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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H04J
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H04J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J
管理番号 1302843
審判番号 不服2014-5663  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-26 
確定日 2015-07-08 
事件の表示 特願2011-546375「プレFFT循環シフトによるOFDM時間ベース一致処理」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月22日国際公開,WO2010/083377,平成24年 7月 5日国内公表,特表2012-515512〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2010年1月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年1月17日 米国,2009年5月17日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成25年3月28日付けで拒絶理由が通知されたが請求人からは何らの応答もなく,平成25年11月20日付けで拒絶査定がされ,これに対し,平成26年3月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。


第2 補正却下の決定
[結論]
平成26年3月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成26年3月26日付けの手続補正の概要
上記手続補正(以下,「本件補正」という。)は,
(1)請求項1を,
「【請求項1】
ワイヤレス通信方法において,
OFDMシンボルのシーケンスを受信することと,
前記OFDMシンボルのシーケンス内のターゲットOFDMシンボルに対して,それぞれのサンプル時間間隔において,時間ドメインサンプルの対応するシーケンスを生成させることと,
前記ターゲットOFDMシンボルの送信タイミングを追跡することに関係する前記サンプル時間間隔の数を決定することを含む,前記OFDMシンボルのシーケンスの送信タイミングを追跡することと,
前記サンプル時間間隔の数だけ,前記サンプルのシーケンスに関するFFTウインドウをシフトさせ,その後,前記FFTウインドウ中に含まれている前記サンプルを抽出することと,
前記サンプル時間間隔の数に基づく量だけ,前記抽出されたサンプルを循環的にシフトさせて,サンプルのさらなるシーケンスを生成させることと,
前記サンプルのさらなるシーケンスに関して,FFT処理を適用することとを含む方法。」とし,
(2)本件補正前の請求項3を独立請求項として請求項2とすること,
を含むものである。

2 補正の適否
本件補正後の請求項1の「前記ターゲットOFDMシンボルの送信タイミングを追跡することに関係する前記サンプル時間間隔の数を決定することを含む,前記OFDMシンボルのシーケンスの送信タイミングを追跡すること」なる構成は,本件補正前の請求項1の「タイミング補正プロセスを使用して,前記ターゲットOFDMシンボルの送信と受信との間のタイミングオフセットを近似する前記サンプル時間間隔の数を決定すること」における「タイミング補正プロセスを使用」することなる限定,及び「送信と受信との間のタイミングオフセットを近似する」なる限定が削除されており,サンプル時間間隔の数の決定処理について本件補正前の構成を更に限定したものとは認められない。
また,本件補正後の請求項1に係る発明は,本件補正前の請求項1に係る発明には存在しない「前記サンプル時間間隔の数だけ,前記サンプルのシーケンスに関するFFTウインドウをシフトさせ」なる新たな処理を追加するものであり,当該新たな処理が追加されることによりFFT処理が適用される「シーケンス」は,本件補正前後で異なるものとなる可能性があることは明らかである。したがって,当該補正は,本件補正前の構成を更に限定したものとは認められず,発明の内容を実質的に変更するものである。
以上のとおりであるため,補正後の請求項1は補正前の請求項1を限定的に減縮したものとは認められず,本件補正は,補正前の請求項1,2を削除し,補正前の請求項3を独立請求項として請求項2とし,新規の発明を新請求項1として追加したものと解するのが相当である。
また,請求項1については記載不備に係る拒絶理由は指摘されていないから,上記1(1)の補正は,明りょうでない記載の釈明を目的とするものとも認められない。更に,上記1(1)の補正の目的は,請求項の削除,誤記の訂正にも該当しないことは明らかである。
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項の規定に違反する。

上述のとおり,上記1(1)の補正は,発明の内容を実質的に変更するものであるから,請求項1に記載される事項により特定される発明が,拒絶査定において特許を受けることができないものか否かについての判断が示された発明と,第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当しない。したがって,特許法第17条の2第4項に規定する要件も満たしていない。

