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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1302147
審判番号 不服2013-17277  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-06 
確定日 2015-07-08 
事件の表示 特願2010-184654「多糖とポリカルボキシル化ポリマーとを含んでなる生物接着性組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月16日出願公開、特開2010-280711〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 出願の経緯
本願は、2003年1月31日(パリ条約による優先権主張 2002年1月31日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願(特願2003-563533号)の一部を、平成22年8月20日に新たな出願としたものであって、平成22年9月21日に手続補正書が提出され、平成24年10月11日付けで拒絶理由が通知され、平成25年1月16日に意見書及び手続補正書が提出され、同年5月1日付けで拒絶査定され、同年9月6日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年11月15日付けで前置審査の結果が報告され、平成26年6月23日付けで審尋され、同年12月24日に回答書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成25年9月6日付け手続補正書による補正を却下する。

〔理由〕
1.補正の内容
平成25年9月6日付け手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項ただし書第4号に掲げる場合の補正であって、本件補正前の特許請求の範囲の
「【請求項1】
粒子の均質混合物を含んでなる生物接着性粉末組成物であって、該粒子の各々がワキシー澱粉と、ポリ(アクリル酸)および/または架橋ポリ(アクリル酸)の混合物であり、該生物接着性粉末組成物が、
a)少なくとも1種の溶媒と、固体基準で、20重量%?95重量%のポリ(アクリル酸)および架橋ポリ(アクリル酸)の少なくとも1種と、5重量%?80重量%の少なくとも1種のワキシー澱粉とを含んでなる溶液を調製すること、および
b)該溶液を噴霧乾燥して粉末にすること
からなるプロセスによって調製されるものである、生物接着性粉末組成物。
【請求項2】
前記溶媒が水である、請求項1に記載の生物接着性粉末組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の噴霧乾燥された生物接着性粉末組成物、および活性成分を含んでなる、活性成分供給ベヒクル。
【請求項4】
前記噴霧乾燥された生物接着性粉末組成物と前記活性成分を一緒に混合すること、および圧力をかけて錠剤を形成することにより調製される、請求項3に記載の活性成分供給ベヒクル。
【請求項5】
口、腸、鼻、眼、舌下または膣の粘膜に投与される、請求項3または4に記載の活性成分供給ベヒクル。」
を、
「【請求項1】
粒子の均質混合物を含んでなる生物接着性粉末組成物であって、該粒子の各々がワキシー澱粉と、ポリ(アクリル酸)および/または架橋ポリ(アクリル酸)の混合物であり、該生物接着性粉末組成物が、
a)少なくとも1種の溶媒と、固体基準で、5重量%?25重量%のポリ(アクリル酸)および架橋ポリ(アクリル酸)の少なくとも1種と、75重量%?95重量%の少なくとも1種のワキシー澱粉とを含んでなる溶液を調製すること、および
b)該溶液を噴霧乾燥して粉末にすること
からなるプロセスによって調製されるものである、生物接着性粉末組成物。
【請求項2】
前記溶媒が水である、請求項1に記載の生物接着性粉末組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の噴霧乾燥された生物接着性粉末組成物、および活性成分を含んでなる、活性成分供給ベヒクル。
【請求項4】
前記噴霧乾燥された生物接着性粉末組成物と前記活性成分を一緒に混合すること、および圧力をかけて錠剤を形成することにより調製される、請求項3に記載の活性成分供給ベヒクル。
【請求項5】
口、腸、鼻、眼、舌下または膣の粘膜に投与される、請求項3または4に記載の活性成分供給ベヒクル。」
と補正するものであるところ、本件補正は次の補正事項を含むものである。

請求項1において、a)で調製する溶液中の
・「ポリ(アクリル酸)および架橋ポリ(アクリル酸)の少なくとも1種」の含有量を「20重量%?95重量%」から「5重量%?25重量%」と、
・「少なくとも1種のワキシー澱粉」の含有量を「5重量%?80重量%」から「75重量%?95重量%」
とする補正

