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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04M
管理番号 1302498
審判番号 不服2014-11091  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-11 
確定日 2015-06-25 
事件の表示 特願2010-288743「携帯電話」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月 2日出願公開、特開2011-109685〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成18年6月28日を出願日とする特願2006-178600号(以下「原出願」という。)の一部を平成22年12月24日に新たな特許出願としたものであって,平成25年6月24日付けの拒絶理由通知に対して,同年8月30日に手続補正がされ,平成26年3月4日付けで拒絶査定がされ,これに対して同年6月11日に審判請求がされるとともに,同日に手続補正がされ,同年9月1日付けで上申書が提出されたものである。

第2 本件補正について
1 本件補正の内容
平成26年6月11日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は,特許請求の範囲及び明細書を補正するものであって,特許請求の範囲の請求項1については,本件補正の前後で以下のとおりである。
・補正前
「【請求項1】
着信が発生すると、当該着信に係る発信者からの該着信を含む過去所定時間内の連続した着信回数が所定の着信回数未満である場合には前記着信通知の実施を制限し、前記連続した着信回数が前記所定の着信回数以上である場合には前記着信通知を実施する
携帯電話。」
・補正後
「【請求項1】
着信が発生すると、該着信を含む過去所定時間内における当該着信に係る発信者からの連続した着信回数が、所定の着信回数未満である場合には着信通知の実施を制限し、前記着信に係る発信者からの連続した着信回数が、前記所定の着信回数以上である場合には前記着信通知を実施する
携帯電話。」

2 補正事項の整理
本件補正による特許請求の範囲の請求項1についての補正を整理すると,次のとおりとなる。(当審注.下線は補正箇所を示し,当審で付加したもの。)
・補正事項1
補正前の請求項1の「当該着信に係る発信者からの該着信を含む過去所定時間内の連続した着信回数が」を「該着信を含む過去所定時間内における当該着信に係る発信者からの連続した着信回数が、」と補正すること。
・補正事項2
補正前の請求項1の「前記連続した着信回数が」を「前記着信に係る発信者からの連続した着信回数が、」と補正すること。
・補正事項3
補正前の請求項1の「前記着信通知の実施を制限」を「着信通知の実施を制限」と補正すること。

3 補正の適否について
上記補正事項1は,「当該着信に係る発信者からの」が,「連続した着信回数」ではなく「該着信を含む」にかかるとも解される記載を,発明の詳細な説明の開示内容に対応するよう,「連続した着信回数」にかかる記載にしたものであるから,誤記の訂正をするものであるといえる。上記補正事項2についても同様である。
また,上記補正事項3は,補正前の請求項1の「前記着信通知の実施の制限」の「前記」の記載を削除するものであり,誤記の訂正をするものである。
更に,審判請求人は,審判請求書において,本件補正は誤記の訂正であるとしている。
したがって,上記補正は,誤記の訂正を目的とするものといえる。
そして,上記補正事項1ないし3は本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであることは明らかである。
よって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に適合し,特許法第17条の2第4項第3号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当する。

第3 本願発明の容易想到性について
1 本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
着信が発生すると、該着信を含む過去所定時間内における当該着信に係る発信者からの連続した着信回数が、所定の着信回数未満である場合には着信通知の実施を制限し、前記着信に係る発信者からの連続した着信回数が、前記所定の着信回数以上である場合には前記着信通知を実施する
携帯電話。」

