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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1300434
審判番号 不服2013-6590  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-10 
確定日 2015-05-07 
事件の表示 特願2009-543335「リポソーム医薬製剤及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年7月10日国際公開、WO2008/080367、平成22年5月6日国内公表、特表2010-514708〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年12月29日(パリ条約による優先権主張 2006年12月29日 中華人民共和国)を国際出願日とする特許出願であって、平成21年9月10日に手続補正書が提出され、平成24年6月6日付けで拒絶理由が通知され、同年9月11日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月5日付けで拒絶査定され、平成25年4月10日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に、手続補正書が提出され、同年6月4日付けで前置審査の結果が報告され、当審において、平成26年2月12日付けで審尋され、同年6月3日に回答書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成25年4月10日付け手続補正書による補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成25年4月10日付け手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項ただし書第4号に掲げる場合の補正であって、特許請求の範囲の請求項1について以下の補正をすることを含むものである。

本件補正前の
「リポソーム薬物であって、
(1)該リポソーム薬物が、有効成分として解離定数が4.5?9.5の2つ以上の解離基を有する多価イオン性薬物を含み、
(2)該リポソーム薬物のリポソームの大きさが30?80nmであり、
(3)該リポソームの二重層が、相転移温度(Tm)が体温よりも高いリン脂質、コレステロール及び親水性ポリマー修飾脂質を含み、
(4)該リポソームのリポソーム内相が多価対イオンを含み、且つ
(5)該リポソームの相転移温度Tmが体温よりも高い、
リポソーム薬物。」
を、
「リポソーム薬物であって、
(1)該リポソーム薬物が、有効成分として解離定数が4.5?9.5の2つ以上の解離基を有する多価イオン性薬物を含み、
(2)該リポソーム薬物のリポソームの大きさが40?70nmであり、
(3)該リポソームの二重層が、相転移温度(Tm)が体温よりも高いリン脂質、コレステロール及び親水性ポリマー修飾脂質を含み、
(4)該リポソームのリポソーム内相が多価対イオンを含み、且つ
(5)該リポソームの相転移温度Tmが体温よりも高く、
前記相転移温度(Tm)が体温よりも高いリン脂質が、前記二重層中のリン脂質の合計含量に対して、50?100mol/mol%である、
リポソーム薬物。」
とする補正

そして、上記請求項1に係る本件補正は、次の2つの補正事項を含むものである。
(A)リポソームの大きさを「30?80nm」から「40?70nm」とする補正
(B)「前記相転移温度(Tm)が体温よりも高いリン脂質が、前記二重層中のリン脂質の合計含量に対して、50?100mol/mol%である」ことを追加する補正

2.本件手続補正の目的
補正事項(A)は、リポソームの大きさを規定する数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、補正事項(B)は、本件補正前の請求項1において特定されていた「相転移温度(Tm)が体温よりも高いリン脂質」について、その含有量を特定するものであるから、やはり特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、請求項1に係る本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
次に、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について検討する。

(1)本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される次のとおりのものである。

「リポソーム薬物であって、
(1)該リポソーム薬物が、有効成分として解離定数が4.5?9.5の2つ以上の解離基を有する多価イオン性薬物を含み、
(2)該リポソーム薬物のリポソームの大きさが40?70nmであり、
(3)該リポソームの二重層が、相転移温度(Tm)が体温よりも高いリン脂質、コレステロール及び親水性ポリマー修飾脂質を含み、
(4)該リポソームのリポソーム内相が多価対イオンを含み、且つ
(5)該リポソームの相転移温度Tmが体温よりも高く、
前記相転移温度(Tm)が体温よりも高いリン脂質が、前記二重層中のリン脂質の合計含量に対して、50?100mol/mol%である、
リポソーム薬物。」

(2)引用刊行物及びその記載について
ア.引用刊行物
刊行物1.特表2006-515578号公報(原査定の引用文献1)
刊行物2.特開2006-298844号公報(原査定の引用文献2)

