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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1303256 |
審判番号 | 不服2013-17225 |
総通号数 | 189 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-09-06 |
確定日 | 2015-07-15 |
事件の表示 | 特願2008-545588「カプセル化した顔料を有する化粧品組成物および使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 6月21日国際公開、WO2007/070168、平成21年 5月14日国内公表、特表2009-519335〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2006年10月23日(パリ条約に基づく優先権主張2005年12月13日、米国)を国際出願日とする特許出願であって、平成24年1月10日付けで拒絶理由通知が通知され、同年7月17日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年4月23日付けで拒絶査定され、これに対し、同年9月6日に拒絶査定不服審判が請求されると共に、同日付けで手続補正書が提出されたものである。その後、当審から平成26年6月23日付けで特許法第164条第3項に基づく報告(前置報告書)を引用した審尋が通知され、同年11月21日付けで回答書が提出されたものである。 第2 平成25年9月6日付け手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成25年9月6日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 平成25年9月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容 本件補正により、本願の請求項1は、補正前(平成24年7月17日提出の手続補正書参照)の 「化粧品上許容できる媒体、 活性成分、および 複数のカプセル化された球状酸化鉄顔料粒子を含み、 前記球状酸化鉄顔料粒子は、それぞれ、二酸化珪素カプセル化剤の層によりカプセル化されており、 前記二酸化珪素カプセル化剤は、1.4から1.6の屈折率を示し、且つ、カプセル化された前記球状酸化鉄顔料粒子の全重量に対し3重量%から12重量%の量で存在し、ならびに、 前記球状酸化鉄顔料粒子の球状酸化鉄顔料は、10ミクロン以下の平均粒子サイズを有することを特徴とする皮膚または唇に自然な外観の美容効果を付与するための化粧品組成物。」 から、 「化粧品上許容できる媒体、 活性成分、および 複数のカプセル化された球状酸化鉄顔料粒子を含み、 前記球状酸化鉄顔料粒子は、それぞれ、二酸化珪素カプセル化剤の層によりカプセル化されており、 前記二酸化珪素カプセル化剤は、1.4から1.6の屈折率を示し、且つ、カプセル化された前記球状酸化鉄顔料粒子の全重量に対し3重量%から12重量%の量で存在し、ならびに、 前記球状酸化鉄顔料粒子の球状酸化鉄顔料は、10ミクロン以下の平均粒子サイズを有することを特徴とする皮膚または唇に透光性に富む自然な外観の美容効果を付与するための化粧品組成物。」 と補正された。 (下線部は対応する補正箇所を明示するため当審で付した。) 2 補正の適否 上記請求項1についての補正は、「自然な外観の美容効果」を「透光性に富む自然な外観の美容効果」とするものであって、請求項1に係る化粧品組成物が付与する美容効果について「透光性に富む」との発明特定事項を付加するものであるが、当該付加により、「自然な外観の美容効果」という概念が下位概念化されるとはいえないし、化粧品組成物自体が更に限定されるともいえないので、当該補正は、補正前の発明特定事項を限定するものとはいえない。 したがって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定される「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものには該当しない。 また、補正前の発明特定事項について記載不備等の拒絶の理由が通知されているわけではないので、上記補正が、明りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえない。 