2 引用文献の記載と引用発明
(1)引用文献1の記載と引用発明
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された,特開2005-142978号公報(以下「引用文献1」という。)には,図2,4-5とともに,次の記載がある。
(ア)「【0004】
しかしながら、特許文献1においては、番組の視聴中であっても、電話相手、メール送信相手、番組等の優先度に応じて着信を報知することは考慮されていなかった。即ち、番組視聴中であっても、着信した電話が重要な相手からのものであったり、視聴中の番組が重要度の低いものであるような場合には、番組視聴よりも着信を優先した方が好ましいが、そのような場合であっても視聴者に対して着信を報知することはなされていなかった。このような場合には、番組視聴中であっても、優先度に応じて適切に着信を報知することが望ましい。
【0005】
また、電話をかけた相手に対し、番組の終了時刻を通知するということは考慮されていなかった。そのため、電話をかけた相手は、いつになれば番組が終了して電話が通ずるか分からず、相手の番組視聴が終了するまで何度も電話をかけ直す必要が生じて煩わしい場合も生じうるものとなっていた。このような場合には、電話をかけた相手に対して現在視聴中の番組の終了時刻を通知すれば、上記のような煩わしさをなくすことができ便利である。
【0006】
そこで、本発明は上記問題を解決し、使い勝手の良い通信端末を提供することを目的とする。」

(イ)「【0009】
図1は、通信端末の構成図である。通信端末10は、例えば、携帯電話、PDA等であり、ネットワーク通信部11、TV用通信部12、音声入出力部13、制御部14、記憶部15、キー入力部16、表示部17、終了時刻取得手段18を備えている。
・・・(中略)・・・
【0012】
図2は、本発明に関わる通信端末において、映像再生中に音声着信があった場合の動作シーケンスを表す図である。具体的には、映像再生中に音声着信があった場合に、あらかじめ設定された着信報知条件に応じて着信を報知するか否かを決定し、着信を報知しない場合には電話相手に再生終了時刻を応答メッセージとして通知する動作を示す図である。以下、各ステップ毎に動作を説明する。
(1)ネットワーク通信部11により音声着信が検知されると(S201)、制御部14は現在映像再生中であるか否かをチェックする(S202)。そして、映像再生中であると判断された場合にはS203に移行し、そうでない場合にはS211に移行して着信を報知する(S211)。
【0013】
ここで、「映像再生中」には、ユーザが何らかの形で映像情報を再生、表示している場合が含まれる。例えば、TV放送通信部12で受信した現在放送中のTV放送を表示している場合、あらかじめ録画しておいた放送済みの映像情報を再生している場合、ユーザが通信端末の内蔵カメラ等により録画した映像を再生している場合等が含まれる。また、TV放送はデジタル放送、アナログ放送のいずれであっても構わない。映像を再生、表示しているときに着信があった場合に、着信相手の電話番号等が表示したり、音声(着信メロディ等)を出力すると、目障り感、耳障り感を防ぐことができず、映像に集中することができなくなって視聴が妨げられることとなる。
(2)S202で映像再生中であると判断された場合には、制御部14は記憶部15に記憶された着信報知条件をチェックし、制御部14はその設定状況により映像の再生・映像の表示を優先するか、着信の報知を優先するかを判断する(S203)。そして、映像の再生が優先されると判断された場合にはS204に移行し、そうでない場合にはS211に移行して着信を報知する(S211)。
【0014】
例えば、着信報知条件としてあらかじめ重要な電話相手を設定しておいた場合には、その電話相手から電話があったときは着信の報知を優先して着信報知を行う一方、それ以外の電話相手から電話があったときは、映像の再生を優先して着信を報知しない。これにより、重要な相手から電話があったときは、ユーザは映像再生よりも電話を優先して電話に出ることが可能になる。
・・・(中略)・・・
【0023】
また、これらの条件をそれぞれ組合わせて設定することもできる。例えば、電話相手として取引先の顧客/友人、曜日として平日/休日を設定しておき、取引先の顧客から電話があったときは曜日に関わらず着信報知する一方、友人から電話があったときは平日は着信報知せず、休日は着信報知するという使い方も可能である。このように様々な着信報知条件を設定可能とすることにより、ユーザが好みに応じて様々な着信設定をすることができるようになる。
(3)S203で映像の再生が優先されると判断された場合には、制御部14は、ネットワーク通信部11から着信応答要求を送信するように制御する(S204)。この着信応答要求は、ネットワークを介して通信端末10が電話相手の通信端末と接続するためのものであり、後述する番組終了時刻を電話相手に通知するための動作である。なお、このS204から以下のS208に至る動作はバックグラウンドで行われ、ユーザによる映像の視聴を妨げない。
(4)S204で着信応答要求が送信され、ネットワークを介して電話相手の通信端末と接続されると、終了時刻取得部18は、現在再生中の映像の再生終了時刻情報を取得する(S205)。再生終了時刻情報は、デジタル放送の放送データに含まれる番組の終了時刻等から取得したり、番組を提供しているサーバから取得したり、EPG等によりあらかじめダウンロードした番組表等から取得することが可能である。また、あらかじめ録画しておいた映像を再生している場合には、その録画時間を参照することにより再生終了時刻を取得することができる。」