2.補正の目的について
上記補正事項は、本件補正前の請求項1に発明特定事項である「20重量%?95重量%のポリ(アクリル酸)および架橋ポリ(アクリル酸)の少なくとも1種」及び「5重量%?80重量%の少なくとも1種のワキシー澱粉」について、そのいずれの成分の含有量に関する数値範囲をもその範囲内で限定する補正ではないことから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。
したがって、意匠法等の一部を改正する法律(平成18年法律第55号)附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものに該当しない。
また、同項第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものではないことは明らかである。

3.むすび
したがって、本件補正は、改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願の発明について
上記したとおり、平成25年9月6日付け手続補正書による補正は却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、本件補正前の特許請求の範囲、すなわち平成25年1月16日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「粒子の均質混合物を含んでなる生物接着性粉末組成物であって、該粒子の各々がワキシー澱粉と、ポリ(アクリル酸)および/または架橋ポリ(アクリル酸)の混合物であり、該生物接着性粉末組成物が、
a)少なくとも1種の溶媒と、固体基準で、20重量%?95重量%のポリ(アクリル酸)および架橋ポリ(アクリル酸)の少なくとも1種と、5重量%?80重量%の少なくとも1種のワキシー澱粉とを含んでなる溶液を調製すること、および
b)該溶液を噴霧乾燥して粉末にすること
からなるプロセスによって調製されるものである、生物接着性粉末組成物。」

第4 原査定について
原査定は、「平成24年10月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶すべき」というものであるが、当該理由は、概略以下のとおりのものである。
「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
……
・請求項 1?5
・引用文献等 1,2
……
引用文献等一覧
1.《省略》
2.国際公開第01/58430号」

第5 当審の判断
1.刊行物について
原査定で引用された刊行物2には、以下の記載がある。なお、刊行物2は英語で記載されているところ、以下の摘示はその訳文である。
ア.「1.少なくとも1つの溶媒とポリマー混合物(ここで、該ポリマー混合物は、少なくとも1つの天然又は合成ポリカルボキシル化ポリマー及び少なくとも1万ドルトンの分子量を有する少なくとも1つの多糖を含む)との溶液を調製し、;該溶液を乾燥して固体を形成し;そして架橋するのに十分な温度と時間で該固体を熱処理して生物接着性組成物を形成することを含む、生物接着性組成物を製造する方法。
……
4.該溶媒が水である、クレーム1の方法。
……
7.該合成ポリカルボキシル化ポリマーがポリアクリル酸である、クレーム1の方法。
……
9.該合成ポリカルボキシル化ポリマーが架橋ポリアクリル酸である、クレーム1の方法。
……
11.該多糖が澱粉であるクレーム1の方法。
12.該天然又は合成ポリカルボキシル化ポリマーが、約25重量%?約83重量%の量でポリマー混合物中に存在するクレーム1の方法
……
14.該ポリカルボキシル酸がポリアクリル酸であり、該多糖が澱粉であるクレーム1の方法。
15.クレーム1の方法によって調製された生物接着性組成物。
……
21.クレーム15の生物接着性組成物を含む制御放出活性成分送達ビヒクル。
22.薬剤をさらに含むクレーム21の送達ビヒクル。」(15?17頁のCLAIM)

イ.「本発明は改善された生物接着性を有する組成物を提供し、当該組成物は、天然又は合成ポリカルボキシル化ポリマーと多糖分子の溶液を乾燥して固体を形成し、この固体を熱処理して架橋結合を導入することによって用意される。
本発明の方法によって製造される生物接着性組成物は、残留モノマー又は化学薬品残渣を含まず、それゆえ、事後洗浄ステップを必要としない。天然又は合成ポリカルボキシル化ポリマーが該多糖の主鎖に架橋されるので、より高レベルの天然又は合成ポリカルボキシル化ポリマー(例えばポリアクリル酸)が良好な接着性と低粘膜刺激性を提供するために該組成物に取り込まれうる。該生物接着性組成物は中和してもよい。
本発明の生物接着性組成物は、反応容器中に、少なくとも1つの溶媒(好ましくは水)と、約10重量%?約90重量%の多糖及び約10重量%?約90重量%の天然又は合成ポリカルボキシル化ポリマーを含むポリマー混合物とを装入して溶液を用意することにより調製しうる。該混合物を部分的に又は全体的に溶解するために、該溶液を短時間加熱し、攪拌してもよい。
次いで、該混合物は慣用手段(噴霧乾燥、凍結乾燥、空気乾燥、ドラム乾燥及び押出を含むがそれらに限られない)により乾燥して、固体を調製する。乾燥段階の間に製造される固体は、好ましくは約20重量%未満の含水量である。それから、得られた固体は、架橋結合を導入するために好適な手法で、約60℃?約200℃、好ましくは約80℃?約120℃の温度で熱処理される。」(5頁下から2行?6頁22行)

