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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1302638
審判番号 不服2013-18214  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-20 
確定日 2015-07-01 
事件の表示 特願2009-507825「ハロアリール置換アミノプリン、その組成物及びそれによる治療方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月 8日国際公開、WO2007/127382、平成21年10月 1日国内公表、特表2009-535346〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2007年4月25日(パリ条約による優先権主張 2006年4月26日、米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成24年9月10日付け拒絶理由通知に対する平成25年3月22日付け手続補正がなされたが、同年4月25日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年9月20日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされた。

第2 平成25年9月20日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成25年9月20日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明

平成25年9月20日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)により、本願の特許請求の範囲は、以下のように補正された。
<補正前(平成25年3月22日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲)>
「 【請求項1】
インスリン抵抗を治療するための医薬組成物であって、式(I)を有する化合物又はその医薬として許容し得る塩を含む、前記医薬組成物:
【化1】

(式中、
R^(1)は、置換又は非置換のC_(1?6)アルキル、置換又は非置換のアリール、置換又は非置換のC_(3?10)シクロアルキル、置換又は非置換のC_(3?10)複素環、或いは置換又は非置換のC_(3?10)ヘテロアリールであり;
R^(2)は、H、置換又は非置換のC_(1?6)アルキル、置換又は非置換のアリール、置換又は非置換のC_(3?10)シクロアルキル、置換又は非置換のC_(3?10)複素環、或いは置換又は非置換のC_(3?10)ヘテロアリールであり;
R^(3)は、1つ以上のハロゲンで置換されたアリール、又は1つ以上のハロゲンで置換されたC_(3?10)ヘテロアリールであり、アリール基又はC_(3?10)ヘテロアリール基は、1つ以上のC_(1?6)アルキル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、カルボキシ基、アミノカルボニル基、シアノ基、アシルアミノ基、アルカンスルホニルアミノ基、テトラゾリル基、トリアゾリル基又はイミダゾリル基で任意にさらに置換されている)。
【請求項2】
糖尿病を治療するための医薬組成物であって、式(I)を有する化合物又はその医薬として許容し得る塩を含み、
前記糖尿病が、遅延発症I型糖尿病、真性糖尿病、妊娠糖尿病、成人発症型糖尿病、若年性糖尿病、インスリン依存性糖尿病、非インスリン依存性糖尿病、栄養不良関連糖尿病、ケトン症糖尿病、糖尿病前症、嚢胞性線維症関連糖尿病又はケトン症抵抗性糖尿病である、前記医薬組成物:
【化2】

(式中、
R^(1)は、置換又は非置換のC_(1?6)アルキル、置換又は非置換のアリール、置換又は非置換のC_(3?10)シクロアルキル、置換又は非置換のC_(3?10)複素環、或いは置換又は非置換のC_(3?10)ヘテロアリールであり;
R^(2)は、H、置換又は非置換のC_(1?6)アルキル、置換又は非置換のアリール、置換又は非置換のC_(3?10)シクロアルキル、置換又は非置換のC_(3?10)複素環、或いは置換又は非置換のC_(3?10)ヘテロアリールであり;
R^(3)は、1つ以上のハロゲンで置換されたアリール、又は1つ以上のハロゲンで置換されたC_(3?10)ヘテロアリールであり、アリール基又はC_(3?10)ヘテロアリール基は、1つ以上のC_(1?6)アルキル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、カルボキシ基、アミノカルボニル基、シアノ基、アシルアミノ基、アルカンスルホニルアミノ基、テトラゾリル基、トリアゾリル基又は
イミダゾリル基で任意にさらに置換されている)。
【請求項3】
特発性肺線維症、骨髄線維症、肝線維症、脂肪性線維症又は脂肪性肝炎を治療するための医薬組成物であって、式(I)を有する化合物又はその医薬として許容し得る塩を含む、前記医薬組成物:
【化3】

(式中、
R^(1)は、置換又は非置換のC_(1?6)アルキル、置換又は非置換のアリール、置換又は非置換のC_(3?10)シクロアルキル、置換又は非置換のC_(3?10)複素環、或いは置換又は非置換のC_(3?10)ヘテロアリールであり;
R^(2)は、H、置換又は非置換のC_(1?6)アルキル、置換又は非置換のアリール、置換又は非置換のC_(3?10)シクロアルキル、置換又は非置換のC_(3?10)複素環、或いは置換又は非置換のC_(3?10)ヘテロアリールであり;
R^(3)は、1つ以上のハロゲンで置換されたアリール、又は1つ以上のハロゲンで置換されたC_(3?10)ヘテロアリールであり、アリール基又はC_(3?10)ヘテロアリール基は、1つ以上のC_(1?6)アルキル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、カルボキシ基、アミノカルボニル基、シアノ基、アシルアミノ基、アルカンスルホニルアミノ基、テトラゾリル基、トリアゾリル基又はイミダゾリル基で任意にさらに置換されている)。
【請求項4】
R^(1)が置換又は非置換のC_(3?10)シクロアルキルである、請求項1、2又は3記載の医薬組成物。
【請求項5】
R^(1)が、1つ以上のC_(1?6)アルキル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、カルボキシ基、アミノカルボニル基、シアノ基、アシルアミノ基、アルカンスルホニルアミノ基、テトラゾリル基、トリアゾリル基又はイミダゾリル基で置換されたC_(3?10)シクロアルキルである、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項6】
R^(2)が置換又は非置換のC_(3?10)複素環である、請求項1、2又は3記載の医薬組成物。
【請求項7】
R^(2)が、置換又は非置換の3-オキセタニル、3-テトラヒドロフラニル、4-テトラヒドロピラニル、4-ピペリジニル、4-(1-アシル)-ピペリジニル、4-(1-アルカンスルホニル)ピペリジニル、3-ピロリジニル、3-(1-アシル)ピロリジニル、又は3-(1-アルカンスルホニル)
ピロリジニルである、請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
R^(3)がハロゲン置換アリールである、請求項1、2又は3記載の医薬組成物。
【請求項9】
R^(3)がフルオロ置換アリールである、請求項8記載の医薬組成物。
【請求項10】
インスリン抵抗、糖尿病、特発性肺線維症、骨髄線維症、肝線維症、脂肪性線維症又は脂肪性肝炎を予防するための医薬組成物であって、式(I)を有する化合物又はその医薬として許容し得る塩を含み、
前記糖尿病が、遅延発症I型糖尿病、真性糖尿病、妊娠糖尿病、成人発症型糖尿病、若年性糖尿病、インスリン依存性糖尿病、非インスリン依存性糖尿病、栄養不良関連糖尿病、ケトン症糖尿病、糖尿病前症、嚢胞性線維症関連糖尿病又はケトン症抵抗性糖尿病である、前記医薬組成物:
【化4】

(式中、
R^(1)は、置換又は非置換のC_(1?6)アルキル、置換又は非置換のアリール、置換又は非置換のC_(3?10)シクロアルキル、置換又は非置換のC_(3?10)複素環、或いは置換又は非置換のC_(3?10)ヘテロアリールであり;
R^(2)は、H、置換又は非置換のC_(1?6)アルキル、置換又は非置換のアリール、置換又は非置換のC_(3?10)シクロアルキル、置換又は非置換のC_(3?10)複素環、或いは置換又は非置換のC_(3?10)ヘテロアリールであり;
R^(3)は、1つ以上のハロゲンで置換されたアリール、又は1つ以上のハロゲンで置換されたC_(3?10)ヘテロアリールであり、アリール基又はC_(3?10)ヘテロアリール基は、1つ以上のC_(1?6)アルキル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、カルボキシ基、アミノカルボニル基、シアノ基、アシルアミノ基、アルカンスルホニルアミノ基、テトラゾリル基、トリアゾリル基又はイミダゾリル基で任意にさらに置換されている)。」
<補正後(平成25年9月20日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲)>
「 【請求項1】
インスリン抵抗を治療するための医薬組成物であって、式(I)を有する化合物又はその医薬として許容し得る塩を含む、前記医薬組成物:
【化1】