イ.刊行物1の記載事項
本願の出願(優先日)前に頒布された刊行物1には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
内部がより低く/外部がより高いpH勾配を有する勾配充填されたリポソームを形成する方法であって、該方法は、以下:
(a)製剤のプロトン化形態が電荷を帯び、リポソームの膜を透過し得ず、そして該製剤の非プロトン化形態が電荷を帯びず、該リポソームの膜を透過し得る温度で、約60mMまでの酸水溶液中でリポソーム溶液を製剤と接触させる工程;
(b)前記製剤の非プロトン化形態が該リポソームの膜を透過し得ない温度まで、該溶液を冷却する工程;
(c)内部リポソームのpHを上昇させるのに有効な量で、溶液を弱塩基と接触させて、内部がより低く/外部がより高いpH勾配を有する勾配充填されたリポソームを提供する工程、
を包含する、方法。
……
【請求項9】
前記リポソームがホスファチジルコリンを含み、さらにコレステロールを含む、請求項1に記載の方法。
……
【請求項12】
前記リポソームが単層であり、約100nm未満である、請求項1に記載の方法。
……
【請求項20】
前記酸が、ギ酸、酢酸、プロパン酸、酪酸、ペンタン酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、安息香酸、アコニット酸、ベラトルム酸、リン酸、硫酸、およびこれらの組み合わせの群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記酸がクエン酸である、請求項1に記載の方法。
……
【請求項28】
前記製剤が、イオン化塩基性抗腫瘍薬である、請求項1に記載の方法。
……
【請求項31】
前記アントラセンジオンが、ミトキサントロンである、請求項29に記載の方法。
……
【請求項67】
前記リポソーム処方物を介する前記抗腫瘍薬の投与は、遊離形態での抗腫瘍薬の投与に関連する毒性プロフィールよりも低い毒性プロフィールを有する、請求項65に記載の方法。
……
【請求項69】
前記抗腫瘍薬の投与は、発生率、重症度、またはこれらの組み合わせにおいて、遊離形態での抗腫瘍薬の投与に関連する望ましくない副作用よりも低い望ましくない副作用を有する、請求項65に記載の方法。
……
【請求項71】
以下:
(a)製剤のプロトン化形態が電荷を帯び、リポソームの膜を透過し得ず、そして該製剤の非プロトン化形態が電荷を帯びず、リポソームの膜を透過し得る温度で、約60mMまでの酸の水溶液中で、リポソーム溶液を該製剤と接触させる工程;
(b)該製剤の非プロトン化形態がリポソームの膜を透過し得ない温度まで、該溶液を冷却する工程;および
(c)内部リポソームのpH値を上昇させるのに有効な量で、該溶液を弱塩基と接触させて、内部が低く/外部がより高いpH勾配を有する勾配充填されたリポソームを提供する工程、
を包含するプロセスによって調製される、内部がより低く/外部がより高いpH勾配を有する勾配充填されたリポソーム。」(特許請求の範囲)

(イ)「(発明の背景)
リポソームは、内部に水性物を取り込んだ完全に閉鎖された脂質二分子膜である。リポソームは、単層の小胞(単一の膜二重層を有する)、または多重膜小胞(各々が水性層によって隣の層から隔てられた複数の膜二重層によって特徴づけられたタマネギ状の構造)である場合がある。この二重層は、疎水性の「テイル」領域および親水性「ヘッド」領域を有する2つの脂質単層からなる。この膜二重層の構造は、脂質単層の疎水性(無極性)「テイル」が二重層の中心方向へ配向し、一方親水性「頭部」は水性相の方へ配向するような状態である。」(段落0002)

(ウ)「(発明の要旨)
高い薬物:脂質比を好ましく有し、リポソーム中の製剤(例えば抗腫瘍薬)をカプセル化するための方法を提供する。リポソームは、膜内外pH勾配を使用した能動的な機序によって薬物を充填するプロセスにより作成することができる。この技術を使用して、取込み効率は100%近くに達する。使用された薬物:脂質比は、旧来のリポソーム処方物における比率よりも高く、リポソームからの薬物の放出率が低減されている。……」(段落0018)

(エ)「本発明は、膜内外pH勾配を示すリポソーム中の抗腫瘍薬を効率的に捕捉するために提供される。本発明のリポソーム処方物は、投与後にオリジナルのpH勾配を本質的に有するリポソームを提供する。本発明のリポソームは、古くからの従来のリポソームシステムよりも有意に高い脂質比率の薬物を有する。本発明のリポソーム処方物は、抗腫瘍薬などの薬物を取り込む薬物送達システムとして使用することができる。本発明のリポソームは、遊離の薬物と比較して、改善された薬物動態、増強された効力(生理活性)、より低い毒性を有し、改善された治療係数を提供する。このようなものとして、本発明のリポソーム処方物が、アントラサイクリン類(例えばドキソルビシン、エピルビシンおよびダウノルビシン)、アントラセンジオン類(例えばミトキサントロン)、ビンカアルカロイド類(例えばビンクリスチンおよびビンブラスチン)、……などの有毒な抗腫瘍薬を取り込む薬物送達システムとして使用される場合、このようなリポソームの処方物は抗腫瘍薬の毒性を減少させるために使用することができる。」(段落0026)

(オ)「本明細書に使用されるように、用語「カプセル化」および「取り込まれた」は、リポソーム中またはリポソームとともに製剤が取り込まれているか、または関連していることを指す。この薬物は、脂質二重層、あるいはリポソームの水性内部、あるいはその両方に関係している。一実施形態において、被包性製剤の一部はリポソームの内部中で沈殿塩の形態をとる。薬物はリポソームの内部で自己沈殿する場合もある。」(段落0032)

