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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C09J
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
管理番号 1301836
審判番号 無効2013-800206  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-10-31 
確定日 2015-05-25 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4623485号発明「粘着剤組成物及び表面保護フィルム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 請求のとおり訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判に係る特許(以下、「本件特許」という。)は、平成16年3月2日に特許出願(特願2004-56947号。以下、「本件出願」という。)がされ、平成22年11月12日に設定登録(特許第4623485号、発明の名称「粘着剤組成物及び表面保護フィルム」(請求項数3)。以下、その特許請求の範囲、明細書を「本件特許請求の範囲」、「本件特許明細書」という。)がされたものである。
そして、本件特許を無効とすることについて、田中 康子(以下、「請求人」という。)から、本件審判の請求がされた。
その後の本件審判の手続の経緯は、以下のとおりである。

平成25年 10月31日付け 審判請求書、甲第1?第16号証、参考資料A提出
平成26年 1月24日付け 審判事件答弁書提出
同年 1月24日付け 訂正請求書提出
同年 4月30日付け 弁駁書、参考資料B、C提出
同年 6月13日付け 審理事項通知書
同年 8月 5日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)、参考資料D?G提出
同年 8月 8日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)、上申書提出
同年 8月19日 口頭審理
同年 9月 9日付け 上申書(請求人)、参考資料H提出
同年 10月 2日付け 上申書(被請求人)提出
平成27年 3月27日 審理終結

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
請求人が平成26年1月24日付けでした訂正請求は、本件特許請求の範囲、本件特許明細書を、その訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲、訂正明細書(以下、「本件訂正特許請求の範囲」、「本件訂正特許明細書」という。)のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。

(1)訂正事項A
特許請求の範囲における請求項1に係る発明特定事項「(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を主成分とし」を「(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の使用量が91.7?99.9重量%である、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を主成分とし」と訂正する。

(2)訂正事項B
特許請求の範囲における請求項1に係る発明特定事項「脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物及び/又は多官能イソシアヌレート系化合物(B)を固形分で0.5?7重量部、ケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)0.1?15重量部からなること」を「脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物及び/又は多官能イソシアヌレート系化合物(B)を固形分で0.5?7重量部、ケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)0.1?15重量部を配合してなり、配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満であること」と訂正する。

(3)訂正事項C
明細書の段落【0007】の記載を「すなわち、本発明は、架橋剤として金属キレート化合物を添加していない、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の使用量が91.7?99.9重量%である、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を主成分とし、水酸基を含有する共重合可能な単量体0.1?8重量%とカルボキシル基を含有する共重合可能な単量体0?0.3重量%からなるアクリル系共重合体(A)の固形分100重量部に対して、脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物及び/又は多官能イソシアヌレート系化合物(B)を固形分で0.5?7重量部、ケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)0.1?15重量部を配合してなり、配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満である表面保護フィルム用粘着剤組成物である。該粘着剤組成物を塗布してなる粘着シートを、23℃、65%RH中に7日間養生した後ステンレス板に貼り合わせたときの粘着力が0.05?0.5N/25mm以内であり、23℃、65%RH中に7日間養生後の粘着力に対する同条件下3日間養生後の粘着力の割合が1.3以下であり、23℃、65%RH中に7日養生後の粘着力に対する同条件下5時間養生後の粘着力の割合が1.5?4である表面保護フィルム用粘着剤組成物である。また、上記の粘着剤組成物をプラスチックフィルムに塗布してなるプラスチック製品や金属製品の保護に用いる表面保護フィルムである。」と訂正する。

2.訂正の適否
訂正事項Aに係る訂正は、本件特許請求の範囲の請求項1において、アクリル系共重合体(A)を構成する単量体として(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体が「主成分」であることが発明特定事項とされていたところ、「主成分」であるものの内容を「(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の使用量が91.7?99.9重量%である」ものに限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項Bに係る訂正は、本件特許請求の範囲の請求項1に「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満であること」との事項を直列的に付加するものであり、それによって、本件特許請求の範囲の請求項1に記載された「表面保護フィルム用粘着剤組成物」を「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満であること」との条件を満たすものに限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項Cに係る訂正は、訂正事項A、Bによる訂正と整合させるために、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を訂正するものであって、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
よって、訂正事項A?Cはいずれも、特許法第134条の2第1項の規定に適合するものである。

そして、訂正事項Aに係る訂正は、本件特許明細書の段落【0009】に記載された事項、訂正事項Bに係る訂正は、本件特許明細書の段落【0034】の【表2】、及び、【0038】に記載された事項、訂正事項Cに係る訂正は、訂正事項A、Bと同様の本件特許明細書の記載事項による訂正事項であって、いずれの訂正事項も本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、いずれの訂正事項も実質上特許請求の範囲を拡張し又は特許請求の範囲を変更するものではない(なお、訂正事項Bについていえば、当該訂正事項は、本件特許明細書の実施例においてポットライフの可否の基準とされていた事項を、特許請求の範囲の請求項1に付加するものであって、ポットライフの改善を発明の解決しようとする課題(段落【0005】)とする本件特許発明を実質上別異のものにする訂正事項とはいえないから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は特許請求の範囲を変更するものではない。)。

よって、訂正事項A?Cはいずれも、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項、及び、第6項の規定に適合するものである。

3.請求人の主張
請求人は、訂正事項Bに関し、次の主張をしていると認められる。

「訂正事項B…は、粘着剤組成物の組成によって特定されていた本件発明に、新たに物理的特性(粘度特性)を付加する訂正であり、請求の範囲の減縮には該当しない…。」(平成26年8月5日付け口頭審理陳述要領書(請求人)第4頁第31?34行)(以下、「主張1」という。)

「そうすると、本件訂正事項Bを含む本件訂正発明は、願書に添付した明細書において、…特許出願時の技術常識を参酌してみても自明であるということができない発明(例えば、…架橋剤(B)が7重量部、ケト-エノール互変異性を起こす化合物(C)が0.1重量部を配合した組成物で、配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満である表面保護用粘着剤組成物)も含む発明である。したがって本件訂正発明は、…新規の事項を含むものである。」(同第6頁第28行?第7頁第6行)(以下、「主張2」という。)

「(3)本件明細書の段落【0034】の表2の記載の不合理性について…したがって、訂正事項Bは、合理性に欠ける記載に依拠したものであり、訂正の根拠を欠くといわざるを得ない。」(同第7頁第9行?第8頁第27行)(以下、「主張3」という。)

そこで、これらの主張について検討する。
[主張1について]
前記「2.」に記載したとおり、訂正事項Bは、本件特許発明1に係る「表面保護フィルム用粘着剤組成物」を「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満」という粘度特性を満たすものに限定する訂正事項といえるから、訂正前の本件特許請求の範囲に粘度特性に係る事項が記載されていなかったとしても、訂正事項Bは特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、主張1は妥当なものとは認められない。

[主張2について]
請求人の主張するように、本件訂正特許請求の範囲に記載された成分組成の条件に係る発明特定事項を満たすもののうちに「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満」の粘度の条件を満たさないものが仮に存在したとしても、そのようなものは、本件訂正特許請求の範囲の「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満」という発明特定事項の条件を満たさない以上、本件訂正後の発明に含まれないものといえるから、本件訂正後の発明がそのような発明を含むことを根拠にして本件訂正特許請求の範囲が新規事項を含むとする主張2は妥当なものとは認められない。

[主張3について]
本件特許明細書の実施例(段落【0034】の表2)のデータに合理性に欠けるものがあるとの請求人の主張は、斯かるデータの適正な数値を客観的に示す等して行ったものではなく、疑いがあるとの域を脱するのに十分なものとはいえない。また、仮に、実施例のデータのうちにそのようなものがあったとしても、「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満」であるか否かをポットライフの可否の判定基準として設定することは本件特許明細書に明確に記載されている(段落【0038】)ことを考慮すると、「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満」との訂正事項は訂正の根拠のないものとはいえず、主張3は妥当なものとは認められない。

3.まとめ
以上のとおりであって、請求人が平成26年1月24日付けでした訂正請求に係る訂正事項は、いずれも、第134条の2第1項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第5乃至7項の規定に違反しないものであるから、当該訂正請求に係る訂正を認める。

第3 本件特許に係る発明
前記「第2」に記載したとおり、請求人が平成26年1月24日付けでした訂正請求は適法なものであるから、本件特許に係る発明は、本件訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次のとおりのものである(以下、これらの発明を「本件特許発明1」?「本件特許発明3」という。)。

「【請求項1】架橋剤として金属キレート化合物を添加していない、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの使用量が91.7?99.9重量%である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を主成分とし、水酸基を含有する共重合可能な単量体0.1?8重量%とカルボキシル基を含有する共重合可能な単量体0?0.3重量%からなるアクリル系共重合体(A)の固形分100重量部に対して、脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物及び/又は多官能イソシアヌレート系化合物(B)を固形分で0.5?7重量部、ケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)0.1?15重量部を配合してなり、配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満であることを特徴とする表面保護フィルム用粘着剤組成物。
【請求項2】請求項第1項に記載の粘着剤組成物を塗布してなる粘着シートを、23℃、65%RH中に7日間養生した後ステンレス板に貼り合わせたときの粘着力が0.05?0.5N/25mm以内であり、23℃、65%RH中に7日間養生後の粘着力に対する同条件下3日間養生後の粘着力の割合が1.3以下であり、23℃、65%RH中に7日養生後の粘着力に対する同条件下5時間養生後の粘着力の割合が1.5?4であることを特徴とする表面保護フィルム用粘着剤組成物。
【請求項3】請求項第1項ないし第2項の何れかに記載の粘着剤組成物をプラスチックフィルムに塗布してなることを特徴とするプラスチック製品や金属製品の保護に用いる表面保護フィルム。」

第4 請求人の主張する無効理由の概要、及び、証拠方法
1.無効理由の概要
請求人は、平成25年 10月31日付け審判請求書の請求の趣旨の欄を「『特許第4623485号の請求項1乃至3に係る特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。』との審決を求める。」とし、概略以下の無効理由1?5を主張した。

(1)無効理由1
本件特許発明1乃至3は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

(2)無効理由2
本件特許発明1乃至3は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証、甲第12号証に記載された発明、及び本件特許出願前の周知技術に基いて当業者が容易に想到することができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきものである。

(3)無効理由3
本件特許発明1乃至3は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第9号証、甲第1号証、及び甲第12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に想到することができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきものである。

(4)無効理由4
本件特許発明1乃至3は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第11号証、甲第1号証、及び甲第12号証に記載された発明に基いて当業者が容易に想到することができた発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきものである。

(5)無効理由5
(無効理由5の1)
本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきものである。
(無効理由5の2)
本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきものである。

2.証拠方法
請求人は、証拠方法として甲第1乃至16号証を提出し、参考資料として参考資料A乃至Hを提出した。

[平成25年 10月31日付け審判請求書に添付]
甲第1号証:特開昭57-162770号公報
甲第2号証:山口章三郎監修「接着・粘着の事典」、初版第1刷、株式会社朝倉書店、1986年2月15日、117?119頁
甲第3号証:日本粘着テープ工業会編集「粘着ハンドブック」、第2版、日本粘着テープ工業会、1995年10月12日、19?21頁
甲第4号証:特開昭57-12087号公報
甲第5号証:特開平1-98612号公報
甲第6号証:特開平9-40927号公報
甲第7号証:特開2002-356662号公報
甲第8号証:特開2004-27308号公報
甲第9号証:特開2001-131513号公報
甲第10号証:特開平9-188855号公報
甲第11号証:特開2003-41229号公報
甲第12号証:特開2003-27019号公報
甲第13号証:特開平8-143842号公報
甲第14号証:特開平8-253750号公報
甲第15号証:山下晋三、金子東助編「架橋剤ハンドブック」、初版第1刷、株式会社大成社、昭和56年10月20日、44?47頁
甲第16号証:特開2000-290625号公報

参考資料A:デュラネート必要量の求め方(AsahiKASEI旭化成ケミカルズ)http://www.duranate.com/motomekata.html(商品名デュラネートTPA-100中のNCO基含量:23.1%を示す参考資料)

[平成26年4月30日付け弁駁書に添付]
参考資料B:大阪地方裁判所 平成17年(ワ)第2649号、平成18年7月20日判決
参考資料C:知的財産高等裁判所 平成17年(行ケ)第10042号、平成17年11月11日特別部判決

[平成26年8月5日付け口頭審理陳述要領書(請求人)に添付]
参考資料D:旭化成工業株式会社によって1994年4月に頒布されたカタログ「塗料原料」
参考資料E:山口章三郎監修「接着・粘着の事典」、初版第1刷、株式会社朝倉書店、1986年2月15日、344?349頁
参考資料F:日本粘着テープ工業会編集「粘着ハンドブック」、第2版、日本粘着テープ工業会、1995年10月12日、143?150、156?157頁
参考資料G:特開2004-59711号公報

[平成26年9月9日付け上申書(請求人)に添付]
参考資料H:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典 3 縮刷版」、共立出版株式会社、1963年9月15日縮刷版第1刷、2006年9月15日縮刷版第39刷発行、405頁(左欄「ゲル」)

(なお、以下において、「甲第1号証」?「甲第16号証」を「甲1」?「甲16」と略記する。)

第5 被請求人の主張の概要
被請求人は、平成26年1月24日付け審判事件答弁書の答弁の趣旨の欄を「本件審判の請求は、成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。請求人の平成25年10月31日付けの審判請求書に対して以下のごとく答弁する。」とし、請求人が主張する無効理由はいずれも理由がない旨の反論をした。

第6 当審の判断
当審は、上記無効理由1?5は、以下のとおり、いずれも理由がないものと判断する。

1.甲1?16の記載事項
無効理由のうち、無効理由1?4は、甲1?16のいずれかに記載された技術的事項等に基づく無効理由であることに鑑み、まず、甲1?16の記載事項を摘示する。

[甲1(特開昭57-162770号公報)]
1a:「(1)分子内にイソシアネート基と反応しうる官能基を持つたアクリル系共重合体に、多官能性イソシアネート化合物を、イソシアネート基1当量に対して0.7モル以上の割合とされた分子内にメチレン基およびその両隣りにカルボニル基を持つたケト-エノール互変異性化をおこす化合物の存在下で添加し、これを基体上に塗着したのち、加熱架橋処理することを特徴とする感圧性接着テープの製造方法。
(2)ケト-エノール互変異性化をおこす化合物が、アセチルアセトン、アセト酢酸エステルおよびマロン酸エステルのなかから選ばれたものである特許請求の範囲第(1)項記載の感圧性接着テープの製造方法。」(第1頁「2.特許請求の範囲」)

1b:「アクリル系感圧性接着テープの製造において、アクリル系共重合体を主体とした感圧性接着剤組成物中に適宜の架橋剤を添加し、これをポリエステルフィルムの如き基体上に塗着させたのち、加熱架橋処理することにより、接着剤層の凝集力を大きくすることがよく行なわれている。
上記の架橋剤の代表的なものとして知られる多官能性イソシアネート化合物は、その反応性が高いため、接着剤組成物中に添加したのち基体上に塗着させるまでの間に、アクリル系共重合体の分子内に含まれる官能基や接着剤組成物に含まれる微量水分やアルコール類の如き官能性溶剤と反応して粘度が上昇し、またゲル化することがある。

この発明者らは、上記の観点から鋭意検討した結果、多官能性イソシアネート化合物を接着剤組成物中に添加する際に特定の化合物を共存させると、イソシアネート基の常温での反応性が低下し、一方、通常の加熱架橋処理工程では充分な架橋反応性を発揮することを知り、この発明を完成するに至つた。」(第1頁右欄第2行?第3頁左上欄第17行)

1c:「このように、この発明において多官能性イソシアネート化合物とともにケト-エノール化合物を共存させると、常温状態では、たとえばつぎの化学構造式;

で示されるような中間体が形成され、その結果イソシアネート基の反応性が低下する。このため、イソシアネート基と反応しうる官能基を持つたアクリル系共重合体と混合しても、常温下では簡単に反応することがなく、また系内に存在する水分や官能性溶剤との反応も抑止され、経時的な粘度上昇やゲル化が効果的に抑えられる。
一方、加熱状態にすると、上記中間体は容易に開裂し、元の多官能性化合物が再生されるため、基体上に塗着させたのち通常の加熱架橋処理を施すことによつて充分な架橋効果を発揮させることができ、凝集力の大巾な改善と接着特性の均質化とを図ることができる。」(第2頁右上欄第8行?左下欄第9行)

1d:「このようなケト-エノール化合物は…代表的なものとしては、アセチルアセトン、…アセト酢酸エステル、…マロン酸エステルなどを挙げることができる。
ケト-エノール化合物の使用割合は、前記の効果を達成する上で非常に重要であり、イソシアネート基1当量に対して0.7モル以上の割合は必要で、…0.7モルに満たないときは、接着剤組成物の経時的な粘度上昇ないしゲル化を防止することが難しくなる。」(第2頁左下欄第10行?右下欄第3行)

1e:「多官能性イソシアネート化合物としては、従来公知のものを広く適用でき、…、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソフロンジイソシアネート、…などの脂肪族ポリイソシアネート類、あるいはこれらの重合体もしくはこれらを用いたアダクト体…などが挙げられる。
これらのイソシアネート化合物の使用割合は、アクリル系共重合体の種類とくに官能基数などによつて異なるが、一般には、アクリル系共重合体100重量部に対して1?5重量部とすればよい。
この発明に適用されるアクリル系共重合体は、分子内にイソシアネート基と反応しうる官能基を有するものであり、一般にアクリル酸ないしメタクリル酸のアルキルエステルを主成分とした主単量体と分子内にイソシアネート基と反応しうる官能基を持つた不飽和単量体とを常法に準じて共重合させることによりつくられる。

主単量体と併用される分子内にイソシアネート基と反応しうる官能基を持つた不飽和単量体としては、アクリル酸、…などのカルボキシル基を有する不飽和単量体、…2-ヒドロキシエチルメタクリレート…などの水酸基を有する不飽和単量体…などがある。…
上記の官能性不飽和単量体は、通常主単量体との合計量中0.05?20重量%、好適には2?10重量%の割合で用いられる。」(第2頁右下欄第15行?第3頁左下欄第15行)

1f:「この発明においては、上述したアクリル系共重合体を主成分としこれに通常有機溶剤やまた必要に応じて充填剤、粘着附与剤、紫外線吸収剤、軟化剤、着色剤などの公知の配合剤を配合してなる組成物に、前記の多官能性イソシアネート化合物をケト-エノール化合物とともに添加することによりアクリル系感圧性接着剤組成物を調製する。
この場合に、…、キレート化合物…などを組成物中に配合するようにしてもよい。
この組成物は短時間のうちに増粘ないしゲル化するおそれがないため、これを基体上に塗着するに当たつて作業性を損なうことがなく、この塗着ご常法に準じて一般の加熱架橋処理を行なうことにより、品質特性良好なアクリル系感圧性接着テープを得ることができる。」(第3頁左下欄第19行?右下欄第16行)

1g:「つぎに、この発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、この発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。以下において、部とあるは重量部を意味する。
実施例1
アクリル酸2-エチルヘキシル 100部
アクリル酸 7部
トルエン 250部
過酸化ベンゾイル 0.2部
上記の成分を、コンデンサー、窒素導入管、温度計、攪拌装置を取り付けた500mlの四つ口フラスコに投入し、窒素気流下で攪拌しつつ加熱した。65℃から重合し始めたが、重合発熱をフラスコ外側から冷却して70℃に維持し7時間重合反応を続けた。このようにして得られたアクリル系重合体溶液は、固形分30重量%で、20℃における粘度が310ポイズであった。
この共重合体溶液100gに、日本ポリウレタン社製のMTL(ジフェニルメタンジイソシアネートの二官能性変性体)をアセト酢酸エチルに溶解させてなる40重量%溶液2.5gを添加して、アクリル系感圧性接着剤組成物を調製した。この組成物は、これを常温で7時間放置したのちでも、20℃での粘度が500ポイズで、著るしい増粘現象は認められなかった。そのご、上記の組成物を厚さ0.025mmのポリエステルフィルムに塗着し、ついで130℃で3分間加熱架橋処理し、さらに所定巾に裁断して接着剤層の厚みが0.03mmのアクリル系感圧性接着テープを作製した。このテープの接着力および凝集力を、以下の方法で測定したところ、接着力は750g/20mm、凝集力は0.06mmであった。