3 結語
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第4項及び同第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 拒絶理由の概要
原審が通知した平成25年3月28日付け拒絶理由通知の概要は以下のとおりである。
「A.この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1,4,7,10,13-20
・引用文献等 1
・備 考
引用文献1(特に,段落【0072】,段落【0077】?段落【0079】,段落【0096】?段落【0099】,図2b,図6)の記載など参照。)には,ワイヤレス通信方法において,OFDMシンボルのシーケンスを受信し,前記OFDMシンボルのシーケンス内のターゲットOFDMシンボルに対して,それぞれのサンプル時間間隔において,時間ドメインサンプルの対応するシーケンスを生成させること(上記引用文献1記載の発明においても,OFDM信号の受信において当然備える構成である。)と,タイミング補正プロセスを使用して,前記ターゲットOFDMシンボルの送信と受信との間のタイミングオフセット(位相ドリフト)を近似する時間間隔に基づいて,前記サンプルのシーケンスを循環的にシフトさせて,サンプルのさらなるシーケンスを生成させること(サイクリックシフト要素の動作参照。)と,前記サンプルのさらなるシーケンスに関して,FFT処理を適用すること(FFTの動作参照。)とを含む方法が記載されている。
ここで,循環シフト量に対応するサンプル数を決定し,そのサンプル数に基づく制御を行うことは,サンプルに対する制御として周知慣用の方法である。
そして,上記循環シフト(サイクリックシフト)の動作は,時間領域での変換動作であって,OFDMシンボルに関係する時間ベースを変換する動作であるとも言える。
よって,上記各請求項に係る発明は引用文献1記載の発明に基づき当業者が容易に想到しうるものである。」,
「B.この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


(中略)
4.請求項10-12,19,20に係る発明は「コンピュータプログラムプロダクト」の発明として記載されているが,発明の範囲が明確でない。さらに,動作の主体とプログラム(コード)との関係が明瞭でなく,「コンピュータ読取可能媒体」とはどのような媒体を意味するのか不明である。
(「プログラム記録媒体」の発明を記載するのであれば,審査基準を参考に記載を検討されたい。)」

2 進歩性(特許法第29条第2項)について
(1)本願発明
平成26年3月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,出願当初の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
ワイヤレス通信方法において,
OFDMシンボルのシーケンスを受信することと,
前記OFDMシンボルのシーケンス内のターゲットOFDMシンボルに対して,それぞれのサンプル時間間隔において,時間ドメインサンプルの対応するシーケンスを生成させることと,
タイミング補正プロセスを使用して,前記ターゲットOFDMシンボルの送信と受信との間のタイミングオフセットを近似する前記サンプル時間間隔の数を決定することと,
前記サンプル時間間隔の数に基づいて,前記サンプルのシーケンスを循環的にシフトさせて,サンプルのさらなるシーケンスを生成させることと,
前記サンプルのさらなるシーケンスに関して,FFT処理を適用することとを含む方法。」