そして、請求項の削除、あるいは、誤記の訂正を目的とするものに当たらないことも明らかである。 3 むすび 以上のとおりであるから、本件補正は、改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成25年9月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?8に係る発明は、平成24年7月17日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「化粧品上許容できる媒体、 活性成分、および 複数のカプセル化された球状酸化鉄顔料粒子を含み、 前記球状酸化鉄顔料粒子は、それぞれ、二酸化珪素カプセル化剤の層によりカプセル化されており、 前記二酸化珪素カプセル化剤は、1.4から1.6の屈折率を示し、且つ、カプセル化された前記球状酸化鉄顔料粒子の全重量に対し3重量%から12重量%の量で存在し、ならびに、 前記球状酸化鉄顔料粒子の球状酸化鉄顔料は、10ミクロン以下の平均粒子サイズを有することを特徴とする皮膚または唇に自然な外観の美容効果を付与するための化粧品組成物。」 2 刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本願の優先権主張日前に頒布された刊行物である国際公開第98/026011号(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。 (1a)「発明の開示 本発明は、顔料自体の着色力、隠蔽力を損なうことなく、表面が水、油分などで濡れても色調や隠蔽性の変化がない白色または着色顔料を提供することを目的とするものである。 さらに、本発明はこのような白色または着色顔料を配合することにより、化粧効果の経時的安定性に優れるとともに、化粧料に配合される有機系化合物を酸化あるいは分解して化粧料の色調を変化させたり、外観、性能を低下させることのない化粧料を提供することを目的としている。 本発明の顔料は、屈折率1.8以下の無機化合物で表面が被覆されたことを特徴とするものである。 前記無機化合物は酸化ケイ素であることが好ましい。また、前記顔料は、酸化チタン、酸化亜鉛または酸化鉄からなる無機顔料であることが好ましい。」(2頁7?18行) (1b)「本発明には、通常の無機顔料または有機顔料が用いられる。無機顔料としては、具体的に、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、……などが挙げられる。…… これらの顔料は、通常、白色または有色の微粒子であり、その平均粒径は、0.1?1μmの範囲が好ましい。また、その形状には特に制限はなく、球状、棒状、針状、板状、薄片状等、任意の形状のものが用いられる。」(4頁8?22行) (1c)「これらの顔料微粒子の表面を被覆するための低屈折率の無機化合物としては、……特に屈折率が1.7?1.4である無機酸化物が好ましく、具体的には、シリカ(屈折率1.47)……などを挙げることができる。 これらの無機化合物を顔料微粒子の表面に被覆する方法としては、その表面に均一に被覆可能な方法であれば特に制限はなく、種々の方法が採用できる。例えば、上記の顔料微粒子の分散液にケイ酸液を添加し、顔料微粒子の表年にケイ酸重合物を析出させることによりシリカの被膜を形成する方法を挙げることができる。また、顔料微粒子の分散液にテトラエトキシシランなどの加水分解性有機ケイ素化合物を添加し、有機ケイ素化合物を加水分解して顔料微粒子表面にシリカ被膜を形成する方法を挙げることができる。」(4頁23行?5頁4行) (1d)「無機化合物の被覆量としては、顔料100重量部に対して、1?40重量部、好ましくは、5?30重量部の範囲から選ばれる。」(5頁9?10行) (1e)「本発明の化粧料において、前記被覆顔料の配合量は、1?80重量%が好ましい。1重量%未満では配合効果が得られず、一方、80重量%を越すと、隠蔽性が強くなり過ぎることがあり、自然な化粧仕上がりとならない。」(5頁18?20行) (1f)「実施例1 平均粒子径250nmの酸化チタン白色顔料(W)90gを1リットルのエタノールに混合して分散液を調製した。この分散液を45℃に加温し、28%アンモニア水を加えてpH9.5以上に調整した後、この条件を保持しつつ、SiO_(2)として10gのテトラエトキシシランと110gの28%アンモニア水を添加した。添加終了後さらに2時間撹拌した後、濾過、洗浄して、110℃で乾燥し、その後600℃で焼成することにより、シリカ被覆酸化チタン白色顔料(Ws)を得た。