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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1301060
審判番号 不服2014-1879  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-03 
確定日 2015-05-21 
事件の表示 特願2012-288182号「活性エネルギー線硬化型インクセット及び建築板」拒絶査定不服審判事件〔平成26年7月10日出願公開、特開2014-129481号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成24年12月28日の出願であって、平成25年2月12日付けの拒絶理由の通知に対して同年4月10日に意見書及び手続補正書が提出され、同年5月20日付けの拒絶理由(最後)の通知に対して同年6月20日に意見書が提出され、同年7月11日付けの拒絶理由(最後)の通知に対して同年9月10日に意見書及び手続補正書が提出され、これに対して同年10月31日付けで補正の却下の決定及び拒絶査定がなされ、そして、平成26年2月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出され、特許法第164条第3項に基く同年4月9日付けの報告の後の同年7月28日及び同年8月29日に上申書が提出されたものである。

2.平成26年2月3日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年2月3日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の記載を補正するものであり、ここで、平成25年9月10日付けの手続補正は同年10月31日付けの補正の却下の決定により却下されていることから、補正前の特許請求の範囲の記載は平成25年4月10日に提出された手続補正書におけるものであり、補正前後の請求項1の記載は次のとおりのものである。
(補正前)
「【請求項1】
シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、及びブラックインクからなる4色のインクを少なくとも組み合わせてなる活性エネルギー線硬化型インクセットであって、前記4色のインクがそれぞれ活性エネルギー線重合性化合物、光重合開始剤及び無機系着色顔料を含み、前記4色のインクそれぞれの水分量が0.3質量%以下であり、前記シアンインク、マゼンタインク及びイエローインク中における無機系着色顔料の含有量が各インク全質量に対して3?20質量%であり、前記ブラックインク中における無機系着色顔料の含有量がブラックインク全質量に対して1?20質量%であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型インクセット。」

(補正後)
「【請求項1】
シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、及びブラックインクからなる4色のインクを少なくとも組み合わせてなる活性エネルギー線硬化型インクセットであって、前記4色のインクがそれぞれ活性エネルギー線重合性化合物、光重合開始剤及び無機系着色顔料を含み、前記4色のインクそれぞれの水分量が0.3質量%以下であり、前記シアンインク、マゼンタインク及びイエローインク中における無機系着色顔料の含有量が各インク全質量に対して5?20質量%であり、前記ブラックインク中における無機系着色顔料の含有量がブラックインク全質量に対して2?20質量%であり、前記マゼンタインクに含まれる無機系着色顔料が、C.I.Pigment Red 101及びC.I.Pigment Red 102からなる群より選ばれる少なくとも1種の赤色顔料であり、前記イエローインクに含まれる無機系着色顔料が、C.I.Pigment Yellow 42及びC.I.Pigment Yellow 184からなる群より選ばれる少なくとも1種の黄色顔料であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型インクセット。」(当審注:上記の下線は補正箇所を示すものである。)