(2)引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特表2008-511196号公報(以下,「引用例」という。)には,「位相ドリフトを低減するための装置および方法」として,図面とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【0003】
図13は,従来のOFDM受信機のブロック図である。まず,アンテナによって受信された信号からガードインターバルが除去される。シリアルパラレル変換(S/P)の後,周波数ドメインにおいてマルチキャリア信号の受信バージョンを得るためにフーリエ変換,例えば高速フーリエ変換(FFT)が行われる。
【0004】
マルチパスフェージングチャネルを介してOFDM変調信号を送信する場合,受信する信号は未知の振幅および位相の変化を有することになる。OFDM復調後のチャネル応答は,サブキャリアi,H_(i)=H(f=i/T)に対してチャネル伝達関数(CTF)により表現される。ここで,1/Tはサブキャリア間隔である。観察されたCTFのマグニチュードおよび位相のスナップショットが図24に示されている。これは,CTFの位相φ_(i)=arg(H_(i))が,次式により定義される位相ドリフトを経験することを示している。
(【数1】は省略。)
ここで,
(【数2】は省略。)
はサブキャリアi-1とiとの間の位相である。位相ドリフトは,2つの隣接するサブキャリア間の位相変化の平均である。多くの場合,この位相ドリフトは可能な限り小さいものでなければならない。
【0005】
周波数ドメインにおける位相ドリフトは,例えばフレーム同期エラー,つまり位相シフトをスペクトルドメインに導入するタイミングエラーにより生じるものである。この位相シフトは周波数に対して例えば線形に増加する。
【0006】
不完全なタイミング同期も,位相ドリフトE[Δφ_(i)]の変化をもたらすことに注目すべきである。事実,タイミングオフセットT_(off)が,ガードインターバル長T_(GI)からチャネルの最大遅延τ_(max)を差し引いたものを超えない場合,つまりT_(off)≦T_(GI)-τ_(max)である場合,OFDM信号の直交性の損失はない。しかしながら,非特許文献1に記載されているように,T_(off)≠0が異なる位相ドリフトE[Δφ_(i)]をもたらすことになる。
(中略)
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は,効率的な位相ドリフトの低減についての概念を提供することである。」(6,8ページ)

イ 「【0071】
図2aは,フーリエ変換後の位相補償を伴うOFDM受信機を示している。この受信機は,ガードインターバル除去手段203へと接続されたアンテナ201を備えており,このガードインターバル除去手段103はシリアルパラレルコンバータ(S/P)205へと接続されている。シリアルパラレルコンバータ205は,フーリエ変換器207の複数の入力へと接続された複数の出力を有しており,このフーリエ変換器207は高速フーリエ変換(FFT)を実行する。フーリエ変換器207は位相補償器209へと接続された複数の出力を有しており,この位相補償器209は,図2aに示されていない検出器へと接続された複数の入力を有している。フーリエ変換器207および位相補償器209は,上述した本発明に係る変換器に備えられていることに注目すべきである。
【0072】
図2bは,フーリエ変換器207によるフーリエ変換の実行前にサイクリックシフトを有したOFDM受信機のブロック図である。サイクリックシフトは,ガードインターバル除去手段203とシリアルパラレルコンバータ205との間に接続されたサイクリックシフト要素301によって実行される。本実施形態において,サイクリックシフト要素301とシリアルパラレルコンバータ205とフーリエ変換器207とは,本発明に係る変換器を構成しており,変換器207の複数の出力は検出器へと接続されており,これは図2bには示されていない。さらに,検出器は,位相補償器209およびサイクリックシフト要素301をコントロールすることができるが,図2aおよび図2bには示されていない。
(中略)
【0077】
図2bには,FFTの前に受信した信号をサイクリックシフトすることが示されている。FFTの前に受信した信号をサンプル-δ_(cyc)によってサイクリックシフトすることは,FFTの後に以下の位相シフトをもたらす。

【0078】
図3aは,FFTの前に時間ドメイン信号をサイクリックシフトした後のチャネル伝達関数(CTF)の位相を示している。図3bは,チャネル伝達関数の対応するマグニチュードを示している。
【0079】
受信した信号に対するサイクリックシフトの効果は

である。δ_(cyc)が(2)に基づいて選択されると,受信した信号に対する効果は,FFTの後の位相補償(図2a)またはFFTの前のサイクリックシフト(図2b)のどちらを選択するかに関わらず同じである。
【0080】
図2bに示されているようなサイクリックシフトとは対照的に,図2aに基づく位相シフトは計算がより複雑である。サンプル-δ_(cyc)のシフトレジスタを使用してサイクリックシフトを極めて効率的に実行できるのに対し,サブキャリア当たりθ_(cyc)度の位相補償は,サブキャリアごとに

