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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1302667
審判番号 不服2014-7484  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-23 
確定日 2015-07-01 
事件の表示 特願2011-552919「ディーゼル・エンジンの排気を取扱うためのディーゼル・エンジン・システムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月10日国際公開、WO2010/101570、平成24年 8月30日国内公表、特表2012-519794〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2009年3月5日を国際出願日とする出願であって、平成23年9月2日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、同年11月1日に特許法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲及び要約書並びに図面の翻訳文及び特許協力条約第34条補正の翻訳文が提出され、平成25年1月17日付けで拒絶理由が通知され、同年6月21日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月19日付けで拒絶査定がされ、平成26年4月23日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。

2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし10に係る発明は、平成25年6月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに平成23年11月1日に提出された明細書及び図面の翻訳文の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「 【請求項1】
ディーゼル・エンジン・システムであって、
ディーゼル・エンジンと、
前記エンジンの下流のNOxコントロール・デバイスと、
前記エンジンと前記NOxコントロール・デバイスの間の排気ラインと、
NOxコントロール・デバイスの上流の第1の端において排気ラインと接続されたバイパス・ラインであって、前記バイパス・ライン内にはNOxコントロール・デバイスが備えられないものとするバイパス・ラインと、
前記排気ラインを前記バイパス・ラインへ接続するバイパス・バルブであって、開位置にあるときには前記排気ラインを通じた前記NOxコントロール・デバイスへの流れを許可し、閉位置にあるときには前記排気ラインを通じた前記NOxコントロール・デバイスへの流れを防止し、かつ前記排気ラインを通じた前記バイパス・ラインへの流れを許可するバイパス・バルブと、
アイドリング時にNOx排出物が30グラム/時未満である低NOxアイドリング動作状態の下においては、前記バイパス・バルブが閉となるようにコントロールするべくアレンジされたコントローラと、
を包含するディーゼル・エンジン・システム。」

3 引用文献
(1)引用文献の記載
本願の国際出願日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2000-297631号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために、当審で付したものである。)

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 (イ)希薄燃焼可能な内燃機関の排気通路に配置され流入する排気ガスの空燃比がリーンのときにNOxを吸収し流入する排気ガスの酸素濃度が低いときに吸収したNOxを放出するNOx吸収剤と、(ロ)前記NOx吸収剤に吸収されているNOx吸収量を推定するNOx吸収量推定手段と、(ハ)前記NOx吸収量推定手段によって推定されたNOx吸収量が所定値を越えた時に前記NOx吸収剤に還元剤を供給する還元剤供給手段と、(ニ)前記NOx吸収剤よりも上流の前記排気通路から分岐して前記NOx吸収剤を迂回して排気ガスを流すバイパス通路と、(ホ)排気ガスを前記NOx吸収剤と前記バイパス通路のいずれに流すか選択的に切り替える排気経路切替手段と、(ヘ)排気ガスが前記バイパス通路に流れているときに生じるNOx吸収量の推定誤差を補正する補正手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】 前記補正手段は、排気ガスがバイパス通路に流れているときに前記NOx吸収量推定手段の作動を禁止する禁止手段であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】 前記排気経路切替手段は、前記NOx吸収剤の温度が有効活性温度域から外れる虞れがある運転状態のときに排気ガスをバイパス通路に流すように制御されることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】 前記排気経路切替手段よりも上流の排気通路に、排気ガスの空燃比がリーンのときにSOxを吸収し流入する排気ガスの酸素濃度が低いときに吸収したSOxを放出するSOx吸収剤が設けられ、前記排気経路切替手段は、前記SOx吸収剤からSOxが放出されるときに排気ガスをバイパス通路に流すように制御されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の内燃機関の排気浄化装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項4】)

