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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1300435
審判番号 不服2013-6717  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-11 
確定日 2015-05-07 
事件の表示 特願2010-507366「ディジタルシネマシステムにより実行される方法及びディジタルシネマシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月20日国際公開、WO2008/140442、平成22年 7月29日国内公表、特表2010-526513〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、2007年5月8日を国際出願日とする出願であって、
平成21年11月2日付けで特許法第184条の5第1項の規定による書面、及び、同日付けで特許法第184条の4第1項の規定による翻訳文が提出され、平成22年3月26日付けで審査請求がなされ、平成24年7月9日付けで拒絶理由通知(平成24年7月17日発送)がなされ、
これに対して平成24年10月1日付けで意見書が提出されると共に同日付けで手続補正がなされ、
平成24年12月3日付けで上記平成24年7月9日付けの拒絶理由通知書に記載した理由Bによって拒絶査定(平成24年12月11日謄本発送・送達)がなされたものである。
これに対して、「原査定を取り消す、この出願の発明は、これを特許すべきものとする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨として平成25年4月11日付けで審判請求がなされると共に同日付けで手続補正がなされ、
平成25年6月11日付けで審査官により特許法第164条第3項に定める報告がなされ、
平成25年10月4日付けで当審により特許法第134条第4項の規定に基づく審尋(平成25年10月15日発送)がなされ、
平成26年1月15日付けで回答書が提出されたものである。


第2 平成25年4月11日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成25年4月11日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
平成25年4月11日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容は、平成24年10月1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項13の記載

「 【請求項1】
ディジタルシネマを表示するディジタルシネマシステムにより実行される方法であって、
セキュアクロックによる時間値と基準クロックによる現在の時間値との間の時間差に従って、コンテンツを復号化する鍵の有効期間を調節するステップ
を有する方法。
【請求項2】
前記調節するステップは、
前記セキュアクロックによる時間値を得るようにセキュアクロックを読み出すステップと、
前記セキュアクロックによる時間値を前記現在の時間値と比較するステップと
を更に有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記調節するステップは、
好ましい展示位置について時間帯オフセットを決定するステップと、
前記時間帯オフセットに従って前記有効期間をグリニッジ標準時から現地時間に変換するステップと
を更に有する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記鍵の前記有効期間の調節は、コンテンツを復号化する鍵を生成する注文の受け入れ時に開始される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記鍵に従って前記コンテンツを復号化するメディアブロックに対する有効期間の調節に続いて前記鍵を配布するステップを更に有する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ディジタルシネマを表示するディジタルシネマシステムにより実行される方法であって、
セキュアクロックによる時間値と基準クロックによる現在の時間値との間の時間差に従って、コンテンツを復号化する鍵の有効期間を調節するステップと、
前記コンテンツを復号化する鍵により、暗号化されたディジタルシネマを復号化するステップと
を有する方法。
【請求項7】
前記調節するステップは、
前記セキュアクロックによる時間値を得るようにセキュアクロックを読み出すステップと、
前記基準クロックを読み取り、前記基準クロックによる時間値を取得するステップと
を更に有する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記調節するステップは、
好ましい展示位置について時間帯オフセットを決定するステップと、
前記時間帯オフセットに従って前記有効期間をグリニッジ標準時から現地時間に変換するステップと
を更に有する請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記鍵の前記有効期間の調節は、コンテンツを復号化する鍵を生成する注文の受け入れ時に開始される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
スクリーンサーバに対する有効期間の調節に続いて前記鍵を配布するステップを更に有する請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ディジタルシネマを表示するディジタルシネマシステムであって、
復号化鍵の有効期間を決定するための時間値を与えるセキュアクロックと、
現在の時間値を与える基準クロックと、
クロックモニタチャネルにより前記セキュアクロックを監視し、前記セキュアクロックによる時間値と前記基準クロックによる現在の時間値との間の時間差を判定し、前記復号化鍵に関連する有効期間を調節するセキュアクロックモニタと
を有するディジタルシネマシステム。
【請求項12】
前記時間差を記憶するデータベースを更に有する請求項11に記載のディジタルシネマシステム。
【請求項13】
前記データベースに記憶されている前記時間差に従って前記復号化鍵を調節する鍵生成器を更に有する請求項11に記載のディジタルシネマシステム。」(以下、この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正前の請求項」という。)