実施例2
アクリル酸n-ブチル 80部
酢酸ビニル 20部
アクリル酸 8部
メタノール 58部
トルエン 50部
α・α‘-アゾビスイソブチロニトリル 0.3部
上記の成分を、実施例1と同様のフラスコに投入し、窒素気流下攪拌しながら60℃で7時間重合反応を行うことにより、固形分50重量%で、30℃での粘度800ポイズのアクリル系重合体溶液を得た。
この共重合体溶液100gに、日本ポリウレタン社製のコロネートL(トリメチロールプロパン1モルとトリレンジイソシアネート3モルとの付加反応物)をアセチルアセトンに溶解させてなる40重量%溶液3.75gを添加して、アクリル系感圧性接着剤組成物を調製した。この組成物を常温で所定時間放置したのち、厚さ0.025mmのポリエステルフィルムに塗着し、ただちに130℃で3分間加熱架橋処理し、さらに所定巾に裁断して接着剤層の厚みが0.03mmのアクリル系感圧性接着テープを作製した。


上表から明らかなように、この発明によれば、架橋剤を添加したのち長時間放置したときでも、凝集力および接着力にすぐれる品質の安定した感圧性接着テープが得られていることが判る。」(第4頁左上欄第3行?第5頁右上欄下から第7行)

[甲2(山口章三郎監修「接着・粘着の事典」、初版第1刷、株式会社朝倉書店、1986年2月15日、117?119頁)]
2a:「粘着剤は別名,感圧性接着剤(pressure-sensitive adhesive)といわれている…」(第118頁第3?4行)

2b:「したがって,粘着剤は他の接着剤にくらべ,凝集力も低く,応力緩和が速やかであり,外力に対して流れが生じやすくなければならない.このため,その挙動は粘弾性をもつものである.これらの機能と簡便性から,粘着剤の用途は大半が粘着ラベル,粘着テープ,壁紙などの加工製品であり…軽量の用途が主である.最近では,接着の簡便性と粘着剤そのものの改良や改質で工業的な用途,いわば重量の用途まで分野が広がってきている.…一般に,その特性を知る目安として「粘着三要素」が試験される.「粘着三要素」とは,粘着力,保持力,タックという特性で…これらの特性は使用目的,被着体の種類,接着時の環境や方法などにより,その適合性が要求される.」(第118頁下から第9?第119頁第6行)

[甲3(日本粘着テープ工業会編集「粘着ハンドブック」、第2版、日本粘着テープ工業会、1995年10月12日、19?21頁)]
3a:「このようなことから、英語では、粘着剤はpressure-sensitive adhesive(PSA:感圧接着剤)と表現されている。」(第21頁第16?17行)

[甲4(特開昭57-12087号公報)]
4a:「表面保護用接着フィルム又はテープとして、プラスチックフィルム表面にアクリル系共重合物を多官能性イソシアネートで架橋した接着剤層を設けてなるものが知られている。」(第1頁右欄第2?5行)

[甲5(特開平1-98612号公報)]
5a:「粘着剤用アクリル系樹脂の用途は、各種テープ、ラベル、ステッカー、シール又は金属若しくはプラスチックの表面保護フィルム等である。」(第2頁左上欄第1?3行)

[甲6(特開平9-40927号公報)]
6a:「【特許請求の範囲】
【請求項1】アクリル系共重合体(A)を含有してなるアクリル系感圧性接着剤組成物において、該アクリル系共重合体(A)が下記単量体(a)?(c)、
(a) 下記一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステル単量体であって、その単独重合体のガラス転移点が-20℃以下である(メタ)アクリル酸エステル単量体 50?99.9重量%、
H_(2)C=CR^(1)COOR^(2 ) (1)
(式中、R^(1)はH又はCH_(3)、R^(2)は炭素数2?12の直鎖もしくは分枝アルキル基を表わす。)
(b) 下記一般式(2)で示される水酸基含有単量体 0.1?15重量%、
【化1】

〔式中、R^(1)は一般式(1)で定義した通りであり、R^(3)は炭素数1?10の直鎖もしくは分枝アルキル基を表わし、R^(4)は水素又はメチル基を表わし、X^(1)は炭素数1?4の直鎖もしくは分枝アルキレン基を表わす。但しR^(3)、R^(4)及びX^(1)が有する炭素数の合計は3?11である。〕
(c) ラジカル重合性不飽和基の他に少なくとも1個の官能性基を有する単量体であって上記単量体(b)以外の単量体 0?15重量%、及び、
(d) 上記単量体(a)?(c)と共重合可能で、且つ該単量体(a)?(c)以外の共単量体 0?50重量%、
〔但し単量体(a)?(c)の合計を100重量%とする〕を共重合してなるアクリル系共重合体(A)であることを特徴とするアクリル系感圧性接着剤組成物。

【請求項4】架橋剤(B)がポリイソシアネート化合物である請求項3に記載のアクリル系感圧性接着剤組成物。
【請求項5】架橋剤(B)の含有量がアクリル系共重合体(A)中の官能基1当量に対して0.05?3当量である請求項3又は4に記載のアクリル系感圧性接着剤組成物。」

6b:「【0004】…さらに架橋剤として金属キレート化合物を用いた場合には、ポットライフは長くなるものの被着体への接着力が小さくなりがちになるという問題があった。」

6c:「【0066】実施例1
参考例1で得られたアクリル系共重合体(A)溶液250重量部(アクリル系共重合体として約100重量部)に、イソシアネート系架橋剤(B)「コロネート HX」〔ヘキサメチレンジイソシアネートの三量体からなるウレタンプレポリマー;日本ポリウレタン(株)製〕1重量部〔アクリル系共重合体(A)中の官能性基1当量に対して0.7当量〕を攪拌混合しアクリル系感圧性接着剤組成物を得た。
【0067】得られた感圧性接着剤組成物を、固形分が30重量%となるようにEAcで希釈し、前記の方法に従って感圧接着シートを作成して各種物性試験を行った。感圧性接着剤組成物のポットライフ及び感圧接着シートの各種物性試験結果を表3に示す。
【0068】実施例2
実施例1において、イソシアネート系架橋剤(B)「コロネート HX」1重量部を用いる代わりに1.4重量部〔アクリル系共重合体(A)中の官能性基1当量に対して1当量〕用いる以外は同様にして、アクリル系感圧性接着剤組成物を得、以下同様にして各種物性試験を行った。感圧性接着剤組成物のポットライフ及び感圧接着シートの各種物性試験結果を表3に示す。

【0070】
【表3】



6d:「【0072】本発明のアクリル系感圧性接着剤組成物は、上記のように構成されることにより、感圧接着性のラベル、テープ、シート等、特に金属板、アルミサッシ、プラスチック板、半導体ウェハ、ガラス等の運搬、加工、切断に際して、傷や汚染が生じるのを防止したり、破損防止のために固定保持したりするための一時的な表面保護材等の感圧性接着剤層の形成に好適に使用することのできる。」

[甲7(特開2002-356662号公報)]
7a:「【0002】
【従来の技術】再剥離性(再剥離型)粘着剤は、一般に、使用に際してシート状やテープ状などの形態で被着体の表面に貼り付け、使用目的を達成した後は、被着体から剥離除去するものであり、例えば、表面保護フィルム、塗装用マスキングテープ、剥離可能なメモ(付箋紙など)等の粘着シートにおける粘着剤として利用されている。」

[甲8(特開2004-27308号公報)]
8a:「【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は鋭意研究の結果、保護フィルム(保護シート及び保護テープを含む)をSUS430BAに貼付し、貼付前後でSUS430BAのヨウ化メチレンに対する接触角の変化を調べ、接触角変化率が特定範囲の保護フィルムを用いることによって、貼付中だけでなく剥離後の金属蒸着膜についてもその表面に薄い保護層を形成することにより表面が酸化されずに良好な状態を保持できることを見出し、本発明に至った。」

8b:「【0013】
本発明に用いられる粘着剤については、上記接触角変化率の範囲になるよう調整した、主ポリマー(バインダー)として、(メタ)アクリル系ポリマー、合成ゴム系ポリマー、天然ゴム系ポリマーなどを用いた粘着剤が用いられる。」

[甲9(特開2001-131513号公報)]
9a:「【特許請求の範囲】
【請求項1】 感圧性接着剤を構成する高分子のモノマー成分全量に対して、炭素数4?12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル50重量%以上と、活性水素原子を有する活性水素含有共重合性モノマー0.01?20重量%とをモノマー成分とするアクリル系共重合体(A)を主剤の高分子成分とし、脂肪族及び/又は脂環式ジイソシアネートと、分子中の水酸基平均官能基数が4以上で、かつ数平均分子量が300?5000である多価ヒドロキシ化合物との反応物であるポリイソシアネート(B)を硬化剤成分とする感圧性接着剤。
【請求項2】 ポリイソシアネート(B)において、分子中のイソシアネート基平均官能基数が4?20である請求項1記載の感圧性接着剤。
【請求項3】 アクリル系共重合体(A)100重量部に対して、ポリイソシアネート(B)の割合が0.2?20重量部である請求項1又は2記載の感圧性接着剤。」

9b:「【0021】また、アクリル系共重合体(A)において、活性水素含有共重合性モノマー(A2)の割合は、モノマー成分全量に対して0.01?20重量%(好ましくは0.5?10重量%)である。活性水素含有共重合性モノマー(A2)の割合がモノマー成分全量に対して0.01重量%より少ないと、架橋が不充分となり凝集力が不足し、また、モノマー成分全量に対して20重量%より多いと、粘着性が低下する。」

9c:「【0031】ポリイソシアネート(B)において、…NCO/OH(反応比)が2/1未満では、得られるポリイソシアネート(B)の粘度が高くなり、工業的な使用が制限される場合がある。」

9d:「【0033】このような感圧性接着剤において、アクリル系共重合体(A)とポリイソシアネート(B)との割合は、特に制限されず、例えば、アクリル系共重合体(A)100重量部に対して、ポリイソシアネート(B)の割合が0.2?20重量部、好ましくは0.5?15重量部である。…」

9e:「【0041】なお、本発明の粘着物は、被着体、例えば、紙、布、不織布、プラスチック製品、金属製品、ゴム製品などの被着体に貼り付けることができる。
【0042】従って、本発明の感圧性接着剤は、繰り返し接着性、光沢度復元性、弾性、剥離感、耐寒性をバランス良く高いレベルで備えているので、例えば、ラベル用途、シール用途、テープ用途、建材用途、包装材料用途、エレクトロニクス製品に対する用途などの種々の用途において、好適に用いることができ、産業上有用である。」

9f:「【0044】(アクリル系共重合体(A)の調製例1)撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、および滴下ロートを備えたセパラブルフラスコに、酢酸エチル100重量部を仕込んで撹拌し、系内を窒素ガスで置換して窒素雰囲気下にし、75℃まで昇温した。別に表1に示す成分組成(重量部)のモノマー成分及び重合開始剤(アゾビスイソブチロニトリル)の混合物を調製し、溶解させた後、当該溶解物を、撹拌しながら、滴下ロートにより2時間かけて滴下した。滴下終了後、75℃でさらに6時間撹拌し、反応を終了させたところ、アクリル系樹脂の混合物(固形分濃度:42重量%、粘度:4000cps)が得られた(以下、「アクリル系樹脂1」と称する場合がある)。なお、粘度は、BH型回転粘度計を用いて、温度20℃で、ローター:No.4、回転数:10rpmの条件により測定される。
【0045】(アクリル系共重合体(A)の調製例2?5)モノマー成分が表1に示す組成及びその割合であること以外、アクリル系共重合体(A)の調製例1と同様にして、アクリル系共重合体(A)の調製例2?5に係るアクリル系樹脂の混合物を調製した(以下、それぞれ、「アクリル系樹脂2」、「アクリル系樹脂3」、「アクリル系樹脂4」、「アクリル系樹脂5」と称する場合がある)。なお、これらの調製例2?5に係るアクリル系樹脂の混合物(アクリル系樹脂2?5)の固形分および粘度は表1に併記した。
【0046】
【表1】

【0047】(ポリイソシアネート(B)の調製例1)撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素導入管、および滴下ロートを備えたセパラブルフラスコを用い、系内を窒素ガスで置換して窒素雰囲気下にした。その後、表2に示すように、ヘキサメチレンジイソシアネート:100重量部、ポリオール成分(多価ヒドロキシ化合物)としてポリエーテルポリオール(数平均分子量:940、水酸基平均官能基数:5):23重量部を仕込み、160℃で、3時間撹拌して反応させた。反応終了後、減圧して、未反応のヘキサメチレンジイソシアネートを除去したところ、ポリイソシアネートが得られた(以下、「ポリイソシアネート1」と称する場合がある)。なお、当該ポリイソシアネート(B)の調製例1では、イソシアネート基(NCO)とヒドロキシル基(OH)との反応割合は、NCO/OH(反応比)=9.7である。

【0051】(実施例1)表3に示すように、アクリル系樹脂1:100重量部に対して、ポリイソシアネート1:3重量部を混合した。この混合した溶液をドクターブレードにてポリエチレンテレフタレートのフィルム(PETフィルム)(厚さ:25μm)の片面に塗布し、100℃で2分間乾燥させた。その後、当該PETフィルムの塗布面と、シリコンによる剥離処理を施したポリエチレンテレフタレートのフィルム(厚さ:25μm)のシリコン処理面とを貼り合わせた後、23℃で7日間エージングを行って、粘着物を作製した。
【0052】(実施例2?25)アクリル系共重合体(A)及びポリイソシアネート(B)が表3に示す組成であること以外は、実施例1と同様にして、粘着物を作製した。
【0053】
【表3】



9g:「【0071】
【発明の効果】本発明は、上記アクリル系共重合体(A)を主剤の高分子成分として含み、上記ポリイソシアネート(B)を硬化剤成分として含まれる感圧性接着剤であるので、剥離感、耐寒性、繰り返し接着性及び光沢度復元性をバランス良く高いレベルで備えている。また、優れた弾性も有している。」

[甲10(特開平9-188855号公報)]
10a:「【特許請求の範囲】
【請求項1】 支持基材上に感圧接着層の重畳層を有してなり、その重畳層が応力緩和時間の異なる感圧接着層の組合せからなると共に、最長の応力緩和時間を有する感圧接着層が最外に位置することを特徴とする接着シート。

【請求項3】 請求項1又は2において、感圧接着層の最外層とその全下層との層厚比が前者/後者に基づいて1/10?10/1であり、用途が包装用、表面保護用又はマスキング用である接着シート。」

10b:「【0001】
【発明の技術分野】本発明は、低圧力で接着でき、かつその接着状態で応力が作用しても剥がれを生じにくく、再剥離性も容易に持たせ得て包装用や物品保持用、表面保護用やマスキング用等の種々の用途に好適な接着シートに関する。」

10c:「【0021】…架橋剤の使用量は、架橋効率や感圧接着特性などの点より、アクリル系重合体100重量部あたり、20重量部以下、就中15重量部以下、特に0.01?10重量部が好ましい。」

10d:「【0057】参考例16
アクリル酸2-エチルヘキシル200部とアクリル酸ヒドロキシエチル10部を用いて参考例14に準じて得た、重量平均分子量約85万のアクリル系重合体を含有する溶液に、アクリル系重合体100部あたりトリメチロールプロパンヘキサメチレンジイソシアネート付加物3部を添加し、得られた感圧接着剤をセパレータ上に塗工し100℃で5分間乾燥処理して厚さ5μmの感圧接着層を形成した。
【0058】参考例17
トリメチロールヘキサメチレントリレンジイソシアネート付加物の添加量を0.5部としたほかは参考例16に準じて得た感圧接着剤をセパレータ上に塗工し100℃で5分間乾燥処理して厚さ20μmの感圧接着層を形成した。」

[甲11(特開2003-41229号公報)]
11a:「【特許請求の範囲】
【請求項1】下記(A)及び(B):
(A) 反応性官能基として少なくともヒドロキシル基を含有し、ガラス転移温度(Tg)-30℃以下であるアクリル系共重合体;及び
(B) 下記構造式(1)、
【化1】

(ここでR^(1)は炭素数4?8のアルキレン基を表す)を有する二官能性イソシアネート化合物(b1)を含む、2種以上の脂肪族イソシアネートに由来するポリイソシアネート化合物;を必須成分として含んでなることを特徴とする光学部材表面保護フィルム用感圧接着剤組成物。

【請求項5】アクリル系共重合体(A)が、下記単量体(a1)?(a4)、
(a1) 下記一般式(2)、
H_(2)C=CHCOOR^(1) (2)
(ここでR^(1)は、炭素数4?10の直鎖又は分枝鎖アルキル基を表す)で示され、その単独重合体のガラス転移温度(Tg)が-50℃以下であるアクリル酸エステル 50?99.5重量%、
(a2) 分子内にヒドロキシル基を有する単量体 0.5?10重量%、
(a3) 分子内にカルボキシル基を有する単量体 0?5重量%、
(a4) 上記単量体(a1)?(a3)と共重合可能で、該単量体(a1)?(a3)以外の共単量体 0?49.5重量%、
〔但し、単量体(a1)?(a4)の合計を100重量%とする〕
を共重合してなるものである請求項1に記載の感圧接着剤組成物。

【請求項9】ポリイソシアネート化合物(B)の含有量が、アクリル系共重合体(A)中の反応性官能基1当量に対して0.1?6当量の範囲である請求項1に記載の感圧接着剤組成物。
…」

11b:「【0004】このような表面保護フィルムには、光学部材の表面保護が必要とされる間は、該部材の表面上でずれを生じたり表面から脱落したりすることがない程度にその表面に接着していると共に、液晶の性能など各種の検査に支障を来さないように、高度に透明であること及びフクレ、トンネリング、ハガレなど接着剤層内及び該接着剤層と光学部材との界面に欠陥がないことが要求される。このような欠陥部分が存在するときの、その部分の光学部材の表面にはクモリや汚染が発生していることが多い。そして光学部材からの該フィルムの剥離に際しては、剥離に伴う歪みによって光学部材や液晶セルを損傷することがないように、また液晶セルから光学部材が剥離してしまうなどの不都合が生じないように、容易に剥離できることが必要である。

【0006】また従来の表面保護フィルムの多くは、上記の加工工程で光学部材の表面保護のために十分な程度の接着性を有している場合、経時的にその光学部材に対する接着力を上昇させて剥離する際の接着力が高くなり過ぎる傾向があり、剥離のための作業効率が悪く、その上剥離に伴う歪みによって光学部材や液晶セルの配向の乱れ、セルギャップの拡大などの不都合さえ生じることがある。…」

11c:「【0027】これらヒドロキシル基含有単量体(a2)の共重合量は、前記単量体成分(a1)?(a4)の合計100重量%に基づいて、一般に0.5?10重量%、好ましくは1?7重量%、さらに好ましくは2?5重量%の範囲であるのがよい。…
【0029】これらカルボキシル基含有単量体(a3)の共重合量は、前記単量体成分(a1)?(a4)の合計100重量%に基づいて、一般に0?5重量%、好ましくは0.1?3重量%、さらに好ましくは0.1?2重量%の範囲であるのがよい。単量体(a3)の共重合量が該上限値以下であれば、ポリイソシアネート化合物を配合した後の感圧接着剤組成物のポットライフが使用に耐える程度に十分であるので好ましく、一方該下限値以上であれば、再剥離時の接着力が大きくなりすぎることがなく、特に加熱処理などを行った場合でも光学部材の損傷や液晶セルからの光学部材の剥離などの不都合を生じることなく表面保護フィルムを容易に剥離することができるので好ましい。」

11d:「【0058】本発明者等は、光学部材表面保護フィルム用感圧接着剤組成物の最も重要な性質である偏光板などの光学部材からの再剥離性、特に光学部材と共にオートクレーブ処理や高温エージング処理などの熱履歴を受けた後の再剥離性の改善について研究を行ってきた。その結果、上記構造式(1)で示されるポリイソシアネート化合物を含む2種以上の脂肪族イソシアネートに由来するポリイソシアネート化合物を用いることによって、再剥離性を格段に改善しうることを見出した。

【0061】これらのポリイソシアネート化合物(B)の使用量〔ポリイソシアネート化合物(b1)及び(b2)の合計〕は、アクリル系共重合体(A)中の反応性官能基1当量に対して、一般に0.1?6当量、好ましくは0.3?4、特に好ましくは0.5?2の範囲であるのがよい。…」

