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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H01L
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
管理番号 1300810
審判番号 無効2012-800103  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-06-15 
確定日 2015-04-02 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4839310号発明「太陽電池パネル用端子ボックス」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 請求のとおり訂正を認める。 特許第4839310号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第4839310号(以下「本件特許」という。平成23年10月7日登録、請求項の数は4である。なお、本件特許に係る出願である特願2007-513578号は、平成17年11月28日に出願した特願2005-341319号に基づく優先権を主張して、平成18年10月3日に国際出願したものである。)の請求項1ないし4に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい、これらを総称して「本件発明」ということがある。)についての特許を無効とすることを求める事案である。

第2 本件審判の経緯
本件審判の経緯は、次のとおりである。

平成24年 6月15日 審判請求
平成24年 7月13日 手続補正書提出(請求人、審判請求書について)
平成24年 9月20日 訂正請求書及び審判事件答弁書提出
平成24年10月15日 手続補正書提出(被請求人、訂正請求書について)
平成24年12月 5日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成24年12月20日 口頭審理
平成25年 1月11日 上申書提出(被請求人)
平成25年 2月13日 審決の予告
平成25年 4月19日 訂正請求書提出
平成25年 5月20日 手続補正書提出(被請求人、訂正請求書について)
平成25年 6月27日 審判事件弁駁書提出(請求人)

なお、特許法第134条の2第6項の規定により、平成24年9月20日付け訂正請求は、取り下げたものとみなす。

第3 訂正請求についての当審の判断
1 訂正請求の内容
被請求人が平成25年4月19日にした訂正請求(平成25年5月20日付け手続補正書により補正されたもの。以下「本件訂正請求」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書及び図面について、訂正請求書に添付した訂正明細書及び図面のとおりに一群の請求項ごとに訂正することを請求するものであって、以下の(1)ないし(3)の事項をその訂正内容とするものである。
なお、訂正請求書においては、請求の趣旨として「特許第4839310号の明細書を本件請求書に添付した訂正明細書のとおり一群の請求項ごとに訂正することを求める」と記載され、後記訂正事項1について、「明細書の[図7]、[図8]、[図9]中の記載「本発明例3」を、明瞭でない記載の釈明を目的として、「参考例」に訂正する」と記載されている(訂正請求書6頁下10行?9行)ところ、訂正請求書に添付した図面の【図7】、【図8】、【図9】中の記載「本発明例3」が「参考例」に訂正されていることに照らして、当該訂正事項は、【図7】、【図8】、【図9】中の記載を訂正することをいうものと認められ、本件訂正請求の趣旨は、上記のとおりのものと認められる。

(1)訂正事項1
明細書の段落番号【0039】、【0040】、【0041】、【0044】、【0047】、【0049】、【0050】を、それぞれ次のとおり訂正する。
「【0039】
試験サンプルの準備
(1)本発明例1
バイパスダイオードとして表2に示す55V定格型のショツトキーバリアダイオードを用いて図5に示すような構造の試験サンプルを準備した。図5の試験サンプルでは樹脂製の筐体の内部に二対(四枚)の端子板が配置され、それらに三つの面実装型のショットキーバリアダイオードが電気的に接続されている。四枚の端子板のうち、右端の一枚を除く三枚の端子板は通常より寸法を平面的に拡大されている(図6に示す筐体内部の平面図も参照)。加えて、拡大された端子板の上に三枚の放熱板がそれぞれ取り付けられている。
(2)本発明例2
図5に示す試験サンプルにおいてダイオードを表2に示す55V定格低リーク型のショットキーバリアダイオードに変更した以外は本発明例1と同様にして試験サンプルを準備した。
(3)参考例
図5に示す試験サンプルにおいてダイオードを表2に示す100V定格型のショットキーバリアダイオードに変更した以外は本発明例1と同様にして試験サンプルを準備した。
(4)比較例
図5に示す試験サンプルにおいてダイオードを表1に示すPNダイオードに変更した以は本発明例1と同様にして試験サンプルを準備した。」、
「【0040】
測定手順
ダイオード温度実測値の測定のため、本発明例1,2、及び参考例の試験サンプル及び比較例の試験サンプルの図6のAに示す位置(面実装型ダイオードの露出されている金属部分のうち、最も発熱量が多いと考えられる部分)に熱電対を取り付けた。また、順方向の電圧降下値測定のため、本発明例1,2、及び参考例の試験サンプル及び比較例の試験サンプルの図6のA及びB(面実装型ダイオードの露出されている金属部分のうち、Aと電気的極性が逆である部分)に示す位置にそれぞれリード線を取り付け、A-B間の電圧を測定できるようにした。また、端子ボックスの底面部分の温度実測値の測定のため、ダイオードの真下にあたる端子ボックスの部分に熱電対を取り付けた。」
「【0041】
次に、本発明例1,2、及び参考例の試験サンプル及び比較例の試験サンプルの裏面にシリコーングリスを塗布し、ガラスパネルに貼り付けて太陽電池モジュールを作成した。」
「【0044】
本発明例1,2、参考例及び比較例の端子ボックスについてのこれらの測定結果及び計算結果を以下の表3(その1)?表3(その4)に示す。
【表3】

」、
「【0047】
また、ショットキーバリアダイオードの種類を変えた本発明例2及び参考例の端子ボックスでも本発明例1と同様の傾向が見られたが、PNダイオードを用いた比較例の端子ボックスとの順方向電圧降下値VFの差、発熱量の差、ダイオードジャンクション温度Tjの差、及び端子ボックスの底面温度Tcの差は、本発明例1より本発明例2の方が小さく、また本発明例2より参考例の方が小さかった。」、
「【0049】
また、ショットキーバリアダイオードの種類を100V定格型に変えた参考例の端子ボックスでは、通電量が11.0Aの場合は端子ボックスの底面温度(Tc)は120℃を若干超えたが、通電量が6.0A及び8.8Aの場合は120℃を下まわった。11.0Aという通電量は上述の通り、規格上の試験値であり、実際の使用状況下でバイパスダイオードに流れる電流量より25%大きい余裕を持たせた通電量である。従って、参考例の端子ボックスでも実際には現在の結晶系シリコン太陽電池パネルに対して十分使用可能であるといえる。」、
「【0050】
以上の実験結果から、バイパスダイオードとしてショットキーバリアダイオードを用いた本発明例1,2、及び参考例の端子ボックスによれば、ダイオード及び端子ボックスの温度上昇を効果的に防止して端子ボックスの安全性及び信頼性を高めることができることは明らかである。」、
また、【図7】、【図8】、【図9】中の記載「本発明例3」を、「参考例」に訂正する。

(2)訂正事項2
明細書の段落番号【0013】を、次のとおり訂正する。
「【0013】
表1に示したPNダイオードは従来より太陽電池パネル用端子ボックスの分野で一般的に用いられてきたPNダイオードであり、ジャンクション保証温度(ダイオードのコアであるチップ部分(ジャンクション)の耐熱温度)が150℃以上という太陽電池パネル用端子ボックスでの規制を満たすダイオードである。一方、表1に示したショットキーバリアダイオード(SBD)も、ジャンクション保証温度が150℃以上という規制を満たすダイオードである。」

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1を、次のとおり訂正する。
「【請求項1】
バイパスダイオードとしてショットキーバリアダイオードのみを具備する、結晶系シリコン太陽電池パネルに取り付けるための太陽電池パネル用端子ボックスであって、前記ショットキーバリアダイオードが150℃以上のジャンクション温度保証値を有すること、及び10Aの電流を通電したときのショットキーバリアダイオードの順方向電圧降下が、25℃のジャンクション温度で0.50V以下、100℃のジャンクション温度で0.40V以下、150℃のジャンクション温度で0.35V以下であることを特徴とする太陽電池パネル用端子ボックス。」

2 訂正の適否
(1)各訂正事項の訂正要件について
ア 訂正事項1
訂正事項1の内容は、訂正前の「本発明例3」は特許請求の範囲の請求項1の特定事項を備えないものであるのに「本発明例」とされているところ、これを「参考例」に訂正するものである。
したがって、この訂正は特許法第134条の2第1項ただし書き第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当すると認められる。
また、上記訂正が、願書に添付した明細書又は図面(以下、単に「本件特許明細書」という。)に記載した事項のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、当該訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

イ 訂正事項2
訂正事項2の内容は、訂正前の「ショットキーバリアダイオード(SDB)」を「ショットキーバリアダイオード(SBD)」に訂正するものであるところ、訂正前の「SDB」が「SBD」の誤記であることは明らかである。
したがって、この訂正は特許法第134条の2第1項ただし書き第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当すると認められる。
また、上記訂正が、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「本件当初明細書」という。)に記載した事項のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、当該訂正は、本件当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

ウ 訂正事項3
(ア)訂正事項3の内容は、訂正前の請求項1に係る発明における「結晶系シリコン太陽電池パネル用端子ボックス」を「結晶系シリコン太陽電池パネルに取り付けるための太陽電池パネル用端子ボックス」に訂正するものであって、「結晶系シリコン太陽電池パネル用端子ボックス」が、「太陽電池パネルに取り付けるため」のものであることを限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。

(イ)そして、本件特許明細書には、以下の記載がある(下線は、審決で付した。)。
「【背景技術】
【0002】
太陽電池パネル用端子ボックスには通常、太陽電池パネルの起電力が低下した時に逆方向電圧の印加による電流を一方の外部接続用ケーブルから他方の外部接続用ケーブルへ短絡させるためにバイパスダイオードが具備されている。バイパスダイオードが実際にこの機能を果たす際、ダイオードの順方向へ大電流が流れるため、ダイオードは通常、激しく発熱する。そうするとダイオードが破損したり、ダイオードの寿命が著しく短くなったり、ダイオードの発生する熱により、端子ボックスを構成する樹脂が変形して端子ボックスが太陽電池パネルから脱落する可能性がある。特に、端子ボックスは太陽電池パネルに取り付けられた状態で野外で20年以上も使用されるため、その可能性が高い。従って、長期間の安全性や信頼性の向上の観点からバイパスダイオードの動作時のダイオードの温度上昇を効果的に防止することが求められている。
・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は結晶系シリコン太陽電池パネルに用いられる端子ボックスにおいてバイパスダイオードの動作時(即ち、太陽電池パネルの異常発生時)のダイオードの温度上昇を効果的に防止するためのさらに有効な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決すべく、結晶系シリコン太陽電池パネルに用いられる端子ボックスにおいてダイオードの温度上昇を効果的に防止するための手段について鋭意検討した結果、発生したダイオードの熱を放熱するという手段ではなく、ダイオード自体の発熱を抑制することを想起した。そして、その具体的な手段についてさらに検討したところ、ダイオードとしてショットキーバリアダイオードを用いることによりダイオード自体の発熱を効果的に抑制できるとともに、ショットキーバリアダイオードの持つ欠点を露呈させることなく使用できることを意外にも見出し、本発明を完成するに至った。」

(ウ)上記(イ)によれば、本件特許明細書においては、背景技術として、ダイオードの発生する熱により、端子ボックスを構成する樹脂が変形して端子ボックスが太陽電池パネルから脱落する可能性があること、特に、端子ボックスは太陽電池パネルに取り付けられた状態で野外で20年以上も使用されるため、その可能性が高いことが説明され、本件発明は、ダイオード自体の発熱を抑制し、ダイオードの温度上昇を効果的に防止するためのものであることが説明されているものと認められる。
上記によれば、本件特許明細書においては、本件発明に係る「端子ボックス」が、太陽電池パネルに取り付けられた状態で使用されるものとして説明されていることが認められる。

(エ)したがって、訂正事項3は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正と関係する請求項について
本件特許の請求項1ないし4は、請求項1の記載を、請求項2及び請求項3がそれぞれ引用し、請求項2の記載を、請求項3が引用し、請求項3の記載を、請求項4が引用しているものである(なお、訂正後の本件特許の特許請求の範囲を、後記第4に示す。)から、請求項1ないし4は、特許法施行規則第46条の2第2号に規定する関係を有する一群の請求項を構成する。
そして、訂正事項1及び2は、請求項1ないし4に関係するものと認められ、訂正事項3は、請求項1に関係するものと認められるから、本件訂正請求は、訂正事項1ないし3と関係するすべての一群の請求項が請求の対象とされているものといえる。
したがって、本件訂正請求は、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第4項の規定に適合するものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求に係る訂正を認める。

第4 本件訂正発明
上記のとおり、本件訂正請求に係る訂正が認められたので、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、訂正後の各請求項に係る発明を「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明4」という。)は、次の各請求項に記載したとおりのものと認められる。

「【請求項1】
バイパスダイオードとしてショットキーバリアダイオードのみを具備する結晶系シリコン太陽電池パネルに取り付けるための太陽電池パネル用端子ボックスであって、前記ショットキーバリアダイオードが150℃以上のジャンクション温度保証値を有すること、及び10Aの電流を通電したときのショットキーバリアダイオードの順方向電圧降下が、25℃のジャンクション温度で0.50V以下、100℃のジャンクション温度で0.40V以下、150℃のジャンクション温度で0.35V以下であることを特徴とする太陽電池パネル用端子ボックス。
【請求項2】
10Aの電流を通電したときのショットキーバリアダイオードの順方向電圧降下が、25℃のジャンクション温度で0.45V以下、100℃のジャンクション温度で0.35V以下、150℃のジャンクション温度で0.30V以下であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池パネル用端子ボックス。
【請求項3】
バイパスダイオードの発生する熱を逃すための放熱板及び/又はバイパスダイオードの発生する熱を逃がすための拡大された端子板をさらに具備することを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽電池パネル用端子ボックス。
【請求項4】
ショットキーバリアダイオードが面実装型又は非絶縁型のパッケージダイオードであることを特徴とする請求項3に記載の太陽電池パネル用端子ボックス。