を、

「 【請求項1】
ディジタルシネマを表示するディジタルシネマシステムにより実行される方法であって、
前記ディジタルシネマシステムのディジタルシネマプロジェクタのセキュアクロックによる時間値と基準クロックによる現在の時間値との間の時間差に従って、コンテンツを復号化する鍵の有効期間を調節するステップ
を有する方法。
【請求項2】
前記調節するステップは、
前記セキュアクロックによる時間値を得るようにセキュアクロックを読み出すステップと、
前記セキュアクロックによる時間値を前記現在の時間値と比較するステップと
を更に有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記調節するステップは、
好ましい展示位置について時間帯オフセットを決定するステップと、
前記時間帯オフセットに従って前記有効期間をグリニッジ標準時から現地時間に変換するステップと
を更に有する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記鍵の前記有効期間の調節は、コンテンツを復号化する鍵を生成する注文の受け入れ時に開始される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記鍵に従って前記コンテンツを復号化するメディアブロックに対する有効期間の調節に続いて前記鍵を配布するステップを更に有する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ディジタルシネマを表示するディジタルシネマシステムにより実行される方法であって、
前記ディジタルシネマシステムのディジタルシネマプロジェクタのセキュアクロックによる時間値と基準クロックによる現在の時間値との間の時間差に従って、コンテンツを復号化する鍵の有効期間を調節するステップと、
前記コンテンツを復号化する鍵により、暗号化されたディジタルシネマを復号化するステップと
を有する方法。
【請求項7】
前記調節するステップは、
前記セキュアクロックによる時間値を得るようにセキュアクロックを読み出すステップと、
前記基準クロックを読み取り、前記基準クロックによる時間値を取得するステップと
を更に有する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記調節するステップは、
好ましい展示位置について時間帯オフセットを決定するステップと、
前記時間帯オフセットに従って前記有効期間をグリニッジ標準時から現地時間に変換するステップと
を更に有する請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記鍵の前記有効期間の調節は、コンテンツを復号化する鍵を生成する注文の受け入れ時に開始される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
スクリーンサーバに対する有効期間の調節に続いて前記鍵を配布するステップを更に有する請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ディジタルシネマを表示するディジタルシネマシステムであって、
復号化鍵の有効期間を決定するための時間値を与えための、前記ディジタルシネマシステムのディジタルシネマプロジェクタのセキュアクロックと、
現在の時間値を与える基準クロックと、
クロックモニタチャネルにより前記セキュアクロックを監視し、前記セキュアクロックによる時間値と前記基準クロックによる現在の時間値との間の時間差を判定し、前記復号化鍵に関連する有効期間を調節するセキュアクロックモニタと
を有するディジタルシネマシステム。
【請求項12】
前記時間差を記憶するデータベースを更に有する請求項11に記載のディジタルシネマシステム。
【請求項13】
前記データベースに記憶されている前記時間差に従って前記復号化鍵を調節する鍵生成器を更に有する請求項11に記載のディジタルシネマシステム。」(以下、この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正後の請求項」という。)

に補正するものである。

2.補正の適否

本件補正は、補正前の請求項1、6,及び11に記載された「セキュアクロック」に対して、当該補正により「前記ディジタルシネマシステムのディジタルシネマプロジェクタのセキュアクロック」である旨、新たな特定を付そうとした補正である。
しかしながら、本件の翻訳文(以下、「当初明細書等」という。)に記載した「セキュアクロック」は、【0003】「メディアブロックは、製造時に設定されるセキュアクロックを有する。」や、【0004】「メディアブロックにおけるセキュアクロック」や、【0007】「ディジタルシネマシステム100は、・・・・暗号化されたコンテンツを受信して復号化するスクリーンサーバ110を有する。スクリーンサーバ110はメディアブロック112及びセキュアクロック114を有する。・・・セキュアクロック114は、コンテンツの復号化と関連付けて用いるメディアブロック112に日時情報を供給する。」や、【図1】中のスクリーンサーバ110の内部に配置されたメディアブロック112の内側に四角で囲まれたところにセキュアブロック114が描写されている様から看取されるとおり、ディジタルシネマシステム全体の中での位置づけとしては、”メディアブロックに日時情報を供給するセキュアクロック”と表記されるか、あるいは、”スクリーンサーバが行うとするコンテンツ複合化処理に関連して用いられるセキュアクロック”と表記されるかのいずれかの位置づけであり、コンテンツを表示するとされたプロジェクタとは、補正前の特許請求の範囲も含め、直接的にも間接的にも関連するとした記載はなされていない。
よって、本件補正による記載が示す、『ディジタルシネマプロジェクタのセキュアクロック』という関係で描写されるセキュアクロックなるものは、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものではないというべきである。
以上のとおりであるから、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされていない事項を含むものであり、特許法第17条の2第3項の規定に違反したものである。