11e:「【0064】かくして得られる本発明の光学部材表面保護フィルム用感圧接着剤組成物は、光学部材表面保護フィルムを作製するため、適宜の透明な表面保護ベースフィルムの少なくとも一方の面に、従来公知の方法によって感圧接着剤層を形成するために用いられる。
【0065】上記表面保護ベースフィルムとしては、特に限定されるものではないが、透視による光学部材の検査や管理の観点から、例えば、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂などからなるフィルムを挙げることができる。…」

11f:「【0067】感圧接着剤層の形成方法としては、本発明の感圧接着剤組成物を、そのまま又は、必要に応じて適宜の溶媒で希釈し、これを表面保護ベースフィルムに直接塗布・乾燥して溶媒を除去する方法を採用することができる。…」

11g:「【0090】アクリル系共重合体(A)の製造
製造例1
温度計、攪拌機、窒素導入管及び還流冷却器を備えた反応器内に、酢酸エチル32.5重量部を入れ、また別の容器に、単量体(a1)として2-エチルヘキシルアクリレート(EHA)96.5重量部、単量体(a2)として4-ヒドロキシブチルアクリレート(HBA)3.0重量部及び単量体(a3)としてアクリル酸(AA)0.5重量部を入れ混合して単量体混合物とし、その中の25重量部を反応容器中に加え、次いで該反応容器の空気を窒素ガスで置換した後、重合開始剤として1,1’-アゾビス-1-シクロヘキサンカルボニトリル(ACHN)0.0125重量部を添加して、攪拌下に窒素雰囲気中で該反応容器内の混合物温度を80℃に昇温させて初期反応を開始させた。初期反応がほぼ終了した後、残りの単量体混合物75重量部、並びに酢酸エチル25重量部及びACHN 0.2重量部の混合物をそれぞれ逐次添加しながら約1.5時間環流下で反応させ、引き続いてさらに2時間反応させた。その後、トルエン25重量部にアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.25重量部を溶解させた溶液を1時間かけて滴下し、さらに1.5時間反応させた。反応終了後、反応混合物をトルエン57.5重量部及びt-ブチルアルコール37.5重量部で希釈して、固形分35.4重量%のアクリル系共重合体溶液を得た。

【0095】製造例11?12
製造例1において、表1に示すように、単量体(a3)としてAAを0.5重量部用いる代わりに、その使用量を変え又はこれを用いず、必要に応じて単量体(a1)のEHAの使用量を変える以外は製造例1と同様にしてアクリル系共重合体溶液を得た。得られたアクリル系共重合体溶液の粘度、固形分、Tg、Mw及びMw/Mnを表1に示す。

【0098】なお表1における単量体の略号は以下のとおりである。
EHA:2-エチルヘキシルアクリレート
BA:ブチルアクリレート
MA:メチルアクリレート
StA:ステアリルアクリレート
MMA:メチルメタクリレート
VAc:酢酸ビニル
AA:アクリル酸
HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート
HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート
Surf*:反応性界面活性剤「アデカリアソープSE-10N」1-アリル-2-ノニルフェニル-3-ポリオキシエチレン(n=10)硫酸エステルアンモニウム塩〔旭電化(株)製〕
【0099】
【表1】


【0100】表面保護フィルム用感圧接着剤組成物の作製
実施例1
アクリル系共重合体(A)として、製造例1のアクリル系共重合体溶液284重量部(共重合体として約100重量部;ヒドロキシル基0.02083当量部+カルボキシル基0.00694当量部:ここで「当量部」とは「重量部」を「g」と読み替えたときの「当量」に相当する値である)を用い、これに脂肪族イソシアネートに由来するポリイソシアネート化合物(B)として二官能性イソシアネート化合物(b1)〔商品名:デスモジュールN3400;HMDIウレトジオン型、有効成分100重量%、イソシアネート(NCO)含有量21.8重量%;住化バイエルウレタン(株)製〕(N3400)を1.41重量部(NCO 0.00732当量部)、及び脂肪族ポリイソシアネート化合物(b2)〔商品名:スミジュールN3300;HMDIトリマー型、有効成分100重量%、NCO含有量21.8重量%;住化バイエルウレタン(株)製〕(N3300)を4.24重量部(NCO 0.0220当量部)添加し、十分に攪拌して光学部材表面保護フィルム用感圧接着剤組成物の溶液を得た。得られた感圧接着剤組成物は固形分約36.7重量%、粘度780mPa・sであり、アクリル系共重合体(A)の反応性官能基1当量に対して、ポリイソシアネート(B)〔(b1)+(b2)〕約1.06当量を含んでおり、二官能性イソシアネート化合物(b1)と脂肪族ポリイソシアネート化合物(b2)との当量比〔(b1)/(b2)〕は約0.333であった。

【0106】実施例9?17及び比較例3?4
実施例1において、アクリル系共重合体(A)として製造例1のアクリル系共重合体溶液を用いる代わりに、製造例2?12の何れかのアクリル系共重合体溶液を用い、製造例8を用いる場合にはアクリル系共重合体(A)の官能基1当量に対してポリイソシアネート化合物(B)の使用量を4.0当量に変え、また製造例9を用いる場合にはアクリル系共重合体(A)の官能基1当量に対してポリイソシアネート化合物(B)の使用量を0.5当量に変えることを除いて、それ以外の製造例についてはアクリル系共重合体(A)の官能基の当量に対するポリイソシアネート化合物(B)の当量を変えず、且つ二官能性イソシアネート化合物(b1)と脂肪族ポリイソシアネート化合物(b2)との当量比〔(b1)/(b2)〕を変えないようにこれらポリイソシアネート化合物の使用量を変える以外は実施例1と同様にして光学部材表面保護フィルム用感圧接着剤組成物の溶液を得た。得られた感圧接着剤組成物の配合組成、並びにそれらの固形分及び粘度などの特性値を表2に示す。
【0107】この感圧接着剤組成物を用い、前記の試験用感圧接着シートの作成方法に従って試験用表面保護フィルムを作成し、前記の各種物性試験を行った。但し、製造例11を用いた実施例16の試験用感圧接着シートについては、前記試験用感圧接着シートの作成方法のうち、23℃、65%RHで10日間養生を行う代わりに、35℃、65%RHで20日間養生を行った。得られた結果を表3に示す。

【0109】
【表2】

【0110】
【表3】



11h:「【0112】このように構成されることによって本発明の表面保護フィルムは、必須の性質である光学部材の表面保護性及び高度な透明性を有すると共に、例えば、表面にアンチグレア層など微細な凹凸を有する層を設けた偏光板などの光学部材に使用する場合でも、オートクレーブ処理やその後の作業上及び使用上の熱履歴を経た後にも、フクレ、トンネリング、ハガレなどの接着剤層欠陥の発生が見られず、さらにこのような光学部材からの該フィルムの剥離に際しても、該光学部材や液晶セルの配向の乱れや、セルギャップの拡大、液晶セルからの光学部材の剥離などの不都合を生じさせることなく容易に剥離することができる。」

[甲12(特開2003-27019号公報)]
12a:「【特許請求の範囲】
【請求項1】プラスチックフィルムの片面に帯電防止層を設け、その層の上に粘着剤層を設け、そしてその反対面に汚れ防止層を設けてなる粘着フィルムにおいて、粘着フィルムの全光線透過率が80%以上であることを特徴とする光学シート保護用粘着フィルム。

【請求項4】光学シートに対する粘着力が、1.0N/25mm以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の表面保護用粘着フィルム。
…」

12b:「【0014】本発明の粘着フィルムは、光学シートに対する粘着力が1.0N/25mm以下であることが好ましい。更に好ましくは、0.25N/25mm以下である。1.0N/25mmより粘着力が高いと、光学シートから粘着フィルムを剥離する時に、光学シートが変形する等の問題が発生し易い。…」

12c:「【0016】(実施例1)厚さ25μmの透明な二軸延伸ポリエステルフィルムのコロナ処理面に、第4級アンモニウム塩を有するカチオン性帯電防止剤(コニシ株式会社製、ボンディップPA-100主剤/ボンディップPA-100硬化剤=100部/25部)を混合溶剤(水/イソプロピルアルコール=1/1)で2.5%に希釈したものを塗工乾燥し、その反対面に架橋型シリコーン樹脂を塗工乾燥し、帯電防止層と汚れ防止層を設けた。粘着剤には、主モノマーとして、2-ヘチルヘキシルアクリレートとアクリル酸エチルを用い、官能基モノマーとしてヒドロキシエチルメタクリレートとアクリル酸を用いたアクリル共重合体を溶液重合法にて得た。この合成したアクリル共重合体の重量平均分子量は40万、分子量分散度は4.0、ガラス転移点は-37℃であった。このアクリル共重合体100重量部に対し、多官能イソシアネート架橋剤(日本ポリウレタン工業株式会社製、コロネートL)を7重量部配合した粘着剤溶液を調整し、帯電防止剤塗布面に乾燥時の粘着剤厚さが10μmになるよう塗工乾燥した。更に、シリコーン系離型剤を塗布した二軸延伸ポリエステルフィルムセパレータを粘着剤面にラミネートした。この粘着フィルムを室温で1週間放置し、十分にエージングを行った後、試験に使用した。
【0017】(実施例2)帯電防止剤を塗工乾燥したポリエステルフィルムの反対面に、長鎖アルキル基を含有する離型剤を塗工乾燥した以外は、実施例1と同様にして粘着フィルムを作製した。

【0021】上記の各実施例及び比較例の粘着フィルムの特性値を、下記の方法で測定した。それぞれの結果を表1にまとめた。

(3)光学シートに対する粘着力
トリアセチルセルロースフィルムに、粘着フィルムをゴムロールを用いて貼り付け、25℃、65%RH雰囲気下に30分間放置した後、粘着フィルムを剥離し、その剥離抵抗力を粘着力とした。なお、剥離角度は180度とし、剥離速度は0.3m/分で行い、25℃、65%RH雰囲気下で剥離した。

【0022】
【表1】



[甲13(特開平8-143842号公報)]
13a:「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、アクリル系共重合体を主成分とした再剥離型感圧接着剤と、これをシ?ト状やテ?プ状などの形態とした接着シ?ト類に関する。
【0002】
【従来の技術】再剥離型感圧接着剤は、表面保護フイルム、塗装用マスキングテ?プ、粘着メモなどに広く用いられている。…」

[甲14(特開平8-253750号公報)]
14a:「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、アクリル系共重合体を主成分とした再剥離型感圧接着剤と、これをシ?ト状やテ?プ状などの形態とした接着シ?ト類に関する。
【0002】
【従来の技術】再剥離型感圧接着剤は、表面保護フイルム、塗装用マスキングテ?プ、粘着メモなどに用いられている。…」

[甲15(山下晋三、金子東助編「架橋剤ハンドブック」、初版第1刷、株式会社大成社、昭和56年10月20日、44?47頁)]
15a:「アルコールに対しては脂肪族イソシアナートよりも芳香族イソシアナートの方が反応が早い。…」(第45頁左欄)

[甲16(特開2000-290625号公報)]
16a:「【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、電子線を照射する方法では、高分子量化に際して、架橋点を制御することが困難であり、またイソシアネ?ト基と水酸基との化学反応などを利用する方法では、架橋性官能基の導入位置をコントロ?ルしてポリマ?をできるだけ直線状に高分子量化させることが困難であり、このため、いずれの方法も、アクリル系粘着剤としての本来の粘着特性を十分に満足させることはできなかつた。しかも、イソシアネ?ト基と水酸基との化学反応などを利用する方法では、反応時間の制御、つまり、ポツトライフをコントロ?ルすることも困難であり、これが塗工作業性などを低下させる原因ともなつていた。」

2.無効理由1について
(1)本件特許発明1について
ア.甲1に記載された発明
甲1には、
「分子内にイソシアネート基と反応しうる官能基を持つたアクリル系共重合体に、多官能性イソシアネート化合物を、イソシアネート基1当量に対して0.7モル以上の割合とされた分子内にメチレン基およびその両隣りにカルボニル基を持つたケト-エノール互変異性化をおこす化合物の存在下で添加し、…加熱架橋処理する…感圧性接着テープ…」(摘示1a)、及び、その実施例(摘示1g)が記載されている。

また、甲1には、「…この発明に適用されるアクリル系共重合体は、…、一般にアクリル酸ないしメタクリル酸のアルキルエステルを主成分とした主単量体と分子内にイソシアネート基と反応しうる官能基を持つた不飽和単量体とを常法に準じて共重合させることによりつくられる。」(摘示1d)、「…イソシアネート基と反応しうる官能基を持つた不飽和単量体としては、アクリル酸、…などのカルボキシル基を有する不飽和単量体、…2-ヒドロキシエチルメタクリレート…などの水酸基を有する不飽和単量体…などがある。…」(摘示1e)との記載からみて、「分子内にイソシアネート基と反応しうる官能基を持つたアクリル系共重合体」が「アクリル酸ないしメタクリル酸のアルキルエステルを主成分とした主単量体と分子内にイソシアネート基と反応しうる官能基を持つた不飽和単量体」とから構成され(摘示1d)、「分子内にイソシアネート基と反応しうる官能基を持つた不飽和単量体」が「カルボキシル基を有する不飽和単量体、水酸基を有する不飽和単量体等」である(摘示1e) ことが記載されている。

また、甲1には、「官能性不飽和単量体は、通常主単量体との合計量中0.05?20重量%、好適には2?10重量%の割合で用いられる。」(摘示1e)との記載等からみて、分子内にイソシアネート基と反応しうる官能基を持つたアクリル系共重合体である「カルボキシル基を有する不飽和単量体、水酸基を有する不飽和単量体等」の使用量がアクリル系共重合体において「0.05?20重量%」であり、 「アクリル酸ないしメタクリル酸のアルキルエステルを主成分とした主単量体」の使用量がその残分(すなわち、99.95?80重量%)であることが記載されている。

また、甲1には、「…これらのイソシアネート化合物の使用割合は、…一般には、アクリル系共重合体100重量部に対して1?5重量部とすればよい。」(摘示1e)との記載からみて、「アクリル系共重合体100重量部に対して1?5重量部の多官能性イソシアネート系化合物を使用すること」が記載されている。

さらに、甲1には、「この発明においては、…アクリル系感圧性接着剤組成物を調製する。」(摘示1f)との記載からみて、感圧性接着テープに使用する「感圧性接着剤組成物」についての発明が記載されている。

以上の事項を、摘示1aの事項を中心にして総合すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「アクリル酸ないしメタクリル酸のアルキルエステルを主成分とした主単量体99.95?80重量%と、カルボキシル基を有する不飽和単量体、水酸基を有する不飽和単量体等の分子内にイソシアネート基と反応しうる官能基を持つた不飽和単量体0.05?20重量%とを、共重合させたアクリル系共重合体に、
前記アクリル系共重合体100重量部に対して1?5重量部の多官能性イソシアネート系化合物と、
前記イソシアネート基1当量に対して0.7モル以上の割合のケト-エノール互変異性をおこす化合物と、
を添加し、加熱架橋処理する、
感圧性接着テープに使用する感圧性接着剤組成物。」

イ.対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

甲1発明の「アクリル酸ないしメタクリル酸のアルキルエステルを主成分とした主単量体と、カルボキシル基を有する不飽和単量体、水酸基を有する不飽和単量体等の分子内にイソシアネート基と反応しうる官能基を持つた不飽和単量体とを、共重合させたアクリル系共重合体」、「ケト-エノール互変異性をおこす化合物」は、順に、本件特許発明1の「…(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を主成分とし、水酸基を含有する共重合可能な単量体…とカルボキシル基を含有する共重合可能な単量体…からなるアクリル系共重合体(A)」、「ケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)」に相当する。

甲1発明の「多官能性イソシアネート系化合物」は、摘示1e、gに記載された多官能性イソシアネート系化合物からみて、本件特許発明1の「脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物及び/又は多官能イソシアヌレート系化合物(B)」のうちの「脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物」に相当する。

甲1発明の「…を添加し、加熱架橋処理する、感圧性接着テープに使用する感圧性接着剤組成物」は、「感圧性接着剤組成物」が技術常識に照らし、「粘着剤組成物」に相当すると認められること(摘示2a、3a)、及び、本件特許明細書の記載(段落【0025】?【0042】の実施例1?6等)からみて、本件特許発明1は架橋剤を添加して熱架橋することを排除しないものと認められること、を考慮すると、本件特許発明1の「配合してなり、…粘着剤組成物。」に相当する。

以上を総合すると、両者は、
「(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を主成分とし、水酸基を含有する共重合可能な単量体とカルボキシル基を含有する共重合可能な単量体からなるアクリル系共重合体(A)に対して、脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物(B)、および、ケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)を配合してなる粘着剤組成物。」
の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1-1:粘着剤組成物の用途に関し、本件特許発明1は「表面保護フィルム用」であるのに対して、甲1発明は「感圧性接着テープ」として使用するものである点。

相違点1-2:本件特許発明1はアクリル系共重合体(A)を構成する単量体の配合量を(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を「91.7?99.9重量%」、水酸基を含有する共重合可能な単量体を「0.1?8重量%」、カルボキシル基を含有する共重合可能な単量体を「0?0.3重量%」とするのに対して、甲1発明は(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を「99.95?80重量%」、水酸基を含有する共重合可能な単量体、カルボキシル基を含有する共重合可能な単量体等の分子内にイソシアネート基と反応しうる官能基を持つた不飽和単量体を「合計で0.05?20重量%」とするものである点。

相違点1-3:本件特許発明1は脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物等(B)、及び、ケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)の配合量を「アクリル系共重合体(A)の固形分100重量部に対して、固形分で0.5?7重量部」、「アクリル系共重合体(A)の固形分100重量部に対して、0.1?15重量部」とするのに対して、甲1発明はそれらに対応する成分について、順に、「アクリル系共重合体100重量部に対して1?5重量部」、「イソシアネート基1当量に対して0.7モル以上の割合」とするものである点。

相違点1-4:本件特許発明1は「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満である」のに対して、甲1発明は斯かる事項を発明特定事項としない点。

相違点1-5:本件特許発明1は「架橋剤として金属キレート化合物を添加していない」のに対して、甲1発明は斯かる事項を発明特定事項としない点。

ウ.相違点の検討
相違点1-1について、まず検討する。
当該相違点の検討にあたって、本件特許発明1の「表面保護フィルム用」との事項が、本件特許発明1に係る粘着剤組成物において如何なる技術的意義のものであるかについて、本件訂正特許明細書の記載、周知の技術的事項等を参照して、まず検討する。

一般に、「…用」とは「…に使うためのものの意を表す」ことは周知の事項であり(例えば、「広辞苑 第五版」新村出編(岩波書店)1998年11月11日発行、第2735頁「よう【用】」の項には、「…(8)(接尾語的に)…に使うためのものの意を表す。…」と記載されている。)、「表面保護フィルム用」とは「表面保護フィルムに使うためのもの」の意味であることは明らかである。
そして、本件訂正特許明細書において、本件特許発明1に係る表面保護フィルム用粘着剤組成物について、「…プラスチック製品や金属製品の保護に適した適度な粘着力と剥離性に優れた表面保護フィルム用粘着剤組成物…に関するものである。…」(段落【0001】)と記載され、実施例にそれらの性質に関する指標として、「粘着力」、「粘着力の変化割合」、「再剥離性」等があげられていること(段落【0039】?【0042】)、及び、一般に粘着剤組成物においては、使用目的に応じて適合する性質が要求されるものであるところ(例えば、摘示2bの「…これらの特性は使用目的,被着体の種類,接着時の環境や方法などにより,その適合性が要求される.」との記載参照。)、表面保護を使用目的とするものにおいては、低粘着力で、経時的に粘着力に変化がなく、必要とされる間は接着表面でずれや脱落を生じないこと等の性質が要求されるものであり、そのような性質が適切でないものは「表面保護フィルム用」として不適切であることは、周知の技術的事項と認められること(例えば、審判請求人の提出した参考文献Eの「…したがって粘着剤は,低粘着力で,経時的に粘着力に変化がないことが必要である.…」(第344頁「2.5 表面保護シート」の項)、甲11の「このような表面保護フィルムには、光学部材の表面保護が必要とされる間は、該部材の表面上でずれを生じたり表面から脱落したりすることがない程度にその表面に接着している…ことが要求される。」(摘示11b)との記載参照。)を考慮すると、「表面保護フィルム用」の粘着剤組成物には、低粘着力、経時的に粘着力に変化がないこと 、再剥離性を有し、接着表面でずれや脱落を生じない密着性を有すること、等の性質を有するものであることが、不可欠であるものと理解される。

