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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61L
管理番号 1302468
審判番号 不服2012-23195  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-22 
確定日 2015-06-25 
事件の表示 特願2007-545545「血管アクセスを強化するための方法および組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年6月15日国際公開、WO2006/062909、平成20年7月3日国内公表、特表2008-522735〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は2005年12月6日(パリ条約による優先権主張 2004年12月8日、2005年3月21日及び同年5月18日 いずれもアメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成20年11月19日に手続補正書が提出され、平成23年11月10日付けで拒絶理由が通知され、平成24年5月15日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月19日付けで拒絶査定され、同年11月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成25年6月3日付けで前置審査の結果が報告され、当審において、同年12月13日付けで審尋され、平成26年3月7日に回答書が提出され、同年7月10日付けで拒絶理由が通知され、同年10月9日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月28日付けで拒絶理由が通知され、平成27年1月8日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年1月8日付け手続補正書による補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成27年1月8日付け手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項ただし書第3号に掲げる場合の補正であって、本件補正前の特許請求の範囲の
「【請求項1】
血管内皮細胞と、生体適合性マトリクスとを含む、患者内で、天然のまたは外科的に形成される動静脈瘻を処置するための移植可能な材料であって、該材料は、該瘻の外面上に配置され、該材料は、内部スロットを備えた可撓性平面の形態として構成されることを特徴とする、材料。
【請求項2】
前記材料が吻合部での移植用に構成される、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記動静脈瘻が天然動静脈瘻である、請求項1?2のいずれか1項に記載の材料。
【請求項4】
前記動静脈瘻が、橈骨動脈?橈側皮静脈間、上腕動脈?橈側皮静脈間、または上腕動脈?尺側皮静脈間である、請求項1?3のいずれか1項に記載の材料。
【請求項5】
前記動静脈瘻への前記材料の適用より、治療薬投与が先行するか、または治療薬投与と同時である、請求項1?4のいずれか1項に記載の材料。
【請求項6】
前記動静脈瘻への前記材料の適用より、物理的拡張が先行する、請求項1?5のいずれか1項に記載の材料。
【請求項7】
前記材料が、前記瘻の静脈流出領域に、または該静脈流出領域の付近において、該瘻の外面上に配置される、請求項1?6のいずれか1項に記載の材料。」
を、
「【請求項1】
血管内皮細胞と、生体適合性マトリクスとを含む、患者内で、外科的に形成される動静脈瘻を処置するための移植可能な材料であって、該材料は、該瘻の外面上に配置され、該材料は、内部スロットを備えた可撓性平面の形態として構成されることを特徴とし、ここで、該移植可能な材料の該生体適合性マトリクス上または内に存在する該内皮細胞が、生物活性であって、ヘパラン硫酸、TGF-β1、b-FGFおよびNOを提供する、材料。
【請求項2】
前記材料が吻合部での移植用に構成される、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記動静脈瘻が、橈骨動脈?橈側皮静脈間、上腕動脈?橈側皮静脈間、または上腕動脈?尺側皮静脈間である、請求項1?2のいずれか1項に記載の材料。
【請求項4】
前記動静脈瘻への前記材料の適用より、治療薬投与が先行するか、または治療薬投与と同時である、請求項1?3のいずれか1項に記載の材料。
【請求項5】
前記動静脈瘻への前記材料の適用より、物理的拡張が先行する、請求項1?4のいずれか1項に記載の材料。
【請求項6】
前記材料が、前記瘻の静脈流出領域に、または該静脈流出領域の付近において、該瘻の外面上に配置される、請求項1?5のいずれか1項に記載の材料。」
と補正するものであるところ、本件補正は次の補正事項を含むものである。
(1)本件補正前の請求項1における「天然のまたは外科的に形成される動静脈瘻」を「外科的に形成される動静脈瘻」とする補正
(2)本件補正前の請求項1の「特徴とする」を「特徴とし、ここで、該移植可能な材料の該生体適合性マトリクス上または内に存在する該内皮細胞が、生物活性であって、へパラン硫酸、TGF-β1、b-FGFおよびNOを提供する」とする補正
(3)本件補正前の請求項3を削除するとともに、同請求項4?7の請求項番号を整理する補正

2.補正の目的について
補正事項(1)は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、これは平成26年10月28日付け拒絶理由通知書の理由1で示す事項についてするものである。
補正事項(2)は、本件補正前の請求項1の発明特定事項である「血管内皮細胞」を限定するものであって、本件補正前後で請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
補正事項(3)は、請求項の削除を目的とするものである。

