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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 F02G 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02G 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02G |
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管理番号 | 1300496 |
審判番号 | 不服2014-5153 |
総通号数 | 186 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-06-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-03-18 |
確定日 | 2015-05-07 |
事件の表示 | 特願2012-508921「自動車の排気ガス熱の利用」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月18日国際公開、WO2010/130317、平成24年10月25日国内公表、特表2012-526224〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、2010(平成22)年3月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年5月9日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成23年11月8日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出された後、平成23年12月21日に特許法第184条の4第1項に規定する翻訳文及び手続補正書が提出され、平成25年2月13日付けで拒絶理由が通知され、平成25年7月20日に意見書及び誤訳訂正書が提出されたが、平成25年11月14日付けで拒絶査定がされ、平成26年3月18日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に、特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。 第2.平成26年3月18日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成26年3月18日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正 (1)本件補正の内容 平成26年3月18日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関しては、本件補正により補正される前の(すなわち、平成25年7月20日提出の誤訳訂正書により補正された)特許請求の範囲の請求項1の下記(ア)の記載を、下記(イ)の記載へと補正するものである。 (ア)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1 「 【請求項1】 排気ガス熱利用サイクル(2)の作動流体の作動温度(T_(1)、T_(2)、T_(3))制御を伴う、車両内の排気ガス熱利用サイクル(2)の作動方法であって、 前記作動温度(T_(1)、T_(2)、T_(3))は、前記排気ガス熱利用サイクル(2)の熱交換器(5)を通って流れる作動流体の質量流量を調整することによって、前記作動流体の最大許容作動温度を超過しないように制御されること、および 前記作動流体の最大許容作動温度が、前記作動流体の化学分解温度よりも低いことを特徴とする方法。」 (イ)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1 「 【請求項1】 排気ガス熱利用サイクル(2)の作動流体の作動温度(T_(1)、T_(2)、T_(3))制御を伴う、車両内の排気ガス熱利用サイクル(2)の作動方法であって、 内燃機関(3)から排気ガス供給ライン(4)を介して前記排気ガス熱利用サイクル(2)の熱交換器(5)に送られる排気ガスが、前記熱交換器(5)を通過する際、前記作動流体を気化すること、 前記作動温度(T_(1)、T_(2)、T_(3))は、前記排気ガス熱利用サイクル(2)の前記熱交換器(5)を通って流れる作動流体の質量流量を調整することによって、前記作動流体の最大許容作動温度を超過しないように制御されること、および 前記作動流体の最大許容作動温度が、前記作動流体の化学分解温度よりも低いことを特徴とする方法。」(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。) (2)本件補正の目的 本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の発明特定事項である「排気ガス熱利用サイクル(2)」に関し、「内燃機関(3)から排気ガス供給ライン(4)を介して前記排気ガス熱利用サイクル(2)の熱交換器(5)に送られる排気ガスが、前記熱交換器(5)を通過する際、前記作動流体を気化すること」を限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 2.