を1回乗算することが必要である。他方,OFDM受信機全体の複雑度を考えると,サブキャリアごとにさらに1回の乗算はそれほど重大ではない場合もある。
【0081】
サイクリックシフトはCTFの位相を変化させるだけであり,マグニチュードは影響されない点に注目すべきである。これは,図14,図3aおよび図3bに示されているサイクリックシフトなしのOFDM信号のCTFをサイクリックシフトありのOFDMと比較することによって確認できる。周波数選択性チャネルの影響はチャネル推定器によって補償されるため,他の動作は必要がない。」(15?17ページ)

ウ 「【0094】
図5は,本発明のさらなる実施形態に基づく,FFT後の位相補償を伴うOFDM受信機を示している。
【0095】
図2aの実施形態とは異なり,図5に示されているOFDM受信機は,検出器503へと接続された複数の出力を有する位相補償器501を備えている。この検出器503は,検出された位相ドリフトΘ_(cyc)に関する情報を提供するために位相補償器のコントロール入力へと接続されているコントロール出力505を有している。
【0096】
図6は,FFT前にサイクリックシフトを伴うOFDM受信機を示している。図2bに示されている実施形態とは異なり,図6に示されているOFDM受信機は,ガードインターバル除去手段203とシリアルパラレルコンバータ205との間に接続されたサイクリックシフト要素601と,フーリエ変換器207の複数の出力へと接続された検出器603とを備えている。この検出器603は,ガードインターバル除去手段203によって提供されたドメイン信号がシフトされる複数の値に関する情報を提供するために,サイクリックシフト要素601のコントロール入力へと接続された1つのコントロール出力605を備えている。
【0097】
用途に応じて,サイクリックシフトは(1)の位相ドリフトを補償するように選択することができ,つまり以下の通りである。
【数14】
【0098】
差分変調を伴うOFDMシステムまたは空間周波数符号化OFDMシステムは,E[Δφ_(i)]が十分に推定されるならば,改善された性能を有する。
【0099】
この位相ドリフトの補償を提案した受信機に組み込むためには,図5に示されているような適応的な実現が魅力的に思える。FFT前にサイクリックシフトを行う提案した受信機の場合,図6に示されているように実現できる。まず,サイクリックシフトδ_(cyc)が範囲[0,T_(GI)/2]内のデフォルト値に設定することができる。そして,δ_(cyc)が推定され,サイクリックシフトユニットにフィードバックできる。位相ドリフトは長期間単位でのみ変化すると予想でき,頻繁な更新は必要ない点に注目すべきである。」(19?20ページ)

エ 「【0116】
OFDMの場合,信号ストリームは,一般的には任意のマルチキャリア変調スキームに対して,N_(c)個のパラレルサブストリームに分割される。OFDMシンボルと呼ばれる第l番目のシンボルブロックの,一般的にサブキャリアと呼ばれる第i番目のサブストリームはX_(l,i)で表される。N_(FFT)個のポイントを有する逆DFTが各ブロックに対して実行され,その後x_(l,n)を得るためにN_(GI)個のサンプルを有するガードインターバルが挿入される。D/A変換後,レスポンスh(t,τ)を有するモバイル無線チャネルを介して信号x(t)が送信される。同期が完全であるとすると,サンプリングインスタントt=[n+lN_(sym)]T_(spl)における等化なベースバンドシステムの受信した信号は以下の形式となる。
(【数21】は省略。)
ここで,n(t)は加算性ホワイトガウスノイズ(additive white Gaussian noise)であり,N_(sym)=N_(FFT)+N_(GI)は,OFDMシンボルごとのサンプル数を表している。受信機においてガードインターバルが除去され,信号サンプルの受信ブロックに対してDFTを実行することにより情報を回復し,OFDM復調の出力Y_(l,i)を得る。OFDM復調後の受信した信号は以下の式により与えられる。
(【数22】は省略。)
ここで,X_(l,i)およびH_(l,i)はそれぞれ,第l番目のOFDMシンボルのサブキャリアiにおける送信された情報シンボルとチャネル伝達関数(CTF)を表している。項N_(l,i)は,ゼロ平均および分散N_(0)を有する加算性ホワイトガウスノイズ(AWGN)を表している。送信信号は,各々がN_(C)個のサブキャリアを有するL個のOFDMシンボルからなると想定できる。」(22?23ページ)

