸カルシウム」の誤記である旨主張することなどを総合勘案すると,上記「硫酸カリウム」は「硫酸カルシウム」の誤記と解される。) 2 本件補正の目的 本件補正は,請求項1の記載に係る発明を特定するために必要な事項である「フェノール樹脂」について,「トリアジン含有フェノールノボラック樹脂」を除く旨特定し,さらに「熱硬化性樹脂組成物」(審決注:本件補正後の請求項1の「エポキシ樹脂組成物」は当該「熱硬化性樹脂組成物」と同義と解する。)として「1分子中の平均水酸基含有率P((総水酸基数/総ベンゼン環数)の平均値)が0<P<1であるフェノール系硬化剤」及び「ポリビニルアセタール樹脂」を含有するものを除く旨特定することで,補正前の発明特定事項を限定するものである。そして,本件補正の前後で,請求項1の記載に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は変わらない。 よって,本件補正は,請求項1についてする補正については,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認める。 3 独立特許要件違反の有無について 上記2のとおりであるから,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,要するに,本件補正が特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に適合するものであるか(いわゆる独立特許要件違反の有無)について検討するところ,以下説示のとおり,本件補正は当該要件に違反すると判断される。 すなわち,本願補正発明は,本願の出願日前の特許出願であって,その出願後に出願公開がされた下記の特許出願(以下「先願3」という。なお,先願3は原査定の理由で引用されたものである。)の願書に最初に添付された特許請求の範囲又は明細書に記載された発明と同一であり,しかも,本願の発明者が先願3に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また本願の出願時において,その出願人が先願3の出願人と同一でもないので,特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。 ・ 先願3: 特願2008-222732号(特開2009-231790号) 4 本願補正発明の要旨認定 上記1で述べたように本件補正後の本願の請求項1には誤記が認められるので,本願補正発明は,以下のとおりのものであると認める。 「フェノール樹脂(トリアジン含有フェノールノボラック樹脂を除く)と,エポキシ樹脂と,無機充填剤を含有し,水酸基/エポキシ基(当量比)が0.3?1.0であるレーザー加工用の熱硬化性樹脂組成物であって, 前記無機充填剤が,硫酸バリウム又は硫酸カルシウムであることを特徴とする,レーザー加工用の熱硬化性樹脂組成物(1分子中の平均水酸基含有率P((総水酸基数/総ベンゼン環数)の平均値)が0<P<1であるフェノール系硬化剤,及びポリビニルアセタール樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物を除く)。」 5 本願補正発明が特許を受けることができない理由 (1) 引用発明3 ア 先願3の特許請求の範囲及び明細書には,次の記載がある。(下線は審決による。以下同じ。) 「【請求項1】 以下の工程(A)?(D)を含む多層プリント配線板の製造方法; (A)支持体層上に金属膜層が形成された金属膜付きフィルムを,内層回路基板上に硬化性樹脂組成物層を介して積層するか,又は該金属膜層転写用フィルムの金属膜層上に硬化性樹脂組成物層が形成された金属膜付き接着フィルムを内層回路基板に積層する工程, (B)硬化性樹脂組成物層を硬化し絶縁層を形成する工程, (C)支持体層を除去する工程, (D)金属膜層を除去する工程,及び (E)無電解めっきにより絶縁層表面に金属膜層を形成する工程。… 【請求項5】 少なくとも(B)硬化性樹脂組成物層を硬化し絶縁層を形成する工程又は(C)支持体層を除去する工程の後の工程において,(F)ブラインドビアを形成する工程をさらに含む,請求項1?4のいずれか1項に記載の方法。… 【請求項17】 硬化性樹脂組成物がエポキシ樹脂及び硬化剤を含有する,請求項1?16のいずれか1項に記載の方法。 【請求項18】 硬化剤がトリアジン骨格含有フェノールノボラック樹脂であることを特徴とする請求項17記載の方法。… 【請求項20】 硬化性樹脂組成物が無機充填材をさらに含有する,請求項17?19のいずれか1項に記載の方法。…」(【特許請求の範囲】) 「<硬化性樹脂組成物層> 本発明における金属膜付き接着フィルムは,上述した金属膜層転写用フィルムの金属膜層上に硬化性樹脂組成物層が形成された構造を有する。すなわち,本発明における金属膜付き接着フィルムは,支持体層,金属膜層に加え,さらに硬化物樹脂組成物層を有する。