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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1301417
審判番号 不服2014-13870  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-16 
確定日 2015-05-25 
事件の表示 特願2012-511589「積層基板を備えた電子部品」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月27日国際公開、WO2011/132476〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成23年3月15日(優先権主張 平成22年 4月20日)を国際出願日とする出願であって、平成25年9月27日付け拒絶理由通知に対して同年11月28日付けで意見書を提出するとともに手続補正がなされたが、平成26年4月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月16日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付で手続補正がされたものである。


2.平成26年7月16日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]

平成26年7月16日付の手続補正を却下する。

[理由]
(1)本願補正発明

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を補正前の
「【請求項1】
互いに積層された複数の誘電体層と、
前記誘電体層の主面に沿って配置され、グランドに電気的に接続される第1の導体パターンと、
前記誘電体層の主面に沿って配置され、前記誘電体層のみを介して前記第1の導体パターンと対向する、グランド以外に電気的に接続されるインダクタ素子、ストリップライン、又はマイクロストリップラインを形成する第2の導体パターンと、
を含む積層基板を備えた電子部品において、
前記第1の導体パターンに開口部が形成され、該開口部を介して、前記誘電体層の積層方向に、前記第1の導体パターンを挟む前記第1の導体パターンの両側の前記誘電体層のみが互いに接合し、
前記第2の導体パターンは、前記第1の導体パターンを挟んで前記積層方向の両側に配置され、
前記誘電体層が積層された積層方向から透視したときに、実質的に、前記第1の導体パターンの前記開口部を除く部分に、前記第2の導体パターンの全体が重なっていることを特徴する、積層基板を備えた電子部品。」から、

補正後の
「【請求項1】
互いに積層された複数の誘電体層と、
前記誘電体層の主面に沿って配置され、グランドに電気的に接続される第1の導体パターンと、
前記誘電体層の主面に沿って配置され、前記誘電体層のみを介して前記第1の導体パターンと対向する、グランド以外に電気的に接続されるインダクタ素子、ストリップライン、又はマイクロストリップラインを形成する第2の導体パターンと、
を含む積層基板を備えた電子部品において、
前記第1の導体パターンに開口部が形成され、該開口部を介して、前記誘電体層の積層方向に、前記第1の導体パターンを挟む前記第1の導体パターンの両側の前記誘電体層のみが互いに接合し、
前記第2の導体パターンは、前記第1の導体パターンを挟んで前記積層方向の両側に配置され、
前記誘電体層が積層された積層方向から透視したときに、実質的に、前記第1の導体パターンの前記開口部を除く部分に、前記第2の導体パターンの全体が重なっており、
同一の前記第1の導体パターンに形成された前記開口部は、円形の複数の第1の開口部と、前記第1の開口部よりも開口面積が大きい複数の第2の開口部とを含み、前記第2の開口部の一つは当該第1の導体パターンの中央部に形成され、かつ、前記積層方向から透視したときに、前記第2の導体パターンの間に配置されていることを特徴する、積層基板を備えた電子部品。」
(以下、本願補正発明、という)とする補正を含むものである。

上記補正は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である、第1の導体パターンに形成された「開口部」について、「円形の複数の第1の開口部」と「第1の開口部よりも開口面積が大きい複数の第2の開口部」とを含むことを特定するとともに、前記第2の開口部の一つが「第1の導体パターンの中央部に形成され、かつ、前記積層方向から透視したときに、前記第2の導体パターンの間に配置されている」ものであることを限定することにより、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許請求の範囲の限定的減縮に該当する。

そこで、本願補正発明が、独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に適合するか)について、以下において判断する。