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、希薄燃焼可能な内燃機関より排出される排気ガスから窒素酸化物(NOx)を浄化することができる排気浄化装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】希薄燃焼可能な内燃機関より排出される排気ガスからNOxを浄化する排気浄化装置として、吸蔵還元型NOx触媒に代表されるNOx吸収剤がある。NOx吸収剤は、流入排気ガスの空燃比がリーン(即ち、酸素過剰雰囲気下)のときにNOxを吸収し、流入排気ガスの酸素濃度が低下したときに吸収したNOxを放出するものであり、このNOx吸収剤の一種である吸蔵還元型NOx触媒は、流入排気ガスの空燃比がリーン(即ち、酸素過剰雰囲気下)のときにNOxを吸収し、流入排気ガスの酸素濃度が低下したときに吸収したNOxを放出しN_(2)に還元する触媒である。
【0003】この吸蔵還元型NOx触媒(以下、単に触媒あるいはNOx触媒ということもある)を希薄燃焼可能な内燃機関の排気通路に配置すると、リーン空燃比の排気ガスが流れたときには排気ガス中のNOxが触媒に吸収され、ストイキ(理論空燃比)あるいはリッチ空燃比の排気ガスが流れたときに触媒に吸収されていたNOxがNO_(2)として放出され、さらに排気ガス中のHCやCOなどの還元成分によってN_(2)に還元され、即ちNOxが浄化される。
(中略)
【0005】ところで、このNOx触媒を備えた排気浄化装置においては、NOx触媒の上流の排気通路から分岐してNOx触媒を迂回するバイパス通路と、排気ガスをNOx触媒とバイパス通路のいずれに流すか選択的に切り替える排気切替弁とを備えたものがある。」(段落【0001】ないし【0005】)

ウ 「【0016】本発明に係る内燃機関の排気浄化装置において、排気経路切替手段は、バイパス通路の分岐部に設けた単一の切替弁で構成することもできるし、あるいは、分岐部よりもNOx吸収剤に近い位置にある排気通路に第1の開閉弁を設けバイパス通路に第2の開閉弁を設けて一方の開閉弁が開くと他方の開閉弁が閉じるように制御して構成することもできる。
(中略)
【0018】本発明に係る内燃機関の排気浄化装置においては、いかなる条件のときに排気ガスをバイパス通路に流すように排気経路切替手段を制御するかは種々考えられ、特に限定されるものではない。」(段落【0016】ないし【0018】)

エ 「【0021】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の実施の形態を図1から図9の図面に基いて説明する。
〔第1の実施の形態〕図1は本発明を希薄燃焼可能な車両用ガソリンエンジンに適用した場合の概略構成を示す図である。この図において、符号1は機関本体、符号2はピストン、符号3は燃焼室、符号4は点火栓、符号5は吸気弁、符号6は吸気ポート、符号7は排気弁、符号8は排気ポートを夫々示す。
【0022】吸気ポート6は対応する枝管9を介してサージタンク10に連結され、各枝管9には夫々吸気ポート6内に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁11が取り付けられている。サージタンク10は吸気ダクト12およびエアフロメータ13を介してエアクリーナ14に連結され、吸気ダクト12内にはスロットル弁15が配置されている。
【0023】一方、排気ポート8は排気マニホルド16を介してSOx吸収剤17を内蔵したケーシング18に連結され、ケーシング18の出口部は排気管19を介して吸蔵還元型NOx触媒(NOx吸収剤)20を内蔵したケーシング21に連結され、ケーシング21は排気管22を介して図示しないマフラーに接続されている。尚、以下の説明では、吸蔵還元型NOx触媒20をNOx触媒20と略す。SOx吸収剤17およびNOx触媒20については後で詳述する。
【0024】ケーシング21の入口部21aと排気管22は、NOx触媒20を迂回するバイパス管(バイパス通路)26によって連結されており、バイパス管26の分岐部であるケーシング21の入口部21aには、アクチュエータ27によって弁体が作動される排気切替弁(排気経路切替手段)28が設けられている。この排気切替弁28はアクチュエータ27によって、図1の実線で示されるようにバイパス管26の入口部を閉鎖し且つNOx触媒20への入口部を全開にするバイパス閉位置と、図1の破線で示されるようにNOx触媒20への入口部を閉鎖し且つバイパス管26の入口部を全開にするバイパス開位置のいずれか一方の位置を選択して作動せしめられる。
【0025】エンジンコントロール用の電子制御ユニット(ECU)30はデジタルコンピュータからなり、双方向バス31によって相互に接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(セントラルプロセッサユニット)34、入力ポート35、出力ポート36を具備する。エアフロメータ13は吸入空気量に比例した出力電圧を発生し、この出力電圧がAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。」(段落【0021】ないし【0025】)

