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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1302012
審判番号 不服2013-24833  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-17 
確定日 2015-06-08 
事件の表示 特願2010-179378「ブレビバチルス属細菌を用いたプロテインA様蛋白質の生産方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月 4日出願公開、特開2010-246569〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う2005年7月1日(優先日 平成16年7月6日)を国際出願日とする特願2006-528867号の一部を、平成22年8月10日に新たな出願としたものであって、平成25年5月24日に手続補正書が提出され、同年9月9日付けで拒絶査定がされたところ、同年12月17日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年12月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成25年12月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)は、拒絶査定不服審判の請求と同時にしたものであって、補正前の請求項1と補正後の請求項1の記載は次のとおりである。

補正前:「【請求項1】プロテインA様蛋白質、または、その配列の任意の一部分から構成されイムノグロブリン結合活性を有する蛋白質をコードするDNA、およびその配列に作動可能に連結されたブレビバチルス(Brevibacillus)属細菌で機能しうるプロモーターを含み、発現した該蛋白質がSDS-PAGEにおいて単一バンドを示す、DNA。」

補正後:「【請求項1】Xドメインを含まないプロテインA様蛋白質、または、その配列のXドメインを除く任意の一部分から構成されイムノグロブリン結合活性を有する蛋白質をコードするDNA、およびその配列に作動可能に連結されたブレビバチルス(Brevibacillus)属細菌で機能しうるプロモーターを含み、発現した該蛋白質がSDS-PAGEにおいて単一バンドを示す、DNA。」(下線部は補正前からの補正箇所を示す。)

2.補正の適否
上記補正後の請求項1は、補正前の「プロテインA様蛋白質」、「その配列の任意の一部分」という特定事項を、それぞれ、「Xドメインを含まないプロテインA様蛋白質」、「その配列のXドメインを除く任意の一部分」と限定するものであって、補正前の請求項1に係る発明と補正後の請求項1に係る発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という)第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という)が、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たすものであるか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1.に「補正後」として記載したとおりのものである。

(2)引用例の記載事項
拒絶理由において引用文献1として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭62-111688号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 「4.プロテインA様物質の遺伝子を含有する組み換えプラスミドであって,
(a)ベクター,
(b)λplac5DNAのラクトースオペロンのプロモーターおよびβ-ガラクトシダーゼ領域,および
(c)該プロモーターの制御下にあるプロテインA様物質の遺伝子,
を有する組み換えプラスミド。
・・・
7.前記プロテインA様物質の遺伝子が,プロテインA様物質の活性部分(IgGのFc-結合能力を有する部分)のN末端あるいはC末端のアミノ酸にシステインを付加せしめたことを特徴とする特許請求の範囲第4項に記載の組み換えプラスミド。
8.前記プロテインA様物質の遺伝子が,次のポリアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を有する特許請求の範囲第7項に記載の組み換えプラスミド。
ADNKFNKEQQNAFYEILHLPNLNEEQRNGFIQSLKDDPSQSANLLAEAKKLNDAQAPKC
ここで,
A;アラニン,C;システイン,D;アスパラギン酸,E;グルタミン酸,F;フェニルアラニン,G;グリシン,H;ヒスチジン,I;イソロイシン,K;リジン,L;ロイシン,M;メチオニン,N;アスパラギン,P:プロリン,Q;グルタミン,R;アルギニン,S;セリン,Y;チロシン を意味する。」(特許請求の範囲)

イ 「プロテインAの形状は,一般の球状蛋白質に比べて摩擦係数が高く,固有粘度が高いことから,比較的細長く伸びた分子形をしているらしい。その構造は,4つの相同性の高いサブユニット(N末端のものから順に,D,A,BおよびCと一般に命名され,各サブユニットは約60個のアミノ酸残基から構成される)とアミノ酸残基約150個から構成されるC末端サブユニットとからなる。上記4つのサブユニットD,A,BおよびCは、それぞれ、免疫グロブリン(IgG)1分子を該IgGのFc部分で結合する能力を有する。」(4頁左下欄最終行?右下欄11行)