第5 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 無効理由1(特許法特許法第29条第2項違反)
本件発明1ないし4は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第3号証及び甲第7ないし10号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記各発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

2 無効理由2(特許法第36条第4項第1号違反)
以下のとおり、本件発明1及び2は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていないものであるから、上記各発明についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
すなわち、「0.50V」、「0.40V」及び「0.35V」という数値を導き出した根拠について実質的な記載が全くないことからして、本件発明1は明細書で十分にサポートされていない。したがって、本件特許の請求項1には記載要件不備があり、この点でも、本件発明1は無効とされるべきである。本件特許の請求項2にも記載要件不備がある。
ところで、本件特許権が、特許請求の範囲に記載された発明の技術的範囲から外れる100V定格型のショツトキーバリアダイオードを、本発明例3として用いていることについて記載要件不備がある。

3 甲号証
請求人が提出した甲号証は、以下のとおりである。
(なお、口頭審理において、請求人は、甲第2号証の1、甲第2号証の2、甲第4号証及び甲第5号証に基づく主張は撤回する旨陳述した。)

甲第1号証:特開2000-315808号公報
甲第3号証:トランジスタ技術 2005年9月号、130頁?131頁
甲第6号証:本件特許の図8及び図9を修正したもの
甲第7号証:特開2005-57008号公報
甲第8号証:特開2004-247708号公報
甲第9号証:特開2004-319800号公報
甲第10号証:特開平11-17197号公報
(以上、審判請求書に添付して提出。)
甲第11号証:知財高裁平成23年(行ケ)第10059号判決
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出。)
甲第12号証の1:特開2004-282107号公報
甲第12号証の2:特開2002-57360号公報
甲第13号証の1:特開2000-299485号公報
甲第13号証の2:特開2001-77391号公報
甲第14号証:特開2002-252356号公報
甲第15号証の1:製品名「BP3160」のカタログ(2003年発行)
甲第15号証の2:米国NRELの報告書(2004年8月発行)
甲第16号証:特開2005-251962号公報
(以上、審判事件弁駁書に添付して提出。)

第6 被請求人の主張の概要及び証拠方法
1 本件発明の技術思想(答弁書3頁?8頁)
(1)ダイオードとしては、PNダイオード(太陽電池パネル用端子ボックスで従来用いられてきた一般的な整流ダイオード)とショットキーバリアダイオード(オーディオ機器の電源回路やスイッチング電源で従来一般的に用いられているダイオード)とがある。ショットキーバリアダイオードは、(i)VFが低く、動作時の発熱量が小さいという利点を有するが、一方では、(ii)逆方向耐電圧(VR)が小さく、(iii)漏れ電流(IR)が大きいという重大な欠点を有するため、太陽電池パネル用端子ボックスにおいて、(ii)及び(iii)の欠点を無視してショットキーバリアダイオードを使用した製品は、今まで提案されてこなかった。

(2)ところが、本件特許権者は、太陽電池パネルの中でも、結晶系シリコン太陽電池パネルという特定の種類のものを使用すると、ショットキーバリアダイオードの(i)の利点を活かしながら、(ii)及び(iii)の欠点を克服できることを意外にも見出した。本件発明は、太陽電池パネルとしての結晶系シリコン太陽電池パネルの使用と、太陽電池パネル用端子ボックス内のバイパスダイオードとしてのショットキーバリアダイオードの使用という二つの特徴の組み合わせによって、ショットキーバリアダイオードの(i)VFが低く、動作時の発熱量が小さいという利点を享受しながら、ショットキーバリアダイオードの持つ(ii)VRが小さい、及び(iii)IRが大きいという欠点を露呈させないという、従来誰もが想起しなかった驚くべき知見に基づくものである。

(3)本件特許発明者は、上記の知見をさらに押し進めて研究した結果、太陽電池パネルとして結晶系シリコン太陽電池パネルを採用した場合には、ショットキーバリアダイオードの(ii)VRが小さい及び(iii)IRが大きいという欠点を露呈させずに(i)VFが低く、動作時の発熱量が小さいという利点を最大限利用することが必要であることを見出し、そのために好適なショットキーバリアダイオードのVFの特性も見出した。
具体的には、本件発明では、10Aの電流を通電したときのショットキーバリアダイオードの順方向電圧降下が、25℃のジャンクション温度で0.50V以下、100℃のジャンクション温度で0.40V以下、150℃のジャンクション温度で0.35V以下であることが必要である(本件特許の請求項1)。
本件特許の実施例の実験結果から明らかなように、結晶系シリコン太陽電池パネルの端子ボックスでは、製品としての信頼性を確保してショットキーバリアダイオードを使用するためには、VFに関して本件特許の請求項1に記載のような特定の特性を有することが必要なのである。

(4)このように、太陽電池パネルとして結晶系シリコン太陽電池パネルを採用し、バイパスダイオードとしてショットキーバリアダイオードを採用した上で、上述のようなショットキーバリアダイオードの好適なVF特性まで具体的に提案したものは、審判請求人の提示する甲号証には全くない。

2 無効理由1について
(1)答弁書における主張(答弁書8頁?10頁)
ア 甲第1号証は、バイパスダイオードの配列構成を甲第1号証の図1のように工夫することにより、多数の太陽電池パネルに異常が発生した場合に電流が流れるダイオードの数を減少させ、それによってダイオードの発生熱(電力損失)を全体として減少させるというものであり、ダイオード自体の種類や特性を工夫してダイオードの発熱を減少させるものではない。

イ 甲第1号証には、バイパスダイオードとしてショットキーバリアダイオードを使用した例が記載されているが、そこで使用される太陽電池パネルが結晶系シリコン太陽電池パネルであるかどうかは不明である。従って、結晶系シリコン太陽電池パネルを使用した場合の利点は、甲第1号証からは到底伺い知ることはできない。結晶系シリコン太陽電池パネル自体が従来公知であることは認めるが、本件発明のように、結晶系シリコン太陽電池パネルにおいてショットキーバリアダイオードを採用することにより、(i)VFが低く、動作時の発熱量が小さいというショットキーバリアダイオードの利点を活かしつつ、(ii)VRが小さい、及び(iii)IRが大きいという欠点を克服できることは従来知られていない。もちろん、このようなことは、甲第3号証には一切教示されていない。本件発明では、太陽電池パネルとしての結晶系シリコン太陽電池パネルの採用、及びバイパスダイオードとしてのショットキーバリアダイオードの採用は、構成及び効果の点で一体不可分であり、審判請求人のように個別の技術の存在を提示しても、全く意味がない。

ウ 甲第1号証の端子ボックスは、甲第1号証の図1から明らかなように、バイパスダイオードとしてショットキーバリアダイオードのみを具備するように設計されていない。図1のダイオード72、74及び76の存在を考慮すれば、甲第1号証の端子ボックスのバイパスダイオードがショットキーバリアダイオードのみから構成されているといえないことは明らかである。

エ さらに述べると、甲第1号証は、結晶系シリコン太陽電池パネルにおいて好適に採用できるショットキーバリアダイオードの特性も何ら教示しない。
甲第1号証には、ショットキーバリアダイオードについて言及する記載があるが、(ii)VRが小さい、及び(iii)IRが大きいというショットキーバリアダイオードの欠点を無視して端子ボックスに採用しただけである。甲第1号証は、これらの欠点には着目すらしていないし、これらの欠点の克服方法についても全く教示していない。
甲第1号証のこのような知見程度では、製品化は到底不可能であり、(ii)及び(iii)の欠点を克服していないので、実際製品化されていない。

オ 以上から明らかなように、甲第1号証は、本件発明の進歩性を否定しうる文献とはなりえないものである。

(2)上申書における主張(上申書4頁)
甲第1号証の明細書の段落【0002】には、「複数の太陽電池からなるストリングを備えたモジュールは、一般に板状の構造をなし、薄いフィルム状の太陽電池が帯状に互いに隣接した態様で配置される」という記載がある。
太陽電池パネルにおいて「薄いフィルム状」(即ち薄膜状)及び「帯状」の修飾語が使われる場合は、薄膜太陽電池を意図している。甲第1号証の発明自体は、太陽電池パネルの種類を限定するものではないが、甲第1号証の記載は、本願発明の結晶系シリコン太陽電池以外のものの使用を意図していることは明らかである。

(3)平成25年4月19日付け訂正請求書における主張(9頁?15頁)
ア 本件訂正発明1は、結晶系シリコン太陽電池パネルに取り付けるための太陽電池パネル用端子ボックスであり、太陽電池パネルに端子ボックスが取り付けられるということは、端子ボックスが太陽電池パネルの裏面などに取り付けられて太陽電池パネルの熱の影響を直接受けて使用されることを意味する(乙第1号証)。
これに対して、甲第1号証の回路装置は、接続ボックスと称されるものであり、太陽電池パネルから離れて設置されるようなもので、さらには屋内に設置されることが好ましいものであり、本件訂正発明1の端子ボックスとは使用態様が全く異なる。これは、甲第1号証の接続ボックスが、本件訂正発明1の端子ボックスとは異なり、屋外に設置される太陽電池パネル自体からの熱の影響を直接受けなくて済み、さらには、屋内のような室温下の環境に設置できること、そして、さらにいえば、接続ボックス内の温度を上昇させにくくするためにボックスの容積を制限なく大きくすることができ、放熱が容易であることを意味する。
したがって、甲第1号証の接続ボックスと本件訂正発明1の端子ボックスでは、ダイオードの使用環境温度が著しく異なり、求められるダイオードの種類や特性、後述する太陽電池パネルの種類の点で大きく異なる。

イ 乙第3号証(実験成績報告書(1))から、高温(75℃)で使用されることを意図される本件訂正発明1の端子ボックスでは、ダイオードとして本件訂正発明1の要件を満たす特定のショットキーバリアダイオードのみを使用することが好ましいが、常温(高くても40℃)で使用されることを意図される甲第1号証の接続ボックスでは、ダイオードとしてPNダイオードより発熱の少ないショットキーバリアダイオードを使用する方が適切であるというにすぎず、必ずしも全てのダイオードをショットキーバリアダイオードにする必要性もなく、ましてやショットキーバリアダイオードとして本件訂正発明1で規定される特別な特性を有するものを限定して使用する必要性がないことがわかる。甲第1号証の接続ボックスが屋内に設置される場合は、使用環境温度もさらに低い30℃以下で保たれるため、ダイオードの種類や特性に関する条件はさらに緩和されると思われる。

ウ 乙第4号証(実験成績報告書(2))から、本件訂正発明1のように太陽電池パネルとして結晶系シリコン太陽電池パネルを使用した場合は、太陽電池パネルの公称の最大出力の動作電圧が印加されてもショットキーバリアダイオードが破壊されずに使用できるが、甲第1号証の接続ボックスのように太陽電池パネルの種類を限定せずにアモルファス系シリコン太陽電池パネルを使用した場合は、太陽電池パネルの公称の最大出力の動作電圧が印加されるとショットキーバリアダイオードが破壊されるため使用できなくなることがわかる。つまり、上記のように太陽電池パネルの種類によって、その公称開放電圧は異なるので、甲第1号証のように太陽電池パネルの種類を考慮しない場合は、本件訂正発明1で規定されるショットキーバリアダイオードは使用できない。甲第1号証には、このような太陽電池パネルの種類によるショットキーバリアダイオードヘの影響は全く記載も示唆もされていない。

エ 以上のように、本件訂正発明1の端子ボックスと甲第1号証の接続ボックスとでは、使用態様の違いに基づき使用環境が全く異なる。さらに、かかる用途(使用環境)の相違に基づいて、本件訂正発明1と甲第1号証の発明とでは、使用されるダイオードの種類、特性、太陽電池パネルの種類などが明らかに異なる。本件訂正発明1に比べて高温になりにくい甲第1号証の接続ボックスの使用態様に照らせば、甲第1号証から、本件訂正発明1において規定されるダイオードの種類や特性の要件を導くことは困難である。
したがって、本件訂正発明1は、当業者が甲第1号証から容易に想到しうるものではない。

3 無効理由2について(答弁書14頁?15頁)
本件発明において規定する各温度の順方向電圧降下VFの上限値「0.50V」、「0.40V」、「0.35V」の根拠については、本件特許の効果を達成できる本発明例2の55V定格低リーク型のVF値「0.467V」、「0.386V」、「0.332V」の少し上の値を規定したものであり、審判請求人の主張する明細書のサポート性不足や記載不備には全く該当しないと思料する。
また、審判請求書第34頁において、審判請求人は、「ところで、本件特許権が、特許請求の範囲に記載された発明の技術的範囲から外れる100V定格型のショツトキーバリアダイオードを、本発明例3として用いていることについて記載要件不備がある点についても念のために主張しておく。」と述べているが、この指摘に対して、本件特許権者は、別途同日付けで訂正請求書を提出し、本件特許明細書中の「本発明例3」を「参考例」に訂正した。したがって、審判請求人のこの指摘はもはや該当しなくなったものと思料する。