上記記載及び図面並びに当該技術分野における技術常識を考慮すると,
a 上記ウ,エの記載及び図6によれば,図6に示されているOFDM受信機は,OFDMの技術常識に照らして,OFDMシンボルのシーケンスを受信していることは明らかである。

b 上記ウ,エの記載及び図6によれば,図6に示されているOFDM受信機は,ガードインターバル除去手段203によりOFDMシンボルごとのN_(sym)個のサンプルからN_(GI)個のサンプルからなるガードインターバルを除去し,N_(FFT)個のサンプルをサイクリックシフト,シリアルパラレル変換の後,フーリエ変換を行うものと認められる。したがって,OFDMの技術常識に照らして,受信したOFDMシンボルのシーケンス内の各処理対象のOFDMシンボルに対して,それぞれのサンプル時間間隔において,時間ドメインサンプルの対応するシーケンスを生成させていることは明らかである。

c 上記ウの記載及び図6によれば,図6に示されているOFDM受信機の検出器603は,ガードインターバル除去手段203によって提供されたドメイン信号がシフトされる複数の値に関する情報(-δ_(cyc))を提供するために,サイクリックシフト要素601のコントロール入力へと接続された1つのコントロール出力605を備えている。ここで,上記ア,イの記載によれば,当該情報(-δ_(cyc))はタイミング補正のためのものと認められる。
そして,上記ウの記載及び図6によれば,図6に示されているOFDM受信機のサイクリックシフト要素601は前記情報(-δ_(cyc))を入力するものであり,上記イの【0077】の記載に照らせば,FFTの前に,受信した信号(すなわち,上記「時間ドメインサンプルの対応するシーケンス」のサンプル。)を,サンプル-δ_(cyc)によってサイクリックシフトすることは明らかである。
したがって,当該情報(-δ_(cyc))は,サイクリックシフトさせるサンプル時間間隔の数に対応することは明らかであり,検出器603により決定されているといえる。また,サイクリックシフト要素601は,情報(-δ_(cyc))に基づいて,前記サンプルのシーケンスを循環的にシフトさせて,サンプルのさらなるシーケンスを生成させるといえる。

d 上記ウの記載及び図6によれば,図6に示されているOFDM受信機のフーリエ変換器は,サイクリックシフトされたサンプルシーケンスをシリアルパラレル変換してフーリエ変換するものであるから,前記サンプルのさらなるシーケンスに関して,FFT処理を適用するものといえる。

以上を総合すると,引用例には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「OFDMシンボルのシーケンスを受信することと,
前記OFDMシンボルのシーケンス内の各処理対象のOFDMシンボルに対して,それぞれのサンプル時間間隔において,時間ドメインサンプルの対応するシーケンスを生成させることと,
タイミング補正のために,サイクリックシフトさせるサンプル時間間隔の数に対応する情報(-δ_(cyc))を決定することと,
前記情報(-δ_(cyc))に基づいて,前記サンプルのシーケンスを循環的にシフトさせて,サンプルのさらなるシーケンスを生成させることと,
前記サンプルのさらなるシーケンスに関して,FFT処理を適用することとを含む方法。」

(3)対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると,
ア 上記(2)アの【0004】の記載及び図6のアンテナによれば,引用発明はワイヤレス通信における発明であることは明らかである。
また,各処理対象のOFDMシンボルを,「ターゲットOFDMシンボル」と称することは,任意である。