(2)補正の適否
(2-1)本件補正の目的
本件補正は、
(i)補正前の「前記シアンインク、マゼンタインク及びイエローインク中における無機系着色顔料の含有量が各インク全質量に対して3?20質量%」を、補正後の「前記シアンインク、マゼンタインク及びイエローインク中における無機系着色顔料の含有量が各インク全質量に対して5?20質量%」とし、
(ii)補正前の「前記ブラックインク中における無機系着色顔料の含有量がブラックインク全質量に対して1?20質量%」を、補正後の「前記ブラックインク中における無機系着色顔料の含有量がブラックインク全質量に対して2?20質量%」とし、
(iii)マゼンタインクとイエローインクについて、補正前の「であること」を、補正後の「であり、前記マゼンタインクに含まれる無機系着色顔料が、C.I.Pigment Red 101及びC.I.Pigment Red 102からなる群より選ばれる少なくとも1種の赤色顔料であり、前記イエローインクに含まれる無機系着色顔料が、C.I.Pigment Yellow 42及びC.I.Pigment Yellow 184からなる群より選ばれる少なくとも1種の黄色顔料であること」とする補正事項を有するものである。
そして、(i)(ii)については、含有量の数値範囲を限定するものであり、(iii)については、マゼンタインクとイエローインクの種類を具体的に限定するものであり、かつ、補正後の請求項1に記載された発明は、補正前の請求項1に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的にするものである。
また、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)には、
「【0023】
上記シアンインク中における無機系着色顔料の含有量は、シアンインク全質量に対して、3?20質量%であることが好ましく、5?15質量%であることがより好ましい。ここで、該無機系着色顔料の含有量が3質量%未満では、着色力が十分に得られない場合がある。一方、20質量%を超えると、インクが高粘度になりやすく、インクジェット方式による吐出が困難となる場合があり、また、インクの塗布量が増加した際、無機系着色顔料による活性エネルギー線の遮蔽効果によって硬化不良を生じる恐れがあり、印刷膜の強度低下の原因となる。
【0024】
上記マゼンタインクに含まれる無機系着色顔料は、カラーインデックスナンバーがPigment Redに分類される少なくとも1種の赤色顔料であり、例えば、環境面や着色性能等を考慮した場合、C.I.Pigment Red 101(CAS No.: 1309-37-1)、C.I.Pigment Red 102(CAS No.: 90452-21-4、1317-63-1他)等の酸化鉄系顔料が好適に挙げられる。
【0025】
上記マゼンタインク中における無機系着色顔料の含有量は、マゼンタインク全質量に対して、3?20質量%であることが好ましく、5?15質量%であることがより好ましい。ここで、該無機系着色顔料の含有量が3質量%未満では、着色力が十分に得られない場合がある。一方、20質量%を超えると、インクが高粘度になりやすく、インクジェット方式による吐出が困難となる場合があり、また、インクの塗布量が増加した際、無機系着色顔料による活性エネルギー線の遮蔽効果によって硬化不良を生じる恐れがあり、印刷膜の強度低下の原因となる。
【0026】
上記イエローインクに含まれる無機系着色顔料は、カラーインデックスナンバーがPigment Yellowに分類される少なくとも1種の黄色顔料であり、例えば、C.I.Pigment Yellow 42(CAS No.: 51274-00-1)、C.I.Pigment Yellow 43(CAS No.: 64294-91-3)、C.I.Pigment Yellow 53(CAS No.: 8007-18-9及び71077-8-4)、C.I.Pigment Yellow 184(CAS No.: 14059-33-7)等が挙げられるが、環境面や着色性能等を考慮した場合、C.I.Pigment Yellow 42、及びC.I.Pigment Yellow 184が好ましい。
【0027】
上記イエローインク中における無機系着色顔料の含有量は、イエローインク全質量に対して、3?20質量%であることが好ましく、5?15質量%であることがより好ましい。ここで、該無機系着色顔料の含有量が3質量%未満では、着色力が十分に得られない場合がある。一方、20質量%を超えると、インクが高粘度になりやすく、インクジェット方式による吐出が困難となる場合があり、また、インクの塗布量が増加した際、無機系着色顔料による活性エネルギー線の遮蔽効果によって硬化不良を生じる恐れがあり、印刷膜の強度低下の原因となる。」及び
「【0029】
上記ブラックインク中における無機系着色顔料の含有量は、ブラックインク全質量に対して、1?20質量%であることが好ましく、2?10質量%であることがより好ましい。ここで、該無機系着色顔料の含有量が1質量%未満では、着色力が十分に得られない場合がある。一方、20質量%を超えると、インクが高粘度になりやすく、インクジェット方式による吐出が困難となる場合があり、また、インクの塗布量が増加した際、無機系着色顔料による活性エネルギー線の遮蔽効果によって硬化不良を生じる恐れがあり、印刷膜の強度低下の原因となる。」との記載があることから、本件補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、特許法第17条の2第3項の規定を満足するものである。