4 乙号証
被請求人が提出した乙号証は、以下のとおりである。

乙第1号証:特開2006-216871号公報
乙第2号証:「公共用・産業用太陽光発電システム計画ハンドブック」社団法人日本電機工業会、平成13年6月
乙第3号証:「実験成績報告書(1)」、永井剛作成
乙第4号証:「実験成績報告書(2)」、永井剛作成
(以上、平成25年4月19日付け訂正請求書に添付して提出。)

第7 当審の判断
1 無効理由1(特許法第29条第2項違反)について
(1)甲号証の記載
ア 甲第1号証
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開2000-315808号公報)には、以下の記載がある(下線は、審決で付した。)。

「【0007】本発明の目的は、互いに直列に接続された太陽電池からなるストリングと各ストリングのためのバイパス・ダイオードを備えた回路装置を改良し、一連のストリングにおいて2つ又はそれ以上のストリングが日陰になり不導通状態のときにバイパス・ダイオードの電流に起因して生じる不導通状態のストリングの数に比例した電力損失の増大を実質的に減少させることである。
【0008】
【課題を解決するための手段及び発明の効果】上記目的を達成するために、本発明は、ストリングに対して並列に接続されるとともに互いに直列に接続された2つ又はそれ以上のバイパス・ダイオードが更なるダイオードに並列に接続された構成を提案するものである。この構成の本発明の回路装置においては、各ストリングのバイパス・ダイオードが並列のダイオードによってジャンパーされる直列接続の複数のストリングが、日陰状態(shading) によって不導通方向(non-conducting direction)に分極(polarization)されると、該並列のダイオードを介して電流が流れる。その結果、電力損失は1つのダイオードにのみ生じる。1つの並列ダイオードによりジャンパーされた各2つのバイパス・ダイオードにおいては、全てのストリングが不導通方向に分極されるとともに偶数よりなる場合において、存在するバイパス・ダイオードの単に半分のダイオードが電流を導く。
【0009】これにより、本発明の回路構成においては、電力損失を大幅に減少させることができる。ダイオードにおける電力損失は、更に、より多くのバイパス・ダイオードをジャンパーする他のダイオードにより一層減少させることができる。
【0010】本発明の好ましい具体例において、バイパス・ダイオード及びそれに対して並列をなし2つ又はそれ以上のストリングのための更なるダイオードはプリント回路板の上面又は裏面の一方の側に配置され、他方の側にはプリント導体が配置される。このプリント導体は外部配線のための接続点及びバイパス・ダイオードとの接続のための接続貫通孔とを有する。ここにおいて、バイパス・ダイオード及び更なるダイオードのための接触面としての金属面がプリント回路板の表面に設けられる。この構成において、熱伝達はバイパス・ダイオード及び更なるダイオードから金属面へと行われる。多数の不導通のストリングがある場合でも、プリント回路板上に配置されたダイオードの内の僅かな数のダイオードのみが電流を担持するので、金属面を備えたプリント回路板はこの発生熱を十分に消散させることができる。従って、バイパス・ダイオード及び更なるダイオードを備えたプリント回路板は小型化でき、その占めるスペースを極めて小さくすることができる。又、多数のストリングのためのバイパス・ダイオード及び更なるダイオードを備えたプリント回路板は接続ボックス内に配置するのが望ましい。
【0011】バイパス・ダイオード及びこれと並列をなす更なるダイオードとしてショットキー・ダイオードが望ましい。ショットキー・ダイオードは導通方向において低い内部抵抗を有するので、電圧低下及び熱損失の度合いが低い。」、
「【0013】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の電力発生のための回路装置の実施形態を説明する。当該電力発生のための回路装置は、多数の太陽電池(ソーラーセル)を有し、図においては、その内、参照番号10,12,14,16,18,20,22,24,26,28,30及び32を付した太陽電池のみが示されている。これら太陽電池10?32は、図1において破線で囲んで示すストリング(string)34,36,38,40,42及び44内に配置されている。ストリング34は互いに直列に接続された太陽電池10,12を有し、これらは図示しない更に他の太陽電池に直列に接続されている。ストリング36は互いに直列に接続された太陽電池14,16を有し、これらは図示しない更に他の太陽電池に直列に接続されている。太陽電池18,20;22,24;26,28及び30,32はそれぞれストリング38,40,42及び44内に配置されるとともに図示しない更に他の太陽電池と直列に接続されている。各ストリング34?44は、例えば20個の太陽電池を有し、標準的な照射条件の下で、温度25℃において3アンペア(A)で約10ボルト(V)の電圧を発生させる。
【0014】ストリング34?44も相互に直列に接続される。従って、図1に示す回路構成においては、上述の条件下で、プラスの接続点48のところで3A,60Vの電圧を呈する。接続点46,48、太陽電池10?32及び図示されていない更なる太陽電池は、ここにおいて詳細を略してあるが、板状構造のソーラーモジュールの一部を構成する。これら太陽電池10?32及び図示されていない更なる太陽電池は、ソーラーモジュールの平坦なプレート上に帯状に配置されている。これらの太陽電池10?32及び図示されていない更なる太陽電池を備えた図1に示すソーラーモジュールは、例えば同様の構成の他の1つ又は複数のソーラーモジュールと直列に接続することができる。この図1に示すソーラーモジュールないしはこれを複数備えたモジュール構成を、エネルギーの供給を受ける機器のために供するか、あるいはインバータを介して交流電源ネットワークに接続する構成となっている。
【0015】各ストリング34,36,38,40,42及び44の太陽電池にはバイパス・ダイオード50,52,54,56,58及び60が並列に接続されている。これらバイパス・ダイオード50?60は、図1において一点鎖線で囲って示した接続ボックス62内に位置する。この接続ボックス62はソーラーモジュールから分離した状態で取り付けられている。
【0016】図1に示す回路装置において、各々3つのバイパス・ダイオードが、1つの並列接続されたダイオードによってジャンパー接続されている。すなわち、バイパス・ダイオード50,52,54は更なるダイオード64に対して並列接続されている。更なるダイオード66はバイパス・ダイオード52,54,56に対して並列接続されている。ダイオード68はバイパス・ダイオード54,56,58に対して並列接続されている。又、ダイオード70はバイパス・ダイオード56,58,60に対して並列接続されている。そして、これらダイオード64,66,68,70も又、バイパス・ダイオードであるが、これらは1つのストリングに対してでなく3つのストリングに対して並列接続されている。これらのダイオード64,66,68,70をバイパス・ダイオード50?60とより明確に区別するために、これを単に「ダイオード」又は「更なるダイオード」と称する。
【0017】バイパス・ダイオード50?60は、太陽電池が活動状態(active)、すなわち、太陽光が照射された状態のとき、並列に接続されたストリング34?44に関して不導通方向に分極(polarized )され、不導通状態である。外部配線のための接続点48は、例えば、プラスの電位を有し、接続点46はマイナスの電位を有する。もし、ストリング34?44の内の1つが例えば、日陰になってもはや活動状態でなくなると、不導通状態になり、ソーラーモジュールの電圧/電流に寄与しなくなる。まだ活動状態にあるアクティブな他のストリングは依然として電流を発生し、これが非活動状態のストリングのバイパス・ダイオードを介して流れる。その結果、導通方向に働くバイパス・ダイオードの内部抵抗のところで、電圧低下が生じ、これがソーラーモジュールのエネルギー収量を減少させる。更に、電流を運ぶバイパス・ダイオードの熱損失が結果として生じるが、これはバイパス・ダイオードにおける許容可能な温度を確実に越えないようにするために放散されねばならない。バイパス・ダイオード50?60及び更なるダイオード64?70はショットキー・ダイオードであるから、その内部抵抗は導通モードで低く、従って、熱損失を最小限に抑制することができる。
【0018】図1に示す回路装置において1つのストリングが活動状態とされていない場合、他のストリングによって、そして例えば更なるソーラーモジュールによって発生した電流が単に1つのバイパス・ダイオードを介して流れる。もし、図示の回路装置における2つのストリングが活動状態となっていない場合、2つのバイパス・ダイオードが電流を流す。又、もし図1に示す当該装置の3つのストリングが、例えば日陰になって活動化されていない場合には、バイパス・ダイオード50?60又は更なるダイオード64?70の唯1つ、又は2あるいは3つのバイパス・ダイオードが、一連のストリングの内で非活動のストリングの位置に応じて、活動的になる。しかし、1つのソーラーモジュール内において互いに隣接しない3つ又はそれ以上のストリングが日陰になって活動化されない可能性は低いので、図1に示す回路装置において通常、3つ又はそれ以上のストリングが日陰になる場合でも、最大2つのダイオードが電流を流す。
【0019】図1に示す回路装置は、更に、複数のストリングが日陰になっている場合において電流を流すダイオードの数を減少させる可能性を示している。この可能性を発揮するために、ダイオード72,74又は76が図1において破線で示すように設けられ、2つずつ直列に接続されたストリング34,36;38,40又は42,44に対してそれぞれ並列に接続される。このように図1において破線で示した回路構成によって、隣接する2つのストリングが日陰になった場合に、1つのダイオードのみが電流を導くように作用する。又、対応する適宜のストリング及びそれらのバイパス・ダイオードに対して並列構成のダイオード72,74,76によって、複数のストリングが日陰になる場合に、更なるダイオード64,66,68,70なしでも電流を導くダイオードの数を減少させる効果がある。従って、ダイオード64?70があるために、日陰になったストリングの数が多く、又、その位置も連続しているような状態にあっても、電流を導くダイオードの数を大幅に減少させることができる。
【0020】更に、可能なことはストリング34?44ないしは、それらのバイパス・ダイオードを他のダイオードに並列に接続し、それによって、日陰になったストリングの数の如何に拘らず、常に1つのダイオードのみに電流を導くようにすることである。この構成においては、2つ又は3つのストリングを並列接続するのでなく、4つ及び5つのストリングを並列接続するようにジャンパー接続するダイオードが設けられねばならない。、この構成は、接続ボックスの配置が容易であるというスペース上の理由と、よりコストダウンが出来るという経済的理由により、望ましいものである。
【0021】図2は、プラスチック製ハウジング78内に配置されたプリント回路板80を備えた接続ボックス62の回路構成を示す。プリント回路板80は図2において平坦な側が示されている。ストリング34は、回路板80の一側部に設けられた幅広のプリント導体82と共働する外部配線のための接続点81に、詳細な図示を省略した配線を介してマイナス端子のところで接続されている。該回路板80の同じ側部において、幅広のプリント導体86の外部配線のための接続点84が設けられ、ストリング34のプラス端子を接続させるとともにストリング36のマイナス端子を接続させている。又、該回路板80の同じ側部に設けられた幅広のプリント導体90の外部配線のための接続点88はストリング36のプラス端子及びストリング38のマイナス端子にそれぞれ接続されている。ストリング38のプラス端子は幅広のプリント導体94の第1の接続点92に配線を介して接続されている。このプリント導体94はプリント回路板80の全幅にわたって延出している。他方、プリント導体82,86,90はプリント回路板80の同じ側にあって、その全幅の約中間位置にまで延出している。プリント導体94はプリント回路板80について接続点81?92とは反対側の側部に第2の接続点96を有する。ストリング40のマイナス端子が配線を介して、この第2の接続点96に接続されている。ストリング40のプラス端子は幅広のプリント導体100の接続点98に接続されている。このプリント導体100は、プリント導体90,94に対して該プリント回路板80の中央位置において電気的絶縁の距離を保って互いに隣接している。ストリング42のマイナス端子も配線を介して接続点98に接続されている。ストリング42のマイナス端子は、幅広のプリント導体104の接続点102に配線を介して接続されている。そして、この接続点102にはストリング44のマイナス端子も接続され、該ストリング44のプラス端子は幅広のプリント導体108の接続点106に接続されている。
【0022】バイパス・ダイオード50?60は、プリント導体82,86,90,94,100,104,108とは反対側のプリント回路板80の面(裏側)に配置されている。バイパス・ダイオード50は、プリント回路板80に設けた接続貫通孔を介してプリント導体86にその一端が接続されるとともに他端はプリント導体86に接続されている。バイパス・ダイオード52は上記と同様にして、その一端及び他端がプリント導体86,90にそれぞれ接続されている。又、バイパス・ダイオード54はプリント回路板に設けた接続貫通孔を介してプリント導体90,94にそれぞれ接続されている。バイパス・ダイオード56は接続貫通孔を介してプリント導体94,100にそれぞれ接続され、バイパス・ダイオード58はこれと同様にプリント導体100,104にそれぞれ接続されている。更に、バイパス・ダイオード60はプリント回路板80に設けた接続貫通孔を介してプリント導体104,108にそれぞれ接続されている。
【0023】ダイオード64はアノード(陽極)がプリント導体82に、又、カソード(陰極)がプリント導体94に接続されている。ダイオード66はアノードがプリント導体86に、又、カソードがプリント導体100に接続されている。ダイオード68はアノードがプリント導体90に、又、カソードがプリント導体104に接続されている。ダイオード70はアノードがプリント導体94に、又、カソードがプリント導体108に接続されている。
【0024】バイパス・ダイオード50?60及びダイオード64?70はショットキー・ダイオードで構成され、各々はプリント回路板80の表面に設けた接触面をなす金属層の面に接しているが、具体的図示を省略してある。この金属層は、それぞれのダイオードを流れる電流による発生熱の大部分を吸収するとともに対流及び放射によって熱を大気中に消散させる。電流を導くダイオードの数は、例え全てのストリング34?44が日陰になった場合でも、3つに制限されるので、発生熱はプリント回路板80及び接続ボックス62が小型の構成であっても十分に消散させることができる。又、このために、接続ボックス62はプラスチック材料で形成し得、これに各ストリングへ配線を導く案内路を設けることができる。ストリング34?44を備えたソーラーモジュールは通常、建物の外側に配置される。接続ボックス62は建物の内側に配置するのが望ましい。」