オ 「【0060】次に、図5を参照して、この実施の形態におけるNOx触媒20に対するNOx吸放出処理実行ルーチンを説明する。このルーチンを構成する各ステップからなるフローチャートはECU30のROM32に記憶してあり、フローチャートの各ステップにおける処理は総てECU30のCPU34によって実行される。また、このルーチンは所定時間(例えば、数mm秒)毎に実行される。
【0061】前述したように、この排気浄化装置では、エンジンの運転状態からNOx触媒20に吸収されたNOx吸収量あるいはNOx触媒20から放出されたNOx放出量をカウントし、これらからNOx触媒20に残存するNOx残存量を算出し、NOx残存量が所定の許容量に達したと判定されたときに、NOx放出処理を実行する。
【0062】<ステップ101>まず、ECU30は、ステップ101において、排気切替弁28がバイパス開位置に位置しているか否かを判定する。尚、前述したように、この実施の形態では、排気切替弁28はSOx吸収剤17の再生処理時にバイパス開位置に保持され、非再生処理時にバイパス閉位置に保持される。
【0063】排気切替弁28がバイパス開位置に位置している場合には、排気ガスはバイパス管26に流れ、NOx触媒20に流入しないので、ECU30は本ルーチンを終了し、NOx吸収量もNOx放出量もカウントしない。
【0064】<ステップ102>排気切替弁28がバイパス閉位置に位置している場合には、排気ガスはバイパス管26には流れず、NOx触媒20に流入し、NOx触媒20において排気ガスの空燃比に応じてNOxの吸放出が行われる。そこで、ECU30は、ステップ101で否定判定した場合には、ステップ102に進み、NOx放出フラグFが「1」か否か判定する。尚、初期設定ではNOx放出フラグFはF=0である。」(段落【0060】ないし【0064】)

カ 「【0079】〔第2の実施の形態〕次に本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の第2の実施の形態について図6及び図7を参照して説明する。図6は、第2の実施の形態における内燃機関の排気浄化装置の要部構成図であり、第1の実施の形態と構成上相違する部分だけを示している。第2の実施の形態では、SOx吸収剤17及びそのケーシング18がなく、排気マニホールド16に排気管19が連結され、排気管19にNOx触媒20のケーシング21が連結されている。
【0080】そして、ケーシング21において排気切替弁28より下流でNOx触媒20より上流に、NOx触媒20に流入する排気ガスの温度(以下、入りガス温度と称す)に比例した出力電圧を発生する入りガス温センサ24が取り付けられており、ケーシング21の中央部に、NOx触媒20のほぼ中央部分の温度に比例した出力電圧を発生する触媒温センサ25が取り付けられている。入りガス温センサ24及び触媒温センサ25の出力電圧が図示しないAD変換機を介してECU(30)の入力ポート(35)に入力される。その他の構成については第1の実施の形態と同じであるので説明を省略する。
【0081】前述した第1の実施の形態では、SOx吸収剤の再生処理時に排気ガスをバイパス管26に流し、非再生処理時に排気ガスをNOx触媒20に流すように、排気切替弁28を制御したが、第2の実施の形態では、NOx触媒20の温度がNOxを浄化する有効活性温度域から外れる虞れのある運転状態の時には排気ガスをバイパス管26に流し、外れる虞れがない運転状態の時には排気ガスをNOx触媒20に流れるように排気切替弁28を制御する。
【0082】一般に、触媒は固有の有効活性温度域を有しており、この温度域よりも低くてもあるいは高くても触媒活性が低下する。吸蔵還元型NOx触媒20にも有効活性温度域があり、この有効活性温度域から外れるとNOx吸収能力もNOx放出・還元能力も低下する。また、高温の排気ガスがNOx触媒20に流れるとNOx触媒20に熱劣化が生じ、NOx浄化能が低下する。したがって、NOx触媒20の温度を有効活性温度域に収められるか否かはNOx浄化の優劣に大きく影響する。
【0083】そこで、NOx触媒20の温度が有効活性温度域に収まる場合には、排気ガスをNOx触媒20に流し、有効活性温度域から外れる場合には排気ガスをNOx触媒20を迂回させてバイパス管26に流すという技術が開発された。
【0084】従来は、NOx触媒20の入りガス温度あるいはNOx触媒20から流出する排気ガスの温度(以下、出ガス温度と略す)に基づいて排気切替弁28を制御し、排気ガスをNOx触媒20に流すかバイパス管26に流すか排気経路を切り替えていた。しかしながら、NOx触媒20の内部は温度差が非常に大きく、入りガス温度あるいは出ガス温度の情報だけから排気経路を切り替えて、NOx触媒20の温度を有効活性温度域に制御するのは難しかった。
【0085】そこで、この実施の形態の排気浄化装置では、触媒温度と入りガス温度の二つの温度情報に基づいて排気経路を切り替え制御し、NOx触媒20の温度を有効活性温度域に制御するようにしている。」(段落【0079】ないし【0085】)