そして、本件訂正特許明細書の記載をみれば、本件特許発明1は、それらの性質(粘着性能)を表面保護フィルムに使用できるものとしつつ、さらに、ポットライフを長くし、加熱処理時のフクレやトンネリングの現象もないようにする(段落【0005】?【0006】等)ものであり、そのために、粘着剤組成物を構成する各種の配合成分の種類、及び、配合割合等を特定したもの(段落【0007】?【0013】等)と理解され、実施例の記載からは、斯かる粘着剤組成物を構成する各種の配合成分の種類、及び、配合割合の条件を満たすことによって、そのような性質を同時に満たす表面保護フィルム用粘着剤組成物が得られることが理解できる(例えば、段落【0035】【表3】をみると、配合成分の種類、及び、配合割合のいずれかの条件を満たさない比較例1?3のものは、粘着性能、ポットライフ等の性能のうちのいずれかが不良なものであることが確認できる。)。

そこで、相違点1-1について、改めて検討する。
甲1には、甲1発明を感圧性接着テープの用途で用いることが記載されるのみであって、表面保護フィルム用のものとして用いることは、何ら記載されていない。
そして、甲1には、甲1発明が表面保護フィルムの用途で用いるための性質(すなわち、低粘着力、経時的に粘着力に変化がないこと、再剥離性を有し、接着表面でずれや脱落を生じない密着性を有すること等の性質)を有することが記載されているものではないから、「表面保護フィルムに使うため」の性質を有するものであることが確認できるものとはいえない(なお、甲1の例えば実施例をみると、配合後7時間後の20℃での粘度ではあるが、500ポイズ(=50000mPa・s)程度の高粘度のもの等が開示されるものであり(摘示1gの実施例1)、粘性の低い低粘着力のものが開示されているとはいえない。)。
また、粘着剤組成物を構成する配合成分の種類、及び、配合割合についてみると、甲1には、各配合成分に関する説明はされている(摘示1d、e)ものの、「表面保護フィルム用」の粘着剤組成物に必要な性質を有する配合組成のものが具体的に開示乃至示唆されているものともいえない。
さらに、技術常識を考慮しても、「感圧性接着テープ」と[表面保護フィルム」とが用途として同等であるとはいえず、甲1発明の感圧性接着テープに用いられる粘着剤組成物が表面保護フィルムの用途で用いられるものであることが、当業者にとって明らかであるともいえない(後記「(3)ア.」参照。)。

そうすると、本件特許発明1は、相違点1-1に係る本件特許発明1の構成の点において、甲1発明と実質的に相違するといえる。

エ.小括
以上のとおりであって、本件特許発明1は、相違点1-1に係る構成の点で甲1発明とはいえないから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明とはいえない。

(2)本件特許発明2、3について
本件特許請求の範囲の請求項2、3は、請求項1を引用して記載したものであるから、本件特許発明2、3は、本件特許発明1に係る発明特定事項を有するものといえる。
そうすると、本件特許発明2、3と甲1発明とを対比すると、上記「(1)イ.」において、本件特許発明1と甲1発明とを対比した場合について記載した相違点1-1?1-5と同様の相違点が存在するといえる。
そして、それらの相違点のうち、相違点1-1については、上記「(1)ウ.」に、本件特許発明1について記載した理由と同様の理由により、本件特許発明2、3と甲1発明との実質的な相違点といえるから、本件特許発明2、3は、甲1に記載された発明とはいえない。

(3)請求人の主張について
ア.技術常識に関する主張について
審判請求書の、
「(ii)甲1発明のアクリル系感圧接着剤組成物…は本件特許発明1乃至3と共通する表面保護の用途を有するものであることが本件特許出願時の技術常識(以下、「第1の技術常識」という)であったことについて

上記した表中の各甲号証の記載によると、アクリル系粘着テープあるいはフィルム、あるいは感圧(性)接着テープあるいはフィルムは、ともに、物品の表面保護の用途に供することが可能であることを明らかにするものであり、また、そのことが本件特許出願時の技術常識であったことを明らかにするものである。…
よって、甲1発明の感圧性接着テープの製造方法に用いられているアクリル系感圧接着剤組成物は、アクリル系粘着剤組成物であり、このことから、甲1発明は本件特許発明1乃至3と共通する表面保護フィルム用粘着剤組成物に関するものであるといえる。」(第22頁第18行?第23頁下から第3行)、
「この甲9発明乃至甲11発明は、以下の表に示すように、アクリル系共重合体に対して脂肪族系の多官能イソシアネート系化合物を添加した表面保護フィルム用粘着剤組成物の発明である。…上記した表は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としてのアクリル酸2-エチルヘキシルを主成分とし、これに水酸基を含有する共重合可能な単量体(アクリル酸2-ヒドロキシエチル、4-ヒドロキシブチルアクリレートなど)を2?5重量%配合してアクリル系共重合体とし、そのアクリル系共重合体の固形分100重量部に脂肪族系の多官能イソシアネート系化合物を2?8重量部添加した表面保護フィルム用粘着剤組成物が甲9発明、甲10発明、及び甲11発明において共通した構成であることを示し…上記組成の表面保護フィルム用粘着剤組成物は、本件特許出願時の技術常識であったといえる。…この技術常識を「第2の技術常識」という。」(第26頁第17行?第28頁第7行)、
との記載、
及び、弁駁書の、
「したがって、「第1の技術常識」(アクリル系粘着テープあるいはフィルム、あるいは感圧(性)接着テープあるいはフィルムは、ともに、物品の表面保護の用途に供することが可能であり、そのことが本件特許出願時の技術常識であったこと:甲第4?8号証)および、「第2の技術常識」((メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としてのアクリル酸2-エチルヘキシルを主成分とし、これに水酸基を含有する共重合可能な単量体(アクリル酸2-ヒドロキシエチル、4-ヒドロキシブチルアクリレートなど)を2?5重量%配合してアクリル系共重合体(本件訂正発明1の規定に該当する)とし、そのアクリル系共重合体の固形分100重量部に脂肪族系の多官能イソシアネート系化合物を2?8重量部添加した表面保護フィルム用粘着剤組成物が多数知られており、…、該組成の表面保護フィルム用粘着剤組成物は、本件特許出願時の技術常識であったこと:甲9?11号証)を踏まえて、甲第1号証の記載をみれば、甲第1号証には、本件訂正発明が記載されているといえる…」(第5頁第3?16行)
との記載等からみて、請求人は、

・アクリル系粘着テープあるいはフィルム、あるいは感圧(性)接着テープあるいはフィルムは、物品の表面保護の用途に供することが可能であることは、本件特許出願時の技術常識であり(第1の技術常識:摘示4a、5a、6d、7a、8a?b)、
また、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としてのアクリル酸2-エチルヘキシルを主成分とし、これに水酸基を含有する共重合可能な単量体(アクリル酸2-ヒドロキシエチル、4-ヒドロキシブチルアクリレートなど)を2?5重量%配合してアクリル系共重合体とし、そのアクリル系共重合体の固形分100重量部に脂肪族系の多官能イソシアネート系化合物を2?8重量部添加した表面保護フィルム用粘着剤組成物は、本件特許出願時の技術常識であり(第2の技術常識:摘示9b、d、f、10c?d、11c、d、g)、
これらの第1、第2の技術常識等を踏まえると、甲1発明の感圧性接着テープの製造方法に用いられているアクリル系感圧接着剤組成物は、本件特許発明1乃至3と共通する表面保護フィルム用粘着剤組成物に関するものであり、甲第1号証には、本件訂正発明が記載されているといえること、
(以下、「主張ア」という。)

を主張するものと認められる。

そこで、主張アについて検討する。
感圧接着剤には様々な用途が存在し(例えば、摘示2b参照。)、それぞれの用途に応じて要求される性質があり、表面保護の用途においては、適度な接着性(低粘着力)、経時的に粘着力に変化がないこと等の性質が不可欠であること(「(1)ウ.」参照。)は、周知の技術的事項と認められる。
そして、斯かる周知の技術事項を踏まえると、アクリル系感圧接着剤組成物のうち、表面保護用の用途で用いるものには、上記のとおりの表面保護材として要求される性質(低粘着力、経時的に粘着力に変化がないこと、再剥離性を有し、接着表面でずれや脱落を生じない密着性を有すること等の性質等)を有することが不可欠であって、アクリル系感圧接着剤組成物であれば、必ずそのような性質を有し表面保護用の用途で用いることができることが当業者にとって明らかとはいえないものと認められる。
そうすると、請求人の主張する第1、第2の技術常識が存在するとしても、それらの技術常識からは、高々、アクリル系感圧接着剤組成物のうちには表面保護の用途で用いることができるものがあること、及び、表面保護フィルム用粘着剤組成物のうちには「第2の技術常識」の組成を満たすものが存在することがいえるに止まるものといわざるを得ず、甲1発明に係るアクリル系感圧接着テープ用粘着剤組成物が、表面保護フィルム用粘着剤組成物としての用途に供されるものであり、かつ、「第2の技術常識」の組成を満たすことが、それらの技術常識から、当業者にとって明らかであるとはいえない。
よって、主張アは妥当なものとはいえない。

イ.甲1発明の粘度に関する主張について
弁駁書の、
「確かに、甲第1号証の実施例1には、アクリル系共重合体溶液(20℃における粘度が310ポイズ)であり、調整後の感圧性接着剤が、「常温で7時間放置したのちでも、20℃での粘度が500ポイズで、著しい増粘現象は認められなかった。」…と記載されているが、発明の構成や課題を実施例の記載に限定して解釈することは妥当でない。
すでに述べたように、本件訂正発明と甲1発明は、架橋剤として多官能性イソシアネート化合物を用いるアクリル系感圧性接着剤(粘着剤)のポットライフを長くし作業性の良好化や、粘着剤としての性能改善のために、ケト-エノール互変異性化をおこす化合物を併用するという共通の技術課題、解決手段および効果を有するものである。

要するに本件訂正発明の粘度も甲1号証に記載された粘度も「ポットライフを長くし作業性の良好化」の効果の一例を粘度(数値)で表現したにすぎず、どの程度の粘度にするかは、アクリル系共重合体の種類(物性)や作業の目的種類によって、当業者が適宜選定するところである。」(第12頁第4?29行)
との記載等からみて、請求人は、

・本件訂正発明の粘度も甲1号証に記載された粘度も「ポットライフを長くし作業性の良好化」の効果の一例を粘度で表現したにすぎず、どの程度の粘度にするかは、アクリル系共重合体の種類(物性)や作業の目的種類によって当業者が適宜選定するものであること(以下、「主張イ」という。)、

を主張するものと認められる。

そこで、主張イについて検討する。
確かに、甲1に記載された発明が、その実施例に記載された特定の粘度のもののみに限定されるものとはいえないが、甲1には、甲1発明を表面保護フィルム用の用途で使用することが、何ら記載も示唆もされていないことを考慮すると、甲1発明に係る粘着剤組成物を表面保護フィルム用のものとして使用するのに通常要求される性質(すなわち、前記「(1)ウ.」に記載した、低粘着力、経時的に粘着力に変化がない等の性質)を有するものとすること、そして、それに適した粘度とすることは、甲1に記載された技術的事項から明らかなこととはいえないから、甲1発明において、表面保護フィルム用として用いる目的によって、当業者が粘度を適宜選定できたものとすることはできない。
よって、主張イは妥当なものとはいえない。

ウ.甲1の再剥離性に関する主張について
弁駁書の、
「しかし、甲1発明は、甲第1号証の5頁の右上欄の2行?4行に記載されているように、凝集力及び接着力にすぐれた品質を有するものである。…凝集力及び接着力においてすぐれた品質を有するものはすぐれた再剥離性を有するのである。」(第13頁第8?11行)
との記載等からみて、請求人は、

・甲1発明は、凝集力、及び、接着力にすぐれた品質を有することからみて、すぐれた再剥離性を有するものであること(以下、「主張ウ」という。)

を主張するものと認められる。

そこで、主張ウについて検討する。
一般に凝集力、接着力等の性質が粘着剤組成物の粘着性能や剥離性能に関連性を有するものであるとしても、例えば、本件訂正特許明細書に、再剥離性に関して、「…これらアクリル系粘着剤では、貼付初期と経時の粘着力の差を少なくし再剥離性を向上させ…さらに剥離後の被着体表面への汚染をなくするために…凝集力を高くするのが一般的である。」(段落【0002】)と記載されるように、本件特許発明1のような、保護フィルム用粘着剤組成物における再剥離性の向上のためには、「貼付初期と経時の粘着力の差を少なくすること」等の経時的な性質も必要であるものと理解されることを考慮すると、凝集力、及び、接着力にすぐれた品質を有することのみを根拠に、甲1発明が、保護フィルム用粘着剤組成物としての再剥離性にすぐれるものであるとはいえない。
よって、主張ウは妥当なものとはいえない。

エ.「配合後8時間後の粘度が30℃で5,000mPa・s未満」との事項に関する主張について
口頭審理陳述要領書の、
「なお、本件訂正発明では、作業性に好ましい粘度基準(ポットライフ)として、「配合後8時間後の粘度が30℃で5,000mPa・s未満」と規定したのであるが、…、そのような規定は格別の技術的意義があるものではない。しかも、同じくII.2(2)で示したように、表面保護フィルム用粘着剤組成物(アクリル系共重合体にポリイソシアネート系化合物の架橋剤を配合した組成物)として、5,000mPa・s未満程度のものは、多数知られているところであるから、該規定は当業者が適宜設定する設計事項である。」(第12頁第17?25行)
との記載等からみて、請求人は、

・本件特許発明1における表面保護フィルム用粘着剤組成物についての「配合後8時間後の粘度が30℃で5,000mPa・s未満」との規定は格別の技術的意義があるものでなく当業者が適宜設定する設計事項であること(以下、「主張エ」という。)、

を主張するものと認められる。

そこで、主張エについて検討する。
本件訂正特許明細書には、「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満」であるか否かをポットライフの良否の判定基準として設定することが明確に記載されており(段落【0038】)、その基準に沿って、保護フィルム用粘着剤組成物のポットライフを判定した実施例等において、斯かる基準を満たさないものが本件特許発明が解決しようとする課題の解決を図ることができないものであることが開示されている(段落【0034】、【0035】の表2、3の「ポットライフ」)ことを考慮すると、本件特許発明1において、表面保護フィルム用粘着剤組成物のポットライフに係る技術課題を解決する基準の条件である「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満」との条件を設定したことが、当業者が適宜設定する設計事項に過ぎないものであるとはいえない。
また、請求人は、口頭審理陳述要領書の「II.2(2)」において、甲11の【0109】【表2】の記載等を引用した主張(第10頁第24?32行の「付け加えれば、表面保護フィルム用粘着剤組成物(アクリル系共重合体にポリイソシアネート系化合物の架橋剤を配合した組成物)として、5,000mPa・s未満?それ以上の広範な粘度のものが、多数知られているところであり(甲第11号証段落【0109】の【表2】…)…」等の主張。)をしているが、甲11は掲載された粘度が配合後8時間後の30℃でのものとは確認できず、配合後8時間後の30℃での粘度がどの程度であるかを確認するに十分なものとはいえない(摘示11g)。
よって、主張エは妥当なものとはいえない。

オ.「ゲル化」に関する主張について
上申書(請求人)の、
「…すなわち、本件明細書(または本件訂正明細書)の段落【0038】には「×:ゲル化するもの、配合8時間後の粘度が、30℃で5000mPa・s以上のもの。」、段落【0013】には「粘度上昇及びゲル化を抑え」…、いずれも「ゲル化」と「粘度上昇」は並列的に区別して記載されている。甲第1号証でも…「ゲル化」と「粘度上昇」は並列的に区別して記載されている。このように、両者において、「ゲル化」は、「粘度上昇」とは区別されるものとして、同じ意味で用いられている。そして、「ゲル化」とは「(ゾルが)固化した状態(ゲル)になること」を示す当業者にとって明白な技術用語であり(必要なら参考資料H参照)、粘度とは別異の用語である。しかも、上記両明細書には「ゲル化」を特別な定義で用いるとの記載もない。
したがって、被請求人の陳述要領書での上記ゲル化に係る主張は失当である。」(第7頁第27行?第8頁第5行)
との記載等からみて、請求人は、

・本件訂正特許明細書、甲1のいずれにおいても「ゲル化」と「粘度上昇」とは区別されるものとして記載されており、「ゲル化」を特別な定義で用いるとの記載はなく、技術用語としても「ゲル化」は「粘度」と別異のものであることは明らかであるから、「ゲル化」と「粘度」とを混同して行った被請求人の陳述要領書でのゲル化に係る主張は失当であること(以下、「主張オ」という。)、

を主張するものと認められる。

そこで、主張オについて検討する。
本件訂正特許明細書の「×:ゲル化するもの、配合8時間後の粘度が、30℃で5000mPa・s以上のもの。」との記載は、その文言上の形式からみて、「ゲル化するもの」と「配合8時間後の粘度が、30℃で5000mPa・s以上のもの」とを並記した記載と理解できる。
そして、「ゲル化」の技術用語としての一般的な意味や、本件訂正特許明細書全体の開示等からみて、「ゲル化」と「配合8時間後の粘度が、30℃で5000mPa・s以上」とが、別異のものであるとすると、本件訂正特許明細書の「×:ゲル化するもの、配合8時間後の粘度が、30℃で5000mPa・s以上のもの。」との記載は、「ゲル化するもの」と「配合8時間後の粘度が、30℃で5000mPa・s以上のもの」という別異のものを、いずれもポットライフの結果が不良(×)なものとして、並記した記載と理解するのが自然である。
そうすると、本件訂正特許明細書の「×:ゲル化するもの、配合8時間後の粘度が、30℃で5000mPa・s以上のもの。」との記載は、ポットライフの結果が不良(×)であるため本件特許発明1にあたらないものを、並列して、いわば同列に記載したものと理解でき、そのように解することによって、本件訂正特許明細書の開示、「ゲル化」の技術用語としての一般的な意味と矛盾するともいえない。
よって、主張オは妥当なものとはいえない。

(4)無効理由1のまとめ
以上のとおりであって、本件特許発明1?3は、甲1に記載された発明とはいえず、特許法第29条第1項第3号に掲げた発明であることを理由に特許を受けることができないものとすることはできない。
よって、請求人の主張する無効理由1によって、本件特許発明1?3に係る特許を無効とすることはできない。

3.無効理由2について
(1)本件特許発明1について
甲1発明は、前記「2.(1)ア.」に記載したとおりのものであり、本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、前記「2.(1)イ.」に記載したとおりの一致点、及び、相違点が存在する。
相違点について再掲すると、次のとおりである。

相違点1-1:粘着剤組成物の用途に関し、本件特許発明1は「表面保護フィルム用」であるのに対して、甲1発明は「感圧性接着テープ」として使用するものである点。

相違点1-2:アクリル系共重合体(A)を構成する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、水酸基を含有する共重合可能な単量体、カルボキシル基を含有する共重合可能な単量体の配合量に関し、本件特許発明1は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体について「91.7?99.9重量%」、水酸基を含有する共重合可能な単量体について「0.1?8重量%」、カルボキシル基を含有する共重合可能な単量体について「0?0.3重量%」と特定するものであるのに対して、甲1発明は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体について「99.95?80重量%」、水酸基を含有する共重合可能な単量体、及び、カルボキシル基を含有する共重合可能な単量体について「水酸基を含有する共重合可能な単量体、カルボキシル基を含有する共重合可能な単量体等の分子内にイソシアネート基と反応しうる官能基を持つた不飽和単量体の合計で0.05?20重量%」と特定するものである点。

相違点1-3:脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物等、ケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)の配合量に関し、本件特許発明1は、脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物等について「アクリル系共重合体(A)の固形分100重量部に対して、固形分で0.5?7重量部」、ケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)について「アクリル系共重合体(A)の固形分100重量部に対して、0.1?15重量部」と特定するものであるのに対して、甲1発明は、脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物等について「アクリル系共重合体100重量部に対して1?5重量部」、ケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)について「イソシアネート基1当量に対して0.7モル以上の割合」と特定するものである点。

相違点1-4:本件特許発明1は「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満である」のに対して、甲1発明は斯かる事項を発明特定事項としない点。