3.補正却下むすび

以上のとおり、本件補正は、上記「2.補正の適否」で指摘したとおり、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、上記結論のとおり決定する。


第3 本願発明について

1.本願発明の認定
平成25年4月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件補正後の請求項1に対応する本件補正前の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成24年10月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「 ディジタルシネマを表示するディジタルシネマシステムにより実行される方法であって、
セキュアクロックによる時間値と基準クロックによる現在の時間値との間の時間差に従って、コンテンツを復号化する鍵の有効期間を調節するステップ
を有する方法。」

2.引用文献に記載されている技術的事項及び引用発明の認定

(2-1)引用発明1
本願の出願日前に頒布され、原審の拒絶査定の理由である上記平成24年7月9日付けの拒絶理由通知において引用された、特開2004-30572号公報(平成16年1月29日出願公開、以下、「引用文献1」という。)には、関連する図面とともに、以下の技術的事項が記載されている。

A「【請求項1】
コンテンツとその使用期限に係る期限情報とを送信する配信装置と、コンテンツの使用可否をその期限情報を用いて判定する受信装置とから成るコンテンツ配信システムであって、前記受信装置は、日時を刻む第1時計を備え、前記第1時計が刻んだ第1日時を送信し、前記配信装置は、前記第1時計とは別の日時を刻む第2時計を備え、前記第1日時を受信し、前記第1日時と、前記第1日時を受信した時に前記第2時計が刻んだ第2日時との差分を、前記第2時計に基づく前記コンテンツの使用期限に加算して生成した前記期限情報を、前記受信装置へ送信することを特徴とするコンテンツ配信システム。」

B「【0002】
【従来の技術】近年、映画、音楽等のコンテンツをDVD(DigitalVersatile Disc)やCD(Compact Disc)等のメディアに記録して配布したり、ネットワーク等の通信を用いて配信するビジネスが広まってきている。」

C「【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
<第1実施形態>
1.1 構成
図1は、コンテンツ配信システム1の構成を示すブロック図である。
【0012】
配信装置10は、予め、コンテンツと、前記コンテンツの使用期限を蓄積し、受信装置20とネットワークを介して通信を行う。
配信装置10は、受信装置20からコンテンツ配信の要求を受信し、受信装置20に対し前記コンテンツと前記コンテンツの使用期限に補正を加えた期限情報との送信を行う。
【0013】
受信装置20は、前記期限情報を受信し、コンテンツの再生可否判定を行い、コンテンツが再生可であった場合に、コンテンツの再生を行う。受信装置20は、バスを介して電気的に接続したコンテンツ処理装置21と耐タンパモジュール25とから成り、耐タンパモジュール25が前記コンテンツの再生可否判定を行い、コンテンツ処理装置21が、前記再生可否判定に基づき前記コンテンツの再生を行う。」

D「【0051】
配信装置10は、前記検証の結果、前記受信側日時が改ざんされていないと判定した場合、受信装置20の時計である時計部252と、配信装置10の時計である時計部105の刻む日時のずれを用いて、前記コンテンツの使用期限を補正する。
例えば、前記受信側日時を受信した時に配信装置10の時計部105が刻んだ配信側日時が、2003年1月24日14時11分0秒を示す1043385060であるとすると、前記期限情報は、前記第1コンテンツの使用期限+(前記受信側日時-前記配信側日時)であり、1043385600+(1043384880-1043385060)=1043385420となる。」