(式中、
R^(1)は、置換又は非置換のC_(1?6)アルキル、置換又は非置換のアリール、置換又は非置換のC_(3?10)シクロアルキル、置換又は非置換のC3?10複素環、或いは置換又は非置換のC_(3?10)ヘテロアリールであり;
R^(2)は、H、置換又は非置換のC_(1?6)アルキル、置換又は非置換のアリール、置換又は非置換のC_(3?10)シクロアルキル、置換又は非置換のC_(3?10)複素環、或いは置換又は非置換のC_(3?10)ヘテロアリールであり;
R^(3)は、1つ以上のハロゲンで置換されたアリール、又は1つ以上のハロゲンで置換されたC_(3?10)ヘテロアリールであり、アリール基又はC_(3?10)ヘテロアリール基は、1つ以上のC_(1?6)アルキル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、カルボキシ基、アミノカルボニル基、シアノ基、アシルアミノ基、アルカンスルホニルアミノ基、テトラゾリル基、トリアゾリル基又は
イミダゾリル基で任意にさらに置換されている)。
【請求項2】
糖尿病を治療するための医薬組成物であって、式(I)を有する化合物又はその医薬として許容し得る塩を含み、
前記糖尿病が、真性糖尿病、妊娠糖尿病、成人発症型糖尿病、若年性糖尿病、インスリン依存性糖尿病、非インスリン依存性糖尿病、栄養不良関連糖尿病、ケトン症糖尿病、糖尿病前症、嚢胞性線維症関連糖尿病又はケトン症抵抗性糖尿病である、前記医薬組成物:
【化2】

(式中、
R^(1)は、置換又は非置換のC_(1?6)アルキル、置換又は非置換のアリール、置換又は非置換のC_(3?10)シクロアルキル、置換又は非置換のC_(3?10)複素環、或いは置換又は非置換のC_(3?10)ヘテロアリールであり;
R^(2)は、H、置換又は非置換のC_(1?6)アルキル、置換又は非置換のアリール、置換又は非置換のC_(3?10)シクロアルキル、置換又は非置換のC_(3?10)複素環、或いは置換又は非置換のC_(3?10)ヘテロアリールであり;
R^(3)は、1つ以上のハロゲンで置換されたアリール、又は1つ以上のハロゲンで置換されたC_(3?10)ヘテロアリールであり、アリール基又はC_(3?10)ヘテロアリール基は、1つ以上のC_(1?6)アルキル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、カルボキシ基、アミノカルボニル基、シアノ基、アシルアミノ基、アルカンスルホニルアミノ基、テトラゾリル基、トリアゾリル基又は
イミダゾリル基で任意にさらに置換されている)。
【請求項3】
特発性肺線維症、骨髄線維症、肝線維症、脂肪性線維症又は脂肪性肝炎を治療するための医薬組成物であって、式(I)を有する化合物又はその医薬として許容し得る塩を含む、前記医薬組成物:
【化3】

(式中、
R^(1)は、置換又は非置換のC_(1?6)アルキル、置換又は非置換のアリール、置換又は非置換のC_(3?10)シクロアルキル、置換又は非置換のC_(3?10)複素環、或いは置換又は非置換のC_(3?10)ヘテロアリールであり;
R^(2)は、H、置換又は非置換のC_(1?6)アルキル、置換又は非置換のアリール、置換又は非置換のC_(3?10)シクロアルキル、置換又は非置換のC_(3?10)複素環、或いは置換又は非置換のC_(3?10)ヘテロアリールであり;
R^(3)は、1つ以上のハロゲンで置換されたアリール、又は1つ以上のハロゲンで置換されたC_(3?10)ヘテロアリールであり、アリール基又はC_(3?10)ヘテロアリール基は、1つ以上のC_(1?6)アルキル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、カルボキシ基、アミノカルボニル基、シアノ基、アシルアミノ基、アルカンスルホニルアミノ基、テトラゾリル基、トリアゾリル基又はイミダゾリル基で任意にさらに置換されている)。
【請求項4】
R^(1)が置換又は非置換のC_(3?10)シクロアルキルである、請求項1、2又は3記載の医薬組成物。
【請求項5】
R^(1)が、1つ以上のC_(1?6)アルキル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、カルボキシ基、アミノカルボニル基、シアノ基、アシルアミノ基、アルカンスルホニルアミノ基、テトラゾリル基、トリアゾリル基又はイミダゾリル基で置換されたC_(3?10)シクロアルキルである、請求項4記載の医薬組成物。
【請求項6】
R^(2)が置換又は非置換のC_(3?10)複素環である、請求項1、2又は3記載の医薬組成物。
【請求項7】
R^(2)が、置換又は非置換の3-オキセタニル、3-テトラヒドロフラニル、4-テトラヒドロピラニル、4-ピペリジニル、4-(1-アシル)-ピペリジニル、4-(1-アルカンスルホニル)ピペリジニル、3-ピロリジニル、3-(1-アシル)ピロリジニル、又は3-(1-アルカンスルホニル)ピロリジニルである、請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
R^(3)がハロゲン置換アリールである、請求項1、2又は3記載の医薬組成物。
【請求項9】
R^(3)がフルオロ置換アリールである、請求項8記載の医薬組成物。
【請求項10】
インスリン抵抗、糖尿病、特発性肺線維症、骨髄線維症、肝線維症、脂肪性線維症又は脂肪性肝炎を予防するための医薬組成物であって、式(I)を有する化合物又はその医薬として許容し得る塩を含み、
前記糖尿病が、真性糖尿病、妊娠糖尿病、成人発症型糖尿病、若年性糖尿病、インスリン依存性糖尿病、非インスリン依存性糖尿病、栄養不良関連糖尿病、ケトン症糖尿病、糖尿病前症、嚢胞性線維症関連糖尿病又はケトン症抵抗性糖尿病である、前記医薬組成物:
【化4】

(式中、
R^(1)は、置換又は非置換のC_(1?6)アルキル、置換又は非置換のアリール、置換又は非置換のC_(3?10)シクロアルキル、置換又は非置換のC_(3?10)複素環、或いは置換又は非置換のC_(3?10)ヘテロアリールであり;
R^(2)は、H、置換又は非置換のC_(1?6)アルキル、置換又は非置換のアリール、置換又は非置換のC_(3?10)シクロアルキル、置換又は非置換のC_(3?10)複素環、或いは置換又は非置換のC_(3?10)ヘテロアリールであり;
R^(3)は、1つ以上のハロゲンで置換されたアリール、又は1つ以上のハロゲンで置換されたC_(3?10)ヘテロアリールであり、アリール基又はC_(3?10)ヘテロアリール基は、1つ以上のC_(1?6)アルキル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、カルボキシ基、アミノカルボニル基、シアノ基、アシルアミノ基、アルカンスルホニルアミノ基、テトラゾリル基、トリアゾリル基又は
イミダゾリル基で任意にさらに置換されている)。」

上記補正は、補正前の請求項2及び請求項10に挙げられる糖尿病の選択肢から「遅延発症I型糖尿病」を削除するものである。

補正前及び補正後の請求項2及び請求項10に係る発明の、産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるので、上記補正事項は、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

そこで、補正後の特許請求の範囲に記載の請求項1?10に係る発明(以下、「本願補正発明」という 。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否かについて、検討する。