…金属膜付き接着フィルムにおいて,硬化性樹脂組成物層に使用する硬化性樹脂組成物は,その硬化物が,十分な硬度と絶縁性を有するものであれば,特に限定なく使用でき,例えば,エポキシ樹脂,シアネートエステル樹脂,フェノール樹脂,ビスマレイミド-トリアジン樹脂,ポリイミド樹脂,アクリル樹脂,ビニルベンジル樹脂等の硬化性樹脂にその硬化剤を少なくとも配合した組成物が使用される。硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を含有する組成物が好ましく,例えば(a)エポキシ樹脂,(b)熱可塑性樹脂及び(c)硬化剤を少なくとも含有する組成物が好ましい。 (a)エポキシ樹脂としては,例えば,ビスフェノールA型エポキシ樹脂,ビフェニル型エポキシ樹脂,ナフトール型エポキシ樹脂,ナフタレン型エポキシ樹脂,ビスフェノールF型エポキシ樹脂,リン含有エポキシ樹脂,ビスフェノールS型エポキシ樹脂,脂環式エポキシ樹脂,脂肪族鎖状エポキシ樹脂,フェノールノボラック型エポキシ樹脂,クレゾールノボラック型エポキシ樹脂,ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂,ブタジエン構造を有するエポキシ樹脂,ビスフェノールのジグリシジルエーテル化物,ナフタレンジオールのジグリシジルエーテル化物,フェノール類のグリシジルエーテル化物,及びアルコール類のジグリシジルエーテル化物,並びにこれらのエポキシ樹脂のアルキル置換体,ハロゲン化物及び水素添加物等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂はいずれか1種を使用するか2種以上を混合して用いてもよい。」(【0049】?【0050】) 「(c)硬化剤としては,例えば,アミン系硬化剤,グアニジン系硬化剤,イミダゾール系硬化剤,トリアジン骨格含有フェノール系硬化剤,フェノール系硬化剤,トリアジン骨格含有ナフトール系硬化剤,ナフトール系硬化剤,酸無水物系硬化剤又はこれらのエポキシアダクトやマイクロカプセル化したもの,シアネートエステル樹脂等を挙げることができる。めっきの剥離強度を向上させる観点から,硬化剤としては分子構造中に窒素原子を有するものが好ましく,中でも,トリアジン骨格含有フェノール系硬化剤,トリアジン骨格含有ナフトール系硬化剤が好ましく,特にトリアジン骨格含有フェノールノボラック樹脂が好ましい。なお,本発明において,硬化剤は1種であっても2種以上を併用してもよい。例えば,トリアジン骨格含有フェノール系硬化剤とナフトール系硬化剤を併用してもよい。 フェノール系硬化剤,ナフトール系硬化剤の具体例としては,例えば,MEH-7700,MEH-7810,MEH-7851(明和化成(株)製),NHN,CBN,GPH(日本化薬(株)製),SN170,SN180,SN190,SN475,SN485,SN495,SN375,SN395(東都化成(株)製),TD2090,LA7052,LA7054,LA3018,LA1356(大日本インキ化学工業(株)製)等が挙げられる。」(【0059】?【0060】) 「(a)エポキシ樹脂と(c)硬化剤の配合比率は,フェノール系硬化剤またはナフトール系硬化剤の場合,エポキシ樹脂のエポキシ当量1に対してこれら硬化剤のフェノール性水酸基当量が0.4?2.0の範囲となる比率が好ましく,0.5?1.0の範囲となる比率がより好ましい。反応基当量比がこの範囲外であると,硬化物の機械強度や耐水性が低下する傾向にある。」(【0061】) 「また,当該硬化性樹脂組成物には,硬化後の組成物の低熱膨張化のために(e)無機充填材を含有させることができる。無機充填材としては,例えば,シリカ,アルミナ,雲母,マイカ,珪酸塩,硫酸バリウム,水酸化マグネシウム,酸化チタン等が挙げられ,シリカ,アルミナが好ましく,特にシリカが好ましい。なお,無機充填剤は絶縁信頼性の観点から,平均粒径が3μm以下であるのが好ましく,平均粒径が1.5μm以下であるのがより好ましい。硬化性樹脂組成物中の無機充填剤の含有量は,硬化性樹脂組成物の不揮発成分を100重量%とした時,好ましくは20?60重量%であり,より好ましくは20?50重量%である。無機充填剤の含有量が20重量%未満の場合,熱膨張率の低下効果が十分に発揮されない傾向にあり,無機充填剤の含有量が60重量%を超えると,硬化物の機械強度が低下するなどの傾向となる。」(【0063】) 「本発明の多層プリント配線板の製造方法において,公知の方法により,ブラインドビアやスルーホールの形成を行ってもよい。多層プリント配線板のビルドアップされた絶縁層では,一般にブラインドビアにより層間の導通が行われる。スルーホールの形成は一般にコア基板において行われるが,絶縁層形成後にスルーホールが形成されてもよい。この場合,デスミア工程と同様の処理(例えば,後掲記載の酸化剤によるデスミア処理)をスルーホールに適用することができる。なおスルーホール形成には,一般に機械ドリルが用いられ,ブラインドビアの形成には,一般に炭酸ガスレーザー,YAGレーザー等レーザーが用いられる。」