(ウ)「【0042】
次に、図4を用いて着信報知条件の設定方法について具体的に説明する。
【0043】
図4は、着信報知条件をまとめたテーブルの具体例を表す図である。この着信報知条件テーブルは、上述したように記憶部15に記憶されている。
【0044】
着信報知条件テーブルの各レコードは、設定順401、映像優先モード402、判定条件403から構成される。設定順401は、着信報知条件テーブルからレコードを検索する際の順番を示すものである。即ち、映像再生中に着信があったときは、設定順401の順序に従って上から順々にレコードが検索され、該当するレコードがあるか否かが判断される。映像優先モード402は、「ON」または「OFF」のどちらかの情報を記憶している。この映像優先モード402が「ON」である場合には、電話相手、映像の重要度に関わらず、映像の再生が優先される。逆に、「OFF」である場合には、設定順401の順序に従って判定条件403の内容が確認され、判定条件の内容に従って映像の再生が優先されるか、着信報知が優先されるかが判断される。判定条件403は、「電話をかけてきた相手がAさん」、「現在視聴している番組名がB」、「メール送信者がCさん」、「時間帯が18:00?7:00」のような情報を記憶している。
【0045】
なお、ここでは判定条件が各レコードごとに3種類あるが、1つ以上であればいくつあっても良い。また、上述した再生の月日・曜日・時間帯、再生の場所、電池の残り容量、通信端末の移動速度、電話相手・番組の属性等を判定条件として設定することも可能である。
【0046】
以上のように着信報知条件テーブルにより様々な条件を設定し、ユーザは自分の好みに応じた着信報知条件を設定することが可能となる。
【0047】
次に、図5を用いて、S203及びS303における優先モードの判定手順を具体的に説明する。
(1)まず、検索を開始する設定順の初期値iを1に設定する(S501)。
(2)次に、設定順iが有効であるか否かが判断される(S502)。即ち、設定順iで示されたレコードが着信報知条件テーブル中にあるか否かが判断される。
設定順iが有効であるときは(S502:YES)、S503に移行する。
【0048】
一方、有効でないときは(S502:NO)、S509に移行し、デフォルトの優先モードを読み出して処理を終了する(S509)。図4に示した着信報知条件テーブルの例では、設定順が「*」で示されたレコードがデフォルト値であり、映像優先モード「ON」が読み出され、映像の再生が優先される。
(3)設定順iが有効であると判断されたときは、設定順iで示されたレコードの参照がなされ(S503)、S504に移行する。
(4)判定条件1が満たされているか否かが判断される(S504)。判定条件1が満たされているときは(S504:YES)、S505に移行する。一方、判定条件1が満たされていない場合には(S504:NO)、S507に移行してiをインクリメントし(S507)、S502に戻る。
【0049】
ここでは図4の着信報知条件テーブルの設定順1を例にして説明する。設定順1の判定条件1には「電話相手がAさん」という条件が記憶されているため、音声着信の電話相手がAさんであれば、判定条件1が満たされていると判断されてS505に移行する。一方、電話相手がAさん以外であれば、判定条件1が満たされていないと判断され、S507に移行してiをインクリメントし(S507)、S502に戻る。
(5)判定条件1が満たされていると判断されたときは、判定条件2があるか否か、また判定条件2がある場合には判定条件2が満たされているか否かが判断される(S505)。判定条件2がない場合、又は判定条件2が満たされていると判断された場合には(S505:YES)、S506に移行する。
【0050】
一方、判定条件2が満たされていない場合には(S505:NO)、S507に移行してiをインクリメントし(S507)、S502に戻る。
【0051】
図4の設定順1の例では、判定条件2には何も設定されていないため、S506に移行する。
(6)判定条件2がない場合、判定条件2が満たされていると判断された場合は、判定条件3があるか否か、また判定条件3がある場合には判定条件3が満たされているか否かが判断される(S506)。判定条件3がない場合、又は判定条件2が満たされていると判断された場合には(S506:YES)、S508に移行する。
【0052】
一方、判定条件3が満たされていない場合には(S506:NO)、S507に移行してiをインクリメントし(S507)、S502に戻る。
【0053】
図4の設定順1の例では、設定順1の判定条件3には何も設定されていないため、S508に移行する。
(7)判定条件3がない場合、判定条件3が満たされていると判断された場合は、設定順iの映像優先モードが読み出される(S508)。
【0054】
図4の設定順1の例では、上記S502から507の処理がなされることにより、電話相手がAさんである場合にはこのS508、Aさん以外の場合にはS509に移行する。即ち、電話相手がAさんである場合には設定順1の映像優先モード「OFF」が読み出されるため着信報知がなされ、Aさん以外の場合にはデフォルトの映像優先モード「ON」が読み出されるため映像再生が優先され、着信報知されない。
【0055】
同様にして、設定順2に関しては、視聴中の番組が番組Bである場合には着信報知され、番組B以外の場合には着信報知されない。設定順3に関しては、メール送信者がCさんであり、かつ、時間帯が18:00?7:00である場合には着信報知され、それ以外の場合には着信報知されない。設定順4に関しては、時間帯が20:00?22:00であり、電話相手がDさんであり、かつ、番組Eである場合には着信報知され、それ以外の場合には着信報知されない。
【0056】
上記のようにして、各設定順の判定条件が満たされるか否かを順に判断し、各設定順の全ての判定条件が満たされた場合には、その設定順iの映像優先モードの情報を読み出し、設定された映像優先モードに応じて映像再生を優先するか着信報知を優先するかが決定される。全ての判定条件が満たされない場合には、デフォルトの映像優先モードが設定され、映像再生が優先され、着信報知されない。」