ウ 「プロテインAはIgGの抗原に対する親和力を大きく損なうことなくIgGに結合する能力を有するため,種々の診断および基礎研究の試験系における免疫吸着体として広く用いられている」(5頁左上欄3?6行)

エ 「本発明は,上述したような従来のプロテインA様物質の製造法およびそれにより生産されたプロティンA様物質の問題点を解決するために,スタフィロコッカスのような病原性を有する危険な微生物を原料とすることなく,担体に結合しやすい高純度のプロテインA様物質を量産することを意図して完成されたものである。」(5頁左下欄1?7行)

オ 「実施例3:プロテインA様物質の遺伝子断片の結合
実施例2で塩基配列の確認されたオリゴデオキシリボヌクレオチドの各断片を第2図に従って,T_(4)DNAリガーゼを用いて以下の方法により結合させた。・・・

実施例4:プラスミドベクターの構築
プロテインA様物質の遺伝子を組み込むためのλplac5DNAラクトースオペロンのプロモーターおよびβ-ガラクトシダーゼ領域を有するプラスミドヘクターを以下のようにして構築した。・・・

実施例5:プロテインA様物質の遺伝子を導入した組み換えプラスミドの構築
実施例4で得られたプラスミドベクターに実施例3で得られたプロテインA様物質のDNA配列を組み込んだ組み換えプラスミドを以下のようにして構築した。・・・

実施例6:組み換えプラスミドによるエセリシア コリー K-12株 HB101の形質転換
・・・CaCl_(2)処理されたエセリシア コリー K-12株HB101と先に得た組み換えプラスミドDNAの溶液とを0℃にて混合・・・。

実施例10:エセリシア・コリー K12 SPA-FcによるプロテインA様物質の生産及びその精製
プロテインA様物質DNAが組み込まれた組み換えプラスミドを保有するエセリシア・コリー K12 SPA-Fcを・・・増殖させた。・・・エセリシア・コリー K-12 SPA-Fcは少なくとも細胞1個あたり3×10^(5)分子のプロテインA様物質を生成していることがわかった。」(12頁左上欄下から3行?15頁右下欄最終行)

カ 「実施例13:プロテインA様物質固定化不活性カラムによるIgGの分画-1
実施例11で得られたカラムをpH8.0のリン酸緩衝液で平衡化し,これに,2倍に稀釈されたマウス血清をチャージした。IgM,IgAおよびIgEは溶出液中に定量的に回収された。IgG_(1),IgG_(2a),IgG_(2b)はそれぞれpH6.0-7.0,4.5-5.0,3.5-4.0で順に溶出され,プロティンAを固定化したカラムとほぼ同様の挙動を示した。しかしながら,実施例11で得られたプロティンA様物質固定化不活性カラムの吸着容量は約30?40mg/mlであり,市販品のプロティンA-セファロースCL-4B(ファルマシア製)のヒトIgGに対する吸着容量が約12?15mg/mlであるのに比べ,約3倍の吸着容量を有していた。」(16頁左下欄14行?右下欄8行)

キ 「

」(図2)

上記アの記載から、引用例1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「プロテインA様物質の遺伝子を含有する組み換えプラスミドであって、
(a)ベクター、
(b)λplac5DNAのラクトースオペロンのプロモーターおよびβ-ガラクトシダーゼ領域、および
(c)該プロモーターの制御下にあるプロテインA様物質の遺伝子、
を有する組み換えプラスミド。」(以下、「引用発明」という。)

拒絶理由において引用文献5として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平6-296485号公報(以下、「引用例5」という。)には、以下の事項が記載されている。