ウ.「例
以下の例で使用されるサンプル1及びサンプル2は、次のようにして製造された。
250gのワキシートウモロコシ澱粉(AMIOCA)を、水中20%の固形分濃度で加熱処理(90℃、30分間)した。この溶液を35重量%のポリアクリル酸溶液(平均分子量約25万の35%水溶液、Aldrich Chemical Company, Inc.から市販)2.14リットルと、Baldorモーターと攪拌翼とを使用して2時間混合した。次いでこの溶液は、Flexi-dry MP(FTSシステムズ)と真空ポンプとを使用して凍結乾燥した。この乾燥固体はコーヒーミルを用いて粉砕した。
サンプル1は該粉末のオーブン熱処理(120℃、15分)により調製した。
対照サンプル2は熱処理を施さない該粉末を含んでいた。」(9頁19行?10頁3行)

エ.「例2
ex vivo生物接着
100%のサンプル1又は100%のサンプル2のいずれかからなる錠剤のin vitro生物接着強度を基質としてブタ粘膜を用いて測定した。接着力と接着の仕事を決定した。結果は表2に示す。
表2
接着力(N) 接着の仕事(mJ)
サンプル1 2.05(±0.59) 0.67(±0.21)
サンプル2 1.22(±0.4) 0.29(±0.09)
本発明に従うサンプル1は卓越した接着性を有することがはっきりと示される。」(12頁のEXAMPLE 2)

2.刊行物2に記載された発明
上記摘示ウのサンプル2は、
「250gのワキシートウモロコシ澱粉(AMIOCA)を、水中20%の固形分濃度で加熱処理(90℃、30分間)した。この溶液を35重量%のポリアクリル酸溶液(平均分子量約25万の35%水溶液、Aldrich Chemical Company, Inc.から市販)2.14リットルと、Baldorモーターと攪拌翼とを使用して2時間混合した。次いでこの溶液は、Flexi-dry MP(FTSシステムズ)と真空ポンプとを使用して凍結乾燥した。この乾燥固体はコーヒーミルを用いて粉砕した。」
ものであり、さらに熱処理を施さないものである。
ここで、35重量%のポリアクリル酸溶液2.14リットル中のポリアクリル酸の量は、ポリアクリル酸溶液の比重を1000g/リットルとすると
2.14リットル×1000g/リットル×35%=749g
と計算できる。
また、摘示ウのサンプル2は、摘示ア、イ及びエの記載からみて、サンプル1と同様、生物接着性組成物であることは明らかである。
そうすると、刊行物2には、サンプル2として、
「ワキシートウモロコシ澱粉とポリアクリル酸の混合物であって、250gのワキシートウモロコシ澱粉と749gのポリアクリル酸とを溶解した水溶液を凍結乾燥し、粉末化した生物接着性組成物」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「生物接着性組成物」は、コーヒーミルで粉砕していることから、粉末であることは明らかであり、したがって、本願発明の「生物接着性粉末組成物」に相当する。
引用発明の「ワキシートウモロコシ澱粉」及び「ポリアクリル酸」は、それぞれ本願発明の「ワキシー澱粉」及び「ポリ(アクリル酸)」に相当する。
引用発明の「水溶液」の「水」は、本願発明の「少なくとも1種の溶媒」に相当する。
引用発明では「ワキシートウモロコシ澱粉」は250g、「ポリアクリル酸」は749g含有するものであるから、これらの固体基準で、
250÷(250+749)=25重量%
のワキシートウモロコシ澱粉と
749÷(250+749)=75重量%
のポリアクリル酸を含むものである。これらの含有量は、本願発明の「5重量%?80重量%の少なくとも1種のワキシー澱粉」及び「20重量5?95重量%のポリ(アクリル酸)」の含有量に包含されるものである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、
「粒子の混合物を含んでなる生物接着性粉末組成物であって、該粒子の各々がワキシー澱粉と、ポリ(アクリル酸)の混合物であり、該生物接着性粉末組成物が、
a)少なくとも1種の溶媒と、固体基準で、75重量%のポリ(アクリル酸)の少なくとも1種と、25重量%の少なくとも1種のワキシー澱粉とを含んでなる溶液を調製すること、および
b)該溶液を乾燥して粉末にすること
からなるプロセスによって調製されるものである、生物接着性粉末組成物。」
の点で一致し、次の点で相違するものである。