(カ)「本明細書に使用された用語「賦形剤」、「対イオン」、および「対イオン賦形剤」は、薬物の充填を開始または促進し、リポソームの水性内部中の製剤の沈殿を開始または促進する物質を指す。賦形剤の例としては、塩化物、酢酸塩、ラクトビオネート、およびギ酸塩などの一価陰イオンの酸、ナトリウム、あるいはアンモニウム塩形態、アスパラギン酸、コハク酸塩、および硫酸塩などの二価陰イオン、およびクエン酸塩およびリン酸などの三価イオンなどがあるがこれに限定されない。賦形剤はクエン酸塩および硫酸塩を含むことが好ましい。」(段落0033)

(キ)「「リン脂質」はリポソームを形成することができるあらゆるリン脂質またはリン脂質の組み合わせを指す。卵、ダイズ、または他の植物源より得られるもの、部分的または完全な合成のもの、あるいは可変脂質鎖長および不飽和のものを含むホスファチジルコリン類(PC)が本発明における使用に好ましい。これに限定されないが、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)、ダイズホスファチジルコリン(ダイズPC)、卵ホスファチジルコリン(卵PC)、水素化卵ホスファチジルコリン(HEPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、およびジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)などの合成、半合成および天然物のホスファチジルコリン類は、本発明で使用される好ましいホスファチジルコリンである。これらのリン脂質はすべて市販されている。PCは、HSPCおよびDSPCが好ましく、さらにHSPCが最も好ましい。
……。さらに、本発明によりリン脂質を含むポリエチレングリコール(PEG)の取り込みも予期される。」(段落0034?0035)

(ク)「本発明により、リポソーム処方物中に任意にコレステロールを含めることが予期される。コレステロールは、リポソーム安定性を改善し、インビボでリポタンパク質へのリン脂質の損失を防止することが知られている。」(段落0039)。

(ケ)「上述のように、薬物は一般に公知の充填方法を用いて(……)、あらかじめ形成されたリポソーム中に充填される。充填はpH勾配による。これは約pH2?3の内部pH値から始めることが好ましい。賦形剤は、充填プロセス中の対イオンであり、これがリポソームの内部で薬物と接触するようになると、賦形剤は薬物の相当部分を沈殿させる。薬物はリポソームの内部で自己沈殿する場合もある。この沈殿は薬物および脂質を分解(例えば加水分解)から保護する。クエン酸塩または硫酸塩などの賦形剤は、薬物を沈殿させ、薬物充填を促進するために勾配(pHまたはアンモニア)と共に、リポソームの内部で利用することができる。」(段落0045)

(コ)「リポソームの治療上の使用は、遊離形態で通常有毒な薬物の送達を含むことができる。リポソームの形態では、有毒な薬物は毒性を招く感受性のある組織から隔てられ、それらが治療効果を発揮することができる選択された領域をターゲットとする。リポソームは、長時間にわたり治療上薬物を徐々に放出するために使用することもでき、これにより増強された薬物動態学的プロフィールによって投薬の頻度を減少させることができる。……」(段落0047)