…… …… 実施例2 実施例1の酸化チタンに代えて、平均長さ500nm、平均直径100nmの針状のベンガラ赤色顔料(R)を使用した以外は実施例1と同様の方法で、シリカ被覆ベンガラ赤色顔料(Rs)を得た。この赤色顔料を電子顕微鏡で観察したところ、粒子同士の凝集もなく、シリカ被覆前と粒子径状及び粒径もほぼ同一であることが確認された。 …… 実施例3 実施例1の酸化チタンに代えて、平均長さ500nm、平均直径100nmの針状の黄酸化鉄黄色顔料(Y)を使用した以外は実施例1と同様の方法でシリカ被覆黄酸化鉄黄色色顔料(Ys)を得た。この黄色顔料を電子顕微鏡で観察したところ、粒子同士の凝集もなく、シリカ被覆前と粒子径状及び粒径もほぼ同一であることが確認された。」(6頁17行?8頁6行) (1g)「実施例4 下記組成のパウダーファンデーションを調製する。 (1)シリカ被覆白色顔料(Ws) 10.7(重量部) (2)シリカ被覆赤色顔料(Rs) 0.55 (3)シリカ被覆黄色顔料(Ys) 2.5 (4)黒酸化鉄 0.15 (5)タルク 20 (6)合成マイカ 36.9 (7)セリサイト 17 (8)シリカビーズ 4.2 (9)シリコーンオイル 3 (10)スクアラン 3.2 (11)エステル油 1.6 (12)ソルビタンセスキオレート 0.2 (13)香料 適量 (14)エチルパラベン 適量 ……ここで、(1)?(3)は、実施例1?実施例3で得られた顔料である。」(8頁12行?9頁2行) 3 引用発明 刊行物1は、酸化ケイ素等の無機化合物で被覆された白色または着色顔料、及び、当該顔料を配合した化粧料に関するもの((1a))であり、実施例4((1g))には、組成が重量部で、「(1)シリカ被覆白色顔料(Ws)10.7、(2)シリカ被覆赤色顔料(Rs)0.55、(3)シリカ被覆黄色顔料(Ys)2.5、(4)黒酸化鉄0.15、(5)タルク20、(6)合成マイカ36.9、(7)セリサイト17、(8)シリカビーズ4.2、(9)シリコーンオイル3、(10)スクアラン3.2、(11)エステル油1.6、(12)ソルビタンセスキオレート0.2、(13)香料適量、(14)エチルパラベン適量、ここで、(1)?(3)は、実施例1?実施例3で得られた顔料である。」のパウダーファンデーションが記載されている。 そして、実施例1?3((1f))によれば、上記成分(2)シリカ被覆赤色顔料(Rs)は、「実施例1の酸化チタンに代えて、平均長さ500nm、平均直径100nmの針状のベンガラ赤色顔料(R)を使用した以外は実施例1と同様の方法」、すなわち、顔料90gをエタノールに混合し分散させた分散液を加温し、アンモニア水を加えてpH9.5以上に調整後、SiO_(2)として10gのテトラエトキシシランと110gのアンモニア水を添加し、2時間撹拌した後、濾過、洗浄して、110℃で乾燥後、600℃で焼成することにより得た、シリカ被覆ベンガラ赤色顔料(Rs)であり、上記成分(3)シリカ被覆黄色顔料(Ys)は、平均長さ500nm、平均直径100nmの針状の黄酸化鉄黄色顔料(Y)を使用して同様の方法で得たシリカ被覆黄酸化鉄黄色顔料(Ys)である。 そうすると、刊行物1には、 「組成が重量部で、シリカ被覆酸化チタン白色顔料(Ws)10.7、シリカ被覆ベンガラ赤色顔料(Rs)0.55、シリカ被覆黄酸化鉄黄色色顔料(Ys)2.5、黒酸化鉄0.15、タルク20、合成マイカ36.9、セリサイト17、シリカビーズ4.2、シリコーンオイル3、スクアラン3.2、エステル油1.6、ソルビタンセスキオレート0.2、香料適量、エチルパラベン適量であり、該シリカ被覆ベンガラ赤色顔料(Rs)は、平均長さ500nm、平均直径100nmの針状のベンガラ赤色顔料(R)90gをエタノールに混合し分散させた分散液を加温し、アンモニア水を加えてpH9.5以上に調整後、SiO_(2)として10gのテトラエトキシシランと110gのアンモニア水を添加し、2時間撹拌した後、濾過、洗浄して、110℃で乾燥後、600℃で焼成することにより得たものであり、該シリカ被覆黄酸化鉄黄色顔料(Ys)は、平均長さ500nm、平均直径100nmの針状の黄酸化鉄黄色顔料(Y)を使用して同様の方法で得たものである、パウダーファンデーション」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 4 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 ア 化粧品上許容できる媒体について 本願明細書【0022】の「組成物は、種々の化粧品上許容できる媒体または担体を使用できる。