相違点1:
本願発明は「粒子の均質混合物」と特定されているが、引用発明では「粒子の混合物」である点。

相違点2:
本願発明では「溶液を噴霧乾燥」するものであるが、引用発明では「溶液を凍結乾燥」するものである点

4.判断
(1)相違点1及び2を併せて検討する。
本願発明の「均質混合物」には特別の意味を持たせている。これについて、本願明細書には、次の記載がある。
i.「本発明の1つの面は、多糖とポリカルボキシル化ポリマーとの均質混合物(また、ここにおいて、「共混合物」と呼ぶ)を含んでなる生物接着性組成物に関する。……。この組成物は、各粒子が多糖とポリカルボキシル化ポリマーとの混合物を含んでなるような方法で調製される。これは、多糖およびポリカルボキシル化ポリマーの離散粒子を含んでなるとして本明細書において定義される物理的混合物と対照的である。いかなる理論にも拘束されたくないが、本発明の均質混合物においてポリマー鎖のからみ合いが分子レベルで起こると考えられる。
……。少なくとも1種の合成ポリカルボキシル化ポリマーと少なくとも1種の多糖とを含んでなるポリマー溶液を乾燥して、これらの成分の均質混合物を形成する。……。ポリマーは、任意の適当な水性または有機溶媒(それらの混合物を包含する)中にコロイド状に分散し、または溶解することができる。好ましい溶媒は水である。本発明の特に好ましい態様において、ポリマー溶液を共噴霧乾燥して均質混合物を形成する。」(段落0007?0008)
ii.「本発明は、生物接着容量が増加しかつ刺激性が減少した生物接着性組成物を提供する。生物接着性組成物は、合成ポリカルボキシル化ポリマーおよび多糖の溶液から、この溶液を共乾燥して成分の均質混合物を形成することによって調製される。」(段落0011)
iii.「ポリカルボキシル化ポリマーおよび多糖の乾燥は、単なる物理的混合物と反対にそれらの均質混合物を生ずる条件下に実施される。
物理的混合物は、例えば、澱粉およびポリ(アクリル酸)の、離散粒子を含んでなる混合物を意味するために本明細書において使用する。
均質混合物は、各粒子が、例えば、澱粉およびポリ(アクリル酸)の、混合物を含んでなる、混合物を意味するために本明細書において使用する。」(段落0012?0013)
iv.「本発明の生物接着性組成物の製造は、多糖および合成ポリカルボキシル化ポリマーの少なくとも1種の溶媒、例えば、水中の溶液を混合容器中に供給し、均一に混合されるまで攪拌することによって達成できる。……
次いで、好都合な手段により、混合物を乾燥して固体(例えば、粉末)を形成する。このような手段は以下を包含するが、これに限定されない:噴霧乾燥、凍結乾燥、空気乾燥、ドラム乾燥及び押出。……。特に好ましい方法は噴霧乾燥である。」(段落0024?0026)