イ 引用発明
(ア)上記ア(イ)の【0012】によれば,引用文献1には,映像再生中に音声着信があった場合に,あらかじめ設定された着信報知条件に応じて着信を報知するか否かを決定する通信端末が記載されている。
そして,上記ア(ウ)の【0046】?【0056】及び図2,4-5より,複数の判定条件を満たさない場合には着信報知せず,複数の判定条件を満たす場合には着信報知を行うことが記載されていると認められる。
そうすると,上記ア(イ),(ウ)及び図2,4-5から,引用文献1には,音声着信があった場合に,複数の判定条件を満たさない場合には着信報知せず,複数の判定条件を満たす場合には着信報知を行うことについて記載されているということができる。

(イ)上記ア(イ)の【0009】によれば,引用文献1には,通信端末は,携帯電話であることについて記載されている。

(ウ)上記(ア),(イ)及び図2,4-5より,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「音声着信があった場合に,複数の判定条件を満たさない場合には着信報知せず,複数の判定条件を満たす場合には着信報知を行う
携帯電話。」

(2)引用文献2と引用文献2に記載の技術
ア 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された,特開平9-83637号公報(以下「引用文献2」という。)には,図1及び5とともに,次の記載がある。
(ア)「【0004】本発明は上記実情に鑑みて為されたもので、呼出音を鳴らさない設定を特定の操作によって発呼をする者(以下、発呼者)が解除することにより、緊急時の連絡を効率的に行うことができる携帯電話機を提供することを目的とする。」