本件補正の適否についての判断 本件補正における特許請求の範囲の補正は、前述したように、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。 2.-1 引用文献 (1)引用文献の記載 本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2008-255959号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、次のような記載がある。 (ア)「【0001】 本発明は、内燃機関の廃熱利用装置に係り、詳しくは、車両に好適な内燃機関の廃熱利用装置に関する。 …(後略)…」(段落【0001】) (イ)「【0023】 以下、図面により本発明の実施形態について説明する。 先ず、第1実施形態について説明する。 図1は本実施形態の内燃機関の廃熱利用装置2の構成を示す模式図であり、廃熱利用装置2は、冷却水が循環し、例えば車両のエンジン(内燃機関)4を冷却する冷却水回路(熱媒体回路)6と、作動流体(以下、冷媒という)が循環し、エンジン4の廃熱を回収するランキンサイクル8(以下、サイクル8という)とから構成されている。 【0024】 冷却水回路6は、三方弁(操作端)10、排ガス熱交換器(高温回路部)12、高温蒸発器(高温回路部)14、低温蒸発器(低温回路部)16、水ポンプ18を順に含んで閉回路を構成し、水ポンプ18を駆動することにより、冷却水が上記各構成機器を順次流れて循環する。 三方弁10は、1つの入口ポートと2つの出口ポートとを有するリニア電動弁であって、三方弁10の駆動部に入力される入力信号に比例して1つの弁体を連続的に可変駆動することにより、入口ポートに流入する冷却水を各出口ポートに配分して流出させるとともに、これら各配分流量を微調整可能に構成されている。 【0025】 三方弁10の入口ポートには、エンジン4から延びる冷却水回路6の流路(循環路)6aが接続され、入口ポートに対向する出口ポートには、排ガス熱交換器12及び高温蒸発器14を迂回し高温蒸発器14の下流の合流点6bにおいて合流するバイパス路20が接続されている。一方、他方の出口ポートには、排ガス熱交換器12から延びる流路(循環路)6cが接続されている。 【0026】 排ガス熱交換器12は、エンジン4の排ガスが排出される排ガス管22内に設けられ、エンジン4で加熱された加熱冷却水と排ガス管20を流れる排ガスとの間で熱交換することにより、加熱冷却水を更に加熱されて過熱冷却水(高温熱媒体)を形成している。 高温蒸発器14は、排ガス熱交換器12と合流点6bとの間の流路(循環路)6dに位置づけられ、内部に冷却水経路と冷媒経路とを有し、これら各経路を流れる冷却水と冷媒とが互いに対向流をなすように構成されている。そして、排ガス熱交換器12で形成された過熱冷却水とサイクル8のうち後述する高温ランキンサイクル回路24を流れる冷媒とを熱交換させることにより、過熱冷却水から吸熱して冷媒を加熱している。 【0027】 低温蒸発器16は、合流点6bと水ポンプ18との間の流路(循環路)6eに位置づけられ、高温蒸発器14と同様の冷却水経路及び冷媒経路を有して構成されている。そして、高温蒸発器14で吸熱された後に形成される温水(低温熱媒体)とサイクル8のうち後述する低温ランキンサイクル回路26を流れる冷媒とを熱交換させることにより、温水から吸熱して冷媒を加熱している。 【0028】 水ポンプ18は、エンジン4に装着されるとともに、その回転数に応じて駆動され、エンジン4の運転状況に応じた冷却水量を冷却水回路6に循環させている。なお、サイクル8からの吸熱によらないで、エンジン4の本体温度を略一定に保持すべく、流路6eにおける水ポンプ18近傍に図示しないラジエータやサーモスタット等を設置しても良い。 これに対し、サイクル8は、高温ランキンサイクル回路24(以下、高温サイクル24という)と低温ランキンサイクル回路26(以下、低温サイクル26という)とから構成され、2段膨張サイクルを実施している。 【0029】 高温サイクル24は、高温蒸発器14から第1膨張機28、第2膨張機30、凝縮器32、第1冷媒ポンプ(第1ポンプ)34、第2冷媒ポンプ(第2ポンプ、第2操作端)36を順に接続して閉回路を構成している。そして、これら第1及び第2冷媒ポンプ34,36を駆動することにより、冷媒が上記各構成機器を順次流れて循環し、排ガス熱交換器12で形成された過熱冷却水を熱媒体とし、この過熱冷却水から高温蒸発器14を介してエンジン4の廃熱を回収している。」(段落【0023】ないし【0029】) (ウ)「【0048】 S10では、冷媒温度センサ40で検出された冷媒温度TRが所定の温度設定値(第2温度設定値)TS3以上であるか否かを判定する。判定結果が真(Yes)で温度TRが所定の温度設定値TS3以上と判定された場合にはS20に移行し、判定結果が偽(No)で温度TRが温度設定値TS3より小さいと判定された場合にはS30に移行する。 S20に移行した場合には、第2冷媒ポンプ36の回転数をΔNの回転数分だけ増加した後、S10に移行する。 【0049】 一方、S30に移行した場合には、第2冷媒ポンプ36の回転数をΔNの回転数分だけ減少した後、S10に移行する。 このようにして、S00において第2ポンプ制御に係るサブ制御ルーチンが開始されると、上記S10,S20、又はS10,S30の一連のステップが繰り返し実行される。 