ク 「【0002】
【従来の技術】一般に、遺伝子組換え技術を利用した異種蛋白質の生産は、大腸菌を宿主として利用している。しかし、大腸菌は生産した異種蛋白質を菌体内に蓄積するため、生産量が制限され、異種蛋白質の回収、精製操作が煩雑になる等の問題点がある。また、異種蛋白質を菌体外に分泌することを特徴とする枯草菌を利用した異種蛋白質生産系も確立されたが、分泌された異種蛋白質が枯草菌由来のプロテアーゼの作用により分解され、その蓄積量は著しく少ないという問題点に直面している。
【0003】一方、鵜▲高▼らは、バチルス属細菌バチルス・ブレビス47(Bacillus brevis47)(FERM P-7224)を宿主とする異種蛋白質生産系を確立し、提案した(例えば、特開昭60-58074号、同62-201583号公報参照)。バチルス・ブレビス47は菌体外に多量の蛋白質を生産し、菌体外プロテアーゼ活性が弱い特徴をもち、遺伝子組換え技術を利用した異種蛋白質の生産に於いて、大腸菌、枯草菌の欠点を克服した優れた宿主として注目されている。
【0004】鵜▲高▼らは、バチルス・ブレビス47を用いてα-アミラーゼ(特開昭62-201583号公報、H.Yamagata et.al.,J.Bacteriol 169,1239(1987)参照)やブタペプシノーゲン(鵜▲高▼重三、日本農芸化学会昭62年度大会講演要旨集p837-837、塚越規弘、日本農芸化学会誌61,68(1987)参照)等の分泌生産に成功している。さらに鵜▲高▼らは、バチルス・ブレビス47に比べ菌体外プロテアーゼ活性が著しく低い新規バチルス・ブレビスHPD31(Bacillus brevisHPD31)(FERM BP-1087、H102株と同一菌株である)(特開昭63-56277号公報参照)を分離し、異種蛋白質生産の宿主として利用している。
【0005】かかる生産系をヒト上皮細胞増殖因子(hEGF)に適用すると、バチルス・ブレビス47(15mg/L)に対して約15倍の高効率でhEGFの生産することが見い出されている(特開平2-31682号公報参照)。また、発現ベクターの最適化によりその生産量は、最高1.2g/Lにも達している(S.Ebisuら、Biosci.Biotech.Biochem.,56(5),812-813,1992参照)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】前記のように、バチルス・ブレビスを宿主として用いる異種蛋白質の分泌生産系は大腸菌、枯草菌と比べ非常に効率のよい系であることが認識されている。しかしながら、バチルス・ブレビスHPD31を始めとする従来既知のバチルス属細菌を宿主として用いた異種蛋白質生産系であっても、ヒト成長ホルモン(以下、「hGH」と略記する場合もある)、インターロイキン2(以下、「IL2」と略記する場合もある)等の特定の異種蛋白質の生産に適用すると菌体外に分泌されたそれらの蛋白質が宿主自体のプロテアーゼ活性により分解を受け、その蓄積量が著しく低下するとの問題が生じており、産業上、より安定に異種蛋白質を蓄積する宿主が求められている。
【0007】したがって、本発明の目的は、従来既知のバチルス・ブレビスに比べて菌体外プロテアーゼ活性が有意に低い変異バチルス・ブレビスを提供することである。この変異バチルス・ブレビスは、代表的な例として、hGH及びIL2の生産に適する菌株である。」(【0002】?【0007】段落)

ケ 「【0014】前述のように本発明の変異菌株は、遺伝子組換え用の宿主菌として有利に使用することができる。したがって、その有用性は以下の使用例によって確認できるであろう。まず、本発明の宿主菌を形質転換するのに使用するhGHまたはIL2をコードするDNAを含有する発現プラスミドを調製する。発現プラスミドは、バチルス・ブレビスで機能するプロモーターを含有しているものが好ましい。
【0015】プロモーターの具体的なものとしては、例えば前記バチルス・ブレビス47及び同HPD31のプロモーター領域を含有するDNAを挙げることができる。プロモーター領域を含有するDNAは、上記プロモーター以外に、SD配列、翻訳開始コドンなどを有していることが必要であり、さらに主要菌体外蛋白質遺伝子の一部を含んでいてもよい。」(【0014】及び【0015】段落)

コ 「

」(表1)