(サ)「(リポソーム調製のための一般手順)
多様なモル比の水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)、コレステロール(コレステロール)、およびジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)を含む多様なリン脂質を含む噴霧乾燥された脂質粉末を調製した。試験された脂質比率は、HSPC:コレステロール:DSPGa)2:1:0、b)2:1:0.1である。
(噴霧乾燥された脂質粉末の調製)
全ての脂質成分を秤量し、最終脂質濃度が約200mg/mlとなるように、丸底フラスコ中でクロロホルム:メタノール1:1(v/v)の溶媒を脂質粉末に加えた。続いて、計画されたパラメータ設定でYAMATO GB-21噴霧乾燥機を使用し、脂質溶液を噴霧乾燥させ、脂質粉末を形成させた。減圧下で3?5日間トレードライヤーに脂質を放置し、脂質粉末中の残留溶媒を除去した。
(薬物ストック溶液の調製)
必要な薬物を秤量し、注射用蒸留水(WFI)の中に溶解した。通常薬物ストック溶液の濃度は約20mg/mlである。ビノレルビン(NAV)、エピルビシン(EPR)、ミトキサントロン(MITO)、ビンクリスチン(VCR)、およびドキソルビシン(DOXO)のストック溶液を調製した。
(対イオンストック溶液の調製)
あらかじめ決定された濃度に基づいて、対イオン粉末を秤量し、WFI中に溶解した。必要に応じ、対イオン溶液の最終pH値を設計されたpH値に調整した。以下の対イオンの溶液を調製した。クエン酸(CA)、硫酸アンモニウム(NH_(4))_(2)S0_(4))、クエン酸トリアンモニウム(NH_(4))_(3)クエン酸塩)、およびラクトビオン酸(LBA)。
(脂質フィルムまたは噴霧乾燥された脂質粉末のいずれかからのプローブ超音波処理による薬物充填前リポソーム(空のリポソーム)の調製)
脂質フィルムまたは脂質粉末を秤量し、実験計画に依存して100mg/mlから150mg/mlの間の脂質濃度で、所望の対イオン溶液と水和させた。溶液が半透明になるまで、水和溶液をプローブ超音波処理にかけた。超音波処理の一般的な温度は65℃であり、一般な超音波処理時間は15?20分である。超音波処理の終了後、リポソームを以下の洗浄プロセスのうちの1つにより処理した。a)リポソームを室温まで冷却し、9%ショ糖による緩衝液交換のためのセファデックスG-50カラムに透明な溶液を加えた。あるいは、b)超音波処理の完了後、直ちにリポソーム溶液を同じ対イオン溶液で1?3倍に希釈し、続いてこの希釈液を9%ショ糖による洗浄/緩衝液交換のための限外濾過(U.F.)に提供した。リポソームの最終脂質濃度は、U.F.プロセスを通じて約50mg/mlに維持された。
(噴霧乾燥された脂質粉末からの均質化によるリポソームの調製)
脂質粉末を秤量し、50mg/ml?75mg/mlの間の脂質濃度の所望の対イオン溶液で水和させた。10,000PSI、約55℃でニロホモジナイザを使用して、溶液が半透明になるまで水和溶液を均質化させた。一般的な均質化プロセスは約10パスを採用した。均質化終了後、リポソーム溶液は9%ショ糖による洗浄/緩衝液交換のための限外濾過を行った。
(薬物充填リポソームの調製)
適切な量の空のリポソームを測定し、この空のリポソームに計算量の薬物ストック溶液を加えた。一般的な初期薬物対脂質比は重量比で20:1であった。続いて、システムを55℃でインキュベートし、水酸化ナトリウムを使用してシステムのpH値を所望のpH値、一般にpH5.8?pH6.5に調整した。システムは、20?30分間の充填/インキュベート時間が一般に与えられた。続いて、薬物充填後リポソームをカラム分離またはU.F.プロセスを通し、9%ショ糖または(失活用)設計された緩衝液による緩衝液交換を行い、さらに未充填の遊離の薬物を除去した。酢酸セルロース0.22ミクロンのフィルタにより、このリポソームを室温で濾過した。」(段落0064?0070)

(シ)「(実施例2 ミトキサントロンリポソーム)
MITOストック溶液は約20mg/mlであった。空のリポソームの脂質濃度は50mg/mlであった。適切な量の空のリポソームを測定した。薬物ストック溶液の計算量を空のリポソームに加えた。また薬物対脂質比は重量比で20:1であった。システムを55℃でインキュベートし、水酸化ナトリウムを使用してシステムのpHを8.0に調整した。薬物充填のためにシステムを55℃で20分間インキュベートした。続いて、薬物充填後リポソームを洗浄プロセスに通し、9%のショ糖による緩衝液交換によって任意の未充填の遊離の薬物を除去した。失活を行う場合は、緩衝液交換のための溶液が設計された失活溶液となる。酢酸セルロース0.22ミクロンフィルターで室温でリポソームを濾過した。リポソームの評価の結果を下表に示す。
【表2】

」(段落0072?0073)

ウ.刊行物1に記載の発明
刊行物1には、製剤を含むリポソームに関して記載され(摘示(ア)の請求項1及び71等)、製剤としてミトキサントロンが例示されるとともに(摘示(ア)の請求項31及び摘示(エ))、実施例2としてミトキサントロンが具体的に使用されている(摘示(サ)及び(シ))。
また、刊行物1には、リポソームの大きさが約100nm未満であり(摘示(ア)の請求項12)、実施例2では具体的に49.3?65.0nmのサイズのもの(No.5は55.3nm)が製造されている(摘示(シ)の表2)。
さらに、刊行物1には、リポソームがホスファチジルコリン及びコレステロールを含むことが記載されるとともに(摘示(ア)の請求項9並びに摘示(キ)及び(ク))、実施例2(No.5)に具体的に水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)及びコレステロール(Chol)をモル比で2:1の割合で含むものが製造されている(摘示(サ)及び(シ)の表2)。なお、リポソームが二重層であり(摘示(イ))、リポソームを形成する脂質はこの二重層を形成する脂質であることは、当業者に自明のことである。
そして、刊行物1には、リポソームの水性内部中に「対イオン」(賦形剤)を含むことも記載され(摘示(ア)の請求項20及び21並びに摘示(カ)及び(ケ))、対イオンとして、クエン酸塩や硫酸塩のような多価のものが例示され(摘示(カ)及び(ケ))、実施例2(No.2?6)において具体的に対イオンとしてクエン酸(CA)を存在させている(摘示(サ)及び(シ)の表2)。