以上のように、本実施形態では、ECU44において弁開度制御と第2ポンプ制御とを実施することにより、冷却水回路6と高温及び低温サイクル24,26との熱交換に係る冷却水量や冷媒量を適切に制御している。」(段落【0048】及び【0049】) (エ)「【0055】 詳しくは、高温蒸発器14における高温サイクル24の1サイクルあたりの熱回収量は、この1サイクル中に高温蒸発器14に流入する過熱冷却水の流入量と過熱冷却水の平均温度とを乗じた熱供給量に比例して増大し、この熱供給量、すなわち上記1サイクル中にエンジン4から廃棄される廃熱量を一定と仮定したとき、高温蒸発器14に流入する過熱冷却水の流入量を減少させることにより高温蒸発器14に流入する過熱冷却水の平均温度が上昇する。 【0056】 そこで、上記した弁開度制御を実施する際に、この制御ルーチンのS5において判定される過熱冷却水温度TSに対する所定の温度設定値TS2を例えば高温サイクル24の蒸発温度である約140℃より大きな150℃程度に設定することにより、過熱冷却水温度TSが150℃以下になると三方弁10はバイパス路20側に開駆動され、高温蒸発器14に流入する過熱冷却水の流入量が減少し、過熱冷却水温度TSが150℃より大きくなるように保持され、冷媒温度の蒸発温度が140℃以下に低下することが確実に防止される。これにより、高温蒸発器14において冷媒は過熱冷却水に確実に加熱され、高温サイクル24での熱回収を確実に実施できる。 …(中略)… 【0058】 そこで、上記した第2ポンプ制御を実施する際に、この制御ルーチンのS10において判定される冷媒温度TRに対する所定の温度設定値TS3を例えばR245fa冷媒の臨界温度である約154℃より小さな150℃程度に設定することにより、冷媒温度TRが150℃以上になると第2冷媒ポンプ36の回転数がΔNの回転数分だけ増加され、高温蒸発器14に流入する冷媒の流入量が増大し、冷媒温度TRが150℃より小さくなり、冷媒温度TRがその臨界温度である154℃前後まで上昇することが確実に防止される。これにより、新たな操作端を設けることなく、高温ランキン24に配される既存の第2冷媒ポンプ36を利用するだけの簡易な構成で、高温蒸発器14において冷媒の温度が過大に高温となってその性状が不安定となるのが確実に防止され、高温サイクル24での熱回収を更に確実に実施できる。」(段落【0055】ないし【0058】) (2)引用文献記載の事項 上記(1)並びに図1及び図4の記載から、引用文献には次の事項が記載されていることが分かる。 (オ)上記(1)(ア)ないし(エ)並びに図1及び図4の記載から、引用文献には、排ガス熱交換器12で形成された過熱冷却水と、高温ランキンサイクル回路24を流れる冷媒とを熱交換し、該冷媒の冷媒温度TRを制御すべく、車両上で高温ランキンサイクル回路24を作動させる方法が記載されていることが分かる。 (カ)上記(1)(イ)及び図1の記載から、引用文献に記載された高温ランキンサイクル回路24を作動させる方法において、排ガスがエンジン4から排ガス管22を介して排ガス熱交換器12に送られ、該排ガス熱交換器12で形成された過熱冷却水が、高温ランキンサイクル回路24の高温蒸発器14を流れる際、冷媒を蒸発させるものであることが分かる。 (キ)上記(1)(ウ)及び(エ)並びに図1及び図4の記載から、引用文献に記載された高温ランキンサイクル回路24を作動させる方法において、高温ランキンサイクル回路24の高温蒸発器14に流入する冷媒の流入量を調整することによって、冷媒温度TRが所定の温度設定値TS3を超えたときに、冷媒温度TRを低下させるように制御するものであることが分かる。 (ク)上記(1)(ウ)及び(エ)並びに図1及び図4の記載から、引用文献に記載された高温ランキンサイクル回路24を作動させる方法において、冷媒の所定の温度設定値TS3は、該冷媒の臨界温度より小さな温度に設定されていることが分かる。 (3)引用発明 上記(1)及び(2)並びに図1及び図4の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「排ガス熱交換器12で形成された過熱冷却水と、高温ランキンサイクル回路24を流れる冷媒とを熱交換し、該冷媒の冷媒温度TRを制御すべく、車両上で高温ランキンサイクル回路24を作動させる方法であって、 排ガスがエンジン4から排ガス管22を介して排ガス熱交換器12に送られ、該排ガス熱交換器12で形成された過熱冷却水が、高温ランキンサイクル回路24の高温蒸発器14を流れる際、冷媒を蒸発させ、 高温ランキンサイクル回路24の高温蒸発器14に流入する冷媒の流入量を調整することによって、冷媒温度TRが所定の温度設定値TS3を超えたときに、冷媒温度TRを低下させるように制御し、 冷媒の所定の温度設定値TS3は、該冷媒の臨界温度より小さな温度に設定されている高温ランキンサイクル回路24を作動させる方法。」 2.-2 対比 本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「冷媒」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願補正発明における「作動流体」に相当し、以下同様に、「冷媒温度TR」は「作動温度」に、「作動させる方法」は「作動方法」に、「排ガス」は「排気ガス」に、それぞれ相当する。 また、引用発明における「高温ランキンサイクル回路24」は、排ガス熱交換器12で形成された過熱冷却水と冷媒とを熱交換するものであり、排ガスの熱を利用するサイクルといえるから、本願補正発明における「排気ガス熱利用サイクル」に相当する。 