ここで、図1は、次のものである。


イ 甲第3号証
同じく甲第3号証(トランジスタ技術 2005年9月号)には、次の記載がある。

「太陽電池の品種は、シリコン単結晶タイプをお勧めします」(131頁左欄下3行?2行)

ウ 甲第7号証
同じく甲第7号証(特開2005-57008号公報)には、以下の記載がある。

「【0009】
太陽電池パネル用端子ボックス内に組み込まれたバイパスダイオードから発生した熱を放熱させる技術としては、端子ボックス表面から周辺大気への放熱や、端子板・外部接続用ケーブルを通した周辺大気への放熱といったバイパスダイオード表面と周辺大気との温度差を利用した技術が従来適用されている。・・・」、
「【0018】
本発明の一つの好ましい実施態様においては、前記バイパスダイオードの上に更に高熱伝導材料からなる放熱板が密着して配置され、前記バイパスダイオードが前記底板と前記放熱板の間に挟持されている。」

エ 甲第8号証
同じく甲第8号証(特開2004-247708号公報)には、以下の記載がある。

「【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池モジュールを家屋の屋根等にマトリックス状に配設して太陽光発電を行う太陽光発電システムが一般に知られている。
【0003】
このような太陽光発電システムにおいて、各太陽電池モジュールは、その太陽電池モジュールを別の太陽電池モジュールと接続するための端子ボックス装置を備えている。
【0004】
従来、このような端子ボックス装置内にバイパス用のダイオードを内蔵したものがある(特許文献1参照。)。このバイパス用のダイオードは、太陽電池モジュールに含まれる各太陽電池セルに、当該各太陽電池セルの出力極性とは逆方向にして並列接続されている。そして、太陽電池セルに対して逆バイアス電圧が印加された場合に、当該太陽電池セルの電流がバイパス用のダイオード側にバイパスされるようになっている。
【0005】
上記端子ボックス装置では、複数のダイオードが直列に接続された状態で、単一の筐体内に収容配置されている。
・・・
【0011】
そこで、この発明の課題は、整流素子の放熱性に優れた太陽電池モジュール用端子ボックス及びこれに適用されるのに適した接続方法を提供することにある。」、
「【0029】
端子ボックス装置20は、各太陽電池モジュール1の裏面側等に取付けられており、各太陽電池モジュール1同士を相互接続し或は外部の接続ボックス10に接続する機能を有している。また、端子ボックス装置20内には、整流素子として複数のバイパス用のダイオード30a?30cが収容配置されている。」、
「【0070】
この端子ボックス装置では、上記第1実施形態における第2端子26aと第1端子25bと放熱中継端子40aとが一体形成された一体化放熱端子140aと、上記第1実施形態における第2端子26bと第1端子25cと放熱中継端子40bとが一体形成された一体化放熱端子140bとを備えている。これら一体化放熱端子140a,140bは、例えば、それぞれ一枚の金属板を適宜打抜き加工することにより形成されている。」

オ 甲第9号証
同じく甲第9号証(特開2004-319800号公報)には、次の記載がある。

「【0039】
複数の太陽電池素子1を直列に接続し、直列接続された太陽電池素子直列体の一方の直列端の太陽電池素子に設けられているバスバー電極5と、もう一方の直列端の太陽電池素子の導電性基板とに銅箔からなる出力取り出し電極12を取り付ける。さらに素子への逆バイアス印加を防止するためバイパスダイオード7を太陽電池素子1に銅箔8にて取り付ける。・・・なお、ここで用いるバイパスダイオード7は後で説明する封止材4による封止性を考慮して、薄型小型パッケージの表面実装用ショットキバリアダイオードを用いている。」

カ 甲第10号証
同じく甲第10号証(特開平11-17197号公報)には、次の記載がある。

「【0038】(実施例11)図12は本発明によるショットキーダイオードの第1実施例を面実装型パッケージに適用した断面図を示す。図12において、図1と同じ符号の説明は省略する。本発明によるショットキーダイオード100のアノード側のニッケル電極23は半田25を介してアノード電極20に接続され、カソード側のニッケル電極33は半田35を介してカソード電極30に接続され、ショットキーダイオード100はエポキシ系の樹脂50によってモールドされ、さらにアノード電極20及びカソード電極30の一部がモールド樹脂50の外部に取り出され、樹脂の同一平面上に配置されるよう形成されている。このように、本発明によるショットキーダイオード100を使用することにより、半田接続が可能な面実装型パッケージに搭載することできる。」

(2)甲第1号証に記載された発明
前記(1)アによれば、甲第1号証には、
「互いに直列に接続された太陽電池からなるストリングと各ストリングのためのバイパス・ダイオードを備えた回路装置において、ストリングに対して並列に接続されるとともに互いに直列に接続された2つ又はそれ以上のバイパス・ダイオードが更なるダイオードに並列に接続され、バイパス・ダイオード及びこれと並列をなす更なるダイオードはショットキー・ダイオードであってプリント回路板の上面又は裏面の一方の側に配置され、他方の側にはプリント導体が配置され、このプリント導体は外部配線のための接続点及びバイパス・ダイオードとの接続のための接続貫通孔とを有し、バイパス・ダイオード及び更なるダイオードのための接触面としての金属面がプリント回路板の表面に設けられて熱伝達はバイパス・ダイオード及び更なるダイオードから金属面へと行われ、多数のストリングのためのバイパス・ダイオード及び更なるダイオードを備えたプリント回路板が接続ボックス内に配置された、回路装置」(以下「甲1発明」という。)
が記載されているものと認められる。

(3)本件発明との対比・判断
ア 本件訂正発明1について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。

a 本件訂正発明1に係る「太陽電池パネル端子ボックス」は、バイパスダイオードを具備する太陽電池パネル端子ボックスであるところ、甲1発明に係る「回路装置」は、「互いに直列に接続された太陽電池からなるストリングと各ストリングのためのバイパス・ダイオードを備えた回路装置」において、「多数のストリングのためのバイパス・ダイオード及び更なるダイオードを備えたプリント回路板が接続ボックス内に配置された」ものであるから、本件訂正発明1の「太陽電池パネル用端子ボックス」に相当する。

b(a)甲1発明に係る「回路装置」は、「バイパス・ダイオード及び更なるダイオード」を備えたものと認められるところ、これらのダイオードは「ショットキー・ダイオード」であるから、甲1発明に係る「回路装置」は、「バイパスダイオードとしてショットキーバリアダイオードのみを具備する太陽電池パネル用端子ボックス」であるといえ、甲1発明は、この点において本件訂正発明1と一致する。

(b)被請求人は、図1のダイオード72、74及び76の存在を考慮すれば、甲第1号証の端子ボックスのバイパスダイオードがショットキーバリアダイオードのみから構成されているといえないことは明らかであると主張する(前記第6、2(1)ウ)。
しかるところ、前記(1)ア(【0016】及び【0018】)によれば、甲第1号証には、図1に示す回路装置において、各々3つのバイパス・ダイオードが、1つの並列接続されたダイオードによってジャンパー接続されること、図1に示す回路装置は、更に、複数のストリングが日陰になっている場合において電流を流すダイオードの数を減少させる可能性を発揮するために、2つずつ直列に接続されたストリング34,36;38,40又は42,44に対してそれぞれダイオード72,74又は76が図1において破線で示すように設けられ並列に接続されることが記載されているものと認められる。
しかるに、甲1発明は、上記で認定したとおりのものであって、必ずしも図1のダイオード72、74及び76を備えるものではないと認められるから、これらのダイオードの存在に基づく被請求人の上記主張は、前提において採用できないし、甲第1号証には、「バイパス・ダイオード及びこれと並列をなす更なるダイオードとしてショットキー・ダイオードが望ましい。ショットキー・ダイオードは導通方向において低い内部抵抗を有するので、電圧低下及び熱損失の度合いが低い」前記(1)ア(【0011】等)との記載があることを考慮すれば、上記各ダイオードもショットキー・ダイオードとすることは当業者が当然考慮することというべきであるから、被請求人の上記主張は採用できない。

c 以上によれば、本件訂正発明1と甲1発明とは、
「バイパスダイオードとしてショットキーバリアダイオードのみを具備する太陽電池パネル用端子ボックス」
である点で一致し、以下の(a)及び(b)の点で相違するものと認められる。

(a)本件訂正発明1では、端子ボックスが「結晶系シリコン太陽電池パネルに取り付けるため」のものに特定されるのに対して、甲1発明では、太陽電池パネルの種類及び取り付ける部位は特定されない点(以下「相違点1」という。)。

(b)本件訂正発明1では、ショットキーバリアダイオードが150℃以上のジャンクション温度保証値を有すること、及び10Aの電流を通電したときのショットキーバリアダイオードの順方向電圧降下が、25℃のジャンクション温度で0.50V以下、100℃のジャンクション温度で0.40V以下、150℃のジャンクション温度で0.35V以下であることが特定されるのに対して、甲1発明では、ショットキーバリアダイオードの特性は特定されない点(以下「相違点2」という。)。

(イ)判断
a 相違点1について
(a)太陽電池の種類として、結晶系シリコン太陽電池は、本件特許の優先日当時において周知のものである(前記(1)イの甲第3号証の記載にみられるとおりである。)から、甲1発明において、太陽電池を結晶系シリコン太陽電池とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得たことである。
被請求人は、甲第1号証の記載は、本願発明の結晶系シリコン太陽電池以外のものの使用を意図していることは明らかである旨主張する(前記第6、2(2))が、甲1発明が結晶系シリコン太陽電池以外のものの使用に限られると認めるに足る根拠は見いだせないから、被請求人の主張は、上記判断を左右するものではない。

(b)また、甲1発明の「接続ボックス」をどのような部位に配置するかは、設置状況などに応じて、当業者が設計上適宜定め得る事項というべきところ、バイパスダイオードなどを配した端子ボックスを、太陽電池モジュールないし太陽電池パネルの裏面に取り付けることは、本件特許の優先日当時において周知の技術である(前記(1)エの甲第8号証【0029】の記載にみられるとおりであり、被請求人も乙第1号証を挙げるところである。)ことに照らせば、甲1発明の「接続ボックス」を太陽電池パネルに取り付けるものとすることに格別の困難は認められない。
被請求人は、甲第1号証の接続ボックスは常温(高くても40℃)で使用されることを意図される旨主張する(前記第6、2(3)ア及びイ)が、甲1発明が常温で使用されるものに限られると認めるに足る根拠は見いだせないから、被請求人の主張は、上記判断を左右するものではない。

(c)以上によれば、甲1発明において、相違点1に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度のことというべきである。

b 相違点2について
(a)甲1発明において、具体的にどのような特性のショットキーバリアダイオードを用いるかは、設計上の必要に応じて、当業者が適宜選択すべき事項であり、上記a(a)のように、太陽電池を結晶系シリコン太陽電池とする場合においても同様である。