キ 「【0086】次に、図7を参照して、この実施の形態における排気経路切替処理実行ルーチンを説明する。このルーチンを構成する各ステップからなるフローチャートはECU(30)のROM(32)に記憶してあり、フローチャートの各ステップにおける処理は総てECU(30)のCPU(34)によって実行される。また、このルーチンは所定時間(例えば、数mm秒)毎に実行される。
【0087】<ステップ201>まず、ECUは、ステップ201において、触媒温センサ25によって検出された触媒温度をNOx触媒20の代表温度として、NOx触媒20の温度が有効活性温度域(例えば、200?400゜C)に入っているか否かを判定する。ステップ201で否定判定した場合には、ECUは本ルーチンを終了する。
【0088】<ステップ202>ステップ201において肯定判定した場合には、ECUは、ステップ202に進み、入りガス温センサ24によって検出されたNOx触媒20に流入する排気ガスの温度が、NOx触媒20の有効活性温度域から外れているか否か、即ち、NOx触媒20の有効活性温度の上限温度(有効活性温度域が前記例示の場合には400゜C)以上、あるいは、下限温度(有効活性温度域が前記例示の場合には200゜C)以下か否かを判定する。
【0089】<ステップ203>ステップ202において肯定判定した場合には、この温度条件の排気ガスをNOx触媒20に流すとNOx触媒20の温度が有効活性温度から外れる虞れがあると予想されるので、ECUは、ステップ203に進み、排気切替弁28をバイパス開位置に保持し、本ルーチンを終了する。これにより、高温あるいは低温の排気ガスはバイパス管26に流れ、NOx触媒20には流入しない。
【0090】<ステップ204>ステップ202において否定判定した場合には、この温度条件の排気ガスをNOx触媒20に流してもNOx触媒20の温度は有効活性温度を保持し続けると予想されるので、ECUは、ステップ204に進み、排気切替弁28をバイパス閉位置に保持し、本ルーチンを終了する。これにより、排気ガスはNOx触媒20に流れ、バイパス管26には流入しない。
【0091】このように排気切替弁28を制御して排気経路を切り替えると、NOx触媒20の温度が有効活性温度域から外れにくくなり、NOx触媒20のNOx浄化性能を高く保持することができる。
【0092】また、高温の排気ガスをNOx触媒20に流さずバイパスすることにより、NOx触媒20の高温熱劣化を防止することができる。さらに、低温始動時には排気ガス温度が低く、排気ガスのHC濃度が高くなるが、このような低温の排気ガスをNOx触媒20に流さずバイパスすることによって、NOx触媒20のHC被毒を防止することもできる。
【0093】また、NOx触媒20の温度が有効活性温度域内にあるときにエンジンをアイドリングにした場合、アイドリング時の低温の排気ガスをNOx触媒20に流さずバイパスすることによって、NOx触媒20の温度をアイドリング前の有効活性温度域に保持することができるので、アイドリング後の加速時にNOx触媒20のNOx浄化性能を高いレベルに確保することができる。
【0094】このように排気切替弁28を制御して排気経路を切り替える場合にも、第1の実施の形態のときと同様に、排気ガスがバイパス管26に流れているときにはNOx吸収量及びNOx放出量の算出を禁止し、排気ガスがNOx触媒20に流れているときに限ってNOx吸収量及びNOx放出量を算出し、さらにNOx触媒20に残存するNOx残存量を算出して、これを基にNOx触媒20に対するNOx放出処理の実行時期か否かを判定したり、NOx放出処理の終了時期を判定したりすれば、これらの判定が正確に行われ、NOx触媒20をより細かく管理することができる。尚、NOx触媒20のNOx吸放出処理制御については、図5に示す第1の実施の形態におけるフローチャートと同じ制御方法であるので、その説明は省略する。
【0095】尚、上述した実施の形態におけるNOx触媒20の入りガス温度の代わりにNOx触媒20の出ガス温度を用いることも可能である。さらに、エンジンの運転状態(機関負荷、エンジン回転数等)から排気ガス温度を推定し、これを上述した実施の形態における入りガス温度の代わりに用いることも可能である。」(段落【0086】ないし【0095】)