そして、引用発明において「車両上で高温ランキンサイクル回路24を作動させる」ということは、「高温ランキンサイクル回路24」が車両内にあることを意味するから、引用発明における「排ガス熱交換器12で形成された過熱冷却水と、高温ランキンサイクル回路24を流れる冷媒とを熱交換し、該冷媒の冷媒温度TRを制御すべく、車両上で高温ランキンサイクル回路24を作動させる方法」は、本願補正発明における「排気ガス熱利用サイクルの作動流体の作動温度制御を伴う、車両内の排気ガス熱利用サイクルの作動方法」に相当する。 さらに、引用発明における「エンジン4」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願補正発明における「内燃機関」に相当し、以下同様に、「排ガス管22」は「排気ガス供給ライン」に、「排ガス熱交換器12」は「熱交換器」に、「蒸発させ」は「気化する」に、「流入量」は「質量流量」に、それぞれ相当する。 さらにまた、「内燃機関から排気ガス供給ラインを介して送られる排気ガスの熱を用い、熱交換器により作動流体を気化すること」という限りにおいて、引用発明において「排ガスがエンジン4から排ガス管22を介して排ガス熱交換器12に送られ、該排ガス熱交換器12で形成された過熱冷却水が、高温ランキンサイクル回路24の高温蒸発器14を流れる際、冷媒を蒸発させ」ることは、本願補正発明において「内燃機関から排気ガス供給ラインを介して前記排気ガス熱利用サイクルの熱交換器に送られる排気ガスが、前記熱交換器を通過する際、前記作動流体を気化すること」に相当する。 そして、本願補正発明において、「作動流体の最大許容作動温度を超過しないように制御」するのは、「温度安定性」(本願の明細書の段落【0009】)を確保するためであると認められるところ、引用発明においても、冷媒温度TRを該冷媒の臨界温度より小さな温度である所定の温度設定値TS3以下に制御するのは、冷媒の性状が不安定となるのを確実に防止するため(上記1.(1)(エ)段落【0058】)である。したがって、「作動温度は、排気ガス熱利用サイクルの熱交換器を通って流れる作動流体の質量流量を調整することによって、作動流体の最高制御温度を超過しないように制御されること」及び「作動流体の最高制御温度が、作動流体の温度安定性を確保するための値により定められること」という限りにおいて、引用発明において「高温ランキンサイクル回路24の高温蒸発器14に流入する冷媒の流入量を調整することによって、冷媒温度TRが所定の温度設定値TS3を超えたときに、冷媒温度TRを低下させるように制御」すること及び「冷媒の所定の温度設定値TS3は、該冷媒の臨界温度より小さな温度に設定されている」ことは、本願補正発明において「作動温度は、排気ガス熱利用サイクルの前記熱交換器を通って流れる作動流体の質量流量を調整することによって、前記作動流体の最大許容作動温度を超過しないように制御されること」及び「作動流体の最大許容作動温度が、作動流体の化学分解温度よりも低いこと」に相当する。 以上から、本願補正発明と引用発明は、 「 排気ガス熱利用サイクルの作動流体の作動温度制御を伴う、車両内の排気ガス熱利用サイクルの作動方法であって、 内燃機関から排気ガス供給ラインを介して送られる排気ガスの熱を用い、熱交換器により作動流体を気化すること、 作動温度は、排気ガス熱利用サイクルの熱交換器を通って流れる作動流体の質量流量を調整することによって、作動流体の最高制御温度を超過しないように制御されること、および 作動流体の最高制御温度が、作動流体の温度安定性を確保するための値により定められることを特徴とする方法。」 である点で一致し、次の各点において相違又は一応相違する。 〈相違点〉 (a)「内燃機関から排気ガス供給ラインを介して送られる排気ガスの熱を用い、熱交換器により作動流体を気化すること」に関し、本願補正発明においては、「内燃機関から排気ガス供給ラインを介して前記排気ガス熱利用サイクルの熱交換器に送られる排気ガスが、前記熱交換器を通過する際、前記作動流体を気化する」のに対し、引用発明においては、「排ガスがエンジン4から排ガス管22を介して排ガス熱交換器12に送られ、該排ガス熱交換器12で形成された過熱冷却水が、高温ランキンサイクル回路24の高温蒸発器14を流れる際、冷媒を蒸発させ」るものである点(以下、「相違点1」という。)。 (b)「作動温度は、排気ガス熱利用サイクルの熱交換器を通って流れる作動流体の質量流量を調整することによって、作動流体の最高制御温度を超過しないように制御されること」及び「作動流体の最高制御温度が、作動流体の温度安定性を確保するための値により定められること」に関し、本願補正発明においては、「作動温度は、排気ガス熱利用サイクルの前記熱交換器を通って流れる作動流体の質量流量を調整することによって、前記作動流体の最大許容作動温度を超過しないように制御され」、「作動流体の最大許容作動温度が、作動流体の化学分解温度よりも低い」のに対し、引用発明においては、「高温ランキンサイクル回路24の高温蒸発器14に流入する冷媒の流入量を調整することによって、冷媒温度TRが所定の温度設定値TS3を超えたときに、冷媒温度TRを低下させるように制御」し、「冷媒の所定の温度設定値TS3は、該冷媒の臨界温度より小さな温度に設定される」点(以下、「相違点2」という。)。 2.-3 判断 まず、相違点1について検討する。 