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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  F28F
審判 全部無効 2項進歩性  F28F
管理番号 1301988
審判番号 無効2014-800124  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-07-23 
確定日 2015-06-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第3775302号発明「熱交換器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3775302号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3775302号(以下「本件特許」という。)は、平成14年1月23日に特許出願された特願2002-14276号に係るものであって、その請求項1?3に係る発明について、平成18年3月3日に特許権の設定登録がなされた。

これに対して、平成26年7月23日に、本件特許の請求項1?3に係る発明の特許に対して、本件無効審判請求人(以下「請求人」という。)により本件無効審判〔無効2014-800124号〕が請求されたものであり、当審は、平成26年8月8日付けで、本件無効審判被請求人(以下「被請求人」という。)に対し、相当の期間を指定して、本件無効審判請求に対する答弁書を提出する機会を与えたが、被請求人からは何らの応答もなかった。

そして、平成26年12月24日付けで審決の予告をした。


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?3に係る発明(以下それぞれ「本件発明1」?「本件発明3」という。)は、特許第3775302号の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】 空気を冷却することにより凝縮水が発生する空気冷却用の熱交換器であって、
内部に空気冷却用の流体が流れるチューブ(1)と、
前記チューブ(1)の外表面に設けられ、平面部(2a)と隣り合う前記平面部(2a)とを繋ぐ屈曲部(2b)を有して波状に形成されたフィン(2)とを備え、
前記平面部(2a)に鎧窓状のルーバ(2c)が形成されており、
前記フィン(2)のピッチ寸法(Fp)は3mm以下であり、
さらに、前記ルーバ(2c)の先端と、このルーバ(2c)が形成された前記平面部(2a)と隣り合う前記平面部(2a)に形成された前記ルーバ(2c)の先端との間の寸法であるルーバ列間距離(FLp)は、0.86mm以上であることを特徴とする熱交換器。
【請求項2】 前記ルーバ(2c)のピッチ寸法(Lp)は0.5mm以上、1mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】 前記チューブ(1)と前記フィン(2)とを備える熱交換部(3)の外形寸法のうち、空気の流通方向と平行な部位の寸法(D)は50mm以下であり、かつ、前記フィン(2)の高さ寸法(h)は7mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱交換器。


第3 請求人の主張の概要及び証拠方法
3-1 請求人の主張の概要
請求人は、「特許第3775302号の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、証拠方法として、甲第1?3号証を提出し、次の無効理由を主張している。

理由1:本件発明1?3は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件発明1?3についての特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。

理由2:本件発明1?3は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1?3についての特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。

理由3:本件発明1?3は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載された発明とを組合せることで、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1?3についての特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。

3-2 証拠方法
甲第1号証:特開2000-234892号公報
甲第2号証:特開2000-154989号公報
甲第3号証:特開2000-119783号公報


第4 証拠方法の記載事項
4-1 甲第1号証の記載事項
(A) 請求項1?6には、「【請求項1】 熱交換媒体と外気とが熱交換するコア部に、熱交換を促進させるためのコルゲートフィンを有する熱交換器を縮小化する方法において、
前記コア部の通風方向の長さであるコア幅を縮小する際に、前記コルゲートフィンのフィン幅の短縮に伴う熱交換効率の低下を補うために、前記コルゲートフィンのフィンピッチを縮小し、少なくとも前記コルゲートフィンの表面上に、水との接触角が略7°以下となるような超親水性処理を施すことを特徴とする熱交換器の縮小方法。
【請求項2】 前記コルゲートフィンのフィンピッチが2.0?3.4mmであることを特徴とする請求項1記載の熱交換器の縮小方法により製造される熱交換器。
【請求項3】 前記コルゲートフィンには、表面積を増加させるためのルーバが形成され、
前記ルーバ間の隙間が0.15?0.80mmであることを特徴とする請求項2記載の熱交換器。
【請求項4】 前記コルゲートフィンのフィン高さが4?9mmであることを特徴とする請求項2又は3記載の熱交換器。
【請求項5】 前記熱交換器のコア幅が30?56mmであることを特徴とする請求項2、3又は4記載の熱交換器。
【請求項6】 前記超親水性処理として、酸化チタンを含有する親水性皮膜が形成されていることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載の熱交換器。」と記載されている。