ク 「【0104】〔他の実施の形態〕前述した各実施の形態では本発明をガソリンエンジンに適用した例で説明したが、本発明をディーゼルエンジンに適用することができることは勿論である。ディーゼルエンジンの場合は、燃焼室での燃焼が理論空燃比よりもはるかにリーン域で行われるので、通常の機関運転状態ではSOx吸収剤17およびNOx触媒20に流入する排気ガスの空燃比は非常にリーンであり、SOxおよびNOxの吸収は行われるものの、SOxおよびNOxの放出が行われることは殆どない。
【0105】また、ガソリンエンジンの場合には、前述したように燃焼室3に供給する混合気をストイキあるいはリッチ空燃比にすることによりSOx吸収剤17およびNOx触媒20に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比あるいはリッチ空燃比にし、SOx吸収剤17やNOx触媒20に吸収されているSOxやNOxを放出させることができるが、ディーゼルエンジンの場合には、燃焼室に供給する混合気をストイキあるいはリッチ空燃比にすると燃焼の際に煤が発生するなどの問題があり採用することはできない。
【0106】したがって、本発明をディーゼルエンジンに適用する場合、流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比あるいはリッチ空燃比にするためには、機関出力を得るために燃料を燃焼するのとは別に、還元剤(例えば燃料である軽油)を排気ガス中に供給する必要がある。排気ガスへの還元剤の供給は、吸気行程や膨張行程や排気行程において気筒内に燃料を副噴射することによっても可能であるし、あるいは、SOx吸収剤17の上流の排気通路内に還元剤を供給することによっても可能である。
【0107】尚、ディーゼルエンジンであっても排気再循環装置(所謂、EGR装置)を備えている場合には、排気再循環ガスを多量に燃焼室に導入することによって、排気ガスの空燃比を理論空燃比またはリッチ空燃比にすることが可能である。」(段落【0104】ないし【0107】)

(2)引用文献の記載から分かること
上記(1)アないしク及び図面の記載から、以下の事項が分かる。

サ 上記(1)アないしク及び図面の記載から、引用文献には、ディーゼルエンジンに適用可能な内燃機関の排気浄化装置が記載されていることが分かる。

シ 上記(1)アないしキ及び図面の記載から、引用文献に記載された内燃機関の排気浄化装置は、機関本体(内燃機関)1と、機関本体1の下流のNOx触媒(NOx吸収剤)20と、機関本体1とNOx触媒20の間の排気管(排気通路)19と、バイパス管(バイパス通路)26と、排気切替弁(排気経路切替手段)28と、エンジンコントロール用の電子制御ユニット(ECU)30とを備えることが分かる。

ス 上記(1)ア、イ、エ、オ及び図面の記載から、引用文献に記載された内燃機関の排気浄化装置におけるバイパス管(バイパス通路)26は、バイパス管(バイパス通路)26内にはNOx触媒(NOx吸収剤)20が備えられないものであることが分かる。

セ 上記(1)ア、イ、エ、オ及び図面の記載から、引用文献に記載された内燃機関の排気浄化装置における排気切替弁(排気経路切替手段)28は、排気切替弁28がバイパス開位置に位置している場合には、排気ガスはバイパス管26に流れ、NOx触媒20に流入せず、排気切替弁28がバイパス閉位置に位置している場合には、排気ガスはバイパス管26には流れず、NOx触媒20に流入し、NOx触媒20において排気ガスの空燃比に応じてNOxの吸放出が行われるものであることが分かる。

ソ 上記(1)キ(特に段落【0092】)及び図面の記載から、引用文献に記載された内燃機関の排気浄化装置において、低温始動時(低温アイドリング時を含む)には、低温の排気ガスをNOx触媒20に流さずバイパスすることによって、NOx触媒20のHC被毒を防止することができることが分かる。