有用な媒体は、水、低級アルコール、多価アルコール、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、脂肪族エステル、C_(10)-C_(24)アルカン、揮発性物および非揮発性物並びに線状および環状のシリコーン、……並びにこれらの組み合わせを含む」なる記載によれば、引用発明において、少なくとも「シリコーンオイル」は、本願発明の「化粧品上許容できる媒体」に該当する。 イ 活性成分について エチルパラベンは、パラオキシ安息香酸エチルの慣用名であり、パラオキシ安息香酸エチルは防腐剤として周知のものである(必要であれば、日本公定書協会編、「化粧品原料基準 第二版注解 I」、1984年8月1日、薬事日報社、790?794頁「パラオキシ安息香酸エチル」の項、参照)ところ、本願明細書【0019】の「活性成分は、局所の表面に美容、機能的および/または医学的な効果を与えるか、またはその審美的な外観を改善する任意の化合物の形をとることができる。代表的な化合物は、以下のものであるがこれらに限定されない。麻酔薬、抗アレルギー薬、抗かび薬、抗菌薬、抗炎症薬、防腐剤、……およびこれらの任意の組み合わせ。」と記載されている。かかる記載によれば、引用発明において、少なくとも「エチルパラベン」は、本願発明の「活性成分」に該当する。 ウ 酸化鉄顔料粒子について (ア)ベンガラはFe_(2)O_(3)を主成分とするもので赤色顔料として広く知られるものであり(必要であれば、上記「化粧品原料基準 第二版注解 I」、919?920頁「ベンガラ」の項、参照)、刊行物1の実施例2((1f))の「この赤色顔料を電子顕微鏡で観察したところ、粒子同士の凝集もなく、シリカ被覆前と粒子径状及び粒径もほぼ同一であることが確認された」なる記載からして、引用発明の「シリカ被覆ベンガラ赤色顔料(Rs)」は、酸化鉄顔料粒子といえる。 (イ)刊行物1の実施例3((1f))の「この黄色顔料を電子顕微鏡で観察したところ、粒子同士の凝集もなく、シリカ被覆前と粒子径状及び粒径もほぼ同一であることが確認された」なる記載からして、引用発明の「シリカ被覆黄酸化鉄黄色顔料(Ys)」も、酸化鉄顔料粒子といえる。 (ウ)上記(ア)(イ)より、引用発明は、少なくとも2種類の酸化鉄顔料粒子を含んでいるから、引用発明は、「複数の酸化鉄顔料粒子を含」んでいるといえる。 エ カプセル化について (ア)本願明細書【0018】の「顔料は、当業者により周知の任意の手段により二酸化珪素(シリカ)によりカプセル化される。例えば、ゾル-ゲルのガラスの方法が使用されて、芯の顔料粒子上にシリカの被覆をもたらす。この方法では、シリカの前駆物質は、一連の加水分解および重合反応で反応してコロイド状の懸濁物またはゾルを形成し、それは次に顔料の芯上に沈殿して芯の顔料粒子上にシリカの薄いフィルム被覆をもたらす。」なる記載によれば、本願発明において「カプセル化」とは、例えば、ゾル-ゲル法で顔料粒子上にシリカの薄いフィルム被覆をもたらすことであると解される。 一方、刊行物1(1c)の記載及び実施例1?3((1f))によれば、引用発明のシリカ被覆ベンガラ赤色顔料(Rs)やシリカ被覆黄酸化鉄黄色顔料(Ys)のシリカ被覆は、顔料微粒子の分散液にテトラエトキシシランなどの加水分解性有機ケイ素化合物を添加し、有機ケイ素化合物を加水分解して顔料微粒子表面にシリカ被膜を形成する方法で行われている。このようにテトラエトキシシランなどを用いてシリカ被膜を形成する方法をゾル-ゲル法と称すことは、例えば、国際公開98/47476号(44頁15?22行、参照)に記載のとおり周知の事項である。 そうすると、刊行物1に記載されるシリカ被覆は、本願発明における「二酸化珪素カプセル化剤の層によりカプセル化」することに相当し、引用発明の「シリカ被覆ベンガラ赤色顔料(Rs)」や「シリカ被覆黄酸化鉄黄色顔料(Ys)」は、カプセル化された酸化鉄顔料粒子ということができる。 (イ)刊行物1(1c)の「顔料微粒子の表面を被覆するための低屈折率の無機化合物としては、……シリカ(屈折率1.47)……を挙げることができる。」との記載から、引用発明における「シリカ」が、本願発明における「二酸化珪素カプセル化剤」に該当し、「1.4から1.6の屈折率を示」すものであることは明らかである。 オ 酸化鉄顔料の平均粒子サイズについて 引用発明の「シリカ被覆ベンガラ赤色顔料(Rs)」と「シリカ被覆黄酸化鉄黄色顔料(Ys)」とは、どちらも、平均長さ500nm、平均直径100nmの大きさである針状の顔料を用いており、実施例2及び3((1f))の「シリカ被覆前と粒子径状及び粒径もほぼ同一であることが確認された。」