(2-2)独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2-2-1)引用例の記載事項
原査定の拒絶理由において引用文献1として引用した特開2011-126947号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の記載、表示及び図示がある。(当審注:以下の下線は、当審において付与した。)
(a)「【請求項1】
インクジェット記録による模様付けに用いられる紫外線硬化型シアンインクであって、
着色材としてのコバルトブルー顔料と、紫外線吸収剤と、光安定剤とを含有することを特徴とする紫外線硬化型シアンインク。
【請求項2】
請求項1に記載の紫外線硬化型シアンインクによるシアンドットを含む複数色のドットによって模様付けされたインクジェット層を有し、
前記インクジェット層が紫外線吸収剤と光安定剤とを含有するトップコートによって被覆されていることを特徴とする建築板。
【請求項3】
前記シアンドットを含む前記複数色のドットによって模様付けされた前記建築板で、前記コバルトブルー顔料の濃度密度が0.5g/m^(2)より高いことを特徴とする請求項2に記載の建築板。
【請求項4】
建築物の外装材として用いられることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の建築板。」

(b)「【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐候性に優れた、インクジェット記録による模様付けに用いられる、コバルトブルー顔料を含有する紫外線硬化型シアンインクおよびこのコバルトブルー顔料を含有する紫外線硬化型シアンインクによるシアンドットを含む複数色のドットによって模様付けされた建築板を得ることができる。」

(c)「【0017】
紫外線硬化型シアンインクを含む各色の紫外線硬化型インクは、反応性オリゴマーと、反応性モノマーと、光重合開始剤と、着色材としての無機顔料とを含有する。本実施形態において反応性オリゴマーおよび反応性モノマーは、耐候性の面から脂肪族化合物であることが好ましく、さらに反応性オリゴマーはベースコート530との密着を重視した場合、ウレタンアクリレートであることが好ましい。また、紫外線硬化型シアンインクを含む各色の紫外線硬化型インクには、紫外線吸収剤(以下、「UVA」ともいう。)と、光安定剤(以下、「HALS」ともいう。)とが添加され、これら各色の紫外線硬化型インクは、UVAとHALSとを含有する。ここで、UVAとしては、代表的なものとしてベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒドロキシフェニルトリアジン系、オギザニリド系、およびシアノアクリレート系のものがあり、単独および混合系のいずれの使用も可能である。ただし、理由は明らかではないが、本実施形態においては、ヒドロキシフェニルトリアジン系のものが好ましい傾向にある。また、HALSにおいても様々なものが提案されており、その中より任意に単独および混合系のいずれの使用も可能である。ところで、UVAおよびHALSの添加において重要な点として適正な添加量が挙げられる。添加量が少ない場合は十分な耐候性は期待できず、反対に添加量が多い場合は物性面ではブリードアウトの問題が懸念され、またコスト高にも繋がる。本実施形態の紫外線硬化型インク中への好ましい添加量は、UVAが0.3?5%、HALSも同様に0.3?5%である。さらに本実施形態のイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの各色について、着色材としての顔料には、無機顔料が用いられる。イエローの無機顔料としては、シー・アイ・ピグメントイエロー42,シー・アイ・ピグメントイエロー184が好適である。マゼンタの無機顔料としては、シー・アイ・ピグメントレッド101,シー・アイ・ピグメントレッド102が好適である。シアンの無機顔料としては、シー・アイ・ピグメントブルー28(コバルト成分、例えば酸化コバルトによるコバルトブルー顔料),シー・アイ・ピグメントブルー36(コバルト成分、例えば酸化コバルトによるコバルトブルー顔料)が好適である。ブラックの無機顔料としては、シー・アイ・ピグメントブラック7が好適である。なお、紫外線硬化型インクは、模様付けが終了した後(所定の模様が記録された後)、紫外線が照射され、これにより硬化する。」