サ 「【0036】ゼラチン-PAGEは0.5%ゼラチン、7.5%アクリルアミドの濃度で、E.Strydom らの方法(Appl. Microbiol. Biotechnol., 24, 214-217 (1986)) に従って行った。蛋白質分解酵素はゼラチンの分解により生ずるクリアバンドにより検出した。その結果を示す図1より、変異株バチルス・ブレビス31-OKでは、培養上清に存在する主要な蛋白質分解酵素が欠失していた。」(【0036】段落)

拒絶理由において引用文献7として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物であるBIO INDUSTRY,1992,Vol.9,No.2,p.23-31(以下、「引用例7」という。)には、以下の事項が記載されている。

シ 「異種遺伝子の発現,その生産物の分泌には,B.brevisで高発現,効率的分泌がなされているその主要な菌体外タンパク質,すなわち細胞壁タンパク質の遺伝子を活用することにした。そのために細胞壁タンパク質(CWP)の遺伝子をクローン化し,その遺伝子の近傍も含めて塩基配列を決定した後,転写開始部位(プロモーター領域)の解析などを行った。その結果,期待通り本遺伝子には強力なプロモーター,リボソーム結合部位と2つの翻訳開始部位,およびシグナルペプチドをコードする配列が見出された。そこで,これらを含むDNA断片を上述の各種プラスミドに挿入して発現・分泌ベクターとした(図1)^(1),7))。異種遺伝子をそのCWPシグナル配列に直結して構築したプラスミドでB.brevisを形質転換すれば,異種タンパク質の効率よい生産が期待できる。」(25頁左欄17?33行)

ス 「これまで述べてきたB.brevisによる生産技術で,数々の異種タンパク質の効率的生産に成功している。これまでの成果をまとめて示したのが表1である。」(25頁右欄25?28行)

セ 「

」(図1)

ソ 「

」(表1)

(3)対比
上記(2)オの記載によれば、引用発明の組み換えプラスミドは、エセリシア・コリー(大腸菌)を宿主として形質転換するものであり、得られた形質転換体は、プロテインA様物質を生成するのであるから、引用発明の「λplac5DNAのラクトースオペロンのプロモーター」は、細菌であるエセリシア・コリー(大腸菌)で機能するプロモーターであるといえ、引用発明の「プロテインA様物質の遺伝子」は「プロテインA様物質をコードするDNA」である。

そうすると、本願補正発明と引用発明との間の一致点、相違点は、以下のようになる。

一致点: 「プロテインA様物質をコードするDNA、およびその配列に作動可能に連結された細菌で機能しうるプロモーターを含むDNA。」

相違点1: プロテインA様物質が、本願補正発明においては「Xドメインを含まないプロテインA様蛋白質、または、その配列のXドメインを除く任意の一部分から構成されイムノグロブリン結合活性を有する蛋白質」と特定されているのに対し、引用発明においてはかかる特定がない点。

相違点2:本願補正発明においては、細菌で機能しうるプロモーターが「ブレビバチルス(Brevibacillus)属」細菌で機能しうるもので、「発現した該蛋白質がSDS-PAGEにおいて単一バンドを示す」と特定されているのに対し、引用発明においては、細菌で機能しうるプロモーターがエセリシア・コリー(大腸菌)で機能しうる「λplac5DNAのラクトースオペロンのプロモーター」であり、さらにβガラクトシダーゼ領域も有するが、「発現した該蛋白質がSDS-PAGEにおいて単一バンドを示す」との特定はない点。