そうすると、刊行物1には、主に実施例2に依拠して、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると言える。
「リポソームであって、該リポソームが、製剤としてミトキサントロンを含み、該リポソームのサイズが55.3nmであり、該リポソームの二重層が水素化ダイズホスファチジルコリン及びコレステロールをモル比で2:1の割合で含み、リポソームの水性内部中に多価対イオンとしてのクエン酸を含むリポソーム」

(3)対比
補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「製剤」は、刊行物1の記載から(摘示(ア)の請求項28及び摘示(エ)など)、抗腫瘍薬等の薬剤を示すものであることが明らかであるから、補正発明の「有効成分」に相当し、また、本願明細書に「ミトキサントロンは、生理的pHで2つの解離基(pKa=8.15)を含有する」(段落0059)と記載されていることから、引用発明のミトキサントロンは、補正発明の「解離定数が4.5?9.5の2つ以上の解離基を有する多価イオン性薬物」に相当する。
引用発明のリポソームのサイズである55.3nmは、補正発明のリポソームの大きさの数値範囲内のものである。
引用発明の「水素化ダイズホスファチジルコリン」は、補正発明における「リン脂質」に相当する。
引用発明の「リポソームの水性内部中」は、補正発明の「リポソーム内相」に相当し、引用発明の「多価対イオンとしてのクエン酸」は、補正発明の「多価対イオン」に相当する。
引用発明の「リポソーム」は、製剤(抗腫瘍薬等の薬剤)をカプセル化した又は取り込んだものであるから(摘示(ウ)及び(オ))、補正発明の「リポソーム薬物」に相当する。
そうすると、両者は、
「リポソーム薬物であって、
(1)該リポソーム薬物が、有効成分として解離定数が4.5?9.5の2つ以上の解離基を有する多価イオン性薬物を含み、
(2)該リポソーム薬物のリポソームの大きさが40?70nmであり、
(3)該リポソームの二重層が、リン脂質及びコレステロールを含み、
(4)該リポソームのリポソーム内相が多価対イオンを含む、
リポソーム薬物」
の点で一致し、次の点で相違している。

相違点A:
補正発明では、(3)のリポソームの二重層について、「相転移温度(Tm)が体温よりも高いリン脂質、コレステロール及び親水性ポリマー修飾脂質を含み」及び「前記相転移温度(Tm)が体温よりも高いリン脂質が、前記二重層中のリン脂質の合計含量に対して、50?100mol/mol%である」と特定し、かつ「(5)該リポソームの相転移温度Tmが体温よりも高く」と特定しているのに対し、引用発明では、「水素化ダイズホスファチジルコリン及びコレステロールをモル比で2:1の割合で含」むことのみ規定している点

(4)判断
上記相違点Aについて検討する。
ア.「相転移温度(Tm)が体温よりも高いリン脂質」について
本願明細書には、次の記載がある。
「したがって、一態様において、本発明は、……、リン脂質二重層中にTmが体温よりも高いリン脂質を有し、その結果、リポソームの相転移温度が体温よりも高い、リポソーム製剤を提供する。上記リン脂質の例としては、限定するものではないが、ホスファチジルコリン、水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、……が挙げられる。」(段落0014)
「好ましくは、本発明のリポソーム医薬製剤は、相転移温度Tmが比較的高いリン脂質、例えば、ホスファチジルコリンを用いて製造される。ホスファチジルコリンのTmが体温よりも高い場合、その炭化水素鎖の長さは、好ましくは16炭素以上である。好ましくは、本発明のリン脂質としては、限定するものではないが、水素添加大豆ホスファチジルコリン、……が挙げられる。」(段落0026)
これらの記載からみて、「水素添加大豆ホスファチジルコリン」は相転移温度(Tm)が体温よりも高いリン脂質であるといえる。なお、刊行物2には、水素添加大豆ホスファチジルコリンの相転移温度が54℃であることが記載されていることからみても(段落0023)、この点に疑う余地はない。
そして、引用発明で使用している「水素化ダイズホスファチジルコリン」は本願明細書でいう「水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC)」と同じ物質であることは当業者に自明である。
そうすると、引用発明の「水素化ダイズホスファチジルコリン」は「相転移温度(Tm)が体温よりも高いリン脂質」であるから、両者はこの点で相違しない。

イ.「相転移温度(Tm)が体温よりも高いリン脂質」の含有比率について
さらに、引用発明は、水素化ダイズホスファチジルコリン及びコレステロールをモル比で2:1の割合で含むものである。そして、上記したとおり、水素化ダイズホスファチジルコリンが「相転移温度(Tm)が体温よりも高いリン脂質」であり、コレステロールはリン脂質ではないことから、二重層中のリン脂質の合計含量に対する「相転移温度(Tm)が体温よりも高いリン脂質」の含量は、100mol/mol%である。
これは、補正発明で特定する数値範囲内であって、両者はこの点により相違しない。