(b)しかるところ、本件特許明細書(本件訂正請求に係る訂正後のもの。以下同じ。)には、以下の記載がある。

「【0025】
本発明の端子ボックスで用いるショットキーバリアダイオードとしては、順方向での電圧降下値が小さくダイオード発熱量が小さいショットキーバリアダイオードであればいかなるものも用いることができるが、実際の使用環境でダイオードの動作時のダイオードの温度上昇を確実に防止するためには、150℃以上のジャンクション温度保証値を有するショットキーバリアダイオードであって、10Aの電流を通電したときのショットキーバリアダイオードの順方向電圧降下(VF)が、25℃のジャンクション温度で0.50V以下、100℃のジャンクション温度で0.40V以下、150℃のジャンクション温度で0.35V以下であるショットキーバリアダイオードを用いることが好ましい。さらに好ましくは、150℃以上のジャンクション温度保証値を有するショットキーバリアダイオードであって、10Aの電流を通電したときのショットキーバリアダイオードの順方向電圧降下(VF)が、25℃のジャンクション温度で0.45V以下、100℃のジャンクション温度で0.35V以下、150℃のジャンクション温度で0.30V以下であるショットキーバリアダイオードを用いる。なお、前述の各ジャンクション温度での順方向の電圧降下は表1に関して上述した手順で測定されたものである。
【0026】
上記規定のうち、ジャンクション温度保証値はダイオードの耐熱温度を意味する。即ち、ジャンクション温度保証値は、この温度まではダイオードが破壊されないことを保証することを表わす。ここで本発明の端子ボックスで用いることが好ましいショットキーバリアダイオードのジャンクション温度保証値を150℃以上に限定したのは、日本国内で使用される太陽電池パネル用端子ボックスのダイオードについて業界で要求される一般的なジャンクション温度保証値が150℃であるからである。
また、ダイオードの順方向電圧降下(VF)の電流通電条件を10Aとしているのは、結晶系シリコン太陽電池の最大出力電流が約9Aであるので余裕を持たせて10Aとしたものである。
また、VFを25℃、100℃及び150℃の三種類のジャンクション温度で規定しているのは、それぞれ次のような実際の使用環境を反映させるためである。即ち、25℃は常温での使用を反映し、100℃は一般的な太陽電池パネルの使用温度の上限(定格温度)(この温度は実際には90℃であるが、ここでは余裕を持たせて100℃としている)での使用を反映し、150℃は日本国内で使用される太陽電池パネル用端子ボックスのダイオードについて業界で要求される一般的なジャンクション温度保証値での使用を反映している。
本発明の端子ボックスで用いるショットキーバリアダイオードのVFは、上述の各ジャンクション温度で一定値以下であることが好ましい。VFがこれらの値を上回ると、太陽電池パネルの異常発生時(即ち、ダイオード動作時)のショットキーバリアダイオードの発熱量が大きくなり、ショットキーバリアダイオードを使用する利点が小さくなるからである。
【0027】
上述のような要件を満たすショットキーバリアダイオードは、様々なジャンクション温度保証値やVF特性を有する市販のショットキーバリアダイオードの中から適宜選択することができる。例えば本発明者らが150℃以上のジャンクション温度保証値を有する市販のショットキーバリアダイオードのうち、55V定格型(逆方向耐電圧が55Vであるもの)、55V定格低リーク型(逆方向耐電圧が55Vでありしかも漏れ電流が小さいもの)、及び100V定格型(逆方向耐電圧が100Vであるもの)と称される三種類のショットキーバリアダイオードについて10Aの電流を通電したときの各温度でのVF特性を調べたところ、以下の表2に示すようなデータが得られた。
【0028】
【表2】
【0029】
表2から理解される通り、100V定格型は25℃でのVFが0.50V以下、100℃でのVFが0.40V以下、150℃でのVFが0.35V以下という要件を満たさないが、55V定格低リーク型及び55V定格型はこの要件を満たす。また、55V定格型は25℃でのVFが0.45V以下、100℃でのVFが0.35V以下、150℃でのVFが0.30V以下という一段階厳しい要件も満たす。従って、本発明の端子ボックスで用いるショットキーバリアダイオードとしては、これらの三種類のショットキーバリアダイオードのうちでは100V定格型より55V定格低リーク型や55V定格型が好ましく、さらに55V定格型が最も好ましいことがわかる。」

(c)上記(b)のとおり、本件特許明細書(【0027】)には、「上述のような要件を満たすショットキーバリアダイオードは、様々なジャンクション温度保証値やVF特性を有する市販のショットキーバリアダイオードの中から適宜選択することができる。」との記載があり、かかる記載に照らせば、甲1発明において、相違点2に係る本件訂正発明1の構成を備えるショットキーバリアダイオードを用いることに格別の困難があるものとは認められない。
そして、上記(b)の本件特許明細書の記載をみるに、本件訂正発明1において相違点2に係る構成としたことにつき、設計上必要とされる要件を定めた意義が認められるものの、設計的事項の域を超える程の格別の技術的意義を生じるものとは認められない。

(d)以上の検討によれば、甲1発明において、相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が設計上適宜なし得る程度のことというべきである。

(e)被請求人は、甲第1号証の接続ボックスは常温で使用されることを意図されるとして、乙第3号証及び乙第4号証を挙げ、本件訂正発明1の端子ボックスと甲第1号証の接続ボックスとでは、使用環境、使用されるダイオードの種類、特性、太陽電池パネルの種類などが明らかに異なり、本件訂正発明1に比べて高温になりにくい甲第1号証の接続ボックスの使用態様に照らせば、甲第1号証から、本件訂正発明1において規定されるダイオードの種類や特性の要件を導くことは困難である旨主張する(前記第6、2(3)イないしエ)が、甲1発明が常温で使用されるものに限られると認めるに足る根拠は見いだせないことは、上記a(b)のとおりである。被請求人の主張は、前提において採用の限りでない。

c 本件訂正発明1において奏される効果について
(a)本件特許明細書には、以下の記載がある。

「【発明の効果】
【0008】
本発明の端子ボックスではバイパスダイオードとしてショットキーバリアダイオードを用いているため、従来用いられていたPNダイオードと比べて、ダイオードの動作時の発熱を著しく抑制することができる。また、本発明の端子ボックスは、結晶系シリコン太陽電池パネルを対象とするため、ショットキーバリアダイオードが持つ欠点を許容することができる。従って、本発明の端子ボックスではダイオード動作時のダイオード及び端子ボックスの温度上昇を未然に防止することができ、ダイオードの破損や寿命の短縮、端子ボックスの変形による太陽電池パネルからの脱落がなく、端子ボックスの安全性及び信頼性を一層高めることができる。」、
「【0017】
なお、表1のVR(逆方向耐電圧)の欄から理解される通り、ショットキーバリアダイオードはPNダイオードよりVRの値がかなり小さい。従って、VRの値が小さいショットキーバリアダイオードは正常な発電状態で逆方向に多量の電流が流れる可能性があるという欠点を有する。しかし、太陽電池パネル用端子ボックスに印加される可能性があると考えられる最大の電圧であるパネルの公称の最大出力の動作電圧はアモルファス系シリコン太陽電池パネルでは100?300V程度と高いのに対し、結晶系シリコン太陽電池パネルでは10?40V程度にすぎず、この値はショットキーバリアダイオードのVR(通常50?100V程度)より確実に小さい。従って、結晶系シリコン太陽電池パネル用の端子ボックスにショットキーバリアダイオードを用いてもそのVRを越える大きさの電圧がダイオードに印加される可能性はなく、正常な発電状態でダイオードの逆方向に多量の電流が常時流れて発電効率が低下したりダイオードが熱暴走を起こしてダイオードが破壊されるなどの問題は全く生じない。
【0018】
また、表1のIR(漏れ電流)の欄から理解される通り、ショットキーバリアダイオードはPNダイオードよりIRの値がかなり大きいという欠点も有する。しかし、結晶系シ
リコン太陽電池パネルでは上述の通り最大出力の動作電圧がアモルファスシリコン太陽電池パネルよりかなり小さいので、正常な発電状態での漏れ電流によるダイオードの発熱量は実際にはそれほど大きくなく、それによる発電効率の低下や端子ボックスの温度上昇の問題は十分許容できるレベルである。
特に、ショットキーバリアダイオードのIRは表1から理解される通り温度依存性が極めて大きく、ダイオード温度が上昇するにつれてIRは指数関数的に増大する。従って、ショットキーバリアダイオードでは、一旦ダイオードが温度上昇するとそれに伴ってIRが急激に増大し、急激に増大したIRは次に発熱量の急激な増大を招き、急激に増大した発熱量は次にさらに急激な温度上昇を招くことになり、この悪循環によりダイオードの温度がダイオードの耐熱温度以上の極めて高い温度に上昇してダイオードが最終的に破壊されるといういわゆる熱暴走を起こしやすい。しかし、表1から理解されるように、ショットキーバリアダイオードのIRは結晶系シリコン太陽電池パネル用端子ボックスの最大使用温度定格の100℃であっても10mA程度である。従って、ショットキーバリアダイオードの発熱量はショットキーバリアダイオードの最大定格電圧(逆方向耐電圧)である50?100Vがダイオードに印加されたとしてもわずか0.5?1W程度であり、熱暴走の問題は実際には十分許容できるレベルである。
【0019】
結局、結晶系シリコン太陽電池パネル用の端子ボックスでは、VRが小さいというショットキーバリアダイオードの欠点は無視でき、またIRが大きいというショットキーバリアダイオードの欠点は十分許容できるレベルであるため、ショットキーバリアダイオードを用いることが総合的に有利である。」

(b)上記(a)によれば、本件訂正発明1においては、バイパスダイオードとしてショットキーバリアダイオードを用いることにより、従来用いられていたPNダイオードと比べて、ダイオードの動作時の発熱を著しく抑制することができるので、ダイオード動作時のダイオード及び端子ボックスの温度上昇を未然に防止することができるとの効果を奏するものと認められる。また、本件訂正発明1においては、結晶系シリコン太陽電池パネルを対象とするため、ショットキーバリアダイオードが持つ欠点を許容することができる、すなわち、VR(逆方向耐電圧)が小さいことは無視でき、IR(漏れ電流)が大きいというショットキーバリアダイオードの欠点は十分許容できるとされていることが認められる。

(c)他方、前記(1)アのとおり、甲第1号証には、「ショットキー・ダイオードは導通方向において低い内部抵抗を有するので、電圧低下及び熱損失の度合いが低い」との記載があり、これによれば、甲1発明においても、本件訂正発明1と同様に「バイパスダイオードとしてショットキーバリアダイオードを用いることにより、従来用いられていたPNダイオードと比べて、ダイオードの動作時の発熱を著しく抑制することができるので、ダイオード動作時のダイオード及び端子ボックスの温度上昇を未然に防止することができる」との効果を奏するものと認められ、かかる効果を奏する点において本件訂正発明1と格別の相違があるものとは認められない。
そして、本件訂正発明1において、結晶系シリコン太陽電池パネルを対象とするため、ショットキーバリアダイオードが持つ欠点を許容することができるとされる点は、上記a(a)のように、甲1発明において、太陽電池を結晶系シリコン太陽電池とする際に格別の支障が生じないことを示すにとどまり、この点をもって、本件訂正発明1において、当業者が予測可能な域を超える程の格別顕著な効果が奏されるものとは認めがたい。

(d)被請求人は、本件発明の技術的意義につき、太陽電池パネルとして結晶系シリコン太陽電池パネルを採用し、バイパスダイオードとしてショットキーバリアダイオードを採用した上で、ショットキーバリアダイオードの好適なVF特性まで具体的に提案したものは、審判請求人の提示する甲号証には全くない旨主張する(前記第6、1及び2(1))が、上記(c)の判断を左右するものではない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 本件訂正発明2について
(ア)対比
本件訂正発明2と甲1発明とを対比するに、前記ア(ア)での検討に照らして、両者は、相違点1に加えて、次の点で相違するものと認められる。

本件訂正発明2では、ショットキーバリアダイオードが150℃以上のジャンクション温度保証値を有すること、及び10Aの電流を通電したときのショットキーバリアダイオードの順方向電圧降下が、25℃のジャンクション温度で0.45V以下、100℃のジャンクション温度で0.35V以下、150℃のジャンクション温度で0.30V以下であることが特定されるのに対して、甲1発明では、ショットキーバリアダイオードの特性は特定されない点(以下「相違点3」という。)。

(イ)判断
相違点1については、前記ア(イ)aで検討したとおりであり、相違点3についても、同bでの検討と同様の理由により、甲1発明において、相違点3に係る本件訂正発明2の構成とすることは、当業者が設計上適宜なし得る程度のことというべきである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 本件訂正発明3について
(ア)対比
本件訂正発明3と甲1発明とを対比するに、前記ア(ア)での検討に照らして、両者は、相違点1及び2に加えて、次の点で相違するものと認められる。

本件訂正発明3は、バイパスダイオードの発生する熱を逃すための放熱板及び/又はバイパスダイオードの発生する熱を逃がすための拡大された端子板をさらに具備するのに対して、甲1発明は、かかる放熱板ないし端子板を具備しない点(以下「相違点4」という。)。

(イ)判断
相違点1及び2については、前記ア(イ)a及びbで検討したとおりである。
相違点4について検討するに、太陽電池パネル用端子ボックスにおいて、バイパスダイオードから発生する熱を逃すために、放熱板や端子板を利用することは、必要に応じて適宜なされる慣用手段である(前記(1)ウ及びエの甲第7号証及び甲第8号証の記載にみられるとおりである。)から、相違点4に係る本件訂正発明3の構成とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度のことである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明3は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ 本件訂正発明4について
(ア)対比
本件訂正発明4と甲1発明とを対比するに、前記ア(ア)での検討に照らして、両者は、相違点1、2及び4に加えて、次の点で相違するものと認められる。

本件訂正発明4では、ショットキーバリアダイオードが面実装型又は非絶縁型のパッケージダイオードであるのに対して、甲1発明では、ショットキーバリアダイオードの型は特定されない点(以下「相違点5」という。)。

(イ)判断
相違点1及び2については、前記ア(イ)a及びbで、相違点4については、上記ウ(イ)で、それぞれ検討したとおりである。
相違点5について検討するに、甲1発明において、具体的にどのようなショットキーバリアダイオードを用いるかは、設計上の必要に応じて、当業者が適宜選択すべき事項であり、太陽電池のバイパスダイオードに用いるショットキーバリアダイオードとして、面実装型のパッケージダイオードは、本件特許の優先日当時において周知のものである(前記(1)オ及びカの甲第9号証及び甲第10号証の記載にみられるとおりである。)から、甲1発明において、ショットキーバリアダイオードを面実装型のパッケージダイオードとして、相違点5に係る本件訂正発明4の構成とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度のことである。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明4は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 無効理由2(特許法第36条第4項第1号違反)について
(1)請求人は、「0.50V」、「0.40V」及び「0.35V」という数値を導き出した根拠について実質的な記載が全くないことからして、本件訂正発明1及び2は明細書で十分にサポートされていない旨、特許請求の範囲に記載された発明の技術的範囲から外れる100V定格型のショツトキーバリアダイオードを、本発明例3として用いていることについて記載要件不備がある旨主張する(前記第5、2)。