(2)本願補正発明の進歩性の判断
(2-1)引用例の記載
原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-324979号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、配線基板に関し、特に、信号配線層と導体層とが絶縁層を介して電磁的に結合して、信号が伝送される配線基板に関する。
【0002】
【従来の技術】絶縁層と信号配線層やベタ状の導体層などとを交互に積層した配線基板が知られている。これらの配線基板のうち、伝送される信号の周波数が高いものでは、信号の伝送路として信号配線層とベタ状の導体層とを電磁的に結合させ、ストリップライン構造やマイクロストリップライン構造などの構造とすることがある。
【0003】一方、絶縁層と導体層とを交互に積層した配線基板において、ベタ状など大きな面積の導体層を形成するに際しては、導体層に格子状など所定間隔で円形や四角形状貫通孔を多数形成したり、導体層自身をメッシュ状にして、上下の絶縁層が貫通孔(メッシュの目)を通じて互いに直接結合するように構成することが、しばしば行われている。
【0004】その理由の第1は、一般に、アルミナなどのセラミックやエポキシ樹脂などの樹脂からなる絶縁層とタングステン、モリブデン、銅、銀などに金属からなる導体層との密着強度よりも、セラミック同士や樹脂同士など絶縁層同士の密着強度の方が大きくできるので、貫通孔を通じて絶縁層同士を密着させると、配線基板の強度が高くなるからである。第2には、焼成あるいはキュア、熱処理などの際、絶縁層よりも導体層はガス抜け性が悪いため、大きな面積の導体層があると、これらの処理などにおいてそれよりも下層の絶縁層や導体層から発生するガスの放散が、この大きな面積の導体層によって妨害されやすい。すると、絶縁層とこれに接する導体層との間に空洞(フクレ)が発生することがあり、このようなフクレは絶縁層と導体層との密着強度をさらに低下させるからである。従って、信号配線層と電磁的に結合する導体層についても、絶縁層との密着強度やフクレ防止のためには、多数の貫通孔を形成したりメッシュ状とするのが適当であることとなる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、信号配線層と電磁的に結合している導体層において、上述のように多数の貫通孔を形成したり、導体層をメッシュ状とすると、例えば、図6に示すように、導体層のうち、ちょうど信号配線層と対向する部分に、貫通孔が位置することとなる場合が生じる。図6に即して説明すると、貫通孔2Bを有する導体層2と破線で示す信号配線層4とを重ねたとき、導体層2と信号配線層4とが重なる場合の他、貫通孔2Bと信号配線層4とが重なる場合が出てくる。信号配線層4の特性インピーダンスは、導体層2と信号配線層4とが重なる場合と、貫通孔2Bと信号配線層4とが重なる場合とでは異なるため、一本の信号配線層4について、その長手方向に特性を見ると、部分的に特性インピーダンスなどの特性の変動が生じることとなる。これため、この信号配線層4で伝送される信号について、反射や歪みなどが生じるから、信号伝送の遅れや誤りを生じる可能性がある。
【0006】本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、密着強度が高くて信頼性の高い、しかも、信号配線層について特性インピーダンスなどの特性変動を抑制した配線基板を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段、作用及び効果】そしてその解決手段は、複数の貫通孔を備える導体層と、この導体層に接する絶縁層と、上記絶縁層を介して上記導体層と対向し、信号が伝送される信号配線層と、を積層してなる配線基板であって、上記導体層は、厚さ方向に投影した上記信号配線層に対応する配線対応領域と、この配線対応領域を除く配線非対応領域とを含み、上記貫通孔は、上記導体層のうち上記配線非対応領域に配置されてなる配線基板である。
【0008】本発明の配線基板では、貫通孔は、導体層のうち配線対応領域を除く配線非対応領域に形成されている。つまり、信号配線層は貫通孔の無い配線対応領域と結合するから、信号配線層の長手方向に見た場合の信号配線層と導体層との電磁的な結合状態の変化が少ない。従って、信号配線層について、部分的な特性インピーダンス等の特性変動を抑制することができる。なお、信号配線層と導体層とは絶縁層を介して対向して積層されていれば良く、例えば、導体層が下層に位置し、絶縁層を介して、信号配線層が上層に位置する構成のほか、信号配線層が下層に位置し、絶縁層を介して、導体層が上層に位置する構成をも包含する。また、ストリップライン構造のように、2つの導体層で信号配線層を挟む構成とした場合も含まれる。」