2.原査定の理由

平成25年4月25日付け拒絶査定の理由は、平成24年9月10日付け拒絶理由通知書に記載した以下のとおりのものである。

「2.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

<理由 2>
請求項1に係る発明の「インスリン抵抗を治療するための医薬組成物」について、本願明細書には、式(I)で示される各種化合物の製造方法が記載されているものの、該化合物を使用してインスリン抵抗を治療することができることを示す具体的な薬理試験方法及び薬理試験結果は記載されていない。本願出願時の技術常識を参酌しても、式(I)で示される任意の化合物がインスリン抵抗を治療することができることが直ちに明らかであるとはいえない。そうすると、そのような多数の化合物の中から、インスリン抵抗を治療することができる化合物を取得することは、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤又は複雑高度な実験等を要するものである。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
請求項2に係る発明の「糖尿病を治療するための医薬組成物」、請求項4に係る発明の「特発性肺線維症、骨髄線維症、肝線維症、脂肪性線維症又は脂肪性肝炎を治療するための医薬組成物」、請求項11に係る発明の「インスリン抵抗、糖尿病、特発性肺線維症、骨髄線維症、肝線維症、脂肪性線維症又は脂肪性肝炎を予防するための医薬組成物」についても同様である。

<理由 3>
請求項1に係る発明の「インスリン抵抗を治療するための医薬組成物」について、本願明細書には、式(I)で示される各種化合物の製造方法が記載されているものの、該化合物を使用してインスリン抵抗を治療することができることを示す具体的な薬理試験方法及び薬理試験結果は記載されていない。本願出願時の技術常識を参酌しても、式(I)で示される任意の化合物がインスリン抵抗を治療することができることが直ちに明らかであるとはいえない。
よって、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないので、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
請求項2に係る発明の「糖尿病を治療するための医薬組成物」、請求項4に係る発明の「特発性肺線維症、骨髄線維症、肝線維症、脂肪性線維症又は脂肪性肝炎を治療するための医薬組成物」、請求項11に係る発明の「インスリン抵抗、糖尿病、特発性肺線維症、骨髄線維症、肝線維症、脂肪性線維症又は脂肪性肝炎を予防するための医薬組成物」についても同様である。」

3.当審の判断

(1)特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)について

本願補正発明は、上記のとおり、請求項1?10に記載の特定の化学構造を有するアミノプリン化合物またはそれらの医薬として許容し得る塩を含む医薬組成物であるから、特許法第2条第3項第1号にいう「物」の発明である。また、物の発明における実施には、その物の使用をする行為が含まれる。
そして、本願補正発明におけるその物の使用とは、上記医薬組成物の薬理作用によってインスリン抵抗(請求項1)、真性糖尿病、妊娠糖尿病、成人発症型糖尿病、若年性糖尿病、インスリン依存性糖尿病、非インスリン依存性糖尿病、栄養不良関連糖尿病、ケトン症糖尿病、糖尿病前症、嚢胞性線維症関連糖尿病またはケトン症抵抗性糖尿病(請求項2)、特発性肺線維症、骨髄線維症、肝線維症、脂肪性線維症または脂肪性肝炎(請求項3)を治療するために、及びインスリン抵抗、真性糖尿病、妊娠糖尿病、成人発症型糖尿病、若年性糖尿病、インスリン依存性糖尿病、非インスリン依存性糖尿病、栄養不良関連糖尿病、ケトン症糖尿病、糖尿病前症、嚢胞性線維症関連糖尿病又はケトン症抵抗性糖尿病、特発性肺線維症、骨髄線維症、肝線維症、脂肪性線維症または脂肪性肝炎を予防するために(請求項10)、請求項1?10に記載の特定の化学構造を有す得るアミノプリン化合物またはそれらの医薬として許容し得る塩(以下、「本件アミノプリン化合物等」という。)またはそれらの医薬として許容し得る塩を含む医薬組成物を使用することを意味することは明らかである(なお、請求項1?10で特定される疾患を、以下「本件対象疾患」とする。)。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、当業者が本願補正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえるためには、発明の詳細な説明に、本件アミノプリン化合物等が本件対象疾患を治療または予防するための医薬組成物の有効成分となり得る薬理作用を有することが、当業者が認識できる程度にまで記載されている必要があるといえる。
以上の点を踏まえて、以下に検討する。

(1a)本願明細書に記載されている事項

本願明細書の発明の詳細な説明には次のような記載がある。

(ア)「(1.分野)
特定のアミノ置換プリン化合物、当該化合物の有効量を含む組成物、並びに癌、心臓血管病、腎臓病、自己免疫状態、炎症状態、筋肉変性、虚血再潅流傷害、疼痛及び関連症候群、疾患関連衰弱、石綿関連状態、肺高血圧症、中枢神経系(central nervous system)(CNS)傷害/損傷、又はキナーゼ経路の阻害によって治療可能若しくは予防可能な状態を治療又は予防するための方法であって、当該アミノプリン化合物の治療有効量を、それを必要とする患者に投与することを含む方法を本明細書に提示する。」(段落【0002】)

(イ)「(2.背景)
異常タンパク質リン酸化と疾患の原因又は結果との関連性が、20年以上前から知られていた。よって、タンパク質キナーゼは、非常に重要な薬物標的群になった(Cohen、Nature、1:309?315(2002)参照)。様々なタンパク質キナーゼ阻害薬が、癌、並びに糖尿病及び卒中を含む慢性炎症性疾患などの広範な疾患の治療に臨床使用されてきた(Cohen、Eur. J. Biochem.、268:5001?5010(2001)参照)。」(段落【0003】)

(ウ)「マイトジェン活性化タンパク質(mitogen activated protein)(MAP)キナーゼは、細胞外刺激に応答して細胞の核にシグナルを伝達することに関与する。MAPキナーゼの例としては、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ3(mitogen activated protein kinase 3)(MAPK3)、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ1(ERK2)、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ7(mitogen-activated protein kinase 7)(MAPK7)、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ8(JNK1)、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ14(p38アルファ)、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ10(mitogen-activated protein kinase 10)(MAPK10)、JNK3アルファタンパク質キナーゼ、応力活性化タンパク質キナーゼJNK2及びマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ14(mitogen-activated protein kinase 14)(MAPK14)が挙げられるが、それらに限定されない。MAPキナーゼは、細胞外受容体若しくはヒースショック又はUV放射線からのシグナル伝達を媒介するプロリン誘導セリン/トレオニンキナーゼのファミリーである(Sridharら、Pharmaceutical Research、17:11 1345?1353(2000)参照)。MAPキナーゼは、成長因子などのチロシンキナーゼを含む二重特異性タンパク質キナーゼによるテオニン及びチロシンのリン酸化を通じて活性化する。細胞増殖及び分化は、多数のMAPキナーゼカスケードの調節制御を受けることが示された(Sridharら、Pharmaceutical Research、17:11 1345?1353(2000)参照)。そのように、MAPキナーゼ経路は、いくつかの疾患状態に重要な役割を果たす。例えば、MAPキナーゼの活性の欠如は、異常細胞増殖及び発癌をもたらすことが示された(Huら、Cell Growth Differ. 11:191?200(2000);及びDasら、Breast Cancer Res. Treat. 40:141(1996)参照)。さらに、MAPキナーゼ活性は、2型糖尿病に付随するインスリン抵抗にも関係することが示された(Virkamakiら、J. Clin. Invest. 103:931?943(1999)参照)。」(段落【0009】)

(エ)「心臓血管病(cardiovascular disease)(「CVD」)は、世界の全死亡数のほぼ4分の1を占める。アテローム硬化症及び再狭窄などの血管障害は、血管壁の成長の調節不全、及び血液の重要臓器への流れの制限に起因する。様々なキナーゼ経路、例えばJNKは、アテローム性刺激によって活性化され、血管細胞における局部的サイトカイン及び成長因子生成を通じて調節される(Yangら、Immunity 9:575(1998))。心臓、腎臓又は脳における虚血及び再潅流を伴う虚血は、究極的には鬱血性心不全、腎不全又は脳機能障害をもたらし得る細胞死及び傷形成をもたらす。臓器移植において、既に虚血性の寄贈臓器の再潅流は、急性の白血球媒介組織傷害及び移植片機能の遅延をもたらす。虚血及び再潅流経路は、様々なキナーゼに媒介される。例えば、JNK経路は、白血球媒介組織損傷に関連づけられた(Liら、Mol. Cell、Biol. 16:5947?5954(1996))。最終的に、心臓組織におけるアポトーシスの増強は、キナーゼ活性にも関連づけられた(Pomboら、J. Biol. Chem. 269:26546?26551(1994))。」(段落【0018】)