(4)相違点についての検討
ア 相違点1について
引用例1には、引用発明の組み換えプラスミドが有するプロテインA様物質として、上記(2)アの特許請求の範囲8に示されたアミノ酸配列を有するものが記載されているところ、このアミノ酸配列は、本願発明の図1に示されたプロテインAのアミノ酸配列のうちのBドメインの配列のC末端にCを付加したものであり、引用例1(上記(2)オ及びカ)においては、当該アミノ酸配列及びこれと対応する遺伝子の塩基配列が記載された図2(同キ)に従って作成した遺伝子から、エセリシア・コリー(大腸菌)を宿主としてプロテインA様物質を実際に発現させ、IgGに吸着することも確認されているから、引用例1に記載された当該アミノ酸配列のプロテインA様物質は、本願補正発明における「Xドメインを除く任意の一部分から構成されイムノグロブリン結合活性を有する蛋白質」に含まれるものである。そうすると、相違点1は実質的な相違点とはいえない。
本願補正発明における「Xドメインを含まないプロテインA様蛋白質」についても、以下、検討する。
引用例1の上記(2)イの記載によれば、プロテインAのアミノ酸残基約150個から構成されるC末端サブユニット以外の部分がIgGのFc部分と結合する能力を有することが認められ、同ウ及びエの記載によれば、プロテインAはこのIgGに結合する能力を有するために免疫吸着体として用いられること、及び、引用発明が担体に結合しやすい高純度のプロテインA物質の量産を意図したものであることが認められる。ここで、プロテインAのうち、IgGに結合するドメインがE、D、A、B及びCであり、IgGに結合しないドメインがXドメインであることは、周知である(審尋において引用文献8として引用した特表2000-500649号公報の3頁16?18行、本願明細書の先行技術文献欄(【0011】)において非特許文献3として引用されているUhlen, M.ら.J. Bio. Chem., 1984, 259:1695-1702の1695頁右欄9?14行、1696頁Fig2の説明、及び1699頁左欄11?12行を参照のこと)。
そうすると、引用例1において、上記(2)アの特許請求の範囲8に記載された特定のアミノ酸配列で示されるプロテインA様物質に代えて、IgGの結合に必要ない部分であるXドメインを含まないプロテインA様蛋白質を用いてみることは、当業者が容易に想到することである。

イ 相違点2について
引用例5の上記(2)ク?サの記載によれば、以下のことが認められる。
(ア)遺伝子組換え技術を利用した異種蛋白質の生産において、大腸菌を宿主とする場合には、生産した異種蛋白質を菌体内に蓄積するため、生産量が制限され、異種蛋白質の回収、精製操作が煩雑になるという問題があり、異種蛋白質を菌体外に分泌する枯草菌を宿主とする場合には、分泌された異種蛋白質が枯草菌由来のプロテアーゼの作用により分解され、その蓄積量は著しく少ないという問題があったこと、
(イ)バチルス・ブレビス47は、菌体外に多量の蛋白質を生産し、菌体外プロテアーゼ活性が弱いため、上記の問題点を克服した優れた宿主として注目されていること、
(ウ)バチルス・ブレビス47に比べて菌体外プロテアーゼ活性が著しく低いバチルス・ブレビスHPD31も知られていること、
(エ)バチルス・ブレビスHPD31等であっても、異種蛋白質の生産に適用すると菌体外に分泌された蛋白質が宿主自体のプロテアーゼ活性により分解を受け、蓄積量が著しく低下するとの問題が生じるため、菌体外プロテアーゼ活性が有意に低い変異菌株としてバチルス・ブレビス31-OKを作成したこと、
(オ)このバチルス・ブレビス31-OKでは、培養上清に存在する主要な蛋白質分解酵素が欠失していることを確認したこと、
(カ)上記変異菌株を宿主とする際に使用する発現プラスミドは、バチルス・ブレビスで機能するプロモーター、具体的にはバチルス・ブレビス47,同HPD31のプロモーター領域を含有するDNA、を含有しているものが好ましいこと。
そして、引用例7には、B.brevisの細胞壁タンパク質(MWP)遺伝子に、強力なプロモーター、リボゾーム結合部位、シグナルペプチドをコードする配列部分が存在し、これらを用いて構築したプラスミドでB.brevisを形質転換すれば、様々な異種蛋白質を効率よく生産できることが記載されている(上記(2)シ?ソ)。