(イ)「【0015】ところで、配線基板において、信号配線層が、信号配線層同士が互いに隣り合い平行に延びる平行配線部を備えるときには、導体層のうち平行配線間対応部では、平行配線対応部に挟まれているため、貫通孔を形成する位置や形成できる領域の幅に制限がある。このため、貫通孔を円形や正方形などの形状としたのでは、平行配線間対応部に必要が大きさ(開口面積)を有する貫通孔を形成し難い場合がある。
【0016】これに対し、本発明の配線基板では、平行配線間対応部に配置する貫通孔を長形貫通孔とした。平行配線間対応部では、形成する貫通孔について、平行配線部(従って、配線対応領域のうち上記平行配線対応部)の長さ方向に直交する方向の寸法が平行配線間対応部の幅寸法によって制限されているが、平行配線部の長さ方向と略平行な方向には制限がないためである。このようにすることで、平行配線対応部に隣接した平行配線間対応部に比較的大きな開口面積の貫通孔を形成できることとなる。従って、平行配線対応部も含めて、この長形貫通孔の近傍は、ガス抜け性や上下絶縁層の密着性などを特に良好とすることができるから、確実にフクレを防止することが出来る。」

(ウ)「【0027】
【発明の実施の形態】(実施形態1)本発明の第1の実施形態について、図1?図4を参照しつつ説明する。図1に示す配線基板10は、ガラス-エポキシ樹脂複合材料からなる厚さ約600μmのコア基板11の表裏面に、Cuからなり厚さ約20μmの導体層や信号配線層などの金属層と、エポキシ樹脂からなる厚さ約35μmの樹脂絶縁層とが交互に積層されてなる。なお、本実施形態では、表面側のみ図示して説明を進めることとし、裏面側の図示及び説明を省略する。コア基板11の表面11Bには、交流的に接地される(具体的には接地される)第1導体層12、第1絶縁層13、複数の信号配線層14、第2絶縁層15、交流的に接地される(具体的には+の電源電位とされる)第2導体層16、第3絶縁層17がこの順に積層されてなる。
【0028】この断面構造を有する配線基板10は、信号配線層14が、第1、第2絶縁層13、15を介して、接地された第1、第2導体層12、16に挟まれて電磁的に結合し、いわゆるストリップライン構造の信号伝送路を構成しており、信号配線層14により信号が伝送される。」