(2)しかし、前記1(3)ア(イ)b(c)で検討したとおり、本件訂正発明1において相違点2に係る構成、すなわち、「ショットキーバリアダイオードが150℃以上のジャンクション温度保証値を有すること、及び10Aの電流を通電したときのショットキーバリアダイオードの順方向電圧降下が、25℃のジャンクション温度で0.50V以下、100℃のジャンクション温度で0.40V以下、150℃のジャンクション温度で0.35V以下である」としたことにつき、設計上必要とされる要件を定めた意義が認められるから、本件訂正発明1の技術的意義が不明ということはできない。また、100V定格型のショツトキーバリアダイオードを用いたものが本件訂正発明1ないし2に該当しないことは、特許請求の範囲の記載自体から明らかであり、これが「本発明例3」として本件特許明細書に記載されていても、上記各発明を当業者が実施できなくなるものではない。なお、前記第3のとおり、訂正事項1により、本件特許明細書及び図面各所の「本発明例3」は「参考例」に訂正されているところである。

(3)小括
以上の検討によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明につき、当業者が本件訂正発明1及び2の実施をできる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえないから、請求人が主張する無効理由2は、理由がない。

第8 むすび
以上のとおりであって、請求人が主張する無効理由2によっては、本件訂正発明1及び2についての特許を無効とすることはできないが、本件訂正発明1ないし4は、当業者が甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、上記各発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
太陽電池パネル用端子ボックス
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイパスダイオードとしてショットキーバリアダイオードを用いることによりダイオード及び端子ボックスの温度上昇を効果的に防止することができる結晶系シリコン太陽電池パネル用端子ボックスに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池パネル用端子ボックスには通常、太陽電池パネルの起電力が低下した時に逆方向電圧の印加による電流を一方の外部接続用ケーブルから他方の外部接続用ケーブルへ短絡させるためにバイパスダイオードが具備されている。バイパスダイオードが実際にこの機能を果たす際、ダイオードの順方向へ大電流が流れるため、ダイオードは通常、激しく発熱する。そうするとダイオードが破損したり、ダイオードの寿命が著しく短くなったり、ダイオードの発生する熱により、端子ボックスを構成する樹脂が変形して端子ボックスが太陽電池パネルから脱落する可能性がある。特に、端子ボックスは太陽電池パネルに取り付けられた状態で野外で20年以上も使用されるため、その可能性が高い。従って、長期間の安全性や信頼性の向上の観点からバイパスダイオードの動作時のダイオードの温度上昇を効果的に防止することが求められている。
【0003】
ダイオードの温度上昇を効果的に防止するための手段としては従来、端子ボックス内に放熱板などを設けてダイオードの発生する熱を周囲に逃がす手段が一般的に採用されている。これらの手段は要するに、発生したダイオードの熱を効率良く放熱することでダイオードの温度上昇を抑制しようというものである。
【0004】
一方、近年、太陽電池の高出力化の要求に伴いアモルファス系シリコン太陽電池より結晶系シリコン太陽電池が多く用いられるようになっているが、結晶系シリコン太陽電池はアモルファス系シリコン太陽電池より出力電流が30倍以上大きいため、ダイオードの動作時にダイオードに流れる電流量、ひいては発熱量もアモルファス系シリコン太陽電池よりかなり大きい。従って、結晶系シリコン太陽電池に用いられる端子ボックスにおいては、発生したダイオードの熱を単に放熱板などで放熱するという従来の一般的な手段だけではダイオードの温度上昇を十分抑制できなくなってきている。
【特許文献1】 特開2005-150277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は結晶系シリコン太陽電池パネルに用いられる端子ボックスにおいてバイパスダイオードの動作時(即ち、太陽電池パネルの異常発生時)のダイオードの温度上昇を効果的に防止するためのさらに有効な手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決すべく、結晶系シリコン太陽電池パネルに用いられる端子ボックスにおいてダイオードの温度上昇を効果的に防止するための手段について鋭意検討した結果、発生したダイオードの熱を放熱するという手段ではなく、ダイオード自体の発熱を抑制することを想起した。そして、その具体的な手段についてさらに検討したところ、ダイオードとしてショットキーバリアダイオードを用いることによりダイオード自体の発熱を効果的に抑制できるとともに、ショットキーバリアダイオードの持つ欠点を露呈させることなく使用できることを意外にも見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明はバイパスダイオードを具備する結晶系シリコン太陽電池パネル用端子ボックスであって、前記バイパスダイオードがショットキーバリアダイオードであることを特徴とする太陽電池パネル用端子ボックスである。本発明の端子ボックスの好ましい実施態様によれば、前記ショットキーバリアダイオードは150℃以上のジャンクション温度保証値を有し、10Aの電流を通電したときの前記ショットキーバリアダイオードの順方向電圧降下は、25℃のジャンクション温度で0.50V以下(さらに好ましくは0.45V以下)、100℃のジャンクション温度で0.40V以下(さらに好ましくは0.35V以下)、150℃のジャンクション温度で0.35V以下(さらに好ましくは0.30V以下)である。本発明の端子ボックスの他の好ましい実施態様によれば、端子ボックスは、バイパスダイオードの発生する熱を逃すための放熱板及び/又はバイパスダイオードの発生する熱を逃がすための拡大された端子板をさらに具備する。本発明の端子ボックスのさらに他の好ましい実施態様によれば、ショットキーバリアダイオードは面実装型又は非絶縁型のパッケージダイオードである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の端子ボックスではバイパスダイオードとしてショットキーバリアダイオードを用いているため、従来用いられていたPNダイオードと比べて、ダイオードの動作時の発熱を著しく抑制することができる。また、本発明の端子ボックスは、結晶系シリコン太陽電池パネルを対象とするため、ショットキーバリアダイオードが持つ欠点を許容することができる。従って、本発明の端子ボックスではダイオード動作時のダイオード及び端子ボックスの温度上昇を未然に防止することができ、ダイオードの破損や寿命の短縮、端子ボックスの変形による太陽電池パネルからの脱落がなく、端子ボックスの安全性及び信頼性を一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】
PNダイオードとショットキーバリアダイオードのジャンクション温度(Tj)と順方向の電圧降下(VF)との関係を示すグラフである。
【図2】
放熱板を具備する本発明の端子ボックスの一例を示す。
【図3】
拡大された端子板を具備する本発明の端子ボックスの別の例を示す。
【図4】
面実装型又は非絶縁型パッケージダイオードの底面構造を示す。
【図5】
実施例で用いた試験サンプルの構造を示す。
【図6】
図5の試験サンプルの筐体内部を示す。
【図7】
本発明例1?3と比較例の順方向の通電流(IF)と順方向の電圧降下値(VF)又はジャンクション温度(Tj)の関係を示すグラフである。
【図8】
本発明例1?3と比較例の順方向の通電流(IF)と端子ボックス底面温度(Tc)の関係を示すグラフである。
【図9】
本発明例1?3と比較例の順方向の通電流(IF)と端子ボックス内の三つのダイオードの合計発熱量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の結晶系シリコン太陽電池パネル用端子ボックスは、バイパスダイオードとしてショットキーバリアダイオードを用いることを最大の特徴とする。ショットキーバリアダイオード(ショットキーダイオードとも略される)は、金属と半導体との接合面のショットキー効果の整流作用を利用したダイオードである。ショットキーバリアダイオードは順方向の電圧降下(VF)が低いため、逆回復時間が短く、スイッチング特性に優れる。この特性を活かして、ショットキーバリアダイオードはオーディオ機器の電源回路やスイッチング電源で従来一般的に用いられている。また、ショットキーバリアダイオードは順方向の電圧降下(VF)が低いので、動作時の発熱量が小さいという特性を有する。本発明はこの特性に着目したものであり、結晶系シリコン太陽電池パネル用端子ボックスのバイパスダイオードとしてショットキーバリアダイオードを用いることにより、ダイオードの動作時のダイオードでの発熱自体を効果的に抑制するものである。
【0011】
以下の表1は、結晶系シリコン太陽電池パネル用端子ボックスで従来用いられてきた一般的な整流ダイオードであるPNダイオード(PND)と本発明の端子ボックスで用いるショットキーバリアダイオード(SBD)の代表的な特性(VF(順方向の電圧降下)、VR(逆方向耐電圧)、及びIR(漏れ電流))を比較した表であり、図1は表1に基づいて作成したジャンクション温度(Tj)と順方向の電圧降下(VF)との関係を示すグラフである。
【0012】
【表1】