(B) 段落【0001】には、「【発明の属する技術分野】この発明は、車両用空調装置の蒸発器等に用いられる熱交換器に関し、特に高性能を維持したまま縮小化するための方法及びこの方法により製造される熱交換器に関する。」と記載されている。

(C) 段落【0002】?【0003】には、「【従来の技術】通常、エバポレータ等の熱交換器の表面には、腐食を防止するための耐食皮膜や水はけ性を向上させるための親水性皮膜が設けられている。この親水性皮膜としては、シリカ系、樹脂系のものが主に使用されており、通常の使用状況では、表面に付着する有機成分等が存在するため、水との接触角θ(図10参照)は10?20°程度となる。
また、上記熱交換器に用いられるコルゲートフィンとしては、そのフィンピッチ(図5(a)中のB)が3.5mm以上のものが大半を占める。これは、フィン間の水はけ性を確保するために必要なフィンピッチであり、これ以上小さくすると、フィン間の通気スペースに水分が溜まってしまい、通気の妨げとなるからである。」と記載されている。

(D) 段落【0006】には、「そこで、この発明は、良好な水はけ性及び熱交換効率を維持したまま縮小化が可能な熱交換器の縮小方法、及びこの方法により製造された熱交換器を提供することを目的とする。」と記載されている。

(E) 段落【0010】?【0011】には、「また、この発明者は、上記フィンピッチ、ルーバ隙間、及びフィン高さと冷房性能、即ち熱交換効率との間には、図6、図7、及び図8に示されるような関係があることを発見した。これによれば、フィンピッチ、ルーバ隙間、及びフィン高さはいずれにおいても、ある値においてピークを得て、このピークから離れるにつれて冷房性能は低下していく傾向にある。これは、ピークから離れるに従い、フィンの表面積が減少していくためか、若しくは表面積は増加するが通気性が低下していくためである。
上記のことから、この発明は、フィンピッチを2.0?3.4mm(請求項2)、ルーバ隙間を0.15?0.80mm(請求項3)、またフィン高さを4?9mm(請求項4)の範囲とするものである。」と記載されている。

(F) 段落【0017】には、「図2及び図3に示されるこの実施の形態に用いられる熱交換器1は、アルミ合金から形成され、車両用空調装置のエバポレータ等に使用されるものであり、冷媒が流通する流路が内部に形成された複数のチューブエレメント3と、冷媒と空気との熱交換を促進させるための複数のコルゲートフィン2とが交互に積層されて構成されている。」と記載されている。

(G) 段落【0020】には、「また、図4に示される前記コルゲートフィン2は、表面積を大きくとるために、蛇行状に形成され、且つ平面部を切り起こしてルーバ15が形成されている。このコルゲートフィン2の表面積を変化させるための形状的要素としては、図5(a),(b)に示されるように、フィンピッチB、フィン高さC、及びルーバ隙間Dがある。フィンピッチBは、同一方向を向き隣り合う山部の両頂部間の間隔であり、フィン高さCは、互いに反対方向を向く山部の両頂部間の間隔であり、またルーバ隙間Dは、隣り合う両ルーバ15間にできる間隔である。」と記載されている。

(H) 段落【0023】には、「この実施の形態に係るコルゲートフィン2は、前記フィンピッチBが、図6に示されるように、7?8割以上の性能を発揮できる2.0?3.4mmの範囲で形成され、また前記ルーバ隙間Dが0.15?0.80mmの範囲(図7参照)で、前記フィン高さCは4?9mmの範囲(図8参照)で形成されている。このコルゲートフィン2を用いることにより、熱交換効率及び水はけ性を維持しつつ、熱交換器1のコア幅Aを30?56mmまで縮小することが可能となる。」と記載されている。

(I) 段落【0026】には、「また、この発明に係る熱交換器の縮小方法は、図2及び3に示されるようなラミネート型の熱交換器に限られるものではなく、図9(a)に示されるようなサーペンタイン型や、図9(b)に示されるようなタンク別体型のものであっても使用できる。」と記載されている。