相違点1-5:本件特許発明1は「架橋剤として金属キレート化合物を添加していない」のに対して、甲1発明は斯かる事項を発明特定事項としない点。

ア.相違点の検討
相違点1-1について、まず検討する。
甲1には、「2.(1)ウ.」に記載したとおり、甲1発明を表面保護フィルム用の用途で用いることは記載されていないし、表面保護フィルムの用途で用いるための性質(すなわち、前記の、低粘着力、経時的に粘着力に変化がないこと 、再剥離性を有し、接着表面でずれや脱落を生じない密着性を有すること等の性質)を有するものであることが確認できるものともいえないし、そのような性質を有する配合組成のものが具体的に開示乃至示唆されているものともいえない。
そして、それらの事項について何ら記載も示唆もされていない甲1発明を、表面保護フィルム用の用途で用いることとし、さらに、そのような用途で用いるための性質を有するものとするために、各種の配合成分の種類、及び、配合割合の組み合わせを設定するという推考の過程を経て、本件特許発明1の構成に至ることは、当業者が、本件特許発明1を知らずに、甲1発明に基づいて、容易に想到し得たこととは認められない。
また、「2.(3)ア.」に記載したように、請求人の主張する第1の技術常識からは、高々、アクリル系感圧接着剤組成物のうちには表面保護の用途で用いることができるものがあることがいえるに止まるものであって、表面保護フィルムの用途についての言及が何らなく、表面保護フィルムの用途のための性質、配合組成のものであることも確認できない甲1発明を「表面保護フィルム用」のものとすることは、斯かる技術常識を考慮しても、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そうすると、相違点1-1に係る本件特許発明1の構成の点は、甲1発明、甲1に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

また、相違点1-2、1-3について、検討する。
甲1発明において特定された(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体(A)を構成する単量体の割合、脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物等(B)、ケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)の数値範囲は、本件特許発明1の対応する成分の配合量に、重複するものが形式的には包含されるものともいえるが、本件特許発明1の配合成分及び配合割合は、本件特許発明1に係る粘着剤組成物を表面保護フィルムに使うための性質を満たし、「ポットライフが長く作業性が良好で、適度な粘着力と経時粘着力変化の少ない、剥離後の被着体表面への汚染のない、さらに加熱処理時のフクレやトンネリングの現象のない表面保護フィルム用粘着剤組成物及び該組成物を塗布した表面保護フィルムを提供する」(本件訂正特許明細書段落【0005】)という表面保護フィルム用粘着剤組成物に係る技術課題の解決を図るためのものであって、いわば、本件特許発明1に係る粘着剤組成物を表面保護フィルム用として用いることを前提とした発明特定事項といえるものである。
そして、相違点1-1について上記したとおり、甲1発明を表面保護フィルム用の用途で用いることは当業者が容易になし得たことといえない以上、粘着剤組成物を表面保護フィルムに使うための性質を満たし、表面保護フィルム用粘着剤組成物に係る技術課題の解決を図るべく、成分(A)、(B)、(C)の配合を本件特許発明1において特定された配合量の条件の組み合わせとすることは、当業者が本件特許発明1を知らずして、甲1発明、甲1に記載された技術的事項、及び、請求人の主張する第2の技術常識に基づいて、容易に想到し得たこととは認められない。
そうすると、相違点1-2、1-3に係る本件特許発明1の構成の点は、甲1発明、甲1に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

さらに、相違点1-4について、検討する。
本件特許発明1の「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満」との発明特定事項は、表面保護フィルム用粘着剤組成物に係る本件特許発明の実施例において、ポットライフに係る特性の良否の判定基準として設定されたもの(段落【0038】)であるところ、甲1には甲1発明をそのような条件を満たすものとすることは記載されていないし、当業者がそのような条件を満たすものとすることを動機付けるものと認められるような記載も認められない(なお、例えば、甲1の実施例をみると、配合後7時間後の20℃での粘度ではあるが、500ポイズ(=50000mPa・s)程度の高粘度のもの等が開示される(摘示1gの実施例1)のみである。)。
そして、本件訂正特許明細書に、「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満」であるか否かを基準にして、斯かる基準を満たさないものが本件特許発明が解決しようとする課題の解決を図ることができないものであることが実施例及び比較例として開示されていること(段落【0034】、【0035】の表2、3の「ポットライフ」)を考慮すると、「配合後8時間後の粘度が30℃で5,000mPa・s未満」との規定が、格別の技術的意義のない当業者が適宜設定する設計事項であるとも認められない。
そうすると、アクリル系粘着剤組成物等において粘度調整を行う方法は当業者にとって常套の手段であるとしても(平成26年8月5日付け口頭審理陳述要領書(請求人)の第10?11頁「(2)作業の目的種類について」等参照。)、当業者が甲1発明を「配合後8時間後の粘度が30℃で5,000mPa・s未満」となるように粘度調整すべき動機付けがあるものとは認められないから、相違点1-4に係る本件特許発明1の構成の点は、甲1発明、甲1に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

以上のとおりであって、相違点1-1?1-4に係る本件特許発明1の構成の点は、甲1発明、甲1に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

なお、審判請求書第10?11頁の無効理由2に係る「理由の要点」の記載(「(請求項1)…甲第1号証の記載および本件特許出願前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。(請求項2)…甲第1号証の記載、甲第12号証の記載、および本件特許出願前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。(請求項3)…甲第1号証の記載、甲第12号証の記載、および本件特許出願前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。」)等からみて、請求人の提出した甲12は、本件特許発明1の進歩性に係る無効理由について提出されたものではないものと認められるが、甲12についても検討すると、甲12には、表面保護用粘着フィルム(「光学シート保護用粘着フィルム」)の発明に係る技術的事項(摘示12a?12c)が開示されているところ、相違点1-2、1-3に係る粘着剤組成物の配合組成や、相違点1-4に係る配合後8時間後の30℃での粘度について開示するものではないし、相違点1-1 に係る表面保護フィルム用の用途の点についても、当業者が甲12に記載された表面保護用粘着フィルムに係る技術的事項を考慮して甲1発明を表面保護用粘着フィルムの用途で用いることの積極的な動機付けがあるものともいえないから、相違点1-1?1-4に係る本件特許発明1の構成の点は、甲12に記載された技術的事項をさらに考慮したとしても、当業者が容易になし得たものとはいえない。

よって、相違点1-1?1-4に係る本件特許発明1の構成の点は、甲1発明、甲1に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえないし、甲12に記載された技術的事項をさらに考慮したとしても、当業者が容易になし得たものとはいえない。

イ.本件特許発明1の効果について
本件特許明細書に「本発明の粘着剤組成物は適度な粘着力を有し、基材に対する密着性が良く、再剥離性を有しており、ポットライフも良好であることから、表面保護フィルム、特に偏光フィルム、プラスチック板、家電製品、自動車、電子機器などの表面保護フィルム用として有利に使用することができる。また架橋速度が早いことから、粘着剤塗工品を加熱熟成したり、室温で長期間養生する必要がなく、生産性を向上させることができる。」(段落【0008】)と記載されるように、本件特許発明1は、
・基材に対する密着性が良く、再剥離性を有しており、ポットライフも良好であることから、表面保護フィルムとして有利に使用することができる.
・架橋速度が早いことから、粘着剤塗工品を加熱熟成したり、室温で長期間養生する必要がなく、生産性を向上させることができる.
、等の効果を奏するものと認められる。
また、本件特許明細書の実施例の記載をみると、本件特許発明1の実施例品にあたるものについて「ポットライフ」、「粘着力」、「3日間養生後の粘着力と7日間養生後の粘着力の比」、「5時間養生後の粘着力と7日間養生後の粘着力の比」、「基材に対する密着性」、「再剥離性」のデータが、比較例のデータとともに開示され(本件特許明細書段落【0021】?【0042】)、本件特許発明1の実施例品(実施例1?6)は、これらの性質が良好なものであるのに対して、成分(C)を欠く比較例1、成分(A)における水酸基を含有する共重合可能な単量体を欠きカルボキシル基を含有する共重合可能な単量体の配合量が多過ぎる比較例3は本件特許発明1のポットライフに係る技術課題の解決が図れられないものであり、成分(A)における水酸基を含有する共重合可能な単量体の配合量が多過ぎる比較例2は基材に対する密着性が不良であるため、適度な粘着力と経時粘着力変化の少なさに係る技術課題の解決が図られないものであることが確認できる(本件特許明細書の【0034】、【0035】の【表2】、【表3】等参照。)から、本件特許発明1の実施例品が、
・基材に対する密着性が良く、再剥離性を有しており、ポットライフも良好であること、
・加熱熟成したり室温で長期間養生する必要がなく生産性を向上させることができること、
という効果を確認できるものといえる。

そして、甲1の「…多官能性イソシアネート化合物を接着剤組成物中に添加する際に特定の化合物を共存させると、イソシアネート基の常温での反応性が低下し、一方、通常の加熱架橋処理工程では充分な架橋反応性を発揮する…」(摘示1b)との記載等から、「基材に対する密着性が良く、再剥離性を有しており、ポットライフも良好であること」というポットライフに関する効果等は、当業者の予測し得た範囲内のものであったとしても、粘着剤組成物が「加熱熟成したり、室温で長期間養生する必要がなく、生産性を向上させることができる」という養生期間の短縮に係る効果(本件特許明細書に記載された実施例での「3日間養生後の粘着力と7日間養生後の粘着力の比」、「5時間養生後の粘着力と7日間養生後の粘着力の比」等)は、表面保護フィルム用粘着剤組成物の養生期間の短縮について何ら開示のない甲1に記載された技術的事項から当業者が予測し得たこととはいえないし、それを補い得る技術常識が存在するものとも認められない。

なお、甲12も、表面保護フィルム用粘着剤組成物の養生期間の短縮について何ら開示したものではないから、甲12に記載された技術的事項をさらに考慮したとしても、養生期間の短縮に係る効果は、当業者が予測し得たこととはいえない。

そうすると、少なくとも、表面保護フィルム用粘着剤組成物の養生期間の短縮に係る効果は、甲1に記載された技術的事項、及び、技術常識から、当業者が予測し得たものでない以上、斯かる効果を含む本件特許発明1の効果は、当業者が予測し得たものとはいえないし、甲12に記載された技術的事項をさらに考慮したとしても、当業者が予測し得たものとはいえない。

ウ.小括
以上のとおりであって、本件補正発明1は、相違点1-1?1-4に係る構成の点において、甲1発明、甲1、12に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて当業者が容易になし得たものではなく、当業者が予測し得ない効果を奏するものであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1、12号証に記載された発明、及び、本件特許出願前の周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(2)本件特許発明2、3について
本件特許請求の範囲の請求項2、3は、請求項1を引用して記載したものであるから、本件特許発明2、3は、本件特許発明1に係る発明特定事項を有するものといえる。
そうすると、本件特許発明2、3と甲1発明とを対比すると、上記(1)において、本件特許発明1と甲1発明とを対比した場合と同様の相違点1-1?1-5が存在するといえる。
そして、それらの相違点のうち、相違点1-1?1-4については、上記「(1)ア.」に本件特許発明1について記載した理由と同様の理由により、甲1発明、甲1に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものとは認められないし、甲12に記載された技術的事項をさらに考慮したとしても、当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、本件特許発明2、3は、甲1発明、甲1、12に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(3)無効理由2のまとめ
以上のとおりであって、本件特許発明1?3は、甲第1、12号証に記載された発明、及び、本件特許出願前の周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
よって、請求人の主張する無効理由2によって、本件特許発明1?3に係る特許を無効とすることはできない。

4.無効理由3について
(1)本件特許発明1について
ア.甲9に記載された発明
甲9には、「感圧性接着剤を構成する高分子のモノマー成分全量に対して、炭素数4?12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル50重量%以上と、活性水素原子を有する活性水素含有共重合性モノマー0.01?20重量%とをモノマー成分とするアクリル系共重合体(A)を主剤の高分子成分とし、脂肪族及び/又は脂環式ジイソシアネートと、分子中の水酸基平均官能基数が4以上で、かつ数平均分子量が300?5000である多価ヒドロキシ化合物との反応物であるポリイソシアネート(B)を硬化剤成分とする感圧性接着剤。」、「アクリル系共重合体(A)100重量部に対して、ポリイソシアネート(B)の割合が0.2?20重量部である」こと(以上、摘示9aの【請求項1】、【請求項3】)、及び、その実施例(摘示9f)が記載されている。
以上の事項を総合すると、甲9には、次の発明(以下、「甲9発明」という。)が記載されていると認められる。

「感圧性接着剤を構成する高分子のモノマー成分全量に対して、炭素数4?12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル50重量%以上と、活性水素原子を有する活性水素含有共重合性モノマー0.01?20重量%とをモノマー成分とするアクリル系共重合体(A)を主剤の高分子成分とし、脂肪族及び/又は脂環式ジイソシアネートと、分子中の水酸基平均官能基数が4以上で、かつ数平均分子量が300?5000である多価ヒドロキシ化合物との反応物であるポリイソシアネート(B)を含み、アクリル系共重合体(A)100重量部に対して、ポリイソシアネート(B)の割合が0.2?20重量部である、感圧性接着剤。」

イ.対比
本件特許発明1と甲9発明とを対比する。
甲9発明の「炭素数4?12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル」、「活性水素原子を有する活性水素含有共重合性モノマー」は本件特許発明1の「(メタ)アクリル酸アルキルエステル…である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体」、「活性水素原子を有する活性水素含有共重合性モノマー」にあたるから、甲9発明の「炭素数4?12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル…と、活性水素原子を有する活性水素含有共重合性モノマー…とをモノマー成分とするアクリル系共重合体(A)を主剤の高分子成分」は、本件特許発明1の「(メタ)アクリル酸アルキルエステル…である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体…、水酸基を含有する共重合可能な単量体…からなるアクリル系共重合体」に相当する。

甲9発明の「脂肪族及び/又は脂環式ジイソシアネートと、分子中の水酸基平均官能基数が4以上で、かつ数平均分子量が300?5000である多価ヒドロキシ化合物との反応物であるポリイソシアネート(B)」は、本件特許発明1の「脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物及び/又は多官能イソシアヌレート系化合物(B)」に相当する。

甲9の「感圧性接着剤」は、本件特許発明1の「粘着剤組成物」に相当する(摘示2a、3a)。

以上を総合すると、両者は、
「(メタ)アクリル酸アルキルエステル…である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体…、水酸基を含有する共重合可能な単量体…からなるアクリル系共重合体(A)…脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物及び/又は多官能イソシアヌレート系化合物(B)…を配合してなる粘着剤組成物。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点2-1:粘着剤組成物の用途に関し、本件特許発明1は「表面保護フィルム用」であるのに対して、甲9発明は「感圧性接着剤」である点。

相違点2-2:アクリル系共重合体(A)を構成する(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、水酸基を含有する共重合可能な単量体、カルボキシル基を含有する共重合可能な単量体の配合量に関し、本件特許発明1は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体について「91.7?99.9重量%…主成分とし」、水酸基を含有する共重合可能な単量体について「0.1?8重量%」、カルボキシル基を含有する共重合可能な単量体について「0?0.3重量%」と特定するものであるのに対して、甲9発明は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体にあたる単量体について「50重量%以上」、水酸基を含有する共重合可能な単量体にあたる単量体について「0.01?20重量%」と特定し、カルボキシル基を含有する共重合可能な単量体を含有することを発明特定事項としないものである点。

相違点2-3:脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物等(B)、ケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)の配合量に関し、本件特許発明1は、脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物等(B)について「アクリル系共重合体(A)の固形分100重量部に対して、固形分で0.5?7重量部」、ケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)について「アクリル系共重合体(A)の固形分100重量部に対して、0.1?15重量部」と特定するものであるのに対して、甲9発明は、脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物(B)にあたるものについて「アクリル系共重合体(A)100重量部に対して、ポリイソシアネート(B)の割合が0.2?20重量部」と特定し、ケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)を含有することを発明特定事項としないものである点。

相違点2-4:本件特許発明1は「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満である」のに対して、甲9発明は斯かる事項を発明特定事項としないものである点。

相違点2-5:本件特許発明1は「架橋剤として金属キレート化合物を添加していない」のに対して、甲9発明は斯かる事項を発明特定事項としない点。

ウ.相違点の検討
相違点2-1について、まず検討する。
甲9には、甲9発明を「繰り返し接着性、光沢度復元性、弾性、剥離感、耐寒性をバランス良く高いレベルで備えているので、例えば、ラベル用途、シール用途、テープ用途、建材用途、包装材料用途、エレクトロニクス製品に対する用途などの種々の用途において、好適に用いること」(摘示9e、g)は記載されているが、甲9発明を「表面保護フィルム用」として用いること、及び、そのための性質(すなわち、低粘着力、経時的に粘着力に変化がないこと 、再剥離性を有し、接着表面でずれや脱落を生じない密着性を有すること等の性質)のいずれをも満たすものであること、は記載されていない(前記「2.(1)ウ.」に記載したとおり、甲1にも、粘着剤組成物を「表面保護フィルム用」として用いること、及び、そのための性質のものとすることは記載されていない。)。
そして、請求人の主張する第1の技術常識を考慮しても、高々、アクリル系感圧接着剤組成物のうちには表面保護の用途で用いることができるものがあることがいえるに止まり、アクリル系感圧接着剤組成物であれば必ず表面保護用の用途で用いることができることが当業者にとって明らかとはいえないから、甲9発明を「表面保護フィルム用」とすることは、請求人の主張する第1の技術常識を考慮しても、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そうすると、相違点2-1に係る本件特許発明1の構成の点は、甲9発明、甲9、1に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

また、相違点2-2、2-3について、検討する。
甲9発明は、実施例で用いられているアクリル系共重合体(A)を構成する単量体の配合からみて、本件特許発明1のアクリル系共重合体(A)を構成する単量体の発明特定事項を満たす態様を包含するものと認められるが(成分(A)については、例えば、甲9の【表1】の調製例1のアクリル系共重合体(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体にあたるアクリル酸2-エチルヘキシル60重量部、アクリル酸ブチル20重量部と、水酸基を含有する共重合可能な単量体にあたるアクリル酸2-ヒドロキシエチル5重量部からなるものであることからみて、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体94.1重量%(=(60+20)/(60+20+5))、水酸基を含有する共重合可能な単量体5.9重量%(=5/(60+20+5))、カルボキシル基を含有する共重合可能な単量体0重量%からなるものと認められる。)、「ケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)」を含有しないものである。
そして、甲9には粘着剤組成物を構成する配合成分の種類及び配合割合についての説明は記載されている(摘示9b?d)ものの、本件特許発明1の配合成分及び配合割合は、本件特許発明1に係る粘着剤組成物を表面保護フィルムに使うための性質を満たし、表面保護フィルム用粘着剤組成物に係る技術課題の解決を図るためのものであって、いわば、本件特許発明1に係る粘着剤組成物を表面保護フィルム用として用いることを前提とした発明特定事項といえることを考慮すると、表面保護フィルムについて明記のない甲9発明において、粘着剤組成物を表面保護フィルムに使うための性質を満たし、表面保護フィルム用粘着剤組成物に係る技術課題の解決を図るべく、成分(A)、(B)、(C)の配合を本件特許発明1において特定された配合成分、配合量とすることは、当業者が本件特許発明1を知らずして、甲9発明、甲9、1に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて、容易に想到し得たこととは認められない。
そうすると、相違点2?2、2-3に係る本件特許発明1の構成の点は、甲9発明、甲9、1に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。

さらに、相違点2-4について、検討する。
本件特許発明1の「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満」との発明特定事項は、表面保護フィルム用粘着剤組成物に係る本件特許発明の実施例において、ポットライフに係る特性の良否の判定基準として設定されたもの(段落【0038】)であるところ、甲9には、アクリル系重合体の粘度についての開示はあるものの(摘示9f)、粘着剤組成物の経時的な粘度についての言及はなく、表面保護フィルム用粘着剤組成物とした例もないことを考慮すると、甲9発明に係る粘着剤組成物を、経時的な粘度に着目して、「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満」と特定することは、当業者が甲9に記載された技術的事項から容易になし得たこととはいえない。
また、甲1に記載された技術的事項や技術常識を考慮しても、甲9発明を「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満」の条件を満たすものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
そして、本件訂正特許明細書に「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満」であるか否かを基準にして、斯かる基準を満たさないものが本件特許発明が解決しようとする課題の解決を図ることができないものであることが実施例及び比較例として開示されている(段落【0034】、【0035】の表2、3の「ポットライフ」)ことを考慮すると、「配合後8時間後の粘度が30℃で5,000mPa・s未満」との特定が、格別の技術的意義のない当業者が適宜設定する設計事項であるとは認められない。