(d)「【0021】
(実施例)
本実施形態の建築板500による変退色特性を確認するために、促進耐候試験を行った。以下、この促進耐候試験の結果について説明するが、本実施形態(本発明)は必ずしもこれらの実施例による構成に限定されるものではない。
・・・(中略)・・・
【0024】
(紫外線硬化型インク)
イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの紫外線硬化型インクについて、次に示すインク処方-1(UVAおよびHALS添加なし)およびインク処方-2(UVAおよびHALS添加あり)によって作製した。具体的に、下記原材料を混ぜ合わせ、ろ過をして、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックの紫外線硬化型インクをそれぞれ作製した。なお、各色の紫外線硬化型インクの顔料濃度は、紫外線硬化型イエローインクが4重量%で、紫外線硬化型マゼンタインクが4重量%で、紫外線硬化型シアンインクが10重量%で、紫外線硬化型ブラックインクが2重量%とした。
・・・(中略)・・・
<インク処方-2>
【0029】
(1)紫外線硬化型イエローインク
顔料分散液(顔料分20%):20重量部(顔料:TSY-1、黄色酸化鉄、戸田工業株式会社製、分散媒:SR238F、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、サートマージャパン株式会社製)
反応性オリゴマー:25重量部(CN985B88、2官能脂肪族ウレタンアクリレート、サートマージャパン株式会社製)
反応性モノマー:43重量部(SR238F、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、サートマージャパン株式会社製)
光重合開始剤:5重量部(ダロキュア1173、ヒドロキシケトン類、チバジャパン株式会社製)
光重合開始剤:3重量部(イルガキュア819、アシルホスフィンオキサイド類、チバジャパン株式会社製)
UVA:2重量部(チヌビン479、ヒドロキシフェニルトリアジン系、チバジャパン株式会社製)
HALS:2重量部(チヌビン123、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)-4-ピペリジニル)エステル、1,1-ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物 、チバジャパン株式会社製)
【0030】
(2)紫外線硬化型マゼンタインク
顔料分散液(顔料分:20%):20重量部(顔料:160ED、酸化鉄、戸田工業株式会社製、分散媒:SR238F、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、サートマージャパン株式会社製)
反応性オリゴマー:25重量部(CN985B88、2官能脂肪族ウレタンアクリレート、サートマージャパン株式会社製)
反応性モノマー:43重量部(SR238F、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、サートマージャパン株式会社製)
光重合開始剤:5重量部(ダロキュア1173、ヒドロキシケトン類、チバジャパン株式会社製)
光重合開始剤:3重量部(イルガキュア819、アシルホスフィンオキサイド類、チバジャパン株式会社製)
UVA:2重量部(チヌビン479、ヒドロキシフェニルトリアジン系、チバジャパン
株式会社製)
HALS:2重量部(チヌビン123、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)-4-ピペリジニル)エステル、1,1-ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物 、チバジャパン株式会社製)
【0031】
(3)紫外線硬化型シアンインク
顔料分散液(顔料分:40%):25重量部(顔料:ダイピロキサイドブルー 9410、コバルトブルー、大日精化工業株式会社製、分散媒:SR238F、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、サートマージャパン株式会社製)
反応性オリゴマー:25重量部(CN985B88、2官能脂肪族ウレタンアクリレート、サートマージャパン株式会社製)
反応性モノマー:38重量部(SR238F、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、サートマージャパン株式会社製)
光重合開始剤:5重量部(ダロキュア1173、ヒドロキシケトン類、チバジャパン株式会社製)
光重合開始剤:3重量部(イルガキュア819、アシルホスフィンオキサイド類、チバジャパン株式会社製)
UVA:2重量部(チヌビン479、ヒドロキシフェニルトリアジン系、チバジャパン株式会社製)
HALS:2重量部(チヌビン123、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)-4-ピペリジニル)エステル、1,1-ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物 、チバジャパン株式会社製)
【0032】
(4)紫外線硬化型ブラックインク
顔料分散液(顔料分:20%):10重量部(顔料:NIPex 35、カーボン、デグサジャパン株式会社製、分散媒:SR238F、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、サートマージャパン株式会社製)
反応性オリゴマー:25重量部(CN985B88、2官能脂肪族ウレタンアクリレート、サートマージャパン株式会社製)
反応性モノマー:53重量部(SR238F、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、サートマージャパン株式会社製)
光重合開始剤:5重量部(ダロキュア1173、ヒドロキシケトン類、チバジャパン株式会社製)
光重合開始剤:3重量部(イルガキュア819、アシルホスフィンオキサイド類、チバジャパン株式会社製)
UVA:2重量部(チヌビン479、ヒドロキシフェニルトリアジン系、チバジャパン株式会社製)
HALS:2重量部(チヌビン123、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)-4-ピペリジニル)エステル、1,1-ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物 、チバジャパン株式会社製)」