(J) 図5の記載は以下のとおりである。



(K) 上記記載事項(G)を参酌すると、図5には、コルゲートフィン2が、ルーバ15が形成される平面部と前記平面部と隣り合う平面部とを繋ぐ屈曲した山部を有している点が看取できる。

4-2 甲第2号証の記載事項
(A) 請求項1には、「【請求項1】 ヘッダ(3),(3)間に複数の扁平伝熱管(2),(2)・・・およびコルゲートフィン(4),(4)・・・を交互に配設してなる空気熱交換器であって、上記コルゲートフィン(4),(4)・・・のフィン面には空気の流れ方向に所定の傾斜角(θ)を有する複数の切り起し片(4a),(4a)・・・が設けられているとともに、該複数の切り起し片(4a),(4a)・・・は上記傾斜角(θ)が25°?40°で、配設ピッチ(LP)が0.5mm?0.9mmのものとなっていることを特徴とする空気熱交換器。」と記載されている。

(B) 段落【0003】には、「該空気熱交換器1は、例えば図1に示すように、冷媒が導入、導出されるパイプ状の上下ヘッダ3A,3Bと、該上下ヘッダ3A,3B間に連通状態で、かつその長手方向に相互に所定の間隔を保って並設された複数本の扁平伝熱管2,2・・・と、該複数本の扁平伝熱管2,2・・・間の上下方向に略S字形に連続して屈曲した状態で配設され、その屈曲面外端を対応する両隣りの扁平伝熱管2,2・・・の扁平伝熱面に熱溶着されたコルゲートフィン4,4・・・とからなっている。」と記載されている。

(C) 段落【0007】?【0012】には、「【発明が解決しようとする課題】ところで、図4および図6に示す上記コルゲートフィン4,4・・・の仕様、例えばフィン幅FW、フィン高さFH、フィン全体の長さL、厚さt、切り起し片4a,4a・・・の配設ピッチ(ルーバーピッチ)LP、フィンピッチFP等は、熱交換器1全体の寸法や使用する材料の条件によって具体的に決定されるが、その空気側伝熱性能の向上について、特に上記切り起し片(ルーバー)4a,4a・・・相互の切り起し片配設ピッチ(ルーバーピッチ)LPと傾斜角(切り起し角)θが重要な決定要因となる。
これら2つの条件を検討して見ると、次のようになる。
先ず切り起し片配設ピッチ(ルーバーピッチ)LPが余りに大きいと、その前縁効果を十分に活用することができないために、例えば図11の特性に示すように、熱伝達率は悪くなる。一方、切り起し片配設ピッチ(ルーバーピッチ)LPを小さくして行くと、前縁効果を活用できるようになる反面、図7に示す切り起し片4a,4a・・・の高さ(ルーバー高さ)LH、切り起し片4a,4a・・・間の間隔(ルーバー間隔)LMが小さくなり、切り起し片(ルーバー)4a,4a・・・間に空気が流れにくくなるので、例えば熱伝達率の値は、図10の特性のように上記切り起し片の配設ピッチ(ルーバーピッチ)LPに対して或る極大値をとることになる。
また切り起し片(ルーバー)4a,4a・・・の傾斜角(切り起し角)θが小さい場合、図7に示す切り起し片4a,4a・・・の高さ(ルーバー高さ)LH、切り起し片4a,4a・・・間の間隔(ルーバー間隔)LMが小さいために切り起し片(ルーバー)4a,4a・・・間に空気が流れにくく、例えば図10の特性に示すように、熱伝達率は良好でない。
また通風抵抗についても、熱伝達率とほぼ同様の傾向を示す。他方、図8のように上記切り起し片ピッチ4a,4a・・・の配設(ルーバーピッチ)LPを小さくすることおよび図9のように上記切り起し片4a,4a・・・の傾斜角(切り起し角)θを大きくすることに関しては、製造上の限界がある。
この出願の発明は、このような課題を解決するために、なされたもので、製造可能な数値条件の範囲内において、適切な切り起し片の配設ピッチLPおよび傾斜角θを見出し、それら2つの数値を適切な関係で設定することにより、空気側の熱伝達率を向上させた空気熱交換器を提供することを目的とするものである。」と記載されている。