(オ)「「JNK」は、JNK 1、JNK 2若しくはJNK 3遺伝子によって発現されるタンパク質又はそのイソ型を指す(Gupta, S.、Barrett, T.、Whitmarsh, AJ.、Cavanagh, J.、Sluss, H.K., Derijard, B.及びDavis, R.J.、The EMBO J. 15:2760?2770(1996))。」(段落【0037】)

(カ)「表1に示されたアミノプリン化合物を本明細書に記載のJNK阻害薬アッセイで試験し、JNK阻害薬としての活性を有することを見いだした。」(段落【0115】)
なお、上記表1には536種類の化合物が記載されている(段落【0092】?【0114】)。

(キ)「アミノプリン化合物がその治療又は予防に有用である代表的な自己免疫状態としては、リウマチ様関節炎、リウマチ様脊椎炎、骨関節炎、多発性硬化症、狼蒼、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、重症筋無力症、グレーブス病及び糖尿病(例えば、I型糖尿病)が挙げられるが、それらに限定されない。
アミノプリン化合物がその治療又は予防に有用である代表的な炎症状態としては、喘息及びアレルギー性鼻炎、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、クローン病、粘液性大腸炎、潰瘍性大腸炎、糖尿病(例えば、I型糖尿病及びII型糖尿病)及び肥満が挙げられるが、それらに限定されない。
アミノプリン化合物がその治療又は予防に有用である代表的な代謝状態としては、肥満及び糖尿病(例えば、II型糖尿病)が挙げられるが、それらに限定されない。
特定の実施態様において、インスリン抵抗の治療又は予防方法を本明細書に提示する。
一定の実施態様において、糖尿病(例えば、II型糖尿病)に至るインスリン抵抗の治療又は予防方法を本明細書に提示する。
別の実施態様において、症候群X又は代謝症候群の治療又は予防方法を本明細書に提示する。
別の実施態様において、糖尿病の治療又は予防方法を本明細書に提示する。
別の実施態様において、II型糖尿病、I型糖尿病、遅延発症I型糖尿病、尿崩症(例えば、神経性尿崩症、腎性尿崩症、口渇誘発性尿崩症又は黄体ホルモン性尿崩症)、真性糖尿病、妊娠糖尿病、多嚢胞性卵巣症候群、成人発症型糖尿病、若年性糖尿病、インスリン依存性糖尿病、非インスリン依存性糖尿病、栄養不良関連糖尿病、ケトン症糖尿病、糖尿病前症(例えば、糖代謝障害)、嚢胞性線維症関連糖尿病、血色症及びケトン症抵抗性糖尿病の治療又は予防方法を本明細書に提示する。
別の実施態様において、線維疾患及び障害治療又は予防方法を本明細書に提示する。特定の実施態様において、特発性肺線維症、骨髄線維症、肝線維症、脂肪性線維症及び脂肪性肝炎の治療又は予防方法を本明細書に提示する。」(段落【0134】?【0137】)

(ク)「別の実施態様において、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ3(MAPK3)、p44erk1、p44mapk、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ3(MAPキナーゼ3;p44)、ERK1、PRKM3、P44ERK1、P44MAPK、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ1(MAPK1)、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼキナーゼ1(MEK1)、MAP2K1タンパク質チロシンキナーゼERK2、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ2、細胞外シグナル調節キナーゼ2、タンパク質チロシンキナーゼERK2、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ2、細胞外シグナル調節キナーゼ2、ERK、p38、p40、p41、ERK2、ERT1、MAPK2、PRKM1、PRKM2、P42MAPK、p41mapk、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ7(MAPK7)、BMK1キナーゼ、細胞外シグナル調節キナーゼ5、BMKl、ERK4、ERK5、PRKM7、ネモ様キナーゼ(NLK)、マウスネモ様キナーゼの同様のオルトログ、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ8(MAPK8)、タンパク質キナーゼJNKl、JNKlベータタンパク質キナーゼ、JNKlアルファタンパク質キナーゼ、c-Jun N-末端キナーゼ1、ストレス活性化タンパク質キナーゼJNKl、JNK、JNKl、PRKM8、SAPKl、JNKlA2、JNK21B1/2、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ10(MAPK10)、c-Junキナーゼ3、JNK3アルファタンパク質キナーゼ、c-Jun N-末端キナーゼ3、ストレス活性化タンパク質キナーゼJNK3、応力活性化タンパク質キナーゼベータ、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ9(MAPK9)、MAPキナーゼ9、c-Junキナーゼ2、c-Jun N-末端キナーゼ2、ストレス活性化タンパク質キナーゼJNK2、JNK2、JNK2A、JNK2B、PRKM9、JNK-55、JNK2BETA、p54aSAPK、JNK2ALPHA、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ14(MAPK14)、p38MAPキナーゼ、MAPキナーゼMxi2、Csaids結合タンパク質、MAX-相互作用タンパク質2、ストレス活性化タンパク質キナーゼ2A、p38マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ、サイトカイン抑制抗炎症薬結合タンパク質、RK、p38、EXIP、Mxi2、CSBPl、CSBP2、CSPBl、PRKM14、PRKM15、SAPK2A、p38ALPHA、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ11(MAPK11)、ストレス活性化タンパク質キナーゼ-2、ストレス活性化タンパク質キナーゼ-2b、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼp38-2、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼp38beta、P38B、SAPK2、p38-2、PRKM11、SAPK2B、p38ベータ、P38BETA2、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ13(MAPK13)、ストレス活性化タンパク質キナーゼ4、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼp38デルタ、SAPK4、PRKM13、p38デルタ、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ12(MAPK12)、p38ガンマ、ストレス活性化タンパク質キナーゼ3、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ3、ERK3、ERK6、SAPK3、PRKM12、SAPK-3、P38GAMMA、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ6(MAPK6)、MAPキナーゼイソ型p97、マイトジェン活性化5タンパク質キナーゼ、マイトジェン活性化6タンパク質キナーゼ、細胞外シグナル調節キナーゼ3、細胞外シグナル調節キナーゼ、p97、ERK3、PRKM6、p97MAPK、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ4(MAPK4)、Erk3-関連タンパク質キナーゼ、マイトジェン活性化4タンパク質キナーゼ(MAPキナーゼ4;p63)、PRKM4、p63MAPK、ERK3-RELATED又は細胞外シグナル調節キナーゼ8(ERK7)を含むが、それらに限定されないMAPキナーゼの調節、例えば阻害に関連づけられる疾病又は傷害の治療又は予防方法を本明細書に提示する。」(段落【0145】)