ウ.「リポソームの相転移温度Tm」について
補正発明では、「リポソームの相転移温度Tmが体温よりも高く」と特定しているが、実施例において、例えば、実施例2のPLM60(段落0051)や実施例5のPLM60-dppc(段落0054)のリポソームの相転移温度は測定されておらず、体温より高いことは確認されていない。
ところで、本願明細書には、
「リン脂質二重層中にTmが体温よりも高いリン脂質を有し、その結果、リポソームの相転移温度が体温よりも高い、リポソーム製剤を提供する。」(段落0014)
「一実施形態において、本発明は、……、リン脂質二重層中のTmが体温よりも高いリン脂質を有し、リポソームの相転移温度が体温よりも高い、リポソーム製剤を提供する。
好ましくは、本発明のリポソーム医薬製剤は、相転移温度Tmが比較的高いリン脂質、例えば、ホスファチジルコリンを用いて製造される。……。好ましくは、本発明のリン脂質としては、限定するものではないが、水素添加大豆ホスファチジルコリン、水素添加卵黄ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)若しくはジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)又はそれらの任意の組合せが挙げられる。
本発明のリポソーム製剤において、リン脂質二重層中のTmが体温よりも高いリン脂質は、すべてのリン脂質の合計含量に対して、約50?100mol/mol%、……である。必要に応じて、リン脂質二重層は、さらなるリン脂質、例えば、Tmが体温以下であるリン脂質、例えば、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)等を含み得る。かかるリン脂質は、リポソーム製剤の相転移温度が体温より低くならない限り、リポソーム中に任意の好適な量で存在し得る。……
好ましくは、本発明のリポソーム製剤は、コレステロールをさらに含み得る。コレステロールは、膜流動性を調節する機能を有する。リポソーム膜が50%(mol/mol)コレステロールを含む場合、リポソーム膜の相転移は消失する場合がある。コレステロールは……「流動性緩衝剤」と呼ばれるが、相転移温度下のリン脂質にコレステロールを添加すると、膜の規則配列が低減し、且つ膜流動性を増大することができる一方、相転移温度を上回るリン脂質へコレステロールを添加すると、膜の規則配列が増大し、且つ膜流動性が低減する可能性がある。本発明のリポソーム製剤において、コレステロールの含量は、リポソームの成分の総量に対して、2?60mol/mol%、……であり得る。より具体的には、コレステロールの含量は、リポソームの成分の総量に対して、15?45mol/mol%、例えば20?40mol/mol%であり得る。……」(段落0025?0028)
と記載されていることからみて、リポソーム膜のコレステロール含量が50mol/mol%以上でなく(例えば、リポソームの成分の総量に対して20?40mol/mol%)、かつ、相転移温度(Tm)が体温以下であるリン脂質を含まない場合には、補正発明でいう「リポソームの相転移温度Tmが体温より高く」を満たすものと解される。
そして、引用発明は、水素化ダイズホスファチジルコリン及びコレステロールをモル比で2:1の割合で含むものであるところ、水素化ダイズホスファチジルコリンが「相転移温度(Tm)が体温よりも高いリン脂質」であることは上記したとおりであり、ジミリストイルホスファチジルコリンのような相転移温度が体温以下のリン脂質を使用しておらず、リポソーム膜がコレステロールを
1/(2+1)=33.3%(mol/mol)
含むものであるから、上記した点からみて、引用発明のリポソームの相転移温度Tmは体温よりも高いものと解される。
そうすると、両者はこの点により相違しない。