本願明細書のこれらの記載からみて、本願発明でいう「均質混合物」とは、「物理的混合物」との対比で使用されているものであり(摘示i)、「物理的混合物」が、ワキシー澱粉及びポリ(アクリル酸)が離散粒子として存在する、すなわち、ワキシー澱粉とポリ(アクリル酸)とが別々の粒子として存在するのに対し、「均質混合物」は、各粒子がワキシー澱粉とポリ(アクリル酸)との混合物を含むものとの意味で使用されているものと解される(摘示iii)。
そして、均質混合物は、ワキシー澱粉とポリ(アクリル酸)の両者を含む溶液を製造し、この溶液を共乾燥することにより製造できるものであり(摘示i及びii)、そのような乾燥手段として、噴霧乾燥や凍結乾燥が例示されている(摘示iv)。
このような本願明細書の記載からすると、本願発明の「噴霧乾燥」によっても、「凍結乾燥」によっても、乾燥する溶液がワキシー澱粉とポリ(アクリル酸)の両者を含むものであれば、「均質混合物」が得られるものと解するのが妥当であり、またそのような混合物を「均質混合物」と称する場合には、ワキシー澱粉とポリ(アクリル酸)の両者を含む溶液を「凍結乾燥」する引用発明においても、「均質混合物」が得られているものと解される。
そうすると、相違点1は実質的には相違点ではない。
さらに、このような解釈を前提にすれば、引用発明では「凍結乾燥」を採用しているとしても、刊行物2には、「慣用手段(噴霧乾燥、凍結乾燥、……)により乾燥」(摘示ウ)することが記載され、前記したとおり、ワキシー澱粉とポリ(アクリル酸)の両者を含む溶液を乾燥すれば、それらの「均質混合物」が得られ、本願明細書においては「均質混合物」と「物理的混合物」との対比した場合の効果を主張していることに鑑みれば、「均質混合物」を得るための乾燥方法の相違に格別のものがあるとは認められず、相違点2に係る引用発明の「凍結乾燥」に代えて「噴霧乾燥」を採用することは当業者が容易になし得るものといえる。

(2)効果について
ア.本願明細書には、実施例7として、
v.「蒸留水中で、SD 25/75の分散液を部分的にpH 7.4に中和した後、インスリンを1/Uインスリン/mg粉末の比で添加した。これを凍結乾燥し、ついて粉末を63μmの網目大きさの篩に通過させた。10 mgの粉末をウサギ/鼻腔(n=6)に投与した。
図11から理解できるように、インスリン血清濃度(C_(max))は436.0±125.9μIU/mlであり、そしてt_(max)は43.4±12.5分であった。絶対インスリン生物接着性は17.8±4.5%であると計算された。この実施例が明らかに照明するように、ペプチドおよびタンパク質を本発明の生物接着性マトリックス組成物から経鼻的粘膜を介して供給することができる。
共混合物の部分的中和はインスリンの変性を防止するばかりでなく、かつまた刺激を誘導しないで高いレベルのCarbopolの使用を可能とすることが発見された。」(段落0053:なお、段落0035の記載からみて、SD 25/75とはワキシー澱粉25重量%及びポリ(アクリル酸)75重量%の均質混合物を示すものと解され、これは、引用発明の含有量と同じである。)
と記載されているとおり、「凍結乾燥」によっても「共混合物」すなわち「均質混合物」が得られており、その上、生物接着性も、低刺激性も達成していることから、「凍結乾燥」を「噴霧乾燥」に代えたことによって格別な効果を奏するものとはいえない。