(ケ)「一実施態様において、キナーゼ経路、一実施態様においてはJNK経路を調節することによって治療可能又は予防可能な疾患又は障害を治療又は予防するための方法であって、該治療又は予防を必要とする患者に対して、アミノプリン化合物の有効量を投与することを含む方法を本明細書に提示する。キナーゼ経路、一実施態様においてはJNK経路を調節、例えば、阻害することによって治療可能又は予防可能な具体的な疾患としては、リウマチ様関節炎;リウマチ様脊椎炎;骨関節炎;痛風;喘息、気管支炎;アレルギー性鼻炎;慢性閉塞性肺疾患;嚢胞性線維症;炎症性腸疾患;過敏性腸症候群;粘液性大腸炎;潰瘍性大腸炎;クローン病;ハンチングトン病;胃炎;食道炎;肝炎;膵炎;腎炎;多発性硬化症;紅斑性狼瘡;II型糖尿病;肥満;アテローム硬化症;血管形成後再狭窄;左心室肥大;心筋梗塞;卒中;心臓、肺、腸、腎臓、肝臓、膵臓、脾臓及び脳の虚血傷害;急性又は慢性臓器移植拒絶;移植用臓器の保存;臓器不全又は肢の欠損(例えば、虚血再潅流、外傷、全身傷害、自動車事故、挫傷又は移植不全によるものを含むが、それらに限定されない);移植片対宿主疾患;内毒素ショック;多発性臓器不全;乾癬;火、化学物質又は放射線の被曝による火傷;湿疹;皮膚炎;植皮;虚血;手術若しくは外傷(例えば、車両事故、射創又は肢挫傷)に伴う虚血状態;てんかん;アルツハイマー病;パーキンソン病;細菌又はウィルス感染に対する免疫応答;悪液質;血管形成性又は増殖性疾患;固形腫瘍;並びに結腸、直腸、前立腺、肝臓、肺、気管支、膵臓、脳、頭、首、胃、皮膚、腎臓、頚、血液、喉頭、食道、口、咽頭、膀胱、卵巣又は子宮等の様々な組織の癌が挙げられるが、それらに限定されない。」(段落【0151】)

(コ)「以下の手順に従って、アミノプリン化合物をそれらの活性について検定した。」(段落【0320】)

(サ)「JNK1アッセイ
水中20mMのHEPES(pH7.6)、0.1mMのEDTA、2.5mMの塩化マグネシウム、0.004%のトリトンx100、2μg/mLロイペプチン、20mMのβ-グリセロールリン酸、0.1mMのバナジン酸ナトリウム及び2mMのDTTからなる20%DMSO/80%希釈緩衝剤中のアミノプリン化合物の10μLに対して、同じ希釈剤中の50ngのHis6-JNK1の30μLを添加する。混合物を室温で30分間プレインキュベートする。水中20mMのHEPES(pH7.6)、50mMの塩化ナトリウム、0.1mMのEDTA、24mMの塩化マグネシウム、1mMのDTT、25mMのPNPP、0.05%のトリトンx100、11μMのATP及び0.5μCiγ-^(32)P ATPからなるアッセイ緩衝剤中10μgのGST-c-Jun(1?79)の60マイクロリットルを添加し、反応を室温で1時間進行させる。150μLの12.5%トリクロロ酢酸を添加することによってc-Junリン酸化を終了させる。30分後、沈殿をフィルタプレートに採取し、50μLのシンチレーション液で希釈し、計数器によって定量する。c-Junリン酸化が対照値の50%まで低下するアミノプリン化合物の濃度としてIC_(50)値を計算する。一定の化合物は、このアッセイにおいて0.01?10μMのIC_(50)値を有する。」(段落【0321】)

(シ)「JNK2アッセイ
水中20mMのHEPES(pH7.6)、0.1mMのEDTA、2.5mMの塩化マグネシウム、0.004%のトリトンx100、2μg/mLロイペプチン、20mMのβ-グリセロールリン酸、0.1mMのバナジン酸ナトリウム及び2mMのDTTからなる20%DMSO/80%希釈緩衝剤中のアミノプリン化合物の10μLに対して、同じ希釈剤中の50ngのHis6-JNK2の30μLを添加する。混合物を室温で30分間プレインキュベートする。水中20mMのHEPES(pH7.6)、50mMの塩化ナトリウム、0.1mMのEDTA、24mMの塩化マグネシウム、1mMのDTT、25mMのPNPP、0.05%のトリトンx100、11μMのATP及び0.5μCiγ-^(32)P ATPからなるアッセイ緩衝剤中10μgのGST-c-Jun(1?79)の60マイクロリットルを添加し、反応を室温で1時間進行させる。150μLの12.5%トリクロロ酢酸を添加することによってc-Junリン酸化を終了させる。30分後、沈殿をフィルタプレートに採取し、50μLのシンチレーション液で希釈し、計数器によって定量する。c-Junリン酸化が対照値の50%まで低下するアミノプリン化合物の濃度としてIC_(50)値を計算する。一定の化合物は、このアッセイにおいて0.01?10μMのIC_(50)値を有する。」(段落【0322】)

(ス)「JNK3アッセイ
水中20mMのHEPES(pH7.6)、0.1mMのEDTA、2.5mMの塩化マグネシウム、0.004%のトリトンx100、2μg/mLロイペプチン、20mMのβ-グリセロールリン酸、0.1mMのバナジン酸ナトリウム及び2mMのDTTからなる20%DMSO/80%希釈緩衝剤中のアミノプリン化合物の10μLに対して、同じ希釈剤中の200ngのHis6-JNK3の30μLを添加する。混合物を室温で30分間プレインキュベートする。水中20mMのHEPES(pH7.6)、50mMの塩化ナトリウム、0.1mMのEDTA、24mMの塩化マグネシウム、1mMのDTT、25mMのPNPP、0.05%のトリトンx100、11μMのATP及び0.5μCiγ-^(32)P ATPからなるアッセイ緩衝剤中10μgのGST-c-Jun(1?79)の60マイクロリットルを添加し、反応を室温で1時間進行させる。150μLの12.5%トリクロロ酢酸を添加することによってc-Junリン酸化を終了させる。30分後、沈殿をフィルタプレートに採取し、50μLのシンチレーション液で希釈し、計数器によって定量する。c-Junリン酸化が対照値の50%まで低下するアミノプリン化合物の濃度としてIC_(50)値を計算する。一定の化合物は、このアッセイにおいて0.001?10μMのIC_(50)値を有する。」(段落【0323】)

(セ)「p38αアッセイ
p38αキナーゼアッセイを96ウェルプレート型において100μlの最終濃度で実施する。ATPを見かけのK_(m)の3倍である340μMの最終濃度で使用する。キナーゼを希釈緩衝剤(20mMのHEPES(pH7.6)、0.1mMのEDTA、2.5mMのMgCl_(2)、0.004%(w/v)のトリトンX100、2μg/mlのロイペプチン、20mMのリン酸B-グリセロール、0.1mMのNa_(3)VO_(4)、2mMのジチオスレイトール)で希釈し、基質溶液緩衝剤(20mMのHEPES(pH7.6)、50mMのNaCl、0.1mMのEDTA、2.5mMのMgCl_(2)、0.05%(w/v)のトリトンX100)で希釈されたMBPと前混合して、p38αに対して50ng/ウェル(7.8nM)及びMBPに対して30μg/ウェル(16μM、2X Km)の最終アッセイ濃度を得る。p38α/MBP混合物(85μl)を100%DMSOで希釈されたアミノプリン化合物(5μl)に添加して、5%(v/v)の最終DMSOアッセイ濃度を得る。酵素、基質及びアミノプリン化合物を室温で約15分間にわたって平衡させる。キナーゼ緩衝剤中(130mMのMgCl_(2)、6mMのジチオスレイトール、150mMのリン酸パラ-ニトロフェニル、100μCi/mlγ[^(33)P]-ATP)10μlの10X ATPを添加することによって反応を開始する。反応を60分間進行させてから、トリクロロ酢酸によりタンパク質を沈殿させる(最終7.2%TCA)。TCAとともに30分間インキュベートした後、パッカードフィルタメートを使用して反応生成物をガラスマイクロフィルター96ウェルプレート(Millipore MAHF CIH60)に回収する。沈殿をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、MBPに組み込まれたリン酸塩の量を、パッカードトポカウント-NXTを使用したシンチレーション計数によって定量する。」(段落【0324】)