(【0089】) イ 上記アの摘記から,先願3の特許請求の範囲及び明細書には,エポキシ樹脂及び硬化剤を含有する硬化性樹脂組成物が記載されているといえるところ(【請求項17】など),当該硬化剤として用いられるものとしては,トリアジン骨格含有フェノールノボラック樹脂(【請求項18】など)のほか,例えばフェノール系硬化剤(【0059】など)の例示がある。すなわち,先願3の明細書などに記載の硬化剤は,トリアジン骨格含有フェノールノボラック樹脂に限定されない。 また,先願3の明細書には,フェノール系硬化剤を用いる場合について,エポキシ樹脂と硬化剤(フェノール系硬化剤)との配合比率についての記載もある(【0061】)。 そうすると,先願3の特許請求の範囲及び明細書には,次の発明(引用発明3)が記載されていると認めることができる。 「硬化性樹脂組成物を硬化して絶縁層を形成する工程と,上記絶縁層を形成する工程の後の工程においてブラインドビアを形成する工程を含む多層プリント配線板の製造方法で用いられる硬化性樹脂組成物であって,エポキシ樹脂,フェノール系硬化剤及び無機充填材を含有し,当該エポキシ樹脂と当該フェノール系硬化剤の配合比率がエポキシ樹脂のエポキシ当量1に対するフェノール系硬化剤のフェノール性水酸基当量として0.5?1.0である硬化性樹脂組成物」 (2) 対比 ア 本願補正発明と引用発明3を対比すると,引用発明3の「フェノール系硬化剤」は本願補正発明の「フェノール樹脂」に相当する。 また,引用発明3は,「硬化性樹脂組成物」を構成するエポキシ樹脂とフェノール系硬化剤との配合比率について,「エポキシ樹脂のエポキシ当量1に対するフェノール系硬化剤のフェノール性水酸基当量として0.5?1.0」と特定するものであるところ,これは本願補正発明の「水酸基/エポキシ基(当量比)が0.3?1.0」との特定において「0.5?1.0」の範囲で一致する。 また,引用発明3の「硬化性樹脂組成物」は,これを硬化して絶縁層を形成した後にさらにブラインドビアを形成する工程を含む多層プリント配線板の製造方法で用いられるものであるところ,上記ブラインドビアの形成は一般に炭酸ガスレーザー,YAGレーザー等レーザーが用いられるのであるから(先願3の明細書【0089】),引用発明3の「硬化性樹脂組成物」の用途は,本願補正発明の「熱硬化性樹脂組成物」と同様,「レーザー加工用」であるといえる。 さらに,引用発明3は「ポリビニルアセタール樹脂」を含有するものではない。 イ そうすると,本願補正発明と引用発明3との一致点,相違点(相違点1?2)はそれぞれ次のとおりである。 ・ 一致点 「フェノール樹脂とエポキシ樹脂と無機充填剤を含有し,水酸基/エポキシ基(当量比)が0.5?1.0であるレーザー加工用の熱硬化性樹脂組成物(ポリビニルアセタール樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物を除く)」である点。 ・ 相違点1 フェノール樹脂(フェノール系硬化剤)について,本願補正発明は「トリアジン含有フェノールノボラック樹脂」及び「1分子中の平均水酸基含有率P((総水酸基数/総ベンゼン環数)の平均値)が0<P<1であるフェノール系硬化剤」を除くと特定するものであるのに対し,引用発明3はそのような特定事項を有しない点。 ・ 相違点2 無機充填剤(無機充填材)について,本願補正発明は「硫酸バリウム又は硫酸カルシウムである」と特定するのに対し,引用発明3はそのような特定事項を有しない点。 (3) 相違点についての判断 ア 相違点1について 上記(1)イでも述べたように,引用発明3の「フェノール系硬化剤」は「トリアジン含有フェノールノボラック樹脂」とは別のものである。仮に,引用発明3の「フェノール系硬化剤」に「トリアジン含有フェノールノボラック樹脂」が包含されるといえたとしても,当該「フェノール系硬化剤」は「トリアジン含有フェノールノボラック樹脂」に限定されないから,「トリアジン含有フェノールノボラック樹脂」以外の部分において,引用発明3の「フェノール系硬化剤」は本願補正発明と相違しない。 また,フェノール系硬化剤の「1分子中の平均水酸基含有率P((総水酸基数/総ベンゼン環数)の平均値)」は「0<P<1」の範囲に限定されるものではない。そうすると,引用発明3の「フェノール系硬化剤」は,上記Pの値が「0<P<1」以外の部分において,本願補正発明と相違しない。 したがって,相違点1は実質的な相違点でないといえる。 イ 相違点2について 引用発明3の「無機充填材」について,先願3の明細書には「硫酸バリウム」の例示がある。そして,引用発明3の「無機充填材」が「硫酸バリウム」である場合において,本願補正発明と相違しない。 したがって,相違点2も実質的な相違点でないといえる。 この点,請求人は,本願補正発明は無機充填剤として硫酸バリウム又は硫酸カルシウムを使用するところ,硫酸バリウムと硫酸カルシウムはFT-IRによる赤外線吸収スペクトルにおいて炭酸ガスレーザーの波長帯で強い吸収ピークを持ち,レーザー加工時に容易に昇華又は分解するため,レーザー加工後の残渣を抑制することができるといった先願3の明細書などに記載のない作用効果を発揮する旨主張する(意見書2頁など)。 