(イ)「【0033】第3の実施の形態の携帯電話機(以下、第3の携帯電話機)は、図1に示した第1の実施の形態の携帯電話機と同様の構成をとるものであるが、制御部10と、データ記憶部9と、消音設定解除部11とが、少々異なっている。
【0034】各部を具体的に説明すると、制御部10は、音声入力部2から入力された音声信号を無線通信回路部4に出力するものであり、消音設定の設定/解除の状態を表すフラグを有しており、動作設定入力部6からの通知によって、フラグを「1」(消音設定)または「0」(消音設定解除)にするものである。
【0035】また、制御部10は、着信すると、その時刻と呼出者の電話番号とをデータ記憶部9に格納し、消音設定解除部11に格納完了の信号を出力するものである。また、制御部10は、消音設定解除部11から消音設定解除の信号を入力されると、音声信号出力部8に信号を出力するものである。
【0036】データ記憶部9は、着信時刻と呼出者の電話番号とを格納しているものである。消音設定解除部11は、あらかじめ設定されている設定値を格納しており、データ記憶部9の内容を検索して、各電話番号が何件ずつ格納されているかを調べ、各件数が設定値を超えている場合には、制御部10に消音設定解除の信号を出力するものである。
【0037】具体的には、消音設定解除部11は、図5に示すように制御部10から呼出者の電話番号のデータ記憶部9への格納完了の信号の入力を待って待機する(S31)。そして、制御部10から信号の入力があると、消音設定解除部11は、データ記憶部9を検索して、格納されている電話番号別に何回発呼が為されたかその回数をカウントする(S32)。このカウントの方法は従来からよく知られているものであるので、説明を省略する。
【0038】そして、消音設定解除部11は、電話番号別にカウントした値と、設定されている値とを比較して(S33)、カウント値が設定値より大きいものがあれば(YESならば)、制御部10に消音設定解除の信号を出力して(S34)、処理S31に戻るものである。また、どの電話番号に対するカウント値も設定値より大きくなっていないならば(NOならば)、なにもせず処理S31に戻るものである。
【0039】尚、表示部1と、マイク3と、音声入力部2と、アンテナ5と、無線通信回路部4と、スピーカ8と、音声信号発生部7と、動作設定入力部6とは第1の携帯電話機のものと同様であるので、その説明を省略する。
【0040】次に、第3の携帯電話機の動作について、消音設定がされており、設定されたカウント値が「2」である場合を例にとって説明する。ここで、例えば、2つの電話番号がデータ記憶部9に格納されており、第1の電話番号の電話機から発呼された回数が「1」、第2の電話番号の電話機から発呼された回数が「2」のときに、第2の電話番号の電話機から発呼されたとすると、呼出の信号は、無線通信回路部4によって、制御部10と消音設定解除部11とに出力される。制御部10が呼出信号の入力によって、フラグを調べ、消音設定(フラグ「1」)が設定されているで、呼出の時刻と呼出者の電話番号(この場合には第2の電話番号)とをデータ記憶部9に格納し、消音設定解除部11に格納完了の信号を出力する。
【0041】制御部10から出力された格納完了の信号が、消音設定解除部11に入力されると、データ記憶部9に格納されている電話番号のデータが消音設定解除部11によって検索され、各電話番号ごとに、格納されている件数がカウントされる。つまり、この例では、第1の電話番号の電話機から発呼された回数が「1」、第2の電話機から発呼された回数が「3」となる。そして、カウント値が消音設定解除部11によって検索され、設定された値「2」とそれぞれを比較し、第1の電話機から着信した回数「1」は「2」より小であるので、なにもせず、第2の電話機から着信した回数が「3」であり、「2」より大であるので、制御部10に消音設定解除の信号が出力される。
【0042】そして、制御部10が音声信号出力部8に信号を出力し、音声信号出力部8がスピーカ7を介して呼出音を出力する。
【0043】第3の携帯電話機によれば、特定の回数発呼を行うことによって、発呼者が消音設定を解除できる携帯電話機としているので、携帯者が都合によって呼出音を鳴らさないようにしている場合にも、呼出音を強制的に鳴らすことができ、緊急の連絡を効率的に行うことができる効果がある。」
イ 引用文献2に記載の技術
上記アから,引用文献2には,緊急時の連絡を効率的に行うことができる携帯電話機を提供することを目的として,電話番号別に何回発呼が為されたかその回数をカウントし,発呼された電話番号の電話番号別のカウント値が設定値よりも大きければ消音設定を解除して呼出音を出力し,カウント値が設定値以下であれば呼出音を出力しない携帯電話機が記載されていると認められる。