エ.「親水性ポリマー修飾脂質」について
補正発明では、「親水性ポリマー修飾脂質」が使用されている。
この「親水性ポリマー修飾脂質」に関し、本願明細書には、次の記載がある。
「当然のことながら、本発明のリポソーム中のリン脂質二重層は、さらなる賦形剤、とりわけリポソームの表面特性をさらに修飾してリポソームにより良好なin vivoでの挙動を与える賦形剤も含み得る。かかる賦形剤としては、例えば、親水性ポリマーで修飾した脂質物質が挙げられ、その例は、PEG修飾ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE-PEG)、PEG修飾ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG-PEG)、PEG修飾コレステロール(chol-PEG)、……である。」(段落0029)
すなわち、補正発明における「親水性ポリマー修飾脂質」とは、リン脂質等の脂質にPEG等の親水性ポリマーが結合したものであると解される。
ところで、刊行物1には、「本発明によりリン脂質を含むポリエチレングリコール(PEG)の取り込みも予期される。」(摘示(キ))と記載されている。上記摘示(キ)の箇所は、リポソームの形成に使用されるリン脂質について説明されており、その文脈からみて、「リン脂質を含むポリエチレングリコール(PEG)の取り込み」とは、「PEGを含有するリン脂質の取り込み」の意味であると理解される。このことは、刊行物1の基になった国際公開第2004/047800号の対応箇所の“incorporation of polyethylene glycol (PEG) containing phospholipids”との記載にも沿うものである。すなわち、刊行物1には、PEGが結合したリン脂質を使用することの示唆があるといえる。
そして、刊行物2には、
「ポリアルキレンオキシド基またはPEG基をリポソーム膜表面に付けることにより、崩壊、凝集といったリポソーム自体の不安定性が解決され、水性分散液における経時安定性も改善される。さらに新たな機能をリポソームに付与することができる。例えば、PEG化リポソームには免疫系から認識されにくくなる効果が期待できる。さらにリポソームは、PEG基の導入により溶媒の水分子とPEG基とが相互作用をして水和層が形成され、親水的傾向を示す。このことからリポソームの水性分散液での安定性が増すとともに、血中での安定性も増して長時間にわたり血液中の濃度を維持できることが明らかになっている」(段落0032)
と記載されているように、リポソームのPEG化は血液中の安定性に寄与することが示されている。なお、このことは、補正発明において親水性ポリマー修飾脂質を使用する理由ともいえる本願明細書の次の記載
「リポソームの表面特性をさらに修飾してリポソームにより良好なin vivoでの挙動を与える」(段落0029)
「血漿中でのリポソーム薬物の放出は、2つの因子によって決まる:1つはリン脂質二重層を通じたリポソーム薬物の放出であり、もう1つはリポ蛋白及び細網内皮系(RES)による排除である。PLM60-DMPC-0.1のPEG化は完全ではないため、血漿構成成分によって引き起こされる放出の方がそれに対してより影響が大きかった。」(段落0069)
に沿うものである。
そうすると、引用発明におけるリポソーム製剤において、PEG化リン脂質等の親水性ポリマー修飾脂質を使用することは、刊行物1及び2の記載を踏まえれば、当業者が容易に想到し得ることである。

オ.効果について
補正発明の解決しようとする課題は、
「良好な標的化能で薬物を送達し、且つ標的組織で効果的に薬物を放出することが可能なリポソーム製剤」(段落0012)
を提供することにあると解されるが、より詳細には、
「本発明のリポソーム医薬製剤は、十分な封入効率及び十分な薬物負荷だけでなく、in vitroでの保存中にリポソームから薬物を放出しないこと、毒性を増大させる血液循環中のリポソームからの薬物の顕著な漏出がないことも保証する。本発明のリポソーム薬物の重要で顕著な効果は、当該分野における現行の製品と比較して、薬物の放出速度が効率的に促進され、リポソームの治療係数(therapy index)が改善し、半減期が有意に延長し、毒性が著しく低減するため、薬物の有効な治療効果が達成されることである。例えば、水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC)及びジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)を用いて製造したリポソーム医薬製剤については、それらの毒性は著しく低減すると共に、それらの治療係数は有意に改善する。これに対して、リン脂質二重層がジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)から成る場合は、薬物の放出が極めて速く、顕著な毒性がもたらされ、実際、遊離薬物よりも安全性が良好でない。或る特定の理論に縛られることなく、本発明の小型の単層膜リポソーム製剤は、小型の単層膜リポソーム製剤が、薬物/脂質比を固定した場合には、より大型の単層膜リポソーム製剤と比較して、粒度の小さい薬物沈殿を含有するより多くのリポソーム粒子を含有し得るため、薬物の放出を促進することができると推定される。粒度の小さい薬物沈殿は、比較的大きな比表面積を有するため、同1条件下では溶出速度がより迅速になる。」(段落0043)
との効果を奏するものである。
一方、刊行物1では、請求項67及び69では毒性や副作用が低減されることを特定するとともに(摘示(ア))、「本発明のリポソームは、遊離の薬物と比較して、改善された薬物動態、増強された効力(生理活性)、より低い毒性を有し、改善された治療係数を提供する。」(摘示(エ))ことが記載され、さらに、摘示(コ)でこの点について詳細に説明している。そして、実施例1(段落0071及び0072の表2並びに図1:いずれも摘示していない)では、実施例2(摘示(シ))と同様のリポソーム(ただし、有効成分はビノレルビン)が毒性が低いこと(最大耐量(MTD)の増大)及び腫瘍に対する効力が改善されることが示されている。(なお、ビノレルビンも本願明細書の記載(請求項4及び段落0034)からみて「解離定数が4.5?9.5の2つ以上の解離基を有する多価イオン性薬物」に該当するものと言える。)
このような刊行物1の効果に関する記載に加え、刊行物2の
「ポリアルキレンオキシド基またはPEG基をリポソーム膜表面に付けることにより、崩壊、凝集といったリポソーム自体の不安定性が解決され、水性分散液における経時安定性も改善される。さらに新たな機能をリポソームに付与することができる。例えば、PEG化リポソームには免疫系から認識されにくくなる効果が期待できる。さらにリポソームは、PEG基の導入により溶媒の水分子とPEG基とが相互作用をして水和層が形成され、親水的傾向を示す。このことからリポソームの水性分散液での安定性が増すとともに、血中での安定性も増して長時間にわたり血液中の濃度を維持できることが明らかになっている」(段落0032)
「本発明のリポソーム含有製剤は、医薬化合物をマイクロキャリヤーとしてのリポソーム内に封入した形態で使用することにより、標的の臓器、組織の病巣へ効率よく送達させることを図っている。すなわち、医薬化合物を内包するリポソームの粒径およびその脂質膜を適切に設計することによりターゲティング機能を付与することができる。受動的ターゲティングは、リポソームの粒径、脂質組成、荷電などの調整を通じてその生体内挙動を制御することができる。リポソーム粒径を狭い範囲に揃える調整もまた容易に行うことができる。リポソーム膜表面の設計では、リン脂質の種類と組成、共存物質を変えることにより所望の特性を付与することができる。さらに投与されたリポソームの体内移動と分布に関して、より高度な送達選択性と集積性を可能とする能動的ターゲティングの採用もまた検討されるべきである。一例として、リポソーム膜表面に上記のポリアルキレンオキシド高分子鎖または高分子鎖のPEG基を導入することは、標的部位への誘導を制御し得るために有益である。」(段落0034)
などの記載を踏まえれば、補正発明の上記効果は当業者が想到し得る範囲のものでしかない。