(e)「【0037】
また、実施例1,2および比較例1,2について、インクジェット層540を形成するための紫外線硬化型イエローインク、紫外線硬化型マゼンタインク、紫外線硬化型シアンインクおよび紫外線硬化型ブラックインクそれぞれが含有する顔料は、表1のとおりである。なお、いずれの顔料も無機顔料である。また、各試験用建築板について、インクジェット層540の厚みは、全て10μmとした。
【表1】




(f)「【図1】




(2-2-2)引用例に記載された発明
(A)上記(e)(f)からして、引用例には、紫外線硬化型イエローインク、紫外線硬化型マゼンタインク、紫外線硬化型シアンインク及び紫外線硬化型ブラックインクを用いてインクジェット層540を形成すること、つまり「紫外線硬化型イエローインク、紫外線硬化型マゼンタインク、紫外線硬化型シアンインク及び紫外線硬化型ブラックインクからなる4色のインクを組み合わせてなる紫外線硬化型インクセット」が記載されているということができる。

(B)上記(d)(e)からして、引用例には、「シアンインク中の無機顔料の含有量がシアンインク全重量に対して10重量%であり、マゼンタインク中の無機顔料(シー・アイ・ピグメントレッド101)の含有量がマゼンタインク全重量に対して4重量%であり、イエローインク中の無機顔料(シー・アイ・ピグメントイエロー42)の含有量がイエローインク全重量に対して4重量%であり、ブラックインク中の無機顔料の含有量がブラックインク全重量に対して2重量%である」ことの記載があるということができる。

上記より、引用例には、
「シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、及びブラックインクからなる4色のインクを組み合わせてなる紫外線硬化型インクセットであって、4色のインクがそれぞれ『反応性オリゴマー(2官能脂肪族ウレタンアクリレート)及び反応性モノマー(1,6-ヘキサンジオールジアクリレート)』、光重合開始剤及び無機顔料を含み、シアンインク中における無機顔料の含有量がシアンインク全重量に対して10重量%であり、マゼンタインク中の無機顔料の含有量がマゼンタインク全重量に対して4重量%であり、イエローインク中の無機顔料の含有量がイエローインク全重量に対して4重量であり、ブラックインク中における無機顔料の含有量がブラックインク全重量に対して2重量%であり、マゼンタインクに含まれる無機顔料が、シー・アイ・ピグメントレッド101であり、イエローインクに含まれる無機顔料が、シー・アイ・ピグメントイエロー42である、紫外線硬化型インクセット。」(以下、「引用例記載の発明」という。)が記載されているものと認める。

(2-2-3)対比・判断
○引用例記載の発明の「4色のインクを組み合わせてなる」、「紫外線硬化型インクセット」、「『反応性オリゴマー(2官能脂肪族ウレタンアクリレート)及び反応性モノマー(1,6-ヘキサンジオールジアクリレート)』」、「無機顔料」、「重量」、「シー・アイ・ピグメントレッド101」、「シー・アイ・ピグメントイエロー42」は、本願補正発明の「4色のインクを少なくとも組み合わせてなる」、「活性エネルギー線硬化型インクセット」、「光重合性化合物」、「無機系着色顔料」、「質量」、「C.I.Pigment Red 101」、「C.I.Pigment Yellow 42」それぞれに相当する。

○引用例記載の発明の「シアンインク中における無機顔料の含有量がシアンインク全重量に対して10重量%であり、マゼンタインク中の無機顔料の含有量がマゼンタインク全重量に対して4重量%であり、イエローインク中の無機顔料の含有量がイエローインク全重量に対して4重量%であり、ブラックインク中における無機顔料の含有量がブラックインク全重量に対して2重量%であり、マゼンタインクに含まれる無機顔料が、シー・アイ・ピグメントレッド101であり、イエローインクに含まれる無機顔料が、シー・アイ・ピグメントイエロー42である」と、本願補正発明の「シアンインク、マゼンタインク及びイエローインク中における無機系着色顔料の含有量が各インク全質量に対して5?20質量%であり、ブラックインク中における無機系着色顔料の含有量がブラックインク全質量に対して2?20質量%であり、マゼンタインクに含まれる無機系着色顔料が、C.I.Pigment Red 101及びC.I.Pigment Red 102からなる群より選ばれる少なくとも1種の赤色顔料であり、イエローインクに含まれる無機系着色顔料が、C.I.Pigment Yellow 42及びC.I.Pigment Yellow 184からなる群より選ばれる少なくとも1種の黄色顔料である」とは、「シアンインク中における無機系着色顔料の含有量がシアンインク全質量に対して10質量%であり、マゼンタインク中の無機系着色顔料の含有量がマゼンタインク全質量に対して所定質量%であり、イエローインク中の無機系着色顔料の含有量がイエローインク全質量に対して所定質量%であり、ブラックインク中における無機系着色顔料の含有量がブラックインク全質量に対して2質量%であり、マゼンタインクに含まれる無機系着色顔料が、C.I.Pigment Red 101(赤色顔料)であり、イエローインクに含まれる無機系着色顔料が、C.I.Pigment Yellow 42(黄色顔料)である」という点で共通する。