タ 上記(1)キ(特に段落【0093】)及び図面の記載から、引用文献に記載された内燃機関の排気浄化装置において、NOx触媒20の温度が有効活性温度域内にあるときにエンジンをアイドリングにした場合、アイドリング時の低温の排気ガスをNOx触媒20に流さずバイパスすることによって、NOx触媒20の温度をアイドリング前の有効活性温度域に保持することができ、アイドリング後の加速時にNOx触媒20のNOx浄化性能を高いレベルに確保することができることが分かる。

チ 上記ソ、タ及び図面の記載から、引用文献に記載された内燃機関の排気浄化装置において、低温のアイドリング時及びNOx触媒20の温度が有効活性温度域内にあるアイドリング時には、排気ガスをNOx触媒20に流さずバイパスする制御が行われることが分かる。
また、NOx排出物が多く発生するのはエンジンにおいて燃焼温度が高くなる高回転高負荷のときであり、エンジンが低回転低負荷であるアイドリング時には、NOx排出物が少ない(つまり低NOxである)ことは技術常識である。
したがって、引用文献に記載された内燃機関の排気浄化装置において、低NOxであるアイドリング時には、排気ガスをNOx触媒20に流さずバイパスする制御が行われるといえる。

(3)引用文献記載の発明
上記(1)及び(2)並びに図面を参酌すると、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「ディーゼルエンジンに適用可能な内燃機関の排気浄化装置であって、
機関本体(内燃機関)1と、
前記機関本体(内燃機関)1の下流のNOx触媒20と、
前記機関本体(内燃機関)1と前記NOx触媒20の間の排気管(排気通路)19と、
NOx触媒20のケーシング21の入口部21aにおいて排気管(排気通路)19と接続されたバイパス管(バイパス通路)26であって、前記バイパス管(バイパス通路)26内にはNOx触媒20が備えられないものとするバイパス管(バイパス通路)26と、
前記排気管(排気通路)19を前記バイパス管(バイパス通路)26へ接続する排気切替弁(排気経路切替手段)28であって、バイパス閉位置にあるときには前記排気管(排気通路)19を通じた前記NOx触媒20への流れを許可し、バイパス開位置にあるときには前記排気管(排気通路)19を通じた前記NOx触媒20への流れを防止し、かつ前記排気管(排気通路)19を通じた前記バイパス管(バイパス通路)26への流れを許可する排気切替弁(排気経路切替手段)28と、
低NOxであるアイドリング時においては、前記排気切替弁(排気経路切替手段)28がバイパス開位置となるように制御する電子制御ユニット(ECU)30と、
を備える、ディーゼルエンジンに適用可能な内燃機関の排気浄化装置。」

4 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「ディーゼルエンジンに適用可能な内燃機関の排気浄化装置」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明における「ディーゼル・エンジン・システム」に相当し、以下同様に、「機関本体(内燃機関)1」は「ディーゼル・エンジン」及び「エンジン」に、「NOx触媒20」は「NOxコントロール・デバイス」に、「排気管(排気通路)19」は「排気ライン」に、「NOx触媒20のケーシング21の入口部21a」は「NOxコントロール・デバイスの上流の第1の端」に、「バイパス管(バイパス通路)26」は「バイパス・ライン」に、「排気切替弁(排気経路切替手段)28」は「バイパス・バルブ」に、「バイパス閉位置」は「開位置」に、「バイパス開位置」は「閉位置」及び「閉」に、「制御する」は「コントロールするべくアレンジされた」に、「電子制御ユニット(ECU)30」は「コントローラ」に、「備える」は「包含する」に、それぞれ、相当する。
また、引用発明における「低NOxであるアイドリング時」は、本願発明における「アイドリング時にNOx排出物が30グラム/時未満である低NOxアイドリング動作状態の下」に、「アイドリング時に低NOxである低NOxアイドリング動作状態の下」という限りにおいて、相当する。

したがって両者は、
「ディーゼル・エンジン・システムであって、
ディーゼル・エンジンと、
前記エンジンの下流のNOxコントロール・デバイスと、
前記エンジンと前記NOxコントロール・デバイスの間の排気ラインと、
NOxコントロール・デバイスの上流の第1の端において排気ラインと接続されたバイパス・ラインであって、前記バイパス・ライン内にはNOxコントロール・デバイスが備えられないものとするバイパス・ラインと、
前記排気ラインを前記バイパス・ラインへ接続するバイパス・バルブであって、開位置にあるときには前記排気ラインを通じた前記NOxコントロール・デバイスへの流れを許可し、閉位置にあるときには前記排気ラインを通じた前記NOxコントロール・デバイスへの流れを防止し、かつ前記排気ラインを通じた前記バイパス・ラインへの流れを許可するバイパス・バルブと、
アイドリング時に低NOxである低NOxアイドリング動作状態の下においては、前記バイパス・バルブが閉となるようにコントロールするべくアレンジされたコントローラと、
を包含するディーゼル・エンジン・システム。」
である点で一致し、次の点で相違又は一応相違する。