(3)周知文献と周知技術
ア 周知文献
特開平9-186744号公報には,図5とともに,次の記載がある。
(ア)「【0025】図4は、本発明による第2の実施形態の構成を説明する構成図である。図4において、第2の実施形態による新たな無線通信機400は、着信応答のない期間の長さである着信時間を計るタイマ(以下、着信タイマという)401を新たに設け、第1の実施形態における着信カウンタ108と並列に制御部104と接続し、記憶部103に代えて新たな記憶部403と置き換える他は、第1の実施形態と同様の構成である。
【0026】新たな記憶部403は、後記して述べる第2基準値をさらに記憶するものであり、また、制御部104は、着信タイマ401からの着信時間をも取得する。着信タイマ401は、交換機から無線通信機400に着信があり、加入者の応答操作がなされると初期状態に復帰し、これがなされないと経過時間の計数を開始して加入者の着信時間を計測し、第2計数値として制御部104に通知する。
【0027】次に、第2の実施形態の動作について述べる。図5は、図4における第3の動作例を説明する流れ図である。図5に示す第3の動作例は、新たな無線通信機400において最初の着信に応答がなされなかったときから10分以内に、続く2回目の着信にも拘らずやはり応答操作がなされない場合に、3回目以降の着信における呼出音の音量を最大に変更する一例について述べる。つまり、着信に応答操作がなされないことを許容する回数である第1基準値は、この場合、着信回数2回であって、着信カウンタ108の引数Nは予め2に設定してある。また、同じく許容される時間である第2基準値は10分であって、着信タイマ401の引数Mは予め10に設定する。
【0028】先ず、無線通信機400の電源スイッチをオンし、着信カウンタ108と着信タイマ401は初期値ゼロに復帰され、呼出音は通常の音量に設定される(ステップ501)。
【0029】続いて、第1の動作例のステップ202,203と同様の処理が遂行され、呼出音の鳴動を開始して着信タイマ401の計数を停止する処理(ステップ504)をステップ204と置き換えて遂行する。さらに続いて、第1の動作例のステップ205?208と同様の処理が遂行され、ステップ208で着信が中断した場合(Y)は、呼出音の鳴動を停止して着信タイマ401を始動し(ステップ511)、着信タイマ401の着信時間を第2基準値と比較する(ステップ512)。
【0030】比較の結果、第2基準値以上である場合(N)は、呼出音が既に最大の音量であるか否かを判定し(ステップ513)、最大の音量である場合(Y)はステップ202の処理に戻り待機状態となる。また、最大の音量でない場合(N)はステップ501の処理に戻り初期状態を設定する。ステップ512において、第2基準値より短い場合(Y)は、以下、第1の動作例のステップ210?213と同様の処理が遂行される。」

(イ)「【0032】なお、本発明は前述の実施形態にのみ限定されるものではなく、呼出音の音量設定の時間条件や着信回数は使用者が任意に設定でき、使用環境やビジネス形態に汎用的な無線通信機の用途を提供できるようにしてもよい。また、拡大前の通常の音量レベルに代えて無音とし、前記の各条件により呼出音が発するものとして使用者が着信を意図的に制限するものでもよく、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。」