E「【0054】
耐タンパモジュール25は、前記期限情報の改ざんが無かった場合、前記期限情報を受信した時に時計部252が刻んだ日時と、前記期限情報を比較する。
例えば、前記期限情報を受信した時に時計部252が刻んだ日時が、2003年1月24日14時8分0秒を示す1043384880であった場合、前記期限情報は1043385420であるので、前記期限情報の方が大きいので、コンテンツ再生可と判定する。
【0055】
また、前記期限情報を受信した時に時計部252が刻んだ日時が、2003年1月24日14時18分00秒を示す1043385680であった場合、前記期限情報は1043385420であるので、前記期限情報の方が小さいので、コンテンツ再生不可と判定する。
耐タンパモジュール25は、前記判定の結果に基づき前記コンテンツが再生可であるか再生不可であるかを示す再生可否結果を、コンテンツ処理装置21に送信する(ステップS116)。
【0056】
コンテンツ処理装置21は、前記再生可否結果を受信する(ステップS117)。
コンテンツ処理装置21は、前記再生可否結果がコンテンツ再生可を示す場合、前記コンテンツの再生を行う。
また、コンテンツ処理装置21は、前記再生可否結果がコンテンツ再生不可を示す場合、前記コンテンツの再生を停止する。」

上記Aには、コンテンツとその使用期限に係る期限情報とを送信する配信装置と、コンテンツの使用可否をその期限情報を用いて判定する受信装置とから成るコンテンツ配信システムで行われる処理に関する記載であって、受信装置側に備える第1時計及び配信装置側に備える第2時計が存在し、コンテンツと共に送信される期限情報が、前記第1時計が刻む第1日時と前記第2時計が刻む第2日時との差分を、前記第2時計に基づく前記コンテンツの使用期限に加算して生成した前記期限情報を、前記受信装置へ送信する処理が記載され、
上記Bには、配信されるコンテンツの類型として、映画が含まれる旨が記載され、
上記Cには、受信装置20が備える耐タンパモジュール25にてコンテンツの再生可否判定を行い、その判定に基づいてコンテンツ処理装置21がコンテンツの再生を行う旨が記載され、
上記Dには、配信装置10が、受信装置20の時計部252が刻んだ日時と配信装置10の時計である時計部105の刻む日時のずれを用いて、前記コンテンツの使用期限を補正する処理が記載されている。
加えて、引用文献1全体の記載、特に上記Bでなされたコンテンツの記録メディア種(「DVD」や「CD」)を勘案すると、コンテンツの形式がディジタルであることが明らかである。
以上のことから、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

(引用発明1)
「ディジタル映画コンテンツを扱うディジタルコンテンツ配信システムで行われる方法であって、
受信装置側に備える第1時計が刻む第1日時と配信装置側に備える第2時計が刻む第2日時との差分を、前記第2時計に基づく前記コンテンツの使用期限に加算する処理
を有する方法。」

(2-2)引用発明2
本願の出願日前に頒布され、原審の拒絶査定の理由である上記平成24年7月9日付けの拒絶理由通知において引用された、特開2005-277663号公報(平成17年10月6日出願公開、以下、「引用文献2」という。)には、関連する図面とともに、以下の技術的事項が記載されている。

E「【0014】
本発明の好ましい実施形態では、上述した第1、第2のいずれの形態においても、サーバが復号鍵に有効期間を設定する。この場合、コンテンツ再生機または携帯端末は、受け取った復号鍵の有効期間を検査し、有効期間が経過していない場合は、暗号化されたコンテンツを当該復号鍵で復号してコンテンツの再生を行い、有効期間が経過している場合は、当該復号鍵によるコンテンツの復号を禁止する。」

F「【0029】
図3は、・・・(中略)・・・コンテンツには、映画、音楽、ゲーム、電子出版物、コンピュータプログラムなど各種のものがある。」

G「【0062】
コンテンツ再生機30では、携帯電話機10から送信されてくる復号鍵と暗号化されたコンテンツとをコネクタインターフェイス38を介して受信する(ステップS42)。受信が終了し、操作部34で再生操作が行われると(ステップS43)、受信した復号鍵が有効か否かを判定する(ステップS44)。復号鍵の有効、無効については後述する。判定の結果、復号鍵が有効であれば(ステップS44:YES)、信号処理部32は、この復号鍵を用い、メモリ36に記憶されている復号プログラムに従って、暗号化されたコンテンツを復号化し、コンテンツの再生を行う(ステップS45)。再生された映像は図示しないモニタ装置に表示され、再生された音声は図示しないスピーカから出力される。なお、この再生にあたっては、携帯電話機10を一種のメディアとして利用するので、携帯電話機10から送られてくるコンテンツは、ストリームデータとして信号処理部32でリアルタイムに再生される。一方、ステップS44での判定の結果、復号鍵が有効でなければ(ステップS44:NO)、制御部39は、信号処理部32でのコンテンツの復号・再生を禁止する。」