3.独立特許要件について
補正事項(2)は、意匠法等の一部を改正する法律(平成18年法律第55号)附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものに該当するところ、本件補正後の請求項1に記載された発明に関し、同条第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件について検討する。

(1)本件補正後の発明について
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、平成27年1月8日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「血管内皮細胞と、生体適合性マトリクスとを含む、患者内で、外科的に形成される動静脈瘻を処置するための移植可能な材料であって、該材料は、該瘻の外面上に配置され、該材料は、内部スロットを備えた可撓性平面の形態として構成されることを特徴とし、ここで、該移植可能な材料の該生体適合性マトリクス上または内に存在する該内皮細胞が、生物活性であって、ヘパラン硫酸、TGF-β1、b-FGFおよびNOを提供する、材料。」

(2)刊行物について
ア.引用刊行物
刊行物1:Helen M. Nugent et al., "Perivascular Endothelial Implants Inhibit Intimal Hyperplasia in a Model of Arteriovenous Fistulae: A Safety and Efficacy Study in the Pig", Journal of Vascular Reseach, 2002, Vol.39, pp.524-533
刊行物2:特表2004-523537号公報

イ.刊行物1の記載事項
(ア)「血管周囲内皮移植片は、動静脈瘻のモデルで内膜過形成を抑制する:ブタにおける安全性及び有効性の研究」(論文名)

(イ)「脈管アクセス合併症は、血液透析患者の大きな問題である。天然動静脈瘻(歴史的にアクセスの好ましい方法)は、1年でたった60%の開存率である。失敗する最も一般的な状態は、吻合部での進行性狭窄によるものである。我々は、以前、ブタにおいて血管周囲内皮細胞移植片が急性バルーン損傷後の内膜肥厚を抑制することを証明し、現在、これらの移植片が動静脈吻合の慢性的でより複雑な損傷モデルにおいて同様の利益をもたらすか否か確定することを研究している。側-側大腿動脈-大腿静脈吻合を24匹の飼育ブタに形成し、同種異系内皮細胞移植片への毒物学的、生物学的、及び免疫学的応答を手術後3日及び1,2ヵ月に調査した。吻合部を、コンフルエントなブタ大動脈内皮細胞を含むポリマーマトリクス(PAE;n=14)又は細胞を含まないコントロールマトリクス(n=10)でくるんだ。PAE移植片は、吻合部での内膜過形成を大きく縮小した(コントロールと比較して2ヵ月で68%(p<0.05)まで)。PAE移植片の有益な効果は、グループ間での再内皮化率の違いによるものではなかった。有効性に影響を与えるような同種異系内皮細胞への重大な免疫学的応答は、いずれのブタおいても見つけられなかった。明白な毒性は、内皮移植片で処理されたいずれの動物においても観察されなかった。これらのデータは、血管周囲内皮細胞移植片が安全で、動静脈吻合のブタモデルで初期の内膜過形成を減じることを示唆する。」(Abstract)

(ウ)「内皮移植片の製法と試験
ブタ大動脈内皮細胞(PAE;Cell Applications,San Diego、Calif.,USA)を、従前の文献のとおりに、Gelfoam中で培養した。4.0×1.0×0.3cm^(3)の無菌のGelfoamブロック(Pharmacia & Upjohn,Kalamazoo,Mich.,USA)に、スポンジ当たり1.5×10^(5)の細胞を播種した。Gelfoamに付着された細胞の数はコラゲナーゼ(Worthington Biochemical Corp.,Freehold,N.J.,USA)で消化後に測定し、細胞の生存能力をトリパンブルー色素排除試験法によって評価した。内皮細胞は、移植の前にコンフルエントになるまで成長させた。……

Gelfoam上で増殖させた内皮細胞の生体内安全性と有効性
内皮移植片の安全性とその動静脈吻合部の周囲を包んだ際の内膜過形成を抑制する能力を評価した。……

手術手順
右大腿動脈アクセスを切開により得た。大腿動脈及び静脈をいずれも末梢側の大腿輪を通るそれらの血管から約15cm離して集めた。両血管からの外膜をそれらが横切る箇所で取り除いた。血管を連続様式で互いに接続し、側-側吻合を完成した(図1)。該吻合の完成後、瘻を通した血流を確認した。その後、該吻合部をPAE含有(n=14吻合部、動物ごとに1箇所)又は細胞なし(n=10吻合部、動物ごとに1箇所)の2つのGelfoamスポンジで軽くくるんだ。移植片は該吻合部のみに配置され、縫合部を超えて広げなかった。Gelfoamでの処置完了後、損傷部は隙間がないように層で塞がれた。」(525頁右欄2行?526頁左欄2行)