イ.また、本願明細書には、実施例4(段落0047?0049)として「ナメクジに対する粘膜刺激試験」が記載されている。ここで、「異なるレベルのCARBOPOLを含有する組成物の粘膜生成を示す」図7をみると、「より低いレベルのCARBOPOL(商標)974Pを有する試料は低刺激性である。」(段落0049)と記載されているとおり、ポリ(アクリル酸)の含有量の低いSD 80/20、SD 75/25及びSD 70/30は粘膜生成量が低く低刺激性であると解されるが、ポリ(アクリル酸)の含有量が本願発明で規定する20重量%?95重量%の範囲であっても、その含有量の多いSD 60/40及びSD 50/50は、陽性対照である「ドラム乾燥ワキシートウモロコシ澱粉/塩化ベンズアルコニウム95/5」(DDWM/BAC 95/5)と大差なく、刺激の低減に効果がないものといえる。このことは、図8の「ナメクジ粘膜からのタンパク質及び酵素の分析」結果においても同様であり、ポリ(アクリル酸)の含有量が本願発明で規定する20重量%?95重量%の範囲であっても、「CARBOPOLの40%およびこれより高いレベルにおいて、タンパク質の放出が存在し、また損傷した細胞から生ずる細胞質ゾル酵素乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)が出現」(段落0049)し、一方で、「25%までのCARBOPOLレベルにおいて酵素が検出されなかった」(段落0049)との結果のとおり、刺激低減に効果がないものが含まれる。
そうすると、本願発明は、「改良された生物接着性(例えば、粘膜接着性)を有し、薬物負荷容量を増加しかつ粘膜刺激発生率を減少する」(段落0006)ものであるにもかかわらず、そのような効果を必ずしも奏さないものである。

ウ.なお、「噴霧乾燥」により「凍結乾燥」に比して格別な効果を奏することは、本願明細書に記載されていない。
また、審判請求書及び回答書において、「凍結乾燥の場合には、噴霧乾燥の場合のように極めて細密な構造の粒子は得られず、凍結乾燥の場合と、噴霧乾燥の場合とでは、得られる混合物粒子中のワキシー澱粉の分子と(架橋)ポリ(アクリル酸)の分子の間の存在状態は全く異なるものと考えられます。したがって、噴霧乾燥の場合に得られる本願発明の利点、効果が、凍結乾燥により得られるとは考えられません。」と主張するが、そのような請求人の主張は、証拠に基づかないものであり、かつ本願明細書の記載から離れた主張である。
さらに、請求人が回答書で本願発明の効果を主張する実施例3、4及び6には、
実施例3:図4における「すべてのAMIOCA澱粉/CARBOPOL(商標)974P共混合物」(段落0045)及び図5における「発明に従い調製された生物接着性組成物(SD 75/25;……)」(段落0046)
実施例4:図6における「本発明の生物接着性組成物(SD 75/25)」(段落0048)
実施例6:「試料SD 75/25」(段落0052及び0053)
と記載されているところ、次の理由から、これらの試料は必ずしも「噴霧乾燥」したものであるとはいえない。
・本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲及び分割の基礎となった出願(特願2003-563533号)に係る国際出願日における請求の範囲の翻訳文では、発明特定事項として「均質混合物」であることが記載されているだけで、「噴霧乾燥」されることは含まれていなかったことから、「共混合物」や「本発明」等の表現は「噴霧乾燥」によるものに限られないこと
・「SD」は、本願明細書の段落0035の記載から噴霧乾燥物を示すようにも窺えるが、一方で、実施例7(凍結乾燥によるものであるため平成22年9月21日付け手続補正書により比較例とされた。このことは、同日付け上申書の(2)第1段落の最後の文を参照のこと。)の結果を示す図11においても「SD 25/75」と記載されていることからみて、凍結乾燥物を含むものと解されること

5.まとめ
したがって、本願発明は、当業者が刊行物2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のことから、請求項1に係る発明は、原査定のとおり特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-05 
結審通知日 2015-02-10 
審決日 2015-02-23 
出願番号 特願2010-184654(P2010-184654)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 樹理  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 新居田 知生
小川 慶子
発明の名称 多糖とポリカルボキシル化ポリマーとを含んでなる生物接着性組成物  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 中島 勝  
代理人 青木 篤  
代理人 青木 篤  
代理人 中村 和広  
代理人 古賀 哲次  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 中村 和広  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  
代理人 福本 積  
代理人 福本 積  
代理人 中島 勝  

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