(D) 段落【0016】には、「そして、切り起し片4a,4a・・・の配設ピッチLPが大きいと、前述のようにフィンの前縁効果を十分に活用することができないために、熱伝達率は悪くなる。一方、同配設ピッチLPを小さくして行くと、フィンの前縁効果を活用できるようになる反面、切り起し片4a,4a・・・の高さLH、切り起し片4a,4a・・・間の間隔LMが小さくなり、切り起し片4a,4a間に空気が流れにくくなるので、熱伝達率の値は、上記配設ピッチLPに対して或る極大値をとることになる。」と記載されている。

(E) 段落【0023】?【0026】には、「そして、上記配設ピッチLPが大きいと、フィンの前縁効果を十分に活用することができないために、熱伝達率は悪くなる。一方、同配設ピッチLPを小さくして行くと、フィンの前縁効果を活用できるようになる反面、切り起し片4a,4a・・・の高さLH、切り起し片4a,4a・・・間の間隔LMが小さくなり、切り起し片4a,4a・・・間に空気が流れにくくなるので、熱伝達率の値は、上記配設ピッチLPに対して或る極大値をとることになる。
また、上記切り起し片4a,4a・・・の切り起し角である傾斜角θが小さい場合、同切り起し片4a,4a・・・の高さLH、同切り起し片4a,4a・・・間の間隔LMが小さくなるために切り起し片4a,4a間に空気が流れにくくなるので、熱伝達率は悪くなる。
また通風抵抗についても、上記熱伝達率とほぼ同様の傾向を示す。他方、上記切り起し片4a,4a・・・の配設ピッチLPを0.5よりも小さくすることおよび上記傾斜角θを40°よりも大きくすることに関しては、製造上からの限界がある。
ところが、上記のようにコルゲートフィン4,4・・・の複数の切り起し片4a,4a・・・の傾斜角θを30°?35°にするとともに、それらの配設ピッチLPを0.6mm?0.8mmにすると、例えば図10の特性から理解されるように、上記請求項1の発明の場合よりも通風抵抗の増大が少なく、また十分に空気との熱伝達率を向上させることができるようになる。また、傾斜角θと配設ピッチLPの場合には、上記のように熱伝達率を上げながらも、ドレン水やゴミによる目詰まりも生じにくく、それによって目詰りの発生限界範囲内で可能な限り熱伝達率を向上させることができる。その結果、より有効に熱交換性能が向上することになる。」と記載されている。
4-3 甲第3号証の記載事項
(A) 請求項1、2には、「【請求項1】 Mn0.8?2.0%(重量%、以下同じ)、Si0.2?0.6%、Zn0.4?2.0%を含有し、かつCuが0.03%以下、Feが0.2%以下にそれぞれ規制され、残部がAlおよび不可避的不純物よりなり、しかも0.02?0.3μmの範囲内の径の金属間化合物を600個/μm^(3)以上含むとともに、3μm以上の径の金属間化合物が500個/mm^(2)以下に規制され、ろう付け加熱後の表面の平均結晶粒径が0.4mm以上であり、さらに板厚が0.03?0.10mmの範囲内で、引張強さが200N/mm^(2) 以上であることを特徴とする、高強度・高耐熱性を有する熱交換器用アルミニウム合金製フィン材。
【請求項2】 Mn0.8?2.0%、Si0.2?0.6%、Zn0.4?2.0%を含有し、かつCuが0.03%以下、Feが0.2%以下にそれぞれ規制され、残部がAlおよび不可避的不純物よりなる合金の鋳塊に対して、均質化熱処理を施すことなく熱間圧延を施すにあたり、熱間圧延前の加熱温度を350?430℃の範囲内とするとともに、熱間圧延終了温度を300℃以下とし、熱間圧延終了後、50%以上の圧延率で一次冷間圧延を施し、さらに200℃以上350℃以下の温度域で中間焼鈍を施し、その後最終冷間圧延を行なって、板厚が0.03?0.10mmの範囲内でかつ引張強さが200N/mm^(2)以上のフィン材を得ることを特徴とする、高強度・高耐熱性を有する熱交換器用アルミニウム合金製フィン材の製造方法。」と記載されている。