(5)まとめ
したがって、補正発明は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、平成25年4月10日付け手続補正書による補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反しているものと認められるので、当該補正は同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 原査定について
1.本願発明
上記第2で結論したとおり、平成25年4月10日付け手続補正書による補正は却下されたので、本願の請求項1?18に係る発明は、平成24年9月11日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?18にそれぞれ記載されたとおりのものであって、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「リポソーム薬物であって、
(1)該リポソーム薬物が、有効成分として解離定数が4.5?9.5の2つ以上の解離基を有する多価イオン性薬物を含み、
(2)該リポソーム薬物のリポソームの大きさが30?80nmであり、
(3)該リポソームの二重層が、相転移温度(Tm)が体温よりも高いリン脂質、コレステロール及び親水性ポリマー修飾脂質を含み、
(4)該リポソームのリポソーム内相が多価対イオンを含み、且つ
(5)該リポソームの相転移温度Tmが体温よりも高い、
リポソーム薬物。」

2.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の理由とされた、平成24年6月6日付け拒絶理由通知書に記載した理由2の概要は、以下のとおりである。
「この出願の請求項1?18に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物
1.特表2006-515578号公報
2.特開2006-298844号公報
3.特表2006-508126号公報
4.特表2003-510239号公報」

3.当審の判断
原査定の拒絶の理由において引用された本願出願(優先日)前に頒布された刊行物1の特表2006-515578号公報(以下、「引用文献1」という。)は、上記第2の3(2)アで引用した刊行物1であって、この引用文献1には、上記第2の3(2)イで摘示した(ア)?(シ)の事項が記載されており、上記第2の3(2)ウに示した「引用発明」が記載されている。
また、原査定の拒絶の理由において引用された本願出願(優先日)前に頒布された刊行物2の特開2006-298844号公報(以下、「引用文献2」という。)は、上記第2の3(2)アで引用した刊行物2である。

そして、本願発明と引用発明とを対比すると、上記第2の3(3)に示した一致点を有し、次の点で相違する。(なお、(2)のリポソームの大きさの点は、本願発明の数値範囲の方が補正発明のものより広いことから、この点により本願発明と引用発明とは相違しない。)

相違点B:
補正発明では、(3)のリポソームの二重層について、「相転移温度(Tm)が体温よりも高いリン脂質、コレステロール及び親水性ポリマー修飾脂質を含み」と特定し、かつ「(5)該リポソームの相転移温度Tmが体温よりも高い」と特定しているのに対し、引用発明では、「水素化ダイズホスファチジルコリン及びコレステロールをモル比で2:1の割合で含」むことのみ規定している点

上記相違点Bについて検討するに、上記第2の3(4)ア、ウ及びエで示したとおりである。
そうすると、本願発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由は妥当なものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は、この理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-25 
結審通知日 2014-12-02 
審決日 2014-12-15 
出願番号 特願2009-543335(P2009-543335)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 樹理  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 冨永 保
関 美祝
発明の名称 リポソーム医薬製剤及びその製造方法  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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