ここで、上記摘示事項からみて、
・培養ブタ大動脈内皮細胞を播種したGelfoamスポンジ(摘示(ウ)の内皮移植片の製法と試験の項)は、「血管内皮細胞と、生体適合性マトリクスとを含む」「移植可能な材料」であるといえる。
・該Gelfoamスポンジは、大腿動脈と大腿静脈を接続した側-側吻合部をくるむものであるから(摘示(イ)及び摘示(ウ)の手術手順の項)、該移植可能な材料は「患者内で、外科的に形成される動静脈瘻を処置するため」のものであり、また「可撓性平面の形態として構成され」ており、「該瘻の外面上に配置され」るものである。
・Gelfoamスポンジに播種したブタ大動脈内皮細胞は、移植の前にコンフルエントになるまで成長させていることから(摘示(ウ)の内皮移植片の製法と試験の項)、「該移植可能な材料の該生体適合性マトリクス上または内に存在する該内皮細胞が、生物活性である」といえる。
そうすると、上記刊行物1には、
「血管内皮細胞と、生体適合性マトリクスとを含む、患者内で、外科的に形成される動静脈瘻を処置するための移植可能な材料であって、該材料は、該瘻の外面上に配置され、該材料は、可撓性平面の形態として構成され、ここで、該移植可能な材料の該生体適合性マトリクス上または内に存在する該内皮細胞が、生物活性である、材料」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比・判断
ア.補正発明と引用発明とを対比すると、両者は、
「血管内皮細胞と、生体適合性マトリクスとを含む、患者内で、外科的に形成される動静脈瘻を処置するための移植可能な材料であって、該材料は、該瘻の外面上に配置され、該材料は、可撓性平面の形態として構成され、ここで、該移植可能な材料の該生体適合性マトリクス上または内に存在する該内皮細胞が、生物活性である、材料」
の点で一致するが、次の点で相違するものである。

相違点1:
補正発明では、「移植可能な材料」が「内部スロットを備えた可撓性平面の形態として構成される」ものであることが特定されているが、引用発明では「移植可能な材料」が「可撓性平面の形態として構成され」ると特定されるのみで、「可撓性平面」が「内部スロットを備え」ることについては特定がない点

相違点2:
補正発明では、「該内皮細胞が、生物活性であって、ヘパラン硫酸、TGF-β1、b-FGFおよびNOを提供する」ことが特定されているが、引用発明にはそのような特定がない点

イ.以下、これらの相違点について検討する。
(ア)相違点1
「内部スロットを備えた可撓性平面の形態として構成され」る「移植可能な材料」は、例えば、刊行物1と同様の血管構造物の外側に接触させて配置する移植可能な材料について記載された刊行物2に開示されているように公知のものである。
すなわち、「スロット」とは「細長い穴」の意味であるが、刊行物2の86頁のFig3にはV字型の細長い穴(段落0031でノッチ6又は溝6と呼んでいるもの)が形成されているものが記載されているし、「切れ目」(スリット)の意味であるとしても、刊行物2の87頁のFig4Aには、切れ目(段落0032に記載の「シャント開口部20」や「シャント接触翼または弁21」を形成するために設けられた切れ目)が形成されているものが記載されている。これは、シャント(動静脈吻合部)の形状に合わせるためのものである。
そうすると、吻合部への密着性のために可撓性平面材料に内部スロットを備えることは格別なことではない。