(B) 段落【0006】には、「しかしながら従来の3003合金をそのままフィン材として使用した場合、最近のフィン材薄肉化の要求には充分に応えることができないのが実情である。すなわち従来の自動車用熱交換器フィン材としては、例えば板厚が0.13mm程度のものが一般的であったが、最近の自動車用熱交換器においては、より一層の軽量化、小型化が強く要求されており、そこで熱交換器用フィン材についても従来よりもさらに薄肉化すること、具体的には0.03?0.10mm程度まで薄肉化することが強く望まれている。そのためフィン材成形時における変形、座屈の発生を防止するべく、ろう付け前のフィン材の元板強度について従来よりも一層の高強度化を図ることが要求され、また高温のろう付け時の座屈変形を防止するべく耐熱性(耐高温座屈性)を向上させることが望まれているが、従来の3003合金では、0.03?0.10mm程度まで薄肉化した場合、高強度化を図ろうとすれば耐高温座屈性が低下し、そのため熱交換器組立時におけるフィン材の変形や座屈の発生防止と、ろう付け時の高温による座屈の発生防止とを同時に図ることは困難であり、結局Zr等の添加元素を添加して使用せざるを得なかった。しかしながらこのようにZr等の添加元素を添加すれば、既に述べたようにコスト上昇を招くとともに、スクラップ処理に際しては用途範囲が限定されるという問題が生じる。」と記載されている。


第5 甲第1号証に記載された発明
上記4-1の(A)において、請求項3を引用する請求項4を引用する請求項5に係る発明を「熱交換器」に着目して整理すると、
「熱交換媒体と外気とが熱交換するコア部に、熱交換を促進させるためのコルゲートフィンを有する熱交換器において、
前記コルゲートフィンのフィンピッチを縮小し、少なくとも前記コルゲートフィンの表面上に、水との接触角が略7°以下となるような超親水性処理を施し、
前記コルゲートフィンのフィンピッチを2.0?3.4mm、前記コルゲートフィンに形成したルーバ間の隙間を0.15?0.80mm、前記コルゲートフィンのフィン高さを4?9mm、前記熱交換器のコア幅を30?56mmとする熱交換器。」の発明が記載されている。
そして、上記4-1の(B)には、蒸発器に用いる熱交換器であることが記載されている。また、チューブエレメントとコルゲートフィンとは、上記4-1の(F)に「冷媒が流通する流路が内部に形成された複数のチューブエレメント3と、冷媒と空気との熱交換を促進させるための複数のコルゲートフィン2とが交互に積層されて構成され」ると記載されている。また、上記4-1の(K)には「コルゲートフィン2が・・・平面部と前記平面部と隣り合う平面部とを繋ぐ屈曲した山部を有している」こと及び上記4-1の(G)には「コルゲートフィン2は、表面積を大きくとるために、蛇行状に形成され、且つ平面部を切り起こしてルーバ15が形成され」ることが記載されている。そして、上記「冷媒」は「熱交換媒体」であり、上記「空気」は「外気」のことである。これらの記載を総合すると、甲第1号証には以下の発明が記載されていると認められる。

「冷媒と空気とが熱交換するコア部に、熱交換を促進させるためのコルゲートフィンを有する蒸発器に用いられる熱交換器において、
冷媒が流通する流路が内部に形成された複数のチューブエレメント3と、冷媒と空気との熱交換を促進させるための複数の平面部と隣り合う平面部とを繋ぐ屈曲した山部を有するコルゲートフィン2とが交互に積層されて構成され、
コルゲートフィン2は、蛇行状に形成され、且つ平面部を切り起こしてルーバ15が形成され、
前記コルゲートフィンのフィンピッチを縮小し、少なくとも前記コルゲートフィンの表面上に、水との接触角が略7°以下となるような超親水性処理を施し、
前記コルゲートフィンのフィンピッチを2.0?3.4mm、前記コルゲートフィンに形成したルーバ間の隙間を0.15?0.80mm、前記コルゲートフィンのフィン高さを4?9mm、熱交換器のコア幅を30?56mmとする蒸発器に用いられる熱交換器。」(以下「甲1発明」という。)