なる記載から、シリカ被覆前もシリカ被覆後も、平均長さ500nm、平均直径100nmの粒径であるといえ、10ミクロン以下の平均粒子サイズであることは明らかである。 カ 化粧品組成物について 引用発明はパウダーファンデーションである以上、皮膚に美容効果を付与する化粧品組成物に該当することは明らかであり、引用発明が「化粧効果の経時的安定性に優れるとともに、化粧料に配合される有機系化合物を酸化あるいは分解して化粧料の色調を変化させたり、外観、性能を低下させることのない化粧料を提供することを目的」((1a))としており、「本発明の化粧料において前記被覆顔料の配合量は、1?80重量%が好ましい。1重量%未満では配合効果が得られず、一方、80重量%を越すと、隠蔽性が強くなり過ぎることがあり、自然な化粧仕上がりとならない。」((1e))との記載から見て、自然な化粧仕上がりの化粧料を目指していることも明らかであるから、引用発明は、「皮膚に自然な外観の美容効果を付与するための化粧品組成物」であるといえる。 キ そうすると、本願発明と引用発明とは、 「化粧品上許容できる媒体、 活性成分、および 複数のカプセル化された酸化鉄顔料粒子を含み、 前記酸化鉄顔料粒子は、それぞれ、二酸化珪素カプセル化剤の層によりカプセル化されており、 前記二酸化珪素カプセル化剤は、1.4から1.6の屈折率を示し、 前記酸化鉄顔料粒子の酸化鉄顔料は、10ミクロン以下の平均粒子サイズを有する皮膚または唇に自然な外観の美容効果を付与するための化粧品組成物。」の発明である点で一致し、 次の点で相違する。 <相違点1> カプセル化された酸化鉄顔料粒子が、本願発明は「球状」であるのに対して、引用発明は「針状」である点。 <相違点2> 本願発明は、二酸化珪素カプセル化剤が「カプセル化された球状酸化鉄顔料粒子の全重量に対し3重量%から12重量%の量で存在」しているのに対して、引用発明は、二酸化珪素カプセル化剤の顔料に対する割合について特定されていない点。 5 判断 (1)<相違点1>について ア 刊行物1(1b)には、「顔料は、通常、白色または有色の微粒子であり、その平均粒径は、0.1?1μmの範囲が好ましい。また、その形状には特に制限はなく、球状、棒状、針状、板状、薄片状等、任意の形状のものが用いられる。」と記載されており、顔料の形状に特に制限がないのであるから、引用発明において、顔料の形状として、球状、棒状、針状、板状、薄片状と例示される中から球状のものを採用することに格別の困難性はない。 イ 一方、本願明細書には、球状の酸化鉄顔料粒子を用いることに関して、【0012】に「顔料は、球状が好ましいが、任意の形状のものでよい。」なる記載があるのみで、顔料の形状として特に球状のものを用いることによる作用効果を説明する記載はなく、顔料の形状の違いに基づく作用効果を比較する具体的な比較例が記載されるものでもない。 ウ したがって、本願明細書には、球状酸化鉄顔料粒子を用いたことにより、本願発明が、引用発明の如く針状の酸化鉄顔料を用いた場合に比べて、顕著な効果を有することが具体的にも定性的にも記載されているとはいえない。 エ 上記イ、ウのとおり、本願明細書には球状酸化鉄顔料粒子を用いたことによる直接の作用効果が明確に記載されているとはいえないが、請求人は原審における意見書(3-1.(3)、(5))で、 「(3)このように自然な外観がもたらされる理由としては、(i)球状の顔料のそれぞれをカプセル化するカプセル化剤の量が適当であることにより、皮膚の屈折率に近い屈折率が顔料粒子に与えられること、及び、(ii)顔料粒子の形状が球状であることにより、化粧層に入射する光が散乱することが考えられます。」 「(5)(ii)については、これを例証する試料として、参考資料1?3を提出致します。」 として、本出願の優先日後の参考資料1?3を提示し、球状であることにより「ソフトフォーカ効果を奏する」ことを述べているので検討すると、本願発明の「自然な外観」が、請求人が意見書で述べるような「ソフトフォーカス効果」のことを指すのであれば、球状粉体がソフトフォーカス効果に優れることは、下記周知文献A(A1)に示されるとおり、本願の優先日前周知であるから、球状の顔料を用いたことによる本願発明のソフトフォーカス効果は周知技術から自明であると言わざるを得ない。 オ <相違点1>のまとめ したがって、引用発明において、球状の顔料を用いることは当業者の容易になし得ることであり、その効果も周知技術より予測しうる範囲内のものに過ぎない。 