上記より、本願補正発明と引用例記載の発明とは、
「シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、及びブラックインクからなる4色のインクを少なくとも組み合わせてなる活性エネルギー線硬化型インクセットであって、前記4色のインクがそれぞれ活性エネルギー線重合性化合物、光重合開始剤及び無機系着色顔料を含み、前記シアンインク中における無機系着色顔料の含有量がシアンインク全質量に対して10質量%であり、前記マゼンタインク中の無機系着色顔料の含有量がマゼンタインク全質量に対して所定質量%であり、前記イエローインク中の無機系着色顔料の含有量がイエローインク全質量に対して所定質量%であり、前記ブラックインク中における無機系着色顔料の含有量がブラックインク全質量に対して2質量%であり、前記マゼンタインクに含まれる無機系着色顔料が、C.I.Pigment Red 101(赤色顔料)であり、前記イエローインクに含まれる無機系着色顔料が、C.I.Pigment Yellow 42(黄色顔料)である、活性エネルギー線硬化型インクセット。」という点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点>
本願補正発明では、「4色のインクそれぞれの水分量が0.3質量%以下であり、シアンインク、マゼンタインク及びイエローインク中における無機系着色顔料の含有量が各インク全質量に対して5?20質量%であり、ブラックインク中における無機系着色顔料の含有量がブラックインク全質量に対して2?20質量%であ」るのに対して、引用例記載の発明では、「シアンインク中における無機顔料(無機系着色顔料)の含有量がシアンインク全重量(質量)に対して10重量%であり、マゼンタインク中の無機顔料の含有量がマゼンタインク全重量に対して4重量%であり、イエローインク中の無機顔料の含有量がイエローインク全重量に対して4重量%であり、ブラックインク中における無機顔料の含有量がブラックインク全重量に対して2重量%であ」る点。