(ウ)「【0034】第2に、無線通信機に着信タイマを内蔵して所定の時間内に所定の着信回数を越えると呼出音を大きくできる構成のため、繰り返し短時間に着信が行われる緊急の場合には、使用者の注意を喚起することができる一方、緊急性のない着信には通常の音量で呼出音を発することができ使用者に必要以上の注意を強いることがない。」

イ 周知技術
上記アから,周知文献には,緊急の場合に使用者の注意を喚起するために所定の時間内の着信回数をカウントする周知技術が記載されていると認められる。

3 本願発明と引用発明との対比
(1)対比
本願明細書の【0032】,【0044】によれば,本願発明における「着信通知の実施を制限する」とは,着信通知の実施をしないことを含むものであるから,引用発明における「着信報知せず」,及び「着信報知を行う」は,それぞれ,本願発明における「着信通知の実施を制限し」,「着信通知を実施する」に相当するといえる。
そして,本願発明の「該着信を含む過去所定時間内における当該着信に係る発信者からの連続した着信回数が、所定の着信回数未満である場合」と引用発明の「複数の判定条件を満たさない場合」とは,「所定の条件を満たさない場合」という点で一致している。
そうすると,本願発明と引用発明とは,後述する相違点に係る構成を除き,着信が発生すると,所定の条件を満たさない場合には着信通知の実施を制限し,所定の条件を満たす場合には前記着信通知を実施する携帯電話である点で共通するということができる。

(2)一致点及び相違点
上記(1)から,本願発明と引用発明との一致点と相違点は,次のとおりである。
[一致点]
「着信が発生すると,所定の条件を満たさない場合には着信通知の実施を制限し,所定の条件を満たす場合には前記着信通知を実施する携帯電話。」
[相違点]
上記[一致点]の「所定の条件」について,本願発明では,「該着信を含む過去所定時間内における当該着信に係る発信者からの連続した着信回数」であるのに対し,引用発明では,複数の判定条件である点。

4 相違点についての検討
上記2(1)イ(ア)より,引用発明の複数の判定条件は,例えば,メール送信者と時間帯等種々のものがあるところ,複数の判定条件として,引用文献2に記載された,電話番号別のカウント値(すなわち,発呼者の電話番号と発呼回数との複数の条件)を適用することは格別困難なことではなく,容易になし得ることである。
ここで,引用文献2に記載の技術は,緊急時の連絡を効率的に行うことを目的(上記2(2)ア(イ)の【0043】)としており,緊急の場合に使用者の注意を喚起するために所定の時間内の着信回数をカウントすることは,例えば,特開平9-186744号公報の【0034】にもみられるように普通に行われていることであるし,また,時間の離れた着信回数をカウントしても緊急性の場合とは関係ないことは明らかであるから,引用文献2において,電話番号別の発呼を過去所定時間内においてカウントしていると解することは自然であるし,そうすることは自ずと導出されることに過ぎない。
以上から,相違点に係る構成は,引用発明,引用文献2及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものである。
そして,本願発明の作用効果も引用発明,引用文献2及び周知技術に基づ
いて,当業者が予測できる範囲のものである。

なお,請求人は平成26年9月1日に提出した上申書において,上記特開平9-186744号公報は,着信が連続であるか否かを問わず所定の回
数があった場合に所定の処理を行うものである点で,本願発明の「連続した着信回数」とは相違する旨の主張をしている。
しかしながら,本願明細書の【0043】及び図5のとおり,例えば,過去所定時間内の2回の着信を「2回連続着信」と称しているのであるから,本願発明の「過去所定時間内の連続した着信回数」とは単に「過去所定時間内に着信した回数」を含むことは明らかである。
よって,上記主張は採用できない。

5 まとめ
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明(本願発明)は,引用文献1記載の発明(引用発明),引用文献2及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

第4 結言

したがって,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶をするべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-21 
結審通知日 2015-04-28 
審決日 2015-05-14 
出願番号 特願2010-288743(P2010-288743)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山岸 登  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 高野 美帆子
山中 実
発明の名称 携帯電話  
代理人 特許業務法人はるか国際特許事務所  

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