上記Eには、暗号化されたコンテンツを復号する復号鍵が、有効期間の設定を受けたものである旨が記載され、上記Fには、コンテンツの具体的な例示として映画が記載され、上記Gには、受信される暗号化されたコンテンツが、復号鍵を使用して復号化され再生表示される旨が記載されている。
以上のことから、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

(引用発明2)
「暗号化された映画コンテンツの再生に用いる復号鍵が、有効期間の設定を受けたものであり、当該映画コンテンツは再生表示される。」


3.対比

本願発明と引用発明1とを対比する。

引用発明1の「第1時計が刻む第1日時」、「第2時計が刻む第2日時」は、各々、互いに名称が異なる時計(=クロック)が計時する値同士である点、及び、これら2つの値のなす時間差を用いてある期限/期間の「調節」をなしている点で、本願発明の「(セキュア)クロックによる時間値」、「(基準)クロックによる(現在の)時間値」と共通する。
また、引用発明1の「使用期限」は、本願発明で言う「有効」が、直接的には「コンテンツを復号化する鍵」が、有効と扱われる期間を意味するが、その結果生じる状況として、デジタルシネマの放映自体が有効とされること、すなわち、シネマの放映という使用の代表形態に保つことに通じるので、本願発明の「有効期間」と共通する。

以上から、本願発明と引用発明1とは、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

(一致点)

「 方法であって、
1つのクロックによる時間値ともう1つのクロックによる時間値との間の時間差に従って、有効期間を調節するステップ
を有する方法。」

(相違点1)
本願発明で言う方法の発明は、「ディジタルシネマを表示するディジタルシネマシステムにより実行される方法」を前提としているのに対して、引用発明1の方法の発明は「ディジタル映画コンテンツを扱うディジタルコンテンツ配信システムで行われる方法」を前提としている点。

(相違点2)
「有効期間を調節するステップ」で用いる2種類の「時間値」とされるパラメータに関し、本願発明では一方を「セキュア」なクロック、他方を「基準」のクロックであって「現在の時間」を示すものとしているのに対して、引用発明1では一方を「受信装置側に備える」第1時計、他方を「配信装置側に備える」第2時計と定めている点。

(相違点3)
「有効期間を調節するステップ」が対象とする対象物に関し、本願発明は「コンテンツを復号化する鍵」の有効期間であるとしているのに対して、引用発明1は単にコンテンツの使用期限にとどまり、復号鍵との関係がない点。

4.当審の判断

上記相違点1,2及び3について検討する。

(相違点1について)
元々、コンテンツの種別がシネマ(=映画)である場合、その再生と利用の形態は自ずと「表示」の態様を採るものであり、上記引用発明2にも再生の形態が「表示」であるとされている。そのため、かかる相違点1は、シネマの利用態様として常識的な事項であり、引用発明1においても配信された映画が表示に供されないとは考えづらく、発明として当然に想定される自明な態様の一つといえ、相違点1は格別なものではない。

(相違点2について)
まず、本願発明における「セキュアクロック」について検討する。
当該クロックが如何なるものを念頭に置いたものであるかについては、前記「第2 平成25年4月11日付け手続補正についての補正却下の決定」の「2.補正の適否」についてで記したとおり、本願発明が前提とするシステム内では、シネマの配給を受ける側に置かれるメディアブロックに日時情報を供給する役割を果たすものと見てとれる。
他方、引用発明1の「受信装置」における「第1時計」に与えられた役割は、上記記載Dから見て、受信装置側の制御、操作のタイミングを司る役割と解される。
してみると、本願発明の「セキュアクロック」は、システム上の役割として、引用発明1の「第1時計」に付された特定事項である「受信装置側に備える」ことと同一の役割を担っているものと判断され、「セキュア」とされたクロックに係る相違は格別なものではない。
次に、本願発明における「基準クロック」、及びその計時する値が「現在の時間」であること、について検討する。
そもそも、当該基準クロックが記載されている「有効期間を調節するステップ」内での基準クロックの位置づけは、上記「3.対比」欄にて示した通り、「調節」に使用するパラメータである「時間差」を得るために用いられるクロックであって、「セキュアクロック」とは異なる計時をなすもの、という位置づけである。
当該ステップ内での位置づけを示す観点から引用発明1の「第2時計」を検討してみると、「第1時計」とは明らかに異なり、独立計時するものであり、「第1時計」との時間差をとるために用いられている点で、本願発明における「基準クロック」となんら相違するものではない。
また、本願発明で扱う「基準クロック」による「時間値」が、「現在の」時間を指すことについて見ると、そもそもクロック/時計は、どの瞬間をとってみても、現在の時刻そのもの、あるいは間接的に現在時刻を導出できるものであり、引用発明1の「第2時計」もそういった本来的な機能を有するものであることは自明と言えるものであり、両者に格別の相違はなんら認められない。