しかし,本願補正発明の熱硬化性樹脂組成物は「レーザー加工用」の組成物ではあるが,炭酸ガスレーザー加工用に限定されるものではない。すなわち,仮に,限定された用途(炭酸ガスレーザー加工用)に請求人主張の如くの作用効果を認定することができたからといって,そのような限定のない単に「レーザー加工用」と特定するだけの本願補正発明に請求人主張の作用効果を認定することはできない。請求人の主張は,採用できない。 (4) 小括 以上のとおり,本願補正発明は,先願3の願書に最初に添付された特許請求の範囲又は明細書に記載された発明と同一である。しかも,本願の発明者(依田健志ら)が先願3に係る上記の発明をした者(奈良橋弘久ら)と同一ではなく,また本願の出願時において,その出願人(太陽インキ製造株式会社)が先願3の出願人(味の素株式会社)と同一でもない。 よって,本願補正発明は,特許法29条の2の規定により特許を受けることができないものであるといえる。 (5) まとめ 以上のとおりであるから,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 よって,結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 上記第2のとおり,本件補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成25年3月8日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「フェノール樹脂と,エポキシ樹脂と,無機充填剤を含有し, 水酸基/エポキシ基(当量比)が0.3?1.0であるレーザー加工用の熱硬化性樹脂組成物であって, 前記無機充填剤が,硫酸バリウム又は硫酸カルシウムであることを特徴とする,レーザー加工用の熱硬化性樹脂組成物。」 2 原査定の理由 原査定の理由は,要するに,本願発明は,本願の出願日前の特許出願であって,その出願後に出願公開がされた上記先願3の願書に最初に添付された特許請求の範囲又は明細書に記載された発明と同一であり,しかも,本願の発明者が先願3に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また本願の出願時において,その出願人が先願3の出願人と同一でもないので,特許法29条の2の規定により特許を受けることができない,というものである。 3 引用発明3 先願3の願書に最初に添付された特許請求の範囲及び明細書に記載された発明(引用発明3)は,上記第2_5(1)イにおいて認定のとおりである。 4 対比・判断 本願発明は,本願補正発明との比較において,発明を特定するために必要な事項である「フェノール樹脂」について「(トリアジン含有フェノールノボラック樹脂を除く)」との特定がなく,さらに「熱硬化性樹脂組成物」について「1分子中の平均水酸基含有率P((総水酸基数/総ベンゼン環数)の平均値)が0<P<1であるフェノール系硬化剤」及び「ポリビニルアセタール樹脂」を含有するものを除く旨の特定がないものである(上記第2_1参照)。すなわち,本願補正発明は,本願発明の構成を包含するものであるといえる。 そして,本願発明の特定事項をすべて含む本願補正発明が,上述のとおり,特許法29条の2の規定により特許を受けることができないものである以上,本願発明も,同様の理由により,特許法29条の2の規定により特許を受けることができないものであるといえる。 第4 むすび 以上のとおり,本願発明は,本願の出願日前の特許出願であって,その出願後に出願公開がされたものの願書に最初に添付された特許請求の範囲又は明細書に記載された発明と同一であり,しかも,本願の発明者が上記特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,また本願の出願時において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,特許法29条の2の規定により特許を受けることができないと判断される。 原査定の理由は妥当なものである。 そうすると,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-02-24 |
結審通知日 | 2015-03-04 |
審決日 | 2015-03-17 |
出願番号 | 特願2009-26308(P2009-26308) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(C08G)
P 1 8・ 16- Z (C08G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中村 英司 |
特許庁審判長 |
田口 昌浩 |
特許庁審判官 |
大島 祥吾 須藤 康洋 |
発明の名称 | 熱硬化性樹脂組成物、ドライフィルムおよびプリント配線板とその製造方法 |
代理人 | 特許業務法人 天城国際特許事務所 |