<相違点>について検討する。
一般に、顔料(無機、有機)を含有し、且つ、良好な保存安定性および耐候性を有する紫外線硬化型インク組成物(活性エネルギー線硬化型インクセット)について、インク組成物(インクセット)中の顔料の含有量を1?20重量(質量)%程度にすること、及び、顔料が無機、有機にかかわらず、インク組成物中の水分量を1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、更に好ましくは0.3重量%以下にすることは、従前の周知技術(例えば、特開2006-249207号公報の特に、下記※で示す【0007】【0011】【0038】【0115】【0116】【0124】【0137】参照)であり、一方、引用例記載の発明は、上記「(2-2-1)」の(a)ないし(f)及び「(2-2-2)」の(A)(B)からして、無機顔料(無機系着色顔料)を含有し、且つ、良好な保存安定性および耐候性を有する紫外線硬化型インクセット(活性エネルギー線硬化型インクセット)について、シアンインク中の無機顔料の含有量を10重量(質量)%、マゼンタインク中の無機顔料の含有量を4重量%、イエローインク中の無機顔料の含有量を4重量%、ブラックインク中の無機顔料の含有量を2重量%にするものであることからして、引用例記載の発明と上記従前の周知技術とは、無機顔料を含有し、且つ、良好な保存安定性および耐候性を有する活性エネルギー線硬化型インクセットについて、無機顔料の含有量を所定重量%にするという点で共通している。
そうすると、引用例記載の発明の「シアンインク中における無機顔料(無機系着色顔料)の含有量がシアンインク全重量(質量)に対して10重量%であり、マゼンタインク中の無機顔料の含有量がマゼンタインク全重量に対して4重量%であり、イエローインク中の無機顔料の含有量がイエローインク全重量に対して4重量%であり、ブラックインク中における無機顔料の含有量がブラックインク全重量に対して2重量%であ」る「紫外線硬化型インクセット(活性エナルギ-線硬化型インクセット)」について、より良好な保存安定性および耐候性を有するインクセットを得る観点より、上記の点で共通する上記従前の周知技術を考慮することで、各インク中の無機顔料(無機系着色顔料)の含有量を調製すると共に、インクセット中の水分量を1重量(質量)%以下、好ましくは0.5重量%以下、更に好ましくは0.3重量%以下にすることは、当業者であれば容易に想起し得ることであり、この際、各インク中の無機顔料の含有量は、上記従前の周知技術の「インク組成物(インクセット)中の顔料の含有量を1?20重量(質量)%程度にする」ことからみて、シアンインク、マゼンタインク及びイエローインク中の無機顔料(無機系着色顔料)の含有量が各インク全重量(質量)に対して5?20重量%の範囲内になると共に、ブラックインク中における無機顔料の含有量がブラックインク全重量に対して2?20重量%の範囲内になる場合を包含するものであるというべきである。
そして、本願補正発明の「保存安定性および耐候性に優れる」という作用効果は、引用例記載の発明及び従前の周知技術より当業者であれば容易に予測し得るものである。
したがって、上記相違点に係る本願補正発明の技術的事項を構成することは、引用例記載の発明及び従前の周知技術に基いて当業者であれば容易になし得ることである。
よって、本願補正発明は、引用例記載の発明及び従前の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

※特開2006-249207号公報の【0007】【0011】【0038】【0115】【0116】【0124】【0137】は、以下のとおりのものである。
「【0007】
前記課題を考慮してなされた本発明の目的は、放射線の照射に対して高感度で硬化し、高画質の画像を形成することができ、被記録媒体上への密着性が優れ、且つ、保存安定性の良好なインク組成物及び該インク組成物を用いたインクジェット記録方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、保存安定性に優れ、紫外線の照射により高感度で硬化可能なインク組成物を用いて得られた印刷物、平版印刷版、及び、平版印刷版の製造方法を提供することにある。」

「【0011】
本発明のインク組成物は、放射線の照射により硬化可能であり、(a)カチオン重合性化合物と、(b)酸発生剤とを含有し、組成物中の含水率が1重量%以下であることを特徴とし、所望により、更に(c)塩基性窒素含有化合物、(d)特定の有機酸性化合物、(e)着色剤を含有してもよい。
本発明のインク組成物においては、該組成物に含有する水分量が1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、更に好ましくは0.3重量%以下であることを特徴とする。カチオン重合性化合物と酸発生剤から成る組成物に対し、放射線の照射によりカチオン重合を生起させる際に、含水率が1重量%を越えると、重合反応率が著しく低下する。
また本発明のインク組成物中の含水量は、インク組成物中のカチオン重合性化合物、酸発生剤、更に所望により添加する塩基性窒素含有化合物、特定の有機酸性化合物、着色剤の各成分に関し、予め脱水処理したものを使用するか、インク組成物を調製後、減圧下で共沸などの脱水処理することにより、1重量%以下に調整することができる。
本発明で言う「放射線」とは、その照射によりインク組成物中において開始種を発生させうるエネルギーを付与することができる活性放射線であれば、特に制限はなく、広くα線、γ線、X線、紫外線、可視光線、電子線などを包含するものであるが、なかでも、硬化感度及び装置の入手容易性の観点から紫外線および電子線が好ましく、特に紫外線が好ましい、したがって、本発明のインク組成物としては、放射線として、紫外線を照射することにより硬化可能なインク組成物が好ましい。」