(エ)「【0031】図2に示すような信号配線層14の形態は、周縁部に多数の信号端子を有するICチップを搭載する配線基板において、狭い間隔で配置された信号端子を、信号配線層14でファンアウトさせて広い間隔に変換して、マザーボード等に接続可能とするのに多く用いられる形態である。
【0032】次いで、第1導体層12の平面的な形態を図3に示す。第1導体層12は、ベタ状の導体層であり、多数の貫通孔12B、12E、12H、12Lを備える。このような貫通孔12B等を形成するのは、コア基板11と第1絶縁層13とを貫通孔12B等を介して直接接続し、配線基板10の強度を高めるためである。また、配線基板10の製造に際して、第1絶縁層13のキュアなど繰り返しかかる加熱によって、コア基板11から生じるガスを貫通孔12B等を通じて外部に放散させ、コア基板11と第1導体層12との間にフクレが生じるのを防ぐためである。なお、図1に示す部分拡大断面図は、図3における、X-X’断面である。
【0033】このような目的で第1導体層に貫通孔を形成する場合には、例えば、残部12Kに格子状に配列した円形の貫通孔12Lのように、格子状など規則正しく配列すれば足りる。しかしながら、前記した課題があるため、本配線基板10では、貫通孔と信号配線層14との関係を考慮し、貫通孔12B、12E、12Hを形成している。なお、貫通孔12B、12E、12H、12Lは、いずれも内部全体にコア基板11が露出している。
【0034】第1導体層12は、破線で示すように、信号配線層14を厚さ方向(図3中紙面に垂直な方向)に投影した配線対応領域と、それ以外の配線非対応領域とに分けられる。配線対応領域には、信号配線層14の第1平行配線部14Bに対応する第1平行配線対応部12C、第2平行配線部14Cに対応する第2平行配線対応部12F、及び、第3平行配線部14Dに対応する第3平行配線対応部12Iが含まれる。一方、配線非対応領域には、第1平行配線対応部12C同士の間に位置する第1平行配線間対応部12D、第2平行配線対応部12F同士の間に位置する第2平行配線間対応部12G、第3平行配線対応部12I同士の間に位置する第3平行配線間対応部12J、及び残部12Kが含まれる。貫通孔12B、12E、12H、12Lはいずれも、配線非対応領域に形成されている。以下では、まず、第1平行配線対応部12C及び第1平行配線間対応部12Dについて考察する。
【0035】図3から容易に理解できるように、第1長形貫通孔12Bは、第1平行配線対応部12C同士の間に位置する第1平行配線間対応部12D内に形成されている。つまり、信号配線層14の第1平行配線部14Bと対応する第1平行配線対応部12Cには貫通孔が形成されていない。このため、第1平行配線部14Bの長さ方向である第1長さ方向H1に見て、信号配線層14のうち、この第1平行配線部14Bの特性インピーダンス等の特性は、ほとんど変動しない。
【0036】しかも、第1長形貫通孔12Bは、第1長さ方向H1に直交する方向(図中左右方向)よりも、第1長さ方向H1に平行な方向(図中上下方向)に、長くされた長円形状となっている。第1平行配線対応部12Cに貫通孔を設けなくとも、このように長円形状の第1長形貫通孔12Bを第1平行配線間対応部12Dに設けることにより、コア基板11と第1絶縁層13との密着強度を高めることができる。また、コア基板11から発生するガスを第1長形貫通孔12Bを通じて外部に放散することができるから、第1長形貫通孔12Bの近傍において、コア基板11と第1導体層12、具体的には、コア基板11と第1平行配線対応部12Cや第1平行配線間対応部12Dとの間にフクレが生じるのを防止することができる。
【0037】特に、第1平行配線間対応部12Dは、2つの第1平行配線対応部12Cに挟まれた領域であるから、この第1平行配線間対応部12Dに貫通孔を配置する場合には、第1長さ方向H1に直交する方向についてその寸法に制限が生じる。このため、貫通孔を円形や正方形で形成しようとすると、十分な開口面積を確保することが難しくなる。しかし、本実施形態では、第1長形貫通孔12Bを長円形状としているので、開口面積を十分確保することができ、コア基板11と第1絶縁層13との密着強度を高めることができる上、コア基板11と第1平行配線対応部12Cや第1平行配線間対応部12Dとの間にフクレが生じるのを確実に防止することができる。」

(オ)「【0052】また、第2導体層16に形成する貫通孔16B等についても、第1導体層12と同様にして、信号配線層14との位置関係を考慮して配置を決定する。即ち、この信号配線層14を厚さ方向に投影した配線対応領域(具体的には平行配線対応部16C)には、貫通孔16Bを形成せず、配線非対応領域(具体的には平行配線間対応部16D)に貫通孔16Bを形成する。かくして、信号配線層14の特性インピーダンス等の特性の長さ方向の変動が抑制される。さらに、第2絶縁層15と第3絶縁層17との密着性を高くでき、その上、貫通孔16Bを通じてのガス抜け性が良好になるので、第2絶縁層15と第2導体層16との間にフクレが生じることも防止される。」