(イ)相違点2
血管内皮細胞が、「へパラン硫酸、TGF-β1、b-FGFおよびNOを提供する」ことは、単に血管内皮細胞の機能に言及したにすぎないものであり、血管内皮細胞を採用することで当然得られる性質にすぎない。そして、引用発明においても血管内皮細胞を使用するものであるから、この点では補正発明と相違するものとはいえない。
ところで、本願明細書には、段落0119及び0135に、移植材料が含むへパラン硫酸、TGF-β_(1)及びb-FGFの好適な範囲が示されている。(NOについては記載がないが、血管内皮細胞がNOを産生することは当業者に周知のことである。)しかしながら、血管内皮細胞が「へパラン硫酸、TGF-β1、b-FGFおよびNOを提供する」ことにより、どのような作用を及ぼすのかについては何も記載されておらず、本願明細書の実施例においては、移植可能な材料の血管内皮細胞についてこれらのレベルを検定したことさえ記載されていない。
そして、本願明細書に「本発明の目的上、移植材料は、これらの代替体外検定の1つまたはそれ以上によって移植材料が好適な抑制表現型を示していると確認されたときに移植準備完了状態である。」(段落0123)や「本発明の移植材料は、好ましくは約4x10^(5)個の細胞/cm^(3)の可撓性平面形態の密度にて約90%生存可能であり、融合時には、少なくとも約0.5個の細胞/日から1.0個の細胞/日、好ましくは少なくとも約1.0、microg/10^(6)個の細胞/日にてへパラン硫酸を、TGF-β_(1)を少なくとも200picog/ml/日から300picog/ml/日、好ましくは少なくとも約300picog/ml/日にて、b-FGFを少なくとも約210picog/ml、好ましくはわずか約400picog/ml/日を下回って含むならし培地を生成する細胞、好ましくは血管内皮細胞を含む。」(段落0135)と記載されていることからすると、血管内皮細胞が、「へパラン硫酸、TGF-β1、b-FGFおよびNOを提供する」とは、移植可能な材料に存在する血管内皮細胞が単に生物活性であることを示すにすぎないものであると解される。
また、これらの本願明細書の記載からみると、血管内皮細胞が「へパラン硫酸、TGF-β1、b-FGFおよびNOを提供する」ことを初めて見いだしたことにより、補正発明がなされたものではないことも明らかである。
なお、仮に、補正発明において、血管内皮細胞が「へパラン硫酸、TGF-β1、b-FGFおよびNOを提供する」ことにより所期の効果が得られるものであるとしても、刊行物1には、血管内皮細胞が、「へパラン硫酸、TGF-β1、b-FGFおよびNOを提供する」ことについて直接の記載はないものの、「吻合部を、コンフルエントなブタ大動脈内皮細胞を含むポリマーマトリクス(PAE;n=14)……でくるんだ。PAE移植片は、吻合部での内膜過形成を大きく縮小した……」(摘示(イ))と記載されているように、血管内皮細胞を使用することによる内膜過形成の阻害(すなわち血管アクセスの開存)という補正発明と同様の効果が示されているのであるから、引用発明の血管内皮細胞も「へパラン硫酸、TGF-β1、b-FGFおよびNOを提供する」性質を有しているものと解するのが自然である。
そうすると、相違点2は実質的には相違点ではない。

以上のことから、補正発明は、当業者が刊行物1及び2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(4)まとめ
上記したとおりであるから、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

4.補正の却下の決定のむすび
したがって、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 当審の判断
1.本願の発明について
上記したとおり、平成27年1月8日付け手続補正書による補正は却下されたので、本願の請求項1?7に係る発明は平成26年10月9日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「血管内皮細胞と、生体適合性マトリクスとを含む、患者内で、天然のまたは外科的に形成される動静脈瘻を処置するための移植可能な材料であって、該材料は、該瘻の外面上に配置され、該材料は、内部スロットを備えた可撓性平面の形態として構成されることを特徴とする、材料。」

2.刊行物について
ア.引用刊行物
平成26年10月28日付け拒絶理由通知書において次の刊行物を引用した。
刊行物1:Helen M. Nugent et al., "Perivascular Endothelial Implants Inhibit Intimal Hyperplasia in a Model of Arteriovenous Fistulae: A Safety and Efficacy Study in the Pig", Journal of Vascular Reseach, 2002, Vol.39, pp.524-533
刊行物2:特表2004-523537号公報
なお、これらの刊行物は、上記第2の3(2)アで引用した刊行物であり、このうち刊行物1には、同イに摘示した(ア)?(ウ)の事項が記載されている。
そして、これらの摘示事項からみて、刊行物1には
「血管内皮細胞と、生体適合性マトリクスとを含む、患者内で、外科的に形成される動静脈瘻を処置するための移植可能な材料であって、該材料は、該瘻の外面上に配置され、該材料は、可撓性平面の形態として構成される、材料」
の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されているといえる。