「【0038】
本発明のインク組成物には、これらのカチオン重合性化合物は、1種のみを用いても、2種以上を併用してもよいが、インク硬化時の収縮を効果的に抑制するといった観点からは、オキセタン化合物とエポキシ化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物と、ビニルエーテル化合物とを併用することが好ましい。
インク組成物中の(a)カチオン重合性化合物の含量は、該組成物の全固形分に対し、10?95重量%が適当であり、好ましくは30?90重量%、更に好ましくは50?85重量%の範囲である。なお、本発明でインク組成物中の固形分とは、インク組成物から後述の溶剤等の揮発性成分を除いた成分とする。」

「【0115】
[(e)着色剤]
本発明のインク組成物に着色剤を添加することで、可視画像を形成することができる。例えば、平版印刷版の画像部領域を形成する場合などには、必ずしも添加する必要はないが、得られた平版印刷版の検版性の観点からは着色剤を用いることも好ましい。
ここで用いることのできる着色剤には、特に制限はなく、用途に応じて公知の種々の色材、(顔料、染料)を適宜選択して用いることができる。例えば、耐候性に優れた画像を形成する場合には、顔料が好ましい。染料としては、水溶性染料及び油溶性染料のいずれも使用できるが、油溶性染料が好ましい。
【0116】
本発明に好ましく使用される顔料について述べる。
〔顔料〕
顔料としては、特に限定されるものではなく、一般に市販されているすべての有機顔料及び無機顔料、または顔料を、分散媒として不溶性の樹脂等に分散させたもの、あるいは顔料表面に樹脂をグラフト化したもの等を用いることができる。また、樹脂粒子を染料で染色したもの等も用いることができる。
これらの顔料としては、例えば、伊藤征司郎編「顔料の辞典」(2000年刊)、W.Herbst,K.Hunger「Industrial Organic Pigments」、特開2002-12607号公報、特開2002-188025号公報、特開2003-26978号公報、特開2003-342503号公報に記載の顔料が挙げられる。」

「【0124】
顔料の平均粒径は0.02?0.4μmにするのが好ましく、0.02?0.1μmとするのがさらに好ましく、より好ましくは、0.02?0.07μmの範囲である。
顔料粒子の平均粒径を上記好ましい範囲となるよう、顔料、分散剤、分散媒体の選定、分散条件、ろ過条件を設定する。この粒径管理によって、ヘッドノズルの詰まりを抑制し、インクの保存安定性、インク透明性および硬化感度を維持することができる。
着色剤はインク組成物中、固形分換算で1?20重量%添加されることが好ましく、2?10重量%がより好ましい。 」

「【0137】
〔溶剤〕
本発明のインク組成物には、被記録媒体との密着性を改良するため、極微量の有機溶剤を添加することも有効である。
溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-プロパノール、1-ブタノール、tert-ブタノール等のアルコール系溶剤、クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶剤、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピルなどのエステル系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、などが挙げられる。
この場合、耐溶剤性やVOCの問題が起こらない範囲での添加が有効であり、その量はインク組成物全体に対し0.1?5重量%が好ましく、より好ましくは0.1?3重量%の範囲である。」

(2-2-4)まとめ
上記からして、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(3-1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年4月10日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記2.(1)の(補正前)で示したものである。

(3-2)引用例の記載事項及び引用例に記載された発明
原査定の拒絶理由において引用文献1として引用した特開2011-126947号公報(引用例)の記載事項及び引用例に記載された発明は、上記2.(2-2-1)及び(2-2-2)で示したとおりである。

(3-3)対比・判断
上記2.(1)で示したように、本件補正における請求項1の補正事項は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであることから、本願発明は、本願補正発明を包含している。
そうすると、本願補正発明が、上記2.(2-2-3)で示したように、引用例記載の発明及び従前の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本願補正発明を包含する本願発明も同様の理由により、引用例記載の発明及び従前の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということができる。

(3-4)むすび
したがって、本願発明は、引用例記載の発明及び従前の周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
それゆえ、請求項2ないし7に係る発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-19 
結審通知日 2015-03-24 
審決日 2015-04-08 
出願番号 特願2012-288182(P2012-288182)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
P 1 8・ 575- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 邦久  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 日比野 隆治
豊永 茂弘
発明の名称 活性エネルギー線硬化型インクセット及び建築板  
代理人 飯野 陽一  
代理人 永井 道雄  

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