第6 本件発明と甲1発明との対比・判断
6-1 本件発明1と甲1発明との対比
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「冷媒」、「コルゲートフィン2」、「チューブエレメント3」、「ルーバ15」は、その構造及び機能から、それぞれ、本件発明1の「空気冷却用の流体」、「フィン(2)」、「チューブ(1)」、「鎧窓状のルーバ(2c)」に相当する。

(イ)甲1発明の「冷媒と空気とが熱交換する」「蒸発器に用いられる熱交換器」について、蒸発器とは、液化した冷媒を気化膨張させて空気から吸熱する熱交換器であるから、冷媒と熱交換する空気は放熱し、冷却されることとなる。そして、空気が露点温度以下まで冷却されると、蒸発器表面に凝縮水が結露することは、技術常識である。よって、甲1発明の「冷媒と空気とが熱交換するコア部に、熱交換を促進させるためのコルゲートフィンを有する蒸発器に用いられる熱交換器」は、本件発明1の「空気を冷却することにより凝縮水が発生する空気冷却用の熱交換器」に相当する。

(ウ)甲1発明の「冷媒が流通する流路が内部に形成された複数のチューブエレメント3」は、甲1発明の熱交換器が蒸発器であって冷媒が空気を冷却するものであるから、本件発明1の「内部に空気冷却用の流体が流れるチューブ(1)」に相当する。

(エ)甲1発明の「複数のチューブエレメント3と」「コルゲートフィン2とが交互に積層され」ることは、チューブエレメント3の外表面にコルゲートフィン2を設け、さらにその上にチューブエレメント3とコルゲートフィン2とを交互に積み重ねることである。
また、「複数の平面部と隣り合う平面部とを繋ぐ屈曲した山部を有する」ことは、一の平面部と一の平面部と隣り合う他の平面部とを繋ぐ屈曲部を有することである。
さらに、甲1発明の「コルゲートフィン2」が、「蛇行状に形成され」ていることは、波状に形成されていることであるから、本件発明1の「フィン」が「波状に形成され」ていることに相当する。
よって、甲1発明の「蛇行状に形成され、」「複数のチューブエレメント3と」「交互に積層され」る「冷媒と空気との熱交換を促進させるための複数の平面部と隣り合う平面部とを繋ぐ屈曲した山部を有するコルゲートフィン2」を備えることは、本件発明1の「前記チューブ(1)の外表面に設けられ、平面部(2a)と隣り合う前記平面部(2a)とを繋ぐ屈曲部(2b)を有して波状に形成されたフィン(2)とを備え」ることに相当する。

(オ)甲1発明の「コルゲートフィン2は、」「平面部を切り起こしてルーバ15が形成され」ることは、本件発明1の「前記平面部(2a)に鎧窓状のルーバ(2c)が形成され」ることに相当する。

(カ)甲1発明の「前記コルゲートフィンのフィンピッチ」が「2.0?3.4mm」であることは、本件発明1の「前記フィン(2)のピッチ寸法(Fp)は3mm以下」と重複一致する。

なお、本件発明1は、フィンの表面処理について何ら特定しておらず、フィンの表面を超親水処理したものを排除していないから、甲1発明の「少なくとも前記コルゲートフィンの表面上に、水との接触角が略7°以下となるような超親水性処理を施し」ていることは、両者の相違点とならない。

よって、両者は、以下の点で一致し、以下の点で一応相違する。

<一致点A>
「空気を冷却することにより凝縮水が発生する空気冷却用の熱交換器であって、
内部に空気冷却用の流体が流れるチューブと、
前記チューブの外表面に設けられ、平面部と隣り合う前記平面部とを繋ぐ屈曲部を有して波状に形成されたフィンとを備え、
前記平面部に鎧窓状のルーバが形成されており、
前記フィンのピッチ寸法は3mm以下である熱交換器。」