そうすると、アクリル系粘着剤組成物等において粘度調整を行う方法は当業者にとって常套の手段であるとしても(平成26年8月5日付け口頭審理陳述要領書(請求人)の第10?11頁「(2)作業の目的種類について」等参照。)、当業者が甲9発明を「配合後8時間後の粘度が30℃で5,000mPa・s未満」となるように粘度調整すべき動機付けがあるものとは認められないから、相違点2-4に係る本件特許発明1の構成の点は、甲9発明、甲9、1に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて容易になし得たものとはいえない。

以上のとおりであって、相違点2-1?2-4に係る本件特許発明1の構成の点は、甲9発明、甲9、1に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

なお、審判請求書第14頁の無効理由3に係る「理由の要点」の記載(「」(請求項1)…甲1発明を…甲9発明に適用して本件特許発明1を想到することは、当業者にとって容易である。(請求項2)…甲第9号証の記載、甲第1号証の記載、及び甲第12号証の記載に基づいて当業者が容易に発明できたものである。(請求項3)…甲第9号証の記載、甲第1号証の記載、及び甲第12号証の記載に基づいて当業者が容易に発明できたものである。」)等からみて、請求人の提出した甲12は、本件特許発明1の進歩性に係る無効理由について提出されたものではないものと認められるが、甲12についても検討すると、甲12には、表面保護用粘着フィルム(「光学シート保護用粘着フィルム」)の発明に係る技術的事項(摘示12a?12c)が開示されているところ、相違点2-2、2-3に係る粘着剤組成物の配合組成や、相違点2-4に係る配合後8時間後の30℃での粘度について開示するものではないし、相違点2-1 に係る表面保護フィルム用の用途の点についても、当業者が甲12に記載された表面保護用粘着フィルムに係る技術的事項を考慮して甲9発明を表面保護用粘着フィルムの用途で用いることの積極的な動機付けがあるものともいえないから、相違点2-1?2-4に係る本件特許発明1の構成の点は、甲12に記載された技術的事項をさらに考慮したとしても、当業者が容易になし得たものとはいえない。

よって、相違点2-1?2-4に係る本件特許発明1の構成の点は、甲9発明、甲9、1に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえないし、甲12に記載された技術的事項をさらに考慮したとしても、当業者が容易になし得たものとはいえない。

エ.本件特許発明1の効果について
前記「3.(1)イ.」に記載したとおり、本件訂正特許明細書の記載等からみて、本件特許発明1は、
・基材に対する密着性が良く、再剥離性を有しており、ポットライフも良好であることから、表面保護フィルムとして有利に使用することができる.
・架橋速度が早いことから、粘着剤塗工品を加熱熟成したり、室温で長期間養生する必要がなく、生産性を向上させることができる.
等、ポットライフのほかに、保護フィルムとしての基材に対する密着性、再剥離性、加熱熟成したり室温で長期間養生する必要がなく生産性を向上させることができること等の効果を奏するものと認められる。

そして、甲1の「…多官能性イソシアネート化合物を接着剤組成物中に添加する際に特定の化合物を共存させると、イソシアネート基の常温での反応性が低下し、一方、通常の加熱架橋処理工程では充分な架橋反応性を発揮する…」(摘示1b)との記載等から「基材に対する密着性が良く、再剥離性を有しており、ポットライフも良好であることから、表面保護フィルムとして有利に使用することができる」というポットライフに係る効果については、当業者の予測し得たものであったとしても、粘着剤組成物が「加熱熟成したり、室温で長期間養生する必要がなく、生産性を向上させることができる」という養生期間の短縮に係る効果は、表面保護フィルム用粘着剤組成物の養生期間の短縮について何ら開示のない甲9、1に記載された技術的事項から当業者が予測し得たこととはいえないし、それを補い得る技術常識が存在するものとも認められない。

なお、甲12も、表面保護フィルム用粘着剤組成物の養生期間の短縮について何ら開示したものではないから、甲12に記載された技術的事項をさらに考慮したとしても、養生期間の短縮に係る効果は、当業者が予測し得たものとはいえない。

そうすると、少なくとも、表面保護フィルム用粘着剤組成物の養生期間の短縮に係る効果は、甲9、1に記載された技術的事項、及び、技術常識から、当業者が予測し得たものでない以上、斯かる効果を含む本件特許発明1の効果は、当業者が予測し得たものとはいえないし、甲12に記載された技術的事項をさらに考慮したとしても、当業者が予測し得たものとはいえない。

オ.小括
以上のとおりであって、本件特許発明1は、相違点2-1?2-4に係る構成の点において、甲9発明、甲9、1、12に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて当業者が容易になし得たものではなく、当業者が予測し得ない効果を奏するものであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲9、1、12に記載された発明、及び、本件特許出願前の周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(2)本件特許発明2、3について
本件特許請求の範囲の請求項2、3は、請求項1を引用して記載したものであるから、本件特許発明2、3は本件特許発明1に係る発明特定事項を有するものといえる。
そうすると、本件特許発明2、3と甲9発明とを対比すると、上記(1)において、本件特許発明1と甲9発明とを対比した場合と同様の相違点2-1?2-5が存在するといえる。
そして、それらの相違点のうち、相違点2-1?2-4については、上記「(1)ウ.」に本件特許発明1について記載した理由と同様の理由により、甲9発明、甲9、1に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものとは認められないし、甲12に記載された技術的事項をさらに考慮したとしても、当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、本件特許発明2、3は、甲9発明、甲9、1、12に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(3)請求人の主張について
弁駁書の、
「しかし、本件訂正発明1の目的(課題)は、以下の表1に示すように、本件特許出願時には、当業者にとって知られていたものばかりである。

以上より、被請求人の相違点(チ)についての反論は失当である。」(第18頁第21行?第19頁第1行)
との記載等からみて、請求人は、

・本件特許発明1の技術課題はいずれも周知のものに過ぎないから、技術課題の相違を根拠として、本件特許発明1が甲9発明、甲9、1、12に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものでないとはいえないこと(以下、「主張カ」という。)、

を主張するものと認められる。

そこで、主張カについて検討する。
請求人の提示した各甲号証のうちには、本件特許発明1の技術課題に関連する事項の一部が、個々に、記載されているものがあるともいえるが、本件特許発明1は、ポットライフを長くしながら、表面保護フィルム用粘着剤組成物に通常要求される性質を有するものとし、加熱処理時のフクレやトンネリングの現象もないようにするもの(段落【0005】?【0006】)、すなわち、ポットライフ、表面保護フィルム用粘着剤組成物に通常要求される粘着性能等に関する技術課題を同時に併せて満たす表面保護用フィルムを提供するものであって、そのような技術課題を満たすものとすること(すなわち、「ポットライフが長く作業性が良好で」かつ「適度な粘着力と経時粘着力変化の少ない、剥離後の被着体表面への汚染のない、さらに加熱処理時のフクレやトンネリングの現象のない」性質を同時に併せて満たす表面保護フィルム用粘着剤組成物を提供すること。)は、請求人の提示した各甲号証等を参照しても、周知のものとはいえない。
よって、主張カは妥当なものとはいえない。

(4)無効理由3のまとめ
以上のとおりであって、本件特許発明1?3は、甲第9、1、12号証に記載された発明、及び、本件特許出願前の周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
よって、請求人の主張する無効理由3によって、本件特許発明1?3に係る特許を無効とすることはできない。

5.無効理由4について
(1)本件特許発明1について
ア.甲11に記載された発明
甲11には、「(A) 反応性官能基として少なくともヒドロキシル基を含有し、ガラス転移温度(Tg)-30℃以下であるアクリル系共重合体;及び(B) 構造式(1)を有する二官能性イソシアネート化合物(b1)を含む、2種以上の脂肪族イソシアネートに由来するポリイソシアネート化合物;を必須成分として含んでなる光学部材表面保護フィルム用感圧接着剤組成物であって、アクリル系共重合体(A)が、下記単量体(a1)?(a4)、
(a1) 一般式H_(2)C=CHCOOR^(1)(ここでR^(1)は、炭素数4?10の直鎖又は分枝鎖アルキル基を表す)で示され、その単独重合体のガラス転移温度(Tg)が-50℃以下であるアクリル酸エステル 50?99.5重量%、
(a2) 分子内にヒドロキシル基を有する単量体 0.5?10重量%、
(a3) 分子内にカルボキシル基を有する単量体 0?5重量%、
(a4) 上記単量体(a1)?(a3)と共重合可能で、該単量体(a1)?(a3)以外の共単量体 0?49.5重量%、
〔但し、単量体(a1)?(a4)の合計を100重量%とする〕
を共重合してなるものであり、
ポリイソシアネート化合物(B)の含有量が、アクリル系共重合体(A)中の反応性官能基1当量に対して0.1?6当量の範囲である光学部材表面保護フィルム用感圧接着剤組成物」(以上、摘示11aの【請求項1】、【請求項5】、【請求項9】)が記載され、その実施例として、「EHA(2-エチルヘキシルアクリレート)97.0重量%、HBA(4-ヒドロキシブチルアクリレート)3.0重量%、AA(アクリル酸)0重量%の単量体組成からなる、ガラス転移温度(Tg)-75℃のアクリル共重合体(摘示11g【表1】の製造例11)、及び、当該アクリル共重合体100重量部、2種類のポリイソシアネート化合物を合計で4.239重量部(=1.059+3.18)を含有する固形分36.6重量%、粘度790mPa.sの感圧接着剤組成物(摘示11g【表2】の実施例16)が記載されている。
以上の事項を摘示11gの実施例16を中心にして総合すると、甲11には、次の発明(以下、「甲11発明」という。)が記載されていると認められる。

「EHA(2-エチルヘキシルアクリレート)97.0重量%、HBA(4-ヒドロキシブチルアクリレート)3.0重量%、AA(アクリル酸)0重量%の単量体組成からなる、ガラス転移温度(Tg)-75℃のアクリル共重合体(A)100重量部に対して、2種類のポリイソシアネート化合物を合計で4.239重量部含有する粘度790mPa.sの光学部材表面保護フィルム用感圧接着剤組成物。」

イ.対比
本件特許発明1と甲11発明とを対比する。

甲11発明のEHA(2-エチルヘキシルアクリレート)、HBA(4-ヒドロキシブチルアクリレート)、AA(アクリル酸)は、順に本件特許発明1の「(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体」、「水酸基を含有する共重合可能な単量体」、「カルボキシル基を含有する共重合可能な単量体」に相当し、引用発明のそれらの単量体の含有量である97.0重量%、3.0重量%、0重量%は、順に本件特許発明1におけるそれらの単量体の含有量に係る「(メタ)アクリル酸アルキルエステルの使用量が91.7?99.9重量%である…を主成分とし」、「0.1?8重量%」、「0?0.3重量%」の条件を満たす。そして、本件特許発明1はアクリル共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)を発明特定事項とするものでなく、その温度がどの程度であるかを何ら問わないものであるから、引用発明のガラス転移温度(Tg)-75℃の点は本件特許発明1との相違点とならないものである。
よって、甲11発明の「EHA(2-エチルヘキシルアクリレート)97.0重量%、HBA(4-ヒドロキシブチルアクリレート)3.0重量%の単量体組成からなる、ガラス転移温度(Tg)-75℃のアクリル共重合体(A)100重量部に対して」は、本件特許発明1の「(メタ)アクリル酸アルキルエステルの使用量が91.7?99.9重量%である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を主成分とし、水酸基を含有する共重合可能な単量体0.1?8重量%とカルボキシル基を含有する共重合可能な単量体0?0.3重量%からなるアクリル系共重合体(A)の固形分100重量部に対して」に相当する。

本件特許発明1は脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物等を配合するものであることろ、多官能イソシアネート系化合物の種類や何種類のものを配合するかを何ら問わないものであるから、甲11発明の「2種類のポリイソシアネート化合物を合計で4.239重量含有する」点は、本件特許発明1の「脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物…を固形分で0.5?7重量部…配合してなり」との事項に相当する。

甲11発明の「光学部材表面保護フィルム用感圧接着剤組成物」は、本件特許発明1の「表面保護フィルム用粘着剤組成物」に相当する(摘示2a、3a)。

以上を総合すると、両者は、
「(メタ)アクリル酸アルキルエステルの使用量が97.0重量%である(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を主成分とし、水酸基を含有する共重合可能な単量体3.0重量%とカルボキシル基を含有する共重合可能な単量体0重量%からなるアクリル系共重合体(A)の固形分100重量部に対して、脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物を固形分で4.239重量部配合してなる表面保護フィルム用粘着剤組成物。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点3-1:本件特許発明1はケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)をアクリル系共重合体(A)の固形分100重量部に対して、0.1?15重量部含有するものであるのに対して、甲11発明はそのような化合物を含有することを発明特定事項としない点。

相違点3-2:本件特許発明1は「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満である」のに対して、甲11発明は「粘度790mPa.s(いずれの時点の粘度であるかは不明)」である点。

相違点3-3:本件特許発明1は「架橋剤として金属キレート化合物を添加していない」のに対して、甲11発明は斯かる事項を発明特定事項としない点。

ウ.相違点の検討
相違点3-1について、まず検討する。
甲1には、感圧性接着テープの粘着剤組成物において、ケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)を配合してポットライフを長くする技術が開示されている(摘示1c、h等)が、甲11の「…単量体(a3)の共重合量が該上限値以下であれば、ポリイソシアネート化合物を配合した後の感圧接着剤組成物のポットライフが使用に耐える程度に十分であるので好ましく…」(摘示11c)との記載等を考慮すると、甲11発明は、単量体(a3)の共重合量の特定等によってポットライフを使用に耐える程度に十分にしたものであって、ポットライフに問題があるものとはいえない。
そうすると、イソシアネート化合物についてポットライフが問題になることがあることが一般に知られていたとしても(摘示16a)、甲11発明は斯かる問題があるものとはいえない以上、当業者において、甲11発明に、敢えて、甲1に記載されたケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)を配合してポットライフを長くする必要があったとすべきものとはいえず、甲11発明について、甲1に記載された「ケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)」を配合することは、当業者が容易になし得たこととは認められない。
よって、相違点3-1に係る本件特許発明1の構成の点は、甲11発明、甲11、1に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

また、相違点3-2について、検討する。
甲11発明は、粘度790mPa.sのものであるが、当該粘度はいずれの時点の粘度であるかが不明なものであるから、配合後8時間後の粘度が30℃で、如何なる程度となるかは、不明なものである(さらに、本件特許発明1は、配合成分としてケト-エノール互変異性をおこす化合物を0.1?15重量部配合するものであるところ、甲11発明は配合成分としてケト-エノール互変異性をおこす化合物を含有しないものであることを考慮すると、仮に、甲11発明に斯かる配合成分が配合されるとした場合には、配合後8時間後の粘度が30℃で如何なる程度のものとなるかもまた不明なものといわざるを得ない。)。
なお、後記(3)に記載するとおり、請求人が提出した平成26年9月9日付け上申書の「1.甲第11号証の実施例16の粘度に関する測定条件についての説明」の箇所の記載を参照しても、当該箇所において、請求人の説明した粘度の測定条件は推察の域を出るに十分なものとはいえないから、甲11発明が「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満」のものと認めることはできない。
よって、甲11には、甲11発明を「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満」の条件を満たすものとすることは記載されていないし、当業者がそのような条件を満たすものとすることを動機付けるものと認められるような記載も認められない。

また、甲1に記載された技術的事項や請求人の主張する第1、第2の技術常識を考慮しても、甲11発明を「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満」の条件を満たすものとすることは当業者が容易になし得たこととはいえない。
そして、本件訂正特許明細書に「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満」であるか否かを基準にして、斯かる基準を満たさないものが本件特許発明が解決しようとする課題の解決を図ることができないものであることが実施例及び比較例として開示されている(段落【0034】、【0035】の表2、3の「ポットライフ」)ことを考慮すると、「配合後8時間後の粘度が30℃で5,000mPa・s未満」との規定が、格別の技術的意義のない当業者が適宜設定する設計事項であるとも認められない。

そうすると、アクリル系粘着剤組成物等において粘度調整を行う方法は当業者にとって常套の手段であるとしても(平成26年8月5日付け口頭審理陳述要領書(請求人)の第10?11頁「(2)作業の目的種類について」等参照。)、当業者が甲11発明を「配合後8時間後の粘度が30℃で5,000mPa・s未満」となるように粘度調整すべき動機付けがあるものとは認められないから、相違点3-2に係る本件特許発明1の構成の点は、甲11発明、甲11、1に記載されたの技術的事項、及び、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

以上のとおりであって、相違点3-1、3-2に係る本件特許発明1の構成の点は、甲11発明、甲11、1に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

なお、審判請求書第17頁の無効理由4に係る「理由の要点」の記載(「(請求項1)…甲1発明を…甲11発明に適用して本件特許発明1を想到することは、当業者にとって容易である。(請求項2)無効理由3を援用する…。(請求項3)…甲11発明と甲1発明及び甲12発明から本件特許発明3を想到することも…当業者にとって容易である。」)等からみて、請求人の提出した甲12は、本件特許発明1の進歩性に係る無効理由について提出されたものではないものと認められるが、甲12についても検討すると、甲12には、表面保護用粘着フィルム(「光学シート保護用粘着フィルム」)の発明に係る技術的事項(摘示12a?12c)が開示されているところ、相違点3-1に係るケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)を配合する点や、相違点3-2に係る配合後8時間後の30℃での粘度については何ら開示するものではないから、相違点3-1、3-2に係る本件特許発明1の構成の点は、甲12に記載された技術的事項をさらに考慮したとしても、当業者が容易になし得たものとはいえない。

よって、相違点3-1、3-2に係る本件特許発明1の構成の点は、甲11発明、甲11、1に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえないし、甲12に記載された技術的事項をさらに考慮したとしても、当業者が容易になし得たものとはいえない。

エ.本件特許発明1の効果について
前記「3.(1)イ.」に記載したとおり、本件訂正特許明細書の記載等からみて、本件特許発明1は、
・基材に対する密着性が良く、再剥離性を有しており、ポットライフも良好であることから、表面保護フィルムとして有利に使用することができる.
・架橋速度が早いことから、粘着剤塗工品を加熱熟成したり、室温で長期間養生する必要がなく、生産性を向上させることができる.
等、ポットライフのほかに、保護フィルムとしての基材に対する密着性、再剥離性、加熱熟成したり室温で長期間養生する必要がなく生産性を向上させることができること等の効果を奏するものと認められる。

そこで、斯かる効果について検討すると、上記ウ.に記載したとおり、当業者が、甲1に記載されたケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)を配合してポットライフを長くする技術を、甲11発明に適用する動機付けがあったものとはいえないから、「基材に対する密着性が良く、再剥離性を有しており、ポットライフも良好であることから、表面保護フィルムとして有利に使用することができる」というポットライフに係る効果は、当業者が、甲11、1に記載された技術的事項、及び、技術常識から予測し得たものとはいえない。
また、仮に、ポットライフに係る効果が、甲11発明に甲1の技術を組み合わせることによって当業者が予測し得たものであったとしても、「加熱熟成したり、室温で長期間養生する必要がなく、生産性を向上させることができる」という養生期間の短縮に係る効果は、表面保護フィルム用粘着剤組成物の養生期間の短縮について何ら開示のない甲11、1に記載された技術的事項から当業者が予測し得たこととはいえないし、それを補い得る技術常識が存在するものとも認められない。

なお、甲12も、ケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)を配合してポットライフを長くする点、及び、表面保護フィルム用粘着剤組成物の養生期間の短縮のいずれについても何ら開示するものではないから、甲12に記載された技術的事項をさらに考慮したとしても、ポットライフに係る効果、養生期間の短縮に係る効果は、当業者が、予測し得たこととはいえない。

そうすると、本件特許発明1の効果は、甲11、1に記載された技術的事項、及び、技術常識から、当業者が予測し得たものとはいえないし、甲12に記載された技術的事項をさらに考慮したとしても、当業者が予測し得たものとはいえない。

オ.小括
以上のとおりであって、本件特許発明1は、相違点3-1、3-2に係る構成の点で、甲11発明、甲11、1、12に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものではなく、当業者が予測し得ない効果を奏するものであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲11、1、12に記載された発明、及び、本件特許出願前の周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(2)本件特許発明2?3について
本件特許請求の範囲の請求項2、3は、請求項1を引用して記載したものであるから、本件特許発明2、3は本件特許発明1に係る発明特定事項を有するものといえる。
そうすると、本件特許発明2、3と甲11発明とを対比すると、上記(1)において、本件特許発明1と甲11発明とを対比した場合と同様の相違点3-1?3-3が存在するといえる。
そして、それらの相違点のうち、相違点3-1、3-2については、上記「(1)ウ.」に本件特許発明1について記載した理由と同様の理由により、甲11発明、甲11、1に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものとは認められないし、甲12に記載された技術的事項をさらに考慮したとしても、当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、本件特許発明2、3は、甲11発明、甲11、1、12に記載された技術的事項、及び、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(3) 請求人の主張について
請求人は、平成26年9月9日付け上申書において、