イ.対比・判断
本願発明と刊行物発明とを対比すると、両者は、
「血管内皮細胞と、生体適合性マトリクスとを含む、患者内で、外科的に形成される動静脈瘻を処置するための移植可能な材料であって、該材料は、該瘻の外面上に配置され、該材料は、可撓性平面の形態として構成される、材料」
の点で一致するが、次の点で相違するものである。

相違点1':
本願発明では、「移植可能な材料」が「内部スロットを備えた可撓性平面の形態として構成される」ものであることが特定されているが、刊行物発明では「移植可能な材料」が「可撓性平面の形態として構成され」ると特定されるのみで、「可撓性平面」が「内部スロットを備え」ることについては特定がない点

この相違点1'は、上記第2の3(2)ウで認定した補正発明と引用発明の相違点1と同じであり、したがって、同ウ(ア)で説明したことがそのまま妥当する。
そうすると、本願発明は、当業者が刊行物1及び2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 請求人の主張について
請求人は、平成27年1月8日付け意見書にて、
「刊行物2に教示される薬物を注入した人工装具は、孔(4)、スロット(6)または窓(19)を有し、これらは、円形、矩形、楕円型または三角形で、全体が装具の内部に配置されます。したがって、刊行物2における内孔を有する実施形態は、自由端(すなわち接合部)を持つ管状構造(例えば、血管)にしか適合し得ません。なぜなら、この内孔は、刊行物2の装具において、血管を通すための唯一の手段だからです。
これに対し、本願発明の移植可能な材料は、生体適合性マトリクス上または内に存在する生物学的に活性な内皮細胞を備えます。本願発明の材料は、刊行物2のように、内孔やスロットや窓を必要としません。それゆえ、本願発明の移植可能な材料は、生体内原位置における管状構造(例えば、自由端を有さない血管)に適合することを可能にします。すなわち、本願発明は、自由端または接合部が存在しない場合にも、生体内原位置における管状構造の上または周囲を自由に滑動して構造を捕捉することが可能なのです。したがって、本願発明の移植可能な材料は、体内の原位置におけるそのインタクトで通常の解剖学的構成における管状構造(例えば、インタクトな血管)を物理的に捕捉し、その構造に処置を提供することができる、という、刊行物2によって教示される利点を上回る、際立った利点を有します。」
と主張しているが、補正発明においては単に「内部スロットを備えた可撓性平面の形態」と特定しているのみであり、請求人の主張するような特別の形態のものに限定しているわけではない。したがって、請求人の上記主張は、請求項の記載に基づかないものであり、首肯できない。

請求人は、同意見書にて、
「刊行物2は、本願発明の阻害要因となる内容を教示しています。刊行物2に開示される人工装具は、生きている内皮細胞と不適合性でかつ有害な影響を与える細胞傷害性の抗増殖性薬剤のような細胞傷害性の化合物を必要とします;他方で、本願発明は、生体適合性マトリクス内に生きた生物活性の内皮細胞が存在し、この「移植可能な材料の該生体適合性マトリクス上または内に存在する該内皮細胞が、生物活性であって、ヘパラン硫酸、TGF-β1、b-FGFおよびNOを提供する」ことを要件とします。重要なことに、刊行物2の実施例はいずれも、装置の成分として細胞を教示も開示もしていません。実際、本願発明の内皮細胞と、刊行物2で必要とされる細胞傷害性化合物とを組み合わせると、本願発明の材料の効力を失わせてしまいます。」
と刊行物2の移植材料に含有させる薬剤の点を根拠に阻害要因を主張している。しかしながら、上記相違点1の判断においては、刊行物2は、動静脈瘻に適用する移植可能な材料の形態の点についてのみ引用するものであるから、該材料の適用箇所に対しどのような効果を期待するかの観点で選択される薬剤(細胞)の相違をもっては、阻害要因とはなり得ない。

第5 むすび
本願の請求項1に係る発明は、当業者が刊行物1及び2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、他の請求項について判断するまでもなく、この理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-30 
結審通知日 2015-02-02 
審決日 2015-02-13 
出願番号 特願2007-545545(P2007-545545)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61L)
P 1 8・ 537- WZ (A61L)
P 1 8・ 575- WZ (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森井 隆信  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 関 美祝
冨永 保
発明の名称 血管アクセスを強化するための方法および組成物  
代理人 石川 大輔  
代理人 山本 健策  
代理人 飯田 貴敏  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  

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