以上総括すると、「セキュア」なクロック、及び「基準」のクロックに関する相違点2はいずれも実質的に相違はない。

(相違点3について)
映画を含めたディジタルコンテンツの流通に関し、コンテンツの有効期間情報を、暗号配信されたコンテンツの復号化処理に用いる復号鍵に組み合わせることは、上記引用発明2が示すとおり公知である。
してみれば、引用発明1に対し、公知の引用発明2が示す態様を適用して、本願発明のごとくなすことは、当業者にとり同種の技術範囲内における公知技術の単なる踏襲で事足りると言え、格別困難であったとすることができない。
よって、相違点3は格別なものではない。

上記で検討したごとく、各相違点は格別のものではなく、そして、相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、上記引用発明1及び2の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。


したがって、本願発明は、引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 請求人の主張等について

なお、請求人は、上記平成26年1月15日付け回答書において、

『2.まず、審判請求の際にした補正が特許法第17条の2第3項の規定に違反する旨のご指摘に関し、本願明細書では「プロジェクタ120及びメディアブロック112がセキュア保護エンクロージャ(図示せず)内に共に存在」しなくてよいことが示されているので、「第17条の2第3項の規定に違反」していることを認めるわけではありませんが、』

と断りつつ、以下の補正案を提案し、補正の機会を求めている。

『3.補正案
[特許請求の範囲]
[請求項1]
ディジタルシネマを表示するディジタルシネマシステムにより実行される方法であって、
前記ディジタルシネマシステムのディジタルシネマプロジェクタに関連するセキュアクロックによる時間値と基準クロックによる現在の時間値との間の時間差に従って、コンテンツを復号化する鍵の有効期間を調節するステップ
を有する方法。
[請求項2]
前記調節するステップは、
前記セキュアクロックによる時間値を得るようにセキュアクロックを読み出すステップと、
前記セキュアクロックによる時間値を前記現在の時間値と比較するステップと
を更に有する請求項1に記載の方法。
[請求項3]
前記調節するステップは、
好ましい展示位置について時間帯オフセットを決定するステップと、
前記時間帯オフセットに従って前記有効期間をグリニッジ標準時から現地時間に変換するステップと
を更に有する請求項1に記載の方法。
[請求項4]
前記鍵の前記有効期間の調節は、コンテンツを復号化する鍵を生成する注文の受け入れ時に開始される、請求項1に記載の方法。
[請求項5]
前記鍵に従って前記コンテンツを復号化するメディアブロックに対する有効期間の調節に続いて前記鍵を配布するステップを更に有する請求項1に記載の方法。
[請求項6]
ディジタルシネマを表示するディジタルシネマシステムにより実行される方法であって、
前記ディジタルシネマシステムのディジタルシネマプロジェクタに関連するセキュアクロックによる時間値と基準クロックによる現在の時間値との間の時間差に従って、コンテンツを復号化する鍵の有効期間を調節するステップと、
前記コンテンツを復号化する鍵により、暗号化されたディジタルシネマを復号化するステップと
を有する方法。
[請求項7]
前記調節するステップは、
前記セキュアクロックによる時間値を得るようにセキュアクロックを読み出すステップと、
前記基準クロックを読み取り、前記基準クロックによる時間値を取得するステップと
を更に有する請求項6に記載の方法。
[請求項8]
前記調節するステップは、
好ましい展示位置について時間帯オフセットを決定するステップと、
前記時間帯オフセットに従って前記有効期間をグリニッジ標準時から現地時間に変換するステップと
を更に有する請求項6に記載の方法。
[請求項9]
前記鍵の前記有効期間の調節は、コンテンツを復号化する鍵を生成する注文の受け入れ時に開始される、請求項6に記載の方法。
[請求項10]
スクリーンサーバに対する有効期間の調節に続いて前記鍵を配布するステップを更に有する請求項9に記載の方法。
[請求項11]
ディジタルシネマを表示するディジタルシネマシステムであって、
復号化鍵の有効期間を決定するための時間値を与えための、前記ディジタルシネマシステムのディジタルシネマプロジェクタに関連するセキュアクロックと、
現在の時間値を与える基準クロックと、
クロックモニタチャネルにより前記セキュアクロックを監視し、前記セキュアクロックによる時間値と前記基準クロックによる現在の時間値との間の時間差を判定し、前記復号化鍵に関連する有効期間を調節するセキュアクロックモニタと
を有するディジタルシネマシステム。
[請求項12]
前記時間差を記憶するデータベースを更に有する請求項11に記載のディジタルシネマシステム。
[請求項13]
データベースに記憶されている前記時間差に従って前記復号化鍵を調節する鍵生成器を更に有する請求項11に記載のディジタルシネマシステム。』