イ 本願発明の「タイミング補正プロセスを使用して,前記ターゲットOFDMシンボルの送信と受信との間のタイミングオフセットを近似する前記サンプル時間間隔の数を決定すること」と,引用発明の「タイミング補正のために,サイクリックシフトさせるサンプル時間間隔の数に対応する情報(-δ_(cyc))を決定すること」とは,以下の相違点は別として,「循環的にシフトする際に用いる前記サンプル時間間隔の数を決定する」点で一致している。

したがって,本願発明と引用発明とを対比すると,両者は,以下の点で一致し,また,相違している。
(一致点)
「ワイヤレス通信方法において,
OFDMシンボルのシーケンスを受信することと,
前記OFDMシンボルのシーケンス内のターゲットOFDMシンボルに対して,それぞれのサンプル時間間隔において,時間ドメインサンプルの対応するシーケンスを生成させることと,
循環的にシフトする際に用いる前記サンプル時間間隔の数を決定することと,
前記サンプル時間間隔の数に基づいて,前記サンプルのシーケンスを循環的にシフトさせて,サンプルのさらなるシーケンスを生成させることと,
前記サンプルのさらなるシーケンスに関して,FFT処理を適用することとを含む方法。」

(相違点)
「循環的にシフトする際に用いる前記サンプル時間間隔の数を決定すること」に関し,本願発明は「タイミング補正プロセスを使用して,前記ターゲットOFDMシンボルの送信と受信との間のタイミングオフセットを近似する前記サンプル時間間隔の数を決定すること」であるのに対し,引用発明は「タイミング補正のために,サイクリックシフトさせるサンプル時間間隔の数に対応する情報(-δ_(cyc))を決定すること」であり,「タイミング補正プロセスを使用」すること,「前記ターゲットOFDMシンボルの送信と受信との間のタイミングオフセットを近似する」ものであることが明らかでない点。

上記相違点について検討するに,
引用発明の「サイクリックシフトさせるサンプル時間間隔の数に対応する情報(-δ_(cyc))」は,上記(2)アの【0005】,【0006】の記載に照らせば,ターゲットOFDMシンボルの送信と受信との間の不完全な同期タイミングをタイミング補正するものであることは明らかであり,上記(2)イの【0077】,【0079】の記載に照らせば,ターゲットOFDMシンボルの送信と受信との間のタイミングオフセットを近似するものであることは明らかである。そして,そのようなタイミング補正のための情報(-δ_(cyc))を決定する処理を,「タイミング補正プロセスを使用して」「決定する」と称することは任意である。
してみれば,上記相違点1には実質的な相違はない,あるいは当業者が容易に想到し得ることである。

そして,本願発明の作用効果も,引用発明に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。

(4)むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

3 記載要件(特許法第36条第6項第2号)について
請求項10-12,19,20に係る発明は,「コンピュータプログラムプロダクト」として特許請求されたおり,「プロダクト」という技術的範囲の明確でない用語を用いている。そして,発明の詳細な説明をみても,「コンピュータプログラムプロダクト」の定義は明らかにされていない。このため,請求項10-12,19,20に係る発明を明確に把握することができない。
したがって,本件出願は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

4 結語
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。また,本願の特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから,本件出願は特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-03 
結審通知日 2015-02-10 
審決日 2015-02-23 
出願番号 特願2011-546375(P2011-546375)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (H04J)
P 1 8・ 57- Z (H04J)
P 1 8・ 121- Z (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北村 智彦  
特許庁審判長 田中 庸介
特許庁審判官 萩原 義則
菅原 道晴
発明の名称 プレFFT循環シフトによるOFDM時間ベース一致処理  
代理人 福原 淑弘  
代理人 河野 直樹  
代理人 砂川 克  
代理人 野河 信久  
代理人 堀内 美保子  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 岡田 貴志  
代理人 佐藤 立志  
代理人 峰 隆司  
代理人 井上 正  
代理人 井関 守三  

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