そうすると、遺伝子組換え技術を利用して異種蛋白質であるプロテインAを生産することについて記載した引用例1においても、上記(ア)に記載の問題があることは自明であるから、かかる問題を解決するため、引用例5に記載されたバチルス・ブレビス47やHPD31、さらにこれを改良した31-OKを宿主として用いることとし、それに伴い、引用発明における、エセリシア・コリー(大腸菌)で機能するλplac5DNAのラクトースオペロンのプロモーターおよびβ-ガラクトシダーゼ領域に代えて、異種蛋白質の効率よい生産ができると引用例7に記載されている、バチルス・ブレビス(これが「ブレビバチルス属の細菌」であることは、本願明細書の【0040】段落から明らかであり、また、International Journal of Systematic Bacteriology,1996,Vol.46,No.4,p.939-946に記載されているように周知でもある)で機能するプロモーターを用い、異種蛋白質の分解が抑制される結果「発現した該蛋白質がSDS-PAGEにおいて単一バンドを示す」ようにすることは、当業者が容易に想到することである。

(5)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成26年2月6日付けで補正された審判請求書及び平成26年8月25日付け回答書において、以下ア?エのように主張する。

ア 米国特許7691608号公報では、プロテインAのIgG結合ドメインとXドメインの一部を含むタンパク質を大腸菌で発現させたことが記載され、Xドメインの一部を含むことの意義として、プロテインA分子のフォールディング及び安定性が改善できると記載されている。この記載から、2007年の時点でも、ブレビバチルス以外の微生物を使用する限りは、プロテインAを分解することなく生産するためにXドメインが必要と考えられていたことが理解できる。安定化のためにXドメインが必要という当業者の技術常識を踏まえると、未分解で完全長のプロテインA様蛋白質の製造という課題を解決するために、引用例1に記載のプロテインA様蛋白質にXドメインを付加して発現させることが必要となり、Xドメインを含まないプロテインA様蛋白質には想到できない。

イ 本願発明で最も大きな課題である構造の同一性について、引用例2?7には、宿主のタンパク質分解活性を抑制して、活性を有する異種タンパク質を発現することが記載されているが、引用例2?7では活性を有していれば部分的に分解されても問題とはならない。・・・引用例2?7では精製した後でなければ活性を検討できず、SDS-PAGEにおいて単一バンドを得ることもできず、ブレビバチルス属菌株で異種タンパク質を製造しても分解を回避できていない。

ウ Brevibacillus 47株であっても、実際には細胞外に微弱なタンパク質分解活性が残存しており、改善されたHPD31株等であっても、実際には細胞外の分解活性が確認されている(国際公開第2005/045005号の図2,3)。引用文献5では、菌体外プロテアーゼ活性が低いHPD31株であっても、菌体外に分泌されたタンパク質が宿主自体のプロテアーゼ活性により分解を受け、その蓄積量が著しく低下するとの問題があったこと、この課題を解決するために、さらにプロテアーゼを欠損させた31-OK株を作製しているが、HPD31株よりもタンパク質分解活性が低下してはいるものの、依然として1/4のプロテアーゼ活性は残存することが示されている。高発現を目的に培養時間を延長すれば、31-OK株を使用しても、発現したタンパク質の分解が元のHPD31株と同程度にまで進んでしまうことになる。このようにプロテアーゼを欠損した株でも十分とはいえないので、特に高い品質が要求されるプロテインAの生産のための宿主として、ブレビバチルス属細菌は、大腸菌と同様に使用できないとしか予想できない。公知のブレビバチルス属菌株であっても、どのような蛋白質にも適用できないことが理解できる。

エ 本願明細書の図9では、本願発明のDNAを含む実施例6のブレビバチルス属細菌の培養液を遠心分離して菌体を除去しただけで、さらに精製を行わなくても、SDS-PAGE及びCBB染色の結果、明確なプロテインAの単一バンドが確認されている。本願発明では、Xドメインを含まないプロテインAと、ブレビバチルス属細菌との特異的な組合せにより、はじめて、長時間培養しても未分解の完全長のタンパク質を発現できるという効果を奏する。引用例からこの効果を予想することはできない。

上記主張について検討する。

アについて
上記(4)アで述べたように、引用例1においては、実際にXドメインを含まないプロテインA様物質を大腸菌で発現させているのであるから、引用例1に接した当業者が、Xドメインを含まないプロテインA様蛋白質に想到できないとはいえない。請求人が指摘する本願優先日後に発行された米国特許公報は、この判断を左右するものではない。