・甲11号証の実施例16に開示された粘度のデータは、測定条件(温度)についての具体的な記載はないが当該技術分野で通常用いられている常温(JIS規格では、20℃±15℃)で測定されたものと理解するのが技術常識であり、甲11の段落【0106】の記載からみて架橋剤等の成分配合間もない時間での値と考えられ、甲11の実施例16は「粘度が30℃で5000mPa・s未満である」との要件を満たすであろうと確信をもって推定されること(以下、「主張キ」という。)、

を主張するものと認められる。

そこで、主張キについて検討する。
主張キは、甲11号証に記載された実施例16の粘度が如何なる測定条件でのものかについて、時間に関し「架橋剤等の成分配合間もない時間」、温度に関し「常温(JIS規格では、20℃±15℃)」と考えられるとするものであるが、時間、温度が「配合8時間後」、「30℃」であることを示すものではないし、そのように考えられるとする根拠も必ずしも明らかとはいえないから、甲11号証の実施例16の粘度が、配合8時間後、30℃での測定によるものとするのに十分な根拠があるものとはいえないといわざるを得ない。
よって、請求人の斯かる主張は採用できない。

(4)無効理由4のまとめ
以上のとおりであって、本件特許発明1?3は、甲第11、1、12号証に記載された発明、及び、本件特許出願前の周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
よって、請求人の主張する無効理由4によって、本件特許発明1?3に係る特許を無効とすることはできない。

6.無効理由5について
(1)請求人の主張する無効理由5の1について
審判請求書第17?18頁の「したがって、上記したように本件特許明細書において、明確かつ十分な記載を有しているとはいえない、架橋速度を速くして養生期間を短くすることの効果を有する組成物について本件特許発明1の範囲内の各成分をどのように組み合わせればいいかは不明であり、このような本件訂正特許明細書の記載では、明細書に示される効果を奏する表面保護フィルム用粘着剤を製造することは、当業者が容易に実施しうるものではない。」、「同様に、限られた組成の実施例1?6の実測値に基づく粘着力の比等で規定し、その効果の裏付けもない本件特許発明2も、当業者が容易に実施しうるものではなく、本件特許発明1または2を用いる本件特許発明3も、当業者が容易に実施しうるものではない。」との記載等からみて、無効理由5の1は、

A.本件訂正特許明細書の記載は、架橋速度を速くして養生期間を短くすることの効果を有する組成物について本件特許発明1の範囲内の各成分をどのように組み合わせればよいのか不明であること、

B.本件特許発明2は、限られた組成の実施例1?6の実測値に基づく粘着力の比等で規定され、その効果の裏付けもないこと、

C.本件特許発明3は、以上のような本件特許発明1または2を用いるものであること、

を根拠に、本件訂正特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1?3を実施できるものでないことを主張するものと認められる。
そこで、斯かる無効理由5の1の適否について検討する。

[A.について]
本件訂正特許明細書をみると、「養生期間」、「架橋速度」について、次のとおりの記載がされている。

「【0003】
しかしながら、アクリル系粘着剤では、単に架橋度合を高くして粘着力を下げた場合、貼付後の加熱処理による被着体の表面の水分、被着体内部から発生するガスや基材フィルムの収縮などにより、フクレやトンネリングの現象が起こる。これらの現象を防ぐためには、架橋剤の使用量を少なくして架橋度合を下げて濡れ性を向上させればよいが、そのために架橋速度が遅くなるために、粘着剤塗工品を加熱熟成したり、室温で長期間養生する必要があった。…」
「【0006】
以上の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、水酸基を含むアクリル系共重合体と特定の架橋剤と特定の添加剤からなる粘着剤組成物において、ポットライフが長いにもかかわらず架橋速度が速く、養生期間を短縮できること、…を見出し本発明に至った。」

【0008】
…また架橋速度が早いことから、粘着剤塗工品を加熱熟成したり、室温で長期間養生する必要がなく、生産性を向上させることができる。」
「【0012】
本発明に使用するイソシアネート化合物(B)は…。添加量が…7重量部を超えるとポットライフが短く作業性に問題があり、また、架橋が進みすぎ粘着力が低下してフクレやトンネリング現象が発生する。」
「【0015】
従来、架橋剤を添加して架橋させた再剥離用粘着剤は実用粘着性能に達するまでの養生期間は、7?10日間程度必要であり、該期間を短縮することが必要であった。本発明の粘着剤組成物を使用することにより、養生期間が3日間という短期間で実用粘着性能に達する。そのためには、23℃、65%RH中に7日間養生後の粘着力に対する同条件下3日間養生後の粘着力の割合が1.3以下となることが必要であり、23℃、65%RH中に7日養生後の粘着力に対する同条件下5時間養生後の粘着力の割合が1.5?4の範囲に入ることが必要である。1.3を超え、また4を超える場合は3?7日間の養生が必要となり、1.5より小さい場合は基材に対する密着性が低下する。」
「【実施例1】
【0025】
実施例1は、製造例1で得られたアクリル系共重合体A-1の固形分100部に対して、架橋剤としてB-1であるヘキサメチレンジイソシアネート・イソシアヌレート型、旭化成ケミカルズ(株)製、商品名デュラネートTPA-100を2部、アセチルアセトンを2部添加して充分に混合して粘着剤組成物を得た。該粘着剤組成物を塗膜厚が25μmになるように25μm厚のポリエステルフィルムに直接塗工して、90℃で60秒乾燥させた後、粘着面にシリコーンコートされた38μm厚のポリエステルフィルムセパレーターを被覆して表面保護フィルムシートを作製した。ポットライフが良好で、23℃、65%RH中で7日間養生後の粘着力(0.3m/分の剥離速度で、JIS Z0237粘着テープ・粘着シート試験方法に準じて測定)は、0.12N/25mmで適度な強度であった。7日間養生後の粘着力に対する3日間養生後の粘着力の割合は、1.1と小さく、また7日養生後の粘着力に対する5時間養生後の粘着力の割合が3.3と1.5?4の範囲内にあることから架橋速度が速く、長い養生期間を必要としない粘着剤組成物である。さらに基材に対する密着性、再剥離性ともに良好であった。結果を表2に示す。

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】


【0037】
表2及び3中の性能試験に示す項目を下記の略号で示した。
5時間:表面保護フィルムシートを23℃、65%RH中に5時間放置。
3日間:表面保護フィルムシートを23℃、65%RH中に3日間放置。
7日間:表面保護フィルムシートを23℃、65%RH中に7日間放置。
3日間/7日間:23℃、65%RH中に7日間養生後の粘着力に対する同条件下3日間養生後の粘着力の割合。
5時間/7日間:23℃、65%RH中に7日養生後の粘着力に対する同条件下5時間養生後の粘着力の割合。

【0040】
3.粘着力の変化割合
上記粘着力から得られた強度の変化を7日間放置後の粘着強度を基準に、23℃、65%RH中に7日間養生後の粘着力に対する同条件下3日間養生後の粘着力の割合、23℃、65%RH中に7日養生後の粘着力に対する同条件下5時間養生後の粘着力の割合を求め、養生期間の長短の目安とする。」

以上の記載からみて、本件訂正特許明細書には、従来、長期間の養生が必要であったところ(段落【0003】)、本件特許発明1は、アクリル系共重合体と特定の架橋剤と特定の添加剤からなる粘着剤組成物において、架橋速度が速く、養生期間を短縮できることを見出したものであり(段落【0006】?【0008】、【0012】)、従来、7?10日間程度の養生期間が必要であったのに対して、本件特許発明1によって、それよりも短期間の養生期間で実用粘着性能に達すること(段落【0015】)、及び、その実施例(段落【0025】?【0040】)が開示されているといえる。

以上の本件訂正特許明細書の開示に照らせば、本件特許発明1における「養生期間」とは、粘着剤組成物が実用粘着性能に達するのに要する期間のことであり、本件特許発明1は養生期間を従来の7?10日間よりも短期間にできるものであることが開示されているものと合理的に理解できる。
また、粘着剤組成物を実用粘着性能に達するまで放置して架橋を進ませる必要があることは技術常識と認められるところ、本件訂正特許明細書は、そのために要する期間が短いことを「架橋速度が速い」(段落【0006】、【0008】、【0025】)と表現したものであって、本件特許発明1における「架橋速度」が速いとは、再剥離用粘着剤としての安定した粘着力を得るまでの架橋に要する期間(養生期間)が短いことを意味することも、当業者が理解し得ないものとはいえない。
そして、本件訂正特許明細書には、架橋速度が速く、養生期間を短縮できる粘着剤組成物として記載された本件特許発明1が、如何なる配合割合の条件を満たすものであるかが記載され、斯かる配合割合の条件を満たす粘着剤組成物についての実施例(段落【0025】?【0040】)も開示されている。
そうすると、本件訂正特許明細書の記載は、架橋速度を速くして養生期間を短くすることのできる表面保護フィルム用粘着剤組成物について、技術的な意味も、斯かる粘着剤組成物が満たすべき配合割合の条件も、開示されているといえるから、本件特許発明1の範囲内の各成分をどのように組み合わせればよいのかが不明なものとはいえない。

なお、請求人は、本件訂正特許明細書は、本件特許発明1の構成のどの部分が架橋速度を速くすることに寄与しているかについての理由が明確かつ十分に記載されたものでないことを主張している(審判請求書第80頁第9?12行)が、上記したとおり、本件訂正特許明細書は、架橋速度が速いことの技術的な意味も、架橋速度を速くして養生期間を短くすることのできる表面保護フィルム用粘着剤組成物が満たすべき配合割合の条件も、開示されたものといえる以上、本件特許発明1の構成のどの部分が架橋速度を速くすることに寄与するのかについての説明が明確にされていないとしても、そのことをもって、本件訂正特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者において本件許発明1?3を実施することができない程に明確でないものとまではいえない。
さらに、請求人は、平成26年9月9日付け上申書において、本件特許発明1は、ケト-エノール互変異性をおこす化合物(成分(C))以外の部分は、当業者が通常用いている周知の粘着剤組成物と同一であるから、その架橋速度は従来の粘着剤組成物の架橋速度と同等の速度と推定されることを主張している(第4頁下から第2行?第5頁第28行「(2-2)ポットライフが長いにもかかわらず架橋速度が速く、養生期間を短縮できることについて」)が、当該主張は、成分(C)を含む本件特許発明1の粘着剤組成物の架橋速度について推察の域を出るに十分なものとはいえないから、妥当なものとはいえない。
また、請求人は、本件訂正特許明細書の「1.3を超え、また4を超える場合は3?7日間の養生が必要」(段落【0015】)との記載は、本件特許発明1の範囲外の「1.3を超え、また4を超える」場合であっても、(3?7日間の下限である)3日の養生でも可という矛盾した記載であることを主張する(審判請求書第81頁第10?21行)が、当該記載は、「1.3を超え、また4を超える」場合は、3日間の養生では十分でなく、それ以上の「3?7日間の養生が必要」であることを述べたものであって、3日の養生で可であることを述べたものでないことは明らかといえるから、当該主張は妥当なものとはいえない。
よって、請求人の主張は認められない。

以上のとおりであるから、無効理由5の1のA.は、妥当なものとは認められない。

[B.について]
本件特許発明2に係る「23℃、65%RH中に7日間養生した後ステンレス板に貼り合わせたときの粘着力が0.05?0.5N/25mm以内であり、23℃、65%RH中に7日間養生後の粘着力に対する同条件下3日間養生後の粘着力の割合が1.3以下であり、23℃、65%RH中に7日養生後の粘着力に対する同条件下5時間養生後の粘着力の割合が1.5?4であること」との発明特定事項については、それらの事項の技術的意義が本件訂正特許明細書(段落【0014】?【0015】)に開示されているといえるし、斯かる条件を満たすものは粘着力、粘着力の変化割合(養生期間の長短の目安)、基材に対する密着性、再剥離性等の性質が優れたものであること(実施例1?6)、及び、斯かる条件を満たさないものは基材に対する密着性等の性質が不良なものであること(比較例2)を示す実施例、及び、比較例も開示されているといえるから、本件訂正特許明細書には、上記発明特定事項を有する本件特許発明2の効果の裏付けについての開示がされているものといえる。
また、本件特許発明2の上記発明特定事項は限られた組成の実施例1?6の実測値に基づく粘着力の比等で規定されたものであるため効果の裏付けが十分でないとの請求人の主張は、上記のとおり、本件訂正特許明細書に、実施例のものが比較例のものに比べてに優れた効果を奏することが開示され、本件特許発明2の発明特定事項の技術的意義が記載されていることを考慮すると、当業者が本件許発明2を実施することができない程に効果の裏付けが不十分なものとはいえないから認められない。
そうすると、本件特許発明2が限られた組成の実施例1?6の実測値に基づく粘着力の比等で規定された効果の裏付けがないものであるという、請求人の主張は妥当なものとはいえない。
よって、無効理由5の1のB.は、妥当なものとは認められない。

[C.について]
前記[A.について]、[B.について]に記載したとおり、無効理由5の1のA.、及び、B.は、妥当なものとは認められないから、本件訂正特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1、2を実施できる程度に明確かつ十分にされたものであって、本件特許発明1、2を引用して記載した発明である本件特許発明3についても同様に、本件訂正特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明を実施できる程度に明確かつ十分にされたものといえる。よって、無効理由5の1のC.は、妥当なものとは認められない。

[無効理由5の1のまとめ]
以上のとおりであって、本件訂正特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件許発明1?3を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであり、請求人の主張する無効理由5の1によって、本件特許発明1?3に係る特許を無効とすることはできない。

(2)請求人の主張する無効理由5の2について
審判請求書第18頁の「本件特許発明1が…広範な表面保護フィルム用粘着剤組成物すべてについて、…その効果や裏付けが記載されておらず…拡張推定できうる記載もない。」、「本件特許発明2及び3は、本件特許発明1を引用しているから、…同様である。」との記載等からみて、無効理由5の2は、

D.本件訂正特許明細書の記載は、広範な表面保護フィルム用粘着剤組成物すべてについて、その効果や裏付けが記載されておらず拡張推定できうる記載もないこと、

E.本件特許発明2、3は、以上のような本件特許発明1を用いるものであること、

を根拠にして、本件訂正特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1?3によって、本件特許発明の課題の解決が図られるものと認識できたものでないことを主張するものと認められる。
そこで、斯かる無効理由5の2の適否について検討する。

[D.について]
本件訂正特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1に係る表面保護フィルム用粘着剤組成物の実施例1?6において、本件特許発明の課題(段落【0005】)の解決がされることが開示されており、また、本件特許発明1の粘着剤組成物を構成する各配合成分の技術的意義(段落【0009】?【0013】には、各配合成分の配合量が条件を満たさない場合に如何なる問題があるか等についての事項が記載されている。)、粘着剤組成物の粘着特性や養生期間等の技術的意義(段落【0014】?【0015】)等についても開示されていることを考慮すると、本件訂正特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、技術常識に照らし、当業者が本件特許発明1によって、本件特許発明1の解決しようとする課題の解決が図られると認識し得たものといえる。

なお、請求人は、例えば、本件特許発明1の保護フィルム用粘着剤組成物を構成する各種の配合成分について配合割合の数値範囲の上限付近と下限付近とを組み合わせた場合のもの(例えば、多量の架橋剤(B)(例えば7重量部)と少量の化合物(C)(例えば0.1重量部)を組み合わせた場合のもの(弁駁書第24頁第9?20行参照。)。)等について、技術常識に照らし、当業者が本件特許発明1の解決しようとする課題の解決が図られると認識し得たものといえないことを主張するが、例えば、そのような粘着剤組成物が、本件特許発明1の「配合後8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満であること」との発明特定事項の条件を満たすもの(本件特許発明品)であるか否かは明らかでないこと等を考慮すると(化合物(C)が少量であるため、配合後8時間後30℃での粘度は相応に大きなものであり、当該発明特定事項の条件を満たさない蓋然性もあるものといえる。)、請求人の主張は推察の域を出るに十分なものとはいえない。

よって、無効理由5の2のD.は、妥当なものとは認められない。
[E.について]
前記[D.について]に記載したとおり、本件訂正特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1によって、本件特許発明1の解決しようとする課題の解決が図られると認識できるものといえるから、本件特許発明1に係る訂正特許請求の範囲の請求項1を引用して記載した請求項2、3についても同様に、本件訂正特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、技術常識に照らし、本件特許発明2、3によって、本件特許発明2、3の解決しようとする課題の解決が図られると認識できるものといえる。よって、無効理由5の2のE.は、妥当なものとは認められない。
(なお、請求人が平成26年8月5日付け口頭審理陳述要領書の第13頁第1?9行でした主張(「さらに…一切説明されていない。」)は、平成26年8月19日付け第1回口頭審理調書に記載したとおり、審判請求書に記載された無効理由のいずれにも基づかないものであるから採用できない。)