<相違点>
「アイドリング時に低NOxである低NOxアイドリング動作状態の下」に関して、本願発明においては、「アイドリング時にNOx排出物が30グラム/時未満である低NOxアイドリング動作状態の下」と規定されているのに対し、引用発明においては、「低NOxであるアイドリング時」である点(以下、「相違点」という。)。

5 判断
上記相違点について検討する。
まず、本願発明において「アイドリング時にNOx排出物が30グラム/時未満である低NOxアイドリング動作状態の下」と規定する技術的意義を知るために、本願明細書を参照する。
本願明細書には、【背景技術】として、
「 【0002】
合衆国カリフォルニア州においては厳格なディーゼル・エンジン排出物質規制が提案されており、たとえば、アイドリング中の乗り物からのNOx排出物質が30グラム/時もしくはそれ未満でない限り、わずか5分後にはトラックにアイドリングの停止を求めるといった規制が提案されている。
【0003】
その種の要件に応答して、特定の乗り物は、30グラム/時を超えるNOx排出物質を防止する『低NOxアイドリング』特徴を装備した。低NOxアイドリングに関係する特定のエンジン動作状態は乗り物ごとに多様化することがあり得るが、通常、低NOxアイドリング動作状態は、低負荷および約700rpm等の低いエンジン速度における動作を必然的に伴う。それに加えて、低レベルの排気再循環(EGR)が採用されることがある。そのほかの動作状態には、エンジンが暖機されていること、駐車されていること、および6000フィート等の特定の高度より低いことを含めることができる。」(段落【0002】及び【0003】。なお、下線は当審で付した。)
と記載され、合衆国カリフォルニア州において、アイドリング中の乗り物からのNOx排出物質が30グラム/時未満でなければ、5分後にアイドリングを停止しなければならないという規制が提案されていることに対応するために、特定の乗り物は、30グラム/時を超えるNOx排出物質を防止する『低NOxアイドリング』特徴を装備したことが分かる。
つまり、「30グラム/時未満」という数値は、規制により定められた数値であって、技術的にみて臨界的な意義のある数値ではないことが分かる。
また、【発明を実施するための形態】の欄には、
「【0013】
コントローラ35は、複数の動作状態のうちの少なくとも1つの動作状態があらかじめ決定済みの動作状態に達するときにバイパス・バルブ33の開および閉をコントロールするべくアレンジ可能である。本発明の1つの態様によれば、この少なくとも1つの動作状態が低NOxアイドリング動作状態の下におけるエンジン23の動作を包含できるが、この状態とは、この出願の目的のために、NOx排出物質が3分にわたるアイドリングの後に30グラム/時未満となるようにエンジンが充分に低い負荷およびエンジン速度において運転される状態として定義される。コントローラ35は、エンジン23がその種の低NOxアイドリング動作状態の下に運転されるときにバイパス・バルブ33を閉じるべくアレンジ可能である。」(段落【0013】)
と記載されており、「エンジンが充分に低い負荷およびエンジン速度において運転される状態」が「低NOxアイドリング動作状態」であることが分かる。
すなわち、本願発明における「アイドリング時にNOx排出物が30グラム/時未満である低NOxアイドリング動作状態の下」とは、本願の明細書の記載によれば、「エンジンが充分に低い負荷およびエンジン速度において運転される状態」、つまり、エンジンが低負荷低回転で運転される一般的なアイドリング状態を意味しているといえる。
これに対し、引用発明においては、低NOxであるアイドリング時には、排気ガスをNOx触媒20に流さずバイパスする制御が行われるものである。
そして、NOx排出量を可及的に低減させることは、エンジンにおける普遍的な課題であって、原審の審査官が指摘したように、本願出願前の技術水準において、アイドリング運転時にエンジンから排出されるNOx排出物を30グラム/時未満とすることは、周知技術(以下、「周知技術」という。例えば、特開2003-286835号公報の【表1】を参照。)であって、格別なものではない。(なお、請求人が指摘する表3,5及び8の例については、エンジンから直接排出されるNOx排出物を測定したものではないから、「エンジンから排出されるNOx排出物」に該当しないものと考えられる。)
また、エンジンからのNOx排出量が少ないときには、NOx触媒に通さないで放出しても問題がないから、排気をバイパス通路に流してNOx触媒を通さないようにするという技術思想は、本願出願前に周知の技術思想(以下、「周知の技術思想」という。例えば、本願の国際予備審査報告において引用された米国特許第5331809号明細書(例えば第6欄第65行ないし第7欄第9行の記載を参照。)及びその日本語ファミリー文献である特開平4-175416号公報(例えば第4ページ左下欄第15行ないし同ページ右下欄第3行の記載を参照。)を参照。)でもある。
なお、請求人は、審判請求書において、「このように請求項1及び8に係る発明は、アイドリング時においてNOx排出物質が30グラム/時を境にして30グラム/時未満であれば排気ガスのNOxコントロール・デバイスへの流れを防止してバイパスさせて炭化水素の生成を抑え、30グラム/時を超える場合には排気ガスのNOxコントロール・デバイスへ導入してNOx排出物質の排出を抑えて、NOxコントロール・デバイスを保護しながら有効にNOx排出物質の排出を抑制することができる作用効果を有しております。」(「ハ 請求項1及び8に係る発明と引用文献1及び拒絶査定時に追加した2つの引用文献に記載の発明との対比」の欄)と主張しているが、本願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面には、「アイドリング時において・・・30グラム/時を超える場合には排気ガスのNOxコントロール・デバイスへ導入してNOx排出物質の排出を抑えて」とする技術は記載されていない。(仮に、このような記載を本願の明細書に追加するならば、新規事項の追加となるおそれがある。)
してみれば、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明において、周知技術を適用することにより、当業者が容易に想到できたことである。