イについて
上記(4)イで述べたように、引用例5においては、宿主自体のプロテアーゼ活性により異種タンパク質の蓄積量が少なくなるという問題を解決するためにプロテアーゼ活性を実質的に有さないバチルス・ブレビス変異株を使用しているのであって、発現されたタンパク質が分解されていても問題にならないとか、分解を回避できないとの請求人の主張は根拠がない。

ウについて
上記(4)イで述べたように、引用例5には、プロテアーゼ活性が低い従来のバチルス・ブレビス株よりもさらにプロテアーゼ活性が有意に低いバチルス・ブレビスOK-31株を作成し、これがタンパク質分解酵素を欠失していることを確認したことが記載されているから、この株を宿主として用いれば、発現したタンパク質の分解が相当程度抑制できることを当業者は当然に期待するのであり、この株がプロテインAの生産のための宿主として使用できないと解するのは妥当でない。

エについて
本願明細書の実施例6及び図9の記載によれば、実施例5で作成したSPA’をコードするDNAとMWPのP2プロモーターを含むプラスミドで形質転換したバチルス・ブレビス31-OKの培養液から、菌体を除去して、定法によりSDS-PAGEに供し、CBB染色することにより、単一バンドが検出されたことが認められる。
ここで用いられているブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31-OK株は、本願明細書の【0034】段落に、「ブレビバチルス・チョウシネンシスHPD31-OK(FERM BP-4573)(特開平6-296485号公報参照)」と、引用例5を参照して記載されているうえ、請求人が提示する国際公開第2005/045005号の2頁4段落及び6頁4?6行に、非特許文献1として記載されている、International Journal of Systematic Bacteriology,1996,Vol.46,No.4,p.939-94(前記(4)イで周知事実をいうために示した文献と同じ)に、B.brevisはBrevibacillesに再分類されたことが記載されている(要約参照)ことから、引用例5に記載のバチルス・ブレビス31-OK株と同一のものであると認められる。そして、CBB染色の検出限界は8-16ngとされており、銀染色に比べると検出限界が高くない(低温科学,2009, Vol.67, p.359-371の367頁右欄6.a.5.1の3?5行及び368頁6.1.5.3の1?3行)。
そうすると、バチルス・ブレビス31-OKにごくわずかのプロテアーゼ活性が残存していることにより検出限界以下の分解物が発生しても、CBB染色によっては検出できないのであるから、本願明細書の実施例6及び図9に示された結果は、特定のプロモーターと特定の宿主細胞を用いてプロテインA様蛋白質を発現させ、SDS-PAGEに供しCBB染色した場合において、分解物が全く生じないことを示すものではなく、単に分解物が検出できなかったことを示すにすぎないと解するのが相当である。
本願補正発明は、含まれるプロモーターも形質転換する際に用いる宿主も具体的に特定されていない、DNA自体の発明であるから、実施例6及び図9に示された結果は、そもそも、本願補正発明全体の効果であるとは認められない。そして、上記ウで述べたとおり、バチルス・ブレビスOK-31株を用いれば、発現したタンパク質の分解が相当程度抑制できることは当業者が当然期待することであり、請求人が主張する効果は、引用例5の記載から当業者が予想可能な効果にすぎない。

3.小括
以上検討したところによれば、本願補正発明は、引用例1、5及び7に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成25年12月17日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、平成25年5月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2 1.に「補正前」として記載したとおりのものである。

2.本願発明の進歩性について
上記第2 2.で述べたとおり、本願補正発明は本願発明の特定事項の一部を限定したものであるから、本願発明は本願補正発明を包含するものであることが明らかである。
そして、上記第2 3.で述べたとおり、本願補正発明は引用例1、5及び7に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明を包含する本願発明も、同様に、引用例1、5及び7に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-26 
結審通知日 2015-03-31 
審決日 2015-04-13 
出願番号 特願2010-179378(P2010-179378)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 白井 美香保  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 植原 克典
高堀 栄二
発明の名称 ブレビバチルス属細菌を用いたプロテインA様蛋白質の生産方法  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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