・上記(ア)によれば、引用例1には、絶縁層と信号配線層やベタ状の導体層などとを交互に積層した配線基板の信号の伝送路をストリップライン構造やマイクロストリップライン構造などの構造にできること、そして、このような配線基板において、上下の絶縁層が貫通孔を通じて互いに直接結合することにより、配線基板の強度が高くすることができるが、導体層のうち、ちょうど信号配線層と対向する部分に、貫通孔が位置すると、部分的に特性インピーダンスなどの特性の変動が生じる課題があることが記載されている。
そして上記課題を解決するための手段として、複数の貫通孔を導体層のうち、信号配線層を厚さ方向に投影した信号配線対応領域を除く配線非対応領域に配置することにより、信号配線層について、特性変動を抑制することができることが記載されている。
・上記(イ)によれば、引用例1には、貫通孔を形成する領域の幅などに制限があると、貫通孔を円形や正方形などの形状としたのでは、必要な大きさを有する貫通孔を形成しがたい場合があるが、長形貫通孔とすることにより比較的大きな開口面積の貫通孔を形成でき、上下絶縁性の密着性を特に良好とすることが記載されている。
・上記(ウ)、(エ)によれば、引用例1の第1の実施の形態として、交流的に接地される第1導体層12、第1絶縁層13、複数の信号配線層14、第2絶縁層15、交流的に接地される第2導体層16、第3絶縁層17がこの順に積層され、いわゆるストリップライン構造の信号伝送路を構成してなる配線基板において、第1導体層の配線対応領域に貫通孔を形成せず、配線非対応領域に円形の貫通孔や長形貫通孔を形成することにより、コア基板と第1絶縁層との密着強度を高めること、図2に示す信号配線層の形態は、周縁部に多数の信号端子を有するICチップを搭載する配線基板に多く用いられる形態であることが記載されている。
そして、周縁部に多数の信号端子を有するICチップを搭載する配線基板は、配線基板を備えた電子部品と言えることは明らかである。
・上記(オ)によれば、第2導体層に形成する貫通孔についても、信号配線層との位置関係を考慮して配置を決定することが記載されている。

以上の記載によれば、引用例1には、第1の実施の形態として、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「接地される第1導体層、
第1絶縁層、
複数の信号配線層、
第2絶縁層、
接地される第2導体層、
第3絶縁層が積層され、
前記複数の信号配線層は、信号配線層同士が互いに平行に延びる複数の平行配線部を有し、前記第1、第2絶縁層を介して、接地された前記第1、第2導体層に挟まれて電磁的に結合しストリップライン構造の信号伝送路を構成し、
前記接地される第2導体層に形成された貫通孔を通して、前記第2絶縁層と前記第3絶縁層が直接結合し、
前記貫通孔が、前記複数の信号配線層を厚さ方向に投影した配線対応領域以外の配線非対応領域に形成され、前記配線非対応領域の第1?第3の平行配線間対応部に長形貫通孔が形成され、前記配線非対応領域の残部に格子状に配置された円形の貫通孔が形成された配線基板を備えた電子部品。」


(3)本願補正発明と引用発明の対比・判断
(3-1)対比

(ア)引用発明の積層構造と本願補正発明の積層構造を対応させると、引用発明の「第1絶縁層」、「複数の信号配線層」、「第2絶縁層」、「接地される第2導体層」、「第3絶縁層」は、本願補正発明の「誘電体層」「第2導体パターン」「誘電体層」「第1の導体パターン」「誘電体層」にそれぞれ対応する。
引用発明の「接地される第1導体層、第1絶縁層、複数の信号配線層、第2絶縁層、接地される第2導体層、第3絶縁層が積層され」ていることは、本願補正発明の「互いに積層された複数の誘電体層」を含むことに対応する。