また、原査定で示された特許法第29条第2項に関する意見として、以下の点を示している。
(注:意見中に述べられた文献は、各々
引用文献1:特開2004-30572号公報
引用文献2:特開2005-277663号公報
引用文献3:特開平9-91344号公報
引用文献4:国際公開第2006/019158号 を指す。)

『 4.次に、特許法第29条第2項に関し、意見を申し述べます。
審判請求の際にも申し上げましたが、本願発明においては「前記ディジタルシネマシステムのディジタルシネマプロジェクタに関連するセキュアクロックによる時間値と基準クロックによる現在の時間値との間の時間差に従って、コンテンツを復号化する鍵の有効期間を調節」します。このため、たとえ、プロジェクタに関連するセキュアクロックが、コンテンツを復号化する鍵がずれた期間を徒過したとしても、復号化する鍵の有効期間内にコンテンツを再生できるようにします。
引用文献1に記載の発明は、コンテンツ配信システムに関する第1のクロックとコンテンツ受信機に関する第2のクロックとの間の時間差に関する問題を解決しようとしています。そのような時間差に対応するため、配信システムはコンテンツの期限日と共にクロック値をコンテンツ受信機に送信します。コンテンツ受信機は自身のクロックとコンテンツ配信システムのクロックとを比較し、その時間差をコンテンツの期限日に加えます。
このように引用文献1に記載の発明は、経年変化に起因するコンテンツ配信システムのクロックとコンテンツ受信機のクロックとの間の相違に着目しているにすぎません。引用文献1では現在時間ではなくコンテンツが配信された時間(すなわち、配信クロック時間)に依存してコンテンツが満了しています。配信クロック自体は現在時間と共に変動するおそれがあります。ディジタルシネマシステムでは、キーが配信された時間ではなく、現在の時間値に基づいて復号鍵の有効期間を調整します。キーが最初に配信された時点に対してキーの有効な期間を調整するだけでは、現在時間に対するディジタルシネマプロジェクタに関するセクキュアクロックが経年変化に起因する問題に適切に対処できません。
これに対して、本願発明は、(基準クロックにより決定される)現在の時間に対して、ディジタルシネマプロジェクタに関連するセキュアクロックの経年変化(ドリフト)に対処しています。ディジタルシネマプロジェクタに関連するセキュアクロックは、鍵が配信された時間ではなく、現在の時間に対して鍵の有効性を決定します。
引用文献2に記載の発明は、ユーザの移動電話番号の一部分により設定された復号鍵と共に、ユーザが自身の移動電話にコンテンツをダウンロードできるコンテンツ配信システムに関連しています。引用文献2においては、復号鍵を用いてコンテンツを復号しているにすぎません。引用文献1に記載の発明に引用文献2に記載の発明を如何にして組み合わせれば、ディジタルシネマプロジェクタに関連するセキュアクロックと現在の時間との間の時間差に従って鍵の有効期間を調整できるようになるかは、明らかではありません。
引用文献3に記載の発明は、コンテンツプロバイダ(又はそのエージェント)とエンドユーザとの間のライセンス契約により設定された期間に基づく情報再生技術に関連しています。引用文献3の段落0114や0117等で議論されているように、ライセンス契約により設定された再生期間の経過前に再生装置が警告を行い、再生が実行可能な期間内にその期間の満了時をユーザに通知しているに過ぎません。
引用文献1、2と同様に引用文献3も、「前記ディジタルシネマシステムのディジタルシネマプロジェクタに関連するセキュアクロックによる時間値と基準クロックによる現在の時間値との間の時間差に従って、コンテンツを復号化する鍵の有効期間を調節する」ことを開示していません。指定された有効期間内で商品販売を制限するコンテンツ販売期間検証システムに関連しています。引用文献1-3に記載の発明を如何にして組み合わせれば、セキュアクロックと基準クロックとの間の時間差に従って鍵の有効期間を調整できるようになるかは、明らかではありません。
引用文献4はコンテンツ受信機のセキュアクロックに異常が生じた場合でさえ適切にコンテンツを再生できるようにするコンテンツ再生技術に関連しています。コンテンツの再生を許可する前に、コンテンツ再生システムは、異常期間内での過去の再生回数及び過去の異常回数を確認しています。所定の条件を満たした場合に、システムはセキュアクロックによらず再生を行うようにしています。
引用文献1、2と同様に引用文献4も、「前記ディジタルシネマシステムのディジタルシネマプロジェクタに関連するセキュアクロックによる時間値と基準クロックによる現在の時間値との間の時間差に従って、コンテンツを復号化する鍵の有効期間を調節する」ことを開示していません。指定された有効期間内で商品販売を制限するコンテンツ販売期間検証システムに関連しています。引用文献1-3に記載の発明を如何にして組み合わせれば、セキュアクロックと基準クロックとの間の時間差に従って鍵の有効期間を調整できるようになるかは、明らかではありません。
従って、引用文献1-4は、「前記ディジタルシネマシステムのディジタルシネマプロジェクタに関連するセキュアクロックによる時間値と基準クロックによる現在の時間値との間の時間差に従って、コンテンツを復号化する鍵の有効期間を調節する」という本願発明の特徴を開示も示唆もしていません。引用文献1-4に記載の発明に基づいて本願発明に想到することは当業者といえども容易ではありません。本願発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明に該当しないことは、明らかであると思料します。』