なお、本願発明の奏する効果について、請求人は審判請求書において、「このように引用文献1(審決注;本審決における「引用文献」)及び拒絶査定時に新たに追加した2つの引用文献には本発明の前記した構成要件AまたはBに関する開示がなく、しかも請求項1に係る発明は、前記構成要件Aを具備することにより、そして請求項8に係る発明は、前記構成要件Bを具備することにより引用文献1及び拒絶査定時に新たに追加した2つの引用文献に記載のものからは予測できない、NOxコントロール・デバイス内に生じる不活性化し得る低量の炭化水素の生成を抑えると共に、NOx排出物質が30グラム/時を超える場合には排気ガスのNOxコントロール・デバイスへ導入してNOx排出物質の排出を抑えることができるという作用効果を有している以上、請求項1及び8に係る発明は、引用文献1及び拒絶査定時に新たに追加した2つの引用文献に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとすることもできないと思います。」(「ハ 請求項1及び8に係る発明と引用文献1及び拒絶査定時に追加した2つの引用文献に記載の発明との対比」の欄)と主張する。
しかしながら、引用文献には「低温始動時には排気ガス温度が低く、排気ガスのHC濃度が高くなるが、このような低温の排気ガスをNOx触媒20に流さずバイパスすることによって、NOx触媒20のHC被毒を防止することもできる。」(段落【0092】)という作用効果が記載されており、引用文献における「HC」は、本願明細書に記載された「炭化水素」に相当すると考えられるから、引用発明は、請求人が主張する本願発明の効果と同様の効果を奏することができるものである。

したがって、本願発明を全体としてみても、本願発明の奏する効果は、引用発明、周知技術及び周知の技術思想から当業者が予測できた以上の格別に顕著な効果ではない。

よって、本願発明は、引用発明、周知技術及び周知の技術思想に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、周知技術及び周知の技術思想に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-02 
結審通知日 2015-02-03 
審決日 2015-02-16 
出願番号 特願2011-552919(P2011-552919)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩▲崎▼ 則昌稲村 正義  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 金澤 俊郎
槙原 進
発明の名称 ディーゼル・エンジンの排気を取扱うためのディーゼル・エンジン・システムおよび方法  
代理人 清水 英雄  
代理人 溝渕 良一  
代理人 堅田 多恵子  
代理人 重信 和男  
代理人 秋庭 英樹  
代理人 高木 祐一  

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