周知文献A:毛利邦彦、「解説 ファンデーション用粉体の開発動向」、色材、1996年、69[8]、p.530-538 (A1)「5.ソフトフォーカス効果^(13)) 1987年に発表された理論で,その狙いは,目周辺の小ジワや毛穴等の肌上の小さな凹凸を目立たなくする事である。…… この機能を有する粉体は,球状粉体である。具体的には,ナイロン,ポリエチレン,アクリル系等の有機球状粉体と無機系の球状シリカ等が代表的な粉体である。 これらの粉体は,その球状という形態から光を乱反射する。この乱反射により肌の凹凸をぼかす事がソフトフォーカス効果である。」(533頁左欄下から4行?右欄下から4行) (2)<相違点2>について ア シリカ被覆の被覆量、すなわち、二酸化珪素カプセル化剤の顔料に対する割合について、刊行物1(1b)には、「無機化合物の被覆量としては、顔料100重量部に対して、1?40重量部、好ましくは、5?30重量部の範囲から選ばれる。」と記載されている。してみると、顔料100重要部に対して1?40重量部(1?40重量%)と開示される範囲の中で、上記4カで示したとおり引用発明の目指すところの一つである「自然な化粧仕上がりの化粧料」を得るために、最適なシリカ被覆の被覆量を導き出すことに当業者が格別創意を要したものとは認められない。 イ 一方、本願明細書には、二酸化珪素カプセル化剤の量に関して、【0016】に好ましい数値範囲が示されるのみで、数値限定の理由の詳しい説明はない。しかも実施例1?6で用いられる「酸化鉄イェロー(シリカ中にカプセル化)」、「酸化鉄レッド(シリカ中にカプセル化)」及び「酸化鉄ブラック(シリカ中にカプセル化)」における実際の二酸化珪素カプセル化剤の量は記載されておらず、ましてや、本願発明で限定される数値範囲から外れた場合との比較が示されているものでもない。 ウ そうすると、本願発明が、二酸化珪素カプセル化剤を量を3重量%から12重量%と特定したことより、その範囲を外れた場合に比べて、当業者の予期しえない格別顕著な作用効果を奏すとは認められない。 エ <相違点2>のまとめ したがって、引用発明において、シリカ被覆酸化鉄顔料の全重量に対するシリカの被覆量を3重量%から12重量%とすることは、当業者の容易になし得ることであり、その効果も刊行物1の記載から予測しうる範囲内のものに過ぎない。 6 審判請求書における請求人の主張について 請求人は、審判請求書で、引用文献1(刊行物1)はメーキャップ化粧品用の顔料に関するものであるのに対し、本願発明において、「皮膚または唇に透光性に富む自然な外観の美容効果を付与するための化粧品組成物」とは、主に、スキンケア化粧品のことを指している旨主張している。 しかしながら、本願発明は、有色顔料である酸化鉄顔料を必須の成分としているから、皮膚または唇に何等かの色彩効果を付与するものであることは明らかであり、スキンケアを主眼とする化粧品とは言いがたく、請求人の上記主張は採用できない。 7 回答書の補正案について 補正案は、本願発明における「二酸化珪素カプセル化剤」について「二酸化珪素以外の物質を10重量%未満しか含まず」との限定を付加するものであるが、引用発明の化粧料の成分である「シリカ被覆ベンガラ赤色顔料(Rs)」及び「シリカ被覆黄酸化鉄黄色顔料(Ys)」のシリカ被膜は、上記4エ(ア)で検討したとおり、テトラエトキシシランなどの加水分解で形成されており、本願発明の二酸化珪素カプセル化の方法と同様の方法で形成されているから、シリカ被膜が「二酸化珪素以外の物質を10重量%未満しか含ま」ない点も引用発明と本願発明とに差異はなく、補正案のとおり補正されたとしても容易想到性についての判断は変更されない。 第4 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び刊行物1に記載された事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-02-13 |
結審通知日 | 2015-02-17 |
審決日 | 2015-03-02 |
出願番号 | 特願2008-545588(P2008-545588) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 今村 明子 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
小久保 勝伊 小川 慶子 |
発明の名称 | カプセル化した顔料を有する化粧品組成物および使用方法 |
代理人 | 雨宮 康仁 |
代理人 | 毛受 隆典 |
代理人 | 木村 満 |
代理人 | 森川 泰司 |
代理人 | 桜田 圭 |