(ソ)「Jurkat T細胞II-2生成アッセイ
Jurkat T細胞(クローンE6-1)を米国組織培養機関から購入し、2mM L-グルタミン(Mediatech)を含むRPMI1640培地からなる成長培地に10%ウシ胎児血清(Hyclone)及びペニシリン/ストレプトマイシンとともに維持する。すべての細胞を95%空気及び5%CO_(2)中37℃で培養する。細胞を200μLの培地に1ウェル当たり0.2×10^(6)個の濃度で接種する。アミノプリン化合物ストック(20mM)を成長培地で希釈し、25μLの容量で10×濃縮液として各ウェルに添加し、混合し、細胞とともに30分間プレインキュベートさせる。化合物媒体(ジメチルスルホキシド)をすべてのサンプルにおいて0.5%の最終濃度に維持する。30分後、細胞をPHA(酢酸ミリスチン酸ホルボール;最終濃度50μg/mL)及びPHA(フィトヘマグルチニン;最終濃度2μg/mL)で活性化させる。成長培地で構成され、ウェル当たり25μLの容量で添加された10x濃縮溶液としてPMA及びPHAを添加する。細胞プレートを10時間培養する、細胞を遠心によってペレット化し、培地を除去し、-20℃で保管する。培地アリコットを、製造元の説明書(Endogen)に従って、IL-2の存在についてサンドウィッチELISAによって分析する。II-2生成が対照値の50%まで低下するアミノプリン化合物の濃度としてIC_(50)値を計算する。一定の化合物は、このアッセイにおいて0.01?10μMのIC_(50)値を有する。」(段落【0325】)

(タ)「ラットインビボLPS誘発TNF-α生成アッセイ
Charles River Laboratoriesから入手した生後7週間の雄のCDラットを使用前に1週間にわたって気候順化させるさせる。短時間麻酔下で22ゲージのオーバー・ザ・ニードルカテーテルを側方の尾血管に経皮挿入する。0.05mg/kgのLPS(大腸菌055:BS)の注入の15から180分前に、尾血管カテーテルによる静脈内注入又は経口胃管栄養法によってラットにアミノプリン化合物を投与する。カテーテルを2.5mL/kgの通常の注射可能生理食塩水で洗浄する。LPS攻撃の90分後に心臓穿刺により血液を回収する。リチウムヘパリン分離管を使用して血漿を調製し、分析するまで-80℃で凍結させる。ラット特有のTNF-αELISAキット(Biosource)を使用して、TNF-αレベルを測定する。TNF-α生成が対照値の50%まで低下するアミノプリン化合物の濃度としてED_(50)値を計算する。一定の化合物は、このアッセイにおいて1?30mg/kgのED_(50)値を有する。」(段落【0326】)

(チ)「Abl LANCE HTRFチロシンキナーゼアッセイ
アッセイを実施する前日に、以下を調製する。
(1)2mg/mlのBSA/0.4%Triton Xl00/50mM HEPES pH7.6(4℃に維持);
(2)説明書に従ってnH_(2)Oで希釈したストレプタビジン-APC(PerkinElmer Life Sciences CRl 30-100)(4℃に維持、最大2週間まで);
(3)nH_(2)Oで希釈したチロシンキナーゼビオチニル化ペプチド基質2(Pierce 29914)(4℃に維持);
(4)DMSOによるアミノプリン化合物希釈液。
アッセイを実施する日に以下の混合物を調製する。
(5)2mMのDTT/50mMのHEPES pH7.6;
(6)バックグラウンド対照用2mMのスタウロスポリン及びDMSOによる規準対照用1:3順次希釈液
(7)以下のように調製される2mg/mlのBSA/0.2%トリトンX100/50mM HEPES pH7.6中LANCE混合物:250nMストレプタビジン-APC(PerkinElmer Life Sciences CRl 30?100)、250nMチロシンキナーゼビオチニル化ペプチド基質2(Pierce 29914)及び250ng/mlのEu抗ホスホチロシン(PerkinElmer Life Sciences AD0066);
(8)以下のように調製されるキナーゼ/検出混合物:18.7ng/ml Abl(Calbiochem 102555)、5.9mMのMgCl_(2)、及び(7)による58.8%LANCE混合物、2mM DTT/50mM HEPES pH7.6により最終容量とする;
(9)2mM DTT/25mM HEPES pH7.4中240μM ATP。
ブラック384ウェルマイクロタイタプレート(Corning 3710)に対して、2.5μl/ウェルの化合物希釈液/DMSO及び42.5μl/ウェルのキナーゼ/検出混合物を添加する。プレートを加振器上で5分間インキュベートした後、室温で10分間の静的インキュベートを行う。
5μl/ウェルのATPをプレートに加え、プレートを加振器上で5分間インキュベートした後、室温で55分間の静的インキュベートを行う。
30μl/ウェルの16.7mM EDTAをプレートに加え、プレートを加振器上で少なくとも2分間インキュベートした後、室温で30分間の静的インキュベートを行う。次いで、プレートをパッカードフュージョン測定器で読み取る(TR-FRET)。
一定の化合物は、このアッセイにおいて0.01?10μMのIC_(50)値を有する。」(段落【0327】?【0329】)

(ツ)「K562細胞に対するアラマーブルーアッセイ
慢性骨髄性白血病K562を10%熱不活性化FBS及び1%ペニシリン-ストレプトマイシンでRPMI1640にルーチン的に維持する。細胞増殖アッセイでは、K562細胞を96ウェル丸底プレートに接種する。接種の当日に細胞をアミノプリン化合物で処理する。投与量応答実験では、アミノプリン化合物の30mM溶液を希釈して、30μM、3μM、0.3μM、0.03μM及び0.003μMの最終濃度を得る。最終のDMSO濃度は、各ウェルにおいて0.2%である。アミノプリン化合物とともに72時間インキュベートした後に、アラマーブルーを使用して、細胞数を定量する。一定の化合物は、このアッセイにおいて0.1?10μMのIC_(50)値を有する。」(段落【0330】)

(1b)本願明細書に開示されたアミノプリン化合物等が本件対象疾患の治療または予防のための有効成分となり得る薬理作用を有するか否かについて

まず、本願明細書には本件アミノプリン化合物等が本件対象疾患を治療または予防できる旨の漠然とした記載があるものの(摘記(ア)、(キ))、本件アミノプリン化合物等を用いることによって本件対象疾患を治療または予防することができることを実証するための臨床試験結果あるいは動物モデル実験の結果等の薬理試験結果は何ら開示されていない。

もっとも、本願明細書には多くの疾患はタンパク質キナーゼと関連していることが記載されていることから(摘記(イ)?(オ)、(ク))、本件アミノプリン化合物等がタンパク質キナーゼ阻害活性を示すことが実証されていれば、たとえ本件アミノプリン化合物等が本件対象疾患を治療または予防できることを示す直接的な薬理試験結果が本願明細書に開示されていないとしても、(i)本件対象疾患とタンパク質キナーゼとの関連性があり、及び(ii)当該タンパク質キナーゼと本件アミノプリン化合物等とに因果関係があることが実証されていれば、本件アミノプリン化合物等によって本件対象疾患を治療または予防できることが推認できる余地はある。

そこで、まず、本件対象疾患とタンパク質キナーゼとに関連性があるか否かを検討する。

(1c)本件対象疾患とタンパク質キナーゼとに関連性があるか否か

本願明細書にはマイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼ活性はII型糖尿病に付随するインスリン抵抗に関係することが記載されており、MAP活性キナーゼとしてJNK1、JNK2が挙げられることも記載されている(摘記(ウ))。そうすると、本願明細書においてJNK1及びJNK2は、本件対象疾患のうちインスリン抵抗に関連しているといえる。

もっとも、JNK経路を調節することによってII型糖尿病、肝炎、嚢胞性繊維症を治療可能または予防可能である旨本願明細書に記載されているものの(摘記(ケ))、JNKとインスリン抵抗以外の本件対象疾患との関連性は本願明細書からは明らかとはいえない。また、JNK以外のタンパク質キナーゼと本件対象疾患との関連性も本願明細書からは明らかとはいえない。