【0013】
表1に示したPNダイオードは従来より太陽電池パネル用端子ボックスの分野で一般的に用いられてきたPNダイオードであり、ジャンクション保証温度(ダイオードのコアであるチップ部分(ジャンクション)の耐熱温度)が150℃以上という太陽電池パネル用端子ボックスでの規制を満たすダイオードである。一方、表1に示したショットキーバリアダイオード(SBD)も、ジャンクション保証温度が150℃以上という規制を満たすダイオードである。
【0014】
表1中、VFは、ダイオードの発熱量の指標であり、VFが小さいほどダイオードの発熱量は小さくなる。
VRは、この電圧の値を越える電圧をダイオードの逆方向に印加すると、順方向にしか電流を流さないというダイオードの本質的な機能が破壊されて本来電流が流れないはずの逆方向に多量の電流が流れてしまう限界の電圧の値を意味する。従って、あるダイオードのVRが小さいということは、逆方向の電圧に対するこのダイオードの耐性が小さく、逆方向に大きな電圧が印加される可能性のある回路にこのダイオードを用いると、本来電流が流れないはずの逆方向に多量の電流が常時流れて発電効率が低下したり、最悪の場合はダイオードが熱暴走を起こしてダイオードが破壊される恐れがあるということを意味する。
IRは、ダイオードに逆方向の電圧が印加されているときに逆方向に流れる電流量を意味する。従って、あるダイオードのIRが0より大きいということは、逆方向の電圧が印加されている場合に理想的には完全に遮断すべきである逆方向への電流をこのダイオードは遮断しきれず、発電効率の低下や熱暴走を招くということを意味する。
【0015】
表1中、VF(順方向の電圧降下)の値は、各ダイオードの周囲空気を強制的に加熱することによりダイオードのジャンクション温度(Tj)を25℃、100℃又は150℃にそれぞれ保持させておき、この状態で10Aの順方向パルス電流を瞬間的にダイオードに流して、その瞬間の順方向の電圧降下(VF)を測定することにより求めたものである。また、VR(逆方向耐電圧)の値は、各ダイオードに逆方向に電圧を印加して増大させていき、電流が急激に流れ始めたときの逆方向電圧を測定することにより求めたものである。また、IR(漏れ電流)の値は、VFの値の測定と同様に各ダイオードの周囲空気を強制的に加熱することによりダイオードのジャンクション温度(Tj)を25℃、100℃又は150℃にそれぞれ保持させておき、この状態で40Vの逆方向の電圧を瞬間的にダイオードに印加して、その瞬間に逆方向に流れる電流の値を測定することにより求めたものである。
【0016】
表1のVF(順方向の電圧降下)の欄及び図1のグラフから理解される通り、ショットキーバリアダイオード(SBD)の順方向の電圧降下(VF)の値はいずれのジャンクション温度(Tj)においてもPNダイオードの順方向の電圧降下の値より著しく小さい。具体的には、ショットキーバリアダイオードの順方向の電圧降下値はPNダイオードの順方向の電圧降下値より平均で0.4V程度も小さく、PNダイオードの順方向の電圧降下値の40%?50%程度にすぎない。ここで、ダイオードの発熱量(W)は通電電流値(IF)と順方向の電圧降下(VF)の積に等しいため、通電電流値(IF)が一定であれば、ダイオードの発熱量(W)は順方向の電圧降下値(VF)に比例し、順方向の電圧降下値(VF)が小さいほどダイオードの発熱量(W)は小さくなる。従って、ショットキーバリアダイオードの発熱量は一般的な整流ダイオードであるPNダイオードの発熱量より著しく小さく、PNダイオードの発熱量の40%?50%程度であると考えられる。一方、太陽電池パネルの異常発生時にダイオードの順方向に流れる電流(公称の最大出力動作電流)の値は太陽電池パネルの種類によって大きく異なり、アモルファス系シリコン太陽電池パネルではこの電流の値は0.3A程度であるのに対し、結晶系シリコン太陽電池パネルでは9A程度である。従って、ダイオードの順方向に流れる電流の値は結晶系シリコン太陽電池パネルの方がアモルファス系シリコン太陽電池パネルより30倍以上大きく太陽電池パネルの異常発生時(即ち、ダイオードの動作時)の発熱の問題は結晶系シリコン太陽電池パネルではより深刻である。それ故、結晶系シリコン太陽電池パネル用端子ボックスでVFの小さいショットキーバリアダイオードを用いることは、太陽電池パネルの異常発生時(即ち、ダイオードの動作時)のダイオード自体の発熱という問題を効果的に抑制する点で極めて有利である。
【0017】
なお、表1のVR(逆方向耐電圧)の欄から理解される通り、ショットキーバリアダイオードはPNダイオードよりVRの値がかなり小さい。従って、VRの値が小さいショットキーバリアダイオードは正常な発電状態で逆方向に多量の電流が流れる可能性があるという欠点を有する。しかし、太陽電池パネル用端子ボックスに印加される可能性があると考えられる最大の電圧であるパネルの公称の最大出力の動作電圧はアモルファス系シリコン太陽電池パネルでは100?300V程度と高いのに対し、結晶系シリコン太陽電池パネルでは10?40V程度にすぎず、この値はショットキーバリアダイオードのVR(通常50?100V程度)より確実に小さい。従って、結晶系シリコン太陽電池パネル用の端子ボックスにショットキーバリアダイオードを用いてもそのVRを越える大きさの電圧がダイオードに印加される可能性はなく、正常な発電状態でダイオードの逆方向に多量の電流が常時流れて発電効率が低下したりダイオードが熱暴走を起こしてダイオードが破壊されるなどの問題は全く生じない。
【0018】
また、表1のIR(漏れ電流)の欄から理解される通り、ショットキーバリアダイオードはPNダイオードよりIRの値がかなり大きいという欠点も有する。しかし、結晶系シリコン太陽電池パネルでは上述の通り最大出力の動作電圧がアモルファスシリコン太陽電池パネルよりかなり小さいので、正常な発電状態での漏れ電流によるダイオードの発熱量は実際にはそれほど大きくなく、それによる発電効率の低下や端子ボックスの温度上昇の問題は十分許容できるレベルである。
特に、ショットキーバリアダイオードのIRは表1から理解される通り温度依存性が極めて大きく、ダイオード温度が上昇するにつれてIRは指数関数的に増大する。従って、ショットキーバリアダイオードでは、一旦ダイオードが温度上昇するとそれに伴ってIRが急激に増大し、急激に増大したIRは次に発熱量の急激な増大を招き、急激に増大した発熱量は次にさらに急激な温度上昇を招くことになり、この悪循環によりダイオードの温度がダイオードの耐熱温度以上の極めて高い温度に上昇してダイオードが最終的に破壊されるといういわゆる熱暴走を起こしやすい。しかし、表1から理解されるように、ショットキーバリアダイオードのIRは結晶系シリコン太陽電池パネル用端子ボックスの最大使用温度定格の100℃であっても10mA程度である。従って、ショットキーバリアダイオードの発熱量はショットキーバリアダイオードの最大定格電圧(逆方向耐電圧)である50?100Vがダイオードに印加されたとしてもわずか0.5?1W程度であり、熱暴走の問題は実際には十分許容できるレベルである。
【0019】
結局、結晶系シリコン太陽電池パネル用の端子ボックスでは、VRが小さいというショットキーバリアダイオードの欠点は無視でき、またIRが大きいというショットキーバリアダイオードの欠点は十分許容できるレベルであるため、ショットキーバリアダイオードを用いることが総合的に有利である。
【0020】
従来、太陽電池パネル内でバイパスダイオードとしてショットキーバリアダイオードを使用した例はいくつか知られているが、端子ボックス内でショットキーバリアダイオードを使用した例は今まで知られていない。これは、端子ボックス内でバイパスダイオードとしてショットキーバリアダイオードを使用しようとする場合、太陽電池パネル内で使用する場合と比べて逆方向電圧が高くかつ放熱性が悪いため、逆方向耐電圧(VR)が小さく漏れ電流(IR)が大きいというショットキーバリアダイオードの欠点が極めて大きな阻害要因であると考えられていたためである。
【0021】
即ち、太陽電池パネル内にバイパスダイオードを組込んで使用する場合は、バイパスダイオードを組込む空間は十分広いため、多数のバイパスダイオードを組込むことができる。従って、一つのバイパスダイオードが受け持つ太陽電池セルの数は少なくすることができ、個々のバイパスダイオードに印加される逆方向電圧の値は低くすることができる。これに対し、端子ボックス内にバイパスダイオードを組込んで使用する場合、端子ボックスの体積は通常小さいため、端子ボックス内に組込むことができるバイパスダイオードの数は少数に制限される。従って、一つのバイパスダイオードが受け持つ太陽電池セルの数は多く、太陽電池パネルの正常な発電状態で個々のバイパスダイオードに印加される逆方向電圧の値が高い。
また、太陽電池パネル内にバイパスダイオードを組込んで使用する場合は、太陽電池パネルは端子ボックスに比べて体積が格段に大きくしかも薄く平坦な構造を有するため、放熱性に優れる。これに対し、端子ボックス内にバイパスダイオードを組込んで使用する場合、端子ボックスは体積が通常小さくしかも密閉されているため、バイパスダイオードに電流が流れて発熱した場合にその熱を外部に逃がす特性(放熱性)に劣る。
【0022】
このような端子ボックス内にバイパスダイオードを組込んで使用する場合の逆方向電圧の高さや放熱性の悪さの問題は、端子ボックス内で使用するバイパスダイオードとしてVRが大きくIRが小さい従来のPNダイオードを採用する場合は特に阻害要因とはならないが、VRが小さくIRが大きいショットキーバリアダイオードを採用する場合は極めて大きな阻害要因となる。特にIRについては、ショットキーバリアダイオードのIRは上述のように温度上昇につれて指数関数的に増大するので、ダイオードが熱暴走を起こす危険性が強く懸念されていた。
【0023】
それ故、ショットキーバリアダイオードは太陽電池パネル内では使用できるが端子ボックス内では使用できないとするのが当該技術分野の従来の常識であった。
このことは以下の事実からも明らかである。即ち、ダイオードの中でも整流用ダイオードといえば、PNダイオードとショットキーバリアダイオードの二種類しか存在しない。ここで、ショットキーバリアダイオードがPNダイオードより発熱量(VF)が小さいことは当業者には知られていたのだから、端子ボックス内でPNダイオードの代わりにショットキーバリアダイオードを使用した例があってもよさそうなものである。それにもかかわらず、太陽電池パネル用端子ボックス内でショットキーバリアダイオードを使用した例は今まで全く存在せず、太陽電池パネル内での使用例しか見出されていない。かかる事実は、発熱量(VF)が小さいというショットキーバリアダイオードの利点よりも逆方向耐電圧(VR)が小さいとか漏れ電流(IR)が大きいというショットキーバリアダイオードの欠点の方が当業者にとっては大きな考慮事項(阻害要因)であり、これらの欠点は太陽電池パネル内でショットキーバリアダイオードを使用する場合には問題とならないが端子ボックス内でショットキーバリアダイオードを使用する場合は無視できない大きな問題となり、そのために端子ボックス内ではショットキーバリアダイオードを使用することができないというのが従来の当業者の共通の技術常識であったことを如実に物語っている。
【0024】
本発明者はかかる従来の当業者の技術常識が太陽電池パネルの種類を考慮せずに一律にショットキーバリアダイオードを太陽電池パネル用端子ボックス内では使用できないとみなしていたものにすぎないことを見出した。そして、本発明者らはさらに研究を進め、太陽電池パネルの中でも結晶系シリコン太陽電池パネルはアモルファス系シリコン太陽電池パネルと比べて公称の最大出力動作電流が大きくかつ公称の最大出力動作電圧が小さいため、ショットキーバリアダイオードの欠点は無視できる(VRの小ささについて)か又は十分許容できるレベル内であり(IRの大きさについて)、VFが小さいというショットキーバリアダイオードの利点のみを活用できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0025】
本発明の端子ボックスで用いるショットキーバリアダイオードとしては、順方向での電圧降下値が小さくダイオード発熱量が小さいショットキーバリアダイオードであればいかなるものも用いることができるが、実際の使用環境でダイオードの動作時のダイオードの温度上昇を確実に防止するためには、150℃以上のジャンクション温度保証値を有するショットキーバリアダイオードであって、10Aの電流を通電したときのショットキーバリアダイオードの順方向電圧降下(VF)が、25℃のジャンクション温度で0.50V以下、100℃のジャンクション温度で0.40V以下、150℃のジャンクション温度で0.35V以下であるショットキーバリアダイオードを用いることが好ましい。さらに好ましくは、150℃以上のジャンクション温度保証値を有するショットキーバリアダイオードであって、10Aの電流を通電したときのショットキーバリアダイオードの順方向電圧降下(VF)が、25℃のジャンクション温度で0.45V以下、100℃のジャンクション温度で0.35V以下、150℃のジャンクション温度で0.30V以下であるショットキーバリアダイオードを用いる。なお、前述の各ジャンクション温度での順方向の電圧降下は表1に関して上述した手順で測定されたものである。
【0026】
上記規定のうち、ジャンクション温度保証値はダイオードの耐熱温度を意味する。即ち、ジャンクション温度保証値は、この温度まではダイオードが破壊されないことを保証することを表わす。ここで本発明の端子ボックスで用いることが好ましいショットキーバリアダイオードのジャンクション温度保証値を150℃以上に限定したのは、日本国内で使用される太陽電池パネル用端子ボックスのダイオードについて業界で要求される一般的なジャンクション温度保証値が150℃であるからである。
また、ダイオードの順方向電圧降下(VF)の電流通電条件を10Aとしているのは、結晶系シリコン太陽電池の最大出力電流が約9Aであるので余裕を持たせて10Aとしたものである。
また、VFを25℃、100℃及び150℃の三種類のジャンクション温度で規定しているのは、それぞれ次のような実際の使用環境を反映させるためである。即ち、25℃は常温での使用を反映し、100℃は一般的な太陽電池パネルの使用温度の上限(定格温度)(この温度は実際には90℃であるが、ここでは余裕を持たせて100℃としている)での使用を反映し、150℃は日本国内で使用される太陽電池パネル用端子ボックスのダイオードについて業界で要求される一般的なジャンクション温度保証値での使用を反映している。
本発明の端子ボックスで用いるショットキーバリアダイオードのVFは、上述の各ジャンクション温度で一定値以下であることが好ましい。VFがこれらの値を上回ると、太陽電池パネルの異常発生時(即ち、ダイオード動作時)のショットキーバリアダイオードの発熱量が大きくなり、ショットキーバリアダイオードを使用する利点が小さくなるからである。
【0027】
上述のような要件を満たすショットキーバリアダイオードは、様々なジャンクション温度保証値やVF特性を有する市販のショットキーバリアダイオードの中から適宜選択することができる。例えば本発明者らが150℃以上のジャンクション温度保証値を有する市販のショットキーバリアダイオードのうち、55V定格型(逆方向耐電圧が55Vであるもの)、55V定格低リーク型(逆方向耐電圧が55Vでありしかも漏れ電流が小さいもの)、及び100V定格型(逆方向耐電圧が100Vであるもの)と称される三種類のショットキーバリアダイオードについて10Aの電流を通電したときの各温度でのVF特性を調べたところ、以下の表2に示すようなデータが得られた。
【0028】
【表2】