<相違点A>
本件発明1では、ルーバの先端と、このルーバが形成された平面部と隣り合う平面部に形成されたルーバの先端との間の寸法であるルーバ列間距離(FLp)を、0.86mm以上であると特定しているのに対して、甲1発明では、コルゲートフィンのフィンピッチを2.0?3.4mm、コルゲートフィンに形成したルーバ間の隙間を0.15?0.80mm、熱交換器のコア幅を30?56mmとするとの特定であり、ルーバ列間距離は直接特定されていない点。

6-2 本件発明1との相違点についての判断
そこで、上記相違点Aについて検討すると、本願発明のルーバ列間距離(FLp)は、明細書の段落【0026】に「本実施形態では、Fp/2-Lp×sin(La)をルーバ列間距離FLpとして採用している。」と定義されている(Fpは、フィンのピッチ寸法である。)。
一方、甲1発明のルーバ間の隙間Dは、本願発明のルーバのピッチ寸法Lp及びルーバの平面部に対する角度Laを用いて表すと、(ルーバ間の隙間D)=Lp×sin(La)と表すことができ、上記ルーバ列間距離FLpの算出式に代入し、上記FpをFpに相当する甲1発明のフィンピッチ(B)に置き換えると、ルーバ列間距離FLp=(フィンピッチB)/2-(ルーバ間の隙間D)と表現できる。
そして、甲1発明の(フィンピッチB)及び(ルーバ間の隙間D)から、ルーバ列間距離FLpを算出すると、以下のとおりである(審判請求書第9ページに記載された表。)。




そうすると、甲1発明として、本件発明と重複一致するフィンピッチが3mm以下の範囲において、ルーバ列間距離FLpが0.86mm以上となるものが記載されている。よって、上記相違点Aは、実質的な相違点ではない。
また、実際上は、フィン及びルーバは板厚を有することから、フィン及びルーバの板厚を考慮した際の、ルーバの先端と、このルーバが形成された平面部と隣り合う平面部に形成されたルーバの先端との間の寸法であるルーバ列間距離FLpについて以下検討する。
甲1発明のフィンとルーバの板厚は同じであるから、板厚を考慮すると、甲1発明のルーバ間の隙間は、本願発明のルーバのピッチ寸法Lp及びルーバの平面部に対する角度Laを用いて表すと、ルーバ間の隙間=Lp×sin(La)-(板厚)と表すことができ、本件明細書の段落【0026】に当てはめると、ルーバ列間距離FLpは、ルーバ列間距離FLp=(フィンピッチB)/2-(ルーバ間の隙間D)-(フィンの板厚t)となる。
ここで、熱交換器に用いられるルーバを有するフィンの板厚tは、上記甲3号証に記載されているように一般的に0.13mmであるとし、甲1発明の(フィンピッチB)及び(ルーバ間の隙間D)から、ルーバ列間距離FLpを算出すると、以下のとおりである(審判請求書第10ページに記載された表。)。



そうすると、甲1発明として、本件発明1と重複一致するフィンピッチが3mm以下の範囲において、ルーバ列間距離FLpが0.86mm以上となるものが記載されている。よって、上記相違点Aは、実質的な相違点ではない。

6-3 本件発明1についてのまとめ
したがって、本件発明1は、甲1発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができないものである。したがって、本件発明1についての特許は、上記3-1の無効理由1により、無効とすべきものである。