そこで、平成25年3月22日付け意見書及び平成25年9月20日付け審判請求書とともに審判請求人が提出した参考文献1?5を参酌して、JNKとインスリン抵抗以外の本件対象疾患との関連性を検討する。

参考文献1(Hirosumi, J. et al., Nature, 2002, Vol.420, pp.333-336)には、JNK1がインスリン抵抗において中心的役割を果たすこと、及びJNK1の欠失は、肥満マウスモデルにおいてインスリン感受性の改善とインスリンレセプターシグナルの増加をもたらすことが記載されている(アブストラクトの第9行?12行)。このことは、JNKがインスリン抵抗を防止するための標的であることを示しているといえる。
参考文献2(Xu et al., Molecular and Cellular Biology, July 2006, Vol.26, No.14, pp.5518-5527)には、線維化肺線維芽細胞(fibrotic lung fibroblasts)におけるJNK活性化の増大が肺線維症の筋線維芽細胞表現型の持続と関連しており、このJNK活性化を標的とすることが肺線維症の治療に有効であることが記載されている(アブストラクトの第10行?13行)。
参考文献3(Schnabl et al., Hepatology, 2001, Vol.34, No.5, pp.953-963)には、肝線維症は慢性肝疾患の一般的な事象であり、肝星細胞(HSC)の活性化によりもたらされることが記載されている(第953ページ右欄、第1?3行)。また、該文献は、JNKを遮断することで結果としてHSC増殖の阻害をもたらすことを開示しており(第961ページ左欄、第42行?43行)、JNK活性阻害がHSC増殖阻害に有効であることを示しているといえる。
参考文献4(Schattenberg et al., Hepatology, 2006, Vol.43, No.1, pp.163-172)には、JNKの活性化が脂肪性肝炎の発生を促進することが記載されている(アブストラクトの第11?12行)。
参考文献5(Brunt, Hepatology, 2009, Vol.50, No.3, pp.663-667)には、脂肪性線維症(steatofibrosis)とは、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を指すことが記載されている(第663ページ左欄、第6?19行)。
ここで、参考文献1には、JNKは肥満症及びインスリン抵抗において中心的役割を果たすことが記載されており(アブストラクトの第12?13行)、参考文献4には、JNKが肥満症及びインスリン抵抗の発生を制御すること、並びに該肥満症及びインスリン抵抗はNAFLDの主な危険因子であることが記載されている(第165ページ右欄、第1?3行)。そうすると、参考文献1、4、5からJNK活性の阻害は脂肪性線維症の治療及び予防に有効であるといえる。同様に、参考文献2からJNK活性の阻害と肺線維症の治療及び予防に有効であるといえ、参考文献3からJNK活性の阻害と肝線維症の治療及び予防に有効であるといえる。
これら参考文献1?5を参酌すると、タンパク質キナーゼの1種であるJNK阻害活性と本件対象疾患の治療または予防との間には関連性があることは本願出願当時技術常識であったといえる。
しかしながら、これらの文献にはJNK阻害活性を有する化合物を実際に本件対象疾患の治療または予防に用いた薬理試験結果は記載されておらず、具体的にどの程度のJNK阻害活性を有する化合物であれば本件対象疾患の治療または予防に適用できるかについて、本願出願当時の当業者が理解していたとは言い難い。

(1d)本件アミノプリン化合物等がJNK阻害活性を有していることが本願明細書で実証されているか否か

そこで、次に、本件アミノプリン化合物等がJNK阻害活性を有していることが本願明細書で実証されているか否かについて検討する。

まず、本願明細書には「表1に示されたアミノプリン化合物を本明細書に記載のJNK阻害薬アッセイで試験し、JNK阻害薬としての活性を有することを見いだした。」(摘記(カ))と記載されている。

また、本願明細書には本件アミノプリン化合物等の各種活性の検定が行われたことが記載されており(摘記(コ))、「一定の」アミノプリン化合物がJNK1アッセイにおいて0.01?10μMのIC_(50)値を有することが開示されている(摘記(サ))。同様に、本願明細書には「一定の」アミノプリン化合物が、JNK2アッセイにおいて0.01?10μMのIC_(50)値(摘記(シ))、JNK3アッセイにおいて0.001?10μMのIC_(50)値(摘記(ス))を有することが記載されている。これらの記載以外には、p38αアッセイ(摘記(セ))、Jurkat T細胞II-2生成アッセイ(摘記(ソ))、ラットインビボLPS誘発TNF-α生成アッセイ(摘記(タ))、Abl LANCE HTRFチロシンキナーゼアッセイ(摘記(チ))、K562細胞に対するアラマーブルーアッセイ(摘記(ツ))についての言及があるものの、これらはJNKアッセイとは無関係である。

ここで、一般に、医薬についての用途発明においては、有効成分の物質名、化学構造だけからその有用性を予測することは困難であることを勘案すれば、複数存在する本件アミノプリン化合物のうちのどの化合物を薬理試験に用いたかを特定した上で、その特定された化合物が実際にタンパク質キナーゼ阻害活性を示すことが明確に本願明細書に開示されていることを要するといえる。

そこで、この観点から本願明細書の記載を検討すると、まず本願明細書には「表1に示されたアミノプリン化合物を本明細書に記載のJNK阻害薬アッセイで試験し、JNK阻害薬としての活性を有することを見いだした。」(摘記(カ))との漠然とした記載があるものの、表1で示される536種類の各化合物がそれぞれどの程度のJNK阻害活性を示すかは具体的には示されていない。

また、本願明細書にはJNK1アッセイについて「一定の化合物は、このアッセイにおいて0.01?10μMのIC_(50)値を有する。」(摘記(サ))、JNK2アッセイについて「一定の化合物は、このアッセイにおいて0.01?10μMのIC_(50)値を有する。」(摘記(シ))、JNK3アッセイについて「一定の化合物は、このアッセイにおいて0.001?10μMのIC_(50)値を有する。」(摘記(ス))と記載されるのみであって、具体的にどのアミノプリン化合物がどの程度のJNK阻害作用を示すのかはやはり明らかではない。さらに、上記記載によれば「一定の化合物」がJNKアッセイにおいてJNK阻害活性を示したに過ぎず、536種類の全ての本件アミノプリン化合物がJNK阻害活性を示すかも不明である。

そうすると、本願明細書において本件アミノプリン化合物等のいずれについても、JNK阻害活性を有することを当業者が認識できる薬理試験結果が明確に記載されているとはいえない。

そして、審判請求人が提出した参考文献1?5を参酌しても、これらの文献からJNK阻害と本件対象疾患との間に関連性を示したに過ぎず、これらの文献には具体的にどの程度のJNK阻害活性を有する化合物であれば本件対象疾患の治療または予防に適用できるのかについては何ら開示されていない。そうすると、本件アミノプリン化合物またはこれに類似する化合物が本件対象疾患の治療または予防に有用であることが本願の出願当時に技術常識であったともいい難い。