[無効理由5の2のまとめ]
以上のとおりであって、本件訂正特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、技術常識に照らし、本件特許発明1?3によって、本件特許発明1?3の解決しようとする課題の解決が図られると認識できるものといえ、請求人の主張する無効理由5の2によって、本件特許発明1?3に係る特許を無効とすることはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1?5、及び、証拠方法によって、本件請求項1?3に係る発明の特許を無効にすることはできない。
また、他に本件特許を無効とすべき理由を発見しない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
粘着剤組成物及び表面保護フィルム
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック製品や金属製品の保護に適した適度な粘着力と剥離性に優れた表面保護フィルム用粘着剤組成物及び該粘着剤組成物を塗布した表面保護フィルムに関するものである。本発明の表面保護フィルムは、特に偏光フィルム、プラスチック板、家電製品、自動車さらに電子機器などの表面保護フィルムとして使用することができる。
【背景技術】
【0002】
一般に、プラスチック板や金属製品などを保護するための表面保護フィルム用粘着剤としては、耐候性や透明性の点からアクリル系粘着剤が多く使用されている。アクリル系粘着剤としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体とカルボキシル基、水酸基、エポキシ基などの官能基を含有する単量体とを共重合させた粘着剤組成物をポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、金属キレート化合物などで架橋させたものが使用される。これらアクリル系粘着剤では、貼付初期と経時の粘着力の差を少なくし再剥離性を向上させ、被着体への濡れを抑制し、さらに剥離後の被着体表面への汚染をなくするために架橋剤を多く使用して凝集力を高く設定するのが一般的である。
【0003】
しかしながら、アクリル系粘着剤では、単に架橋度合を高くして粘着力を下げた場合、貼付後の加熱処理による被着体の表面の水分、被着体内部から発生するガスや基材フィルムの収縮などにより、フクレやトンネリングの現象が起こる。これらの現象を防ぐためには、架橋剤の使用量を少なくして架橋度合を下げて濡れ性を向上させればよいが、そのために架橋速度が遅くなるために、粘着剤塗工品を加熱熟成したり、室温で長期間養生する必要があった。このことは在庫量が増大するとか、納期が遅れるなどの問題がある。
【0004】
上記のことを解決するために多くの手段が検討されてきた。例えば特許文献1の特開2001-240830号公報ではアミド基及び水酸基を含有する官能基モノマーと(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマーとを共重合して得られるアクリル系共重合体に金属キレート化合物とイソシアネート化合物を添加してなる粘着剤組成物が開示されている。しかし金属キレート化合物を添加しているために経時で皮膜に金属粉末が析出してくる恐れがある。また、特許文献2の特開昭57-162770号公報ではイソシアネート基と反応しうる官能基を持ったアクリル系共重合体にケト-エノール互変異性をおこす化合物を添加することで経時的な粘度上昇やゲル化が抑えられると開示されているが、表面保護フィルム用に使用できる粘着性能を有していない。
【特許文献1】特開2001-240830号公報
【特許文献2】特開昭57-162770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ポットライフが長く作業性が良好で、適度な粘着力と経時粘着力変化の少ない、剥離後の被着体表面への汚染のない、さらに加熱処理時のフクレやトンネリングの現象のない表面保護フィルム用粘着剤組成物及び該組成物を塗布した表面保護フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、水酸基を含むアクリル系共重合体と特定の架橋剤と特定の添加剤からなる粘着剤組成物において、ポットライフが長いにもかかわらず架橋速度が速く、養生期間を短縮できること、また、貼付初期と経時の粘着力の差が少なくなること、さらに、剥離後の被着体表面への汚染がないことを見出し本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、架橋剤として金属キレート化合物を添加していない、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体の使用量が91.7?99.9重量%である、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を主成分とし、水酸基を含有する共重合可能な単量体0.1?8重量%とカルボキシル基を含有する共重合可能な単量体0?0.3重量%からなるアクリル系共重合体(A)の固形分100重量部に対して、脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物及び/又は多官能イソシアヌレート系化合物(B)を固形分で0.5?7重量部、ケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)0.1?15重量部を配合してなり、配合8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満である表面保護フィルム用粘着剤組成物である。該粘着剤組成物を塗布してなる粘着シートを、23℃、65%RH中に7日間養生した後ステンレス板に貼り合わせたときの粘着力が0.05?0.5N/25mm以内であり、23℃、65%RH中に7日間養生後の粘着力に対する同条件下3日間養生後の粘着力の割合が1.3以下であり、23℃、65%RH中に7日養生後の粘着力に対する同条件下5時間養生後の粘着力の割合が1.5?4である表面保護フィルム用粘着剤組成物である。また、上記の粘着剤組成物をプラスチックフィルムに塗布してなるプラスチック製品や金属製品の保護に用いる表面保護フィルムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の粘着剤組成物は適度な粘着力を有し、基材に対する密着性が良く、再剥離性を有しており、ポットライフも良好であることから、表面保護フィルム、特に偏光フィルム、プラスチック板、家電製品、自動車、電子機器などの表面保護フィルム用として有利に使用することができる。また架橋速度が早いことから、粘着剤塗工品を加熱熟成したり、室温で長期間養生する必要がなく、生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の構成を詳細に説明する。本発明に使用するアクリル系共重合体(A)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と水酸基を含有する共重合可能な単量体とカルボキシル基を含有する共重合可能な単量体とを共重合してなる共重合体である。該(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体は、アルキル基の炭素数が4以上が好ましく、より好ましくは4?14のものであり、具体的には、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基を有する炭素数4?14のアルキルアルコールと(メタ)アクリル酸のエステル化合物からなる単量体であり、これらより選ばれる少なくとも1種以上使用することができる。なお、アルキル基は直鎖でも分岐鎖でも使用することができる。該アクリル酸アクリルアルキルエステル単量体の使用量は、91.7?99.9重量%である。91.7重量%より少ない場合は、粘着力が低くなり被着体からの浮きや剥れを生じやすい。
【0010】
本発明に使用する水酸基を含有する共重合可能な単量体は、具体的には、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも1種以上使用することができる。水酸基を含有する共重合可能な単量体の使用量は、0.1?8重量%必要である。好ましくは1?6重量%、より好ましくは2?5重量%である。その使用量が0.1重量%より少ない場合、架橋剤を添加した場合に架橋効果が少なく十分な凝集力が得られず、凝集破壊により被着体へ糊の転着が起こる。その使用量が8重量%より多い場合は、粘着剤の製造時にゲル化を起こしやすい。架橋剤を添加したときには、ポットライフが短く作業性に問題があり、凝集力が高くなり過ぎ粘着力が低下して基材に対する密着性が悪くなる。
【0011】
本発明に使用するカルボキシル基を含有する共重合可能な単量体は、具体的には、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、及びマレイン酸、イタコン酸の炭素数1?12の直鎖又は分岐鎖を有するアルコールとのハーフエステルなどが挙げられ、これらの群より選ばれる少なくとも1種以上使用することができる。カルボキシル基を含有する共重合可能な単量体の使用量は、0?0.3重量%である。その使用量が0.3重量%を超える場合、ポットライフが短く作業性に問題がある。
【0012】
本発明に使用するイソシアネート化合物(B)は脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物及び/又は多官能イソシアヌレート系化合物である。具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、それらのアダクト体などのポリイソシアネート系化合物、水添キシレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネートなどが挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1種以上使用することができる。好ましくはヘキサメチレンジイソシアネート系、イソホロンジイソシアネート系化合物及びこれらから変性されたプレポリマーである。より好ましくはヘキサメチレンジイソシアネート化合物/イソホロンジイソシアネート系化合物の割合が100/0?50/50の混合物及びこれらから変性されたプレポリマーである。イソシアネート系化合物の添加量は、上記アクリル系共重合体(A)の固形分100重量部に対して固形分で0.5?7重量部である。好ましくは1?5重量部である。添加量が0.5重量部より少ないと加熱後の粘着シートの粘着力や高温多湿時の凝集力が低下し、7重量部を超えるとポットライフが短く作業性に問題があり、また、架橋が進みすぎ粘着力が低下してフクレやトンネリング現象が発生する。
【0013】
本発明に使用するケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)は、イソシアネート化合物(B)単独で使用された場合、ポットライフが短く作業性に問題があったが、添加することにより粘度上昇及びゲル化を抑え、ポットライフを長くするため必要である。具体的にはアセチルアセトン、アセト酢酸エステル及びマロン酸エステルから選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。該ケト-エノール互変異性をおこす化合物の添加量はアクリル系共重合体(A)の固形分100重量部に対して固形分で0.1?15重量部である。好ましくは0.5?10重量部であり、より好ましくは2?7重量部である。添加量が0.1?15重量部の範囲内であれば、粘度上昇及びゲル化を抑える効果が得られ、経済的にも良好な範囲である。
【0014】
本発明の粘着剤組成物は、該粘着剤をポリエステルフィルム(25μm厚)に乾燥塗膜厚が25μmになるように直接塗工して、90℃で60秒間乾燥させた後、粘着面をシリコーン処理されたポリエステルフィルムセパレター(38μm厚)で被覆して、23℃、65%RH中に7日間養生した後の試料シートをステンレス板に貼り合わせた時の0.3m/分の剥離速度における粘着力が0.05?0.5N/25mm(JIS Z0237粘着テープ・粘着シート試験方法に準じて測定)であることが必要である。粘着力が0.05N/25mmより低い場合は、被着体からの浮きや剥れを生じやすい。0.5N/25mmを超える場合は、保護フィルムを剥がす際に、被着体を汚染するなど再剥離性が悪くなる。
【0015】
従来、架橋剤を添加して架橋させた再剥離用粘着剤は実用粘着性能に達するまでの養生期間は、7?10日間程度必要であり、該期間を短縮することが必要であった。本発明の粘着剤組成物を使用することにより、養生期間が3日間という短期間で実用粘着性能に達する。そのためには、23℃、65%RH中に7日間養生後の粘着力に対する同条件下3日間養生後の粘着力の割合が1.3以下となることが必要であり、23℃、65%RH中に7日養生後の粘着力に対する同条件下5時間養生後の粘着力の割合が1.5?4の範囲に入ることが必要である。1.3を超え、また4を超える場合は3?7日間の養生が必要となり、1.5より小さい場合は基材に対する密着性が低下する。
【0016】
本発明のアクリル系共重合体(A)は、通常の塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などで製造することができるが、好ましくは溶液重合である。重合に使用する溶剤としては、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン、アセトンなどの一般的な有機溶剤である。また重合に使用する重合開始剤は、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどの過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリルなどのアゾビス化合物など油溶性の開始剤を使用することができる。
【0017】
本発明のアクリル系共重合体(A)の粘着性を調整する目的で必要に応じ種々のものを本発明の効果を損なわない範囲で配合してもよい。配合に使用される具体例としては、テルペン系、テルペン-フェノール系、クマロンインデン系、スチレン系、ロジン系、キシレン系、フェノール系、石油系などの粘着付与剤、メラミン樹脂、アミン-エポキシ樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、顔料、可塑剤、界面活性剤などが挙げられる。
【0018】
本発明の粘着剤組成物を、各種プラスチックフィルム基材に塗布して表面保護フィルムを得ることができる。基材としてはポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスチレンなどのフィルムあるいはこれらの複合フィルムなどが使用できる。粘着剤を塗布するに先立ち、密着性を向上させるためプラスチックフィルムの表面にコロナ処理などを行って使用することができる。また、シリコン剥離剤、ウレタン、シリコンアクリル樹脂などで背面処理されたプラスチックフィルムを使用することができる。さらに、塗布されたプラスチックフィルムは汎用のシリコン剥離紙、シリコン剥離フィルムなどで粘着層を保護することもできる。
【0019】
本発明の粘着組成物は、通常使用されている塗布装置、例えばロール塗布装置などで塗工することができる。塗布量は、使用される用途により異なるが塗布厚として通常5?300μmである。乾燥は通常70?150℃、30?120秒間で行われる。
【0020】
以下、本発明を実施例において詳しく説明するが、本発明はこれによって制限されるものではない。なお、実施例および比較例における部とあるのは特にことわりのない限り、重量部を示す。
【0021】
製造例1(アクリル系共重合体A-1)
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを封入後、酢酸エチル90部、ブチルアクリレート65部、2-エチルヘキシルアクリレート30部、2-ヒドロキシエチルアクリレート5部、重合開始剤アゾビスイソブチロニトリル0.2部を仕込む。攪拌しながら酢酸エチルの還流温度で7時間反応する。反応終了後、トルエン95部を添加して室温まで冷却する。粘度3,500mPa・s、固形分35%であるアクリル系共重合体A-1を得た。
【0022】
製造例2?5(アクリル系共重合体A-2?A-5)
製造例1と同様の方法にて、表1に示すように単量体の種類および量を変える以外は全く同様にアクリル系共重合体A-2?A-5を得た。
【0023】
【表1】

【0024】
表1中、単量体組成物の種類を下記の略号で示した。
BA :ブチルアクリレート
2EHA :2-エチルヘキシルアクリレート
2HEA :2-ヒドロキシエチルアクリルート
AAc :アクリル酸
【実施例1】
【0025】
実施例1は、製造例1で得られたアクリル系共重合体A-1の固形分100部に対して、架橋剤としてB-1であるヘキサメチレンジイソシアネート・イソシアヌレート型、旭化成ケミカルズ(株)製、商品名デュラネートTPA-100を2部、アセチルアセトンを2部添加して充分に混合して粘着剤組成物を得た。該粘着剤組成物を塗膜厚が25μmになるように25μm厚のポリエステルフィルムに直接塗工して、90℃で60秒乾燥させた後、粘着面にシリコーンコートされた38μm厚のポリエステルフィルムセパレーターを被覆して表面保護フィルムシートを作製した。ポットライフが良好で、23℃、65%RH中で7日間養生後の粘着力(0.3m/分の剥離速度で、JIS Z0237粘着テープ・粘着シート試験方法に準じて測定)は、0.12N/25mmで適度な強度であった。7日間養生後の粘着力に対する3日間養生後の粘着力の割合は、1.1と小さく、また7日養生後の粘着力に対する5時間養生後の粘着力の割合が3.3と1.5?4の範囲内にあることから架橋速度が速く、長い養生期間を必要としない粘着剤組成物である。さらに基材に対する密着性、再剥離性ともに良好であった。結果を表2に示す。
【実施例2】
【0026】
実施例2は、実施例1の架橋剤をB-2であるヘキサメチレンジイソシアネート・ビュレット型 旭化成ケミカルズ(株)製、商品名デュラネート21S-75Eに変更する以外は実施例1とまったく同様にして表面保護フィルムを得、実施例1と同様に試験をした。結果は、ポットライフ、7日間養生後の粘着力、7日間養生後の粘着力に対する3日間養生後の粘着力の割合、7日養生後の粘着力に対する5時間養生後の粘着力の割合、基材に対する密着性、再剥離性すべて良好であった。結果は表2に示す。
【実施例3】
【0027】
実施例3は、実施例1の架橋剤をB-3であるヘキサメチレンジイソシアネート・ビュレット型 旭化成ケミカルズ(株)製、商品名デュラネートW3330-75E及びアセチルアセトンを4部に変更する以外は、実施例1とまったく同様にして表面保護フィルムを得、実施例1と同様に試験をした。結果は、ポットライフ、7日間養生後の粘着力、7日間養生後の粘着力に対する3日間養生後の粘着力の割合、7日養生後の粘着力に対する5時間養生後の粘着力の割合、基材に対する密着性、再剥離性すべて良好であった。結果は表2に示す。
【実施例4】
【0028】
実施例4は、実施例1の架橋剤をB-4であるイソシアヌレート型(ヘキサメチレンジイソシアネート/イソホロンジイソシアネート=70/30)旭化成ケミカルズ(株)製、 商品名デュラネートT4330-75Bを4部、アセチルアセトンを6部に変更する以外は、実施例1とまったく同様にして表面保護フィルムを得、実施例1と同様に試験をした。結果は、ポットライフ、7日間養生後の粘着力、7日間養生後の粘着力に対する3日間養生後の粘着力の割合、7日養生後の粘着力に対する5時間養生後の粘着力の割合、基材に対する密着性、再剥離性すべて良好であった。結果は表2に示す。
【実施例5】
【0029】
実施例5は、製造例2で得られたアクリル系共重合体A-2を使用して、架橋剤は実施例1で使用したB-1を3部、アセチルアセトン4部使用する以外は、実施例1とまったく同様にして表面保護フィルムを得、実施例1と同様に試験をした。結果は、ポットライフ、7日間養生後の粘着力、7日間養生後の粘着力に対する3日間養生後の粘着力の割合、7日養生後の粘着力に対する5時間養生後の粘着力の割合、基材に対する密着性、再剥離性すべて良好であった。結果は表2に示す。
【実施例6】
【0030】
実施例6は、製造例3で得られたアクリル系共重合体A-3を使用して、架橋剤は実施例1で使用したB-1を5部、アセチルアセトン2部使用する以外は、実施例1とまったく同様にして表面保護フィルムを得、実施例1と同様に試験をした。結果は、ポットライフ、7日間養生後の粘着力、7日間養生後の粘着力に対する3日間養生後の粘着力の割合、7日養生後の粘着力に対する5時間養生後の粘着力の割合、基材に対する密着性、再剥離性すべて良好であった。結果は表2に示す。
【0031】
比較例1
比較例1は、実施例1からアセチルアセトンを除いた例である。アセチルアセトンを添加しないためにポットライフが短く、作業性が悪く使用するには困難であった。結果は表3に示す。
【0032】
比較例2
比較例2は、製造例4で得られた水酸基の含有量が範囲外のアクリル系共重合体A-4を使用し、架橋剤は実施例1で使用しているB-1を4部、アセチルアセトンを4部使用する以外は、実施例1とまったく同様にして表面保護フィルムを得、実施例1と同様に試験をした。結果は、特に基材への密着性が悪い。結果は表3に示す。
【0033】
比較例3
比較例3は、製造例4で得られたカルボキシル基の含有量が範囲外のアクリル系共重合体A-5を使用し、架橋剤を添加すると、架橋が早く進みポットライフが短く、作業性が悪く使用するには困難であった。結果は表3に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
表2及び3中、架橋剤の種類を下記の略号で示した。
B-1:ヘキサメチレンジイソシアネート・イソシアヌレート型、旭化成ケミカルズ(株)製、商品名デュラネートTPA-100
B-2:ヘキサメチレンジイソシアネート・ビュレット型、旭化成ケミカルズ(株)製、商品名デュラネート21S-75E
B-3:ヘキサメチレンジイソシアネート・ビュレット型、旭化成ケミカルズ(株)製、商品名デュラネートW3330-75E
B-4:イソシアヌレート型(ヘキサメチレンジイソシアネート/イソホロンジイソシアネート=70/30)旭化成ケミカルズ(株)製、商品名デュラネートT4330-75B
【0037】
表2及び3中の性能試験に示す項目を下記の略号で示した。
5時間:表面保護フィルムシートを23℃、65%RH中に5時間放置。
3日間:表面保護フィルムシートを23℃、65%RH中に3日間放置。
7日間:表面保護フィルムシートを23℃、65%RH中に7日間放置。
3日間/7日間:23℃、65%RH中に7日間養生後の粘着力に対する同条件下3日間養生後の粘着力の割合。
5時間/7日間:23℃、65%RH中に7日養生後の粘着力に対する同条件下5時間養生後の粘着力の割合。
【0038】
試験方法
1.ポットライフ
アクリル系共重合体、イソシアネート系架橋剤、ケトーエノール互変異性をおこす化合物などを配合後の粘度、液状態を測定し観察する。
○:配合8時間後の粘度が、30℃で5000mPa・s未満のもの。
×:ゲル化するもの、配合8時間後の粘度が、30℃で5000mPa・s以上のもの。
【0039】
2.粘着力
アクリル系共重合体、イソシアネート系架橋剤、アセチルアセトンを添加して撹拌機にて約10分間混合して粘着剤組成物を得、該粘着剤組成物を塗膜厚が25μmになるように25μm厚のポリエステルフィルムに直接塗工して、90℃で60秒乾燥させた後、粘着面にシリコーンコートされた38μm厚のポリエステルフィルムセパレーターを被覆して表面保護フィルムシートを作製した。該シートを23℃、65%RH中に5時間、3、7日間放置したものを、0.3m/分の剥離速度で、JIS Z0237粘着テープ・粘着シート試験方法に準じて粘着力を測定した。
【0040】
3.粘着力の変化割合
上記粘着力から得られた強度の変化を7日間放置後の粘着強度を基準に、23℃、65%RH中に7日間養生後の粘着力に対する同条件下3日間養生後の粘着力の割合、23℃、65%RH中に7日養生後の粘着力に対する同条件下5時間養生後の粘着力の割合を求め、養生期間の長短の目安とする。
【0041】
4.基材に対する密着性
23℃、65%RH中に7日間放置した表面保護フィルムシートの塗膜面を指で擦ったときの基材に対する密着性を評価した。
○:粘着剤が基材よりまったく剥がれない
×:粘着剤が基材より剥がれる
【0042】
5.再剥離性
23℃、65%RH中に7日間放置した表面保護フィルムを偏光板に貼付した後、90℃の恒温槽で24時間放置した後、23℃、65%RH中に取り出し、同雰囲気中で剥がしたときの再剥離の状態を目視で観察した。
○:糊残りや汚染性などなく良好
×:糊残りや汚染性が見られる
【産業上の利用可能性】
【0043】
偏光フィルム、プラスチック板、家電製品、自動車さらに電子機器などの表面保護フィルムとして使用することができ、必要に応じて剥離することもできる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋剤として金属キレート化合物を添加していない、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を主成分とし、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を主成分とし、水酸基を含有する共重合可能な単量体0.1?8重量%とカルボキシル基を含有する共重合可能な単量体0?0.3重量%からなるアクリル系共重合体(A)の固形分100重量部に対して、脂肪族系及び/又は脂環族系の多官能イソシアネート系化合物及び/又は多官能イソシアヌレート系化合物(B)を固形分で0.5?7重量部、ケト-エノール互変異性をおこす化合物(C)0.1?15重量部を配合してなり、配合8時間後の粘度が30℃で5000mPa・s未満であることを特徴とする表面保護フィルム用粘着剤組成物。
【請求項2】
請求項第1項に記載の粘着剤組成物を塗布してなる粘着シートを、23℃、65%RH中に7日間養生した後ステンレス板に貼り合わせたときの粘着力が0.05?0.5N/25mm以内であり、23℃、65%RH中に7日間養生後の粘着力に対する同条件下3日間養生後の粘着力の割合が1.3以下であり、23℃、65%RH中に7日養生後の粘着力に対する同条件下5時間養生後の粘着力の割合が1.5?4であることを特徴とする表面保護フィルム用粘着剤組成物。
【請求項3】
請求項第1項ないし第2項の何れかに記載の粘着剤組成物をプラスチックフィルムに塗布してなることを特徴とするプラスチック製品や金属製品の保護に用いる表面保護フィルム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2015-03-23 
結審通知日 2015-03-27 
審決日 2015-04-14 
出願番号 特願2004-56947(P2004-56947)
審決分類 P 1 113・ 113- YAA (C09J)
P 1 113・ 537- YAA (C09J)
P 1 113・ 536- YAA (C09J)
P 1 113・ 121- YAA (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 宏樹  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 菅野 芳男
日比野 隆治
登録日 2010-11-12 
登録番号 特許第4623485号(P4623485)
発明の名称 粘着剤組成物及び表面保護フィルム  
代理人 岡田 薫  
代理人 岩瀬 真治  
代理人 近藤 利英子  
代理人 近藤 利英子  
代理人 樋口 武  
代理人 菅野 重慶  
代理人 岡田 薫  
代理人 山田 龍也  
代理人 樋口 武  
代理人 菅野 重慶  
代理人 岩瀬 眞紀子  
代理人 山田 龍也  
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