【0029】
表2から理解される通り、100V定格型は25℃でのVFが0.50V以下、100℃でのVFが0.40V以下、150℃でのVFが0.35V以下という要件を満たさないが、55V定格低リーク型及び55V定格型はこの要件を満たす。また、55V定格型は25℃でのVFが0.45V以下、100℃でのVFが0.35V以下、150℃でのVFが0.30V以下という一段階厳しい要件も満たす。従って、本発明の端子ボックスで用いるショットキーバリアダイオードとしては、これらの三種類のショットキーバリアダイオードのうちでは100V定格型より55V定格低リーク型や55V定格型が好ましく、さらに55V定格型が最も好ましいことがわかる。
【0030】
上述の通り、結晶系シリコン太陽電池パネル用端子ボックスでショットキーバリアダイオードを用いる場合には、VRが小さいというショットキーバリアダイオードの一方の欠点は無視できるが、IRが大きいというショットキーバリアダイオードのもう一方の欠点は完全には無視できず、許容可能なレベルに留まる。しかし、本発明者は、端子ボックスの構造やショットキーバリアダイオードの種類を工夫すれば、IRが大きいというショットキーバリアダイオードのもう一方の欠点も無視できるレベルに抑えることができることを見出している。
即ち、表1からわかる通り、漏れ電流の値は温度によって変化し、温度が高くなると漏れ電流の値も増大する。従って、端子ボックスの構造やショットキーバリアダイオードの種類を工夫してショットキーバリアダイオードの発生する熱を周囲に逃がしてダイオードの温度を下げるようにすれば、漏れ電流の値をさらに低く抑えることができ、正常発電時の発電効率の低下や端子ボックスの温度上昇を効果的に防止することができる。
【0031】
このために有効な端子ボックスの構造としては、例えばダイオードの発生する熱を逃がすための放熱板を端子ボックスに具備させることやダイオードの発生する熱を逃がすために端子板を通常の寸法より平面的に拡大することが考えられる。
【0032】
放熱板や拡大された端子板の具体的な構成や端子ボックスでの配置は当業者には十分知られているものと思料するが、例えば図2又は図3に示すようなものであることができる。図2は放熱板を具備する本発明の端子ボックスの一例を示す。図2中、(a)は端子ボックスの蓋部を取り除いた斜視図であり、(b)は(a)の筐体を取り除いた端子ボックス内部の斜視図であり、(c)は(a)の真上からみた平面図である。図2の端子ボックスでは一つのショットキーバリアダイオードが一対の端子板を相互に電気的に接続しており、バイパスダイオードとして機能している。各端子板の一端は太陽電池パネルから引き出された電極(図示せず)に接続され、他端は外部接続用ケーブルに接続されており、これらのケーブルを介して隣接する太陽電池パネルが電気的に接続される。図2の端子ボックスでは、熱伝導率の高い金属などの薄板からなる放熱板がショットキーバリアダイオードの下にダイオードの底面と熱的に接触するように設けられており、ダイオードの発生する熱を放熱板を介して逃がすようになっている。
【0033】
図3は拡大された端子板を具備する本発明の端子ボックスの別の例を示す。図3中、(a)は端子ボックスの蓋部を取り除いた斜視図であり、(b)は(a)の筐体を取り除いた端子ボックス内部の斜視図であり、(c)は(a)の真上からみた平面図である。図3の端子ボックスではショットキーバリアダイオードが三つ用いられ、二対の(四枚)の端子板をそれぞれ相互に電気的に接続しており、バイパスダイオードとして機能している。四枚の端子板のうち、両端の(外側の)二枚の端子板は一端が太陽電池パネルから引き出された電極(図示せず)に接続され、他端が外部接続用ケーブルに接続される。また、内側の二枚の端子板は太陽電池パネルから引き出された電極(図示せず)に接続される。図3の端子ボックスでは、四枚の端子板のうち右端の端子板を除いた三枚の端子板が通常の寸法より平面的に拡大されており、ダイオードの発生する熱をこれらの拡大された端子板を介して逃がすようになっている。
【0034】
また、ショットキーバリアダイオードの発生する熱を周囲に逃がしてダイオードの温度を下げるのに有効なショットキーバリアダイオードの種類としては、例えば面実装型又は非絶縁型のパッケージダイオードを挙げることができる。
【0035】
面実装型又は非絶縁型のパッケージダイオードは、図4に示すようにダイオードのリードフレームの底面に絶縁性樹脂で被覆されていない部分を有する。従って、面実装型又は非絶縁型のショットキーバリアダイオードを用いれば、ダイオードの発生する熱をこの部分から周囲に効率良く逃がすことができる。具体的には、面実装型又は非絶縁型のパッケージダイオードの底面の絶縁性樹脂で被覆されていない部分を端子ボックスの端子板や放熱板にハンダ付けや熱伝導性のグリスを介したビス止めなどで接触固定させることにより、ショットキーバリアダイオードの発生する熱をダイオードの底面を介して端子板や放熱板に効果的に逃がすことができる。
【0036】
従って、放熱板や拡大された端子板を端子ボックスにさらに具備させたり、面実装型や非絶縁型のパッケージダイオードをショットキーバリアダイオードとして用いることにより、ダイオードの温度を下げることができ、漏れ電流の値をさらに低くして正常発電時の発電効率の低下や端子ボックスの温度上昇の問題を完全に無視できるレベルに抑えることができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の太陽電池パネル用端子ボックスによるダイオード及び端子ボックスの温度上昇防止効果を具体的に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
本発明の太陽電池パネル用端子ボックスの実際の使用条件下でのダイオード及び端子ボックスの温度上昇防止効果を示すため、以下の試験サンプルを用いて以下の測定手順でモデル実験を行った。
【0039】
試験サンプルの準備
(1)本発明例1
バイパスダイオードとして表2に示す55V定格型のショットキーバリアダイオードを用いて図5に示すような構造の試験サンプルを準備した。図5の試験サンプルでは樹脂製の筐体の内部に二対(四枚)の端子板が配置され、それらに三つの面実装型のショットキーバリアダイオードが電気的に接続されている。四枚の端子板のうち、右端の一枚を除く三枚の端子板は通常より寸法を平面的に拡大されている(図6に示す筐体内部の平面図も参照)。加えて、拡大された端子板の上に三枚の放熱板がそれぞれ取り付けられている。
(2)本発明例2
図5に示す試験サンプルにおいてダイオードを表2に示す55V定格低リーク型のショットキーバリアダイオードに変更した以外は本発明例1と同様にして試験サンプルを準備した。
(3)参考例
図5に示す試験サンプルにおいてダイオードを表2に示す100V定格型のショットキーバリアダイオードに変更した以外は本発明例1と同様にして試験サンプルを準備した。
(4)比較例
図5に示す試験サンプルにおいてダイオードを表1に示すPNダイオードに変更した以外は本発明例1と同様にして試験サンプルを準備した。
【0040】
測定手順
ダイオード温度実測値の測定のため、本発明例1,2、及び参考例の試験サンプル及び比較例の試験サンプルの図6のAに示す位置(面実装型ダイオードの露出されている金属部分のうち、最も発熱量が多いと考えられる部分)に熱電対を取り付けた。また、順方向の電圧降下値測定のため、本発明例1,2、及び参考例の試験サンプル及び比較例の試験サンプルの図6のA及びB(面実装型ダイオードの露出されている金属部分のうち、Aと電気的極性が逆である部分)に示す位置にそれぞれリード線を取り付け、A-B間の電圧を測定できるようにした。また、端子ボックスの底面部分の温度実測値の測定のため、ダイオードの真下にあたる端子ボックスの部分に熱電対を取り付けた。
【0041】
次に、本発明例1,2、及び参考例の試験サンプル及び比較例の試験サンプルの裏面にシリコーングリスを塗布し、ガラスパネルに貼り付けて太陽電池モジュールを作成した。
【0042】
次に、この太陽電池モジュールを75℃雰囲気の恒温室中に、モジュールが恒温室の内面と接触しないように吊り下げて設置した。なお、この75℃という温度は太陽電池パネル用端子ボックスの耐熱温度測定の規格で定められている温度であり、太陽電池パネル用端子ボックスの実使用状況下で生じうる最高温度であるとされている。
【0043】
次に、定電流電源を用いて各試験サンプルに6.0A,8.8A又は11.0Aの直流電流を順方向に1時間通電し、1時間後のダイオード温度実測値、順方向の電圧降下値及び端子ボックスの底面部分の温度実測値をそれぞれ測定した。なお、6.0Aという通電電流量は小型の結晶系シリコン太陽電池パネルの一般的な最大出力動作電流値に相当し、8.8Aという通電電流量は現在の通常の大きさの結晶系シリコン太陽電池パネルの一般的な最大出力動作電流値に相当し、11.0Aという通電電流量は太陽電池パネル用端子ボックスの温度試験で用いることが要求されている規格上の試験値(8.8Aに25%の余裕を持たせた値)に相当する。
また、測定したダイオード温度実測値からジャンクション温度(Tj)を推定した。この推定は各ダイオードのジャンクション(発熱部分)とダイオード温度実測位置との間の熱抵抗値を0.5℃とし、各ダイオードの発熱量と上述の熱抵抗値の積を発熱部分から温度実測位置までに損失された温度であるとして、以下の式に従って計算した。
推定ジャンクション温度(推定Tj)=(ダイオード温度実測値)+0.5×(ダイオードの発熱量)
なお、ダイオードの発熱量は、通電電流量と順方向の電圧降下値(VF)の積である。
【0044】
本発明例1,2、参考例及び比較例の端子ボックスについてのこれらの測定結果及び計算結果を以下の表3(その1)?表3(その4)に示す。
【表3】


【0045】
また、表3(その1)?表3(その4)のデータの最大値に基づいて作成した順方向の通電流(IF)と順方向の電圧降下値(VF)又はジャンクション温度(Tj)の関係を示すグラフを図7に、順方向の通電流(IF)と端子ボックス底面温度(Tc)の関係を示すグラフを図8に、順方向の通電流(IF)と端子ボックス内の三つのダイオードの合計発熱量の関係を示すグラフを図9にそれぞれ示す。
【0046】
表3(その1)、表3(その4)及び図7からわかる通り、55V定格型ショットキーバリアダイオードを用いた本発明例1の端子ボックスの順方向の電圧降下値(VF)は、どの通電量でもPNダイオードを用いた比較例の端子ボックスのVFより著しく小さく、平均して0.4V程度小さかった。このようにVFが小さいため、VFとIFの積である発熱量も図9に示す通り本発明例1の端子ボックスの方が比較例の端子ボックスより著しく小さく、平均で比較例の端子ボックスの発熱量の40%程度であった。特に、発熱量の差は通電流量(IF)が増大するにつれて一段と大きくなった。ダイオードのジャンクション温度(Tj)及び端子ボックスの底面温度(Tc)も発熱量と同様の傾向を示し(図7及び図8)、本発明例1の端子ボックスの方が比較例の端子ボックスより著しく低く、その差は通電量が増大するにつれて一段と大きくなった。
【0047】
また、ショットキーバリアダイオードの種類を変えた本発明例2及び参考例の端子ボックスでも本発明例1と同様の傾向が見られたが、PNダイオードを用いた比較例の端子ボックスとの順方向電圧降下値VFの差、発熱量の差、ダイオードジャンクション温度Tjの差、及び端子ボックスの底面温度Tcの差は、本発明例1より本発明例2の方が小さく、また本発明例2より参考例の方が小さかった。
【0048】
特に、端子ボックスの底面温度(Tc)については、端子ボックスを構成する樹脂の耐熱温度は通常120℃程度であるため、Tcは120℃以下であることが樹脂の変形を防止して端子ボックスの安全性及び信頼性を高める上で極めて望ましいが、表3及び図8からわかる通り、比較例の端子ボックスでは8.8A及び11.0Aの通電流量では端子ボックスの底面温度(Tc)が120℃を超えており、6.0Aの通電流量でも120℃のわずかに下である。これに対し、本発明例1及び本発明例2の端子ボックスではいずれの通電流量でも端子ボックスの底面温度(Tc)は120℃を大きく下まわるので、端子ボックスの安全性及び信頼性が極めて高いといえる。
【0049】
また、ショットキーバリアダイオードの種類を100V定格型に変えた参考例の端子ボックスでは、通電量が11.0Aの場合は端子ボックスの底面温度(Tc)は120℃を若干超えたが、通電量が6.0A及び8.8Aの場合は120℃を下まわった。11.0Aという通電量は上述の通り、規格上の試験値であり、実際の使用状況下でバイパスダイオードに流れる電流量より25%大きい余裕を持たせた通電量である。従って、参考例の端子ボックスでも実際には現在の結晶系シリコン太陽電池パネルに対して十分使用可能であるといえる。
【0050】
以上の実験結果から、バイパスダイオードとしてショットキーバリアダイオードを用いた本発明例1,2及び参考例の端子ボックスによれば、ダイオード及び端子ボックスの温度上昇を効果的に防止して端子ボックスの安全性及び信頼性を高めることができることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の結晶系シリコン太陽電池パネル用端子ボックスによれば、ダイオードの動作時の発熱を抑制してダイオード及び端子ボックスの温度上昇を効果的に防止することができるため、ダイオードの破損や端子ボックスの変形の恐れが全くない。従って、本発明の太陽電池パネル用端子ボックスは、長期間(20年以上)の使用期間にわたって極めて高い安全性及び信頼性が求められる太陽電池パネル用端子ボックスの分野において好適に利用可能である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイパスダイオードとしてショットキーバリアダイオードのみを具備する、結晶系シリコン太陽電池パネルに取り付けるための太陽電池パネル用端子ボックスであって、前記ショットキーバリアダイオードが150℃以上のジャンクション温度保証値を有すること、及び10Aの電流を通電したときのショットキーバリアダイオードの順方向電圧降下が、25℃のジャンクション温度で0.50V以下、100℃のジャンクション温度で0.40V以下、150℃のジャンクション温度で0.35V以下であることを特徴とする太陽電池パネル用端子ボックス。
【請求項2】
10Aの電流を通電したときのショットキーバリアダイオードの順方向電圧降下が、25℃のジャンクション温度で0.45V以下、100℃のジャンクション温度で0.35V以下、150℃のジャンクション温度で0.30V以下であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池パネル用端子ボックス。
【請求項3】
バイパスダイオードの発生する熱を逃すための放熱板及び/又はバイパスダイオードの発生する熱を逃がすための拡大された端子板をさらに具備することを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽電池パネル用端子ボックス。
【請求項4】
ショットキーバリアダイオードが面実装型又は非絶縁型のパッケージダイオードであることを特徴とする請求項3に記載の太陽電池パネル用端子ボックス。
【図面】









 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2013-07-04 
結審通知日 2013-07-08 
審決日 2013-07-19 
出願番号 特願2007-513578(P2007-513578)
審決分類 P 1 113・ 121- ZAA (H01L)
P 1 113・ 536- ZAA (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 加藤 昌伸  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 松川 直樹
小松 徹三
登録日 2011-10-07 
登録番号 特許第4839310号(P4839310)
発明の名称 太陽電池パネル用端子ボックス  
代理人 出口 智也  
代理人 風早 信昭  
代理人 浅野 典子  
代理人 大野 浩之  
代理人 風早 信昭  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 浅野 典子  

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