(イ)引用発明の「ストリップライン構造」は、本願補正発明の「グランド以外に電気的に接続されるインダクタ素子、ストリップライン、又はマイクロストリップライン」にあたり、引用発明の「複数の信号配線層は、前記第1、第2絶縁層を介して、接地された前記第1、第2導体層に挟まれて電磁的に結合しストリップライン構造の信号伝送路を構成し」は、本願補正発明の「誘電体層の主面に沿って配置され、前記誘電体層のみを介して前記第1の導体パターンと対向する、グランド以外に電気的に接続されるインダクタ素子、ストリップライン、又はマイクロストリップラインを形成する第2の導体パターン」に対応する。

(ウ)引用発明の「第2絶縁層」と「第3絶縁層」に挟まれた「接地される第2導体層」は、本願補正発明の「誘電体層の主面に沿って配置され、グランドに電気的に接続される第1の導体パターン」に対応するものであって、「誘電体層」の間に挟まれた「第1の導体パターン」にあたり、引用発明の「貫通孔」は、本願補正発明の「開口部」にあたる
引用発明の「接地される第2導体層に形成された貫通孔を通して、第2絶縁と第3絶縁層が直接結合し」ていることは、本願補正発明の「第1の導体パターンに開口部が形成され、該開口部を介して、誘電体層の積層方向に、第1の導体パターンを挟む第1の導体パターンの両側の誘電体層のみが互いに接合し」たことに対応する。

(エ)引用発明の「配線基板」は、本願補正発明の「積層基板」にあたり、引用発明の「配線基板を備えた電子部品」は、本願補正発明の「積層基板を備えた電子部品」に対応する。

(オ)引用発明の「複数の信号配線層を厚さ方向に投影」は、絶縁層が積層された方向に複数の信号配線層を投影することを意味するものであり、本願補正発明の「誘電体層が積層された積層方向から透視したとき」にあたる。
引用発明の「貫通孔は、前記複数の信号配線層を厚さ方向に投影した配線対応領域以外の配線非対応領域に形成され」は、複数の信号配線層を厚さ方向に投影した配線対応領域には前記貫通孔は形成されず、複数の信号線と接地される第2導体層とが重なっているから、本願補正発明の「誘電体層が積層された積層方向から透視したときに、実質的に、第1の導体パターンの開口部を除く部分に、第2の導体パターンの全体が重なっており」に対応する。
引用発明の「前記配線非対応領域の第1?第3の平行配線間対応部に長形貫通孔が形成され、前記配線非対応領域の残部に格子状に配置された円形の貫通孔が形成された」は、円形の複数の貫通孔が第2導体層の配線非対応領域の残部に形成され、開口面積の大きな長形貫通孔が平行信号線間に対応して形成されており、本願補正発明の「同一の前記第1の導体パターンに形成された前記開口部は、円形の複数の第1の開口部と、前記第1の開口部よりも開口面積が大きい複数の第2の開口部とを含み」、「かつ、前記積層方向から透視したときに、前記第2の導体パターンの間に配置されている」に対応する。

以上により、本願補正発明と引用発明とは、次の〈一致点〉と〈相違点〉を有する。
〈一致点〉
「互いに積層された複数の誘電体層と、
前記誘電体層の主面に沿って配置され、グランドに電気的に接続される第1の導体パターンと、
前記誘電体層の主面に沿って配置され、前記誘電体層のみを介して前記第1の導体パターンと対向する、グランド以外に電気的に接続されるインダクタ素子、ストリップライン、又はマイクロストリップラインを形成する第2の導体パターンと、
を含む積層基板を備えた電子部品において、
前記第1の導体パターンに開口部が形成され、該開口部を介して、前記誘電体層の積層方向に、前記第1の導体パターンを挟む前記第1の導体パターンの両側の前記誘電体層のみが互いに接合し、
前記誘電体層が積層された積層方向から透視したときに、実質的に、前記第1の導体パターンの前記開口部を除く部分に、前記第2の導体パターンの全体が重なっており、
同一の前記第1の導体パターンに形成された前記開口部は、円形の複数の第1の開口部と、前記第1の開口部よりも開口面積が大きい複数の第2の開口部とを含み、かつ、前記積層方向から透視したときに、前記第2の導体パターンの間に配置されている、積層基板を備えた電子部品。」