そこで、提案された補正案、及び、拒絶とすべき理由に関する請求人の意見について、各々当審の見解を述べる。

(補正案の提案について)
当該提案された補正案を見る限り、上記「第2 平成25年4月11日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2.補正の適否」で当審が検討した諸点である、セキュアクロックの関係性についての見解と照らすと、当該提案された補正案にしても、関係が希薄である「ディジタルシネマプロジェクタ」との関係を示す内容を請求人は変わらず提案しているのであり、特許法第17条の2第3項が規定する要件を充足できないことが明らかである。
よって、当該補正案は、明らかに違法な補正であり、この提案は採用することができない。

(拒絶とすべき理由に対する請求人の意見について)
請求人は、引用文献1に記載された発明で用いられているクロックに関し、『引用文献1では現在時間ではなくコンテンツが配信された時間(すなわち、配信クロック時間)に依存してコンテンツが満了しています。配信クロック自体は現在時間と共に変動するおそれがあります。』との相違を主張しているが、この点に関し、本願発明の「基準クロック」は、どのような値を現在時刻として採用するかに関する特定事項を含まない形で請求されているため、当該主張は、特許請求の範囲における請求項1の記載に基づかない主張である。
してみると、請求人が主張する特許法第29条第2項に関する意見は、請求項の記載に基づかない主張であり、採用することができない。


以上のとおりであるので、 回答書により表明された請求人の主張は、いずれも採り上げることができない。


第5 むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-19 
結審通知日 2014-11-25 
審決日 2014-12-16 
出願番号 特願2010-507366(P2010-507366)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (H04L)
P 1 8・ 121- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金木 陽一  
特許庁審判長 石井 茂和
特許庁審判官 西村 泰英
田中 秀人
発明の名称 ディジタルシネマシステムにより実行される方法及びディジタルシネマシステム  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  

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