内燃機関における廃熱回収装置において、「排気管を介して廃熱回収のためのランキンサイクルの熱交換器に送られる排気ガスが、熱交換器を通過する際、ランキンサイクルの作動流体を気化させる技術」は、周知(以下、「周知技術」という。例えば、特開2003-278598号公報の段落【0026】及び【0030】並びに図1及び図2等参照。)である。 そして、引用発明と上記周知技術はともに排気ガスから廃熱を回収する技術に関するものであるから、引用発明において上記周知技術を適用して、排ガス熱交換器12で高温ランキンサイクル回路24の冷媒と熱交換するように構成し、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。 次に、相違点2について検討する。 一般に、熱サイクルの媒体として利用される物質において、臨界温度は化学分解温度よりも低い。例えば、本願の明細書において実施例として記載されているメタノールの熱分解温度は約370℃であるのに対し、臨界温度は約240℃である。 したがって、引用発明において、冷媒温度TRが、冷媒の臨界温度より小さな温度に設定された所定の温度設定値TS3を超えたときに、冷媒温度TRを低下させるように制御するということは、必然的に該冷媒の化学分解温度を超過しないように制御することになり、上記相違点2は、実質的な相違点ではない。 なお、仮に相違点2が実質的な相違点であったとしても、熱サイクルにおいて、作動流体を熱分解の開始温度よりも低く維持することは、技術常識(以下、「技術常識」という。例えば、特表2008-506819号公報の【0037】等参照。)である。 そして、冷媒の性状が不安定となるのを確実に防止するために所定の温度設定値TS3を定め、該所定の温度設置TS3に基づいて冷媒温度TRを制御する引用発明において、上記技術常識を勘案して、冷媒の熱分解の開始温度よりも低い温度を、所定の温度設定値TS3とすることによって、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本願補正発明を全体として検討しても、引用発明並びに周知技術及び技術常識から予測される以上の格別の効果を奏すると認めることはできない。 以上から、本願補正発明は、引用発明及び周知技術、又は引用発明並びに周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3.本願発明について 1.本願発明 前記のとおり、平成26年3月18日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成25年7月20日提出の誤訳訂正書によって補正された特許請求の範囲及び明細書並びに国際出願時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであり、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2.の[理由]1.(1)(ア)【請求項1】のとおりのものである。 2.引用発明 本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(特開2008-255959号公報)記載の発明(引用発明)は、前記第2.の[理由]2.-1の(3)に記載したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、前記第2.の[理由]1.(2)で検討したように、実質的に、本願補正発明における発明特定事項の一部の構成を省いたものに相当する。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、前記第2.の[理由]2.-2及び2.-3に記載したとおり、引用発明及び周知技術、又は引用発明並びに周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明であるか、又は引用発明若しくは引用発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.まとめ 以上のとおり、本願発明は、引用発明であるか、又は引用発明若しくは引用発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は同第2項の規定により、特許を受けることができない。 第4.むすび 上記第3のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は同第2項の規定により、特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-11-28 |
結審通知日 | 2014-12-02 |
審決日 | 2014-12-15 |
出願番号 | 特願2012-508921(P2012-508921) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(F02G)
P 1 8・ 121- Z (F02G) P 1 8・ 575- Z (F02G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 健一、石黒 雄一 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
槙原 進 中村 達之 |
発明の名称 | 自動車の排気ガス熱の利用 |
代理人 | 田中 清 |
代理人 | 村山 みどり |