〈相違点〉
[相違点1]:
本願補正発明は「第2の導体パターンは、第1の導体パターンを挟んで積層方向の両側に配置され」と特定するのに対して、引用発明にはこのような構成が特定されていない点。

[相違点2]:
本願補正発明は「第2の開口部の一つは当該第1の導体パターンの中央部に形成され」と特定するのに対して、引用発明は、第2の開口部が形成される位置について、このような特定がされていない点。

(3-2)相違点の判断
[相違点1]について
第2の導体パターンが、接地される導体層である第1の導体パターンを挟んで積層方向の両側に配置される構成は周知であり、引用発明において、第1の導体パターンを挟んで積層方向の両側に第2の導体パターンを配置することにより、相違点1の構成とすることは、当業者が容易になし得ることにすぎない。
(例えば、特開2005-353835号公報の段落【0022】、図1には、「第二導体層M2(配線層)」と「第四導体層M4(配線層)」が、接地される導体層である面導体を含む「第三導体層M3」を挟んで積層形成された配線基板が記載されている。)

[相違点2]について
重ねられた2つの平面状の物品の中央部を接合することにより、2つの平面状の物品の接合を確実にすることは周知慣用技術であり、密着度が大になるように、開口面積の大きな開口部を第1の導体パターンの中央部に形成して、平面状に形成された誘電体同士の接合強度を大きくすることは、当業者であれば容易になし得ることにすぎない。

また、前記相違点を総合的に検討しても、本願補正発明が奏する効果は当業者が予測できる範囲内のものと認められる。

以上のとおり、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)本件補正発明の独立特許要件の判断のむすび
上記(3)のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものであり、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。


3.本願発明について

(1)本願発明
平成26年7月16日付の手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年11月28日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
【請求項1】
互いに積層された複数の誘電体層と、
前記誘電体層の主面に沿って配置され、グランドに電気的に接続される第1の導体パターンと、
前記誘電体層の主面に沿って配置され、前記誘電体層のみを介して前記第1の導体パターンと対向する、グランド以外に電気的に接続されるインダクタ素子、ストリップライン、又はマイクロストリップラインを形成する第2の導体パターンと、
を含む積層基板を備えた電子部品において、
前記第1の導体パターンに開口部が形成され、該開口部を介して、前記誘電体層の積層方向に、前記第1の導体パターンを挟む前記第1の導体パターンの両側の前記誘電体層のみが互いに接合し、
前記第2の導体パターンは、前記第1の導体パターンを挟んで前記積層方向の両側に配置され、
前記誘電体層が積層された積層方向から透視したときに、実質的に、前記第1の導体パターンの前記開口部を除く部分に、前記第2の導体パターンの全体が重なっていることを特徴する、積層基板を備えた電子部品。」

(2)各引用例に記載された発明

原査定の拒絶の理由に引用された引用例、その記載事項、及び引用発明は、上記2.(2)のとおりである。

(3)対比・判断

本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から「同一の前記第1の導体パターンに形成された前記開口部は、円形の複数の第1の開口部と、前記第1の開口部よりも開口面積が大きい複数の第2の開口部とを含み、前記第2の開口部の一つは当該第1の導体パターンの中央部に形成され、かつ、前記積層方向から透視したときに、前記第2の導体パターンの間に配置されて」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記2.(3)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび

以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-30 
結審通知日 2015-03-31 
審決日 2015-04-13 
出願番号 特願2012-511589(P2012-511589)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 萩原 周治  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 丹治 彰
関谷 隆一
発明の名称 積層基板を備えた電子部品  
代理人 山本 俊則  

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