この点について、審判請求人は以下のように主張する。
「 審査官殿は、平成25年5月21日付け(送付)拒絶査定の通知書において、本願明細書には、本願発明の化合物(アミノプリン化合物)の薬理試験結果において、試験に用いたアッセイ方法については具体的に記載されているが、該薬理試験に用いたアミノプリン化合物の特定、及び薬理試験結果の明確な記載がなされていないと指摘されている。しかしながら、本件出願人は、当該ご指摘は妥当ではないものと思料する。以下にその理由を述べる。
本願発明にかかるアミノプリン化合物は、c-Jun N末端キナーゼ(JNK)を阻害する。
本願明細書、表1(第92段落?第114段落)には、代表的なアミノプリン化合物が例示されている。そして、本願明細書、第115段落には、「表1に示されたアミノプリン化合物を本願明細書に記載のJNK阻害薬アッセイで試験し、JNK阻害薬としての活性を有することを見いだした」ことが記載されている。すなわち、表1に記載のアミノプリン化合物は、本願明細書第321段落?第323段落に記載した実施例のJNK阻害アッセイにおいてJNK阻害活性が認められたものである。
審査官殿は、本願明細書第321段落?第323段落において、『「一定の化合物はこのアッセイにおいて0.01?10μMのIC_(50)値を有する。」との記載は、アッセイにかけられた化合物のうちの一部のものでしかそのようなIC50値を有さない、とも解される。』と指摘されている。
ここにいう「化合物」とは、同段落中の「c-Junリン酸化が対照値の50%まで低下するアミノプリン化合物の濃度としてIC_(50)値を計算する」との記載からも明らかなように、「アミノプリン化合物」を指す。したがって、このアッセイにおいて0.01?10μMのIC_(50)値を有する「一定の化合物」とは、JNK阻害アッセイにおいて10μM以下の範囲のIC_(50)値を有することが示された特定のアミノプリン化合物であり、すなわち、表1に記載されたアミノプリン化合物を指す。そして、表1に記載されたアミノプリン化合物は、補正後請求項1記載の式(I)の化合物全体に対応する。
したがって、本願明細書中には、薬理試験結果として、表1記載のアミノプリン化合物をJNK阻害薬アッセイで試験し、そのすべてが10μM以下の範囲のIC_(50)値を有するという優れたJNK阻害活性を示すことが具体的に記載されている。」
しかしながら、上述のとおり、本願明細書段落【0115】には「表1に示されたアミノプリン化合物を本明細書に記載のJNK阻害薬アッセイで試験し、JNK阻害薬としての活性を有することを見いだした。」との記載があるものの、表1で示される536種類の各化合物がそれぞれどの程度のJNK阻害活性を示すかは具体的には示されていない。
また、本願明細書段落【0321】にはJNK1アッセイについて「一定の化合物は、このアッセイにおいて0.01?10μMのIC_(50)値を有する。」、段落【0322】にはJNK21アッセイについて「一定の化合物は、このアッセイにおいて0.01?10μMのIC50値を有する。」、段落【0323】にはJNK3アッセイについて「一定の化合物は、このアッセイにおいて0.001?10μMのIC_(50)値を有する。」と記載されるのみであって、具体的にどのアミノプリン化合物がどの程度のJNK阻害作用を示すのかはやはり明らかではない。さらに、上記記載によれば「一定の化合物」がJNKアッセイにおいてJNK阻害活性を示したに過ぎず、全ての本件アミノプリン化合物がJNK阻害活性を示すかも不明である。そうすると、これらの漠然とした記載から表1に示される536種類の個々のアミノプリン化合物がどの程度のJNK阻害活性を示すかは当業者であっても具体的に理解することはできないといえる。
よって、審判請求人の主張は採用の限りではない。

したがって、本件アミノプリン化合物等がJNK阻害活性を有していることが本願明細書で実証されているとはいえない。

(1e)小括

以上のように、本願明細書の発明の詳細な説明には、本件アミノプリン化合物等がJNK阻害活性を有するとは実証されていない以上、たとえ本件対象疾患とJNK阻害活性とに関連性があるとしても、本件アミノプリン化合物等が本件対象疾患の治療または予防ための有効成分となり得る薬理作用を有することが、当業者が認識できる程度にまで記載されているとはいえない。
また、本願出願当時の当業者が具体的にどの程度のJNK阻害活性を有する化合物であれば本件対象疾患の治療または予防に有用であるのかについて理解していたとは言い難いのであるから、仮に上記「一定の化合物」が特定されたとしても、それが本件対象疾患の治療または予防のための有効成分となり得るとは本願明細書から当業者が認識できるとはいえない。

よって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願補正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないのであるから、特許法第36条第4項第1号に記載する要件を満たしていない。

なお、審判請求人は、当審の審尋に対する、平成26年10月14日受付の回答書において、特許請求の範囲の記載を補正する補正案を提示するが、該補正案によっても本審決で示す結論は変わらない点、付言する。

(2)特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)について

特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な記載の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識等に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、また、本願明細書のサポート要件の存在は、本願出願人すなわち審判請求人が挙証責任を負うと解するのが相当である。

ここで、上記「3.(1)特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)について」で指摘したように、本願補正発明の解決すべき課題は、本件対象疾患を治療または予防するための本件アミノプリン化合物またはその医薬として許容し得る塩を含有する医薬組成物を提供することであるが、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記課題を解決し得る手段となる本件アミノプリン化合物について、当業者が認識できる程度に記載がなされているとはいえず、本願明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を本願補正発明まで拡張ないし一般化できるという技術常識があるとも認められない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、当業者が、本願補正発明の上記課題を解決し得る手段の範囲を認識できるとはいえず、さらに本願出願日当時の技術常識等を参酌しても、当業者が、本願補正発明の上記課題を解決し得る手段の範囲を依然として認識できないと解するほかはない。

よって、補正後の本願請求項1?10に係る発明は、発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超える発明を含むものであるから、発明の詳細な説明に記載したものといえず、補正後の本願の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に記載する要件を満たしていない。

4.補正却下についてのむすび

以上のとおり、補正後の本願は、特許法第36条第4項第1号に記載する要件、及び特許法第36条第6項第1号に記載する要件を満たしていない。よって、本件補正は特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

平成25年9月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?10に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成25年3月22日付け手続補正書に記載の特許請求の範囲の請求項1?10に記載されたとおりのものである。

(1)特許法第36条第4項第1号に規定する要件(いわゆる実施可能要件)について

まず、本件アミノプリン化合物を用いることによって本件対象疾患を治療または予防することができることを実証する薬理試験結果は本願明細書には何ら開示されていない。
また、上記「第2 3.(1)」の「(1d)」で指摘したとおり、本願明細書には具体的にどのアミノプリン化合物等がどの程度のJNK阻害活性を示すのかはやはり明らかではない。さらに、上記記載によれば「一定の化合物」がJNKアッセイにおいてJNK阻害活性を示したに過ぎず、全ての本件アミノプリン化合物等がJNK阻害活性を示すかも不明である。
そうすると、本願明細書において本件アミノプリン化合物の特定、及びそれぞれのアミノプリン化合物の薬理試験結果が明確に記載されているとはいえない。
また、本件アミノプリン化合物等がJNK阻害活性を有することを推認し得る本願出願当時の技術常識等が存在するともいえない。

以上のように、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないので、特許法第36条第4項第1号に記載する要件を満たしていない。

(2)特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)について

本願発明の解決すべき課題は、本件対象疾患を治療または予防するための本件アミノプリン化合物またはその医薬として許容し得る塩を含有する医薬組成物を提供することであるが、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記課題を解決し得る手段となる本件アミノプリン化合物等について、当業者が認識できる程度に記載がなされているとはいえず、この点が本願出願日当時の技術常識等から自明であるともいえない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、当業者が、本願発明の上記課題を解決し得る手段の範囲を認識できるとはいえず、さらに本願出願日当時の技術常識等を参酌しても、当業者が、本願発明の上記課題を解決し得る手段の範囲を依然として認識できないと解するほかはない。

よって、本願請求項1?10に係る発明は、発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超える発明を含むものであるから、発明の詳細な説明に記載したものといえず、本願の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に記載する要件を満たしていない。

第4 むすび

以上のとおり、本願は発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に記載する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に記載する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-29 
結審通知日 2015-02-03 
審決日 2015-02-18 
出願番号 特願2009-507825(P2009-507825)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 537- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼岡 裕美千葉 直紀  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 横山 敏志
前田 佳与子
発明の名称 ハロアリール置換アミノプリン、その組成物及びそれによる治療方法  
代理人 石川 徹  

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