6-4 本件発明2と甲1発明との対比
本件発明2と甲1発明とを対比すると、上記6-1の一致点Aで一致し、相違点Aに加え、以下の点で相違する。

<相違点B>
ルーバのピッチ寸法(Lp)が、本件発明2では、0.5mm以上、1mm以下であるのに対して、甲1発明では、特定されていない点。

6-5 本件発明2との相違点についての判断
相違点Aについては、上記6-2のとおり甲1発明として記載されたものであり、実質的な相違点でない。
次に、相違点Bについて検討する。
甲第2号証には、甲1発明と同様のコルゲートフィンを備えた熱交換器において、ルーバーの前縁効果の十分な活用とルーバー4a,4a・・・間に空気の流れを考慮して、ルーバーピッチLPを0.5mm?0.9mmとすることで熱伝達率を向上させることが記載されている(上記4-2の(A)、(C)、(E))。そして、甲第2号証の「ルーバー」、「ルーバーピッチLP」は、それぞれ本件発明2の「ルーバ」、「ルーバのピッチ寸法(Lp)」に相当するから、甲第2号証には、コルゲートフィンを備えた熱交換器において、ルーバのピッチ寸法を0.5mm?0.9mmとすることで熱伝達率を向上させることが記載されているといえる。
そして、熱交換器の熱交換効率向上のために、熱交換部品の熱伝達率を向上させることは、熱交換器分野における周知の課題であるところ、甲1発明の熱交換器のルーバについても、熱伝達率をより向上させようとすることは当業者が当然に考慮することである。そして、当該周知の課題に沿って、甲1発明のルーバのルーバピッチ寸法を具体的に甲第2号証に記載された0.5mm?0.9mmとすること、すなわち本件発明2の上記相違点Bを重複一致する0.5mm以上、1mm以下の範囲とすることは当業者が容易になし得たことである。

そして、本件発明2の奏する作用効果は、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

6-6 本件発明2についてのまとめ
よって、本件発明2は、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。したがって、本件発明2についての特許は、上記3-1の無効理由3により、無効とすべきものである。

6-7 本件発明3と甲1発明との対比
本件発明3と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「フィン高さ」、「コア幅」は、それぞれ本件発明3の「フィン(2)の高さ寸法(h)」、「空気の流通方向と平行な部位の寸法(D)」に相当する。
したがって、甲1発明の「フィン高さを4?9mm、熱交換器のコア幅を30?56mm」とすることは、本願発明の「前記チューブ(1)と前記フィン(2)とを備える熱交換部(3)の外形寸法のうち、空気の流通方向と平行な部位の寸法(D)は50mm以下であり、かつ、前記フィン(2)の高さ寸法(h)は7mm以下である」ことに重複一致する。
そうすると、両者は、以下の点で一致し、上記6-1の相違点Aもしくは、相違点A及び上記6-4の相違点Bで相違する。

<一致点B>
「空気を冷却することにより凝縮水が発生する空気冷却用の熱交換器であって、
内部に空気冷却用の流体が流れるチューブと、
前記チューブの外表面に設けられ、平面部と隣り合う前記平面部とを繋ぐ屈曲部を有して波状に形成されたフィンとを備え、
前記平面部に鎧窓状のルーバが形成されており、
前記フィンのピッチ寸法は3mm以下であり、
前記チューブと前記フィンとを備える熱交換部の外形寸法のうち、空気の流通方向と平行な部位の寸法は50mm以下であり、かつ、前記フィンの高さ寸法は7mm以下である熱交換器。」

6-8 本件発明3についての判断
相違点Aについては、上記6-2のとおり甲1発明として記載されたものであり、実質的な相違点ではない。
また、相違点Bについては、上記6-5のとおり、当業者が容易になし得たことである。

6-9 本件発明3についてのまとめ
よって、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明である。または、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、本件発明3についての特許は、上記3-1の無効理由1により、または、無効理由3により、無効とすべきものである。


第7 むすび
以上のとおり、本件発明1及び3は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。また、本件発明2及び3は、甲第1号証に記載された発明及び甲2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明1?3についての特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、本件発明1についての無効理由2及び3、本件発明2についての無効理由1及び2並びに本件発明3についての無効理由2について検討するまでもなく、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-02 
結審通知日 2015-04-06 
審決日 2015-04-27 
出願番号 特願2002-14276(P2002-14276)
審決分類 P 1 113・ 113- Z (F28F)
P 1 113・ 121- Z (F28F)
最終処分 成立  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 佐々木 正章
山崎 勝司
登録日 2006-03-03 
登録番号 特許第3775302号(P3775302)
発明の名称 熱交換器  
代理人 窪田 卓美  

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